【発明の詳細な説明】
二相媒体中におけるオレフィンのヒドロホルミル化方法
本発明は、オレフィンのヒドロホルミル化方法に関する。
オレフィンのヒドロホルミル化を、溶媒の存在下で均一媒体中で極めて良い収
率で実施できることは、公知である。しかしながら、溶媒を添加すると、特に高
分子質量のオレフィンの場合にはプロセスが複雑となる。この理由は、このよう
な媒体において、アルデヒド類は、粗製反応混合物の蒸留でしか触媒から分離で
きないからである。重質オレフィンの場合には、オレフィンの沸点と生成物の沸
点が所与のものとすれば、この蒸留を高温で実施しなければならず、中期又は長
期において、触媒がかなり分解し、特に触媒が貴金属系(Rh、Pt等)のとき
には経済的に許容できない。
この欠点を克服するために、高級オレフィンのヒドロホルミル化を、二相媒体
中でCO/H2を用いて実施された。この目的は、沈降による単純な分離を実施
することにより、触媒(一方の相にある)を得られた生成物(他相にある)から
容易に分離させることであった。2つの主要な種類の二相系が記載されている:
水/有機相系(より一般的)及びより最近ではパーフルオロアルカン/有機相系
。
触媒をパーフルオロアルカン又は水に溶解するのに、種々の溶液が提案された
。これらでは、実質的にフルオロホスフィンを第一に使用し、水溶性ホスフィン
を第二に使用することにある。
即ち、I.T.Horvath等、(Science1994 第266巻、
72)は、C6F11CF3に溶解した錯体HRh(CO)〔P{CH2CH2(CF2
)5CF3}〕3により触媒した、1−デセンのトルエン溶液の、P{CH2CH2
(CF2)5CF3}3の存在下でのヒドロホルミル化を記載している。この方法で
は、触媒はパーフルオロ相にあるので容易にリサイクルされ、一方、アルデヒド
は前者とは非混和性であるトルエン相にある。しかしながら、主要な困難は、使
用される極めて特異的なホスフィンの合成にある。さらに、トルエン相に存在す
るロジウムの量は、規定されない。
水/有機相の二相系を使用することが、はるかに一般的である。即ち、E.K
untz(Rhone−Poulenc)は、金属錯体を水に溶解するのにトリ
フェニルホスフィントリスルホネート(TPPTS)を使用することを提案した
。この手法は、特に水溶液中でロジウム系触媒系及びTPPTSを用いてプロペ
ンをブタナールにヒドロホルミル化するのに工業的に実施された(例えば、An
gewandte Chemie,Int.編、Eng.1993,1524−
1544参照)。
広く認められているように、水溶性ホスフィンを使用すると、水性媒体に部分
的に溶解する軽量オレフィンの場合しかヒドロホルミル化プロセスが改善されず
、収率は脂肪オレフィンでは極めて低い。
したがって、二相プロセスをそれらに適用できるように、水相に対する脂肪オ
レフィンの溶解性を増加させるための種々の研究がなされた。提案された溶液は
、主に、界面活性剤を、ロジウム錯体と、水溶性ホスフィンと、オレフィンとを
含有する反応媒体に添加して調製したものであった。
例えば、米国特許第4,399,312号(1981)において、Russe
lは、界面活性剤としてドデシルトリメチルアンモニウムブロミドを使用するこ
とを記載している。この目的は、水性媒体に可溶である脂肪オレフィンである1
−デセンを製造することである。しかしながら、収率は、まだあまり高くない。
WO 93/04029において、同じ触媒系が使用されたが、この場合には、
触媒は膜濾過により回収され、有機相における残留ロジウム濃度を極めて低くで
きる。それにもかかわらず、この方法は、触媒の回収がかなり複雑である。
Hanson等、(J.Mol.Catal.1994第88巻、43−56
)は、種々の水溶性ホスフィンの存在下でドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウ
ムを使用してオクテンをヒドロホルミル化することを記載している。しかしなが
ら、アルデヒドの収率は、最高性能のホスフィンの場合でも、80%を超えなか
った。
界面活性剤としてアンモニウム塩又はホスホニウム塩を使用して脂肪オレフィ
ンのヒドロホルミル化をおこなうことが、EP−A−0,602,444及びE
P−A−0,602,463に記載されている。ロジウム塩、水溶性ホスフィン
としてTTPTS及び界面活性剤としてドデシル硫酸ナトリウムを使用してブタ
ノールの存在下でミクロエマルジョンを生成することが、EP−380,154
(Eniricerche)に記載されている。
全てのこれらの方法において、界面活性剤を導入すると安定なエマルジョンが
生成して、触媒を含有する有機相をアルデヒド含有水相から分離するのが、極め
て困難であるか又は不可能ですらある。
さらに、シクロデキストリンは、α(1−4)架橋のグルコースの環状オリゴ
マーである。この種の化合物において、α−グルコース単位の数は、α−シクロ
デキストリン、β−シクロデキストリン及びγ−シクロデキストリンについてそ
れぞれ6、7及び8に達する。二相均一触媒反応にそれらを使用すると、ある種
の反応の速度及び選択率を向上させることができる。即ち、H.Alper等は
、相転移剤としてβ選択率シクロデキストリンを使用してオレフィンを酸化して
ケトンを得ることを実施した(J.Mol.Catal.1986第35巻、第
249頁)。パラジウム/シクロデキストリンからなる系により触媒した二相媒
体中におけるアルケンのケトンへの酸化も、E.Monflier等により記載
された(Angew.Chemie1994、106、20、2183)。この
著者等は、置換又は未置換シクロデキストリンが存在すると酸化収率がかなり向
上することを見出した。α−シクロデキストリンの存在下におけるオレフィンの
ヒドロホルミル化が、R.Anderson等により記載された(Cataly
sis Letters、1991第9巻、第55頁)。種々の遷移金属錯体、
特にロジウム錯体が触媒として使用されるだけでなく、種々のホスフィン類も使
用された。未修飾α−シクロデキストリンの存在下で実施した比較試験後に得ら
れた結果から、著者等は、反応媒体にシクロデキストリンを添加すると、アルケ
ンのヒドロホルミル化を抑制する作用があるとの結論に達した。
本発明者等は、今般、驚くべきことに、未修飾シクロデキストリンの代わりに
修飾シクロデキストリンを使用すると、ヒドロホルミル化反応に対する抑制作用
がないだけでなく、シクロデキストリンを使用しない方法と比較したヒドロホル
ミル化の収率が実質的に向上することを見出した。
したがって、本発明の要旨は、式CnH2n(式中、nは30以下の整数)によ
り表されるアルケンから選択されたオレフィンか、官能化オレフィンから選択さ
れたオレフィンを、二相媒体中でCO/H2ガス混合物によりヒドロホルミル化
する方法であって、水溶性遷移金属錯体からなる触媒系と水溶性ホスフィンとを
含有する水溶液を一方としてオレフィンを他方として接触させ、CO/H2ガス
混合物で加圧下とした後得られた反応混合物を攪拌しながら加熱することを含ん
でなる方法において、修飾シクロデキストリンを触媒系を含有する水溶液中に導
入する、方法にある。
本発明の方法によりヒドロホルミル化できるアルケンは、直鎖状でも分岐状で
あってもよい。炭素数8〜20のアルケン、特に炭素数8〜16の直鎖状アルケ
ン、よりとりわけ末端位置に二重結合を有するアルケンが好ましい。このような
アルケンとしては、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1
−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン及び1−テトラデセンをあげるこ
とができる。
本明細書において、用語「官能化オレフィン」とは、使用シクロデキストリン
の入口直径よりも小さい嵩を有し、且つエチレン性二重結合の炭素原子の少なく
とも一つが、
−飽和又は不飽和脂環基、好ましくは炭素数6〜30の飽和又は不飽和脂環基
;
−直鎖状又は分岐アルケニル基、好ましくは炭素数2〜30の直鎖状又は分岐
アルケニル基;
−未置換であってもアルキル基(好ましくは炭素数3以下のもの)又は例えば
、エステル官能、ニトリル官能、ケトン官能、アセタール官能又はヒドロキシル
官能等の官能基で置換されていてもよい一つ以上の非縮合芳香族環を含んでなる
芳香族基;
−未置換であってもアルキル基(好ましくは炭素数3以下)又は例えば、エス
テル官能、ニトリル官能、ケトン官能、アセタール官能又はヒドロキシル官能等
の官能基、好ましくは任意に一つ以上の炭素数1〜3のアルキル置換基を有する
ナフチル基、で置換されていてもよい一つ以上の縮合芳香族環を含んでなる芳香
族基;
−アリール置換基又は例えば、エステル官能、ニトリル官能、ケトン官能、ア
セタール官能又はヒドロキシル官能等の官能基を有するアルキル基;
−エステル官能及びアシルオキシ官能、
から選択された少なくとも一つの置換基を有する直鎖又は分岐アルケンから選択
された官能化オレフィンを意味する。
上記官能化オレフィンのうち、前記炭素−炭素二重結合が、少なくとも一つの
水素原子及びよりとりわけ少なくとも2つの水素原子を有するものが、好ましい
。前記炭素−炭素二重結合が3つの水素原子を有する官能化オレフィンが、特に
好ましい。
本発明の方法は、末端位置か末端位置でなくてもよい位置に単一の炭素−炭素
二重結合を有するオレフィンか、いくつかの二重結合を有するオレフィンについ
て実施できる。本発明の方法により、単一のオレフィン又は異なるオレフィンの
混合物をヒドロホルミル化することができる。
本発明の方法は、炭素数2〜30の直鎖状又は分岐アルケン、よりとりわけ従
来技術の方法により良い収率ではヒドロホルミル化できない炭素数8〜30のア
ルケンのヒドロホルミル化について特に有利である。
本発明の方法において使用される触媒は、ロジウム、ルテニウム、パラジウム
、イリジウム、コバルト、白金、白金/錫対又は白金/鉄対から選択された遷移
金属と水溶性リンリガンドとの錯体である。ロジウム錯体が、特に好ましい。こ
れらの例としては、Rh6(CO)16、Rh4(CO)12、HRhCO(PR3)3
及びRhCl(PR3)3(式中、Rはアリールスルホン基、好ましくはフェニル
スルホン基を表す)、Rh(acac)(CO)2(acacはアセチルアセト
ネート基を表す)、Rh2Cl2(CO)4、酸化ロジウム(Rh2O3)及びRh
Cl3、Rh(OAc)3等のロジウム塩が挙げられるが、これらには限定されな
い。
水溶性ホスフィンは、以下の一般式で表される:
(式中、
−A、B及びCは、同一又は異なっていてもよく、各々フェニル基及びナフチ
ル基から選択されるか、炭素数1〜10のアルキル基から選択されたアリール基
を表し;
−置換基R1、R2及びR3は、同一又は異なっていてもよく、各々水素、炭素
数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ハロゲン原子、−CN、
−NO2、−OH及び−N(Z1)(Z2)基から選択された基であり、Z1及びZ2
は、同一又は異なっていてもよく、各々炭素数1〜5のアルキル基を表し;
−置換基X1、X2及びX3は、同一又は異なっていてもよく、各々カルボン酸
基、スルホン酸基又はそれらの塩を表し;X1、X2又はX3がカルボン酸塩又は
スルホン酸塩を表すときには、カチオンがアルカリ金属若しくはアルカリ土類金
属カチオン又は式N(T1T2T3T4)+(式中、T1、T2、T3及びT4は、同一
又は異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜4を有するアルキル基を表す)で
表されるアンモニウムカチオンでよく;
−x1、x2及びx3は、0〜3(3を含む)の同一又は異なる数であり、そ
れらの少なくとも一つが1以上であり;
−y1、y2及びy3は、2〜5(5を含む)の同一又は異なる数である)。
好ましくは、A、B及びCは、各々アリール基、より好ましくはフェニル基で
あり;置換基X1〜X3は−SO3Na又は−CO2Naであり;置換基R1〜
R3は水素又はアルキル基であり;数x1、x2及びx3は1又は0(それらの
少なくとも一つは1である)であり;数y1、y2及びy3は4又は5である。
例としては、トリフェニルホスフィントリスルホネート(TPPTS)(A=B
=C=フェニル;R1=R2=R3=H;X1=X2=X3=SO3Na;x1=x2
=x3=1;y1=y2=y3=4)、モノスルホン化トリフェニルホスフィン
(TPPMS)、モノカルボン酸トリフェニルホスフィン(TPPMC)及びト
リカルボン酸トリフェニルホスフィン(TPPTC)が挙げられる。本発明の方
法に特に有利なホスフィンは、TPPTS及びTPPMSである。
また、本発明は、以下の一般式で表される水溶性ジホスフィンを用いて実施し
てもよい:
(式中、
−A、B、C及びDは、同一又は異なっていてもよく、各々フェニル基及びナ
フチル基から選択されるか、炭素数1〜10のアルキル基から選択されたアリー
ル基を表し;
−Eは、炭素数1〜10の直鎖状若しくは分岐アルキル鎖又は一つ以上の置換
若しくは未置換フェニル基を有する鎖か、任意に炭素数1〜6の直鎖状又は分岐
アルキル置換基を含んでなるシクロアルカンを表し;
−置換基R1、R2、R3及びR4は、同一又は異なっていてもよく、各々水素、
炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ハロゲン原子、−C
N、−NO2、−OH及び−N(Z1)(Z2)基から選択された基であり
、Z1及びZ2は、同一又は異なっていてもよく、各々炭素数1〜5のアルキル基
を表し;
−置換基X1、X2、X3及びX4は、同一又は異なっていてもよく、各々カルボ
ン酸基、スルホン酸基又はそれらの塩を表し;X1、X2、X3又はX4がカルボン
酸塩又はスルホン酸塩を表すときには、カチオンがアルカリ金属若しくはアルカ
リ土類金属カチオン又は式N(T1T2T3T4)+(式中、T1、T2、T3及びT4
は、同一又は異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜4を有するアルキル基を
表す)で表されるアンモニウムカチオンでよく;
−x1、x2、x3及びx4は、0〜3(3を含む)の同一又は異なる数であ
り、それらの少なくとも一つが1以上であり;
−y1、y2、y3及びy4は、2〜5(5を含む)の同一又は異なる数であ
る)。
好ましくは、A、B、C及びDは、アリール基、特にフェニル基であり;Eは
、炭素数2〜4の直鎖アルキル鎖であり;置換基X1〜X4は、−SO3Na又は
−CO2Naであり;置換基R1〜R4は、水素又はアルキル基であり;数x1〜
x4は、1又は0(それらの少なくとも一つは1である)であり;数y1〜y4
は、4又は5である。例としては、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタ
ンスルホネート及び1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンスルホネー
トが挙げられる。
本発明の方法で使用される修飾シクロデキストリンは、官能化されていてもい
なくてもよいアルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシル、カルボキシレ
ート、ニトロ、アミノ、スルホネート、スルフェート、ホスフェート、エーテル
、ポリエーテル及びアンモニウム基並びにエステル官能を含んでなる基から選択
された同一又は異なっていてもよい一つ以上の置換基を有するシクロデキストリ
ンである。アルキル基としては、炭素数1〜20、好ましくは1〜5の直鎖状若
しくは分岐アルキル基、よりとりわけメチル又はエチル基が挙げられる。ヒドロ
キシアルキル基としては、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜5のヒドロキ
シアルキル基、より好ましくは−CH2CH2OH又は−CH2OH基が挙げられ
る。エステル官能を有する基としては、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1
〜5のエステル基、よりとりわけ基−O(CO)CH3及び−O(CO)CH2C
H3が挙げられる。修飾シクロデキストリンは、修飾α−シクロデキストリン(
上記置換基で修飾した6グルコース単位)(入口直径が4.9Å)、修飾β−シ
クロデキストリン(7修飾グルコース単位)(入口直径が6.2Å)又は修飾γ
−シクロデキストリン(8修飾グルコース単位)(入口直径が7.9Å)である
。さらに、上記した2種以上の修飾シクロデキストリンの混合物を使用してもよ
い。修飾シクロデキストリンは、任意に、例えばエピクロロヒドリンと重合した
形態で使用してもよい。この例としては、メチル化、エチル化、プロピル化、ス
クシニル化、カルボキシル化、アセチル化、2−ヒドロキシプロピル化及びポリ
オキシエチル化シクロデキストリンが挙げられる。本発明の方法に特に有利なシ
クロデキストリンは、ジメチル−β−シクロデキストリンである。
修飾シクロデキストリンは、オレフィンの添加前に、触媒系を含有する水溶液
に導入してよい。また、オレフィンの添加後に前記溶液に導入してもよい。
反応混合物において、ホスフィン/遷移金属モル比は、1〜100、好ましく
は2〜20、よりとりわけ5である。遷移金属に対する修飾シクロデキストリン
のモル比は、1〜100、好ましくは2〜20、よりとりわけ7である。
温度及び圧力条件は、従来技術の二相ヒドロホルミル化法で通常用いられるも
のである。温度は、20℃〜200℃が有利である。圧力は1〜300バール、
好ましくは2〜100バールであり、一酸化炭素の分圧は0.5〜95バールで
ある。通常の方法で、合成ガスを、一酸化炭素及び水素の都合の良い源として使
用できる。
反応は、触媒のリサイクルを容易にするために、溶媒の不存在下で実施される
。反応の終わりには、触媒は水相にあり、水相をアルデヒド含有有機相から分離
するのは容易である。しかしながら、必要に応じて、水相と非混和性の有機溶媒
及び/又は有機相と非混和性の極性溶媒を添加することができる。
本発明を、以下の例を参照してより詳細に説明するが、本発明はこれらの例に
限定されないことは理解されるべきである。
実施例1
TPPTS 0.8mmol(426mg)、Rh(acac)(CO)20
.16mmol(41mg)及びジメチル−β−シクロデキストリン2.24m
molを含有する水溶液45mlを、100mlオートクレーブに入れた。次に
、1−デセン80mmolからなる有機相を添加した。オートクレーブを80℃
に加熱し、CO/H2等モル混合物で50バールの圧力下とし、1000rpm
で攪拌した。圧力を、バラストにより、反応全体を通じて一定に保った。試料を
採取して転化率を追跡した。これらの試料のクロマトグラフ分析(内部標準とし
てウンデカンを使用)により、8時間後に転化が完了し、ヒドロホルミル化生成
物の選択率は、95%であった。ウンデカナル/2−メチルデカナルモル比は、
1.9であった。触媒の初期活性(1−デセンの転化モル数/触媒モル/時間)
は、300h-1であった。
実施例2〜10
これらの実施例は、特記のない限りはシクロデキストリン/ロジウム比が7で
あった以外は、実施例1と同一の実験条件下で実施した。
シクロデキストリンを修飾する基の性質並びにホスフィン/ロジウム比及びシ
クロデキストリン/ロジウム比が転化率及び選択率に及ぼす影響を示す。例2は
、シクロデキストリンを用いない比較例であり、基準として示す。例9及び例1
0は、本発明を、トリフェニルホスフィンモノスルホネート(TPPMS)等の
他の水溶性ホスフィンを用いて実施してよいことを示す。
具体的実験条件と得られた結果を、以下の表1にまとめて示す。
実施例11
Co2(CO)6(TPPTS)2 0.8mmol及びジメチル−β−シクロ
デキストリン0.93mmol(1.22g)を含有する水溶液45mlを、1
00mlオートクレーブに入れた。次に、1−デセン80mmolからなる有機
相を添加した。オートクレーブを160℃に加熱し、CO/H2等モル混合物で
50バールの圧力下とし、1000rpmで攪拌した。圧力を、バラストにより
、反応全体を通じて一定に保った。試料を採取して転化率を追跡した。これらの
試料のクロマトグラフ分析により、18時間後に転化が完了し、ヒドロホルミル
化生成物の選択率は、30%であった。ウンデカナル/2−メチルデカナルモル
比は、1.6であった。
全てのこれらの試料において、有機相と水相との分離は、容易である。エマル
ジョンの生成がなく、分離が極めて迅速である。実施例1において得られた有機
相の分析から、有機相のロジウム濃度が0.5ppm未満であり、リン濃度が1
.4ppmであり、本発明の方法が非常に有用であることか分かる。即ち、本発
明のヒドロホルミル化法は、触媒を損失することなく容易に再使用することによ
り脂肪アルデヒドを得ることができ、プロセスが経済的となるので、非常に有用
である。脂肪アルデヒドは、一般的に水素添加により、化学工業、特に洗剤の合
成又は可塑剤の製造に数多くの用途を有する脂肪アルコールとされる。
実施例12〜22
以下の実施例12〜22では、本発明の方法による、ジメチル−β−シクロデ
キストリン/ロジウム=14及びTPPTS/Rh=5を用いた、実施例1と同
様な条件下での種々のオレフィンの製造を示す。
得られた結果を、以下の表2に示す:
本発明による実施例は実施例12〜22であり、転化率、選択率、及び直鎖/
分岐アルデヒド比に関する結果を示す;
本発明の方法により得られた結果に対応して示した数の各々の後には、( )
内に、ジメチル−β−シクロデキストリンを用いない以外は本発明の実施例と同
様な条件下で行った比較例による結果に対応する数を示す;
継続時間(時間で表した)は、表記の対応する転化率を得るのに必要とする時
間である;
転化率は、(オレフィンの導入モル数)/(オレフィンの転化モル数)比を表
す;
選択率は、(アルデヒドの生成モル数)/(オレフィンの転化モル数)比を表
す;
(直鎖/分岐アルデヒド)比は、実施例22については、β−アルデヒド/α
−アルデヒド比を表す。比較例22’では、γ−アルデヒドが検出される;
実施例15では、内部二重結合は、ヒドロホルミル化されない。
実施例15では、内部二重結合は、ホルミル化されない。
表2に示した結果から、ジメチル−β−シクロデキストリンがオレフィンの転
化率に極めて好影響を及ぼすことが明白である。
実施例23〜26
これらの実施例は、ジメチル−β−シクロデキストリンの存在下におけるメチ
ルウンデセノエートのヒドロホルミル化を示す。
ナイロン11の合成における原料であるメチルウンデセノエートは、天然物で
あるヒマシ油から工業的に、より詳細には、メチルリシノレエートの熱分解によ
り得られる。ヒドロホルミル化により、メチルウンデセノエートから10−ホル
ミルウンデカノエートが得られ、それを酸化又は還元的アミノ化すると、ナイロ
ン6−12の前駆体である1,12−ドデカンジオイックアシッドか、ナイロン
12の前駆体であるα,ω−アミノドデカン酸が得られる。
実施例23は、以下の条件下で実施したメチルウンデセノエートのヒドロホル
ミル化を示す。
Rh(acac)(CO)2 10.3mg(4×10-2mmol)、TPP
TS107mg(0.2mmol)及びジメチル−β−シクロデキストリン0.
56mmolを含有する水溶液11mlを25mlオートクレーブに導入した。
メチルウンデセノエート(4g、20mmol)からもっぱらなる有機相を、次
に添加した。次に、オートクレーブを、CO/H2混合物で50バールの圧力下
とし、80℃に加熱し、攪拌した(1500rpm)。
実施例24は、ジメチル−β−シクロデキストリンを添加しない以外は、実施
例23と同様の条件下で実施した比較試験である。
実施例25及び26は、リン/ロジウム比、圧力及び温度を変更した以外は、
実施例23と同様の条件下で実施した。
反応条件と得られた結果を、表3にまとめて示す。
オレフィンの転化率は、5時間反応した後に測定した。
転化率、選択率及び直鎖アルデヒド/分岐アルデヒド比の定義は、上記と同様
である。
実施例27
本例は、使用オレフィンであるビニルナフタリンを溶解するのに欠くことので
きないヘプタンの存在下で行った以外は、例23と同様の実験条件下で実施した
。反応は、25mlオートクレーブで実施した。容積9mlの水相は、Rh(a
cac)(CO)2 5.2mg(2.01×10-5mol)を含有し、TPP
TS/Rh比=5、ジメチル−β−シクロデキストリン/ロジウム比=14であ
った。有機相の容積は、6mlであった。オレフィン/ロジウム比は、500で
あった。温度80℃、圧力(CO/H2)50バールであった。結果を、以下の
表4に示す。
実施例28
本例は、トルエンの存在下で官能化オレフィンとして2−エチルヘキシルアク
リレートを用いて、例1と同様の実験条件下実施した。反応は、100mlオー
トクレーブで実施した。容積30mlの水相は、Rh(acac)(CO)25
1.8mg(0.2×10-3mol)を含有し、TPPTS/Rh比=10、ジ
メチル−β−シクロデキストリン/ロジウム比=14であった。有機相の容積は
、40mlであった。オレフィン/ロジウム比は、500であった。温度50
℃、圧力(CO/H2)50バールであった。結果を、以下の表4に示す。
【手続補正書】特許法第184条の8第1項
【提出日】1997年2月4日
【補正内容】
請求の範囲
1.式CnH2n(式中、nは30以下の整数)により表されるアルケンから選
択されたオレフィンか、官能化オレフィンから選択されたオレフィンを、二相媒
体中でCO/H2ガス混合物によりヒドロホルミル化する方法であって、水溶性
遷移金属錯体からなる触媒系と水溶性ホスフィンとを含有する水溶液を一方とし
てオレフィンを他方として接触させ、CO/H2ガス混合物で加圧下とした後得
られた反応混合物を攪拌しながら加熱することを含んでなる方法において、修飾
シクロデキストリンを触媒系を含有する水溶液中に導入し、前記修飾シクロデキ
ストリンは、それぞれ6グルコース単位、7グルコース単位及び8グルコース単
位からなり、且つ官能化されていてもいなくてもよいアルキル基、ヒドロキシア
ルキル基、カルボキシル、カルボキシレート、ニトロ、アミノ、スルホネート、
スルフェート、ホスフェート、エーテル、ポリエーテル及びアンモニウム基並び
にエステル官能を含んでなる基から選択された同一又は異なっていてもよい一つ
以上の置換基を有する、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン及び
γ−シクロデキストリンから選択されたものである、方法。
2.アルキル基が、炭素数1〜20の直鎖状若しくは分岐アルキル基である、
請求項1に記載の方法。
3.前記ヒドロキシアルキル基が炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜5を
有する、請求項1に記載の方法。
4.エステル官能を有する基が、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜5で
ある、請求項1に記載の方法。
5.前記修飾シクロデキストリンが、エピクロロヒドリンと重合した形態であ
る、請求項1に記載の方法。
6.修飾シクロデキストリンの混合物を、触媒系を含有する水溶液に導入する
、請求項1に記載の方法。
7.前記オレフィンが、末端位置か末端位置でなくてもよい位置に単一の炭素
−炭素二重結合を有するか、いくつかの二重結合を有する直鎖又は分岐アルケン
である、請求項1に記載の方法。
8.前記オレフィンが、炭素数8〜30の直鎖アルケンである、請求項7に記
載の方法。
9.前記オレフィンが、使用シクロデキストリンの入口直径よりも小さい嵩を
有し、且つエチレン性二重結合の炭素原子の少なくとも一つが、
−飽和又は不飽和脂環基、好ましくは炭素数6〜30の飽和又は不飽和脂環基
−直鎖状又は分岐アルケニル基、好ましくは炭素数2〜30の直鎖状又は分岐
アルケニル基;
−未置換であってもアルキル基又は官能基で置換されていてもよい一つ以上の
非縮合芳香族環を含んでなる芳香族基;
−未置換であってもアルキル基又は官能基、好ましくは任意に一つ以上の炭素
数1〜3のアルキル置換基を有するナフチル基、で置換されていてもよい一つ以
上の縮合芳香族環を含んでなる芳香族基;
−アリール置換基又は官能基を有するアルキル基;
−エステル官能及びアシルオキシ官能、
から選択された少なくとも一つの置換基を有する直鎖又は分岐アルケンから選択
された官能化オレフィンである、請求項1に記載の方法。
10.前記官能基が、エステル官能、ニトリル官能、ケトン官能、アセタール
官能又はヒドロキシル官能から選択される、請求項9に記載の方法。
11.官能化オレフィンにおいて、前記炭素−炭素二重結合が、少なくとも一
つの水素原子及びよりとりわけ少なくとも2つの水素原子を有する、請求項9に
記載の方法。
12.前記官能化オレフィンにおいて、前記炭素−炭素二重結合が3つの水素
原子を有する、請求項11に記載の方法。
13.オレフィン混合物について実施する、請求項1に記載の方法。
14.前記触媒が、ロジウム、ルテニウム、パラジウム、イリジウム、コバル
ト、白金、白金/錫対又は白金/鉄対から選択された遷移金属と水溶性リンリガ
ンドとの錯体である、請求項1に記載の方法。
15.前記触媒が、ロジウム又はコバルトの錯体である、請求項14に記載の
方法。
16.前記触媒が、Rh6(CO)16、Rh4(CO)12、HRhCO(PR3
)3及びRhCl(PR3)3(式中、Rはアリールスルホン基、好ましくはフェ
ニルスルホン基を表す)、Rh(acac)(CO)2(acacはアセチルア
セトネート基を表す)、Rh2Cl2(CO)4、酸化ロジウム(Rh2O3)及び
RhCl3、Rh(OAc)3等のロジウム塩から選択される、請求項15に記載
の方法。
17.水溶性ホスフィンが、以下の一般式の一つに相当するものから選択され
る、請求項1に記載の方法:
又は
(式中、
−A、B、C及び、必要に応じて、Dは、同一又は異なっていてもよく、各々
フェニル基及びナフチル基から選択されるか、炭素数1〜10のアルキル基から
選択されたアリール基を表し;
−必要に応じて、Eは、炭素数1〜10の直鎖状若しくは分岐アルキル鎖又は
一つ以上の置換若しくは未置換フェニル基を有する鎖か、任意に炭素数1〜6の
直鎖状又は分岐アルキル置換基を含んでなるシクロアルカンを表し;
−置換基R1、R2、R3及び、必要に応じて、R4は、同一又は異なっていても
よく、各々水素、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ハ
ロゲン原子、−CN、−NO2、−OH及び−N(Z1)(Z2)基から選択され
た基であり、Z1及びZ2は、同一又は異なっていてもよく、各々炭素数1〜5の
アルキル基を表し;
−置換基X1、X2、X3及び、必要に応じて、X4は、同一又は異なっていても
よく、各々カルボン酸基、スルホン酸基又はそれらの塩を表し;X1、X2、X3
及び、必要に応じて、X4がカルボン酸塩又はスルホン酸塩を表すときには、カ
チオンがアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属カチオン又は式N(T1T2T3
T4)+(式中、T1、T2、T3及びT4は、同一又は異なっていてもよく、それぞ
れ炭素数1〜4を有するアルキル基を表す)で表されるアンモニウムカチオンで
あり;
−x1、x2、x3及び、必要に応じて、x4は、0〜3(3を含む)の同一
又は異なる数であり、それらの少なくとも一つが1以上であり;
−y1、y2、y3及び、必要に応じて、y4は、2〜5(5を含む)の同一
又は異なる数である)。
18.前記ホスフィン/触媒モル比が、1〜100、好ましくは2〜20であ
る、請求項1に記載の方法。
19.修飾シクロデキストリン/触媒モル比が、1〜100、好ましくは2〜
20である、請求項1に記載の方法。
20.反応温度が、20℃〜200℃である、請求項1に記載の方法。
21.圧力が1〜300バールであり、一酸化炭素の分圧が0.5〜95バー
ルである、請求項1に記載の方法。
22.前記反応を、水相と非混和性である有機溶媒の存在下で実施する、請求
項1に記載の方法。
23.前記反応を、前記有機相と非混和性である極性溶媒の存在下で実施する
、請求項1に記載の方法。
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(51)Int.Cl.6 識別記号 FI
C07C 47/225 C07C 47/225
47/228 47/228
67/29 67/29
67/313 67/313
69/14 69/14
69/67 69/67
// C07B 61/00 300 C07B 61/00 300