【発明の詳細な説明】
リグノセルロースパルプ中の金属化合物の除去方法
発明の分野
本発明は、活性酸素含有化合物、たとえばオゾン、超酸化物、あるいは過酸化
物化合物による漂白を行う前に、化学蒸解したリグノセルロースパルプ中の金属
化合物を除去したり、その特性を変化させたりする方法に関するものである。
発明の背景
本発明の方法は、アルカリ蒸解、たとえばクラフト法、逆流クラフト法、多硫
化物蒸解、ソーダおよびアルカリ性亜硫酸蒸解、あるいは低アルカリ度溶媒およ
び酸性溶媒中での蒸解、たとえば亜硫酸塩を使用した方法によって得られたパル
プに用いることができる。本発明の方法を実施する前に、パルプは、その出発材
料、パルプの最終用途、有機溶質の想定放出量に応じて、スクリーンにかけ、公
知の技術、たとえば圧搾、濾過、ならびに洗浄によって蒸解過程の薬液をほぼ完
全に除去しておくことができる。なお、出発材料、パルプの最終用途、有機溶質
の想定放出量といった事項は、いずれも、漂白の手順を選択する際にも考慮の必
要がある事項である。最終用途は、包装製品用の半晒しパルプから、リグニンを
ほとんど含まない溶解パルプまで多岐にわたっていてよいが、溶解パルプの場合
には、製造の過程で粘度が大幅に低減している。本明細書では、この粘度の低減
を、セルロースの解重合の指標として用いている。本発明の方法は、粘度、白色
度、白色度の安定性が高く、従来公知の方法、たとえばC12を用いたり、二酸
化塩素を大量に加えたりする方法によって製造された同等のパルプより、塩素含
量、したがって水に対する汚染度が低い紙パルプを製造するにあたって極めて適
当である
木材、水、使用化学物質に由来する金属化合物が、セルロースならびにヘミセ
ルロースの解重合を触媒する可能性があることは周知である。酸素漂白過程に持
ち込まれる有害な金属化合物の量は、木材や水をはじめとする各種物質、そして
腐食に左右される。たとえば、新規供給業者から購入した木材を使用する前には
、原材料中の金属の測定値を使用して、諸条件を調整することが行われている。
セルロースの解重合の抑制には、マグネシウム化合物が広範に使用されている。
多くの研究者によって実験的に確認されている理論によれば、有害な遷移金属イ
オン、たとえば、鉄、銅、コバルト、ならびにマンガンは、アルカリ性の溶媒中
で、水酸化マグネシウムとともに共沈澱し、その触媒活性を失う。
酸素漂白の前に未晒しパルプを酸に浸漬して、有害な金属イオン、たとえばマ
ンガンを除去することも行われている(レロール(Rerolle)ら、パルプ
・アンド・ペーパー・インターン(Pulp and Paper Inter
n.)、1969年7月号、29〜31頁:スミス(Smith)ら、フランス
国特許1601408号、1970年出願)。
同様に、錯形成剤、たとえばアミノポリカルボン酸EDTA、DTPA、な
らびに関連アミノホスホン酸も使用されている(ルンドグレン(Per G.
Lundgren)ら、(エカ・ノーベル(EKANOBEL)、スウェーデン
国特許第8902058−0号))。産業上の利用は、バスタ(Basta)ら
(タッピ・ジャーナル(Tappi J.)1990年4月号、155;プロシ
ード・アピタ(Proceed.Appita)1991、木材パルプ化学シン
ポジウム(Symp. Wood and Pulping Chem.)第1
巻、237頁)、ならびにブライアントら(Bryant and Edwar
ds)(国際非塩素漂白会議会議録(Proceed. Intern.Non
−Chlorine Bleaching Conf.)、1994年3月、フ
ロリダ州キシメリア・アイランド(Xm
elia Island,Florida)に、刊行物として報告されている。
こうした技術を環境上許容されうるようなかたちで適用する際の費用は、錯形成
剤の放出が許容されるのでないかぎり、極めて高くつくことになる。酸素漂白中
にマンガンが存在することによって生じる重大な問題が、スミス(Smith)
らの特許に報告されており、一方、ダンス(D’Ans)ら(アンゲヴ・ケム(
Angew.Chem.)、63、368、(1951);65、368(19
53))、アボット(Abbot)ら(パルプ紙科学雑誌(J. Pulp P
aper Sci.)17、J10(1991))、およびコロデット(Col
odette)ら(パルプ紙科学雑誌(J. Pulp Paper Sci.
)15、J45(1989))には、過酸化物による漂白中にマンガンの触媒作
用によって生じる問題が報告されている。
酸や錯形成剤の双方を別個の工程で用いるこうしたタイプの抽出過程は、金属
含量が極度に少ないパルプを製造する際に使用することができる。酸素あるいは
活性酸素を含有する化合物を用いた漂白の前に、こうした方法を産業規模で適用
することは、発表されていないようである。化学物質ならびに水汚染防止の費用
がかさむばかりでなく、パルプは痕跡量の鉄化合物に対しても極めて感受性なの
である。遷移金属化合物、たとえばマンガン、コバルト、銅、ならびに鉄の化合
物の含量が極めて少なくなるような条件で抽出されたパルプでも、塩素非含有工
程での漂白中に再現不能なかたちで有害な作用をうけてしまう。したがって、遷
移金属含量のわずかなばらつきがあっても、酸素や他の活性酸素含有化合物を用
いた工程での処理の後には、脱リグニン化の程度(カッパー価の低減)、白色度
、ならびに粘度に重大なばらつきが生じることとなる。こうしたばらつきは、た
とえば、極度に高い白色度、白色度の安定性、強さ、粘度を有し、なおかつカル
ボニル含量の少ないビスコースパルプや上級紙用パルプの品質にとって、極めて
重大である。報告する粘度は、SCAN15:88にしたがって測定した固有粘
度(dm3/kg)
である。酸素漂白の間の粘度の低減を、セルロースの解重合の指標として使用す
る。カッパー価は、SCAN1:77にしたがって測定した。
発明の要約
本発明は、こうした問題に対する解決策を提供するものである。さらに、本発
明の方法は、薬液中の有機物質をほぼ完全に回収して、通常のソーダボイラー中
で燃焼させることができ、白色度ならびに白色度の安定性が極めて高く、抽出物
(「樹脂」)の含量および有機結合塩素の総量が極めて低いパルプを製造するこ
とができるシステムに適用することができる。本発明は、塩素を含まず、オゾン
、一重項酸素、超酸化物、過酸化水素、ペルオキシ酢酸、ならびに他のペルオキ
シ酸よりなる群に属する活性酸素を含む化合物を用いた1または2以上の酸化工
程で漂白を行う前に、化学蒸解リグノセルロースパルプ中の金属化合物を除去し
たり、その特性を変化させたりする方法に関する。この方法は、塩素を含まず、
活性酸素を含有する漂白剤を用いた上述の酸化工程の前に、水での稠度を4重量
%以上として行う1または2以上の酸素漂白工程を実施し、この酸素漂白工程の
際にマグネシウムならびにマンガン化合物を投入し、この酸素漂白工程を、酸素
漂白中にパルプから溶出する有機物質の存在下で、そして必要に応じて、パルプ
製造設備の他の工程で生じた廃液の存在下で実施して、化学組成、物理的状態、
ならびにCa、Mg、Ba、Mn、Fe、Cu、および他の遷移金属化合物の局
在状態を変化させることを特徴とするものである。この方法を用いると、すでに
酸素漂白の段階で、極めて徹底した脱リグニン化を、重篤な粘度の低下を生じる
ことなしに行うことができ、有機溶質の回収のためにほぼ閉鎖された装置内で製
造を行った場合でも、品質にごくわずかなばらつきが生じるのみで、漂白パルプ
を再現性をもって製造することができる。
蒸解ならびに漂白で生じた廃液中の有機溶質の放出を完全になくすというのは
、目標として現実的とはいえない。漂白の間の放出量として、
有機炭素の総量を基準として計算した溶解原材料の2%未満というレベルでは、
薬液の再循環ならびに薬液のパルプからの分離に有効な装置類を使用することが
できれば、水による過度の希釈を行わなくても、現行の技術で達成が可能である
。クロトギノ(R.H. Crotogino)ら(タッピ・ジャーナル(Ta
ppi J.)1987年6月号、95頁)、ブライアント(P.S. Bry
ant)ら(タッピ・ジャーナル(Tappi J.)1994年2月号、13
7頁)、アクセガード(P.Axegard)ら(北欧パルプ紙研究雑誌(No
rdicPulp Paper Res. J.)1993年12月号、365
頁)を参照のこと。熱の経済性や資本費用といった点からすると、さらに高い放
出量、たとえば5%が許容されれば有利である。たとえば生物的方法などのよう
な廃液精製設備のある施設ではさらに高い放出量、たとえば10%も許容され得
る。ナトリウムあるいはカリウムイオンを主に含有する薬液を用いる設備では、
蒸解液との一貫した回収が好ましいが、マグネシウム塩基を用い、酸素漂白を、
たとえば酸化マグネシウム水和物で行う亜硫酸法の設備でも使用が可能である。
本発明は、パルプ設備での連続的な漂白過程を模した実験室の過程での酸素漂
白で、包括的な試行を重ねて試験を行ってきており、我々がこれまでに公表して
きたように、こうした実験室の過程でも、産業規模の漂白での結果と一致する結
果が示されている。こうした試行の結果、パルプ中の金属化合物が変化して、遷
移金属化合物ならびにアルカリ土類金属化合物の多くの部分が薬液相にもたらさ
れるような条件で酸素漂白を行った後に、選択性(所定のカッパー価での粘度)
が向上するという予期せざる結果が得られた。薬液相中の金属化合物であれば、
たとえば、パルプ設備の適当な薬液ならびに水で洗浄することによって、容易に
除去することができる。
活性酸素、たとえば過酸化物、超酸化物ならびにオゾンを含有する漂白剤を用
いた漂白の間に生じる2つの有害な反応としては、(i)高価
な漂白剤の分解、および(ii)セルロースの解重合がある。こうした反応は、
すでに数十年間にわたって調べられてきているものの、その結果はいまだに矛盾
に満ち、不可解なままである。パルプ中に遷移金属、たとえばマンガンが存在す
ると、たとえ少量であっても、こうした有害な反応が促進されてしまう。本発明
は、酸素(O2)漂白を、他の漂白剤を用いた漂白を行う前に金属化合物の特性
を変化させるような条件下で行い、このO2工程の作業条件を、この工程でのセ
ルロースの解重合が少なくてすむように選択すると、こうした有害な作用を劇的
に抑えることができるという予期せざる観察結果に基づくものである。酸化によ
って遷移金属化合物の化学組成が変化し、たとえばMnの場合、+IIの酸化状
態から、+IIIと+IVの間の平均酸化状態へと変化する。酸化状態は、たと
えば、酸素圧、アルカリ濃度、および温度を変化させろことによって所望のレベ
ルとすることができる。酸化状態は、金属イオンが各種リガンドと錯体を生じる
能力と、各種水溶液への溶解度が極めて低い化合物の生成の双方に、重要な影響
を及ぼす。実施例には、遷移金属化合物ならびにアルカリ土類金属化合物のいず
れも、実施例に示す条件のもとで、リグニン含有コロイドと結合しうることが示
されている。化学組成の他の変化としては、加水分解があり、この加水分解によ
って多核オリゴマーと、主に酸化マグネシウム、水和物ならびに塩基性マグネシ
ウム塩からなるリグニン含有コロイドの形成が促進される。脱水によって凝集が
生じることもある。
パルプの漂白過程を含む他の方法の場合と同様、本発明の方法も、パルプの分
析、たとえば、リグニン(たとえばカッパー価)、粘度、白色度の測定、ならび
に漂白液のpH、光の吸収の測定によって制御する。測定には、自動化された公
知の方法を用いることができる。パルプの金属含量を測定しても、得られるのは
、酸素漂白中に各種金属化合物が有する触媒効果ならびに遅延効果についての不
確実な情報でしかない。その理由の一つとしては、同一元素、たとえばFeおよ
びMnの各種の化
合物が、脱リグニン、セルロースの解重合、ならびにカルボニル基の形成に対し
て異なった効果を及ぼすことにある。中間反応でのそうした化合物の形成は多大
な重要性を有するもののその多くが未知のままである。後述する本発明の実施例
ならびに対照実験に示すように、系中のある遷移金属の化合物が有する作用は、
他の遷移金属化合物ならびにアルカリ土類金属化合物、たとえばマグネネシウム
およびカルシウム化合物の量によって大きく、しかも予測不能なかたちで影響を
うける。
発明の詳細
実験を重ねた結果、酸素漂白の間の薬液相中の遷移金属ならびにアルカリ土類
金属(Ca、Mg、Ba)濃度の測定値に基づいて処理条件を制御、調整するこ
とによって、(i)塩素を含有せず、活性酸素を含有する化合物の消費量を著し
く抑制し、(ii)パルプの品質の向上(例、粘度の増大)をもたらし、(ii
i)パルプの品質の変動を抑制することが可能であることがわかった(請求の範
囲第2項)。薬液中の1種ないし、好ましくは数種の遷移金属ならびにアルカリ
土類金属化合物を連続的に測定することによって酸素漂白を監視するというのが
、好適な実施態様である。他の測定も、コンピュータ・プログラムに含めること
ができる。
パルプ中の金属を分析する場合と比べた場合の、この方法の予想外の大きな利
点は、一部には不明確なものもあるものの、いくつかの観察結果が組合わさるこ
との効果にある。こうした効果が生じる原因の一つとしては、パルプ中に、同一
の1種の金属の化合物なのに、酸素漂白中の溶解速度が互いに著しく異なる化合
物が存在することがある。本発明の条件下で、一部の化合物は実質的に不溶性で
不活性であるのに対し、別の化合物は、迅速に溶解する。カルシウムイオンは、
マグネシウムイオンの溶解を遅延させる。各種マグネシウム化合物の挙動は極め
て重要で、これまで考えられてきたよりは複雑である。マグネシウム化合物の濃
度ならびに溶解状態(各種サイズの低分子量錯体ならびにコロイド)に影響を及
ぼす要因は、いずれも重要である。
結果の解釈を複雑なものとしていると同時に、選択性を高め、アルカリの消費
量を低減するうえで利用することも可能な別の要因は、溶解したリグニン断片を
はじめとする各種有機化合物の漂白液中での湿式燃焼である。必要に応じて、温
度、アルカリの添加量、稠度、ならびに酸素圧の増大を利用して、湿式燃焼を増
大させることができる。この反応は、漂白液中のMg:Mnの割合に応じて、触
媒されたり、遅延したりするようである。
好適実施態様では、酸素漂白過程の漂白液を再循環させ、酸素漂白過程の後の
漂白工程で生じた溶質を投入して、酸素漂白を行う。これらの溶質は、酸素漂白
とその後の工程で生じた漂白液の一貫した回収システムで生じた薬液中に存在す
るものとするのが好ましい。他の漂白法で用いられる公知のシステム、たとえば
、通常の濾過、圧搾、洗浄用の装置類を用いた逆流回収法を使用することが可能
である。好ましくは、酸素漂白の少なくとも最後の5分間は、マグネシウムの総
量の40%以上が漂白液中に存在するよう、pH、温度、時間、ならびに再衛環
を調整する。この実施態様には、マグネシウムを外部供給源から加えなくても運
転が可能であるという利点があり、このことは、費用、環境の点からしても、漂
白プラントで使用する装置に沈澱した酸化マグネシウム水和物のスケーリングと
いったトラブルの点からしても重要である。
パルプ中に極度に多量のMnなどが存在する場合には、SO2水、硫酸、ある
いは硝酸にパルプを浸漬して、水発明の過程で条件が最適となるようにする。金
属化合物、たとえばMnの化合物は、NO−X(式中のXは、O、OH、O−S
O3H、O−SO2H)の群に属する酸生成化合物を用いた前処理によっても、
抽出することができる。混合は、+5°Cから+100°Cの温度で行う。稠度
は、2〜35%とすることができる。こうした物質は、部分的な脱リグニン化な
らびにリグニンの
変性を行って、その後のアルカリ性工程での脱リグニン化を促進するために用い
ることもできる(ジャヤワント(M.D. Jayawant)ら、欧州特許出
願EPO 377 981 A2)。実施例には、本発明の方法に先だって窒素
酸化物で前処理を行っておくと、優れた結果が得られることが示されている。
我々の実験では、絶乾(BD)パルプを基準としてNaOH換算で計算したア
ルカリの供給量を3.5w/w%未満とすると、酸素漂白の間の脱リグニン化を
、予想外に少ない粘度の減少で、徹底して進行させうることがわかった。酸化さ
れた白液を用いることも可能である。Na2CO3およびNaHCO3の添加量
は、ナトリウムイオンの数が同一となるよう、NaOHに換算しなおす。再循環
させた漂白液に溶解しているナトリウムイオンは、含めない。処理薬液中のpH
は制御する。最後の5分間より前のpHは、5.5−9.5とするのが好ましい
。
酸素漂白の間の温度は、NaOHあるいは酸化された白液を加える場合には、
90〜130°Cとし、そうでなく、炭酸ナトリウムを用いる場合には、120
〜160°Cとするのが好ましい。
驚くべきことに、我々の実験では、酸素漂白中には、好適な作業条件の場合、
多量のコロイドが処理薬液中に存在していることがわかった。
処理過程を制御する際に、使用可能な技術を用いて、こうしたコロイドについて
現場のラインで調べた結果を、好ましくは溶液のUV−VIS−スペクトルと組
み合わせて補完すると、さらなる改善が見込めるものと予測される。
実質的に閉鎖した回収システムを目標としている場合には、酸素漂白の後の最
終的な漂白は、元素状態のCl2や次亜塩素酸塩を用いることなく実施すること
が好ましい。酸素の適用は、過酸化物ならびに超酸化物による漂白の工程で、通
常の方法によって行うのが好適である。このようにすると、化学物質の費用が安
価ですみ、大抵のシステムでは、粘度ならびに白色度が増大するので、大抵の最
終用途で有利である。オゾ
ン工程に酸素が存在すると、経済性とパルプの特性の双方の点で有利である。特
に高度の白色度ならびに粘度(紙の強さ)が必要とされる場合には、一連の活性
酸素含有漂白工程を用いた工程で、1または2以上の二酸化塩素の工程を実施す
ることができる。好適実施態様では、二酸化塩素の投入をオゾンによる漂白の関
連でいうと、オゾンの前、あるいはオゾンの後に、洗浄を行うことなく、あるい
は、これらの添加の間に不完全ではあるが薬液の除去を行って実施する。本発明
で、現場のラインでの適用を行うと、ラーソンら(Larsson and S
amuelson)(北欧パルプ紙研究雑誌(Nordic Pulp Pap
er Res. J.)5(4)180(1990))によって他の条件の場合
について報告されているのと似た利点が得られると予測される。
実験、請求の範囲、ならびに記載では、漂白の間の薬液相の濃度とは、20−
22°Cまで急冷した後に、パルプ懸濁液のサンプルを迅速に取り出して測定し
た濃度のことを称するものである。我々の実験室の方法では、サンプルは、約1
cmの均一な濾過ケーキが形成されるように、吸引しながらブフナー漏斗を通す
。圧搾の後、ケーキに濾液を2回通し懸濁物質、たとえば短繊維を除去し、その
後、分析を行う。連続漂白を行っているパルプ設備の場合には、薬液のサンプル
の採取は、固形物質の除去を、たとえば、濾過、遠心分難によって行う装置を備
えた市販のサンプル採取装置を用いて、その場で冷却しながら実施する。必要時
には、サンプル採取装置を用いた場合の結果を、我々の実験室の方法を用いた場
合の結果と比較する。
本発明の処理薬液中の金属の分析は、酸素漂白を制御、監視するうえで重要な
いくつかの元素を同時に測定しうる方法によって行うのが好ましい。実験でテス
トした機器類では、高周波誘導結合プラズマ(TPC)原子発光分光分析、なら
びに原子吸光分光分析(AAS)で、特に有益な情報が得られた。原子吸光分析
(AAS)用のコンピュータ制御のマ
ルチチャネルの装置も市販されている。我々が得た結果を、こうした機器類を用
いて得られた公表されている結果と勘案したところ、これらの機器類が本発明の
方法を現場のラインで監視するうえで特に適しているとの結果が得られた。さら
に高度かつ高価な装置で得られた結果の対照としては、公知の比色分析ならびに
クロマトグラフィー法、たとえばイオンクロマトグラフィーが有用である。
原材料、立地条件、資本費用、ならびにパルプの最終用途といった要因に応じ
て、酸素漂白の間の酸素分圧は、約0.1〜3MPaの範囲で変化させることが
できる。NaOHと酸化された白液を使用する場合には、大抵の目的で、約0.
2〜1.0MPaの酸素分圧が好適である。炭酸ナトリウムを用いる場合には、
もっと高い圧力、たとえば、0.5−2MPaが好適である。
実施例1−17
処理は、いずれも、乾燥を経ていないパルプを用いて行った。添加量は、絶乾
(BD)パルプを基準として計算した。表中に示す限外濾過(UF)は、製造業
者によって報告され、製造業者が標準とする方法で較正した分雌限界が相対分子
質量で10000であるような市販のフィルターを用いて実施した。限外濾過(
UF)を調べた際に使用可能であった機器を用い、さらに目の細かいフィルター
(分離限界、1000)を用いて、平行して濾過を行った。濾過はゆっくり進行
し、結果の一部には再現性がなかった。したがって、そうした値については表に
示さない。金属の濃度は、原子吸光分光分析(AAS)によって測定し、比色法
と高周波誘導結合プラズマ(TPC)法によってチェックした。実験室での試験
では、スウェーデン南部の1工場とスウェーデン北部の1工場で、通常のクラフ
ト法での蒸解によって、オウシュウアカマツ(Pinus silvestis
)を主とする針葉樹の混合材から製造し、スクリーンを通しておいたクラフトパ
ルプ2種を用いた
表1に示すパルプを水洗いし、pH2.2〜2.4のSO2水に20°Cにて
50分間、稠度5%で浸漬した。脱イオン水で洗浄した後、6g/リットルの二
ナトリウム塩を含有するEDTA溶液に加えて、稠度5%のスラリーとした。水
酸化ナトリウム溶液を加え、pH9.2で2時間の浸漬を行なった。洗浄し、さ
らにSC2水に浸漬した後、パルプを洗浄し、遠心して、稠度を32%とした。
洗浄は、いずれの場合も、まず脱イオン水で、ついで蒸留水で行なった。
極めて少量のマグネシウムと触媒活性を有する遷移金属とを含有する漂白廃液
を大量に調製するために、80gの浸漬パルプ数バッチ分を、回転する1500
mlのオートクレーブ中で、106°Cにて、稠度を8%として、20分間漂白
した。NaOHの添加量は5%とし、初期酸素圧力は1.0MPaとした。この
廃液原液を、表1に報告する漂白に使用した。15gの絶乾(BD)パルプに相
当するサンプルを、100gの廃液原液、硫酸マンガン(II)水溶液、硫酸マ
グネシウム水溶液、ならびに硫酸アンモニウム鉄(III)水溶液と混ぜた(使
用時)。水酸化ナトリウム溶液と水の添加は、稠度が8%となり、絶乾(BD)
パルプを基準として計算したNaOHの添加量が3重量%となるように行なった
。酸素漂白は、1500mlのオートクレーブで、106°Cにて行なった。初
期酸素圧力は、22°Cで0.6MPaとした。
表1の第1実験例において、Mnを投入しなかったこの対照では、粘度の減少
が、本発明の実施例1〜9より大きかった。この対照と比較すると、漂白中に相
当量のマンガンを予め在存させた場合には、脱リグニン化の程度が増大し、セル
ロースへの攻撃が著しく抑制された(実施例1)。マンガンの量は同一とし、セ
ルロース保護の目的で漂白プラントで一般に用いられる量のマグネシウムを加え
た場合には、セルロースは保護されなかった(実施例2)。脱リグニン化は遅延
し、選択性が失われたことが示された。マンガンの量は同一とし、マグネシウム
の添加量を50%減らすと、脱リグニン化が有意に改善されることがない一方で
、粘度が甚だしく低減した。セルロースに対する攻撃に閉ざしてマグネシウムの
こうした効果は、予測外であった。マグネシウムの量を実施例2に比べて5倍と
した実施例3では、マグネシウム量の増大によって、粘度が改善され、脱リグニ
ン化が遅延されることが示された。こうした結果は、共沈澱についての周知の理
論から予測可能であった。しかし、表に示すように、加えたマグネシウムの大部
分は、溶液中に存在してお
り、セルロースの保護が、主に漂白液中に存在するマグネシウムイオンによるも
のであること、そしておそらくは、コロイド形態の重合マグネシウム化合物によ
るものであることが示唆された。分光光学分析で調べたところ、このコロイドが
、パルプから溶出したリグニン断片の大部分を含有していることが示された。パ
ルプ100gあたり、0.11ミリモルのMnと0.82ミリモルのMgを用い
た実施例4では、他のどの漂白液、よりも効果的な脱リグニン化が示された。M
gの量を4.1ミリモルに増やしたところ、脱リグニン化の程度が低減した(実
施例5)。この変更による粘度の増大は、120分後には見いだされたが、24
0分後には、有意な増大は見られず、選択性が甚だしく低減していた。
少量の鉄塩は、セルロースの解重合を甚だしく触媒することが知られている。
したがって、0.05ミリモルのFeSO4を加えた以外は表中の第1実験例(
対照)と同一条件とした対照では、120分ならびに240分後の粘度の低減が
、45%ならびに60%にそれぞれ増大していた。他の条件は不変のまま、Mg
ならびにMnの双方が少量存在すると、選択性が著しく増大した。本発明の実施
例6−9では、MgならびにMnの双方が同一漂白液中に適正量存在すると、こ
の量(0.05ミリモル)あるいはその2倍量の鉄塩が存在する場合でも、セル
ロースが効果的に保護されることが示された。
表2に示す未晒しパルプを絶乾(BD)パルプ100kgあたり11.1kg
の、サムエルソン(Samuelson and Ojteg)ら(タッピ・ジ
ャーナル(Tappi J.)、1991年6月号、155頁)が使用したのと
同一の黒液に含浸してから、絶乾(BD)パルプ基準で計算して2(w/w)%
のNO2で前処理した。この含浸は、一貫した回収システムのシミュレーション
の目的で実施したものである。絶乾(BD)パルプ180gに相当する稠度27
%のバッチを3400mlの反応容器に入れ、60°Cで二酸化窒素と接触させ
た。15分後に、硝酸と硝酸ナトリウムを含有する希釈剤、ならびに前処理に使
用し
たシミュレーション用の廃液をパルプと混合し、稠度を8%に下げた。パルプを
80°Cに加熱し、80°Cで120分間熟成した。上掲の論文の大半の実験よ
り短い熟成時間ならびに低い温度を選択したが、これは、表2の実験で調べた未
処理パルプの方が粘度が低かったからである。
脱イオン水で洗浄した後、150mlのオートクレーブ中で、10g(絶乾(
BD)パルプ換算)のバッチを、稠度8%、106°Cで酸素漂白した。MgS
O4とMnSO4の溶液をパルプに含浸させてから、水酸化ナトリウムを加えた
。周囲温度で測定した標準酸素圧(当初)は0.6MPaとした。標準条件から
はずれる場合については、結果の記載中に示してある。未処理パルプのカッパー
価は24.1、粘度は1140dm3/kgであった。前処理と水洗を行った後
の値は、それぞれ、16.3、ならびに1040であった。
表2の最初の2つの実験は、対照である。対照実験では、幾人かの研究者がこ
れまで報告してきた結果とは異なり、適用条件下でのマンガンの除去によって、
酸素漂白後の粘度と選択性が甚だしく低減することが示された。Mnが、パルプ
100gあたり0.28ミリモル、あるいは0.55ミリモル存在すると、粘度
ならびに選択性が大幅に改善され、一方、0.11ミリモルでは、さほど改善は
見られなかった。Mgを4.1ミリモル投入すると、パルプが0.55のMnを
含有する場合には、粘度が有意に減少したが、0.28ミリモルだけのMnを含
有する場合には、有意な効果は見られなかった。Mgの添加量を5倍にすると、
脱リグニン化の程度が低減し、セルロースの保護作用が増大した。これらの実験
で生じた漂白廃液は、添加したMgの56−88%を含有していた。最後の実験
では、NaOHの添加量を3w/w%から6w/w%に増やすと、脱リグニン化
への影響は小さかったものの、粘度の低減が著しく増大すことが示された。粘度
が最も低減したのは、6%のNaOHを加えた対照で、この添加量は、カッパー
価の少ないパルプを生成することを目的としている場合に、一般に使用されるも
のである。好適な条件では、薬液相中のMgの総量が、Mgの総添加量の56〜
88%を占めていた。NO2による前処理を行ったこうしたパルプでは、使用し
た薬液を酸素漂白過程に再循環させて投入しなくても、こうした高い価が得られ
た。所望の場合には、前処理を行ったパルプの場合であって
も、再循環を行って、酸素漂白過程のMgの濃度を増加させることができる。
我々の結果に示されているように、未処理のパルプを用いた場合も、前処理を
行ったパルプを用いた場合も、サイズの大きいマグネシウム含有コロイドの大部
分は、目の粗い限外濾過(分離限界10000)で保持された。マグネシウムの
一部は、目の細かいフィルターを通過した、目の細かいフィルター(分離限界1
000)を通過した一部のマグネシウムは、低分子質量のマグネシウム化合物、
ならびにオリゴマーのマグネシウム化合物であるとみなすことができる。目の粗
いフィルターと目の細かいフィルターの限外濾過物の量の差の部分が、サイズの
小さいコロイドの分画である。ここ2、3年で使用が可能となった装置類を用い
て、請求の範囲第7項についてのもっと詳細な研究を実験室ならびに現場のライ
ンで行うことによって、さらなる改善が可能であると予測するものである。
【手続補正書】特許法第184条の8
【提出日】1996年3月4日
【補正内容】
請求の範囲
1 塩素を含まず、オゾン、一重項酸素、超酸化物、過酸化水素、ペルオキシ
酢酸、および他のペルオキシ酸よりなる群に属する活性酸素を含む化合物を用い
た1または2以上の酸化工程で漂白を行う前に、化学蒸解リグセルコースパルプ
中の金属化合物の特性を変化させる方法において、上述の酸化工程の前に、水で
の稠度を4重量%以上として行う1または2以上の酸素漂白工程を実施し、(i
)この酸素漂白工程を、酸素漂白中にパルプから溶出する有機物質の存在下で、
そして必要に応じて、パルプ製造設備の他の工程の廃液の存在下で、少なくとも
酸素漂白の最後の5分間の間は、(薬液相中のMgの総量):(薬液相+パルプ
中のMgの総量)の比が40:100以上となるようにして実施し、そして
(ii)この1または2以上の酸素漂白工程にマグネシウムならびにマンガ
ン化合物を投入して実施して、化学組成、物理的状態、ならびにCa、Mg、B
a、Mn、Fe、Cu、および他の遷移金属化合物の局在状態を変化させ、漂白
廃液中の有機溶質をほぼ完全に回収した場合であっても、品質にごくわずかなば
らつきが生じるのみで漂白パルプを再現性をもって生成しうるようにすることを
特徴とする方法。
2 1または2以上の酸素漂白工程での滞留時間が、脱リグニン化が2.0%
以上となる以上に経過した後は、アルカリ土類金属、たとえばカルシウムおよび
マグネシウムの化合物、ならびに遷移金属、たとえばマンガンおよび鉄の化合物
の漂白液中の濃度を連続的あるいは間欠的に測定することによって、処理工程の
状態を制御、調整することを特徴とする請求項1に記載の方法。
3 1または2以上の酸素漂白工程の前に、パルプ中のアルカリ土類金属なら
びに遷移金属化合物の不完全な溶出ならびに変性を生じる予備処理を行い、この
予備処理を、酸、たとえばH2SO4、H2SO3、およびHNO3、ならびに
NO−X(式中のXは、O、OH,O−SO3H、およびO−SO2H)の群に
属する酸生成化合物をパルプと接触させ、+5°Cから+100°Cの温度でか
き混ぜることによって行うことを特徴とする請求項1あるいは2に記載の方法。
4 1または2以上の酸素漂白工程の間のNaOHの合計供給量が、絶乾パル
プ基準で計算して3.5w/w%未満であり、この値には、Na基準でNaOH
に換算しなおしたNa2CO3およびNaHCO3の添加量は含まれるものの、
投入薬液あるいは再循環薬液中のナトリウムイオンは含まれていない請求項1〜
3のいずれかに記載の方法。
5 酸素漂白の最後の5分間より前の処理液のpHを約5.5〜9.5とする
請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
6 マグネシウムならびに他の必要に応じて用いる化合物の溶液の状態を、限
外濾過、遠心(遠心分離を含む)、ゲル浸透クロマトグラフィー、光散乱、好ま
しくは何らかのレーザー法のような技術で制御する請求項2〜3のいずれかに記
載の方法。
7 塩素を含まず、活性酸素を含む化合物を用いた1または2以上の酸化工程
で、分子酸素を投入する請求項1〜6のいずれかに記載の方法
8 本発明の酸素漂白の後に行う活性酸素含有化合物を用いた一連の漂白工程
の別個の工程で、絶乾パルプ基準で計算して約1w/w%未満の活性塩素に相当
する量の二酸化塩素を投入する請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
9 二酸化塩素を、オゾンとともに投入する請求項1〜8に記載の方法。