JPH10187236A - 動的システムの診断装置 - Google Patents

動的システムの診断装置

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JPH10187236A
JPH10187236A JP34638096A JP34638096A JPH10187236A JP H10187236 A JPH10187236 A JP H10187236A JP 34638096 A JP34638096 A JP 34638096A JP 34638096 A JP34638096 A JP 34638096A JP H10187236 A JPH10187236 A JP H10187236A
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disturbance
dynamic system
excitation
correlation
failure
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JP34638096A
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English (en)
Inventor
Koji Umeno
孝治 梅野
Katsuhiro Asano
勝宏 浅野
Hidekazu Ono
英一 小野
Masaru Sugai
賢 菅井
Hiroyuki Yamaguchi
裕之 山口
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Toyota Central R&D Labs Inc
Original Assignee
Toyota Central R&D Labs Inc
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Abstract

(57)【要約】 【課題】路面の状態に係わらず高精度に故障やタイヤ空
気圧変動を診断する。 【解決手段】 動的システム10を制御入力uで制御する
と共に動的システムの内部状態量xと相関の無い励振信
号Δuで動的システムを励振させる制御器12と、励振さ
れた動的システムの応答出力yに基づいて、動的システ
ム内の故障により発生する内部外乱ベクトル及び励振に
より動的システムで発生する励振外乱の和としての総合
的外乱wを推定するオブザーバ32と推定された総合的外
乱wと内部状態量xとの相互相関を演算し、総合的外乱
wから内部外乱xに関連する成分を分離する相関演算手
段34と、分離された内部外乱に関連する成分に基づいて
動的システム10の故障箇所の診断を行う診断手段36と、
から構成する。動的システム10を励振させるので、外部
外乱が小さいときでも応答出力yを大きくすることがで
き、これにより、故障やタイヤ空気圧変動を高精度に診
断できる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、動的システムの診
断装置に係り、特に、装置内に備えられた励振手段によ
り動的システムを励振させ、励振された動的システム内
の故障により発生した内部外乱に基づいて外部からの外
乱が小さいときでも高精度に動的システムの故障の診
断、タイヤ空気圧の診断、及びタイヤ回りの状態の診断
などを行うことを可能とした動的システムの診断装置に
関する。
【0002】
【従来の技術】動的システムの診断装置として、特開平
7−98268号公報には、以下のような技術が開示さ
れている。
【0003】すなわち、上記公報に記載の技術は、動的
システムの応答出力ベクトルに基づいて、動的システム
の外部から作用する外部外乱ベクトル及び動的システム
内の故障により発生した内部外乱ベクトルの和としての
総合的外乱ベクトルを推定すると共に動的システムの内
部状態量ベクトルを推定し、この推定された総合的外乱
ベクトルと内部状態量ベクトルとの相互相関を演算する
ことにより総合的外乱ベクトルから内部外乱に関連する
成分を分離し、この分離された内部外乱に関連する成分
から動的システムの対応箇所を故障箇所としてシステム
の診断を行うというものである。
【0004】この技術によれば、1つのオブザーバによ
り動的システムの診断箇所を特定すると同時に診断箇所
の故障の有無や故障量を推定することができるので、従
来の一般化尤度比較検定法のように複数箇所の診断を各
箇所に対応して設けられた多くのオブザーバを用いて行
う必要がなく、また少ない計算量で精度の良い故障検出
を行うことができるという利点がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記公
報記載の従来技術では、システム外部からの外乱に由来
する動的システムの応答出力に基づいて動的システムの
総合的外乱ベクトルを推定している。例えばサスペンシ
ョンと車輪で構成される動的システムでは凹凸のある路
面を走行する車輪に作用する外部外乱を入力として利用
している。従って、良路を走行する場合などのように外
部外乱による入力が小さい場合には応答出力が小さくな
るため、たとえ出力値を正規化したとしても量子化誤差
などにより故障の検出精度やタイヤ空気圧の推定精度が
低下する、という問題が生じる。
【0006】また、上記従来技術では、外部外乱の一定
時間の平均値が零若しくは零に近い値をとる場合に総合
的外乱ベクトルから故障により発生した内部外乱ベクト
ルに関連した成分を高精度に分離できる。しかし、路面
の状況によっては、外部外乱の統計的性質が異なり、高
精度に内部外乱ベクトルを分離することができない場合
があるという問題がある。
【0007】本発明は、上記事実に鑑みて成されたもの
で、外部外乱が小さい場合でも常に高精度で故障を検出
できると共に、路面の状態に係わらず常に高精度でタイ
ヤ空気圧やタイヤ回りの状態の診断が可能な動的システ
ムの診断装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
(1)動的システムの診断装置に関する発明 上記目的を達成するために請求項1の発明は、動的シス
テムの故障を検出する動的システムの診断装置におい
て、前記動的システムの内部状態量ベクトルと相関の無
い励振信号で前記動的システムを励振させる励振手段
と、少なくとも前記励振手段により励振された動的シス
テムの応答出力ベクトルに基づいて、動的システム内の
故障により発生する内部外乱ベクトル及び励振により動
的システムで発生する励振外乱ベクトルの和としての総
合的外乱ベクトルを推定する外乱推定手段と、推定され
た前記総合的外乱ベクトルと前記内部状態量ベクトルと
の相互相関を演算し、前記総合的外乱ベクトルから内部
外乱に関連する成分を分離する相関演算手段と、前記相
関演算手段により分離された内部外乱に関連する成分に
基づいて前記動的システムの故障箇所の診断を行う診断
手段と、を備えたことを特徴とする。
【0009】ここにおいて、前記励振手段は、前記動的
システムの内部状態量ベクトルと相関の無い励振信号と
して、白色性信号(例えば、いわゆるM系列信号)又は
周波数をスイープした信号(低周波から高周波にスイー
プする)などを用いて前記動的システムを励振させるこ
とができる。
【0010】図1には、本発明に係る動的システム診断
装置の1例としての構成が示されている。ここにおい
て、動的システムを励振させる励振器としての機能を兼
ね備えた制御器12は、動的システム10をある内部状
態に制御するための制御信号uと動的システム10を励
振させるための励振信号Δuとを加算した信号(u+Δ
u)を制御入力14として診断装置30の診断対象とな
る動的システム10へ入力する。
【0011】この動的システム10は、前記制御入力1
4に含まれる制御信号uに基づき内部状態が変化しこれ
により制御出力16が変化すると共に、励振信号Δuに
基づき、ある状態まで変化された内部状態の回りで励振
される。図1の例では、制御器12は、この制御出力1
6をフィードバック信号として用い、動的システム10
の制御を行う。
【0012】また、制御器12は制御出力16が小さい
場合にΔuによる励振制御を開始したりΔuを大きくし
て動的システムの励振振幅を大きくする制御などを行う
ようにしても良い。逆に、外部外乱が大きいため制御出
力が十分に大きい場合には、制御器12がΔuによる励
振制御を停止させるようにしても良い。
【0013】図1において、動的システム10はn個の
内部状態量(すなわち、システムの次数はn)を有し、
上述した制御信号uは、m個の要素から成るシステム1
0への制御入力ベクトル14を表す。yは、システム1
0から出力されるp個の要素から成る制御出力ベクトル
16を表している。またdは、制御された内部状態の回
りに励振信号Δuにより励振される動的システム10の
励振外乱ベクトル15を表している。
【0014】ここにおいて、制御入力ベクトル14がm
個の要素を持つため、通常では励振入力Δuもまたm個
の要素を持つようシステムを構成するが、このように構
成した場合、励振外乱ベクトル15の要素の個数もm個
となる。しかし、各故障箇所を全て高精度に検出するた
めには、励振外乱ベクトル15が動的システム10の内
部状態量ベクトルと同じ次数であるn個の要素を持つよ
うに励振器を構成した方が望ましい。
【0015】このように励振器を構成することにより、
この励振外乱ベクトル15は動的システム10へ次数n
の外部外乱が加わったときと同じ外乱作用を動的システ
ムにもたらし、外部外乱が小さいか又は全く無い場合に
も、動的システムの制御出力を大きくして高精度に各故
障箇所を検出することができる。
【0016】また、本発明の診断装置30は、外乱推定
手段32と、相関演算手段34と、診断手段36とを含
み、動的システム10の故障を内部外乱として検出する
ように構成されている。
【0017】前記外乱推定手段32は、少なくとも前記
動的システム10の内部状態量ベクトル(動的システム
10の内部の状態量を表す各要素から構成されるベクト
ル)に基づき、動的システム10の励振外乱ベクトルd
および内部外乱ベクトルの和としての総合的外乱ベクト
ルwを推定し、相関演算手段34へ向け出力するように
構成されている。
【0018】なお、図1では、動的システム10の制御
出力ベクトルyが外乱推定手段32に入力される。そし
て、外乱推定手段32は、制御出力ベクトルyから動的
システム10の内部状態量ベクトルxを推定演算し、相
関演算手段34へ向け出力している。このような推定演
算は、制御出力ベクトルyに、内部状態量ベクトル量x
の各要素を演算できる情報が含まれている場合に行われ
る。前述した内部状態量ベクトルxの推定演算は、総合
的外乱ベクトルwの推定と同時に行われる。具体的に
は、(4b)で示した総合的外乱ベクトルwと状態量xとで
構成した新たな状態量を、従来の線形制御理論(例え
ば、古田、佐野著:「基礎システム理論」、コロナ社1
978,pp127−137)に基づいて演算して求め
る。
【0019】また、制御出力ベクトルyに含まれる情報
量が内部状態量ベクトルを推定するのに足りない場合に
は、必要に応じ動的システム10の内部に内部状態量を
検出するセンサを設け、そのセンサ出力を外乱推定手段
32へ入力するようにすればよい。
【0020】また、動的システム10の制御出力ベクト
ルyまたは必要に応じ動的システム10内に設けられた
内部状態量センサから、全ての内部状態量ベクトルxの
情報が直接得られる場合には、内部状態量xを相関演算
手段34へ向け直接出力するよう構成すればよい。
【0021】相関演算手段34は、推定された前記総合
的外乱ベクトルwの各要素と、内部状態量ベクトルxの
要素との相互相関を演算し、前記総合的外乱ベクトルw
の各要素から内部外乱に関連する成分を分離する。分離
された内部外乱に関連する成分は、診断手段36へ向け
出力される。
【0022】診断手段36は、分離された内部外乱に関
連する成分から、前記動的システム10の診断箇所を特
定し、その状態を求めるよう形成されている。
【0023】ここにおいて、前記相関演算手段34は、
総合的外乱ベクトルwの複数の要素に対する相互相関を
演算し、総合的外乱ベクトルwの複数の要素から内部外
乱に関連する成分を分離するよう形成することが好まし
い。
【0024】このとき分離された内部外乱に関連する成
分の各要素は、動的システム10内に発生する各故障箇
所に対応するものである。このため、診断手段36は、
分離された内部外乱に関連する成分の各要素から、動的
システム10内における故障の発生およびその故障箇所
を特定することができる。
【0025】この場合には、診断手段36は、あらかじ
め内部外乱に関連する成分の各要素に対応した故障検出
用基準値が記憶されたメモリ部40と、分離された内部
外乱に関連する成分の要素と、対応する故障検出用基準
値とを比較し、前記動的システム10の故障箇所を特定
する故障特定部38と、を含むように形成することが好
ましい。
【0026】なお、制御器12が、動的システムの制御
を行わず、かつ制御出力16に応じた励振制御を行わな
い場合には、故障診断装置を図2のように構成すること
ができる。すなわち、制御器12の代わりに励振手段と
してのみ機能する励振器13を置き、外乱推定手段32
は、制御出力16に基づいて総合的外乱ベクトルを推定
する。
【0027】本発明は以上の構成からなり、次にその作
用を説明する。まず、外乱推定手段32について説明す
る。
【0028】診断対象となる動的システム10に故障が
発生すると、診断対象の内部状態量は正常時とは異なる
応答を示す。この応答は、見方を変えれば、励振外乱を
入力として正常時の応答に、その故障に対応したある種
の外乱が加わったものであると考えることができる。こ
の外乱は、診断対象10に外部から侵入したものではな
く、内部で発生したものである。外乱推定手段32は、
故障によって生じたこの内部外乱を、励振外乱との和と
しての総合的外乱wとして推定する。
【0029】この外乱推定手段32の、外乱推定原理を
以下に説明する。なお、以下の説明では、外部外乱が励
振外乱と比べてきわめて小さいか或いは全く存在しない
場合を想定する。
【0030】まず動的システム10は、次の状態方程式
で表現されているものと仮定する。 x (t)=Ax(t) +Bu(t) +d(t) y(t) =Cx(t) ・・・(1) ここで、x(t)は、診断対象となる動的システム10
の内部状態量ベクトル、u(t)は制御入力ベクトル、
y(t)は制御出力ベクトルを示し、またd(t)は外
部外乱を無視しているため、純粋に励振外乱ベクトルを
表している。また、行列A、B、Cは診断対象の構造に
よって決まる定数行列(診断対象を構成するシステムの
パラメータ)である。
【0031】なお、励振外乱ベクトルd(t)は、次式
によって励振入力ベクトルΔu(t)と関係付けられ
る。
【0032】d(t) = B・Δu(t) そして、前記(1) 式は、次式で表されることになる。
【0033】 故障時の診断対象10は等価的に行列A、Bの変動(パ
ラメータの変動)を用いて表現できる。すなわち、故障
に応じて、行列AはΔA(t)、行列BはΔB(t)だ
け変動したとすると、故障後の診断対象、すなわち故障
後の動的システム10は、次のように書き表される。 x(t)=Ax(t) +Bu(t) +{ΔA(t)×(t) +ΔB(t)u(t)+d(t)} =Ax(t) +Bu(t) + Dw(t) ・・・(2) ただし、前記Dw(t)は、次式で書き表される。
【0034】 Dw(t) = ΔA(t)×(t) +ΔB(t)u(t)+d(t) ・・・(3) ここで、行列Dは、故障によって外乱が診断対象10の
どの経路に発生するかを表すもので、励振外乱の侵入経
路と想定した故障に対応して設定される。
【0035】行列A、Bが故障により変動した場合、励
振外乱d(t)は、正確には次式により与えられること
となる。
【0036】 d(t) = B・Δu(t)+ΔB・Δu(t) すなわち、励振外乱d(t)には、故障により新たに発
生した成分ΔB・Δu(t)が含まれるようになる。励
振外乱d(t)は、故障による影響と相関の無い方が診
断精度の点で望ましいので、制御出力yを所定値より小
さくしない範囲で可能な限り励振入力Δu(t)をΔB
・Δu(t)の項が無視できる位の微小励振とする。
【0037】Δuが観測できる場合は、u+Δuをシス
テムの入力として扱えるので、励振入力が無視できる
程、微小である必要はない。この場合、d(t)は外部
外乱のみとなる。
【0038】なお、前記(2) 式、(3) 式を一般的な行列
式で書き表すと次式のようになる。
【0039】
【数1】
【0040】このように、故障時の診断対象の状態ベク
トルの応答は、正常時の応答{Ax(t)+Bu
(t)}と、外乱{Dw(t)}との和で表すことがで
きる。外乱推定手段32は、この外乱Dw(t)を推定
すべく構成されている。
【0041】このときの外乱の推定は次のようにして行
われる。まず第1のステップでは、外乱w(t)を状態
に含めた診断対象10の拡張系を構成する。そのために
w(t)に次の仮定を設け、w(t)を診断対象の状態
として追加する。 w(t)=O ・・・(4) これにより、w(t)を状態に含めたシステムの拡張系
は、次式で書き表される。
【0042】 そして、第2のステップで、前記(4b)式の状態〔xTw
T〕Tを、従来の線形制御理論を用いて推定演算する。
【0043】なお、前記(4) 式の仮定は、図5に示すよ
う、本来連続的に変化する外乱100を、同図において
110で示すよう階段状に近似することを意味してい
る。この階段の幅は狭いほど近似の精度はよい。この幅
は、外乱推定手段32の外乱推定時間に対応しており、
実施する上では推定時間は外乱の変化する速さに比べて
非常に短くすることができるので、この近似は充分実用
に耐えるものである。
【0044】このように、外乱推定手段32は、拡張し
た系が可観測であれば、診断対象の状態が全て測定でき
ない場合でも、測定できない状態を推定すると同時に故
障に対応する外乱を推定することができる。
【0045】次に、相関演算手段34について説明す
る。前述したように、外乱推定手段32が推定した総合
的外乱ベクトルw(t)は、診断対象10の故障によっ
て生じる内部外乱と、正常、故障にかかわらず、励振に
より診断対象で発生する励振外乱dとが混在したものに
なっている。
【0046】前記励振外乱dは内部状態量ベクトルと無
相関の信号により発生した振動であり、白色性信号など
を用いて動的システムを励振させたときには、一定時間
の平均をとるとその値が零になるという特徴を有する。
本発明では、前記励振外乱dのこの特徴に着目し、推定
された総合的外乱w(t)から、故障によって生じた内
部外乱に関連する成分(パラメータの変動成分ΔA、Δ
B)を分離するための演算を行う。このような演算の代
表的手法は最小自乗法である。
【0047】まず、前記(3) 式から、次式を定義する。 θT = [ΔA ΔB ] , ζT = [ xT uT ] ・・・(5) そして、最小自乗法の手法を用い、N個のデータから、 を最小にする を求める。これは、上式を で偏微分した式を零とおいて求められ、次式で表され
る。
【0048】 さらに、(7) 式を漸化式に直すと、
【0049】次に、この様な相互相関の演算の具体例
を、ベクトルζの各要素との間に相関がない場合を例に
とり説明する。この場合には、総合的外乱w(t)と、
励振外乱に対し相関のない内部状態量x(t)との相関
関係を求めることで、総合的外乱w(t)から内部外乱
に関連する成分を分離することができる。
【0050】例えば、外乱ベクトルw(t)の推定値の
i番目の要素を取り上げると、これは次式で表される。
【0051】
【0052】この(8) 式から明らかなように、推定され
た外乱のi番目の要素は、診断対象10の故障を表す量
Δaijと、内部状態量ベクトルx(t)の各要素x
1、x2・・・との線形結合からなっている。
【0053】そこで、推定外乱のi番目の要素から、そ
の故障量を取り出すために、推定外乱のi番目の要素と
診断対象10の内部状態量との相互相関を取る。そのと
き、相互相関演算に用いられる診断対象の内部状態量
は、動的システム10の内部に設けられたセンサ等で直
接測定された値を用いてもよく、前述したように外乱推
定手段32によって推定された値を用いてもよい。
【0054】まず、前記(8) 式に示す、推定外乱のi番
目の要素と、xのj番目の要素xjとの相互相関関数を
求める場合を考える。このとき、前記相互相関関数は次
式で定義される。
【0055】 なお、ここでは前述したように、励振外乱ベクトルd
(t)の各要素と、内部状態量ベクトルxの各要素との
間に相関はないものと仮定している。
【0056】前記相互相関関数、自己相関関数は、次式
で表される。 この(9) 式における各値は、次式で表される。
【0057】 なお、前記(8) 式を用いた演算は、内部状態量xjがセ
ンサなどを用いて直接測定された場合を想定している。
これに対し、xjが直接測定されない場合には、外乱推
定手段32からの推定値を用いて相互相関関数を次式に
基づき求めればよい。
【0058】
【0059】 外乱推定手段32は、故障、外部外乱及び励振外乱の有
無にかかわらず、診断対象の内部状態量xjを誤差なく
推定することができるので、前記(10)式、(11)式のよう
な相関をとっても、内部状態を直接測定した場合とほと
んど変わらない結果を得ることができる。
【0060】次に、診断手段36について説明する。診
断手段36は、相関演算手段34により演算される内部
外乱に関連する成分である相関関数Cijにより、故障
の発生の検出およびその故障箇所の特定を行う。すなわ
ち、相関Cijを状態の自己相関vxjで割って正規化
することによりパラメータ変動Δajiを検出すること
ができる。整理すると、 となる。上式は平均値を零とすれば、(7) 式においてベ
クトルζの各要素間に相関がないと仮定した場合と等し
い。
【0061】例えば、診断対象となる動的システム10
の構成要素に、構成要素Iと構成要素IIとがあり、構成
要素Iを表現するパラメータが前記状態方程式の(1) 式
で表現された動的システムのA行列の1行1列目にあ
り、構成要素IIを表現するパラメータがA行列の1行1
列目および1行2列目にあると仮定する。このとき、相
関関数C12、すなわちΔa12が値を持てば、ただち
に構成要素IIの故障であると判断する。また、C12に
値がなく、C11、すなわちΔa11が値を持てば、構
成要素Iの故障であると判定する。
【0062】このようにして、本発明によれば、動的シ
ステム10を構成する各構成要素に発生する故障を確実
に検出すると共に、その故障箇所を正確に特定すること
ができる。
【0063】ちなみに、故障に対応する量を、オブザー
バによって推定された状態と直接測定した状態との残差
から求める従来技術は、この残差が故障と簡潔な関係に
はない(前記(8) 式のような簡潔な関係にはない)の
で、相関演算のような簡単な計算によって故障を特定す
ることは出来ない。
【0064】なお、本発明は外乱推定手段32の設計に
応じて、以下のような態様を取り得る。
【0065】第1の態様は、診断対象10の全ての内部
状態量x(t)がセンサ等を用いて測定でき、外乱推定
手段32は総合的外乱ベクトルw(t)のみを推定する
ように形成された場合である。この場合は、外乱推定手
段32は、その次数が外乱の次数だけで済むため、構成
が最も簡単で、故障検出精度も最も高いという利点があ
る。
【0066】第2の態様は、診断対象10の内部状態量
x(t)の一部が測定できない場合または、測定しなく
ても外乱推定手段によって推定できる場合である。これ
らの場合には、外乱推定手段32は、総合的外乱ベクト
ルw(t)と、測定できないまたは測定しない内部状態
量とを推定演算するよう形成される。
【0067】この場合には、診断対象10の内部状態量
の一部を測定する必要がないので、センサの削減が可能
となる。外乱推定手段32は、外乱量と共に測定できな
い内部除隊量をも推定するので、この推定値を相関演算
を用いることによって、全ての内部状態を測定した場合
とほぼ等しく故障を測定することができる。
【0068】第3の態様は、診断対象10の内部状態量
x(t)の一部が測定できないとき、外乱推定手段32
が相互的外乱ベクトルw(t)と、測定できない内部状
態量を含めた全ての内部状態量x(t)とを推定演算す
るよう形成した場合である。
【0069】この場合も、第2の態様と同様に、センサ
の削減が可能となると共に、全ての内部状態量を測定し
た場合とほぼ等しく故障を特定することができる。
【0070】また、外乱推定手段32の設計が、第2の
対応より若干簡単になるという利点もある。
【0071】以下に、前記第1〜第3の態様を採る場合
の演算を詳細に説明する。まず、第1態様でのべたよう
に、診断対象10の全ての内部状態量が測定される場合
である。
【0072】この場合に、前記(8) 式の外乱ベクトルの
平均をとると、この演算式は次式で表される。
【0073】 従って、診断対象の状態量を全て測定できるとき、推定
された外乱ベクトルと状態量xjとの相互相関関数を求
めると、その値は次式で示すようになる。
【0074】 ここで、診断対象の状態量の間に相関がないという仮定
から、前記(12)式の各項は次式で表される。
【0075】 また、診断対象の状態xjと励振外乱との間にも相関が
ないと仮定しているので、次式で示す関係が成立する。
【0076】 この結果、前記相関関数の値は、最終的に次式で表され
ることになる。
【0077】 また、前記第2の態様、第3の態様のように、外乱推定
手段32からの推定値を用いて相互相関を演算する場合
には、その演算式は次式で表される。
【0078】 ここにおいて、診断対象の状態量の間に相関がないと仮
定しているため、前記数(13)式の各項は次式で表される
ことになる。
【0079】 したがって、前記相関関数の値は、次式で表されること
になる。
【0080】 このようにして求めた相関関数を用いることによって
も、同様にして故障の発生およびその故障箇所の特定を
行うことができる。
【0081】なお、外部外乱d’が大きいため制御出力
が十分に大きくなる場合に制御器12がΔuによる励振
制御を停止させたとき、上記各式において励振外乱dを
外部外乱d’に置き換えるだけで同様のことが成り立
つ。
【0082】以上のような原理に基づく故障診断では、
故障検出手段として、故障によって生じる外乱を診断対
象の1つの状態として推定する外乱推定手段を用いてい
るため、故障検出速度と故障検出感度のトレードオフが
存在せず、故障検出速度、故障検出感度が格段に向上す
る。そして、故障に応じた多くのオブザーバを用いる必
要がなく、また必要に応じ診断対象の全ての状態を測定
しなくても、診断対象の故障箇所を感度よく特定するこ
とができる。
【0083】また、推定された外乱と故障箇所との関係
が、簡単な数式によって表現できるので、診断対象の内
部状態量との相関を求めるという簡単な演算によって、
容易に外部からの外乱と故障によって発生した内部外乱
とを分離し、故障箇所の特定を行うことができる。
【0084】このとき、相関演算に用いられる内部状態
量としては、単にセンサによって直接測定されたものだ
けでなく、必要に応じ外乱推定手段が外乱と同時に推定
した内部状態量を用いることができ、これによって、診
断対象の全ての内部状態量が測定されていなくても詳細
な故障検出が可能となる。
【0085】(2)タイヤ空気圧診断装置に関する発明 〔発明の説明〕次に、前述した動的システムの診断装置
の原理をタイヤ空気圧診断装置に適用したものについて
説明する。
【0086】本発明のタイヤ空気圧診断装置を、前述し
た図1の動的システム診断装置に基づいてより詳細に説
明する。
【0087】本発明において診断対象となる動的システ
ム10は、サスペンションと車輪からなるシステムであ
る。タイヤ空気圧などが変動すると、同システムの各状
態量は、正常時とは異なった応答を示すことになる。こ
の応答は見方を変えれば、正常時の応答に空気圧などの
変動に対応した内部外乱が加わったものであると考える
ことができる。そこでこの外乱、すなわち総合的外乱ベ
クトルを外乱推定手段32を用いて推定すれば、タイヤ
空気圧の変動を検知することができる。
【0088】今、サスペンションと車輪とからなる動的
システム10が、次の状態方程式で表現されているもの
とする。なお、以下では、路面から受ける路面外乱が小
さいか或いは全く無い場合を想定する。これは良路など
を車両が走行する場合に相当している。 x=Ax+Bu+d y=Cx ・・・(14) ここにおいて、xはシステム10の内部状態量ベクト
ル、uは制御入力、yはシステム10のセンサなどから
直接検出出力される制御出力ベクトル(内部状態量ベク
トル)である。dは励振により発生する励振外乱を表
す。また、行列A,B,Cは、システム10の物理パラ
メータによって定まる定数行列である。
【0089】なお、励振外乱dは、次式によって励振入
力Δuと関係付けられる。 d = B・Δu ここで、制御入力uを、サスペンションがアクティブサ
スペンションであるときのアクティブサスペンションへ
の操作量とすることができる。この場合、操作量uにア
クティブサスペンションを励振させる励振操作量Δuを
加算した操作量(u+Δu)をアクティブサスペンショ
ンに入力する。
【0090】また、それ以外では、制御入力uを、車輪
のホイールシリンダにブレーキ力を加える制御ソレノイ
ドバルブへの平均的なブレーキ力指令とすることができ
る。この場合、平均的なブレーキ力指令uにブレーキ力
を励振させる励振指令Δuを加算した指令(u+Δu)
を制御ソレノイドバルブに入力する。この方法はアクテ
ィブサスペンション及び従来のパッシブサスペンション
のいずれの場合にも適用することができる。
【0091】勿論、アクティブサスペンションの場合、
アクティブサスペンションへの操作量及び制御ソレノイ
ドバルブへのブレーキ力指令の両者を併用することも可
能である。
【0092】ここで、ブレーキ力によって励振制御を行
う場合のタイヤ空気圧診断装置の構成を図3に示す。
【0093】図3のタイヤ空気圧診断装置では、図1の
制御器12の代わりに、車輪に作用するブレーキ力を制
御するブレーキ力制御手段190が備えられている。ブ
レーキ力制御手段190は、ブレーキ力指令uによって
車輪に対し平均的なブレーキ力Pm を作用させると共
に、動的システム10の内部状態量とは無相関の微小励
振ブレーキ力指令Δuによって車輪に対し微小励振ブレ
ーキ力Pv を作用させる。これによって、ブレーキ力は
平均ブレーキ力Pm の回りにブレーキ力Pv で微小励振
し、動的システム10へ励振外乱dが与えられる。
【0094】ブレーキ力制御手段190が出力したブレ
ーキ力指令uは伝達特性192を介して実際の車輪に作
用するブレーキ力Pm に換算されて外乱推定手段32に
入力される。この伝達特性192は、ブレーキ力指令u
を実際のブレーキ力Pm に変換するメカニズムの伝達関
数Hで表される。
【0095】また、ブレーキ力制御手段190には、制
御出力16が入力されるようになっており、ブレーキ力
制御手段190は、制御出力16の値に応じて微小励振
ブレーキ力指令Δuによる励振を行うか否かを決定す
る。また、このように制御出力16に応じて励振を行う
か否かを決定しない場合には、図4に示した構成とす
る。すなわち、制御出力を出力する動的システムの出力
端とブレーキ力制御手段190とを接続しない。
【0096】このブレーキ力制御手段190は、平均ブ
レーキ力Pm が作用していない場合(u=0、Pm
0)にも、微小励振ブレーキ力指令Δuによるブレーキ
力の励振が可能なように構成することができる。なお、
ブレーキ力制御手段190の詳細な構成については後述
する(図20〜図21参照)。
【0097】以下、システム10に入力uが存在する場
合と、システム10に入力uが存在しない場合とに分け
て本発明の説明を行う。
【0098】(システム入力が存在する場合)この場合
には、タイヤの空気圧等の変動は、システム10の物理
パラメータの変動に置き換えられる。この変動は、行列
Aの変動を用いて表現できる。すなわち、空気圧などの
変動によって、行列AはΔAだけ変動したとすると、変
動後のシステムは次のように書き表される。
【0099】 x=Ax+Bu+(ΔAx+d) =Ax+Bu+Dw ここにおいて、前記Dwは次式で表される。
【0100】 Dw=ΔAx+d ・・・(15) この(15)式から、タイヤの空気圧の変動によって、ΔA
xという新たな外乱が生じることが判る。また、前記D
は、1と0の要素で構成される行列であり、励振外乱の
侵入経路と、システム10のパラメータの変動によって
生じる外乱の発生源とに応じて設定するものである。
【0101】このように、変動時の状態ベクトルの応答
は、正常時の応答と外乱Dw(t)との和で表すことが
できる。外乱推定手段32は、この外乱wを推定すべく
構成することになる。
【0102】外乱推定手段32は、次の二つのステップ
に分けて構成される。第1のステップでは、外乱w
(t)を状態に含めたシステムの拡張系を構成する。そ
のために、w(t)に次の仮定を設け、w(t)を診断
対象10の状態として追加する。
【0103】w=O これにより、外乱wを状態に含めたシステム10の拡張
系は、次式で表されることになる。
【0104】 そして、第2ステップにおいて、前記(16)式の状態〔x
TwT〕Tを推定する推定手段32を、従来の線形制御
理論を用いて構成する。このようにして設計された推定
手段32によって、外乱wを推定する。
【0105】また、前記式23の仮定は、連続的に変化
する外乱w(t)を、図5に示すよう階段状に近似する
ことを意味していることは既に説明した。
【0106】このようにして構成された外乱推定手段3
2は、システム10の状態量ベクトルxが全て測定でき
ない場合でも、測定できない状態を推定すると同時に、
空気圧等の変動に対応する外乱を推定することができ
る。
【0107】前記(15)式からも判るように、推定手段3
2が推定する外乱は、励振による励振外乱dと、タイヤ
の空気圧などの変動によってシステム10の内部で生じ
る内部外乱ΔAxとの和となっている。(15)式はベクト
ルとして表現されているが、例えばこのベクトルの第1
要素を取り上げると、これは次式で表される。
【0108】 〔Dw〕1 =ΔD111 +ΔD122 +・・・+Δa1jj +・・・+d1 ・・・(17) 但し、Δa1jは行列ΔAの1行j列要素である。
【0109】以下、前記(17)式に基づいて、具体的な説
明を行う。前記(17)式において、Δa11がタイヤの空
気圧の変動による要素であり、その他の要素はタイヤの
空気圧以外の変動によって生じるものと仮定する。この
場合、タイヤの空気圧の変動によって発生する内部外乱
は、状態量x1に依存していることが判る。すなわち、
この場合、タイヤの空気圧の変動によってシステム10
に影響を及ぼす状態量はx1である。
【0110】そこで、推定手段32が推定した外乱〔D
w〕1から、励振外乱dを除去し、タイヤの空気圧変動
による内部外乱に関連する成分のみを検出するために、
推定した外乱〔Dw〕1と状態量x1との相互相関を演
算する。この演算は相関演算手段34にて行われる。こ
のとき演算される相互相関をC(〔Dw〕1,w1)と
置くと、これは結果的に次式に示す値を持つ。
【0111】
【0112】ここにおいて、励振外乱及び空気圧以外の
変動による他の内部外乱の項は、状態量x1と相関が無
いことは前述した。従って、前記(18)式の相関演算をす
ることにより、推定外乱wからタイヤの空気圧変動に対
応した内部外乱のみを抽出することができる。
【0113】このようにして計算された相関関数は、推
定外乱wに含まれるいろいろな周波数成分の中から、タ
イヤのバネ定数の変動によってのみ生じる内部外乱の周
波数成分に相当する値を持っている。従ってこの相関関
数の計算値から、バネ定数の変動量が検出できる。
【0114】前記(18)式に示す相互相関関数は、バネ定
数の変動を表す項Δa11と、次式で表す状態量の自己
相関関数との積で表現できる。ここにおいて、診断手段
36は、例えば前記相互相関関数を状態量の自己相関関
数で割ることによって、バネ定数の変動量Δa11を定
量的に検出することができる。
【0115】 そして、診断手段36は、得られたバネ定数の変動量Δ
a11が、異常と判断すべきタイヤ空気圧に対応するバ
ネ定数の変動量に達したとき、空気圧が異常と判断を下
す。 (システム10に入力が存在しない場合)次に、システ
ム10に入力が存在せず、システムを微小励振のみさせ
た場合について説明する。
【0116】この場合、サスペンションと車輪からなる
動的システム10は、次の状態方程式で表現される。
【0117】x=Ax+d y=Cx ここにおいて、xはシステム10の状態量ベクトルであ
り、yはシステムのセンサなどから直接測定される出力
ベクトルであり、dは励振外乱を表す。また、行列A,
B,Cはシステム10の物理パラメータによって決まる
定数行列である。アクティブサスペンションと異なる点
は、(14)式に見られるシステム10への入力uが存在し
ないことである。
【0118】そして、空気圧などの変動によって、行列
AがΔAだけ変動したとすると、変動後のシステムは次
式で表される。 x=Ax+(ΔAx+d) =Ax+Dw ・・・(19) ここにおいて、前記Dwは次式で表される。
【0119】 Dw=ΔAx+d ・・・(20) 前記(19)式、(20)式から、外乱wを含めたシステム10
の拡張系は次式で表されることになる。
【0120】 そして、外乱オブザーバ32の構成を含めた以後の構成
及び作用は、入力uを除けば、前記アクティブサスペン
ションと全く同様である。
【0121】このように、従来のサスペンションの様に
システム10に入力が存在しない場合でも、タイヤの空
気圧異常を検出することができる。
【0122】なお、以上述べた動的システムの診断装置
は、タイヤ空気圧の診断だけではなく、例えば、タイヤ
回りの状態(サスペンションに用いられる減衰器のダン
パ減衰力、タイヤの偏心状態、ホイールの状態、タイヤ
の磨耗や異物のかみ込み状態など)の診断にも適用可能
である。
【0123】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して本発明の実
施の形態を説明する。
【0124】(第1の実施の形態)次に、本発明を自動
車のアクティブサスペンション制御系の故障検出に適用
した例を、第1の実施の形態として説明する。
【0125】図6には、第1の実施の形態の診断対象と
なる図1の動的システム10の具体例が示されている。
この動的システム10は、自動車の単輪サスペンション
の振動モデルを表している。同図において、ホイール4
1は、パラメータmlで表されるバネ下質量部と、バネ
定数k1で表されるホイール(タイヤ)のばね部で表現
される。また、42は、バネ上定数m2を持つ車体部を
表し、46はバネ定数k2を持つガスバネを表し、48
は減衰器定数Dmを有する減衰器を表し、56は路面か
らの変位を表す。また、52は、変数x1で表されるバ
ネ下変位、50は変数x2で表されるバネ上範囲、54
は変数yで表される相対変位(x1−x2)、44はサ
スペンションを制御する制御器から出力される操作量u
から制御に必要なアクティブ制御力fを発生する制御力
発生器を表す。
【0126】ここで、動的システム10の診断時には、
制御力発生器44へ励振用の操作量Δuを加えた操作量
(u+Δu)が入力され、制御力発生器44は励振制御
力Δfを加えたアクティブ制御力(f+Δf)を発生す
る。これにより、車体部42及びホイール41は、制御
力fにより変位される位置の回りでΔfにより励振す
る。また、Δuには、白色性信号又は周波数をスイープ
した信号を用いる。以下では、Δfにより動的システム
に発生した変位をx0とする。このx0は、次式で与え
られる。
【0127】x0 = Δy = Δx1−Δx2 なお、第1の実施の形態では、車両が良路を走行する場
合を想定しているので、路面変位56は変位x0に比べ
て小さく、従って外部外乱は無視する(以下の実施の形
態も同様)。
【0128】同図より、数式1の状態方程式は、以下の
ように表される。
【0129】
【数2】
【0130】ここにおいて、Tは制御力発生器44の応
答時間、すなわち操作量uとアクティブ制御力fとの間
の時間的遅れを表している。
【0131】a,bは次式で表される。 a=k1/m1+k2/m1+k2/m2 b=1/m1+1/m2 本実施の形態では、故障として、故障タイヤの空気圧の
異常、ガスバネ46の圧力異常及び減衰器48の故障を
想定する。そしてこれらの故障をそれぞれパラメータk
1、k2 、Dmの変動として扱う。そして上記振動モデ
ル10に基づいて外乱オブザーバ32を構成する。
【0132】すなわち、前記数2において、パラメータ
k1、k2、Dmは、右辺の第2要素及び第4要素にあ
る。従って、想定した故障によって発生する内部外乱の
侵入経路も、この2カ所に設定する。設定は、前記(2)
式で表される行列Dに基づいて行われる。この場合は、
次式のように設定すればよい。
【0133】 このDを用いて、前記(4b)式に示す拡張系を作成し、図
7の外乱オブザーバ32を構成する。
【0134】本実施の形態では、外乱オブザーバ32が
以下の3つの態様に分けて構成される。
【0135】第1の態様は、サスペンションモデル10
におけるバネ上変位x2、バネ上速度、相対変位y、相
対速度及びアクティブ制御力fが全て測定できる場合で
ある。このような場合に用いられる外乱オブザーバ32
は、内部状態量の推定を行う必要はない。なお、前記バ
ネ上速度、相対速度は次式で表される。
【0136】ばね上速度=x2 相対速度 =y 第2の態様は、バネ上変位x2、相対変位yのみが測定
でき、外乱オブザーバ32は、その他の測定されない内
部状態量(ここではバネ上速度、相対速度)を推定する
場合である。
【0137】第3の態様は、バネ上変位x2、相対変位
yのみが測定でき、外乱オブザーバ32は、これらを含
めた内部状態量の全てを推定する場合である。
【0138】以下、前記各態様について用いられる外乱
オブザーバ32と、これを用いて構成される診断装置3
0を詳細に説明する。
【0139】(第1の態様)図7には、前記第1の態様
として用いられる診断装置30のブロック図が示されて
いる。同図において、10は図6に示す動的システム
(単輪サスペンション)を表し、12は前記サスペンシ
ョンを制御している制御器を表し、14はサスペンショ
ンを制御するために制御器12から出力された操作量
(u+Δu)を表し、16は図示しないセンサを用いて
測定されたサスペンションの全ての内部状態量を表して
いる。
【0140】ここでは、内部状態量の全てがセンサを用
いて測定されるため、外乱オブザーバ32は後述する第
2の態様、第3の態様のように、内部状態量の一部また
はその全てを推定する必要は無い。なお、17は、外乱
オブザーバ32に入力される制御器12からの操作量u
を表し、この外乱オブザーバ32には励振入力Δuを除
いた操作量uのみが入力される。
【0141】本実施の形態の外乱オブザーバ32は、診
断対象10内におけるタイヤの空気圧の異常、ガスバネ
の圧力異常及び減衰器の故障を、診断対象となる動的シ
ステム10の内部外乱として捉らえる。そして、制御器
12の操作量14と、測定されたサスペンション10の
全ての状態量16とから、動的システム10の励振外乱
ベクトル及び内部外乱ベクトルの和としての総合的外乱
ベクトルwを推定演算し、相関演算部34へ向け出力す
る。
【0142】相関演算部34は、外乱オブザーバ32が
推定演算した総合的外乱ベクトルの推定値と、動的シス
テム10の内部状態量であるバネ上変位、相対変位及び
相対速度との相互相関を演算する。このとき、前記バネ
上変位、相対変位及び相対速度等の内部状態量は、励振
外乱に対し相関のない要素である。このため、これら内
部状態量と前記総合的外乱ベクトルの推定値との相互相
関を演算することにより、励振外乱の影響を除外し故障
によって発生する内部外乱に関連する成分を分離し、そ
の演算結果を診断部36へ向け出力することができる。
【0143】診断部36は、このようにして相互相関演
算部34から入力される演算結果に基づき、動的システ
ム10内における故障の発生を検出すると共に、前記相
関演算部34によって演算された内部外乱の発生箇所に
基づき、サスペンションの具体的な故障箇所を特定する
よう形成されている。
【0144】実施の形態の故障診断装置30は以上の構
成からなり、次にその作用を説明する。
【0145】図6に示す振動モデル10内において、想
定された故障が発生した場合を想定する。この場合、外
乱オブザーバ32は、サスペンション10への制御入力
fと、診断対象の状態とから、故障に応じて先に設定し
た総合的外乱ベクトルの第2および第4要素w2、w4
を推定する。このとき、これら外乱の推定遅れが無視で
きるほど小さいと仮定すると、これらの推定値は次の(2
2)式で表される。
【0146】
【0147】ここにおいて、Δk1はタイヤの空気圧異
常によって生じたパラメータ変動、Δk2はガスバネの
圧力異常によって生じたパラメータ変動、ΔDmは減衰
器の故障によって生じたパラメータ変動を表している。
【0148】推定された総合的外乱は、前述したパラメ
ータ変動分とサスペンションの状態変数(相対変位y、
その相対速度及びバネ上変位x2)の積和からなる分
と、励振外乱として加わっている変位x0との和となっ
ている。
【0149】そこで、相互相関部34及び診断部36
は、推定された総合的外乱から、励振外乱と内部外乱と
の分離及び故障の判定を次のようにして行う。
【0150】まず、w2の推定値と、測定値yの相関関
数C21、w4の推定値と測定値yの相関関数C41、
w4の推定値と測定値(相対速度)との相関関数C42
を演算する。w2の推定値には、励振外乱が含まれてい
るが、測定値yとの相関を取ることによって、yと相関
のない励振外乱による変位の影響は除去され、故障分の
みが、例えば相関関数C21の値として抽出されること
になる。
【0151】次に、これら相関関数の値から故障箇所を
特定する。例えば、相関関数C41には、ガスバネの変
動分しか表れない。このため、この値に異常があればた
だちにガスバネの故障と特定できる。
【0152】同様に、相関関数C42に異常があれば減
衰器の故障であると判定される。残るタイヤの空気圧異
常は、相関関数C21によって判定される。C21は、
ガスバネの故障もしくはタイヤ空気圧異常によって値を
持つことになるが、前記C41による判定により、ガス
バネの故障が検出されるので、ガスバネに故障が無くC
21の値に異常があれば、タイヤの空気圧異常と判定で
きる。なお、ガスバネとタイヤの空気圧異常が同時に発
生すれば両者の区別はできないが、この様なことは実際
にはまれにしか起こり得ないので問題は無い。
【0153】このように、本実施の形態では総合的外乱
の推定値と、故障箇所との関係が簡単な数式によって表
現でき、診断対象の状態との相関を求めるという簡単な
演算によって、故障箇所の特定を行うことができる。
【0154】さらに、本実施の形態では、良路を走行す
る場合のように外部外乱がきわめて小さい場合でも、励
振による外乱をシステムに与えるため、制御出力が小さ
くなることによる演算精度の低下を防止することができ
る。また、システムの内部状態量と無相関の励振外乱を
与えることで、常に高精度に故障検出を行うことができ
る。
【0155】(第2の態様)図8には、前述した第2の
態様に応じて構成された外乱オブザーバ32と、これを
用いて構成された診断装置30のブロック図が示されて
いる。なお、図7に示す実施の形態と対応する場合には
同一符号を付し、その説明は省略する。
【0156】本実施の形態では、サスペンションの振動
モデルを構成する動的システム10からは、その内部状
態量としてバネ上変位x2、相対変位yのみが検出さ
れ、他の内部状態量、例えば相対速度が直接測定されな
い場合を表している。
【0157】この様な場合、外乱オブザーバ32は、操
作量14と測定値16とから、その総合的外乱ベクトル
と共にサスペンション10の内部状態量のうち測定され
なかった状態であるバネ上速度、相対速度及びアクティ
ブ制御力を推定演算し、相関演算部36へ向け出力す
る。
【0158】このオブザーバは以下のように設計され
る。まず、(4b)式と数2、(21)式に基づいて拡張系を作
成する。 次に、(23)式において、測定できる状態量y,x2とで
きない状態量とを分ける。
【0159】
【数3】
【0160】簡単なために、数3を次式のようにおく。
【0161】
【数4】
【0162】そして、総合的外乱を含んだ測定できない
状態量xbを次式に基づいて推定する。 ここで、数4と(24)式により、真値xbとの推定値の誤
差が次式のように書ける。 したがって、(25)式の(A22−GA12)のすべての
ベクトルの固有値が、全て負となるように、実数行列G
を決めれば、(25)式で表される誤差は時間とともに零に
収束する。すなわち、推定値が真値に収束することにな
る。
【0163】前記(24)式を図示すると、図14のように
なる。同図に示すように、制御入力uと、測定できる状
態量xa=〔y x2〕Tとにより、測定できない状態
量xbを推定することができる。
【0164】このように、本実施の形態の外乱オブザー
バ65は、サスペンションへの制御入力と、サスペンシ
ョンの測定内部状態量x2,yとに基づき、総合的外乱
wと、測定されない内部状態量、例えば相対速度とを推
定する最小次元オブザーバとして構成される。このよう
に外乱オブザーバ32を構成しても、推定された総合的
外乱は前記(22)式で表されるので、前述した第1の態様
の場合と同様に相関演算部34が相関演算を行うことに
より、診断部36は故障の発生及び故障の箇所を特定す
ることができる。
【0165】すなわち、相関演算に必要な相対速度の推
定値は次式で表される。 従って、相対速度を前記推定値に置き換えて、前記第1
の態様と同様な相関演算を実施すればよい。
【0166】外乱オブザーバ32は、故障が発生しても
内部状態量をほとんど誤差無く推定するので、前述した
ように推定値を用い相関演算を行っても、前記第1の態
様とほぼ同様に相関関数を得ることができる。相関関数
が得られた以後は、前記第1の態様と同様に故障を特定
できるので、ここではその説明は省略する。
【0167】このように、本実施の形態において、相関
関数に用いる状態量は、単にセンサ等によって直接測定
されたものだけではなく、外乱オブザーバ32が総合的
外乱と同時に推定した内部状態量をも用いることができ
る。従って、診断対象10の内部状態量全てが、直接測
定されなくても、詳細な故障検出が可能となる。
【0168】(第3の態様)図9には、前述した第3の
態様に応じて用いられる外乱オブザーバ32と、これを
用いて構成された診断装置30のブロック図が示されて
いる。
【0169】本実施の形態と、前記第2の態様の実施の
形態との相違は、外乱オブザーバ32を完全次元オブザ
ーバとして構成したことにある。
【0170】すなわち、実施の形態の外乱オブザーバ3
2は、サスペンション10の制御入力fと診断対象10
において直接測定された内部状態量x2,yとにより、
総合的外乱と診断対象10の内部状態量の全てを推定す
るよう構成されている。
【0171】このオブザーバは、(4b)式と、数2、(21)
式より、次式に基づいて設計される。
【0172】
【数5】
【0173】このときも、(25)式と同様な推定値と、真
値との誤差に関する微分方程式を作り、この方程式のす
べてのベクトルの固有値が、すべて負となるように実数
行列Gを決める。固有値の絶対値は大きいほど良いが、
−300〜−700rad/s程度に設定するのが望ま
しい。
【0174】このようにして、制御入力uと、推定値
y,x2より次式で示す推定値を求めることができる。
【0175】 推定された総合的外乱は、前記(22)式で表されるので、
前記第1の態様と同様に相関演算を行う。相関演算に
は、相対変位、相対速度の推定値を用い、相関関数が得
られた後は、前記第1の態様と同様に故障箇所を特定す
る。
【0176】このように、本実施の形態では簡単な演算
により、故障箇所の特定ができる。これに加えて、本実
施の形態にて用いられる外乱オブザーバ32は完全次元
オブザーバとして構成されているので、前記第2の態様
で用いられた最小次元オブザーバよりも構成手順が簡単
であるという利点がある。
【0177】(第2の実施の形態)次に、第2の実施の
形態を説明する。
【0178】図10には、第2の実施の形態の診断対象
となるアクティブサスペンションと車輪からなる動的シ
ステム10の具体例が示されている。なお、図6に示す
動的システムと対応する部材には同一符号を付し、その
説明は省略する。
【0179】通常このようなアクティブサスペンション
システムでは、サスペンションのアクティブ制御に必要
なものとして圧力センサ60aが設けられている。この
圧力センサ60aは、アクティブ制御力fを測定できる
よう制御力発生器16に設置されている。さらに、タイ
ヤの空気圧異常検出のために加速度センサ60b、60
cが設けられており、これらの各加速度センサ60b、
60cは、それぞれバネ上部及びバネ下部に、上下振動
の加速度を検出できるよう設置されている。
【0180】このような動的システム10において、前
述した(16)式で示す状態方程式は、具体的には次式で表
されることになる。
【0181】 但し、a=k1 /m1 +k2 /m1 +k2 /m2 ,b=
1/m1 +1/m2 である。また、Tは操作量uとアク
ティブ制御力f間の遅れ時間を意味している。
【0182】図11には、本実施の形態のシステムのブ
ロック図が示されている。ここにおいて診断対象となる
サスペンションシステム10は、制御器12から出力さ
れる操作量(u+Δu)を入力し、(26)式に含まれるベ
クトル を内部状態量とするよう構成されたシステムであること
は前述した。
【0183】前記内部状態量ベクトルxに含まれる各要
素のうち、バネ上加速度は、図10に示される加速度セ
ンサ60bから直接検出され、ばね上速度はバネ上加速
度を積分することによって求められる。相対加速度は、
加速度センサ60bにより検出されるバネ下加速度と、
バネ上加速度との差から求められる。相対速度は、相対
加速度を積分することによって求められる。この様な演
算を行う各演算部は、本実施の形態のサスペンションシ
ステム10内に常に組み込まれているものとする。従っ
て、サスペンションシステム10の出力は、前記(26)式
に含まれる内部状態量ベクトル となる。
【0184】本実施の形態の制御器12は、このように
して出力される内部状態量ベクトルxを入力とし、アク
ティブサスペンションシステム10の入力信号となる操
作量(u+Δu)を演算出力している。
【0185】また、前記アクティブサスペンションシス
テム10を診断対象とする診断装置30は、外乱オブザ
ーバ32と、相関演算部34と、診断部36とを含む。
【0186】前記外乱オブザーバ32は、制御器12の
出力uと、アクティブサスペンションシステム10の出
力xとを入力信号とし、タイヤのバネ定数k1の変動
を、サスペンションシステム10内で発生する内部外乱
として推定演算するよう形成されている。
【0187】状態量検出部60は、アクティブサスペン
ションシステム10の出力xから、タイヤの空気圧の変
動によってシステム10に影響を及ぼす状態量(この場
合は、相対速度)を抽出する。
【0188】前記相関演算部34は、相互相関演算部7
0と、正規化部72と、自己相関演算部74とを含む。
【0189】そして、相互相関演算部70は、外乱オブ
ザーバ32が推定した総合的外乱と相対速度との相互相
関を演算出力する。
【0190】また、前記自己相関演算部74は、前記相
対速度の自己相関関数を演算する。そして、正規化部7
2は、相互相関演算部70が演算した相互相関関数を、
前記自己相関演算部74が演算した自己相関関数で割っ
て正規化し、タイヤのバネ定数の変動量のみを抽出出力
し、これを診断部36へ向け出力する。
【0191】診断部36は、基準値が記憶されたメモリ
76と、異常判定部78とを含む。そして、前記正規化
部72で求められたタイヤのバネ定数の変動量と、メモ
リ76に記憶された異常と判定すべき空気圧に対応する
バネ定数の変動量の基準値とを比較し、タイヤの空気圧
の異常を判定出力するよう形成されている。
【0192】本第2の実施の形態は以上の構成からな
り、次にその作用を説明する。図10に示されるアクテ
ィブサスペンションと車輪からなるシステム10におい
て、タイヤの空気圧が変動し、タイヤのバネ定数が変動
すると、同システム10の各状態量xは、空気圧正常時
とは異なった応答を示すことになる。この応答は、正常
時の応答に、空気圧の変動に対応した内部外乱が加わっ
たものと見なすことができる。
【0193】この外乱オブザーバ32は、サスペンショ
ンシステム10の出力信号xと、操作量uとを入力と
し、前記内部外乱と、励振外乱とを含む総合的外乱を推
定演算して出力する。
【0194】したがって、タイヤの空気圧が正常で、そ
の時のタイヤのバネ定数がk1であるとすると、前記外
乱オブザーバ32からは、次式で表される励振外乱が演
算出力される。
【0195】 このように推定演算出力される励振外乱は、白色性の制
御力Δfによる変位x0の微分値に対応しており、シス
テム10の状態とは全く相関のないランダムな外乱とな
っている。
【0196】このような状態において、タイヤの空気圧
が変動し、そのバネ定数がΔk1だけ変動して(k1+
Δk1)になった場合を想定すると、外乱オブザーバ3
2は、次式で表される総合的外乱を出力することにな
る。
【0197】 なお、この総合的外乱に含まれる制御出力x2、yは、
励振外乱とは無相関であるが、たとえ良路を走行してい
るときでも、励振によって励振外乱の大きさに対応した
大きい値をとるようになる。
【0198】(27)式より、外乱オブザーバ32が推定演
算した総合的外乱の推定値から、励振外乱を除去し、タ
イヤの空気圧変動による内部外乱のみを検出することが
必要となる。このために、相関演算部70は、推定した
総合的外乱と、励振外乱に対し相関のない内部状態量の
要素との相互相関を演算する。前記(27)式には、該当す
る状態量として相対速度とバネ上速度とが含まれるが、
本実施の形態では、サスペンションシステム10から得
られた相対速度との相関を演算する。この相関関数を とすると、これは次式のように演算される。
【0199】 このような相互相関を演算することにより、タイヤ空気
圧変動量Δkの抽出と、励振外乱の項の分離とを行うこ
とができる。すなわち、出力される推定された総合的外
乱、相対速度を、N点続けてサンプリングし、次式で示
す平均値を求める。
【0200】 そして、これらの平均値を用いて前記(28)式の相関演算
を行う。このようにして相関関数 を求めると、バネ上速度の項及び変位速度が消え、この
値は、次式に示すようになる。
【0201】 このようにして計算された相関関数は、タイヤのバネ定
数の変動を表す項(Δk1/m1)と、相関演算に用い
たサスペンションの相対速度の自己相関関数(次の(29)
式で示す)との積で表現できる。従って、得られた相関
関数を、状態量(相対速度)の自己相関関数で割れば、
バネ定数の変動量を定量的に検出できる。
【0202】 K=1すなわち、前記した数式39から判るように、
総合的推定外乱の様々な周波数成分の中から、前述した
相関関数 は、タイヤのバネ定数の変動によってのみ生じる内部外
乱の周波数成分に相当する値を持っている。したがつ
て、この相関関数 から、バネ定数の変動量を検出することができる。
【0203】前述した相対速度の自己相関関数は、自己
相関演算部74により演算され、正規化部72に入力さ
れるようになっている。そして、正規化部72は、相互
相関演算部70から出力される相関関数 を、自己相関演算部74から出力される自己相関関数 で割ることにより、次式で示すようタイヤのバネ定数の
変動量を検出出力している。
【0204】 ここにおいて、パラメータm1は、タイヤの質量であり
既に知られた値であるため、正規化部72の出力Jか
ら、バネ定数の変動量Δk1を正確に知ることができ
る。
【0205】そして、異常判定部78は、このようにし
て得られたバネ定数の変動量Δk1と、異常と判断すべ
き変動量基準値とを比較し、空気圧の異常を判定してい
る。
【0206】ところで、従来では、不規則な外部外乱を
入力としたときの動的システムの制御出力値から上記の
ような故障変動量を示す相関関数を演算していたが、外
部外乱が小さくなると制御出力値が小さくなり、この値
より求めた相関関数を自己相関関数で除算して正規化し
たとしても、量子化誤差などにより出力Jの誤差が大き
くなり、故障検出精度が低下するという問題があった。
また、従来の方法では、外部外乱の統計的性質や大きさ
にばらつきがあるので、故障検出精度を一定に維持する
ことが困難であった。
【0207】しかし、本実施の形態では、制御器からの
励振によってシステムに励振外乱を発生させることによ
り、制御出力値を一定以上の大きさに設定するので、路
面の状況に係わらず常に高精度の故障検出が可能とな
る。また、動的システムを励振させる手段として従来の
アクティブサスペンションの制御手段を用いているの
で、新たに励振手段を設ける必要が無い。
【0208】(第3の実施の形態)図12には、アクテ
ィブではない従来型のサスペンションと、車輪とを含む
サスペンションシステム10が示されている。このサス
ペシンョンシステム10において、車輪41は、パラメ
ータm1で表されるバネ下質量部と、バネ定数k1で表
されるタイヤのバネ部で表現される。また、42はバネ
上質量m2を持つ車体部を表し、46はバネ定数k2を
持つバネを表し、48は減衰器定数Dmを有する減衰器
を表し、56は路面変位を表し、52は変数x1で表さ
れるバネ下変位を表し、50は変数x2で表されるバネ
上変位を表し、54は変数yで表される相対変位(x1
−x2)を表す。なお、この動的システム10において
も、前記実施の形態と同様、バネ上部及びバネ下部に、
車輪の上下振動を検出する加速度センサ60b、加速度
センサ60cが設けられている。
【0209】第3の実施の形態では、図3及び図4に示
したブレーキ力制御手段190により車輪に作用するブ
レーキ力に微小励振が加えられる。すなわち、図12に
示したように、実際には路面から反作用として車輪に作
用する平均的なブレーキ力F b の回りにΔFb の励振ブ
レーキ力が加えられる。この励振ブレーキ力ΔFb は、
白色性信号又は周波数をスイープする信号で励振されて
おり、この励振ブレーキ力により、たとえ良路を走行し
ていても車両には白色性の励振外乱が発生する。この励
振外乱により、図12のシステムの変位x0(=Δy)
は、常にある振幅の範囲内で変動し、システムの出力値
が一定以上の大きさを保持する。
【0210】このようなサスペンションシステム10
を、状態方程式で表現すると、次式のように表される。
【0211】 但し、a=k1 /m1 +k2 /m1 ,k2 /m2 b=1
/m1 +1/m2 である。
【0212】図12に示すサスペンションシステム10
を診断対象としたブロック図を図13に示す。
【0213】なお、現状のサスペンションシステム10
では、路面の状況や運転者の判断に応じてサスペンショ
ンの減衰力を変化させるものも実現されているが、これ
は減衰器定数Dmが変化するものと仮定することによっ
てモデル化できる。このとき、図12に示されたDm
は、変化するDmの代表値を示すものとする。
【0214】前述した(30)式に含まれる状態量xの各要
素は、前記実施の形態と同様、サスペンションシステム
10内に設けられた演算部によって演算出力される。す
なわち、バネ上加速度は、センサ62bの出力から直接
出力し、バネ上速度は、バネ上加速度の値を積分するこ
とにより求める。相対加速度は、バネ下加速度とバネ上
加速度の差から求め、相対速度は、相対加速度等を積分
することにより求める。従って、サスペンションシステ
ム10の出力は、前述した(30)式の内部状態量ベクトル
xとなる。
【0215】このように構成されたサスペンションシス
テム10を診断対象とする本実施の形態の診断装置30
を、以下に詳細に説明する。
【0216】タイヤの空気圧が正常で、このときタイヤ
のバネ定数がk1であるとき、外乱オブザーバ32は次
式で表される総合的外乱を推定演算する。
【0217】 ここにおいて、サスペンションの減衰定数Dmは変化す
るものと仮定し、その代表値からの変化量をΔDmで表
現している。
【0218】そして、タイヤの空気圧が変動し、そのバ
ネ定数がΔk1だけ変動して(k1+Δk1)になる
と、外乱オブザーバ32は、次式で表す信号を出力する
ことになる。
【0219】
【数6】
【0220】このように、外乱オブザーバ32が推定し
た総合的外乱には、減衰器定数が変動したことによって
生ずる外乱と、タイヤ空気圧の変動によって生じた内部
外乱と、ブレーキ力励振による励振外乱とが含まれてい
ることがわかる。
【0221】そこで、相互相関演算部70は、タイヤの
空気圧変動によって生じた内部外乱が含まれる推定され
た総合的外乱の第2要素と、相対速度との相互相関を演
算する。また、自己相関演算部74は、前記実施の形態
と同様な手法により、相対速度の自己相関を演算出力す
る。
【0222】そして、正規化部72は、相互相関演算部
70の出力を、自己相関演算部74の出力で割り算し、
バネ定数の変動量を検出し、異常判定部78へ向け出力
する。
【0223】したがって、異常判定部78は、このよう
にして入力されるバネ定数の変動量を、所定の基準値と
比較し、空気圧の異常判定を行う。
【0224】以上説明したように、本実施の形態では、
アクティブでない従来型のサスペンションに装着された
車輪においても、サスペンションのバネ上、バネ下部の
上下加速度を検出する加速度センサ60b、60cを設
けるだけで、タイヤの空気圧の異常を検出することがで
きる。
【0225】本実施の形態においても、ブレーキ力励振
によってシステムに励振外乱を発生させることにより、
制御出力値を一定以上の大きさに設定するので、路面の
状況に係わらず常に高精度の故障検出が可能となる。本
実施の形態は、アクティブサスペンションを備えていな
い車両にも適用できるという利点がある。なお、ブレー
キ力を励振させる手段として、従来のアンチロックブレ
ーキ(ABS)動作を行うABSアクチュエータを流用
することができる(次の第4の実施の形態の図20〜図
21参照)。
【0226】(第4の実施の形態)次に、第4の実施の
形態を説明する。
【0227】(第4の実施の形態の原理)図15に示す
ように、重量Wの車体12を備えた車両が速度vで走行
している時の車輪での振動現象、すなわち車体と車輪と
路面とによって構成される車輪振動系の振動現象を、車
輪回転軸で等価的にモデル化した図16に示すモデルを
参照して考察する。
【0228】ここで、ブレーキ力(制動力)は、路面と
接するタイヤのトレッド215の表面を介して路面に作
用するが、このブレーキ力は実際には路面からの反作用
として車体212に作用するため、車体重量の回転軸換
算の等価モデル217はタイヤのトレッドと路面との間
の摩擦要素216を介して車輪213と反対側に連結し
たものとなる。これは、シャシーダイナモ装置のよう
に、車輪下の大きな慣性、すなわち車輪と反対側の質量
で車体の重量を模擬することができることと同様であ
る。
【0229】図15、図16でタイヤリムを含んだ車輪
213の慣性をJw 、リムとトレッド215との間のば
ね要素214のばね定数をK、トレッド215の慣性を
t、トレッド215と路面との間の摩擦要素216の
摩擦係数をμ、車体212の重量の回転軸換算の等価モ
デル217の慣性をJV とすると、系全体の特性は次の
(2a)〜(4a)式のようになる。なお、以下では時
間に関する1階微分d/dtを「' 」で表し、時間に関
する2階微分d2 /dt2 を「" 」で表す。
【0230】 JW θw " = −T+K(θt −θw ) ・・・(2a) Jt θt " = −K(θt −θw )+μWR ・・・(3a) Jv ωv ' = −μWR ・・・(4a) ここで、 ww = θw ' ・・・(5a) Jv = R2 W ・・・(6a) ωv = v/r ・・・(7a) であり、θw は車輪213の回転角、θw " は車輪21
3の回転角加速度、wwは車輪213の回転角速度、す
なわち車輪速度、θt はトレッド215の回転角、
θt " はトレッド215の回転角加速度、ωv は車体等
価モデル217の回転軸換算の回転角速度、Tは車輪2
13に加えられる制動トルク、Wは車体の重量、Rは車
輪半径である。制動トルクTは実際にはブレーキバルブ
の圧力Pb の制御によって行う。
【0231】タイヤがグリップしている時は、トレッド
215と車体等価モデル217とが直結されていると考
えると、車体等価モデル217の慣性とトレッド215
の慣性との和の慣性と車輪213の慣性とが共振し、こ
の時の車輪共振系の共振周波数f1 は、 f1 =√{(Jw +Jt +Jv )K/Jw (Jt +Jv )}/2π ・・・(8a) となる。
【0232】上式より、共振周波数f1 は、タイヤ空気
圧と関連する物理量であるばね定数Kの平方根に比例し
て変化することがわかる。通常の場合、各慣性モーメン
トの変化は無視できるので、タイヤが路面にグリップし
ているという条件下での共振周波数f1 の変化からばね
定数Kの変化、すなわち、タイヤ空気圧の変動を検知す
ることができる。
【0233】ここで、上記車輪振動系を1例とする動的
システムにおける振動特性を図19に示す。この図19
には、動的システムを白色性信号で励振させたことによ
り動的システムから出力された振動成分のゲイン(励振
信号の振幅値に対する動的システムの出力振幅値の比)
の周波数特性が示されている。なお、図19では、正常
時の振動特性を実線で、故障時(異常時)の振動特性を
破線で示している。また、上記車輪共振系の場合のゲイ
ンは、励振振幅値に対する車輪速度の振動成分の振幅値
の比に相当する。
【0234】図19に示すように、故障時のゲインの極
大値を与える共振周波数f1 ’、f 3 ’は、正常時のゲ
インの極大値を与える共振周波数f1 、f3 より低周波
数側にシフトしていることがわかる。このことは上記車
輪振動系における共振周波数f1 の低周波数側へのシフ
トに相当している。また、故障時のゲインの極小値を与
える非共振周波数f2 ’も、正常時のゲインの極小値を
与える非共振周波数f 2 より低周波数側にシフトしてい
ることがわかる。なお、動的システムの特性や着目して
いる振動成分によっては、故障時のゲインの極小値及び
極大値を与える周波数が正常時よりも高周波数側にずれ
る場合もある。
【0235】以上のように、励振された動的システムの
応答出力から求められた振動特性は、正常時と故障時と
で異なっており、この相違点を検知することにより動的
システムの診断を行うことができる。なお、振動特性の
違いとして、共振周波数の変化だけでなく、周波数とゲ
インとの関数関係の変化(例えば極大、極小の数)を検
出し、この関数関係の変化に基づいて動的システムの診
断を行うことができる。
【0236】さらに周波数とゲインとの関数関係に基づ
き診断箇所を特定することもできる。例えば、タイヤ空
気圧変動による関数関係の変化と、タイヤ空気圧以外の
箇所の故障による関数関係の変化とでは、変化のパター
ンが異なってくるので、この変化パターンから動的シス
テムの故障箇所を特定することもできる。
【0237】(第4の実施の形態の構成及び作用)図1
7には、第4の実施の形態の構成ブロックが示されてい
る。なお、図17に示した動的システムは、車輪とサス
ペンションとからなる動的システムにブレーキ力による
微小励振を与えるものであるが、この例に限定されるも
のではない。
【0238】図17に示すように、本実施の形態に係る
故障診断装置は、動的システム400の車輪にブレーキ
力(Pm +Pv )を作用させるブレーキ力制御手段40
2を備えている。ここで、Pm は車輪に作用する平均的
なブレーキ力であり、ドライバの踏力があるときのマス
タ圧に対応するブレーキ力である。また、Pv は平均的
なブレーキ力の回りで励振するブレーキ力の励振成分を
示し、M系列信号などの白色性信号又は周波数をスイー
プした信号による励振ブレーキ力を示す。
【0239】動的システム400の車輪に取り付けられ
ている図示しない車輪速センサから出力される車輪の回
転速度(車輪速度)ωw は、ブレーキ力制御手段402
に入力される。ブレーキ力制御手段402は、後述する
ように車輪速度ωw から演算された車輪減速度に基づ
き、車輪に作用するブレーキ力に微小励振成分Pv を印
加するか否かを決定する。
【0240】また、故障診断装置には、入力された所定
周期毎の車輪速度ωw の時系列データを高速フーリエ変
換(FFT)して車輪速度の周波数スペクトルを演算す
るFFT演算部404と、演算された車輪速度の周波数
スペクトルに基づいて動的システム400の振動特性を
検出する振動特性検出部406と、検出された振動特性
から動的システム400を診断する診断部408と、が
備えられている。
【0241】診断部408の内部メモリには、正常時の
動的システム400の振動特性データと、異常な振動特
性のパターン(異常振動特性パターン)の複数のデータ
とが記憶されている。診断部408は、検出された振動
特性と正常時の振動特性とを比較し、上述したようにそ
の特性の違いから動的システム400の故障(タイヤ空
気圧)を診断する。
【0242】また、異常振動特性パターンは、例えば、
正常時の動的システム400の振動特性としてありえな
い極大、極小値の周波数値やその数に関するデータや関
数特性をデータ化したもので表され、異常振動特性パタ
ーン毎に動的システムの故障箇所及び故障の種類などが
特定される。診断部408は、検出された振動特性に異
常があった場合に、検出された振動特性と異常振動特性
パターンとを照合し、最も近い異常振動特性パターンに
対応する故障箇所及び故障の種類を特定することにより
動的システムを診断する。
【0243】次に、ブレーキ力制御手段402の構成に
ついて図20〜図21を用いて説明する。
【0244】ブレーキ力制御手段402は、平均ブレー
キ力Pm の指令uおよび微小励振ブレーキ力Pv の励振
指令Δuを実際の車輪への制動トルクに変換するブレー
キバルブドライバを含み、このブレーキバルブドライバ
は、図20に示すように、ブースタ235、バルブ制御
系236、ブレーキキャリパー237、リザーバタンク
238及びオイルポンプ239を備えている。
【0245】ブレーキペダル234は、ブレーキペダル
234の操作力を増圧するブースター235を介してバ
ルブ制御系236の増圧側バルブ240へ接続されてい
る。バルブ制御系236には、バルブ動作指令が入力さ
れると共に、ブレーキキャリパー237に連結されかつ
減圧側バルブ241を介してリザーバータンク238に
連結されている。
【0246】このバルブ動作指令は、図21に示す回路
によって生成される。この回路は、平均ブレーキ力Pm
の指令uと微小励振ブレーキ力Pv の励振指令Δuとを
入力し、図21に示すように、平均ブレーキ力Pm を白
色性信号で励振する。
【0247】この動作原理を以下に説明する。まず、演
算部218Aで、平均ブレーキ力P m の指令uと微小励
振ブレーキ力Pv の励振指令Δuの和u1 を演算し、演
算部220Aで平均ブレーキ力Pm の指令uと微小励振
ブレーキ力の励振指令Δuとの差u2 を演算する。和u
1 は、ブレーキ力の指令の上限に対応し、差u2 はブレ
ーキ力の指令の下限に各々対応する。この2つの和
1 、差u2 を指令として、演算部218B、220B
で実ブレーキ圧Pb*との差e1、e2を演算し、指令生
成部242、243において各々の差e1、e2からバ
ルブの位置を計算して指令を生成し、この両者を白色性
信号に応じた励振周波数で切替えることによって、ブレ
ーキ圧を励振する。ただし、和u1 については増圧と保
持のみの指令、差u2 については保持と減圧のみ指令を
生成する。このように指令を生成することにより、ブレ
ーキ圧指令の過度の振動を防ぐことができる。
【0248】次に、本実施の形態の作用を図18のフロ
ーチャートにより説明する。図18に示すように、ま
ず、車輪速度ωw から演算された車輪減速度が基準とな
る負値−aより小さいか否かを判定する(ステップ30
0)。車輪減速度が負値−aより小さい場合(ステップ
300肯定判定)、車輪が路面にグリップしなくなる可
能性があると判定して、次に続く診断処理を行わずに待
機する。車輪がグリップしていない場合、等価的に図1
5のトレッド215と車体等価モデル217とが分離さ
れ、トレッド215と車輪213とが共振を起こすこと
となりタイヤ空気圧の変動の有無に係わらず、車輪振動
系の共振周波数が高周波側へずれるからである。
【0249】車輪減速度が負値−a以上の場合(ステッ
プ300否定判定)、ブレーキ力制御手段402がブレ
ーキ力の微小励振を開始する(ステップ302)。次
に、FFT演算部404が、励振成分を含んだ車輪速度
ωw の所定周期毎の時系列データを高速フーリエ演算し
て周波数時系列データを出力する(ステップ303)。
そして、振動特性検出部406が、FFT演算部404
による周波数時系列データからゲイン最大周波数を抽出
し、共振周波数fd を検出する(ステップ304)。こ
こで、このステップ303、304の処理の流れを図2
2に図解する。
【0250】振動特性が検出されると、図18に示すよ
うに、診断部408が内部メモリからタイヤ空気圧正常
時の振動特性データを読み出す(ステップ306)。な
お、この正常時の振動特性データには、(8a)式で示
された共振周波数f1 などが含まれる。
【0251】次に、診断部408が動的システムの検出
された振動特性と正常時の動的システムの振動特性とを
比較し、その振動特性の変化Δfを検出する(ステップ
308)。このΔfは、例えば、共振周波数のシフト量
(=f1 −fd )として演算される。
【0252】次に、演算されたΔfが基準値Th(>
0)を越えているか否かを判定する(ステップ31
0)。Δfが基準値Thを越えていると判定された場合
(ステップ310肯定判定)、動的システム400のタ
イヤ空気圧異常と判定する。ここで、ステップ310及
びステップ312において、検出された振動特性を、診
断部408の内部メモリに記憶された異常振動特性パタ
ーンのデータと比較し、どの異常振動特性パターンに該
当するかを判定することにより故障箇所及び故障の種類
などを推定しても良い。また、検出された振動特性のパ
ターンと異常振動特性パターンとの類似の度合いから故
障の程度を推定することもできる。
【0253】これに対し、Δfが基準値Thを越えてい
ないと判定された場合には(ステップ310否定判
定)、タイヤ空気圧が正常と判定する(ステップ31
4)。但し、Δf<0の場合は(8a)式からあり得な
いので、タイヤ空気圧の変動以外の要因で故障が生じた
と判定する。この場合、異常振動特性パターンとの照合
で故障箇所及び故障の種類などを特定しても良い。
【0254】以上のように本実施の形態では、動的シス
テムの故障を敏感に反映する振動特性(特に共振周波数
の変化)に基づいてシステムの故障を診断するので、簡
単な方法できわめて正確な診断ができるという利点があ
る。
【0255】
【発明の効果】以上説明したように、請求項1の発明に
よれば、動的システムを励振させる手段を設けたため、
外部外乱が小さいときでも制御出力を大きくすることが
でき、これにより、故障やタイヤ空気圧変動を高精度に
診断できるという効果が得られる。
【0256】さらに、上記請求項1の発明では、動的シ
ステムの内部状態量と無相関の信号で動的システムを励
振させるようにしたので、外部外乱を入力として利用す
る場合と比べて、故障検出の精度を常に高精度に維持で
きるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る動的システムの診断装置の第1の
例を示すブロック図である。
【図2】本発明に係る動的システムの診断装置の第2の
例を示すブロック図である。
【図3】本発明に係る車輪とサスペンションとからなる
動的システムの診断装置の第1の例を示すブロック図で
ある。
【図4】本発明に係る車輪とサスペンションとからなる
動的システムの診断装置の第2の例を示すブロック図で
ある。
【図5】第1実施の形態に用いられる外乱の近似法を示
す曲線図である。
【図6】第1実施の形態の診断対象となる自動車のサス
ペンションシステムの概略説明図である。
【図7】図6に示すサスペンションモデルを診断対象と
する第1実施の形態における第1態様の診断装置を示す
ブロック図である。
【図8】第1実施の形態における第2態様の診断装置を
示すブロック図である。
【図9】第1実施の形態における第3態様の診断装置を
示すブロック図である。
【図10】アクティブサスペンションと車輪とを含む動
的システムの概略説明図である。
【図11】図10に示す動的システムを診断対象とする
本発明の第2実施の形態の診断装置のブロック図であ
る。
【図12】従来のサスペンションと、車輪とを含む動的
システムの概略説明図である。
【図13】図12に示す動的システムを診断対象とする
本発明の第4実施の形態の診断装置のブロック図であ
る。
【図14】第1の実施の形態の最小次元オブザーバのブ
ロック図である。
【図15】第4の実施の形態に係る車両の力学的モデル
を示す図である。
【図16】図15の車両の力学的モデルを回転軸換算し
た等価モデルを示す図である。
【図17】本発明の第4の実施の形態に係る診断装置の
構成を示すブロック図である。
【図18】第4の実施の形態に係る診断装置(タイヤ空
気圧診断の例)の処理の流れを示すフローチャートであ
る。
【図19】第4の実施の形態に係る動的システムにおけ
る、正常時と故障時の振動特性の違いを示す図である。
【図20】第4の実施の形態に係る動的システムのブレ
ーキ力制御手段の構成を示すブロック図である。
【図21】第4の実施の形態に係る動的システムのブレ
ーキ力制御手段の励振指令生成部の構成を示すブロック
図である。
【図22】第4の実施の形態に係る診断装置のFFT演
算部及び振動特性検出部の処理を図解した図である。
【符号の説明】
10 動的システム 30 診断装置 32 外乱オブザーバ 34 相関演算部 36 診断部 38 故障特定部 70 相互相関演算部 72 正規化部 74 自己相関演算部 76 メモリ 78 異常判定部 80 減衰器定数補償部 u 制御入力ベクトル d 励振外乱ベクトル y 制御出力ベクトル x 状態量ベクトル
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 小野 英一 愛知県愛知郡長久手町大字長湫字横道41番 地の1株式会社豊田中央研究所内 (72)発明者 菅井 賢 愛知県愛知郡長久手町大字長湫字横道41番 地の1株式会社豊田中央研究所内 (72)発明者 山口 裕之 愛知県愛知郡長久手町大字長湫字横道41番 地の1株式会社豊田中央研究所内

Claims (1)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 動的システムの故障を検出する動的シス
    テムの診断装置において、 前記動的システムの内部状態量ベクトルと相関の無い励
    振信号で前記動的システムを励振させる励振手段と、 少なくとも前記励振手段により励振された動的システム
    の応答出力ベクトルに基づいて、動的システム内の故障
    により発生する内部外乱ベクトル及び励振により動的シ
    ステムで発生する励振外乱ベクトルの和としての総合的
    外乱ベクトルを推定する外乱推定手段と、 推定された前記総合的外乱ベクトルと前記内部状態量ベ
    クトルとの相互相関を演算し、前記総合的外乱ベクトル
    から内部外乱に関連する成分を分離する相関演算手段
    と、 前記相関演算手段により分離された内部外乱に関連する
    成分に基づいて前記動的システムの故障箇所の診断を行
    う診断手段と、 を備えたことを特徴とする動的システムの診断装置。
JP34638096A 1996-12-25 1996-12-25 動的システムの診断装置 Pending JPH10187236A (ja)

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US08/996,316 US6182001B1 (en) 1996-12-25 1997-12-22 Braking estimation device, anti-lock brake controller, and braking pressure controller

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