JP4246349B2 - 微生物高温脱硫方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェンなどの有機硫黄化合物を微生物を利用して分解する方法に関するものである。本発明の方法は、石油等の化石燃料中に含まれる有機硫黄化合物の分解に利用できるので、化石燃料の燃焼により空気中に拡散し環境汚染源となる硫黄を化石燃料中から除去することを容易にする。
【0002】
【従来の技術】
(1)従来の水素化脱硫方法
石油のような炭化水素燃料から硫黄を除去する脱硫方法としては、アルカリ洗浄や溶剤脱硫などの方法も知られているが、現在では水素化脱硫が主流となっている。水素化脱硫は、石油留分中の硫黄化合物を触媒の存在下で水素と反応させ、硫化水素として除去して製品の低硫黄化を図る方法である。触媒としては、アルミナを担体としたコバルト、モリブデン、ニッケル、タングステン、などの金属触媒が使用される。モリブデン担持アルミナ触媒の場合には、触媒性能を向上させるために、通常コバルトやニッケルが助触媒として加えられる。金属触媒を用いた水素化脱硫は、現在世界中で広く使用されているきわめて完成度の高いプロセスであることは疑いのないことである。しかし、より厳しい環境規制に対応した石油製品を作るためのプロセスという観点からは、いくつかの問題点がある。以下にその例を簡単に記載する。
【0003】
金属触媒は、一般にその基質特異性が低く、このため多様な種類の硫黄化合物を分解し、化石燃料全体の硫黄含量を低下させる目的には適しているが、特定のグループの硫黄化合物に対してはその脱硫効果が不十分となることがあると考えられる。たとえば、脱硫後の軽油中にはなおも種々の複素環式有機硫黄化合物が残存している。このように金属触媒による脱硫効果が不十分となる原因の一つは、これらの有機硫黄化合物中の硫黄原子の周囲に存在する置換基による立体障害が考えられる。これらの置換基のうち、メチル置換基の存在が水素化脱硫における金属触媒の反応性に及ぼす影響は、チオフェン、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェンなどについて検討されている。それらの結果によると、一般的には置換基の数が増すほど脱硫反応性は減少するが、置換基の位置が反応性に及ぼす影響もきわめて大きいことが明らかである。メチルジベンゾチオフェン類の脱硫反応性を比較し、置換基による立体障害が金属触媒の反応性に及ぼす影響が非常に大きいことを示した報告は、たとえば、Houalla, M., Broderick, D.H., Sapre, A.V., Nag, N.K., de Beer, V.H.J., Gates, B.C., Kwart, H.J. Catalt., 61. 523-527 (1980) に見られる。実際、これらのジベンゾチオフェンの種々のアルキル化誘導体が軽油中にかなりの量存在することが知られている(たとえば、Kabe, T., Ishihara, A. and Tajima, H. Ind. Eng. Chem. Res., 31, 1577-1580 (1992)) 。
【0004】
上記のように水素化脱硫に抵抗性を示す有機硫黄化合物を脱硫するためには、現在用いられているよりも高い反応温度や圧力が必要とされ、また、添加する水素の量も非常に増大すると考えられている。このような水素化脱硫プロセスの改良は、ばく大な設備投資と運転コストを必要とすることが予想される。このような水素化脱硫に抵抗性を示す有機硫黄化合物を主たる硫黄化合物種として含むものとしては、たとえば、軽油があり、軽油のより高度な脱硫(超深度脱硫)を行う場合には上記のような水素化脱硫プロセスの大幅な改良が要求される。
【0005】
一方、生物が行う酵素反応は比較的穏和な条件下で進行し、しかも酵素反応の速度自体は、化学触媒を用いた反応の速度と遜色ないという特徴を有している。さらに、生体内で起こる多種多様の生物反応に適切に対応する必要があるため、非常に多くの種類の酵素が存在し、それらの酵素は一般的に非常に高い基質特異性を示すことが知られている。このような特徴は、微生物を用いて化石燃料中に含まれる硫黄化合物中の硫黄の除去を行ういわゆるバイオ脱硫反応においても生かされるものと期待されている(Monticello, D.J., Hydrocarbon Processing 39-45 (1994))。
【0006】
細菌を用いて石油から硫黄を除去する方法については、以前から多数報告されているが、その大部分は30℃近辺の温度条件下で進行する微生物代謝反応を利用するものである。一方、化学反応の速度は一般に温度に依存して増大することが知られている。また、石油精製プロセス中の脱硫工程では、高温・高圧条件下で分別蒸留や脱硫反応が行われる。従って、石油精製プロセス中にバイオ脱硫工程を組み込むとすると、常温近くにまで石油留分を冷却することなしに、より高い冷却途中の温度でバイオ脱硫反応ができる方が望ましいと考えられる。高温バイオ脱硫に関する報告には以下のようなものがある。
【0007】
微生物を用いて高温で脱硫反応を行わせる試みのほとんどは、石炭脱硫において見ることができる。石炭中には種々の硫黄化合物が含まれている。主要な無機硫黄化合物は黄鉄鉱であるが、有機硫黄化合物に関しては多種多様なものが混在しており、多くがチオール、スルフィド、ジスルフィド、チオフェン基を含んでいることが知られている。用いられた微生物は、スルホロブス(Sulfolobus)属の細菌で、これらはすべて好熱性細菌である。鉱物スルフィドからの金属のリーチング(Brierley C.L. & Murr, L.E., Science 179, 448-490 (1973)) や石炭からの黄鉄鉱の硫黄除去などに種々の異なったスルホロブス株を用いた例が報告されている(Kargi, F. & Robinson, J.M., Biotechnol. Bioeng. 24, 2115-2121 (1982); Kargi, F. & Robinson, J.M., Appl. Environ. Microbiol., 44, 878-883 (1982); Kargi, F. & Gervoni. T.D., Biotechnol. Letters 5, 33-38 (1983); Kargi, F. and Robonson, J.M., Biotechnol. Bioeng., 26, 687-690 (1984); Kargi, F. & Robinson, J.M., Biotechnol. Bioeng. 27, 41-49 (1985); Kargi, F., Biotechnol. Lett., 9, 478-482 (1987)) 。Kargi とRobinson(Kargi. F. and Robinson, J.M., Appl. Environ. Microbiol., 44, 878-883 (1982))によれば、米国のイエローストーン国立公園の酸性温泉から分離されたスルホロブス・アシドカルダリウス(Sulfolobus acidocaldarius)のある株は、45−70℃で生育するが、至適pH2で元素状硫黄を酸化する。また、別の2種のスルホロブス・アシドカルダリウス株による黄鉄鉱の酸化も報告されている(Tobita, M., Yokozeki, M., Nishikawa, N. & Kawakami. Y., Biosci. Biotech. Biochem. 58, 771-772 (1994))。
【0008】
化石燃料中に含まれる有機硫黄化合物のうち、ジベンゾチオフェンおよびその誘導体は通常の石油精製プロセスにおいて水素化脱硫を受けにくいことが知られている。そのジベンゾチオフェンのスルホロブス・アシドカルダリウスによる高温分解も報告されている(Kargi, K. & Robinson, J.M., Biotechnol. Bioeng. 26, 687-690 (1984); Kargi, F., Biotechnol. Letters 9, 478-482 (1987)) 。これらの報告によれば、チアントレン、チオキサンテン、ジベンゾチオフェンなどのモデル芳香族複素環硫黄化合物を高温でこの微生物と反応させると、これらの硫黄化合物は酸化されて、分解した。スルホロブス・アシドカルダリウスによるこれらの芳香族複素環硫黄化合物の酸化は、70℃で観察されており、反応産物として硫酸イオンを生じる。しかし、この反応は硫黄化合物の他には炭素源を含まない培地中での反応であり、硫黄化合物を炭素源としても利用している。以上の点を考慮すると、この反応は、C−S結合切断型の反応ではなく、C−C結合切断型の反応であることは明らかである。C−C結合切断型の反応は、化石燃料中の芳香族炭化水素などを分解し、エネルギー含量の低下をもたらすという問題がある。さらに、このスルホロブス・アシドカルダリウスは酸性の培地でのみ増殖でき、ジベンゾチオフェンの酸化分解反応は、きびしい酸性条件下(pH 2.5) での進行を要求する。このようなきびしい条件は石油製品の劣化を引き起こすと同時に脱硫に関わる工程に耐酸性材料を必要とするためプロセス上望ましくないと考えられる。スルホロブス・アシドカルダリウスは、独立栄養条件下で増殖させると、必要なエネルギーを還元された鉄・硫黄化合物から獲得し、炭素源として二酸化炭素を利用する。また、スルホロブス・アシドカルダリウスは、従属栄養条件下に増殖させると、炭素源およびエネルギー源として種々の有機化合物を利用することができる。すなわち、化石燃料が存在すると炭素源として資化されるものと考えられる。
【0009】
Finnertyらは、シュードモナス・スタッツェリ(Pseudomonas stutzeri)、シュードモナル・アルカリゲネス(Pseudomonas alcaligenes)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)に属する株がジベンゾチオフェン、ベンゾチオフェン、チオキサンテン、チアントレンを分解して、水溶性の物質に変換することを報告している(Finnerty, W.R., Shockiey, K., Attaway, H. in Microbial Enhanced Oil Recovery, Zajic, J.E. et al.(eds.) Penwell. Tulsa, Okla., 83-91 (1983)) 。この場合、酸化反応は55℃でも進むとしている。しかし、これらの シュードモナス菌株によるジベンゾチオフェンの分解産物は、C−C結合切断型反応の生成物である3−ヒドロキシ−2−ホルミルベンゾチオフェンであった(Monticello, D.J., Bakker, D., Finnerty, W.R. Appl. Environ. Microbiol., 49, 756-760 (1985))。また、これらのシュードモナス 菌株によるジベンゾチオフェンの酸化活性は、硫黄を含まない芳香族炭化水素であるナフタレンやサリチル酸により誘導を受け、クロラムフェニコールにより阻止される。これらのことから、これらのシュードモナス 菌株によるジベンゾチオフェンの分解反応は、芳香環中のC−C結合を切断することによる分解を基礎としていることは明らかである。また、硫黄化合物以外にも石油留分中に含まれる貴重な芳香族炭化水素類を同時に分解するおそれもあり、これは、燃料の価値や石油留分の品質を低下させることになる。
【0010】
このように、今までに発見されている高温でジベンゾチオフェンを分解できる菌は、ジベンゾチオフェン分子中のC−C結合を切断し、炭素源として利用する反応を触媒するものである。C−C結合ではなく、C−S結合を特異的に切断する微生物を利用できれば、化石燃料のエネルギー含量を低下させることなく、脱硫を行うことができる。また、C−S結合切断型の反応では、ジベンゾチオフェンは最終的に硫酸塩にまで分解されるが、C−C結合切断型の反応では、硫酸塩にまで分解されるジベンゾチオフェンは少量であり、大部分は3−ヒドロキシ−2−ホルミルベンゾチオフェンまでしか分解されない。従って、分解生成物の面かれみても、C−C結合を切断する微生物よりも、C−S結合を切断する微生物の方が優れている。
【0011】
C−S結合切断型のジベンゾチオフェン分解反応を行う微生物は、いくつかの属の細菌で知られている。しかし、これらのすべての菌について、少なくとも42℃以上の高温条件下においてジベンゾチオフェンを分解する活性を示したということを記載した例は極めて少ない。たとえば、ロドコッカス(Rhodococcus)sp.のATCC53968 はよく調べられたジベンゾチオフェン分解菌株であり、ジベンゾチオフェンの硫黄原子に酸素原子を付加し、ジベンゾチオフェンスルホキシドからジベンゾチオフェンスルホンを生成し、ついで2'−ヒドロキシビフェニル−2−スルフィン酸塩を経て2−ヒドロキシビフェニルを生成する反応を行う。しかし、この菌も通常の培養温度である30℃よりも少し高い37℃および43℃でさえ、48時間培養すると非常に生育が遅れるか、生育しなくなることが報告されている(特開平6-54695号公報)。このことから、高温脱硫反応を行わせるためには、高温で生育でき、しかも高温で有機硫黄化合物、特にジベンゾチオフェンおよびその置換誘導体化合物を含む複素環式硫黄化合物類をC−S結合特異的に切断できる微生物を用いるのが最適であると考えられる。
【0012】
Suzukiらは、パエニバシラス(Paenibacillus) sp. A11-2株が、高温条件下で生育でき、かつ、有機硫黄化合物のC−S結合を特異的に切断できることを報告している(Suzuki, M., Konishi, J., Ishii, Y., Okumura, K., Appl. Environ. Microbiol., 63, 3164-3169 (1997))。この報告によると、この菌株は30〜60℃の温度条件下で生育でき、ジベンゾチオフェンまたは、4-メチルジベンゾチオフェンおよび4,6-ジメチルジベンゾチオフェンなどのジベンゾチオフェン誘導体のC−S結合を特異的に切断できる。よって、この菌株は高温脱硫反応を行うのに適している。しかし、この菌株は、環境によっては加熱を必要とする45℃以上で脱硫活性が高いが、加熱しなくてもよい環境、45℃以下での脱硫活性が急激に低下し、中温域(30℃付近)では極めて活性が低い欠点がある。しかもこの菌株の高温域での脱硫活性は、中温域での脱硫活性が知られているロドコッカス・エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)の脱硫活性に比べて、著しく低い。
【0013】
バイオ脱硫プロセスにおいて、高温域(以降、「高温域」とは、50〜60℃付近の温度のことを指す)を含む広範な温度条件下(30〜50℃)で高い脱硫活性を維持していることは、石油留分の温度調整を簡略化できるという面で有効である。Furuyaらは、バシラス・サチリス(Bacillus subtilis) WU-S2B株が、高温域を含む広範な温度条件下で比較的高い脱硫活性を維持し、かつ、有機硫黄化合物のC−S結合を特異的に切断できることを報告している(古屋, 西井, 中川, 桐村, 宇佐美, 日本農芸化学会大会講演要旨集, 384 (1999))。この報告によると、この菌株は30〜50℃の広範な温度条件下で比較的高い脱硫活性を維持し、ジベンゾチオフェンまたは、2,8-ジメチルジベンゾチオフェンおよび4,6-ジメチルジベンゾチオフェンなどのジベンゾチオフェン誘導体のC−S結合を特異的に切断できる。しかし、この菌株は、30℃付近において非常に高い脱硫活性を示すロドコッカス sp.のATCC53968と比較すると、脱硫活性は著しく低い。このことから、高温脱硫反応を行わせるためには、中温域と高温域を含む広範な温度条件下で非常に高い脱硫活性を維持し、しかも中温域と高温域で有機硫黄化合物、特にジベンゾチオフェンおよびその置換誘導体化合物を含む複素環式硫黄化合物類のC−S結合を特異的に切断できる微生物を用いるのが最適であると考えられる。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
以上述べた通り、石油の脱硫工程で使用する微生物としては、中温域から高温域を含む広範な温度条件下で非常に高い脱硫活性を維持し、かつ、有機硫黄化合物のC−S結合を特異的に切断できるものであることが望ましいが、前述のとおり、未だそのような微生物は見いだされていない。本発明は、このような技術的背景の下になされたものであり、その目的とするところは、中温域と高温域を含む広範な温度条件下で非常に高い脱硫活性を維持し、かつ、有機硫黄化合物のC−S結合を特異的に切断できる微生物を自然界より分離し、当該微生物を用いた石油等の脱硫手段を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、マイコバクテリウム属、フレイ種に属する菌株が、中温域と高温域を含む広範な温度条件下で非常に高い脱硫活性を維持し、かつ中温域での脱硫活性が広く知られているロドコッカス・エリスロポリスに匹敵する活性で、有機硫黄化合物のC−S結合を特異的に切断できることを見いだし、本発明を完成した。
【0016】
即ち、本発明は、有機硫黄化合物を以下の(1)〜(3)の微生物で分解することを特徴とする有機硫黄化合物の分解方法である。
(1)マイコバクテリウム・フレイ(Mycobacterium phlei)WU-F1株
(2)マイコバクテリウム・フレイWU-F1株の変異株
(3)マイコバクテリウム・フレイWU-F1株を宿主とした形質転換体
また、本発明は、高温で有機硫黄化合物を分解する能力を有するマイコバクテリウム・フレイWU-F1株である。
【0017】
さらに、本発明は、マイコバクテリウム・フレイWU-F1株を宿主とした形質転換体である。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
最初に本発明のマイコバクテリウム・フレイWU-F1株(以下、単に「WU-F1株」という)について説明する。
WU-F1株は、本発明者が日本各地から採取した多種類の土壌を分離源としてスクリーニングによって見出したものである。WU-F1株は、以下のような菌学的性質を有する。
【0019】
細胞の形態: かん状(幅1μm、長さ 2μm)
グラム染色試験: +
胞子の形成: −
オキシダーゼ試験: −
カタラーゼ試験: +
ペプチドグリカンのジアミノ酸: メソジアミノピメリン酸
メナキノン: MK−9(H2)
ミコール酸のパターン:マイコバクテリウム・フレイグループに属する細菌のミコール酸のパターンと相同性を有する
脂肪酸のパターン:マイコバクテリウムグループに属する細菌の脂肪酸のパターンと相同性を有する
16Sr DNAの部分配列:マイコバクテリウム・フレイグループに属する細菌の16S rDNAの部分配列と100%の相同性を有する
【0020】
WU-F1株の培養は微生物の通常の培養法にしたがって行われる。培養の形態は液体培養が好ましい。培地の栄養源としては通常用いられているものが広く用いられる。炭素源としては利用可能な炭素化合物であればよく、例えば、グルコースなどが使用される。窒素源としては利用可能な窒素化合物であればよく、例えばペプトン、ポリペプトン、肉エキス、酵母エキス、大豆粉、カゼイン加水分解物、などの有機栄養物質も使用できる。脱硫反応に影響を与える可能性のある硫黄化合物を含まない培地で培養するのが望ましい場合には、塩化アンモニウムのような無機窒素化合物も使用できる。そのほか、リン酸塩、炭酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、ナトリウム、鉄、マンガン、亜鉛、モリブデン、タングステン、銅、ビタミン類、などが必要に応じて用いられる。培養は、pH6〜8、温度30〜50℃で振盪または通気条件下で好気的に2日ないし3日行う。
WU-F1株は、工業技術院生命工学工業技術研究所に受託番号FERM P-17717として寄託されている(寄託日:平成12年2月8日)。
【0021】
次に、本発明の有機硫黄化合物の分解方法について説明する。
本発明の有機硫黄化合物の分解方法は、有機硫黄化合物をWU-F1株、WU-F1株の変異株、又はWU-F1株を宿主とした形質転換体で分解することを特徴とするものである。ここでWU-F1株の変異株とは、WU-F1株を起源とする菌株であって、有機硫黄化合物に対する分解能についてはWU-F1株と同等の性質を持つが、他の一以上の性質においてWU-F1とは異なる菌株を意味する。WU-F1株を宿主とした形質転換体とは、WU-F1株に外来の遺伝子を導入することにより、WU-F1株の形質の一部を変化させた菌株を意味する。ここで導入する外来の遺伝子としては、例えば、脱硫酵素遺伝子、高温脱硫酵素遺伝子、酸化還元酵素遺伝子を挙げることができる。脱硫酵素遺伝子としては、例えば、ロドコッカス(Rhodococcus)sp.のATCC53968由来の脱硫酵素遺伝子(Piddington,C.S., Kovacevich,B.R. and Rambosek,J. Appl. Environ. Microbiol. 61 (2), p468-475 (1995))やマイコバクテリウム(Mycobacterium)sp. G3株由来の脱硫酵素遺伝子(野村 暢彦、中原 麻里子、中島(神戸)敏明、中原 忠篤, 石油学会大会講演要旨集 p243 (1998).)などを挙げることができる。高温脱硫酵素遺伝子としては、例えば、パエニバシラス(Paenibacillus)sp. A11-2株由来の高温脱硫酵素遺伝子(特開平11-341987号公報)を挙げることができる。酸化還元酵素遺伝子としては、例えば、ロドコッカス(Rhodococcus)sp.のATCC53968由来の酸化還元酵素遺伝子(Childs,J.D., Li,M.Z., Mitchell,K., Emanule,J., Gray,K.A. and Squires,C.H. Genbank AccNo. AF048979)やビブリオ ハーベイ(Vibrio harveyi)由来の酸化還元酵素遺伝子(Izumoto Y., Mori T., Ymamoto K., Biochem Biophys Acta 1185, p243-246 (1994))などを挙げることができる。外来遺伝子をWU-F1株に導入するには特別な方法を用いる必要はなく、一般的な方法を採用することができる。
【0022】
本発明における有機硫黄化合物は、主に複素環式有機硫黄化合物を意味するが、これのみに限定されるわけではない。複素環式有機硫黄化合物としては、例えば、ジベンゾチオフェン、及びその誘導体を挙げることができる。ジベンゾチオフェン誘導体は、特に限定されないが、アルキルジベンゾチオフェンを例示でき、より具体的には、2,8-ジメチルジベンゾチオフェン、4,6-ジメチルジベンゾチオフェン、3,4-ベンゾジベンゾチオフェン等を例示できる。
【0023】
具体的な分解方法としては、微生物を有機硫黄化合物を含む液体中で培養する方法(培養法)、微生物菌体を有機硫黄化合物を含む液体と接触させる方法(休止菌体法)等を例示することができるが、これらに限定されるわけではない。
培養法は、例えば、以下のようにして行うことができる。
【0024】
有機硫黄化合物の分解は、適当な有機硫黄化合物を含む液体を添加した新鮮な培地に対し適当量、例えば1〜2%容量の種菌を接種し、50℃で往復あるいは回転振とう培養を行うことによりできる。この際、種菌としては対数増殖期後期のものが好適であるが、対数増殖期初期から定常期のいずれの状態の菌でも構わない。また、接種量も必要に応じて容量を増減しても構わない。培地としては実施例で使用した高温性脱硫菌培地が好適であるが他の培地でも構わない。培地の栄養源としては通常用いているものが広く用いられる。炭素源としては利用可能な炭素化合物であればよく、例えば、グルコース等が使用される。窒素源としては利用可能な窒素化合物であればよく、例えばペプトン、ポリペプトン、肉エキス、酵母エキス、大豆粉、カゼイン加水分解物等の有機栄養物質も使用できる。脱硫反応に影響を与える可能性のある硫黄化合物を含まない培地で培養するのが望ましい場合には、上記の有機栄養物質の代わりに塩化アンモニウムの様な無機窒素化合物を使用することもできる。そのほか、リン酸塩、炭酸塩、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、鉄、マンガン、亜鉛、モリブデン、タングステン、銅、ビタミン類等が必要に応じて用いられる。通常の培養は、約50℃で振とうまたは通気培養条件で好気的に2日ないし3日行う。ただし、培養温度は50℃が好適であるが、30℃〜50℃の間の任意の温度でも構わない。また、培養時間についても必要に応じて増減しても構わない。
【0025】
有機硫黄化合物を含む液体としては、例えば、原油、重油、軽油、灯油、ガソリン等の画分等を使用できるが、有機硫黄化合物を含むものであればどのようなものでもよい。この液体中の有機硫黄化合物の濃度は、50〜500ppmが好適であるが、必要に応じて増減できる。また、有機硫黄化合物を含む液体を添加する前に反応温度と同じ温度に培養液を予備加熱してもよい。また、本高温性脱硫菌を用いた菌体培養法による有機硫黄化合物の分解は、トリデカン等の有機溶媒を添加した油水2相系中で行っても構わない。この場合、用いる有機溶媒はトリデカンのほか、分解反応を行う温度で液体状態にある炭化水素やケロシン、軽油、重油等でもよい。また、必要ならば培養液上方の気相を酸素で置換封入しても構わない。さらに、空気または酸素を培養液中に送入してもよい。
【0026】
休止菌体法は、例えば、以下のようにして行うことができる。
菌体調製は、新鮮な培地に対し適当量、たとえば1〜2%容量の種菌を接種し、45℃で往復あるいは回転振とう培養を行うことによりできる。この際、種菌としては対数増殖期後期のものが好適であるが、対数増殖期初期から定常期のいずれの状態の菌でも構わない。また、接種量も必要に応じて容量を増減できる。培地としては高温性脱硫菌培地が好適であるが他の培地でも構わない。培地の栄養源としては通常用いられているものが広く用いられる。炭素源としては利用可能な炭素化合物であればよく、例えば、グルコースなどが使用される。窒素源としては利用可能な窒素化合物であればよく、例えばペプトン、ポリペプトン、肉エキス、酵母エキス、大豆粉、カゼイン加水分解物、などの有機栄養物質も使用できる。脱硫反応に影響を与える可能性のある硫黄化合物を含まない培地で培養するのが望ましい場合には、塩化アンモニウムのような無機窒素化合物も使用できる。そのほか、リン酸塩、炭酸塩、マグネシウム、カルシウム、カリウム、ナトリウム、鉄、マンガン、亜鉛、モリブデン、タングステン、銅、ビタミン類、などが必要に応じて用いられる。通常の培養は、約45℃で振盪または通気条件下で好気的に2日ないし3日行う。ただし、培養温度は45℃が好適であるが、30℃〜50℃の間の任意の温度でも構わない。
【0027】
培養して得られた菌体は、遠心分離等の手段により分離集菌して、菌体を洗浄後再度集菌して休止菌体反応に使用するのが望ましい。この際、菌体は対数増殖期中期から後期で集菌するのが好適であるが、対数増殖期初期から定常期の菌体でも構わない。分離集菌のための手段としては、遠心分離の他、濾過や沈降分離などいかなる方法を用いても構わない。菌体の洗浄には、生理食塩水、リン酸緩衝液、トリス緩衝液等のいかなる緩衝液も使用でき、また水を使用して菌体洗浄を行っても構わない。
【0028】
休止菌体反応は、菌体を適当な緩衝液に懸濁して調製した菌懸濁液に有機硫黄化合物を含む液体を添加して行う。緩衝液としては種々の緩衝液を使用できる。緩衝液のpHは、pH7〜8が好適であるが他のpHでも構わない。また、緩衝液の代わりに、水や培地等を使用しても構わない。菌体懸濁液の濃度は、OD660が1〜50の間が好適であるが、必要に応じて増減できる。
【0029】
有機硫黄化合物を含む液体としては、例えば、原油、重油、軽油、灯油、ガソリン等の石油画分などを使用できるが、有機硫黄化合物を含むものであればどのようなものでもよい。この液体中の有機硫黄化合物の濃度は、50ppm 〜5000ppm が好適であるが、必要に応じて増減できる。また、有機硫黄化合物を含む液体を添加する前に反応温度と同じ温度に反応液を予備加熱してもよい。休止菌体反応は50℃で行うのが好適であるが、20℃〜52℃の任意の温度でもよく、また反応時間は1〜2時間が好適であるが、必要に応じて増減できる。また、休止菌体反応は、トリデカン等の有機溶媒を添加した油水2相系で行っても構わない。この場合、用いる有機溶媒はトリデカンの他、分解反応を行う温度で液体状態にある炭化水素やケロシン、軽油、重油などでもよい。また、必要ならば反応液上方の気相を酸素で置換封入しても構わない。
【0030】
以上のようにして、本発明の分解法を実施できるが、分解により生じた反応生成物の抽出及び分析は、例えば、以下のようにして行うことができる。
反応液を6規定の塩酸を用いてpH2前後に調整した後、酢酸エチルを用いて攪拌抽出する。しかし、抽出に使用する溶媒は、酢酸エチルに限定されるものではなく、目的とする反応生成物が抽出できるものであればいずれの溶媒を用いても構わない。酢酸エチルの量は反応液に対し等量が好適であるが、必要に応じて増減できる。また、反応生成物の分離は、逆相C18カラムあるいは順相シリカカラムを用いて行うことができるが、必要に応じて他のカラムを用いても構わない。
【0031】
また、分離に使用する方法はこれらの方法に限定されるものではなく、反応生成物が分離できる方法であればいかなる方法を用いても構わない。反応生成物の分析は、ガスクロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー/質量スペクトル分析、ガスクロマトグラフィー/原子発光検出分析, ガスクロマトグラフィー/フーリエ変換赤外分光分析、核磁気共鳴法、などを使用して行うことができる。また、必要に応じて他の分析方法を併せて利用しても構わない。さらに、分析に使用する方法はこれらの方法に限定されるものではなく、反応生成物が分析できる方法であればいずれの方法を使用しても構わない。
【0032】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
[実施例1] WU-F1株の分離
WU-F1株の分離は、以下のように実施した。また、この菌株の集積および分離には、石油留分中に含まれる代表的な有機硫黄化合物であるジベンゾチオフェンを唯一の硫黄源として含む表1に示す培地(以下「高温性脱硫菌培地」という)を使用した。
【0033】
まず、シリコン付試験管(容量27ml、直径18mm×長さ180mm)に、高温性脱硫菌培地5mlおよび日本各地より採取した土壌など1スパテール(約0.5g)を加え、50℃で3〜5日振盪培養(振盪速度240rpm) し、集積培養を行った。培地に濁りの認められた試料については、その培養液0.1mlを新鮮な同培地に加え、集積培養を3回ないし4回繰り返した。これらの集積培養により菌体の増殖が認められた試料について、高温脱硫菌培地を用いて培養液を作製した。これらの培養液5mlを前述のシリコン栓付試験管に採取し、6規定の塩酸を滴下しpHを2.5以下に調整後、等量の酢酸エチルを添加し、攪拌することにより生成物を抽出した。抽出された生成物を高速液体クロマトグラフィーおよびガスクロマトグラフィーにより分析し、その結果2-ヒドロキシビフェニルの生成が認められた試料についてその集積培養液を使用し、次に述べるような分離操作を行った。
【0034】
2-ヒドロキシビフェニルの生成が認められた培養液を高温性脱硫菌培地を用いて希釈した。得られた希釈液を、LB培地(トリプトン:10g/l、酵母エキス:5g/l、塩化ナトリウム:10g/l、pH 7)に終濃度1.5%となるように寒天を加えて作製した寒天プレート上に塗布し、30℃で静置培養して、コロニーを形成させた。つぎに、形成したコロニーの一部を高温性脱硫菌培地に植菌し、前述の集積培養に用いた方法により液体培養を行った。こうして得られた培養液を用いて前述の方法により、2-ヒドロキシビフェニルの生成を調べた。2-ヒドロキシビフェニルの生成が認められたコロニーを選択し、前述の一連の操作を2回ないし3回繰り返すことにより目的の菌株、即ち、WU-F1株を単離した。
【0035】
【表1】
【0036】
[実施例2]WU-F1株によるジベンゾチオフェンの高温分解
有機硫黄化合物であるジベンゾチオフェンを唯一の硫黄源として含む高温性脱硫菌培地を用いて、高中温域でWU-F1株の培養を試み、菌体の増殖および2-ヒドロキシビフェニルの生成を指標としたジベンゾチオフェンの分解試験をおこなった。
【0037】
シリコン栓付試験管に高温性脱硫菌培地を5ml添加し、所定の温度で一時間予熱後、実施例1に記載したものと同様の方法で調製した前培養液を1%植菌し、実施例1に記載の培養条件で分解試験を行った。測定波長660nm における各培養液の濁度を分光光度計により測定し、これらの濁度をもって微生物の生育度を評価した。また、分解生成物の分析は、実施例1と同様に高速液体クロマトグラフィーおよびガスクロマトグラフィーで行い、2-ヒドロキシビフェニルの生成量を定量した。WU-F1株の生育度及び2-ヒドロキシビフェニルの生成量を表2に示す。
【0038】
【表2】
【0039】
表2に示す結果より、50℃で脱硫菌の有意の増殖が見られ、それに伴いジベンゾチオフェンが分解され、2-ヒドロキシビフェニルが生成されていることがわかる。30〜50℃の広範な温度条件下で脱硫活性を示すバシラス・サチリス WU-S2B株は50℃で0.54mMのDBTを分解するのに5日間かかるが、WU-F1株は3日間で分解可能である。また、表中には示していないが、30℃でもWU-F1株の有意の増殖が見られ、それに伴いジベンゾチオフェンが分解されていることが確認されている。すなわち、WU-F1株は、中温域から高温域を含む広範な温度条件下でより効率のよい脱硫を行うことができる。
【0040】
[実施例3]WU-F1株によるジベンゾチオフェン誘導体の高温分解
ジベンゾチオフェンのアルキル誘導体を唯一の硫黄源として含む高温性脱硫菌培地中でWU-F1株を培養し、これらのジベンゾチオフェン誘導体に対する分解性を調べた。ジベンゾチオフェンのアルキル誘導体としては、2,8-ジメチルジベンゾチオフェン、4,6-ジメチルジベンゾチオフェン、3,4-ベンゾジベンゾチオフェンを用いた。石油中に実際に含まれる炭化水素系溶媒が共存する条件下で、WU-F1株がジベンゾチオフェンのアルキル誘導体を分解することを確認するために、硫黄濃度が100ppmとなるように上記のジベンゾチオフェン誘導体をそれぞれn-トリデカンに溶解させたものを高温性脱硫菌培地に添加して培養を行った。
【0041】
シリコン栓付試験管に培地5mlおよび有機硫黄化合物含有n-トリデカン1mlを添加し、実施例1に記載の方法で調製した前培養菌液を1%程度植菌し、温度50℃で毎分回転数240rpmで振盪し培養した。測定波長660nm における各培養液の濁度を分光光度計により測定し、これらの濁度をもって微生物の生育度を評価した。
【0042】
【表3】
【0043】
表3に示すように、脱硫菌が増殖していることから、石油に含まれる炭化水素系溶媒が共存する条件下で該溶媒に溶解していた各種のジベンゾチオフェン誘導体が分解されていることがわかる。この実施例は高温脱硫菌の増殖に伴いジベンゾチオフェン誘導体が効率的に分解されることを示している。また、抽出された生成物をガスクロマトグラフィーおよびガスクロマトグラフィー/質量スペクトル分析により分析し、その結果各種のジベンゾチオフェン誘導体から硫黄原子が特異的に除去された化合物が生成されていることが推定された。
【0044】
[実施例4]休止菌体によるジベンゾチオフェンの高温分解
以下にWU-F1株を使用した休止菌体反応の詳細を示す。
【0045】
シリコン栓付試験管に高温性脱硫菌培地を5ml添加し、それに保存用グリセロールストック(高温性脱硫菌培地に生育した菌体の懸濁液に、10%のグリセロールを添加して、-80℃で凍結したもの)0.1mlを植菌したものを50℃で2日振とう培養を行い、得られた培養液を種菌培養液として用いた。休止菌体反応に使用するための菌体は以下のようにして調製した。500ml 容量のバッフル付三角フラスコに、ジベンゾチオフェンを50mg/l(50ppm)の濃度で含む高温性脱硫菌培地を200ml 添加した。これに種菌培養液を5ml接種した後、対数増殖期後期に達する(約45時間)まで、45℃、往復振とう培養を行った。つぎに、得られた培養液を 16,000×g、10分間遠心することにより集菌した。上清を除いた後、得られた菌体を0.1Mのリン酸緩衝液(pH 7.6)200ml で洗浄し、再び同じ条件で遠心分離を行い集菌した。この洗浄操作を2回繰り返した後、得られた菌体を同リン酸緩衝液を用いて、OD660 が約50となるように再懸濁した。この再懸濁液を休止菌体反応用菌体懸濁液とした。
【0046】
休止菌体反応は以下の様にして行った。30ml容量のシリコン栓付L字型試験管に、前述の方法により調製した菌懸濁液0.6mlを添加して、各反応温度で15分間予備加熱を行い、菌体懸濁液の温度を実際に休止菌体反応を行う温度と同じとなるように調整した。この菌体懸濁液に10000ppmのジベンゾチオフェン溶液(トリデカンに溶解したもの)を9μl 添加( 終濃度150 ppm)して、各温度で2時間往復攪拌することにより休止菌体反応を行った。
【0047】
反応後、菌体懸濁液に6規定の塩酸を加えpHを2前後に調整した後、3mlの酢酸エチルを添加し、ジベンゾチオフェンおよび休止菌体反応産物を抽出した。得られた抽出液の高速液体クロマトグラフィー分析を行い、ジベンゾチオフェンの分解産物である2-ヒドロキシビフェニルが生成していることを確認した。
【0048】
【表4】
【0049】
表4に示した結果は、20℃〜52℃の広範な温度条件下で脱硫活性を維持し、特に30℃〜50℃では非常に高い脱硫活性を維持していることを証明するものである。すなわち、WU-F1株は、30〜50℃の広範な温度条件下で脱硫活性を示すバシラス・サチリス WU-S2B株よりも圧倒的に高い活性を示す(古屋, 西井, 中川, 桐村, 宇佐美, 日本農芸化学会大会講演要旨集, 384(1999))。また、50℃で最大の脱硫活性0.08mg/min/mg-drycellを示すパエニバシラス sp. A11-2株よりも高い活性を示し、30℃で最大の脱硫活性0.27mg/min/mg-drycellを示すロドコッカス sp.のATCC53968に匹敵する活性を示す(Suzuki, M., Konishi, J., Ishii, Y., Okumora, K., Appl. Environ. Microbiol., 63, 3164-3169 (1997))。
【0050】
[実施例5]休止菌体によるジベンゾチオフェン誘導体の高温分解
休止菌体反応は実施例4に記載の方法で行った。30ml容量のシリコン栓付L字型試験管に、前述の方法により調製した菌懸濁液0.6mlを添加して、各反応温度で15分間予備加熱を行い、菌体懸濁液の温度を実際に休止菌体反応を行う温度と同じとなるように調整した。この菌体懸濁液に10000ppmのジベンゾチオフェン誘導体(2,8-ジメチルジベンゾチオフェン、4,6-ジメチルジベンゾチオフェン、3,4-ベンゾジベンゾチオフェン)溶液(トリデカンに溶解したもの)を9μl 添加(終濃度150 ppm)して、50℃で8時間往復攪拌することにより休止菌体反応を行った。
【0051】
反応後、菌体懸濁液に6規定の塩酸を加えpHを2前後に調整した後、3mlの酢酸エチルを添加し、ジベンゾチオフェン誘導体および休止菌体反応産物を抽出した。抽出された生成物をガスクロマトグラフィーおよびガスクロマトグラフィー/質量スペクトル分析により分析し、その結果各種のジベンゾチオフェン誘導体から硫黄原子が特異的に除去された化合物が生成されていることが推定された。
【0052】
【表5】
【0053】
表5に示す結果は高温脱硫菌の休止菌体反応に伴いジベンゾチオフェン誘導体が効率的に分解されることを証明するものである。
【0054】
【発明の効果】
本発明によれば、高温域を含む広範な温度条件下で従来可能であったよりもはるかに効率よく複素環式有機硫黄化合物をC−S結合特異的に分解することができる。これにより、広範な温度条件下での効率的な脱硫が可能になる。
Claims (6)
- 有機硫黄化合物を以下の(1)〜(3)の微生物で分解することを特徴とする有機硫黄化合物の分解方法。
(1)マイコバクテリウム・フレイWU-F1株(FERM P-17717)
(2)マイコバクテリウム・フレイWU-F1株(FERM P-17717)の変異株
(3)マイコバクテリウム・フレイWU-F1株(FERM P-17717)を宿主とした形質転換体 - 有機硫黄化合物が、複素環式有機硫黄化合物であることを特徴とする請求項1記載の有機硫黄化合物の分解方法。
- 複素環式有機硫黄化合物が、ジベンゾチオフェン又はその誘導体であることを特徴とする請求項2記載の有機硫黄化合物の分解方法。
- ジベンゾチオフェン誘導体が、アルキルジベンゾチオフェンであることを特徴とする請求項3記載の有機硫黄化合物の分解方法。
- 高温で有機硫黄化合物を分解する能力を有するマイコバクテリウム・フレイWU-F1株(FERM P-17717)。
- マイコバクテリウム・フレイWU-F1株(FERM P-17717)を宿主とした形質転換体。
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