JPH0790496A - ボイラ用耐摩耗複層鋼管およびその製造方法 - Google Patents

ボイラ用耐摩耗複層鋼管およびその製造方法

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JPH0790496A
JPH0790496A JP23115093A JP23115093A JPH0790496A JP H0790496 A JPH0790496 A JP H0790496A JP 23115093 A JP23115093 A JP 23115093A JP 23115093 A JP23115093 A JP 23115093A JP H0790496 A JPH0790496 A JP H0790496A
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Nobushige Hiraishi
信茂 平石
Yasutaka Okada
康孝 岡田
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Abstract

(57)【要約】 (修正有) 【構成】ボイラ・熱交換器用鋼管の外面に、重量%で、
C:0.1〜1.2、Si:1.0以下、Mn:10〜25、
Cr:15以下、Ni:5以下、Mo:3以下、V:0.1〜4.
0、Al:1以下およびN:0.3以下を含有し、残部がFeおよ
び不可避的不純物からなり、不純物中のPは0.010以下、
Sは0.005以下の高マンガン鋼を複層化させた、ボイラ用
耐摩耗複層鋼管。 【効果】石炭火力発電ボイラに要求される耐エロージョ
ン性、伝熱効率及び施工性に優れた複層鋼管を容易に得
ることができる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、石炭やCOM(微粉炭
と重油の混合物)焚きのボイラ、流動床ボイラなどに必
要な、管外面層が未燃焼石炭微粉末および石炭燃焼灰分
などの衝突に対して優れた耐摩耗性を有する硬質層から
なるボイラ用耐摩耗複層鋼管とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、エネルギー源の多様化により、石
油に代わって再び石炭をエネルギー源として利用する傾
向にある。特に石炭焚きの流動床ボイラ、加圧流動床ボ
イラは発電効率が高く、窒素酸化物の発生量を抑制でき
る上、硫黄を含む、しかも灰分含有量が高い石炭および
石炭アッシュなどの原料も使用できるので、一層注目さ
れている。
【0003】しかしこれらの発電方式では、未燃焼石炭
微粉末や石炭燃焼灰分などの硬い粒子がボイラ内で飛散
し、加熱器管、蒸発管などのボイラ部材に高速で衝突す
ることによって生じる高温固体粒子によるエロージョン
が、ボイラ部材の重大な損傷形態として強く認識される
ようになってきている。特に最近では、一基あたりの発
電能力や発電効率が、石油火力発電に匹敵する能力を有
することが望まれているので、ますます苛酷な条件でも
エロージョン損傷が起こりにくいボイラ部材が必要とな
る。
【0004】ステライトなどのCo基合金のような硬質材
料を、ボイラ・熱交換器用鋼管の表層に肉盛り溶射して
耐エロージョン性を改善することができるが、このよう
な硬質材料は冷間加工性が劣るので曲げ加工ができず、
現場での溶射施工が必要になるという煩わしさが生ず
る。またCo基合金は高価な材料であるため製造コストが
かさむ欠点がある。
【0005】特開昭60-196502 号公報には、ボイラ・熱
交換器用鋼管とその外面に積層された耐高温粒子エロー
ジョン性に優れる外層鋼とで構成されることを特徴とす
る石炭焚きボイラ用二層鋼管が提案されている。しか
し、この外層鋼は、極く一般的な高Si、高Crをベースと
する鋼であり、耐エロージョン性が十分とは言えず、石
炭焚きボイラ部材としては不十分である。
【0006】特開昭61-110714 号公報には、ボイラ・熱
交換器用鋼管とその外面に積層された析出硬化性を有す
る合金の外層鋼管とで構成され、この二層鋼管に曲げお
よび溶接などの加工を加えた後、時効処理を行い外層鋼
管を硬化させることを特徴とする伝熱管が提案されてい
る。しかしこの方法では、時効処理により硬度は上昇す
るが、その硬度はHv350程度までであって、過酷な環境
での耐高温粒子エロージョン性に対して十分な性能を有
する伝熱管は得られない。
【0007】特開平4−247851号公報には、C:0.40〜
0.70%、Si:0.10〜3.00%、Mn:12〜30%、Cr:4〜8
%を含有し、加工硬化指数を0.40〜0.50とした耐摩耗用
の高Mnオーステナイト鋼が示されている。しかしこの鋼
のように、加工硬化指数が単に0.40〜0.50になる高Mn鋼
では、耐エロージョン性に問題があり、ボイラ用鋼管の
素材としては適しない上に、その硬度も不十分である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、次の
諸特性を有するボイラ用耐摩耗複層鋼管およびその製造
方法を提供することにある。
【0009】石炭焚きの流動床ボイラにおけるよう
な、高温かつ高硬度粒子の衝突による摩耗に対しても、
十分な外層管表面の耐摩耗性とボイラ鋼管としての強度
をあわせ持つこと。
【0010】内層管となるボイラ・熱交換器用鋼管に
対する熱処理によって、外層管の硬度も大きく上昇する
こと。
【0011】ボイラ用複層鋼管の曲管部材も製造でき
ること。
【0012】外層管の鋼は、ショットピーニングなど
の冷間加工により加工硬化しやすいこと。
【0013】高硬度層を有する外層管と内層管のボイ
ラ・熱交換器用鋼管とが完全に密着して、熱伝導に支障
がなく、局部的な密着不良によるホットスポットが生じ
ないこと。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明の要旨は、次の
(1)、(2) のボイラ用耐摩耗複層鋼管と (3)〜(5) のそ
の製造方法にある。
【0015】(1)ボイラ・熱交換器用鋼管の外面に、重
量%で、C:0.1〜1.2 %、Si:1.0%以下、Mn:10〜25
%、Cr:15 %以下、Ni:5%以下、Mo:3%以下、V:
0.1〜4.0%、Al:1%以下およびN:0.3%以下を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなり、不純物中のP
は0.010 %以下、Sは0.005 %以下の高マンガン鋼を複
層化させたことを特徴とするボイラ用耐摩耗複層鋼管。
【0016】(2)上記(1) 記載の化学成分に加えてさら
に、W:3%以下、Nb:3%以下、Ti:1.0%以下、Zr:
1.0%以下およびTa:1.0%以下のうちの1種または2種
以上を含有する高マンガン鋼を複層化させたことを特徴
とする上記(1) 記載のボイラ用耐摩耗複層鋼管。
【0017】(3)上記(1) または(2) 記載の化学組成を
有する溶製材高マンガン鋼から製造された高マンガン鋼
管と、その内側に配置されたボイラ・熱交換器用鋼管と
からなる複合ビレットを組み立て、この複合ビレットを
熱間押出し加工してクラッド鋼管を製造し、次いでボイ
ラ・熱交換器用鋼管に対する焼ならし処理を行った後焼
戻し処理を施し、さらに冷間加工により外層の高マンガ
ン鋼管に表面硬化層を形成させることを特徴とするボイ
ラ用耐摩耗複層鋼管の製造方法。
【0018】(4)上記(1) または(2) 記載の化学組成を
有する高マンガン鋼が、粉末材高マンガン鋼である上記
(3) のボイラ用耐摩耗複層鋼管の製造方法。
【0019】(5)上記(3) または(4) 記載の製造方法に
おいて、複合ビレットを熱間押出し加工してクラッド鋼
管を製造し、次いで曲げ加工を施した後、ボイラ・熱交
換器用鋼管に対する焼ならし処理を行った後焼戻し処理
を施し、さらにショットピーニング加工により外層の高
マンガン鋼管に表面硬化層を形成させることを特徴とす
るボイラ用耐摩耗複層鋼管の製造方法。
【0020】
【作用】石炭焚きの流動床ボイラにおけるような、高温
かつ高硬度粒子の衝突による摩耗に対して、十分な外面
の耐摩耗性とボイラ鋼管としての強度をあわせ持つ鋼管
としては、設備の運転条件に合致したボイラ・熱交換器
用鋼管に適用される鋼管( 例えばJIS G 3461に規定され
ているボイラ・熱交換器用炭素鋼鋼管、JIS G 3462に規
定されているボイラ・熱交換器用合金鋼鋼管、またさら
にJIS G 3463に規定されているボイラ・熱交換器用ステ
ンレス鋼鋼管など)を内層管とし、この外層に高温で高
硬度を有する材料を複層・密着させたクラッド鋼管が最
適である。
【0021】管外層に密着させる高硬度材料として、高
マンガン鋼を使用する。この高マンガン鋼は時効硬化処
理によって硬度が上昇し、さらに冷間加工を施すことに
よって表面硬度が上昇し、その到達値は本発明の目的を
満足するものであると同時に、肉盛り材料であるステラ
イトあるいは工具材料である高速度鋼や超硬合金と比較
して安価である。
【0022】このような硬度向上効果や超硬合金などに
対するコストの優位性は、溶製法で製造された溶製材に
よる高マンガン鋼、あるいはアトマイズ法などで製造さ
れた粉末材による高マンガン鋼のいずれの場合でも同じ
である。
【0023】上記の高マンガン鋼の合金元素とその適正
含有量を前記のように定めた理由、およびこの鋼の特徴
を詳細に説明する。
【0024】C: 0.1〜1.2 % 0.1 %未満では望ましい硬度に達しない。一方、1.2 %
を超えると脆化が発生する。よって、C含有量の範囲は
0.1〜1.2 %とした。
【0025】Si:1.0 %以下 脱酸剤であるが、1.0 %を超えると熱間加工性が悪化す
る。よって、Si含有量の上限は1.0 %とした。
【0026】Mn:10〜25% 10%未満では加工時に割れが発生しやすくなり、25%を
超えると加工硬化が困難となる。よって、Mn含有量の範
囲は10〜25%とした。
【0027】Cr:15%以下 耐食性と耐熱性の改善のために含有させる。しかし、15
%を超えるとフェライト組織が出現しやすくなり、組織
が不安定になるとともに冷間加工硬化も困難となる。よ
って、Cr含有量の上限は15%とした。
【0028】Ni:5%以下 本発明のボイラ用耐摩耗複層鋼管は、外層がC含有量の
高い高Mn鋼であるため、ボイラのような温度で長時間使
用すると、延性が低下する傾向がある。Niは延性を向上
させる効果があり、高温長時間使用で延性が低下して
も、Niを含有しないものに比べ、なお高い延性を保持さ
せることができる。また、Niは耐食性を向上させる効果
も有する。しかし、5%を超えるとこれらの効果が飽和
する上に、経済性も悪化する。よって、Ni含有量の上限
は5%とした。
【0029】Mo:3%以下 Crと同様に、耐食性と耐熱性の改善のために含有させ
る。しかし、3%を超えるとその効果は飽和してくる。
経済性を考慮してMo含有量の上限は3%とした。
【0030】V:0.1〜4.0 %、 0.1 %未満では、内層管であるボイラ・熱交換器用鋼管
に対する焼戻し処理時に時効硬化しない。しかし、4.0
%を超えるとその効果は飽和してくる。経済性を考慮し
てV含有量の上限は4.0 %とした。
【0031】Al:1%以下 耐食性と耐熱性の改善のために効果があるが、1%を超
えると鋼の融点が低下し熱間加工性が悪化してくる。さ
らにフェライト組織が出現しやすくなる。このため、Al
含有量の上限は1%とした。
【0032】N:0.3 %以下 0.3 %を超えると脆化が発生する。また、溶接時にブロ
ーホールが発生する。
【0033】このため、N含有量の上限は0.3 %とし
た。
【0034】高マンガン鋼の耐摩耗性と耐熱性をさらに
改善する場合には、必要に応じて次のW、Nb、Ti、Zrお
よびTaのうちの1種または2種以上を選んで含有させ
る。
【0035】W:3%以下 炭化物生成元素であり、耐摩耗性と耐熱性を改善するた
めに含有させる。しかし、3%を超えるとその効果は飽
和してくる。経済性を考慮してW含有量の上限は3%と
した。
【0036】Nb:3%以下 炭化物および窒化物生成元素であり、耐摩耗性と耐熱性
を改善するために含有させる。しかし、3%を超えると
その効果は飽和してくる。経済性を考慮してNb含有量の
上限は3%とした。
【0037】Ti:1.0%以下 炭化物および窒化物生成元素であり、耐摩耗性と耐熱性
を改善するために含有させる。しかし、1.0 %を超える
とその効果は飽和してくる。経済性を考慮してTi含有量
の上限は1.0 %とした。
【0038】Zr:1.0%以下 炭化物および窒化物生成元素であり、耐摩耗性と耐熱性
を改善するために含有させる。しかし、1.0 %を超える
とその効果は飽和してくる。経済性を考慮してZr含有量
の上限は1.0 %とした。
【0039】Ta:1.0%以下 炭化物および窒化物生成元素であり、耐摩耗性と耐熱性
を改善するために含有させる。しかし、1.0 %を超える
とその効果は飽和してくる。経済性を考慮してTa含有量
の上限は1.0 %とした。
【0040】PおよびS:PおよびSは不純物である
が、それぞれ、0.01%、 0.005%を超えると低融点化合
物が析出して熱間脆性が著しくなり、押出し加工が困難
となるので、Pは0.01%以下、Sは 0.005%以下としな
ければならない。特に、高マンガン鋼中のSは低融点化
合物であるMnS を形成しやすいため、このような低値に
抑制する必要がある。
【0041】上記のような高マンガン鋼は、内層管とな
るボイラ・熱交換器用鋼管の焼ならし処理(JIS G346
1、JIS G3462およびJIS G3463で規定されているも
の)後の焼戻し処理の際、時効硬化処理が施されること
になり、このため炭化物および窒化物が析出する時効硬
化により、硬度が大きく上昇する。
【0042】上記の焼戻し処理の際の時効硬化による高
マンガン鋼の硬化層は、その深さ方向においても高マン
ガン鋼全体にわたり、しかもその常温硬度がHv で300
以上となるようにするのが望ましい。このような時効硬
化後に、圧下率が約20%程度の冷間圧延を施しても割れ
は発生しない。
【0043】この高マンガン鋼は、さらに表面を冷間加
工することにより高硬度層が容易に形成されるため、従
来のボイラ・熱交換器用鋼管の製造工程の中で冷間抽伸
あるいはショットピーニングなどの冷間加工を施せば、
所望の耐摩耗複層鋼管を製造することができる。
【0044】さらに、熱間押出し加工して製造した、上
記の高マンガン鋼の鋼管を外層管とするクラッド鋼管か
ら、熱間または冷間で曲管加工することができる。これ
は、上記の時効硬化前は、圧下率が約40%程度の冷間圧
延を施しても割れは発生しないからである。
【0045】この曲げ加工後、ボイラ・熱交換器用鋼管
の焼ならし処理後の焼戻し処理によって時効硬化させ、
さらにエアー式、ホイール式などのショットピーニング
を施すことにより、外面が高硬度の曲管部も製造するこ
ともできる。
【0046】上記の冷間加工による高マンガン鋼管の最
表面硬度層は、深さが0.1mm 以上、常温硬度がHv で45
0 以上となるようにするのが望ましい。このときの硬度
上昇効果は、約0.5mm の深さまで及ぶ。
【0047】通常、外層の高マンガン鋼管の肉厚は2〜
4mm程度までで十分であり、例えばこの肉厚を4mm、焼
戻しの際の時効処理により全体の硬度をHv 300 、さら
にショットピーニングにより最表面硬度をHv 500 にし
た場合、外層の高マンガン鋼管の深さ(厚さ)方向の硬
度分布は、最表面から約0.1mm まではHv 450 以上、0.
1 mmから約0.5 mmの深さまでは約Hv 450 〜Hv 300 に
なだらかに低下し、約0.5 mmからから4mmの深さまでは
Hv 300 が維持されているものとなる。
【0048】このような特性を有する高マンガン鋼管を
外層とする複層鋼管は、ボイラなどで実際に使用中に何
らかの原因でこの高硬度層が脱落しても、新しく現れた
表面では、未燃焼石炭微粉末や石炭燃焼灰分などの硬い
粒子の衝突による加工硬化作用によって再び硬度が上昇
するため、高マンガン鋼外層管部が残存する限り、摩耗
に対して本質的に耐久性があることになる。
【0049】上記の高マンガン鋼の特徴、利点はステラ
イトや工具鋼では得られないものである。すなわち、ス
テライトは熱処理などでも軟化しないため、密着二層管
のボイラ鋼管を製造するとき、冷間圧延では5%以下の
圧下率で割れが発生し、寸法矯正のための冷間加工も実
質的に不可能である。また工具鋼では、ボイラ鋼管の熱
処理によって硬度低下を招く。
【0050】次に、本発明の製造方法において熱間押出
し加工の対象となる複合ビレットの成形方法を、図1〜
図3に基づいて説明する。
【0051】図1は、粉末材高マンガン鋼を用いる場合
の例を示す複合ビレットの縦断面図である。内層鋼管1
と外側の薄肉の低炭素鋼円筒2の間に、粒径 500μm 以
下の高マンガン鋼粉末3を充填して炭素鋼円盤部材4に
より密封し、望ましくは約400 MPaの圧力で冷間静水圧
を加えて粉末3の層を圧縮成形し、粉末3が高密度化さ
れた複合ビレットとする。この場合、低炭素鋼円筒2が
存在するままで加熱、熱間押出ししてクラッド鋼管とし
た後、これに相当する部分を切削加工などにより除去す
る必要がある。
【0052】粉末材高マンガン鋼を用いる場合に、冷間
静水圧成形法を適用する理由は次のとおりである。ま
ず、熱間押出し加工時の据込み状態においては、高マン
ガン鋼粉末が内層管であるボイラ用鋼管よりも高硬度で
あるため、粉末層が鋼管表面に食い込んだ状態となり、
鋼管表面の酸化膜を破壊する。押出し加工にともなって
界面が伸展するため、この酸化膜が分断される。このよ
うな状況下では、粉末層と鋼管の界面で元素の拡散が起
こって強固な接合が達成される。また、粉末3が、冷間
静水圧を用いる圧縮成形により高密度化されているた
め、複合ビレットの加熱時にその温度分布が安定化され
る。
【0053】図2は、溶製材高マンガン鋼から製造され
た鋼管を用いて冷間圧入法で成形する場合の例を示す複
合ビレットの縦断面図である。内層鋼管1の外面に、溶
製材から通常の方法で製造された同じ長さの高マンガン
鋼管5を冷間圧入して密着させ、望ましくは両端部(図
では上下)を炭素鋼円盤部材4で密封し、複合ビレット
とする。
【0054】冷間圧入の際の、内層鋼管の外径と外層鋼
管の内径との関係は、等しいかまたは内径が外径よりも
0.00〜1.00mm小さくして、圧入時の密着が十分に行われ
るようにするのが望ましい。
【0055】炭素鋼円盤部材4で密封すると、熱間押出
し前の加熱時に、両鋼管1および5はともに熱膨張を起
こすが、その影響で界面に隙間が生じて界面が酸化する
のを防止する効果がある。冷間圧入法を用いるのは、内
層鋼管の外面と外層鋼管の内面とを密着させることによ
り、熱間押出し加工前の加熱時に界面において元素の拡
散を起こさせ、加工後に界面密着のよいクラッド鋼管を
製造するためである。
【0056】図3は、溶製材高マンガン鋼から製造され
た鋼管を用いて挿入方法で成形する場合の例を示す複合
ビレットの縦断面図である。内層鋼管1の外面に、溶製
材から通常の方法で製造された同じ長さの高マンガン鋼
管5を挿入して、両端部(図では上下)を炭素鋼円盤部
材4で密封する。
【0057】挿入法とする場合の、内層鋼管1の外径と
外層高マンガン鋼管5の内径との関係は、内径を外径よ
りも 0.1〜2.0 mm大きくする。両鋼管の隙間があまり過
大になると、熱間押出し加工後のクラッド鋼管の界面に
密着不十分となる箇所が生ずるためである。この場合は
単なる挿入であり、もちろん両鋼管の隙間には空気が存
在するから、図示するようにクラッド面となる一箇所に
脱気管6を取付けて真空脱気処理する。その後、脱気管
6を溶接で封口して複合ビレットとする。
【0058】このような三種類の方法を用いて、複合ビ
レットの加熱時にクラッド面に生成しやすい酸化膜を抑
制する。なお、図1に示す方法において、図3に示す脱
気管6を併用してもよい。
【0059】上記の複合ビレットでは、冷間静水圧成形
法および冷間圧入法によるものは加熱時点から、挿入法
によるものは熱間押出し時に、粉末と鋼管との界面また
は両鋼管の界面で元素の拡散が生じて良好な接合が形成
され、界面密着性の優れたクラッド鋼管を得ることがで
きる。
【0060】
【実施例】
〔本発明例1〕N2 ガスアトマイズ法により、表1に示
す種別1から種別7、種別9から種別13および種別16か
ら種別19までの化学組成の高マンガン鋼粉末を製造し、
図1に示す方法を用いて、JIS 規格のSTBA22の内層鋼管
1(外径130mm 、内径31mm、長さ780mm)と外側の薄肉の
低炭素鋼円筒2の間に、粒径500 μm 以下の高マンガン
鋼粉末3を充填して炭素鋼円盤部材4により密封し、40
0 MPaの圧力で冷間静水圧成形して外径174mm 、内径31
mm、長さ800mm の複合ビレットを作製した。このビレッ
トを1200℃に加熱した後、押出比12で熱間押出成形加工
して外径57mm×内径28mm×長さ7m のクラッド鋼管を製
造した。
【0061】これらのクラッド鋼管を980 ℃×10分で焼
ならし処理し、さらに680 ℃×40分で焼戻し処理(高マ
ンガン鋼管部は時効硬化処理に相当する)した後、外側
の薄肉の低炭素鋼円筒2に相当する部分を切削加工によ
り除去した。
【0062】このようにして製造したクラッド鋼管の外
層を、ホイール式ショットピーニング(平均0.8mm のス
チール玉を使用し、800mm 離れた位置から 70m/秒の速
度で、カバレージが300 %になるまで吹付け)により、
表面を加工硬化処理し、製品複層鋼管を製造した。その
後、それぞれ表層部からサンプルを切り出して次の評価
試験を実施した。
【0063】(1)常温硬度試験: ビッカース硬度試験機
を用いて荷重100g、試験温度20℃の条件で測定。位置は
最表面層より 0.1mm。
【0064】(2)耐温間エロージョン試験: ブラスト式
エロージョン試験装置を用いて表2にに示す条件で2時
間実施し、その時の減肉速度を測定。
【0065】〔本発明例2〕N2 ガスアトマイズ法によ
り、表1に示す種別8の化学組成の高マンガン鋼粉末を
製造し、本発明例1と同じ方法で同じ寸法の、低炭素鋼
円筒相当部分を切削加工により除去したクラッド鋼管を
製造した。このクラッド鋼管を980 ℃で10分間加熱し、
熱間で曲げ半径2D( 鋼管の直径Dの2倍 )で曲管加工
を行った後、980 ℃×5分で焼ならし処理し、さらに68
0 ℃×30分で焼戻し処理(高マンガン鋼管部は時効硬化
処理に相当する)した。
【0066】このようにして製造したクラッド鋼管の外
層を、エアー式ショットピーニング(177〜590 μm のス
チール玉を使用し、200mm 離れた位置から5kg/cm2
圧力で吹付け)により、表面加工硬化処理し、製品複層
鋼管を製造した。その後、曲管部の表層部からサンプル
を切り出して、本発明例1と同じ評価試験を実施した。
【0067】〔本発明例3〕表1に示す種別14の化学組
成の高マンガン鋼溶製材から外層用鋼管(外径172mm 、
内径139.9mm 、長さ680 mm) を製造し、図2に示す方法
を用いて、JIS 規格のSTBA22の内層鋼管1(外径140mm
、内径31mm、長さ680mm)の外側に、高マンガン鋼管5
をプレスにより冷間圧入した後、両端部を炭素鋼円盤部
材4により密封し、外径172mm 、内径31mm、長さ700mm
の複合ビレットを作製した。このビレットを1200℃に加
熱した後、押出比20で熱間押出成形加工して外径48mm×
内径28mm×長さ12m のクラッド鋼管を製造した。
【0068】このクラッド鋼管を、冷間で曲げ半径2D
で曲管加工を行った後、1000℃×10分で焼ならし処理
し、さらに660 ℃×60分で焼戻し処理(高マンガン鋼管
部は時効硬化処理に相当する)した。
【0069】このようにして製造したクラッド鋼管の外
層を、本発明例2と同じエアー式ショットピーニングに
より、表面加工硬化処理し、製品複層鋼管を製造した。
その後、曲管部の表層部からサンプルを切り出して、本
発明例1と同じ評価試験を実施した。
【0070】〔本発明例4〕表1に示す種別15の化学組
成の高マンガン鋼溶製材から外層用鋼管(外径172mm 、
内径140.1mm 、長さ680mm)を製造し、図3に示す方法を
用いて、JIS 規格のSTBA22の内層鋼管1(外径140mm 、
内径31mm、長さ680mm)の外側に、高マンガン鋼管5を挿
入し、両端部を炭素鋼円盤部材4により密封するととも
に脱気管6を取付け、ロータリーポンプで1時間脱気し
た後、脱気管6を溶接で封口して、外径172mm 、内径31
mm、長さ700mm の複合ビレットを作製した。このビレッ
トを1200℃に加熱した後、押出比12で熱間押出成形加工
して外径57mm×内径28mm×長さ8m のクラッド鋼管を製
造した。
【0071】このクラッド鋼管を、960 ℃×20分で焼な
らし処理し、さらに700 ℃×30分で焼戻し処理(高マン
ガン鋼管部は時効硬化処理に相当する)した。
【0072】このようにして製造したクラッド鋼管の外
層を、本発明例2と同じエアー式ショットピーニングに
より、表面加工硬化処理し、製品複層鋼管を製造した。
その後、表層部からサンプルを切り出して本発明例1と
同じ評価試験を実施した。 〔比較例〕表1に示す種別20の化学組成の鋼(JIS 規格
のSTBA22)の溶製材から、図4に示す通常の中空ビレッ
トを製造した。
【0073】図4は、通常のボイラ・熱交換器用合金鋼
管の製造に使用するビレットの縦断面図である。図にお
いて、符号7は上記のSTBA22鋼から製造された外径174m
m 、内径31mm、長さ700mm の中空ビレットである。
【0074】このビレットを1200℃に加熱した後、押出
比20で熱間押出成形加工して外径48mm×内径28mm×長さ
12m の単層鋼管を製造した。
【0075】次いで1000℃×10分で焼ならし処理し、さ
らに 660℃×60分で焼戻し処理した後、冷間で曲げ半径
2Dで曲管加工を行った。この鋼管の外層を、本発明例
2と同じエアー式ショットピーニングにより、表面加工
硬化処理し、曲管部の表層部からサンプルを切り出し
て、本発明例1と同じ評価試験を実施した。
【0076】これらの試験結果を表1に併せて示す。
【0077】
【表1(1)】
【0078】
【表1(2)】
【0079】
【表2】
【0080】表1から明らかなように、本発明で定める
条件で製造された複層鋼管は、優れた耐エロージョン性
を有するものである。
【0081】
【発明の効果】本発明の複層鋼管は、石炭火力発電ボイ
ラ用鋼管に要求される耐エロージョン性、延性、伝熱効
率および施工性に優れたものであり、その製造方法も通
常の製造工程で実施できるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】粉末材高Mn鋼を用いる場合の複合ビレットを例
示する縦断面図である。
【図2】溶製材高Mn鋼管の場合の、冷間圧入−密封法で
組み立てられた複合ビレットを例示する縦断面図であ
る。
【図3】溶製材高Mn鋼管の場合の、挿入−密封−脱気法
で組み立てられた複合ビレットを例示する縦断面図であ
る。
【図4】通常のボイラ・熱交換器用合金鋼管の製造方法
に用いるビレットを例示する縦断面図である。
【符号の説明】
1;内層鋼管、 2:低炭素鋼円筒、 3:
粉末材高マンガン鋼、4:炭素鋼円盤部材、5:溶製材
高マンガン鋼管、6:脱気管、7:通常の中空ビレット

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】ボイラ・熱交換器用鋼管の外面に、重量%
    で、C:0.1〜1.2 %、Si:1.0%以下、Mn:10〜25%、C
    r:15 %以下、Ni:5%以下、Mo:3%以下、V:0.1〜
    4.0 %、Al:1%以下およびN:0.3%以下を含有し、残部
    がFeおよび不可避的不純物からなり、不純物中のPは0.
    010 %以下、Sは0.005 %以下の高マンガン鋼を複層化
    させたことを特徴とするボイラ用耐摩耗複層鋼管。
  2. 【請求項2】ボイラ・熱交換器用鋼管の外面に、重量%
    で、C:0.1〜1.2 %、Si:1.0%以下、Mn:10〜25%、C
    r:15 %以下、Ni:5%以下、Mo:3%以下、V:0.1〜
    4.0 %、Al:1%以下およびN:0.3%以下を含有し、さら
    にW:3%以下、Nb:3%以下、Ti:1.0%以下、Zr:1.0
    %以下およびTa:1.0%以下のうちの1種または2種以上
    を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、不
    純物中のPは0.010 %以下、Sは0.005 %以下の高マン
    ガン鋼を複層化させたことを特徴とするボイラ用耐摩耗
    複層鋼管。
  3. 【請求項3】請求項1または請求項2記載の化学組成を
    有する溶製材高マンガン鋼から製造された高マンガン鋼
    管と、その内側に配置されたボイラ・熱交換器用鋼管と
    からなる複合ビレットを組み立て、この複合ビレットを
    熱間押出し加工してクラッド鋼管を製造し、次いでボイ
    ラ・熱交換器用鋼管に対する焼ならし処理を行った後焼
    戻し処理を施し、さらに冷間加工により外層の高マンガ
    ン鋼管に表面硬化層を形成させることを特徴とするボイ
    ラ用耐摩耗複層鋼管の製造方法。
  4. 【請求項4】請求項1または請求項2記載の化学組成を
    有する粉末材高マンガン鋼から製造された高マンガン鋼
    管と、その内側に配置されたボイラ・熱交換器用鋼管と
    からなる複合ビレットを組み立て、この複合ビレットを
    熱間押出し加工してクラッド鋼管を製造し、次いでボイ
    ラ・熱交換器用鋼管に対する焼ならし処理を行った後焼
    戻し処理を施し、さらに冷間加工により外層の高マンガ
    ン鋼管に表面硬化層を形成させることを特徴とするボイ
    ラ用耐摩耗複層鋼管の製造方法。
  5. 【請求項5】請求項3または請求項4記載の製造方法に
    おいて、複合ビレットを熱間押出し加工してクラッド鋼
    管を製造し、次いで曲げ加工を施した後、ボイラ・熱交
    換器用鋼管に対する焼ならし処理を行った後焼戻し処理
    を施し、さらにショットピーニング加工により外層の高
    マンガン鋼管に表面硬化層を形成させることを特徴とす
    るボイラ用耐摩耗複層鋼管の製造方法。
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