【発明の詳細な説明】
可溶性CTLA4分子を用いる関心とする遺伝子の発現を延長する方法
遺伝子治療は、現在特別の治療法のない多くの疾病の治療に非常に有望である
(フリードマン(Friedmann T.)、ヒト遺伝子治療の進歩、Science 1989;
244:1275;ベルマ(Verma IM.)遺伝子治療、Sci.Am 1990;26
3:68;ミラー(Miller AD.)、ヒト遺伝子治療の進歩、Blood 1990;7
6:271;カールソン(Karson,EM.)、遺伝子治療の展望、Biol Reprod 19
90;42:39)。
例えばヒトの癌は異常な遺伝子発現または特定の遺伝子における突然変異と関
連することが多く、そして新生物(腫瘍)のプロセスは遺伝子治療によって変え
ることができる。或いは遺伝子治療によって変えられた腫瘍細胞は、毒性遺伝子
の挿入、または腫瘍細胞を化学療法剤に対して感受性にする遺伝子の挿入によっ
て、破壊できるかも知れない。新生物細胞を不活性化するその他のアプローチは
、アンチセンス癌遺伝子を腫瘍細胞に挿入することである。これらの遺伝子は癌
遺伝子に対して逆方向に翻訳される。塩基配列は相補的であるから、mRNAは
ハイブリッド化し;癌遺伝子活性はなくなるが、なぜならばその遺伝子は翻訳さ
れないからである(フリードマン、ヒト遺伝子治療の進歩、Science 1989;
244:1275)。
骨髄は遺伝子治療に適した標的部位であり、なぜならばそれは i
n vitro で容易にアクセスし操作することができ、変化した遺伝子型を永続させ
る幹細胞を含むからである。肝および中枢神経系も遺伝子治療のための可能性の
ある標的である(ミラー、ヒト遺伝子治療の進歩、Blood 1990;76:27
1)。
遺伝子治療の主な目的は、付加的遺伝子要素を生体細胞に導入し、または生体
細胞のDNAにおいて欠失しているかまたは機能不全の分子要素を置換して、ヒ
トに病気をおこす生体細胞内の変化を標的とし、修復することである(カルバー
(Culver)ら、マウスおよびヒトにおける遺伝子治療のための細胞ビークルとし
てのリンパ球、PNAS USA、88:3155(1991))。
治療しようとする病気に依って、遺伝子治療の3つの戦略が採用される。異機
能遺伝子は置換され、変えられて、機能的になり、または細胞内の異なる座で働
く健康遺伝子で増強される。これらのオプションのうちで、遺伝子増強治療が現
在最も有望である。遺伝子増強の一例は、重症複合免疫不全症患者からの細胞に
機能性アデノシンデアミナーゼ遺伝子を付加するものである(フリードマン、ヒ
ト遺伝子治療の進歩、Science 1989;244:1275;ベルマ、遺伝子治
療、Sci.Am 1990;263;68;ミラー、ヒト遺伝子治療の進歩、Blood、
1990;76:271;カールソン、遺伝子治療の展望、Biol Reprod 19
90;42:39)。
遺伝子治療に必要なことは、その疾病の欠損を理解し、正常な機能性遺伝子を
クローン化し、特徴づけることである。遺伝子はいくつかの方法で挿入される。
遺伝子治療は、培養細胞に遺伝子を伝達し、その後その培養細胞を対象に移植
するか(ex vivo アプローチ)、または遺伝子を直接
対象に供給し、生体内で細胞に遺伝子を伝達する(in vivo アプローチ)ことを
含むことができる。
In vivo および ex vivo どちらの方法でも、ウィルスベクターが関心とする
遺伝子のデリバリービークルとして用いられる。ウィルスゲノムを変化させ、無
毒性ではあるが、特定の細胞型には感染できるようにする。レトロウィルスベク
ターの利点は、挿入されたDNAがホスト染色体に効率的に組み込まれることで
ある。機能性置換遺伝子は、ウィルスゲノムが適切な組織に入った後にその遺伝
子が発現できるような、ウィルスゲノム内の位置に挿入される。そのウィルスを
その後患者または標的細胞に投与し、所望の機能性表現型に転換させる。レトロ
ウィルスベクターの欠点は、効率的遺伝子伝達のためには細胞を複製しなければ
ならないことである。対照的に、アデノウィルスベクターは細胞複製の必要はな
いが、挿入されたDNAがホスト染色体に組み込まれない。
これらの、アデノウィルスを含む組換えウィルスベクターは、遺伝子を効率的
に体組織に伝達するが、遺伝子発現の急速な喪失をおこし、かつ二次的伝達を阻
止する免疫学的要因のために、臨床的遺伝子治療への使用は制限される。すなわ
ち、形質導入された細胞に向かって細胞免疫反応が起きるため、遺伝子発現は一
過性で、通常、数週間しか続かない(ヤング(Y.Young)ら(1994)、Proc. Natl.Acad.Sci.,USA
91、4407;ヤング、エルトル(H.C.J.Ertl)、ウィ
ルソン(J.M.Wilson)(1994)、Immunity 1、433)。この制限は、遺
伝子発現を延長する可溶性CTLA4分子の使用によって回避される。
CTLA4は、通常、T細胞に見いだされる細胞表面抗原である
。CTLA4はB細胞活性化抗原B7に結合する。可溶性CTLA4分子、すな
わちCTLA4IgはTおよびB細胞間の相互作用に依存する免疫反応を阻害する
ことが判明している(リンスレイ(Linsley)ら、J.Exp.Med. 173:721−
730ページ(1991))。
免疫治療における可溶性CTLA4分子の使用は、組換えウィルスベクターが
ヒト遺伝子治療に有用となる可能性を著しく高める。発明の概要
本発明は細胞による関心とする遺伝子の発現を延長する方法に関する。この方
法において、細胞は、関心とする遺伝子をコード化する組換え核酸塩基配列を含
み、関心とする遺伝子を発現することができる。この方法は、その細胞と、その
細胞による関心とする遺伝子の発現を延長するのに有効な量の可溶性CTLA4
分子との接触工程を提供する。別法において、その細胞が対象に存在する場合は
、この方法はその対象に、細胞による関心とする遺伝子の発現を延長するのに有
効な量の可溶性CTLA4分子を投与することを含む。
本発明は疾病にかかった対象を治療する方法をも提供する。この方法によると
、その対象の少なくとも1つの細胞は(a)関心とする遺伝子のための組換え核
酸塩基配列を含み、かつ(b)その疾病、またはその疾病に関連する症状を阻害
することができる関心とする遺伝子によってコード化されたタンパク質を発現す
ることができる。この方法は、その対象による関心とする遺伝子の発現の量また
は持続期間を高めるのに有効な量の可溶性CTLA4をその対象に
投与することを含んでなる。図面の簡単な説明
図1A〜Dは、可溶性CTLA4Igを同時投与した場合のアデノウィルス仲
介性遺伝子発現を示す線グラフである。各線は個々の動物をあらわす。
図2A〜Cは脾臓増殖検定の結果を示す線グラフである。
図3は免疫組織化学による肝炎症性細胞を確認する写真である。発明の詳細な説明
定義
本明細書に用いる下記の単語または句は下記に説明する意味を有する。
ここに用いる“関心とする遺伝子”とは、タンパク質または核酸配列をコード
化するあらゆるDNAまたはRNA分子を意味する。
ここに用いる“非- CTLA4タンパク質配列”とは、B7に結合せず、CT
LA4のそのB7抗原標的への結合を妨害しない分子を意味する。
ここに用いる“CTLA4の細胞外ドメイン”とは、B7抗原を認識し、結合
する、CTLA4の部分である。例えば、CTLA4の細胞外ドメインは、リン
スレイら、J.Exp.Med. 173:721−730(1991);リンスレイら、
“可溶性型CTLA4細胞活性化分子による in vivo 免疫抑制”、Science(1
992)257(5071)792−795、に説明されている。
ここに用いる“可溶性CTLA4”とはB7に結合できる循環C
TLA4を意味する。例としてはCTLA4の細胞外ドメイン、または生物学的
または化学的に活性な分子に(遺伝的に、または化学的に)融合したCTLA4
の細胞外ドメイン、例えばCTLA4Ig、CTLA4- env gp120、C
TLA4−p97、CTLA4−ova、およびCTLA4−E7などが含まれ
るが、これらに制限するものではない。
ここに用いる“遺伝子治療”とは、遺伝子操作によって疾病を治す方法である
。
ここに用いる“ウィルスベクター”とは、(1)関心とする遺伝子を、それが
発現されるホスト細胞に導入するために挿入することができ、かつ(2)ウィル
スに由来する、担体核酸分子である。
ここに記載した発明がより完全に理解されるように以下に説明する。
発明の方法
本発明は、有効量の可溶性CTLA4が、延長された(長期の)または持続的
な遺伝子発現を可能にすることによって、細胞による関心とする遺伝子の発現が
高められるという発見に関する。本発明の好適な実施態様において、関心とする
遺伝子は、例えば組換えウィルスベクターのような組換え核酸配列の1部である
。組換えウィルスベクターは本明細書に記載されている。
本発明の一実施態様において、遺伝子発現の増強は、細胞と所定量の可溶性C
TLA4分子とを接触させ、免疫反応を阻害することによって起きる。別法とし
て、遺伝子発現の増強は、対象に所定量の可溶性CTLA4を投与し、免疫反応
を阻害し、それによって長
期の免疫抑制をおこすことなく持続的なウィルス遺伝子発現を実現することによ
って起きる。その他に、可溶性CTLA分子と抗CD40リガンド(MRI)と
の組合わせは遺伝子発現を延長し、二次的遺伝子伝達を可能にする。抗CD40
リガンドは、CD40リガンドを認識して結合する分子、例えば抗体(モノクロ
ーナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、人体適応性抗体、もしくはそれ
らのフラグメント)、または組換え結合タンパク質、例えば融合タンパク質であ
る。
可溶性CTLA4分子は遺伝子治療中、遺伝子治療前または遺伝子治療後に投
与することができる。さらに、可溶性CTLA4の投与は、その後の in vivo
または ex vivo アプローチによる遺伝子の投与後でさえ有効である。可溶性C
TLA4分子の使用は、in vivo または ex vivo アプローチによる関心とする
遺伝子の二次的投与後の二次的遺伝子発現を成功させ、これは免疫反応のために
不可能であるのが普通である。
可溶性CTLA4は経口的手段、経皮的手段、静脈内手段、筋肉内手段または
皮下投与によって投与することができる。或いはCTLA4は、関心とする遺伝
子とともにウィルスベクターに挿入し、同時発現させてもよい。
本発明の方法は、欠陥、疾病または損傷細胞の被害を被っている対象の治療に
有用である。特に、可溶性CTLA4の使用は疾病患者における遺伝子治療を拡
大する(1995年3月21日に発行された米国特許第5,399,346号)
。遺伝子治療の成功の見込みは遺伝子発現の増強の結果改善され、疾病にかかっ
ている対象は遺伝子治療前、−後および/または−最中に可溶性CTLA4を使
用しない場合に比べてより効果的に治療される。
本発明の一実施態様において、対象の少なくとも1つの細胞が、関心とする遺
伝子のための組換えDNAを含んでいなければならない。さらに、その細胞は、
関心とするその遺伝子によってコード化されるタンパク質を発現することができ
、その結果疾病またはそれに関連する症状が阻害されなければならない。
本発明の実施により、対象物は動物対象、例えばヒト、イヌ、ネコ、ヒツジ、
ウマ、サカナ、トリ、ブタ、またはウシである。
現在幾つかのグループが癌治療に遺伝子治療を用いている(フリードマン、ヒ
ト遺伝子治療の進歩、Science 1989;244:1275−1281;ロス(
Roth JA)、ムコパドヒエイ(Mukhopadhyay T.)、テインスキー(Tainsky MA
)ら、気道消化管癌の予防および治療のための分子的アプローチ、研究論文、Mo
nogr Natl Cancer Inst 1992;13:15−21;ムコパドヒエイ、テイン
スキー、キャベンダー(Cavender AC)、ロス、肺癌細胞のK-ras発現および腫瘍
原性のアンチセンスRNAによる特異的阻害、Cancer Res 1991;51、1
744−1748)。
研究者らは、ヘルペス チミジンキナーゼ(TK)遺伝子を担うレトロウィル
ス粒子を産生する細胞を脳腫瘍に直接注入するという実験的脳腫瘍の治療プロト
コルを開発した(クルヴァー(Culver KW)、ラム(Ram Z)、ウォルブリッジ(
Wallbridge S)ら、実験的脳腫瘍治療のためのレトロウィルスベクター−プロデ
ューサー細胞を用いる in vivo遺伝子伝達、国家保健機構、国立癌研究所、細胞
免疫学部、ベセスダ(Bethesda)、MD、Science 1992;256;1550−
1552)。TK遺伝子の腫瘍細胞への取り込みは
、腫瘍細胞に薬剤ガンシクロヴィル(gancyclovir)に対する感受性を与える。可
溶性CTLA4の使用はTK遺伝子の発現を高めることができる。
本発明はさらに、対象の欠陥、疾病または損傷細胞を治療する方法であって、
Ad/RSV−CTLA4Ig(mu)−BPAまたはAd/RSV−CTLA4
Ig(hu)−BPAベクターを細胞に挿入し、それらの細胞が関心とする遺伝子
によってコード化されるタンパク質と、可溶性CTLA4分子とを、中枢神経系
の欠陥、疾病または損傷細胞を改善するのに十分な量産生することを含んでなる
治療法を提供する。
本発明はさらに、ドナー細胞を対象に移植することを含む、対象中の欠陥、疾
病、または損傷細胞の治療法を提供する。本発明の実施により、ドナー細胞は遺
伝的に改質される。すなわちこのようなドナー細胞にAd/RSV−CTLA4
Ig(mu)−BPAまたはAd/RSV−CTLA4Ig(hu)−BPAを挿入
し、このようなドナー細胞が、関心とする遺伝子によってコード化されるタンパ
ク質と、可溶性CTLA4分子とを、中枢神経系の欠陥、疾病または損傷細胞を
改善するのに十分な量を産生するようにする。
本発明は、細胞による、関心とする遺伝子の発現を延長するための薬学的組成
物をも提供する;ここでその細胞は(a)関心とする遺伝子のための組換え核酸
配列を含み、かつ(b)関心とする遺伝子によってコード化されたタンパク質を
発現することができる。その組成物は薬学的有効量のAd/RSV−CTLA4
Ig(mu)−BPAおよび許容できる担体を含む。或いは、組成物は薬学的有効
量のAd/RSV−CTLA4Ig(hu)−BPAと許容できる担
体とを含む。
細胞
関心とする遺伝子を含む細胞は、例えば上皮細胞および結合細胞など、いかな
る真核細胞でもよい。上皮細胞は動物体のあらゆる表面領域にあり、血管または
胃の内壁のような内面にもある。結合細胞は骨組織、軟骨組織および血液−すな
わち白血球細胞と赤血球細胞の両方−を構成する細胞を含む。細胞は、関心とす
る遺伝子をコード化し、in vitro および in vivoで関心とする遺伝子を発現で
きる組換えDNAを含む。
細胞は動物細胞、例えばヒト、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウマ、サカナ、トリ、ブ
タまたはウシからの細胞などである。
ドナー細胞はプロデューサー細胞であってもよい。さらにドナー細胞は自己細
胞でも異種の(ヘテロ)細胞でもよい。
異種遺伝子の細胞内導入
細胞にDNAまたはRNAを導入するために種々の技術が使用できる。一般的
に、遺伝子治療は(1)遺伝子を培養細胞に伝達し、その後その培養細胞を対象
に移植するか(ex vivo アプローチ)、または(2)遺伝子を対象に直接供給し
、その場で遺伝子を細胞に伝達する(in vivo アプローチ)ことを含む。
例えば、関心とする遺伝子を組換えウィルスベクターとして直接細胞に挿入す
る。その他の挿入法も可能である。
例えば ex vivo法では、例えばリン酸カルシウム仲介性トランスフェクション
、DNAと複合体化したポリカチオンもしくは脂質の
使用、DNAの脂質小胞または赤血球ゴーストでの包囲、または細胞を高電圧電
流の急速なパルスにさらす(すなわちエレクトロポレーション)などの遺伝子伝
達法を用いて遺伝子を細胞に挿入することができる。また、DNAは、直接マイ
クロインジェクションによって、または高速タングステン マイクロプロジェク
タイルの使用によって細胞に導入される。これらの技術はDNAの複数のコピー
をゲノムに一体化することができるが、一体化の効率は技術、異なる遺伝子、お
よび異なる細胞型によって広範囲に変動する。
最近、ウィルスベクターを用いてDNAを哺乳動物細胞に導入する技術が開発
された。これらの技術は、そのウィルスにさらされるすべての細胞を感染させる
可能性を有する。ウィルスベクターを使用するための技術の開発において、標的
細胞に安定的に挿入され、しかもその細胞を損傷しないベクターを開発すること
が必要であった。
適したウィルスベクターは、パポバウィルス、シミアンウィルス40、ポリオ
ーマウィルス、アデノウィルス、マウスおよびトリレトロウィルスを含む。ウィ
ルスベクターは多くの細胞型に感染し得る。
ベクター
受容体に仲介されることによっては細胞に入らないベクターと比較して、ウィ
ルスベクターはその効率の観点から好ましい。適したウィルスベクターの例は、
レトロウィルスベクター、アデノウィルスベクター、ワクシニアウィルスベクタ
ー、ヘルペスウィルスベクター、または狂犬病ウィルスベクターがあるが、これ
らに制限されるものではない。
選択されるウィルスベクターは下記のクリテリアに合わなければならない:1
)ベクターは関心とする細胞に感染することができなければならない、そのため
適切なホスト範囲を有するウィルスベクターを選択しなければならない;2)伝
達された遺伝子は細胞内で或る長期間存続し、発現されなければならない;かつ
3)ベクターはホストにとって安全でなければならず、そのベクターによる細胞
の形質転換は最小でなければならない。レトロウィルスベクターおよびアデノウ
ィルスは異種遺伝子を効率的に哺乳動物細胞に導入し発現する効率的で有用なか
つ現在最もよく特徴づけられた手段を提供する。これらのベクターは非常に広い
ホストおよび細胞型範囲を有し、遺伝子を安定的、効率的に発現する。これらの
ベクターの安全性は多くの研究グループによって証明されている。実際、多くが
臨床試験中である。
疾病を治すために細胞に遺伝子伝達するために用いられるその他のウィルスベ
クターは、ヘルペスウィルス パポバウィルス、例えばJC、SV40、ポリオ
ーマなど;エプスタイン−バー(Epstein-Barr)ウィルス(EBV);パピロー
マウィルス、例えばウシパピローマウィルスI型(BPV);ポリオウィルスな
らびにその
他のヒトおよび動物ウィルスを含む。
アデノウィルスは、それらをクローニングビークルとして魅力的にする幾つか
の特性を有する(バチェティス(Bachettis)ら:精製単純ヘルペスウィルスD
NAによるチミジンキナーゼ欠乏ヒト細胞への遺伝子伝達、PNAS USA、1977
、74、1590;バークナー(Berkner,K.L.):異種遺伝子の発現のためのア
デノウィルスベクターの開発、Biotechniques、1988 6:616;ゴーシュ
ークドハリー(Ghosh-Choudhury G.)ら、感染性細菌性プラスミドに基づくヒト
アデノウィルス クローニングベクター、Gene 1986;50:161;ハ
グ−アーマンド(Hag-Ahmand Y.)ら、 ヘルパー−非依存性ヒト アデノウィ
ルスベクターの開発および単純性ヘルペスウィルス チミジンキナーゼ遺伝子の
伝達におけるその使用、J Virol 1986;57:257;ローゼンフェルド(
Rosenfeld M.)ら、 組換えα1−アンチトリプシン遺伝子の in vivo 肺上皮へ
のアデノウィルス仲介性伝達、Science 1991;252:431)。
例えば、アデノウィルスは細胞核において複製する中間サイズのゲノムを有す
る;多くの抗原型は臨床的に無害である;アデノウィルスゲノムは異種遺伝子の
挿入にもかかわらず安定であるようにみえる;異種遺伝子は損失または再配列な
く、維持されるように見える;そしてアデノウィルスは、数週間ないし数カ月の
発現期間をもつ高レベルの一過性発現ベクターとして使用できる。包括的生化学
および遺伝研究は、生存可能の、条件つき、ヘルパー非依存性ベクターを生成す
る天然のアデノウィルス配列の代わりに、7〜7.5kbの異種配列で置換できる
ことを示唆している(カウフマン(Kauf
man R.J.);アデノウィルス翻訳調節のために必要な成分の確認およびcDNA
発現ベクターにおけるその使用、PNAS USA、1985、82:689)。例えば
、本発明はAd/RSV−CTLA4Ig(mu)−BPAおよびAd/RSV−
CTLA4Ig(hu)−BPAと呼ばれるアデノウィルスベクターを提供する。
AAVは約5kbの一本鎖DNAゲノムを有する小さいヒト パルボウィルス
である。このウィルスは組み込まれたプロウィルスとして数種のヒト細胞型で繁
殖することができる。AAVベクターはヒト遺伝子治療のために幾つかの利点を
有する。例えば、それらはヒト細胞にとって栄養性であるが、他の哺乳動物細胞
にも感染できる;(2)ヒトまたは他の動物においてAAVによる病気は起きな
い;(3)組み込まれたAAVゲノムはそれらのホスト細胞において安定である
ようにみえる;(4)AAVの組込みがホスト遺伝子またはプロモーターの発現
を変えるとか、それらの再配列を促進するという証拠はない;(5)アデノウィ
ルスのようなヘルパーウィルスの感染によって、イントロデュース遺伝子がホス
ト細胞から救助される。
HSV−1ベクター系は実質上すべての遺伝子の、非有糸分裂細胞への導入を
容易にする(ゲラー(Geller)ら、欠陥単純ヘルペスウィルスベクターのための
効率的欠失突然変異体パッケイジイング系:ヒト遺伝子治療および神経生理学へ
の応用の可能性、PNAS USA、1990 87:8950)。
哺乳動物遺伝子伝達のための他のベクターは、ウシパピローマウィルスを基礎
にしたベクターである(サーヴァー(Sarver N)ら、 ウシ パピローマウィル
スDNA:新規の真核クローニングベク
ター、Mol Cell Biol 1981;1:486)。
ワクシニアおよびその他のポックスウィルスを基礎にしたベクターは哺乳動物
遺伝子伝達系を提供する。ワクシニアウィルスは120キロダルトン(kd)ゲ
ノムサイズの大きい二本鎖DNAウィルスである(パニカリ(Panicali D.)ら
、クローニングベクターとしてのポックスウィルスの作成:チミジンキナーゼ遺
伝子の単純ヘルペスウィルスから感染性ワクチンウィルスのDNAへの挿入、Pr oc Natl Acad Sci USA
1982;79;4927;スミス(Smith)ら、B 型肝
炎ウィルス表面抗原を発現する感染性ワクシニアウィルス組換え体、Nature,1
983 302:490)。
レトロウィルスはウィルスゲノムを効率的にホスト細胞に挿入する(ギルド(
Guild B)ら、培養マウス胚細胞および造血細胞にin vivo で遺伝子を発現させ
るために有用なレトロウィルスの開発、J Virol 1988;62:795;ホッ
ク(Hock RA)ら、 ヒト造血前駆細胞中の薬剤耐性遺伝子のレトロウィルス仲
介性伝達および発現、Nature 1986;320:275;クリーグラー(Krieg
ler M)、 遺伝子伝達および発現、実験室的マニュアル、New York:Stockton P
ress、1990:1−242;ギルボア(Gilboa E)、エグリティス(Eglitis
MA)、カントフ(Kantoff PW)ら、 レトロウィルスベクターを用いるクローン
化遺伝子の伝達および発現、 Biotechniques 1986、4、504−512;
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るためのレトロウィルスベクター、Biotechniques 1988;6:608−61
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リオンにパッケイジするために十
分な、マウスレトロウィルスにおけるシグナルの確認、J Virol 1988;62
:3802−3806;アルメンタノ(Armentano D)、ユー(Yu SF)、カント
フ(Kantoff PW)ら、内部ウィルス配列のレトロウィルスベクターの有用性に及
ぼす影響、J Virol 1987;61:1647−1650;ベンダー(Bender M
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病ウィルスのパッケイジング シグナルがgag領域に広がるという証拠、J Vi
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チモア(Buttimore C.)ヘルパーウィルス生成に導く組換えを回避するレトロウ
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ウィルス欠乏レトロウィルスベクターの産生に関係する要因、Somatic Cell Mol
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遺伝子伝達および発現のための改良レトロウィルスベクター、Biotechniques 1
989;7:980−986)。
関心とする遺伝子
関心とする遺伝子は関心とするいかなる遺伝子でもよい。関心とする遺伝子か
らの遺伝子産物はタンパク質または核酸配列、例えばセンスまたはアンチセンス
分子などを含む。
例えば関心とする遺伝子は、サイトカイン類、酵素、抗生物質、毒素、代謝拮
抗薬およびそれらの前駆体からなる群から選択されるタンパク質をコード化する
ことができる。適したサイトカイン類はインターフェロン、GM−CSFインタ
ーロイキン、腫瘍壊死因子(TNF)を含む(ウォング(Wong G.)ら、ヒトGM
−CSF:相補的DNAの分子クローニングならびに天然および組換えタンパク
質の精製、Science 1985;228:810);WO9323034(199
3);ホリスバーガー(Horisberger MA)ら、インターフェロン−およびウィル
ス誘起性ヒトMxタンパク質のためのcDNAのクローニングおよび配列分析は
、それらが推定的グアニンヌクレオチド結合部位を含むことを明らかにする:対
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来FL5.12細胞系におけるIL−3によるインターロイキン−3(IL−3
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スーパー抗原活性化T細胞における分泌、接着分子を介するコスティミュラト
リー・シグナルの明白な必要性、Journal of Immunology、1994年2月15
日、152(4):1641−52;マルチネツ(Martinez OM)ら、 肝臓同
種移植レシピエントおよび in vitro における同種抗原に反応したIL−2およ
びIL−5遺伝子発現、Transplantation、1993年5月、55(5):11
59−66;パング(Pang G.)ら、 リポ多糖、IL−1アルファおよびTN
F−アルファで刺激したヒト十二指腸線維芽細胞におけるGM−CSF、IL−
1アルファ、IL−1ベータ、IL−6、IL−8、IL−10、ICAM−1
およびVCAM−1遺伝子発現ならびにサイトカイン産生、Clinical and Exper imental Immunology
、1994年6月、96(3):437−4
3;ウリッヒ(Ulich TR)ら、 in vivo における内毒素誘起性サイトカイン遺
伝子発現.III.IL−6 mRNAおよび血清タンパク質発現およびIL−6の
in vivo 血液学的影響、Journal of Immunology、1991年4月1日、146
(7):2316−23;マウヴィール(Mauviel A)ら、 ロイコレギュリン
、T細胞由来サイトカイン、はヒト皮膚線維芽細胞におけるIL−8遺伝子発現
および分泌をおこす、ヒト皮膚線維芽細胞におけるデモンストレーションおよび
分泌、高められたNF−カッパB結合およびNF−カッパB駆動プロモーター活
性のデモンストレーション、Journal of Immunology、1992年11月1日、
149(9):2969−76)。
増殖因子はトランスフォーミング成長因子−α(TGFα)およびβ(TGF
β)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、上皮
細胞成長因子(EGF)、インスリン様成長因子(IGF)、サイトカインコロ
ニー刺激因子を含む(シマネ(Shimane M)ら、 G−CSF誘導性遺伝子cD
NAの分子クローニングおよび特徴づけ、Biochemical and Biophvsical Resear ch Communications
、1994年2月28日、199(1):26−32;ケイ
(Kay AB)ら、アトピー患者におけるアレルゲン誘起性後期皮膚反応における、
サイトカイン遺伝子クラスター、インターロイキン3(IL−3)、IL−4、
IL−5、および顆粒球/マクロファージ コロニー刺激因子のメッセンジャー
RNA発現、Journal of Experimental Medicine、1991年3月1日、173
(3):775−8;デウィット(de Wit H.)ら、単球細胞におけるM−CS
FおよびIL−6遺伝子発現の示差的調節、Britis
h Journal of Haematology
、1994年2月、86(2):259−64;スプ
レッヘル(Sprecher E.)ら、単純ヘルペスウィルス-1での感染中のケラチノサ
イト、ランゲルハンス細胞および腹腔浸出細胞におけるポリメラーゼ連鎖反応法
によるIL−1ベータ、TNF−アルファ、およびIL−6遺伝子転写の検出、Archives of Viorology
、1992、126(1−4):253−69)。
適切な酵素には大腸菌(E.coli)からのチミジンキナーゼ(TK)、キサンチ
ン−グアニン ホスホリボシルトランスフェラーゼ(GPT)遺伝子、または大
腸菌シトシンデアミナーゼ(CD)、またはヒポキサンチン ホスホリボシルト
ランスフェラーゼ(HPRT)が含まれる。
適切な癌遺伝子および腫瘍抑制遺伝子には、neu、EGF、ras(H、K
、およびN rasを含む)、p53、網膜芽細胞腫瘍抑制遺伝子(Rb)、ウ
ィルムス(Wilm's)腫瘍遺伝子プロダクト、ホスホチロシン ホスファターゼ(P
TPase)、およびnm23を含む。適切な毒素はシュードモナス(Pseudomo nas
)外毒素AおよびS;ジフテリア毒素(DT);大腸菌LT毒素、シガ毒素
、シガ様毒素(SLT−1、−2)、リシン、アブリン、サポリン、およびゲロ
ニンなどである。
可溶性CTLA4分子の投与
本発明の分子の最も有効な投与形態および投与量は、治療すべき組織の位置ま
たは疾病、医学的障害の重症度および経過、対象の健康および治療に対する反応
、ならびに治療医の判断によって決まる。従って、その分子の投与量は個々の対
象で測定して決められるべ
きである。
フライライヒ(Freireich E.J.)らは、種々の大きさおよび種々の種の動物お
よび人と投与量との関係をmg/m2表面積であらわして報告した(Cancer Chem
other.,Rep.50(4):219−244(1966))。投与量を調節して腫
瘍細胞増殖阻害および死滅反応を最適化する、例えば投与量を1日ベースで分割
し、投与する、または投与量を状況に応じて比例的に減少させる(例えば1日に
数回に分けた投与量を投与し、または特殊の治療状況に応じて比例的に減らした
)。
本発明の実施によると、対象の治療に有効な量は約0.1〜約10mg/kg(
対象の体重)とすることができる。また、有効な量は約1〜10mg/対象の体
重kgとすることができる。
治癒に導くための本発明の組成物の投与量がスケジュールの最適化でさらに減
るかも知れないことは明らかであろう。
可溶性CTLA4分子
可溶性CTLA4の例は、CTLA4Ig、活性化B細胞上に発現されたB7抗
原に結合するCTLA4分子のあらゆる機能性部分を含む。例えば、機能性CT
LA4分子は、位置1のアラニンで始まり、位置187のアスパラギンで終わる
配列番号14に示される187個のアミノ酸を含む。別法として、機能性CTL
A4分子は、CTLA4タンパク質の細胞外ドメインのアミノ酸配列の位置1の
アラニンで始まり、位置125のアスパラギンで終わる配列番号13に示される
125個のアミノ酸を含む。
機能性CTLA4分子は、例えば免疫グロブリン分子の1部のよ
うな、非- CTLA4タンパク質配列に結合してもよい。可溶性CTLA4分子
の例は可溶性CTLA4−p97分子;可溶性CTLA4−env gp120
分子;可溶性CTLA4−E7分子;および可溶性CTLA4−ova分子を含
む。
一実施態様において、可溶性CTLA4分子はCTLA4Ig 融合タンパク質
に相当するアミノ酸配列を有するCTLA4Igであり、1991年5月31日に
ブダペスト条約の規定に基づいてアメリカンタイプカルチャーコレクション(A
TCC)(ロックヴィル、メリーランド)に寄託され、ATCC受託番号686
29を与えられた。
発明の利点: 遺伝子治療は今世紀および次世紀におけるヒトの健康に多大の影
響を有するであろう分子医学の新規の形態である。遺伝子治療は先天性遺伝病、
例えば膿胞性線維症、血友病、家族性高コレステロール血症、癌、AIDS、パ
ーキンソン病、アルツハイマー病、および感染症を治す可能性を有する。
組換えウィルスベクターは遺伝子治療のための魅力的ビークルである、なぜな
らばそれらは遺伝子を効率よく体組織に伝達するからである。しかし出願人の発
明以前には、臨床的遺伝子治療におけるそれらの使用には制限があった、なぜな
らば導入遺伝子発現は時の経過につれて一過性になるからである。さらに、ウィ
ルスの第2のまたはその後の投与によって一過性発現を回避しようとすると、遺
伝子伝達は著しく低下する。
出願人の発見は、in vivo または ex vivoにおける細胞への遺伝子伝達の前、
後、および最中に可溶性CTLA4Igを投与すると、
対象において長期の免疫抑制をおこさずに組換えウィルスベクターによる持続的
遺伝子発現がおきることを見いだしたことによる。
次に記す例は、本発明を説明し、熟練せる当業者によるその作成および使用に
役立つために示される。例は本発明の範囲をそれに制限するものでは決してない
。
例1
本実験は、可溶性CTLA4Ig分子の使用がアデノウィルス仲介性遺伝子伝達
後の遺伝子発現を延長することを確認した。
すべての動物試験はワシントン大学によって示された研究所ガイドラインに従
って行われた。全動物は特殊な微生物の存在しない(SPF)施設で飼育された
。
マウス(例えばC3H/HeJマウス)に、DMEMメジウム(Hyclone)中
100μlに希釈した組換えアデノウィルスを尾静脈注射によって注入した。こ
れまでの研究は、肝細胞の80%〜90%がこの量のアデノウィルスで形質導入
されることを示している(リー(Q.Li)、ケイ(M.A.Kay)、ファインゴールド
(M.Finegold)、ストラトフォード- ペリコーデット(L.D.Stratford-Perricau
det)、ウー(S.L.C.Woo)、(1993)Human Gene Therapy、4、403)。
マウスmuCTLA4Ig、またはL6(プラセボ)をパイロジェンを含まない
生理食塩水で希釈し、200〜400μlを腹腔内(IP)注射で投与した。血
液試料はレトロオービタル法によって得た。動物を頸部をひねって殺した。
組換えE1欠乏Ad5ベクター(Ad/RSVhAAT)の作成、産生および
精製は記載されているように行った(ケイ(Kay)ら、Hepatology 21:815
−819(1995))。L6対照およびmuCTLA4Ig実験動物に単一組換え
ウィルス標本を用いた。すべてのウィルス標本には記載の混入野生型ウィルスは
存在しないことが判明した(バール(D.Barr)ら、(1995)、Gene Therapy
、2:151−155)。
C3H/HeJマウスにAd/RSVhAATによって、形質導入肝細胞にヒ
ト アルファ1−アンチトリプシンを発現させるアデノウィルスを注入し、mu
CTLA4IgまたはL6(対照モノクローナル抗体)で処置した。
個々の動物における遺伝子発現の持続性を定期的血清中ヒト アルファ1−ア
ンチトリプシン(hAAT)定量によって測定した。
図1において、齢6〜8週間の雌C3H/HeJマウス16匹にAd/RSV
hAATアデノウィルス5×109pfuを0日目に尾静脈から注射した。パネ
ルAおよびCにおいて、動物は、マウスCTLA4Ig(IP)200μgを2日
目(n=4、黒丸)または0、2、10日目(n=4、白丸)に受けた。対照動
物は等量の対照抗体(L6)を2日目(n=4)(黒四角)または0、2、10
日目(白四角)(n=4)に受けた。
図1のパネルBおよびDは反復実験である。マウス10匹にAd/RSVhA
ATアデノウィルスを0日目に注射した。動物は可溶性CTLA4Ig(n=5、
白丸)またはL6(n=5、白四角)を0、2、10日目に受けた。定期的血清
試料で(A)hAAT、(B)hAAT(ケイら、1995、同上)または(C
)CTLA4Ig、(D)CTLA4Ig をELISA法によって分析した。各線
は個々の動物をあらわす。ELISAアッセイは各測定で少なくとも2回は行っ
た。
マウスCTLA4Ig血清濃度をELISA法で測定した。ヒトB7- 1- Ig
(pH9.6炭酸水素緩衝液50μl中50ng)を96ウェルのイムロン−2
(Immulon-2)プレート上に塗付した。洗って、ブロックしたウェルに希釈血清試
料または希釈標準muCT
LA4Igを接種した。結合および洗浄後、ヤギ抗マウスIgG2a Suouthern Bio
technology、Birmingham,AL)で標識したホースラディッシュペルオキシダーゼ
50μl(1/5000希釈)を室温で1時間インキュベートした。洗浄後、ホ
ースラディッシュペルオキシダーゼを3,3’,5,5’テトラメチルベンチジ
ン(Sigma)を用いて検出した。1N硫酸50μlを用いて反応を停止した。4
50nmの吸光度(標準630nm)をミクロタイター プレート リーダー(
Biorad)を用いて測定し、濃度は標準曲線の線型回帰を用いて測定した。感度は
0.1ng/mlであった。
図2は、Ad/RSVhAAT投与後4日目(図2、パネルA)、11日目(
図2、パネルB)または18日目(図2、パネルC)の脾臓増殖検定結果である
。脾細胞は低張性溶解によって分離し、平底96ウェル・プレートで記載のよう
に培養した(ルイス(D.B.Lewis)ら、(1991)J.Exp.Med. 173、89)。
図2A〜Cでは、3×106/ml濃度の細胞を種々濃度のUV不活性化Ad
/RSVhAATとともに記載のようにインキュベートした。リンホカイン検定
のために72時間目に上澄液を収穫し、または細胞を3H−チミジンで標識化し
、24時間後に収穫して増殖を測定した。
リンホカイン検定は、モノクローナル抗体R46A2およびXMG1.2をそ
れぞれ捕獲試薬および検出試薬として使用してマウスインターフェロン−γをE
LISA法により検出することを含む。マウスIL−4はファーミンゲン(Phar
mingen)からのモノクローナル抗体ペアを用いてELISA法によって測定した
。組換えマウスIFN- γおよびIL−4を各検定の標準として用いた。
図3において、動物に0日目にAd/RSVhAAT 5×109pfuを注入
した。動物を0、2、10日目にL6(パネルbおよびe)またはmuCTLA
4Ig(パネルcおよびf)で処置した。正常動物からの肝臓を平行して処理した
(パネルaおよびd)。18日目に殺した動物からの凍結肝切片を抗CD3(パ
ネルa〜c)または抗CD8(パネルd〜f)抗体とともにインキュベートした
。ヤギホースラディッシュペルオキシダーゼコンジュゲート抗ハムスター(パネ
ルa〜c)または抗ラット(パネルd〜f)抗体で染色した。倍率は50×であ
る。
免疫組織化学的染色を、OCT中で凍結し、切片にした肝組織で行った。次に
示す抗体を用いた:CD3−ビオチン(1452C11、Pharmingen,San Dieg
o,CA)、CD4(GK1.5、アメリカンタイプカルチャーコレクション(A
TCC))、CD8(53−6.7 ATCC)、NK(ウサギ抗-asialo GM
1.Dako)、抗- クラスI- ビオチン(抗−H2KK、11-4.1 Pharmigen)、抗-
クラスII- ビオチン(抗−I−EK14.4−45、ATCC)。ビオチニル化
抗体はストレプトアビジンホースラディッシュペルオキシダーゼコンジュゲート
で適切に検出された。非特異的染色では対照として、マッチする無関係のラット
またはウサギ抗体を用いた。門炎症のスコアリングシステムはクノーデル(R.G.
Knodell)らの報告に基づく((1981)、Hepatology 1,431)。
8匹の正常動物を対照として用い、スコア0とした。実験群のスコアは、門炎
症を段階づけるために他の研究者らが用いたスコアリング系に平行する、正常動
物に比較して0から4のスケールを用いる相対的染色に基づいてスコアをつけた
(ヤングら(1994)免
疫、同上)。各肝切片の2つのスコアの平均値をまとめた。
2匹のマウス、#14および#23は多分Ad/RSVhAATウィルスの不
十分な注入のために、血清hAATが50ng/ml以下であった。括弧内の数
字は動物14および23を除いた平均値である(NA=得られず)。使用した動
物は図2に示し、ここに説明したものである。
遺伝子発現は、CTLA4Ig 投与動物では対照と比較して著しく延びた(図
1A〜D)。すべてのL6対照動物(n=8)はアデノウィルス投与後2〜7週
間に血清hAAT濃度が100分の1以下に減少し(図1A)、バックグラウン
ドより高くない数値になった;これらのデータはこれまでの研究(バール、同上
)に見られるものと類似している。muCTLA4Ig処置動物はすべて、少なく
とも14週間は高いhAAT発現レベルを維持し(n=8)、8匹のマウス中6
匹は実験期間である5カ月より長期にわたって高いhAATレベルの発現を示し
た(図1A)。muCTLA4Ig 各200μgを1回投与したマウスと3回投
与したマウスとではhAATの持続性に差はなかった。
図1Bに示す第2の実験組も同様な結果を与えた。アデノウィルス仲介性遺伝
子発現期間が、抗原特異性免疫が欠如している先天性(congenic)C3H scid
マウスを用いた以前の研究に見られたもの(バール、同上)、およびT−細胞欠
乏ヌードマウスにおけるアデノウィルス形質導入ベーターガラクトシダーゼ発現
の持続期間と同様であることが際立っていた(ヤング(Y.Yang)、エルトル(H.
C.J.Ertl)、ウイルソン(J.M.Wilson)(1994)Immunity 1、433;エ
ングルハルト(J.F.Englehardt)、イェー(X.Ye)、
ドランツ(B.Doranz)、ウイルソン(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91
、6196)。
長期アデノウィルス仲介性遺伝子発現は持続的免疫抑制の結果ではなかった。
muCTLA4Igの血清濃度は40〜70日の期間に約100μg/mlから1
0ng/ml以下に劇的に低下した(図1CおよびD)。CTLA4Igによる上
首尾の免疫抑制は、1μg/mlより大きい血清濃度に関係する。
muCTLA4Ig処置動物は異なる抗原に対する免疫反応を高めることができ
た。これを確認するために、muCTLA4IgおよびL6処置動物を最初のアデ
ノウィルス注入後10週目に新抗原、バクテリオファージφX174、で攻撃し
た(ノノヤマ(S.Nonoyama)、スミス(F.O.Smith)、ベルンスタイン(I.D.Berns
tein)、オクス(H.D.Ochs)(1993)J.Immunology、150、3817)。
ノノヤマら(同上)が報告したように、バクテリオファージφX174を増殖
させ、収穫し、精製した。アデノウィルス形質導入後10および14週目に2.
5×108pfu/200μlを静脈内注入した。抗体タイターを中和するファ
ージを、記載のように、第1回のファージ注入後8週間にわたって毎週測定した
。タイターはKvまたは時間の経過につれてのファージ不活性化率としてあらわ
した。muCTLA4IgおよびL6処置マウスでは、第1回後2週間の平均Kv
はそれぞれ2.2(範囲2.0〜14)および3.9(範囲1.5〜33)であ
った。第2回のファージ注入後2週間目にはmuCTLA4Ig処置動物の平均K
vは49(範囲3.6〜1043)およびL6処置動物では98(範囲15〜1
469)であ
った。この時点に、IgG抗体のパーセンテージはmuCTLA4Ig処置マウス
では70%から100%まで変化し、L6処置マウスでは50%から100%ま
で変化した。
バクテリオファージφX174に反応した増幅およびIgMからIgGへのア
イソタイプ・スイッチを含む十分な抗体産生のためには、T細胞の助けが必要で
ある(ノノヤマら(1993)J.Exp.Med. 178,1097)。T細胞依存性B細胞反応は
CTLA4Igによってブロックされるから、これは残留muCTLA4Igの高感
度の尺度となる(フィンチ(B.K.Finch)、リンスリー(P.S.Linsley)、および
ウォフシー(D.Wofsy)(1994)Science 265、1225;リンスリーお
よびレドベター(J.A.Ledbetter)(1993)Ann.Rev.Immunol. 11、191
)。
muCTLA4IgおよびL6処置動物はすべて、第1および第2のバクテリオ
ファージφX174免疫感作に反応して抗体を中和する正常量のIgMおよびI
gGを産生し、生物学的に活性なmuCTLA4Igが存在しないことを示唆した
(ノノヤマ、スミス、ベルンスタイン、オクス(1993)J.Immunol. 150
、3817)。
muCTLA4Ig処置動物からのhAAT遺伝子発現の長期持続性は、T−細
胞のコースティミュラトリー活性化の阻害が、ウィルス抗原に対する細胞免疫の
阻害をおこすことを示唆した。アデノウィルス抗原のT細胞免疫性認識がCTL
A4Ig治療で阻害されたかどうかを確認するために、Ad/RSVhAATで形
質導入し、muCTLA4IgまたはL6で処置した動物で脾細胞増殖検定を行っ
た。
アデノウィルス注入の11日または18日後にマウスを殺し、単離した脾細胞
を種々濃度のAd/RSVhAATで刺激した。アデノウィルス プライムT細
胞による細胞増殖を72時間目に3H−チミジン取り込みによって検定した(図
2)。どちらの群でも4日目に最小の3H−チミジン取り込みがあった。
11および18日目に、用量依存的、抗原誘起性の脾細胞増殖がL6処置対照
で検出されたが、CTLA4Ig処置動物ではそれはないかまたは著しく少なかっ
た(図2BおよびC)。muCTLA4Ig処置マウスにおける反応は、アデノウ
ィルスを受けなかったナイーブな動物に認められるものと同様であった。
muCTLA4Ig処置マウスにおける反応の減損は特異的であったが、なぜな
らば抗−CD3刺激に反応した増殖はmuCTLA4Ig処置、L6処置およびナ
イーブ対照マウスで同様だったからである。
ヤングらは、アデノウィルスベクター形質導入肝細胞に対する免疫反応がタイ
プ1またはTH1リンホカイン反応の特徴を有することを見いだした、すなわち
インターフェロン−γおよびIL−2は抗原で刺激された脾細胞によって産生さ
れたが、IL−4は産生されなかった(ヤング、エルトル、ウィルソン(199
4)Immunity1、433)。予備的データーは、インターフェロン−γが9匹の
L6処置マウスのうち5匹からのAd/RSVhAAT刺激培養物において誘導
された(>20ng/ml)が、IL−4は検出されなかった(<50pg/m
l)という点でこれと一致する。インターフェロン−γもIL−4もmuCTL
A4Igマウスまたはナイーブ対照マウスからの抗原刺激−培養物では誘導されな
かった。
In vitro検定の結果と一致して、アデノウィルス形質導入肝細胞に対するT細
胞反応は in vivoで著しく減少した。白血球増殖研究と平行して行われた検定に
おいて、正常対照動物および、Ad/RSVhAATを4、11および18日前
に投与したマウスからの肝切片を検査した。
細胞浸潤の性質を調べるために、切片を、すべてのT細胞を検出するCD3に
対するモノクローナル抗体、CD4およびCD8T細胞サブセット、クラスIお
よびクラスII MHCに反応するモノクローナル抗体、ならびにNK細胞に対す
るポリクローナル抗血清と反応させた。
CD3およびCD8に対する抗体と反応した代表的切片を図3に示し、全結果
を表1にまとめる。4日後、どの群にも細胞浸潤はほとんどまたは全くなかった
。しかし11日および18日後にはL6動物にT細胞の確実な(最初は門周囲の
)浸潤があったが、muCTLA4Ig 投与マウスではほとんどまたは全く浸潤
はなかった。
T細胞は主としてCD8サブセットであった。クラスII MHC発現の誘発も
muCTLA4Ig処置群ではL6処置群に比較して減少したが、それらの結果は
T細胞マーカーの場合より変動した。どちらの群にもNK細胞浸潤はほとんどな
かった。アデノウィルスで形質導入した動物ではそれらがCTLA4IgまたはL
6を受けたことには関係なく、クラスIMHCの肝細胞染色が増加した。
細胞免疫はアデノウィルス形質導入遺伝子発現の持続期間を制限すると考えら
れる一方、抗体仲介性液性免疫は二次的アデノウィルス形質導入を制限すると考
えられる(ヤングら、(1994)Proc.Natl.Acad.Sci. 、USA 91、4407
;ヤング、エルトル、ウイ
ルソン(1994)Immunity 1、433;スミスら(1993)Nature Geneti cs
5、397;バールら、同上)。
抗体産生を図1Aに示されるマウスで調べたとき、muCTLA4Igはアデノ
ウィルスベクターに対する抗体の産生を著しく阻止するが、除去はしないことが
判明した。
表2に示すように、すべてのL6処置動物には注入後4週間までにアデノウィ
ルスに対する中和抗体が発生し、一方、muCTLA4Ig処置動物ではその反応
は遅れ、減退した。それにもかかわらずCTLA4Ig処置マウス2匹には注入後
10週間目までに16以上の中和タイターが発生し、検出可能な中和抗体が何も
発生しなかったマウスはたった2匹であった。
アデノウィルスに対する中和−およびアイソタイプ特異的抗体を図1Aおよび
Cで研究したマウスで調べた。中和抗体およびIgG2aタイターをメジアン逆
数(1/X)タイターとして列挙する。各群の範囲は括弧内に示す(nd=測定
せず)。
中和抗体タイター測定値を(バール、同上)から変形した。つまり、5×104
293細胞を96ウェルプレートに培養した。血清試料を55℃で40分間加
熱不活性化し、DMEM/1%コウシ血清中、100ul血清(4倍)希釈液(
最小希釈は1/16)をAd.RSVβgal(3×105pfu)10μlと
37℃で1時間混合した。混合物を293細胞上に60分間重ね合わせ、その後
そのウィルス混合物を新鮮培地に移した。16〜24時間後に細胞をβ−gal
で染色し、タイターを、293細胞の染色を75%阻害する希釈と決めた。この
クリテリアにより、アデノウィルスを投与したすべてのL6対照は1/32以上
の中和タイターを有し、一
方muCTLA4Igマウスではたった2匹だけが1/16以上の中和タイターを
示した。2匹のmuCTLA4Ig処置動物からの血清は1/16希釈ではβga
l染色を阻害しなかったが、一方これら動物の4匹からの血清は1/16血清希
釈でβgal染色を75%未満に阻害し;これは低タイター アデノウィルス中
和抗体の存在を示唆した。ミクロタイタープレート(Dynatech Immunolon)のウ
ェルに炭酸塩緩衝液(pH9.6)中のUV不活性化Ad/RSVhAATの適
量(50ng/ウェル)を塗付することによって、IgM、IgG1およびIg
G2a抗体を測定した。プレートを遮断した後、それらを血清試料(IgG1お
よびIgG2aの場合は1:100〜1:6400に希釈、IgMの場合は1:
100〜1:800に希釈)とともに引き続きインキュベートし、その後マウス
IgG1、IgG2a(Southern Biotechnology)またはIgM(Tago)に対す
るホースラディッシュペルオキシダーゼコンジュゲートヤギ抗体で検出した。ナ
イーブ対照からの血清で得られた光学密度より>0.100(IgG1およびI
gG2a)または>0.050(IgM)高い光学密度を与えた最も低い希釈を
タイターと決めた。
6および10週目にアイソタイプ−特異的ELISAによって検出された実質
上すべてのウィルス特異的抗体がIgG2aアイソタイプのものであった。8匹
の各L6処置マウスにIgG2a抗体の高いタイターが発生した。IgG2a反
応はmuCTLA4Ig処置マウスでは著しく減少したが、最後には8匹のうち6
匹に検出可能な抗体タイター(≧100)が発生した。6および10週試料で、
1匹のL6処置マウスには測定可能なIgG1アイソタイプ抗体(
1:400)が、1匹のmuCTLA4Ig処置マウスには測定可能なIgM抗体
(1:400)が検出された。IgG2aアイソタイプが優勢であることは、T
細胞によるタイプIまたはTH1リンホカイン反応と一致する、なぜならばこの
ようなT細胞はインターフェロン−γを産生し、それはこのアイソタイプの産生
を促進し、一方IgG1産生を阻害するからであり、一方タイプIIまたはTH2
T細胞によって産生するIL−4は反対の効果を有する(ポール(W.A.Paul)お
よびセダー(W.E.Seder)(1994)Cell 76、241;ヌグエン(L.Nguyen
)、クナイプ(D.M.Knipe)、フィンバーグ(R.W.Finberg)(1994)J.Immu nol.
152、478);これらの結果は上記のリンホカイン結果と一致する。
マウスの両群におけるIgG2a抗体の優勢は―muCTLA4Ig処置群の方
においてはるかに低い量であるとはいえ―、この作用物質が、発生した液性免疫
反応の性質を著しく弱めるが、その性質を変えなかったことを示唆する。
muCTLA4Ig処置マウスにおける低レベルの抗体が、二次的アデノウィル
スベクターによる遺伝子発現を十分阻止するかどうかを確認するために、図1に
示したものと似た別の実験を行った。Ad/RSVhAATの第1回目の投与の
9週間後(そのときmuCTLA4Igはもう検出されなかった)、動物にイヌ因
子IXを発現するAd.RSVcFIXを注入した(ケイ(M.A.Kay)ら、(1
994)Pro.Natl.Acad.Sci.,USA 91、2353);muCTLA4Igの2回
目の処置は行う場合もあったし、行わない場合もあった。
イヌ因子IXを発現したマウスは1匹もいなかった。これは恐ら
く、最初の遺伝子産物hAATの連続的発現にもかかわらず、muCTLA4Ig
処置マウスに存在する低レベルの抗体によるアデノウィルスベクターの中和を反
映するものであろう。
この研究からの結果は、全身的ベクター投与時周辺の短期間におけるmuCT
LA4Igの投与が、持続性アデノウィルス仲介性遺伝子発現に導いたことを示す
。muCTLA4Igによる一過性免疫抑制は in vivoでは主要な標的器官である
肝臓へのT細胞浸潤を、 in vitro 検定では抗原誘起性T細胞反応を、著しく減
少させた。これらのT細胞反応性に与える影響が原因となって、対照で認められ
た免疫仲介性クリアランスと比較して長期の、アデノウィルス形質導入肝細胞の
持続性をおこすらしい。
これは in vivoにおけるアデノウィルス仲介性遺伝子発現の本質的な治療的増
強の最初の報告である。これらの結果は、肝臓からのアデノウィルス仲介性遺伝
子発現の、シクロスポリンAの連日投与で得られる最小の増強(エングルハルト
、イェー、ドランツ、ウィルソン(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 91、
6196)とは明らかに異なる。
これらの結果は、ヌード、scidまたはRAG2突然変異によるT細胞また
はTおよびB細胞機能の持続的遺伝的欠陥で得られたものと非常に密接に平行し
ている(ヤングら(1994)PNAS;ヤングら(1994)Immunity;バー
ルら、同上)。彼らはmuCTLA4Ig処置マウスと同様に、形質導入遺伝子を
観察期間の5〜6カ月以上発現し続けた。注目すべきことに、長期間のアデノウ
ィルス仲介性遺伝子発現を実現するために必要なmuCTLA4Ig誘起性免疫抑
制の一過性の性質は、これらの遺伝的欠陥によっても
たらされる連続的免疫抑制とは対照的であり、持続的遺伝子発現が長期免疫抑制
なしに、したがってその結果としての不都合な副作用もなしに達せられることを
示唆している。形質導入遺伝子の長期発現に十分な阻害にもかかわらず、二次的
な遺伝子導入は不可能であった。
これは低レベルの残留循環中和抗体による二次的ベクターの効率的中和を反映
するようである。多分より抗原性の小さいアデノウィルスベクターと組み合わせ
て行われるその他の免疫学的治療(エングルハルトら、同上)が、真の抗原耐性
の発生のためには必要であるかも知れず、この抗原耐性によって反復性全身アデ
ノウィルスデリバリーは可能となる。
肝臓は正常状態では沈黙の組織であり、非染色体、非統合アデノウィルスゲノ
ムがどの程度長く免疫破壊なしに肝細胞またはその他の組織に存続するかを正確
に予想することはできない。ここに記載したもののような免疫治療を受けている
免疫コンピテント動物と免疫不全動物とのアデノウィルス仲介性遺伝子発現の持
続性を比較する研究は、ゲノムターンオーバーの非免疫メカニズムと比べて、遺
伝子発現の持続性に対する免疫系によって課される制限を確認するために役立つ
であろう。本研究の結果は、in vivo における長期間の遺伝子発現のためにアデ
ノウィルスを用いることに向けた大きな前進であって、かつ、将来の臨床的遺伝
子治療試験を開発するために有用であろう。
例2CTLA4Igアデノウィルスの調製
:
HindIII/XbalヒトおよびマウスCTLA4Igフラグメントをきれい
に精製した遺伝子を、左末端アデノウィルスプラスミドAd/RSV−BPA(
PXCJL.1由来)のBPA(ウシポリアデニル化シグナル)とRSV(ラウ
ス肉腫ウィルスLTR)プロモーターとの間のHindIII/Xbal部位に、直
接クローニングすることによって、構築物Ad/RSV−CTLA4Ig(mu)
−BPAおよびAd/RSV−CTLA4Ig(hu)−BPAを調製した。その
後これら2つの左末端アデノウィルスプラスミドの各々を、標準的リン酸カルシ
ウム形質導入プロトコルを用いて右末端アデノウィルスプラスミドpBHG10
と同時トランスフェクトし、14〜18日後に組換えアデノウィルスを救出した
。アデノウィルスをそれからプラーク精製し、ELISA検定によってヒトおよ
びマウスCTLA4Igタンパク質を発現することが判明した各々のクローンを拡
大させ、2つの塩化セシウム勾配で精製した。
ビシストロニックHAAT(ヒト アルファ- 1- アンチトリプシンタンパク
質)/ヒトおよびマウスCTLA4Ig左末端ベクターは、精製されT4DNAポ
リメラーゼで研磨された(polished)HindIII/Xbalヒトおよびマウス
CTLA4Igフラグメントを、RSV−HAAT−POLIO(SMAI)−B
PAを含むpKSプラスミド内のBPAとポリオウィルス内部リボソーム結合配
列(POLIO)との間のユニークSmal部位に、クローン化することによっ
て調製した。適切な方向でCTLA4フラグメントを含むことが判明した組換え
体をXholで消化し、RSV−HAA
T−BPA−CTLA4Ig- BPA精製フラグメントをpXCJL.1左末端ア
デノウィルスプラスミド(Ad/RSV左末端プラスミドと同じ骨格)のユニー
クXhol部位にクローン化した。組換えウィルスは現在上記のように救出され
る。
4×109PFUのAd/RSV−CTLA4Ig(mu)−BPA組換えアデ
ノウィルスを3匹のC3Hマウスの尾静脈に注射し、注射後3週間目には最大血
清レベルの2369、2168および1762ng/ml血漿を産生した。Ad
/RSV−CTLA4Ig(hu)−BPAアデノウィルスを数匹のC3Hマウス
に注射し、CTLA4Ig(hu)の血漿レベルを評価した。
例3
アデノウィルスベクターに向けられる液性免疫はCTLA4Ig投与によって鈍
くなるが、消失はしない。そのため、我々はCTLA4Ig を抗CD40リガン
ド(MR1)とともに用い、遺伝子発現を延長し、二次的遺伝子伝達を可能にし
た。
動物にアデノウィルス(Ad/RSV−hAAT、5×109pfu)を0日
目に投与し、CTLA4Ig(200μg)を0、2、10日目に投与し、MR1
(250μg)を0、2、4、および6日目に投与した。L6(プラセボ)をパ
イロジェンを含まない生理食塩水で希釈し、200〜400μlを腹腔内投与し
た。
全動物は持続的遺伝子発現を示した。L6対照のすべてにおいて2〜6週間ま
でに遺伝子発現は0になった。動物の半数は検出可能な中和抗体をもたない。同
様に、動物の半数は2回目に組換え体アデノウィルスベクター(Ad.RSV−
cFIX)で形質導入する
ことができた。そこで、組み合わせたMRI/CTLA4Ig治療は遺伝子発現を
延長し、第2の遺伝子伝達を可能にすることができる。後者は液性免疫のブロッ
クの結果である。
表3に、少なくとも動物の半数で第2回目のウィルス投与を行い、アデノウィ
ルス遺伝子伝達を成功させることができることを示すデータを示した。
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(51)Int.Cl.6 識別記号 FI
// C12P 21/08 C12P 21/08
(81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE,
DK,ES,FI,FR,GB,GR,IE,IT,L
U,MC,NL,PT,SE),CA,JP,MX
(72)発明者 リンスリー、ピーター エス
アメリカ合衆国 98119 ワシントン州
シアトル ナインス アヴェニュー ウェ
スト 2430
(72)発明者 ケイ、マーク エイ
アメリカ合衆国 98115 ワシントン州
シアトル ナインティーンス アヴェニュ
ー ノースイースト 8032
(72)発明者 ウィルソン、クリストファー ビー
アメリカ合衆国 98109 ワシントン州
シアトル フォーティーサード アヴェニ
ュー ノースイースト 3832
(72)発明者 レドベター、ジュフリー
アメリカ合衆国 98117 ワシントン州
シアトル ノースウェスト ワンハンドレ
ッドサーティーンス プレイス 306
(72)発明者 アルッフォ、アレハンドロ エイ
アメリカ合衆国 98020 ワシントン州
エドモンズ スプルース 1012
(72)発明者 ホレンバウ、ダイアン エル
アメリカ合衆国 98117 ワシントン州
シアトル トゥエルフス ノースウェスト
9612