JPH09170075A - 膜形成方法 - Google Patents

膜形成方法

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JPH09170075A
JPH09170075A JP34801295A JP34801295A JPH09170075A JP H09170075 A JPH09170075 A JP H09170075A JP 34801295 A JP34801295 A JP 34801295A JP 34801295 A JP34801295 A JP 34801295A JP H09170075 A JPH09170075 A JP H09170075A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 アーク式イオンプレーティング法によって、
基材の表面に、密着性および表面粗度の両方に優れた膜
を形成することができる膜形成方法を提供する。 【解決手段】 アーク式イオンプレーティング法によっ
て、まず基材上に下地層として窒化チタン膜を形成し、
その後その上に窒化チタン膜とは異種の膜を形成する。
しかもこの窒化チタン膜の形成を、チタンから成る陰極
12を有し、かつその前面12aに反応性ガス48を吹
き付けるガス吹付け機構40を有するアーク式蒸発源1
0を用いて、その陰極12の前面12aに反応性ガス4
8として窒素ガスを吹き付けながら行う。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、いわゆるアーク
式イオンプレーティング法によって、基材上に、密着性
および表面の平滑性に優れた膜を形成する膜形成方法に
関する。
【0002】
【従来の技術】アーク式イオンプレーティング法は、陰
極におけるアーク放電を利用して陰極物質を蒸発させる
アーク式蒸発源を用いて、当該陰極物質またはそれと雰
囲気ガス等との反応生成物を、基材に負のバイアス電圧
を印加した状態で基材上に堆積させ、膜を形成する方法
である。
【0003】イオンプレーティング法は、切削工具、機
械部品等に対する硬質薄膜形成法として広く利用されて
いるが、その内でも特にアーク式イオンプレーティング
法は、形成される膜の密着性に優れているという特長を
有している。これは、アーク式蒸発源から蒸発させられ
る陰極物質中には、イオン化した粒子が大きな割合で含
まれており、それを基材に印加したバイアス電圧によっ
て基材に向けて加速して基材に衝突させることができる
からである。
【0004】その他、アーク式イオンプレーティング法
は、るつぼ中で金属を溶融・蒸発させる方式の蒸発源を
用いる通常のイオンプレーティング法と比較して、互い
に異種金属から成る陰極を有する複数台の蒸発源を配置
したり、雰囲気中に導入する反応ガス種を連続的に変化
させること等によって、容易に多種の膜を連続的に積層
形成することができるという特長を有している。
【0005】このようなアーク式イオンプレーティング
法によって、例えば切削工具、機械部品等を構成する基
材の表面を、耐摩耗性、摺動性等に優れた膜で被覆する
ことが従来から行われている。そのような膜の例とし
て、TiAlN膜、TiCN膜、CrN膜等がある。
【0006】その場合、上記のような膜を基材の表面に
直に形成するよりも、例えば図13に示す例のように、
まず基材2上に窒化チタン(TiN)膜4を下地層とし
て形成し、その上に所望の膜6を形成する方が、膜6の
基材2に対する密着力がより向上することが知られてい
る。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】上記のように、密着性
に優れた膜を形成することができるアーク式イオンプレ
ーティング法を用い、しかも窒化チタン膜4を下地層と
して介在させることによって、膜6の密着力を向上させ
ることはできるけれども、膜6の表面粗度が悪い(即ち
膜6の表面粗度が大きくて平滑性が悪い)という問題が
ある。
【0008】これは、アーク式蒸発源においては、アー
ク放電によって陰極表面が局所的に高温になり、それに
よって陰極表面が溶融して陰極物質が蒸発するのである
が、このとき、陰極からは細かい陰極物質と共に大きな
塊の陰極物質(これはドロップレットと呼ばれる)も同
時に蒸発し、これが基材表面に付着して膜の表面粗度を
悪化させるからである。とりわけ、アルミニウム等の低
融点金属を蒸発させる場合、そのドロップレットのサイ
ズは大きく、かつその量も多くなり、膜の表面粗度は一
層悪くなる。
【0009】また、TiCN膜等の形成に用いられるメ
タン等の炭化水素系の反応ガスを利用する場合には、膜
表面に付着したドロップレットを核として炭化物が成長
して、巨大粒子を形成し、これが膜の表面粗度を一層悪
化させる。
【0010】そこでこの発明は、アーク式イオンプレー
ティング法によって、基材の表面に、密着性および表面
粗度の両方に優れた膜を形成することができる膜形成方
法を提供することを主たる目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するた
め、この発明の膜形成方法は、陰極におけるアーク放電
を利用して陰極物質を蒸発させる1台以上のアーク式蒸
発源を用いて、基材に負のバイアス電圧を印加した状態
で、まず基材上に下地層として窒化チタン膜を形成し、
その後その上に窒化チタン膜とは異種の膜を1層以上形
成する膜形成方法において、前記窒化チタン膜の形成
を、チタンから成る陰極を有する前記アーク式蒸発源を
用いて、その陰極に窒素ガスを吹き付けながら行うこと
を特徴とする。
【0012】上記方法によれば、窒化チタン膜の形成時
にアーク式蒸発源のチタンから成る陰極に窒素ガスを吹
き付けると、アーク放電の陰極点が陰極表面に多数生
じて陰極近傍でアーク分岐が生じる、陰極表面で陰極
構成物質と窒素ガスとが反応して陰極表面に元の陰極構
成物質よりも高融点の化合物、即ちこの場合は窒化チタ
ンが形成されてそれが陰極表面での溶融部の広がりを抑
える、等の作用によって、陰極表面での粗大な溶融部の
形成が抑制され、大きな塊の陰極物質の飛散が防止され
る。その結果、基材上に表面粗度の良好な、即ち平滑性
の良好な窒化チタン膜が形成される。
【0013】このような表面粗度の良好な窒化チタン膜
を下地層として形成し、その上に所望の膜を形成するこ
とにより、当該膜の形成時にアーク式蒸発源の陰極に必
ずしも反応性ガスを吹き付けなくても、表面粗度の良好
な膜を形成することができる。これは、下地層の表面粗
度を良好なものにすると、その上に他の膜を形成する場
合に、巨大粒子の成長する核が存在しないため、下地層
の良好な表面粗度がその上の膜の表面粗度にも反映され
る等の理由によるものと考えられる。
【0014】以上のような作用によって、アーク式イオ
ンプレーティング法によって、基材の表面に、密着性お
よび表面粗度の両方に優れた膜を形成することができ
る。
【0015】
【発明の実施の形態】ガス吹付け機構を有するアーク式
蒸発源の一例が、特開昭63−18056号公報に開示
されている。このアーク式蒸発源は、そのトリガ電極が
パイプ状をしていてガス吹付け機構を兼ねている。
【0016】前述した下地層としての窒化チタン膜4の
形成に、このようなガス吹付け機構を有するアーク式蒸
発源を用いても良いけれども、図1に示すようなガス吹
付け機構を有するアーク式蒸発源10を用いる方がより
好ましい。
【0017】このアーク式蒸発源10は、陰極12と陽
極を兼ねる真空容器50との間で真空アーク放電を生じ
させて、陰極物質14を蒸発させるものであるが、陰極
12の前面12aを含む領域に反応性ガス48を吹き付
けるガス吹付け機構40を備えている点に特徴を有して
いる。
【0018】詳述すると、陰極12は、所望の材料から
成り、前述した窒化チタン膜4の形成時はチタンから成
るものをこの陰極12として用いる。この陰極12は、
この例では非磁性金属から成るフランジ16に取り付け
られており、このフランジ16は絶縁物20を介して非
磁性金属から成る取付板22に取り付けられており、こ
の取付板22は絶縁物24を介して真空容器50に取り
付けられている。真空容器50は接地されている。
【0019】フランジ16の背面部には、陰極12の前
面付近におけるアークの状態を制御する磁界を生じさせ
る磁石(より具体的には永久磁石)18が取り付けられ
ている。
【0020】フランジ16ひいては陰極12と真空容器
50との間には、陰極12側を負側にして、直流のアー
ク電源34が接続されている。
【0021】陰極12の前面12a近傍には、矢印Aの
ように駆動される、アーク点弧用のトリガ電極28が設
けられており、それと真空容器50との間には電流制限
用の抵抗32が接続されている。
【0022】陰極12の側方の周囲は、アークを広げる
ために、即ち陰極12とそれからある程度離れたところ
の真空容器50との間でアーク放電させるために、リン
グ状で非磁性金属から成るシールド板26で覆われてお
り、このシールド板26は支柱27および抵抗30を介
して真空容器50に接続されている。
【0023】ガス吹付け機構40は、この例では、シー
ルド板26の内周部に取り付けられていて、陰極12の
前面12aに向いた複数のほぼ均等に配置されたガス吹
出し口46を有するリング状部44と、このリング状部
44に反応性ガス48を供給するガス供給パイプ42と
を備えている。このガス供給パイプ42に、ガス源から
流量調節器(いずれも図示省略)を経由して反応性ガス
48が供給される。
【0024】ガス供給パイプ42およびリング状部44
は、シールド板26と同電位にされている。このように
すると、陰極12とガス供給パイプ42およびリング状
部44との間で異常な放電が起こるのを防止することが
できる。これは、アーク電源34の正側(即ち陽極兼用
の真空容器50側)とガス供給パイプ42等との間には
抵抗30が介在することになるので、陰極12からガス
供給パイプ42等へ放電が起ころうとしても、それが抵
抗30によって阻止されるからである。
【0025】反応性ガス48は、陰極12を構成する物
質と反応して化合物、より具体的には陰極物質よりも融
点の高い化合物を作るものであれば良く、例えば窒素ガ
ス、炭化水素系ガス、酸素ガス等である。より具体的を
示せば、前述した窒化チタン膜4を形成する場合は、陰
極12がチタンで反応性ガス48が窒素ガスであり、こ
の場合は両者が化合して窒化チタン(TiN)が形成さ
れる。
【0026】このアーク式蒸発源10においては、トリ
ガ電極28を陰極12の前面12aに接触させて最初の
火花を発生させた後、トリガ電極28を陰極12より引
き離すと、陰極12の前面12aと陽極を兼ねる真空容
器50との間にアーク放電が発生してそれが持続され、
それによって陰極12の前面12aが溶融されてそこか
ら陰極物質14が蒸発する。
【0027】その際、ガス吹付け機構40のガス吹出し
口46から、陰極12の前面12aを含む領域に反応性
ガス48を吹き付けながら陰極12においてアーク放電
を生じさせると、アーク放電の陰極点が陰極表面に多
数生じて陰極12の前面12a近傍でアーク分岐が生じ
る、陰極12の前面12aで陰極構成物質と反応性ガ
ス48とが反応して陰極前面12aに元の陰極構成物質
よりも高融点の化合物が形成されてそれが陰極前面12
aでの溶融部の広がりを抑える、等の作用によって、陰
極前面12aでの粗大な溶融部の形成が抑制され、大き
な塊の陰極物質14の飛散が防止される。その結果、基
材上に表面粗度の良好な、即ち平滑性の良好な膜を形成
することができる。
【0028】従って、前述した下地層としての窒化チタ
ン膜4の形成を、このようなアーク式蒸発源10を用い
たアーク式イオンプレーティング法によって行うと、即
ち基材2に負のバイアス電圧を印加した状態で、チタン
から成る陰極12の前面12aに反応性ガス48として
窒素ガスを吹き付けながら行うと、ドロップレットの飛
散を防止して、基材2上に表面粗度の良好な窒化チタン
膜4を形成することができる。そして基材2上にこのよ
うな表面粗度の良好な窒化チタン膜4を下地層として形
成し、更にその上に前述したTiAlN膜、TiCN
膜、CrN膜等の窒化チタン膜4とは異種の所望の膜6
をアーク式イオンプレーティング法で形成することによ
り、当該膜6の形成時にアーク式蒸発源10の陰極12
に必ずしも反応性ガス48を吹き付けなくても、表面粗
度の良好な膜6を形成することができる。これは、下地
層の表面粗度を良好なものにすると、その上に他の膜6
を形成する場合に、巨大粒子の成長する核が存在しない
ため、下地層の良好な表面粗度がその上の膜6の表面粗
度にも反映される等の理由によるものと考えられる。
【0029】また、基材2上に形成する窒化チタン膜4
および膜6の密着性は、いずれの膜もアーク式イオンプ
レーティング法を用いて形成するので、前述したような
理由からいずれも良好なものとなる。
【0030】以上の結果、アーク式イオンプレーティン
グ法によって、基材2の表面に、密着性および表面粗度
の両方に優れた膜6を形成することができる。
【0031】その結果、上記のような膜形成方法を、例
えば、ドリル、超硬チップ等の切削工具やその他の機械
部品等の表面を耐摩耗性等の特性を有する膜で被覆する
ことに用いれば、当該切削工具や機械部品の寿命を大幅
に延ばすことが可能になる。
【0032】なお、上の膜6の形成時は、アーク式蒸発
源10の陰極12に反応性ガス48を吹き付けても良い
し、吹き付けなくても良い。反応性ガス48を吹き付け
ない場合は、このアーク式蒸発源10は従来型のアーク
式蒸発源と同じになる。但し反応性ガス48を吹き付け
る方が、膜6の形成時においても前述したような理由か
らドロップレットの飛散が防止されるので、膜6の表面
粗度をより一層向上させることができる。
【0033】また、下地層上の膜6の表面粗度が良好に
なる結果、更にその上にそれとは異種の膜を形成する場
合も、下の膜6の良好な表面粗度が反映される結果、そ
の膜の表面粗度も良好なものになる。また、その膜の密
着性は、アーク式イオンプレーティング法を用いるので
勿論良い。膜6上に複数の異種膜を積層する場合も同様
である。
【0034】また、前述した、トリガ電極がガス吹付け
機構を兼ねているアーク式蒸発源では、トリガ電極の先
端部のガス吹出し口が常に陰極の前方に位置しているた
め、当該アーク式蒸発源を使用するにつれて、ガス吹出
し口に陰極物質が付着してガス吹出し口が塞がり、陰極
への安定した反応ガスの供給が困難になるので、頻繁に
トリガ電極を交換しなければならないという課題があっ
たが、上記アーク式蒸発源10では、トリガ電極28を
パイプ状にしてそこから反応ガスを吹き付ける必要はな
いので、その先端部が陰極物質14によって塞がるとい
う問題は生じない。しかも、ガス吹付け機構40のガス
吹出し口46を、陰極12の前方を避けて、陰極12の
側方近傍に配置しているので、アーク放電によって陰極
12の前面12aから蒸発する陰極物質14が当該ガス
吹出し口46に付着してガス吹出し口46を塞ぐ可能性
も少ない。従って、部品交換やガス吹出し口46の清掃
等の作業が減るので、メンテナンスに要する時間が短縮
されると共に、交換部品の低減を図ることができる。
【0035】次に、より具体的な実施例を幾つか説明す
る。
【0036】〈実施例1〉図2に示すように、真空容器
50の互いに向かい合った二つの壁面に、前述したアー
ク式蒸発源10を1機ずつ設置したアーク式イオンプレ
ーティング装置において、各陰極12はTi金属とし
た。基材2は、鏡面研磨された板状の高速度鋼を用い、
これをホルダ52に取り付け、それにバイアス電源54
から負のバイアス電圧を印加するようにした。
【0037】まず、基材2上に下地のTiN膜を形成し
た。その方法は、各蒸発源10のガス吹付け機構40
(図1参照。以下同じ)からそれぞれ500ml/mi
nの窒素ガスを陰極12に吹き付けながら、各100A
の電流のアーク放電によって、−200Vのバイアス電
圧が印加された基材2にTiN膜を形成した。更にその
下地のTiN膜の上に、吹き付けガス中にメタンガス
(CH4 )を200ml/minで加えることによっ
て、TiCN膜を3μm積層した。この実施例1では、
下地層のTiN膜の厚さをそれぞれ0.05、0.1、
0.5、1.0、2.0、3.0、5.0μmとして、
その上に3μmのTiCN膜を積層した7例について検
討した。なお、陰極12に反応性ガスを吹き付ける場
合、真空容器50内にその壁面から吹き付けガスと同種
の反応性ガス56を導入しても良いし、導入しなくても
良いが、この実施例では導入しなかった(以下も同
様)。
【0038】図3は、上記7例のTiN膜の各膜厚の場
合のTiCN膜の表面粗度(最大表面粗さRmax)を
示したものである。同図中には比較例として、アーク式
蒸発源10を、そのガス吹付け機構40を用いずに(即
ち陰極12に反応性ガス48を吹き付けずに)、真空容
器50の壁面から反応性ガス56を導入するだけの従来
型のアーク式蒸発源として用いて成膜した、下地のTi
N膜が無いもの(比較例1)と、下地のTiN膜が2μ
mのもの(比較例2)とにTiCN膜を3μm積層した
例を示している。
【0039】図3から、上記実施例1においては、特に
下地層の厚さが0.1μm以上では、TiN膜の表面粗
度が1.5μm程度以下となり、表面粗度の改善に際立
った効果が見られることが分かる。0.05μmの厚さ
の下地層で表面粗度の改善効果が低いのは、TiN膜の
一様な成長が不十分なことに起因しているものと思われ
る。また、TiN膜の厚さが2μm以上で、僅かながら
表面粗度が上昇するのは、下地のTiN膜は平滑な膜と
はいえ、その膜厚の増加と共に下地の表面粗度が幾分悪
くなるからであると考えられる。
【0040】図4は、スクラッチ試験法による基材上の
膜の密着強度(臨界密着強度)を示したものである。下
地層のTiN膜の厚さが0.1μm以上では、実施例1
の各膜は比較例2よりも大きな密着強度を示している。
特に、TiN膜の厚さが1μm以上では50Nを超えて
おり、極めて密着性が良いことが分かる。この結果か
ら、基材上の膜の密着性は、下地層の密着性に依存して
いると考えられる。その密着強度の傾向は、表面粗度と
同様の傾向を示しており、表面粗度が良いことが、スク
ラッチ試験による密着性も良いといえる結果となってい
る。
【0041】以上の結果から、下地層の上に形成される
膜の密着性および表面粗度を向上させる効果を十分に上
げるためには、下地層のTiN膜の膜厚は、0.1μm
〜5μmの範囲内にするのが好ましいことが分かる。
【0042】〈実施例2〉高速度鋼ドリルに実施例1と
同一条件でTiCN/TiN積層膜を被覆し(実施例
2)、同様に、アーク式蒸発源10をガス吹き付けを行
わない従来型のアーク式蒸発源として用いて被覆したド
リル(比較例3)とで切削寿命を比較した。比較は、下
地層のTiN膜の膜厚が2μmのもので行った。基材の
ドリルは、10mmφ、被削材は、25mm厚のプレハ
ードン鋼(HRC=40)を使用した。切削条件は、回
転数1000回転/min、送り0.12mm/rev
で、油性切削油を使用した。切削寿命は、貫通試験で焼
き付くまでとした。図5は、その切削寿命を切削長で示
したものである。実施例2のものは、比較例3に比べて
ほぼ2倍の寿命をもっている。これから、表面粗度およ
び密着性の両方が良好な膜を得ることによって、切削工
具の切削寿命を大幅に延ばすことができることが分か
る。
【0043】〈実施例3〉真空容器50の互いに向かい
合った二つの壁面に、前述したアーク式蒸発源10を2
機ずつ、合計4機設置したアーク式イオンプレーティン
グ装置において、各壁のアーク式蒸発源10の陰極12
をTiとTiAl(Ti0.5Al0.5 )とにして、基材
2は板状の超硬合金とし、まずTi陰極を有する対向す
る二つのアーク式蒸発源10を使用して、各500ml
/minの窒素ガスをそれぞれのガス吹付け機構40か
らTi陰極に吹き付けながら、各100Aの電流のアー
ク放電によって、−200Vのバイアス電圧が印加され
た基材2上にTiN膜をまず0.1μm形成し、その後
その上に、TiAl陰極を有する対向する二つのアーク
式蒸発源10をガス吹き付けを行わない従来型のアーク
式蒸発源として使用して、真空容器50の壁面から反応
性ガス56として窒素ガスを導入しながら、TiAlN
膜を3μm積層した。
【0044】このようにして得られたこの実施例3のT
iAlN/TiN積層膜の表面の光学顕微鏡写真を図6
に示す。図7および図8は比較例である。図7は、各ア
ーク式蒸発源10をガス吹き付けを行わない従来型のア
ーク式蒸発源として用いて形成した、実施例3と同じ膜
厚構成のTiAlN/TiN積層膜(比較例4)、図8
は、各アーク式蒸発源10を同じく従来型のアーク式蒸
発源として用いて形成した膜厚は同一のTiAlN単層
膜(比較例5)の表面の光学顕微鏡写真である。両比較
例の場合は、真空容器50の壁面から反応性ガス56と
して窒素ガスを導入した。図6の実施例3の膜は、比較
例4および5のものに比べて、表面の巨大粒子の大きさ
も量も抑制されて、良好な表面粗度を持つことが分か
る。また、この実施例3の膜のスクラッチ試験法による
膜の密着強度は、60Nであった。これに対して比較例
4、5のそれは、それぞれ38N、43Nであった。こ
のことから、実施例3の膜が、表面粗度だけでなく密着
力においても優れていることが分かる。
【0045】〈実施例4〉実施例3のTiAlN/Ti
N積層膜を超硬合金のフライスカッター用チップに被覆
し(実施例4)、それと同様のフライスカッター用チッ
プに比較例4と同じ条件で被覆した比較例6との切削摩
耗試験による比較を実施した。被削材はS48C材を使
用した。切削条件は、切削速度200m/min、送り
0.25mm/rev、切り込み2.0mmで乾式で行
った。摩耗の進行は、逃げ面の摩耗量を計測した。その
結果を図9に示す。実施例4では、比較例6に比べてほ
ぼ1/3の摩耗であり、耐摩耗特性が大幅に向上してい
ることが分かる。
【0046】〈実施例5〉実施例3の場合と同一の装置
を使用して、TiAl陰極に換えてCr陰極を設置し、
鏡面研磨された高速度綱の基材2に、まず、対向する二
つのアーク式蒸発源10のTi陰極に窒素ガスを吹き付
けながら、バイアス電圧−200V、各100Aのアー
ク放電によって、TiN膜を2μm形成し、更にその上
に、Cr陰極を有する対向する二つのアーク式蒸発源1
0をガス吹き付けを行わない従来型のアーク式蒸発源と
使用して、真空容器50の壁面から反応性ガス56とし
て窒素ガスを導入しながら、3μmのCrN膜を積層し
た。このようにして得られた実施例5のCrN/TiN
積層膜表面の光学顕微鏡写真を図10に示す。比較例と
して、各アーク式蒸発源10をガス吹き付けを行わない
従来型のアーク式蒸発源として使用して形成した5μm
のCrN単層膜(比較例7)、同じく各アーク式蒸発源
10を従来型のものとして使用して形成した、実施例5
と同じ膜厚構成のCrN/TiN積層膜(比較例8)の
表面の光学顕微鏡写真をそれぞれ図10、図11に示
す。両比較例の場合は、真空容器50の壁面から反応性
ガス56として窒素ガスを導入した。表面粗度は、実施
例5のものが極めて良好で、次いで、比較例7、比較例
8のものの順である。表面粗度の測定値は、それぞれ最
大表面粗さで1.2、1.8、2.9μmであった。こ
れから、CrNの下地層であるTiN膜の表面粗度を改
善することによって、CrN単層の場合よりも表面を平
滑にすることができることが分かる。スクラッチ試験法
による密着強度は、それぞれ、58、57、54Nで、
この場合は大きな改善はみられなかった。
【0047】なお、下地層のTiN膜の上に1層以上形
成する膜は、上記TiAlN膜、TiCN膜、CrN膜
に限らず、それらと同様に耐摩耗性被膜として用いられ
ている、元素周期表の4A族、5A族または6A族の窒
化物、炭化物または炭窒化物から成る膜でも良い。
【0048】
【発明の効果】以上のようにこの発明によれば、下地層
としての窒化チタン膜の形成を、チタンから成る陰極を
有するアーク式蒸発源を用いてその陰極に窒素ガスを吹
き付けながら行うことによって、基材上に表面粗度の良
好な窒化チタン膜を形成することができる。そしてこの
ような表面粗度の良好な窒化チタン膜の上にそれとは異
種の膜を形成することにより、当該膜の形成時にアーク
式蒸発源の陰極に必ずしも反応性ガスを吹き付けなくて
も、表面粗度の良好な膜を形成することができる。その
結果、アーク式イオンプレーティング法によって、基材
の表面に、密着性および表面粗度の両方に優れた膜を形
成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明に係る膜形成方法に使用する、ガス吹
付け機構を有するアーク式蒸発源の一例を示す断面図で
ある。
【図2】図1に示したアーク式蒸発源を2機備えるアー
ク式イオンプレーティング装置の一例を示す概略図であ
る。
【図3】基材上に形成したTiCN/TiN積層膜の表
面粗度の測定結果の一例を示す図である。
【図4】基材上に形成したTiCN/TiN積層膜の密
着強度の測定結果の一例を示す図である。
【図5】TiCN/TiN積層膜を被覆したドリルの切
削寿命の測定結果の一例を示す図である。
【図6】実施例の方法によって形成したTiAlN/T
iN積層膜表面の光学顕微鏡写真であり、倍率は400
倍である。
【図7】比較例の方法によって形成したTiAlN/T
iN積層膜表面の光学顕微鏡写真であり、倍率は400
倍である。
【図8】比較例の方法によって形成したTiAlN単層
膜表面の光学顕微鏡写真であり、倍率は400倍であ
る。
【図9】TiAlN/TiN積層膜を被覆したフライス
カッター用チップの切削摩耗試験結果の一例を示す図で
ある。
【図10】実施例の方法によって形成したCrN/Ti
N積層膜表面の光学顕微鏡写真であり、倍率は400倍
である。
【図11】比較例の方法によって形成したCrN単層膜
表面の光学顕微鏡写真であり、倍率は400倍である。
【図12】比較例の方法によって形成したCrN/Ti
N積層膜表面の光学顕微鏡写真であり、倍率は400倍
である。
【図13】基材上に窒化チタン膜を下地層として形成
し、その上に窒化チタン膜とは異種の膜を1層形成した
例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
2 基材 4 窒化チタン膜 6 膜 10 アーク式蒸発源 12 陰極 14 陰極物質 40 ガス吹付け機構 48 反応性ガス 50 真空容器
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 村上 浩 京都府京都市右京区梅津高畝町47番地 日 新電機株式会社内 (72)発明者 緒方 潔 京都府京都市右京区梅津高畝町47番地 日 新電機株式会社内

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 陰極におけるアーク放電を利用して陰極
    物質を蒸発させる1台以上のアーク式蒸発源を用いて、
    基材に負のバイアス電圧を印加した状態で、まず基材上
    に下地層として窒化チタン膜を形成し、その後その上に
    窒化チタン膜とは異種の膜を1層以上形成する膜形成方
    法において、前記窒化チタン膜の形成を、チタンから成
    る陰極を有する前記アーク式蒸発源を用いて、その陰極
    に窒素ガスを吹き付けながら行うことを特徴とする膜形
    成方法。
  2. 【請求項2】 前記窒化チタン膜の厚さを0.1μm〜
    5μmにする請求項1記載の膜形成方法。
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