【発明の詳細な説明】
標識ヌクレオシド三リン酸を安定化する方法及び組成物
発明の背景 発明の分野
一般的に、本発明の分野は標識ヌクレオシド三リン酸の安定化された調製剤で
ある。より詳細には、本発明の分野は、クエン酸塩、イソクエン酸塩、EGTA
、EDTA及び/またはCDTAを含む緩衝液中で保存される標識ヌクレオシド
三リン酸である。技術の背景
DNA配列決定は一般にサンガー(Sanger)らの方法(Proc.Natl.Acad.Sci.U
SA.74巻、1977、5463−5467ページ)によって行われ、1本鎖ま
たは2本鎖DNA鋳型から出発する1本鎖DNAの in vitro 酵素的合成を含む
。配列決定プロトコルの最初の実施態様では、最初に、通常は15〜30塩基長
を有する合成オリゴヌクレオチドのプライマーが、配列決定すべき1本鎖DNA
の鋳型上の相補的配列にアニーリングされた。上記論文、及びここに言及するそ
の他すべての論文及び特許の開示は、ここに参照してその記載を明細書の一部と
なす。
このプライマーの3’末端を、大腸菌(E.coli)DNAポリメラーゼI
のクレノウフラグメントによって、2’−デオキシヌクレオシド5’−三リン酸
(dNTP)類(このうちの1つは放射性標識を含む)の存在下で伸長させた。
4つの配列決定反応を別々に行い、その各々は、4種類すべてのdNTP(2’
−デオキシアデノシン5’−三リン酸(dATP)、2’−デオキシシチジン5
’−三リン酸(dCTP)、2’−デオキシグアノシン5’−三リン酸(dGT
P)、及び2’−デオキシチミジン5’−三リン酸(dTTP))と、1つの少
量の特異的2’,3’−ジデオキシヌクレオシド5’−三リン酸鎖終結剤(dd
ATP、ddCTP、ddGTP、もしくはddTTPのいずれか;または一般
にddNTP)を含む緩衝化反応であった。
特定の反応における特異的鎖終結ddNTPのそのdNTP同族体に対する比
率を変えることによって、ポリメラーゼは、特異的ddNTPのDNA鋳型に沿
ったすべての可能な位置(ここに対応するdNTPが挿入されるであろう)で置
換されたフラグメントの集団を生成した。一段階標識化及びターミネーション工
程が完了すると直ぐ、過剰量の4種類すべてのdNTP類を各反応に加え、特異
的ddNTPによって止まらず、より高分子量のDNAになろうとするすべての
フラグメントを“追いかけた(chase)”。4つの別々の反応の生成物は、その
後、高分解能変性ポリアクリルアミドゲル装置上の隣接レーンで分画化される。
分離したDNAフラグメントを可視化するためには、そのゲルをX線フィルムに
さらし、その後そのフィルムを現像した。オートラジオグラム上の各バンドは、
プライマーから5’(オートラジオグラムの底)から3’(オートラジオグラム
の頂点)への方向のDNA鋳型の配列におけるその特異的相補的ヌクレオチド塩
基に対応する。
1987年にテイバー及びリチャードソン(Tabor,S.及びC.C.Richardson,Pr
oc.Natl.Acad.Sci.USA.84巻、1987年、4767〜4771ページ)は、
ターミネーション工程から標識化を分離した、T7 DNAポリメラーゼを使用す
る基本的サンガー・プロト
コルの変法を記載した。T7 DNAポリメラーゼ及び4種類すべてのdNTP(
その1つは放射性標識されていた)の限定量を、アニールした鋳型及びプライマ
ーに加えた。部分最適重合温度(室温)における短時間の温置工程中に、ポリメ
ラーゼは100〜数百のdNTPをプライマーの3’−末端に付加し、その間放
射性標識dNTPも伸長したフラグメントのすべてに挿入された。標識工程の終
わりに、その混合物を等分して4つの別々のターミネーション反応に用いた。各
ターミネーション反応は非制限的濃度の4種類すべてのdNTP及び1つの特異
的ddNTPを含んでいた。ポリメラーゼの最適重合温度(37℃)で行った第
2の短い温置工程後、サンガープロトコルに概略記載されている方法で、DNA
フラグメントの検出が行われた。上記の放射性標識配列決定プロトコルのどちら
でも、最終的プロセスは、オートラジオグラムを読んで、規則正しいDNA配列
を生成し、その後、手動でこの配列をデータベースにエントリーし、その後操作
することを含んだ。
マレイ(Murray,V.Nucl.Acids Res.17巻、1989年、8889ページ)は
、DNAフラグメントのddNTPターミネーションを用いて、DNA鋳型から
配列を生成する新規な方法を記載した。マレイは種々のポリメラーゼ連鎖反応を
用い(Mullis,K.B.ら、Cold Spring Harbor Symp.Quant.Biol.51巻、198
6年、263〜273ページ;Saiki,R.K.ら、Science 230巻、1985年、
1350〜1354)、“サイクル配列決定”と名付けた。サイクル配列決定法
は、少量の鋳型DNAを過剰のプライマー、dNTP類、放射性標識dNTP、
ddNTP類及び熱安定性DNAポリメラーゼと組み合わせて用いる。その混合
物は熱サイクルを20〜3
0サイクル受ける。各サイクルは変性、アニーリング及び重合工程からなる。変
性温度は典型的には94℃〜95℃、一方アニーリング温度は、プライマー、及
びDNA鋳型上のその相補的配列の間の融点(通常は37℃〜72℃)に従って
計算される。重合温度は反応に用いる熱安定性ポリメラーゼに最適であるように
選ぶ。完了したサイクル配列決定反応の処理は、上記の他の2つの方法と同じく
、ゲル電気泳動、データ・エントリー及び操作を含む。
1980年代中頃以降、自動DNA配列決定機器類は、上記の放射性標識法を
含むゲル電気泳動、データ収集、配列作成及びデータエントリー工程を自動化し
た。これらの自動機器は、レーザーで励起したときに光子エネルギーを放出する
ある種の色素を利用し、個別のDNAフラグメントを検出するために放射能を使
用する必要がない。これらの機器はすべて、標識DNAフラグメントを分離する
ための高分解能ポリアクリルアミドゲル装置を含む。各機器はその底部近くにゲ
ルの長さを横切る点に或る形の検出装置を含み、電気泳動中に蛍光標識フラグメ
ントが移動するとき、それらを検出する。
現在、市販の自動機器類は、次の検出技術に基づくものである:
(1)ゲルの分離したレーンで行われ検出される配列決定反応の単独蛍光標識プ
ライマーまたはdNTP類(Ansorge,W.,ら、Nucl.Acids Res.15巻、198
7年、4593〜4602ページ)、(2)4種類の別々のフッ素で標識したプ
ライマー(スミス(Smith,L.)ら、Nucl.Acids Res.13巻、1985年、23
99〜2412ページ;スミスら,Nature 321巻、674〜679ページ)、
この場合は4つの全ての反応物をゲル上の1つのレーンを移動させ
、検出することができる、または(3)(2)のやり方と同じであるが、標識プ
ライマーのための4種類の異なる蛍光標識ddNTP類で置き換える点で異なる
方法(プロバー(Prober,J.)ら、Science 238巻、1987年、336〜
341ページ)。
自動レーザー蛍光(ALF)DNAシークエンサーTM(Pharmacia Biotech In
c.)で用いる配列決定反応は、配列データの生成及び収集のためにプライマーま
たはdNTP分子かどちらかに付着結合した単一の蛍光標識を含む。蛍光標識プ
ライマーを反応に用いるとき、先に基本的に述べたように、T7 DNAポリメラ
ーゼとサイクル配列決定とを両方用いる方法によって配列が生成される。両方法
とも、放射性標識dNTPに代わる標識プライマーを用いて使用するように容易
に適応できる。それに加えて、T7 反応は、プライマーの伸長(標識化)及びタ
ーミネーションの両方を単一の工程で行うように若干変更することができ(ボス
(Voss,H.)ら、Meth.Mol.& Cell.Biol.,1巻、1989年、155〜159ペ
ージ)、非特異的終止フラグメントを除去するために追いかける工程が必要ない
。フルオレッセイン−12−dUTP(2’−デオキシウリジン5’−三リン酸
)またはフルオレッセイン−15−dATPのどちらかを非標識プライマーと組
み合わせて用いてフラグメントの内部を標識することもできる(それぞれ、ボス
ら、Meth.Mol.& Cell.Biol.,3巻、1992年、30〜34ページ;ボスら、M
eth.Mol.&Cell.Biol.,3巻、1992年、153〜155ページ)。現在では
ALF DNAシークエンサーTM(Pharmacia Biotech Inc.)とともに使用す
るための上記の配列決定法のすべてに使用できる市販品がある。
T7 DNAポリメラーゼとともに用いるためのフルオレッセイン−15−dA
TP(図1)を含む市販の標識ミックス(フルオロ−dATP標識ミックス;Ph
armacia Biotech Inc.)は、その配列中のデータコレクション40〜50塩基に
重大な影響を与える蛍光性分解生成物を含んでいた(図2)。この蛍光性分解生
成物は配列データの5〜7塩基を規則的に不明瞭にし、この配列決定法を用いる
研究者は失われた配列を得るために余分の時間、労力及び経費を消費しなければ
ならなかった。
歴史的にdNTP類の安定性及び純度と関連するいくつかの問題がある。それ
らの合成中、出発材料の純度が、糖部分の酸化状態に関して(すなわちD−リボ
ース、2’−デオキシ−D−リボース及び2’,3’−ジデオキシ−D−リボー
スの汚染混合物)重大であった(P-L Analects、P-L Biochemicals,Inc.9巻、
4号、1981年、1及び4ページ)。それに加えて、合成し、精製したdNT
P類の保存は、−76℃で固体状であった。しかし、凍結乾燥したdNTP類の
保存は、その固体を放置して室温にまで温める場合、なお不安定であった。高度
に精製した凍結乾燥dNTP類は不均化(disproportionation)を受けやすく、
室温に保持するときには1日に1%〜2%の二リン酸塩が生じ(P-L Analects,
P-L Biochemicals,Inc.9巻、4号、1981年、1及び4ページ)、または溶
液中で−20℃で保存するときには6カ月以内に4%〜10%の範囲の分解を示
した(Boehringer Mannheim Corp.,1993年カタログ、72ページ)。
今では、溶液中のdNTP類は凍結乾燥形ほど不均化を受けないし(濃度依存
性反応)、−20℃で長期保存した場合もより安定で
あることが確認されている(30カ月も保存した後でさえ、>99%の三リン酸
がある;Analects,Pharmacia Biotech Inc.22巻、1号、1993年、8ペー
ジ)。1980年代の初期の非同位元素標識dNTP類の出現時には安定性はま
だ問題にならなかった(ランガー(Langer,P.R.)ら、Proc.Natl.Acad.Sci.US
A78巻、1981年、6633〜6637ページ)。これらの化合物を使用す
る反応のタイプは、最終生成物(例えばハイブリダイゼーション)の可視化前に
或る形の精製または洗浄工程を含むのが普通であった。配列決定反応における自
動的可視化のために、1990年代初期に蛍光標識dNTP類が使用されるよう
になって、始めてdNTP溶液の安定性が重要になった。
DNA配列決定の技術に必要とされるのは、標識ヌクレオシド三リン酸を安定
化し、希溶液で保存するときに、配列決定フラグメントの検出に有害である分解
生成物の生成を防ぐことができる方法である。
発明の要約
我々は、驚くべき安定性を示し、先行技術の有害な分解生成物を回避する標識
ヌクレオシド三リン酸の調製剤を見い出した。標識ヌクレオチドの安定化された
調製剤の一つの形態は、1×10-11〜1×10-2のMg2+会合定数及び少なく
とも5mMの濃度を有する少なくとも1つの化合物を含んでなる。
標識ヌクレオチドは好ましくは式PM−SM−BASE−SIGを有し、式中
、PMはリン酸塩部分であり、SMは糖部分であり、BASEはピリミジン、プ
リンまたは7−デアザプリン部分であり、ヌクレオチドがデオキシリボヌクレオ
チドであるときはPMはS
Mの3’または5’位置に及びヌクレオチドがリボヌクレオチドであるときは2
’、3’または5’位置に付着結合し、BASEがピリミジンであるときはBA
SEはN1位置からSMの1’位置に又はBASEがプリンもしくは7−デアザ
プリンであるときはN9位置に付着結合し、SIGはBASEに共有的に付着結
合し、および式中SIGは検出可能な部分を表わす。
好ましくは、前記少なくとも1つの化合物は、クエン酸塩、イソクエン酸塩、
リン酸塩、EGTA、EDTA、及びCDTAからなる群から選択される。
SIGは好ましくは発蛍光団、発色団、及び放射性標識からなる群から選択さ
れる。SIGはフルオレッセイン類、カルボシアニン類及びローダミン類からな
る群から選択するのがより好ましい。
SIGはフルオレッセインであってもよい、したがって標識ヌクレオチドはフ
ルオレッセイン標識dATPであってもよい。
SIGはカルボシアニンであってもよい、したがって標識ヌクレオチドはカル
ボシアニン標識dATPであってもよい。
標識ヌクレオチドは少なくとも1つのヌクレオシドに共有的に付着結合できる
。
前記化合物は好ましくはカルボン酸、または少なくとも1つのカルボン酸基を
有する化合物である。
本発明の別の形態は、標識ヌクレオチドに、その化合物の最終濃度が少なくと
も5mMとなるように1×10-11〜1×10-2のMg2+会合定数を有する少な
くとも1つの化合物を加える工程を含んでなる標識ヌクレオチドを安定化する方
法を提供する。その方法は、成分から最初に発熱物質(pyrogen)を除去する工程
をさらに含む
のが好ましい。ろ過を用いて発熱物質を除去するのが好ましい。
本発明の別の形態は、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、または逆転
写酵素の存在下で調製剤を温置することを含んでなる前記調製剤の使用方法を提
供する。
別の面では、標識ヌクレオチドはフルオレッセイン−15−dATPである。
この面では、F−dATPストック溶液(保存溶液)のための最も好ましいから
最も少なく好ましい緩衝液は、順に、EGTA>クエン酸塩pH7.7=EDT
A=CDTA=イソクエン酸塩pH7.7>イソクエン酸塩pH6.4=クエン
酸塩pH6.6>リン酸塩>dH2Oであり、他方、希F−dATP標識ミック
ス(labelling mix)のための最も好ましいから最も少なく好ましい緩衝液は、ク
エン酸塩pH7.7=EGTA=イソクエン酸塩pH7.7>CDTA>クエン
酸塩pH6.6>EDTA>イソクエン酸塩pH6.4>リン酸塩>dH2Oで
ある。
また別の面では、標識ヌクレオチドはカルボシアニン−13−dATPである
。この面では、カルボシアニン−dATPストック溶液のための最も好ましいか
ら最も少なく好ましい緩衝液は、CDTA>EGTA>EDTA=イソクエン酸
塩pH6.4>リン酸塩>イソクエン酸塩pH7.7>クエン酸塩pH7.7>
クエン酸塩pH6.6>dH2Oであり、他方、希カルボシアニン−dATP標
識ミックスのための最も好ましいから最も少なく好ましい緩衝液は、EDTA>
イソクエン酸塩pH7.7>イソクエン酸塩pH6.4>CDTA=クエン酸塩
pH7.7=クエン酸塩pH6.6>EGTA>リン酸塩>dH2Oである。上
記の各調製剤における緩衝液の濃度は少なくとも5mM、好ましくは少なくとも
50mMであ
る。
したがって本発明の目的は、上記の種類の標識ヌクレオチドの調製剤であって
、
(a)DNA配列決定を妨害する有害な分解生成物を回避し;
(b)PCR中、標識dNTP類を安定化し;
(c)PCR中、標識プライマーを安定化し;
(d)凍結乾燥中、dNTP類を安定化し;そして
(e)標識分子の脱プリン化を防ぐ
調製剤を提供することを含む。
本発明のこれらの及びその他の目的及び利点は下記の説明から明らかになるで
あろう。しかしこの説明は好ましい実施態様のためのみのものである。そこで本
発明の範囲全体を評価するためには請求の範囲が見られるべきである。
図面の簡単な説明
図1は、フルオレッセイン−15−dATPの構造を示す。
図2は、配列データを不明瞭にするフルオレッセイン−15−dATPの脱プ
リン生成物を示す。
図3は、Cy5TM−13−dATPの構造を示す。
図4は、50mMクエン酸塩、pH7.7、中で安定化したF−dATPを用
いた配列決定結果を示す。
発明の詳細な説明
一面において、本発明は、溶液として保存中のフルオレッセイン−15−dA
TP(F−dATP)を安定化し、分子の脱プリン化
を防ぐ方法を開示する。この安定化方法はT7 配列決定反応に容易に組み込まれ
、ポリメラーゼの配列データ生成能力に有害な影響を与えるようにはみえない。
また別の実施態様において、本発明は、T7 配列決定反応に他の市販の自動D
NA配列決定機器、ALFredTMDNAシークエンサー(Pharmacia Biotech
Inc.)とともに用いるCy5TM−13−dATP含有溶液(Biological Detecti
on Systems,Inc.)を保存するための方法及び組成物である。本発明は、PCR
反応中に使用する標識dNTP、標識プライマー、凍結乾燥中の標識dNTP類
、標識ddNTP類、及びrNTP類の安定化のためにも有用である。
例
下記の例は説明のためのものであり、制限するものではない。
温度はすべて摂氏度である(25°が周囲温度または室温である)。下記の略
語を用いる:EGTA(エチレングリコール−ビス−(β−アミノ−エチル エ
ーテル)N,N,N’,N’−四酢酸);EDTA(エチレンジアミン四酢酸)
;CDTA(トランス−1,2−ジアミノシクロヘキサン−N,N,N’,N’
−四酢酸);dH2O(滅菌蒸留水);mM(ミリモル);μM(マイクロモル
);F−dATP(フルオレッセイン−15−dATP);FPL
。
Mg2+会合定数(安定度定数)とは、次の文献中で定義され、求められたもの
を意味する:シレン(L.G.Sillen)ら編、金属イオン 錯体の安定度定数
(1964年)、Special Pub.17巻、The Chemical Sosiety
、ロンドン;シレンら編、金属イオン錯体の安定度定数、増補1巻(1971年
)、Special Pub.25巻、The Chemical Sosiety、ロンドン;ペリン(D.D.Per
rin)編、金属- イオン錯体の安定度定数:有機リガンド(1979年)、Perga
mon Press、オックスフォード;ロソッティ(F.Rossotti)ら著、安定度定数の 決定
、マグローヒル、ニューヨーク(1961年);及び生化学研究データ、第
3版(1986年)、ドーソン(R.Dawson)ら編、Clarendon Press、オックス
フォード。
クエン酸塩ではMg2+会合定数は1×10-3.6であり、イソクエン酸塩では1
×10-2.6、CDTAでは1×10-11、EDTAでは1×10-8.7、EGTA
では1×10-5.2である。検出可能な部分とは、例えば、蛍光を発するすべての
部分、ビオチン、放射性標識、磁気標識、抗体などを意味する。蛍光を発する部
分とは、例えば、発蛍光団及び発色団を意味する。安定調製剤のための好ましい
化合物は、少なくとも1つのカルボン酸基をもつものである。
例1、2、4、5、及び6における種々の試料の電気泳動プロットは、混入(
不均化及び脱プリン化)ピークの巾及び高さを基準にして“+”印(または“−
”印もありうる)を割り当てることによって定性的及び比較的に分析した。各“
+”はより大きい程度の安定性を意味する。安定性は、ここでは−20℃で保持
される溶液に比較したものを意味する。すべての緩衝液は、任意に3個の“+”
(+++)の価を与えたクエン酸塩pH7.7中の標識ヌクレオチドの安定性と
比較した。
例 1
下記の表1に示すように、F−dATPのストック溶液を、表中の緩衝液で、
指示されたpH及び濃度で調製した。各F−dATPストックからとったアリコ
ートを+50°で3日間保存した;同じアリコートを−20°でも3日間保存し
た。この期間の終わりに、各アリコートを適当な緩衝液またはdH2Oを用いて
0.3μMに希釈した。50°での保存は促進安定度テストであることを意味す
る。
それから希釈試料の7μlを色素担持ゲル5μl(ブルーデキストラン200
0、5mg/mlを含む〜100%脱イオン化ホルムアミド)と混合し、生成し
た溶液8μlを配列決定ゲルのウェルに入れた。自動レーザー蛍光(ALF)D
NAシークエンサーTMを用いて試料の電気泳動を行った。これらの各溶液の電気
泳動からのプロットを評価し、下記の表1に列挙した。
これらの結果は、次に示す緩衝液の効果を示す:EGTA>クエン酸塩pH7
.7=EDTA=CDTA=イソクエン酸塩pH7.7>イソクエン酸塩pH6
.4=クエン酸塩pH6.6>リン酸塩>dH2O。
例 2
例1からのF−dATP保存溶液(−20℃で保存)の各々を希釈し、下記の
処方により、T7 DNAポリメラーゼとともに使用する標識ミックスを調製した
:
成分 濃度
F−dATP 10.0μM
dCTP 1.0μM
dGTP 1.0μM
dTTP 1.0μM
適切な緩衝液 50 mM
dH2Oを用いた場合以外は、F−dATPの濃ストックを調製するために用
いた同一の緩衝液を用いて標識ミックスを調製した。標識ミックスのアリコート
も+50°または−20℃で3日間温置した(例1のように)。温置期間後、適
切な緩衝液またはdH2Oを用いて標識ミックスを1:31に希釈した。希釈標
識ミックス7
μlを、その後、色素担持ゲル5μlと混合し、生成溶液8μlを適切な配列決
定ゲルのウェルに入れた。これらの溶液の各々の電気泳動からのプロットは次に
示す緩衝液の効果を示す:クエン酸塩pH7.7=EGTA=イソクエン酸塩p
H7.7>CDTA>クエン酸塩pH6.6>EDTA>イソクエン酸塩pH6
.4>リン酸塩>dH2O。加えて、標識ミックスの各々を用いてT7 DNAポ
リメラーゼ、AutoReadTM配列決定キット(Pharmacia Biotech Inc.)、
非標識プライマー、及びDNA鋳型としてのM13mp18(+)ストランドで
DNA配列を生成した。DNA配列決定反応の結果は上記の電気泳動プロットの
結果を反映する。
結果を下記の表2にまとめた。
例 3
dATP、dCTP、dGTP及びdTTPの100mMストックを、次のよ
うな異なるpHの1Mクエン酸塩ストックを用いて90mMに希釈した:pH4
.5、pH6.5、またはpH7.5。
すべての希釈液においてクエン酸塩の最終濃度は100mMであった。すべての
試料を、−40°〜+16°の温度勾配を用いて20時間にわたり凍結乾燥した
。乾燥すると直ぐ、試料のすべてをdH
て、pH7.5で塩化ナトリウム勾配で分析した。凍結乾燥したdNTP類と不
均化生成物との統合した数値を下記の表3にまとめる。
これらの結果は、凍結乾燥プロセス中、これらの溶液が不均化生成物に対して
良い安定性を維持することを示す。
例 4
下記の表4に示すように、Cy5TM−dATPのストック溶液を表に示す緩衝
液で、指示されたpH及び濃度で調製した。加えて、この試料に用いる適切な緩
衝液またはdH2Oも、分子カットオフ10,000dを有する膜(Centriprep-
10TM,Amicon,Inc.)を通してろ過した。
各Cy5TM−dATPストックからのアリコートを+50°または−20°で
3日間保存した(例1のように)。この期間の終わり
に、各アリコートを適切な緩衝液またはdH2Oを用いて0.3μMに希釈した
。希釈試料7μlを、その後、色素担持ゲル5μlと混合し、生成した溶液8μ
lを配列決定ゲルのウェルに入れた。その試料をALFredTMDNAシークエ
ンサー(Pharmacia Biotech Inc.)を用いて電気泳動した。これらの溶液の各々
の電気泳動からのプロットを分析し、下記の表4に列挙した。
これらの結果は、次の緩衝液の効果を示す:CDTA>EGTA>EDTA=
イソクエン酸塩pH6.4>リン酸塩>イソクエン酸塩pH7.7>クエン酸塩
pH7.7>クエン酸塩pH6.6>dH2O。
例 5
例4からのCy5TM−dATPストック溶液(−20℃で保存したもの)をそ
れぞれ希釈して、下記の処方により、T7 DNAポリメラーゼとともに用いるた
めの標識ミックスを調製した:
成分 濃度
Cy5−dATP 10.0μM
dCTP 1.0μM
dGTP 1.0μM
dTTP 1.0μM
適切な緩衝液 50 mM
dH2Oを用いた場合を除き、Cy5TM−dATPの濃ストックを調製するた
めに用いた同じ緩衝液を用いて、標識ミックスを調製した。標識ミックスのアリ
コートを+50°または−20℃で3日間温置した(例1と同様)。温置期間後
、標識ミックスを適切な緩衝液またはdH2Oを用いて1:31に希釈した。希
釈した標識ミックス7μlを、その後、色素担持ゲル5μlと混合し、生成した
溶液8μlを配列決定ゲルのウェルに入れた。これらの溶液の各々の電気泳動か
らのプロットを分析し、次の緩衝液の効果を示す:EDTA>イソクエン酸塩p
H7.7>イソクエン酸塩pH6.4=CDTA=クエン酸塩pH7.7=クエ
ン酸塩pH6.6>EGTA>リン酸塩>dH2O。加えて、標識ミックスの各
々を用いて、T7 DNAポリメラーゼ、ALFredTMAutoReadTM配列
決定キット(Pharmacia Biotech Inc.)、非標識プライマー、及びDNA鋳型と
してのM13mp18(+)ストランドでDNA配列を生成した。DNA配列決
定反応結果は、上記の電気泳動プロットの結果を反映している。
結果を表5にまとめた。
例 6
Cy5TM−標識M13ユニバーサルプライマー(5’−Cy5−CGA CG
T TGT AAA ACG ACG GCC AGT−3’−OH)を、ろ過
した(10,000MWカットオフ)dH2O、またはろ過した10mMイソク
エン酸塩、pH6.6、中に3μMの濃度で再懸濁した。各溶液のアリコートを
−20°または+50°で17日間保存した(例1のように)。各プライマーの
試料をdH2Oまたは10mMイソクエン酸塩、pH6.6、で1:15に適切
に希釈し、それから、2μlプライマー+5μldH2O+5μlストップ(Sto
p)溶液の比率で、ストップ溶液と混合した。各溶液から8μlを装填し、AL
FredTMDNAシークエンサーを用いて電気泳動した。さらに、各プライマー
溶液2μlを、ALFredTMAutoReadTM配列決定キット、鋳型として
のM13mp18(+)ストランド、及びALFredTMDNAシークエンサー
を用いるT7 配列決定反応に直接用いた。これらのALFredTM工程からの結
果を分析し、イソクエン酸塩pH6.6緩衝液が安定化剤として作用したことを
示す(下記表6に示すように)。
【手続補正書】
【提出日】1997年8月13日
【補正内容】
(1)請求の範囲の記載を別紙の通り補正します。
(2)明細書5頁5行及び23行の「DNAシークエンサーTM」を「DNAシー
クエンサー」に補正します。
(3)同書10頁18行の「Cy5TM」を「カルボシアニン」に補正します。
(4)同書11頁5行の「ALFredTMDNA」を「ALFRED DNA」
に補正します。
(5)同書同頁6〜7行の「Cy5TM−13−dATP」を「CY5−13−d
ATP(カルボシアニン−13−dATP)」に補正します。
(7)同書13頁12行の「DNAシークエンサーTM」を「DNAシークエンサ
ー」に補正します。
(8)同書15頁7行「AutoReadTM」を「AUTOREAD」に補正し
ます。
るFPLC」に補正します。
(10)同書同頁下から7行及び下から2行の「Cy5TM」を「CY5」に補正
します。
(11)同書同頁下から4行の「Centriprep-10TM」を「CENTRIPREP-10」に補正しま
す。
(12)同書17頁4行の「ALredTMDNA」を「ALFRED DNA」
に補正します。
(13)同書同頁表4の記載を下記の通りに補正します。
(14)同書同頁下から7行及び18頁3行の「Cy5TM」を「CY5」に補正
します。
(15)同書18頁14行の「ALF・・・配列」を「ALFRED AUTO
READ配列」に補正します。
(16)同書19頁表5の記載を下記の通りに補正します。
(17)同書同頁下から17行の「Cy5TM」を「CY5」に補正します。
(18)同書同頁下から8行及び下から5行の「ALF・・・DNA」を「AL
FRED DNA」に補正します。
(19)同書同頁下から6行の「ALF・・・配列」を「ALFRED AUT
OREAD配列」に補正します。
(20)同書同頁下から4〜3行の「ALFredTM」を「ALFRED」に補
正します。
請求の範囲
1.標識ヌクレオチド、及び
1×10-11〜1×10-2のMg2+会合定数を有する少なくとも1つの化合物
を含んでなり、前記化合物の濃度が少なくとも5mMであることを特徴とする調
製剤。
2.標識ヌクレオチドが式PM−SM−BASE−SIGを有し、式中、PM
はリン酸塩部分であり、SMは糖部分であり、BASEはピリミジン、プリンま
たは7−デアザプリン部分であり、ヌクレオチドがデオキシリボヌクレオチドで
あるときはPMはSMの3’または5’位置に及びヌクレオチドがリボヌクレオ
チドであるときは2’、3’または5’位置に付着結合し、BASEがピリミジ
ンであるときはBASEはN1位置からSMの1’位置に又はBASEがプリン
もしくは7−デアザプリンであるときはN9位置に付着結合し、SIGはBAS
Eに共有的に付着結合し、および式中SIGは検出可能な部分を表わす請求項1
記載の調製剤。
3.前記少なくとも1つの化合物が、クエン酸塩、イソクエン酸塩、リン酸塩
、EGTA、EDTA及びCDTAからなる群から選択される請求項2記載の調
製剤。
4.SIGが発蛍光団及び発色団からなる群から選択される請求項3記載の調
製剤。
5.SIGがフルオレッセイン類、カルボシアニン類及びローダミン類からな
る群から選択される請求項3記載の調製剤。
6.SIGがフルオレッセインである請求項5記載の調製剤。
7.標識ヌクレオチドがフルオレッセイン標識dATPである請求項6記載の
調製剤。
8.SIGがカルボシアニンである請求項5記載の調製剤。
9.標識ヌクレオチドがカルボシアニン標識dATPである請求項8記載の調
製剤。
10.標識ヌクレオチドが少なくとも1つのヌクレオシドに共有的に付着結合
している請求項1記載の調製剤。
11.前記化合物がカルボン酸である請求項1記載の調製剤。
12.標識ヌクレオチドに、その化合物の最終濃度が少なくとも5mMとなる
ように1×10-11〜1×10-2のMg2+会合定数を有する少なくとも1つの化
合物を加える
工程を含んでなることを特徴とする標識ヌクレオチドを安定化する方法。
13.成分から最初に発熱物質を除去する工程をさらに含む請求項12記載の
方法。
14.除去工程がろ過により行われる請求項13記載の方法。
15.DNAポリメラーゼによって触媒される重合方法であって、基質として
請求項1の調製剤を用いることを含んでなることを特徴とする方法。
16.RNAポリメラーゼによって触媒される重合方法であって、基質として
請求項1の調製剤を用いることを含んでなることを特徴とする方法。
17.逆転写酵素によって触媒される重合方法であって、基質として請求項1
の調製剤を用いることを含んでなることを特徴とする方法。
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(72)発明者 ブラツシユ, チアールズ ケー.
アメリカ合衆国 53217 ウイスコンシン
ホワイトフイシユ ベイ ノース アル
ドモア アベニユー 5118
(72)発明者 ステアチアツク, ユージーン ピー.
アメリカ合衆国 53223 ウイスコンシン
ブラウン デイアー ノース 62ンド
ストリート 8684
(72)発明者 フリーマン, マーク イー.
アメリカ合衆国 08846 ニユージヤージ
ー ミドルセツクス ジヤイルズ アベニ
ユー 200
(72)発明者 ブレージン, ローレンス ジエー.
アメリカ合衆国 53235 ウイスコンシン
セント フランシス サウス エレン
ストリート 3637