JPH1150137A - 熱処理部材、熱処理方法および熱処理装置 - Google Patents

熱処理部材、熱処理方法および熱処理装置

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JPH1150137A
JPH1150137A JP21825097A JP21825097A JPH1150137A JP H1150137 A JPH1150137 A JP H1150137A JP 21825097 A JP21825097 A JP 21825097A JP 21825097 A JP21825097 A JP 21825097A JP H1150137 A JPH1150137 A JP H1150137A
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JP
Japan
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temperature
pin
ferrite
heating
heat
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JP21825097A
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English (en)
Inventor
Shoji Yamaguchi
祥司 山口
Masao Shinozaki
征男 篠崎
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Hitachi Construction Machinery Co Ltd
Original Assignee
Hitachi Construction Machinery Co Ltd
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Publication date
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 焼き入れ組織の中に靭性に富むフェライト組
織を積極的に析出させることにより、マルテンサイト変
態時の変態歪みをフェライト組織で緩和し、焼き割れや
変形等の発生を抑えることができるようにする。 【解決手段】 熱処理対象のピン1を予め決められた形
状に成形・加工した後、これを搬送装置2で加熱炉3内
に搬入して加熱し、ピン1を全体的にオーステナイト化
させる。次に、加熱状態のピン1を温度保持装置4内で
オーステナイト化温度よりも、例えば10〜30℃だけ
低い温度に保持して、ピン1中に微量のフェライトを析
出させる。そして、この状態で搬送装置2によりピン1
を急冷装置8に搬入し、ピン1を表面側から冷却水等で
急速に冷却する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば建設機械の
足廻り部品等のように耐摩耗性や耐衝撃性が要求される
鉄鋼製の部材に熱処理を施すようにしてなる熱処理部
材、熱処理方法および熱処理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、建設機械の足廻り部品として用
いられるトラックリンクのピン、トラックシューまたは
上ローラや下ローラのピン等の鉄鋼製部材は、過酷な条
件下で使用されることが多いために高い耐摩耗性や耐衝
撃性等が要求される。
【0003】このため、これらの鉄鋼製部材はそれぞれ
必要とされる形状に成形・加工された後に熱処理が施さ
れ、熱処理部材として製造される。なお、線材等からな
る鉄鋼製部材の熱処理方法としては、例えば特開昭57
−161037号公報等が挙げられる。
【0004】この種の従来技術による熱処理方法は、熱
処理対象の部材を加熱する加熱工程と、加熱された前記
部材を外側から急速に冷却する冷却工程とからなり、前
記部材を加熱した後に急冷してマルテンサイト変態を起
こさせることにより、所望の機械的性質(例えば耐摩耗
性や耐衝撃性等)を得るようにしている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上述した従
来技術による熱処理方法では、熱処理対象の部材を一旦
加熱した後に急冷しているに過ぎないために、熱処理部
材の表面側で焼割れが発生したり、熱処理歪みが生じた
りする等の問題がある。
【0006】即ち、一旦加熱した部材を冷却するとき
に、冷却速度が十分に速い場合にはフェライトが析出せ
ず、表面側ではマルテンサイト変態を起こす。また、部
材内部においては、表面に比較して冷却速度が遅くなる
ものの、厚肉の部材でない限りフェライトは析出せず、
ベイナイト組織、または一部マルテンサイトとベイナイ
トの混合組織となる。
【0007】そして、焼き入れ時の冷却条件をきつくす
ることによって熱処理部材の硬度は上がり、また焼き入
れ深さも深くなる。しかし、この反面、冷却時の焼き割
れや変形等が生じ易くなるという問題がある。
【0008】本発明は上述した従来技術の問題に鑑みな
されたもので、本発明は焼き入れ組織の中に靭性に富む
フェライト組織を積極的に析出させることにより、マル
テンサイト変態時の変態歪みをフェライト組織で緩和で
き、焼き割れや変形等の発生を確実に抑えることができ
ると共に、疲労寿命等を大幅に延ばすことができ、耐摩
耗性や耐衝撃性等を向上できるようにした熱処理部材、
その熱処理方法および熱処理装置を提供することを目的
としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】上述した課題を解決する
ために、請求項1の発明は、鉄鋼材料からなる部材を熱
処理することにより製造され、その表面側はフェライト
とマルテンサイトの混合組織からなり、内部は少なくと
もフェライトとベイナイトの混合組織からなる構成を採
用している。
【0010】上記構成により、熱処理部材は表面側から
内部に亘ってフェライト組織が形成されているから、部
材表面側でのマルテンサイト変態時にも靭性に富むフェ
ライト組織によって変態歪みを緩和することができる。
【0011】また、請求項2の発明では、熱処理部材の
内部組織をフェライトとベイナイトとマルテンサイトの
混合組織としているから、例えば部材の肉厚が薄い場合
に表面側から内部に亘ってマルテンサイト変態が起きて
も、このときの変態歪みをフェライト組織により緩和で
きる。
【0012】一方、請求項3による熱処理方法の発明
は、熱処理対象の部材を全体的にオーステナイト化温度
以上まで加熱する加熱工程と、加熱した前記部材をオー
ステナイト化温度よりも予め決められた温度だけ低い温
度に保持する温度保持工程と、温度保持した前記部材が
マルテンサイト変態を起こすように前記部材を外側から
急速に冷却する急冷工程とからなる。
【0013】上記の熱処理方法によれば、加熱工程で熱
処理対象の部材を全体的にオーステナイト化温度以上ま
で加熱した後に、温度保持工程により前記部材をオース
テナイト化温度よりも一定温度だけ低い温度に冷却と加
熱を繰返すようにして保持でき、この部材中にフェライ
ト組織を析出させることができる。そして、その後の急
冷工程により前記部材にマルテンサイト変態が生じて
も、この相変態による歪みを先に析出したフェライト組
織で緩和することができる。
【0014】また、請求項4の発明は、温度保持工程に
おいて、加熱した部材を表面から内部に亘ってオーステ
ナイト化温度よりも10〜30℃だけ低い温度に保持す
るようにしている。
【0015】これにより、加熱工程でオーステナイト組
織となった部材中に、温度保持工程で表面側から内部に
亘ってフェライト組織を析出させることができる。
【0016】さらに、請求項5による熱処理装置の発明
は、熱処理対象の部材を搬送する搬送手段と、前記搬送
手段の途中に設けられ前記部材をオーステナイト化温度
以上まで加熱する加熱手段と、前記加熱手段の下流側に
位置して前記搬送手段の途中に設けられ前記部材をオー
ステナイト化温度よりも予め決められた温度だけ低い温
度に保持する温度保持手段と、前記温度保持手段の下流
側に設けられ前記部材を外側から急速に冷却する冷却手
段とからなる構成を採用している。
【0017】これにより、熱処理対象の部材を搬送手段
で加熱手段へと搬送し、前記加熱手段で部材を自動的に
加熱でき、加熱後の部材を加熱手段から温度保持手段の
位置へと搬送できる。そして、温度保持手段では加熱後
の部材をオーステナイト化温度よりも低い温度に冷却と
加熱を繰返して保持することにより、この部材中にフェ
ライトを析出させることができ、その後は冷却手段で部
材を外側から急冷することにより、少なくとも部材の表
面側にマルテンサイト変態を起こさせることができる。
【0018】また、請求項6の発明では、温度保持手段
を、熱処理する部材を回転させる回転機構と、前記回転
機構により回転される前記部材に向けて冷却流体を噴霧
する冷却装置と、前記冷却装置とは異なる位置に設けら
れ、前記回転機構で回転される前記部材を外側から加熱
する加熱装置とから構成している。
【0019】この場合には、加熱処理によりオーステナ
イト化した部材を回転機構で回転させつつ、この部材に
対して冷却装置による冷却流体の噴霧と加熱装置による
加熱とを繰返すことができ、前記部材をオーステナイト
化温度よりも低い一定温度に保つことができる。
【0020】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態による
熱処理部材、熱処理方法および熱処理装置について添付
図面に従って詳述する。
【0021】ここで、図1ないし図7は本発明の第1の
実施例による熱処理装置を示している。図中、1,1,
…は熱処理対象の部材となるピンで、これら各ピン1は
履帯のトラックリンク(図示せず)間を連結する連結ピ
ンとして、例えば炭素鋼等の鉄鋼材料から丸棒状に形成
されている。そして、各ピン1は後述の如く熱処理され
ることにより熱処理部材として製造され、高い耐摩耗性
や耐衝撃性等が与えられるものである。
【0022】2は搬送手段としての搬送装置で、この搬
送装置2は、各ピン1を後述の加熱炉3よりも上流側か
ら矢示X方向に後述する急冷装置8の下流側に向けて搬
送する搬送コンベア2Aと、この搬送コンベア2Aに一
定間隔をもって設けられ、搬送コンベア2Aから上向き
に突出した昇降シリンダ2B,2B,…と、各昇降シリ
ンダ2Bのロッド先端側に設けられ、各ピン1を下側か
ら支持する支持具2C,2C,…とから大略構成されて
いる。
【0023】3は搬送装置2の途中に設けられた加熱手
段としての加熱炉で、この加熱炉3は略箱形状に形成さ
れ、その内部にはピン1の載置台3Aおよび加熱源とし
てのバーナ3B,3B等が設けられている。そして、加
熱炉3は搬送コンベア2Aによって矢示X方向に搬送さ
れてくる各ピン1を各バーナ3Bにより、図4中に示す
As 点のオーステナイト化温度以上の温度(例えば80
0〜850℃程度)下で30分〜1時間程度に亘って加
熱し、鉄鋼材料からなる各ピン1を全体的にオーステナ
イト化させるものである。
【0024】4は加熱炉3の下流側に位置して搬送コン
ベア2Aの途中に設けられた温度保持手段としての温度
保持装置で、この温度保持装置4は図2に示す如く、ピ
ン1を同軸の回転軸5A,5Bを中心にして回転させる
回転機構5と、後述の冷却装置6および加熱装置7等と
から構成されている。
【0025】そして、温度保持装置4はピン1に対して
その外周側から冷却と加熱を繰返すことにより、図4中
に示すAs 点(オーステナイト化温度)以上まで加熱さ
れたピン1をその表面から内部に亘ってオーステナイト
化温度よりも10〜30℃だけ低い温度に、例えば2〜
5分程度の時間に亘り保持するものである。
【0026】ここで、回転機構5は、回転軸5A,5B
間でピン1を軸方向両端側から挟持する一対の挟持具5
C,5Cと、回転軸5Aを回転可能に支持するブラケッ
ト5Dと、このブラケット5Dと挟持具5Cとの間に配
設され、ピン1に対する挟持力を発生させるスプリング
5Eと、回転軸5Bに連結され、ピン1を各挟持具5C
と共に回転軸5A,5Bを中心にして回転駆動するモー
タ5Fとから構成されている。そして、ピン1は回転機
構5により十分に遅い速度でゆっくりと回転されるもの
である 6は回転機構5により回転されるピン1の外周面に向け
て冷却流体を噴霧する冷却装置で、この冷却装置6は図
2に示すように、ピン1のほぼ全長に亘って軸方向に延
び、その長さ方向途中部位に径方向のノズル口6A,6
A,…が複数個列設された噴霧管6Bと、この噴霧管6
B内に冷却流体としての冷却用空気(液体または気体の
冷却剤を必要に応じて混合させた空気)を供給する導管
6Cと、この導管6Cの途中に設けられた開閉弁6Dと
から構成されている。
【0027】ここで、開閉弁6Dはピン1が回転機構5
にセットされ回転軸5A,5Bを中心にして回転駆動さ
れるまでは閉弁状態を保ち、冷却用空気が噴霧管6B内
に供給されるのを遮断する。そして、冷却装置6は、回
転機構5によるピン1の回転が開始されたときには開閉
弁6Dを開き、噴霧管6Bの各ノズル口6Aからピン1
の外周面に向けて冷却用空気を噴霧させることにより、
ピン1を空気噴射の自然対流で冷却し、ピン1の表面か
ら内部に亘る温度差を可能な限り小さく抑えるようにし
ている。
【0028】即ち、この場合の冷却方法は、ピン1を表
面側から内部に亘って出来るかぎり均一の温度に冷却す
る目的から、比較的冷却能が低く、かつその幅が広くて
制御し易い空気噴射による自然対流でピン1を冷却させ
る方法を採用しているものである。
【0029】7はピン1の径方向で冷却装置6の各ノズ
ル口6Aとは反対側の位置に配設された加熱装置で、こ
の加熱装置7は非接触式加熱方式を採用した赤外線ラン
プ等で構成され、回転機構5で回転されるピン1の外周
面に向けて赤外線照射を行うものである。そして、加熱
装置7は、冷却装置6による空気噴霧でピン1から奪っ
た熱量よりも僅かに低い熱量をピン1に与えることによ
り、このピン1をその表面から内部に亘って前記オース
テナイト化温度よりも10〜30℃だけ低い温度に保つ
ようになっている。
【0030】8は温度保持装置4の下流側に配設された
冷却手段としての急冷装置で、この急冷装置8は図1に
示す如く、前記回転機構5とほぼ同様の回転機構9と、
回転機構9により回転されるピン1の周囲に一定間隔を
もって配設された複数の冷却用ノズル10,10,…と
から構成されている。そして、急冷装置8は回転機構9
により回転されるピン1の外周面に向けて、各冷却用ノ
ズル10から冷却水等の冷却媒体を噴射させることによ
り、ピン1を図4中のMs 点(例えば300℃程度のマ
ルテンサイト化開始温度)以下まで急速に冷却するもの
である。
【0031】本実施例による熱処理装置は上述の如き構
成を有するもので、次にピン1の熱処理方法について図
4ないし図7を参照して説明する。
【0032】まず、図6に示す成形工程では、鉄鋼材料
からなるピン1を丸棒状に成形・加工し、この状態(熱
処理前の状態)ではピン1の結晶構造がフェライト
(F)とパーライト(P)とからなるフェライト・パー
ライト組織(F)+(P)として形成されている。
【0033】次に、このピン1を搬送装置2により加熱
炉3内へと図1に示す如く搬入し、この加熱炉3内でピ
ン1を図4中に示すAs 点(オーステナイト化温度)以
上まで加熱する(加熱工程)。そして、この加熱工程は
加熱の開始時点から図4中の時間T1 まで、例えば30
分〜1時間程度に亘って続行される。
【0034】ここで、図5に例示した炭素含有量が0.
3重量%の炭素鋼では、例えば800℃程度の温度がA
s 点のオーステナイト化温度になる。そして、この炭素
鋼によりピン1を形成した場合には、加熱工程でピン1
は800℃以上の温度まで加熱される。
【0035】この場合、加熱工程の初期段階では、ピン
1の表面側と内部との間に温度差が生じ、ピン1の内部
温度はAs 点まで早期には上昇しないから、ピン1は図
6に示す如く内部がフェライト・パーライト組織(F)
+(P)を保ち、表面側のみがオーステナイト(A)と
して相変化する。そして、加熱工程を続けるうちにピン
1の内部温度がAs 点以上まで上昇することにより、ピ
ン1は全体がオーステナイト(A)として相変化するよ
うになる。
【0036】次に、全体がオーステナイト(A)に相変
化したピン1を、図1に示す搬送装置2により温度保持
装置4内へと搬入し、この温度保持装置4内では回転機
構5にピン1をセットした状態で、このピン1を図2に
示す回転軸5A,5Bを中心にしてゆっくりを回転させ
つつ、ピン1の外周面に向けて冷却装置6による冷却用
空気の噴霧と加熱装置7による赤外線照射とを、図4の
時間T1 〜T2 に亘り繰返すようにする(温度保持工
程)。
【0037】この場合、加熱装置7による加熱エネルギ
は、冷却装置6からの冷却用空気によりピン1から奪っ
た熱エネルギを越えないように、冷却によって奪った熱
容量よりも小さい熱量に抑える。そして、回転機構5に
よりピン1を回転させつつ、冷却装置6による冷却と加
熱装置7による加熱とを交互に繰返すことによってピン
1に熱サイクルを与え、ピン1の表面から内部に亘って
徐々に温度を下げるようにする。これにより、図6に示
す温度保持工程では、前述の加熱工程により全体がオー
ステナイト(A)に相変化したピン1中にフェライトと
してのフェライト組織(F)を析出させる。
【0038】ここで、フェライトは図3中に示す如く保
持時間と温度との関係で、フェライト析出開始特性11
とフェライト析出終了特性12とが予め求められること
が知られている。そして、オーステナイト化温度(図4
中のAs 点)とパーライト析出温度(図示せず)との中
間温度、例えば図4中のAs 点よりも10〜30℃低い
Af 点の温度に保持した場合には、図3に示す如く時間
Tf1でフェライトの析出が開始され、時間Tf2ではフェ
ライトの析出が終了し、これ以上の時間に亘って温度保
持を続けてもフェライトの析出量が増えることはない。
【0039】また、このAf 点の温度よりも低い温度ま
でピン1を冷却した場合には、ピン1中のフェライトの
析出量が増え過ぎることがあり、さらに、保持時間から
冷却開始時間までの時間管理が難しくなることが実験で
確認された。そこで、本実施例による温度保持工程は、
オーステナイト化温度のAs 点よりも10〜30℃だけ
低いAf 点の温度で行うことにより、ピン1中にフェラ
イト(F)を必要量(微量)だけ析出させるものであ
る。
【0040】そして、この温度保持工程は冷却速度が十
分に緩やかであるため、結果的に図3に示す等温変態線
図における、最終保持温度での等温変態と見做すことが
できる。また、この温度におけるフェライトの析出量は
素材の炭素含有量と保持温度によって決められることに
なるので、図3に示す時間Tf2以上に保持時間を長くし
てもフェライトの析出量は変わらない。なお、図4中の
時間T1 〜T2 に亘る温度保持工程は、図3中の時間T
f1〜Tf2よりも長い時間に設定される。
【0041】次に、図4に示す時間T3 以降の急冷工程
では、図1に示す急冷装置8の回転機構9にピン1をセ
ットした状態でピン1をゆっくりと回転させつつ、各冷
却用ノズル10からピン1の外周面に向けて冷却水等を
噴射させる。これにより、時間T2 から時間T3 までの
短時間でピン1の表面側を図4中のMs 点(マルテンサ
イト化開始温度)以下まで急速に冷却する。
【0042】この結果、前記温度保持工程で結晶構造が
オーステナイト(A)とフェライト(F)の混合組織と
なったピン1の表面側は、例えば300℃程度のMs 点
以下まで急冷されることによってマルテンサイト変態を
起こし、図7に示す如くマルテンサイト(M)とフェラ
イト(F)の混合組織になる。また、外径が比較的大き
い厚肉のピン1の場合には、急冷工程によりピン1の内
部が急速に冷却されることはないので、その内部組織は
フェライトの周りをベイナイトが取り囲むようにベイナ
イト(B)とフェライト(F)の混合組織となる。
【0043】かくして、本実施例によれば、熱処理対象
のピン1を予め決められた形状に成形・加工した後、こ
れを搬送装置2で加熱炉3内に搬入して加熱し、ピン1
が全体的にオーステナイト化した状態で、ピン1を温度
保持装置4内でオーステナイト化温度よりも予め決めた
一定温度(例えば10〜30℃)だけ低い温度に保持し
て、ピン1中に微量のフェライトを析出させ、その後に
急冷装置8によりピン1を表面側から冷却水等で急速に
冷却する構成としたから、下記のような作用効果を得る
ことができる。
【0044】即ち、結晶構造が予めフェライト・パーラ
イト組織(F)+(P)からなるピン1は、加熱炉3内
で全体的にオーステナイト化する温度まで加熱されるこ
とにより、ピン1は全体的にオーステナイト(A)とし
て相変化するから、この段階でピン1の元の残留応力を
一旦は全て緩和することができる。
【0045】そして、加熱炉3から搬出されたピン1は
次の温度保持装置4内で冷却と加熱を繰返すようにして
オーステナイト化温度よりも10〜30℃程度だけ低い
温度に保持されるから、一旦はオーステナイト化したピ
ン1中には初析フェライトとしてのフェライト(F)が
微量分だけ析出するようになる。
【0046】次に、この状態のピン1を急冷装置8内で
冷却水等により急速に冷却することにより、ピン1の少
なくとも表面側にマルテンサイト変態を起こさせ、ピン
1の表面側には図7に示す如くマルテンサイト(M)と
フェライト(F)の混合組織を形成できる。また、ピン
1の内部にはフェライトの周りをベイナイトが取り囲む
ようにベイナイト(B)とフェライト(F)の混合組織
を形成できる。
【0047】これにより、ピン1の表面側にマルテンサ
イト変態による変態歪み等が生じても、これをフェライ
ト組織で緩和することができ、ピン1の表面側に焼き割
れ等が発生するのを防止できる。また、この場合にピン
1の表面側に析出しているフェライト量は微量であり、
大部分はマルテンサイト組織であるから、ピン1の表面
側で硬度を確実に高めることができる。
【0048】また、熱処理部材としてのピン1は図7に
示すように、内部組織がベイナイト(B)とフェライト
(F)の混合組織となっているので、均質な内部組織と
することができ、外側が硬く内部は靱性を有する構造と
することができる。
【0049】従って、本実施例によれば、熱処理部材と
してのピン1は焼き入れ組織の中に靭性に富むフェライ
ト組織を積極的に析出させることにより、マルテンサイ
ト変態時の変態歪みをフェライト組織で緩和でき、焼き
割れや熱処理歪み等の発生を確実に抑えることができる
と共に、疲労寿命等を大幅に延ばすことができ、耐摩耗
性や耐衝撃性等を向上できる。そして、例えば軸受部材
や転動部材等に適した部材としてピン1を製造すること
ができる。
【0050】なお、前記第1の実施例では、ピン1の表
面側をマルテンサイト(M)とフェライト(F)の混合
組織とし、内部をベイナイト(B)とフェライト(F)
の混合組織に形成するものとして述べたが、本発明はこ
れに限るものではなく、例えば図8に示す変形例のよう
に、ピン1′の表面側をマルテンサイト(M)とフェラ
イト(F)の混合組織とし、内部をマルテンサイト
(M)とベイナイト(B)とフェライト(F)の混合組
織に形成するようにしてもよい。
【0051】即ち、外径が比較的小さい薄肉のピン1′
の場合には、急冷工程においてピン1′は内部まで急速
に冷却されるようになり、これによってピン1′の内部
にもマルテンサイト変態が起こり、フェライトの周りに
ベイナイトとマルテンサイトの混合組織が形成されるも
のである。
【0052】次に、図9は本発明の第2の実施例を示
し、本実施例では前記第1の実施例と同一の構成要素に
同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。し
かし、本実施例の特徴は、温度保持手段としての温度保
持装置21に複数の誘導加熱コイル22A,22A,…
からなる加熱装置22を設ける構成としたことにある。
【0053】ここで、温度保持装置21は加熱装置22
を除いて前記第1の実施例で述べた温度保持装置4と同
様に構成され、回転機構5および冷却装置6を備えるも
のである。また、加熱装置22の各誘導加熱コイル22
Aは、ピン1の径方向で冷却装置6の各ノズル口6Aと
反対側の位置に配設され、ピン1の軸方向で互い間隔を
もって取付けられている。そして、各誘導加熱コイル2
2Aは外部の電源等から高周波または低周波の電圧(電
流)が印加されることにより、回転機構5で回転される
ピン1を外側から加熱するものである。
【0054】かくして、このように構成される本実施例
でも、温度保持装置21の加熱装置22を用いて、冷却
装置6による空気噴霧でピン1から奪った熱量よりも僅
かに低い熱量をピン1に与えることにより、このピン1
をその表面から内部に亘ってオーステナイト化温度より
も10〜30℃だけ低い温度に保つことができ、前記第
1の実施例とほぼ同様の作用効果を得ることができる。
【0055】なお、前記各実施例では、熱処理部材とし
てトラックリンク間を連結するピン1またはピン1′を
例に挙げて説明したが、本発明はこれに限るものではな
く、例えば建設機械の足廻り部品として用いられるトラ
ックシュー、上ローラや下ローラのピン等に適用しても
よい。そして、熱処理により例えば軸受部材や転動部材
等に適した鉄鋼製の部材を製造でき、外側が硬く内部は
靱性を有する構造とすることができる。
【0056】
【発明の効果】以上詳述した如く、請求項1に記載の発
明によれば、熱処理部材の表面側をフェライトとマルテ
ンサイトの混合組織とし、内部組織を少なくともフェラ
イトとベイナイトの混合組織にする構成としているか
ら、熱処理部材の表面側から内部に亘ってフェライト組
織を形成でき、例えば部材表面側でのマルテンサイト変
態時にも靭性に富むフェライト組織によって変態歪みを
緩和することができる。従って、焼き割れや変形等の発
生を確実に抑え、疲労寿命等を大幅に延ばすことができ
ると共に、耐摩耗性や耐衝撃性等を向上でき、当該熱処
理部材を軸受部材や転動部材等として好適に用いること
ができる。
【0057】また、請求項2の発明では、熱処理部材の
内部組織をフェライトとベイナイトとマルテンサイトの
混合組織とすることにより、例えば部材の肉厚が薄い場
合に表面側から内部に亘ってマルテンサイト変態が起き
ても、このときの変態歪みをフェライト組織により緩和
でき、焼き割れや変形等の発生を確実に抑えることがで
きる。
【0058】一方、請求項3による熱処理方法の発明で
は、加熱工程により加熱した部材をオーステナイト化温
度よりも予め決められた温度だけ低い温度に温度保持工
程で保持し、その後の急冷工程で部材がマルテンサイト
変態を起こすように前記部材を外側から急速に冷却する
ようにしているから、温度保持工程によって熱処理対象
の部材をオーステナイト化温度よりも一定温度だけ低い
温度に冷却と加熱を繰返すようにして保持でき、この部
材中に例えば靭性に富むフェライト組織を積極的に析出
させることができる。そして、その後の急冷工程により
前記部材にマルテンサイト変態が生じても、この相変態
による歪みを先に析出したフェライト組織で緩和でき、
焼き割れや変形等の発生を確実に抑えることができる。
【0059】また、請求項4の発明は、温度保持工程に
おいて、加熱した部材の表面から内部に亘ってオーステ
ナイト化温度よりも10〜30℃だけ低い温度に保持す
るようにしているから、加熱工程でオーステナイト組織
となった部材中に、温度保持工程で表面側から内部に亘
って必要量のフェライト組織を積極的に析出させること
ができる。
【0060】さらに、請求項5による熱処理装置の発明
では、熱処理対象の部材を搬送手段で加熱手段へと搬送
して部材を加熱し、加熱後の部材を加熱手段から温度保
持手段の位置へと搬送し、加熱後の部材をオーステナイ
ト化温度よりも低い温度に冷却と加熱を繰返して保持す
ると共に、その後は冷却手段で部材を外側から急冷する
構成としているから、熱処理対象の部材を搬送手段で加
熱手段、温度保持手段および冷却手段に亘って連続的に
搬送でき、熱処理作業全体を効率的に行うことができ
る。
【0061】また、請求項6の発明では、温度保持手段
を回転機構、冷却流体を噴霧する冷却装置および加熱装
置により構成していから、加熱処理によりオーステナイ
ト化した部材を回転機構で回転させつつ、この部材に対
して冷却装置による冷却流体の噴霧と加熱装置による加
熱とを繰返すことができ、前記部材をオーステナイト化
温度よりも低い一定温度に保つことができ、これによっ
て前記部材中に靭性に富むフェライト組織を効率的に析
出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施例による熱処理装置を示す
全体図である。
【図2】図1中の温度保持装置を示す構成図である。
【図3】フェライトの析出開始特性と析出終了特性を示
す特性線図である。
【図4】ピンの熱処理時における温度変化特性を示す特
性線図である。
【図5】炭素鋼の炭素含有量と熱処理温度との関係を示
す平衡状態図である。
【図6】成形工程、加熱工程および温度保持工程をそれ
ぞれ示すピンの組織状態図である。
【図7】急冷工程が完了したピンを示す組織状態図であ
る。
【図8】変形例によるピンの組織状態図である。
【図9】第2の実施例による熱処理装置の温度保持装置
を示す構成図である。
【符号の説明】 1 ピン(熱処理部材) 2 搬送装置(搬送手段) 2A 搬送コンベア 3 加熱炉(加熱手段) 4,21 温度保持装置(温度保持手段) 5 回転機構 6 冷却装置 7,22 加熱装置 8 急冷装置(冷却手段) 10 冷却用ノズル A オーステナイト B ベイナイト F フェライト M マルテンサイト As オーステナイト化温度 Ms マルテンサイト化開始温度

Claims (6)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 鉄鋼材料からなる部材を熱処理すること
    により製造され、その表面側はフェライトとマルテンサ
    イトの混合組織からなり、内部は少なくともフェライト
    とベイナイトの混合組織から構成してなる熱処理部材。
  2. 【請求項2】 内部組織がフェライトとベイナイトとマ
    ルテンサイトの混合組織である請求項1に記載の熱処理
    部材。
  3. 【請求項3】 熱処理対象の部材を全体的にオーステナ
    イト化温度以上まで加熱する加熱工程と、加熱した前記
    部材をオーステナイト化温度よりも予め決められた温度
    だけ低い温度に保持する温度保持工程と、温度保持した
    前記部材がマルテンサイト変態を起こすように前記部材
    を外側から急速に冷却する急冷工程とからなる熱処理方
    法。
  4. 【請求項4】 前記温度保持工程では、加熱した前記部
    材を表面から内部に亘ってオーステナイト化温度よりも
    10〜30℃だけ低い温度に保持してなる請求項3に記
    載の熱処理方法。
  5. 【請求項5】 熱処理対象の部材を搬送する搬送手段
    と、前記搬送手段の途中に設けられ前記部材をオーステ
    ナイト化温度以上まで加熱する加熱手段と、前記加熱手
    段の下流側に位置して前記搬送手段の途中に設けられ前
    記部材をオーステナイト化温度よりも予め決められた温
    度だけ低い温度に保持する温度保持手段と、前記温度保
    持手段の下流側に設けられ前記部材を外側から急速に冷
    却する冷却手段とから構成してなる熱処理装置。
  6. 【請求項6】 前記温度保持手段は、前記部材を回転さ
    せる回転機構と、前記回転機構により回転される前記部
    材に向けて冷却流体を噴霧する冷却装置と、前記冷却装
    置とは異なる位置に設けられ、前記回転機構で回転され
    る前記部材を外側から加熱する加熱装置とから構成して
    なる請求項5に記載の熱処理装置。
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Cited By (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO2010005083A1 (ja) * 2008-07-10 2010-01-14 株式会社Ihi 熱処理装置
JP2014111837A (ja) * 2008-07-10 2014-06-19 Ihi Corp 熱処理装置

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