JPH0849030A - 高耐食低水素吸収性ジルコニウム基合金及びその製造法 - Google Patents

高耐食低水素吸収性ジルコニウム基合金及びその製造法

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JPH0849030A
JPH0849030A JP7103378A JP10337895A JPH0849030A JP H0849030 A JPH0849030 A JP H0849030A JP 7103378 A JP7103378 A JP 7103378A JP 10337895 A JP10337895 A JP 10337895A JP H0849030 A JPH0849030 A JP H0849030A
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磐雄 高瀬
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正義 菅野
Jiro Kuniya
治郎 国谷
Kimihiko Akahori
公彦 赤堀
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功 正岡
Hideo Maki
英夫 牧
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 ノジュラー腐食が生せず、高い耐食性と水素
吸収特性の低いジルコニウム基合金を実現する。 【構成】 重量で、錫1.2〜2.0%,鉄0.20〜0.
55%及びニッケル0.03〜0.30%を含み、残部が
実質的にジルコニウムからなるジルコニウム基合金で、
(鉄/ニッケル)比を1.4〜8とする。また、重量
で、錫1.2〜2.0%,鉄0.20〜0.55%,ニッケ
ル0.03〜0.30%及びクロム0.05〜0.15%を
含み、残部が実質的にジルコニウムからなるジルコニウ
ム基合金でも良い。この場合も、(鉄/ニッケル)比は
1.4〜8とする。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、原子炉用燃料被覆管、
スペーサ、チャンネルボックス及び燃料集合体等に用い
られる、新規なジルコニウム基合金に係り、特に原子炉
用燃料被覆管として高燃焼度での使用に好適な高耐食性
を有する原子炉用燃料棒とその燃料集合体に関する。
【0002】
【従来の技術】ジルコニウム基合金のうち、燃料被覆管
に使用される合金は、ジルカロイ−2(Sn:1.20
〜1.70wt%,Fe:0.07〜0.20wt%,C
r:0.05〜0.15wt%,Ni:0.03〜0.08
wt%,O:900〜1400ppm,残Zr,但しFe
+Cr+Ni:0.18〜0.24wt%)およびジルカ
ロイ−4(Sn:1.20〜1.70wt%,Fe:0.
18〜0.24wt%,Ni:0.007wt%以下,
O:900〜1400ppm,残Zr但しFe+Cr:0.
28〜0.37wt%)である。これら合金の開発経緯
は、ASTM,STPNo368(1963)pp3−2
7に論じられている。本論文には、ジルカロイ−1(Z
r−2.5wt%Sn合金),ジルカロイ−3A(Zr
−0.25wt%Sn−0.25Fe合金),ジルカロイ
−3B(Zr−0.5wt%Sn−0.4wt%Fe合
金),ジルカロイ−3C(Zr−0.5wt%Sn−0.
2wt%Fe−0.2wt%Ni合金)及び、Ni−Fr
eeジルカロイ−2(Sn:1.20〜1.70wt%,F
e:0.12〜0.18wt%,Cr:0.05〜0.15
wt%,Ni:0.007wt%以下)で報告されてい
る。ジルカロイ−2,ジルカロイ−4以外のこれら合金
の問題点は、下記のようである。ジルカロイ−1は、F
e,Cr,Niが含まれていないので、耐食性が低い。
ジルカロイ−3シリーズは、Sn添加量を減少させるこ
とにより製造性を向上させると共にFe,Ni添加量を
増加させて耐食性向上をはかった合金であるが、強度が
ジルカロイ−2より低く約75%に低下する。Ni−F
reeジルカロイ−2はNiを除去したことにより、51
0℃水蒸気中での耐食性が低い。ジルカロイ−4は、N
i−Freeジルカロイ−2の耐食性を高めるためにFe
含有量を高めた合金であり、Niを含まないため多量の
Feが必要となり中性子吸収断面積を大きくするのでま
ずい。
【0003】上記ジルカロイの各合金元素の添加目的に
ついても以下のように論じられている。Snは、機械的
性質の改善と、溶解原料であるスポンジジルコニウム中
に含まれている窒素が耐食性に及ぼす悪影響を防止する
ために添加される。Fe,Cr及びNiは、主に耐食性
改善のために添加される合金元素である。Zr−2.5
wt%Sn合金及びZr−1.8wt%Sn合金に、F
e,Cr及びNiを単独添加した3元合金、並びにZr
にFe,Cr,Niを単独添加した2元合金を用いて、
400℃水蒸気中および315〜360℃高温水中での
耐食性が検討されている。その結果によるとFe単独添
加量の最適値は0.22wt%,Cr単独添加量の最適
値は0.1wt%,Ni単独添加量の最適値は0.22w
t%であった。各元素の複合添加効果についても検討さ
れた結果Fe,Cr,Niの最適合計添加量は、400
℃水蒸気中では0.35wt%、360℃水中では0.3
wt%であると報告されている。以上の結果をもとにし
て現用ジルカロイ−2及びジルカロイ−4の合金組成が
決定された。
【0004】このように高い耐食性が確認されたジルカ
ロイ−2,ジルカロイ−4からなる燃料被覆管をBWR
環境中で使用すると、ASTM,STP No.633(1
977)第236頁−第280頁,第295頁−第31
1頁に記載されているように、ノジュラコロージョンと
呼ばれる丘疹状の局部腐食が発生することが明らかにな
った。原子力燃料を高燃焼度化すると、ノジュラコロー
ジョン発生部が拡大、相互連結し、ついには剥離してし
まうので、ノジュラ腐食の発生を防止することが、原子
力燃料の高燃焼度化には不可欠な技術となった。
【0005】特開昭58-95247号公報,ANS TRANSACTION
vol.34(June 1980)pp237-238,J.Electrochem.Soc.
Electrochemical Science and Technology,Februa
ry 1975,pp199-204によると、この炉内で発生するノジ
ュラコロージョンを炉外での加速腐食試験で再現させる
には、約500℃以上の高温水蒸気環境で適しており、
400℃水蒸気中あるいは315〜360℃高温水中試
験では、ノジュラコロージョンに対するジルカロイの感
受性を評価できないことが明らかになった。この改良さ
れた腐食試験法で現用ジルカロイ−2,ジルカロイ−4
を評価した結果ノジュラコロージョンを発生することも
明らかになり、さらに高い耐ノジュラコロージョン性を
有する被覆管が必要となった。
【0006】なお米国特許第2,772,964号には、
Sn0.1〜2.5%,Fe,Ni及びCrの少なくとも
1種2%以下残部が実質的にZrからなる合金が開示さ
れていない。
【0007】現用ジルカロイを高耐食化する技術として
は、特開昭51−110411号公報、特開昭51−1
10412号公報及び特開昭58−22364号公報に
記載されているβクエンチと呼ばれる熱処理技術及びβ
クエンチ工程を含む製造プロセスが公知である。βクエ
ンチとは、ジルカロイをα+β相温度範囲あるいはβ相
温度範囲の高温から急冷する熱処理であり、この処理を
施すことにより、合金中に析出している金属間化合物相
(Zr(Cr,Fe)2,Zr2(Ni,Fe)等)が微
細化あるいは一部固溶する。このβクエンチ技術によ
り、耐食性は向上するが、βクエンチしたままのジルカ
ロイは、Fe,Cr,Niを過飽和に固溶しているマル
テンサイト組織(針状組織)を含んでいるため延性が低
い、延性を向上させるために、βクエンチ後、冷間加工
と焼なましとを交互に繰返すことにより再結晶組織とす
る方法もある。燃料被覆管の製造工程を例にとると、溶
解されたインゴットは、熱間鍛造(約1000℃)溶体
化処理(約1000℃)熱間鍛造(約700℃)の後、
熱間押出し加工により円筒状ビレット(通常素管と呼ば
れる)に成形され、この素管にβクエンチを施し、ピル
ガミル冷間圧延加工と焼なまし処理とを交互に3回繰返
される。βクエンチ後、強加工と焼なましとを複数回繰
返すと、βクエンチにより高い耐食性を付与されたジル
カロイ合金中に、粗大な金属間化合物相が析出し耐食性
が低下してくる。よって燃料被覆管として使用されるジ
ルコニウム基合金は、加工及び熱処理により耐食性が変
化せず高い高食性を有していることが望ましい。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】ジルカロイの耐食性を
改善する上記従来技術は、熱処理によるものであり、ノ
ジュラコロージョン防止の観点から合金組成の再検討に
対する配慮がなされておらず、実炉環境中で完全にノジ
ュラコロージョンを防止することができないこと及び水
素吸収特性が高いという問題があった。
【0009】本発明の目的は、ノジュラー腐食が生せ
ず、高い耐食性と水素吸収特性の低いジルコニウム基合
金とその製造法を提供するにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明は、重量で、錫
1.2〜2.0%,鉄0.20〜0.55%及びニッケル
0.03〜0.30%を含み、残部が実質的にジルコニウ
ムからなるジルコニウム基合金において、(鉄/ニッケ
ル)比が1.4〜8であり、好ましくはα相のジルコニ
ウム結晶粒内に微細な錫とニッケルとの金属間化合物が
析出していることを特徴とする高耐食低水素吸収性ジル
コニウム基合金にある。
【0011】本発明は、更にCr0.05〜0.15%含
むことがより耐食性向上が得られる。
【0012】また本発明は、重量で、鉄が0.35を越
え且つ0.55%以下、ニッケルが0.03〜0.30
%、残部が実質的にジルコニウムからなるジルコニウム
基合金を最終熱間塑性加工後、β相又はα相とβ相とが
共存する温度領域で短時間保持し次いで急冷する処理を
施し、次いで冷間塑性加工と焼なまし処理とを交互に繰
返すことを特徴とする高耐食低水素吸収性ジルコニウム
基合金の製造法にある。
【0013】さらに、本発明は、重量で、鉄が0.35
を越え且つ0.55%以下、ニッケルが0.03〜0.3
0%、クロムが0.05〜0.15%、残部が実質的にジ
ルコニウムからなるジルコニウム基合金管を最終熱間塑
性加工後、最初の冷間塑性加工前に高周波コイル内を通
過させることによってβ相又はα相とβ相とが共存する
温度で前記管外周面を短時間保持し、次いで前記コイル
を通過した直後に冷媒を噴霧し急冷する処理を施し、次
いで冷間塑性加工と焼なまし処理とを交互に繰返すこと
を特徴とする高耐食低水素吸収性ジルコニウム基合金の
製造法にある。
【0014】
【作用】Snは、ジルコニウム基合金の強度及び耐食性
を向上させるために1%以上含有させるものであり、2
%を越えてもより顕著な効果は得られず、逆に塑性加工
性を低めるので、2%以下に限定される。特に、1.2
〜1.7%が加工性が高く、強度及び耐食性の点からバ
ランスされた範囲である。
【0015】鉄は高温高圧水中での耐食性を向上させ、
水素吸収特性を高めるとともに強度を高めるのに必要
で、0.2%以上必要である。しかし、0.35%を越え
ると中性子吸収断面積を大きくし、冷間塑性加工性を低
めるので、0.35%以下にすべきである。特に、0.2
〜0.3%がこれらの特性がバランスされたものが得ら
れ、特に原子炉用燃料被覆管、スペーサ及びチャンネル
ボックス等の薄肉部材を冷間塑性加工及び焼なましの繰
返しによって製造するのに好適である。
【0016】ニッケルは水素吸収率を高めずに高温高圧
水中での耐食性を向上させるもので、0.03%以上必
要である。即ち、鉄を単独で添加することによっても耐
食性が向上するが、ニッケルとの共存によって鉄の含有
量を顕著に減らすことができる。しかし、Niは水素吸
収率を高める元素なので、0.16%以下にすべきであ
る。特に、0.05〜0.11%が水素吸収率が低く、高
耐食性が得られる。(鉄/ニッケル)比は水素吸収率に
大きく関係する。この比率が1.4未満では急激に水素
吸収率が増し、また逆に10を越えても水素吸収率の低
下が得られないので、この比率を1.4〜10にすべき
である。特に、2〜4は、鉄及びニッケル量との耐食性
および水素吸収率との両者の特性に優れ、冷間塑性加工
性の高いバランスされた範囲である。この比率は前述し
たFe含有量が0.2%以上で重要な意味があり、Ni
含有量との相関関係の結果得られるものである。
【0017】錫とニッケルとの金属間化合物は耐食性を
向上させるのに不可欠のものであり、最終熱間塑性加工
後のα相とβ相との共存温度又はβ相からの急冷によっ
て得られるものであり、その後の焼なましによって形成
される鉄・ニッケル・ジルコニウム金属間化合物の成長
を抑制し、耐食性および水素吸収特性を改善するもので
ある。特に、Sn・Ni金属間化合物は0.2μm以下
の粒径が好ましい。
【0018】本発明におけるジルコニウム基合金は、α
相のジルコニウム結晶粒内に微細な錫とニッケルとの金
属間化合物及び鉄・ニッケル・ジルコニウム金属間化合
物が析出していること、α相のジルコニウム結晶粒内に
粒径0.2μm以下の錫とニッケルとの金属間化合物及
び粒径0.1〜0.5μmの鉄・ニッケル・ジルコニウム
金属間化合物が析出していること、鉄とニッケルとの合
計量が0.3〜0.4重量であること、圧力10.3MP
aで、410℃の水蒸気中8時間保持し、更に510℃
の水蒸気中16時間保持したときの腐食増量が45mg/
dm2以下であり、非ノジュラー腐食を有すること、圧
力10.3MPaで、410℃の水蒸気中8時間保持
し、更に510℃の水蒸気中16時間保持したときの水
素吸収率が15%以下であることが好ましい。
【0019】α+β相温度からの急冷は、その後の冷間
塑性加工性がβ相急冷されたものに比較し高いことから
好ましい。
【0020】合金は前述のβ相又はα+β相からの急冷
を施したものが好ましく、その処理は熱間塑性加工後最
後の冷間塑性加工前に施すのが好ましく、特に最初の冷
間塑性加工前に施すのが良い。
【0021】α+β相は790〜950℃、β相は95
0℃を越える温度より1100℃以下で、これらの温度
より流水、噴霧水等による急冷するのが好ましい。特
に、最初の冷間塑性加工前に素管内に水を流しながら外
周より高周波加熱により局部的に加熱する方法が好まし
い。
【0022】この結果、管内面側が延性が高く、外面側
に耐食性が水素吸収率の低いものが得られる。α+β相
での加熱はβ相が主に形成される温度が選ばれる。β相
は急冷しても変らず、硬さの低い延性の高いものであ
り、β相に変った部分からの急冷は硬さの高い針状の相
が形成され、冷間加工性が低い。しかし、α相がわずか
ながらでも混在することによって高い冷間塑性加工性が
得られ、耐食性及び水素吸収率の低いものが得られる。
β相として80〜95%の面積率になる温度で加熱し、
急冷するのが好ましい。加熱は短時間で行ない、5分以
内、特に1分以内が好ましい。長時間の加熱は結晶粒が
成長するとともに析出物が形成され、耐食性が低下する
のでまずい。
【0023】焼なまし温度は500〜700℃が好まし
く、特に550〜640℃が好ましい。640℃以下で
は耐食性の高いものが得られる。この加熱は高真空中で
行うのが好ましい。真空度は10~4〜10~5Torrが好
ましく、焼なましによって合金表面に酸化皮膜が実質的
に形成されず、表面が無色の金属光沢を示すものがよ
い。焼なまし時間は1〜5時間が好ましい。
【0024】(耐食性)ジルカロイ表面の酸化膜は、金
属過剰(酸素欠乏)型のn型半導体であり、その組成は
化学量論組成からずれたZrO2━xである。過剰な金属
イオンは、等価な電子によって補償されており、酸素欠
乏部はアニオン欠陥として酸化膜中に内在している。酸
素イオンはこのアニオン欠陥と位置を交換することによ
り内部へ拡散し、酸化膜と金属界面でジルコニウムイオ
ンと結合し新たな酸化物を形成し、腐食が金属内部へと
進行していく。このような均一全面酸化が被覆管全表面
で進行すると表面に強固な不動体的性質を有する酸化膜
が形成され、時間経過に伴い酸化膜成長速度は鈍化し優
れた耐食性を有するようになる。合金元素であるFe及
びNiは、ZrO2━xイオン格子のZrイオン位置と置
換することにより、アニオン欠陥を形成する元素である
が、均一に分散することにより酸化膜の成長速度を均一
化させ、均一な保護被覆を形成させる効果がある。製造
プロセスにおけるβクエンチは、合金元素の分布をより
均一化させる効果がある。焼なまし等のα相温度範囲で
の熱処理は、金属間化合物相の析出を促進しその析出物
を粗大化させる。粗大化した金属間化合物相が析出する
とその周辺部で合金元素の欠乏部が生じるため酸化膜成
長速度に不均一が生じる。酸化膜厚さの不均一は、酸化
膜中に不均一な内部応力が発生する原因となり、この応
力の不均一に起因する割れを発生させる。割れは腐食環
境とジルカロイ金属とを短絡させるので局部酸化、すな
わちノジュラコロージョン発生の原因となる。よってノ
ジュラコロージョン発生の防止には、α+βクエンチあ
るいはβクエンチにより、均一にFe及びNiを分散さ
せること、及び、析出により濃度低下をきたさないだけ
の十分なFe及びNiが合金に添加されている必要があ
る。とくにNiは、これらのクエンチにより粒径0.0
1μm前後の微細な金属間化合物相Sn・Niとして結
晶粒内に均一に分散する性質を有しているので、ノジュ
ラコロージョンを防止するには不可欠な元素である。
【0025】Sn・Ni金属間化合物相は高温の相温度
範囲で長時間焼なまし処理を施すと、Zr2(Ni・F
e)に変化し耐食性を低下させる。
【0026】よって、Sn・Ni金属間化合物相が0.
2μm以上に成長しないような熱処理条件を採用しなけ
ればならない。
【0027】(水素吸収特性)材料脆化の原因となる水
素は、吸収量が少ないことが必要である。前述したよう
にNiは耐食性向上には不可欠な添加元素であるが、添
加量の増加に伴い水素吸収量を増す元素である。水素ガ
スの発生は、腐食に付随した現象であり、酸化(腐食)
が少ないほど水素ガスの発生量も少ない。酸素イオンの
内部拡散と逆方向に電子が移動し、水素イオンはこの電
子により還元されて水素ガスとなる。この水素ガスの一
部が内部に吸収されて水素化物を形成し水素脆化の原因
となる。
【0028】Zr2(Ni・Fe)型の金属間化合物相
が存在すると、カソード分極反応が促進され水素ガス吸
収量を増すが、Zr(Cr・Fe)2あるいはZrFe2
型の金属間化合物相が同時に存在すると、カソード分極
反応は抑制される。また、Zr2(Ni・Fe)中のF
e/Ni比を1.4以上とすることによってカソード分
極反応が抑制され、水素吸収量が著しく低下する。よっ
て、所定量以上のFeを添加する必要があり、その量は
0.2wt%以上及びNi 0.16%以下とすべきであ
る。
【0029】(中性子吸収断面積)Zrに比べて熱中性
子吸収断面積の大きいFe及びNiを多量に添加するこ
とは、発電に寄与する熱中性子を吸収し発電効率を低下
させるので好ましくない。現用ジルカロイと同等な中性
子吸収断面積とするためには、Ni量は0.3wt%以
下、Fe量は0.55wt%以下とするのが好ましい。
よって、Fe及びNiの合金添加量は次式の範囲内とな
り、本発明合金は中性子吸収断面積は小さいものが得ら
れる。
【0030】0.55XNi+0.3XFe≦0.165 (製造性,機械的性質)熱間及び冷間加工性が低下する
と、製造時に割れが発生する。Niを添加すると、Zr
2(Ni・Fe)の金属間化合物が析出する。耐食性向
上効果のあるSn・Ni金属間化合物相は、α相温度範
囲での熱処理を施しても粗大化しないが、Zr2(Ni
・Fe)金属間化合物相は粗大化し加工性を低下させ
る。粗大化防止には、Ni添加量を0.2wt%以下に
するのが好ましく、βクエンチあるいはα+βクエンチ
により微細化するのが好ましい。機械的性質に関しても
製造性とほぼ同様であり、Niを過剰に添加すると延性
が低下する。Snを3.0%以上合金化すると延性の低
下が著しい。したがって、本発明合金は熱間及び冷間加
工性においても優れたものである。
【0031】
【実施例】溶解原料に原子炉用ジルコニウムスポンジを
用い、真空アーク溶解により表1及び2に示す合金組成
(重量%)の合金を溶製した。残部はZrである。各イ
ンゴットは、熱間圧延(700℃)、焼なまし(700℃
・4時間)を施した後、α+β相温度範囲(900℃)
及びβ相温度範囲(1000℃)に5分間保持した後水
冷するクエンチ処理を施した。冷間圧延(加工度:40
%)と600℃・2時間の中間焼なましとを交互に3回
繰返すことにより厚さ1mmの板にした。この板を再結晶
温度範囲以上のα相温度範囲(530,620,730℃)
で2時間の焼なましを施し、腐食試験に供した。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】腐食試験は、圧力:10.3MPaの水蒸
気中で行い、温度及び時間は、BWR環境でのノジュラ
コロージョンを再現するに適した特開昭58−9524
7号公報に開示されている条件で行った。すなわち、4
10℃の水蒸気中に8時間試験片を保持した後、圧力を
一定に保ちつつ、水蒸気温度を510℃に上昇させ、5
10℃の高温高圧水蒸気中に16時間試験片を引き続き
保持する方法である。
【0035】水素吸収特性については、以下に記す方法
により評価した。
【0036】Zr+2H2O→ZrO2+2H2 の反応に伴い、酸化物(ZrO2)が形成されると同時
に水素ガスが発生する。酸化による重量増加を測定する
ことにより、ジルカロイと反応した水のモル数を求める
ことができ、それに対応して発生する水素ガスのモル数
を求めることができる。腐食試験後の試験片に含まれる
水素量を化学分析により測定し、吸収水素モル数を計算
し、吸収水素に対する発生水素の比を求めることにより
水素吸収率を求めた。
【0037】図1は、ノジュラコロージョン発生の有無
を示し、図中○印は最終焼なまし温度によらずノジュラ
腐食の発生が表面及び側面に認められず腐食増量が45
mg/dm2以下であったことを示している。×印は、
表面あるいは側面にノジュラコロージョンが発生し腐食
増量が50mg/dm2を越えるものであったことを示
す。図1より、ノジュラコロージョンを防止できる合金
組成は、図中の点線で分割された領域の高Ni,高Fe
側に存在することがわかる。点線は、0.15Fe+0.
25Ni=0.0375によって求められる線図であ
る。
【0038】図2は腐食増量に及ぼすFe及びNi含有
量の影響を示す線図である。図に示す如く、高温高圧水
中での腐食はFe量及びNi量の増加によって顕著に減
少することが分る。特に、Niの極微量の添加によって
急激に腐食増量が減少する。Fe含有量が0.2%付近
ではNi0.03%の添加によって腐食増量が45mg
/dm2以下であり、ノジュラー腐食は生じなかった。
【0039】図3は、水素吸収率に及ぼすFe添加量の
影響を示したものである。図中△印はNi添加量:0.
11wt%の合金の水素吸収率を示し、○印はNi添加
量:0.05wt%の合金の水素吸収率を示す。図中の
点線は、α+βクエンチあるいはβクエンチを省略した
合金についての実験結果を示す。実線は、加工熱処理プ
ロセスにおいて、α+βクエンチを行った合金の水素吸
収率を示す。図3よりα+βクエンチを施すことにより
水素吸収率を11%以下とすることができることがわか
る。
【0040】図4は、水素吸収率に及ぼすNi添加量の
影響を示す。Fe添加量は0.20〜0.24wt%の範
囲にある。Ni添加量0.16wt%以下では、水素吸
収率は11%以下と低い値であるが0.2wt%以上に
なると急激に水素吸収率が上昇し40%にも達する。よ
って、Ni添加量は、0.16wt%以下とすべきであ
る。
【0041】図5は、水素吸収率に及ぼす(Fe/N
i)比の影響を示す線図である。図に示す如く、Fe含
有量が0.20%未満の○印及び△印のものは(Fe/
Ni)比による影響が見られないが、0.20%以上の
Fe含有量では(Fe/Ni)比は1.4以上にすべき
であることが分る。前述の如く、FeとNiとは水素吸
収率に及ぼす効果が全く逆の作用を有するので、これら
の元素における比率が重要な関係を有することを見い出
した。Feの含有量が0.2%未満およびNi含有量が
0.16%を越える含有量ではこれらの元素の相関関係
がないが、両者の含有量が互いに逆の場合に両者は相関
関係を有するものである。
【0042】No.38の合金は、Fe添加量を0.48w
t%まで高めた合金である。この合金の腐食増量は、4
3mg/dm2、水素吸収率は12%であった。このこ
とから、耐食性及び水素吸収の観点からは、Ni添加量
0.16wt%以下の範囲であればFe添加量を0.2w
t%以上、0.5wt%前後まで増加させてもよいこと
がわかる。しかし、後述するようにNiとFeとの合計
量が0.64%と多量に含有すると冷間塑性加工性が急
激に低下するので、前述の如く冷間塑性加工によって薄
肉とする部材では好ましくないことが明らかである。F
eとNiとの合計量は0.40%以下とするのが好まし
い。
【0043】No.34合金のα+βクエンチしたものの
透過電子顕微鏡により析出物の観察を行った結果、錫と
ニッケルとの金属間化合物が検出され、α相のジルコニ
ウム結晶粒内中に均一に分散して析出しているのが確認
された。析出物はSn2Ni3析出物で、粒径は約10n
m程度の極微細なものであった。しかし、同じ材料でα
+βクエンチしないものにはこの析出物は観察されなか
った。
【0044】尚、α+βクエンチしたものでも、クエン
チ後に熱間塑性加工を施したものにはSnとNiとの析
出物は見られなかった。
【0045】(実施例1)本実施例は、ジルコニウム基
合金の一応用例として原子炉用燃料被覆管への製造プロ
セスを検討したものである。表3に示す5種類の合金組
成(重量%)を有するインゴットをアーク溶解により溶
製した。2回の真空アーク溶解後、1050℃の温度で
鍛造し、室温まで冷却させた後、1000℃に再加熱し
て1時間保持し水中で冷却させる溶体化処理を施した。
引き続き700℃の温度で鍛造し冷却させ再加熱し70
0℃で1時間焼なましを行った。表面を研削しCu被覆
を施し650℃で熱間押出し、その後Cu被覆を除去し
た。この管は素管と呼ばれ、外径63.5mm、肉浮10.
9mmの寸法である。この素管を高周波誘導コイル中を通
過させることにより加熱し、コイル通過直後の位置(コ
イル下方)に設けた水噴出ノズルから管表面に水を噴き
つけ急冷させた。最高加熱温度はα+β相を有する91
0℃であり860℃以上の保持時間は10秒、910℃
から500℃までの平均冷却速度は約100℃/sであ
った。高周波焼入れ処理を施した素管はピルガミルによ
る圧延及び中間焼なましを交互に3回繰返すことにより
外径12.3mm、肉厚0.86mmの燃料被覆管寸法とし
た。中間焼なましはいずれも10~5Torrの真空中で行
ない、温度は600℃及び650℃で順に行ない、最終
焼なまし温度は577℃とした。冷間圧延加工度(管断
面積減少率)は、それぞれ順次77%,77%,70%
であった。この工程において、表3のNo.5の合金には
ミクロクラックが第2回目の冷間圧延時に発生したた
め、その後の加工及び熱処理を中止した。このことか
ら、Niを0.2wt%以上添加すると冷間加工性が低
下し好ましくないことがわかる。いずれの被覆管も焼な
まししたままで管表面には実質的に酸化物は形成され
ず、無色で金属光沢を有していた。
【0046】
【表3】
【0047】以上の製造プロセスを経た燃料被覆管を引
張試験(室温及び343℃)及び腐食試験に供した。表
4はその結果を示す。
【0048】
【表4】
【0049】引張特性はいずれの合金組成の被覆管にお
いてもほぼ同等であったが、Ni量:0.01wt%で
は耐食性が低くNiを0.03wt%以上添加する必要
があることがわかる。
【0050】高い耐食性を有していたNo2〜No4の被覆
管の金属組織においては、粒径0.01μm前後のSn
・Ni金属間化合物相が、再結晶したα相Zr結晶粒内
に微細に分散していた。
【0051】No.4の合金からなる被覆管を用い、更に
端栓に同じ合金を用いて、図6に示す燃料棒を製作し
た。燃料棒は被覆管1、ライナ2、上部端栓3、核燃料
ペレット(例UO2)4、プレナムスプリング5、溶接
部6、下部端栓7によって主に構成される。
【0052】端栓はβ相温度領域で鍛造され、焼鈍した
ものである。溶接はTIG溶接によって行われた。ライ
ナ管2は鈍Zrからなり、100μm以下の肉厚を有す
る。ライナ管2は熱間押出し時にビレットに挿入し、圧
着され、被覆管の製造時の冷間塑性加工と焼鈍の繰返し
によって所望の厚さになる。
【0053】この燃料棒は図7に示す核燃料集合体10
として組立てられ、炉心に収納される。核燃料集合体1
0はチャンネルボックス11、核燃料棒14、吊上げ取
手12、上端プレート15、下端プレート(図示せず)
によって主に構成される。
【0054】
【発明の効果】本発明によれば、高温高圧水雰囲気下に
おいて耐食性が優れ、水素吸収量が少ないジルコニウム
基合金が得られる顕著な効果を有するものである。特
に、炉内滞在寿命を大幅に長期化できるので、原子力燃
料の高燃焼度化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ノジュラーコロージョン発生に及ぼすFe,N
i合金組成の影響を示す線図である。
【図2】腐食増量に及ぼすNiの影響を示す線図であ
る。
【図3】水素吸収率に及ぼすFe量の影響を示す線図で
ある。
【図4】水素吸収率に及ぼすNi量の影響を示す線図で
ある。
【図5】水素吸収率に及ぼす(Fe/Ni)比の影響を
示す線図である。
【図6】本発明合金を適用した一例を示す燃料棒の断面
図である。
【図7】本発明合金を適用した核燃料集合体の部分断面
図である。
【符号の説明】
1 被覆管 2 ライナー 3,7 端栓 4 核燃料ペレット 6 溶接部 10 燃料集合体 11 チャンネルボックス 14 核燃料棒 15 上端プレート
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 国谷 治郎 茨城県日立市久慈町4026番地 株式会社日 立製作所日立研究所内 (72)発明者 赤堀 公彦 茨城県日立市久慈町4026番地 株式会社日 立製作所日立研究所内 (72)発明者 正岡 功 茨城県日立市久慈町4026番地 株式会社日 立製作所日立研究所内 (72)発明者 牧 英夫 茨城県日立市幸町三丁目1番1号 株式会 社日立製作所日立工場内 (72)発明者 中島 潤二郎 茨城県日立市幸町三丁目1番1号 株式会 社日立製作所日立工場内

Claims (12)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 重量で、錫1.2〜2.0%,鉄0.20
    〜0.55%及びニッケル0.03〜0.30%を含み、
    残部が実質的にジルコニウムからなり、(鉄/ニッケ
    ル)比が1.4〜8であることを特徴とする高耐食低水
    素吸収性ジルコニウム基合金。
  2. 【請求項2】 前記ジルコニウム基合金はα相を有し、
    該α相のジルコニウム結晶粒内に微細な錫とニッケルと
    の金属間化合物及び鉄・ニッケル・ジルコニウム金属間
    化合物が析出している請求項1に記載の高耐食低水素吸
    収性ジルコニウム基合金。
  3. 【請求項3】 前記α相のジルコニウム結晶粒内に粒径
    0.2μm以下の錫とニッケルとの金属間化合物及び粒
    径0.1〜0.5μmの鉄・ニッケル・ジルコニウム金属
    間化合物が析出している請求項1又は2に記載の高耐食
    低水素吸収性ジルコニウム基合金。
  4. 【請求項4】 鉄とニッケルとの合計量が0.3〜0.4
    重量%である請求項1〜3のいずれかに記載の高耐食低
    水素吸収性ジルコニウム基合金。
  5. 【請求項5】 圧力10.3MPaで、410 ℃の水蒸
    気中8時間保持し、更に510℃の水蒸気中16時間保
    持したときの腐食増量が45mg/dm2以下であり、
    非ノジュラー腐食性を有する請求項1〜4のいずれかに
    記載の高耐食低水素吸収性ジルコニウム基合金。
  6. 【請求項6】 圧力10.3MPaで、410 ℃の水蒸
    気中8時間保持し、更に510℃の水蒸気中16時間保
    持したときの水素吸収率が15%以下である請求項1〜
    5のいずれかに記載の高耐食低水素吸収性ジルコニウム
    基合金。
  7. 【請求項7】 重量で、錫1.2〜2.0%,鉄0.20
    〜0.55%,ニッケル0.03〜0.30%及びクロム
    0.05〜0.15%を含み、残部が実質的にジルコニウ
    ムからなり、(鉄/ニッケル)比が1.4〜8であるこ
    とを特徴とする高耐食低水素吸収性ジルコニウム基合
    金。
  8. 【請求項8】 重量で、鉄が0.35%越え且つ0.55
    %以下、ニッケルが0.03〜0.30%、残部が実質的
    にジルコニウムからなるジルコニウム基合金を最終熱間
    塑性加工後、β相又はα相とβ相とが共存する温度領域
    で短時間保持し次いで急冷する処理を施し、次いで冷間
    塑性加工と焼なまし処理とを交互に繰返すことを特徴と
    する高耐食低水素吸収性ジルコニウム基合金の製造法。
  9. 【請求項9】 前記ジルコニウム基合金を最終熱間塑性
    加工後、最初の冷間塑性加工前にα相とβ相とが共存す
    る温度で短時間保持し次いで急冷する処理を施し、次い
    で冷間塑性加工と焼なまし処理とを交互に繰返した後の
    前記ジルコニウム基合金がα相のジルコニウム結晶粒内
    に粒径0.2μm以下の錫とニッケルとの金属間化合物
    及び粒径0.1〜0.5μmの鉄・ニッケル・ジルコニウ
    ム金属間化合物を形成するようにする請求項8に記載の
    高耐食低水素吸収性ジルコニウム基合金の製造法。
  10. 【請求項10】 前記焼なまし処理を真空中で行ない、
    前記合金表面に実質的に酸化物層が形成されないように
    する請求項8又は9に記載の高耐食低水素吸収性ジルコ
    ニウム基合金の製造法。
  11. 【請求項11】 重量で、鉄が0.35%越え且つ0.5
    5%以下,ニッケルが0.03〜0.30%、クロムが
    0.05〜0.15%、残部が実質的にジルコニウムから
    なるジルコニウム基合金管を最終熱間塑性加工後、最初
    の冷間塑性加工前に高周波コイル内を通過させることに
    よってβ相又はα相とβ相とが共存する温度で前記管外
    周面を短時間保持し、次いで前記コイルを通過した直後
    に冷媒を噴霧し急冷する処理を施し、次いで冷間塑性加
    工と焼なまし処理とを交互に繰返すことを特徴とする高
    耐食低水素吸収性ジルコニウム基合金の製造法。
  12. 【請求項12】 前記焼なまし処理後のジルコニウム基
    合金はα相を有し、該α相のジルコニウム結晶粒内に粒
    径0.2μm以下の錫とニッケルとの金属間化合物及び
    粒径0.1〜0.5μmの鉄・ニッケル・ジルコニウム金
    属間化合物が形成される請求項11に記載の高耐食低水
    素吸収性ジルコニウム基合金の製造法。
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