JPH0790372A - 靭性に優れた高強度オーステナイト系ステンレス鋼の製造方法 - Google Patents

靭性に優れた高強度オーステナイト系ステンレス鋼の製造方法

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JPH0790372A
JPH0790372A JP2965093A JP2965093A JPH0790372A JP H0790372 A JPH0790372 A JP H0790372A JP 2965093 A JP2965093 A JP 2965093A JP 2965093 A JP2965093 A JP 2965093A JP H0790372 A JPH0790372 A JP H0790372A
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 高い強度に加えてさらに靭性が要求されるば
ね系部材に好適なステンレス鋼を得る。 【構成】 質量%において,C:0.10%以下,S
i:1.0%越え〜4.0%,Mn:2.0%以下,N
i:4.0%〜10.0%,Cr:12.0%〜18.
0%,N:0.15%以下を含み,場合によってはさら
に,Cu:3.5%以下,Mo:1.0%〜5.0%の
うち1種または2種以上を含有し,C+N≧0.10%
で且つ本文記載の式に従うMd(N)の値が20〜70
の範囲となるようにこれらの元素を含有し,残部がFe
および製造上不可避的に混入してくる不純物からなり,
そして溶体化処理状態で準安定なオーステナイト相を呈
しているステンレス鋼を,マイナス20℃以上70℃ま
での低温で且つ圧下率30〜70%で冷間加工すること
により該オーステナイト相の一部を加工誘起マルテンサ
イトに変態させ,次いで300〜650℃で0.1〜9
0分の時効処理を施す。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,耐食性と共に高い強度
および靭性が要求される部材や部品, 例えば板ばね, コ
イルばね,Si単結晶ウエハー作成用のブレード板 (I
Dブレード)や自動車等のエンジンを構成する金属ガス
ケット等の素材に最適なステンレス鋼の製造方法に関す
る。
【0002】
【従来の技術】従来より,前記のような部材や部品をス
テンレス鋼で製造する場合には,マルテンサイト系ステ
ンレス鋼,加工硬化型ステンレス鋼または析出硬化型ス
テンレス鋼が使用されてきた。
【0003】マルテンサイト系ステンレス鋼は,高温の
オーステナイト状態から急冷してマルテンサイト変態さ
せることで硬化させるもので,SUS410, SUS420J2などの
鋼種がこれに相当する。これらの鋼は焼入れ−焼戻しの
熱処理により高い強度と靭性が得られる。しかし,製品
が極薄のものであれば,焼入れ処理の際に熱ひずみによ
って変形するので,目的の形状のものを作成するのが困
難である。
【0004】このため,そのような用途には加工硬化型
オーステナイト系ステンレス鋼が通常使用される。これ
らはSUS301, SUS304に代表され,溶体化処理状態でオー
ステナイト相を呈し, その後の冷間加工で加工誘起マル
テンサイトを生成させて,高強度を得ようとするもので
ある。その強度は冷間加工量やマルテンサイト量に依存
するが,冷間加工のみで強度を調節するのは非常に困難
であり, また冷間圧延率を著しく大きくすると材料の異
方性が増し, 靭性が低下する。
【0005】析出硬化型ステンレス鋼は,析出硬化能の
高い元素を添加して時効処理により硬化させるものであ
り,Cuを添加したSUS630とAlを添加したSUS631が代表
的である。
【0006】これらのうち,SUS630は溶体化処理後マル
テンサイト単相であり,その後時効処理により硬化させ
たものであり,引張強さはせいぜい1400N/mm2程度であ
る。
【0007】一方,SUS631は溶体化処理後準安定オース
テナイト相であり,冷間加工などの前処理でオーステナ
イトの一部をマルテンサイト相に変化させ,その後時効
処理することにより, 金属間化合物Ni3Alを析出させ
て硬化させるものである。すなわち,加工誘起マルテン
サイトによる硬化と時効硬化を併せて利用することによ
り高強度を得ようとするものであり,かなり高強度のも
のが得られる。例えば積極的に加工誘起マルテンサイト
相を生成させることにより,この系統のものでは引張強
さ1800N/mm2まで強度を上昇させることが可能である。
【0008】かような時効処理による強度上昇を利用し
て上記の鋼種よりもさらに高強度のステンレス鋼も開発
されている。例えば特開昭61-295356号公報や特開平4-1
47946号公報には,Siを含有した準安定オーステナイト
系に適度の冷間加工を施して加工誘起マルテンサイトと
オーステナイト相の2相組織とし,その後の時効処理で
引張強さ2000N/mm2, ビッカース硬さ580を得たステンレ
ス鋼が記載されている。しかし,時効前の強加工や多量
のマルテンサイト相の存在により靭性低下をもたらす。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】オーステナイト系ステ
ンレス鋼において時効硬化や加工硬化を利用して強度上
昇を試みる場合, 冷間圧延率を高くするために靭性が著
しく阻害され,製品が極薄材であればさらにその形状も
損なわれる。
【0010】靭性に優れた高強度オーステナイト系ステ
ンレス鋼が製造できれば,この材料は高強度と高靭性が
要求されるばね材, IDブレード板, 金属ガスケットの
素材として最適である。本発明はこの使用用途を満足す
るステンレス鋼の製造方法を提供しようとするものであ
る。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明によれば,質量%
において,C:0.10%以下, Si:1.0%越え〜4.0%,
Mn:2.0%以下, Ni:4.0%〜10.0%, Cr:12.0%〜1
8.0%, N:0.15%以下を含み,場合によってはさら
に,Cu:1.0%〜3.5%, Mo:1.0%〜5.0%のうち1種
または2種以上を含有し,そして,C+N≧0.10%で,
且つ Md(N)=580−520C−2Si−16Mn−16Cr−23Ni−3
00N−26Cu−10Mo の式に従うMd(N)の値が20〜70の範囲となるよう
にこれらの元素を含有し,残部がFeおよび製造上不可
避的に混入してくる不純物からなり,そして溶体化処理
状態で準安定なオーステナイト相を呈しているステンレ
ス鋼を,マイナス20℃以上70℃までの低温で且つ圧
下率30〜70%で冷間加工することにより該オーステ
ナイト相の一部を加工誘起マルテンサイトに変態させ,
次いで300〜650℃で0.1〜90分の時効処理を施すことか
らなる靭性に優れた高強度オーステナイト系ステンレス
鋼の製造方法を提供する。
【0012】
【作用】本発明鋼において,時効による主要な硬化元素
はSi,Cu,Mo,CおよびNである。これらのうちSi,C
u,Moは圧延時に導入された歪を固着することにより硬
化に寄与し, CとNは析出物として硬化に寄与してい
る。また,すべての合金元素はオーステナイトから加工
誘起マルテンサイトへの変態を抑制する方向に作用し,
それらの成分量を調整することで変形に対して適度な加
工誘起マルテンサイトを生成させることができる。
【0013】従来の加工硬化型ステンレスは,冷間圧延
で容易にマルテンサイトが生成するような,加工に対し
てオーステナイト相が比較的不安定となる成分組成のも
のであった。本発明ではオーステナイトの加工に対する
安定度を増した成分組成に調整したうえ,加工 (圧延)
を低温側で行うことによって必要量のマルテンサイト量
を誘起させる。時効後の組織は(残量オーステナイト+
マルテンサイト)の2相混合組織となる。正確には残留
オーステナイト相と焼戻された加工誘起マルテンサイト
の2相混合組織である。
【0014】時効材の当該2相混合組織において,本発
明で規定するMd(N)の値を適切な範囲となるように各
成分を調整し,且つ冷間圧延での圧延温度と圧下率を適
切に制御した場合に, 該時効材の強度を高めながら, し
かも靭性を向上させることができる。その事実は,後記
の実施例に立証するとおりであるが,本発明の時効材の
靭性が向上する原理は次のように考えることができる。
【0015】時効材の残留オーステナイトをγで,また
加工誘起マルテンサイトをα'で表すと,軟質なγ相と
硬質なα'相 (実際には時効処理で焼戻されたα'相) が
混在する当該時効材に変形応力が加わると,軟質なγ相
が変形を受けて応力が集中し微細な割れが発生するよう
な状況に至った状態では,この割れが伝播しようとする
先端には歪みが集中してα'相が新たに生成する。この
ため,生成したα'相が割れの伝播を阻止し, さらに外
部応力が加われば別のγ相に応力が集中し新たな割れの
発生を見るようになり,ここでも割れの先端にα'相が
生成する。
【0016】そのさい,α'相の生成のしやすさはMd
(N)の値と相関があり,Md(N)が小さいと生成ぜず,
このため割れはγ中を伝播して大きな割れに進行し, や
がて破断に至る。つまり靭性が低下して曲げ加工などの
成形が良好に行えない。他方,Md(N)が大きすぎると
α'相がすぐに生成し,変形し難くなる。これを無理に
変形させようとすると割れに発展し,この場合も靭性が
低下することになる。すなわち, Md(N)が大きすぎて
もγ→α'の変態による割れ伝播の防止が図れない。本
発明で規定するMd(N)を20〜70の範囲に規定するの
は,かような時効材の靭性挙動と密接な関係を有してい
る。
【0017】このように,本発明はα'よりも軟質な残
留オーステナイト相の変態挙動を積極的に利用すること
で靭性の改善を図るものであり,オーステナイトの加工
に対する安定度を増した鋼成分に調整したうえ, それに
伴い一定のα'量を誘起させるため,圧延温度を低温側
に移行させた圧延方法を導入して,良好な強度と靭性の
両者を同時に達成したものである。ここで,一定量の
α'量とは20vol.%以上80vol.%以下の範囲内の量で
あるのが望ましい。
【0018】次に,本発明で規定する各成分の作用の概
要と含有量の限定理由を個別に説明する。
【0019】Cはオーステナイト形成元素であり,高温
で生成するδフエライトの抑制, 冷間加工で誘発された
マルテンサイト相の強化に極めて有効に作用するが,本
発明鋼はSi量が高いのでCの固溶限が低下している。
このため,Cを高くすると,粒界にCr炭化物が析出
し,耐粒界腐食や靭性の低下原因となる。このような理
由からCは0.10%以下とした。
【0020】Siは通常は脱酸のために使用するが,こ
の目的のために添加する場合は,加工硬化型ステンレス
鋼のSUS301や304に見られるごとく,一般には1.0%以下
である。しかし本発明に供する鋼はSiをこれより高く
している。これにより,冷間加工で誘起されたマルテン
サイト相を硬くするとともに,残留オーステナイト相に
も固溶してこれを硬化させ,冷間加工後の強度を大きく
する作用を果たす。さらに時効処理においてはCuとの
相互作用により時効硬化能を促進する。このようにSi
は種々の効果があるが,その効果は従来鋼のごとく1.0
%以下では小さく, 4.0%を越えると熱間変形時に高温
割れを誘発しやすくなり, 製造上種々の問題も生じる。
このため成分範囲を1.0%を越え4.0%以下とした。
【0021】Mnはオーステナイト相の安定度を支配す
る元素で,その活用は他の元素とのバランスのもとに行
なうものであるが,この含有量が高いと延性を低下さ
せ,使用上種々の問題が生じる。このため2.0%以下と
した。
【0022】Niは高温および室温でオーステナイト相
を得るために必須の元素であるが,本発明の場合室温で
準安定オーステナイト相とし,冷間加工でマルテンサイ
ト相を誘起させなければならない。Ni含有量を4.0%よ
り低くすると,高温で多量のδフエライト相が生成し,
かつ室温までの冷却過程でマルテンサイト相が生成して
オーステナイト単相として存在できなくなり, また10.0
%を越えると, 冷間加工でマルテンサイト相が誘起され
にくくなるので,成分範囲を4.0〜10.0%とした。
【0023】Crは耐食性上必須の成分である。意図す
る耐食性を付与するのには少なくとも12.0%のCrを必
要とする。しかし,Crはフエライト形成元素でもある
ので高くしすぎると高温でδフエライト相が多量に生成
してしまう。そこでδフエライト相抑制のためにオース
テナイト形成元素 (C, N, Ni, Mn, Cuなど)を添
加しなければならないが,これら元素の過度の添加は室
温でのオーステナイトの安定化をもたらし,冷間加工に
よる加工誘起マルテンサイト相が形成されず,時効処理
後に高強度を得ることが不可能になる。このためCrの
上限は18.0%とした。
【0024】Cuは時効処理の際, 前述のごとくSiとの
相互作用により鋼を硬化させるのであるが,その含有量
が少ないとその効果は小さく, 逆に過剰の添加は熱間加
工性を劣化させ割れ発生の原因となるので1.0〜3.5%と
する。
【0025】Moは耐食性を向上させ,時効処理にとも
なう冷間加工時の歪の解放を抑制するのに非常に有効な
元素である。さらに時効処理で強度に寄与する析出物を
形成するが,多量の添加は高温でのδフエライト形成を
もらすので5%以下とする。
【0026】Nはオーステナイト形成元素であるととも
に,オーステナイト相およびマルテンサイト相を硬化さ
せるのに極めて有効な元素であるが,多量の添加は鋳造
時のブローホールの原因となるので0.15%以下とした。
【0027】CとNは互いに同様な硬化作用を示し, そ
の能力を十分に発揮させるためにはC+Nの合計量で0.
10%以上にする必要がある。
【0028】Md(N) 値について。先にも説明したが,
本発明では時効処理後に残留したオーステナイト相が変
形 (最終製品に成形するさいの曲げ加工等) 中 にマル
テンサイト相へ変態するが,歪に対して最適にマルテン
サイト相が形成するように,オーステナイトの加工に対
する安定度であるMd(N)を20〜70の範囲内に限定す
る。このMd(N) が20〜70の範囲にあることは,本発明
の目的を達成する上で圧延温度との組み合わせで重要な
役割を果たしている。
【0029】Md(N) が20以下では,加工により強度に
寄与するマルテンサイト相を形成させるためには, 工業
的に非常に困難な低温で冷間圧延する必要があり,また
時効材の靭性向上に有効に働くオーステナイト→マルテ
ンサイト変態が十分に起こらない。一方,Md(N) が70
を越えると,冷間加工で適当なマルテンサイト相を得る
ためには,圧延温度を高くする必要があり, さらに最終
製品の靭性を向上させるためには,あまりにも変形に対
しマルテンサイト相がはやく生成してしまうので不都合
となる。
【0030】本発明において,鋼を溶製後, 熱間圧延あ
るいはさらに冷間圧延を行った後,溶体化処理により組
織を準安定オーステナイト相に調整することが必要であ
る。
【0031】溶体化処理後に冷間圧延を行うことによ
り,そのさいの加工歪により準安定オーステナイト相の
一部はマルテンサイト相に変態する。時効処理後に高強
度を得るには,この冷間圧延段階である程度のマルテン
サイト量が必要である。時効材の強度は,冷間加工率が
大きいほど高くなる反面, 靭性低下は著しくなる。従っ
て要求される強度, 靭性のバランスを考慮し,圧延率を
30〜70%に設定することが望ましい。
【0032】この際に圧延温度は,70℃以下に設定すべ
きである。これは70℃を超えて圧延を施すと,低温で圧
延した場合と比べ, 同一圧延率で同一のマルテンサイト
量を有しても十分な強度が得られないためである。ま
た,圧延温度を−20℃以下での圧延は非常に困難である
ことにより,冷延時の圧延温度は−20〜70℃とした。こ
の冷間圧延による圧延温度と圧下率の制御により,生成
させる加工誘起マルテンサイト相の量は20vol.%以上
で80vol.%以下の範囲に調節することが好ましい。
【0033】冷間圧延後に行なう時効処理では300〜650
℃の温度範囲で0.1〜90分間加熱することが望ましい。3
00℃未満では時効による強度上昇が十分現れず, また65
0℃を超えて加熱すると加工誘起マルテンサイト相の一
部がオーステナイト相に逆変態し,強度低下をもたら
す。均熱時間については0.1分以下では十分な時効効果
が期待できず,また製造性を考慮した場合均熱に90分以
上要するのは不都合である。この条件範囲において,時
効温度と時効時間との間には相関がある。この関係を図
4に示した。実際には図4の斜線域の範囲となる温度と
時間で時効処理を実施すればよい。
【0034】
【実施例】表1に供試材の化学成分値(質量%)ならび
にMd(N) を示した。表中のT1からT5は本発明鋼,
aからdは比較鋼である。いずれの鋼も真空溶解炉にて
溶製し,鍛造,熱延により4.0mm厚の熱延鋼帯とした。
この熱延材を1050℃で1分間保持の溶体化処理を施した
のち,水冷処理を行った。その後,圧延率30〜70%で加
工誘起マルテンサイトが生成するような冷間圧延を施し
た。
【0035】
【表1】
【0036】そのさいの加工誘起マルテンサイト量は化
学成分と圧延温度に依存する。化学成分の影響を考慮し
たオーステナイト安定度の指数Md(N) に圧延温度の項
を加えたMd(NT) を下式のように設定し,このMd(N
T) と加工誘起マルテンサイト量との関係を,圧下率
(加工率)=30%,50%,67%ごとに整理したの
が図1である。
【0037】Md(NT)=Md(N)−0.6(T−70) T:圧延温度 (℃) Md(N)=580−520C−2Si−16Mn−16Cr−23Ni−3
00N−26Cu−10Mo
【0038】図1の結果に見られるように,各加工率で
のMd(NT)値との加工誘起マルテンサイト量はよい対
応関係があり,圧下率を決定すれば図1の関係より所定
のマルテンサイト量を得るための圧延温度が求まる。
【0039】圧延率50%でマルテンサイトが30, 50およ
び70vol%生成するように圧延温度を選定して各鋼を冷
間圧延し,各冷延材を530℃×1分間時効処理し,得ら
れた各時効材の引張強さとエリクセン破断応力を測定
し,その結果を表2に示した。ここでエリクセン破断応
力とは,エリクセン試験による割れ発生応力(割れ発生
荷重を板厚およびポンチ径で割った値)であり,薄板材
の靭性を評価するのに有効な手段である。
【0040】
【表2】
【0041】表2の結果に見られるように,本発明法に
従うものは引張強さ1600 N/mm2以上でエリクセン破断応
力1000 N/mm2以上を同時に満足し,強度と靭性に共に優
れた材料が得られたのに対し,比較法のものは同時に満
足できない。
【0042】なおエリクセン破断応力は,マルテンサイ
ト量が多くなると低下する傾向にあるが,同一のマルテ
ンサイト量で比較した場合は,本発明範囲のMd(N) 値
をもつ鋼は良好な値を示している。一例として,マルテ
ンサイト量を50%としたときの時効材のエリクセン破断
応力をMd(N) で整理したのが図2である。
【0043】図2より,Md(N)値が20〜70の範囲にあ
るとエリクセン破断応力は良好な値を示すが,この範囲
より低くても,また高くても急激にエリクセン破断応力
値が低下していることがわかる。このことは,次のよう
に考えることができる。
【0044】Md(N)は加工に対するオーステナイト相
の安定度の指標であり,この値が小さければ変形時に加
工誘起マルテンサイトが形成されにくいし,逆に値が大
きくなれば形成されやすいことを意味する。本発明の供
試材は, 準安定オーステナイト相であるため,変形中
(エリクセン試験での変形中)にオーステナイト→マル
テンサイト変態が起こり,その変態の起こりやすさが材
料の靭性値(エリクセン破断応力)を支配しているとい
える。つまり,Md(N)が20未満の鋼では, 変形中にオ
ーステナイト相からマルテンサイト相への変態が起こら
ないために,またMd(N)が70を超える鋼では逆にマル
テンサイト相の形成が速すぎるために,このような靭性
値の低下をもたらしていると考えられる。
【0045】図3は,冷間圧延率を50%として圧延温度
を変えることにより加工誘起マルテンサイト量をほぼ50
%に調節した場合と,同ほぼ70%に調節した場合につい
て,その時効処理材(530 ℃×1分)の引張強さとMd
(N)の関係を示したものである。
【0046】図3に見られるように,圧延率ならびにマ
ルテンサイト量がほぼ一定にも関わらず, Md(N)が低
い鋼ほど引張強さが高い。これは言い換えれば,同一マ
ルテンサイト量を得るためにはMd(N)の低い鋼ほど圧
延温度を下げる必要があることを意味し,同一マルテン
サイト量でも圧延温度が低温ほど高強度を示すことを表
している。
【0047】なお,表2に比較法として挙げたT4,T
5,cの一部並びにdの場合には圧延温度が70℃を超え
ている。これらの例と同一のマルテンサイト量のもつ本
発明例と比較すると明らかなように,これら比較例のも
のはその時効材は引張強さが低かったり, エリクセン試
験による破断応力が低く, 高強度と高靭性を同時に達成
できない。
【0048】このように, 圧延温度は本発明の目的達成
のうえで重要な意味を有している。これを冶金学的因子
から見ると,圧延温度の低下によりオーステナイト相自
体の積層欠陥エネルギーが下がり, 冷間加工で導入され
たオーステナイト相中の転位の形態が変化したために,
これが引張変形での大きな抵抗となり, 最終的に引張強
さを上昇させるものと考えられる。
【0049】
【発明の効果】以上説明したように,本発明法によれ
ば,従来の加工硬化型ステンレス鋼あるいは析出硬化型
ステンレス鋼に比べ, 高強度を実現しているのみなら
ず,靭性も高いステンレス鋼が得られた。これは強度に
寄与するマルテンサイトの生成量を冷延温度により調整
し,靭性に影響を及ぼす時効処理後に残留するオーステ
ナイトの加工に対する安定度を変えることができたから
に他ならない。
【0050】従って本発明の高強度オーステナイト系ス
テンレス鋼板は, 耐食性と共に高い強度および靭性が要
求される板ばね,コイルばね,Si単結晶ウエハー作成
用のブレード板や自動車等のエンジンを構成する金属ガ
スケット等の素材として従来材にない効果を発揮し,ス
テンレス鋼の用途の拡大をもたらすことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】Md(NT)の値と各冷間加工率で誘起されるマ
ルテンサイト量の関係を示した図である。
【図2】冷間圧延率と加工誘起マルテンサイト量を一定
とした場合の, Md(N)の値と時効材のとエリクセン破
断応力との関係を示す図である。
【図3】冷間圧延率と加工誘起マルテンサイト量を一定
とした場合の, Md(N)の値と時効材の引張強さの関係
を示す図である。
【図4】本発明で行う時効処理の時効温度と時効時間の
関係を示す図である。
─────────────────────────────────────────────────────
【手続補正書】
【提出日】平成5年5月19日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】請求項2
【補正方法】変更
【補正内容】
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正内容】
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明によれば,質量%
において,C:0.10%以下, Si:1.0%越え〜4.0%,
Mn:2.0%以下, Ni:4.0%〜10.0%, Cr:12.0%〜1
8.0%, N:0.15%以下を含み,場合によってはさら
に,Cu:3.5%以下, Mo:1.0%〜5.0%のうち1種ま
たは2種以上を含有し,そして,C+N≧0.10%で,且
つ Md(N)=580−520C−2Si−16Mn−16Cr−23Ni−3
00N−26Cu−10Mo の式に従うMd(N)の値が20〜70の範囲となるよう
にこれらの元素を含有し,残部がFeおよび製造上不可
避的に混入してくる不純物からなり,そして溶体化処理
状態で準安定なオーステナイト相を呈しているステンレ
ス鋼を,マイナス20℃以上70℃までの低温で且つ圧
下率30〜70%で冷間加工することにより該オーステ
ナイト相の一部を加工誘起マルテンサイトに変態させ,
次いで300〜650℃で0.1〜90分の時効処理を施すことか
らなる靭性に優れた高強度オーステナイト系ステンレス
鋼の製造方法を提供する。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0024
【補正方法】変更
【補正内容】
【0024】Cuは時効処理の際, 前述のごとくSiとの
相互作用により鋼を硬化させるのであるが, 過剰の添加
は熱間加工性を劣化させ割れ発生の原因となるので3.5
%以下とする

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 質量%において,C:0.10%以下,Si:
    1.0%越え〜4.0%,Mn:2.0%以下,Ni:4.0%〜10.0
    %,Cr:12.0%〜18.0%,N:0.15%以下,を含有し,さ
    らに,C+N≧0.10%で,且つMd(N)=580−520C−
    2Si−16Mn−16Cr−23Ni−300N−26Cu−10Moの
    式に従うMd(N)の値が20〜70の範囲となるように
    これらの元素を含有し,残部がFeおよび製造上不可避
    的に混入してくる不純物からなり,そして溶体化処理状
    態で準安定なオーステナイト相を呈しているステンレス
    鋼を,マイナス20℃以上70℃までの低温で且つ圧下
    率30〜70%で冷間加工することにより該オーステナ
    イト相の一部を加工誘起マルテンサイトに変態させ,次
    いで300〜650℃で0.1〜90分の時効処理を施すことから
    なる靭性に優れた高強度オーステナイト系ステンレス鋼
    の製造方法。
  2. 【請求項2】 質量%において,C:0.10%以下,Si:
    1.0%越え〜4.0%,Mn:2.0%以下,Ni:4.0%〜10.0
    %,Cr:12.0%〜18.0%,N:0.15%以下,を含み,さら
    に,Cu:1.0%〜3.5%, Mo:1.0%〜5.0%のうち1種
    または2種以上を含有し,C+N≧0.10%で,且つMd
    (N)=580−520C−2Si−16Mn−16Cr−23Ni−300
    N−26Cu−10Moの式に従うMd(N)の値が20〜70
    の範囲となるようにこれらの元素を含有し,残部がFe
    および製造上不可避的に混入してくる不純物からなり,
    そして溶体化処理状態で準安定なオーステナイト相を呈
    しているステンレス鋼を,マイナス20℃以上70℃ま
    での低温で且つ圧下率30〜70%で冷間加工すること
    により該オーステナイト相の一部を加工誘起マルテンサ
    イトに変態させ,次いで300〜650℃で0.1〜90分の時効
    処理を施すことからなる靭性に優れた高強度オーステナ
    イト系ステンレス鋼の製造方法。
  3. 【請求項3】 冷間加工で生成させる加工誘起マルテン
    サイト量は冷間加工での圧延温度と圧下率の制御により
    20〜80Vol.%の範囲に調節する請求項1または2に
    記載の製造方法。
  4. 【請求項4】 時効処理は,図4の斜線域の範囲内とな
    るような温度と時間で実施する請求項1,2または3に
    記載の製造方法。
  5. 【請求項5】 時効処理後のステンレス鋼は,引張強さ
    1600 N/mm2以上で且つエリクセン破断応力1000 N/mm2
    上である請求項1,2,3または4に記載の製造方法。
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