【発明の詳細な説明】
水溶性ユビキノン組成物、プロドラッグおよびこれに関連した方法
〔技術分野〕
本発明は、一般に水溶性ユビキノン組成物、プロドラッグ、その配薬方法およ
びアポトーシスの改善におけるその使用方法に関する。
〔発明の背景〕
特異的な補酵素Q10(CoQ10)は、水溶液中で本質的に不溶性である疎水性
の高い分子である。水性の処方は、高濃度のCoQ10の容積を小さくして大きな
生体利用性可能にしながら、適度な投与における大きな融通性を可能にするので
有利である。静脈内投与製剤は、その信頼性、正確性および便宜性の故に特に有
利である。静脈内投与製剤はまた、薬物の経口投与に付随する可能性がある胃の
刺激をも回避する。静脈内投与製剤は、連続的薬物療法ならびに間欠的薬物療法
を可能にする。更に、この投与法法は、吸収不良症候群、不耐性、意識喪失、ま
たは嘔吐のために患者が経口投与物を摂取できないときに特に価値がある。特に
濃縮溶液の形のCoQ10の液体製剤は、CoQ10カプセルの調剤における価値が
大きい。更に、疎水性の高い薬物は胃腸管内での吸収性が乏しい。胃腸管でのC
oQ10の吸収速度が遅く(6〜10時間)、また定常状態の血漿レベルに達するま
でに約7日の期間を要するため、殆どの症例において、急性疾患の治療に経口投
与を用いることはできない。
臨床的に有効で使用可能なCoQ10の水溶液製剤は、通常の周囲温度で安定で
なければならず、また少なくとも1年間は分散特性が実質的に未変化のままでな
ければならない。これは、製造、分析、配送センターへの輸送、使用される病院
への輸送および該病院での保存、および患者への投与のために必要とされる概略
の期間である。水に不溶性のCoQ10の固体の水性媒質中への分散は、このよう
な製剤の調製を非常に困難にする。固体粒子の分散が試みられてきたけれども、
CoQ10を含有する粒子は溶液中で沈殿し、攪拌または振盪のような再分散方法
は臨床的には許容されない。CoQ10の不溶性に伴う第二の顕著な困難
性は、静脈内投与に際して、血流内での相分離または沈殿を生じない製剤を得る
ことである。このような分離または沈殿は血流にとって有害であり、生命を脅か
す可能性がある。
CoQ10の液体製剤を作製する試みにおいて、他の研究者は主にCoQ10の脂
肪乳剤の製造に注目してきた。
これら全ての製剤は乳化剤を含有している。実際に、洗剤または表面活性剤を
含んでいないこのようなCoQ10製剤は存在しない。更に、油性エマルジョンの
性質のために、この製剤は生体利用性および体内における所望の配薬部位でのC
oQ10の濃度が制限される。一般に、油性製剤はCoQ10の濃度が比較的低い(
通常は10mg/mL以下)高粘度の製剤であり、細胞膜内に徐々に蓄積する。更に
重要なことに、乳剤は徐々に吸収され、細胞内に低レベルで蓄積される。
CoQ10の投与に伴う困難性にもかかわらず、他のCoQ10製剤および投与法
が臨床的環境において評価されてきており、広範な疾患のための医薬製剤の可能
性および多用途性(versatility)が示されている。CoQ10は鬱血性心不全にお
ける「突破(breakthrough)」薬物を標識して、患者の75%において臨床的な利点
が示されている(Greenberg and Frishman,J.Clin.Pharmacol.30:596-608,
1990;Oda,Drugs Exp.Clin.Res.11:557-76,1985)。CoQ10は、筋ジスト
ロフィーの影響と闘うために使用されてきており、デュシェーヌ型筋ジストロフ
ィー患者のサブポピュレーションにおいて臨床的な利益を生じている(Folkers
et al.,Proc .Natl.Acad.Sci.U.S.A. 82:4513-6,1985)。CoQ10は、歯
周病と闘うために利用されて成功している(Wilkinson et al.,Res.Commun.Path
ol.Pharmacol.14:715-9,1976)。CoQ10は、例えばAIDS、アレルギーに対
する免疫修復に用いられている(Suzuki et al.,Jpn .J.Surg. 16:152-5,198
6;Folkers et al.,Res.Commun.Chem.Pathol.Pharmacol. 38:335-8,1982;Folker
s et al.,Biochem .Biophys.Res.Commun. 193:88-92,1933)。
これら多くの疾患における共通の特徴は、進行するアポトーシスの存在である
。アポトーシスまたはプログラムされた細胞死は、発生している胚の改造および
成熟細胞の回転に導く生理学的プロセスにおける主要なタイプの細胞死である。
アポトーシスはまた、形質転換またはウイルス感染した細胞、並びに反応性酸
素種、細胞毒剤、マクロファージおよび細胞促成Tリンパ球の放出を介して損傷
された細胞の除去を担当する。更に、アポトーシスは、AIDSおよび癌のよう
な多様な疾患を含む種々の病理学的状態において生じ、また心筋梗塞の周囲のよ
うな細胞損傷部位の周囲で生じやすい。アポトーシスは、核染色体の高密度の圧
縮、渦巻状変形、核の断片化、原形質膜の泡状化を特徴とし、最終的には細胞死
をもたらす。
アポトーシスに起因する細胞の有害な喪失によって惹起され、または悪化する
多くの疾患が存在する。例えば、HIV感染患者における生きたCD4+Tリン
パ球の喪失促進;貧血および脳の再灌流(reperfusion)に続いて生じるニューロ
ンおよび他の細胞タイプの消失;および新生物疾患の治療におけるイオン化線照
射またはUV照射の後の免疫細胞の破壊である。これらの疾患の病因学における
アポトーシスの共通のトリガーは、主に遊離ラジカルの生成によってもたらされ
る酸化性ストレスの関与である。遊離ラジカルは、天然に存在する広範な細胞分
子と反応する高度に反応性の分子種である。遊離ラジカルがこのような細胞成分
と反応すると、細胞の正常な機能を変えてしまうような構造的変化を生じる。
遊離基は、正常な細胞機能(酸素大差および薬物代謝)の生成物として、全て
の細胞において連続的に発生する。しかしながら、細胞内における遊離ラジカル
の濃度が最小毒性濃度(MTC)を越えると、脂質、蛋白、糖鎖および核酸(こ
れらは全て機能細胞の必須成分である)の構造的および機能的効率が変化する。
この「細胞損傷」は、酸化的ストレスの典型的な結果である。
この種類の細胞損傷と闘うために、温血動物は、MTCを越えるレベルでの遊
離ラジカルの蓄積を防止するために、複雑な防御機構を進化させてきた。これら
の防御機構には、遊離ラジカルが細胞と反応する前に、この遊離ラジカルを安定
な化合物に変換する一連の化合物が含まれている。これらの化合物は「遊離ラジ
カルスカベンジャー」と称されている。膜中のラジカル(脂質過酸化物)の最も
重要なスカベンジャーは、ビタミンEおよびCoQ10である。最近になって、C
oQ10は脂質環境における最も重要なスカベンジャーと見なされてきた(Stock
er et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.88:1646,1991)。
体内の全ての細胞を通しての遊離ラジカルスカベンジャーの利用可能性は、細
胞膜の安定化および一体性を保証する。一般に、細胞に存在する遊離ラジカルス
カベンジャーの絶対的濃度は個体ごとに変化するが、細胞の安定な環境を保証す
るために、遊離ラジカルスカベンジャーは過剰濃度で存在する。更に、個体にお
ける遊離ラジカルスカベンジャーの活性は、広範囲の影響因子によって変化する
可能性がある。
特定の個体における酵素のスカベンジ能力は、遊離ラジカルスカベンジャーが
所定数の遊離ラジカルをスカベンジまたは中和する速度を測定することによって
決定される。
正常な環境下では、この遊離ラジカルスカベンジャーの活性は、遊離ラジカル
を最小毒性濃度(「MCT」)よりも十分に低い濃度に維持される。従って、一
般には、遊離ラジカル濃度とMTCとの間には実質的な安全マージンが存在する
。しかし、種々の因子によって遊離ラジカル濃度が増大し、これによって患者に
ダメージを与える可能性がある。このような因子には、遺伝因子、栄養状態因子
、薬物療法の適用、薬物代謝疾病および環境的因子の考慮が含まれる。これら因
子の何れかにおける変化は、身体の防御機構の欠陥をもたらし、アポトーシスを
もたらす。
遊離ラジカルスカベンジャーの活性に加えて、ATPの形の細胞エネルギーま
たはミトコンドリア活性のレベルは、細胞死における重要な事項である。例えば
、構造的に生成したATPの異なったレベルを有する種々の白血病細胞系を用い
て、スメット等(Smets et al)は、細胞性ATPと糖質コルチコイドに誘導され
たアポトーシスに対する感受性との間に逆の関係があることを報告している(Bl
ood 84(5):1613,1994)。結局、ミトコンドリアの呼吸阻害剤は、細胞の糖質コル
チコイドに対する感受性を増強する。従って、ミトコンドリア活性を介してAT
Pの産生を増大させる方法によって、細胞は、アポトーシスによる細胞死を誘導
する薬剤から保護するであろう。
CoQ10は、膜中の遊離ラジカルスカベンジャーとして作用する能力、並びに
細胞修復のための十分なエネルギーを細胞が製造できないことを相殺する能力を
有することに起因して、CoQ10は、アポトーシスの阻害剤として理想的な機能
的活性を有している。現在のユビキノン製剤は、所望の生体利用性および臨
床的有効性のための溶解性を達成する能力が制限される。本発明はこの必要性を
完全に満たすものであり、更に関連した利点を提供するものである。
〔発明の概要〕
本発明の一つの側面には、ユビキノールのC1およびC4の位置の少なくとも
一方を、可溶化部分およびターゲッティング部分から独立に選択された置換器で
置換されたユビキノールを含有する、水溶性のユビキノンプロドラッグが含まれ
る。本発明のユビキノンプロドラッグは、1〜12単位、好ましくは6〜10単
位、最も好ましくは10単位のイソプレン単位有するC6テルペノイド側鎖を有
している。
一態様において、置換基である可溶化部分は更に、ターゲッティング部分に結
合されている。他の態様において、置換基であるターゲッティング部分は更に、
可溶化部分に結合されている。一態様において、可溶化部分はターゲット部分で
ある。
一態様において、可溶化部分またはターゲッティング部分は、カルバメート連
結基、エーテル連結基、エステル連結基およびカーボネート連結基から選択され
た連結基を介して、ユビキノールに結合される。
一態様において、前記可溶化部分は、電気的に帯電した可溶化部分および電気
的に中性の可溶化部分から選択される。代表的な電気的に帯電した可溶化部分に
は、スルホネート基、カルボキシレート基、ホスホネート基およびアンモニウム
基、並びにポリペプチドを含むポリカチオン性部分およびポリアニオン部分が含
まれる。電気的に中性の代表的な可溶化部分には、水酸基、エーテル基、アミン
基、およびチオール基、並びにポリアルコール部分、ポリエーテル部分、および
ポリアミン部分のような単一の可溶化基を有する部分が含まれる。好ましい態様
において、この可溶化部分は、約350〜約6000、好ましくは約600〜約3400、最も
好ましくは約1500〜約2500の範囲の分子量を有するポリエチレングリコールのよ
うなポリエーテルである。
好ましい態様において、ユビキノンプロドラッグは、ポリエチレングリコール
5000に結合したユビキノン(50)を含有する。
本発明のこの側面の他の態様において、ターゲッティング部分は、LDL受容
体、アシアロ糖タンパク受容体、ポリアミン受容体、インスリン受容体、トラン
スフェリン受容体およびアルファ−2−マクログロブリン受容体から選択される
受容体に向けられる。好ましい態様において、前記ターゲッティング部分はアシ
アロ糖タンパクである。
本発明の他の側面には、ユビキノンプロドラッグと、要すれば薬学的に許容さ
れ得る賦形剤または希釈剤とを含有する薬学的組成物が含まれる。
本発明の他の側面によれば、ユビキノンおよび可溶化剤を含有するユビキノン
配薬組成物であって、該可溶化剤は可溶化部分に結合した親油性部分を有するユ
ビキノン配薬組成物が含まれる。好ましくは、親油性部分は、脂肪酸、脂肪アル
コール、および脂肪エステルを含む脂質またはリン脂質から選択される。好まし
い態様において、前記親油性部分はステロールである。代表的な可溶化部分には
、一般的に350〜6000、好ましくは約1500〜約2500の範囲の分子量を有するポリ
エチレングリコールを含むポリエーテルのような、電気的に中正な可溶化部分化
含まれる。
他の態様において、上記ユビキノン配薬組成物は、ユビキノンプロドラッグお
よび可溶化剤を含有する。更なる態様において、上記ユビキノン配薬組成物はユ
ビキノン、ユビキノンプロドラッグ、および可溶化剤を含有する。
本発明の更に他の側面においては、ユビキノン配薬組成物と、要すれば薬学的
に許容され得る賦形剤または希釈剤とを含有する薬学的組成物が提供される。
本発明の他の側面は、ユビキノン配薬組成物を利用して、温血動物にユビキノ
ンを配薬する方法に向けられている。他の態様において、この方法はユビキノン
プロドラッグを利用し、更に他の態様においては、ユビキノンプロドラッグまた
はユビキノン配薬組成物を含有する薬学的組成物を利用する。
本発明は更に、温血動物および/または生物学的製剤におけるアポトーシスを
改善する方法を提供する。従って、本発明の一側面では、アポトーシスを改善す
る方法であって、温血動物に対してその必要に応じ、治療的有効量の水溶性ユビ
キノンプロドラッグまたはユビキノン配薬組成物を投与することを具備した方法
を提供する。アポトーシスには、例えば貧血、ウイルス疾患、または神経退化疾
患を伴う可能性がある。
本発明のこれらの側面および他の側面は、以下の詳細な説明および添付の図面
を参照することによって明らかになるであろう。加えて、より詳細な一定の手法
および/または組成物を記載した種々の参照文献が与えられており、これらはそ
の全体が参照として本願に組み込まれる。
〔図面の簡単な説明〕
図1は、ユビキノンの還元サイクルを模式的に表す図である。式1はユビキノ
ンを表す。式2はユビキノールを表す。
図2は、Xで示した本発明の可溶化部分の結合部位を有するユビキノール、並
びに本発明において使用するのに適した開裂可能な連結基の例を表す式である。
図3は、ヘマトキシリン/エオシンで染色したラットの脳のパラフィン切片の
写真であり、ここでは脳虚血が誘導されている。このラットは、虚血の誘導の前
後で治療を行わなかった。このラットおよび脳は、実施例8で概説するようにし
て調製した。簡単に言えば、このラットの脳虚血は、共通の頸動脈を8分間、両
側で閉塞することにより誘導された。このラットに4%の緩衝ホルマリンを灌流
し、脳組織を除去し、虚血後3日間パラフィン中に包埋した。この写真は、写真
の中に「a」で示した暗細胞で同定されるアポトーシス細胞によって示されるよ
うに、顕著な神経細胞死を示している。
図4は、図3で上述した要にして調製されたラット脳の写真であるが、このラ
ットは、実施例8で概説するようにして、本発明のユビキノン配薬組成物を投与
することによってCoQ10で治療された。この写真は細胞死を少ししか示さず、
或いは全く示していない。写真において、非アポトーシス神経細胞は「b」で示
されている。
図5は、代表的なユビキノン配薬組成物で処理したラットについてのアポトー
シス神経細胞のパーセンテージを、未処理ラットと比較して、実施例8に概説し
たようにして脳虚血を示してから灌流後の日数の関数として要約した表である。
図6は、代表的なユビキノン配薬組成物およびユビキノンプロドラッグの水溶
液を腹腔内注射によに投与した後の、ラットにおけるCoQ10の生体利用性を
要約した表である。この表は、ユビキノン配薬組成物およびプロドラッグの投与
後の、CoQ10のレベルおよびCoQ10レベルの増加パーセントを提示している
。
〔詳細な説明〕
上記のように、本発明は水溶性ユビキノン誘導体および関連組成物、並びにア
ポトーシスに特徴付けられる広範な疾患を治療するための方法を提供する。本発
明は、ユビキノンの生体利用性の増大を可能ににするものであり、その配薬に効
果的な組成物の水溶性を増大し且つ水溶性の高いユビキノンプロドラッグを提供
することによりユビキノンの投与を容易にするものである。
機能的には、ユビキノン類は脂質に可溶性である一群のベンゾキノン類であり
、その幾つかはミトコンドリアの電子伝達系に関与する。構造的には、ユビキノ
ン類は2,3−ジメトキシ−5−メチルベンゾキノン核と、1〜12のモノ不飽
和トランスイソプレン単位を含む種々のテルペノイド側鎖とを有する(下記の一
般式を参照のこと)。ユビキノン類の特性における相違は、テルペノイド側鎖の
長さの差に帰せられる、これらの化合物には二つの命名法が存在し、該命名法は
テルペノイド側鎖の長さに基づいている。従って、このファミリーのベンゾキノ
ンは、正しくは「補酵素Qn」(ここでnは1〜12であり、側鎖におけるイソ
プレン単位を示す)、または「ユビキノン(x)」(ここでxは側鎖における炭
素原子の合計数であり、5の倍数である)の何れかで呼ばれる。例えば、動物に
おける最も普通のユビキノンは、10イソプレン単位の側鎖を有し、補酵素Q10
またはユビキノン(50)と称される。
補酵素Q10(CoQ10)を含むユビキノン類は、水性媒質中では本質的に不溶
性である。この不溶性は、長い炭化水素イソプレン系側鎖に起因するものであり
、該側鎖は当該分子に対して極端な親油性を与える。これらの特性は、他の因子
の中でも特に、当該分子の極めて遅い吸収速度の原因であると思われる。薬物動
態学的データによって、ユビキノン類の腸内吸収は遅く、ヒト患者では効果的で
ないことが示されている。例示すれば、CoQ10の投与の後、CoQ10の血漿レ
ベルの増大が検出されるまでに約1時間のタイムラグが存在する。最大の定
常状態血漿レベルを達成するためには、略7日間の投与が必要とされる。更に、
経口投与されたCoQ10の吸収は変化し得るが、一般には約2〜5%の範囲にし
か過ぎない。
本発明の一つの側面では、水溶性のユビキノン誘導体が開示される。これらの
ユビキノン誘導体は水溶性のユビキノンプロドラッグであり、該ユビキノンプロ
ドラッグに水溶性を付与する可溶化部分を含んでいる。ここで用いる「プロドラ
ッグ」の用語は、代謝プロセスまたは生化学的もしくは生理学的条件によって、
生体内で活性な治療剤に変換される化合物である。
例えば、酵素活性を含むイン・ビボ条件に晒すと、ユビキノンプロドラッグは
ユビキノンに変換される。本発明のこの側面の一態様において、ユビキノンプロ
ドラッグは、更に、当該化合物を身体または細胞の特定の部位に向けさせるため
の標的部分を含んでいる。
本発明の他の側面では、ユビキノン配薬組成物が提供される。これらのユビキ
ノン配薬組成物には、可溶化剤と組み合わされたユビキノンおよび/または水溶
性ユビキノンプロドラッグが含まれる。この可溶化剤は、治療的効果を引き出す
ための、温血動物へのユビキノンまたはユビキノンプロドラッグの効果的な投与
を容易にする。
本発明の他の側面では、ユビキノン配薬組成物を利用したユビキノンの配薬方
法が提供される。
本発明の他の側面では、温血動物における治療効果の一例として、アポトーシ
スを緩和するための方法であって、ユビキノンまたはユビキノンプロドラッグの
投与による方法が提供される。この方法において、ユビキノンの配薬は、水溶性
ユビキノンプロドラッグの使用またはユビキノン配薬組成物の使用の何れかによ
って達成される。配薬に際して、ユビキノンの抗酸化特性は、遊離ラジカルをス
カベンジするように作用する。本発明のこれらの側面および他の側面について、
以下に詳細に説明する。
「ユビキノン」の用語には、下記の一般式1によって表される化合物が含まれ
る。
ここで、典型的にはn=1〜12であり、好ましくはn=6〜12であり、最も
好ましくはn=10である。本発明において利用されるユビキノン類は、n=6
〜10の場合は天然物から胆視してもよく、またはn=1〜12の場合は、例え
ば文献(Namasara,Coenzyme O Biochemistry,Bioenergetics and Clini
cal Applications of Ubiquinone,G.Lenaz(ed.),John Wiley & Sons,N
ew York,Ch.VI,pp.131-144,1985; Gibson and Young,Methods in Enz
ymology; and Fleischer and Packer(eds.),Academic Press,New York,pp
.600-609,1978)に記載の幾つかの方法の何れかを用いて合成してもよい。当業
者は、ユビキノンの抗酸化機能を変えることなく、ユビキノンに小さな変化を与
え得ることを承認するであろう。
上記のユビキノンの一般式を参照すると、C5におけるメチル基、C2および
C3におけるメトキシ基の修飾、並びにC6のイソプレン系側鎖の修飾を含む小
さな変化が含まれるあろう。一般に、これらの小さな変化は、ユビキノンの機能
的性質に顕著な悪影響を及ぼすことはないであろう。より具体的には、これらの
位置の一以上における修飾は、修飾されたユビキノンの酸化還元特性に悪影響を
及ぼして、その抗酸化特性を顕著に減少させるようなことはないであろう。加え
て、イソプレン系側鎖におけるこのような小さな変化は、修飾されたユビキノン
の親油性に悪影響を及ぼすことはないであろう。従って、特定のユビキノンのベ
ンゾキノン核の置換基の修飾からもたらされる小さな変化は、これらの変化がイ
ン・ビボまたはイン・ビトロの何れかにおいてユビキノンの機能に顕著な悪影響
を及ぼさない限り、本発明のユビキノン類の範囲内に含まれるものである。
小さな変化の例には、下記のような追加の置換基による、C5メチル基、C2
およびC3メトキシ基またはイソプレン系側鎖の修飾または置換が含まれる:即
ち、追加の置換基は、分岐鎖、直鎖または環状のアルキル基を含む1〜6炭素原
子を有する低級アルキル基;フェニルおよび置換されたフェニル置換基を含むア
リール置換基;ベンジルおよびトリル置換基を含むアラルキル置換基;フッ素置
換基を含むハロゲン置換基;水酸基、低級アルコキシ、エーテルおよびエステル
置換基を含む酸素置換基;アミノおよびアミド置換基を含む窒素置換基;チオー
ル、チオエーテルおよびチオエステル置換基を含む硫黄置換基等である。C5メ
チル基および/またはC2およびC3メトキシ基を上記の置換基で置換すること
に加えて、これらの基をこれらの置換基で置き換えることによっても、本発明の
範囲内に含まれるユビキノンが提供される。
「ユビキノール」の用語には、下記の一般式2によって表されるユビキノンの
還元型(「ヒドロキノン」として知られる)が含まれる。
ここで用いる「ユビキノール」の用語は、「ユビキノン」の場合と同様に、合
成および天然に存在するユビキノール、並びにそれらの構造の小さな変化を有す
る対応のユビキノール類を包含するものである。ユビキノール構造に対する小さ
な変化の性質は、本発明のユビキノン類について上述したのと同じである。図1
の式1および式2の相互変換に示される可逆性の酸化/還元は、ミトコンドリア
における電子伝達のための還元サイクル、並びにユビキノンの特徴的な抗酸化特
性に含まれる天然のプロセスである。ユビキノンのキノン官能基の還元は、例え
ば、酢酸中の亜鉛、ナトリウムボロハイドライド、またはリチウムアルミニウム
ハイドライドに晒すことを含む、幾つかの試薬のうちの一つを用いて化学的に達
成される。キノンの還元は、例えば、溶液の色の黄色から無色への変化を観察す
ること、および核磁気共鳴スペクトル分析を含む分光学的方法のような幾つかの
手段のうちの何れか一つによって確認すればよい。逆酸化は、例えば空気への露
出を含む幾つかの手段の何れかによって達成することができる。従って、ユビキ
ノールを出発物質とする本発明のユビキノンプロドラッグの調製は、例えば、ア
ルゴンまたは窒素雰囲気のような不活性雰囲気下で最良に実施される。
「peg化された(pegylated)」の用語は、特定の分子に対してポリエチレン
グリコール(PEG)を結合させることが含まれる。本発明の内容において、本
発明の幾つかの水溶性ユビキノンプロドラッグは、peg化されたCoQ10誘導
体である。ユビキノンプロドラッグを与えるための特定のPEGの結合は、ユビ
キノンに対して直接結合させること、成いは連結基またはスペーサ基を介して結
合させることの何れかによって達成され得る。
「可溶化部分」の用語には、ユビキノンに対して共有結合したとき(または親
油性部分に結合して可溶化剤を生じた)ときに、ユビキノン(または可溶化剤)
の水溶性を増大させるものが含まれる。本発明のユビキノンプロドラッグの位置
態様において、可溶化部分は連結基を介して結合される。
以下で述べるように、連結基はまた、ターゲッティング部分を可溶化部分また
はユビキノン部分の何れかに結合させるように働き得る。一般に、連結基は、例
えば可溶化部分(またはターゲッティング部分)とユビキノンとの間で生じる化
学反応から得られる。従って、この連結基には種々の官能基が含まれる。例えば
、ユビキノールのC1フェノール性水酸基と、可溶化部分のカルボンサン誘導体
との反応によって形成されたエステルであってもよい。本発明のユビキノンプロ
ドラッグについては、この連結基はイン・ビボで開裂されてユビキノンの放出が
もたらされる。
「ターゲッティング部分」の用語には、ユビキノンまたは可溶化部分に共有結
合されたときに、一般には受容体に媒介された機構を介して、当該分子を特定の
組織または細胞タイプに摂取されるように仕向けるものが含まれる。このような
ターゲッティング部分の一つの目的は、ユビキノン(特に水溶性の形のCoQ10)
のプロセッシングを高め、または一定の細胞膜中での蓄積を高めることである。
「可溶化剤」の用語には、ユビキノンまたはその誘導体に結合したときに水溶
性が増大したユビキノン配薬組成物を与える、可溶化部分に結合した親油性部分
が含まれる。
「水溶性」の用語には、水または他の水性媒質中に溶解する、ユビキノンプロ
ドラッグまたはユビキノン配薬組成物の能力が含まれる。一般に、ユビキノンプ
ロドラッグまたはユビキノン配薬組成物は、それがユビキノンの水中での溶解性
の約103〜108倍、好ましくは約107倍に改善されたときには可溶性と見な
される。しかし、このような改善が必須というわけではない。
「アポトーシス」の用語には、プログラムされたまたはアポトーシスによる細
胞死が含まれる。上記のように、アポトーシスは、ホメオスタシス調節に関連し
た重要な機構であり、それによって細胞死または自殺が自然にまたは徐々に誘起
されて細胞を回転させるプロセスである。簡単にいえば、還元能力の崩壊、一定
の「死」遺伝子の活性化、および穏和な毒性障害原因に対する露出のような初期
段階の事象は、最終的には共通した遅い段階の事象に集約される幾つかの異なっ
た複雑な機構の一部である。このような後期段階の事象には、DNAの分断化お
よび最終的にはアポトーシスによる細胞死を導くような、タンパク合成並びにマ
グネシウムおよび/またはカルシウム依存性エンドヌクレアーゼの活性化が含ま
れる。
本発明で用いられる「生物学的製剤」の用語には、温血動物中への導入に適し
得るエクス・ビボでの細胞培養物が含まれる。
「改善する」または「改善」の用語には、アポトーシスの発生が、そうでなけ
れば同一もしくは類似の条件下(即ち、対照)で起きるであろうレベルよりも低
くなるような、アポトーシスの阻害が含まれる。
「虚血」の用語には、酸素欠乏を生じ、しばしば患部組織の細胞死を生じるよ
うな、組織(例えば脳、心臓、脊柱、目、結腸および腎臓を含む)への血流の一
時的な遮断が含まれる。「再灌流損傷」の語は、虚血組織における血流修復に続
いて起きる細胞損傷を言う。
「治療」の用語には、患者の症状を低減または改善し、症状の悪化または進行
を防止し、原因物質を阻害もしくは除去し、或いは当該疾患に罹患していない患
者における感染もしくは疾患を予防することが含まれる。疾患は、欠陥を生じさ
せまたは更に重篤化する欠陥を部分的にまたは全体的に直すことによって、「治
療」される。バランスのとれていない状態の疾患は、該障害を生じまたは更に重
篤化させるこのアンバランスを部分的または全体的に直すことによって「治療」
される。患者は、ヒト患者であってもよく、或いは他の温血動物であってもよい
。
本発明の内容において、「脳/血液障壁」の用語は、密な細胞間接合および最
小食作用細胞活性と、窓がないことによって特徴付けられる、脳微細血管内皮細
胞で形成される脳/血液障壁を意味する。これらの特徴は、これらの細胞に対し
て、殆どの極性の血液−骨分子(例えば、カテコールアミンおよび神経ペプチド
類を含む神経伝達物質)および巨大分子(例えばタンパク)が脳血管循環系から
脳へと通過するのを制限する能力を付与する。この脳/血管障壁は高度に活性な
酵素系を含むと共に、該酵素系は既に非常に効果的な保護機能を更に高める。脳
/血管障壁は、中枢神経系への医薬の供給に対する最も大きな障害の一つである
。脳への分子の輸送は、分子の大きさだけで決定さるものではなく、透過する物
質の特殊な化学的特性に加え、受容体に媒介された輸送機構、例えばトランスフ
ェリン、インスリンおよびカテコールアミンに関連したもの機構の存在によって
支配される透過性によって決定される。従って、分子の大きさおよび親油性の外
に、当該物質の種々の血液タンパク、血液中の特定の酵素、または脳/血液障壁
に対する親和性が、脳に達する薬物の量に顕著に影響するであろう。脳/血液障
壁を横切るための幾つかの機構が以下で説明されるが、他の機構は当該技術にお
いて公知である。
本発明の一つの側面によれば、イン・ビボ条件下においてユビキノンまたはそ
の誘導体に戻ろような、水溶性のユビキノンプロドラッグが提供される。本発明
のこの水溶性のユビキノンプロドラッグは、可溶化部分に結合したユビキノール
を含有している。
本発明の一つの態様では、イン・ビボ条件下でユビキノンに戻るように設計さ
れた水溶性のユビキノンプロドラッグが提供される。この態様において、可溶性
部分は、ユビキノールのC1位およびC4位(即ち、フェノール性水酸基)の一
方または両方でユビキノールに結合され、水溶性のユビキノンプロドラッグを形
成する。これらのプロドラッグは、イン・ビボ条件下において自然に開裂されて
ユビキノールになり、次いで酸化されてユビキノンになる(図2を参照のこと)
。
従って、ユビキノールのC1位およびC4位の両方において置換された可溶化
部分を有するプロドラッグに加えて、本発明のプロドラッグには、C1位におい
て可溶化部分で置換されると共にC4フェノール性水酸基を有するユビキノール
類、並びにC4位で可溶化部分で置換されると共にC1フェノール水酸基を有す
るユビキノール類が含まれる。
可溶化部分は、ユビキノールのC1位およびC4位の少なくとも一方に結合さ
れて、ユビキノンプロドラッグの水溶性を増大させる。可溶化部分の開裂によっ
てユビキノンが放出されるが、これはユビキノールの酸化型を示す。従って、実
際上、ユビキノンがこれらの位置を介して可溶化部分に結合されることにより、
ユビキノンの水溶性が増大される。本発明の一態様において、可溶化部分は直接
ユビキノールに結合される。他の態様において、可溶化部分は連結基を介してユ
ビキノールに結合される。このような連結基は、例えばpHおよび酵素活性のよ
うなイン・ビボ条件において開裂されるようなプロドラッグを形成するために用
いられる。適切なプロドラッグは、例えば、エステラーゼ、オキシダーゼ、レダ
クターゼ、ペプチダーゼ、およびジメチラーゼのような酵素によって開裂される
。開裂可能な連結基は、ユビキノールと可溶化部分との間の結合の望ましい安定
性に基づいて選択すればよい。適切な開裂可能な連結基には、例えばエステル、
エーテル、カルバメート、またはカーボネート基(図2参照)を含む、イン・ビ
ボで開裂され得る何れかの基が含まれる。他の適切な開裂性連結基には、当該配
列を開裂させることができる生物学的酵素によって開裂される、糖、アミノ酸ま
たは核酸のポリマー配列(多糖、ポリペプチド、核酸配列)が含まれる。当業者
は、ユビキノンプロドラッグの開裂に対する安定性が、種々の緩衝液および血清
の中でイン・ビトロで確認され得ることを承認するであろう。
本発明のユビキノンプロドラッグは、直接ユビキノンへと開裂される必要はな
い。プロドラッグが先ずユビキノールに変換され、次いでユビキノンに変換され
るためには、幾つかの酵素段階が必要とされ得る。ユビキノンプロドラッグのイ
ン・ビトロでの開裂特性は、種々の肝臓ホモジネートを使用することを含む幾つ
かの手段の何れかによって達成され得る。開裂の前および後のユビキノンプロド
ラッグの生理的および生物学的評価は、ボルタンメトリーサイクル、UV吸収ス
ペクトル分析、高圧液体クロマトグラフィーおよび質量スペクトル分析を含む幾
つかの手段の何れかによって達成され得る。本発明の一側面には、ユビキノンエ
ステルプロドラッグが含まれる。このプロドラッグは、血清中に存在するエステ
ラーゼ酵素を含む幾つかの酵素の何れか一つによって容易に開裂される。ユビキ
ノールの性質に起因して、ユビキノンエステルプロドラッグは容易に開裂される
誘導体であり、ユビキノンの迅速な放出が望ましい場合に特に適している。ユビ
キノンエステルプロドラッグは、例えば、酸塩化物、活性化酸エステル(例えば
、N−ヒドロキシコハク酸イミド、およびテトラフルオロフェニルエステル)お
よび無水物のようなエステル化剤を用いることを含む、幾つかの手段の何れか一
つを用いて形成すればよい。
本発明の他の側面には、ユビキノンカーボネートプロドラッグおよびユビキノ
ンカルバメートプロドラッグが含まれる。これらのプロドラッグは酸に感受性で
あり、エンドソームおよびリソソーム内においてイン・ビボで開裂される。具体
的には、これらユビキノンプロドラッグは、網内皮系の成分(例えばクプファー
細胞)または肝実質細胞によって貪食され、続いて細胞の小胞間経路を介して処
理される。肝実質細胞のような極性細胞においては、細胞の一極がユビキノンの
摂取の原因である。プロドラッグへの変換に続いて、得られたユビキノンは、血
流中への輸送のためにLDLコレステロール、低密度リポタンパクコレステロー
ル複合体と会合する。
ユビキノンカーボネートプロドラッグは、例えば、塩化カルボニルのようなカ
ーボネート形成剤の使用を含む、幾つかの手段のうちの何れか一つを用いて形成
すればよい。例えば、ユビキノールの塩化カルボニルと可溶化部分のアルコール
形との反応によって、カルボネート結合が生成する。逆に、ユビキノールと可溶
化部分の塩化カルボニルとの反応は、同様にカルボネートを与える。
ユビキノンカルバメートプロドラッグは、例えばイソシアネート試薬のような
カルバメート形成剤の使用を含む幾つかの巣段の何れが一つを用いて形成すれば
よい。カルバメート連結基を有する代用的なユビキノンプロドラッグの調製は、
実施例11に記載されている。
本発明の他の側面には、ユビキノンエーテルプロドラッグが含まれる。ユビキ
ノンエーテルプロドラッグは、ハロゲン化アルキル、塩化ベンジル、アルキルス
ルホネート(例えばトシレート、テシレート、トリフレート)およびベンジルス
ルホン酸のようなアルキルか剤の使用を含む幾つかの手段の何れか一つによって
形成される。エーテル結合を有する典型的なプロドラッグの調製は、実施例10
および12に記載されている。
本発明のこの側面の他の態様において、プロドラッグは段階的に形成される。
第一の段階では、これら官能基の一つを含むスペーサ基がユビキノールと反応さ
れ、引き続く工程において、可溶化部分(またはターゲット部分)が修飾された
ユビキノールのスペーサ基に結合される。典型的には、スペーサ基は、例えばユ
ビキノールおよび可溶化剤もしくはターゲッティング剤の両者と反応できる二官
能試薬である。適切なスペーサ基は当該技術で公知であり、就中、スベリン酸お
よびセバチン酸のような二カルボン酸、および4−アミノ酪酸のようなアミノ酸
が含まれる。スペーサ基の利点は、例えば可溶化基とユビキノールとの間に追加
の長さを与えて、そうしなければ可溶化部分またはターゲッティング部分への結
合または該部分からの開裂を妨げることになる立体障害をなくすことである。当
業者は、当該分子の望ましい特徴が追加の原子と調和する限り、可溶化部分(ま
たはターゲッティング部分)は連結基またはスペーサ基を介して直接ユビキノン
に結合し得ることを承認するであろう。
適切な可溶化部分には、プロドラッグの可溶性を本来のユビキノンの可溶性よ
りも増大させ、且つ開裂可能であるか或いはイン・ビボで開裂可能なリンカーに
よってユビキノンに結合されるような親水性部分が含まれる。当該化合物の可溶
性は、AMFベントン(AMF Benton,CRC Press,1983)による「可溶性パ
ラメータおよび他の結合性パラメータのハンドブック」によって決定すればよい
。親水性部分は、帯電(即ちイオン性)していても、または電気的に中性であっ
てもよい極性部分である。2以上の可溶化部分を利用すれば、これら部分の親水
性が加算され得ることを理解すべきである。
適切な親水性部分には、電気的に中性の可溶化部分が含まれる。これらの部分
は、それらの親水性を増大させる2以上の極性官能基(即ち、窒素、酸素および
硫黄を含む有機化合物のような電気陰性度の異なる原子を含む基)を含んでいる
。典型的には、これら中性の可溶化部分は、水と水素結合を形成できる官能基を
含
んでいる。このような水素結合性の基には、例えばエーテル基(−O−)、水酸
基(−OH)、アミノ基(−NR2、−NHR、−NH2)、チオエーテル基(−
S−)およびチオール基(−SH)が含まれる。親水性部分として作用し得る他
の極性基には、酸、エステル、アミド、ケトンおよびアルデヒドのような基を含
むカルボニルが含まれる。多くの極性官能基を含む部分は、一つの極性官能基を
含む部分よりも更に親水性である。適切な部分には、例えば、ポリアルコール部
分、ポリアミン部分、ポリエーテル部分、およびポリペプチド部分が含まれる。
ポリアルコール部分には、例えばグリコール、グリセロール、並びにグルコース
、フルクトース、ガラクトース、イドース、イノシトール、マンノース、タガト
ース、N−メチルグルカミンおよびデキストランを含む多糖部分が含まれる。ポ
リエーテル部分には、例えば、ポリエチレングリコール、エトキシエタノールお
よびエトキシエトキシエタノール部分が含まれる。ポリアミン部分には、例えば
、スペルミンおよびスペルミジン部分が含まれる。ポリペプチド部分には、電気
的に中性のアミノ酸残基を含むペプチドが含まれる。
特に好ましい態様において、可溶化部分はポリエチレングリコールである。一
般に、適切なポリエチレングリコールには約350〜約6000の範囲の分子量;典型
的には約600〜約3400の範囲の分子量;好ましくは約1500〜約2500の範囲の分子
量を有するものが含まれ、更に好ましくは、ポリエチレングリコール2000、ポリ
エチレングリコール3400、およびポリエチレングリコール5000(ウイスコンシン
州ミルウオーキーのアルドリッチケミカル社およびアラバマ州ハンツビルのシア
ウオーターポリマー社)から選択される。上記のポリエチレングリコール類(P
EGs)は、その概略の分子量(例えば、約1500)によって命名され、より詳細
にはその概略の分子量範囲(例えば、約1500〜約2500)によって命名される。商
業的に入手可能なPEGsは、指定された平均分子量を有するPEGsの混合物
として入手可能である(例えば、アルドリッチケミカル社から得られるポリエチ
レングリコール20,243-6は約1,500の平均分子量Mnを有する)。これらのPE
Gsは、PEGsを製造するポリマー合成に起因して、平均分子量をもった混合
物として得られる。本発明には、指定された平均分子量を有するPEG混合物が
含まれ、また、均一で且つ別個の分子量を有するPEGおよびPEG
含有化合物が含まれる。
適切な電気的に帯電した可溶化部分には、水中で形式的には負または正に帯電
するに至るこのような部分が含まれる。従って、電気的に帯電した可溶化部分に
は、アニオン性部分およびカチオン性部分、ポリアニオン性部分およびポリカチ
オン性部分、並びにアニオン種およびカチオン種の両者を含む部分が含まれる。
負に帯電した適切な部分には、水中での酸の解離から生じる酸アニオンが含まれ
る。例えば、カルボン酸(−CO2H)は、解離して負に帯電したカルボキシル
イオン(−CO2 -)を形成する(5より大きいpH)。リン酸(−PO3H2)お
よびスルホン酸(−SO3H)のような他の強酸は、イオン化して夫々リン酸ア
ニオン(−PO3 2-)およびスルホネートアニオン(−SO3 -)を形成する(約
2よりも大きいpH)。フェノールおよびチオールのような他の弱い酸性部分も
また解離して、(水溶液のpHに応じて)水溶性の対応する酸誘導体を形成する
。塩基性部分は、水中において形式的に正に帯電した部分になり得る。これらの
部分は、水溶液中でのプロトン付加によって高度に水溶性になる。例えば、約5
未満のpHにおいて、アミン類(−NR2、−NHR、−NH2;ここでRはアル
キル基またはアリール基である)はアンモニウムイオン(−NHR2 -、−NH2
R+、−NH3 +になり、これらは全て高度に水溶性の部分である。四級アンモニ
ウム部分(NR3 +)は極端に水溶性である(全pHで)。適切な電気的に帯電し
た可溶化部分には、カチオン性アミノ酸、アニオン性アミノ酸および両性アミノ
酸残基を含むポリペプチド類が含まれる。他のポリカチオン性部分には、例えば
スペルミン部分、スペルミジン部分およびポリリシン部分が含まれる。
ユビキノンプロドラッグの水溶性は、幾つかの手段の何れか一つによって評価
すればよく、例えば、該誘導体を水性媒質と単純に結合して、種々の温度での溶
解性を観察することが含まれる。本発明のポリエチレングリコールを含有するユ
ビキノンプロドラッグについては、該プロドラッグの成分、即ち、特定のユビキ
ノンの親油性および特定のPEG可溶化部分の親水性によって水溶性が決定され
る。一般に、ユビキノンのテルペノイド側鎖が長いほどその親油性は大きいので
、より大きな分子量のPEG可溶化剤が必要とされる。例えば、CoQ10(即ち
ユビキノン(10))はPEG900可溶化部分によって容易に可溶化されるが、Co
Q
10は、1500以上の分子量を有するPEG可溶化部分によって最良に可溶化される
。従って、特定のユビキノンプロドラッグの水溶性は、可溶化部分の性質によっ
て制御される。
例えば、約10重量%のPEG5000を含有するユビキノンプロドラッグは、高
度に吸湿性であり、ゲルを形成する。約10重量%未満のPEG5000を含むユビ
キノンプロドラッグは、溶液を形成する。これらのプロドラッグの何れかは、更
に水で希釈することにより、プロドラッグの水溶液を与えることができる。例え
ば、PEG2000を含むプロドラッグについては、PEGの重量%が10%よりも
大きくなるまでゲル形成は生じない。
CoQ10から誘導され且つ水可溶化部分としてPEG5000を含む代表的なユビ
キノンプロドラッグの合成は、実施例10,11,13および14に記載されて
いる、例えば、実施例11および12のユビキノンプロドラッグは、少なくとも
40mg/mLの範囲で水中に溶解し、これはCoQ10の約10mg/mLの水中濃
度に対応する。この結果とは対照的に、CoQ10は水不溶性であると報告されて
きた(Ondarroa et al.,Bioscience Reports,6:783,1986)。上記のユビキノ
ンプロドラッグの水中濃度は、以下に説明する投与方法に関して使用可能な濃度
である。本発明のユビキノンプロドラッグの高い水溶性は、効果的な投与法およ
びユビキノン一般、特にCoQ10の配薬における大きな改善を提供する。
或いは、水溶性は当該誘導体を水中に溶解し、該溶液を攪拌し、該溶液を室温
で約24時間放置することによって確認してもよい。次いで、この溶液を遠心し
、得られた水層を高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて分析する。
このHPLC分析は、アセトニトリルを溶媒に用い、2mL/minの流速で、
LiChrospher100,C-18カラム(5μM,125×4mm)上で行えばよい。これ
らの条件下で、補酵素Q10を含有する生成物は7.6分の保持時間を有する。
補酵素Q10を含有する溶液の定量は、254nmのUV検出器を用いたHPL
Cによって達成すればよい。この定量においては、補酵素Q10誘導体の水溶液が
調製され、上記のようにしてHPLCによって分析される。
濃度が既知の補酵素Q10誘導体の一連の水溶液が調製され、HPLCによって
分析される、次いで、これらHPLC分析の結果を用いて、HPLCシグナル
標準に対して補酵素Q10の濃度標準をプロットした標準曲線が作製される。この
ような標準曲線を作製したら、補酵素Q10誘導体の水溶液が同様に分析され、当
該誘導体の濃度が決定される。
或いは、ユビキノンプロドラッグの溶解性(即ち、補酵素Q10誘導体の水溶液
濃度)は、吸収スペクトル分析によって直接測定してもよい。簡単に説明すると
、既知量のユビキノンプロドラッグを既知量の水に溶解して、既知濃度(例えば
、プロドラッグ10mg/水10mL)の水溶液を与える。次いで、この溶液(
または該溶液の希釈液)の吸光度を、UV吸収スペクトロホトメータによって測
定する。既知濃度の該溶液の吸光度は、プロドラッグの吸光度特性(absorptivit
y)を与える(例えば、10mg/10mLの溶液は、0.95の吸光度を生じる)。このよ
うにしてプロドラッグの吸光度特性が決定されたら、次のプロドラッグの水溶液
の濃度(または溶液中のプロドラッグの量)が該溶液の吸光度を測定することに
よって決定される。次いで、ユビキノンプロドラッグは上記で概説したイン・ビ
ボ条件の何れがを用いてユビキノールに開裂され、次いでユビキノールはユビキ
ノンに戻され、吸光度が溶液中で測定される。次に、この吸光度を上記の標準曲
線と比較すればよい。
水溶性ユビキノンプロドラッグの増大した濃度によって、より粘度の高い溶液
を生じるであろう。当業者は、異なった濃度は異なった用途を有することを承認
するであろう。例えば、高濃度において、一定の水溶性ユビキノンプロドラッグ
はゲルを形成し得る。この処方は、幾つかのカプセル、および肺への配薬のため
の吸入システムにおける粒子解離に使用するのに適している。
好ましい態様において、ユビキノン(50)は、本発明のユビキノンプロドラッグ
を形成するために使用される。本発明の特に好ましい態様において、ユビキノン
(50)は、約350〜000の範囲の分子量;典型的には約600〜約3400の範囲の分子量
;好ましくは約1500〜約250の範囲の分子量を有するポリエチレングリコールの
ようなポリエーテル可溶化部分に結合され、更に好ましくは、ポリエチレングリ
コール2000、ポリエチレングリコール3400およびポリエチレングリコール5000か
ら選択される。
他の態様において、上記で詳述したユビキノンプロドラッグは、更にターゲッ
ティング部分に結合される。このターゲッティング部分は好ましくは可溶化部分
を介してユビキノンプロドラッグに結合される。適切なターゲッティング部分に
は、ユビキノンプロドラッグを所望の細胞表面受容体へと向かわせるような何れ
かの部分が含まれる。好ましい態様において、ターゲッティング部分は、細胞表
面受容体に対して、該受容体に対する天然のリガンドの親和性の100倍以内、よ
り好ましくは10倍以内の親和性を有している。ターゲッティング部分の共有結合
は、細胞表面受容体に特異的に結合するターゲッティング部分の能力を、顕著に
隠蔽するものであってはならない。ターゲッティング部分または可溶化部分の何
れかを妨害しない限り、他の部分が存在してもよい。ユビキノンに対するターゲ
ッティング部分の最適な結合は、結合阻害試験において、ユビキノンプロドラッ
グの結合の親和性を、遊離ターゲッティング部分と比較することによって決定す
ればよい。この技術および適切な他の技術は、文献(Sambrook et al.,Molecul
ar Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Habor,1989)に詳細に説
明されている。
ターゲッティング部分は、可溶化部分を介して、または連結基の使用を介して
、ユビキノンプロドラッグに共有結合される。本発明の内容において、ターゲッ
ティング部分は可溶化部分に結合され、或いは、ユビキノンのC1位またはC4
位(即ち、フェノール性水酸基)の一方に対して、直接または連結基の使用を介
して結合される。可溶化部分を介してのターゲッティング部分の結合は、イン・
ビボで普通に遭遇する酵素および低pH条件による開裂に対して抵抗する性質の
ものであるのが好ましい。ユビキノンまたはユビキノンプロドラッグに対するタ
ーゲッティング部分の直接の結合は、イン・ビボでの開裂に対して抵抗しない性
質のものであるのが好ましい。開裂に抵抗する能力は、当該技術において知られ
ている何れかの手段によって検出すればよく、その中には、ユビキノンを低pH
で酵素に晒して、当該技術で公知の技術を用いてターゲッティング部分または可
溶化部分の放出を測定することが含まれる。好ましい連結基はエーテルである。
適切なターゲッティング部分には、タンパク、ペプチドおよび非タンパク分子
のようなリガンドが含まれる。適切なターゲッティング部分の代表的な例には、
抗体および抗体フラグメント;ボンベシン、ガストリン放出性ペプチド、細胞粘
着ペプチド、サブスタンスP、ニューロメジンB、ニューロメジンCおよびメテ
ンケファリンのようなペプチド;EGF、α−およびβ−TGF、エストラジオ
ール、ニューロテンシン、メラニン細胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモンおよび
ヒト成長ホルモンのようなホルモン;低密度リポタンパク、トランスフェリン、
ビタミンB12、およびインスリンを含む、公知の細胞表面受容体のリガンドに対
応したタンパクまたはペプチド;フィブリン分解酵素;およびインターロイキン
、インターフェロン、エリスロポエチン、およびコロニー刺激因子を含む生物学
的応答改変剤が含まれる。
更に、細胞表面受容体に対して特異的に結合する能力を保持するような上記タ
ーゲッティング部分の類縁体は、適切なターゲッティング部分である。
特に好ましい態様では、ユビキノンプロドラッグを肝臓に向けるターゲッティ
ング部分が選択される。このようなターゲッティング部分には、例えば、3触覚
ガラクトシドおよびアラビノガラクタンを含む、アシアロ糖タンパク受容体に直
接結合するターゲット部分が含まれる。特に好ましい態様において、ターゲッテ
ィング部分は、ラクトース化、ガラクトース化、マンノース化またはグルコース
化されたデキストランをベースとする、アシアロ糖タンパク受容体またはガラク
トース受容体のようなレクチン様糖鎖受容体のリガンドである。
他の好ましい態様において、ターゲッティング部分は脳/血液障壁に向けられ
る。この目的のための適切なターゲッティング部分には、例えば、内皮細胞のよ
うな脳/血液障壁輸送を媒介する細胞上の受容体に向けられるリガンドが含まれ
る。このような受容体には、例えば、トランスフェリン受容体および低密度リポ
タンパク受容体が含まれる。
ユビキノンプロドラッグのターゲッティング特性は、幾つかの手段の何れが一
つによって確認すればよく、これには例えば、ターゲットされた分子の薬物動態
学を追跡するための放射能ラベルされた誘導体を利用することが含まれる(例え
ば、Tomono et al.,Int'l J.of Clin.Pharm.,Therapy and Toxicolo
gy24(10):536-541,1986)。
上記で述べたように、本発明の他の側面によればユビキノン配薬組成物が提供
される。本発明の一態様では、可溶化剤およびユビキノンを含有するユビキノン
配薬組成物を提供する。他の態様によれば、ユビキノンプロドラッグ、可溶化剤
およびユビキノンを含有するユビキノン配薬組成物が提供される。更に別の態様
では、ユビキノンプロドラッグおよびユビキノンを含有するユビキノン配薬組成
物が提供される。これらの態様および他の態様について以下に詳述する。
適切な可溶化剤には、ユビキノンまたはその誘導体と組み合わせたときに水溶
性組成物が形成されるように、親油性部分または可溶化部分を有する化合物が含
まれる。従って、可溶化剤の可溶化部分は、可溶化剤および結合されたユビキノ
ン若しくはその誘導体を水性媒質中で可溶化するように十分に親水性でなければ
ならない。更に、親油性部分はユビキノンまたはその誘導体の親油性部分と結合
できなければならない。適切な親油性部分には、例えば、脂肪酸、脂肪エステル
および脂肪アルコールを含む脂質およびリン脂質が含まれる。適切な脂肪酸には
、飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸を含む、約8炭素〜約30炭素を有する分岐鎖
および直鎖の脂肪酸が含まれる。代表的な脂肪酸にはリノール酸、リノレン酸お
よびオレイン酸が含まれる。また、代表的な脂肪アルコールには、飽和脂肪アル
コールおよび不飽和脂肪アルコールを含む、約8炭素〜約30炭素を有する分岐
鎖または直鎖の脂肪アルコールが含まれる。適切な脂肪アルコールにはステロー
ルが含まれる。好ましいステロールはコレステロールである。親油性部分は、2
以上の脂肪酸または種々の親油性部分(例えば、リノレン酸−リノレン酸−ポリ
エチレングリコール)の組合せを含んでいる。本発明の可溶化剤の内容において
、適切な可溶化部分には、上記の電気的に中性の可溶化部分が含まれる。
適切な可溶化剤には、PEGsおよびポリペプチドのような電気的に中正な可
溶化部分に結合した脂肪アルコール、脂肪エステルおよび脂肪酸を含む親油性部
分が含まれる。
本発明の一つの側面において、可溶化部分は、共有的にまたは親油性の連結剤
を介して親油性部分に結合されてもよい。例えばスベリン酸、コハク酸およびセ
バチン酸を含む、幾つかの適切なホモまたはヘテロ二官能性親油性連結剤の何れ
かを利用してもよい。可溶化部分および親油性部分の共有結合は、イン・ビボに
おいて通常遭遇する酵素的および低pH条件での開裂を可能にする性質のもので
ある、開裂に対して抵抗する能力は、可溶化剤を低pHで酵素に晒すこと、およ
び可溶化部分または親油性部分の放出を当該技術で公知の技術を用いて測定する
ことを含む、当該技術において公知の何れかの手段によって検出し得る。
可溶化部分および親油性部分の共有結合は、可溶化部分の親水性を著しく隠蔽
するものであってはならない、可溶化部分または親油性部分の特性を妨害しない
限り、他の部分が存在してもよい。二つの部分の最適結合は、こうして精製した
種々の可溶化剤の溶解性を比較することによって決定すればよい。溶解性は、上
記で詳述した方法によって測定することができる。
好ましい態様において、可溶化剤は、上記で述べた電気的に中性の可溶化部分
の何れかに結合したコレステロールを含有している。特に好ましい態様において
、可溶化剤は、セバチン酸リンカーを介してpeg化されたコレステロールを有
している。
可溶化剤およびユビキノン(またはその誘導体)は、適切な条件下で十分に混
合されて、水溶性ユビキノン配薬組成物が製造される。簡単に言えば、ユビキノ
ンおよび可溶化剤を有機溶媒中に溶解し、水を添加し、液体を蒸発して有機溶媒
を除去し、水または緩衝水溶液、例えばリン酸緩衝食塩水を添加する。有機溶媒
は、メタノール、エタノールおよびプロパノールのようなアルコール、ジメチル
スルホキシド、および好ましくはテトラヒドロフランを含む幾つかの水混和性溶
媒の何れかであればよい。この液体は、減圧または不活性ガス流を含む幾つかの
手段の何れかによって周囲温度で蒸発される。可溶化剤に対するユビキノンのモ
ル比は、約1:2〜約1:10の範囲でなければならず、好ましくは、約1:3
のモル比である。液体を蒸発させた後、ユビキノン/可溶化剤の処方を水中に溶
解させて、ユビキノンの必要な濃度にする。ユビキノン含量は、275nmでの消光
係数14,20からエタノール中での希釈後の分光学的方法を含む幾つかの手段のう
ちの何れかによって確認すればよい。
本発明の他の側面は、ユビキノンプロドラッグまたはユビキノン配薬組成物に
よろ、温血動物または生物学的製剤への、アポトーシス細胞死を改善するのに充
分な量のユビキノンの投与を提供する。本発明の内容において、温血動物にはヒ
トが含まれる。簡単に言えば、アポトーシスは上記のように、他の原因のうちで
、遊離ラジカルの生成からもたらされる酸化性ストレスに関連している。超酸化
物
ラジカル、過酸化水素、水酸基ラジカルおよび脂質過酸化物のような遊離ラジカ
ルまたはオキシダントは、多くの疾病状態の病因論において密接に関係している
(Saltman,Semin.Hematol.,26:249,1989)。上記のように、哺乳動物細胞は
、遊離ラジカルによる損傷と戦うために、広範な種類の遊離基ラジカルスカベン
ジャーを発展させてきた。しがし、全ての遊離ラジカルスカベンジャーが同じ方
法で作用する訳ではない。例えば、幾つかの遊離ラジカルスカベンジャー(例え
ばカロチノイド)は細胞環境において容易に拡散し、従って一貫した活性を維持
するために定常的に補充されなければならない。
他の種類の遊離ラジカルスカベンジャーは脂質膜の中に組み込まれ、従って細
胞内で比較的一定の存在を維持する。この種類には、親油性の遊離ラジカルスカ
ベンジャー、例えば、抗酸化剤であるαトコフェロール(ビタミンE)およびC
oQ10が含まれる。CoQ10は、アラカドン酸のエマルジョンおよび過酸化性損
傷を受けた単離されたミトコンドリア膜に対するその抗酸化効果が示されている
(Mellors and Tappei,J.Biol.Chem.241:4353,1966; Battino et al
.,Biomedical and Clinical Aspects of Coenzyme Q,Folkers et al.(ed
s.),Elsevier,Vol.6,p.181-190,1991)。
ユビキノン類は、特に、アポトーシスの治療に良く適している。第一に、ユビ
キノンは優れた抗酸化剤である。例えば、CoQ10は、低密度リポタンパク(L
DL)の毒性生成物の無力化において、αトコフェロールまたはカロチノイドの
前に酸化される。更に、リン脂質およびコレステロールのヒドロペルオキシド濃
度は、αトコフェロールおよびカロチノイド濃度が一定であるにもかかわらず、
利用可能なCoQ10が消費されてしまったときに増加し始める。(Stocker et a
l.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.88:1646,1991)。
第二に、ユビキノン類は電子を供与することによって、他の抗酸化剤をその活
性形に再生させる。これは、αトコフェロールとの次の反応によって例証される
。
トコフェロール−O・ + CoQH2
→ トコフェロール−OH + CoQH・
この電子供与特性(ユビキノール、即ちユビキノン中間体の還元され易い能力
によると思われる)は、細胞内の種々の区画内で高い抗酸化剤レベルを維持する
のを助ける。
最後に、ユビキノンは細胞にエネルギーを供給するために不可欠である。ユビ
キノンは、内部ミトコンドリア膜の炭化水素浸透圧性炭素ドメインを介して電子
の移動およびトランスロケーションを結合させることにより、呼吸連鎖における
電子伝達において不可欠な役割を果たす。電子伝達連鎖内でのユビキノンの位置
は、フラボタンパクとチトクロームb−c1複合体との間である。ユビキノンは
、二つのフラビン−FeSデヒドロゲナーゼとチトクロームbおよび後のチトク
ロームcとの間の還元キャリアとして機能する。その触媒機能に加えて、ユビキ
ノンは、スクシネートデヒドロゲナーゼ(Rossi et al.,Eur.J.biochem.16:5
08,1970)、NADHデヒドロゲナーゼ(Gutman et al.,Biochemistry 10:203
6,1971)およびチトクロームb−c1複合体(Nelson et al.,Biochem.Bioph
ys.Res.Commun.44:1321,1971)に対する幾つかの調節効果を有する。呼吸移動
系によって発生したエネルギーは、細胞内では普遍的なエネルギー分子であるA
TPの形をしていろ。高エネルギーのリン酸エステル結合を破壊することによっ
てエネルギーが発生され(ATP=ADP+Pi)、種々の化学的合成反応のた
めのエネルギーが供給される、殆どの疾病状態は、細胞内での過剰なエネルギー
消費が関与しており、ATPの低下をもたらす。アポトーシスに関しては、アポ
トーシスの種々の兆候によって生じる細胞修復に関与し且つこれを実行するため
の分子を合成するために多量のエネルギー供給が必要である。損傷を受けた細胞
はアポトーシスプロセスのシグナルであるから、致死的でない損傷を修復するこ
とによって、アポトーシスカスケードから脱出することができる。これらの三つ
の特徴は、ユビキノンを、温血動物および生物学的製剤におけるアポトーシスの
改善に使用にとって特に適したものとする。
しかしながら、上記で述べたように、ユビキノンは水溶液中での溶解性が乏し
しく、その結果としてイン・ビボでの吸収および同化性に乏しい。結局、ユビキ
ノンの生体利用性が制限されることによって、その治療剤としての有用性は低下
する
本発明の一側面において、ユビキノンプロドラッグおよび配薬組成物は、虚血
に伴うアポトーシスの治療に利用される。虚血に続いて、遊離ラジカル生成が顕
著に増大する。神経組織に対する最初の損傷は、二次的ラジカルによる引き続く
その語の損傷を伴った過酸化物の生成から生じるものと思われる。結局、代謝経
路および合成経路は細胞が修復できない程度にまで損傷され、細胞は死に至る。
本発明には、ユビキノンプロドラッグおよびユビキノン配役組成物が含まれ、こ
れは脳/血液障壁を通過して、ATP結合を低減または防止し且つ細胞および組
織の乱された還元状態を安定化させることによって、虚血の際または後の細胞損
傷を低減または防止する。虚血性損傷は、例えば脳卒中、脳圧、脳梗塞、頭部お
よび脊椎損傷のような物理的外傷、酸素欠乏、蜘蛛膜出血および硬膜下出血のよ
うな脳出血および化学的外傷のような条件の結果として、中枢神経系に生じる。
また、虚血性損傷は、狭心症梗塞、心臓停止、鬱血性心不全、不整脈、動脈高血
圧、動脈硬化、大動脈閉塞、心筋症および一過性虚血発作のような心臓血管系疾
患の結果としても発生し得る。虚血性損傷を生じ得る他の疾患には、再癒着、凍
傷、疝痛および蹄葉炎が含まれる。
本発明の他の側面では、高圧酸素環境または酸素ラジカルに富む環境への露出
に伴う疾患または損傷を治療するために、ユビキノンプロドラッグおよび配薬組
成物が投与される。例えば、このような症状には、高酸素呼吸に置かれた新生児
、乳幼児における眼球損傷、および薬物およびアルコールに誘導されたCNSま
たは他の器官に対する損傷、およびイオン性放射線または光酸化からもたらされ
る損傷が含まれる。
本発明の更に他の側面においては、ウイルス疾患に罹患しており又は罹り易い
温血動物におけるアポトーシスを改善するために、ユビキノンプロドラッグおよ
び配薬組成物が投与される、このようなウイルス性疾患には、例えば、AIDS
(Fauci,Science 262:1011,1993; Ameisen,Immunol.Today 13:388,199
2; Gorla et al.,AIDS Research and Human Retroviruses 10(9):1097,
1994)および肝炎が含まれる。HIV感染の病因論には、種々のマイトジェンお
よび再生抗原(recall antigen)に応答して増殖しないことに特徴付けられる、T
細胞機能の段階的喪失が含まれる。ユビキノンは、疾患の経過に亘って変化する
役割を果たす。
AIDSの症例において、ウイルス感染とアポトーシスとの間の関連は、幾つ
がのエクス・ビボ試験の何れかによって同定することができ、そこではリンパ球
、
好ましくはTリンパ球が温血動物から単離され、アポトーシスについて試験され
る。一つの態様では、末端デオキシヌクレオチド転移法(例えば、Gorczyca et
al.,Cancer Reserch 53:1945,1993)を用いた、アポトーシス細胞におけるD
NA鎖の破壊の検出を利用する試験が用いられる。簡単に言うと、静脈穿刺によ
って血液サンプルを採取し、フィコール/ハイパーク(Ficoll-Hypaque)遠心分
離によって白血球を単離する。この細胞をリン酸緩衝食塩水で洗浄し、次いで利
用可能な種々の技術を用いてT細胞を精製する。このような技術としては、FA
CSまたはアフィニティークロマトグラフィーによる細胞分類が含まれ、ここで
はT細胞が特異的抗体によってマトリックスに結合し、非T細胞はカラムを通し
て溶出される。次いで、結合した細胞が溶出され、ポピュレーションサンプル上
での蛍光標識された抗体によって純度がチェックされる。アポトーシスの検出の
ために細胞をエタノール固定し、カコジル酸ナトリウム緩衝液中に再懸濁させる
。ビオチニル化したヌクレオシド(例えば、ビオチン-16-dUTP)を、アビジ
ン-FITCと一緒に、固定した細胞に添加する。インキュベーションおよび洗
浄の後、アポトーシス細胞の分断化されたDNA中に標識されたヌクレオシドを
組み込むために、サイトメトリーによって細胞を試験する。アポトーシスを経る
ようにプログラムされた有意な数の細胞を可視化するために、固定化プロセスに
先立って、リンパ球をマイトジェン(例えばPHA)、バクテリア超抗原または
抗CD3モノクローナル抗体で活性化する。このような活性化によって、アポト
ーシス細胞死を運命付けられた細胞の死をもたらすが、これは通常は短時間の試
験では可視化されないであろう。
本発明の他の側面においては、神経退化性疾患に罹患しているか又は罹り易い
温血動物におけるアポトーシスを改善するために、ユビキノンプロドラッグおよ
び配薬組成物が投与される。一態様においては、ユビキノンプロドラッグおよび
配薬組成物は、神経退化性疾患に罹患しているか又は罹り易い生物学的製剤、温
血動物におけるアポトーシスを改善するために、ユビキノンプロドラッグおよび
配薬組成物が投与される。アポトーシスと特定の神経退化性疾患との関係は、例
えば、核磁気共鳴撮像(MRI)および他の標準的な撮像法を用いたエネルギー
発生欠陥の指標を確立することによって、決定すればよい。このような神経退化
性疾患には、例えば、パーキンソン氏病(Beal et al.,TINS 16(4):125,1
993; Bloem et al.,J.Neurol.Sci.97:293 1990; Brennan et al.,J.Neur
ochem.44:1948,1985)、アルツハイマー病(Beal et al.,TINS 16(4):125,
1993; Beal,Ann.Neurol.31:119,1992)、ハンチントン氏病(Beal et al.,
TINS 16(4):125,1993; Bloem et al.,J.Neurol.Sci.97:293,1990; Bre
nnan et al.,J.Neurochem.44:1948,1985)、脳退化(Beal et al.,TINS
16(4):125,1993;)および家族性の筋萎縮性側索硬化症(FAL)(Olanow,TI
NS 16:439,1993)が含まれる。
本発明の他の側面においては、後期心臓血管系疾患に罹患しているか又は罹り
易い温血動物におけるアポトーシスを改善するために、ユビキノンプロドラッグ
および配薬組成物が投与される。特定の後期心臓血管系疾患とアポトーシスとの
関連は、例えば、色素を注入した後に血液化学プロファイルおよび画像の分析を
含む幾つかの手段の何れかによって決定し得る。このような心臓血管系疾患には
、例えば、再灌流に続く心臓細胞のアポトーシスがユビキノンによって減少する
ような、心筋梗塞の急性(血管内)治療が含まれる。
本発明の他の側面においては、動脈硬化病巣に付随した動脈内膜肥厚に罹患し
た温血動物におけるアポトーシスを改善するために、ユビキノンプロドラッグお
よび配薬組成物が投与される(Schwartz et al.,Diabetes Care 15:1156,199
2; Bjorkerun et al.,Arterioscler.Thromb.14:644,1994)。こうして、例え
ば、部分的には年齢に伴う進行性内膜肥厚およびバルーン血管形成術からもたら
される動脈硬化および非動脈硬化の症状の治療において、ユビキノンが投与され
る。
本発明の他の側面においては、炎症性関節疾患に罹患しているか又はこれに罹
り易い温血動物におけるアポトーシスを改善するために、ユビキノンプロドラッ
グおよび配薬組成物が投与される。炎症性関節疾患とアポトーシスとの関連は、
血清グルタミン−オキザロ酢酸トランスフェラーゼ(SGOT)レベル、患部関
節のX線分析、99mTcガンマ線シンチグラフィー画像、関節炎スコア、血漿ス
ーパーオキシドジスムターゼ活性の測定、および末梢血液白血球のマイトジェン
反応および食作用反応の測定によって確立され得る(Miesel and Haas,Infla
mmation 17(5):595,1993)。炎症の更なる証拠は、NMRおよび滑液内の重要な
抗酸化剤の欠乏によって得られる(Fairburn et al.,Clin Sci.83(6):6570,
1992)。例えば、リウマチ性関節炎(RA)においては、種々のサイトカイン類
によって活性化された白血球が誘導されて、その細胞毒性成分を放出する(NO
、O2、H2O2)。これらの遊離ラジカル又は酸化剤は、炎症部位において健康
な組織を破棄する(Heliovaara et al.,Ann.Rhem.Dis.53(1):51,1994)。
本発明の他の側面においては、損傷を受けた温血動物におけるアポトーシスを
改善するために、ユビキノンプロドラッグおよび配薬組成物が投与される。本発
明の内容において、「損傷」の用語は、物理的または化学的手段によって生じた
細胞または組織の損傷を意味し、これは最終的には細胞死をもたらし得る。この
ような損傷には、例えば、虚血、再灌流、筋肉退化、白内障、肝毒性、膵臓炎、
腎損傷、肺障害、脳外傷、肝臓に対する毒性損傷、狭心症および脳梗塞、化学療
法による組織損傷および老化促進が含まれる(Linnik et al.,Stroke 24(12):
2002,1993)。これらの損傷は、幾つかの適切な手段の何れかによって同定する
ことができ、これらの適切な手段には、標準的な画像化技術またはサトウ(Cli
n.Chem.Acta.90:37,1978)によって記載されたような血液血漿サンプルについ
ての脂質過酸化物の測定を含む標準的技術が含まれる。追加の試験には、脂質過
酸化物の血漿濃度並びに遊離ラジカルスカベンジ酵素、マンガン酸塩、スーパー
オキシドジスムターゼおよびカタラーゼの血清レベルを評価する、チオバルビツ
ール酸(TBARS)熱量試験の使用が含まれる(Pippenger et al.,Idiosyn
cratic Reactions to Valproate: Clinical Risk Patterns and Mechanis
ms of Toxicity,Levy and Penry(eds.),Raven Press,NY,Ch.12,p.75-88
,1991)。
本発明の更に別の側面では、一般に酸化性ストレスをもたらす治療剤を投与さ
れた温血動物におけるアポトーシスを改善するために、ユビキノンプロドラッグ
および配薬組成物が投与される。酸化性ストレスを生じる治療剤は、上記で説明
したように、TBARSまたはSGOTレベルによって同定され得る。このよう
な治療剤には、例えば、AZT、アントラサイクリン、ブレオマイシン、プロカ
ルバジン、ビンクリスチンシクロホスファミド、およびマイトマイシンCが含ま
れる。
本発明のユビキノンプロドラッグおよび組成物は、アドリアマイシンのような
化学療法剤の毒性を改善し、また歯周病を治療するために投与してもよい。この
ユビキノンプロドラッグおよび組成物はまた、キャプトプリル、カルニチン、ト
コフェロールおよびその誘導体、並びにニコチンアミドのような他の治療剤と組
み合わせて投与してもよい。本発明のユビキノンプロドラッグおよび組成物は、
飲料水中に投与してもよい。
本発明のユビキノンプロドラッグおよび組成物は、治療的に有効な投与量で投
与される。治療的に有効な投与量は、イン・ビトロでの実験に続いてイン・ビボ
での試験によって決定され得る。0.8μg/mL〜1.0μg/mLの間の正常な血
漿レベルに基づけば、適切な投与量は、少なくともこのレベルにまで、好ましく
は正常値の1〜5倍にまでユビキノンの血漿値を上昇させるのに十分なものでな
ければならない。このような投与量は、一般には1日当たりで約10〜400mgの
CoQ10の範囲:典型的には約25〜150の範囲、好ましくは約30〜100の範囲であ
ろう、当業者は、投与量が特定の配薬系によって達成されるCoQ10の生体利用
性に依存することを承認するであろう。
本発明のユビキノンプロドラッグおよび組成物が上記のようにして調製された
ら、それはヒトまたは動物の医薬処方に製剤イヒされ、従来の製剤技術に従って
、薬学的キャリアおよび/または希釈剤と共に混合される。このキャリアは、例
えば静脈内投与、経□投与、局部投与、エアロゾル、吸入、非経腸的投与、また
は脊椎注射のような投与に望ましい剤形に応じて種々の形態を取り得る。ユビキ
ノンプロドラッグおよび組成物は、アポトーシスを治療するための医薬の製造に
有用である。経口投与形対の組成物を調製する際には、例えば、水、グルコース
、油、アルコール、香料、保存剤、着色剤、または澱粉、糖、希釈剤、顆粒化剤
、潤滑剤、バインダー、崩壊剤等のような通常の調剤媒体を用いることができる
。次いで、注入を含む幾つかの適切な手段の何れかによって、例えば経口投与の
ためのゲルカプセルを含む適切なカプセルの中に溶液を挿入する。
非経腸剤の場合、キャリアは通常は滅菌水であるが、例えば保存のための他の
成分を含めてもよい、注入可能な懸濁液もまた調製され得るが、その場合には懸
濁剤、pH調節剤、等張性調節剤等のような適切な液体キャリアを用いればよい
。
中枢神経系の治療にには、独特な考慮要件がある。他の組織とは異なり、脳組
織は冗長性がない。それは硬度に分化されており、区画されており、また取り替
えることができない。従って、神経薬品は正常組織に対して非毒性でなければな
らない、しかしながら、脳血管障壁を迂回する最も効果的なルートを見出すのは
困難であった。当該障壁を完全にバイパスする一つの方法は、腰椎穿刺または脳
室経路による脳内随液投与によるものである。アオマヤ容器(aommayareservoir)
を使用したカテーテル化が用いられるが、処置法手引きでは最後の手段であるこ
とが指示されている。しかしながら、実際上の展望から、脳にその作用部位を有
する薬物は、一般に脳/血液障壁を横切って侵入しなければならない。一つのア
プローチは、脳/血液障壁自体の一過性の可逆的修飾である。これは、浸透圧開
放またはメトロぞーる開放を含む幾つかの方法の何れかによって達成され得る。
最初の方法は、浸透圧的に誘導された内皮細胞の収縮(これは細胞間タイプの
接合を拡大する)による、毛細管透過性の増大に基づいている。この浸透圧付加
は、一般にはマンニトールまたはアラビノースのような高浸透圧水可溶化剤であ
る。簡単に言えば、一般的な麻酔の下に、大腿貫通カテーテルが内部頸動脈また
は脊椎動脈の中に導入され、25%マンニトールの150〜300mLが、6〜10mg
/秒の速度で30秒間、注入により投与される。本発明の化合物の静脈内注入はマ
ンニトール注入の略5〜7秒前に開始され、15分間継続される。大腿貫通カテ
ーテルを除去して、患者を24時間〜48時間観察する。
脳への薬物供給を高めることを可能にする破壊性のより少ない技術には、薬物
の親油性を増大することが含まれる。これは、例えば、脳/血液障壁を通過した
後にユビキノンへと開裂するような水溶性ユビキノンプロドラッグを含む、幾つ
かの手段の何れかを用いて達成すればよい。好ましい態様において、これらのプ
ロドラッグは、脳/血液障壁に存在するキャリア/受容体系にターゲッティング
される(受容的薬物ターゲッティング)。特に好ましい態様において、これらの
プロドラッグは、疾病状態にある脳/血液障壁での増大した輸送システムを使用
するためにターゲッティングされる(能動的薬物ターゲッティング)。
他の態様において、ユビキノンプロドラッグは、ヘキソース輸送系、モノカル
ボン酸輸送体、中性、塩基性および酸性アミノ酸の輸送体、ヌクレオシド輸送体
、チアミン輸送体およびチロイド(T3)輸送体系にターゲッティングしてもよ
い。
キャリアに媒介された輸送の一例は、Lドーパである。これは中性アミノ酸輸送
体を介してCNS中に輸送され、次いで脱炭酸されて活性成分であるドパミンを
生じる。上記のように、ユビキノン類は、グルコースラクテートフェニルアラニ
ン、リシン、グルタメートコリンチアミン、プリンまたはアミンを含む種々のキ
ャリア分子に結合することができる。CNS中に入り込んだら、ユビキノンプロ
ドラッグはエステラーゼによってユビキノンに開裂される。
本発明の水溶性ユビキノン誘導体には、CoQ10のようなユビキノン類のため
の効果的な配薬担体として働くユビキノンプロドラッグが含まれる。上記で述べ
たように、その大きな水溶性のために、ユビキノンプロドラッグは、高い有効ユ
ビキノン濃度を有し、従って静脈内投与のために理想的なる水溶液として容易に
処方される。従って、本発明のユビキノンプロドラッグは、典型的には、CoQ
10を含む水溶性の乏しいユビキノン類の投与に必要とされる投与形路に関連した
困難性に対する解決策を提供する。
水溶液として効果的がつ効率的に投与されることに加えて、本発明のユビキノ
ンプロドラッグは、温血動物の身体を通して容易に輸送され、更に、特定の部位
および組織にターゲットされ得る。ユビキノンプロドラッグの輸送が容易である
ことによって、脳を含む種々の組織部位への配薬が可能になる。
本発明の代表的な水溶性ユビキノンプロドラッグの投与に後のCoQ10の生体
内分布が、実施例15に記載されており、また図6にまとめられている。
以下の実施例は例示として与えられるモノであり、本発明を限定するものでは
ない。
〔実施例〕
実施例1
CCRF−CEM細胞のH2O2処理に及ぼすCoQ10の効果
本実施例は、細胞株に酸化的傷害および最終的にアポトーシスを誘導すること
ができる分子であるH2O2に暴露させたCCRF−CEM細胞(T細胞株の1つ
)に及ぼすCoQ10投与の効果を例示する。本実施例では、CoQ10は本発
明の代表的ユビキノン組成物を使用して投与される。本発明の他のユビキノンお
よ
びユビキノンプロドラッグも同様に投与される。
この実験において、2ml量の細胞(0.8×106)を、(1)RPMI 1
640培地および水溶性コレステロール(セバシン酸ポリオキシエタニル−コレ
ステリル、シグマケミカル社(Sigma Chemical Co.)、セントルイス、ミズー
リ州)中の20μMのCoQ10;(2)RPMI 1640培地および水溶性
コレステロール中の10μMのCoQ10;および(3)RPMI 1640培
地および水溶性コレステロール中で培養して、3つの異なるCCRF−CEM細
胞(ヒトT細胞株の1つ)の試料を調製した。次に3つの試料を、プラスチック
製マイクロタイターブレート中で5日間培養した。次に3つの試料を2つの群に
分けた:100μMH2O2で2時間処理するものと、H2O2で処理しないもの。
H2O2に暴露後18、24、または48時間目に細胞数(試料あたり8回の平均
)を数え、細胞死滅をトリバンブルー色素排除試験により評価した。結果を表1
に示す。
表1に示すデータは、H2O2に誘導されるCCRF−CEM細胞株に対する細
胞毒性がCoQ10の投与により低下したことを示す。さらに、18時間の時点
で、この作用は20μMのCoQ10の方が50μMのものより優れていた。H2
O2に暴露してCoQ10で処理した細胞は、すべての時点で増殖が増加してい
ることから明らかなように、CoQ10は最終的に生存細胞を防御した。この観
察結果は、対照群の生育可能な細胞の数を処理群と比較して行なった。一般的に
、対照に比較して20μMのCoQ10を投与した群の細胞の数は約2倍増
加する。実施例2 未分化ニューロン細胞に及ぼすCoQ10の効果
本実施例は、H2O2に暴露させた未分化ニューロン細胞株PC12(ATCC
受託番号1721)に対するCoQ10投与の効果を説明する。未分化PC12
細胞は、充分に分化したニューロン細胞の特徴の多くを有し、従ってニューロン
細胞アポトーシスの適切なモデルである。本実施例では、本発明の代表的ユビキ
ノン組成物を使用してCoQ10が投与される。本発明の他のユビキノンおよび
ユビキノンプロドラッグも同様に投与される。2つの独立した実験を代表する以
下の試験において、3つの異なる処理条件下で、2mlのRPMI培地を含有する
6ウェルプレート中で、正常な未分化PC12細胞(0.5×106)を増殖さ
せた、第1の群(I)では、細胞を100μM H2O2で2時間処理し、洗浄し
、新鮮な培地で処理した。種々の時点で、標準的方法を用いて、トリバンブルー
排除試験により細胞死滅について評価した。第2の群(II)では、細胞を溶媒と
テトラヒドロフラン/水溶性コレステロール/低密度リポタンパク質(THF/
chol/LDL)混合物で2日間前処理し、次に100μM H2O2で2時間
処理した。次に細胞を洗浄し、さらに48時間新鮮な培地を加えた。第3の群(
III)では、細胞をTHF/chol/LDL中の50μM CoQ10で2日間
処理し、次に100μM CoQ10で2時間処理した。次に細胞を洗浄し、5
0μM CoQ10を含有する新鮮な培地を加え、細胞をさらに48時間インキ
ュベートした。結果を表2に示す。
表2に示したデータは、CoQ10が、H2O2に暴露させた未分化細胞株PC
12の細胞毒性を低下させることを示す。阻害のレベルは、12時間の時点で対
照群で観察されたものの約50%であった。さらに、CoQ10は、試験したす
べての時点で細胞死滅から生存細胞を防御するのに有効であった。さらにこれら
のデータは、神経変性疾患において酸化的ストレス誘導性のアポトーシスから、
ニューロン細胞を防御するのに有効かも知れないことを示唆する。実施例3 ユビキノン送達組成物の評価に使用される一般的方法
本実施例は、本発明の代表的ユビキノン送達組成物を調製し投与するのに使用
される一般的方法を示す。これらのユビキノン送達組成物の有効性は、下記の実
施例4〜8で説明される。本実施例では、本発明の代表的ユビキノン送達組成物
であるCoQ10送達組成物が調製され投与される。本発明の他のユビキノンお
よびユビキノンプロドラッグも、同様に調製され投与される。ストレス誘導性の
細胞のアポトーシスに及ぼす薬物の効果を測定するための、インビトロのモデル
系においてCoQ10を送達するためにリポフェクションを使用した。これらの
試験で、CoQ10とセバシン酸ポリオキシエタニル−コレステリル(「コレス
テロール」、カタログ番号C1145、シグマケミカル社(Sigma Chemical C
o.)、セントルイス、ミズーリ州)を、CoQ10 1mg対コレステロール4mg(
モル比は約1:3)の比率でテトラヒドロフラン(「THF])中で可溶化し、
次に水で希釈した。溶液を窒素下で蒸発乾固した。次に、リン酸緩衝化生理食塩
水(PBS)でCoQ10−コレステロール組成物を適当な量に復元し、例えば
2.0mMのストック溶液または50μMの最終の使用溶液を得た。
コレステロールまたは前述のように調製したコレステロール/CoQ10と混
合したリポフェクタミン(Lipofectamine)(登録商標)(ポリ陽イオン性脂質
である2,3−ジオレイルオキシ−N−[−2−(スペルミンカルボアミド)エ
チル]−N,N−ジメチル−1−プロパンアミニウムトリフルオロ酢酸(「DS
PA」)と、中性脂質であるジオレイルホスファチジルエタノールアミン(「D
OPA」)の水中の3:1混合物、ギブコ・ビーアールエル(Gibco BRL)
、ゲイサーズバーグ(Gaithersburg)、メリーランド州)とともに細胞を培養
して、種々の細胞株のリポフェクションを行なった。例えば50μMのCoQ1
0調製物では、(25μMコレステロール賦形剤対照)、25μlの2mMCoQ
10ストック溶液を、10μlのリポフェクタミン(登録商標)および165μl
のRPMIと一緒にした。混合物を暗所中で室温で2〜3時間回転させて、リポ
ソーム/CoQ10混合物を得た。次にリポソーム/CoQ10混合物を、80
0μlの細胞懸濁液(約4×106細胞/ml)と一緒にした。37℃で18時間細
胞にリポソームを取り込ませた。次に細胞を遠心分離し、RPMI/コレステロ
ール(25μMコレステロール)で3回洗浄した。細胞を0.2〜0.5×106
細胞/3ウェルで組織培養培地プレートに蒔いた。
過酸化水素H2O2(50または100μM)で種々の時間、細胞を処理してア
ポトーシスを誘導した。培養物に50μMのカタラーゼを加えて、H2O2の不活
性化と酸化的傷害の停止を行なった。活性化の間にマクロファージがH2O2を産
生する(これは、例えば炎症などの種々の条件で発生する)ため、これは酸化的
ストレスの誘導の適切なモデルであった。
細胞の生育活性を、標準的MTT[3−(4,5−ジメチイアゾール−2−イ
ル)2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド]測定法(Hansenら、J.Immun .methods
119:203-210,1989)を使用して測定した。この測定法は、テトラゾリウ
ム塩の着色成分ホルマザンへの変換に基づく。反応を570nmで分光学的に追跡
した。ホルマザンの生成は、機能性ミトコンドリアを介して起きると考えられ、
従って細胞増殖または細胞死滅の指標となり得る。値は、3つの試料の吸光度を
計算し平均値を取って求めた。
細胞のATP含有量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法を用いて
評価した。簡単に説明すると、2〜10×106細胞をペレットにし、30〜5
00μlの氷冷水10%TCA(トリクロロ酢酸、シグマケミカル社(Sigma C
hemical Co.)、セントルイス、ミズーリ州)で溶解した。溶解物を卓上型遠心
分離機で最高速度で遠心分離した。TCA上清をトリ−n−オクチルアミン(シ
グマケミカル社(Sigma Chemical Co.)、T−863)/1,1,2−トリク
ロロフルオロエタン(シグマケミカル社(Sigma Chemical Co.)、T−915
9)1:3v/vの氷冷混合液で中和した(Jamesら、Cell Prolif. 27:395-
406,1994を参照)。試料を30秒間ボルテックス混合し、1分間遠心分離して相
を分離した。上層の10〜20μlのアリコートを、シンクロパック(SynChrop
ac RT-P)(オクタデシル)逆相カラム(4.6mm×25cm、シンクロム社(
Synchrom,Inc.)、ラファイエット(Lafayette)、インディアナ州)に注入
した。無勾配条件下で0.1M酢酸トリエチルアンモニウム(pH6.8)中の
1.5%アセトニトリルで流速1ml/分で溶出を行なった。ATPは260nmで
検出し、その含有量は、既知の標準物質の吸光度から推定した。結果は、細胞性
タンパク質1mgあたりのATPのngとして表した。
これらの試験で使用した細胞株(下記実施例4〜8を参照)は、急性リンパ芽
球性白血病患者から樹立したTリンパ芽球株であるCEM(ATCC受託番号C
CL119)、白人男性の腹部腫瘍塊から樹立したヒト神経芽細胞腫株であるI
MR−32(ATCC受託番号CCL127)を含有し、Neoおよびbcl−
2トランスフェクション細胞は、ジョンリード(John Reed)(スクリプス研
究財団(Scripps Research Foundation)、ラホイア、カリホルニア州)から
得た。
CEM細胞は、MiyashitaとReed(Cancer Research 52: 5407-5411,1992)
が記載したように、両栄養性レトロウイルスZip−NeoとZip−bcl−
2でトランスフェクションした。実施例4 CoQ10とbcl−2の抗アポトーシス作用の比較
本実施例は、細胞死滅を改善するCoQ10の能力を遺伝子bcl−2の能力
と比較する、本実施例では、本発明の代表的ユビキノン組成物を用いてCoQ1
0が投与される。本発明の他のユビキノンおよびユビキノンプロドラッグも、同
様に調製され投与される。
遺伝子bcl−2は、細胞死滅経路に参加する、充分に性状解析された遺伝子
である。bcl−2遺伝子は、C−末端アンカードメインで膜に結合し、アポト
ーシスとある型の壊死を阻害するプロトオンコジーンとしての新規な性質を有す
る25kDのタンパク質をコードする(Hockenberyら、Nature 384: 334-336,
1990)。bcl−2遺伝子でトランスフェクションした細胞は、酸化的ストレス
から防御され、ユビキノンの防御作用を評価する基準となる。
本実施例では、CEM細胞は強いプロモーターの制御下でbcl−2遺伝子に
よりトランスフェクションされた(CEM−bcl−2細胞)か、またはネオマ
イシン耐性遺伝子のみを含有するベクターでトランスフェクションした(CEM
−neo細胞)。次に前記実施例3で記載したように、CEM細胞をリポフェク
タミン(登録商標)と水溶性コレステロール(25μM)もしくはリポフェクタ
ミン(登録商標)のいずれか、およびユビキノン送達組成物(水溶性コレステロ
ールと実施例3のように調製したCoQ10(50μM)を含有する)で、18
時間リポフェクションした。細胞を、RPMI培地でウェルあたり2×105細
胞/mlで6ウェル組織培養プレート中に分注した。
次に細胞を洗浄し、再度蒔き、異なる濃度のH2O2で37℃で30分間処理し
た。30分間の暴露後、培養物をカタラーゼ(50U/ml)で処理してH2O2を
不活性化し、洗浄し、18時間培養した後、実施例3に記載したようにMTT測
定法を行って細胞生育活性を解析した。結果を表3に要約する。
表3のデータは、試験したすべての濃度のH2O2で、bcl−2発現は細胞生
存率を有意に増加させた。さらにCoQ10で処理した細胞は、賦形剤(コレス
テロール)対照と比較した時、H2O2の酸化作用に対して同様の防御を示した。
これらのデータは、bcl−2遺伝子産物のように酸化的ストレスからCEM細
胞を防御するのにCoQ10処理が有効であり、CoQ10は酸化的ストレス誘
導性アポトーシスを改善することを示す。
さらにこのデータは、bcl−2遺伝子産物が存在して細胞をCoQ10で処
理する時の付加的防御を示唆する。このようなデータは、bcl−2遺伝子産物
やユビキノンのようなアポトーシスインヒビターを組合せる併用療法が有効であ
り、細胞に対して防御の増強を与えることを示す。実施例5 IMR−32細胞のアポトーシスに対するCoQ10の防御作用の評価
本実施例は、IMR−32細胞(ATCC受託番号CCL127)のH2O2誘
導性細胞死滅に対するCoQ10の防御作用を証明する。本実施例では、本発明
の代表的ユビキノン組成物を用いてCoQ10が投与される。本発明の他のユビ
キノンおよびユビキノンプロドラッグも、同様に調製され投与される。
本実施例において、IMR−32細胞は前記実施例3で記載したように、リポ
フェクタミン(登録商標)と水溶性コレステロール(50μM)もしくはリポフ
ェクタミン(登録商標)のいずれか、および実施例3のように調製したユビキノ
ン送達組成物(水溶性コレステロールとCoQ10(50μM)を含有する)で
、18時間(表4)または10時間(表5)リポフェクションした。次に細胞を
トリプシン放出させ、新鮮な培地で洗浄し、ウェルあたり2×106細胞/mlで
3mlのRPMIで6ウェル組織培養プレート中に移した。次に細胞を2時間(表
4)または12時間(表5)再結合させた後、各ウェルに100μMのH2O2を
加えた。1時間後、培地を交換し、トリバンブルー色素排除試験を用いて細胞の
生育活性を評価した。さらに、対照とCoQ10リポフェクチン細胞のCoQ1
0含有量を、有機抽出方法を用いるHPLC、次にアルトレックス(Altrex)
ウルトラスフィア(ultraspere)−ODS(粒径5ミクロン、4.6mm×25cm
カラム)を用いるHPLC解析により評価した。
表4と表5に示した結果は、CoQ10処理がH2O2誘導性アポトーシスから
細胞を防御することを示す。この観察結果は、細胞数の増加とトリバンブルー色
素排除試験により規定される生育可能な細胞の割合の増加により支持される。ま
た、処理細胞中のCoQ10の高度に有意な摂取が顕著であった。比較すると、
同じリポフェクチン法を用いる場合、リンパ球細胞株は一般的に約5倍のCoQ
10レベルの増加を示すのみであり、これは少なくとも一部はニューロン細胞の
高い脂質含有量が原因である。
実施例6 ヒトT細胞中のアポトーシスに対するCoQ10の防御作用の評価
この例は、ヒトT細胞中のトポイソメラーゼインヒビターVM−26により誘
導されるアポトーシスからのCoQ10の防御作用を説明する。本実施例では、
本発明の代表的ユビキノン組成物を用いてCoQ10が投与される。本発明の他
のユビキノンおよびユビキノンプロドラッグも、同様に調製され投与される。
VM−26は、トポイソメラーIIを阻害し、こうして細胞がS期を完了したり
または有糸分裂で染色体が分離するのを妨害すると考えられているエピポドフィ
ロトキシン(epipodophyllotoxin)である。VM−26は、胸腺細胞のアポトー
シスを誘導することがわかっている(Walkerら、1991)。この実験では、Tリ
ンパ芽球細胞株でありHTLVIII(HIV、LAV)の単一の欠陥プロウイルス
ゲノムを含有する8E5細胞を、対照としてのHTLVIIIで感染させないTリ
ンパ芽球細胞株であるA3.01細胞とともに使用した。この実験では、Tリン
パ芽球細胞を、実施例3に記載したようにリポフェクタミン(登録商標)と水溶
性コレステロール(50μM)もしくはリポフェクタミン(登録商標)のいずれ
か、および実施例3のように調製したユビキノン送達組成物(水溶性コレステロ
ールとCoQ10(50μM)を含有する)で、18時間リポフェクションした
。翌日、細胞をVM−26で処理した。15nMのVM−26(ブリストルラボ
ラトリーズ(Bristol Laboratories)、カンディアック(Candiac)、ケベッ
ク州)のストック溶液をエタノールに調製し、−20℃で保存した。ストック溶
液をRPMIで希釈して適当な濃度を得た。細胞をVM−26の存在下で20時
間培養し、実施例3に記載したようにMTT測定法を用いて細胞の生育活性を試
験した。表6に示したデータは、VM−26で処理した時対照培養物に比較して
、CoQ10で処理したA3.01細胞中で生育活性が増強されることを示す。
しかしHIV−1に感染された細胞である8E5細胞では生育活性は大きな影響
を受けない。2つの細胞株のCoQ10含有量は表6に示す通りであり、生育活
性の差はCoQ10を細胞に送達することができないことが原因ではないことを
示す。
実施例7 ATP産生のためのユビキノン送達組成物の評価
本実施例は、本発明の代表的ユビキノン送達組成物を用いてリポフェクション
した後の、種々の細胞のATPレベルを評価する。
CoQ10は有効な抗酸化剤である以外に、酸化的リン酸化の必須成分である
。本実施例では、本発明のユビキノン送達組成物を用いるCoQ10投与後の種
々の細胞について、細胞性ATPのレベルを評価する。他のユビキノンおよびユ
ビキノンプロドラッグも、同様に調製され投与される。
1つの実験で、IMR−32細胞を、実施例3に記載したようにリポフェクタ
ミン(登録商標)と水溶性コレステロール(50μM)もしくはリポフェクタミ
ン(登録商標)のいずれが、および実施例3のように調製したユビキノン送達組
成物(水溶性コレステロールとCoQ10(50μM)を含有する)で、リ
ポフェクションした。3つの時点(24、48、および72時間)後、細胞のA
TP含有量をng/μg細胞タンパク質として評価した。表6に示す結果は、賦形剤
対照(Chol)に比較して、CoQ10で処理した細胞ではATPレベルが有
意に増加したことを示す。
別の実験で、CoQ10で処理後にヒトTリンパ芽球細胞A3.01と8E5
のATP含有量を評価した。この実験では、実施例3に記載したようにリポフェ
クタミン(登録商標)と水溶性コレステロール(50μM)もしくはリポフェク
タミン(登録商標)のいずれか、および実施例4に記載したように調製したユビ
キノン送達組成物(水溶性コレステロールとCoQ10(50μM)を含有する
)で、18時間リポフェクションした。翌日、細胞をNADHとユビキノンの間
の酸化的リン酸化の脱共役剤であるロテノン(rotenone)で処理した。ロテノン
を1.0mg/mlの濃度でジメチルスルホキシドに溶解し、RPMIで希釈して最
終濃度が5μg/mlの溶液を得た。実施例3に記載したように各実験の最初および
6時間目に、ATP含有量をng/μg細胞タンパク質として評価した。表8に要約
した結果は、賦形剤対照(Chol)に比較して、CoQ10で処理したA3.
01細胞ではATPレベルが有意に増加したことを示す。2つの細胞株のCoQ
10含有量を、実施例3に記載したように測定し、同様であることがわかり、こ
れはATP含有量の差は、CoQ10を細胞に送達することができないことが原
因ではないことを示す。
実施例8 ユビキノン送達組成物を用いる脳卒中に対するCoQ10の防御作用の評価
この例は、ラットモデルを用いて、脳卒中に対するCoQ10の防御作用を評
価する。本実施例では、本発明の代表的ユビキノン組成物を用いてCoQ10が
投与される。本発明の他のユビキノンおよびユビキノンプロドラッグも、同様に
調製され投与される。
Prestonら(Neuroscience Letters 149: 75-78,1993)が記載したように、
2つの血管閉塞により、体重340〜420gの6匹のオスのスプラーグ−ドー
レイ(Sprague-Dawley)ラットで脳虚血を誘導した。ラットを0.3mg/kgの
硫酸アトロピンで前処理し、60mg/kgのフェノバルビタールナトリウムで麻酔
した。ラットに捜管し、正常なレベルの血液ガスを維持するために手術の間機械
的に通気した。動脈血圧を42〜47mmHgに低下させて(尾動脈からの血液採
取)、次に動脈クランプを用いて共通頸動脈の両側閉塞させて、脳虚血を誘導し
た。閉塞の8分または12分後、血液を再潅流し、頸動脈クランプを取り、傷を
閉じた。結腸と鼓膜の温度を追跡し、自己の熱制御が再確立されるまでラットの
下に水パッドを用いて手術の間37.5〜38.0℃以内に制御した。
CoQ10と実施例3に記載したように調製した水溶性コレステロールを含む
本発明の代表的ユビキノン送達組成物を、1群のラットに投与した。ユビキノン
送達組成物(ラット体重1kgあたり3mgのCoQ10を有効に送達する)を2回
投与(腹腔内投与、1回の注入あたり1mgのCoQ10および4mgの水溶性コレ
ステロールを含有する0.5mlのPBS)し、1回は手術直後、そして次に3時
間後に投与した。1群の対照ラットを、同じ時間設定で500μMの水溶性コレ
ステロールで処理し(コレステロール対照)、別の1群の対照ラットは処理しな
かった(対照)。ラットが死亡後、4%緩衝化ホルマリンで潅流し、脳組織を取
り出し、パラフィンに包埋した。脳のパラフィン切片(5μ)を調製し、H/E
(ヘマトキシリン/エオシン)染色し、写真を撮った。
このモデルの虚血性脳傷害は通常、層の選択的なニューロン喪失となり、特に
海馬のニューロン喪失となる。この結果は、H/Eで染色した脳切片から直ちに
見ることができる。最初(虚血後24〜48時間以内)、傷害ニューロンは黒く
縮んで見え、隣の細胞から離れている。後に(3〜6日)細胞がなくなり(おそ
らく食細胞により飲み込まれた)、脳組織に空隙または穴が残っている。これら
の空隙または穴は最終的にグリア細胞で満たされ、これらの虚血ラットに重大な
記憶喪失を引き起こす。図3から明らかなように、手術の3日後、賦形剤対照で
処理したラットでは多数のニューロン細胞が死滅している(図3で「a」と記載
したアポトーシス性細胞を参照)が、これはこのタイプのモデル系で誘導された
虚血に特徴的である。しかし、図4では、CoQ10で処理したラットは3日後
に、細胞の死滅をほとんどまたは全く示さない(図4で「b」と記載した非アポ
トーシス性細胞を参照)。この観察結果は、脳卒中の他のインヒビターはこれら
のニューロンの部分的防御を示すのみであるという事実によりいっそう顕著にな
る。
さらに図9に示すように、CoQ10を注入されたラットは、注入後24時間
目に解析すると、薬物の血漿レベルは10倍高く、脳レベルは2倍高く、薬物の
バイオアベイラビリティを示している。
図5は、ユビキノン送達組成物で処理したラットについてのアポトーシス性細
胞の割合(CoQ10処理)と、水溶性コレステロールで処理したもの(未処理
)を、8分および12分閉塞の両方について潅流後の日数の関数として示す。図
では、再潅流後の記載した期間で死滅した海馬ニューロンの割合(標準誤差)を
、固定した組織切片の顕微鏡観察により評価した。「ND」は「測定しなかった
」ことを示す。実施例9 ユビキノンのユビキノールへの還元
本実施例は、ユビキノン(50)をユビキノール(50)に還元する方法を示
す。この方法は一般的には、任意のユビキノンまたはユビキノン誘導体のユビキ
ノングループを対応するユビキノールに還元するのに応用できる。
ユビキノールは、ChengとCasida(J.Labl.Compd.Radiopharm. 6: 66-75
,1970)に従ってユビキノンから合成した。簡単に説明すると、1gのCoQ1
0、5mlの酢酸および0.3gの亜鉛末の混合物を、5分間50℃に加熱し、5
mlの水で反応を停止し、アルゴン雰囲気下でヘキサン(45ml)で抽出した。ヘ
キ
サン抽出物を水で洗浄(3×5ml)し、硫酸マグネシウムで乾燥し、ロータリー
エバポレーターで濃縮して1.10gの無色の粘性物質を得て、高真空(0.0
5mm)で室温で1時間乾燥して、還元CoQ10 0.980gを得た。この物
質を、さらに精製することなく以後の反応に使用した。実施例10 代表的ユビキノンプロドラッグ(CoQ10−エーテル−PEG)の合成
本実施例は、本発明の代表的ユビキノンプロドラッグ(CoQ10−エーテル
−PEG)の合成を示す。このユビキノンプロドラッグについて、ユビキノンは
CoQ10であり、可溶化残基はポリエチレングリコール5000であり、電気
的に中性な可溶化残基および結合基はエーテルである。以下の方法は、エーテル
結合基でユビキノールに直接結合した可溶化残基を有するユビキノンプロドラッ
グを調製するための一般的方法である。従って、この合成法は、本発明のユビキ
ノン類および可溶化残基に応用できる。
滴下ロートと還流冷却器の付いた250mlの三ツ首丸底フラスコに、250mg
(0.288ミリモル)のユビキノール(実施例9に記載したように調製した還
元CoQ10)を、アルゴン雰囲気下で30mlの無水テトラヒドロフラン(TH
F)(シリンジで加えた)に溶解した。この溶液に21mg(0.86ミリモル)
の水素化ナトリウムを加えた。反応混合物を室温で15分間攪拌し、次に氷浴を
用いて0℃に冷やした。冷却した溶液に、20mlの無水テトラヒドロフラン中の
1.44g(0.288ミリモル)のPEG−トレシレート(アルドリッチケミ
カル社(Aldrich Chemical Co.)、ミルォーキー、ウィスコンシン州を、滴
下ロートで20分間かけて加えた。反応混合物を0℃で30分間攪拌後、氷浴を
取り除き、反応混合物をさらに1時間攪拌した。次に油浴の温度をゆっくり10
0℃に上げながら、反応混合物を還流温度にした。2時間還流後、加熱を止め、
反応混合物を室温まで冷やした。食塩水とTHF(各2ml)の混合液で反応を止
めた。固体を真空ろ過し、ロータリーエバポレーターで溶媒を留去した。得られ
た濃い油状物を100mlのクロロホルムに溶解し、水で洗浄した(2×10ml)。
有機物を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過し、ロータリーエバポレーターで
濃縮し、真空下で室温で2時間乾燥して1.5gの黄色固体を得た。
この粗生成物を2.5×28cmのフラッシュシリカカラムにのせ、クロロホル
ムを溶媒として溶出した。CoQ10と他の関連する不純物をクロロホルムで溶
出し、PEG化生成物をクロロホルム中10%メタノールで溶出して1.21g
の淡黄色固体を得た。
第2の精製工程で、100mgの上記クロマトグラフィー化物質を、1×16cm
の逆相シリカゲルカラムにのせた。メタノールを溶出液として用いて、乾燥した
モノ−PEG化CoQ10(「CoQ10−エーテル−PEG」と呼ぶ)を収率
58%で得た。ジ−PEG化CoQ10(「CoQ10−(エーテル−PEG)2
」と呼ぶ)を、少量生成物として得た。
物性データ:赤外吸収スペクトル(ヌジョール、cm-1):1650,1460
,1375,1340,1275,1240,1060,960,945,84
0,720。1H NMR(CDCl3、δ):5.12(m,ビニル性−H)、
4.9(t,ビニル性−H),3.9−3.3(PEG−H),2.08−1.
85(m,アリル性CH2)、1.7−1.6(m,CH3)。融点=59−60
℃。ユビキノンプロドラッグの水溶性の評価方法
1.0mlの水に0.10mgを希釈して、CoQ10−エーテル−PEGの水溶
性を評価した。溶液を1時間攪拌し、室温で24時間放置した。次に試料を遠心
分離し、得られた水層を、高速液体クロマトグラフィー(「HPLC」)で解析
した。HPLC解析は、溶媒としてアセトニトリルを無勾配で使用して、リクロ
スフィア(LiChrospher)100、C−18カラム(5μ、125×4mm)で
流速2ml/分で行なった。これらの条件下で、CoQ10−エーテル−PEGの
保持時間は、7.6mmである。
補酵素Q10含有生成物の定量は、HPLCにより254nmでUV検出により
行なった。この定量において、補酵素Q10誘導体の水溶液を調製し、前述のよ
うにHPLCで解析した。既知の濃度の一連の補酵素Q10水溶液を調製し、H
PLCで解析した。これらのHPLC解析の結果を標準曲線の作成に使用し、標
準物質のHPLCシグナルに対してCoQ10標準物質の濃度をプロットして標
準曲線を作成した。このような標準曲線の1つを作成し、補酵素Q10誘導体
の水溶液を同様に解析し、溶液中の誘導体の濃度を測定した。実施例11 代表的ユビキノンプロドラッグ(CoQ10−カルバメート−PEG)の合成
本実施例は、本発明の代表的ユビキノンプロドラッグ(CoQ10−カルバメ
ート−PEG)の合成を示す。このユビキノンプロドラッグについて、ユビキノ
ンはCoQ10であり、可溶化残基はポリエチレングリコール5000であり、
電気的に中性な可溶化残基および結合基はカルバメートである。以下の方法は、
カルバメート結合基でユビキノールに直接結合した可溶化残基を有するユビキノ
ンプロドラッグを調製するための一般的方法である。従って、この合成法は、本
発明のユビキノン類および可溶化残基に応用できる。
以下のCoQ10−カルバメート−PEGの合成は、2工程法である。第1の
工程で、1.0g(0.20ミリモル)のアミノ−メトキシ−PEG5000(
シアウォーターポリマー社(Shearwater Polymer Inc.)、フンツビル(Huntsv
ille)、アラバマ州)を15mlの無水ジオキサンに溶解し、50℃に加熱して溶
解して、アミノ−メトキシ−PEG5000のスクシニミジルカルバメートを調
製した。冷えた溶液に、アセトン10ml中の359mg(1.4ミリモル)のN,
N−ジスクシニミジルカーボネートの溶液を加えた。次にアセトン10ml中の1
71mg(1.4ミリモル)のジメチルアミノピリジンの溶液を加え、得られた反
応混合物を室温で一晩攪拌した。60mlのジエチルエーテルを加えて溶液から粗
生成物を沈殿させ、ろ過し、そして真空下で室温で3時間乾燥して、1.0g(
963%)のアミノ−メトキシ−PEG5000のスクシニミジルカルバメート
を得た。
滴下ロートとアルゴン風船の付いた100mlの三ツ首丸底フラスコに、10ml
のテトラヒドロフラン中の216mg(0.25ミリモル)のユビキノール(実施
例10に記載したように調製した還元CoQ10)を加えた。この溶液に15mg
(0.62ミリモル)の水素化ナトリウムを加えた。反応混合物を室温で5分間
攪拌し、次に氷浴を用いて0℃に冷やした。冷却した溶液に、5mlの無水テトラ
ヒドロフラン中の前述のように調製した500mg(0.10ミリモル)の
アミノ−メトキシ−PEGのスクシニミジルカルバメートを、滴下ロートで加え
た。反応混合物を0℃で20分間攪拌後、食塩水とTHF(各2ml)の混合液で
反応を停止させ、ロータリーエバポレーターで溶媒を留去した。粗生成物を50
mlのクロロホルムに取り、水で洗浄した(2×10ml)。有機物を無水硫酸マグ
ネシウムで乾燥し、ろ過し、ロータリーエバボレーターで濃縮し、真空下で室温
で8時間乾燥して0.57gの淡黄色固体を得た。
この粗生成物を2.5×28cmのフラッシュシリカカラムにのせ、クロロホル
ムを溶媒として溶出した。CoQ10と他の関連する不純物をクロロホルムで溶
出し、PEG化生成物をクロロホルム中50%メタノールで溶出して0.49g
の淡黄色固体を得た。
第2の精製工程で、上記クロマトグラフィー化物質を、2×26cmの逆相シリ
カゲルカラムにのせた。未反応のPEGおよび関連する不純物を70%メタノー
ル−水(1%酢酸)で溶出し、目的のモノ−PEG化CoQ10(「CoQ10
−カルバメート−PEG」と呼ぶ)を得て、100%メタノールで溶出した。精
製したCoQ10−カルバメート−PEGを収率40%で得た。実施例12 代表的ユビキノンプロドラッグ(CoQ2−エーテル−スルホネート)の合成
本実施例は、本発明の代表的ユビキノンプロドラッグ(CoQ2−エーテル−
スルホネート)の合成を示す。このユビキノンプロドラッグについて、ユビキノ
ンはCoQ2であり、可溶化残基はスルホネート基であり、電気的に中性な可溶
化残基および結合基はエーテルである。以下の方法は、エーテル結合基でユビキ
ノールに直接結合した可溶化残基を有するユビキノンプロドラッグを調製するた
めの一般的方法である。従って、この合成法は、本発明のユビキノン類および可
溶化残基に応用できる。
1.0g(3.12ミリモル)の還元CoQ2(実施例9に記載したように調
製した)と100mlの無水THFを含有する250mlの三ツ首丸底フラスコに、
160mg(6.7ミリモル)の水素化ナトリウムを加えた。気体の放出が止まる
まで室温で攪拌した後、反応混合物を氷浴で冷やし、0.75g(3.6ミリモ
ル)の2−ブロモエタンスルホン酸ナトリウム(アルドリッチケミカル社(Ald
rich Chemical Co.)、ミルォーキー、ウィスコンシン州)を加え、得られた
反応混合物を加熱還流した。反応の進行をHPLCで追跡した。出発物質のユビ
キノンが消費された後、反応混合物を室温に冷やし、真空下で溶媒を除去した。
粗生成物に50mlの水/5%酢酸溶液を攪拌しながら加えた。次に水性混合物を
ろ過し、1Mの塩化テトラメチルアンモニウムを加えた。次に粗生成物をジエチ
ルエーテルで抽出し、合わせた抽出物を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濃縮し
て乾固した。次に粗生成物をイオン交換クロマトグラフィーによりナトリウムイ
オン交換カラムから溶出して精製した。実施例13 代表的ユビキノンプロドラッグ(CoQ10−カーボネート−PEG)の合成
本実施例は、本発明の代表的ユビキノンプロドラッグの合成を示す。ここで、
ユビキノンはCoQ10であり、可溶化残基はポリエチレングリコールであり、
結合基はカーボネートである。以下の方法は、カーボネート結合基でユビキノー
ルに直接結合した可溶化残基を有するユビキノンプロドラッグを調製するための
一般的方法である。従って、この合成法は、本発明のユビキノン類および可溶化
残基に応用できる。
PEGのスクシニミジルカーボネートを適当な塩基(例えば水素化ナトリウム
)の存在下で適当な溶媒(例えばテトラヒドロフラン)中で還元補酵素Q10で
処理。
メトキシ−PEG−5000のスクシニミジルカーボネートは市販されており
(シアウォーターポリマー社(Shearwater Polymer Inc.)、フンツビル(Hu
ntsville)、アラバマ州)、メトキシ−PEGから合成できる(例えば、Mironと
Wilchek,Bioconjugate Chem. 4:568-569,1993;Greenwaldら、J.Org.Chem. 60
:331-336,1995)。同様に種々のサイズのメトキシ−PEGのスクシニミジル
カーボネートもこうして合成できる。溶解度は、前記実施例10に概説したよう
に確認できる。実施例14 代表的ユビキノンプロドラッグ(CoQ10−エステル−PEG)の合成
本実施例は、本発明の代表的ユビキノンプロドラッグの合成を示す。ここで、
ユビキノンはCoQ10であり、可溶化残基はポリエチレングリコールであり、
結合基はエステルである。以下の方法は、エステル結合基でユビキノールに直接
結合した可溶化残基を有するユビキノンプロドラッグを調製するための一般的方
法である。従って、この合成法は、本発明のユビキノン類および可溶化残基に応
用できる。
適当な塩基(例えばトリエチルアミンまたはピリジン)の存在下で適当な溶媒
(例えばテトラヒドロフラン)中で、種々のサイズ、主にPEG−5000、P
EG−2000、PEG−750、およびPEG350のメトキシ−PEG−ス
クシンイミドのN−ヒドロキシスクシニミジル活性エステル(PEGのNHSエ
ステル)で還元補酵素CoQ10の処理。溶解度は、前記実施例10に概説した
ように確認できる。
メトキシ−PEG−スクシンイミドのN−ヒドロキシスクシニミジル活性エス
テルは市販されており(シアウォーターポリマー社(Shearwater Polymer Inc
.)、フンツビル(Huntsville)、アラバマ州)、実施例11に記載したように
調製したアミノメトキシ−PEGから文献の方法に従って合成される(例えば、
MironとWilchek,Bioconjugate Chem. 4: 568-569,1993;Greenwaldら、J. Org.Chem.60
: 331-336,1995)。実施例15 代表的なユビキノンプロドラッグおよびユビキノン送達組成物の投与後のCoQ 10のバイオアベイラビリティ
本実施例は、本発明の代表的なユビキノンプロドラッグおよびユビキノン送達
組成物の投与後のCoQ10のバイオアベイラビリティを説明する。本実施例に
おいて、1mgのCoQ10の有効当量を、(1)実施例3に記載したように調製
したCoQ10および水溶性コレステロールを含む代表的なユビキノン送達組成
物;および代表的なユビキノンプロドラッグ、(2)実施例11に記載したよ
うに調製したCoQ10−カルバメート−PEG、(3)実施例10に記載した
ように調製したCoQ10−エーテル−PEG、および(4)実施例10に記載
したように調製したCoQ10−(エーテル−PEG)2の、無菌PBS溶液の
腹腔内注射によりラットに投与した。
腹腔内注射の24時間後の組織におけるCoQ10のバイオアベイラビリティ
を、表10(値は2匹のラットの平均CoQ10レベルを表す)および図6に要
約する。CoQ10レベルは、実施例3に記載した方法により測定した。
結果は、投与した各ユビキノン組成物およびプロドラッグのCoQ10の血漿
レベルの有意な上昇を示す。このデータは、ラットが、投与されたプロドラッグ
を有効に異化して、こうして生成されるCoQ10を代謝の必要性に応じて利用
可能にすることができることを示している。実施例16 代表的ユビキノンプロドラッグの調製のための製造方法
本実施例は、本発明の水溶性ユビキノンプロドラッグの調製のための製造方法
を説明する。ユビキノンプロドラッグは、上記実施例に提示した方法を含む種々
の方法により調製することができると考えられるが、下記製造方法では、ユビキ
ノン出発物質とプロドラッグ生成物の溶解度の違いを利用して、プロドラッグ生
成物の分離および単離が行われる。一般に、ユビキノン(これらの対応するユビ
キノールを含む)は非常に水に溶けにくい。これとは対照的に、ユビキノンプロ
ドラッグは非常に水に溶けやすい。
ユビキノンからユビキノンプロドラッグを調製するための製造方法は、少なく
とも2工程を含む。第1工程において、ユビキノンはそのユビキノールに還元さ
れ(例えば、実施例9を参照)、そして第2工程において、適度に反応性の可溶
化残基をユビキノールにカップリングして、プロドラッグ生成物を形成する(例
えば、実施例10〜14を参照)。この方法は、還元およびカップリング工程の
ための有機溶媒の使用を含む。限定量の適度に反応性の可溶化残基の使用により
、
カップリング反応は基本的に全ての可溶化残基を消費するため、変換されなかっ
たユビキノールは反応混合物中に残る。これらの条件下で、反応混合物は未反応
のユビキノール(またはその酸化生成物のユビキノン)および水溶性プロドラッ
グを含有する。しかし、限定量の適度に反応性の可溶化残基の使用は必須ではな
い。
1つの実施態様において、製造方法は、ろ過工程であり、そして反応混合物の
水不溶性有機残渣からプロドラッグ水溶液をろ過により分離することを含む。別
の実施態様において、製造方法は、抽出工程であり、そして反応混合物からの水
溶性プロドラッグ生成物の抽出を含む。
ろ過工程によるユビキノンプロドラッグの単離は、反応混合物から、例えば、
留去により有機溶媒を除去して、反応混合物残渣を得て;水のような水性溶媒を
反応混合物残渣に加えて、生成物のプロドラッグを溶解し、そしてプロドラッグ
水溶液、ならびに未反応のユビキノールおよびユビキノンを含む水不溶性有機残
渣を含む不均一な生成物溶液を得て;この不均一な生成物溶液をろ過して、水不
溶性有機残渣からプロドラッグ水溶液を分離し;そしてプロドラッグ生成物水溶
液を乾固するまで濃縮して、プロドラッグ生成物を得る工程を含む。
抽出工程によるユビキノンプロドラッグの単離は、水性溶媒を加えて、プロド
ラッグ水溶液、および未反応のユビキノールおよびユビキノンを含む水混和性有
機溶液を含む二相性溶液を得て;プロドラッグ水溶液と水混和性有機溶液を分離
し;そしてプロドラッグ生成物水溶液を乾固するまで濃縮して、プロドラッグ生
成物を得る工程を含む。二相性溶液の生成を達成するために、抽出工程は更に、
ヘキサンまたはジエチルエーテルのような水混和性有機溶媒を添加する工程を含
んでもよい。実施例17 霊長類の脳卒中に対するCoQ10の評価
本実施例は、霊長類の脳卒中に対して使用されるCoQ10を評価する。これ
らの試験で、全脳または前脳虚血は、頚動脈の外科的閉塞法(Senguptaら,J. Neurol.Neurosurg.Psvchiatry
36: 736-741,1973)を使用して、または頚動
脈
と椎骨動脈の4血管閉塞法(Wolinら,Resuscitation 1: 39-44,1992)を使用し
て、局所麻酔した霊長類に誘導する。これらの方法のいずれも、無防備なニュー
ロン集団に選択的に限定された傷害を与える全前脳虚血をもたらす。この虚血成
熟が発生する経時変化は、虚血の持続時間とニューロン集団の感受性により、数
時間〜数日間であろう。虚血感受性ニューロンの例としては、新皮質中層中の、
海馬CA1錐体ニューロン、小脳プルキンエ細胞、中または小サイズの線条体ニ
ューロン、および錐体ニューロンがある。
脳卒中の誘導後、水溶性ユビキノンプロドラッグまたはユビキノン送達組成物
は、50〜200mg/mlの濃度範囲で溶液に可溶化され、種々の時点(例えば、
0、30、60、120、240、および480分)で単回または多数回注射の
いずれかで静脈内投与される。動物は、50〜300mgの範囲で、種々の用量の
ユビキノンの投与を受ける。比較試験の目的で、賦形剤対照にも投与される。麻
酔からの回復後、動物の運動活性および行動活性について検討する。さらに、記
憶および新規タスクを覚える能力は、霊長類の種に特異的な方法を使用して評価
する。「脳卒中」の誘導の12時間〜6日間後、動物を屠殺し、アポトーシスに
より規定される虚血傷害に感受性の脳の領域を組織学的方法を使用して調製する
。次に組織を顕微鏡下で虚血傷害について検査する。ユビキノンの防御作用の効
力は、行動および霊長類のニューロン組織の組織変化の両方に基づく。
例示目的で本発明の具体的な実施態様を記載したが、本発明の精神と範囲から
逸脱することなこれらのく種々の変更をなしうることが明らかであろう。
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フロントページの続き
(31)優先権主張番号 08/484,213
(32)優先日 1995年6月7日
(33)優先権主張国 米国(US)
(31)優先権主張番号 08/484,718
(32)優先日 1995年6月7日
(33)優先権主張国 米国(US)
(31)優先権主張番号 08/485,450
(32)優先日 1995年6月7日
(33)優先権主張国 米国(US)
(31)優先権主張番号 08/486,973
(32)優先日 1995年6月7日
(33)優先権主張国 米国(US)
(31)優先権主張番号 08/488,400
(32)優先日 1995年6月7日
(33)優先権主張国 米国(US)
(81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE,
DK,ES,FR,GB,GR,IE,IT,LU,M
C,NL,PT,SE),OA(BF,BJ,CF,CG
,CI,CM,GA,GN,ML,MR,NE,SN,
TD,TG),AP(KE,LS,MW,SD,SZ,U
G),AL,AM,AT,AU,BB,BG,BR,B
Y,CA,CH,CN,CZ,DE,DK,EE,ES
,FI,GB,GE,HU,IS,JP,KE,KG,
KP,KR,KZ,LK,LR,LT,LU,LV,M
D,MG,MK,MN,MW,MX,NO,NZ,PL
,PT,RO,RU,SD,SE,SG,SI,SK,
TJ,TM,TT,UA,UG,US,UZ,VN
(71)出願人 ナショナル・リサーチ・カウンセル・オ
ブ・カナダ
カナダ国、ケー1エー・オーアール6、オ
タワ、モントリオール・ロード(番地な
し)、ビルディング エム−58
(72)発明者 モーガン・ジュニア、 エー・チャールズ
アメリカ合衆国、ワシントン州 98020、
エドモンズ、ドリフトウッド・プレイス
803
(72)発明者 グレイブズ、 スコット・エス
アメリカ合衆国、ワシントン州 98272、
モンロー、ワンハンドレッドセブンティー
ファースト・アベニュー・エス・イー −
23302
(72)発明者 ウッドハウス、 クライブ・エス
アメリカ合衆国、ワシントン州 98116、
シアトル、フィフティーシックスス・アベ
ニュー・エス・ダブリュ − 4625
(72)発明者 シコルスカ、 マリアンナ
カナダ国、ケー4ビー・1エイチ3、オン
タリオ、ナバン、コロンボ・コート 3335
(72)発明者 ウォーカー、 ロイ
カナダ国、ケー4ビー・1エイチ3、オン
タリオ、ナバン、コロンボ・コート 3335
(72)発明者 ウィルバー、 ディー・スコット
アメリカ合衆国、ワシントン州 98026、
エドモンズ、ワンハンドレッドサーティセ
ブンス・プレイス・エス・ダブリュ −
6015
(72)発明者 ボロウイ − ボロウスキー、 ヘンリク
カナダ国、ケー1ケー・3ワイ3、オンタ
リオ、オタワ、バスゲート・ドライブ
2706−641
【要約の続き】