JPH07198641A - 化学/物理量の識別方法及び装置 - Google Patents

化学/物理量の識別方法及び装置

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JPH07198641A
JPH07198641A JP5354237A JP35423793A JPH07198641A JP H07198641 A JPH07198641 A JP H07198641A JP 5354237 A JP5354237 A JP 5354237A JP 35423793 A JP35423793 A JP 35423793A JP H07198641 A JPH07198641 A JP H07198641A
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 化学/物理量を高速かつ高精度に識別する。 【構成】 識別対象の化学/物理量の刺激の呈示を受け
る複数個のセンサ部の中で、呈示された刺激iに対し最
初に識別可能な有意の最小レベルOd を出力したセンサ
部S(i,1) がどれかにより、呈示された刺激iを同定す
る。これだけでは同定ができない場合には、センサ部S
(i,1) が出力レベルOd を出力した時点から2×Od の
出力レベルを出力するまでに要する時間t(i,1,1@2)
と、センサ部S(i,1) が出力レベルOd を出力した時点
から他の別なセンサS(i,2) が二番目に当該出力レベル
Od を出力するまでの時間差t(i,1,2) とにも基づき、
刺激iを同定する。また、刺激iの刺激強度は、センサ
部Si の応答初期の立ち上がり速度データである時間デ
ータt(i,1,1@2)に基づいて算出する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、臭いや味等の化学的な
刺激分子種や刺激の質、音の周波数帯とか質感、光の波
長帯とか色等、種々の化学的あるいは物理的な量(本書
では化学/物理量と記す)を分析、評価するための識別
方法と装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来は、検出、識別しようとする化学/
物理量を構成している各構成成分に対し、それぞれ互い
に異なる感度を持つ複数種のセンサを並べ、刺激の呈示
後一定時間経って、各センサの出力レベルがある程度以
上に大きくなり、かつ安定したと思われる頃に各センサ
出力レベルを抽出するか、さらにそれらを相互に比較す
ることで、刺激(センサに印加された化学/物理量)の
質を評価しようとしていた。
【0003】例えば物理量としての可聴音の評価システ
ムでは、nを2以上の正の整数として、可聴帯域20〜20
000Hz を均等にn個の周波数帯域に分割するとか、ある
いは20Hz, 40Hz, 80Hz, 160Hz, 320Hz, ・・・・・・・・ 等と
いうように、中心周波数をオクターブごとにずらしてn
帯域に分割し、各分割した帯域にそれぞれ最も高い感度
を有するセンサをn個並べるか、各中心周波数に高いQ
値でチューニングされた(急峻なバンドパスフィルタ特
性を持った)音響センサをn個並べ、これら各センサか
ら安定に出力される変換電圧(電流)出力を抽出して、
呈示された刺激(可聴音)の各周波数成分の音圧を得る
ことにより、当該呈示された刺激を分析し、音質を評価
していた。もちろん、分割数nが多い程、測定分解能な
いし評価精度は向上する。
【0004】色ないし光の評価等も同様で、光の波長帯
域をn分割し、それぞれに高い感度を有するn個の光電
変換素子をセンサとして用い、個々には異なる中心周波
数のバンドパスフィルタを付すことにより、これら各光
センサの出力が安定してから得られる光強度情報に基づ
き、当該呈示された刺激である光ないし色の各周波数成
分の強度を得ることで分析ないし評価をしていた。
【0005】その他の物理量を始め、化学量に関しても
然りである。例えば、昨今では臭いとか味等、以前は生
体に固有と見られていたような刺激分析に関しても、こ
れを電気的に分析、識別せんとする試みが盛んになされ
ている。例えば臭い物質に関しては、公知文献:"Nat
ure", 1982,299巻,352-355,公知文献:「日経サイエ
ンス」,1991,10月号,68-76,公知文献:T.IEE Japan,
1993,113巻C,621-626等を挙げることができる。しか
し、こうした公知文献においてもやはり、各センサの出
力値がある程度以上に大きくなった時点で各センサ出力
を抽出し、評価に用いていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】上記の通り、従来の化
学/物理量の評価手法に従う限り、化学/物理量の各構
成成分の抽出ないし化学/物理量の質の評価には、セン
サ出力が安定するまでの間、少なくともある程度以上の
長い時間を必須とする。呈示された刺激の如何によって
は、センサの出力が安定するのに極めて長い時間が掛か
るものもある。
【0007】また、従来の手法では、呈示された刺激強
度が強いと、測定時間内にセンサ出力が飽和してしま
い、測定不能に陥ることもままあった。
【0008】本発明はこのような実情に鑑み、従来に比
しより高速に、またセンサ出力飽和による評価能力の低
下も防ぎながら、種々の化学/物理量の分析、評価が可
能な識別方法及び装置を提供せんとするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明では上記目的を達
成するため、呈示された化学/物理量を検出するセンサ
の立ち上がり過渡期における応答特性の利用を提案す
る。すなわち、刺激呈示を受けたセンサ出力の安定後に
おいて呈示された刺激強度に応じた大きさの一定値を取
扱うのではなく、当該一定値に向けて立ち上がって行く
過程のセンサの動的応答特性、それも特に初期応答特性
に鑑み、呈示された化学/物理量を識別する。そのため
に本発明では、識別対象の化学/物理量の刺激の呈示を
受ける2以上の数n個のセンサ部から成るセンサアレイ
を用意し、これら計n個のセンサ部の各々が最高感度を
示す化学/物理量の範囲を互いに異ならせた上で、刺激
の呈示後、識別可能で有意の最小出力レベルを発するセ
ンサ部の順番に基づき、当該刺激の因となっている化学
/物理量の成分を識別する。
【0010】さらに、本発明は、上記のように、刺激の
呈示後、識別可能で有意の最小出力レベルを発するセン
サ部の順番に加えて、最初に最小出力レベルを出力した
センサ部の出力レベルの立ち上がり応答特性と、二番目
以降に最小出力レベルを出力したセンサ部の立ち上がり
応答特性との差にも基づいて化学/物理量の成分を識別
する方法も提案する。
【0011】また、刺激強度の算出に関しても、本発明
は、最初に最小出力レベルを発したセンサ部における出
力レベルの立ち上がり過渡期の動特性、例えば立ち上が
り速度に基づいて算出することを提案する。
【0012】
【実施例】図1には、本発明に従って構成された一実施
例としての化学/物理量識別装置10が概略構成図により
示されている。本装置10は、大きく分けると評価対象の
化学/物理量が存在している測定空間(ないし測定容
器)20内に配されているセンサアレイ11と、当該センサ
アレイ11からの出力信号群を処理する識別回路部30とか
ら構成されている。識別回路部30は、以下に順に述べて
行くように、それぞれ必要な機能を司る機能回路部33,
34,35,37と、後述する各種データを保存するメモリ36
とを有している。これら回路部33,34,35,37の一部な
いし全ては専用のハードウエアにより構成することもも
ちろんできるが、一般にはコンピュータシステムを用い
ることで各機能回路部に所要の機能をソフト的に実現す
ることができる。メモリ36はもちろん、コンピュータ内
蔵のものでも良いし、容量的に問題があれば外付けのも
のを用いることもできる。
【0013】さて、本発明ではまず、識別の対象とする
化学/物理量の全体を複数n個の互いに異なる範囲に分
割して考える。nは2以上の正の整数である。各範囲は
少し重なり合う部分があっても良いし、隣接するもの同
志が完全に独立な領域となっていても良いが、これら分
割された各範囲中の化学/物理量構成成分を、本書では
それぞれ「刺激単位」と呼ぶ。次に、このような分割に
対応させて、図2(A)に示すように、各刺激単位i(1
≦i≦n)に対し互いに異なる感度を有する複数n種、
計n個のセンサ部Si(i=1,2,3,・・・・,n) を用意し、これ
らを適当な幾何的配置、例えば当該図2(A) に示されて
いるように複数行、複数列に配する等してセンサアレイ
11を構成する。図2(B) には、第1種から第n種までの
個々の第i種センサ部Si のそれぞれが、さらに同じ種
類の複数個のセンサSsiから構成されている場合が示さ
れているが、これについては後述する。ここではまず、
各第i種センサ部Si が単一のセンサエレメントから構
成されていると考えて良い(実際にそうであって良い場
合もある)。
【0014】各センサ部Si の出力は、センサアレイ11
に備えられている出力ターミナル12を介し、図1に示さ
れている識別回路部30の入力ポート32に与えられる。そ
の信号伝送経路途中には、用いている各センサ部Si に
て実際に用いているセンサに適したインタフェイス16が
挿入されている。例えば、微弱なセンサ出力を望ましく
は低ノイズで増幅する増幅器や入出力インピーダンスの
整合を取るバッファ等である。各センサ部Si がアナロ
グ信号を出力するのに対し、識別回路部30がデジタル信
号を処理するものであって、かつ、アナログ対デジタル
(A/D)変換器を内蔵していない場合には、外付けと
しての当該A/D変換器等もインタフェイス16中に組込
むことができる。各センサSi が電流、電圧等の有線電
気信号を出力するのではなく、空中線伝送を利用した
り、あるいはまた磁気的信号とか光信号を発するもので
あるならば、インタフェイス16にはその受信機も含まれ
る場合がある。いずれにしても、センサ部Si ないしセ
ンサアレイ11からその信号の処理部である識別回路部30
に信号を送り、かつこの送信信号を当該識別回路30中に
おいて処理するために適当な種類、適当な大きさの信号
とするために必要な公知回路は、いずれも図1中に示さ
れているインタフェイス16として任意選択的に使用する
ことができる。なお、各センサ部Si が例えばエレクト
レットコンデンサマイクロフォン等に見られるように、
電源電力の供給を要するものであるときには、図1及び
図2(A) 中にて出力ターミナル12として示されている構
成要素部分にはそうした電源の入力端子も備えさせて各
センサに電源配線を施しておき、図示しない電源装置か
ら電源を供給する。
【0015】ここで、本発明の原理を理解するために、
センサの種類の如何によらない一般的、基本的な議論と
して、センサ出力に関し考察する。化学的刺激の場合も
物理的刺激の場合も、センサのセンシング面に作用して
いる刺激強度(前者では化学的吸着量、後者では刺激強
度そのものに等しい)とセンサ出力とは、図3(A) に示
すように、センサ出力の非飽和領域では比例関係にあ
る。出力飽和域に近付けば、同図中に仮想線で模式的に
示すように、線形な関係から外れることもある。また、
特に化学的刺激の場合には、センサ出力を介して得たい
情報は化学的吸着量ではなく、一般には刺激物質の濃度
である。この場合、吸着量と濃度との関係は、刺激物質
とセンシング面との相互作用が特異的吸着によっている
場合と非特異的吸着によっている場合の二つに分けられ
る。
【0016】非特異的吸着によっている場合には、刺激
濃度と吸着量との関係は、飽和しない限り、Gibbs の吸
着式に従う比例関係が成り立つ。したがってこの場合に
は、図3(A) の特性は、刺激物質濃度とセンサ出力との
関係として捕えることができる。いずれにしろこのよう
な線形関係が成り立つときには、当該線形方程式または
その比例係数は、実際にセンサアレイ11にて用いる各セ
ンサ部Si のそれぞれに関し予備実験にて容易に求めら
れるので、求めた算術式ないし対応するアルゴリズムや
比例係数は、図1中に示されている識別回路部30中のR
OM等、適当な不揮発性メモリ36に格納しておく。一般
には最も簡単な場合として、比例係数をのみ格納してお
けば、算術式はハードウエア的に組んでおくか、コンピ
ュータを利用する場合にはプログラム的に実行可能なの
で、それで足りることが多い。
【0017】もっとも、先に述べたように、識別回路部
30をコンピュータにより構成する場合、当該プログラム
自体を格納するメモリは必要になるが、これはコンピュ
ータシステムとして当然のことなので、あえて図示はし
ていない。換言すれば、コンピュータシステムが通常有
している手段をどのように利用して以下に述べる本発明
実施例を実現するかということ自体は、本来的に当業者
にとって設計的な問題である。
【0018】話を戻して、上記とは異なり、特異的吸着
による場合には、刺激濃度Cと吸着量B(C) との関係
は、図3(B) に示すように、Michaelis-Menten型の非線
形的なものになり、解離定数をK、比例定数をαとした
場合、次式(1) が成立する。 B(C) =α×(C/K)/{1+(c/k)} ・・・・・・・・・・・・・(1)
【0019】しかし、この場合でも、解離定数Kに比べ
て刺激濃度が一桁以上低ければ、すなわちC<(K/1
0)程度に低濃度であれば、上記 (1)式の分母は1に近
似できるので、当該 (1)式は下記 (2)式のように書き換
えることができる。 B(C) ={α×(C/K)}∝C ・・・・・・・・・・・・・(2)
【0020】したがって、刺激強度が小さい場合には、
刺激の種類が化学的なものであろうと物理的なものであ
ろうと、各センサ部Si から得られる刺激強度に対応し
た出力レベルに比例係数を掛けるだけで刺激強度を算出
することができる。そこで、この比例係数を、先に線形
関係について述べたように、図1に示されている識別回
路部30中のメモリ36に格納しておけば、入力ポート32を
介して得られた各センサ部Si からの出力レベル情報に
対し刺激強度評価部34にて当該比例係数を掛けることで
当該刺激強度を算出するのは容易である。もっとも、要
すれば特異的吸着関係をより正確に示す上記 (1)式に基
づき、刺激強度評価部34が刺激強度を算出するように構
成しても良い。
【0021】一方、本発明における新たな発想の一つと
して、呈示された各単位刺激iの強度fと各センサ部S
i の初期応答特性、すなわち刺激呈示を受けた時からの
過渡的な動特性との関係に鑑みると、次のような議論を
なすことができる。ここでまず、刺激の呈示を受けて出
力レベルを増加して行くセンサ部にあって当該出力レベ
ルが当該刺激強度fに対応する値に十分近い値(例えば
当該刺激強度対応値の70%以上)に達するまでの時間の
間は、呈示された刺激強度fが変動しないものとする。
物理的刺激の場合、一般にセンサ応答速度は十分に速い
ので、特に工夫はしなくとも、この条件は大方の場合、
ほぼ自動的に満たされる。これに対し、化学刺激の場
合、必ずしも自動的にこの条件が満たされるとは限らな
いので、センサ応答速度が許容できない程に遅い場合に
は、例えば識別対象の化学/物理量を一定量サンプリン
グし、これをセンサアレイによる測定中、当該センサア
レイを含む密閉空間に閉じ込める等すれば良い。いずれ
にしろこの条件が満たされているならば、図3(C) に示
されているように、物理的刺激の場合、センサ部出力は
零からある一定の速度で立ち上がって行く。そして、こ
の応答初期におけるセンサ出力は、刺激強度と刺激呈示
時間(作用時間)との積分値に比例するから、この立ち
上がり速度は刺激強度fに比例して速くなる。また、化
学的刺激の場合にも、一定濃度下での吸着量の増大を考
えれば良いので、刺激呈示直前が零で、刺激呈示後には
最終吸着量に比例した速度で立ち上がって行くセンサ出
力が得られる。
【0022】そのため、物理的刺激の場合も化学的刺激
の場合も、刺激呈示直後のセンサ出力は図3(C) に示す
通り線形関係となり、しかも、呈示された単位刺激iに
対し最高の感度を持つセンサ部S(i,1) の立ち上がり速
度(線形関係直線式の傾き)は、二番目に高感度なセン
サ部S(i,2) よりも大きく、以下順に三番目に高い感度
を示すセンサ部S(i,3)以降、段々小さくなって行く。
【0023】しかるに、図1に示される本発明実施例装
置10のセンサアレイ11に対し、評価対象の化学/物理量
の中、ある単位刺激iを呈示した場合を考えてみる(こ
れは当該化学/物理量が単一の単位刺激iのみから成る
場合と考えても良い)。呈示された単位刺激iの刺激強
度をfとした場合、各センサSi の検出出力レベルが零
から呈示された刺激強度fに対応する出力レベルに到達
するまでには、図3各図に関し説明した理由により、有
限の時間、それも一般にはかなり長い時間が掛かる。し
かし、応答初期の各センサ部Si の出力に鑑みると、こ
れも既述のように、この応答初期の刺激強度の積分値は
時間に関し単調増加であるので、全てのセンサ部S1 〜
Sn の中、識別可能で有意の出力レベルOd(有意の最小
出力レベル)に最初に到達するのは、当該呈示された単
位刺激iに関し最高の感度を有するセンサ部S(i,1) で
ある。図3(C) に併示されているように、この時点がこ
こで説明している実施例における識別処理のための時間
軸の起算点“0”となっているが、この次に当該識別可
能な出力信号レベルOd を発するのは、当該単位刺激i
に関し二番目に高い感度を持つセンサ部S(i,2) であ
る。
【0024】そして、センサ部S(i,1) とセンサ部S
(i,2) とがそれぞれ有意の識別可能な出力レベルOd(対
応する刺激強度は図3(C) 中、強度成分fmで示してい
る)を発するまでに要した時間の差は、呈示された単位
刺激iに特有のものとなる。しかし、本発明装置を実用
に供した場合、センサアレイ11に対し単位刺激iが呈示
された瞬間がいつなのかは知ることができないから、上
記の応答時間差は、上記の時間起算点からのデータとし
て、次のように変形して求めることができる。
【0025】すなわち、図3(C) を参照すると明らかで
あるが、センサアレイ11中でどれか一つのセンサ部S
(i,1)(これが結局、呈示された単位刺激iに対して最高
感度を有するセンサ部となる)が、ノイズレベルと区別
できる有意の出力レベルOd を発した時点を既述のよう
に時間起算点“0”とし、この時点から他の別なセンサ
部S(i,2)(呈示された単位刺激iに対し二番目に高い感
度を有するセンサ部となる)が同じ値の出力レベルOd
を発するまでの時間差t(i,1,2) と、最初に応答した最
高感度センサ部S(i,1) が上記出力レベルOd の2倍の
値(2×Od)の出力レベルを発するまでに要する時間t
(i,1,1@2)との比、 Rt(i,1,2)=t(i,1,2) /t(i,1,1@2) ・・・・・・・・・・・・・(3) を求めれば、このデータRt(i,1,2)は、呈示された単位
刺激iに関して特有の値を示すものとなる。
【0026】そこで、呈示された単位刺激iは、n種n
個の各センサ部Si の出力を監視して上記の出力レベル
Od を発する順番{S(i,j);j=1,2,・・・,n}を捕え、か
つ、各センサに関する規格化した応答遅れ時間データ
{Rt(i,1,j);j=1,2,・・・・,n}を求めることで、これらの
情報に基づき一意的に決定することができる。もちろ
ん、与えられた刺激成分iに関し感度を殆ど持たないセ
ンサ部からは有意の出力が発せられないので、応答する
センサの数は刺激単位iのそれぞれに関しまちまちであ
り、たった一つの時もある。
【0027】図1にも即し、さらに詳しく本発明のメカ
ニズムに関し説明すると、測定空間ないし測定容器20内
に配されたセンサアレイ11に対して呈示された刺激Xが
単一の単位刺激i(=X)のみから成っていて、かつ、
ある一定時間以内に有意で識別可能な出力レベルOd を
発したセンサが一つのみであった場合には、呈示された
刺激Xは当該センサS(X,1) に最も高い感度を与える刺
激単位群の集合の中、特定の一つとして決定できる。特
に、S(X,1) が刺激iにしか応答しない“特異的”なセ
ンサであることが、予め既知の標準応答パタン情報の一
つとして刺激成分同定回路部35の一回路要素を構成する
メモリ36に格納されているのであれば、刺激成分同定回
路35はこの記憶データを読み込み、対応関係を確認する
ことで、与えられた化学/物理量が単位刺激i=Xから
成る種類のものであることを直ちに識別し、各刺激成分
種同定出力部38から成分種同定出力として出力すること
ができる。
【0028】換言すれば、n分割した各刺激単位群iの
それぞれにのみ最も高い感度を有する“特異的”なセン
サ部だけを一種類づつ、それぞれ少なくとも一つの計n
個用い、それらの応答を比較することで、刺激成分同定
回路35はS(X,1) を知ることにより直ちに、かつ容易
に、与えられた刺激単位iを決定できる。なお、本書で
言う“特異的”とは、最高感度、すなわち検出可能最低
刺激強度において刺激単位群が同定できるという意味で
あり、刺激強度が強い場合には複数のセンサ部にて応答
があっても良い。もちろん、特異性を維持する刺激強度
範囲が広ければ広い程、刺激を構成する単位刺激の同定
は容易になる。また、本発明では、このように応答初期
のセンサ出力状態を利用しているので、上記のように単
一のセンサ部S(X,1) のみが応答したことの確認のため
にある一定の時間を要するとはいっても、従来例におけ
るように、センサ出力が完全に安定するまでセンサ出力
の取り込みを止めておく場合に比せば、そうした時間も
遥かに短くて済む。
【0029】これとは異なり、単位刺激iに関し単一の
センサS(X,1) が応答しただけではなく、その他の一つ
以上のセンサ部Si も応答するのであれば、まず、メモ
リ36に格納されている標準応答パタンの中、最初に応答
したセンサS(X,1) に関して対応付けられている基礎デ
ータを当該メモリ36から読み込むことで、求める単位刺
激iの候補の集合を得ることができる。その上で、二番
目に応答したセンサ部S(i,2) がどれであるかを刺激成
分同定回路35にて検出し、かつ、応答遅れ時間測定回路
部33にて先掲の (3)式に従った演算をなし、求値した応
答遅れ時間データRt(i,1,2)を得れば、求めるべき刺激
単位群の候補はより少数に絞られる。予めメモリ36に記
憶されている標準応答パタン中の対応する基礎データ群
との比較の結果、それでもなお、単一の刺激単位として
の特定ができなかった時には、三番目に応答したセンサ
部S(i,3) を検出し、上記 (3)式でt(i,1,2) の代わり
にt(i,1,3) を用いてRt(i,1,3)を得れば良く、以下、
この手順を繰返すことで、単位刺激i=Xを決定するこ
とができる。
【0030】これに対し、与えられた刺激Xの刺激強度
の求値ないし推定については、以下のように説明でき
る。刺激強度が弱い場合には、すでに述べた通り、刺激
強度fとセンサ部出力との間には比例関係が成立する筈
である。また、各センサ部Siに刺激が呈示される直前
の出力レベル零(本書ではセンサ部の種類によっては生
ずることのあるレベルオフセットを考えず、これを零と
しておくが、これで十分一般性のある説明となる)の状
態から、呈示された刺激強度に対応する最高出力レベル
に至る時の過渡期における立ち上がり速度、特に応答初
期におけるそれは図3(C) に即して説明したように、呈
示された刺激の強度と線形関係にあると仮定できる。本
実施例装置10ではそのように看做しており、対応する比
例係数に関するデータが各種基礎データのメモリ36に予
め記憶されている。したがって、刺激強度fは、対応す
るセンサ部Si の出力レベルに関する時間データ(立ち
上がり速度データ)t(i,1,1@2)と、メモリ36に格納さ
れている比例係数データとから、刺激強度評価部34にて
簡単に算出することができる。より正確を期すのであれ
ば、対応するセンサ部出力が4×Od に達するまでに要
する時間t(i,1,1@4)を用い、これら二値に基づいて計
算するか、さらには出力レベルが8×Od になるまでに
要した時間t(i,1,1@8)をも加え、これら三値に基づい
て計算すれば、より一層の高精度測定が可能となる。
【0031】次に、最も一般的に見られる形態として、
刺激要素がm個(m>1)の刺激単位群から成っている
刺激Yの識別に関して説明する。既述したように、各セ
ンサ部Si がそれぞれに特定の刺激単位iの刺激強度に
関し、一桁ないしそれ以上の範囲で“特異的”な高感度
領域を持つ時には、これも既述した理由により、刺激単
位群の同定は比較的容易である。刺激Yの主成分要素y
1 は刺激成分同定回路部35にて知り得るS(Y,1) によっ
て同定できる。特にS(Y,1) の出力が単調増加している
かほぼ一定値を維持していることを刺激成分同定回路35
ないし刺激強度評価回路部34にて検出可能とすれば、そ
のような状況を検出した時には刺激強度評価回路部34は
その刺激強度がfであると知り、これを刺激強度出力部
39に出力できるので、刺激成分種同定出力38と合わせて
捕えれば、当該刺激成分y1 が強度fにて存在している
という情報を得ることができる。
【0032】もう少し詳しく言うと、上記のような状況
にある場合には、刺激成分y1 の刺激強度をf(y1)とす
ると、刺激強度的に刺激成分y1 より一桁以上寄与が小
さな他の成分要素が当該センサ部S(Y,1) の出力に影響
を及ぼすことは、極めて特殊なケース以外、ないと考え
られるので、刺激強度評価部34において立ち上がり速度
データである時間データt(i,1,1@2)と既述の比例係数
とから算出した計算値f'(y1) はf(y1)に良く一致す
る。もっとも、測定精度向上のためには、刺激への寄与
率が第二位以下の成分要素に関しては、その成分要素よ
り大きな寄与をしている成分要素による対応センサ部出
力への影響を考慮し、補正したほうが良いが、少なくと
も第三成分要素位までは、予めこのような基礎データを
求め、既知の標準応答パタンの一部としてメモリ36に予
め格納しておくことも容易なので、こうした情報を利用
しての補正が可能である。
【0033】しかるに、本発明方法を精度良く実現する
ためには、実際に作製される装置ないし本発明方法を適
用する現場でも、さらに次のような工夫を施すことが望
ましい。まず、測定時間をできるだけ短縮し、測定精度
も一層向上させるためには、各センサ部の出力レベルに
関し識別可能で有意の最低出力レベルOd は小さい程望
ましいので、用いるセンサ部Si にはできるだけ低雑音
のものを用いる。
【0034】また、n個全てのセンサ部S1 〜Sn のセ
ンシング面に対し同時かつ均一に刺激が呈示されること
が望ましいので、そのためにはセンサアレイ11を配する
測定空間ないし測定容器20を容積的に小さくし、センサ
アレイ11自体もできるだけ小面積にするよう、隣接する
センサ部相互が互いに密接して配置されるようにするの
が望ましいし、特に化学的刺激の場合には、測定空間な
いし測定容器20内に撹拌ファンまたはスターラ18(図
1)等の強制撹拌手段を設け、強制的に撹拌を行なうこ
とが望ましい。それでもなお、各センサ部での濃度が平
衡に達するのに有限の時間を要し、刺激強度の変動が生
じて問題になる場合には、より長い時間の平均値とし
て、例えば刺激呈示期間の二分の一程度の時間でのセン
サ出力の平均立ち上がり速度を算出し、この値を用いて
刺激強度を算出する等図れば良い。
【0035】同様に、本発明を実現する上では、刺激呈
示によって生ずる各センサ部の出力は、無刺激時のレベ
ルからできるだけ再現性良く、一定出力レベルに至るこ
とが望ましい。これを満たすには、センシング面への刺
激の暴露を刺激呈示と休止を繰返すようにして断続的に
行なうと良い。刺激呈示休止期には、刺激を遮断すると
か化学物質の除去を行なう等、強制的に無刺激状態を具
現するようにする。この刺激呈示休止期間の長さは一定
であっても良いし、センサ部の出力を監視し、これが無
刺激状態時と同じレベルになることを検出するまで継続
するようにしても良い。一定時間として設定する場合に
も、センサ部の出力の立ち上がりと刺激呈示からの経過
時間が線形な関係を示す範囲、例えば飽和出力値の30%
程度以下の範囲に落ち戻るまでに十分な時間として設定
すれば良いので、その時間は刺激呈示時間と同じか、長
くてもその二倍程度で十分である。なお、このとき、休
止期終了時の各センサ出力は、次の刺激呈示期のセンサ
部出力から差し引く補正を行なうのが良い。これらに要
する回路機能部は、図1中ではそれぞれ単独では示して
いないが、当然、識別回路部30内に組み込むことができ
るし、見方によっては刺激成分同定回路部35や刺激強度
評価回路部34がそのような補正処理を行なうものと考え
て良い。
【0036】さらに、上記のように刺激呈示休止期を設
けるにしても、測定はより連続的に行ないたい場合に
は、識別対象の化学/物理量に共に暴露されるように配
された複数個のセンサアレイ11,・・・・ を設け、どれかの
センサアレイ11が刺激呈示休止期間に入っている時には
別などれかのセンサアレイ11が刺激の呈示を受けている
ようにし、これら複数個のセンサアレイ11,・・・・ 中の各
対応する同種のセンサ部から時系列的に順次得られる信
号に基づき、既述した識別動作を行なえば良い。原理的
には、図1に示される識別装置10の全体を複数個用意し
て、それらのセンサアレイを識別対象の化学/物理量に
暴露できるように配した上で、上記複数個のセンサアレ
イに対する場合と同様の処理を行なっても良い。この場
合には当然に、これら複数個の識別装置10から得られる
識別信号を統合的に理解し、処理する装置(同様にコン
ピュータで構成できる)を設ける。
【0037】一方、センサアレイ11中の個々のセンサ部
Si から得られる出力レベル信号に関し、より高い信頼
性の信号、より高い信号対雑音比(S/N)の信号を得
るための工夫としては、図2(B) に示されているよう
に、各第i種センサ部Si をそれぞれ同種のセンサ要素
Ssiの複数個の集合から構成し、それらの出力に鑑みて
補正をなすのも有効である。例えば、図2(B) に示され
ているセンサ部Si は9個の同種センサSsiの近接配置
により構成されており、それら全ての出力の総和を回路
13にて取る一方で、一つのセンサSsiの出力を掛算回路
14にて9倍し、それら両出力を比較器15にて比較した
後、第i種センサ部出力として識別回路部30に送ってい
る。このようにすれば、各センサ部Si の発している微
小な電気信号が確かに有意の信号成分であるのか、そう
ではなくノイズ成分であるのかを弁別する能力は随分と
高まる。もちろん、回路13,14,15はセンサアレイ11の
側に備えられていても良いし、識別回路部30内に備えら
れていても良い。後者の場合、信号伝送線は並列伝送で
は相当数に昇るので、識別回路部30を先に述べたように
コンピュータで実現するにもその入力ポート数に制約が
あるようなときには、各センサ部Si ないし各センサエ
レメントSsiからの信号は並列入力に限らず、時分割直
列入力として良い。このようなことも通常のコンピュー
タに関する公知技術であるので、当業者は任意に採用可
能である。
【0038】以上とは別に、ないし以上に加えて、図1
中に併示されているように、刺激が作用しない刺激非作
用空間21中に参照用センサアレイ11’を設け、補正デー
タを取り出す手法もまた良い手法である。センサアレイ
11または識別装置10を既述のように複数個用いる場合に
は、そのそれぞれに同様の参照用センサアレイ11’を設
ける。そして、この参照用センサアレイ11’は、刺激に
暴露されるべきセンサアレイ11と全く同じ構成とする。
したがって、図2(A),(B) に示した構造は、各符号にダ
ッシュを付すことで参照用センサアレイ11’のそれにな
る。インタフェイス16’も同様であって、そのために図
1中では刺激に曝されるセンサアレイ11用のそれとは別
個に図示しているものの、実際には同一のインタフェイ
スを(要すれば時分割使用で)用いることができる。
【0039】いずれにしても、このように、刺激に暴露
されることのない参照用センサアレイ11’を設けると、
これはセンサアレイ中の各センサ部の発する出力レベル
に対する補正値ないし校正値として用いることができ
る。例えば、参照用センサアレイ11’中の各センサ部か
らの出力レベルを無刺激時の参照出力レベルとして、こ
れをメモリ36中に保持されている無刺激時の信号レベル
と比較し、その差ないし比を補正値算出回路部37にて補
正係数として算出し、この値を用いることで、刺激に暴
露されるセンサアレイ11中の各センサ部Si の各々の感
度ないし出力レベルに関し、温度変化分や経時変化分を
補正することができ、より精密な識別システムを構築す
ることができる。
【0040】先に少し述べたように、各センサ部Si に
出力オフセットが見込まれる場合にも、簡単には参照用
センサアレイ11’中の各センサ部出力レベルを、刺激に
暴露されているセンサアレイ11中の対応する各センサ部
出力レベルから差し引くことで有意の信号レベルのみを
抽出できるので、実質的にそうしたオフセットも補正可
能である。もちろん、上記のような温度変化分や経時変
化分を補正するためには、参照用センサアレイ11’から
得られる出力レベルに基づく上記の補正手続を測定期間
中、所定の時間間隔で間歇的に行なうのが望ましい。た
だし、実用レベルで考えるならば、このような統計的手
法を特には採用せずとも、上記したオフセット補正と同
様に、単に参照用センサアレイ11’から得られる対応す
る各センサ部の出力レベルを、センサアレイ11から得ら
れる出力レベルから差し引き演算することで、得られた
レベル信号を、補正のなされた有意信号レベルとして取
扱うことができる。その他、公知既存の各種測定技術に
おいて種々採用されているデータ補正技術は、本発明に
適当なものであるならば任意に採用可能である。
【0041】以上、本発明の一実施例に即し詳述した
が、本発明の要旨構成に即する限り、任意設計的な変更
は自由である。各刺激成分種同定出力部38の出力と各刺
激成分刺激強度出力部39からの出力に関してもその利用
形態は自由であり、適当なディスプレイ上に視覚表示し
たり、適当な記録媒体に記録したり、適当なプリンタ装
置から紙面情報として出力したりすることで各種の研究
に利用できる他、例えば監視装置やロボットの感覚セン
サ等として本装置を取り込むことで、それら出力を監視
装置ないしロボットの制御信号として直接に用いること
も可能になる。
【0042】また、上記実施例では、応答遅れ時間測定
回路部33等にて時間起算点と看做す時点は、n個のセン
サ部の中のどれかのセンサ部が最初にノイズレベルとは
弁別できる有意の最小出力レベルOd を発した時点とし
ているが、当該最小出力レベルよりも僅か高いレベルを
予め最小有意レベルOd として設定しておき、どれかの
センサ部が最初にこれを越えた時を時間起算点としても
良い。
【0043】さらに、本発明の適用を受ける化学/物理
量には、本発明の原理からすれば特に制約はなく、換言
すれば公知既存の種々のセンサを本発明装置で用いるセ
ンサ部として利用可能である。先にも述べたように、音
響センサ(一般に通常のマイクロフォン構成であって良
い)であるならば、n個に分割した化学/物理量の各範
囲(すなわち各刺激単位)に対してそれぞれ特異的な音
響センサ部を構築するのも、各音響センサ出力に対し、
各単位刺激に対応した中心周波数でQ値の高いチューニ
ング回路か急峻なバンドパスフィルタ回路を付すことで
容易であるし、光センサでも同様で、各光センサによる
変換電気信号出力を、例えば 300nmから900nmの波長範
囲を20nm刻みに分割する等した分割範囲の各々に応じた
中心周波数で、適当に鋭いバンドパスフィルタに通すこ
とで、各単位刺激に対し特異的と呼べる光センサ部群を
得ることができる。必要であれば、光検出器のセンシン
グ面に光学的なフィルタを補助的に設けることもでき
る。その他の物理量、例えば機械的振動周波数情報と
か、高い繰返し周期での引っ張り周期ないし圧縮周期等
の情報をも併せて得たい場合の引っ張り強度、圧縮強度
等、応力関係に関するセンサにも、本発明は同様に適用
可能である。
【0044】また、以前は生体機能固有のものであっ
て、電子的ないし電気的な代替センサの実現は難しいと
思われていたセンサ類でも、例えば味物質に関しては、
脂質膜を用いることで酸味、塩味、苦味、甘み、うま味
のそれぞれに対して高感度なセンサが開発されているの
で(先掲の公知文献参照)、こうしたセンサは本発明
に用いることができる。臭い物質等に対するセンサは、
今の所、特異性の高いセンサの開発には成功していない
が、近い中に成功する蓋然性の高い研究は多くなされて
いる。そこで、特にこの臭いセンサに関し補足しておく
と、図4(A) に示されるように、リポソームへの臭い物
質の吸着性を変化させる脂質組成等はすでに分かってい
る。図4(A) の横軸はリポソームに取り込ませた蛍光色
素の蛍光強度変化割り合いΔF(%)であって、脂質と
してPC(フォスファチジルコリン),PS(フォスファチジ
ルセリン),PA(フォスファチジン酸)を用い、5種類の
組合せ(PC,PS/PC=0.05,PS/PC=0.1,PS/PC=0.2,
PA/PC=0.1)で、枠外に併記されている各臭い物質(刺
激濃度10-6M)に対する選択性が開示されている。
【0045】これに加えて、図4(B) に臭い物質:アミ
ルアセテートに対して、図4(C) では臭い物質:ベータ
イオノンに対して、それぞれ臭いセンサの応答の濃度依
存性が示されていることからも理解されるように、脂質
膜の組合せの如何により、少なくともある程度以上の選
択性を有するセンサの開発は可能であるし、各臭いに関
して特異的な応答をするセンサの開発も示唆されてい
る。なお、そのようなセンサが上記した蛍光発光型リポ
ソームを用いたセンサである場合には、例えば蛍光強度
を光センサにより捕えることで本発明に利用可能なセン
サを得ることも可能である。
【0046】さらに、生体の臭いセンサである嗅覚受容
神経細胞(嗅細胞)は、低濃度では少数の臭い分子種に
対し特異的な応答を示すことが分かっている。図5は、
類似する分子構造を持つ14種類の臭い分子種(横軸)
に対して18個の嗅細胞(縦軸)が呈する応答感度を示
している。各感度レベルは概略的ではあるが図5中に併
示のシンボルマークで示してあり、臭い分子種c3〜c9;
a3〜a9の各々の具体的名称も図5中に併示されている。
今の所、こうした特性を持つ人工的なセンサを直接に構
築することには成功していないが、図5には少なくとも
その材料例が開示されている。そして、その一方ではま
た、例えば水晶振動子に特定の脂質膜の組合せを塗布す
ることで共振周波数を変えられること等も分かっている
ので、このような技術をも併用すれば、臭いに関し図5
に類似の特性を持つ特異的なセンサを得ることも遠から
ず可能になると思われる。当然、そのようなセンサは本
発明に利用可能なセンサとなる。
【0047】
【発明の効果】本発明によれば、これまで化学/物理量
の要素スペクトルの測定に要していた時間を大いに(例
えば数分の1以下にまで)短縮できる。このような高速
化は、生物の持つ応答速度により近づき、のみならず、
それを越える可能性を持つし、識別能力も、すでに実現
されているセンサシステムに比べ、少なくとも劣ること
はなく、むしろ大方の場合、上回る結果が得られる。そ
のため、本発明は製造工程における監視技術や生体機能
代替技術(例えばロボットの感覚センサ)等として、将
来的にも工学的に広い分野で効果的な応用が期待され
る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明方法を実現するための一実施例装置の概
略構成図である。
【図2】図1に示されているセンサアレイの構成と、セ
ンサアレイ中の各センサ部の構成に関する説明図であ
る。
【図3】本発明の原理及び実施例装置の動作を説明する
ための説明図である。
【図4】リポソームを用いた臭いセンサ実現に関する説
明図である。
【図5】臭い分子種に対して特異的な応答をなし得るセ
ンサ材料例に関する説明図である。
【符号の説明】
10 化学/物理量識別装置, 11 センサアレイ, 16 インタフェイス, 18 ファンまたはスターラ, 20 測定空間または測定容器, 21 刺激非作用空間, 30 識別回路部, 33 応答遅れ時間測定回路部, 34 刺激強度評価回路部, 35 刺激成分同定回路部, 36 メモリ, 37 補正値算出回路部, 38 各刺激成分種同定出力部, 39 各刺激成分刺激強度出力部.
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 庁内整理番号 FI 技術表示箇所 G01N 21/27 Z 21/64 Z 27/12 A 7132−2J 27/27 29/00 G10L 3/00 531 N 9/20 301 C

Claims (27)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 識別対象の化学/物理量の刺激の呈示を
    受ける2以上の数n個のセンサ部から成るセンサアレイ
    を設け;上記n個のセンサ部の各々が最高感度を示す化
    学/物理量の範囲を互いに異ならせた上で;上記刺激の
    呈示後、識別可能で有意の最小出力レベルを発する上記
    センサ部の順番に基づき、上記化学/物理量の成分を識
    別すること;を特徴とする化学/物理量の識別方法。
  2. 【請求項2】 請求項1記載の方法であって;上記刺激
    の呈示後、識別可能で有意の最小出力レベルを発する上
    記センサ部の順番に加えて、最初に該最小出力レベルを
    出力したセンサ部の出力レベルの立ち上がり応答特性
    と、二番目以降に該最小出力レベルを出力したセンサ部
    の立ち上がり応答特性との差にも基づいて上記化学/物
    理量の成分を識別すること;を特徴とする方法。
  3. 【請求項3】 請求項1または2記載の方法であって;
    上記刺激呈示後、最初に上記最小出力レベルを発したセ
    ンサ部における該出力レベルの応答初期における立ち上
    がり速度に基づき、該センサ部が対応している上記化学
    /物理量範囲における上記刺激成分の刺激強度を算出す
    ること;を特徴とする方法。
  4. 【請求項4】請求項1,2または3記載の方法であっ
    て;上記各センサ部をそれぞれ同種のセンサの2以上の
    数m個から構成し;計m個のセンサの発する出力レベル
    の総和と、一つのセンサの発する出力のm倍の値とを比
    較した出力レベルを、該各センサ部の出力レベルとする
    こと;を特徴とする方法。
  5. 【請求項5】 請求項1,2,3または4記載の方法で
    あって;上記センサアレイを上記識別対象の化学/物理
    量の存在する測定空間または測定容器内に配置し;該測
    定空間または該測定容器内に存在する上記化学/物理量
    を、該センサアレイ中の上記各センサ部のセンシング面
    に対して均等に暴露するため、強制撹拌手段により撹拌
    すること;を特徴とする方法。
  6. 【請求項6】 請求項1,2,3,4または5記載の方
    法であって;上記センサアレイと同一の構成の参照用セ
    ンサアレイを用意し;該参照用センサアレイは上記識別
    対象の化学/物理量による刺激の呈示を受けない刺激非
    作用空間内に配すると共に;該参照用センサアレイ中の
    各センサ部の出力レベルを無刺激時の参照出力レベルと
    して、該参照出力レベルを、上記化学/物理量の識別の
    際、該刺激の呈示を受ける上記センサアレイの上記各セ
    ンサ部の発する出力レベルの補正に用いること;を特徴
    とする方法。
  7. 【請求項7】 請求項1,2,3,4,5または6記載
    の方法であって;上記センサアレイ中の上記各センサ部
    のセンシング面に対する上記刺激の呈示は、刺激呈示休
    止期間を挟んで繰返しなすようにしたこと;を特徴とす
    る方法。
  8. 【請求項8】 請求項7記載の方法であって;上記セン
    サアレイを複数個設け;該複数個のセンサアレイを全て
    同一の識別対象化学/物理量に暴露し得るように配する
    と共に;該複数個のセンサアレイのどれか一つが上記刺
    激呈示休止期間に入っている時には少なくとも他のどれ
    か一つのセンサアレイに上記刺激が呈示されているよう
    にし;上記化学/物理量の成分の識別は該複数個のセン
    サアレイ中にあって対応する同種の複数個のセンサ部か
    ら時系列的に順次得られる出力レベルに基づいてなされ
    ること;を特徴とする方法。
  9. 【請求項9】 識別対象の化学/物理量の刺激の呈示を
    受ける2以上の数n個のセンサ部から成るセンサアレイ
    を設け;上記n個のセンサ部の各々が最高感度を示す化
    学/物理量の範囲を互いに異ならせた上で;上記刺激の
    呈示後、上記n個のセンサ部の出力レベル立ち上がり過
    渡期における応答特性の差に基づき、上記化学/物理量
    の刺激成分と刺激強度を識別すること;を特徴とする化
    学/物理量の識別方法。
  10. 【請求項10】 請求項9記載の方法であって;上記刺
    激成分の同定は、上記刺激の呈示後、最初に識別可能な
    有意の最小出力レベルを出力したセンサがどれであるか
    という情報に基づいてなすこと;を特徴とする方法。
  11. 【請求項11】 請求項10記載の方法であって;上記
    刺激成分の同定は、上記刺激の呈示後、最初に識別可能
    な有意の最小出力レベルを出力したセンサがどれである
    かという情報と、該最初に該最小出力レベルを出力した
    センサ部の出力レベル立ち上がり過渡期における動特性
    と二番目以降に上記最小出力レベルを発したセンサ部に
    おける該出力レベル立ち上がり過渡期における動特性と
    の相違に基づいてなすこと;を特徴とする方法。
  12. 【請求項12】 請求項9,10または11記載の方法
    であって;上記刺激強度の算出は、上記刺激の呈示後、
    最初に上記最小出力レベルを発したセンサ部における該
    出力レベルの立ち上がり速度に基づいてなされること;
    を特徴とする方法。
  13. 【請求項13】請求項9,10,11または12記載の
    方法であって;上記各センサ部をそれぞれ同種のセンサ
    の2以上の数m個から構成し;計m個のセンサの発する
    出力レベルの総和と、一つのセンサの発する出力のm倍
    の値とを比較した出力レベルを、該各センサ部の出力レ
    ベルとすること;を特徴とする方法。
  14. 【請求項14】 請求項9,10,11,12または1
    3に記載の方法であって;上記センサアレイを上記識別
    対象の化学/物理量の存在する測定空間または測定容器
    内に配置し;該測定空間または該測定容器内に存在する
    上記化学/物理量を、該センサアレイ中の上記各センサ
    部のセンシング面に対して均等に暴露するため、強制撹
    拌手段により撹拌すること;を特徴とする方法。
  15. 【請求項15】 請求項9,10,11,12,13ま
    たは14記載の方法であって;上記センサアレイと同一
    の構成の参照用センサアレイを用意し;該参照用センサ
    アレイは上記識別対象の化学/物理量による刺激の呈示
    を受けない刺激非作用空間内に配すると共に;該参照用
    センサアレイ中の各センサ部の出力レベルを無刺激時の
    参照出力レベルとして、上記化学/物理量の刺激成分と
    刺激強度を識別する際、該参照出力レベルを、該刺激の
    呈示を受ける上記センサアレイの上記各センサ部の発す
    る出力レベルの補正に用いること;を特徴とする方法。
  16. 【請求項16】 請求項9,10,11,12,13,
    14または15記載の方法であって;上記センサアレイ
    中の上記各センサ部のセンシング面に対する上記刺激の
    呈示は、刺激呈示休止期間を挟んで繰返しなすようにし
    たこと;を特徴とする方法。
  17. 【請求項17】 請求項16記載の方法であって;上記
    センサアレイを複数個設け;該複数個のセンサアレイを
    全て同一の識別対象化学/物理量に暴露し得るように配
    すると共に;該複数個のセンサアレイのどれか一つが上
    記刺激呈示休止期間に入っている時には少なくとも他の
    どれか一つのセンサアレイに上記刺激が呈示されている
    ようにし;上記化学/物理量の刺激成分と刺激強度の識
    別は該複数個のセンサアレイ中にあって対応する同種の
    複数個のセンサ部から時系列的に順次得られる出力レベ
    ルに基づいてなされること;を特徴とする方法。
  18. 【請求項18】 最高感度を示す化学/物理量の範囲が
    互いに異なる2以上の数n個のセンサ部を密接に配置し
    て成るセンサアレイと;該n個のセンサ部の出力を監視
    し、上記センサアレイが上記化学/物理量の刺激の呈示
    を受けた後、識別可能で有意の最小出力レベルを発する
    上記センサ部の順番に基づき、上記化学/物理量の成分
    を同定する刺激成分同定回路部と;上記刺激呈示後、最
    初に上記最小出力レベルを発したセンサ部における該出
    力レベルの立ち上がり過渡期の動特性に基づき、該セン
    サ部が対応している上記化学/物理量範囲における刺激
    成分の刺激強度を算出する刺激強度評価部と;を有して
    成る化学/物理量の識別装置。
  19. 【請求項19】 請求項18記載の装置であって;上記
    刺激成分同定回路部は、上記識別可能で有意の最小出力
    レベルを発する上記センサ部の順番に加えて、最初に上
    記最小出力レベルを発したセンサ部における該出力レベ
    ルの立ち上がり過渡期の動特性と二番目以降に上記最小
    出力レベルを発したセンサ部における該出力レベルの立
    ち上がり過渡期の動特性との相違にも基づき、該最初に
    上記最小出力レベルを出力したセンサ部が対応している
    上記化学/物理量範囲における刺激成分を同定するこ
    と;を特徴とする装置。
  20. 【請求項20】 請求項19記載の装置であって;上記
    刺激成分同定回路部は、上記センサ部の順番と、最初に
    上記最小出力レベルを発したセンサ部と上記二番目以降
    に上記最小出力レベルを発したセンサ部とにおける該出
    力レベルの立ち上がり過渡期の動特性の相違との様々な
    組合せと、該様々な組合せの各々に対応する刺激成分と
    の既知の関係を標準組合せパタンとして記憶する記憶部
    を有し;該刺激成分同定回路部は、上記センサアレイか
    ら実際に得られる情報としての上記センサ部の順番と、
    上記最初に上記最小出力レベルを発したセンサ部と上記
    二番目以降に上記最小出力レベルを発したセンサ部とに
    おける上記出力レベルの立ち上がり過渡期の動特性の相
    違との組合せを上記記憶部に記憶されている上記標準組
    合せパタンと比較することで一つの組合せを特定し、該
    特定した組合せに対応する刺激成分を検出した刺激成分
    として同定すること;を特徴とする装置。
  21. 【請求項21】 請求項18,19または20記載の装
    置であって;上記刺激強度評価部が該刺激強度を算出す
    るために用いる上記立ち上がり過渡期の動特性は、上記
    センサ部の応答初期における立ち上がり速度であるこ
    と;を特徴とする装置。
  22. 【請求項22】 請求項18,19,20または21記
    載の装置であって;上記各センサ部は、それぞれ2つ以
    上の数m個の同種のセンサを近接配置して成っており;
    計m個のセンサの発する出力レベルの総和と、一つのセ
    ンサの発する出力のm倍の値とを比較した出力レベル
    を、該各センサ部の出力レベルとすること;を特徴とす
    る装置。
  23. 【請求項23】 請求項18,19,20,21または
    21記載の装置であって;上記センサアレイは上記識別
    対象の化学/物理量の存在する測定空間または測定容器
    内に配置され;該測定空間または該測定容器内には、該
    センサアレイ中の上記各センサ部のセンシング面に対
    し、該識別対象の化学/物理量を均等に暴露するため、
    強制撹拌手段が設けられていること;を特徴とする装
    置。
  24. 【請求項24】 請求項18,19,20,21,22
    または23記載の装置であって;上記センサアレイと同
    一の構成の参照用センサアレイを有し;該参照用センサ
    アレイは上記識別対象の化学/物理量による刺激の呈示
    を受けない刺激非作用空間内に配すると共に;該参照用
    センサアレイ中の各センサ部の出力レベルを無刺激時参
    照の出力レベルとして、該参照出力レベルを、上記刺激
    成分の同定及び該刺激成分の上記刺激強度評価の際、該
    刺激の呈示を受ける上記センサアレイの上記各センサ部
    の発する出力レベルの補正に用いること;を特徴とする
    装置。
  25. 【請求項25】 請求項18,19,20,21,2
    2,23または24記載の装置であって;上記センサア
    レイ中の上記各センサ部のセンシング面に対する上記刺
    激の呈示は、刺激呈示休止期間を挟んで繰返しなされる
    こと;を特徴とする装置。
  26. 【請求項26】 請求項25記載の装置であって;上記
    センサアレイを複数個有し;該複数個のセンサアレイ
    は、全て同一の識別対象化学/物理量に暴露されるよう
    に配されていると共に;該複数個のセンサアレイのどれ
    か一つが上記刺激呈示休止期間に入っている時には少な
    くとも他のどれか一つのセンサアレイに上記刺激が呈示
    されているようにし;上記刺激成分同定回路部による上
    記刺激成分の同定と、上記刺激強度評価部による上記刺
    激強度の算出は、該複数個のセンサアレイ中にあって対
    応する同種の複数個のセンサ部から時系列的に順次得ら
    れる出力レベルに基づいてなされること;を特徴とする
    装置。
  27. 【請求項27】 請求項18,19,20,21,2
    2,23または24記載の化学/物理量の識別装置を複
    数個有し;該複数個の識別装置中の上記センサアレイは
    全て同一の識別対象化学/物理量に暴露されるように配
    されていると共に;該複数個の識別装置中の上記センサ
    アレイのどれか一つが上記刺激の呈示休止期間に入って
    いる時には少なくとも他のどれか一つの識別装置中のセ
    ンサアレイに刺激が呈示されるようになっており;該各
    識別装置中の上記刺激成分同定回路部から時系列的に順
    次得られる上記刺激成分の同定出力と、該各識別装置中
    の上記刺激強度評価部から時系列的に順次得られる上記
    刺激強度出力とに基づき、上記化学/物理量を識別する
    こと;を特徴とする装置。
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