【発明の詳細な説明】
5−リポキシゲナーゼ阻害剤を用いる、
術後癒着形成を低減又は阻止する方法発明の分野
本発明は、5−リポキシゲナーゼ(5−LO)阻害剤、並びに、体腔内での組
織、例えば臓器の表面間での術後癒着の形成を低減又は阻止する方法におけるそ
れらの使用に関する。 発明の背景
癒着形成、特には腹膜手術に伴う癒着形成は、外科手術後の罹患及び死亡の主
な原因である。臨床的に重大な癒着形成に関連して最も頻繁に行われる手術は、
虫垂切除及び婦人科の手術である。腹腔内癒着の最も深刻な合併症は腸閉塞であ
る。加えて、癒着は、慢性的もしくは再発性の骨盤の傷み及び婦人における不妊
症に関係する。
癒着形成の原因は複雑であり、完全には理解されていない。その第1段階は、
過剰のフィブリンが堆積して足場を形成することに関係しているものと信じられ
ている。線維芽細胞及び中皮細胞を含む細胞性要素によるこのフィブリンの足場
の組織化がこれに続く。
癒着形成の阻止に対する様々なアプローチが活発に行われている[diZerega,G
.S.および Rodgers,K.E.,「術
後癒着の防止(Prevention of Postoperative Adhesion)」、「腹膜(The Peri
toneum)」、diZerega,G.S.およびRodgers,K.E.,編、Springer-Verlag,New Yor
k,pp.307-369(1992)]。一般に、これらの治療は3つの範疇:腹膜滲出物にお
けるフィブリン堆積の阻止、局部組織の炎症の低減、及びフィブリン堆積物の除
去に分けられる。
フィブリンの堆積を阻止する治療上の試みには、フィブリン性滲出物を希釈又
は洗い流す腹膜洗浄、組織の虚血を最小化する手術技術、及び治癒している漿膜
表面の付着を制限する障壁の導入が含まれる。フィブリン性体液の凝固に影響を
及ぼす薬剤の使用も提案されているが、今日までに得られている結果では、実質
的に出血している領域での凝血原(procoagulant)の使用が癒着形成を現実に促
進し得ることを示唆している[Elins,T.E.,「凝血原は癒着を防止できるか?(
Can a Pro-Coagulant Substance Prevent Adhesions?)」、「術後癒着の治療(
Treatment of Post-Surgical Adhesions)」、diZerega,G.S.ら編、Wiley-LiSS
,New York,pp.103-112(1990)]。
腹膜治癒の重要な期間に組織の付着を制限し、それにより組織表面間でのフィ
ブリンマトリックスの発生を最小化することによって付着形成を阻止する試みに
おいて、物理的障壁が用いられている。使用されている障壁剤には、物理的障壁
及び粘性溶液の両者が含まれる。延伸されたポリテトラフルオロエチレンの薄い
シートからなる
障壁を用いてそれらを併せ持つ結果が得られている。いずれにしても、そのよう
な膜は適所に縫合しなけれならず、かつ非吸収性であるため、理想には程遠い。
吸収性の障壁(例えば、酸化再生セルロースから作製される障壁)が好ましくは
あるが、全ての研究が癒着の防止におけるそのような障壁の効力を示してるわけ
ではない。液体の障壁も癒着の防止における使用が考慮されている。例えば、硫
酸コンドロイチン及びカルボキシメチルセルロースの両者は動物モデルにおいて
幾らかの見込みを示している。加えて、デキストラン70(分子量=70,00
0)の溶液が多くの臨床研究で試験されている。臨床評価の全てではないが、3
2%デキストラン70に治療効果が見出されている。しかしながら、この溶液の
臨床的な使用は臨床上重要な副作用にも関連している。
抗炎症薬が、術後癒着形成に対するそれらの効果について、手術部位での炎症
に応答するフィブリン性滲出物の放出を制限するものと評価されている。これら
の薬物の2種類の一般的なクラス、副腎皮質ステロイド及び非ステロイド系抗炎
症薬が試験された。動物研究での副腎皮質ステロイドの使用の結果は一般に勧め
られるものではなく、副腎皮質ステロイドの臨床使用はそれらの別の薬理学的特
性によって制限される。術後癒着形成における非ステロイド系抗炎症薬の実験的
な評価は有望であることを示す[Rodgers,K.E.、「術後癒着における非ステロイ
ド系抗炎症薬(NSAID)(Nonsteroidal anti-
inflammatory drugs(NSAIDs)in the treatment of Postsurgical adhesion)
」、「術後癒着の治療(Treatment of Post-Surgical Adhesion)」、diZerega,
G.S.ら編、Wiley-Liss,New York,pp.119-129(1990)]。これらの薬物を癒着
の防止について臨床的に評価することが必要である。
今日までに調べられた第3のアプローチはフィブリン沈着の除去を含む。タン
パク質分解酵素(例えば、ペプシン、トリプシン及びパパイン)は理論的には局
部的なフィブリン分解系を増大させ、癒着形成を制限するはずであるが、これら
の酵素は腹膜滲出物によって中和され、事実上癒着の予防には役に立たないもの
となってしまう。様々なフィブリン分解剤(例えば、フィブリノリシン、ストレ
プトキナーゼ及びウロキナーゼ)が提唱されているが、術後の治療におけるこれ
らの酵素の臨床使用に対する潜在的な合併症にはそれらの投与の結果生じる過剰
の出血がある。組換え組織プラスミノーゲン活性化因子(rt−PA)の局所適
用により、様々な動物モデルにおいて癒着の形成を低減させることが示されてい
る。この薬物を手術部位に送る適切なデリバリーシステムを開発し、癒着の阻止
が実現可能である場合にその術後時間を見分けるには、さらに研究を要する。
今日まで、術後腹腔内癒着の形成の阻止において普遍的に有効であることが立
証されている単一の治療アプローチはない。従って、様々な異なる状況において
術後癒
着形成の阻止に安全かつ有効に用いることができる組成物及びその方法の必要性
が存在する。発明の目的
本発明の目的は、癒着形成の阻止又は最小化に用いられる5−リポキシゲナー
ゼ(5−LO)阻害剤ベースの組成物を提供することにある。
本発明の別の目的は、5−LO阻害剤を用いる、体腔内における組織表面間で
の術後癒着形成を低減又は阻止する方法を提供することにある。
本発明のこれらの、及び他の目的は、以下の詳細な説明に照らして明らかとな
るであろう。発明の概要
本発明は、5−リポキシゲナーゼ(5−LO)阻害剤、及び体腔内における組
織、例えば臓器の表面間での癒着の形成を低減又は阻止する方法であって、有効
量の少なくとも1種の5−LO阻害剤、例えばフェニドン(phenidone)、ノル
ジヒドログアイヤレチン酸(nordihydroguaiaretic acid、NDGA)、5,8
,11,14−エイコサテトライン酸(5,8,11,14-eicosatetraynoic acid、E
YTA)及びジロイトン(Zileuton)を被検体に投与することからなる方法にお
けるそれらの使用に関する。5−LO阻害剤は、好ましくは、術中に潜在的な癒
着形成部位にこの化合物を有効な濃度に維持するドラ
ッグデリバリーシステムにより投与される。
本発明の別の側面に従い、少なくとも1種の5−LO阻害剤を潜在的な癒着形
成部位に実質的な組織修復(例えば、再上皮形成又は中皮修復)を可能にするに
十分な期間投与することにより、癒着形成が最小化又は阻止される。発明の詳細な説明
本出願において引用される全ての参考文献、特許及び特許出願はその全体をこ
こに引用する。
本発明の組成物及び方法は、手術の後の最もありふれた原因である臓器表面間
での癒着形成(細胞−細胞癒着ではない)の最小化又は阻止において有用である
。本発明の組成物及び方法は、特に手術後の腹膜における癒着形成の阻止に有効
であることが示されている。加えて、本発明は、癒着の形成の阻止が重要な問題
である他の状況、例えば、心血管、整形、胸部、眼、CNS及び他の用途に有用
性を見出すことができる。例えば、化学療法剤の腹腔内投与の間の癒着の形成又
は薬物の小胞形成の阻止が本発明の範囲内にあるものとして意図されている。以
下の論考のために、主として腹膜の癒着形成の阻害において有用な組成物及び方
法の説明に注意を向ける。
本発明は、5−リポキシゲナーゼ(5−LO)活性を阻害する化合物が、術後
の体腔内における組織表面間での癒着の形成の低減又は阻止において有用である
という
発見に基づく。主として多形核白血球(PMN)及び好酸球において見出される
5−LO酵素は、アラキドン酸がロイコトリエン(LT)と呼ばれる炎症誘発性
生成物(pro-inflammatory)に変換されるアラキドン酸代謝の第2経路(5−L
O経路)に関与する主要な酵素である。5−LOは、ロイコトリエンの生合成に
向けた初期工程において、アラキドン酸の5−ヒドロキシペルオキシエイコサテ
トラエン酸(5−HPETE)への立体特異的酸化を触媒する。この酵素はその
活性部位に非ヘム鉄を含み、その変換の機構には、おそらく、分子酸素が捕獲さ
れた有機鉄中間体又はジエニルラジカルが関与する。5−LOの特性及び提唱さ
れた機構の総説は、Musser および Kreft(1992)、「5−リポキシゲナーゼ:阻
害剤の性質、薬理およびキノリニル(架橋)アリール類(5-Lipoxygenase:Prope
rties,Pharmacology and the quinolinyl(bridged)aryl class of inhibitors
)」、J.Med.Chem.,Vol.35,pp.2501-2524; Batt(1992)、「5−リポキシゲナ
ーゼ阻害剤およびそれらの抗炎症活性(5-Lipoxygenase inhibitors and their
anti-inflammatoryactivities)」、Prog.Med.Chem.,Vol.29,pp.1-63、を参照の
こと。
ロイコトリエン及び他の炎症誘発性アラキドン酸代謝物が喘息、リウマチ性関
節炎、炎症性腸疾患、乾癬及び糸球体腎炎のような多くの炎症性疾患プロセスに
関与しているため、5−LO活性を阻害する化合物は治療剤と
して非常に望ましい。炎症プロセスにおける5−LOの役割の総説は、例えば、
Batt(1992)、「5−リポキシゲナーゼ阻害剤およびそれらの抗炎症活性(5-Li
poxygenase inhibitors and their anti-inflammatory activities)」、Prog.M ed.Chem.
,Vol.29,pp.1-63、を参照のこと。しかしながら、本発明以前には、術
後癒着の阻止における5−LO阻害剤の使用は知られていなかった。
膨大な構造的な多様性を有する多くの化合物が5−LO活性を阻害することが
示されている。構造に基づく5−LO阻害剤のクラスには、基質もしくは産生物
類似体、カテコール、フェノール、アミノフェノール、フラビノイド、ナフトー
ル、キノン、インダゾリンやベンゾチオフェンのような複素環類、並びに通常の
NSAIDのヒドロキサム酸誘導体が含まれる。これらのクラスの化合物の例は
文献、例えば、Musser および Kreft(1992)、「5−リポキシゲナーゼ:阻害剤
の性質、薬理およびキノリニル(架橋)アリール類(5-Lipoxygenase: Properti
es,pharmacology and the quinolinyl(bridged)aryl class of inhibitors)
」、J.Med.Chem.,Vol.35,pp.2501-2524;Salmonら(1990)、「5−リポキシゲナ
ーゼの阻害:治療薬としてのヒドロキサム酸およびヒドロキシウレアの発展(In
hibition of 5-lipoxygenase: development of hydroxamic acids and hydroxyu
reas as potential therapeutic agents)」、Adv.Prost.,Thromb.,Leukotriene Res.
,Vol.21,pp.109-112;Riendeau ら(198
9)、「イムノアフィニティーにより精製したブタの5−リポキシゲナーゼの阻害
剤に対する感受性および脂質ヒドロキシペルオキシドの活性化(Sensitivity of
immunoaffinity-purified porcine 5-lipoxygenase to inhibitors and activa
ting lipid hydroxyperoxides)」、Biochem.Pharmacol.,Vol.38,pp.2313-2321
; Hlasta ら(1991)、「5−リポキシゲナーゼ阻害剤:一連の1−フェニル−3
−ピラゾリジノンの合成およびその構造と活性との関連(5-Lipoxygenase inhib
itors: the synthesis and structure activity relationships of a series of
1-phenyl-3-pyrazolidinones)」、J.Med.Chem.,Vol.34,pp.1560-1570、に記述
されている。5−LO活性を阻害する化合物は様々な機構を通してそれらの効果
を発揮し、これらの機構には細胞性代謝の変更、機能の低下を招くような酵素に
対する直接的な効果、又は競合阻害によるものが含まれる。最近の広範な検討は
5−LO阻害剤の代表的な構造的クラスを記述している。Batt(1992)、「5−リ
ポキシゲナーゼ阻害剤およびそれらの抗炎症活性(5-Lipoxygenase inhibitors
and their anti-inflammatory activities)」、Prog.Med.Chem.,Vol.29,pp.1-6
3、を参照のこと。
5−LO酵素は基質及び産生物類似体によって阻害される。アラキドン酸のア
セチレン性、メチル化、環化、又はチア類似体、及びLTB4のシクロプロピル
類似体は5−LOを阻害する。以下にさらに記述される1つの
化合物、5,8,11,14−エイコサテトライン酸(ETYA)はCO及びL
Oの競合阻害剤である。Anderson ら、(1992)「EYTA、プレオトロフィッ
クな膜−活性アラキドン酸類似体はトランスフォームされた哺乳類培養細胞で多
シグナル誘導経路に影響を与える(EYTA,a pleotropic menbrane-active arachi
donic acid analogue affects multiple signal transduction pathways in cul
tured transformed mammalian cells)」、Clin.Biochem.,Vol.25,pp.1-9。Batt
の6-7を参照のこと。
カテコール及びアミノフェノールも5−LO酵素を阻害することが示されてい
る。親油性カテコール、とりわけ下記の例として用いられるノルジヒドログアイ
ヤレチン酸(nordihydroguaiaretic acid、NDGA)はピロカテコールよりも
効力が高かった。この5−LO酵素の不活性化は不可逆的であり、フェノール性
化合物の酸化を伴う。最良の効力にはオルト−ジヒドロキシフェニル部分が必須
であり、これは阻害剤の全体的な親油性に相関する。NDGA及び他のフェノー
ル性化合物は、電子常磁性共鳴分光法により、活性部位の鉄を Fe-(III)か
ら Fe-(II)に還元することが示されている。電子のプールであり、容易に
は酸化されないカテコール体は活性部位の鉄原子と安定な錯体を形成する。Batt
の8-11及びそこに引用される参考文献を参照のこと。
多数のカテコールを含有する化合物が5−LOを様々に阻害することが報告さ
れている。これらの多くは天然
産生物又は合成類似体であり、例えば、ゴシポール(gossypol)、カフェー酸(
caffeic acid)及び誘導体、並びに多種多様な他のオルト−ジヒドロキシフェニ
ル化合物である。一般には、大部分の5−LOの阻害剤は12−LOに対しては
幾らか効力が劣り、しばしば、COの阻害剤としては大きく効力が劣る。効力は
、普通大まかには親油性と相関する。最近10年間にわたり、フラビノイドによ
る5−LOの阻害を扱った多くの報告がなされている。最も研究されている化合
物は、縮合飽和環内で酸素原子によってパラ置換されているクエルセチン、別の
クラスのフェノール性親油性酸化防止剤を代表するα−トコフェロール(ビタミ
ンE)であり、これは血小板12−LO及び大豆15−LOを阻害する。一連の
関連するベンゾキサンチオールは潜在的に5−LOを阻害する。エチル、ブチル
又はフェニルによるプロピル基の置換でもこの効力は維持される。L−651,
896は一連のジヒドロベンゾフラノールからの化合物である。同書。
L−651,896及び類似体の構造活性相関(SAR)が調べられた。4−
置換化合物と比較してより効力の高い6−置換類似体によって示される5−LO
阻害に対する鋭い特異性が存在する。RS−43179(ロナパレン(lonapale
ne))は局所的な抗炎症活性を有する選択的5−LO阻害剤である。SAR研究
は、親油性が強力な役割を果たすものの、(例えば、より大きなアル
コキシ基により)その化合物の親油性が強すぎる場合には活性が低下することを
示した。縮合環上での最良の置換基はクロルではあるが、π−電子供与が可能な
他の基(他のハロゲン、メトキシ)も有効である。加水分解安定性が増大する化
合物(ピバル酸エステル、安息香酸エステル)は効力が劣るため、活性には少な
くとも1つのエステル基の加水分解が必須であるものと思われる。アップジョン
(UpJohn)の同様なナフトール誘導体はU−66,858(ブナプロラスト(bu
naprolast))である。単純な2−置換−1−ナフトール(DuP 654)は
強力な5−LO阻害剤であり、局所的抗炎症剤でもある。SAR研究は、種々の
位置異性体が5−LOに対する効力ではDuP 654に大きく劣るが、CO阻
害に対してはこれらの変更は影響が少ないことを示した。2,6−ジベンジルフ
ェノールのような縮合環系を欠く親油性フェノールも効力が劣る。2−メチル−
1−ナフトールでさえも5−LOに対して選択的であった(しかし、効力は劣る
)が、イン・ビボでは親油性のアリールメチルの2−置換基が好ましい。電子吸
引基による4位の置換は、レドックス機構によって作用する化合物で予想される
ように、効力を低下させる。Battの15-19 及びそこに引用される参考文献を参照
のこと。
複素環ナフトールアイソステレ(heterocyclic naphthol isostere)も強力な
5−LO阻害剤である。ブナプロラスト(bunaprolast)の複素環類似体はイソ
サイク
リックのものとほぼ等しい効力である。ヒドロキシキノリンN−オキシド、KF
8940は5−LOの強力な阻害剤であり、12−LO及びCOの阻害に関して
かなり選択的である。他の複素環式阻害剤(L−656,224)は5−LOに
対して選択的である。ナフトールの系列の幾つかと同様に、ヒドロキシルに対し
てオルトのアルキル置換基(好ましくは、メチル、エチル又はプロピル)が活性
には必須である。t−ブチル類似体は、その位置にヘテロ原子を含有する鎖を有
する類似体がそうであるように、効力に劣る。ベンジル基上の置換は、カルボキ
シル基が存在しない限り、それほど重要ではない。密接に関連するベンズイミダ
ゾールは類似の活性を示す。同書。
フェノール性化合物、特にパラ−酸素置換基を有するものは、容易にキノンに
酸化される。同様に、キノンは容易に5−LO−阻害するヒドロキノンに(化学
的及び代謝的に)還元される。AA861(ドセベノン(docebenone))はその
ような化合物の1つであり、様々の生理学的及び薬理学的研究において用いられ
る標準的な5−LO阻害剤である。ドセベノンの側鎖はイン・ビトロでの活性に
必須であるが、この基の部分的もしくは完全な飽和はほとんど効果を有しない。
メトキシによるベンゾキノン部分上でのメチル基の置換によっても類似の活性が
付与される。Battの19-21 及びそこに引用される参考文献を参照のこと。
アミノ置換ナフトキノン及び複素環式変種(十分に共役はしているが、非芳香
族性である)は5−LO阻害剤である。同書。
フェノチアジンのように十分に共役はしているものの非芳香族性である複素環
は、容易に酸化される。親油性及びπ−電子の特徴(これらはアラキドン酸鎖を
模倣しているように思われる)と結びついているこのレドックス活性は、選択的
5−LO阻害剤としての一連の置換フェノチアジノン、例えば、L−651,3
92、の開発につながった。Battの21-23 及びそこに引用される参考文献を参照
のこと。
フェノキサジンは5−LOの強力な阻害剤である。カルボン酸、エステル又は
ヒドロキサム酸による1位での置換は効力を低下させる。2位での親油性の置換
は破壊の程度が少ない。一連の置換ジヒドロチアジンも報告されている。アルキ
ル又はヒドロキシアルキルによるフェニル基上又はベンジル変種上の置換は効力
を約1/10に低下させる。ベンゾイルによるフェニル置換基の置換は効力を低
下させる。これに対して、三置換二重結合の還元は活性を完全に破壊する。同書
。
フェニドン(phenidone)及びBW−755cは5−LOの阻害剤である。フ
ェニドンの誘導体が報告されている。カルボニルに対してα位での親油性基によ
るC−アルキル化は許容し得るものであるが、N−メチル化はイン・ビトロ活性
を破壊する。活性に関するBW−75
5cのフェニル環の定量的SAR研究は、電子吸引性置換基よりも電子供与性置
換基の方がよく、大きな置換基は特にオルト位において好ましくないことを示す
。A−53612は、5−LOについて選択的であるフェニドンの環を拡張した
ものである。ペルヒドロ類似体であるA−65620はA−53612に非常に
似ており、効力が等価であるか、僅かに低い。ピリダジノンは一般にトリアジノ
ンよりも効力が高い。(1−フェニル上又は複素環上で置換することで)親油性
を高めれば、効力が高まった。ピラゾールカルボン酸ヒドラジドのようなフェニ
ドンの脂環式誘導体は15−LOを阻害し、COに対しては不活性である。IC
I 207968のような一連のインダゾリノンはフェニドンのベンゾ縮合類似
体である。類似体の幾つかはCOも阻害するが、ICI 207968自体は5
−LOに対して高い選択性を有する(約300倍)。Battの23-27 及びそこに引
用される参考文献を参照のこと。
SAR研究は、非置換のインダゾリンは5−LOを阻害するが、選択性を持た
ないことを示す。1−窒素上での置換は効果がないが、酸素上又は両方の窒素上
での置換は活性を破壊する。ICI 207968のピリジルメチルをフェニル
及びメチル基で置換することによってより高い効力が得られるが、選択性は低下
する。ベンジル及びヘテロベンジル基によって最良の性質が得られる。リンクす
る基をメチレン1つを超えて長くすることはほ
とんど効果がない。1−ナフチルメチル類似体は強力な効果があり、かつ選択的
であり、2−ナフチル類似体はCO活性が増加する。1−ナフチルエチル類似体
は良好な立体選択性を示し、(R)エナンチオマーはCO以上に5−LOに対し
て非常に選択的であった。ジスルフィラム(disulphiram)に加えて、ジフェニ
ルジスルフィド及び置換類似体のようなヘテロ原子−ヘテロ原子結合を含む他の
化合物が5−LO阻害剤として報告されている。同書。
N−ヒドロキシアラキドンアミドは5−LOの強力で可逆的な阻害剤である。
窒素上でのアルキル化は阻害効力を大きく高める。5位にヒドロキサム酸部分を
配置することにより、同様に5−LOを阻害する5−HPETEの類似体が得ら
れる。9−フェニルノナノヒドロキサム酸(BMY 30094)に代表される
一連のアラルキルヒドロキサム酸は5−LOを阻害する。フェニル環上の小さな
置換基(メチル、メトキシ、クロロ)には効力に対する効果はほとんどないが、
より大きな置換基(ブチルオキシ)は活性の大きな低下を招く。Battの27-28 及
びそこに引用される参考文献を参照のこと。
通常のNSAID(メクロフェナム酸、インドメタシン、スリンダック、及び
イブプロフェン)のヒドロキサム酸誘導体は、CON(Me)OH>CONHO
N>CONH(OMe)−>COOHという効力の順で5−LOを阻害する。C
O効力の順位は、最良の5−LO阻害
剤では依然として大きなCO活性を有するものの、全く反対となる。多くの単純
なω−アラルキルヒドロキサム酸を含むヒドロキサム酸が広範囲にわたって研究
されており、強力な5−LO阻害剤が得られている。阻害活性は全体的な親油性
と最も強く相関する。しかしながら、ヒドロキサム酸に直に隣接する疎水性は、
この部分から12オングストロームを超えて隔てられている場合と同様、効力に
大きな影響を与えない。ヒドロキサム酸はカルボニルに結合する大きな親油性基
、及び窒素上に小さなアルキル基を有する。SARではアリールアセトヒドロキ
サム酸について同様なことが観察されている。すなわち、メチルはカルボニル基
に付くことが好ましく、アリール部分を窒素に連結する最良の基はCH(Me)
であり、かつフェニル環上、好ましくはパラ位の親油性置換基が最適である。ベ
ンゾチオフェン、ベンゾフラン、N−メチルインドール、及びジベンゾフランの
ような複素環もアリール基として役立ち得る。Battの27-32 及びそこに引用され
る参考文献を参照のこと。
ベンゾチオフェン類似体A64077(ジロイトン(zileuton))は、今日ま
でに研究されているうちの最も興味深い5−LO阻害剤の1つである。ヒドロキ
サミン酸による5−LO阻害の本来の論理的根拠は鉄のキレート化であるが、こ
の官能基は酸化可能なN−O単結合も含む。N−アルキルヒドロキシルアミンは
混合されたCO/5−LO阻害剤(ほぼ等効力)である。O−メチル
化はCOの効力を増加させ、5−LOの効力を低下させる。これに対して、N−
メチル化は反対の効果を有し、より大きなN−置換基は活性を低下させる。QA
208−199によって例示される7−置換2−ナフチル部分を有する類似体は
最良の5−LO効力を提供する。Battの32-33 及びそこに引用される参考文献を
参照のこと。
15−HETEは5−LOを阻害する。5−LO阻害剤/LT類似体の一連の
組み合わせが15−HETEの構造から誘導される。REV5901Aは、CO
及び12−LO阻害に関して、この一連のものの中で最良のものである。そのキ
ノリンを別の親油性芳香族基で置換することができるが、効力は低下する(ナフ
タレンは効力が1/40であり、置換フェニルは活性が1/5ないし1/20で
ある)。ピリジンは活性ではあるが、やはり効力に劣る。2−ピリジルは活性が
1/4であるが、3−及び4−ピリジルは1/20である。オルト及びパラ置換
フェニレン基は活性に劣る。Battの33及びそこに引用される参考文献を参照のこ
と。
類似のナフタレンメチルオキシフェニル化合物は、酸化防止又は鉄キレート化
特性を示さない強力な選択的5−LO阻害剤である。そのエチル基を水素又はメ
チルによって置換すると、メトキシのヒドロキシへの変換と同様に、活性が低下
する。アリール基のうちの1つがピリジルであるジアリール 2,3−ジヒドロ
ミダゾ[2,1−b]チアゾール、例えばSK&F86002は、二
重のCO/5−LO阻害剤である。SK&F104351、104493及び1
05809に代表される、関連する一連のジアリールピロロ[1,2−a]イミ
ダゾールは、類似の性質を示す。テポキサリン(tepoxaline)(RWJ2048
5)は、5−LOを阻害するヒドロキサム酸誘導体である。Battの35及びそこに
引用される参考文献を参照のこと。
上に論じられるように、多種多様の薬剤が5−LO阻害剤として報告されてい
る。この一連のものの大部分は、フェノール、部分的に飽和された芳香族物質及
びヘテロ原子−ヘテロ原子結合を含む化合物を包含する親油性還元剤であるよう
に思われる。しかしながら、これらの化合物の多くは選択的5−LO阻害剤では
なく、しばしばCO及び他のLOにも影響を及ぼす。これらの多くのイン・ビボ
の全身性活性は、おそらくは親油性及び代謝の不安定性(酸化及びフェノール性
化合物の共役)によって引き起こされる乏しいバイオアベイラビリティのため、
一般には期待に背くものである。しかしながら、本出願で概要が説明されている
投与方法、すなわち局所及び徐放は、これらの困難性の幾つかを克服するはずで
ある。2、3の構造のタイプは、イン・ビボ及び臨床上で全身性の活性を示す選
択的5−LO阻害剤である。ジロイトンは、BW−A4Cのような他のヒドロキ
サム酸エステルと共に、この範疇におけるリード化合物の1つであるものと思わ
れる。Wy−50,295のような最近の選
択的非還元剤及び類似のICI216800のようなICI化合物も有望であり
続けている。Battの32-33 及びそこに引用される参考文献を参照のこと。
本発明は作用のいかなる特定の理論にも限定されるものではないが、5−LO
阻害剤は、様々な機構によって体腔内における組織、例えば臓器の表面間での癒
着の形成を阻止し得るものと信じられる。例えば、5−LO阻害剤は、炎症応答
のメディエーターである、例えばロイコトリエンを産生するアラキドン酸の代謝
を変化させ、それにより炎症を低減させる[Anderson ら、(1992)「EYTA
、プレオトロフィックな膜−活性なアラキドン酸類似体がトランスフォームされ
た哺乳類培養細胞で多重シグナル誘導経路に影響を与える(EYTA,a pleotrophic
membrane-active arachidonic acid analogue affects multiple signal trans
duction pathways in cultured transformed mammalian cells)」、Clin.Bioch em.
Vol.25,pp.1-9;Miyano および Chiou、(1984)「水晶体タンパク質によって
誘導された目の炎症の薬理学的防止(Pharmacological prevention of ocular i
nflammation induced by lens proteins)」Ophtalmic Research,Vol.16,pp.256
-263]。
加えて、ロイコトリエン(その合成はLO阻害剤によってブロックされる)は
白血球に対して走化性である[Musserおよび Kreft、(1992)「5−リポキシゲナ
ーゼ:性質、薬理および阻害剤のキノリニル(架橋)アリール
体(5-Lipoxygenase:Properties,Pharmacology and the quinolinyl(bridged)
aryl class of inhibitors)」J.Med.Chem.,Vol.35,pp.2501-2524; Gulbenkian
ら、(1990)、「アナフィラティックチャレンジがモルモットの気管支肺胞洗浄に
おいて好酸球の集積を引き起こす。ベタメタゾン、フェニドン、インドメタシン
、WEB2086および新規な抗アレルギー薬SCH37224による変化(An
aphylactic challenge causes eosinophil accumulation in bronchoalveolar l
avage fluid of guinea pigs.Modulation by betamethasone,phenidone,indome
thacin,WEB2086,and a novel antiallergy agent,SCH37224,”Am.Rev.Respir.Di s.
,Vol.142,pp.680-685]。例として、LO阻害剤はPMN浸潤を低減させる[D
eMartinoら、(1989)、「アラキドン酸で誘導されたラットPMN白血球浸潤の薬
理(The pharmacology of arachidonic acid-induced rat PMN leukocyte infil
tration)」Agent Action,Vol.27,pp.325-327]。白血球は傷の修復に役立ち、
フィブリンを溶解するため、これらの薬剤は白血球の走化性に関してこれらの作
用による癒着の形成に影響を及ぼし得る。
しかしながら、当該技術分野において十分に認識されているように、5−LO
阻害剤の作用のこれらの可能性のある機構の中には、それ自体でこれらの化合物
が癒着の形成の低減における有用性を有するのかどうかを予期することを可能に
するのに十分なものはない。実際、5
−LO阻害剤の特性の幾つかは、そのような化合物が癒着形成の低減において無
効であることを示唆する。例えば、外科的な傷害の後のフィブリン堆積の除去に
おいてはフィブリン分解が極めて重要である。フィブリンの堆積が長引けば癒着
形成の可能性が増大する。NDGAはウロキナーゼ(プラスミノーゲン活性化因
子)の産生を阻害し、これはプラスミノーゲンの主要なフィブリン溶解酵素であ
るプラスミンへの開裂を触媒する[Rondeauら、(1990)「ノルジヒドログアイア
レティック酸はホルボールミリステートアセテートで刺激されたLCC−PK1
細胞によるウロキナーゼ合成を阻害する(Nordihydroguaiaretic acid inhibits
urokinase synthesis byphorbol myristate asetate-stimulated LCC-PK1 cell
s)」BBA,Vol.1055,pp.165-172]。ウロキナーゼの阻害は、フィブリンの堆積
を低減させるのではなく促進するものと予想される。
非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)が癒着の形成を低減させることも当該
技術分野において公知である。NSAIDは、シクロオキシゲナーゼ(CO)を
阻害することによりアラキドン酸代謝物の形成を阻害するものと信じられている
。上記の、及び下記実施例において記述される化合物の幾つかはCOの阻害が可
能である。しかしながら、NSAID及び5−LOを阻害する化合物は、当該技
術分野における通常の技術を有する者が5−LO阻害剤が癒着の形成を低減する
であろうと信じるい
かなる理由をも抱かないような多くの異なる生物学的特性を有している。5−L
O阻害剤は多くの方法でNSAIDとは区別される。例えば、NSAIDは早期
段階の眼の炎症を低減させる。しかしながら、NDGAは早期及び後期の両段階
の眼の炎症を阻害する[MiyanoおよびChiou.(1984)、「レンズタンパク質によっ
て誘導された目の炎症の薬理学的阻止(Pharmacological prevention of ocular
inflammation induced by lens proteins)」、Ophthalmic Research,Vol.16,p
p.256-263]。
NSAIDはウロキナーゼの産生を増大させるが、リポキシゲナーゼ阻害剤は
ウロキナーゼの産生に影響を及ぼしたり低減させたりしない[Chowら、(1987)、
「P388D1細胞系によるプラスミノーゲン活性化因子分泌の薬理学的変化(
Pharmacological modulation of plasminogen activator secretion by P388D1
cell line)」、Agents and Actions,Vol.21,pp.387-389]。
LO阻害剤は肉芽腫の形成を低減させるが、NSAIDは肉芽腫の形成に対し
ては効果を及ぼさない[Kunkelら、(1984)、「ネズミの肺肉芽腫形成でのリポキ
シゲナーゼ産物の役割(Role of lipoxygenase products of murine pulmonary
granuloma formation)」、J.Clin.Invest.,Vol.74,pp.514-524]。
さらに、LO阻害剤はアラキドン酸誘発によるミエロペルオキシダーゼの増加
を低減させるが、NSAIDは効果がない[DiMartino ら、(1989)、「アラキド
ン酸誘
発によるラットPMN白血球浸潤の薬理(The pharmacology of arachidonic ac
id-induced rat PMN leukocyte infiltration)」、Agents and Action,Vol.27,
pp.325-327;Griswold ら、(1989)、「二環性イミダゾール、SK&F8600
2およびSK&F1004493による炎症性細胞浸潤の阻止(Inhibitlon of
inflammatory cell infiltration by bicyclic imidazoles,SK&F86002 and SK&F
1004493)」、Inflammation,Vol.13,pp.727-739]。
LO阻害剤は好酸球の蓄積も低減させるが、NSAIDは効果がない[Gulben
kianら、(1990)、「アナフィラティックチャレンジがモルモットの気管支肺胞洗
浄において好酸球の集積を引き起こす。ベタメタゾン、フェニドン、インドメタ
シン、WEB2086および新規な抗アレルギー薬SCH37224による変化
(Anaphylactic challenge causes eosinophil accumulation in bronchoalveol
ar lavage fluid of guinea pigs.Modulation by betamethasone,phenidone,i
ndomethacin,WEB2086,and a novel antiallergy agent,SCH37224)」、Am.Rev.R espir.Dis.
,Vol.142,pp.680-685]。
加えて、LO阻害剤にはブラジキニンへの二相性応答に対する効果はないが、
NSAIDはこの応答を変化させる[Calixto およびMedeiros、(1991)、「モル
モットの単離された回腸のサーキュラー筋における百日咳トキシン不応答性を媒
介するブラジキニンの二相性応答のキ
ャラクタリゼーション(Characterization of bradykin in mediating pertussi
s toxin-insensitive biphasicresponse in circular muscle of the isolate g
uineapig ileum)、J.Pharm.Exper.Ther.,Vol.259,pp.659]。
したがって、5−LO阻害剤の作用のこれらの可能性のある機構を考慮すると
、5−LO阻害剤それ自体が術後癒着形成の阻止又は低減において有用性を有す
ることは示唆されない。
5−LO阻害剤のフェニドン、ノルジヒドログアイヤレチン酸(NDGA)、
5,8,11,14−エイコサテトライン酸(EYTA)及びジロイトンが、術
後癒着形成を低減又は阻止するのに有用な化合物として下に例示されている。こ
れらの構造的に関連のない化合物は共通の5−LO阻害効果を共有しており、同
様に5−LO活性を阻害し得る他の化合物も本発明における使用が意図されてい
る。本明細書に引用される参考文献に記述される化合物に加えて、5−LO阻害
剤の他の限定されない例が米国特許5,246,948号、5,023,255
号及び4,708,964号;1994年8月31日に公開された欧州特許出願
0612 729 A2号及び1985年6月26日に公開された0146 3
48 A2号;並びに1995年2月9日に公開されたWO 95/04055
号に記述されている。
本発明の実施において、好ましい5−LO阻害剤化合物は局所レベル及び全身
レベルで毒性がほとんどないか
もしくは全くないものであり、ヒトを含む動物における局所使用に適するもので
ある。5−LO活性を阻害する化合物の同定において用いることができる方法は
、例えば、Batt、(1992)、「5−リポキシゲナーゼ阻害剤およびそれらの抗炎症
活性(5-Lipoxygenase inhibitors and their anti-inflammatory activities)
」、Prog.Med.Chem.,Vol.29,pp.1-63; Riendeau ら、(1989)、「イムノアフィ
ニティーにより精製したブタの5−リポキシゲナーゼの阻害剤に対する感受性お
よび脂質ヒドロキシペルオキシドの活性化(Sensitivity of immunoaffinity-pu
rified porcine 5-lipoxygenase to inhibitors and activating lipid hydroxy
peroxides)」、Biochem.Pharmacol.,Vol.38,pp.2313-2321;Miyazawaら、(1985
)、「ある種の酵素合成におけるシクロオキシゲナーゼとリポキシゲナーゼ活性
に関するある種の非ステロイド系抗炎症剤および他の薬剤の効果(Effects of s
ome non-steroidal anti-inflammatory drugs and other agents on cycloxygen
ase and lipoxygenase activities in some enzyme preparations)」、Jap.J.P harmacol.
,Vol.38,pp.199-205、に開示されている。5−LO活性を阻害する化
合物を同定するための代表的な方法が実施例に開示されている。
本発明の方法に従い、少なくとも1種の5−LO阻害剤が、有効濃度で、潜在
的に癒着が形成される部位に、実質的な再上皮形成を可能にするに十分な期間維
持され
る。5−LO阻害剤は典型的には手術間全期間にわたって投与され、これには、
本発明の目的に合わせて、手術の直前から手術自体を通して手術の完了の少し後
までの期間が含まれ得る。
5−LO阻害剤の有効治療濃度は、体腔内における組織表面間での術後癒着の
形成を最小化又は阻止するものである。典型的には、投与可能な5−LO阻害剤
の濃度は、その下限は効果によって、その上限はその化合物の溶解度によって制
限される。一般には、5−LO阻害剤の有効治療濃度は、5−LO活性を約1な
いし約100%、好ましくは約10ないし約100%阻害するものである。
5−LO阻害剤は、手術の後に、適切なビヒクル、例えば、生理的食塩水溶液
、生理的食塩水中の5%DMSO又は生理的食塩水中の10%エタノールに含ま
せて、癒着の形成を低減又は阻止することが望ましい部位に直接投与することが
できる。しかしながら、本発明の好ましい態様に従うと、少なくとも1種の5−
LO阻害剤を、必要とされる濃度の化合物を再上皮形成に十分な期間保持するこ
とを可能にするドラッグデリバリーシステムを用いて、(例えば、手術後の皮膚
縫合の前に)単一用量のデリバリー法で投与する。適切なドラッグデリバリーシ
ステムは、それ自体本質的に非炎症性及び非免疫原性であり、有効レベルの5−
LO阻害剤を所望の期間維持するように5−LO阻害剤を放出することを可能に
する。
多種多様の代替物が徐放の目的に適するものとして当該技術分野において公知
であり、これらは本発明の範囲内にあることが意図されている。適切なデリバリ
ービヒクルには、マイクロカプセルもしくはミクロスフェア;リポソーム及び他
の脂質ベースの放出システム;クリスタロイド、及び粘性点滴剤;吸収性及び/
又は生分解性物理的障壁;並びにポリマー性デリバリー材料、例えば、ポリエチ
レンオキシド/ポリプロピレンオキシドブロック共重合体(例えば、ポロキサマ
ー)、ポリオルトエステル、架橋ポリビニルアルコール、ポリ無水物、ポリメタ
クリレート及びポリメタクリルアミドヒドロゲル、アニオン性炭水化物ポリマー
等が含まれるが、これらに限定されるものではない。有用なデリバリーシステム
は当該技術分野において公知であり、例えば、米国特許4,937,254号に
記述されている。この特許の開示の全体を参照することによりここに引用する。
所望の5−LO阻害剤の擬似ゼロオーダーの放出を達成する、特に適切な製剤
の1つは、ポリ(dl−ラクチド)、ポリ(dl−ラクチド−コ−グリコリド)
、ポリカプロラクトン、ポリグリコリド、ポリ乳酸−コ−グリコリド、ポリ(ヒ
ドロキシ酪酸)、ポリオルトエステル又はポリアセタールから調製される注射可
能なマイクロカプセル又はミクロスフェアを含む。
約50ないし約500μmのオーダーの直径を有するマイクロカプセル又はミ
クロスフェアを含む注射可能な
系は、他のデリバリー系を上回る利点を提供する。例えば、これらは一般に使用
される活性薬剤が少なく、医療外の職員が投与することが可能である。さらに、
このような系は、マイクロカプセルのサイズ、薬物充填量及び投与される投与量
を選択することにより、個別の薬物の放出の遅延及び速度の設計において本質的
に柔軟となる。加えて、このようなマイクロカプセルはガンマ線照射によってう
まく無菌化することができる。
マイクロカプセルは、液体又は固体の核物質を封じ込めるポリマー性の壁を含
む系である。このカプセル壁は、通常、核の物質とは反応しない。しかしながら
、高い壁に対する核の容量比を可能にするのに十分な薄さでありながらも破裂さ
せることなく通常通りに取扱うことを可能にするのに十分な強度を付与するよう
に設計される。カプセルの内容物は、拡散又はカプセル材料が溶解、溶融、破壊
、破裂もしくは除去される他の手段によって放出されるまで壁内に留まる。好ま
しくは、カプセル壁は、核の物質の徐放、遅延デリバリーを可能にするようにそ
のカプセル壁を通して核の物質を拡散させながら、適切な環境下において減成及
び分解するように作製することができる。
生分解性マイクロカプセルにおける放出の機構は、薬物の拡散とポリマーの生
分解との組み合わせである。したがって、放出の速度及び遅延はマイクロカプセ
ルのサイズ、薬物の含量及び質、並びに結晶化度、分子量及び
組成のようなポリマーのパラメータによって決定される。とりわけ、放出される
薬物の量の調整は、カプセル壁の厚さ、カプセルの直径、またはその両者の変更
によって達成される。ミクロスフェア及びマイクロカプセルの設計、調製及び使
用に関する詳細な情報は、例えば、Lewis,D.H.、「ラクチド/グリコリドからの
生物活性な薬剤の制御された放出(Controlled Release of Bioactive Agents f
rom Lactide/Glycolide Polymers)」、「ドラッグデリバリーシステムとしての
生分解性ポリマー(Biodegradable Polymers as Drug Delivery Systems)」中
、Jasor および Langer 編、pp.1-41(1990)、によって得られ、その開示の全体
を参照することによりここに引用する。ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)微小
粒子を用いるデキサメタゾンの持続性腹腔内放出が、Hoeckel,M.ら、「新規な治
療システムによってデリバリーされる持続性腹腔内デキサメタゾンによるラット
の腹膜癒着の防止(Prevention of Peritoneal Adhesions in the Rat with Sus
tained Intraperitoneal Dexamethasone Delivered by a Novel Therapeutic Sy
stem)」、Annales Chirurgiae et Gynaecologiae,Vol.76,pp.306-313(1987)に
記述されており、その開示の全体も参照することにより引用する。
当該技術分野における熟練者に公知のように、様々な方法がマイクロカプセル
の調製に現在利用可能であり、本発明による製剤を提供するためにそれらのいか
なるも
のをも用いることができる。徐放(すなわち、ほぼゼロオーダー)のためのマイ
クロカプセルの調製に適する生分解性ポリマー材料は、日常的な実験により、当
該技術分野における熟練者によって容易に決定される。さらに、生分解性ポリマ
ーに基づく、本発明に従う使用に適する代替デリバリー系(例えば、活性薬剤を
含む繊維又はフィラメント)も本発明の範囲内にあることが意図されている。
少なくとも1種の5−LO阻害剤の単一用量デリバリーのための代替アプロー
チには、上述のもののようなフィルムの形態の生分解性ポリマーの使用が含まれ
る。このようなフィルムは、適切な担体中にバイオポリマー及び5−LO阻害剤
を含む分散液滴を加圧された容器から標的部位に噴霧又は放出することにより作
製することができる。
本発明に従う、少なくとも1種の5−LO阻害剤の単一用量デリバリーのため
の別のアプローチは、リポソーム及び他の脂質ベースのデリバリー系の使用を包
含する。多層のビヒクル(もしくは、リポソーム)内への活性薬剤の封入は、標
的薬物のデリバリー及び薬物の滞留の延長の補助に用いられる公知の技術である
。典型的な手順においては、リポソームを形成する粉末化脂質混合物を水溶液(
例えば、リン酸緩衝生理的食塩水)中の所望の量の活性薬剤に添加して懸濁液を
形成する。適切な水和期間の後、この水和した懸濁液をオートクレーブ処理し
てリポソーム−活性薬剤調製品を得る。リポソームの形成に適する液体混合物は
、α−トコフェロールが添加されているクロロホルム中に溶解されたL−α−ジ
ステアロイルホスファチジルコリン及びコレステロールから調製することができ
る。しかしながら、リポソームを形成するための他の組成及び方法もこの目的に
有用である。イブプロフェン又はトルメチンを含むリポソームの腹腔内投与が、
Rodgers,K.ら、「非ステロイド系抗炎症薬を含むリポソームによる術後癒着の阻
止(Inhibition of Postsurgical Adhesions by Liposomes Containing Nonster
oidal Anti-inflammatory Drugs)」、Int.J.Fertil.,Vol.35,p.40(1990)に記
述されており、その開示の全体を参照することによりここに引用する。
他の脂質ベースのデリバリー系も本発明において用いることが意図されている
。有用な系の1つは、単一の2層脂質膜によって隔離され、各々活性成分を封入
する非同心球の水性チャンバーを有する球状粒子を含むデポフォーム(DepoFoam
)徐放製剤のような脂質フォームを含む(例えば、Kim,T.K.ら、(1993)「皮下投
与用の延長放出性モルヒネ組成物(Extended-release formulation of morphine
for subcutaneous administration)」、Cancer Chemother.Pharmacol.,Vol.33
,187; Chatelut,E.ら、(1993)「鞘内化学療法用の徐放性メトトレキサート組
成物(A slow-release methotrexate formulation for intrathecal chemothera
py)」、Cancer Chemother.P
harmacol.
,Vol.32,179、を参照のこと]。このような脂質粒子は細胞膜に見出さ
れるものと同一の非毒性脂質から作製される。
本発明による5−LO阻害剤をデリバリーするための他の適切な脂質ベースの
デリバリー系には、卵スフィノミエリン及び卵ホスファチジルコリンをベースと
するエマルジョン担体系が含まれる。このようなエマルジョン担体系の血液循環
滞留時間は長いもので、これらは高度に親油性の薬物をデリバリーするために開
発された。T.Takino ら、(1994)、「高度に親油性の薬物用の長時間循環され
るエマルジョンキャリヤー(Long Circulating Emulsion Carrier Systems for
Highly Lipophilic Drugs)」、Biol.Pharm.Bull.,Vol.17,pp.121-125。
本発明による少なくとも1種の5−LO阻害剤の単一用量デリバリーのための
さらに別の適切なアプローチには、クリスタロイド、すなわち、いわゆる粘性点
滴剤の使用が含まれる。クリスタロイドは、半透膜を通して拡散することが可能
な水溶性結晶性物質、例えばNaCl、として当該技術分野において公知である
。生理的食塩水のようなクリスタロイドの溶液は、クリスタロイド、クリスタロ
イド溶液又はクリスタロイド点滴剤として知られている。クリスタロイドにはリ
ン酸緩衝生理的食塩水、生理的食塩水又は乳酸化リンゲル溶液が含まれるが、こ
れらに限定されるものではない。活性薬剤と混合して用いられる高分子量粘性担
体にはデキストラン及びシクロ
デキストラン;ヒドロゲル;粘弾性体及び架橋粘弾性体を含む架橋粘性物質;カ
ルボキシメチルセルロース;ヒアルロン酸、架橋ヒアルロン酸、及びオルトエス
テルと配合されたヒアルロン酸が含まれるが、これらに限定されるものではない
。幾つかの研究が、粘性障壁溶液の使用それ自体が癒着形成の発生の低減におけ
る有利な効果を有し得ることを示唆しているが、それらの効果は、少なくとも1
種の5−LO阻害剤と担体との組み合わせと比較した場合には限られた範囲のも
のであると信じられる。トルメチンを含む粘性点滴剤の腹腔内投与がAbe,H.ら、
「生体内の術後細胞浸潤に関するトルメチンナトリウム塩−ヒアルロン酸の腹腔
内投与の効果(The Effect of intraperitoneal Administration of Sodium Tol
metin-Hyaluronic acid on the Postsurgecal Cell Infiltration In Vivo)」J .Surg.Res.
,Vol.49,p.322(1990)、に記述されており、その開示の全体を参照す
ることによりここに引用する。
さらに別のアプローチに従い、少なくとも1種の5−LO阻害剤が、単独で癒
着形成を低減する吸収性物理的障壁と組み合わせて投与される。当該分野におい
て研究を行う者には容易に明らかであるように、少なくとも1種の5−LO阻害
剤はそのような障壁に共有結合もしくは非共有結合(例えば、イオン結合)して
いてもよく、又は単にその中に分散されていてもよい。本発明のこの特定の態様
において用いられる特に好ましいビヒクルに
は、本出願と同時に出願された、Gere diZerega(南カリフォルニア大学、譲受
人)による「ヒドロキシエチルスターチ及び吸収性物理的障壁及び腔内担体装置
としてのそれらの使用」と題する米国特許出願番号08/482,235号に記
述されるヒドロキシエチルスターチが含まれ、この出願を参照することによりそ
の全体を引用する。
本発明において用いられる他の適切な物理的障壁には、ニュージャージー州ニ
ューブランスウィックのジョンソン・アンド・ジョンソン・メディカル社(John
son and Johnson Medical,Inc.)からインターシード(TC7)(INTERCEED(TC
7))の名称で入手可能な酸化再生セルロースが含まれる。[インターシード(T
C7) 癒着障壁研究グループ(INTERCEED(TC7)Adhesion Barrier Study Group
)、「インターシード(TC7)による術後癒着の防止、吸収性癒着障壁:期待
のもてる、ランダム化されたマルチセンターでの臨床研究(Prevention of post
surgical adhesion by INTERCEED(TC7),an absorbable adhesion barrier: a pr
ospective,randomized multicenter clinical study)」、Fertility and Steri lity
,Vol.51,p.933(1989)]。ヘパリンを外傷表面にデリバリーするための担体
としての物理的障壁の使用が、Diamod,M.P.ら、「インターシード(TC7)と
ヘパリンとのウサギの子宮角モデルの癒着形成を低減させる相乗効果(Synergis
tic effects of INTERCEED(TC7)and heparin
in reducing adhesion formation in the rabbit uterine horn model)」、Fer tility and Sterility
,Vol.55,p.389(1991)及び、Diamond,M.P.ら、「癒着再形
成:インターシード(TC7)とヘパリンとの使用による低減化(Adhesion ref
ormation: reduction by the use of INTERCEED(TC7)plus heparin)」、J.Gvn. Surg.
,Vol.7,p.1(1991)に開示されており、その開示の全体を参照することによ
りここに引用する。
本発明は添付の実施例を参照することによってより理解することが可能であり
、これらの実施例は単に説明するためのものであって、いかなる意味においても
以下の添付の請求の範囲に定義される本発明の範囲を限定するものと見なされる
べきではない。実施例
腹膜手術後の癒着形成の低減における5−リポキシゲナーゼ阻害剤の効力を確
認する複数の研究を行った。2つのモデル系、側壁癒着モデル及び子宮角モデル
を用いた。これらのモデルの両者を用いて得られた結果と癒着の阻止における有
用性との間の明瞭な相関は、明瞭な臨床効力が示され、かつ婦人科の手術におけ
る癒着の阻止についてFDAの認可が得られているインターシード(TC7)に
より示されている。
腹膜側壁モデルにおいては、ウサギを1.2mg/kgのアセチルプロマジン
で予備麻酔し、55mg/kg
の塩酸ケタミン及び5mg/kgのキシラジンの混合物を筋肉内注射することに
より麻酔した。無菌手術の準備をした後、正中線開腹を行った。右腹部側壁で3
×5cmの腹膜の領域及び横断腹筋(transversus abdominismuscle)を切除し
た。盲腸を体外に露出させ、指で押して盲腸表面全体にわたって漿膜下出血を起
こした。その後、盲腸をその正常な解剖学的位置に戻した。試験しようとする化
合物をアルツェット(Alzet)ミニ浸透圧ポンプ(アルザ社(Alza Corporation
)、パロアルト、CA、USA)に入れ、術後の期間全体にわたってその分子が
連続的に放出されるようにした。このアルツェットミニ浸透圧ポンプを皮下空間
に設置し、デリバリーチューブでポンプと側壁の傷害部位とをつなげた。対照ウ
サギのポンプにはビヒクルを入れた。腹壁及び皮膚を標準化された方法で閉じた
。
7日後、これらのウサギを犠牲にし、癒着に関与する側壁傷害の面積の割合を
決定した。加えて、形成された癒着の粘着度を以下のシステムを用いて採点した
。
0 = 癒着なし
1 = 穏やかで容易に切り離すことができる癒着
2 = 中度の癒着;切断不可能、臓器を損傷しない
3 = 極度の癒着;切断不可能、除去する際に損傷を与える
癒着の面積又は粘着度の減少が有益であるものと考えられる。
さらなる実験においては、ウサギ子宮角モデルを用いた。このモデルは、事前
に、術後にウサギに重篤な癒着を引き起こすことが示されている[Nishimura,K.
ら、「ウサギでの術後癒着の防止に対するイブプロフェンの使用(The Use of I
buprofen for the Prevention of Postoperative Adhesions in Rabbits)」、A m.J.Med.
,Vol.77,pp.102-106(1984)]。これらのウサギを麻酔(130mg/k
gのケタミン及び20mg/kgのアセチルプロマジン、im)し、無菌手術の
準備をした。正中線開腹を行い、斑点状の出血が生じるまでガーゼで漿膜表面を
擦ることにより両方の子宮角に外科的に傷を付けた。側枝血液供給を取り除くこ
とにより両方の子宮角の虚血を誘発した。外傷を付けた後、腹壁を2層に閉じた
。試験しようとする阻害剤は、配管を傷を負った子宮角全体にわたって配置した
ことを除いて、腹膜側壁モデルについて説明される通りにデリバリーした。
子宮角モデルに関しては、癒着の全体的な程度を表す初期評点を付ける(0な
いし4+)。様々な臓器への癒着に関与する角の表面の割合を、表の総合癒着評
点の下に示す。
ここに報告される例で用いられるモデル系において、典型的な5−リポキシゲ
ナーゼ阻害剤化合物であるフェニドン、NDGA、ジロイトン、及びETYAが
腹膜癒着の発生を低減させることが示された。これらの実施例においては、薬物
を10μl/hrの速度で標的部位に
デリバリーした。用いられた濃度範囲は0.0001ないし0.5mg/mlで
あった。本発明に従って癒着形成を阻止するためには、高い全身レベルの5−リ
ポキシゲナーゼ阻害剤が必要ではないと思われる。実施例1
: 一般的な5−LO活性の検定手順
この実施例においては、検定手順を提供して5−LO活性を阻害する化合物を
同定する。Riendeauら、(1989)、「イムノアフィニティーにより精製したブタの
5−リポキシゲナーゼの阻害剤に対する感受性および脂質ヒドロキシペルオキシ
ドの活性化(Sensitivity of immunoaffinity-purified porcine 5-lipoxygenas
e to inhibitors and activating lipid hydrocyperoxides)」、Biochem.Pharm acol.
,Vol.38,pp.2312-2321、に開示されている手順に従い、ブタの白血球から
単離された5−LOと、アラキドン酸、ATP及びカルシウムとをインキュベー
ションした後に、235nmでの吸光度の増加から5−リポキシゲナーゼ活性を
測定する。標準反応混合物は、最終容積0.5mL中に0.55Mのトリス−H
Cl、pH7.4、0.2mMのATP、0.4mMのCaCl2、20もしく
は27mMのアラキドン酸(エタノール中の100倍濃縮溶液5μl)、24μ
g/mlホスファチジルコリン、及び酵素調製品のアリコート(5−75μl)
を含む。酵素の容量はクロマトグラフィー溶離バッファ(0.5Mのトリス中に
0.2%のデオキシ
コール酸ナトリウム、0.5mMのジチオトレイトール及び1mMのEDTAを
含む50mMの炭酸ナトリウム、pH10)を用いて100μlに仕上げる。C
aCl2(0.4M)及びホスファチジルコリン(24μg/ml)を含むバッ
ファ溶液を0.2μmナルジーン(Nalgene)フィルターを通して濾過する。
検定反応はセミマイクロキュベット(容量1.4ml、光路長100mm及び
内幅4mm)内で行い、酵素を検定混合物に添加することにより開始する。この
反応混合物をパスツールピペットで穏やかに混合した(15秒)後、室温でA23
5の変化を時間の関数として記録する。実施例2
: フェニドンの側壁モデル評価
上に論じられている5−LO阻害剤であるフェニドン(シグマケミカル社(Si
gma Chemical Co.)、セントルイス、MO)の癒着形成の阻止における効力を側
壁モデルにおいて2種類の用量で評価した。この薬物を7日間10μl/hrの
速度でデリバリーし、7日後に動物を犠牲にした。用いられたビヒクルは生理的
食塩水であった。対照に対して、フェニドンは、高用量で6匹のウサギのうちの
5匹、低用量で6匹のうちの4匹において有効であることが見出された。傷害部
位に炎症又は沈着は認められなかった。これらの結果を表1にまとめる。データ
のスチューデントt分析を行い、それらの結果も表1に報告する。
実施例3: NDGAの側壁モデル評価
上に論じられている5−LO阻害剤であるノルジヒドログアイヤレチン酸(N
DGA)(シグマケミカル社、セントルイス、MOから入手)の癒着形成の阻止
における効力を側壁モデルにおいて2種類の用量で評価した。この薬物を7日間
10μl/hrの速度でデリバリーし、7日後に動物を犠牲にした。用いられた
ビヒクルは生理的食塩水中の0.1%エタノール、pH10.3であった。対照
に対して、NDGAは、高用量で6匹のウサギのうちの5匹、低用量で5匹のう
ちの3匹において有効であるように思われた。傷害部位に炎症又は沈着は認めら
れなかった。これらの結果を表2にまとめる。データのスチューデントt分析を
行い、それらの結果も表2に報告する。
実施例4: ETYAの側壁モデル評価
上に論じられている5−LO阻害剤である、5,8,11,14−エイコサテ
トライン酸(ETYA)(シグマケミカル社、セントルイス、MOから入手)の
癒着形成の阻止における効力を側壁モデルにおいて2種類の用量で評価した。こ
の薬物を7日間10μl/hrの速度でデリバリーし、7日後に動物を犠牲にし
た。用いられたビヒクルは生理的食塩水中の11.1%エタノール、pH10.
6であった。対照に対して、ETYAは、このウサギ側壁モデルにおける癒着の
阻止において有効であった。これらの結果を表3にまとめる。データのスチュー
デントt分析を行い、それらの結果も表3に報告する。
実施例5: フェニドンのDUHモデル評価
上記実施例2において例示される化合物であるフェニドンの癒着形成の阻止に
おける効力をダブル子宮角(double uterine horn、DUH)モデルにおいて2
種類の用量で評価した。この薬物を7日間10μl/hrの速度でデリバリーし
、7日後に動物を犠牲にした。用いられたビヒクルは生理的食塩水であった。統
計分析を非パラメータ的なダブル子宮角モデルデータの総合評点に対して行った
。データに順位序列を付け、順位値を付与してこれらの順位に対する分散の分析
を行った。これらの結果を表4及び5にまとめる。対照に対して、フェニドンは
このモデルにおける癒着形成の低減に有効であった。
表4から得られた非パラメータ的なデータの総合評点に対して統計分析を行っ
た。これらのデータに順位序列を付け、順位値を割り当てた。次に、これらの順
位の分散の分析を行った。得られたスチューデントt検定の結果を以下にまとめ
る。
実施例6: NDGAのDUHモデルの評価
上記実施例3において例示される化合物であるNDGAの癒着形成の阻止にお
ける効力をダブル子宮角モデルにおいて2種類の用量で評価した。この薬物を7
日間10μl/hrの速度でデリバリーし、7日後に動物を犠牲にした。用いら
れたビヒクルは生理的食塩水中の0.1%エタノール、pH10.3であった。
統計分析を非パラメータ的なダブル子宮角モデルデータの総合評点に対して行っ
た。データに順位序列を付け、順位値を付与してこれらの順位に対する分散の分
析を行った。これらの結果を表6及び7にまとめる。対照に対して、NDGAは
このモデルにおける癒着形成の低減に有効であった。
表6から得られた非パラメータ的なデータの総合評点に対して統計分析を行っ
た。これらのデータに順位序列を付け、順位値を割り当てた。次に、これらの順
位の分散の分析を行った。得られたスチューデントt検定の結果を以下にまとめ
る。
実施例7: ETYAのDUHモデル評価
上記実施例4において例示される化合物であるETYAの癒着形成の阻止にお
ける効力をダブル子宮角モデルにおいて2種類の用量で評価した。この薬物を7
日間10μl/hrの速度でデリバリーし、7日後に動物を犠牲にした。用いら
れたビヒクルは生理的食塩水中の11.1%エタノール、pH10.6であった
。統計分析をダブル子宮角モデルの非パラメータ的なデータの総合評点に対して
行った。データに順位序列を付け、順位値を付与してこれらの順位に対する分散
の分析を行った。これらの結果を表8及び9にまとめる。対照に対して、ETY
Aはこのモデルにおける癒着形成の低減に有効であった。
表8から得られた非パラメータ的なデータの総合評点に対して統計分析を行っ
た。これらのデータに順位序列を付け、順位値を割り当てた。次に、これらの順
位の分散の分析を行った。得られたスチューデントt検定の結果を以下にまとめ
る。
実施例8: ETYAの動力学的DUHモデル評価
ウサギのダブル子宮角モデルにおけるETYAの効力を動力学研究においてさ
らに評価した。この研究においては、手術の後の様々な時間(24、48又は7
2時間)でポンプをはずし(D/C)、癒着形成の低減に有効な薬物に晒される
期間を決定した。これらの結果を表10及び11にまとめる。
表10から得られた非パラメータデータの総合評点に対して統計分析を行った
。これらのデータに順位序列を付け、順位値を割り当てた。次に、これらの順位
の分散の分析を行った。得られたスチューデントt検定の結果を以下にまとめる
。
実施例9: DUHモデルにおけるETYAの用量応答研究
次に、ETYAを用いる用量応答研究をダブル子宮角モデルにおいて行い、癒
着形成の低減において5−LO
の阻害剤が有効である範囲をより明確にした。条件は実施例7に説明されるもの
と同じである。これらの結果を表12及び13にまとめる。
表12から得られた非パラメータ的なデータの総合評点に対して統計分析を行
った。これらのデータに順位序列を付け、順位値を割り当てた。次に、これらの
順位の分散の分析を行った。得られたスチューデントt検定の結果を以下にまと
める。
実施例10: ジロイトンの側壁モデル評価
上に論じられている5−LO阻害剤であるジロイトンの癒着形成の阻止におけ
る効力を、側壁モデルにおいて2種類の用量で評価した。この薬物を7日間10
μl/hrの速度でデリバリーし、7日後に動物を犠牲にした。用いられたビヒ
クルは生理的食塩水であった。対照に対して、ジロイトンは試験した両濃度で有
効であることが見出された。傷害部位に炎症又は沈着は認められなかった。これ
らの結果を表14にまとめる。データのスチューデントt分析を行い、それらの
結果も表14に報告する。
本発明の基礎的な新規な特徴を示して説明したが、当該技術分野における熟練
者が本発明の精神から逸脱することなく説明された形態および細部における様々
な省略、置き換え及び変更をなすことが可能であることは理解されるであろう。
したがって、本発明は、以下の請求の範囲によって指示される通りにのみ制限さ
れる。
【手続補正書】特許法第184条の8第1項
【提出日】1997年6月19日
【補正内容】
請求の範囲
1. 術後癒着の形成を低減又は阻止する医薬の製造するための5−リポキシゲ
ナーゼ阻害剤を含有する組成物の使用。
2. 前記5−リポキシゲナーゼ阻害剤がフェニドン、NDGA、EYTA又は
ジロイトンである請求項1に記載の組成物の使用。
3. 前記5−リポキシゲナーゼ阻害剤をデリバリービヒクルと共に投与する請
求項1に記載の組成物の使用。
4. 前記デリバリービヒクルがマイクロカプセル又はミクロスフェアの形態で
ある請求項3に記載の組成物の使用。
5. 前記マイクロカプセル又はミクロスフェアが、ポリ(dl−ラクチド)、
ポリ(dl−ラクチド−コ−グリコリド)、ポリカプロラクトン、ポリグリコリ
ド、ポリ乳酸−コ−グリコリド、ポリ(ヒドロキシ酪酸)、ポリオルト−エステ
ル、ポリアセタール及びそれらの混合物からなる群より選択される生分解性ポリ
マーからなる請求項4に記載の組成物の使用。
6. 前記デリバリービヒクルがフィルムの形態である請求項3に記載の組成物
の使用。
7. 前記フィルムが、ポリ(dl−ラクチド)、ポリ(dl−ラクチド−コ−
グリコリド)、ポリカプロラクトン、ポリグリコリド、ポリ乳酸−コ−グリコリ
ド、ポ
リ(ヒドロキシ酪酸)、ポリオルト−エステル、ポリアセタール及びそれらの混
合物からなる群より選択される生分解性ポリマーからなる請求項6項に記載の組
成物の使用。
8. 前記デリバリービヒクルがリポソームの形態である請求項3項に記載の組
成物の使用。
9. 前記リポソームがL−α−ジステアロイルホスファチジルコリンからなる
請求項8に記載の組成物の使用。
10. 前記デリバリービヒクルが脂質フォームの形態である請求項3に記載の
組成物の使用。
11. 前記デリバリービヒクルが点滴剤の形態である請求項3に記載の組成物
の使用。
12. 前記点滴剤がリン酸緩衝生理的食塩水、生理的食塩水、及び乳酸化リン
ゲル溶液からなる群より選択されるクリスタロイド担体を含む請求項11項に記
載の組成物の使用。
13. 前記点滴剤がデキストラン、シクロデキストラン、ヒドロゲル、カルボ
キシメチルセルロース、ヒアルロン酸、架橋ヒアルロン酸、オルトエステルと配
合されたヒアルロン酸、硫酸コンドロイチン及びそれらの混合物からなる群より
選択される高分子量担体を含む請求項11項に記載の組成物の使用。
14. 前記5−リポキシゲナーゼ阻害剤を吸収性物理的障壁と組み合わせて投
与する請求項1に記載の組成物の使用。
15. 前記吸収性物理的障壁がヒドロキシエチルスターチである請求項14に
記載の組成物の使用。
16. 前記吸収性物理的障壁が酸化再生セルロースである請求項14に記載の
組成物の使用。
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(51)Int.Cl.6 識別記号 FI
A61K 47/30 A61K 47/30 B