JPH11129090A - 厚金属基材表面への薄金属シートの溶接被覆方法 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【課題】 耐食性や防汚性を有する薄金属シートを金属
基材表面に溶融接合により被覆する。 【解決手段】 金属基材１の表面に薄金属シート２を抵
抗溶接により接合した後、または金属基材１の表面に薄
金属シート２および固定用金属７を重ねたのみで、アー
ク溶接により溶融接合することにより、金属基材の表面
に薄金属シートを密着被覆する。 【効果】 十分な接合強度が確保できた上で、薄金属シ
ートへの溶接入熱を抑制することができるため、薄金属
シート厚さを小さくでき、材料費が低減できる。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【発明の属する技術分野】本発明は主として、海洋構造
物、橋梁、各種プラント等の金属構造物の防食や海洋生
物の付着防止のため、耐食性・防汚性に優れた薄金属シ
ートを金属構造物の表面に溶接被覆する方法に関する。

【０００２】

【従来の技術】近年、海洋構造物や海水用熱交換器、化
学薬品タンク等の腐食環境の厳しいところや、海洋生物
の付着環境下で用いられる金属構造物は従来の塗装に変
えて、メンテナンスフリーで長期にわたって耐食性・防
汚性を維持できる金属ライニング法が採用されてきてい
る。この金属ライニング法は、例えばステンレス、チタ
ン、モネル、銅、およびこれらの合金の薄板を単独また
は普通鋼とクラッド鋼としたものを金属構造物の表面に
貼り付け被覆するものである。

【０００３】従来、前記の薄板を金属構造物の表面に貼
り付け被覆するには、粘着材や接着剤を用いたものもあ
ったが、耐久性、止水性の面から十分でないため溶接接
合が主流となっている。被覆金属の薄板は防食・防汚の
目的を達成するには０．１〜０．５mm程度の厚みで十分
であるが、アーク溶接しようとすると溶損を避けるた
め、１mm以上の板厚にしなけければならず、材料コスト
が高くなってしまう問題があった。

【０００４】クラッド鋼は材料費の高い特殊金属の使用
を少なくするものであるが、製造工程が増えるためそれ
程の効果はなく、一方で板厚が厚くなるため重量が増
え、作業性がわるくなってしまう問題があった。また、
いずれの場合も溶接しようとする金属基材の表面が曲線
状に複雑に変化しているような場合は、薄板の剛性のた
め密着できない問題もあった。

【０００５】本発明の出願人はこれらの問題を解消する
手段として、先に特願平８−３３６９２６号で「金属基
材表面への薄い金属シート被覆方法」を出願している。
この内容は、金属基材の表面に、金属基材に直接溶接可
能なモネル、ステンレス、銅合金等の耐食性または防汚
性を有する０．１以上１mm未満の薄金属シートを置き、
周囲をインダイレクト抵抗シーム溶接により接合し、密
封シールするもので、取り扱いの容易な抵抗溶接法を用
い、かつ、薄金属シートの厚さを薄くして材料コストの
低減を図ったものである。

【０００６】

【発明が解決しようとする課題】しかし、前記従来技術
（特願平８−３３６９２６号）は金属基材が比較的薄い
場合や接合強度があまり高くなくてもよい場合は間題な
いが、薄金属シートと金属基材の接合に高い接合強度を
期待しようとした場合、金属基材が厚いと抵抗溶接では
固相接合となるため十分な強度が得られない問題があっ
た。

【０００７】本発明はこの従来技術をさらに改良したも
のと、全く新しい発想にもとずき、厚手の金属基材に材
料コストを抑えた極薄の薄金属シートを十分な接合強度
で接合可能な、厚金属基材表面への薄金属シートの溶接
被覆方法を提供するものである。

【０００８】

【課題を解決するための手段】本発明の要旨は以下のと
おりである。第１発明は、抵抗溶接により厚金属基材表
面に薄金属シートを固相接合した後、アーク溶接により
固相接合部の薄金属と厚金属基材を溶融接合することを
特徴とする厚金属基材表面への薄金属シートの溶接被覆
方法である。また、第２発明は、厚金属基材表面に重ね
た薄金属シートの上にアーク溶接可能な板厚の固定用金
属を置き、該固定用金属と薄金属シートと厚金属基材と
をアーク溶接により一体的に溶融接合することを特徴と
する厚金属基材表面への薄金属シートの溶接被覆方法で
ある。

【０００９】抵抗溶接による固相接合状熊では接合界面
にボイドまたは非金属介在物の残存がさけられない。そ
れに対してアーク溶接による溶融接合状態では相互の金
属が溶融して混合融和するため、その接合部の機械的性
質は異なり、アーク溶接による溶融接合した方が靭性、
疲労強度特性等に優れる。しかし、厚金属基材１の表面
に薄金属シート２を重ねそのまま溶接トーチ５によりア
ーク溶接すると、図３に示すようにアーク熱が拡散せず
薄金属シート２に集中してしまい、薄金属シート２のみ
が溶損して接合できない問題があった。

【００１０】本発明では第１発明、第２発明のいずれに
おいても、上記のような薄金属シートヘの過大な入熱を
抑制することで、アーク溶接により厚金属基材表面に薄
金属シートを適正に溶融接合可能としたものである。

【００１１】薄金属シートヘの過大なアーク入熱を抑制
する手段としては、第１発明では図１に示すように、先
行して行う抵坑溶接の固相溶接部４から厚金属基材１へ
のスムーズな熱伝達による熱拡散を生じさせることと
し、また第２発明では図２に示すように、薄金属シート
２の上に置いた固定用金属７にアーク入熱を拡散させる
こととした。以上のごとく厚金属基材表面に重ねた薄金
属シートは、アーク溶接により溶融接合しているため十
分な接合強度が確保できる。

【００１２】

【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態について
説明する。本発明に適用する厚金属基材の板厚の制約は
なく、通常の金属構造物の板厚約５〜３０mm程度は十分
カバーできる。また、薄金属シートは防食、防汚等の目
的に応じた耐食性、防汚性能を有する高級ステンレス、
モネル、チタン、およびこれらの合金材質のものから選
択され、耐久性、作業性を考慮して設計板厚が定められ
る。

【００１３】なお、厚金属基材に鋼を薄金属シートにチ
タンの組み合わせを用いた場合は、アーク溶接部に金属
基材のＦｅが溶け込み、Ｆｅ・ＴｉやＴｉＣ、ＴｉＮ等
の化合物ができて溶接金属部の脆化が生じたり、耐食性
能の低下があるため注意を要する。

【００１４】薄金属シートの板厚は耐久性、作業性を考
慮して設計板厚が定められるが、希少金属のため材料費
が高価であることからできるだけ薄くしたほうがよく、
そのままではアーク溶接不可能とされる１mm未満〜０．
１mm程度の範囲とし、好ましくは０．３〜０．５mm程度
とする。

【００１５】第２発明において使用する固定用金属は、
厚金属基材や薄金属シートと同じ材質とし、そのサイズ
はアーク熱を拡散できる大きさにする必要がある。具体
的なサイズはアーク溶接可能とされる１mm以上（望まし
くは余裕をみて１．５mm以上）の板厚とし、幅は板厚が
薄い場合は広く、厚い場合は狭くし、１０〜５０mm程度
の範囲とする。

【００１６】なお、本発明において採用するアーク溶接
としては、ＴＩＧ溶接、プラズマ溶接等の非消耗電極方
式またはＭＩＧ溶接、ＭＡＧ溶接等の消耗電極方式のい
ずれを用いてもよい。

【００１７】

【実施例】以下、本発明の実施例について説明する。図
４〜図７は第１発明に係る本発明実施例を示すものであ
る。図４は普通鋼板厚１５mmの厚金属基材１の上に重ね
たステンレス板厚０．４mmの薄金属シート２の端部を、
ローラー電極３ａによりインダイレクトシーム溶接機３
で抵抗溶接している状況を示すもので、４は抵抗溶接に
よって形成された固相接合部である。

【００１８】図５は、前記の抵抗溶接によって形成され
た固相接合部４を、アーク溶接機のトーチ５によりアー
ク熱で溶融して厚金属基材１と薄金属シート２を溶融接
合している状況を示すもので、６は溶融接合で得られた
ビードである。（サンプル１）

【００１９】図６は厚金属基材１の上に２枚の薄金属シ
ート２ａ、２ｂを隣接配置して重ね、この端部にローラ
ー電極３ａを掛け渡してインダイレクトシーム溶接機３
で抵抗溶接している状況を示すもので、４ａ、４ｂは抵
抗溶接によって形成された固相接合部である。

【００２０】図７は前記の抵抗溶接によって形成された
固相接合部４ａ、４ｂをアーク溶接機のトーチ５により
アーク熱で溶融して、厚金属基材１と薄金属シート２
ａ、２ｂを溶融接合している状況を示すもので、６ａは
溶融接合で得られたビードである。（サンプル２）

【００２１】図８、図９は第２発明に係るもので、図８
は第１発明と同様の厚金属基材１の上に重ねた薄金属シ
ート２の端部の上に固定用金属７を置き、アーク溶接機
のトーチ５によりアーク熱で溶融して固定用金属７と薄
金属シート２と厚金属基材１とを溶融接合した結果を示
すもので、８は溶融接合で得られたビードである。（サ
ンプル３）固定用金属７は薄金属シート２と同じ材質Ｓ
ＵＳ３１６を使用し、板厚２mmで幅２０mmの帯鋼として
いる。

【００２２】図９は厚金属基材１の上に２枚の薄金属シ
ート２ａ、２ｂを隣接配置して重ね、この端部に固定用
金属７ａ、７ｂを置きアーク溶接機５によりアーク熱で
溶融して固定用金属７ａ、７ｂと薄金属シート２ａ、２
ｂと厚金属基材１とを溶融接合した結果を示すもので、
８は溶融接合で得られたビードである。（サンプル４）
このサンプルの固定用金属７は、薄金属シート２と同じ
材質ＳＵＳ３１６を使用し、板厚１．５mmで幅３０mmの
帯鋼としている。

【００２３】表１は前記サンプル１とサンプル２および
比較例の抵抗溶接の溶接条件を示す。表２はサンプル１
〜４のＴＩＧアーク溶接の溶接条件を示す。なお、サン
プル１、２は溶加材無でアーク熱を加え、サンプル３、
４は溶加材を使用した。表３は厚金属基材１に溶融接合
した薄金属シート２のせん断引張試験と剥離試験および
水密性試験した結果を、抵抗溶接のみの比較例とともに
示している。

【００２４】図１０は引張り試験片形状と引張荷重方向
を示したもので、（ａ）はせん断方向引張試験片、
（ｂ）は剥離方向引張試験片である。表３の試験結果に
示すように、せん断引張試験では比較例を含めてすべて
のサンプルが薄金属シート母材で破断したが、剥離試験
では本発明によるサンプルはすべて薄金属シート母材部
で破断しているのに対して、比較例は抵抗溶接の接合界
面部で破断している。なお、水密性試験では全て試験圧
力０．２MPa でリークは認められなかった。

【００２５】

【表１】

【００２６】

【表２】

【００２７】

【表３】

【００２８】

【発明の効果】本発明によれば、抵抗溶接により厚金属
基材表面に薄金属シートを固相接合した後、アーク溶接
により固相接合部の薄金属と厚金属基材を溶融接合する
第１発明と、または、厚金属基材表面に重ねた薄金属シ
ートの上にアーク溶接可能な板厚の固定用金属を置き、
該固定用金属と薄金属シートと厚金属基材とをアーク溶
接により一体的に溶融接合する第２発明により、厚金属
基材表面へ薄金属シートを溶接被覆する方法であり、第
１発明、第２発明のいずれにおいても、薄金属シートヘ
の過大な入熱を抑制することで、アーク溶接により厚金
属基材表面に薄金属シートを適正に溶融接合することと
したものであるため、十分な接合強度が確保できるとと
もに、高価な薄金属シートの材料費を低減できる。

【図面の簡単な説明】

【図１】本発明に係る第１発明のアーク熱拡散の作用説
明図。

【図２】本発明に係る第２発明のアーク熱拡散の作用説
明図。

【図３】従来例のアーク熱伝達の作用説明図。

【図４】第１発明の実施例における薄金属シート端部の
抵抗溶接状況図。

【図５】第１発明の実施例におけるアーク溶接状況図。

【図６】第１発明の実施例における２枚の薄金属シート
端部の抵抗溶接状況図。

【図７】第１発明の実施例における２枚の薄金属シート
端部のアーク溶接状況図。

【図８】第２発明の実施例における薄金属シート端部の
アーク溶接状況図。

【図９】第２発明の実施例における２枚の薄金属シート
端部のアーク溶接状況図。

【図１０】本発明の実施例おける溶接部品質評価のため
の溶接部引張試験片形状図。

【符号の説明】

１ 厚金属基材 ２ 薄金属シート ３ インダイレクトシーム溶接機 ４ 固相溶接部（抵抗溶接） ５ アーク溶接機のトーチ ６ 溶接ビード ７ 固定用金属 ８ 溶接ビード ９ 引張荷重方向

───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 盛高 裕生 東京都千代田区大手町２−６−３ 新日本 製鐵株式会社内 (72)発明者 弥永 信之 東京都千代田区大手町２−６−３ 新日本 製鐵株式会社内 (72)発明者 吉川 利夫 東京都千代田区大手町２−６−３ 新日本 製鐵株式会社内

Claims (2)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 抵抗溶接により厚金属基材表面に薄金属
   シートを固相接合した後、アーク溶接により固相接合部
   の薄金属と厚金属基材を溶融接合することを特徴とする
   厚金属基材表面への薄金属シートの溶接被覆方法。
2. 【請求項２】 厚金属墓材表面に重ねた薄金属シートの
   上にアーク溶接可能な板厚の固定用金属を置き、該固定
   用金属と薄金属シートと厚金属基材とをアーク溶接によ
   り一体的に溶融接合することを特徴とする厚金属基材表
   面への薄金属シートの溶接被覆方法。