【発明の詳細な説明】
放射性核種を用いた放射線検知法および放射線療法のための
ペプチド類のチオール化
引用する関連出願
本出願は1994年6月3日出願のGovindanらの米国出願番号第08/25
3,772号(以下、「’772出願」と称す)の一部継続出願であって、引用
することによりこの「’772出願」を本明細書の一部をなすものとする。
技術分野
本発明は、単一のバイアル中で、ペプチド類を第三級チオールを含有するキレ
ート化剤によって誘導体化し、このペプチド類をスルフヒドリル基と強く結合す
る放射性金属イオンにより標識する方法とキットに関する。保護されているチオ
ール含有部分をペプチドに結合させた上で、この誘導体を脱保護して、ジスルフ
ィド結合を開裂することなく、遊離スルフヒドリル基を発生させる。その後、こ
の誘導体を放射性核種により標識することができる。
背景技術
例えば、過テクネチウム酸塩(pertechnetate)由来のTc−99、過レニウ
ム酸塩(perrhenate)由来のRe−196とRe−188イオン類、Cu−67
イオン類、Hg−197イオン類およびBi−212イオン類を始めとするある
種の放射性金属類は、硫黄リガンドと強く結合することで知られている。これら
放射性金属のいくつかについては、タンパク類、特に抗体あるいは抗体フラグメ
ントとの結合が行われてきた。テクネチウム−99mは、シンチグラフィ・イメ
ージング用放射性核種として理想的な核エネルギ−特性を持っている。テクネチ
ウム−99mの光子エネルギ−は一個当たり140KeV、半減期は約6時間で
、99
Mo−99mTc発生剤から容易に作ることが出来る。
周期表でテクネチウムの直下にある元素はレニウムであり、これも同様な化学
特性を持ち、同様な技術を用いてこれを標識としてタンパクに付けることが出来
る。レニウムには約34種のアイソト−プがあり、その中の2種、詳しくはレニ
ウム−186(t1/2=90時間、ガンマ137KeV、ベ−タ1.07、0.9
3MeV)、およびレニウム−188(t1/2=17時間、ガンマ155KeV、
ベ−タ2.12MeV)は、ペプチドを標的に輸送する方法を用いる放射線療法
の重要な候補物質である。
これまで放射性金属標識を直接抗体や抗体フラグメントに付けることが効果を
挙げてきた。これは主として、H鎖を結合するジスルフィド結合が選択的に開裂
されて、放射性金属イオン類のリガンド結合部位としての役割を果たしてきたか
らであった。この方法は特に、FabフラグメントやFab’フラグメントなど
の抗体フラグメント類で著しい効果を収めてきた。標識しようとするペプチドが
ジスルフィド基を含有する場合、このジスルフィド基が完全に維持されて初めて
、ペプチドの結合特性が保持されるので、この場合はジスルフィド基を開裂する
方法ではほどんと有用性がない。
タンパク類を標識する第二の方法は、錯化剤(キレート化剤)をタンパクにカ
ップリングさせ、放射性金属をキレート化合物としてタンパクに結合させる間接
的標識法である。いくつかのキレート化剤では、一端で還元放射性核種と錯体を
作り、他端ではペプチドと反応することが出来る遊離または保護スルフヒドリル
基が含有されている。
これまでに、ソマトスタチン(somatostatin: SS)や血管作用性の腸ペプチ
ド(vasoactive intestinal peptide: VIP)などの生物ペプチド類の受容体
は、ペプチドの正常な生理機能によって体全体の組織ならびに異なるタイプの腫
瘍部位で発現されることが発見されている。 Virgolini et al.,Cancer Res
.,54:690-700,1994;
Virgolini et al.,J Nucl Med,35:97p,1994.従って、SSやVIPなどの小
さなペプチド類を標識することは、腫瘍イメージングの観点から見て好適である
。イメージングを目的とする場合これらの小さなペプチド類とそのアナログ類は
、これまでIn−111やI−123で標識されてきた。アミノ酸ジスルフィド
6個からなるループを持つオクタペプチドであるオクトレオチド(octreotide:
OCT)、およびジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)キレート化剤をIn
−111で標識すると、SS受容体と結合して、小細胞肺癌のイメージングが可
能になることが知られている。Maini et al.,Nucl.Med.Commun.,14:962-968
,1993.また、オクタペプチドのもう一つのチロシン・アナログであるTyr3−
オクトレオチド(T−OCT)は、チロシンにI−123で標識すると内分泌腺
腫瘍と結合することが立証されている。Lamberts,et al.,N.Engl.J.Med.,3
23:1246-1249,1990. Tc−99mで標識したいくつかの合成ペプチドを血栓イ
メージングや感染症イメージング用に実験したが、癌の診断と治療を目的として
Tc−99mやレニウムで標識したSS、OCT、T−OCTおよびVIPは多
くの注目を集めるには至らなかった。SS、OCT、T−OCTおよびVIPの
構造を次に示す。ソマトスタチン(somatostatin)
VIP
オクトレオチド(octreotide)
オクトレオチドのチロシン・アナログ(T-OCT)
SS、OCT、T−OCTとVIPには、すべて遊離スルフヒドリル基が欠け
ている。例えば過テクネチウム酸塩あるいは過レニウム酸塩由来のTcイオンや
Reイオンで効果的に標識するためには、チオール類を配合しなければならない
。しかしながら、これは煩雑である。SSとそのアナログ類にはジスルフィドの
ループが含まれているので、これを壊さないで、受容体とよく結合する立体配座
を維持することが必要不可欠であるからである。このため、ジスルフィド結合を
開裂してチオール類を発生させる反応はすべて排除する。チオール類を使ったり
、発生させただけで、ジスルフィドのループが分子間あるいは分子内で開裂する
可能性がある。
従って、(i)始めからスルフヒドリル基を含有していないペプチドと反応し
、(ii)遊離スルフヒドリル基の発生前または発生後のどちらかで、ジスルフ
ィドを開裂することなくペプチドと複合(conjugate)して、スルフヒドリル含有
リガンドに変換することができるキレート化試薬を使用して、単一の容器内での
標識法であって、複合体(conjugate)に第一スズを配合し、ジスルフィドを開裂
することなく凍結あるいは凍結乾燥して、さらに放射性過テクネチウム酸塩また
は放射性レニウム酸塩と接触させることにより、還元テクネチウムまたは還元レ
ニウムを含んだ安定なキレート化合物を生成することができる、SSやVIPな
どの小さなペプチド類の標識方法を開発する必要がある。また、使用が容易で、
煩雑な合成方法を必要とせず、またペプチド用と還元剤用に複数の容器を必要と
しない、
SSとアナログとVIPの標識付けキットを開発する必要もある。さらにまた、
腫瘍への取り込み量は大きく、腎臓への取り込み量は低く、肝臓から全部が排出
されず、体全体を通して分布が広く、生体内半減期が長くなるようにデザインす
ることができ、さらにイメージングに際しては正確な腫瘍/非腫瘍比率が計算で
きる、放射線イメージング用あるいは放射線療法用ペプチドの標識方法を開発す
る必要がある。
発明の概要
本発明の目的は、合成が容易なキレート化剤を使用し、方法としては過剰の還
元剤の使用を始めとする煩雑な還元方法によることなく、また放射性核種と還元
剤とのインキュベート中にペプチドが時期尚早に開裂することがない、ソマトス
タチンや血管作用性の腸ペプチド(vasoactive intestinal peptide)などの小さ
なペプチドを放射性アイソトープTcまたはReで標識するのに有用な方法とキ
ットを提供することにある。本発明の他の目的は、医師や技術者が容易に使用で
きる、単一のバイアル中でペプチドにTcやReで標識する方法とキットを提供
することにある。本発明のさらに他の目的は、標識したペプチドの腫瘍への取り
込み量が高く、腎臓への取り込み量が低く、肝臓からは全部が排出されず、体全
体を通して分布が広く、生体内半減期を長くするようにデザインすることができ
、さらに、イメージングに際しては正確な腫瘍/非腫瘍比率を得ることができる
、イメージングまたは治療用のペプチドにTcまたはReで標識する方法とキッ
トを提供することにある。
本発明の上記および他の目的に従い、次のステップからなるテクネチウムまた
はレニウムの放射性アイソトープによるペプチドの標識を付ける方法を提供する
。
(a)遊離スルフヒドリル基を含まない小さなペプチドと、アセチルで保護
された第三級チオールを含有し、且つアミン反応性官能基を含有する二官能価の
キ
レート化剤とを反応させて、ペプチト−アセチル−t−チオールを含有する複合
体(conjugate)を生成するステップ。
(b)アセチル−t−チオール基を脱保護して、遊離t−チオール基を発生
させるステップ。および
(c) ペプチド−t−チオール含有複合体に第一スズ塩を混合して、加え
られるべき放射線核種である過テクネチウム酸塩またはレニウム酸塩を還元した
後、還元剤とペプチド−t−チオール含有複合体との混合物を生成するステップ
。
(d)ステップ(c)の混合物を過テクネチウム酸塩または過レニウム酸塩
と反応させ、TcまたはReカチオンをt−チオール基と結合させることにより
標識されたペプチドを生成する。あるいは、(c')該ペプチド−t−チオール
含有複合体に還元テクネチウム酸塩または過レニウム酸塩を加えて標識されたペ
プチドを生成するステップ。
この標識方法を実施するキットおよび腫瘍の検知/イメージングまたは治療の
方法も提供する。
発明の詳細な説明
本発明者らは、保護された、付随しているチオール基を含有するキレート化剤
を脱保護して遊離スフルヒドリル基を発生させることにより、側基であるスルフ
ヒドリル基を含する、例えばソマトスタチン(SS)または血管作用性腸ペプチ
ド(VIP)といったペプチドは、放射性金属イオン類と選択的に結合してスル
フヒドリル基類と強い結合を生成することが出来ることを見出した。これらの標
識したペプチド類は、腫瘍に結合し、腎臓に過剰に取り込れることはなく、肝臓
に過剰に排出されることもなく、生体内の滞留時間が長く、さらにまたこれによ
って正確な腫瘍/非腫瘍比率を得ることが出来るので、放射線検知法や放射線療
法に非常に効果的である。その上、本発明の標識方法では、単一の容器内で、ジ
スルフィド結合が時期尚早に開裂していないペプチド、即ちSSを標識する事が
できる。ここで、このペプチドは、キレート化剤と複合させた後、還元剤がペプ
チドを開裂することがないようにして、放射性核種用の還元剤と接触させる。さ
らに、本発明者らは、ペプチドを上記の方法で標識しても、ペプチドを還元する
必要がないので、ペプチドのジスルフィド結合を開裂したり、結合特性や親和力
を変えてしまう危険を冒さないですむことを見いだした。さらにまた本発明者ら
は、第三級チオール含有キレート化剤を使用すると、ペプチド上で遊離スルフヒ
ドリル基を発生させたりペプチドを還元させることがなく、ペプチドに結合させ
ることが出来、さらに保護されているチオール基をキレート化剤で開裂させるこ
とがなく、従って遊離チオール基を時期尚早に脱保護したり、酸化により喪失す
るのを防止することが出来ることを見出した。本方法においては試薬と条件が共
に非常に簡素化されているので、グルコヘプトネ−ト(glucoheptonate)などの
トランスキレート化剤(transchelator)を利用するか、あるいは還元剤として
スズを用いて、単一のバイアル中でテクネチウムまたはレニウムで標識するのに
好適である。
この明細書を通して、「ペプチド」なる語は一つのアミノ酸のカルボキシル基
と他のアミノ酸のアミノ基とリンクしている2個以上のアミノ酸を含有する生物
(即ち、天然)または合成化合物を指す。ペプチドはすべて本方法により標識す
ることが出来るが、典型的には、実際問題としては、生物的に有用なペプチドに
標識する。従って、体全体を通して各種タイプの腫瘍部位および他の組織で発現
される受容体部位を認識するペプチド類が発明で好適に使用される。これらのペ
プチド類の中、SSとそのアナログ類およびVIPが特に好ましい。
保護されている第三級チオール含有キレート化剤を使用してアセチル−t−チ
オール含有ペプチド誘導体を発生させてペプチドを間接的に標識することにより
、第三級チオール含有キレート化剤の他端にある保護されたチオール基を時期尚
早に開裂することなく、またペプチドのジスルフィド結合も開裂することなく、
ペプチド上の特異的な非ターケティング結合部位に結合させることが可能となる
。受容体が結合する上でシスチン・ジスルフィド結合によるループの構造が重要
である、SSの標識付けにおいて本発明のこの態様は特に重要である。さらに本
発明者らは、本発明のペプチド−キレート化剤複合体中にあるペプチドのジスル
フィド結合は、単一バイアルのキット(one-vial kit)中で、過テクネチウム酸塩
または過レニウム用第一スズ塩還元剤と混合しても開裂されないため、ペプチド
上で必須の結合特性を持たないより小さなフラグメントを産生したり、側基であ
るスルフヒドリル基を産生したりしない。従って、本発明のt−チオール含有キ
レート化剤を使用すると、特異的に、保護されているキレート化剤の側基である
スルフヒドリル基上で標識が行われ、還元によりペプチド上で意図せずに産生さ
れるかも知れない遊離スルフヒドリル基上では標識は行われない。
保護されている第三級チオール含有キレート化剤においては、アシルによる開
裂反応に対する耐性が高くなっていて、ペプチドの反応官能性、即ちアミノ官能
性がチオール基類を時期尚早に脱保護するのを防止するので、従って本発明のキ
レート化剤を使用することによりペプチドのジスルフィド結合が適正を欠いて還
元されるのを防止することが出来る。本方法によれば、さらに、標識工程の実施
中に好ましからざるコロイドは実質的に生成しないし、さらに適正な割合で還元
剤を使用し、酸素を排除することにより、本発明により、異物としての過テクネ
チウム酸塩残滓の蓄積を防止することが出来る。t−チオール含有キレート化剤
が非天然アミノ酸を含む場合、身体が非天然アミノ酸を認識したり、これに結合
したり、あるいはこれと反応することが出来ないため、生成される標識されたペ
プチドの生体内半減期は非常に長くなる。
本明細書を通して、「非天然アミノ酸」なる語は身体が自然産生するものでは
ないアミノ酸を指すものとする。通常、これらの非天然アミノ酸類には天然アミ
ノ酸類の異性体、または天然アミノ酸類の化学的変性物が含有されている。例え
ば、L−フェニルアラニンは生体内で認識される天然アミノ酸であり、L−フェ
ニルアラニンの非天然アミノ酸アナログとしては、D−フェニルアラニンを例示
することが出来る。D−フェニルアラニンは特に好ましい非天然アミノ酸である
が、当業者らは他にも多数の非天然アミノ酸類を本発明と関連して合成利用でき
ることを認識している。
標識するべきSSやVIPを始めとするペプチド類は、腫瘍、感染症病変、ク
ロット、アテロ−ム性硬化プラークあるいは正常器官または組織が自体で産生す
る、あるいはこれらの疾患に関連して産生される抗原類を含むが、これらの抗原
には限定されない抗原類を標的とするペプチド類を含むものと理解するものであ
る。放射線療法に有用なペプチド類は、疾患状態と関連する細胞類や組織類に結
合するターゲティングペプチド類が好適である。このような殺細胞または殺組織
によって、疾患状態を軽減することが出来る。この結合は、典型的には、疾患細
胞または組織に関連あるいはその表面で発現する相補的分子および構造であって
、好ましくは健康な細胞表面に発現したり、健康な細胞表面と関連したりしない
ものに対して起こるものである。
より典型的には、健康細胞にも相補的部分があっても良いが、その程度は疾患
状態で観察されるものよりも小さくなくてはならない。例えば多数の骨髄腫では
、正常組織と比較して、インターロイキン6(IL−6)受容体の発現が著しく
増加している。IL−6受容体を標的とする標識されたペプチド類は、優先的に
骨髄腫細胞と結合して、高い有効な標識付きペプチド濃度を生成して、優先的に
腫瘍部位で殺細胞を行う。他の例としては、多くの腫瘍表面で顕著に発現するが
ん胎児性抗原(carcinoembryonic antigen: CEA)がある。CEAを標的とす
る標識されたペプチド断片が腫瘍部位で優先的に殺細胞を行う。当業者らは優先
的殺細胞が放射線療法において治療的に有効なレニウム・イオン類などの放射性
金属イオン類を用いて実施されることを理解するであろう。本発明は、SS、S
S
アナログ類やVIPなどのペプチド類を好適に標識する。SSアナログ類には、
SS中にジスルフィドのループといくつかの重要なアミノ酸類を含有する短いペ
プチド類が含まれる。上記で述べたように、これらのペプチド類には、これまで
イメージング用としてIn−111やI−123で標識が行われてきた。核医学
部門では、これらの放射性アイソト−プは一般にTc−99mほど好ましくはな
いとされてきた。SS、OCT、T−OCTおよびVIPを保護されている第三
級チオール含有キレート化剤と反応させた後、脱アシル化を行い、例えば、グル
コヘプトネ−トを用いて還元過テクトネチウム酸塩と反応させると、ペプチドを
非常に効率よく標識が出来ることが見出された。
本発明方法には、ペプチドと保護されている第三級チオール含有キレート化剤
とを反応させて、保護されている第三級チオール基少なくとも一個を含有するペ
プチド−キレート化剤複合体(conjugate)を産生させることを含んでいる。第三
級チオール含有キレート化剤はペプチドと共有結合して、脱保護後ペプチドと放
射性金属とをカップリングさせる役割を果たしている。このような共有結合を実
施する方法は当業者によく知られている。例えば、活性エステル(N−ヒドロキ
シスクシンイミドなど)またはキレート化剤のイソチオシナート誘導体を用いて
、薬剤とペプチドのアミノ官能基(amino functions)とを結合する;キレート
化剤の2−ヨウドアセチルまたはマレイミド誘導体を用いて薬剤とペプチドのス
ルフヒドリル基とを結合する;薬剤のヒドラジド誘導体を用いて、薬剤をペプチ
ドの酸化カルボハイドレ−ト基に結合する;1−エチルー3−(3−ジアミノプ
ロピル)カルボジイミドなどのカルボジイミド試薬を用いて、キレート化剤のカ
ルボキシル基をペプチドのアミノ基に結合する。本発明の第三級チオール含有キ
レート化剤には、好適にも活性エステルが含有されていて、ペプチドのアミン官
能基(amine filnctions)と結合する。キレート化剤に非天然アミノ酸を含有さ
せることは有用である。これによって、ペプチド−キレート化剤複合体の生体内
半減期
が長くなることが見出されている。好ましい非天然アミノ酸はD−フェニルアラ
ニンである。
本発明に有用な保護された、第三級チオール含有キレート化剤は、(i)上で
述べたように、ペプチド官能性に対して安定な結合を形成することが出来る官能
基と、(ii)保護されている第三級チオール基を少なくとも一個含有し、脱保
護後、好適な放射性核種と錯体を生成することが出来、しかもペプチド官能性部
位と反応して時期尚早にチオール基を脱保護してしまうことがない錯体形成部分
とを含有するキレート化剤ならば、どの様なものでも良い。第三級チオール含有
キレート化剤は、好適には、所望の放射性核種と5員環または6員環の錯体を形
成する。
第三級チオール基がカルボン酸の一部であって、容易にペプチドと結合したり
、事実上はペプチドと結合することになる短いリンカーと結合できれば便利であ
る。'777出願では、本発明で使用することが出来る多数のキレート化剤が開
示されている。好ましいキレート化剤は、(N-ヒドロキシスクシンイミジル)
−N−(3−メチル−3−アシルメルカプトブチリル)グリシナート(下記の化
合物I)およびこの化合物とジグリシンまたはトリグリシンとの反応産物である
が、これらのみに限定されない。また、キレート化剤は、(N-ヒドロキシスク
シンイミジル)−N−(3−メチル−3−アシルメルカプトブチリル)グリシナ
ートのD−フェニルアラニン誘導体類およびこの化合物とジグリシンまたはトリ
グリシンとの反応産物(化合物II)であっても良いが、これらには限定されない
。これらの特に好ましいキレート化剤は次の式によって表される。
化合物I
化合物II
キレート化剤中に存在する側基であるスルフヒドリル基は、同じキレート化剤
の一部を構成するスルフヒドリル選択性の求電子試薬に不適合性である場合があ
る。さらに重要なことは、キレート化剤と複合すべきペプチドにジスルフィド橋
またはループが含有されていて、キレート化剤中の遊離スルフヒドリル基がルー
プや橋を開裂したり、ペプチドを崩壊させたり、あるいは受容体との結合に必須
な立体配座を破壊してしまう可能性があることである。このような場合には、キ
レート化剤が結合している間中、スルフヒドリル基を適当に保護しておく。その
上で、保護されているチオール基を当業者らに公知のメカニズムを用いて脱保護
する。本明細書で用いる「保護されているチオール」なる語は、チオールを可逆
的に誘導体化することによりチオールが反応しないようにした部分を含有するチ
オール含有部分を意味するものとする。ペプチド・タンパク基質に結合した後、
キレート化部分を脱保護してキレート化官能性を解放して放射性核種を結合させ
る。特に、保護されているチオールを脱保護して放射性核種と錯体を形成するこ
とができる側基である遊離スルフヒドリル基を発生させる。
チオールを反応から保護するに好適な基は、ペプチド活性を本質的に変えるこ
となく、ペプチドの存在下穏和な条件で容易に取り除いて遊離スルフヒドリルを
再生することが出来る有機無機の基である。チオール保護基は、チオール・エス
テルを形成するアシル基が好適である。アシル基は、低級アシル基、特にアセチ
ル基が好ましい。
当業者らはチオール基の保護・脱保護方法に熟知しており、本発明の範囲内の
保護・脱保護方法は通常の当業者らが知っている範囲内である。第三級チオール
のアシル保護基を開裂する好ましい方法は、ヒドロ−ルアミンと反応させること
である。これは穏和な反応で通常他の官能基に影響を与えることはないし、ジス
ルフィド結合を開裂することもない。
チオールを脱保護したら、スルフヒドリルと結合する放射性核種を添加する。
特に、還元過テクネチウム酸塩や過レニウム酸塩がそれである。当業者らによく
知られているように、テクネチウムとレニウムの放射性アイソトープは「発生剤
」、即ち、崩壊すると、食塩水を用いて「乳化」することができる可溶の過テク
ネチウム酸塩や過レニウム酸塩となる他の放射性先駆物質の形で供給されていて
便利である。これらの還元種は都合良く、グルコヘプトネート(glucoheptonate
)などのトランスキレート化剤で安定する。トランスキレート化剤の多くは、市
販のキットとして入手することが出来る。このように安定化したTc塩やRe塩
キレート化合物をキレート化剤−ペプチド複合体に添加すると、結合力のより強
いスルフヒドリルがトランスキレート化剤を置換して、放射性金属イオンを吸収
する。
上記の不利な点は、二段階法であって、まず第一のバイアルに入れてある還元
剤、典型的には第一スズ・イオン塩とトランスキレート化剤の混合物に過テクネ
チウム酸塩または過レニウム酸塩を添加し、次に、TcまたはReキレート化合
物をペプチド−キレート化剤複合体を含有する第二のバイアルに添加して、トラ
ンスキレート化/標識反応を実施する。TcまたはReキレート化合物を移動す
る際の損失は避けることが出来ないし、こぼしたり、汚染したりする危険もある
。発生剤液は、単一の標識用バイアルに直接入れることが望ましい。
本発明では、脱保護されたペプチド−キレート化剤複合体に、放射性核種還元
用の還元剤を加えておいて、後から放射性核種を加えることにより、上記の要請
を達成した。好ましい還元剤は、第一スズ・イオン塩、例えば塩化第一スズであ
る。第一スズによるジスルフィド結合を還元するのは、比較的に遅い反応である
。
脱保護後のペプチド−キレート化剤複合体と還元剤とは、典型的には凍結また
は凍結乾燥して、還元剤の存在を原因とするペプチド中のジスルフィド結合の開
裂を防止する。
本発明は、脱保護したペプチド−キレート化剤複合体と、オプションとして放
射性核種を還元する還元剤とを入れておいて、後から放射性核種を添加するキッ
トを提供する。放射性核種の添加前、あるいは放射性核種と併用して、保護され
ている第三級チオール複合体(conjugate)を使用したり、脱保護剤を添加するこ
とは可能である。本発明の単一バイアルまたはキットは、どの特定の放射線検知
法あるいは放射線療法にも使用できるように、第三級チオール含有キレート化剤
と複合体を形成している適当なペプチドを入れるようにデザインしてある。
本発明により、バイアルまたはキットは好適にに密閉し、無菌または半無菌条
件下で試薬を出し入れするメカニズムを付けている。本方法では、注射針用のポ
−トが付いているバイアルを使用することが好ましい。バイアルまたはキットに
入れる試薬の剤形は、水性品、凍結品、または凍結乾燥品である。一態様におい
て、試薬を好適には不活性ガス雰囲気下、例えば窒素またはアルゴン雰囲気下、
好ましくはpH値約3.5〜5.5,より好ましくはpH値4.5〜5.0で、
低温、例えば冷蔵庫やフリ−ザ−またはドライアイスあるいは液体窒素温度で数
日間〜数週間貯蔵している。
貯蔵および安定化が容易な凍結乾燥剤形の試薬を提供することも本発明の範囲
内である。凍結乾燥は好ましくは凝集を防止する安定剤、例えばトレハロ−スや
ス−スクロ−スなどの糖類の存在下、揮発性緩衝液、例えば酢酸アンモニウムを
用い、pH値約5.5で実施する。この様な凍結乾燥条件は従来からのもので、
通常の当業者らによく知られている。試薬を凍結しておいて使用前に解凍しても
良いが、この方法はペプチド−キレート化剤複合体が再酸化したり、凝集する危
険が大きい。
キットに還元剤が入っていない場合、TcやReカチオン・キレート化合物を
予め還元しておいたものを添加して標識を実施する。キット中に第一スズ塩が存
在する場合には、過テクネチウム酸塩または過レニウム酸塩発生剤流出液を添加
して、現場で還元と標識を実施するだけで十分である。この場合、バイアルの中
身を混合して、タンパクの標識を行うに十分な時間インキュベ−トする。インキ
ュベ−トの継続時間と条件は重要ではないが、典型的にはインキュベ−トは99m
Tcがペプチド中に実質的に100%取り込まれるのに十分な時間実施する。テ
クネチウム標識について言う「実質的に100%の取り込み量」とは、取り込み
量が98%以上、好適には取り込み量が99%以上、より好適には取り込み量が
100%であることを指すものとする。通常、インキュベートは、約0.1〜約
60分間、より好適には約1〜約5分間実施する。その後、標識されたペプチド
はバイアルから引き出して、分離や精製が必要ではないので、直ちに使用する。
放射性核種に使用する還元剤は、好適にはスズ(II)で、好ましくは剤形が第
一スズ・イオンであるものである。典型的には、塩化第一スズをペプチド−キレ
ート化剤を含有する混合物に添加する。当業者らは第一スズ・イオンは、スズ金
属、例えば箔、顆粒、粉末、削り屑などを、例えばHClなどの水性酸と接触さ
せて現場で作り、通常はSnCl2の形で、好適にはHCl中に約0.1mMの
溶液として添加することを理解している。
一般に、食塩水溶液中のペプチド濃度が0.01〜10mg/ml、好ましく
は0.1〜5mg/mlで、好ましくはpH値を弱酸の4.0〜4.5に緩衝し
て、作業すると好適である。この様な場合、正常なイメージング活性を持つ過テ
クネチウム酸塩を還元するのに必要な第一スズの量は、ペプチド量に対する割合
に換算すると、約0.1〜50μg/ml、好ましくは約0.5〜25μg/m
lである。上記量のペプチドを標識する場合、過テクネチウムの量はペプチドに
対して2から50mCi/mgで、反応時間は約0.1〜30分である。ペプチ
ドと第一スズが好ましい濃度である場合では、過テクネチウム酸塩の量は好まし
くは5〜30mCi/mgで、反応時間は約1〜20分である。
過テクネチウム酸塩は、一般に市販の発生剤から、最も一般的には、NaTc
O4の形で、通常は食塩水溶液として得ることが出来る。他の剤形の過テクネチ
ウム酸塩も、新剤形の供給者の提案に従ったり、あるいは当業者には明白な使用
法に変えて使用することが出来る。過テクネチウム酸塩は、食塩水、例えば0.
9%(「生理」)食塩水中の活性が約0.2〜10mCi/mlのもののpH値を
約3〜7,好ましくは3.5〜5.5、より好ましくは4.5〜5.0に緩衝し
て使用する。好適な緩衝液としては、例えば酢酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、リ
ン酸塩などがある。過テクネチウム酸塩の還元は、通常不活性ガス雰囲気下、例
えば窒素、アルゴンのどの雰囲気下で行う。反応温度は、一般に室温、例えば1
8℃−25℃である。
この説明を通して「還元過テクノチウム酸塩」または「還元過レニウム酸塩」
なる語は、過テクネチウム酸塩または過レニウム酸塩を第一スズ・イオンにより
還元し、チオール基によってキレート化したテクネチウム・イオン種またはレニ
ウム・イオン種を指すものとする。還元過テクノチウム酸塩はTc(III)、Tc
(IV)および/またはTc(V)の形でキレート中に含まれており、還元過レニ
ウム酸塩はRe(III)および/またはRe(IV)であると考えられており、よ
り高いまたはより低い酸化状態ならびに複数の酸化状態も本発明の範囲内である
。
レニウムは周期表においてテクネチウムの直下にあり、外殻電子配置が同じで
あるので、化学特性がテクネチウムに非常に類似し、特に類似の化合物との挙動
がそうであると期待される。事実、レニウム化合物類は還元とキレート化に関す
る限り定性的にテクネチウム化合物と類似する挙動を示すが、しかしながら反応
速度は全く異なり、重要な態様のいくつかでは類似性を持っていない。これらの
相違点に拘わらず、当業者らはテクネチウムによる標識付けの開示に基づいて本
発明を変更することにより、効率の良いレニウムによる標識付けを行うことが出
来る。(例えば、Griffiths、米国特許第5,128,119号参照。
この特許は引用することにより全文を本明細書の一部とする。)
放射性アイソト−プRe−186は治療にっても魅力的であるが、イメージン
グにも使用することが出来る。半減期は約3.7日、LETβ輻射が高く(1.
07MeV)、そしてγ輻射エネルギーが使い易い(0.137MeV)。テクネ
チウムと類似して、レニウムは過レニウム酸塩から作られ、還元レニウム・イオ
ン類は非特異的にペプチドと結合する。従って還元過レニウム酸塩がペプチド−
キレート化剤複合体上のスルフヒドリル基と結合する、ペプチドのRe−186
による標識方法は好適である。Re−188は発生剤から作られるβおよびγエ
ミッタ−で、半減期は17時間、イメージングと治療に好適である。現在市販用
のレニウム−188発生剤が開発中であり、従って、好ましい計画では、第一ス
ズ・イオンとペプチド−キレート化剤複合体を含有するバイアルに担体を付けな
い遊離レニウム−188を直接添加して、約2時間以内に使用が可能になるレニ
ウムで標識したペプチドを作る。
一般に、複合体を作らないペプチド、例えばSSやVIPの濃度、過レニウム
酸塩の活性、その他の条件は、実質的にRe−186やRe−188と同じであ
るが、但し第一スズ・イオンはより大きな量を使う。放射性過レニウム酸塩中の
放射性アイソト−プが実質的に担体のないRe−188である場合、溶液中のペ
プチド濃度は好適には約1〜20mg/ml、好ましくは約10〜20mg/m
lで、第一スズ・イオンの量は約500〜10,000μg/ml、好ましくは
約500〜5,000μg/mlであるl。放射性過レニウム酸塩中の放射性ア
イソト−プが担体が付いているRe−188であって、抗体または抗原の濃度が
同じである場合、第一スズ・イオンの量は約5〜1,000mg/ml、好まし
くは約50〜500mg/mlである。
銅イオン類も硫黄キレート化剤により強くキレート化される。Cu−67もイ
メージングと治療にとってまた一つの魅力ある放射性核種である。このものの半
減期は約2.6日で、β輻射(0.57MeV)もあるし、γ輻射(0.185
MeV)もあるが、βエネルギ−は比較的に低い。Cu−67は比較的に高価で
、現在では入手することも容易ではないが、需要が大きくなればこの様な状態も
変わって行くであろう。Cu−67の利点は、チオールによって強固なキレート
化合物が生成されると、標識が簡単で早く、放射性金属用の還元剤を必要としな
いことである。
キレート化挙動が銅に類似している、例えば水銀、銀や鉛などの他の放射性核
種も、本発明の方法によりチオール含有化合物類と結合することが出来た。Hg
−197は半減期が約1.5日、エネルギ−範囲78−268Kevでγ輻射腺
を放射し、Pb−203は約275Kevの強力なエミッタ−で、半減期は約5
1時間である。このため水銀と鉛はγシンチグラフィに好適である。Ag−11
1は半減期が7日であって、約1.02MeVでβ輻射腺を放射する。Bi−2
12は半減期が約1時間、エネルギ−が6.09MeVのαエミッタ−である。
これら二つは生体内治療についてかなりの興味がもてる化合物である。Bi−2
12は、239Kevのγ輻射腺を放射し、半減期が約106時間であるPb−
212先駆物質から現場で作られる。したがって、Bi−212療法に用いるペ
プチド−第三級チオール含有キレート化剤複合体は、Pb−212標識を付けた
複合体である。従って、鉛/ビスマスまたはPb/Biなる略語を用いてこれを
識別する。本発明は例示されている放射性核種にのみ限定されることなく、一般
にスルフヒドリル基と強く結合するイオン類に適用することが出来る。
上典型的に、上記した標識条件により、ペプチド−キレート化剤複合体に対し
て、標識が実質的に100%取り込まれ、しかも取り込みが実質的に定量的に行
われる。この説明を通してレニウムでの標識について言う、「実質的に定量的な
取り込み」なる語は、約80%以上、好適には85%以上、より好適には90%
以上の取り込みを指すものとする。例えば、今や、第三級チオール含有キレート
化剤と複合体を形成しているペプチドに、本質的に定量的な収量換算でペプチド
1ミリグラムあたり5〜200マイクログラムのSn(II)によって安定な標識を
付けることができる。さらに、この様にして標識されたペプチドの免疫活性は血
清のインキュベ−ト後もほどんと減退することなく、すくなとも24時間はイメ
ージング剤として完全に使用可能であることを示している。 上記の反応条件下
では、テクノチウムによる標識の場合、リン酸塩、酒石酸塩、グルコヘプトネ−
ト(glucoheptonate)やその他のよく知られているSn(II)キレート化剤など
のトランスキレート化剤(transchelator)で、スズを溶液内に維持する必要は
なかったが、本発明に従ってこれらのトランスキレート化剤を使用した。入手が
容易である従来からの他のSn(II)塩類も有効ではあるが、本発明では塩化第
一スズなどのSn(II)を使用することが好ましい。必須成分は三つだけである
:脱保護されたペプチド−キレート化剤複合体、水性第一スズ・イオンおよび過
テクネチウム溶液がそれである。上記の反応条件下ではペプチドにTc−99m
を実質的に100%取り込ませことは容易に達成することが出来る。
この様にして得られた標識されたペプチドは、例えば腫瘍、感染症病変、細菌
、クロット、心筋梗塞、アテロ−ム性硬化プラーク、あるいは正常な器官と組織
のシンチグラフィイ・イメージングに使用するのに好適である。上記のように調
製した標識ペプチド溶液は、適正に滅菌したパイロジェン・フリーのバイアル中
で反応させれば、直ちに注射することが出来る。また、テクネチウムを結合させ
た後で、遊離スルフヒドリル基を阻止して安定化を図る必要もない。
得られた本発明の好ましいペプチド・キレート化剤・放射性金属イオン錯体は
次の式で表される。
[ペプチド]─xn─[I]─M 式I
式中、
nは0または1であり、
XはD−フェニルアラニンなどの非天然アミノ酸を表し、
Iは保護されていたチオール基を脱保護した化合物Iで表されるキレート
化剤をあらわし、
Mは還元されたテクネチウム−99mなどの放射性金属イオンを表す。
好ましくは、ペプチドはペプチドのN末端のアミノ基を通してXと(または、
nが0の場合、直接Iに)結合する。しかしながら、ペプチド本体のリシンまた
はアルギニンのアミノ基を通して結合することも本発明の範囲内であるとする。
SS、OCT、T−OCTやVIPなどのペプチドを標識する一般的なスキ−
ムでは、まずペプチドとキレート化剤を反応させる。化合物Iを用いる場合には
Iと、化合物IIを用いる場合にはX−Iと反応させる。その上で、保護されてい
るチオール基を脱保護し、得られたペプチド−脱保護キレート化剤複合体をテク
ネチウムなどの放射性金属と共にインキュベートする。本発明によるペプチド−
脱保護キレート化剤複合体の合成は、上記で概略した反応スキームI(化合物I
用)と反応スキームII(化合物II用)に従って実施する。 詳細は’777出願
を参照されたい。
薬品類、サイトカイン類、酵素類、ホルモン類、免疫モジュレーター類、受容
体ペプチド類などのペプチド類にも標識を行うことが出来るのではあるが、本発
明の方法はSS、OCT、T−OCTやVIPの標識するに時に好適である。ペ
プチド類はペプチド構造内で架橋したり、ループを形成するジスルフィド結合を
一以上含有することが出来る。これらのジスルフィド結合を開裂する公知の方法
では、典型的にまず受容体の結合に大きな役割を果たさないジスルフィド結合の
みを開裂する。都合が悪いことに、これらの方法は注意深く実施しないと、望ん
でいないのに、時として受容体結合に重要な役割を持つジスルフィド結合の開裂
が起こって、ペプチドを本質的に無益化してしまうことがある。さらに、遊離チ
オール基を含有するキレート化剤を使っても、同様に好ましからざるペプチドの
ジスルフィド結合の開裂が発生する場合がある。本発明の方法では、保護された
、第三級チオール含有キレート化剤か、保護された、第三級チオール含有キレー
ト化剤に非天然アミノ酸を含ませたものを使用し、キレート化剤とペプチドの官
能基で錯体を形成、好ましくはアミノ酸によってペプチドのジスルフィド結合を
無傷に保全することにより、特異的にこの様な好ましからざる開裂を防いでいる
。
本発明の方法はさらに、還元放射性核種と錯体を形成する水溶性の移行リガン
ド(transfer ligand)を使用している。一般に、本発明の他の態様において有
用な
移行リガンドは、還元状態のテクネチウム−99mやすべてのレニウム放射性ア
イソトープあるいはその他の公知の放射性アイソトープと複合して、安定な金属
イオン/リガンド錯体を生成できる水溶性(あるいは、これから水溶性にする)
キレート化剤である。この錯体はさらに、チオール基が脱保護された後で、放射
性アイソト−プとペプチド−キレート化剤錯体に存在している側基であるスルフ
ヒドリル基とを交換することが出来る。
好適な移行リガンドとしては、グルコヘプトネ−ト(glucoheptonate)、酒石酸
塩、DTPA、EDTA、ジ−、トリ−、またはポリ−アルキルホスホネ−ト、
ピロリン酸塩またはグリシンとその誘導体が例示される。当業者らは、本発明に
より、還元放射性核種との錯体を生成した後、この還元放射性核種を側基である
スルフヒドリル基に移行することが出来るキレート化剤はどの様なものでも有用
であることを認識している(例えば、Dean、米国特許第5,180,816
号および/またはShochat et al.、米国特許第5,061,64
1号参照。これら特許各々の開示は引用することにより全文を本明細書の一部と
する)。
本発明のさらに他の態様において、チオール結合放射性金属は、外因性リガン
ドによりキャップが被されている(Shochat et al.,参照、前掲)。これらのリガ
ンド類は一般にイオンの配位球を完成して、ペプチド−キレート化剤複合体によ
ってすでに与えられているスルフヒドリル基を相補するようにデザインされてい
る。リガンドのあるものはイオンを強く結合するので、硫黄−金属とペプチドの
反応基との結合を弱めてしまい血清中の放射性金属の標識の安定性を減退させて
しまう。他のリガンドはキレート力が弱くて、血清や骨髄、あるいは排泄が起こ
ると肝臓、脾臓や腎臓などの器官からの外因性リガンドよってイオンがペプチド
から脱落してしまう。したがって、これら二者間の差を無くさなくてはならない
。当業者らは公知の化学原理を用いて、好適な外因性キャッピング・リガンドを
デ
ザインして、この差を無くすことが出来る。
発生剤で作ったテクネチウムであるTc−99mで、例えばSS、OCT、T
−OCTやVIPなどのペプチドを標識するのに用いるキットに、単位容量当た
り0.01−10mgのペプチドを入れてある。このペプチドは、腫瘍、感染症
病変、細菌、心筋梗塞、クロット、アテロ−ム性硬化プラク、あるいは正常な器
官と組織に関連する抗原を特異的に標的とする。また、このペプチドはさらに、
保護されている第三級チオール含有キレート化剤と複合して、保護されているペ
プチド−アセチル−L−チオール誘導体を作り、これが脱保護されてペプチド−t
−チオール誘導体を生成する。この代わりに、キレート化剤にD−フェニルア
ラニンなどの非天然アミノ酸を含有させても良い。このキットにはまた、第一ス
ズ・イオンを単位容量当たり0.1〜5.0μg配合する。使用直前に、ペプチ
ド1mg当たり2〜50mCiのTc−99mテクネチウミをキット構成成分に
混合する。ペプチド−t−チオール誘導体とSn(II)還元剤とはバイアル中で
混合して単一の溶液とし、好ましくは当業者らに公知のごとく砂糖を加へて、テ
クニチウム酸塩を添加する時まで、例えば液体窒素浴に蔵置するか、または凍結
乾燥して貯蔵する。従来からの試薬を加えることによって上記のキットの形態が
変わったとしても当業者らの通常に技術によって十分に対応することが出来る。
ペプチド−アセチル−t−チオール誘導体が使用されている場合は、脱保護の
時期は、還元剤を混合する前であっても良いし、また混合後であっても良い。し
かしながら、保護されているペプチド−アセチル−t−チオール誘導体の脱保護
は、放射性核種との反応前でなければならない。脱保護剤と放射性核種とを同時
に溶液に添加しても良いが、反応の順序は一般に(i)保護されているペプチド
−アセチル−t−チオール誘導体の脱保護および放射性核種の還元、および(i
i)複合体の標識である。
しかしながら、還元剤を混合する前さらにはキットに包装して貯蔵する前
に、ペプチド−アセチル−t−チオール誘導体を脱保護しても良い。当業者らは
、本明細書を読んで、ペプチド−アセチル−t−チオール誘導体の保護されてい
るものと、脱保護されたもののどちらでも、方法とキットをデザインすることが
出来る。
キット包装する本発明のペプチド類は、好適に無菌容器中に入れて、凍結また
は凍結乾燥して、不活性ガス雰囲気下で液体窒素浴を用いて好適に冷却貯蔵して
置いて、使用直前に解凍する。医師や技術者が注射製剤を早く調製して直ぐに使
えるようにするため、無菌緩衝液バイアル、食塩水、注射針、フィルター、カラ
ムなどキットの補充材料を供給する。
本発明の特に好ましい態様において、ペプチドを少なくともモル等量、好まし
くはモル過剰量のキレート化剤と、室温、pH値は約7.0〜約8.0の範囲内
で反応させて、(N−ヒドロキシスクシンイミジル)N−(3−メチル−3−ア
シルメルカプトブチリル)グリシネ−ト(「キレート化剤」)とSS、OCT、
T−OCTやVIPとの間で複合させることによりペプチドの標識を行っている
。ペプチドに添加すべきチオール数は、キレート化剤のモル過剰量を調整するこ
とにより増減させることが出来る。ペプチド−キレート化剤複合体は従来からの
手段で精製することが望ましく(例えば、逆相HPLC)、精製複合体(conjuga
te)は必要に応じてチオール脱保護品とすることが出来る。チオール脱保護とし
たら、直ちに塩化第一スズを配合して、密閉バイアルに充填して、アルゴン雰囲
気あるいは真空中でキットとして貯蔵する。こうして置いて、何時でも放射性核
種と混合できるようにしておく。
通常の技術を持つ当業者ならば、本発明の方法で調製し、標識を付けたペプチ
ド、特にSS、OCT、T−OCTおよびVIPは、腫瘍や病変の非侵襲的なシ
ンチグラフィ・イメージング法や治療方法に好適であり、事実、特に便利で効果
的であることは誰にでも一目瞭然である。特に、これは腫瘍、感染症病変、心筋
梗塞、クロット、アテロ−ム性硬化プラク、あるいは正常な器官と組織のイメー
ジング法である。ペプチドは特異的に腫瘍など自体が産生したり、これと関連し
て産生される抗原をに標的とし、製薬的に不活性な放射性アイソト−プによる標
識が付けられて、外部から検知する性能がある。このペプチドをヒト患者に非経
口的に注射し、十分な時間を与えて標識を付けたペプチドが局在化するまで待ち
、非標的のバックグラウンドが静まってから検査を始めると、体外からイメージ
ング・カメラで標識を付けたペプチドが成長付着している部位を検知することが
出来る。標識されたペプチドとして、本発明の方法に従って作った標識されたペ
プチドを使用したために達成された改善である。この標識ペプチド」は、肝臓で
著しく排出されることはなく、正確な腫瘍/非腫瘍比率を得ることが出来、また
腫瘍に対する生体内標的化に優れている。
さらに他の重要な適用に、手術時、血管内、または顕微鏡検査により腫瘍の縁
を直接検出することがある。標識した小さなペプチドを単独で用いたり、例えば
、米国特許第4,932,412号で開示されているように、標識した抗原また
は抗原フラグメントと併用する。
さらに、腫瘍または感染症病変患者の放射線療法において、腫瘍または感染症
病変が直接間接に産生する抗原を特異的に標的とするペプチドに、治療有効量の
放射性アイソトープで標識し、このペプチドをヒト患者に非経口投与する。標識
したペプチドとして本発明の方法により作った標識したレニウム・ペプチドを使
用することによる改良である。
これ以上の説明は差し控えるが、当業者らはこれまでに行った説明を用いれば
本発明を完全に利用することが出来ると信じられる。したがって、前述の好まし
い特異的な態様は、単に説明のためであると解釈して、如何なる場合でも開示を
限定するものとして解釈してはならない。さらに、この説明中で言及した書類は
すべて引用することにより全文を本明細書の一部とする。上記の特に好ましい態
様に言及しながら本発明を説明してきたが、当業者らは本発明について各種の変
法を作っても本発明の精神と範囲から離れることはできない。
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フロントページの続き
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(72)発明者 ハンセン,ハンス・エル
アメリカ合衆国、08087 ニュー・ジャー
ジー、ミスティック・アイランド、エヌ.
バージー・ドライヴ 2617