JPH11347805A - ダイヤモンド被覆工具部材およびその製造方法 - Google Patents

ダイヤモンド被覆工具部材およびその製造方法

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JPH11347805A
JPH11347805A JP16311098A JP16311098A JPH11347805A JP H11347805 A JPH11347805 A JP H11347805A JP 16311098 A JP16311098 A JP 16311098A JP 16311098 A JP16311098 A JP 16311098A JP H11347805 A JPH11347805 A JP H11347805A
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JP
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coated
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JP16311098A
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Hiroyuki Kodama
浩亨 児玉
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Tungaloy Corp
Original Assignee
Toshiba Tungaloy Co Ltd
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Abstract

(57)【要約】 (修正有) 【課題】 耐摩耗性、耐剥離性、耐チッピング性に優れ
るダイヤモンド被覆工具部材およびその製造方法の提
供。 【解決手段】 炭化タングステンを主成分として含む硬
質相と、Coおよび/またはNiを主成分として含む結
合相とを含有した超硬合金の基材3の表面にダイヤモン
ドおよび/またはダイヤモンド状カーボンの硬質膜を被
覆した被覆超硬合金部材において、基材3の表面に対す
る任意の垂直断面により基材と硬質膜1との境界部2を
観察したときに、基材の表面は、柱状,くさび状,およ
び/または三角状の形態でなる不均一高さの凸状物が形
成されており、凸状物とその隣接の該凸状物との間に不
均一幅の凹状物が形成されており、凸状物および凹状物
の先端部が半円形状または円弧状に形成されており、凹
状物内に該硬質膜が埋設されて密着しているダイヤモン
ド被覆工具部材。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、WC基超硬合金の
基材表面状態を調整することにより、ダイヤモンドおよ
び/またはダイヤモンド状カーボンでなる硬質膜の付着
性および耐剥離性を高めて、緻密で微細な硬質膜とし、
工具として優れた膜質を有しているダイヤモンド被覆工
具部材およびその製造方法に関し、具体的には、基材の
表面粗さを調整して、基材上に被覆されるダイヤモンド
および/またはダイヤモンド状カーボンでなる硬質膜の
密着性および耐剥離性を高めて、旋削工具,ドリル,エ
ンドミル,リーマ,フライス工具に代表される切削工具
部材,スリッターなどの切断工具,ノズル,光学素子成
形型,ボンデングツールに代表される耐摩耗性工具部
材、さらには電子工業,精密工業,化学工業などに用い
られる工具部材として実用可能なダイヤモンド被覆工具
部材およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来から超硬合金に代表される焼結合金
の基材上にダイヤモンドおよび/またはダイヤモンド状
カ−ボンの硬質膜を被覆してなるダイヤモンド被覆焼結
合金についての検討が行われており、その硬質膜の高硬
度性および耐摩耗性を発揮させることにより工具材料、
特に切削工具として実用化しようという試みが行われて
いる。
【0003】ダイヤモンド被覆焼結合金は、ダイヤモン
ドおよび/またはダイヤモンド状カーボンが他の物質と
の濡れ性に劣ることから、基材の表面にダイヤモンドお
よび/またはダイヤモンド状カ−ボンの硬質膜を、密着
性および付着性を高めた状態に、いかに被覆することが
できるかという問題が最大の課題となっている。また、
各種の基材上にダイヤモンドおよび/またはダイヤモン
ド状カ−ボンの硬質膜がある程度の密着性および付着性
に優れた状態に被覆されたとしても、工具材料に応用し
た場合には、実用時に硬質膜の剥離またはチッピングが
生じ易くなるという課題がある。
【0004】特に、旋削工具,フライス工具,ドリル,
エンドミルに代表される切削工具、金型,裁断刃,切断
刃に代表される耐摩耗工具などの場合は、最も苛酷な条
件で用いられるために、例えば超硬合金でなる基材と硬
質膜との密着性および付着性が一層重要な問題になって
いる。
【0005】ダイヤモンドおよび/またはダイヤモンド
状カ−ボンの硬質膜と基材との密着性を高めて、工具と
して用いることが可能なダイヤモンド被覆焼結合金とし
て、多数提案されており、このうち、基材の表面をエッ
チングすることについて提案されている代表的なもの
に、特開昭63−53269号公報,特開平1−201
475号公報,特開平1−246361号公報,特開平
2−217398号公報,特開平3−107460号公
報および特開平3−115571号公報があり、基材の
表面粗さについて提案されている代表的なものに、特開
平7−223101号公報がある。
【0006】
【発明が解決しょうとする課題】ダイヤモンド被覆焼結
合金の基材の表面部について提案されている先行技術の
内、特開昭63−53269号公報,特開平1−201
475号公報,特開平1−246361号公報,特開平
2−217398号公報,特開平3−107460号公
報および特開平3−115571号公報には、超硬合金
でなる基材の表面を酸によりエッチング処理すること、
特に特開平2−217398号公報および特開平3−1
07460号公報には、基材の表面を酸や中性物質によ
り電解研磨およびエッチング処理して、表面部に存在す
る結合相を除去した基材の表面にダイヤモンドの被膜を
被覆することが開示されている。
【0007】これらの公報に開示されている方法により
得られるダイヤモンド被覆焼結合金は、基材を酸溶液に
よりエッチングしているのであるが、結合相のみがエッ
チングされて、エッチング前後における基材表面の面粗
さの変動が余り大きくなく、親和性の低い硬質膜を付着
するのに理想的な凹凸面にすることが困難であることか
ら、基材表面に被覆されたダイヤモンドの硬質膜の付着
性および密着性に満足できないという問題があり、特に
工具材料に応用した場合には短寿命になるという問題が
ある。
【0008】また、特開平2−217398号公報およ
び特開平3−107460号公報に開示されているよう
に、基材表面を酸により電解研磨およびエッチングした
場合には、基材表面部のエッチング深さを深くすること
ができるが、結合相の腐食または硬質相の腐食となるこ
と、両方腐食されたとしてもそのバランスが悪く、結局
上述の問題の他に、さらに基材表面部の強度が低下する
という問題がある。
【0009】特開平7−223101号公報には、基材
とダイヤモンド硬質膜との接合表面における表面粗さが
Ra=0.1〜3μmに調整することが開示されてい
る。しかしながら、同公報に開示の接合表面の研磨によ
る粗さでは、均一で、かつ凹部の先端部がほぼシャープ
形状となることから、基材とダイヤモンド硬質膜との付
着性および密着性が著しく低く、工具として用いた場合
に硬質膜の剥離,チッピングなどにより短寿命になりや
すいという問題がある。
【0010】また、その他の技術文献に、基材の表面に
被覆したダイヤモンドの硬質膜表面を研磨して表面粗さ
を小さくすると、長寿命化を達成することが可能である
と開示されているものがある。この場合、従来のダイヤ
モンド被覆部材に対比して、ダイヤモンドの硬質膜表面
粗さを小さくすることにより、長寿命の傾向を有してい
るが、より過酷な条件で実用された場合には、基材と硬
質膜との付着性および密着性の低下、硬質膜の剥離,チ
ッピングなどにより短寿命になりやすいという問題があ
る。
【0011】本発明は、上述のような問題点を解決した
もので、具体的には、炭化タングステン基超硬合金の基
材表面に不均一高さの凸状物を形成するとともに、この
凸状物間に不均一幅の凹状物を形成することにより、そ
の基材表面に被覆する硬質膜の成膜時にダイヤモンドの
核が容易に、かつ多量に形成可能としたこと、緻密な膜
にし得ること、および膜質にすぐれること、そして基材
との付着性および密着性がより一層優れるようになるこ
とから硬質膜厚さを厚く被覆することが可能となったこ
と、これらが総合されて耐摩耗性,耐剥離性,耐チッピ
ング性に優れること、特に切削工具として実用可能とし
たダイヤモンド被覆工具部材およびその製造方法の提供
を目的とするものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上記目的を
達成するために長年に亘り研究を重ねていたところ、超
硬合金でなる基材表面の面粗さが、ダイヤモンドの気相
合成時におけるダイヤモンドの核形成量および膜質に大
きく影響すること、それにより成膜されたダイヤモンド
硬質膜と基材との付着性,密着性に大きく影響するこ
と、これら両方の効果を最大に発揮させるためには、特
に、基材の表面粗さを形成する基材表面の凹状物と凸状
物の形状およびこれらに含有する成分に大きく影響され
るという知見を得て、本発明を完成させるに至ったもの
である。
【0013】すなわち、本発明のダイヤモンド被覆工具
部材は、炭化タングステンを主成分として含む硬質相
と、Coおよび/またはNiを主成分として含む結合相
とを含有した超硬合金の基材の表面にダイヤモンドおよ
び/またはダイヤモンド状カーボンの硬質膜を被覆した
被覆超硬合金部材であって、該基材の表面に対する任意
の垂直断面により該基材と該硬質膜との境界部を観察し
たときに、該基材の表面は、柱状,くさび状,および/
または三角状の形態でなる不均一高さの凸状物が形成さ
れており、該凸状物とその隣接の該凸状物との間に不均
一幅の凹状物が形成されており、該凸状物および該凹状
物の先端部が半円形状または円弧状に形成されており、
該凹状物内に該硬質膜が埋設されて密着しているもので
ある。
【0014】
【発明の実施の形態】本発明のダイヤモンド被覆工具部
材における基材は、JIS規格のB4104およびB4
053に記載されている超硬合金を使用することができ
る。その他、基材を具体的に説明すると、硬質相がWC
からなる場合、またはWCと周期律表の4a,5a,6
a族元素の炭化物,炭窒化物,炭酸化物,炭窒酸化物お
よびこれらの相互固溶対の中の少なくとも1種の立方晶
構造の化合物とからなる場合、残りの結合相がCo,N
i,Co−Ni合金,Co−Cr合金,Co−V合金,
Co−W合金,Co−Cr−V合金,Ni−Cr合金,
Ni−V合金,Ni−Cr−V合金,Co−Ni−Cr
合金,Co−Ni−V合金またはCo−Ni−Cr−V
合金からなる場合を代表例として挙げることができる。
この基材は、基材自体の強度,基材表面の調整容易性お
よび硬質膜の形成容易性から、硬質相が90重量%以上
で、残りが結合相からなる場合が好ましいことである。
基材中の硬質相は、立方晶構造の化合物が含有される場
合には、基材全体に対して10重量%以下の立方晶構造
の化合物を含有することが好ましいことである。
【0015】この基材表面に形成される凸状物は、それ
ぞれが不均一高さでなり、その先端部の平均曲率半径が
0.05〜5.0μmであること、凸状物とその隣接の
凸状物との間に形成される凹状物は、それぞれが不均一
幅でなり、その先端部の平均曲率半径が0.3〜10
0.0μmでなること、この凹状物の先端部の平均曲率
半径が凸状物の先端部の平均曲率半径よりも大きくなっ
ている形状部分を含むことが硬質膜の密着性を顕著に高
めることになることから、好ましいことである。また、
この基材表面に形成される凸状物の最大高さと、凹状物
の最大深さとの差が1〜5μmである部分を少なくとも
含んでいると、硬質膜の密着性を顕著に高めることにな
ることから、好ましいことである。さらに、基材表面に
形成される凸状物は、高さ,間隔および/または形状が
基材表面上で不均一に形成されていることが好ましいこ
とである。この基材表面の凸状物および凹状物は、基材
表面に対する任意垂直断面の一部分を写真で観察した場
合における判断基準で代表される。
【0016】この基材上に被覆されるダイヤモンドおよ
び/またはダイヤモンド状カーボンの硬質膜は、従来か
らダイヤモンドの性質,特性を有するものであればよ
く、具体的には、例えばラマンスペクトル分析によりダ
イヤモンドと確認されるピークが検出される場合、また
はビカース硬さで3000kg/mm以上を有する膜
であることである。この硬質膜は、膜厚さが平均1〜6
0μm、好ましくは平均5〜40μmでなることであ
る。
【0017】本発明のダイヤモンド被覆工具部材は、基
材と硬質膜との密着性および付着性が顕著に優れている
ことから、過酷な条件で使用される切削工具として用い
ること、切削工具の中でも、特に非鉄材料を被削材とす
る場合に最適となり、また切削工具の中でもドリルまた
はエンドミルとして用いる場合に適しているものであ
る。
【0018】本発明のダイヤモンド被覆工具部材を切削
工具として用いる場合に、基材表面に形成される凸状物
は、少なくともすくい面および逃げ面に形成されている
ことが好ましく、特に切刃からすくい面および逃げ面の
それぞれの面の中心部に向かって50μm以上の範囲に
形成されていることが好ましいことである。そして、こ
の凸状物の形成された基材表面に被覆される硬質膜は、
少なくともすくい面および逃げ面に形成されており、切
刃からすくい面および逃げ面のそれぞれの面の中心部に
向かって50μm以下の範囲における硬質膜の層厚さが
平均で10〜40μmであると、長寿命となることから
好ましいことである。特に、この硬質膜は、平均で10
〜40μmと厚い層に形成されると硬質膜の表面粗さが
微細となること、または硬質膜は、その表面粗さを、例
えば研磨などで微細にすることにより、相手材料との摩
擦抵抗を低減させる効果が発揮される。このために、本
発明のダイヤモンド被覆工具部材を切削工具として用い
た場合には、相手材料である被削材の仕上げ面粗さを高
めることになることから、好ましいことである。
【0019】この本発明のダイヤモンド被覆工具部材に
おける基材の表面の調整は、従来から行われている基材
表面の調整方法である、例えば研磨,ラッピング,腐
食,バレル処理,ショットピーニング処理,熱処理など
の方法により調整することも可能であるかもしれない
が、非常に困難になる可能性がある。そこで、本発明の
ダイヤモンド被覆工具部材は、以下のような方法で基材
の表面粗さを調整することにより、容易に作製すること
ができることから好ましいことである。
【0020】すなわち、本発明のダイヤモンド被覆工具
部材の製造方法は、炭化タングステンを主成分として含
む硬質相と、Coおよび/またはNiを主成分として含
む結合相からなる超硬合金の基材の表面を電解液に浸漬
する電解腐食工程と、該基材の表面を洗浄および乾燥す
る工程と、該基材の表面にダイヤモンドおよび/または
ダイヤモンド状カーボンの硬質膜を被覆する工程とを少
なくとも含み、該電解腐食工程における該電解液は、塩
または塩,塩基,酸の中の2種以上を水に溶解したPH
6〜11の溶液からなり、かつ該電解腐食の条件は、電
流密度が0.01〜20A/cm,電圧が1〜30V
からなる方法である。
【0021】この本発明の製造方法における重要な点
は、まず第1に電解腐食工程で使用する電解液にあり、
この電解液は:塩のみの場合,:塩と塩基とからな
る場合,:塩と酸とからなる場合,:酸と塩基とか
らなる場合,または:塩と塩基と酸ととからなる場合
を水に溶解した状態にしたものを挙げることができる。
これらのうち、でなる場合が基材表面の硬質相と結合
相の両方を最適に腐食されることから好ましく、これら
のうち、塩が少なくとも中性塩物質を含み、塩基が少な
くとも強塩基性物質を含み、酸が少なくとも弱酸性物質
を含む状態にしておくことが好ましいことである。
【0022】この電解液のうち、塩は、具体的には、例
えば硝酸ナトリウム,硝酸カリウム,硝酸アンモニウ
ム,硫酸ナトリウム,硫酸カリウム,硫酸アンモニウ
ム,塩化ナトリウム,塩化カリウム,塩化アンモニウ
ム,炭酸ナトリウム,炭酸カリウム,炭酸アンモニウ
ム,亜硝酸ナトリウム,亜硝酸カリウム,亜硝酸アンモ
ニウムの中の1種以上からなる場合を挙げることができ
る。また、塩基は、水酸化ナトリウム,水酸化カリウ
ム,水酸化アンモニウムの中の1種以上でなることを代
表例とし、特に水酸化ナトリウムおよび/または水酸化
カリウムが含まれていることが好ましいことである。さ
らに、酸は、酒石酸,酢酸,修酸,塩酸,硝酸,硫酸の
中の1種以上でなることを代表例とし、特に酒石酸,酢
酸,修酸の中の1種以上であることが好ましいことであ
る。
【0023】前もって、基材の表面を研磨仕上げ,洗
浄,乾燥しておいて、PHを6〜11に調整した上述の
電解液にこの基材を浸漬して電流密度:0.01〜20
A/cm,電圧:1〜30Vにより電解腐食すると、
基材表面の主として硬質相と一部の結合相とが腐食され
る。このときの電解腐食における電流密度が0.1〜5
A/cm,電圧が2〜10Vであると、基材表面の凹
状物および凸状物の調整が容易となることから好ましい
ことである。
【0024】この電解腐食工程後、基材の表面を洗浄,
乾燥し、次いで基材表面に硬質膜を被覆することによ
り、本発明のダイヤモンド被覆工具部材を作製すること
ができる。このとき、基材表面に硬質膜を被覆する前、
すなわち電解腐食工程後に、基材を酸溶液に浸漬して表
面に残存する結合相を完全に除去し、その後洗浄,乾燥
および硬質膜形成を行うことも好ましいことである。そ
の他、電解腐食後に基材表面に残存する結合相を除去す
る方法としては、上述の電解腐食工程の後に、電流密度
を低下すること、電解液のPHを6近辺とできるだけ酸
性側にすることにより、再電解腐食を行うことも好まし
いことである。さらに、電解腐食工程後、基材の表面を
洗浄,乾燥し、次いで、その基材表面に形成された凹凸
状物を埋設しないように他の物質、具体的には、例えば
Si,Tiからなるの薄層を形成し、この薄層により基
材表面に残存する結合相が硬質膜形成に及ぼす影響を遮
断することも好ましいことである。
【0025】基材は、硬質膜を形成する前に、ダイヤモ
ンド砥粒により基材表面を傷つけ処理することも、ダイ
ヤモンドの核形成促進から好ましいことである。このよ
うに基材表面を前処理した後、この基材を従来から行わ
れている硬質膜形成方法による反応容器内に配置して、
基材表面に硬質膜を形成して本発明のダイヤモンド被覆
工具部材とすることができる。このときの硬質膜の形成
は、マイクロ波プラズマ法,高周波プラズマ法,熱フイ
ラメント法などにより行うことができるが、特に熱フイ
ラメント法により行うと、硬質膜の付着範囲は広範囲と
なること、膜質がすぐれることなどから好ましいことで
ある。
【0026】
【作用】本発明のダイヤモンド被覆工具部材は、基材の
表面部における硬質相と結合相の両方を最適に電解腐食
させることにより、表面積が大きくなって硬質膜の成膜
時にダイヤモンドの核の発生を誘起させる作用,良質な
被膜を生成させる作用をし,基材表面の凹状物および凸
状物が硬質膜をフック状または鉤状に固着する作用を
し、基材と硬質膜との密着性,付着性を高めるという作
用をしているものである。また、本発明のダイヤモンド
被覆工具部材の製造方法は、電解腐食条件が基材表面部
に存在する硬質相と結合相の両方をバランスよく腐食さ
せる作用をし、さらに酸腐食をすると電解腐食後に基材
表面に極微量残存した場合の結合相を除去する作用をす
るものである。
【0027】
【実施例1】組成成分が94%WC−6%Co(重量
%)の超硬合金、形状が直径6mmの研磨仕上げしたド
リルでなる基材を用いて、この基材を陽極に、銅線を陰
極に接続し、水:1000gに対して酒石酸:75g,
硝酸ナトリウム:5g,水酸化ナトリウム:20g,塩
化アンモニウム:20g,炭酸ナトリウム:75gを混
合して作製した電解液中にて、電流密度0.7A/cm
,電圧5Vの条件により基材表面を1分間電解腐食し
た。電解腐食後、5%塩酸で15秒間酸腐食し、基材表
面のCoを除去した。この基材表面を、ダイヤモンド砥
粒中で傷つけ処理を行った後、熱フイラメント法による
反応容器内に載置し、基材の刃先部における硬質膜の膜
厚さを20μmとなるように被覆し、本発明品1を得
た。
【0028】
【比較例】比較として、本発明品1で用いた同一基材の
表面を傷つけ処理のみ行い、本発明品1と同様にして基
材表面に硬質膜を被覆し、比較品1を得た。また、電解
腐食を行わずに、酸腐食時間を10分間とした以外は、
本発明品1と同様に行って、比較品2を得た。さらに、
電解液を10%硝酸ナトリウム溶液とし,電流密度5A
/cm,電圧10V,の条件で10分間電解腐食した
以外は、本発明品1と同様に行って、比較品3を得た。
【0029】こうして得た本発明品1と比較品1〜3を
用いて、被削材:82%Al−18%Si,切削速度:
100m/min,送り:0.1mm/rev,穴深
さ:20mmの条件で湿式による穴あけ切削試験を行っ
た結果、本発明品1が50000穴加工できたのに対
し、比較品1が100穴加工で寿命,比較品2が100
0穴加工で寿命,比較品3が5000穴加工で寿命とな
った。
【0030】本発明品1と比較品1〜3とをそれぞれ同
様に作製した別チップを準備し、このチップの表面に対
し垂直断面を金属顕微鏡および走査型電子顕微鏡により
観察した結果、本発明品1の基材表面は、図1に示した
ようにそれぞれの凸状物の高さが不均一であり、かつ柱
状,くさび状,三角状の凸状物でなり、この凸状物間隔
により形成されたそれぞれの凹状物間の幅が不均一であ
り、凸状物の先端部曲率半径の平均値が0.3μm、凹
状物の先端部曲率半径の平均値が3.0μm、凸状物の
先端部と隣接する凹状物の凹み先端部との高低差平均値
が1.5μm、凸状物と凹状物との間隔の平均値が4.
3μmであった。これに対し、比較品1および2の基材
表面は、図2に示したように、ほぼ平坦に形成されてお
り、比較品3の基材表面は、図3に示したように大きく
うねり状に浅い凹みがほぼ均一に形成されている状態で
あった。
【0031】
【実施例2】組成成分が91.5%WC−0.5%Ti
C−1.8%TaC−0.2%NbC−6%Co(重量
%)の超硬合金、形状がJIS規格のSPGN1203
08のスローアウエイチップでなる基材を用いたこと、
電解腐食条件のうち、電流密度を0.16A/cm2と
したこと以外は、本発明品1と同様に行って本発明品2
を得た。比較として、本発明品2と同様の基材を用いた
こと、その他は比較品1,比較品2および比較品3とほ
ぼ同様にして、それぞれ比較品4,比較品5および比較
品6を得た。
【0032】こうして得た本発明品2と比較品4〜6を
用いて、被削材:Al−18%Si,切削速度:100
0m/min,送り:0.1mm,切り込み:0.5m
mの条件で乾式旋削試験を行い、逃げ面摩耗量が0.3
mmのときを寿命とし、寿命までの切削時間を求めた結
果、本発明品2が70分間加工可能であったのに対し、
比較品4が1分間,比較品5が約10分間,比較品6が
約20分間加工可能であった。また、これらの本発明品
2と比較品4〜6の基材表面を実施例1と同様にして観
察した結果、それぞれの基材表面における凸状物および
凹状物は、本発明品2が本発明品1とほぼ同様であり、
比較品4が比較品1と、比較品5が比較品2と、比較品
6が比較品3とほぼ同様となっていた。
【0033】
【発明の効果】本発明のダイヤモンド被覆工具部材は、
基材表面積が拡大しており、その基材表面に被覆される
硬質膜の成膜時にダイヤモンドの核が容易に、かつ多量
に形成可能であること、緻密な膜にし得ること、および
膜質に優れること、そして基材表面の凸状物および凹状
物が硬質膜をフック状もしくは鉤状に固着し、アンカー
効果を高めて、基材との付着性および密着性がより一層
優れるようになることから硬質膜厚さを厚く被覆するこ
とが可能となること、これらが総合されて耐摩耗性,耐
剥離性に優れること、特に切削工具として実用した場合
にも硬質膜の耐摩耗性,耐剥離性および耐チッピング性
が優れることになり、顕著に長寿命となるという効果を
有するものである。
【0034】また、本発明のダイヤモンド被覆工具部材
の製造方法は、基材表面における硬質相と結合相との両
方を腐食することができて、かつその腐食量のバランス
が最適となって、基材表面に形成される凸状物にも硬質
相と結合相が残存した状態となり、凸状物自体の強度を
低下させていないことから、より硬質相を強固に保持し
ているという効果を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明品1における基材表面に対する任意垂直
断面からの基材表面と硬質膜との境界部の概略図。
【図2】研磨した基材表面を用いた比較品1および酸腐
食した基材表面を用いた比較品2における基材表面に対
する任意垂直断面からの基材表面と硬質膜との境界部の
概略図。
【図3】電解腐食した基材表面を用いた比較品3におけ
る基材表面に対する任意垂直断面からの基材表面部と硬
質膜との境界部の概略図。
【符号の説明】
1 硬質膜 2 境界部 3 基材

Claims (18)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 炭化タングステンを主成分として含む硬
    質相と、Coおよび/またはNiを主成分として含む結
    合相とを含有した超硬合金の基材の表面にダイヤモンド
    および/またはダイヤモンド状カーボンの硬質膜を被覆
    した被覆超硬合金部材において、該基材の表面に対する
    任意の垂直断面により該基材と該硬質膜との境界部を観
    察したときに、該基材の表面は、柱状,くさび状,およ
    び/または三角状の形態でなる不均一高さの凸状物が形
    成されており、該凸状物とその隣接の該凸状物との間に
    不均一幅の凹状物が形成されており、該凸状物および該
    凹状物の先端部が半円形状または円弧状に形成されてお
    り、該凹状物内に該硬質膜が埋設されて密着しているダ
    イヤモンド被覆工具部材。
  2. 【請求項2】 上記基材は、炭化タングステンからなる
    硬質相を90重量%以上と、残りがCoを主成分とする
    結合相とからなる請求項1に記載のダイヤモンド被覆工
    具部材。
  3. 【請求項3】 上記基材は、炭化タングステンと周期律
    表の4a,5a,6a族元素の炭化物,炭窒化物,炭酸
    化物,炭窒酸化物およびこれらの相互固溶体の中の少な
    くとも1種の立方晶構造の化合物とからなる硬質相を9
    0重量%以上と、残りがCoを主成分とする結合相とか
    らなり、該硬質相は、炭化タングステンを90重量%以
    上と、残りが該立方晶構造の化合物とからなる請求項1
    に記載のダイヤモンド被覆工具部材。
  4. 【請求項4】 上記凸状物の先端部は、平均曲率半径が
    0.05〜5.0μmであり、上記凹状物の先端部は、
    平均曲率半径が0.3〜100.0μmであり、該凹状
    物の先端部の平均曲率半径が該凸状物の先端部の平均曲
    率半径よりも大きくなっている形状部分を含む請求項1
    〜3のうちのいずれか1項に記載のダイヤモンド被覆工
    具部材。
  5. 【請求項5】 上記基材の表面は、上記凸状物の最大高
    さと、上記凹状物の最大深さとの差が1〜5μmである
    部分を少なくとも含む請求項1〜4のうちのいずれか1
    項に記載のダイヤモンド被覆工具部材。
  6. 【請求項6】 隣接する上記凸状物の先端部間隔は、
    1.0〜30.0μmである請求項1〜5のうちのいず
    れか1項に記載のダイヤモンド被覆工具部材。
  7. 【請求項7】 上記凸状物は、高さ,間隔および/また
    は形状が不均一に形成されている請求項1〜6のうちの
    いずれか1項に記載のダイヤモンド被覆工具部材。
  8. 【請求項8】 上記硬質膜は、平均膜厚さが40μm以
    下である請求項1〜7のうちのいずれか1項に記載のダ
    イヤモンド被覆工具部材。
  9. 【請求項9】 上記被覆超硬合金は、切削工具として用
    いられる請求項1〜8のうちのいずれか1項に記載のダ
    イヤモンド被覆工具部材。
  10. 【請求項10】 上記切削工具は、ドリルまたはエンド
    ミルである請求項9に記載のダイヤモンド被覆工具部
    材。
  11. 【請求項11】 上記凸状物は、少なくともすくい面お
    よび逃げ面に形成されており、かつ切刃から該すくい面
    および該逃げ面のそれぞれの面の中心部に向かって50
    μm以上の範囲に形成されている請求項9または10に
    記載のダイヤモンド被覆工具部材。
  12. 【請求項12】 上記硬質膜は、少なくともすくい面お
    よび逃げ面に被覆されており、切刃から該すくい面およ
    び該逃げ面のそれぞれの面の中心部に向かって50μm
    以上の範囲に被覆されており、かつ該切刃からそれぞれ
    の面の中心部に向かって50μm以下の範囲における該
    硬質膜の平均層厚さが10〜40μmからなる請求項9
    〜11のうちのいずれか1項に記載のダイヤモンド被覆
    工具部材。
  13. 【請求項13】 炭化タングステンを主成分として含む
    硬質相と、Coおよび/またはNiを主成分として含む
    結合相からなる超硬合金の基材の表面を電解液に浸漬す
    る電解腐食工程と、該基材の表面を洗浄および乾燥する
    工程と、該基材の表面にダイヤモンドおよび/またはダ
    イヤモンド状カーボンの硬質膜を被覆する工程とを少な
    くとも含み、該電解腐食工程における該電解液は、塩ま
    たは塩,塩基,酸の中の2種以上を水に溶解したPH6
    〜11の溶液からなり、かつ該電解腐食の条件は、電流
    密度が0.01〜20A/cm,電圧が1〜30Vか
    らなるダイヤモンド被覆工具部材の製造方法。
  14. 【請求項14】 上記電解液は、塩が少なくとも中性塩
    物質を含み、塩基が少なくとも強塩基性物質を含み、酸
    が少なくとも弱酸性物質を含む請求項13に記載のダイ
    ヤモンド被覆工具部材の製造方法。
  15. 【請求項15】 上記工程の他に、酸溶液に浸漬する酸
    腐食工程を含み、かつ該酸腐食工程が上記電解腐食工程
    後に行われる請求項13または14に記載のダイヤモン
    ド被覆工具部材の製造方法。
  16. 【請求項16】 上記酸溶液は、強酸性溶液である請求
    項15に記載のダイヤモンド被覆工具部材の製造方法。
  17. 【請求項17】 上記基材は、腐食後にダイヤモンド砥
    粒による傷つけ処理を施す請求項13〜16のうちのい
    ずれか1項に記載のダイヤモンド被覆工具部材の製造方
    法。
  18. 【請求項18】 上記硬質膜は、熱フイラメント法によ
    り被覆される請求項13〜17のうちのいずれか1項に
    記載のダイヤモンド被覆工具部材の製造方法。
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