JPH10114924A - 開口を有する傾斜板式消波構造物 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【課題】 本発明は、沿岸域において静穏海域を設ける
ために設置される消波構造物であって、海水の透過性を
備えた低反射機能を有し、かつ、消波構造物の傾斜板背
面の衝撃波力を低減させる傾斜板式消波構造物を提供す
る。 【解決手段】 開口列３を設けた鋼製またはコンクリー
ト製の傾斜板２を、沖側から陸側に上り勾配に傾斜さ
せ、且つ沖側は干潮水位における波の谷部より下方に没
水させ、陸側は平均潮位高さより上方になるようにし、
且つ杭上又は海底地盤中に打設された複数の杭６により
支持されたジャケット５上に固定させ、前記開口列３は
干潮水位と満潮水位間において没水する傾斜板面に沿っ
て開口率２〜１０％の複数の開口４により形成させ、引
波時において傾斜板２の背後からの波を開口列３を通し
て沖側に通過させ、傾斜板２に生じる衝撃波力を低減す
ることを特徴とする開口４を有する傾斜板式消波構造物
１。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【発明の属する技術分野】本発明は、沿岸域において静
穏海域を設けるために設置される、開口を有する消波構
造物であり、海水の透過性を備えた低反射機能を有し、
且つ、波力を小さくしうる消波構造物であり、更に詳し
くは、消波構造物の傾斜板背面の衝撃波力を低減させる
ことを可能とするものである。

【０００２】

【従来の技術】近年、沿岸域において、周辺環境に配置
した透過式の消波構造物の設置がなされている。これら
の消波構造物は、魚介類の成育を促すためや、水質汚染
を防止するために、潮の干満の際に外海との海水の出入
りを自由に行わせるようにした透過性の消波構造物が用
いられている。また、往来する船舶航行の安全に支障を
きたさないよう低反射構造とする配慮がなされている。
これらの消波構造物の従来例として、図４に示す実開平
１−１７６１２１号に開示されている傾斜板式の消波構
造物がある。この消波構造物の消波原理は、水面付近に
１０〜３０°程度の傾きを持った消波板７をジャケット
８上に設置し、下方はジャケット８の部材間において海
水の出入り、交換を妨げることがないようにし、また、
入射してきた波を消波板７上で強制的に砕波させ、波の
エネルギーを散逸させることにより波を減衰させ透過
波、反射波を低減させるものである。

【０００３】

【発明が解決しようとする課題】しかしながら、この従
来例の傾斜板式消波構造物は消波板７背面に大きな衝撃
波力を生じる問題があった。このため、消波板７および
支持体に生じる大きな転倒モーメントにより、陸側支持
体の引抜き力が増大し、杭８ａ本数、杭径が大きくな
り、また、支持構造物の部材の所要強度を高くする必要
があるため、不経済になることがあった。この衝撃波力
の発生原因は、押波時に消波板７上を遡上・越波し、消
波板７背後へ水塊が落下した後、この水塊が、引波時に
消波板７付近の水位が低下した時に沖側へ進行し、消波
板７背面に沖側に向かって衝突することにより消波板７
に大きな衝撃波力が発生するものである。

【０００４】この衝撃波力を低減させる別の従来技術と
して、図５に示す「水面設置構造物の衝撃波力低減構造
（特公平８−３１６６号）」が開示されている。この従
来技術の水面設置構造物９は、消波板１０の下面の静水
面１１、１２の水面交差位置１３、１４、１５近傍に下
方へ突出し、且つ、波の進行方向とほぼ直角の方向へ亘
る突起物１６、１７、１８を設けることによって衝撃波
力を低減するものである。すなわち、消波板１０下面の
突起物１６、１７、１８により消波板１０背面を沖側に
向かって進行する波の水面形状を乱して、大きな衝撃波
力の発生を避けるものである。しかし、この従来技術で
は突起物１６、１７、１８が、水面形状を乱す際に波力
を受けるため、これに応じて消波板１０、およびその支
持体の部材強度が必要となり、消波板１０取付部の補強
が必要となる場合もある。このため、消波板１０が大型
となり、重量増大により不経済となる課題があった。本
発明は、この従来技術と異なった手段により消波板（傾
斜板）の重量増を招くことなく傾斜板背面の衝撃波力を
低減することを目的としたものである。

【０００５】

【課題を解決するための手段】本発明の開口を有する傾
斜板式消波構造物は、開口列を設けた鋼製またはコンク
リート製の傾斜板を、沖側から陸側に上り勾配に傾斜さ
せ、且つ沖側は干潮水位における波の谷部より下方に没
水させ、陸側は平均潮位高さより上方になるようにし、
且つ杭上又は海底地盤中に打設された複数の杭により支
持されたジャケット上に固定させ、前記開口列は干潮水
位と満潮水位間において没水する傾斜板面に沿って複数
の開口により形成させ、引波時において傾斜板の背後か
らの波を開口列を通して沖側に通過させ、傾斜板に生じ
る衝撃波力を低減するにより構成される。

【０００６】本発明の開口を有する傾斜板式消波構造物
は、開口列を設けた鋼製またはコンクリート製の傾斜板
を、沖側から陸側に上り勾配に傾斜させ、且つ沖側は干
潮水位における波の谷部より下方に没水させ、陸側は平
均潮位高さより上方になるようにし、且つ杭上又は海底
地盤中に打設された複数の杭により支持されたジャケッ
ト上に固定させ、前記開口列は干潮水位と満潮水位間に
おいて没水する傾斜板面に沿って開口率２〜１０％の複
数の開口により形成させ、引波時において傾斜板の背後
からの波を開口列を通して沖側に通過させ、傾斜板に生
じる衝撃波力を低減することにより構成される。

【０００７】本発明は、この衝撃波力を低減するため、
傾斜板において、干潮水位と満潮水位間において没水す
る傾斜板面に沿って複数の開口からなる開口列を設け
る。すなわち、傾斜板を遡上・越波した水塊が傾斜板背
面に落下し、沖側に進行する際、傾斜板の背後からの波
を開口列を通して沖側に通過させ、波エネルギーを一部
を逃すことによって衝撃波力を低減するものである。従
って、前記従来例の突起物を設けた衝撃波力低減手段に
対して傾斜板に作用する波力が小さくなるため傾斜板
（消波板）や支持体の部材強度を低くでき、また、傾斜
板と支持体の取付部の補強が不要となる。この結果、傾
斜板の重量を小さくでき経済的である。

【０００８】本発明において、傾斜板は、沖側において
干潮水位における波の谷部より下方に没水させ、陸側に
おいて平均潮位高さより上方になるようする。消波構造
物の傾斜板として消波機能を発揮するためである。陸側
において、傾斜板の上端部を満潮水位より高くするか、
或いは低くするかは、その消波構造物の果たすべき設計
仕様により定まる。したがって、傾斜板の端部が、満潮
時において満潮水位以下に没水することもある。傾斜板
面に沿って複数の開口からなる開口列を設ける。開口列
を設ける傾斜板面の範囲は干潮水位と満潮水位間におい
て没水する部分である。干潮水位と満潮水位はこれらの
近傍を含む意味に使用する。特に干潮位においては設計
波高１０％程度下側まで開口した方が好ましい。傾斜板
において占める、かかる傾斜板面の範囲に複数の開口に
より形成される開口列を設け、その開口率２〜１０％と
すくことが好ましい。ここで、開口率２〜１０％とする
のは、開口率２％より小さくなると、傾斜板の背後から
の衝撃波力を低減する効果が弱くなり、また開口率１０
％より大きくすると、傾斜板の消波機能が低下するから
である。開口率は、傾斜板全面積に対する開口総面積の
比である。傾斜板に設ける開口の形状を円形、角形、又
はスリット状とすることができる。本発明において、開
口列を設ける傾斜板面の他の部分において、他の目的の
ため開口を設けることを妨げるものではない。

【０００９】

【発明の実施の形態】図１は本発明の実施の形態の例で
ある。図１において、鉄筋コンクリート製の傾斜板２を
複数の杭６により支持されたジャケット５上に固定させ
て傾斜板式消波構造物１を構築する。傾斜板２は、沖側
から陸側に上り勾配に傾斜させ、且つ沖側は干潮水位に
おける波の谷部より下方に没水させ、陸側は平均潮位高
さより上方になるように形成されている。また、傾斜板
２には、開口列３を設け、開口列３は干潮水位と満潮水
位間において没水する傾斜板面に沿って複数の開口４に
より形成させる。本例で、開口はスリット状の形状によ
り形成される。

【００１０】本発明を実施する場合、スリット状の開口
４を適切なものにする必要がある。その理由は、傾斜板
２を貫通して設ける開口列３の複数の開口４の開口率を
大きくすると背面の衝撃波力を小さくできる反面、消波
対象の波の透過率（伝達率）が大きくなり静穏度が低下
することが懸念される。そのための所定の透過率を損な
うことなく、背面の衝撃波力を低減しうる開口率を適切
に選定する必要がある。表１はスリットの開口率を変化
させて、防波の傾斜板２に作用する波圧強度（波圧係
数）と消波性能（透過率Ｋｔ、反射率Ｋｒ）に及ぼす影
響を実験した結果である。表１中に示すモデルＮＯ．１
はスリットがない場合の比較例である。ここで、波圧係
数は防波板に作用する波圧Ｐと静水圧の比Ｐ／ρｇＨで
ある。この実験結果を見れば，スリットありのモデルＮ
Ｏ．２，３，４はスリットなしモデルＮＯ．１に較べ
て、引波時に波圧係数が０．５から０．３５まで低くな
っていることが分かる。反面、透過率ｋｔが若干大きく
なっているが、その増加率は例えば開口率２．９％で
０．４９が０．５（２％の増加率）であり問題となる程
ではない。また、副次効果として消波対象波の反射率ｋ
ｒは０．５６から０．４３に大幅に小さくなる結果が得
られた。なお、引波時の波力強度はスリットなしでは５
ｔ／ｍ² であるのに対して開口率２．９％のスリットで
は４．１ｔ／ｍ² （２割減）となる。この実験結果から
開口率を大きくする程、波圧係数は小さくなり背面の衝
撃波力低減効果は大きくなるが反面、透過率ｋｔが悪く
なり消波性能が低下する。逆に、開口率をあまり小さく
すると、透過率の悪化は避けられるが、衝撃波力低減の
効果え十分発揮できなくなる。実用的な開口率は２〜１
０％の範囲とすればよい。

【００１１】

【表１】

【００１２】

【実施例】本発明において、図１の場合の具体的な実施
例について説明する。水深２０ｍ、設計波（波高、Ｈ
_max ＝１０ｍ，Ｈ_1/3 ＝６ｍ、Ｔ＝１３秒）、潮位（Ｈ
ＷＬ＋３ｍ，ＬＷＬ±０．０ｍ）の海象条件において、
本発明の傾斜板式消波構造物１を実施する場合、図に示
すように１ユニットの傾斜板２（鉄筋コンクリート製）
の寸法諸元を、幅Ｂ＝３５．４ｍ，厚さｔ＝５０ｃｍ，
長さＬ＝１０．２ｍとしたユニットを波の進行方向に向
けて連設する。傾斜板２は天端高さ＋２．４ｍ、ＬＷＬ
からの没水深さ１５．３ｍとなるように海底地盤に打設
されたジャケット５に固定され支持されている。傾斜板
２の水面付近には、３０ｃｍ幅×長さ７．０ｍのスリッ
ト状の開口４を１ユニットの傾斜板２について波方向と
直交して５列にしたものを２列配置している。この実施
例では開口率２．９％、波の透過率（Ｋｔ）は０．５
０、反射率（Ｋｒ）０．４３となり、開口部が無い場合
に較べて傾斜板の波圧係数は０．５から０．４に低下で
き、波圧強度を１．０ｔ／ｍ² 程度低くなり、法線方向
単位長さあたりの水平波力に換算すると１８ｔ／ｍ低く
することができた。なお、スリット形状は狭幅の開口の
他、図３（ａ）、（ｂ）に示すように丸型や角形の開口
としてもよい。

【００１３】

【発明の効果】本発明の如く開口部を設けた傾斜板を用
いると傾斜板背面に生じる衝撃波力を小さくすることが
できるため、傾斜板および支持杭やジャケットの支持体
が軽量となり、また傾斜板とジャケットや支持杭との取
付構造の補強を簡素化でき、経済的である。さらに消波
対象の反射波を小さくする副次効果もある。

【図面の簡単な説明】

【図１】本発明の実施例を説明する図である。

【図２】本発明の開口列の開口の形状がスリット状であ
る例を示す図である。

【図３】本発明の開口列が円状（ａ）と、角状（ｂ）の
例を示す図である。

【図４】従来技術を示す図である。

【図５】別の従来技術を示す図である。

【符号の説明】

１ 傾斜板式消波構造物 ２ 傾斜板 ３ 開口列 ４ 開口 ５ ジャケット ６ 杭 ７ 消波板 ８ ジャケット ９ 水面設置構造物 １０ 消波板 １１ 静水面 １２ 静水面 １３ 水面交差位置 １４ 水面交差位置 １５ 水面交差位置 １６ 突起物 １７ 突起物 １８ 突起物

───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 大久保 寛 東京都千代田区大手町２−６−３ 新日本 製鐵株式会社内 (72)発明者 林 伸幸 東京都千代田区大手町２−６−３ 新日本 製鐵株式会社内

Claims (3)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 開口列を設けた鋼製またはコンクリート
   製の傾斜板を、沖側から陸側に上り勾配に傾斜させ、且
   つ沖側は干潮水位における波の谷部より下方に没水さ
   せ、陸側は平均潮位高さより上方になるようにし、且つ
   杭上又は海底地盤中に打設された複数の杭により支持さ
   れたジャケット上に固定させ、前記開口列は干潮水位と
   満潮水位間において没水する傾斜板面に沿って複数の開
   口により形成させ、引波時において傾斜板の背後からの
   波を開口列を通して沖側に通過させ、傾斜板に生じる衝
   撃波力を低減することを特徴とする開口を有する傾斜板
   式消波構造物。
2. 【請求項２】 開口列を設けた鋼製またはコンクリート
   製の傾斜板を、沖側から陸側に上り勾配に傾斜させ、且
   つ沖側は干潮水位における波の谷部より下方に没水さ
   せ、陸側は平均潮位高さより上方になるようにし、且つ
   杭上又は海底地盤中に打設された複数の杭により支持さ
   れたジャケット上に固定させ、前記開口列は干潮水位と
   満潮水位間において没水する傾斜板面に沿って開口率２
   〜１０％の複数の開口により形成させ、引波時において
   傾斜板の背後からの波を開口列を通して沖側に通過さ
   せ、傾斜板に生じる衝撃波力を低減することを特徴とす
   る開口を有する傾斜板式消波構造物。
3. 【請求項３】 傾斜板に設ける開口の形状を円形、角
   形、又はスリット状とした請求項１、又は請求項２記載
   の開口を有する傾斜板式消波構造物。