JPH119293A - アルキル化複素環硫黄化合物を分解する微生物 - Google Patents

アルキル化複素環硫黄化合物を分解する微生物

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JPH119293A
JPH119293A JP16435197A JP16435197A JPH119293A JP H119293 A JPH119293 A JP H119293A JP 16435197 A JP16435197 A JP 16435197A JP 16435197 A JP16435197 A JP 16435197A JP H119293 A JPH119293 A JP H119293A
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JP
Japan
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alkylated
strain
dibenzothiophene
desulfurization
rhodococcus erythropolis
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JP16435197A
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English (en)
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Yoshitaka Ishii
義孝 石井
Koichi Okumura
弘一 奥村
Morio Kobayashi
守雄 小林
Masanori Suzuki
正則 鈴木
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SEKIYU SANGYO KASSEIKA CENTER
Japan Petroleum Energy Center JPEC
Original Assignee
SEKIYU SANGYO KASSEIKA CENTER
Petroleum Energy Center PEC
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Publication date
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  • Preparation Of Compounds By Using Micro-Organisms (AREA)
  • Purification Treatments By Anaerobic Or Anaerobic And Aerobic Bacteria Or Animals (AREA)
  • Production Of Liquid Hydrocarbon Mixture For Refining Petroleum (AREA)

Abstract

(57)【要約】 【解決手段】 難分解性アルキル化ベンゾチオフェンお
よび/ またはアルキル化ジベンゾチオフェン系化合物を
含む物質にアルキル化ベンゾチオフェンおよび/または
アルキル化ジベンゾチオフェン系化合物のC-S結合を選
択的に切断する能力を有する微生物又は該微生物が産生
する酵素を作用させることを特徴とする前記物質中の前
記化合物から硫黄を分離、除去する方法、及び前記微生
物又は該微生物が産生する酵素を用いた石油の脱硫方
法。 【効果】 本発明の微生物によれば、例えば、化石燃料
中に含まれる高度難除去性複素環式硫黄化合物であるア
ルキル化ジベンゾチオフェン類及びアルキル化ベンゾチ
オフェン類のC-S結合を特異的に効率よく分解すること
がでる。したがって、この微生物を用いて石油等の脱硫
を効果的に行うことができる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、微生物を利用する
チオフェン系化合物、すなわちベンゾチオフェン、ジベ
ンゾチオフェンおよびそれらの置換誘導体の分解方法に
関するものである。特に、石油等の化石燃料中に含まれ
るベンゾチオフェンやジベンゾチオフェンおよびこれら
の置換誘導体類を分解して、脱硫する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
(1)従来の水素化脱硫方法 石油のような炭化水素燃料から硫黄を除去する脱硫のた
めの方法としては、アルカリ洗浄や溶剤脱硫などの方法
も知られているが、現在では水素化脱硫が主流となって
いる。水素化脱硫は、石油留分中の硫黄化合物を触媒の
存在下で水素と反応させ、硫化水素として除去して製品
の低硫黄化を図る方法である。触媒としては、アルミナ
を担体としたコバルト、モリブデン、ニッケル、タング
ステン、などの金属触媒が使用される。モリブデン担持
アルミナ触媒の場合には、触媒性能を向上させるため
に、通常コバルトやニッケルが助触媒として加えられ
る。金属触媒を用いた水素化脱硫は、現在世界中で広く
使用されているきわめて完成度の高いプロセスであるこ
とは疑いのないことである。しかし、より厳しい環境規
制に対応した石油製品を作るためのプロセスという観点
からは、いくつかの問題点がある。以下にその例を簡単
に記載する。
【0003】金属触媒は、一般にその基質特異性が低
く、このため多様な種類の硫黄化合物を分解し、化石燃
料全体の硫黄含量を低下させる目的には適しているが、
特定のグループの硫黄化合物に対してはその脱硫効果が
不十分となることがあると考えられる。たとえば、脱硫
後の軽油中にはなおも種々の複素環式有機硫黄化合物が
残存している。このように金属触媒による脱硫効果が不
十分となる原因の一つは、これらの有機硫黄化合物中の
硫黄原子の周囲に存在する置換基による立体障害が考え
られる。これらの置換基のうち、メチル置換基の存在が
水素化脱硫における金属触媒の反応性に及ぼす影響は、
チオフェン、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェンな
どについて検討されている。それらの結果によると、一
般的には置換基の数が増すほど脱硫反応性は減少する
が、置換基の位置が反応性に及ぼす影響もきわめて大き
いことが明らかである。メチルジベンゾチオフェン類の
脱硫反応性を比較し、置換基による立体障害が金属触媒
の反応性に及ぼす影響が非常に大きいことを示した報告
は、たとえば、Houalla,M.,Broderi
ck,D.H.,Sapre,A.V.,Nag,N.
K.,de Beer,V.H.J.,Gates,
B.C.,Kwart,H.J.Catalt.,6
1,523−527(1980)に見られる。実際、こ
れらのジベンゾチオフェンの種々のアルキル化誘導体が
軽油中にかなりの量存在することが知られている(たと
えば、Kabe,T.,Ishihara,A.and
Tajima,H.Ind.Eng.Chem.Re
s.,31,1577−1580(1992))。ま
た、我々はベンゾチオフェン類についても種々のアルキ
ル化誘導体が、ジベンゾチオフェンのアルキル化誘導体
と同様に水素化脱硫軽油中にかなりの量残存しているこ
とを確認している。
【0004】上記のように水素化脱硫に抵抗性を示す有
機硫黄化合物を脱硫するためには、現在用いられている
よりも高い反応温度や圧力が必要とされ、また、添加す
る水素の量も非常に増大すると考えられている。このよ
うな水素化脱硫プロセスの改良は、ばく大な設備投資と
運転コストを必要とすることが予想される。このような
水素化脱硫に抵抗性を示す有機硫黄化合物を主たる硫黄
化合物種として含むものとしては、たとえば、軽油があ
り、軽油のより高度な脱硫(超深度脱硫)を行う場合に
は上記のような水素化脱硫プロセスの大幅な改良が要求
される。
【0005】一方、生物が行う酵素反応は比較的穏和な
条件下で進行し、しかも酵素反応の速度自体は、化学触
媒を用いた反応の速度と遜色ないという特徴を有してい
る。さらに、生体内で起こる多種多様の生物反応に適切
に対応する必要があるため、非常に多くの種類の酵素が
存在し、それらの酵素は一般的に非常に高い基質特異性
を示すことが知られている。このような特徴は、微生物
を用いて化石燃料中に含まれる硫黄化合物中の硫黄の除
去を行ういわゆるバイオ脱硫反応においても生かされる
ものと期待されている(Monticello,D.
J.,Hydrocarbon Processing
39−45(1994))。
【0006】(2)従来のバイオ脱硫方法:細菌を用い
て石油から硫黄を除去する方法については、多数の報告
がある。Joachimらは、シュードモナス(Pse
udomonas)HECC 39株を用いて30℃で粘度の高
い重油画分を連続的な処理を行うことにより、2日で6
0−80%の脱硫率を観察している(Bauch,
J.,Herbert,G.,Hieke,W.,Ec
kart,V.,Koehler,M.,Babenz
in,H.D.,Chemical Abstract
s 82530y vol. 83 (1975))。Yudaは、シュードモ
ナス ハコネンシス( Pseudomonas hac
onesis) を石油と接触させ、水溶性の化合物へと
変換させることを報告している(Yuda, S.,日本特許公開
番号 75,107,002 ; Chemical Abstracts 46982j vol.
84 (1976) ) 。また、Leeらは、硫黄酸化細菌株のチオ
バチルス チオオキシダンス( Thiobacillu
thiooxidans) と硫黄還元細菌株シュー
ドモナス( Pseudomonas) spp. による原
油、重質軽油、ケロシン、ナフサの脱硫を報告している
(Lee, M.J., Hah, Y.C., Lee, K.-W. Chemcal Abstract
s 145448s vol. 85 (1976))。彼らは、種々の硫黄酸化
細菌および硫黄還元細菌の脱硫能を調べ、チオバチルス
チオオキシダンス( Thiobacillus thioo
xidans) が最も効果的な硫黄酸化能を有し、シュードモ
ナス プトレハァシエンス( Pseudomonas p
utrefaciens) とデスルフォビブリオ デスルフリカン
(Desulfovibrio desulfuricans)が最も効果的な硫黄
還元能を有しているとしている(Lee, M.J., Hah, Y.C.,
Lee, K.-W.Chemical Abstracts 156414d vol. 85 (197
6))。硫黄還元性のシュードモナス(Pseudomon
as) 株7種の分離も同じグループにより報告されてい
る。また、Eckartらは、Romashkino原油や燃料油のシュ
ードモナス デスモリティカム( Pseudomona
s desmolyticum) による酸化的脱硫を報告している(Ec
kart, V., Hieke, W., Bauch, J., Gentzsch, H. Chemi
cal Abstracts 142230q vol. 94 (1981) ; Eckart, V.,
Hieke, W., Bauch, J., Gentzsch, H. Chemical Abstr
acts 147259c vol. 97 (1982))。シュードモナス(
seudomonas) 属細菌により行われるこれらの
脱硫反応に関しては、その分解産物が同定されており、
脱硫反応機構が明らかにされた微生物では、すべて油中
の硫黄化合物分子中のC-C結合を切断する反応を利用し
ていることが分かっている。
【0007】これらの場合、ジベンゾチオフェンのベン
ゼン環中のC−C結合が攻撃を受け、油から抽出可能な
種々の水溶性物質を生じる。しかし、この反応により、
油中の他の芳香族分子が攻撃を受け、その結果かなりの
量の炭化水素が液相に移動することになる(Hardegen,
F.J., Coburn, J.M. and Robert, R.L.,Chem. Eng.Prog
ress, 80, 63-67 (1984)) 。このようなことは石油の総
熱量単位の低下を招くことになり、工業的に受け入れら
れない反応である。また、このタイプのジベンゾチオフ
ェン酸化分解菌は、児玉等が報告しているように酸化産
物として水溶性のチオフェン化合物(主として3−ヒド
ロキシ−2−ホルミルベンゾチオフェン)を与えるが、
これは液相から除去するのが困難な物質である。酵素反
応がイオウ攻撃型でなくC−C結合攻撃型であるこれら
の微生物系は、原油中の高分子量画分から有機イオウを
除去する際に機能的でないので、イオウ含量の高い化石
燃料のバイオプロセッシングにおいてはその実用性が限
定されているが、その主な理由は以下の3点である。
1)ジベンゾチオフェンの炭素環の攻撃は、しばしばア
ルキル置換基やアリル置換基を持つジベンゾチオフェン
の2位及び3位の位置で起こる。これらの位置で置換さ
れたジベンゾチオフェンはKodama経路の基質とはならな
い。2)炭素骨格破壊経路は燃料のエネルギー含量を低
下させる。3)炭素骨格破壊経路の主要な産物は3−ヒ
ドロキシ−2−ホルミルベンゾチオフェンであり、分解
されて最終的に硫酸塩を生成するのは非常に少量のジベ
ンゾチオフェンでしかないので、十分な脱硫は起こらな
いことになる。
【0008】原油や石炭のみならず硫黄を含んだモデル
化合物を分解し、へテロ原子である硫黄を選択的に除去
して、硫酸塩や水酸化化合物を産生する微生物類が報告
されている。このタイプの反応は、その代謝産物の構造
から考えて、硫黄化合物中のC-S結合を特異的に切断し
て、その結果硫黄を硫酸塩の形で遊離する反応であると
考えられる。このようなC-S結合切断型反応は、エネル
ギ−ロスにつながるC-C結合の攻撃はしないので、硫黄
原子のみを硫黄化合物から除去できるので、脱硫反応と
しては理想的である。Isbister,J.D.an
d Kobylinski, E.A.(Microb
ial desulfurization of co
al,in Coal Science and Te
chnology,Ser.9,p.627(198
5))は、好気性で従属栄養性の非酸性土壌細菌Pse
udomonasCB1、アシネトバクター(Acinetoba
cter) CB2がチオフェン硫黄を硫酸塩に変換すること
を報告した。ベンチスケールの連続バイオリアクターを
使用した場合、Illinois #6の石炭の有機硫黄含量がCB1
により47%減少した。ジベンゾチオフェンの脱硫におけ
る中間体としてはジベンゾチオフェンスルホキシド、ジ
ベンゾチオフェンスルホン、2,2'-ジヒドロキシビフェ
ニルが同定されている。これとは別に、未同定の土壌分
離菌が4つの異なったタイプの石炭から硫酸塩として有
機硫黄分の35-45%を除去することが報告されている(F
innerty, W.R.and Robinso
n,M.,Biotechnol.Bioengiee
r.Symp.#16, 205−221(198
6))。また、ロドコッカス ロドクロウス( Rhodococ
cus rhodochrous) 分離株ATCC53968がジベンゾチオフェ
ンをヒドロキシビフェニルと硫酸塩に変換する硫黄攻撃
型経路を有することが示されているが、この菌により原
油や石炭中の有機硫黄の含量が70%減少するという(Ki
lbane,J.J.Resources,Conse
rvation and Recycling,3,6
9−70(1990))。コリネバクテリウム( Coryne
bacterium) sp.の細菌についてもジベンゾチオフェン
分解経路が記述されており、同じくジベンゾチオフェン
を酸化してジベンゾチオフェンスルホキシド、ジベンゾ
チオフェンスルホンを経て2-ヒドロキシビフェニルと
硫酸塩を生成するものである(Ohmori,T., Monna, L., S
aiki, Y. and Kodama, T. Appl. Environ. Microbiol.,
58, 911-915, 1992)。この場合、2-ヒドロキシビフェ
ニルはさらに硝酸塩となって2つの異なったヒドロキシ
ニトロビフェニルを生じる。さらに最近は、ブレビバク
テリウム(Brevibacterium) sp. DOによるジベンゾチオ
フェンの安息香酸や亜硝酸塩への酸化(van Afferden,
M., Schacht, S., Klein, J. and Trper, H.G. Arch. M
icrobiol., 153, 324-328, 1990)やPseudomon
as sp. OS1によるベンジルメチルスルフィドのベンズ
アルデヒドへの酸化(van Afferden, M., Tappe, D., Be
yer, M., Trper, H.G. and Klein, J. Fuel 72, 1635-1
643, 1993)も報告されている。アースロバクター(Arthr
obacter) K3bはブレビバクテリウム(Brevibacterium)と
類似の反応を行うことが報告されており、ジベンゾチオ
フェンスルホンを基質として用いた場合、亜硫酸塩と安
息香酸が産生される(Dahlberg, M.D. (1992) Third Int
ernational Symposium on the Biological Processing
of Coal, May 4-7, Clearwater Beach, FL, pp.1-10. E
lectric Power Research Institute, Palo Alto, C
A.)。一方、硫黄を含んだ芳香族複素環化合物の硫化水
素への変換を非水溶媒中で行う新規な系も報告されてい
る(Finnerty, W.R.Fuel 72, 1631-1634, 1993)。未同定
株FE-9は100%ジメチルホルムアミド中で水素雰囲気下に
ジベンゾチオフェンをビフェニルと硫化水素に、また空
気存在下でヒロドキシビフェニルと硫酸塩にそれぞれ変
換する。また、この株は、同じ溶媒中で水素雰囲気下で
チアントレンをベンゼンと硫化水素に、空気存在下でベ
ンゼンと硫酸塩に変換すると報告されている。これらの
好気的ジベンゾチオフェン分解細菌とは別に、嫌気性の
硫酸還元菌がジベンゾチオフェンをビフェニルと硫化水
素に変換し、また、石油有機硫黄を硫化水素にバイオ変
換することも示されている(Kim, H.Y., Kim, T.S. and
Kim, B.H., Biotechnol. Lett. 12, 757-760,1990a ; K
im, T.S., Kim, H.Y. and Kim, B.H. Biotechnol. Let
t. 12, 761-764,1990b) 。我々の知る限りでは、表1に
示すような硫黄攻撃型のバイオ脱硫反応系の報告があ
る。しかし、これらのC-S結合切断型の脱硫菌すべてに
ついて、ジベンゾチオフェンを分解する活性は知られて
いるが、ベンゾチオフェン系化合物に対する分解活性は
記載されていない。
【0009】
【表1】
【0010】ベンゾチオフェンに対する分解活性に関し
ては、Finnertyらが、シュードモナス スタッツェリ(
Pseudomonas stutzeri )、シュー
ドモナス アルカリゲネス( Pseudomonas
alcaaligenes )、 シュードモナス プチ
ダ( Pseudomonas putida )に属する
株がジベンゾチオフェン、ベンゾチオフェン、チオキサ
ンテン、チアントレンを分解して、水溶性の物質に変換
することを報告している(Finnerty, W.R., Shockley,
K., Attaway, H. in Microbial Enhanced Oil Recover
y, Zajic, J.E. et al. (eds.) Penwell, Tulsa, Okl
a., 83-91 (1983)。この場合、酸化反応は55℃でも進む
としている。しかし、これらのシュードモナス (Pse
udomonas) 菌株によるジベンゾチオフェンの分
解産物は、Kodamaらが報告している3-ヒドロキシ-2−
ホルミルベンゾチオフェンであった(Monticello, D.J.,
Bakker, D., Finnerty, W.R. Appl. Environ. Microbi
ol., 49, 756-760 (1985))。これらのシュードモナス(
Pseudomonas) 菌株によるジベンゾチオフェ
ンの酸化活性は、硫黄を含まない芳香族炭化水素である
ナフタレンやサリチル酸により誘導を受け、クロラムフ
ェニコールにより阻止される。このことから、これらの
シュードモナス( Pseudomonas) 菌株による
ジベンゾチオフェンの分解反応は、芳香環中のC-C結合
を切断することによる分解を基礎としていることが分か
る。ベンゾチオフェンの分解機構は明らかにされていな
いが、ジベンゾチオフェンがC-C結合切断反応による環
開裂により分解されることから、同様の分解機構により
ベンゾチオフェンも分解されるものと推測される。
【0011】上述のように、今までに発見されている常
温でジベンゾチオフェンをC-S結合特異的に分解する菌
でベンゾチオフェン類も分解できるという報告を我々は
知らない。C-S結合を特異的に切断するが、C-C結合は切
断しないでそのまま残すタイプの有機硫黄化合物の分解
反応が実際の石油の脱硫方法として望ましいことは上記
(従来のバイオ脱硫方法)の通りである。油中には、複
素環硫黄化合物としてはジベンゾチオフェン類の他にベ
ンゾチオフェン類が存在することが知られている。特
に、通常の水素化脱硫および微生物脱硫を経た軽油中に
もなお、ある種のアルキル化ジベンゾチオフェン類以外
にアルキル化ベンゾチオフェン類が残存している。すな
わち、高度難除去性硫黄化合物として、アルキル化ジベ
ンゾチオフェン類及びアルキル化ベンゾチオフェン類が
存在しているわけであり、これらの両方の種類のアルキ
ル化複素環硫黄化合物をC-S結合特異的に分解し、脱硫
することができる菌を探索し、脱硫に用いれば、その効
率が上昇することが期待される。また、複数の種類の脱
硫菌を使用しなくてもすむことになり、微生物脱硫プロ
セスが簡易なものとなることも期待される。結論とし
て、常温でジベンゾチオフェンおよびベンゾチオフェン
のアルキル置換誘導体分子中のC-S結合を切断する活性
を同時に有し、水溶性の物質の形で、脱硫産物を生じる
微生物を利用するのがバイオ脱硫プロセスとして最も望
ましい。
【0012】前述のように、C-S結合切断型のジベンゾ
チオフェン分解反応を行う微生物は、いくつかの属の細
菌で知られている。たとえば、ロドコッカス(Rhodococc
us)sp. のATCC53968は最もよく調べられたジベンゾチオ
フェン分解菌株であり、ジベンゾチオフェンの硫黄原子
に酸素原子を付加し、ジベンゾチオフェンスルホキシド
からジベンゾチオフェンスルホンを生成し、ついで2-ヒ
ドロキシビフェニル-2-スルフィン酸塩を経て2-ヒド
ロキシビフェニルを生成する反応を行う。この菌はベン
ゾチオフェンを唯一の硫黄源として利用し、増殖するこ
とはできない(Kayser, K.J., Bielaga-Jones, B.A., Ja
ckowski, K., Odusan, O., and Kilbane, J.J. J. Gen.
Microbiol., 139, 3123-3129 (1993))。この事実は、
ロドコッカス(Rhodococcus) sp. のATCC53968は、ベン
ゾチオフェンを分解することができないことを意味して
いる。また、この菌株のアルキル化ベンゾチオフェン類
に対する分解性に関しては現在に至るまでそのような記
載が存在することを我々は知らない。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、難分
解性アルキル化ベンゾチオフェンおよびアルキル化ジベ
ンゾチオフェン系化合物に作用し、それらを分解する能
力を有する微生物を自然界からスクリーニングし、この
ような微生物を実際にアルキル化ベンゾチオフェン系化
合物およびアルキル化ジベンゾチオフェン系化合物に作
用させて、そのC-S結合を切断することにより、硫黄を
遊離させる方法を開発することである。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明は難分解性アルキ
ル化ベンゾチオフェンおよび/ またはアルキル化ジベン
ゾチオフェン系化合物を含む物質にアルキル化ベンゾチ
オフェンおよび/ またはアルキル化ジベンゾチオフェン
系化合物のC-S結合を選択的に切断する能力を有する微
生物又は該微生物が産生する酵素を作用させて前記物質
中の前記化合物から硫黄を分離、除去する方法である。
そして、上記物質としては、石油等の液状物質が挙げら
れる。
【0015】さらに、本発明は難分解性アルキル化ベン
ゾチオフェンおよび/ またはアルキル化ジベンゾチオフ
ェン系化合物を含む石油にアルキル化ベンゾチオフェン
および/ またはアルキル化ジベンゾチオフェン系化合物
のC-S結合を選択的に切断する能力を有する微生物又は
該微生物が産生する酵素を作用させることを特徴とす
る、石油の脱硫方法である。
【0016】上記微生物としては、ロドコッカス エリ
スロポリス(Rhodococcus erythropol)KA2-5-1 株が挙げ
られる。また、上記難分解性アルキル化ジベンゾチオフ
ェン類としては、1−メチルジベンゾチオフェン、2−
メチルジベンゾチオフェン、2−エチルジベンゾチオフ
ェン、3−メチルジベンゾチオフェン、3−エチルジベ
ンゾチオフェン、4−メチルジベンゾチオフェン、4,
6−ジメチルジベンゾチオフェン、2,8−ジメチルジ
ベンゾチオフェン、3,4,6−トリメチルジベンゾチ
オフェン、3,4,6,7−テトラメチルジベンゾチオ
フェン等が、上記難分解性アルキル化ベンゾチオフェン
類としては、3−メチルベンゾチオフェン等がそれぞれ
挙げられる。
【0017】さらに、本発明は、難分解性アルキル化ジ
ベンゾチオフェン類および/またはアルキル化ベンゾチ
オフェン類を分解する能力を有するロドコッカス エリ
スロポリス(Rhodococcus erythropolis)に属する菌株、
たとえば、ロドコッカス エリスロポリス KA2-5-1の菌
株である。
【0018】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に使用する微生物としては、本発明者が日本各地
から採取した多種類の土壌を分離源としてスクリーニン
グによって見出したもので、たとえば、その例としてロ
ドコッカス エリスロポリス KA2-5-1株が挙げられる。
このKA2-5-1 株は、次の菌学的性質を有する。
【0019】 細胞の形態 桿菌及び球菌 色 ベージュ グラム染色 + 胞子形成 − 運動性 − カタラーゼ試験 + オキシダーゼ − 37#Cでの増殖 + 41#Cでの増殖 − 45#Cでの増殖 − 16S rDNAの部分配列 ロドコッカス エリスロポリスの16S rDNAの 部 分配列 (95-730の領域)と99.8%の相同性を示す。
【0020】また、ペプチドグリカン中のジアミノ酸と
しては、meso-ジアミノピメリン酸が検出された。ミコ
バクテリウム(Mycobacterium)属に関連した細菌類に特
有な脂肪酸であるミコール酸の鎖長を高温ガスクロマト
グラフィーで決定し、その分離パターンをデータベース
を用いてロドコッカス(Rhodococcus)のミコール酸の分
離パターンと比較したところ、ロドコッカス エリスロ
ポリスのものと高い類似性を示した。他の脂肪酸も分析
した結果、分枝しない飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸に加え
ツベルクロステアリン酸が検出された。この脂肪酸パタ
ーンは、Rhodococcus属のすべてのメンバーおよびミコ
バクテリウム(Mycobacterium), ノカルディア(Nocardi
a), ジエッチア(Dietzia), ツカムレラ(Tsukamurella)
属の細菌及びある種のコリネバクテリア(Corynebacteri
a)種の細菌に見られる。これらの菌の中で、ロドコッカ
ス エリスロポリス KA2-5-1株の脂肪酸パターンと最も
類似した脂肪酸パターンを示したのは、ロドコッカス
エリスロポリスであった。
【0021】
【0022】さらに、35種類の炭素源についてそれら
がロドコッカス エリスロポリス KA2-5-1株に利用され
るか否かを調べたところ、ロドコッカス エリスロポリ
スの炭素源利用パターンと完全に一致した。これらの結
果から、KA2-5-1株はRhodococcus erythropolis( ロド
コッカス エリスロポリス) 株と同定された。このロド
コッカス エリスロポリス KA2-5-1株は、平成9年6月
17日に工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM P-162
77として寄託されている。
【0023】この微生物の培養は微生物の通常の培養法
にしたがって行われる。培養の形態は液体培養が好まし
い。培地の栄養源としては通常用いられているものが広
く用いられる。炭素源としては利用可能な炭素化合物で
あればよく、例えば、グルコース、スクロース、ラクト
ース、フルクトース、エタノールなどが使用される。窒
素源としては利用可能な窒素化合物であればよく、例え
ばペプトン、ポリペプトン、肉エキス、酵母エキス、大
豆粉、カゼイン加水分解物、などの有機栄養物質も使用
できる。脱硫反応に影響を与える可能性のある硫黄化合
物を含まない培地で培養するのが望ましい場合には、塩
化アンモニウムのような無機窒素化合物も使用できる。
そのほか、リン酸塩、炭酸塩、マグネシウム、カルシウ
ム、カリウム、ナトリウム、鉄、マンガン、亜鉛、モリ
ブデン、タングステン、銅、ビタミン類、などが必要に
応じて用いられる。培養は、pH6〜8、温度30℃付近の温
度で振盪または通気条件下で好気的に1日ないし2日行
う。
【0024】ロドコッカス エリスロポリス KA2-5-1株
は、1−メチルジベンゾチオフェン、2−メチルジベン
ゾチオフェン、2−エチルジベンゾチオフェン、3−メ
チルジベンゾチオフェン、3−エチルジベンゾチオフェ
ン、4−メチルジベンゾチオフェン、4,6−ジメチル
ジベンゾチオフェン、2,8−ジメチルジベンゾチオフ
ェン、3,4,6−トリメチルジベンゾチオフェン、
3,4,6,7−テトラメチルジベンゾチオフェンおよ
び3−メチルベンゾチオフェンなどの複素環硫黄化合物
を分解する性質を有している。たとえば、本微生物ロド
コッカス エリスロポリス KA2-5-1株によるアルキル化
ジベンゾチオフェンの分解の結果、脱硫産物として生成
する主たる化合物は後述の実施例3に示すようにヒドロ
キシ体であった。この発明における生成物の構造を解析
するためには、たとえばジベンゾチオフェンを唯一の硫
黄源として含む培地で本微生物株をたとえば30℃で培養
し培養液を得る。得られた培養液を遠心分離し、上清の
pHを約2に調整後酢酸エチルで抽出した。抽出物は主と
してガスクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー
/質量スペクトル分析により分析した。必要に応じて、
1H-核磁気共鳴スペクトル分析、紫外線吸収スペクトル
分析を行った。その結果、ジベンゾチオフェンは脱硫さ
れて2-ヒドロキシビフェニルに、また、その他のアル
キル化ジベンゾチオフェンは脱硫されて各々の基質化合
物に対応するヒドロキシ体に、それぞれ変換されること
が確認されている。
【0025】常温性脱硫菌、たとえば、本発明に記載の
ロドコッカス エリスロポリス KA2-5-1 株は、菌体を
培養後、分解を目的とする有機硫黄化合物とそれらの培
養菌体を接触させることにより、該有機硫黄化合物を分
解させることができる。このような休止菌体反応はたと
えば以下のようにして行うことができる。
【0026】菌体調製は、新鮮な培地に対し適当量、た
とえば1〜2%容量の種菌を接種し、30℃で往復あるい
は回転振とう培養を行うことによりできる。この際、種
菌としては対数増殖期後期のものが好適であるが、対数
増殖期初期から定常期のいずれの状態の菌でも構わな
い。また、接種量も必要に応じて容量を増減できる。培
地としては常温性脱硫菌培地が好適であるが他の培地で
も構わない。培地の栄養源としては通常用いられている
ものが広く用いられる。炭素源としては利用可能な炭素
化合物であればよく、例えば、グルコース、スクロー
ス、ラクトース、フルクトース、エタノールなどが使用
される。窒素源としては利用可能な窒素化合物であれば
よく、例えばペプトン、ポリペプトン、肉エキス、酵母
エキス、大豆粉、カゼイン加水分解物、などの有機栄養
物質も使用できる。 脱硫反応に影響を与える可能性の
ある硫黄化合物を含まない培地で培養するのが望ましい
場合には、塩化アンモニウムのような無機窒素化合物も
使用できる。そのほか、リン酸塩、炭酸塩、マグネシウ
ム、カルシウム、カリウム、ナトリウム、鉄、マンガ
ン、亜鉛、モリブデン、タングステン、銅、ビタミン
類、などが必要に応じて用いられる。通常の培養は、約
30℃で振盪または通気条件下で好気的に1日ないし2日
行う。ただし、培養温度は30℃が好適であるが、25℃〜
37℃近辺の温度範囲にある任意の温度でも構わない。
【0027】培養して得られた菌体は、遠心分離等の手
段により分離集菌して、菌体を洗浄後再度集菌して休止
菌体反応に使用するのが望ましい。この際、菌体は対数
増殖期中期から後期で集菌するのが好適であるが、対数
増殖期初期から定常期の菌体でも構わない。分離集菌の
ための手段としては、遠心分離の他、濾過や沈降分離な
どいかなる方法を用いても構わない。菌体の洗浄には、
生理食塩水、リン酸緩衝液、トリス緩衝液等のいかなる
緩衝液も使用でき、また水を使用して菌体洗浄を行って
も構わない。
【0028】休止菌体反応は、菌体を適当な緩衝液に懸
濁して調製した菌懸濁液に基質を添加して行う。緩衝液
としては種々の緩衝液を使用できる。緩衝液のpHは、pH
6〜7が好適であるが他のpHでも構わない。また、緩衝
液の代わりに、水や培地等を使用しても構わない。菌体
懸濁液の濃度は、OD660が1〜50の間が好適である
が、必要に応じて増減できる。
【0029】休止菌体反応の基質としては、たとえば、
ジベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン誘導体、ベン
ゾチオフェンあるいはベンゾチオフェン誘導体を使用す
ることが可能である。濃度は50ppm〜5000ppmが好適であ
るが、必要に応じて増減できる。また、基質を添加する
前に反応温度と同じ温度に反応液を予備加熱してもよ
い。休止菌体反応は30℃で行うのが好適であるが、25℃
〜37℃の任意の温度でもよく、また反応時間は1〜2時
間が好適であるが、必要に応じて増減できる。
【0030】また、休止菌体反応は、テトラデカン等の
有機溶媒を添加した油水2相系で行っても構わない。こ
の場合、用いる有機溶媒はテトラデカンの他、C8〜C
20のn-パラフィンやケロシン、軽油、重油などでもよ
い。また、必要ならば反応液上方の気相を酸素で置換封
入しても構わない。また、上記反応の休止菌体に代え
て、該菌体から分離、精製されたアルキル化ベンゾチオ
フェンおよび/ またはアルキル化ジベンゾチオフェン系
化合物のC-S結合の選択的な切断に関与する酵素を用い
てもよい。
【0031】反応生成物の抽出は以下のようにして行う
ことができる。反応液を6規定の塩酸を用いてpH2前後
に調整した後、酢酸エチルを用いて撹拌抽出する。しか
し、抽出に使用する溶媒は、酢酸エチルに限定されるも
のではなく、目的とする反応生成物が抽出できるもので
あればいずれの溶媒を用いても構わない。酢酸エチルの
量は反応液に対し等量が好適であるが、必要に応じて増
減できる。また、反応生成物の分離は、逆相C18カラム
あるいは順相シリカカラムを用いて行うことができる
が、必要に応じて他のカラムを用いても構わない。ま
た、分離に使用する方法はこれらの方法に限定されるも
のではなく、反応生成物が分離できる方法であればいか
なる方法を用いても構わない。反応生成物の分析は、ガ
スクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー/質量
スペクトル分析、ガスクロマトグラフィー/原子発光検
出分析、ガスクロマトグラフィー/フーリエ変換赤外分
光分析、核磁気共鳴法、などを使用して行うことができ
る。また、必要に応じて他の分析方法を併せて利用して
も構わない。さらに、分析に使用する方法はこれらの方
法に限定されるものではなく、反応生成物が分析できる
方法であればいずれの方法を使用しても構わない。
【0032】
【実施例】以下、本発明を実施例により具体的に説明す
る。ただし、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限
定されるものではない。 〔実施例1〕 ジベンゾチオフェンを常温で分解する菌
の分離 目的の微生物の分離には、唯一の硫黄源として硫黄分を
約500ppm含有する水素化脱硫後の軽油(以下脱硫軽油)
を含む表2の分離用培地を使用した。まず、キャプ付試
験管(容量27ml、直径18mm×長さ180mm)に培地5ml、脱
硫軽油0.5ml、および日本各地より採集した土壌1スパ
ーテル(約0.5g)を加え、30℃で一週間振盪培養(振盪
速度120rpm)し集積培養を行った。培地に濁りの認めら
れた試料については、その培養液0.5mlを新鮮な同培地
に加え、集積培養を3〜4回繰り返した。これらの集積培
養により菌体の増殖が認められた試料について、培養物
を生理食塩水にて希釈した。得られた希釈液を、硫黄分
としてジベンゾチオフェンを25ppm含む培地に、終濃度2
%となるように寒天を加えて作製したプレート上に塗布
し、30℃で靜置培養してコロニーを形成させた。形成し
たコロニーの一部をジベンゾチオフェンを含む培地に植
菌し、ジベンゾチオフェンの脱硫黄によって生ずる2−
ヒドロキシビフェニルの生成を調べた。2−ヒドロキシ
ビフェニルの生成が認められたコロニーを選択し、前述
の一連の操作を2回ないし3回くり返すことにより目的
の菌株を単離した。
【0033】
【表2】
【0034】分離されたDBT分解菌株35株についてそ
の脱硫活性の安定維持について調べた。すべての菌株に
ついて、 容量14mlの密栓付き試験管に2 mlのL培地(1
% Bacto Tryptone、 0.5% 酵母抽出物、0.5% NaCl、pH
7.4)を加えたものに、A-DBT寒天培地上のコロニーを1
白金耳かきとったものを接種し、30℃で振盪培養し
た。得られた培養液を容量14 mlの試験管に分注された
新鮮なL培地 2 mlに 20μl加え、さらに30℃で1日間培
養した。これを数回繰り返し、最後に得られた培養液20
mlを100 ppmのDBTを含むA培地(A-DBT培地、表2)2 m
lに加え、30℃で3日間培養した。このA-DBT培養液を用
いてガスクロマトグラフィー分析を行い、産生された2-
HBPの定量を行った。具体的には、培養液に20μlの6規
定の塩酸を加え、低pHに調整した後、500μlの酢酸エチ
ルで抽出した。酢酸エチル抽出画分をガスクロマトグラ
フィー分析の試料とした。A-DBT培地での増殖および2-H
BPの産生が認められた菌株について、さらにL培地での
増殖実験を繰り返し行った。上記と同様に、最後に得ら
れた培養液20μlをA-DBT培地2 mlに加え、30℃で3日間
培養した。このA-DBT培養液を用いてガスクロマトグラ
フィー分析を行い、再度産生された2-HBPの定量を行っ
た。最後までA-DBT培地で良好な増殖を示した菌株のう
ち、2-HBPの産生量が最も高かった菌株ロドコッカス
エリスロポリス KA2-5-1株を選抜し、各種アルキル化ジ
ベンゾチオフェン及びアルキル化ベンゾチオフェンに対
する分解性を調べた。ロドコッカス(Rhodococcus) sp.
でDBT分解が最もよく調べられているIGTS8株について
は、脱硫活性がプラスミドにコードされていることが知
られている(Denome, S.A.,Oldfield, C.,Nash, L.J.& Y
oung,K.D. J.Bacteriol. 176, 6707-6716(1994) 。そこ
で、最後までA-DBT培地で良好な増殖を示し、2-HBPの産
生が認められた菌株について、細胞からDNAを抽出し、
アガロースゲル電気泳動法により分析したところ、すべ
ての菌株でほとんど同じサイズのプラスミド様のバンド
が検出された。これに対して、L培地では増殖するが、
A-DBT培地ではほとんど増殖が認められなかった菌株に
ついて、L培地を用いて得られた培養物から同様の方法
で抽出したDNA画分には、プラスミド様のバンドが検出
されなかった。この結果から、我々が調べた菌株の脱硫
活性の維持または喪失は、特定のプラスミドの維持また
は喪失と関連がある可能性が高いことが示唆された。
【0035】〔実施例2〕 微生物によるアルキル化ジ
ベンゾチオフェン類の分解 ロドコッカス エリスロポリス KA2-5-1株を用いてアル
キル化ジベンゾチオフェン類の脱硫率を測定した。対照
株としてロドコッカス(Rhodococcus)sp. IGTS8(AT
CC 53968)を用いた。この菌株を対照株とした理由は、
この菌株がDBTやそのほかの種々の有機硫黄化合物をC-S
結合特異的に切断する微生物としてしられており、さ
らに切断する硫黄化合物の種類が広範に調べられてお
り、また、そのDBT類に対する定量的な脱硫活性も報告
されていて、高い活性を示すことが知られているためで
ある。なお、この菌株はATCCより保存菌株として入
手することができるものである。
【0036】ロドコッカス エリスロポリス KA2-5-1株
およびIGTS8株の菌体培養物は、500ml容襞付三角
フラスコに25ppmジベンゾチオフェンを含む表3に示す
増殖用培地を200ml添加し、予め同様の培地にて調製し
た前培養液を1%添加し30℃にて2日間振盪培養(100rp
m)を行い調製した。この培養物を遠心分離(7,500rp
m、20分間)し、pH7のリン酸バッファーにて2回洗浄
し、同リン酸バッファーに懸濁して反応用菌体とした。
この反応用菌体の濁度は、測定波長660nmでは30であっ
た。
【0037】脱硫反応は、L字型試験管(容量27ml、直
径18mm×長さ180mm)に反応用菌体2ml、アルキル化ジベ
ンゾチオフェン類を溶解したn−テトラデカン液(硫黄
濃度約100ppm)2mlを加え、30℃にて18時間往復振盪す
ることにより行った。反応液を遠心分離(12,000rpm、1
0分間)し上澄の全硫黄分をパイロ蛍光法(アンテック
製硫黄計モデル7000)にて測定した。アルキル化ジベン
ゾチオフェン類の相対脱硫率を表4に示す。
【0038】
【表3】
【0039】
【表4】
【0040】また、ロドコッカス エリスロポリス KA2
-5-1株は、これらの他に、1−メチルジベンゾチオフェ
ン、2−エチルジベンゾチオフェン、3−エチルジベン
ゾチオフェン、3,4,6,7-テトラメチルジベンゾチオフェ
ンも分解することも確認されている。これらのメチルジ
ベンゾチオフェン類化合物のロドコッカス エリスロポ
リス KA2-5-1株による分解産物について、GC/MS分析お
よび1H-NMR分析を行った結果、すべての種類の基質につ
いて、微生物による分解の結果モノヒドロキシ体に変換
され、硫黄原子が除去されていることが確認された。
【0041】このように、ロドコッカス エリスロポリ
ス KA2-5-1株は、複素環硫黄化合物であるDBTおよび
アルキル化DBT類をC-S 結合特異的に切断し、モノヒ
ドロキシ体に変換する活性を有するが、これらの複素環
硫黄化合物と共存させておいても、環開裂の結果生じる
と考えられる分解産物は一切検出されない。また、アル
キル化ベンゾチオフェンに対しては、C-S 結合を切断す
る活性を示すのに対し、アルキル化されていないベンゾ
チオフェン分子本体に対しては切断活性を示さない。さ
らに、1,2-ベンゾジフェニレンスルフィド( ベンゾ[b]
ナフト[2,1-d]- チオフェン) を基質とした場合にも、
その分解産物は、3 つのベンゼン環構造はそのまま残っ
た状態のモノヒドロキシ体であった。これらの結果か
ら、KA2-5-1 株、DBTを初めとする複素環硫黄化合物
に対しては、C-S 結合特異的に切断を起こし、C-C 結合
は切断しないと考えられる。
【0042】〔実施例3〕 アルキル化ベンゾチオフェ
ンの分解 ロドコッカス エリスロポリス KA2-5-1株を用いて3−
メチルベンゾチオフェンの分解性を調べ、その脱硫代謝
物を特定した。500ml容襞付き三角フラスコに25ppmのジ
ベンゾチオフェンを含む表3に記載の増殖培地200mlを
入れたものにあらかじめ同じ培地で調製した前培養液を
1%添加し、30℃にて振盪速度100rpmで2日間振
盪培養した。この培養液を7,500 rpm、20分間遠心し、
得られた沈殿をpH7.0のリン酸緩衝液にて2回洗浄し
た。この結果、得られた沈殿を再度同じリン酸緩衝液に
懸濁し、反応用菌体とした。この反応用菌体の測定波長
660 nmでの濁度は、30であった。
【0043】脱硫反応は、密栓付き試験管(容量11ml、
直径16mm、長さ100mm)に反応用菌体1ml、3ーメチル
ベンゾチオフェンのN,N-ジメチルホルムアミド溶液10μ
l(3−メチルベンゾチオフェン濃度は10,000 ppm)を
加え、30℃にて18時間回転振盪することにより行った。
反応終了後、6規定の塩酸を10μl添加し、培養液を酸
性に調整した後、1 mlの酢酸エチルを添加し、3ーメチ
ルベンゾチオフェンの代謝物を酢酸エチル相に抽出し
た。この抽出物をGC/MS分析に用いた。図1にガスクロ
マトグラフィー・質量スペクトル分析の結果得られた3
−メチルベンゾチオフェンのロドコッカス エリスロポ
リス KA2-5-1株による脱硫産物のガスクロマトグラム
を、また、図2にはその質量スペクトルを示す。質量ス
ペクトルから、脱硫産物の構造としては、以下のような
ものが推定された。
【0044】
【化1】
【0045】または
【0046】
【化2】
【0047】上記のいずれの構造にしても、アルキル化
ベンゾチオフェン分子から硫黄原子が除去されており、
ロドコッカス エリスロポリス KA2-5-1株によりC-S結
合特異的な脱硫反応が起きていることがわかる。
【0048】〔実施例4〕 軽油の脱硫 ロドコッカス エリスロポリス KA2-5-1株を用いてアル
キル化ジベンゾチオフェン類に富む化学的脱硫軽油(A
軽油:硫黄分140ppm、B軽油:硫黄分800ppm)の脱硫率
を測定した。対照株としては、ロドコッカス(Rhodococc
us) sp. IGTS8株を用いた。
【0049】反応用菌体、反応基質の調製、分析条件は
実施例2に記載の方法に従った。脱硫反応は、L字型試
験管(容量27ml、直径18mm×長さ180mm)に反応用菌体2
ml、アルキル化ジベンゾチオフェン類を溶解したn−テ
トラデカン液(硫黄濃度約100ppm)の代わりに軽油2ml
を加え、30℃にて18時間往復振盪を行った。次に、反応
液を遠心分離(12,000rpm、10分間)し上澄の硫黄分を
パイロ蛍光法(アンテック製硫黄計モデル7000)にて測
定した。観察された軽油類の相対脱硫率を表5に示す。
【0050】
【表5】
【0051】
【発明の効果】本発明の微生物によれば、例えば、化石
燃料中に含まれる高度難除去性複素環式硫黄化合物であ
るアルキル化ジベンゾチオフェン類及びアルキル化ベン
ゾチオフェン類のC-S結合を特異的に効率よく分解する
ことができる。したがって、この微生物を用いて石油等
の脱硫を効果的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】3−メチルベンゾチオフェンのロドコッカス
エリスロポリス KA2-5-1株による脱硫産物のガスクロ
マトグラムを示す図。
【図2】3−メチルベンゾチオフェンのロドコッカス
エリスロポリス KA2-5-1株による脱硫産物の質量スペク
トルを示す図。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 FI C12R 1:01) (C12S 1/02 C12R 1:01)

Claims (13)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 難分解性アルキル化ベンゾチオフェンお
    よび/ またはアルキル化ジベンゾチオフェン系化合物を
    含む物質にアルキル化ベンゾチオフェンおよび/ または
    アルキル化ジベンゾチオフェン系化合物のC-S結合を選
    択的に切断する能力を有する微生物又は該微生物が産生
    する酵素を作用させることを特徴とする前記物質中の前
    記化合物から硫黄を分離、除去する方法。
  2. 【請求項2】 物質が、液状物質である請求項1記載の
    硫黄を分離、除去する方法。
  3. 【請求項3】 微生物が、ロドコッカス エリスロポリ
    スの株である請求項1又は2記載の方法。
  4. 【請求項4】 ロドコッカス エリスロポリスの株が、
    ロドコッカス エリスロポリス KA2-5-1株である請求項
    3記載の方法。
  5. 【請求項5】 難分解性アルキル化ジベンゾチオフェン
    類が、1−メチルジベンゾチオフェン、2−メチルジベ
    ンゾチオフェン、2−エチルジベンゾチオフェン、3−
    メチルジベンゾチオフェン、3−エチルジベンゾチオフ
    ェン、4−メチルジベンゾチオフェン、4,6−ジメチ
    ルジベンゾチオフェン、2,8−ジメチルジベンゾチオ
    フェン、3,4,6−トリメチルジベンゾチオフェン、
    3,4,6,7−テトラメチルジベンゾチオフェンであ
    ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの項に記
    載の分解方法。
  6. 【請求項6】 難分解性アルキル化ベンゾチオフェン類
    が、3−メチルベンゾチオフェンであることを特徴とす
    る請求項1乃至3のいずれかの項に記載の分解方法。
  7. 【請求項7】 難分解性アルキル化ベンゾチオフェンお
    よび/ またはアルキル化ジベンゾチオフェン系化合物を
    含む石油にアルキル化ベンゾチオフェンおよび/ または
    アルキル化ジベンゾチオフェン系化合物のC-S結合を選
    択的に切断する能力を有する微生物又は該微生物が産生
    する酵素を作用させることを特徴とする、石油の脱硫方
    法。
  8. 【請求項8】 微生物が、ロドコッカス エリスロポリ
    スの株である請求項7記載の方法。
  9. 【請求項9】 ロドコッカス エリスロポリスの株が、
    ロドコッカス エリスロポリス KA2-5-1株である請求項
    8記載の方法。
  10. 【請求項10】 難分解性アルキル化ジベンゾチオフェ
    ン類が、1−メチルジベンゾチオフェン、2−メチルジ
    ベンゾチオフェン、2−エチルジベンゾチオフェン、3
    −メチルジベンゾチオフェン、3−エチルジベンゾチオ
    フェン、4−メチルジベンゾチオフェン、4,6−ジメ
    チルジベンゾチオフェン、2,8−ジメチルジベンゾチ
    オフェン、3,4,6−トリメチルジベンゾチオフェ
    ン、3,4,6,7−テトラメチルジベンゾチオフェン
    であることを特徴とする請求項7乃至9のいずれかの項
    に記載の分解方法。
  11. 【請求項11】 難分解性アルキル化ベンゾチオフェン
    類が、3−メチルベンゾチオフェンであることを特徴と
    する請求項7乃至9のいずれかの項に記載の分解方法。
  12. 【請求項12】 難分解性アルキル化ジベンゾチオフェ
    ン類および/またはアルキル化ベンゾチオフェン類を分
    解する能力を有するロドコッカス エリスロポリスに属
    する菌株。
  13. 【請求項13】 菌株がロドコッカス エリスロポリス
    KA2-5-1株であることを特徴とする請求項12記載の菌
    株。
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Cited By (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
US6756022B2 (en) 2000-09-01 2004-06-29 Toyota Jidosha Kabushiki Kaisha Apparatus for removing sulfur-containing component in fuel
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