JPH0721151B2 - トラクションドライブ用流体 - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】 ［産業上の利用分野］ この発明は、トラクションドライブ用流体に関する。さ
らに詳しく言うと、この発明のｏ−ターシクロヘキシル
化合物を含有する低温で良好な安定性を示す流体組成物
を用いたトラクションドライブ用流体に関する。

［発明の背景］ 近時、自動車等の回転駆動力の自動伝達装置、機械の変
速伝導装置、航空機部品の定速伝導装置及び陸上、水上
乗物用の回転駆動力の伝達装置等として、従来から使用
されていたギヤの代りに、流体を用いたトラクションド
ライブ装置が使用されるようになってきている。

こうしたトラクションドライブ装置に用いられる流体に
は、例えばエンジン始動時などの低温状態における特性
と、その後の高温状態における特性（たとえば、トラク
ション係数）の変化が少ないなどの特性が必要とされ
る。

従来、トラクションドライブ用流体として、鉱油などが
使用されていたが、温度に対する前記特性などを考慮し
て合成油剤を用いるとの提案がなされている。

例えば、特公昭46−339号公報には、トラクションドラ
イブ用流体（トラクタント）に関する発明が開示されて
おり、その中でターシクロヘキシル化合物がトラクショ
ンドライブ用流体として使用可能である旨の記載があ
る。このターシクロヘキシル化合物には多種の異性体が
あり、この中には、常温で固体であるものが多く、した
がって、トラクションドライブ用流体として使用した場
合には、二種以上のターシクロヘキシル化合物を混合し
て流体組成物として使用するのが一般的である。

しかしながら、この発明者の検討によると、複数のター
シクロヘキシル化合物を混合して得られたトラクション
ドライブ用流体と低温で長期間保存すると、ターシクロ
ヘキシル化合物の結晶が析出するとの問題があることが
判明した。

［発明の目的］ この発明は前記事情にもとづいてなされたものである。

すなわち、この発明の第一の目的は、長期間低温で貯蔵
しても結晶の析出がなく、さらに、温度上昇による特性
の変化の少ないトラクションドライブ用流体を提供する
ことである。

［前記目的を達成するための手段］ この発明は前記目的を達成するためになされたものであ
って、この発明の構成の概要は、シス−ｏ−ターシクロ
ヘキシル化合物とトランス−ｏ−ターシクロヘキシル化
合物とを25:75〜65:35の範囲内の重量比で含む流体組成
物を含有するトラクションドライブ用流体である。

この発明における流体組成物は、シス−ｏ−ターシクロ
ヘキシル化合物とトランス−ｏ−ターシクロヘキシル化
合物とを特定の比率で含むものである。

ｏ−ターシクロヘキシル化合物は、例えば、ｏ−ターフ
ェニル化合物を触媒の存在下で水素添加することによっ
て得られる。そして、この水素添加の際に使用する触
媒、および反応条件を変えることによって、シス−ｏ−
ターシクロヘキシル化合物およびトランス−ｏ−ターシ
クロヘキシル化合物を高い選択率で製造することができ
る。

シス−ｏ−ターシクロヘキシル化合物を製造する際に用
いる触媒としては、たとえば、ルテニウム−カーボン触
媒（通常、ルテニウムの含有率が５重量％である。）、
白金、ロジウム、パラジウム、イリジウムなどの金属
を、担体に担持した触媒（担体としては、活性炭、アル
ミナ、シリカ、シリカアルミナ、ケイソウ土等があり、
上記金属の担持量は、0.1〜10重量％（好ましくは１〜
５重量％）である。）を挙げることができる。

また、通常は、反応温度を200℃以下（好ましくは70〜1
50℃の範囲内）に、反応圧力を５気圧以上（好ましくは
10〜100気圧の範囲内）に、そして、反応時間を10分〜1
0時間の範囲内に設定する。

前記の反応条件で、たとえばルテニウム−カーボン触媒
を用いた場合、ｏ−ターフェニル化合物の水素添加によ
り得られるｏ−ターシクロヘキシル化合物には、通常
は、90重量％以上のシス体が含まれ、トランス体の生成
率は、通常は10重量％以下である。

トランス−ｏ−ターシクロヘキシル化合物を製造する際
に用いる触媒としては、たとえば、担持型触媒として、
ニッケル／ケイソウ土触媒、非担持型触媒として、ニッ
ケル、パラジウム、白金、ロジウム、イリジウムなどの
塩や錯体などを挙げることができる。

また、通常は、担持型触媒を用いる場合、反応温度を20
0℃以上（好ましくは200〜300℃の範囲内）に、反応圧
力を５気圧以上（好ましくは10〜100気圧の範囲内）
に、そして、反応時間を10分〜10時間の範囲内に設定す
る。

非担持型触媒を用いる場合、反応温度を０℃〜150℃、
反応圧力を常圧〜100気圧に、反応時間を10分〜10時間
の範囲内に設定する。

また、上記のシス−ｏ−ターシクロヘキシル化合物を製
造するときに用いた触媒を用いる場合、200℃を越える
温度で反応圧力５気圧以上（好ましくは10〜100気圧）
で、反応時間を30分〜10時間の範囲に設定する。

例えば、ニッケル／ケイソウ土触媒を用いた場合、ｏ−
ターフェニル化合物の水素添加により得られるｏ−ター
シクロヘキシル化合物には、通常は、90重量％以上のト
ランス体が含まれ、シス体の生成率は、通常は10重量％
以下である。

ターシクロヘキシル化合物は、前掲の公報にも記載され
ているように、一般的な特性としてトラクションドライ
ブ用流体に適している。この発明者は、この中でも特に
ｏ−ターシクロヘキシル化合物が好適であることを見い
出した。

しかしながら、ｏ−ターシクロヘキシル化合物の工業的
な生産方法では、シス体またはトランス体のいずれか一
方を選択的に製造することは困難である。したがって、
ｏ−ターシクロヘキシル化合物は、通常はシス体とトラ
ンス体との混合物として得られる。

ところが、公知の方法で得られたシス体及びトランス体
の両者を含むｏ−ターシクロヘキシル化合物を低温で保
存すると、結晶が析出する。したがって、公知の方法で
製造されたｏ−ターシクロヘキシル化合物はトラクショ
ンドライブ用流体としては使用しにくい。

この発明者は、シス−ｏ−ターシクロヘキシル化合物と
トランスｏ−ターシクロヘキシル化合物とを特定の比率
で混合することによって、低温に保存した場合にも結晶
が析出しないことを見い出した。すなわち、結晶が析出
しないシス−ｏ−ターシクロヘキシル化合物とトランス
ｏ−ターシクロヘキシル化合物との混合比は、重量比で
25:75〜65:35の範囲内である。

シス体とトランス体とを前記の範囲内で混合すると、こ
の流体組成物を流動点以下の温度（例えば−20℃）に長
期間（例えば30日間）保存しても、結晶が析出すること
がないので、この流体組成物は、実質的に結晶を含まな
いものとなる。前記範囲を逸脱すると、結晶が析出し、
トラクションドライブ用流体の主成分としての使用には
適さなくなる。なお、ここで実質的に結晶を含まない状
態は、目視観察によっては流体組成中に結晶が観察でき
ないことを意味する。

この流体組成物を含有するトラクションドライブ用流体
は、温度が上昇してもトラクション係数が低下しにくく
なる傾向がある。

この発明における流体組成物の40℃における動粘度は、
通常は、37〜42cStの範囲内にあり、そして、100℃にお
ける動粘度は、通常は、4.2cSt以下である。

また、この発明における流体組成物の比重（15/4℃）
は、通常は、0.942〜0.947の範囲内にあり、Ｄ線を用い
て測定した20℃における屈折率（▲Ｄ²⁰ _D▼）は、通常
は、1.5035〜1.5065の範囲内にある。さらに、流動点
は、通常−10℃以下である。

なお、この発明における流動組成物は、上述のようにシ
ス−ｏ−ターシクロヘキシル化合物とトランス−ｏ−タ
ーシクロヘキシル化合物を特定の比率で含むものである
が、この発明における流体組成物の特性を損なわない範
囲内で他のターシクロヘキシル化合物を含むものであっ
てもよい。許容される得る他のターシクロヘキシル化合
物の含有率は、通常は、50重量％以下である。

この流体組成物は、このままでもこの発明のトラクショ
ンドライブ用流体に使用することができるが、さらに、
例えば防錆剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、消泡剤、
疲労防止剤、清浄分散剤、流動点降下剤、極圧剤、油性
向上剤および着色剤などの成分を含むものであってもよ
い。

前記酸化防止剤としては、たとえば芳香族アミン系化合
物、フェノール系化合物、ジアルキルジチオりん酸亜鉛
系化合物、りんいおう系化合物、いおう化合物、りん化
合物などが挙げられる。

前記防錆剤としては、たとえばスルホン酸塩、アミン、
有機酸あるいはその塩、エステル等の極性基を有する有
機化合物が挙げられる。

前記消泡剤としては、たとえばポリメチルシロキサンの
ような有機シリコン化合物ポリマーが挙げられる。

前記粘度指数向上剤としては、たとえばイソブチレンポ
リマー、メタクリル酸エステルポリマーなどが挙げられ
る。

前記流動点降下剤としては、たとえば塩素化パラフィン
・ナフタレン縮合物、ポリメタクリレートなどが挙げら
れる。

この発明における流体組成物は、たとえば前述の方法に
より製造したシス−ｏ−ターシクロヘキシル化合物およ
びトランスｏ−ターシクロヘキシル化合物を、シス体及
びトランス体の割合が前記範囲内になるように混合する
と、融点降下により液状となった組成物として製造する
ことができる。

この発明のトラクションドライブ用流体は、前記のよう
にして流体組成物を製造する際に、あるいは流体組成物
を製造し、さらに所望により前掲の防錆剤、酸化防止剤
など添加剤を添加混合することにより製造することがで
きる。

この発明のトラクションドライブ用の流体は、40℃にお
けるトラクション係数が、通常は0.10以上であり、そし
て、100℃におけるトラクション係数が、通常は0.095以
上であり、140℃におけるトラクション係数が、通常は
0.08以上である。

［発明の効果］ この発明のトラクションドライブ用流体には、実質的に
結晶が含まれておらず、低温であっても優れた特性を有
する。これは、シス−ｏ−ターシクロヘキシル化合物と
トランス−ｏ−ターシクロヘキシル化合物とを特定の範
囲内の重量比で含む流体組成物を含有することにより達
成されるものである。

さらに、この発明のトラクションドライブ用流体は、粘
度が低く、低温でのトラクション係数が良好な範囲内に
あるとともに、高温になっても、トラクション係数の低
下が少ない。

従って、この発明のトラクションドライブ用流体を用い
ることにより、駆動力を良好に伝達することができるの
で、従来のトラクションドライブ用流体を用いた場合よ
りもトラクションドライブ装置を小型軽量化することが
できる。

［実施例］ 次にこの発明の実施例及び比較例を示す。

（実施例１） シス−ｏ−ターシクロヘキシル高含有混合物の製造 １のオートクレーブに、ｏ−ターフェニル（東京化成
工業（株）製）200g、５％ルテニウム−カーボン触媒
（日本エンゲルハルド社製）6g、およびシクロヘキサン
100ccを入れ、水素圧50kg/cm²G、反応温度130℃の条件
で三時間水素化を行った。

冷却後、触媒を濾別し、溶媒（シクロヘキサン）溶剤を
留去して、200gの白色結晶を得た。

NMR及びガスクロマトグラフを用いた分析の結果、この
白色結晶は、シス−ｏ−ターシクロヘキシル93重量％
と、トランス−ｏ−ターシクロヘキシル７重量％との混
合物であることが確認された。

トランス−ｏ−ターシクロヘキシル高含有混合物の製造 １のオートクレーブに、ｏ−ターフェニル（東京化成
工業（株）製）200g、ニッケル／ケイソウ土触媒（日揮
化学（株）製）6g、およびシクロヘキサン100ccを入
れ、水素圧50kg/cm²G、反応温度280℃の条件で三時間水
素化を行った。

冷却後、触媒を濾別し、溶媒（シクロヘキサン）溶剤を
留去して、200gの白色結晶を得た。

NMR及びガスクロマトグラフを用いた分析の結果、この
白色結晶は、トランス−ｏ−ターシクロヘキシル93重量
％と、シス−ｏ−ターシクロヘキシル７重量％との混合
物であることが確認された。

シス−ｏ−ターシクロヘキシル高含有混合物とトランス
−ｏ−ターシクロヘキシル高有含混合物の混合組成物の
製造 得られる流体組成物中におけるトランス−ｏ−ターシク
ロヘキシルとシス−ｏ−ターシクロヘキシルとの重量比
が、70:30になるように、前記トランス−ｏ−ターシク
ロヘキシル高含有混合物とシス−ｏ−ターシクロヘキシ
ル高含有混合物とを混合し、加熱溶融して流体組成物を
得た。

（実施例２） 実施例１において、得られる流体組成物中におけるトラ
ンス−ｏ−ターシクロヘキシルとシス−ｏ−ターシクロ
ヘキシルとの重量比が、60:40になるようにトランス−
ｏ−ターシクロヘキシル高含有混合物とシス−ｏ−ター
シクロヘキシル高含有混合物とを用いた以外は同様にし
て流体組成物を製造した。

（実施例３） 実施例１において、得られる流体組成物中におけるトラ
ンス−ｏ−ターシクロヘキシルとシス−ｏ−ターシクロ
ヘキシルとの重量比が、50:50になるようにトランス−
ｏ−ターシクロヘキシル高含有混合物とシス−ｏ−ター
シクロヘキシル高含有混合物とを用いた以外は同様にし
て流体組成物を製造した。

（実施例４） 実施例１において、得られる流体組成物中におけるトラ
ンス−ｏ−ターシクロヘキシルとシス−ｏ−ターシクロ
ヘキシルとの重量比が、40:60になるようにトランス−
ｏ−ターシクロヘキシル高含有混合物とシス−ｏ−ター
シクロヘキシル高含有混合物とを用いた以外は同様にし
て流体組成物を製造した。

（比較例１） 実施例１において、得られる流体組成物中におけるトラ
ンス−ｏ−ターシクロヘキシルとシス−ｏ−ターシクロ
ヘキシルとの重量比が、80:20になるようにトランス−
ｏ−ターシクロヘキシル高含有混合物とシス−ｏ−ター
シクロヘキシル高含有混合物とを用いた以外は同様にし
て流体組成物を製造した。

（比較例２） 実施例１において、得られる流体組成物中におけるトラ
ンス−ｏ−ターシクロヘキシルとシス−ｏ−ターシクロ
ヘキシルとの重量比が、30:70になるようにトランス−
ｏ−ターシクロヘキシル高含有混合物とシス−ｏ−ター
シクロヘキシル高含有混合物とを用いた以外は同様にし
て流体組成物を製造した。

評価 得られた流体組成物の40℃および100℃における動粘
度、比重（15/4℃）、Ｄ線を用いて測定した20℃におけ
る屈折率（▲Ｄ²⁰ _D▼）および流動点を第１表に示す。

また、得られた流動組成物を−20℃の温度で30日間放置
し、結晶析出の有無を観察した。結果を第１表に併せて
記載する。

第１表から、この発明において採用する流体組成物は、
低温で長時間放置しても結晶が析出することがなく、安
定であることがわかる。

（実施例５） 実施例１で得られた流体組成物を、トラクションドライ
ブ用流体として使用して、以下に記載する方法で、この
トラクションドライブ用流体のトラクション係数を測定
した。

測定方法 相接している同じサイズの円筒（直径52mm、厚さ6mmで
被駆動側は曲率半径10mmのタイコ型、駆動側はクラウニ
ング無しフラット型）の一方を一定速度（1500rpm）で
回転させ、他方を1500〜1750rpmで連続的に回転させ、
両円筒の接触部分にバネにより7kgの荷重を付与し、両
円筒間に発生する接線力、すなわちトラクション力を測
定し、トラクション係数を求めた。なお、この円筒は軸
受銅SUJ−２鏡面仕上でできており、最大ヘルツ接触圧
は112kg/mm²であった。

また、トラクション係数と油温との関係の測定に当って
は、油タンクをヒーターで加熱することにより、油温を
40〜140℃まで変化させ、すべり率５％におけるトラク
ション係数と油温との関係を測定した。結果を第１表に
示す。

なお、この発明の実施例および比較例におけるトラクシ
ョン係数は前記の方法により測定したものである。

（比較例３） ３のガラス製フラスコに、α−メチルスチレン1000
g、酸性白土40gおよびメシチルオキサイド50gを入れ、
撹拌しながら140℃で二時間反応させた。反応液より触
媒を濾別後、未反応のα−メチルスチレンおよびメシチ
ルオキサイドを留去し、沸点125〜130℃（0.2mmHg）の
留分900gを得た。

NMR及びガスクロマトグラフを用いた分析の結果、この
留分は、α−メチルスチレンの線状二量体97重量％と環
状二量体３重量％との混合物であることが判明した。

この留分を実施例１と同様の方法により水素添加するこ
とにより、2,4−ジシクロヘキシル−２−メチルペンタ
ンを主成分とするトラクションドライブ用流体を得た。

このトラクションドライブ用流体の比重は、0.90（15/4
℃）であり、動粘度は、20.27cSt（40℃）、3.580cSt
（100℃）、粘度指数は、13であった。

得られた流体の40〜140℃におけるトラクション係数を
第１図に示す。

（比較例４） 実施例１で製造したシス−ｏ−ターシクロヘキシル高含
有混合物をトラクションドライブ用流体として使用し
て、40〜140℃におけるトラクション係数を測定した。

結果を第１図に示す。

第１図から、この発明のトラクションドライブ用流体
は、温度上昇によるトラクション係数の低下が少ないこ
とがわかる。従って、駆動力の伝達高率が向上するの
で、この発明のトラクションドライブ用流体を使用する
ことにより、トラクションドライブ装置を小型化するこ
とが可能になる。

【図面の簡単な説明】

第１図は、トラクションドライブ用流体の温度とトラク
ション係数との関係を示すグラフである。

Claims (1)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】シス−ｏ−ターシクロヘキシル化合物とト
   ランス−ｏ−ターシクロヘキシル化合物とを25:75〜65:
   35の範囲内の重量比で含む流体組成物を含有するトラク
   ションドライブ用流体。