【発明の詳細な説明】
アリル性基を有するステロイドの酸化方法 発明の分野
本発明は、アリル性基を有する化合物をルテニウム系触媒によって触媒酸化す
る新規な方法に関する。この方法は一般にアリル性水素またはアルコールを含む
化合物、特にΔ-5ステロイド系化合物に好適である。発明の背景
ある種の標的器官、例えば前立腺におけるアンドロゲン作用の主要媒介物質は
、5α- ジヒドロテストステロン(DHT)である。DHT は標的器官内において、5α-
レダクターゼによるテストステロンからの転化によって生成する。尋常性座瘡
、脂漏、女性多毛症、男性ホルモン型脱毛症(女性はげおよび男性はげを含む)
、良性前立腺過形成などの好ましくない生理的発現は、代謝系におけるテストス
テロン(T)または類似の男性ホルモンの過剰な蓄積によって起こる男性ホルモン
過剰刺激の結果である。これらの器官における男性ホルモン過剰刺激による徴候
を防止または軽減するには 5α- レダクターゼ阻害剤が有効である。1983.3.2
2 発行の米国特許第4,377,584 号および 1988.
7.26 発行の米国特許第4,760,071 号(共に譲受人は Merck & Co.,Inc,)を参
照されたい。現在では皮膚組織、特に頭皮組織と相互作用する第2の 5α- レダ
クターゼ同位酵素の存在が知られている(例えば G.Harrisら、Proc.Natl.Ac
ad.Sci. USA,Vol.89,pp.10787-10791(1992.11)を参照)。主として皮膚組織
内で相互作用する同位酵素は従来 5α- レダクターゼ 1(または 1型 5α- レダ
クターゼ)、主として前立腺組織内で相互作用する同位酵素は 5α- レダクター
ゼ 2(または 2型 5α- レダクターゼ)と呼ばれている。
5 α- レダクターゼ阻害剤として有効なステロイド系最終生成物の合成におい
ては、Δ-5- ステロイド型アルケンから対応するエノンへの酸化が重要な段階で
ある。アリル基の酸化には従来クロムが使用されてきたが、クロムは環境上有害
であり、かつシリカゲル・クロマトグラフィーを必要とする。本発明は、実施が
容易で環境的に好ましいΔ-5- ステロイド型アルケンの改良された代替的酸化方
法を提供するものである。更に、この方法によって得られる酸化型中間体の収率
および純度は、既知の酸化方法を用いた時に得られる値と同等またはそれ以上で
ある。発明の概要
本発明による新規な方法は、ルテニウム系触媒を用い、ヒドロペルオキシド存
在下においてアリル性アルコール基またはアリル性水素を含有する化合物を、対
応するエノンへと酸化する過程を包含する。本発明は特に、ルテニウム系触媒を
用い、ヒドロペルオキシド存在下においてΔ-5- ステロイド型アルケンをΔ-5-7
- ケトステロイド型アルケンに転化させる過程を包含する。この新規方法の一例
を下記態様において示す。
式 II の化合物は、5α- レダクターゼ阻害剤として機能するものを含む 7β-
置換 3- ケト-4- アザステロイド化合物の調製のための中間体として有用であ
る。5α- レダクターゼ阻害剤は、良性前立腺過形成、尋常性座瘡、脂漏、女性
多毛症、男性ホルモン型脱毛症、遺伝性脱毛症などの男性ホルモン過剰による障
害の治療、および前立腺癌の予防や治療に有効である。発明の詳細な説明
本発明の新規方法は、C5-C6 二重結合を含むステロイド系化合物(例えばΔ-5
- ステロイド型アルケン)が、ルテニウム系触媒の存在下でヒドロペルオキシド
で処理することにより対応する7−ケト化合物に酸化可能であるとの発見に基づ
く。同じ方法によって、アリル性アルコール基を含む化合物も同様に対応するケ
トンへ酸化することが可能である。参考のため、置換されていないステロイド核
の構造の標準的な番号づけと環の記号を下図に示す。
この酸化方法は驚くべきことに任意のルテニウム系触媒によって進行すること
が発見された。ルテニウム系触媒としては多くの種類が知られているが、その何
れも本発明に使用することができる。本発明に使用できるルテニウム系触媒の例
としては、
RuW11O39SiNa5、RuCl3、RuCl2(PPh3)3、Ru(acac)3、Ru(ジメチルグリオキシ
マト)2(PPh3)2、RuO2、Ru(TPP)(CO)(THF)、Ru(bipy)2Cl2、Ru(TPP)(CO)(THF)
、Ru/C、K5SiRu(H2O)W11O39などが挙げられるがこれらに限定されない。ここで
“TPP”はテトラフェニルポルフィン、“acac”はアセチルアセトナート、'bipy
'はビピリジンを表す。ルテニウム系触媒については例えば R.Neuman、J.Am.
Chem.Soc.、Vol.112、6025(1990)、S-I.Murahashi、Tetrahedron Letters、V
ol.34、1299(1993)に記載されている。
特にタングステン酸ルテニウムナトリウム系触媒、更に具体的には RuW11O39S
iNa5が使用される。本反応においては触媒量のルテニウム化合物が使用される。
触媒量の反応触媒の使用は当業者に周知のところであり、従って触媒の使用量が
反応の規模と実際に用いられる特定触媒の種類に依存することは理解されよう。
例示的なルテニウム触媒使用量は出発物質 1モル%に対して約0.05〜 5モル%、
特に約 0.5モル%であるが、この範囲外の使用もまた可能である。
出発物質であるアルケンは、ルテニウム系触媒の存在下においてヒドロペルオ
キシドで処理されることにより対応するエノンに転化する。ヒドロペルオキシド
としては多くの種類が知ら
れており、いずれのヒドロペルオキシドも使用し得る。本発明に使用できるヒド
ロペルオキシドの例としては t- ブチルハイドロゲンペルオキシド(t-BuOOH)、
クメンヒドロペルオキシド、過酸化水素、ベンゾイルペルオキシドが挙げられる
が、これらに限定されない。中でもt-BuOOH が特に好ましい。ヒドロペルオキシ
ドの使用量は酸化反応を完結させるに足る量でなければならず、例えば出発物質
1モルに対して少なくとも約 2モル、好ましくは 8〜10モルである。
本発明方法においては、アルカン、エーテル、アルコール、ハロゲン化溶媒、
水など、任意の市販溶媒またはその混合物を使用することができる。溶媒の例と
してはトルエン、酢酸エチル、ヘキサン、クロロベンゼン、ヘプタン、t-ブチル
メチルエーテル(MTBE)、ベンゼン、アセトニトリル、シクロヘキサン、塩化メチ
レン、1,2-ジクロロエタン、t-ブチルアルコール(t-BuOH)、またはこれらの混
合物が挙げられるが、これらに限定されない。触媒としてRuW11O39SiNa5を使用
する場合にはヘプタンが好適な溶媒であり、RuCl2(PPh3)3に対してはクロロベ
ンゼンまたはベンゼンが好適な溶媒である。
本酸化過程は -20℃から溶媒の還流温度(例えば約 100℃)
の範囲、特に約 5〜50℃の範囲、更に具体的には約15℃において行うことができ
る。また本反応は任意の pH、特に酸性領域の pH、更に具体的には pH 約 1にお
いて行うことができる。反応混合物の pH は t-BuOOHを添加する前に硫酸のよう
な水性の酸を添加することによって調節することができる。窒素またはアルゴン
のような不活性雰囲気のもとで反応を行うことは、必要条件ではないが好ましい
。
本方法において使用できるΔ-5- ステロイド型アルケンは当業者にとって周知
であり、例えば Sigma Chemical Co.の販売するものがある。
本発明の実施態様の一つにおいては、式 Iの化合物:
をヒドロペルオキシドで、溶媒中ルテニウム系触媒の存在下、処理して式IIの化
合物:
を形成する段階を含む。式中、Yはヒドロキシル、エステル化されたヒドロキシ
ル基、ケトまたはエチレンケタール、X はCH2-、-NH-、-N(CH3)-または -N-2,4-
ジメトキシベンジル、Z は
を表す。
酸化反応はステロイドの 16 位又は 17 位における置換基には影響されないの
で、A は合成的に可能な任意の置換基であってよい。出発物質であるステロイド
の 16 位および 17 位における置換基の限定を受けないことは、本発明方法の柔
軟性と広範な応用可能性を示すものである。
A の代表的な例としては -H、ケト(=O)、保護基を有する
ヒドロキシ(例えばジメチル-t- ブチルシリルオキシ、トリメチルシリルオキシ
、トリエチルシリルオキシ、トリ-i- プロピルシリルオキシ、トリフェニルシリ
ルオキシ)、酢酸基、ヒドロキシ、保護基を有するアミノ(例えばアセチルアミ
ノ)、アミノ、C1〜C10アルキル(例えばメチル、エチル、1,5-ジメチルヘキシ
ル、6-メチルヘプト-2- イルコレスタニル 17-側鎖、プレグナン、スチグマステ
ロール 17-側鎖)、アリール置換 C1〜 C10アルキル(例えばω- フェニルプロ
ピル、1-(クロロフェノキシ)エチル)、アリールカルバモイル置換 C1〜 C10ア
ルキル(例えば 2-(4-ピリジニルカルバモイル)エチル)、C1〜 C10アルキルカ
ルボニル(例えばイソブチルカルボニル)、アリールカルボニル(例えばフェニ
ルカルボニル)、エーテル置換 C1〜 C10アルキル(例えば 1- メトキシエチル
、1-エトキシエチル)、ケト置換 C1〜 C10アルキル(例えば 1- ケトエチル)
、ヘテロアリール置換 C1〜 C10アルキル(例えばω-(4-ピリジル)ブチル)、カ
ルボキシ、カルボン酸エステル(例えばカルボメトキシなど C1〜 C10アルキル
カルボン酸)、カルボキサミド(例えば C1〜 C10アルキルカルボキサミド、ま
たは N,N- ジイソプロピルカルボキサミド、n-t-
ブチルカルボキサミド、N-(ジフェニルメチル)カルボキサミドなどのアラルキル
カルボキサミド)、C1〜 C10アルキルカルバメート特に t- ブチルカルバメート
などのカルバメート、置換または非置換アニリド誘導体(フェニル基はエチル、
メチル、トリフルオロメチル、ハロゲン(F、Cl、Br、I)から選択された1〜2
個の置換基を有していてもよい)、尿素(例えば t- ブチルカルボニルアミノ尿
素などの C1〜 C10アルキルカルボニルアミノ尿素)、C1〜 C10アルキルカルボ
ニルアミノ(例えば t- ブチルカルボニルアミノ)、エーテル(例えば n- ブチ
ルオキシ、エチレンケタール)、置換または非置換アリールエーテル(例えばク
ロロフェニルオキシ、メチルフェニルオキシ、フェニルオキシ、メチルスルホニ
ルフェニルオキシ、ピリミジニルオキシ)等がある。
“アルキル”という語は直鎖および分岐アルキルを包含し、“アリール”とい
う語はフェニル、ピリジニル、ピリミジニルを包含する。
ヒドロキシおよびアミノ基の保護基は通常の知識を有する当業者に周知であり
、そのようないかなる基も使用できる。例えば酢酸基、安息香酸基、エーテル、
シリルなどはヒドロキシ基
の保護基として適切である。標準的なシリル保護基は一般式 -Si(Xa)3(各 Xa
は独立にアルキルまたはアリール基)を有し、例えばトリメチルシリル、トリエ
チルシリル、トリ-i- プロピルシリル、トリフェニルシリル、あるいは t- ブ
チルジ(Xb)シリル(Xbはメチル、エチル、i-プロピルまたはフェニル(Ph))が挙
げられる。アミノ基の標準的な保護基は一般式 -C(O)-Xc(Xcはアルキル、アリ
ール、O-アルキルまたは O- アリール)を有し、例えば N-t- ブトキシカルボニ
ルなどが挙げられる。保護基に関しては例えば T.W.Green ら、Protective Gro
ups in Organic Synthesis(John Wiley and Sons、1991)に記載されている。
通常の知識を有する当業者には周知のとおり、Y がエステル化されたヒドロキ
シ基である時には、置換基はたとえば式 III:
で表される。式中、Xd は合成的に可能な任意のエステル基である。本方法は Y
における特定のエステル形態の選択によって限定されるものではない。Xaの代表
的な例としては、直鎖また
は分岐アルキル(例えば C1〜 C18アルキル)、フェニル、モノまたはジ置換フ
ェニル(置換基は例えばハロゲン、アルコキシ、アミノ)が挙げられるが、これ
らに限定されない。
中間体化合物 II は 7β置換 4- アザステロイド化合物、特に 5α- レダクタ
ーゼ阻害剤である 7β置換 4- アザステロイド化合物の製造に有用である。その
ような化合物の例としては、米国特許第4,377,584 号、4,760,071 号、WO 93/23
419、WO 93/23420に開示されているものが挙げられるが、これらに限定されない
。更に具体的には、中間体 II から得られる化合物は、一般式 IV:
を有する。式中、Rは Hまたはメチル、Z は
であり、Alk は C1〜 C25直鎖または分岐アルキル(例えばメチル(Me)、エチ
ル(Et)、プロピル(Pr)、イソプロピル(i-Pr)、n-ブチル(n-Bu)、sec-ブ
チル、イソブチル、tert- ブチル(t-Bu)など)、C3〜 C6シクロアルキル(例
えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル)、アリ
ルから選択される。そのような化合物を製造する方法は例えば米国特許第 5,237
,064号、WO 93/23419、WO 93/23420、PCT 出願第 US94/12071 号によって知るこ
とができる。
式 IV を有する化合物を製造する合成経路の別の例を示せば次のとおりである
。
本方法の出発物質は一般に当業者に既知かつ入手可能な 3- アセトキシアンド
ロスト-5- エン類である。
Z は
である。
A は前述したとおり任意の置換基であるが、上記反応式に示された各段階の反
応条件において不活性であって干渉しないものが好ましい。
A 基はまた上記の反応を経過した後除去される保護されたヒドロキシ基あるい
は保護されたアミノ基であってもよい。これらはまた反応に干渉しない限り、特
定の段階で除去されてもよい。例えば Aが -O-TBDMS(t-ブチルジメチルシリル
オキシ)であるとき、シリル保護基を例えばセコ酸 6から 4- アザステロイド 7
への閉環段階で除去し、続く段階が 16-OHまたは 17-OH化合物で起こるようにす
ることができる。また出発物質における Aは、最終的に目標とする A基の前駆体
であってある段階においてこれに転換されるものであってもよい。例えば Aがス
チグマステロール類似体のように二重結合を含む場合、5から 6へのセコ酸形成
反応において 16-または 17-側鎖中の二重結合も酸化されるようにすることも可
能である。
上記反応式に示されているように、“Alk”置換基を 4- アザステロイドの B
環に導入するには、一般に有機金属カルボニル付加反応、例えばグリニャール試
薬 RMgX において R基として“Alk”を含むものと 7- カルボニル基とが反応す
るグリニャール反応を利用することができる。グリニャール反応の条件は通常の
もので、メチル、アリルまたはシクロアルキルマグネシウム塩化物、エチルマグ
ネシウム臭化物、クロロプロピルマグネシウム臭化物などを使用する。好ましく
はグリニャール試薬をCeCl3と共に使用する。使用可能な無水溶媒としては、テ
トラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、ジ-n- ブチル
エーテルなどが挙げられる。反応は一般に 0〜40℃の無水条件下で行われ、完結
までに一般に約 6〜24時間を要する。この段階では他の有機金属カルボニル付加
反応、例えば当業者には周知である有機リチウムまたは有機亜鉛等の有機金属試
薬を使用することも可能である。
次いで付加化合物 3を、例えばトルエン溶媒の還流のもとで、
例えばアルミニウムイソプロポキシドおよびシクロヘキサノンで酸化して(オッ
ペナウアー酸化条件)、7-アルキル-4,6- ジエン-3- オン(4)を得る。使用可能
な他の試薬としてはアルミニウムエトキシド、アルミニウム t- ブトキシドなど
が挙げられ、使用可能な他の溶媒としてメチルエチルケトン(MEK)、キシレンな
どが挙げられる。反応は一般に約60〜120℃の温度範囲で無水条件下で行われ、
完結までに一般に約2 〜24時間を要する。
次いでジエン-3- オン(4)をエタノールなどの溶媒中で炭素上の Pd、DBU、シ
クロヘキセンで処理して 4- エン(5)に転化させる。
次に t- ブチルアルコール等の中で80℃において過マンガン酸カリウムまたは
過ヨウ素酸ナトリウム等で処理することにより A環を開裂させて対応するセコ酸
(6)を得る。使用可能な他の酸化剤としてはルテニウムテトラオキシド、オゾン
などがあり、使用可能な他の溶媒としてはCH3CN、CCl4、メタノール(MeOH)、CH2
Cl2などが挙げられる。反応の完結には通常約 2〜4 時間を要する。
セコ酸は酢酸(HOAc)のような C2〜 C4アルカン酸中約15
〜30℃で酢酸アンモニウムで処理した後、加熱して約 2〜4 時間還流し、約50〜
70℃に冷却した後水を加え、種子を添加してエン- ラクタム(7)を晶出させる。
エン- ラクタムは貴金属触媒、例えばPd(OH)2、PtO2、炭素に担持させた Pd、
炭素に担持させた Rh、Rh/Al2O3、望ましくは炭素に担持させた Rh または Rh/A
l2O3を用いて、酢酸などの C2〜 C4アルカン酸またはエタノールなどのアルコー
ルまたは酢酸エチル中で、水素圧力 50 〜70psi のもとで水素化する。反応を15
〜25℃で約8 〜12時間行った後に、反応が事実上完結するまで温度を例えば50〜
70℃に上げてもよい。濾過により触媒を除去し、濾液を蒸発乾固する。生成物(8
)は次いで再結晶などにより精製することができる。
最後の段階である N- メチル化は、ラクタム(8)の溶液をベンゼンまたはトル
エンのような芳香族溶媒中、硫酸水素テトラブチルアンモニウムとアルカリ水溶
液(例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウム)の存在下で塩化メチルのガスで
処理することにより行われる。反応は約40〜60℃で、反応が事実上完結するまで
高速度で撹拌しながら行い、通常20〜30時間を要する。
以下、本発明による新規方法を用いた実験的手続きの代表的
なものを詳細に述べる。これらの手続きは単なる例示であり、本発明新規方法を
限定するものではない。実施例1 4,7 β- ジメチル-4- アザ-5α- コレスタン-3- オンの合成 段階 1
2000ml三ツ口フラスコにタングステン酸ナトリウム二水和物 3,3g、メタケイ
酸ナトリウム 0.315g、水 70ml を入れて均一になるまで撹拌し、濃硫酸 0,45ml
を用いて中和した(pH 6〜7)。硫酸添加時に 4℃の発熱があった。三塩化ルテ
ニウム水和物 240mgを加えて10分間撹拌し、この触媒混合物に酢酸コレステリル
78.1gとヘプタン 300mlを加えた。撹拌はオーバー
ヘッドパドル型撹拌機を用い 225〜275rpmで行った。
70% t-BuOOH 189g を 5〜10分かけて加えた。水浴で冷却して内部の温度を15
〜20℃に保持した。バッチの温度は 5〜15分の導入時間後ゆっくり上昇しはじめ
た。反応混合物を20〜24時間、出発物質が 1.5wt% 未満、中間体である酢酸 7-
ヒドロキシコレステリルが 2% 未満となるまで撹拌した。
反応の監視には YMC塩基性カラムを用い、アセトニトリル:水=90:10、流量
1.5ml/min、紫外線検出は200nm で行った。保持時間 tR は酢酸コレステリル 1
7,0min、酢酸 7- ケトコレステリル 7,8min、エンジオン 4.5min、7-ヒドロペル
オキシドおよび 7- オール中間体 6.8、6.9、7.0、8.2min である。18min、19mi
nで溶離する不純物は酢酸 7-t-BuOO-コレステリルである。
反応混合物に MEK 550ml、水390ml、亜硫酸ナトリウム 39gを加え、70℃に加
熱してエンジオン不純物が除かれるまで約 3時間保持した。反応混合物を冷却し
、分液漏斗に移し、水層を除いた後、有機層を 1% 塩水 100mlで洗浄した。次い
で MEKと t-BuOH を除くため、300ml まで濃縮の後ヘプタン 800mlを加え、MEK
と t-BuOH の合計がガスクロマトグラフィー(GC)で
0.7%未満となるまで共沸蒸留した。
ヘプタン中の MEKと t-BuOH のガスクロマトグラフ分析には HP-5 カラムを用
い、温度35℃、流量 0.5mlで行った。保持時間は MEK 4.9min、t-BuOH 5.3min、
ヘプタン 7.7minである。容積を 350mlに調節し、-5℃に冷却して濾過し、0℃の
ヘプタン 150mlで2回洗浄した。乾燥後の生成物は灰白色の固体として得られ、
収率は62%(合計 51.5g、94wt%、97A%)であった(A%はピーク面積の百分率を
意味する)。
融点:155 〜157 ℃
NMR(1H,300MHz,CDCl3):5.70(s,1H),4,7(m,1H),2.5〜0.8(m,43H),0.6(
s,3H)。
段階 2
無水塩化セリウム 16.6gと THF 150mlをスラリーとし、窒素中20℃で2時間撹
拌した。
塩化セリウムは七水和物として入手し、170 ℃で3〜4日間真空乾燥した。熱
天秤分析によれば乾燥塩化セリウムの重量損失は0.7 %であった。2時間後に採
取したスラリー試料は顕微鏡下で微細な針状を示した。スラリーにグリニャール
試薬 160mlを加え、得られた淡紫色の混合物を30分間熟成した。
THF 150ml 中にケトン 60g(純度 95 %、純品として 57g)を含む溶液を20℃
に冷却した混合物に50分かけて加え、発熱は30℃以下とする。ケトンをグリニャ
ール試薬に添加すると発熱反応が起こるので、発熱の程度を添加速度により調節
する。ケトン-THF溶液は添加前に30℃に加温して完全に溶解させておく必要があ
る。
反応の進行の監視には高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた。試料 0
.5mlを 0.1N HOAc 10ml に加え、CH3CNで 50ml に希釈した。HPLC条件は Zorbax
(登録商標)フェニルカラム、CH3CN・水・燐酸、勾配溶離 75:25:0.1〜90.10:0
.1(18分)、流量 1.5ml/min、紫外線検出 200nmであった。保持時間 tR は 3,7
- ジオール 5.6及び 5.9min、原料ケトン
10.9min、中間体 7-OH と 3-OAcは各 9.8min、10.8min である。3,7-ジオールの
面積比は約95%(約85mg/ml)であった。(注:グリニャール試薬を更に添加す
れば残存原料および中間体をすべて生成物に転化させることができる。)
反応完了後、混合物をクエン酸溶液(水 300ml中に 115g)とトルエン 300ml
の 0℃の混合物に加えてクエンチした。この過程は発熱的である(注:内部の温
度を10℃より低く保つように添加速度を調節する必要がある)。
この2相混合物を30分間撹拌した後10〜15分間静置して相を分離させた。水層
の pH は約 2であった。有機層を分離し、水(200ml 、洗浄後の pH = 3)およ
び NaHCO3飽和溶液(240 ml、洗浄後の pH= 8)で洗浄し、750ml の有機層を得
た。この有機層中のジオール含有量は 66mg/ml、収量は 49.5g(93%)であった
。水層中に残存する生成物は1%未満であった。
このバッチを 300mlに真空濃縮(100 〜200mmHg)し、トルエンで 600mlに希
釈し、更に 360mlまで再濃縮した。溶媒のトルエンへの切り替えは、GCで THFの
面積百分率がトルエンの2%未満となったとき完了と見做した。(注:留出物の
最初の200ml は低圧で発泡する傾向がある。この段階を過ぎたら真空
度を 100mmまで上げる。トルエンへの切り替えが完了に近づくと蒸留温度は20℃
から約45℃へ徐々に上昇する。)
留出物試料中の THF残留量を GC で測定した。試料約 0,1mlをメタノールで 1
mlに希釈して用いた。GC条件は HP-5 カラム(25m、内径 0.32 μm)、加熱ブロ
ックインジェクター使用、35℃定温、流量 0.5ml/min、保持時間は MeOH 5.5min
、THF 6.2min、トルエン 10.1minであった。バッチからの試料により最終分析を
行った。
有機層には 134.4mg/ml のジオールが含まれ、収量は 48.4g(90%)であった
。(注:次の段階に進む前にバッチ中の KFは 100μg/ml未満となっていなけれ
ばならない。)段階 3:オッペナウアー酸化
ジオールのトルエン溶液(118mg/ml)256ml に 2- ブタノン 126mlとアルミニ
ウムイソプロポキシド 18.9gを加え、溶液を窒素雰囲気中で還流温度(92℃)に
した。反応の進行は HPLCで監視した。
バッチにアルミニウムイソプロポキシドを加える前に GC で 2- ブタノン含有
量を測定した。試料約 0.1mlを MeOH で約 1mlに希釈した。GC条件は HP-5 カラ
ム(25m、0.32 μm ID)、250 ℃の加熱ブロック・インジェクター、カラム温度
35℃定温、流量 0.5ml/min、保持時間は 2- ブタノン 6.1min、MeOH 5.5min、ト
ルエン 10.1minであった。出発原料混合物の KF は 70 μg/mlであった。
反応混合物の試料 0.1mlを HOAc 0.1N溶液 2〜3ml に加えてクエンチし、メス
フラスコ中で CH3CNで 10ml に希釈した。HPLC条件は 25cm Zorbax(登録商標)
フェニルカラム、0.1 %燐酸を含むCH3CN・H2O、勾配溶離 75:25〜90:10(18分
)、22分まで 90.10に保持、流量 1.5ml/min、紫外線検出 210nmであった。保持
時間は原料ジオールが各 5.4、5.8min、中間体Δ-4- エンオン 6,4min、ジエン
オン 12,1minであった。
反応は原料ジオール濃度の面積百分率が 3%未満になったと
き(8h)完了と見なし、バッチを15〜20℃まで冷却してから 3N HCl 120ml でク
エンチし、得られた2相混合物を20分間撹拌して静置した。下部の水層を除き、
有機層を5% NaCl 120ml で洗浄した。このバッチを半分の容積まで真空濃縮し(
40〜60℃、150mm)、蒸留によって過剰の 2- ブタノンを除去した。最終バッチ
中の 2- ブタノン濃度はトルエンの 2%未満(GCによる)、KFは 60 μg/l であ
った。
トルエン溶液を窒素雰囲気中25℃において濃 HCl 3,5mlで処理し、中間体の第
三アルコールが完全にジエンオンに転化するまで(約 1h)反応を HPLC で監視
した。溶液を脱イオン水60mlおよび飽和 NaHCO360mlで洗浄した。重炭酸塩洗液
の pH は 8.5であった。(分解反応を8時間を越えて継続すると反応液は黒変す
る。)得られた赤色溶液 128mlはジエノン 202mg/mlを含有し、収量は 25.9g(9
0%)であった。段階 4:水素移動
ジエンオンのトルエン溶液(214.6mg/ml)150ml をエタノール 120ml、シクロ
ヘキセン 120ml、DBU 0.62mlで希釈し、この混合物に炭素に担持させた5%パラ
ジウム(50%含水で 9.0g)を加え、吸引と窒素パージを3回繰り返して脱気し
た。次いでこのスラリーを還流温度(72℃)まで加熱し、HPLCで反応を監視した
。
反応混合物の試料 2mlを Solka Floc で濾過し、濾液をCH3CNで 10ml に希釈
して HPLC(25cm Zorbax(登録商標)フェニルカラム、アセトニトリ/0.1 %燐
酸含有の水、勾配溶離CH3CN:水 = 75:25〜90 10(18分)、22分まで 90:10に保
持、流量 1.5ml/min、紫外線検出 200nm)で分析した。
保持時間はジエノン 12.1min、Δ-4- エノン 13.2min、Δ-5- エノン 14.1min
、過還元ケトン 14,4min、エチルエノールエーテル 20.9minであった。過還元ケ
トンは 192nmで分析する必要がある。
ジエナオン濃度が面積比< 2%、Δ-t- エノン濃度が5 %になったとき(約 1
0h)反応完了と見なし、反応混合物を室温まで冷却し、パラジウムを Solka Flo
c で濾過して除去し、フィルターケーキをエタノール 150mlで洗浄した。
このバッチはエノン 51mg/mlを含んでいた。(反応時間が長すぎると過還元が
起こる可能性があるので、これを避けなければならない。原料が消費され、10時
間後のΔ-5- エノン濃度が>5 %であるなら、パラジウムを濾別し無触媒で異性
化を完了させる。)
溶液を減圧(75mm)下で約 150mlまで濃縮し、エタノール 225mlで希釈した後
、再度 150mlまで濃縮した。
溶媒のエタノールへの切り替えは GC でトルエンの濃度がエタノールの 2%未
満で、かつシクロヘキセンが検出されなくとなったときに完了と見なした。(シ
クロヘキセンの除去は重要である。残留していると次の酸化的開環反応の段階で
反応し、過ヨウ素酸塩を過剰に消費する。)試料 0.1mlをエタノールで 1mlに希
釈しシクロヘキサンを分析した(同時に 1,1,1- トリクロロエタンを用いてトル
エンを分析した)。GC条件は HP-5カラム(25m × 0.32mm ID)、加熱ブロック
・インジェクター250 ℃、カラム温度35℃定温、流量 0.5ml/min、保持時間はエ
タノール 5.6min、シクロヘキセン 7.7min、トリクロロエタン 7.7min、トルエ
ン 10.2minであった。シクロヘキセンの存在は溶液の1H NMR(CDCl3)によっても
検出することができ
る(シクロヘキセンのビニル型プロトンはδ = 5.64ppm、エンオンのビニル型プ
ロトンはδ = 5.69ppmである)。
濃縮物をヘキサン 250mlと 3N HCl 150ml で希釈し、得られた2相混合物を40
℃に加温してエノールエーテルを完全に加水分解した。層を分離し、有機層を半
飽和重炭酸ナトリウム 100mlで洗浄した。ヘキサン相の容積は 291ml、エタノー
ルの含有量は容積比で 5%未満、エノン分析値は 92mg/mlであった。
溶液を減圧(100mm/15℃)で 100mlまで濃縮し、バッチを t- ブタノール 175
mlで希釈した後、100ml まで再濃縮した(100mm/40℃)。バッチは所望の 7- β
−メチルエノン 260mg/ml を含み、収量は 26.8g(85%)であった。
(注:これらの化合物は GC-MSでも検出することができる。この反応を GC で
追跡することは、エノンがカラム内で不均化するので好ましくない。GC-MS の条
件は、HP-5カラム(25m)、285 ℃の定温でオンカラム注入、保持時間は過還元エ
ノン 12.8min、7-α- エピマー 15.7min、生成物 17.3min、出発物質 21.3minで
あった。段階 5:酸化的開裂
5 lの丸底フラスコに脱イオン水 4.93 l、過ヨウ素酸ナトリウム 1.55kg、
過マンガン酸カリウム 11.1gを加え、このスラリーを65℃で30分間撹拌して完全
に溶解させた。
エノン 300g を t- ブタノール 4.60 lに溶解し、水 2.3l中に炭酸ナトリウ
ム 159g を含む溶液を加え、得られた2相混合物を65℃に加温した。エノンはト
ルエン、エタノール、シクロヘキセンを含んでいてはならない。(有機層中のエ
ノンの濃度は約 56mg/mlである。)エノン溶液を高速で撹拌しながら過ヨウ素酸
ナトリウム溶液を、反応温度を65℃に保ちつつ3時間かけて添加した後、65℃で
2時間熟成した。過ヨウ素酸ナトリウムの添加には加熱した漏斗を使用した。
反応中に二酸化炭素ガスが発生する。ガス発生をコントロールするため添加を
緩慢に行う。添加中に発熱は認められなかった。この添加によって紫ないし褐色
のスラリーが得られた。
反応の進行は HPLC で監視した。反応混合物の試料 2mlを15℃に冷却して濾過
し、濾液 0.1mlを水/CH3CN(1:3)で 10mlに希釈した。HPLC条件は、YMC 塩基性
カラム(25cm×4.6mm)、CH3CN、0.01M H3PO4、90:10 アイソクラチック溶出、流
量 1.5ml/min、紫外線検出 200nmであった。保持時間はエノン
11.5min、セコ酸 5,5min であった。
原料エノンが 0,5mg/ml 未満となったとき反応完了と見なし、水 3.01 を加え
て還流温度に加熱し2時間保持して残存するKMnO4を分解(紫色から褐色に変色
する)すると同時に器壁に付着している固体の大部分を溶解した。得られたスラ
リーを15℃に冷却し Dicalite 50g を用いて濾過した後、容器とケーキを t- ブ
タノール/水(1:2、6.0 l)で洗浄した。
フィルターケーキはセコ酸含有量の定量のため 200〜400mgを水 50ml、アセト
ニトリル 50ml に溶解し、少量のオレンジ色マンガン性固体を除くため珪藻土で
濾過して試料バイアルに受け、この濾液(pH 9.0〜10.5)をヘプタン 5,01 で抽
出した。
混合物水溶液に酢酸エチル 2.6lを加え、濃 HCl 250mlを加えて pH を 2.5±
0.3 に調節した後、水層を除去した。
有機層を5%塩水 1.2lで2回洗浄し、この酢酸エチル溶液を約10%の体積ま
で濃縮(150mmHg、30℃)し、酢酸 7,4lを加え、残った酢酸エチルを濃縮(100
mmHg、60℃)により容積比1%未満(HPLCによる面積比< 0.5%)になるまで除
去し、酢酸を加えて最終容積を 5.0lに調節した。酢酸エチルの除去
は HPLC で監視した。条件は上と同様であるが、ただし流量は 0.5ml/minとし紫
外線 210nmで検出した。保持時間は酢酸エチル 7.4min、酢酸 6.9min であった
。分析による収量は 275gで、収率 88 %に相当する。得られた酢酸溶液は直接
次の段階(エン- ラクタム生成)に使用した。段階 6:NH- エンラクタム生成
前の段階で得られたセコ酸の酢酸溶液(5.3 l中に 265g)に20℃で BHT 5.3g
、酢酸アンモニウム 488g を加え、得られたスラリーを窒素雰囲気中の穏和な還
流条件で3時間加温した。溶解は30℃で完了し、還流時の内部温度は120℃であ
った。色は黄色から暗赤色ないし褐色に変化した。酢酸の量が少ないと晶出の段
階で生成物が油状になる。
反応の進行は HPLC で監視した。HPLC条件は SB フェニル、CH3CN、0.01M H3P
O4、80:20 アイソクラチック溶出30分、流量 1.5ml/min、紫外線検出 190/200nm
、保持時間はエン−ラクタム 9.4min、セコ酸 5.3min であった。検出は反応監
視には 190nm、出発物質および生成物の定量には 200nmで行った。3〜4 時間後
にセコ酸の残留量が面積比で<0.05%となったと
き反応完了と見なした。
反応混合物を60℃に冷却し、水 398mlを15分間にわたって加えた。(注:酢酸
溶液に対して正確に 7.5% v/vの水を加えることが重要である。)溶液を50℃ま
で放冷した後、種子としてエン−ラクタム 1.0g を加えた。晶出は50℃で起こり
、得られたスラリーは50℃で1時間熟成した後、2時間をかけて 0〜2℃まで冷
却した。
スラリーを濾過して得られた淡黄褐色の固体を酢酸/水(5:1)の溶液 1.0lで
洗浄し、30℃で一夜真空乾燥して分析値 87 wt%(残りは酢酸)の生成物225g
を得た。収率は88%であった。HPLCでは 200nmのピークが面積比99.4%を占めた
。溶媒和物の融点は 112〜115 ℃、純品の融点は175 〜178 ℃(162 ℃で軟化)
であった。段階 7:NH- エンラクタムの再結晶
83%エンラクタム 20gに BHT 200mgを含む酢酸 100mlを加え、得られたスラリ
ーを窒素雰囲気中で60℃に加温して完全に溶解させた後50℃に冷却して水 10ml
を加えた。次いで混合物を1.5 時間かけて5 ℃まで冷却し、濾過して固体を除去
した。(50℃の溶液を 5℃に冷却する前に晶出が始まる。)BHT 添加後の溶液の
KF は約0.2 〜0.4 % w/wであった。
母液の量を HPLC で監視した。HPLC条件は SB フェニル、
CH3CN、0.01M H3PO4、80:20 アイソクラチック溶出30分、流量 1.5ml/min、紫外
線検出 200nm、エン- ラクタムの保持時間は 9.4min であった。試料は 100μl
をアセトニトリルで 10ml に希釈して用いた。
スラリーを濾過して得られた淡黄褐色の固体を 5℃で酢酸/水(5:1)の溶液 40
ml で洗浄し、30℃で一夜真空乾燥して分析値 84 wt%(残りは酢酸)の生成物
18.5gを得た。収率は94%であった。HPLCでは 200nmのピークが面積比99.4%を
占めた。
溶媒和物の融点は 112〜115 ℃、純品の融点は175 〜178 ℃(162 ℃で軟化)
であった。段階 8:NH- エンラクタムの還元
BHT 3.8gを20℃で酢酸 1.71 lに溶解し、溶液を窒素で30分間パージして脱気
し、エンラクタム(87wt%)218g を1回に加えた。得られた溶液を窒素で15分間
パージし、10% Pd/C(50%加水)38g を加え、スラリーを1ガロン入り撹拌式
オートクレーブに移した。このとき脱気済み酢酸 190mlを用いてスラリーをオー
トクレーブ中に洗い落とすようにした。(注:酢酸には BHTをエンラクタムより
前に添加しなければならない。エンラクタムが酸化に対して不安定なため、BHT
で安定化した酢酸を使用する必要がある。)
混合物を窒素を用いて真空パージした後、60psi の H2中20
℃で撹拌した。20℃で10時間経過後、反応温度を60℃に上げ、反応を>99.9%ま
で進行させた。
反応は HPLC で監視した(25.0cm Zorbax(登録商標)フェニル SB、CH3CN:0.
01% H3PO4= 90:10、1.5ml/min、二波長紫外線検出 210nm、240nm)。保持時間は
エンラクタム 8.50min、trans-ラクタム 12.4min、cis-ラクタム 18.4minであっ
た。試料は20μlをアセトニトリルで 2mlに希釈して用いた。
反応完了(転化率> 99.9 %)後、混合物を20℃に冷却し、Solka-Flok 20gで
濾過し、ケーキを酢酸 1.91 で洗浄した。濾液を合わせて 30 ℃/10mmHg で570m
lまで濃縮し、ヘプタン合計 3,8lを加えて常圧で濃縮を続け(共沸温度91〜92
℃)、酢酸を除去した。(注:生成物の酢酸への溶解度が極めて高いので酢酸を
容積比< 0.2%まで除去することが重要である。)最終的な沸点は98〜99℃であ
った。酢酸は HPLC により、25.0cm Zorbax(登録商標)フェニル SB カラムとC
H3CN: 水 = 90:10溶離液を用いて流量 0.5ml/minで監視した。試料は100μlを
アセトニトリルで 10ml に希釈して使用した。
溶液を 570mlに濃縮し、MEK 合計 2.5lを加えた。ヘプタン
を除去するため常圧で共沸蒸留を行い、留出物とバッチの GC分析から求めた濃
度が<5 %となるまで継続した。GC条件は DB-5 20m、ヘリウム 0.5ml/min、35
℃定温、保持時間は MEK 6.4min、ヘプタン 8.0min であった。ヘプタン除去中
に晶出が起こる。
溶液は容積を 600mlに調節した後3時間かけて20℃まで冷却し、得られたスラ
リーを -10℃で2時間熟成した。固体をフィルターフリット上に捕集し、冷 MEK
150mlで洗浄し、20℃で真空乾燥した。収量は 170g、分析値は重量比で>99%
、210nm における面積比で>99.2%、工程収率は89%であった。段階 9:メチル化
5ガロン入りオートクレーブにラクタム 3.0kg、BnMe3NCl 150g、トルエン 12
l中にアルミナ上の水酸化カリウム(1:1)3,0kgを含む溶液から成るスラリーを
入れ、20℃で緩やかに撹拌しながら塩化メチル 453g を加えた。スラリーを緩や
かに撹拌しながら65℃に加熱し、1時間熟成した。温度記録上で52℃において約
3℃の発熱スパイクが認められた。
反応の進行は HPLC で監視した。HPLC条件は Zorbax(登録商標)SB フェニル
、CH3CN、0.01M H3PO4、90:10 アイソクラチック溶出、流量 1.5ml/min、紫外線
検出 200nm、保持時間はラクタム 12.4min、IV-a 15.0minであった。試料はトル
エン層の 25 μlをアセトニトリルで 2mlに希釈して用いた。反応の監視は完全
転化(>99.95%)達成まで続けた。反応は60℃において60分未満で完了した。
反応混合物を20℃に冷却し、窒素で4回パージして過剰 MeCl を除去した。ト
ルエン溶液を Solka Floc 100gで濾過し、容器とケーキをトルエン 2lで洗浄し
、濾液を合わせて 100mmHg、20〜30℃で濃縮して残油を得た。この残油はヘプタ
ンと完全に混合し(10ml/g)、曇りを示さない。
油中のトルエン含有量を GC(オーブン温度35℃定温)で測
定した。生成物 100mgをメタノール 0,5mlに溶解し、1 μl を注入した。保持時
間はトルエン 4.4min、メタノール 2.7min であった。
油は真空中に保持して溶媒濃度を2%未満とした後、ガラス皿に注ぎ、シード
として IV-a 1.25g を加え、真空(20mmHg)中に一夜放置した。
得られた固体をブロックに切断し、2℃の水 10 lを含む Waring ブレンダー
で粒子径<50 μm に粉砕した。得られたスラリーを濾過し、水 5.0lで洗浄後
、窒素気流中で一夜乾燥した。収量は 3.0kg、収率は97%であった。実施例2 酢酸 7- ケトコレステリルの製造
触媒としてトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム(II)塩化物 96mg
(0.1mmol)、次いで酢酸コレステリル 4.3g(10.0mmol)をクロロベンゼン 10ml
に溶解し、混合物を真空窒素パージ3回により脱気した後 +5 ℃まで冷却した。
窒素雰囲気中で混合物に90% t- ブチル過酸化水素 4.4ml(40mmol)を15時間か
けて加えた。HPLC分析により酢酸 7- ケトコレステリル 2.85g(65%)が確認さ
れた。
バッチを Solka-Floc で濾過し真空で溶媒を除去した残渣をメタノールに溶解
し、+5℃に冷却して30分間熟成した。このバッチを濾過し冷メタノールで洗浄し
、固体を風乾して酢酸 7-ケトコレステリル 2.26g(51%)を得た。実施例3 酢酸 7- ケトコレステリルの製造
2000mlの三ツ口フラスコにパドル式撹拌機を取り付け、三塩化ルテニウム水和
物 240mg、水 55ml、酢酸コレステリル78.1g、ヘプタン 310mlを加えて225 〜27
5rpmで撹拌した。70% t-BuOOH 229g を4時間かけてゆっくりと加え、水浴によ
って内部の温度を15〜20℃に保った。バッチの温度は5 〜15分の導入時間後ゆる
やかに上昇した。
反応は出発物質1.5wt %未満、中間体である酢酸 7- ヒドロキシコレステリル
2%未満となるまで約20〜24時間、撹拌しつつ継続した。
反応は YMC塩基性カラム、アセトニトリル:水 = 90:10、流量 1.5ml/min、紫
外線検出 200nmで監視した。保持時間は酢酸コレステリル17.0分、酢酸 7- ケト
コレステリル 7.8min、エンジオン 4.5min、中間体 7- ヒドロペルオキシド、7-
オール 6.8、6.9、7.0、8.2min であった。18 min、19 minで溶離する不純物は
酢酸 7-t-BuOO-コレステリルである。
反応混合物に MEK 550ml、水 390ml、亜硫酸ナトリウム 39gを加え、混合物を
70℃に加熱し、不純物エンジオンが完全に除かれるまで約3時間保持した。次い
で反応混合物を冷却後 Solka-Flok のパッドで濾過してルテニウム塩を除去し、
透明な溶液を分液漏斗に移して水層を除き、有機層を1%塩水 100mlで洗浄した
。MEK および t-BuOH を除去するためヘプタンとの共沸蒸留を行い(300ml まで
濃縮後ヘプタン 800mlを添加)、GCで MEKと t-BuOH の合計が 0,7%未満となる
まで継続した。
ヘプタン中の MEKおよび t-BuOH の定量のための GC 条件は HP-5 カラム、35
℃、0.5ml/min、保持時間は MEK 4.9min、t-BuOH 5.3min、ヘプタン 7,7min で
あった。
容積を 350mlに調節し、-5℃に冷却し、濾過して 0℃のヘプタン 150mlで2回
洗浄した。乾燥の後、灰白色固体生成物を収
率 62 %(合計 51.5g、94wt%、面積比97%)を得た。実施例4
実施例1の段階 1と基本的に同一の方法により、式 II の化合物を対応する式
Iの出発物質から製造した。式中、 Zは
であり、 A、 X、 Yは次のように定義される。
(a) A = 6-メチルヘプト-2- イル、X = -CH2-、Y = -OH
(b) A = エチレンケタール、X = -CH2-、Y = エチレンケタール
(c) A = t-ブチルジメチルシリルオキシ(TBDMS-O-)、X = -CH2-、Y = -OC(O)C
H3、および
(d) A = 6-メチルヘプト-2- イル、X = -N(CH3)-、Y = ケト(=O)。
更に実施例1の段階1と基本的に同一の方法により、シクロヘキセノールをシ
クロヘキセノンに酸化した。
(b)の出発物質は市販の 4- アンドロステン-3,17-ジオンをエチレングリコー
ルと HClで標準的反応条件で処理することにより製造した。(c)の出発物質は市
販の 5- アンドロステン
-3,17-ジオール-3- アセテートを TBDMS-Cl とイミダゾールで標準的反応条件で
処理することにより製造した。(d)の出発物質は標準的合成方法、すなわち市販
のコレスタノンの酸化的開環(実施例1、段階 5の方法)とNH2CH3処理によって
製造した。実施例5
16-TBSエーテル(16-tert-ブチルシリルエーテル)のヘキサン溶液(分析値 1
00g)500ml に 20 ℃で水 300ml、三塩化ルテニウム水和物 0.46gを加え、得ら
れた二相混合物を撹拌して10℃に冷却し、t-BuOOH(70wt%)432gを反応温度10
〜15℃を保ちながら5時間かけて添加した。
反応は穏和な発熱性を示し、温度を10〜15℃に保っために水/氷を使用した。
反応は HPLC(Zorbaxフェニル SB,25.0cmカラム、アセトニトリル:水 = 30:
70〜80:20(25min、次いで15min 保持)、紫外線検出 200nm、流量 1.5ml/min)
により監視した。
保持時間 min
OTBSエーテル 29.4
7-ケトン 23.8
TBHP 3.25
反応は出発物質残量が2%未満(<1.5mg/ml)となったとき完了と見なした。
典型的反応時間は10時間であった。
反応完了後、木炭 10g、次いで亜硫酸ナトリウム 20gを加え、
得られたスラリーを30分間撹拌した。
亜硫酸ナトリウムは残存している t-BuOOHその他のヒドロペルオキシドを分解
する。亜硫酸ナトリウムの添加は穏和な発熱反応であり、その程度は t-BuOOH残
留量に依存する。t-BuOOH が完全に除去されたかどうかは HPLC で確認した。二
相混合物を Dicalite で濾過し(3′、焼結体漏斗)、ケーキをヘキサン 300ml
で洗浄し、水層を除去してヘキサン層を水 100mlで2回洗浄した。
少量の界面にごり層はアセトニトリル(20ml)の添加により除去した。
ヘキサン層を小容積まで濃縮し、ヘキサン 400mlで洗浄し、最終容積 150mlま
で濃縮し(ヘキサン:基質比=約 2:1)、その状態で精製段階に進んだ。
ヘキサン溶液はシリカ処理に先立って乾燥した。シリカ処理
上記のヘキサン溶液をシリカゲルカラム(470g、60 〜230 メッシュ、予めヘ
キサンでスラリー化)に充填し、ヘキサン 800mlで溶離して未反応の出発物質を
除いた後、酢酸エチルの10%ヘキサン溶液 1000ml で溶離して 7- ケトンを得た
。
カラムの詳細はフラクション 100ml、更に TLC(ヘキサン中酢酸エチル20%)
またはHPLC(上記)による。
フラクション 14 〜17を合わせて合計 100.0mlに濃縮した。
以上、本明細書の記載および実施例により説明した本発明の原理により、本発
明は添付の特許請求の範囲に包含される通常の変形、調整および改変、並びにそ
の均等物をも包括することが理解されよう。
─────────────────────────────────────────────────────
フロントページの続き
(81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE,
DK,ES,FR,GB,GR,IE,IT,LU,M
C,NL,PT,SE),OA(BF,BJ,CF,CG
,CI,CM,GA,GN,ML,MR,NE,SN,
TD,TG),AP(KE,MW,SD,SZ,UG),
AM,AU,BB,BG,BR,BY,CA,CN,C
Z,EE,FI,GE,HU,IS,JP,KG,KR
,KZ,LK,LR,LT,LV,MD,MG,MN,
MX,NO,NZ,PL,RO,RU,SG,SI,S
K,TJ,TM,TT,UA,US,UZ
(72)発明者 トンプソン,アンドリユー・エス
アメリカ合衆国、ニユー・ジヤージー・
07065、ローウエイ、イースト・リンカー
ン・アベニユー・126
(72)発明者 バクシー,ラマン・ケイ
アメリカ合衆国、ニユー・ジヤージー・
07065、ローウエイ、イースト・リンカー
ン・アベニユー・126
(72)発明者 コーレイ,エドワード・ジー
アメリカ合衆国、ニユー・ジヤージー・
07065、ローウエイ、イースト・リンカー
ン・アベニユー・126