JPH10275723A - 交換結合膜及びこれを用いた磁気抵抗効果素子 - Google Patents

交換結合膜及びこれを用いた磁気抵抗効果素子

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JPH10275723A
JPH10275723A JP7972197A JP7972197A JPH10275723A JP H10275723 A JPH10275723 A JP H10275723A JP 7972197 A JP7972197 A JP 7972197A JP 7972197 A JP7972197 A JP 7972197A JP H10275723 A JPH10275723 A JP H10275723A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 大きな交換結合磁場を有するとともに、熱的
な安定性を備え、経時的に交換結合磁場が変化しない交
換結合膜を得ること。 【解決手段】 本発明の交換結合膜では、基板1上に
(001)方位にエピタキシャル成長したα−Mnバッ
ファー層2、(001)方位に成長した体心正方晶のM
−Mn規則相型の反強磁性体層3、強磁性体層4が順次
積層されている。このような構成により、反強磁性体の
磁気モーメントが交互に配列する結晶軸〔001〕が膜
面に垂直になり、この結果として、エピタキシャル反強
磁性体膜に隣接する強磁性体膜の磁気モーメントの揺ら
ぎがなくなる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、反強磁性体層と強
磁性体層との交換結合を用いた交換結合膜、及びこの交
換結合膜を具備してなる磁気抵抗効果素子に関するもの
である。
【0002】
【従来の技術】パーマロイ合金に代表される磁気抵抗効
果を有する強磁性体を用いた磁気抵抗効果素子は、磁気
ヘッド等をはじめとした磁気センサに用いられている。
磁気抵抗効果とは、磁場を印加することによって電気抵
抗が変化する現象である。パーマロイ等の合金薄膜を用
いた磁気抵抗効果素子においては、素子の磁化の方向と
電流の方向との相対角に依存して抵抗が異なるという異
方的磁気抵抗効果(以下、「AMR効果」という。)を
利用している。
【0003】現在、磁気記録再生用の磁気ヘッドに用い
られているパーマロイ合金薄膜のAMR磁気抵抗効果変
化率は、2〜3%程度である。近年の磁気記録の高密度
化に伴い、磁気ヘッドに用いられる磁気抵抗効果薄膜材
料には、磁気抵抗効果変化率の大きな材料が求められて
いる。磁気ヘッドなどの磁気センサは、磁気記録媒体か
らの小さな漏洩磁場を検出する必要があるために、小さ
な磁場(磁気ヘッドでは例えば、100エルステッド
(Oe)以下)においても大きな磁気抵抗変化率を示
す、すなわち磁場感度の大きな材料が必要となってい
る。
【0004】最近、大きな磁気抵抗効果を実現する材料
として磁性人工格子が注目されている。例えば、ジャー
ナル・アプライド・フィジクス(J.Appl.Phy
s.)第67巻、第9号、5908頁〜5913頁(1
990年)、又は、ジャーナル・オブ・マグネティズム
・アンド・マグネティック・マテリアルズ(J.Mag
n.Magn.Mater.)第94巻、L1頁〜L5
頁(1991年)に記載されているように、鉄(Fe)
とクロム(Cr)、又はコバルト(Co)と銅(Cu)
のような強磁性金属層と非磁性金属層をそれぞれ数オン
グストロームから数十オングストロームの膜厚で交互に
積層させた人工格子膜では、室温においても10%を上
回る非常に大きな磁気抵抗変化率を示すことが報告され
ている。
【0005】Fe/CrやCo/Cu人工格子の磁気抵
抗効果は、磁場ゼロの状態において、強磁性金属層の磁
気モーメントが非磁性金属層をはさんで反強磁性的な配
列をしている状態から磁場印加により強磁性的な配列状
態へ変わる過程で、電気抵抗が小さくなることによって
生じるものである。この場合、電流方向の依存性はな
く、非磁性金属層をはさんで隣り合う磁性層の磁気モー
メントの相対角に依存して電気抵抗が変化するもので、
パーマロイ合金のAMR効果とはその機構が全く異な
り、一般的に巨大磁気抵抗効果(以下、GMR効果とい
う)と呼ばれている。
【0006】しかしながら、強磁性金属層と非磁性金属
層を何周期も積み重ねた人工格子膜のGMR効果の問題
点は、強磁性層間の交換相互作用が大きいために、外部
磁場によって強磁性層の磁化の向きが変化しにくく、磁
気抵抗の飽和する磁場が数kOeから10kOeにもな
り、磁気ヘッドなどの高い磁場感度が要求される磁気セ
ンサに用いることができないということである。
【0007】上述した磁性人工格子の飽和磁場が大きい
という問題点を解決するために、特開平2−61572
号公報、特開平4−358310号公報、特開平6−6
0336号公報等には、2つの磁性膜を非磁性スペーサ
膜により磁気的に分離した構造を有する、いわゆるスピ
ンバルブ(Spin Valve)型の磁気抵抗効果膜
が提案されている。このスピンバルブ膜では、2つの磁
性膜のうちの一方の磁性膜の磁化が定位置に固定できる
ようにし、他方の磁性膜の磁化が外部磁場によって回転
できるようになっている(磁化の固定された磁性層を固
定層、磁化が自由に回転できる層をフリー層と呼ぶ)。
2つの磁性膜の磁化の相対角によって抵抗が変化するこ
とから、スピンバルブと呼ばれている。
【0008】一方の磁性膜の磁化を定位置に固定する方
法として、次のような構成が提案されている。その第1
は、保磁力の異なる2つの磁性金属膜を非磁性スペーサ
層をはさんで積層した構造である。例えば、アプライド
・フィジクス・レターズ(Appl.Phys.Let
t).第59巻、第2号、240頁〜242頁(199
1年)には、保磁力の小さい磁性層として鉄(Fe)、
保磁力の大きな磁性層としてコバルト(Co)、非磁性
スペーサ層として銅(Cu)を用いたスピンバルブ膜が
記載されている。その第2は、2つの軟磁性金属膜を非
磁性スペーサ膜を介して積層し、一方の軟磁性膜に反強
磁性体薄膜を隣接して設けることにより、反強磁性体層
からの交換相互作用による交換バイアス磁場により該軟
磁性層の磁化を固定し、非磁性スペーサ層によって隔て
られた他方の軟磁性層の磁化が、外部磁場によって回転
できるようにした構造である。例えば、フィジカル・レ
ビュー・B(Phys.Rev.B)、第43巻、第1
号、1297〜1300頁(1991年)、又は、特開
平4−358310号公報には、軟磁性膜としてパーマ
ロイ(Ni−Fe)合金、非磁性スペーサ膜として銅
(Cu)、反強磁性体膜として鉄−マンガン(Fe−M
n)合金を用いたスピンバルブ膜が記載されている。そ
の第3は、2つの軟磁性金属膜を非磁性スペーサ膜を介
して積層し、一方の軟磁性膜の両端を電気抵抗が高くか
つ保磁力の大きな強磁性金属に接触させることによって
該軟磁性層の磁化を固定し、非磁性金属層によって隔て
られた他方の軟磁性層の磁化が、外部磁場によって自由
に回転できるようにした構造である。例えば、特開平6
−325934号公報には、軟磁性金属層としてCoF
e合金、非磁性スペーサ層としてCu、高保磁力強磁性
金属膜としてコバルト・白金・クロム(CoPtCr)
合金を用いたスピンバルブ膜が記載されている。
【0009】以上の3つのスピンバルブ膜の磁気抵抗変
化率は、5〜10%程度である。スピンバルブ膜の磁気
抵抗効果は、非磁性層を介して隣接する2つの軟磁性層
間の磁気モーメントの相対角度に依存し、電流の方向に
依存しないことから、人工格子の磁気抵抗効果と同じ機
構によって生じるものである。ただし、スピンバルブ膜
の場合は、2つの軟磁性層間に交換結合が生じないよう
に、非磁性スペーサ層の膜厚は人工格子膜のそれよりも
大きくなっている。したがって、磁気抵抗変化率は、人
工格子膜のそれに及ばないものの、磁気抵抗の飽和する
磁場は非常に小さく、磁場感度が高いのが特徴である。
例えば、特開平6−60336号公報に開示されている
ガラス/Co(6nm)/Cu(3.2nm)/Co
(3.4nm)/FeMn(10nm)/Cu(1n
m)なる構造を有するスピンバルブでは、20〜120
Oeの範囲において8.7%の磁気抵抗変化率を示す。
【0010】交換結合膜を反強磁性体層として、一方の
磁性体層の磁化を固定し、もう一方の磁性体層の磁化を
外部磁場に対してフリーに回転できるようにした構成の
スピンバルブ膜(上記の第2のスピンバルブ膜)は、他
の構成のものに比べ、特性及び磁気ヘッド等への加工性
に優れるために、盛んに研究されている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】反強磁性体と強磁性体
との間に働く交換結合を利用して、非磁性体によって隔
てられた一対の強磁性体層のうち、一方の強磁性体層の
磁気モーメントを固定するタイプのスピンバルブ膜にお
いては、反強磁性体に何を用いるかによって抵抗効果素
子としての性能が大きく影響される。交換結合膜の反強
磁性体として、米国特許第4103315号公報、米国
特許第5014147号公報にはγー FeMnやNi
O、特開平5−315134号公報にはPdMn、特開
平6−76247号公報にはNiMn、特開平8−24
9616号公報にはIrMnを用いたスピンバルブ膜が
提案されている。
【0012】この中で、γー FeMnを用いた交換結合
膜では、比較的大きな交換結合磁場が得られるものの、
γー FeMnが耐食性に乏しいので、磁気ヘッド等の磁
気センサーの製造にあたってはプロセス信頼性がないと
いう問題がある。また、NiOは、ブロッキング温度
(交換結合磁場がゼロになる温度)が他の反強磁性材料
に比べ低く、磁気ディスク装置等、100℃程度の高温
環境下での動作が要求されるところには用いることがで
きないという問題がある。
【0013】これに対して、面心立方格子金属M(M=
Ni、Pd、Pt、Ir、Rh又はこれらの固溶体)と
Mnの1:1組成近傍の金属間化合物は、金属MとMn
が規則的に並んだ結晶構造を持つことから、規則相型の
反強磁性体と呼ばれているが、交換結合磁場、ブロッキ
ング温度も比較的大きいという利点を持っている。
【0014】しかしながら、これらの規則相型の反強磁
性体膜を用いたスピンバルブ膜では、反強磁性体層を結
晶化及び規則化させるために成膜後に高温かつ長時間
(例えば270℃、10時間)の熱処理が必要である。
そのため、この熱処理により強磁性層/非磁性層界面で
拡散が生ずるために、γー FeMnやNiOを反強磁性
体層として用いたスピンバルブ膜に比べ、磁気抵抗変化
率が小さいという問題があった。さらに、NiOを反強
磁性体層として用いたスピンバルブ膜ほど顕著ではない
ものの、経時的に交換結合磁場が減少するという問題が
あった。
【0015】
【課題を解決するための手段】本発明は、このような課
題に対処するためになされたものであり、大きな交換結
合磁場を有するとともに、熱的な安定性を備え、経時的
に交換結合磁場が変化しない交換結合膜、及びこの交換
結合膜を具備してなり、安定した出力を長期にわたって
得ることのできる磁気抵抗効果素子を提供することを目
的とするものである。
【0016】本発明の交換結合膜は、反強磁性体層とこ
れに隣接した強磁性体層からなる交換結合膜において、
該反強磁性体が、Mnと面心立方晶の金属Mからなる体
心正方晶系の規則格子合金M−Mnであって、(00
1)方位にエピタキシャル成長していることを特徴とす
る。ここで、前記のエピタキシャル反強磁性体は、MX
Mn100-X で表され、40at%≦X≦65at%あの
組成を有し、金属Mは、Ni、Pd、Pt、Ir、Rh
より選ばれた1種、又はこれらの固溶体であることを特
徴とする。さらに、前記の(001)方位のエピタキシ
ャル反強磁性体M−Mnが、(001)方位のエピタキ
シャルバッファー層上に形成され、該エピタキシャルバ
ッファー層がα−Mnであることを特徴とする交換結合
膜である。また、前記(001)方位のエピタキシャル
α−Mnバッファー層が、第2の(001)方位のエピ
タキシャルバッファー層上に形成され、該第2エピタキ
シャルバッファー層がV、Cr、Nb、Mo、Ta、W
のいずれか1種であることを特徴とする交換結合膜であ
る。
【0017】また、本発明の磁気抵抗効果素子は、上述
の交換結合膜の強磁性層に隣接して、非磁性層及び強磁
性層、及びこれらに電流を流すための電極とが形成され
てなることを特徴とする。
【0018】通常、交換結合膜又は磁気抵抗効果素子の
製造にあたっては、成膜後磁場中で熱処理を行ってい
る。磁場を印加しながら熱処理を行うのは、膜面内に磁
気異方性(誘導磁気異方性)をつけるためである。成膜
後に熱処理を行わないと、反強磁性体膜は結晶化してい
なかったり、たとえ結晶化していたとしても規則相にな
っていないため、反強磁性体層に隣接する強磁性体層に
は、交換結合が働かないので、成膜後の熱処理により反
強磁性体層の結晶化・規則化が必要である。このように
して作製されるM−Mn規則相型反強磁性体膜は、多結
晶構造の膜である。
【0019】反強磁性体では、ある定まった結晶軸方向
に磁気モーメントが交互に配列している。そのため、多
結晶構造の反強磁性体では、磁気モーメントが交互に配
列する結晶軸方向がバラバラで、このような反強磁性体
膜に隣接する強磁性体膜の磁気モーメントは、膜面に平
行になっているのではなく、図10のように、方位が揺
らいでいるものと考えられる。
【0020】これに対し、本発明の交換結合膜に用いら
れている規則相型反強磁性体膜は、体心正方晶系の結晶
構造を持ち、(001)方位にエピタキシャル成長して
いるために、図11に示すように、反強磁性体の磁気モ
ーメントが交互に配列する結晶軸〔001〕が膜面に垂
直になり、この結果として、エピタキシャル反強磁性体
膜に隣接する強磁性体膜の磁気モーメントの揺らぎがな
くなるものと考えられる。このようなエピタキシャル反
強磁性体層を有する交換結合膜においては、交換結合が
理想的にかかる。
【0021】図10のような多結晶反強磁性体層からな
る交換結合膜の交換結合は、磁気モーメント配列の揺ら
ぎによって平均化されてしまうので、実効的な交換結合
磁場は、図11のエピタキシャル反強磁性体層からなる
交換結合膜のそれよりは小さい。さらに、多結晶反強磁
性体層からなる交換結合膜では、強磁性体層の磁気モー
メントの方位に揺らぎがあるために、熱的に不安定で、
経時的に交換結合磁場が減少してしまう。これに対し、
エピタキシャル反強磁性体層からなる交換結合膜では、
強磁性体層の磁気モーメントの方位に揺らぎがないため
に、熱的に安定である。
【0022】以上のように、(001)方位にエピタキ
シャル成長した体心正方晶の規則格子型反強磁性体を用
いた交換結合膜では、反強磁性体の磁気モーメントの配
列方向が固定化し、その結果、これに隣接する強磁性体
層の磁気モーメントの方位に揺らぎがなくなる。そのた
め、交換結合磁場の熱的安定性が、従来の多結晶反強磁
性体からなる交換結合膜より改善され、経時劣化がなく
なるものと考えられる。したがって、このようなエピタ
キシャル反強磁性体層からなる交換結合膜を用いたスピ
ンバルブ膜等の磁気抵抗効果素子においては、安定した
出力が得られるものである。
【0023】本発明者は、体心正方晶の規則相型の反強
磁性膜を得るため、様々な単結晶基板又はバッファー層
上への規則相型反強磁性膜の成長を行った結果、(00
1)方位にエピタキシャル成長したα−Mnバッファー
層上において、(001)方位にエピタキシャル成長し
た体心正方晶の規則相型反強磁性体膜が得られることを
見い出し、本発明をなすに至った。
【0024】体心正方晶のM−Mn規則相型反強磁性体
とα−Mnの(001)面間の格子ミスマッチは、2%
程度と小さいために、α−Mn(001)エピタキシャ
ルバッファー層上には(001)方位のM−Mn規則相
型反強磁性体をエピタキシャル成長させることができ
る。ここで、α−Mn(001)エピタキシャルバッフ
ァー層は、MgO(001)、Si(001)、GaA
s(001)等の単結晶基板上に成長させることができ
る。さらに、α−Mn(001)エピタキシャルバッフ
ァー層は、第2のエピタキシャルバッファー層上に成長
させることもできる。この場合は特に、(001)方位
にエピタキシャル成長した体心立方晶金属、V、Cr、
Nb、Mo、Ta又はWが、α−Mn(001)エピタ
キシャルバッファー層を得るための第2のエピタキシャ
ルバッファー層として好ましい。これらのエピタキシャ
ルバッファー層は、サファイヤ(1−102)基板上に
容易に成長できることが、特開平6−177453号公
報等より公知である。
【0025】M−Mn規則相型反強磁性体の構成元素で
ある面心立方金属Mは、Ni、Pd、Pt、Ir、Rh
より選ばれた1種、又はこれらの固溶合金であれば、い
ずれもα−Mn(001)エピタキシャルバッファー層
上で、(001)方位を持った体心正方晶のエピタキシ
ャル膜を得ることができる。ただし、M−Mn反強磁性
体層が体心正方晶の規則相で、十分な交換結合磁場を与
えるためには、組成を原子%でMX Mn100-X で表わし
た場合、40at%≦X≦65at%の組成範囲になけ
ればならない。
【0026】本発明の交換結合膜において、(001)
方位にエピタキシャル成長した体心正方晶の規則相型反
強磁性体膜に隣接する強磁性体膜は、特に限定されるも
のではないが、磁気抵抗効果素子として用いる場合、パ
ーマロイ、センダスト等の軟磁性膜や、Fe、Ni、C
oの強磁性金属やこれらの合金薄膜、又はCoZrNb
等のアモルファス磁性薄膜等が好ましい。つまり、これ
ら強磁性体膜は、必ずしもエピタキシャル成長している
必要はなく、多結晶構造の膜であっても、非晶質構造の
膜であってもよい。また、強磁性体層は2種類以上の強
磁性体層からなっていてもかまわない。
【0027】さらに、本発明の磁気抵抗効果素子は、本
発明の交換結合膜の強磁性体層に接する非磁性体層を設
け、該非磁性体層によって磁気的に分離されたもう一方
の強磁性体層とからなる構造をしている。すなわち、規
則相型のエピタキシャル反強磁性体層によって、これに
隣接した強磁性体層の磁気モーメントは一方向に固定さ
れ、この強磁性体層と非磁性体層を介して隔てられたも
う一方の強磁性体層の磁気モーメントは、外部磁場に対
して自由に回転できる、いわゆるスピンバルブ構成をと
っている。非磁性体層としては、Cu、Ag、Au等の
面心立方晶の金属が適しているが、中でもCuが大きな
磁気抵抗変化率を得る上で好ましい。
【0028】本発明の交換結合膜及びこれを用いた磁気
抵抗効果素子は、蒸着法、スパッタ法等公知の成膜方法
により形成される。反強磁性体層に一軸異方性を付与す
るために、成膜中及び熱処理時に磁場を印加してもよ
い。
【0029】
【発明の実施の形態】次に本発明の実施の形態について
図面を用いて説明する。
【0030】図1は、本発明に係る交換結合膜の第一実
施形態を示す模式図である。本実施形態の交換結合膜で
は、基板1上に(001)方位にエピタキシャル成長し
たα−Mnバッファー層2、(001)方位に成長した
体心正方晶のM−Mn規則相型の反強磁性体層3、強磁
性体層4が順次積層されている。α−Mn(001)エ
ピタキシャルバッファー層2を成長させるための基板と
しては、例えば、MgO(001)、Si(001)、
GaAs(001)等が適当である。これらの基板1上
にα−Mn(001)エピタキシャルバッファー層2を
成長させるには、蒸着法の場合では、基板温度を室温〜
400℃、スパッタ法の場合には室温〜100℃の範囲
内で成膜を行えばよい。α−Mn(001)エピタキシ
ャルバッファー層2上に、M−Mn規則相型反強磁性体
層3をエピタキシャル成長させるには、基板温度は、室
温〜600℃の範囲内、望ましくは室温〜350℃の範
囲内であることが好ましい。この温度範囲内であれば、
平坦な表面を有しかつ、規則化した結晶構造を有するエ
ピタキシャル膜を得ることができる。そして、最上層に
強磁性体層4を成膜して本実施形態の交換結合膜ができ
る。強磁性体層4は、2種類以上の強磁性体が積層され
た構造となっていてもよい。
【0031】図2は、本発明に係る交換結合膜の第二実
施形態を示す模式図である。本実施形態の交換結合膜で
は、基板11上に(001)方位にエピタキシャル成長
した体心立方晶金属のエピタキシャルバッファー層1
5、(001)方位にエピタキシャル成長したα−Mn
バッファー層12、(001)方位に成長した体心正方
晶のM−Mn規則相型の反強磁性体層13、強磁性体層
14が順次積層されている。(001)方位の体心立方
晶金属エピタキシャルバッファー層15を成長させるた
めの基板11としてはサファイヤ(1−102)基板が
適している。基板温度を550℃〜1050℃にするこ
とによって、V、Cr、Nb、Mo、Ta、Wの(00
1)方位のエピタキシャルバッファー層15を得ること
ができる。(001)方位の体心立方晶金属エピタキシ
ャルバッファー層15上にα−Mn(001)エピタキ
シャルバッファー層12を成長させるには、蒸着法の場
合では、基板温度を室温〜400℃、スパッタ法の場合
には室温〜100℃の範囲内で成膜を行えばよい。そし
て、α−Mn(001)エピタキシャルバッファー層1
2上にM−Mn規則相型反強磁性体層13をエピタキシ
ャル成長させるには、基板温度は室温〜600℃の範囲
内、望ましくは室温〜350℃の範囲内であることが好
ましい。この温度範囲内であれば、平坦な表面を有しか
つ規則化した結晶構造を有するエピタキシャル膜を得る
ことができる。そして、最上層に強磁性体層14を成膜
して本実施形態の交換結合膜ができる。強磁性体層14
は、2種類以上の強磁性体が積層された構造となってい
てもよい。
【0032】図3は、第一実施形態の交換結合膜を用い
た磁気抵抗効果素子の模式図である。図1の交換結合膜
の強磁性体層4上に、非磁性体層6、強磁性体層7を積
層した構造を有する。図4は、第二実施形態の交換結合
膜を用いた磁気抵抗効果素子の模式図である。図2の交
換結合膜の強磁性体層14上に、非磁性体層16、強磁
性体層17を積層した構造を有する。ここで反強磁性体
層3、13に隣接した強磁性体層4、14はピン層、非
磁性体層6、16で隔てられたもう一方の強磁性体層
7、17はフリー層となる。非磁性体層6,16として
は、面心立方晶金属のCu、Ag、Au等より選ばれる
が、中でも磁気抵抗変化率を大きくするにはCuが最も
好ましい。
【0033】本発明の交換結合膜及びこれを用いた磁気
抵抗効果素子の強磁性体膜は、特に限定されるものでは
ないが、パーマロイ、センダスト等の軟磁性膜や、F
e、Ni、Coの強磁性体金属やこれらの合金薄膜、又
はCoZrNb等のアモルファス磁性薄膜等が好まし
い。これら強磁性体膜は、必ずしもエピタキシャル成長
している必要はなく、多結晶構造の膜であっても、非晶
質構造の膜であってもよい。また、強磁性体層は2種類
以上の強磁性体からなっていてもかまわない。
【0034】
【実施例】次に本発明について具体的実施例を用いて、
さらに詳細に説明する。なお、本発明の交換結合膜及び
これを用いた磁気抵抗効果素子は、蒸着法、スパッタ法
等公知の成膜手段を用いて形成できることは、上述した
とおりである。そこで、以下の実施例においては、蒸着
法により成膜した例について詳述することにする。以下
の実施例に交換結合膜及びこれを用いた磁気抵抗効果素
子の成膜は、金属の蒸発源として、電子ビーム蒸着源及
び抵抗加熱蒸着源(Kセル)を備えた蒸着装置により行
った。この装置は、クライオポンプにより排気され、4
8時間のベーキングにより10-10 トール(Torr)
台の到達真空度が得られる超高真空対応の蒸着装置(い
わゆるMBE装置)である。また、反射高速電子線回折
(RHEED)装置を備え、成長中の薄膜表面のエピタ
キシャル性の評価を行うことができる。反強磁性体M−
Mnの金属M、体心立方晶金属バッファー層、及び強磁
性体層の成膜には電子ビーム蒸着源を、反強磁性体M−
MnのMn、Mnバッファー層、及び非磁性体層の成膜
にはKセルをそれぞれ用いた。規則相型のM−Mn反強
磁性体層は、金属Mの電子ビーム蒸着源とMnのKセル
の蒸着速度を所望の組成が得られるよう調整し、同時蒸
着により成膜した。
【0035】(実施例1)一般に、エピタキシャル金属
膜の成長においては、単結晶下地と金属の成長面の格子
整合性が重要なファクターになっている。単結晶下地と
しては、単結晶基板、又は単結晶基板上に成長させたエ
ピタキシャルバッファー層を用いることができる。単結
晶基板上に直接エピタキシャル金属膜が得られればよい
が、格子不整合が大きいとか、基板と反応してしまう等
の理由で適当な基板がない場合は、エピタキシャルバッ
ファー層を設けて、この上に目的とする金属をエピタキ
シャル成長させる。
【0036】まず、規則相型反強磁性体としてNiMn
について、様々な単結晶基板上に成膜を行い、エピタキ
シャル成長するかどうかを調べた。NiMnの成長速度
は0.5nm/s、基板温度は300℃、膜厚は100
nmとした。なお、NiMnの組成はNi50Mn50にな
るように調整した。エピタキシャル成長の可否はRHE
EDにより判定した。Si(001)、Si(11
0)、Si(111)、MgO(001)、MgO(1
10)、サファイヤ(1−102)、サファイヤ(11
−20)、サファイヤ(0001)、GaAs(00
1)基板上にNiMnを上記の成長条件で成膜したもの
の、いずれの単結晶基板上においてもNiMnはエピタ
キシャル成長しなかった。
【0037】(実施例2)実施例1において、単結晶基
板上にはNiMnはエピタキシャル成長しないことが分
かった。そこで、次にエピタキシャルバッファー層上に
NiMnがエピタキシャル成長するかどうかを調べた。
α−Mn又はNbのバッファー層上にNi50Mn50を成
膜し、その結晶性を調べた。バッファー層の膜厚は20
nmとした。Ni50Mn50の成長速度は0.5nm/
s、基板温度は250〜350℃、膜厚は100nmと
した。
【0038】結果を図5に示すが、(001)方位にエ
ピタキシャル成長したα−Mnバッファー層上におい
て、(001)方位のエピタキシャルNi50Mn50層を
成長させることができる。なお、α−Mn(001)エ
ピタキシャルバッファー層は、Si(001)、MgO
(001)、GaAs(001)基板上においてのみ成
長が確認された(サファイヤ基板上にはα−Mnはエピ
タキシャル成長しなかった)。Si(001)、MgO
(001)、GaAs(001)基板上のα−Mn(0
01)バッファー層上にエピタキシャル成長したNiM
n層が、体心正方晶の結晶構造を有し、(001)方向
にエピタキシャル成長していることは、RHEED及び
X線回折により確認できる。α−Mn(001)バッフ
ァー層及びNiMn(001)層ともにストリークから
なるRHEEDパターンを示し、平坦な結晶表面が得ら
れている。
【0039】図6は、MgO(001)基板上に成長さ
せたα−Mn(001)バッファー層/NiMn(00
1)のX線回折パターンである。α−Mnの(004)
と体心正方晶のNiMn(001)、(002)のピー
クのみが観測される。X線回折とRHEEDパターンを
解析すると、体心正方晶のNiMnの格子定数が、a=
0.303nm、c=0.262nm、c/a=0.8
65と求められる。α−MnとNiMnのエピタキシャ
ル関係は、 α−Mn(001)[100]‖NiMn(001)
[100] であった。
【0040】(実施例3)実施例2において、エピタキ
シャルNiMn層を成長させるには、α−Mn(00
1)エピタキシャルバッファー層が有用であることが判
明した。そこで、α−Mn(001)が成長する第2の
エピタキシャルバッファー層について調べた。第2のエ
ピタキシャルバッファー層として、体心立方晶金属であ
る、V、Cr、Nb、Mo、Ta、Wをサファイヤ基板
上に成長させ、その上に成長させたMn層の結晶性につ
いてRHEEDを用いて評価した。ここで、第2のエピ
タキシャルバッファー層の膜厚は5nmとし、Mn層の
膜厚は25nmとした。Mn層の、基板温度は200℃
とした。体心立方晶金属のエピタキシャルバッファー層
上に成長させたMn層の結晶性を図7に示す。上記の体
心立方晶金属の(001)方位のエピタキシャルバッフ
ァー層上でエピタキシャル成長したα−Mn(001)
が得られることが分かる。
【0041】(実施例4)実施例3においてα−Mn
(001)エピタキシャルバッファー層の得られた試料
(試料番号7〜12)の上に、基板温度を室温から60
0℃の範囲で変えてNi50Mn50層を成長させ、RHE
ED及び走査型電子顕微鏡(SEM)により、結晶性と
表面モフォロジーを評価/観察した。NiMn層の膜厚
は50nmとした。RHEEDによれば、(001)方
位のエピタキシャルNiMn層は、いずれの試料上にも
成長することが確かめられた。しかしながら、NiMn
層の基板温度が400℃を超えると表面平坦性が悪くな
ってくることがSEMの観察から明らかになった。した
がってNiMn層を交換結合膜又は磁気抵抗効果素子用
の反強磁性体層として用いる場合は、NiMn層成膜時
の基板温度は室温から350℃の範囲内にあることが好
ましい。
【0042】(実施例5)規則相型反強磁性体M−Mn
の構成金属MをNi、Pd、Pt、Ir、Rhのいずれ
か一つ又はこれらの固溶体とし、体心正方晶系の結晶構
造が得られる組成範囲についてRHEED及びX線回折
により調べた。実施例2より、α−Mn(001)はS
i(001)、MgO(001)、GaAs(001)
基板上のいずれにもエピタキシャル成長すること、さら
に実施例3より、サファイヤ(1−102)基板上で
(001)方位にエピタキシャル成長した体心立方晶金
属(V、Cr、Nb、Mo、Ta、W)の第2のエピタ
キシャルバッファー層上に、α−Mn(001)を成長
させることができることが分かった。そこで、本実施例
においては、MgO(001)基板/α−Mn(00
1)、又はサファイヤ(1−102)基板/Nb(00
1)バッファー層/α−Mn(001)バッファー層の
いずれかの上にM−Mn膜を成長させた場合について述
べる。α−Mn(001)バッファー層、Nb(00
1)エピタキシャルバッファー層、M−Mn層の膜厚を
それぞれ、5nm、2nm、10nmとし、それぞれ2
00℃、900℃、150℃の基板温度で成長させた。
得られたM−Mn層の結晶性を図8及び図9に示す。
【0043】図8及び図9のM−Mnの結晶性の欄のB
CT(001)は、体心正方晶の(001)方位のエピ
タキシャルM−Mn膜が得られたことを示している。図
8及び図9より、MX Mn100-X で表した場合、40a
t%≦X≦65at%の組成の範囲内であれば、MをN
i、Pd、Pt、Ir、Rhのいずれか一つ又はこれら
の固溶体としたM−Mnは、α−Mn(001)エピタ
キシャルバッファー層上で、体心正方晶の結晶構造を持
ち、(001)方位にエピタキシャル成長することが分
かる。
【0044】(実施例6)実施例3で作製したMn層
(試料番号7〜20)上に、基板温度100℃で、膜厚
10nmのNi50Mn50、膜厚10nmのパーマロイ
(Ni81Fe19)層を積層した交換結合膜の交換結合磁
場を測定した。なお成膜は、50Oeの磁場印加中で行
った。試料番号7〜12の第2バッファー層上には、α
−Mn(001)のエピタキシャルバッファー層が成長
し、したがってこの上には体心正方晶のNi50Mn
50(001)がエピタキシャル成長する。一方、試料番
号13〜20の第2バッファー層上には、α−Mn(0
01)がエピタキシャル成長することができないので、
Ni50Mn50は多結晶構造の膜になってしまう。以上の
ようなNi50Mn50層上にパーマロイ膜を積層する。
【0045】Ni50Mn50層が(001)方位にエピタ
キシャル成長した体心正方晶構造を有する場合(すなわ
ち、図2に示すような構造を有する交換結合膜)では、
250〜350Oeという大きな値の交換結合磁場が得
られた。これに対して、Ni50Mn50層が多結晶構造と
なってしまった場合は、交換結合磁場は10〜50Oe
と小さい値しか得られなかった。ただし、後者の場合、
270℃で10時間の磁場中熱処理を行うことによっ
て、交換結合磁場は100〜150Oeに増加した。
【0046】このように、(001)方位にエピタキシ
ャル成長した体心正方晶のNiMn層上にパーマロイ層
を積層した交換結合膜では、熱処理を行わなくても、2
50〜350Oeという大きな交換結合磁場を得ること
ができる。これに対し、多結晶のNiMn層を用いた交
換結膜では、熱処理なしでは小さな交換結合しか得られ
ないし、熱処理を行ってもNiMn(001)エピタキ
シャル反強磁性体層を用いた交換結合膜の交換結合磁場
の半分程度の交換結合しか得られない。強磁性体膜とし
て、センダスト、Co90Fe10、CoZrNbアモルフ
ァス(センダスト、CoZrNbは、RFスパッタ法に
より成膜した)の交換結合膜についても調べたが、パー
マロイ膜を用いた場合とほとんど同じ結果が得られた。
【0047】(実施例7)実施例5で作製したM−Mn
層の上に強磁性体層を積層した交換結合膜の交換結合磁
場Hex を測定した。用いた強磁性体層はパーマロイ
(Ni81Fe19)で、その膜厚は10nmとした。な
お、パーマロイ層は、基板温度100℃で、50Oeの
磁場を印加して成膜した。
【0048】M−Mn層が、(001)方位にエピタキ
シャル成長した体心正方晶構造を有する場合(すなわ
ち、図1又は図2に示すような構造を有する交換結合
膜)では、70〜460Oeの交換結合磁場が生じる。
これに対して、Mx Mn100-x の組成が40at%≦X
≦65at%からはずれて、多結晶構造となってしまっ
た場合は、交換結合磁場はほとんどゼロであり、M−M
n層が反強磁性体になっていないことが判明した。強磁
性体層として、センダスト、Co90Fe10、CoZrN
bアモルファス(センダスト、CoZrNbは、RFス
パッタ法により成膜した)の交換結合膜についても調べ
たが、パーマロイ層を用いた場合とほとんど同じ結果が
得られた。
【0049】(実施例8)図3に示すスピンバルブ膜構
造を有する磁気抵抗効果素子を作製した。具体的に本実
施例で作製された磁気抵抗効果素子は、MgO(00)
基板上に膜厚2nmのα−Mn(001)/膜厚10n
mのNi50Mn50(001)/膜厚5nmのNi81Fe
19/膜厚3nmのCu/膜厚5nmのCo90Fe10より
構成される。本実施例の磁気抵抗効果素子は、基板温度
150℃で蒸着法により成膜した後、50μm×10μ
mに加工した。素子の長手方向に一軸異方性を付与する
ために成膜は50Oeの磁場中で行った。成膜後、20
0℃の磁場中で10分間保持する熱処理を行い(磁場印
加方向は素子の長手方向に直交する方向)、交換バイア
ス磁場を素子の長手方向に直交する方向に付与した。さ
らに比較例として、500nmの熱酸化膜のついたシリ
コン基板上に、膜厚12nmのNi50Mn50/膜厚5n
mのNi81Fe19/膜厚3nmのCu/膜厚5nmのC
90Fe10より構成される磁気抵抗効果素子も作製し
た。比較例の磁気抵抗効果素子も本実施例と同様の工程
で作製した。ただし、磁場中熱処理は、270℃、10
時間の条件で行った。というのは、長時間の熱処理を行
わないとNiMn膜の結晶化が起こらず反強磁性体とな
らないからである。
【0050】本実施例の磁気抵抗効果素子の反強磁性体
は、(001)方位に成長した体心正方晶の規則相であ
り、一方、比較例の磁気抵抗効果素子の反強磁性体膜
は、面心正方晶で指数付けできる多結晶構造を有してい
ることがRHEED及びX線回折から分かった。得られ
た磁気抵抗効果素子に外部磁場を印加し、その磁場応答
特性(磁気抵抗比、交換結合磁場)を調べたところ、本
実施例の磁気抵抗効果素子では、磁気抵抗比8%、交換
結合磁場350Oeが得られたのに対し、比較例の磁気
抵抗効果素子では、それぞれ、2.3%、120Oeで
あった。さらに100個の素子について、200℃の恒
温槽中で400時間保管後の磁場応答特性を調べたとこ
ろ、本実施例の磁気抵抗効果素子においては、交換結合
磁場が10%程度減少している素子が35%あったが、
磁気抵抗比の劣化は全く変化がなく、熱安定性に優れて
いる。これに対し、比較例の磁気抵抗効果素子において
は、交換結合磁場の減少が大きく、極端な場合は交換結
合がゼロになってしまっているものが20%もあった。
当然のことながら磁気抵抗比の劣化も著しかった。
【0051】(実施例9)図4に示すスピンバルブ膜構
造を有する磁気抵抗効果素子を作製した。具体的に本実
施例で作製された磁気抵抗効果素子は、サファイヤ(1
−102)基板上に、膜厚2nmのNb(001)/膜
厚2nmのα−Mn(001)/膜厚10nmのNi55
Mn45(001)/膜厚4nmのNi79Fe19Co5
膜厚1nmのCo90Fe10/膜厚3nmのCu/膜厚1
nmのCo90Fe10/膜厚6nmのNi79Fe16Co5
より構成される。ここで、エピタキシャル反強磁性体膜
上及び非磁性層上の強磁性体層を2層構成にしているの
は、スピン依存散乱を大きくするのと非磁性層と強磁性
層の拡散を抑制するためである。本実施例の磁気抵抗効
果素子は、基板温度150℃で蒸着法により成膜した
後、50μm×10μmに加工した。素子の長手方向に
一軸異方性を付与するために成膜は50エルステッドの
磁場中で行った。成膜後、200℃の磁場中で10分間
保持する熱処理を行い(磁場印加方向は素子の長手方向
に直交する方向)、交換バイアス磁場を素子の長手方向
に直交する方向に付与した。
【0052】本実施例の磁気抵抗効果素子の反強磁性体
は、(001)方位に成長した体心正方晶の規則相であ
ることがRHEED及びX線回折から分かった。得られ
た磁気抵抗効果素子に外部磁場を印加し、その磁場応答
特性(磁気抵抗比、交換結合磁場)を調べたところ、磁
気抵抗比14%、交換結合磁場390エルステッドが得
られた。さらに200℃の恒温槽中で400時間保管後
の磁場応答特性を調べたところ全く変化がなく、本発明
の磁気抵抗効果素子は、熱安定性に優れている。
【0053】
【発明の効果】本発明によれば、大きな交換結合磁場を
持つとともに熱的な安定性を備え、経時的に交換結合磁
場が変化しない交換結合膜を提供できる。さらに、本発
明の磁気抵抗効果素子は、上述の交換結合膜を使用する
ので、安定した出力を長期にわたって得ることができる
ものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の交換結合膜の構造を示す模式図であ
る。
【図2】本発明の交換結合膜の構造を示す模式図であ
る。
【図3】本発明の磁気抵抗効果素子の構造を示す模式図
である。
【図4】本発明の磁気抵抗効果素子の構造を示す模式図
である。
【図5】本発明の実施例2における、製造条件と結晶性
との関係を示す図表である。
【図6】本発明の実施例2における、MgO(001)
基板上に成長させたα−Mn(001)バッファー層/
NiMn(001)エピタキシャル膜のX線回折パター
ンを示すグラフである。
【図7】本発明の実施例3における、製造条件と結晶性
との関係を示す図表である。
【図8】本発明の実施例5における、製造条件と結晶性
との関係を示す図表である。
【図9】本発明の実施例5における、製造条件と結晶性
との関係を示す図表である。
【図10】従来の交換結合膜の磁気構造を説明するため
の模式図である。
【図11】本発明の交換結合膜の磁気構造を説明するた
めの模式図である。
【符号の説明】
1,11 基板 2,12 (001)方位にエピタキシャル成長したα
−Mnバッファー層 3,13 (001)方位にエピタキシャル成長した体
心正方晶のM−Mn規則相型反強磁性体層 4,14 強磁性体層(ピン層) 6,16 非磁性体層 7,17 強磁性体層(フリー層) 15 (001)方位にエピタキシャル成長した体心立
方晶金属のバッファー層

Claims (7)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 反強磁性体層とこれに隣接した強磁性体
    層とからなる交換結合膜において、 前記反強磁性体層が、Mnと面心立方晶の金属Mとから
    なる体心正方晶系の規則格子合金M−Mnであって、
    (001)方位にエピタキシャル成長したものであるこ
    とを特徴とする交換結合膜。
  2. 【請求項2】 前記反強磁性体層は、MX Mn100-X
    表され、40at%≦X≦65at%の組成を有する、
    請求項1記載の交換結合膜。
  3. 【請求項3】 前記金属Mは、Ni、Pd、Pt、Ir
    及びRhからなる群より選ばれた1種又は2種以上の合
    金である、請求項1又は2記載の交換結合膜。
  4. 【請求項4】 前記反強磁性体層が(001)方位のエ
    ピタキシャルバッファー層上に形成され、このエピタキ
    シャルバッファー層がα−Mnである、請求項1,2又
    は3記載の交換結合膜。
  5. 【請求項5】 前記エピタキシャルバッファー層が単結
    晶基板上に形成され、この単結晶基板がSi(00
    1)、MgO(001)又はGaAs(001)のいず
    れかである、請求項4記載の交換結合膜。
  6. 【請求項6】 前記エピタキシャルバッファー層が、更
    に別の(001)方位のエピタキシャルバッファー層上
    に形成され、この別のエピタキシャルバッファー層が
    V、Cr、Nb、Mo、Ta又はWのいずれかである、
    請求項4又は5記載の交換結合膜。
  7. 【請求項7】 請求項1,2,3,4,5,又は6記載
    の交換結合膜の強磁性体層に隣接して、非磁性体層及び
    強磁性体層が形成されてなる磁気抵抗効果素子。
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