【発明の詳細な説明】
生物分解性かつ熱可塑性の澱粉
本発明は、エステル基を介して結合する側鎖を有する、生物分解性で熱可塑性
の澱粉を製造する方法に関する。
さらに、本発明は、得られた澱粉の使用に関する。好適な態様は、従属請求項
及び詳細な説明から把握されるであろう。
澱粉を溶融させ、その結果これを可塑状態にさせることを可能とするためには
、水素結合により安定化されている結晶構造を分解しなければならない。これを
行なうために、天然の澱粉、これは植物から抽出された粗澱粉を乾燥することに
より製造され、そして澱粉に基づいて約10〜20重量%の水分含量を有するも
のであるが、この澱粉はさらに水を添加し又は添加することなく、圧力下で機械
的に作用させつつ、加熱される。しかしながら、この物理的に変成された溶融可
能の澱粉は、特定の条件下においてのみその後処理し得るという欠点を有してい
る。このため、天然の澱粉と添加物の均一な混合物であり、熱可塑性澱粉(ther
moplastic starch:TPS)と呼ばれる、溶融可能な澱粉が開発されている(W
O90/05161)。
米国特許第5095054号明細書には、ポリビニ
ルアルコールを使用して澱粉を熱可塑性にしうることが開示されている。しかし
ながら、ポリビニルアルコールは澱粉と混合中に極めてゆっくりと分解する。
アセテート澱粉又はアセテートブチレート澱粉のような、或る種の澱粉のエー
テル及びエステルは、本質的に可塑剤又は可塑性助剤を添加することなく、熱可
塑性物質として処理し得ることが知られている。しかし、これらの既知の澱粉誘
導体は生物分解性でなく又は極めてゆっくりと生物分解しうるのみである。
ヨーロッパ特許第542155号及びドイツ特許第4237535号には、T
PSはポリヒドロキシアルカノエート又はヒドロキシアルカノエートのラクトン
により部分的にエステル化しうることが開示されている。ドイツ特許第4237
535号には、添加剤として、例えば乳酸のようなヒドロキシ酸によりTPSに
変換された澱粉が開示されている。このTPSを製造するために好ましくは乾燥
した天然の澱粉、即ち10%以下の水分含量である天然の澱粉が使用される。次
いで、TPSは、澱粉に対して反応性の基を有するポリマーと反応させる。その
説明によると、適当な反応性基はポリマー鎖に組み込まれたエポキシド、アンヒ
ドリド又はエステルであり、これは高温で澱粉に対して反応性となる。こうして
得られる澱粉は、低いグラフト度を有し、均一に混合された添加物を含有する。
ドイツ特許第4237535号には、例えば、或る
種のTPSとポリカプロラクトンの反応が記載されている。この目的のために、
ポリカプロラクトンとの反応に先立って、極めて低含水量で使用しうるように、
このTPSは脱ガス化される。このようにして得られる組成物は生物分解性であ
る。しかしながら、それらは添加物が組成物中に存在する間、熱可塑性に止まる
にすぎず、澱粉と均一に混合された添加剤は処理の間及びその後の時間に残留し
、又は稀釈されるという欠点を有する。このことは、食品分野のための包装材料
がこの組成物又はそれらと他のポリマーとの混合物から製造される場合には、特
に不利益となる。
日本の公開された出願には、澱粉とラクトン又はラクチドとの反応のために、
N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン又は1,3−ジメチルイ
ミダゾリドン、又はこれと塩化リチウムの混合物が使用される、澱粉エステルの
製造方法が開示されている。記載されている澱粉のエステル化のための触媒は、
アルカリ金属水酸化物又はアミンのような塩基性化合物である。この実施例にお
いて、塩化リチウムとN,N−ジメチルアセトアミドの混合物は、各々のケース
において溶媒として使用されている。この方法は、N,N−ジメチルアセトアミ
ドが毒性であり、生成した澱粉エステルが高い塩含量を有するという欠点をもっ
ている。
それゆえ、本発明の目的は、慣用の方法を使用して
熱可塑性物質として容易に処理しうるもので、同時に生物分解性であり、さらに
は稀釈しうる低含量の構成物を有する、澱粉をベースとした組成物を製造するた
めの方法を提供することである。
上記目的は、エステル基を介して結合された側鎖を有する生物分解性及び熱可
塑性の澱粉を製造する方法、これはジメチルスルホキシド中触媒の存在下で又は
溶融状態で溶媒の非存在下にて、天然の澱粉を、澱粉の水酸基とエステル基を形
成しうる化合物と反応させることから成る方法により達成されることが見い出さ
れた。
本発明による方法において、使用される澱粉は起源又は組成は大きく変化しう
る。ここで澱粉という用語は、例えば、基本的にアミロース及び/又はアミロペ
クチンから構成される天然の植物起源のポリサッカライドを含む。澱粉は例えば
種々の植物、即ちじゃがいも、米、タピオカ、とうもろこし、豆、小麦、オート
又はライ麦のような穀類から抽出することができる。好ましいものは、じゃがい
も、とうもろこし、小麦又は米から製造される澱粉である。種々の起源からの澱
粉の混合物も同様に使用しうる。
一般に使用される出発原料は、植物から抽出された粗澱粉を乾燥させて製造さ
れ、澱粉に基づいて約10〜20重量%の含水量を有する天然の澱粉である。し
かしながら、物理的に変性された澱粉も使用し得る。
これらは、さらに、酸を添加することにより変性された澱粉であってもよい。
同様に、澱粉中に存在するイオンが他のイオンで部分的に又は完全に変換され
た澱粉も使用し得る。好適には天然の澱粉が使用され、特に好ましくは、減少し
た含水量を有する天然の澱粉、例えば澱粉に基づいて、6重量%以下の、特には
1重量%以下の、極めて特定的には0.001〜0.2重量%の含水量を有する
ものである。
本発明の方法により得られる澱粉は、生物分解性である。このことは、一般的
には、環境の影響下において、合理的なかつ検出可能な時間内に澱粉が分解する
ことを意味する。この分解は、加水分解及び/又は酸化によりなされ、主には、
バクテリア、イースト、カビ及び藻類のような微生物の作用によりなされる。こ
の生物分解性は、例えば試料をコンポストと混合し、或る期間それを維持するこ
とにより測定しうる。例えば、配合土を施す間、ASTM D 5338に従っ
て熟成させたコンポストを通してCO2を含有しない空気を通気させ、このコン
ポストを特定の温度プログラムに処理する。生物分解性は、試料の最大CO2放
出(試料の炭素含量から計算した)に対する試料からの正味CO2放出(試料な
しでのコンポストによるCO2放出を減じた後)の割合として定義される。本発
明の澱粉から製造されたフィルムは、コンポスト中で
わずか2〜3日の貯蔵の後でさえも、かびの成長、クラッキング及び穴の形成等
の分解の著しい徴候を示している。
この澱粉は、本発明において熱可塑性であり、即ち、それらは高められた温度
、例えば100〜230℃の範囲で、好ましくは120〜160℃の範囲で、押
出し又は射出成形のような慣用の方法により処理して、押し出しフィルム、吹き
込み(管状)フィルム又は成形物を与えることができる。
本発明の方法に従って得られる生物分解性及び熱可塑性の澱粉は、エステル基
を介して澱粉分子に結合している側鎖を有する。少部分において、澱粉はエステ
ル又はアセタール基又はこれらの基の混合により澱粉分子に結合している側鎖も
含有しうる。
この側鎖は、澱粉中に存在するヒドロキシ又はアルデヒド基によりエステル化
、エーテル化又はアセタール化しうるモノマー性、オリゴマー性又はポリマー性
の化合物に由来するものとしうる。異なる鎖長を有する側鎖も又、澱粉分子に結
合できる。多くの変形した側鎖が適当であるが、好適なものはそれ自体が生物分
解性である化合物に由来するものである。特に好ましいものは、過剰の肥料を生
じうる窒素化合物のような、生物分解時に環境に有害な物質を付加的に製造しな
いものである。
適当な側鎖の特別の例は、ヒドロキシアルケニルカ
ルボン酸、そのオリゴマー又はポリマー、アルカンカルボン酸とジオールとのエ
ステル、これらのオリゴマー又はポリマー又はこれらの化合物の混合物に由来す
るものである。これらには、乳酸、ジラクチド、ポリラクチド、グリコール酸、
グリコリド、ポリグリコリド、カプロタクトン、ポリカプロラクトン、C−原子
数2〜4のアジピン酸のエステル、コハク酸、スベリン酸、グルタール酸及びア
ジピン酸、コハク酸、スベリン酸又はグルタール酸のC−原子数2〜4のエステ
ルのオリゴマー又はポリマーが含まれる。これらの化合物の共重合エステルを使
用することもできる。
以下の構造の側鎖は特に好ましい:
上記式中、R1,R2,R3は同一又は異なって、互いに独立に、直鎖の又は分
枝鎖状のC−原子数1〜25のアルケニル基である。好ましいアルケニル基は、
メチレン、エチレン、プロピレン、i−プロピレン、n−ブチレン、i−ブチレ
ン及びt−ブチレンである。変数n及びmは、互いに独立して1〜10までの整
数である。
特に好ましくは、本発明の方法により製造される生
物分解性及び熱可塑性の澱粉は、乳酸とポリカプロラクトンの混合物に由来する
側鎖を含む。オリゴマーの又はポリマー性の側鎖の分子量(Mm,数平均)は、
一般に500〜100,000の範囲、好ましくは1000〜80000g/モ
ルの範囲にある。
一般には、すべての側鎖の20〜80重量%が単量体化合物に由来し、すべて
の側鎖の20〜80重量%がオリゴマー性又はポリマー性の化合物に由来する。
澱粉の置換度は本発明にとって極めて重要である、というのは、十分に高い置
換度において、例えば(澱粉の無水グルコース単位に基づいて)少なくとも0.
5において、この澱粉は熱可塑性物として容易に処理しうるだけであるからであ
る。
それゆえ、側鎖の重量割合は、生物分解性かつ熱可塑性の澱粉に基づいて、少
なくとも10重量%である。例えば40重量%まで、又はそれ以上にさえ、する
ことができる。好ましくは、澱粉に基づいて少なくとも15重量%、特に少なく
とも20重量%である。特に好ましくは、その割合は少なくとも30重量%であ
る。
本発明による方法により製造される生物分解性及び熱可塑性の澱粉は、指令書
90/128/EECにより特定される条件において測定したときに、50mg
/dm2以下の全体移動(global migration)を有する。代わりに、それらは3
00mg/kg以下の食品
の全体移動を有する。本発明による好ましい生物分解性及び熱可塑性の澱粉は、
40mg/dm2以下の全体移動又は240mg/kg以下の食品の全体移動、
特に20mg/dm2以下の全体移動又は120mg/kg以下の食品の全体移
動を有する。極めて特別に好ましいものは、10mg/dm2以下の全体移動又
は60mg/kg以下の食品の全体移動を有する生物分解性及び熱可塑性の澱粉
である。このことは、上述の指令書に記載された標準試験に従う上記の限度以上
の量で生成する成分を有しないことを意味する。全体移動値は、指令書に従って
、可塑物質を所定の時間、定められた温度で種々の溶剤にさらして測定される。
次いで、可塑物質から漏出する成分の量が測定され、mg/dm2値で報告され
る。代わりに、標準化された条件下における試験で或る種の食品を可塑物質と接
触させ、全体移動を測定することができる。食品中に取り込まれた外来性の物質
が測定される。この全体移動は、食品のmg/kgとして報告される。
生物分解性で熱可塑性の澱粉は、第一工程において、天然の澱粉又は好ましく
は乾燥させた天然の澱粉をエステル化しうる添加物とともに溶融させることによ
り製造しうる。好ましくは、これらのエステル化し得る添加物は大気圧下におい
て120℃以上で揮発性である。エステル化しうる添加物又は異なるエステル化
可能な添加物のいずれかを使用することができる。好
ましいエステル化可能な添加物には、乳酸が含まれる。一般には、天然の澱粉は
押出機、共捏和機又は他の混合ユニットのような閉じた装置において、180〜
200℃でエステル化可能な添加物と溶融される。次の工程において、このよう
にして天然の澱粉とエステル化可能な添加物から製造される流動可能な混合物は
、溶融時に触媒の存在下に他の化合物と反応させるか、又は澱粉のヒドロキシ基
とエステルを形成しうるジメチルスルホキシド(以下、反応性化合物と称する)
の存在下で反応させる。適当な触媒は、例えば、チタン(VI)酸のアルコキシレ
ート又はこれらの化合物のアミノ誘導体である。さらに、ジシクロヘキシルカル
ボジイミドのようなカルボジイミド、又は“ソフトな”、かさ高いカチオンを有
する塩も、触媒として使用できる。これらのカチオンには、テトラブチルアンモ
ニウム及びトリス(ジメチルアミノ)スルホニウムが含まれる。ホスファゼン塩
基、例えば、P4−ホスファゼン塩基、即ちt−オクチルイミノ−トリス−(ジ
メチルアミノ)ホスホラン、1−エチル−2,4,4,4−ペンタキス(ジメチ
ルアミノ)−2λ5,4λ5−カテナジ(ホスフェゼン)、1−t−ブチル−4
,4,4,−トリス(ジメチルアミノ)−2,2−ビス[トリス(ジメチルアミ
ノ)−ホスホラニル−イデンアミノ]−2λ5,4λ5−カテナジ(ホスファゼン
)、1−t−オクチル−4,4,4,−トリス(ジ
メチルアミノ)−2,2−ビス[トリス(ジメチルアミノ)−ホスホラリデンア
ミノ]−2λ5,4λ5−カテナジホスフェゼン、KF/クラウンエーテル及びジ
スタンノキサンは他の適当な触媒である。好ましい触媒には、トリエトキシジイ
ソプロピルアミノチタネート及びP4−ホスファゼン塩基が含まれる。明らかに
、異なる触媒の混合物も、又、使用できる。
代わりに、この澱粉は、天然の澱粉、好ましくは乾燥させた天然の澱粉をジメ
チルスルホキシド中において添加物を添加することなく、反応性化合物とともに
溶解させ、次に、上述の触媒の1種の存在下で反応を進めることによっても製造
できる。この反応は、二極性の中性溶剤の存在下で実施することもできる。適当
な溶剤の例は、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド又はN,
N−ジメチルアセトアミドである。しかしながら、この反応は分散物中でも実施
できる。
好ましくは、反応は剪断力の存在下で、例えば、捏和機又は押出機中で行なわ
れる。
温度は一般には、100〜230℃、好ましくは120〜160℃の範囲であ
る。
未反応のエステル化可能な添加物は、精製前又はその間に、脱ガス化により除
去でき、この際或る場合には、高められた温度が使用されなければならない。
反応生成物は、例えば適当な溶剤で洗浄することが
でき、次に、例えば、脱ガスにより乾燥され、顆粒化される。
このようにして製造された生物分解性で熱可塑性の澱粉は、成型物、フィルム
又はファイバーを製造するために、単独で又は澱粉ないしは生物分解性のポリエ
ステルのような他の生物分解性の重合体と混合して使用することができる。これ
はあらゆるタイプの包装材料、特には食品分野のためのフィルムを製造するのに
、特に極めて適切である。
実施例
すべての実施例で使用された澱粉は、105℃にて捏和機中で0.2重量%の
水を含有する天然のジャガイモ澱粉をホモジナイズした。
実施例1
澱粉及び250000の分子量(重量平均 Mw)により特徴化されたポリカ
プロラクトン(PC1)を五酸化リン上にて減圧下で乾燥させた。澱粉1g(0
.2重量%の含水量を有する乾燥させた天然のジャガイモ澱粉)及びポリカプロ
ラクトン3gを次いでジメチルスルホキシド(DMSO)100mlに溶解させ
、水素化カルシウム上で乾燥させた。この溶液を12mPaで160℃に加熱し
、痕跡量の水を追い出した。
DMSOに溶解させたトリエトキシジイソプロピルアミノチタネート(TEA
T)4.1gを一度に少量ずつ溶液に添加した。反応温度を160℃にした。反
応
が完了したら、反応混合物に水を加え、反応混合物を水に対して透析し、そして
反応生成物を濾別し、水で洗った。乾燥後、反応生成物を1,2−ジクロロエタ
ンで洗い、乾燥させ、分光器で分析した。
実施例2〜8
実施例1を繰り返したが、表中に特定した触媒及び澱粉/ポリカプロラクトン
の割合を使用した。
以下の触媒が使用された:
A:1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−ウンデ−7−セン(1.55)
B:N,N−ジシクロヘキシルカルボジイミド(b1)及び4−ピロリジノピリ
ジン(b2)が、以下の混合割合である混合物を使用した。
実施例2において、触媒濃度は澱粉重量に基づいて15重量%であり、実施例
8においては澱粉に基づいて25重量%であった。実施例3〜7において、触媒
混合物の量は、澱粉に対するb1の割合が等モルになるようにして使用した。
生物分解可能性
製造された試料の生物分解性はASTM D 5338に従って試験した。こ
のために、各々の場合において、本発明による生成物約120gをコンポスト1
200gと混合したが、このコンポストは4ケ月間熟成させた市の下水スラッジ
の有機分画に由来するものであり、混合した後45日間貯蔵した。堆肥にする間
CO2を含有しない空気を容器中に通じ、定義された温度プログラムを行なった
。堆肥時に放出されたCO2ガスを連続的に測定した。ブランクの値(試料なし
の堆肥によるCO2放出)を差し引いた後で得られる正味のCO2放出の最大CO2
放出(試料の炭素含量から計算した)に対する割合を計算した。これは%B=
[CO2正味/CO2最大]・100で、生物分解性を与えた。
本発明により得られる澱粉は、99.7%の生物分解
性を有していた(標準偏差:0.5;95%信頼区間±1.4)。
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フロントページの続き
(81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE,
DK,ES,FR,GB,GR,IE,IT,LU,M
C,NL,PT,SE),CN,JP,KR,US
(72)発明者 イヴァン トムカ
スイス国 CH−1722 ブルギョン シャ
レ ブライトフェルト (番地なし)