JPH07274947A - 飼料化酵母の製造方法 - Google Patents

飼料化酵母の製造方法

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JPH07274947A
JPH07274947A JP6070882A JP7088294A JPH07274947A JP H07274947 A JPH07274947 A JP H07274947A JP 6070882 A JP6070882 A JP 6070882A JP 7088294 A JP7088294 A JP 7088294A JP H07274947 A JPH07274947 A JP H07274947A
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yeast
epa
unsaturated fatty
feed
fatty acids
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Taisuke Toya
泰典 遠矢
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Ebara Research Co Ltd
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Ebara Corp
Ebara Research Co Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 本発明の目的は、発酵工業の生産過程から余
剰の廃棄物として排出される酵母に、稚仔魚及び/また
は家畜類・家禽類が必要とする価値のある栄養分を濃厚
に保持している状態のまま、不足している高度不飽和脂
肪酸、特に、EPA、DHAを導入し、飼料、特に高付
加価値の水産餌料を生産する方法を提供することであ
る。本発明の他の目的は、EPA、DHAを酵母細胞内
に封入することにより、貴重なEPA、DHAを無駄な
く稚仔魚に与えることができる水産餌料を与えることで
ある。 【構成】 本発明の方法は、酵母を、高度不飽和脂肪酸
を含む水性媒体中のスラリーとし;該スラリーを加圧及
び/又は減圧条件下におくことにより、細胞質を保持し
た該酵母細胞中に前記不飽和脂肪酸を取り込ませる、こ
とからなる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、発酵工業の生産過程か
ら排出される余剰酵母を基材(素材)として畜産飼料ま
たはその添加物、或いは水産養殖における種苗(稚仔
魚)生産用の餌料や医薬組成物を生産する方法に関し、
特に稚仔魚が成長するのに必要なエイコサペンタエン酸
(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)等の高度不
飽和脂肪酸を余剰酵母細胞の浸透圧を利用して生細胞の
内部に封入することにより高付加価値水産飼料を生産す
る方法に関する。
【0002】
【従来の技術】我が国の水産業は獲る漁業から作る漁業
に転換し、ここ10年来、さらに育てる漁業へと重点指
向してきている。水産養殖場の多くは、稚仔魚の飼育、
即ち種苗生産の効率を上げるとともに効率の安定化を企
図して稚仔魚(種苗)の餌となる動物性プランクトン、
特に稚仔魚の栄養要求、成長に必要な栄養分、微量成長
因子などをほぼ完全に満たしているシオミズツボワムシ
を場内で培養して稚仔魚に給餌している。
【0003】このシオミズツボワムシの培養には、その
餌として海産クロレラ(ナンノクロロプシス)、工場生
産された濃厚クロレラ、パン酵母、油脂酵母、特定の配
合飼料などが使われており、十分とは言えないながら、
一応、その目的は達成されてきたと考えられていた。
【0004】このような、水産養殖業(栽培漁業)の発
展に伴い水産餌料に関する研究もこれに並行して緻密に
行われるようになり、その結果として稚仔魚の成長、健
全な発育のためには高度不飽和脂肪酸、中でも特にEP
A、DHAが重要であることが明確になってきた。これ
らの高度不飽和脂肪酸は、人間を始め動物の成長にとっ
てビタミン類と同様に必要不可欠の栄養素であるが、こ
れを生合成することができないために外部から与える必
要がある。
【0005】海産クロレラの場合はEPAはかなりの量
を体成分として持っているがDHAが著しく不足するこ
と、及び、その他の植物性プランクトンはEPA、DH
Aが共に不足することが知られている。又、現在、主と
して稚仔魚に給餌されている、シオミズツボワムシは海
産クロレラに比べてEPA、DHAの絶対量が不足する
うえにバランスがとれていないために稚仔魚の成長、発
育に支障を来していることが明らかとなってきた。
【0006】このような問題を解決するために、従来以
下に示すような対策が採られてきた。
【0007】1.動物性プランクトンへのEPA、DH
Aの直接給餌 主として海産性の魚類から抽出して純粋にしたEPA、
DHAを特定の媒体で造粒化して動物性プランクトン及
び/または稚仔魚に直接与える。
【0008】この方法は確実にEPA、DHAを与える
ことができるが、餌として与える方法ではないため、価
格の高い貴重なEPA、DHAが魚類に摂取される効率
が低く、結果として養殖魚の商品価格も高くなり、連続
的な使用はコスト的に成り立たず、一時的な投与に限定
される。
【0009】2.海洋性酵母、パン酵母などをEPA、
DHAを添加した培地で培養する方法 本来的にEPA、DHAの含有量の少ない海洋性酵母、
パン酵母等をEPAおよび/またはDHAを添加した培
地で培養し、酵母菌体中のEPA、DHAの含有量を高
める。
【0010】この方法も、EPA、DHAの価格が高い
こと、さらに、単に酵母の培地中に添加しただけのEP
A、DHAが酵母細胞に摂取される効率が100%とな
ることは現実的にあり得ないので、高価な物質の損失と
なり、これがコストアップの要因として追加される。
【0011】3.油脂酵母の利用 各企業がそれぞれ独自の酵母を探索して研究し、一部商
品化している。
【0012】しかし、油脂酵母は菌体成分として総脂質
の含有量は高いが、トリグリセライドが大部分であり、
重要な高度不飽和脂肪酸、特にEPA、DHAの含有量
の比率が低く、所期の目的は達せられない。
【0013】4.ビール酵母の細胞壁を超小型マイクロ
カプセル化して、その内部にEPA、DHAを浸透圧を
利用して圧入する方法 この方法は、大きさが5−8μmの酵母の細胞内にプロ
テアーゼ等の消化剤を注入し;一定のpH条件下で酵母
の内容物を完全分解し、ゴースト状態にしたものを含む
マイクロカプセルを製造し;その後、浸透圧を利用して
EPA、DHAなどの高度不飽和脂肪酸を該ゴーストの
マイクロカプセルに圧入する、ことからなる方法であ
る。ゴースト状態とは、細胞やファージに適当な処理を
行って内部構成物質を除去し、外皮構成体だけにした状
態をいう。
【0014】この方法は、予め特殊な薬品、方法により
細胞内の物質を分解して取り出す必要があること、及び
この方法自体がかなり高度の技術を要求することが第一
の欠点である。さらに、重大な欠点としては、酵母細胞
の内容液には、EPA、DHAの含有量は少ないにして
も、稚仔魚の栄養分として成長因子、微量元素、及び無
機塩類が含まれており、これらの有効な生理活性物質が
全て犠牲にされることである。従って、これらを補完す
るために、別に例えば生きた酵母などを同時に与えなけ
ればならず、極めて不経済である。
【0015】以上、現在採用されている、または研究段
階にある従来技術には、それぞれ改良すべき点が多々あ
り、高度不飽和脂肪酸、特に稚仔魚の生育に絶対に欠か
せないEPA、DHAを濃厚に含む付加価値の高い飼料
を製造する技術の出現が強く要望されていた。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】前述で詳細に述べたよ
うに、水産飼料へ高度不飽和脂肪酸を付与するための既
存の方法は、稚仔魚の栄養要求からすれば不完全かつ不
安定な方法で、飼料としての付加価値も低く、水産養殖
における飼育効率を向上できる技術としては、特にEP
A、DHAの供給能力に問題がある。
【0017】本発明の目的は、前記のような従来技術の
問題点を解決し、発酵工業の生産過程から余剰の廃棄物
として排出される酵母に、稚仔魚及び/または家畜類・
家禽類が必要とする価値のある栄養分を濃厚に保持して
いる状態のまま、不足している高度不飽和脂肪酸、特
に、EPA、DHAを導入し、飼料、特に高付加価値の
水産餌料を生産する方法を提供することである。
【0018】本発明の他の目的は、EPA、DHAを酵
母細胞内に封入することにより、貴重なEPA、DHA
を無駄なく稚仔魚に与えることができる水産餌料を与え
ることである。
【0019】
【課題を解決するための手段】本発明は、酵母を、高度
不飽和脂肪酸を含む媒体(例えば水−エチルアルコール
系媒体)中のスラリーとし;該スラリーを加圧及び/又
は減圧条件下におくことにより、細胞質を保持した該酵
母中に前記不飽和脂肪酸を取り込ませる、ことを特徴と
する飼料化酵母の製造方法である。
【0020】本発明の方法は、主として発酵工業、特に
ビール製造工業から排出される余剰酵母を基材とし、生
物として栄養源を濃厚に含んだ状態のまま、酵母には本
来的に含有量の少ない高度不飽和脂肪酸を物理的な方法
を用いて封入することによって、生物の栄養源としてほ
ぼ完全な高付加価値酵母を生産する。
【0021】酵母類の細胞液中には、通常生物の栄養源
として必要な炭水化物、蛋白質、アミノ酸、有機酸、ビ
タミン等の微量成長因子および無機塩類が豊富に含まれ
ており、それ自身で生物の栄養物として機能する。また
生物の必須栄養分である粗脂肪も酵母によるが、例え
ば、パン酵母、ビール酵母、油脂酵母、海洋性酵母など
には総脂肪として1.5%−12%(湿分中)の範囲で
含まれている。
【0022】例として、後述する実施例1に用いたビー
ル酵母の有機栄養素、ビタミン類及び無機塩類の分析の
平均値または測定の変動範囲を表1、表2、表3に示
す。これらの表からわかるように、余剰酵母は動物性プ
ランクトンが順調に増殖、成長するのに必要な炭水化
物、蛋白質、粗脂肪、無機塩類及びビタミン類等の微量
元素を細胞液に含んでいる。本発明はこれらの貴重な成
分の損失を可及的に少なくして有効に利用することを最
大の特徴の一つとしている。
【0023】
【表1】 表1 ビール製造における余剰酵母の分析値(6サンプルの平均値) 菌体成分 分析値(g/l) 炭水化物 97 粗蛋白質 120 粗脂肪 14.5 無機塩類 9.5 固形物 241 水分(%) 75.9* *水切り状の余剰酵母
【表2】 表2 乾燥ビール酵母のビタミン類 成分 含有量(μg/l) ニコチンアミド 370 −380 チアニン(B1) 67 −430 リボフラミン(B2) 38 − 74 パントテン酸カルシウム 55 −163 ピリドキシン(B6) 34 −115 ビオチン 0.6− 5.8
【表3】表3 乾燥ビール酵母の無機塩類(灰分中) 成分 含有量(%)25 48.4 K2O 31.7 CaO 8.80 MgO 6.16 Na2O 2.64 SiO2 1.14Fe23 0.62 しかしながら、近年、生物の生存、増殖、生活に必須で
あることが確認された高度不飽和脂肪酸の含有量は極め
て微量であり、菌体中の不飽和脂肪酸の含有率は高くて
も数%程度であり、その中でもEPA、DHAの占める
割合はさらに低率であり、前記の酵母のみをそのまま飼
料として与えたのでは増殖阻害を起こすことが確認され
ている。
【0024】例えば、前述の表1、表2および表3の分
析に用いた酵母について、常用されている分析法に従い
抽出、前処理を行い、ガスクロマトグラフィー(GC)
またはガスクロマトグラフィー/質量スペクトル(GC
/MS)によりEPA,DHAの含有量を分析した。そ
の結果、供試サンプルとしたビール製造の余剰酵母には
実質的にEPA、DHAは含まれていないことが判明し
た。
【0025】このように、酵母は餌料として、及び/ま
たは栄養物質として不可欠の高度不飽和脂肪酸の含有量
が生物の要求量に対して不足しており、この事実が致命
的な欠陥となっている。
【0026】高度不飽和脂肪酸には多くの種類があり、
オレイン酸、リノール酸などω−6タイプの高度不飽和
脂肪酸は生物が生合成できるが、生理活性物質としてシ
オミズツボワムシや稚仔魚等の生物の増殖に必要な、α
−リノレン酸(C183,ω−3),EPA(C205
ω−3)及びDHA(C225,ω−3)などのいわゆ
るω−3タイプの高度不飽和脂肪酸は多くの生物がこれ
らを生合成することができず、外部から与えなければな
らない。
【0027】高度不飽和脂肪酸、特にω−3タイプのE
PA、DHAなどの生理活性物質としての薬理効果とし
ては、人に対してはかなり解明されているが、魚類等に
対する必須栄養素としての薬理効果については殆ど解明
されておらず、僅かに魚類の成長ホルモンの生合成に関
与しているという報告があるにすぎない。しかし、人体
に対する場合と同様に、魚類に対しても生理活性物質と
して重要な役割を果たしていると推定される。
【0028】EPA、DHAは現時点で10万円/gも
する高価なものである。従って、これらを微生物により
生産する研究が精力的に行われており、現在、EPAを
多量に生産する、細菌アルテロモナス属(Altero
monas)(アジの腸内から分離)および糸状菌モル
チェレラ属(Mortierella)が分離され、前
記物質の大量生産への途が開けつつある。
【0029】しかし、これらの微生物でも、理想的培養
条件下で菌体1g(乾燥重量)当たり20mgのEPA
を含有するにすぎない。また、これらの微生物はシオミ
ズツボワムシ等の飼料としては大きすぎる等の理由から
飼料的価値は酵母に劣る。また、DHAの大量生産菌は
未だ発見されていない。
【0030】従って、前記の余剰酵母を高付加価値化す
る殆ど唯一の手段は、酵母の生菌体に高度不飽和脂肪
酸、少なくとも高等生物が生合成することのできないω
−3タイプ高度不飽和脂肪酸、即ちEPA、DHAを物
理的手段、方法により封入することであり、これにより
各種の余剰酵母を完全な栄養物に転換することが可能と
なる。
【0031】本発明に素材(基材)として使用される余
剰酵母は、発酵工業の生産工程から排出される余剰酵母
を対象とするのが好ましく、例えば、ビール製造等のア
ルコール製造の工程から排出される余剰酵母が、排出量
が膨大なこと、生物の栄養源として有用な栄養物質を細
胞内に多量に含んでいることなどから最適である。しか
し、これ以外にも、生理活性物質、薬剤化合物などを特
定の酵母により生産する過程から排出される酵母を対象
としてもよい。
【0032】酵母細胞中に封入すべき高度不飽和脂肪酸
はEPA、DHAに限定されず、また、対象酵母もビー
ル酵母に限定されるわけではなく、その目的により他の
高度不飽和脂肪酸、他の酵母を選択しても本発明に包含
される。
【0033】各種の生産過程から排出される余剰酵母
は、生産過程から系外に取り出された時点において、そ
れぞれの酵母の培養に用いられた培地の発酵残液(スペ
ント・ブロース)に懸濁した状態にあり、発酵残液中に
は未利用の培地成分がかなり多量に残されているので、
高度不飽和脂肪酸を封入する本発明の工程に導入する以
前に滅菌水、清浄な水道水、井水などで予め洗浄して培
地の残成分を取り除き、さらに適当な酵母濃度となるよ
うに水切りをすることが望ましい。
【0034】酵母細胞に封入すべき高度不飽和脂肪酸
は、好ましくはEPAおよびDHAである。これらは市
販品として入手可能である。所望により魚油等から常法
により抽出・精製した高度不飽和脂肪酸を用いてもよ
い。高度不飽和脂肪酸は約4〜5%の濃度で水性媒体中
に分散させる。即ち、EPA、DHAの合計濃度約4〜
5%が好ましい。この脂肪酸を水切りした酵母と適宜混
合してスラリー状とする。スラリーの水分は例えば約4
0〜50%である。
【0035】以下に、ビール製造工場から排出される余
剰酵母を例として、本発明の方法を説明する(図1)。
しかし、前述したように本発明の対象とする酵母はビー
ル酵母に限定されるものではない。
【0036】図1は、ビール製造工場からの余剰酵母を
本発明の方法によって高付加価値化する工程をフローチ
ャートで示したものである。
【0037】まず、余剰酵母1を適当に水洗い、湯洗い
して発酵残液を洗い出した後、適当に水切りして耐圧容
器3に適当量を投入する。次に、酵母細胞に封入する高
度不飽和脂肪酸液2を調製する。
【0038】前述したように、ビール酵母1は細胞液に
各種の有効成分を含んでいるために、以下に示すように
酵母細胞の浸透圧は相当に高い値を示す。
【0039】酵母細胞の浸透圧は次の式1を用いた計算
によって求める。
【0040】
【式1】P=R×C×T 式中、P:酵母細胞の浸透圧(atm) R:比例定数=0.0821 C:細胞内溶液の総溶質モル濃度(mol/l) T:絶対温度=298(K)[常温(25℃)に相当] 式1を用いて表1のビール製造における余剰酵母の分析
値から酵母の浸透圧を概略計算すると、炭水化物、脂
肪、無機塩類による浸透圧は、水温25℃において約1
2気圧となる。尚、本明細書中では、概略的に全ての有
機性溶質を蔗糖と仮定して、また、全ての無機塩類を食
塩と仮定して計算し、両者を合計して酵母細胞の総溶質
濃度とした。また、蛋白質による浸透圧は、蛋白質が高
分子であり、モル濃度で表現すると極めて小さい値とな
るので無視している。
【0041】余剰酵母1に高度不飽和脂肪酸を酵母菌体
内に効率的に取り込ませるためには、調製する高度不飽
和脂肪酸液2の濃度は酵母細胞液の溶質濃度よりも低濃
度とし、高度不飽和脂肪酸液2の浸透圧が酵母細胞の浸
透圧よりも低くなるようにしなければならない。
【0042】水洗いした余剰酵母1を投入してある耐圧
容器3に、調製した高度不飽和脂肪酸液2を注入し、両
者を静的状態で放置しておくと、浸透圧の関係で高度不
飽和脂肪酸液2の水が余剰酵母1側に浸透してくるため
に酵母細胞1は湿潤し、スラリー状となる。
【0043】次に、高度不飽和脂肪酸液2中の水分の浸
透圧による移動と高度不飽和脂肪酸の封入を助長するた
めに耐圧容器3を密封し、しかるのちに真空ポンプ4に
より容器内の圧力を減圧し、又は加圧ポンプ4により好
ましくは酵母細胞の浸透圧以上の加圧度となるように加
圧し、又は加圧減圧を交互に繰り返して、酵母細胞から
の水を細胞外に取り出し、同時に高度不飽和脂肪酸を細
胞内に移行させる。
【0044】ポンプ4による加減圧操作は、連続的でも
よいが、例えば1分減圧、5分常圧の間歇的運転あるい
は所定の減圧条件に達するまでの過程で真空ポンプ等の
ポンプを間歇的に運転して酵母細胞にパルスを与える方
法も採用できる。所定の加減圧度にある時間は10分以
下の時間で十分である。また、加減圧度は、高度不飽和
脂肪酸の封入量を確認して決めることができる。なお、
高濃度に高度不飽和脂肪酸を酵母中に封入するには酵母
細胞の浸透圧以上の圧力を与えることが好ましいが、こ
のような高圧は減圧によっては得られないので加圧ポン
プを用いると良い。
【0045】このような手段、方法により余剰酵母の細
胞内に飼料・餌料酵母としての十分な量の高度不飽和脂
肪酸が封入され、栄養源として理想的な飼料・餌料酵母
が製造される。
【0046】耐圧容器3において所定の加減圧度、所定
の時間を与えられて高度不飽和脂肪酸を細胞内に取り込
んだ余剰酵母2を、耐圧容器3を開放した後にスラリー
状のまま容器3から取り出す。
【0047】高付加価値化された余剰酵母を高度不飽和
脂肪酸2と分離するために菌体分離機5にかけて分離す
る。菌体分離機5に特別の制限はなく、例えば、遠心分
離機による分離、菌体を捕捉できる限外濾過膜などの膜
による分離など通常の分離機、分離方法を採用すること
ができる。
【0048】また、菌体分離機5によって分離された高
度不飽和脂肪酸(分離液)7中にはまだ濃厚に高度不飽
和脂肪酸が残されているので、その残留濃度を確認しな
がら返送配管6によって、及び/または、人手により耐
圧容器に循環・返送して繰り返し使用できる。
【0049】これらの手段、方法により分離された余剰
酵母(分離菌体)8を、適当な水分を含む状態まで乾燥
し、完全餌料酵母、または医薬組成物の成分として使用
することができる。
【0050】前述したように、また、表1、表2および
表3の分析結果からも容易に理解できうように、余剰酵
母は有機栄養源、ビタミン類及び無機塩類を十分に含ん
でおり、医薬組成物、水産餌料、家畜・家禽飼料、及び
/またはその添加物としてほぼ完全な組成を有してい
る。しかし、本発明の方法に用いることによって初め
て、唯一不足している高度不飽和脂肪酸、とりわけEP
A、DHAを封入し、栄養補正及び/または栄養強化を
行い、理想的な栄養物質として完成させることが可能と
なる。
【0051】本発明の方法は、連続装置または回分式装
置の何れを用いても行うことができる。しかし、装置の
処理規模及び操作の観点から、通常は回分式装置による
回分式運転の方が一般的である。
【0052】
【実施例】以下、実施例により具体的に説明するが、本
発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】実施例1 高度不飽和脂肪酸であるEPA、DHAを栄養成分とし
て強化すべき対象酵母としてビール製造工場から排出さ
れる余剰酵母を選択した。この余剰酵母は、出芽酵母サ
ッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyce
s cerevisiae)の一種またはその変異株で
ある。
【0054】上記余剰酵母を数回湯洗浄して発酵培養液
の残留成分を洗い出した後、大まかに水切りをした(水
分は約76%)。湯洗した酵母のうち約4kg程度を計
り分け、ステンレス・スチール製の耐圧容器(有効容積
10リットル)に投入した。
【0055】これとは、別に、市販のEPAを0.5%
エチルアルコール−水系の溶媒に溶解して5%の高度不
飽和脂肪酸を調製した。これを耐圧容器に注入し、余剰
酵母を含めた全体の液量を10リットルとした。この液
の水温は約25℃であった。
【0056】余剰酵母とEPAの調製が終わった後に耐
圧容器を密封し、加圧ポンプを作動させて耐圧容器を加
圧した。
【0057】供試酵母の浸透圧は表1の分析から概略計
算すると約12気圧となるが、耐圧容器の加圧度とEP
A封入効果との関係を調べるために加圧度を3気圧、6
気圧及び12気圧の3段階に設定し、それぞれについて
EPA封入実験を行った。
【0058】加圧の方法、即ち加圧操作は、耐圧容器を
密封してから加圧ポンプを作動させ、1分間間隔で作
動、停止を繰り返し、酵母細胞に圧力のパルスを与えな
がら徐々に所定の加圧度までもっていく方法を採用し
た。所定の加圧度に達した時点で1分間その加圧度を維
持し、その後耐圧容器のバルブを徐々に開放しながら約
5−10分後に常圧(大気圧)となるように操作した。
【0059】表4に、余剰酵母へのEPA封入実験の結
果を示す。
【0060】
【表4】 表4 余剰酵母へのEPAの封入実験結果 3気圧におけるEPA 6気圧 12気圧 対照酵母 痕跡 痕跡 痕跡 試験酵母 5−8 8−11 12−15 余剰酵母のEPAの含有量はmg/gで表してある。
【0061】表4に示されるように、本発明の方法によ
って確実にEPAを酵母内に封入できることが確認され
た。また、酵母細胞の概略計算による浸透圧(12気
圧)以下の加圧度(3気圧)であっても有効なEPAの
封入が観察されたが、実験を行った範囲内では加圧度が
大きい程EPAの取り込みの割合が大きかった。
【0062】尚、EPA封入後の余剰酵母の組成、即ち
有機栄養素、ビタミン類、無機塩類の濃度変化は若干認
められたが、実質的な損失とはならない程度であった。
【0063】実施例2 本実施例は、余剰酵母にDHAを封入するための実験で
ある。実施例1のEPAをDHAに取り替えただけで、
対象酵母、実験装置、実験条件及び実験装置は全て実施
例1に準じた。
【0064】余剰酵母へのDHAの封入実験の結果を表
5に示す。実施例1のEPA封入と同様に、確実に余剰
酵母内にDHAを封入できることが確認された。
【0065】
【表5】 余剰酵母へのDHA封入実験結果 表5 余剰酵母へのDHA封入実験結果 3気圧におけるEPA 6気圧 12気圧 対照酵母 痕跡 痕跡 痕跡 試験酵母 3−5 4−7 6−8 余剰酵母のEPAの含有量はmg/gで表してある。
【0066】
【効果】従来、発酵工業から排出される余剰酵母は、そ
のままか、あるいは乾燥機による若干の乾燥により家畜
あるいは家禽の飼料とされていたが、通常、質的にもま
たコスト的にも市販の飼料と競合できず、事業としても
赤字を余儀なくされていた。
【0067】また、周知のように、ビール酵母は医薬組
成物の成分として利用されている。しかし、この用途目
的の需要だけでは到底消費できず、過剰のビール酵母は
ビール粕と共に焼却処分され、結果として多量の炭酸ガ
スを排出し地球温暖化に対して好ましくない影響を与え
ているのが現状である。
【0068】ビール工場を例にとると、現在我が国には
生産工場が約40箇所あり、これらの工場から排出され
るビール余剰酵母は、(乾燥物として)年間約140,
000トンの莫大な量に達すると推定される。この量を
原単位当たりで表現すると、余剰酵母の排出量は約20
kg/klビールとなり、その量が如何に莫大なもので
あるかが容易に理解できるであろう。
【0069】本発明による新規の余剰酵母の高付加価値
飼料化方法によれば、飛躍的に発展しつつある水産養殖
業で大量に消費される栄養源としての完全酵母飼料を製
造・供給することが可能となり、経済的にも十分採算が
取れるばかりでなく、上述したように、従来は排出され
ていた余剰酵母を再資源化することにより地球環境保全
にも貢献できる。
【0070】即ち、本発明によれば次のような顕著な作
用効果を奏することができる。
【0071】(1)本発明の方法によれば、発酵技術に
よる食品製造工場から排出される余剰酵母を、十分な栄
養物質を含有している生菌体に、栄養源として不足して
いる高度不飽和脂肪酸、特に高等動物の必須栄養源であ
るEPA、DHAを経済的にかつ効率よく封入すること
が可能となる。これにより、医薬組成物、水産餌料また
は家畜・家禽に対する栄養源として理想的かつ完全な栄
養物質及び/または飼料を生産し、提供することができ
る。
【0072】(2)本発明の方法は、『発明が解決しよ
うとする課題』の項で述べた従来技術の宿命的な問題点
を解決することができ、餌料効率の向上、栄養源として
の完全化、製造に要するコストの低減及び装置、操作の
簡便性などに顕著な効果がある。
【0073】(3)本発明の方法の最大の特徴は、余剰
酵母を生菌体のまま、即ち余剰酵母中の栄養源としての
有効成分を実質的に損失することなく、EPAおよびD
HAを栄養源として付加できることである。さらに、高
度かつ特殊な操作を必要とせず、また特定の薬品、例え
ば酵素などの高価な薬品を使用する必要もないので、栄
養物質として完全な酵母を低コストで製造することがで
きることである。
【0074】(4)本発明の方法では、製造過程におい
て処理・処分せざるを得ない廃棄物が全く排出されない
ので、理想的な有機性廃棄物の再資源化方法としても評
価することができる。特に、従来法の焼却処分では余剰
酵母の焼却により、地球温暖化の原因物質である炭酸ガ
スが多量に排出されるが、本発明の方法では実質的に炭
酸ガスの発生はなく、地球環境改善に著しく貢献するこ
とができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、ビール製造工場からの余剰酵母を本発
明の方法によって高付加価値化する工程をフローチャー
トで示したものである。

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】酵母を、高度不飽和脂肪酸を含む媒体中の
    スラリーとし、 該スラリーを加圧及び/又は減圧条件下におくことによ
    り、細胞質を保持した該酵母細胞中に前記不飽和脂肪酸
    を取り込ませる;ことを特徴とする飼料化酵母の製造方
    法。
  2. 【請求項2】前記不飽和脂肪酸が、エイコサペンタエン
    酸(EPA)、及び/または、ドコサヘキサエン酸(D
    HA)を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
  3. 【請求項3】前記酵母が発酵工業の生産工程から排出さ
    れる余剰酵母である、請求項1または2に記載の方法。
  4. 【請求項4】前記加圧条件が、酵母細胞の浸透圧以上で
    ある、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
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Cited By (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
KR100423876B1 (ko) * 1997-04-01 2004-06-12 클로렐라고교 가부시끼가이샤 고도불포화지방산함유클로렐라의제조방법
US8426541B2 (en) 2009-08-27 2013-04-23 Alltech, Inc. Synthetic mycotoxin adsorbents and methods of making and utilizing the same

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