JPH07174722A - 探傷方法及びその装置 - Google Patents

探傷方法及びその装置

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JPH07174722A
JPH07174722A JP12302094A JP12302094A JPH07174722A JP H07174722 A JPH07174722 A JP H07174722A JP 12302094 A JP12302094 A JP 12302094A JP 12302094 A JP12302094 A JP 12302094A JP H07174722 A JPH07174722 A JP H07174722A
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 被検査部材の表面に、例えば取扱い跡等の放
射率の低い部分が存在する場合でも、表面の傷を放射温
度計の温度測定に基づいて精度よく検出する。 【構成】 被検査部材の探傷にあたっては、まずその表
面に粉体を吸引・付着させる。この付着の程度は地肌が
確実に覆われるようにしてよいが、その地肌の一部が露
出する程度に極薄に付着させることができる。その後、
高周波誘導加熱により被検査部材の表層部を加熱し、そ
の表面の温度分布を放射温度計で測定する。その測定に
より温度が周囲と異なる部分を傷と判定する。このよう
に、被検査部材の表面を粉体で被覆することにより、そ
の表面の放射率がほぼ一定となり、放射温度計の温度測
定値が実際の温度分布とほぼ等しいものとなる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、鋼材など被検査部材の
表面に存在する傷を検出するための探傷方法及びそのた
めの探傷装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、鋼材の表面に傷(亀裂を含む)が
あるか否かを検出するために、被検査部材の表面部を高
周波誘導加熱により加熱し、その表面温度を放射温度計
で測定することにより、表面の傷を検出する技術が知ら
れている。これは、特開平2−298846号公報、及
びこれに対応する米国特許第5069005号に開示さ
れている。より具体的には、図23に示すように、被検
査部材Wを送りつつ高周波誘導加熱コイル101でその
表層部を加熱し、かつ、この直後に配置した放射温度計
102により被検査部材Wの表面の温度分布を測定す
る。もし傷があれば、その傷部分の温度が周りの健全部
と異なる(例えば周囲より低くなる又は高くなる)こと
に基づいて、傷が検出される。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、このような
探傷を行う場合には、被検査部材は、スケールが付いた
ままでもよいが、一般には前処理としてその表面のスケ
ールを除去するためショット工程を通される。ショット
後の被検査部材Wはショットによって光沢のある肌(シ
ョット肌)となり、放射率εが低下し、放射温度計10
2で検出される温度差ΔT、つまり傷信号のレベルは低
下する。また、被検査部材の表面には一般に取扱い跡
(例えばロールがこすった跡、バールをかけた跡、ある
いはワイヤをかけた跡)等が多く生じ易く、それらの部
分は鏡面状となって、ショット肌よりさらに著しい光沢
を有するため、放射率εはさらに低下する。放射率εが
低いと、放射温度計102で測定される温度は実際より
低くなる。したがって、傷の検出において、放射温度計
102で測定された、周囲より温度が低い部分が、傷な
のか取扱い跡なのかの判定が困難となる場合が生じる。
このため、実際は傷でない取扱い跡を傷として誤検出す
る可能性もあり、このことが探傷精度を低下させる原因
となりやすい。
【0004】なお、スケールが付いたままで探傷を行う
場合は、前述のロール、バール、ワイヤ等による取扱い
跡は、スケール剥がれ部となって表れることがある。こ
の場合でも、そのような取扱い跡は周り(スケール)に
比べて放射率が低いため、放射温度計による測定温度が
低下する。このことは上述のショット肌における取扱い
跡の事情と基本的には同様である。
【0005】本発明の課題は、上述のような取扱い跡等
のために、被検査部材の表面の放射率が均一でない場合
であっても、精度の高い探傷を可能にすることにある。
さらには、被検査部材の表面の放射率を全体として高め
ることにより、その表面の温度差ΔT(傷信号)を大き
くして、探傷をより容易にし、かつ探傷結果を信頼性の
高いものとすることにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】このような課題を解決す
るために本発明では、被検査部材の表面を粉体で被覆す
ることにより放射率を均一として、その状態で加熱し、
表面の温度分布を放射エネルギに基づき測定して傷を検
出するものである。
【0007】すなわち、本発明の探傷方法は、静電気
などにより粉体を被検査部材の探傷すべき表面に付着さ
せて、その表面を粉体で被覆する工程と、高周波誘導
加熱により被検査部材の表層部を加熱する工程と、そ
の加熱された被検査部材の表面から放射される放射エネ
ルギを利用して、被検査部材の表面の温度分布を放射温
度計により測定する工程とを含み、その表面の温度分布
に基づいて被検査部材の傷を検出することを特徴とす
る。
【0008】ここで、被検査部材としては、主にショッ
ト工程を経て表面がショット肌とされたものを例示する
ことができるが、必ずしもそれに限らず、スケールで覆
われたものを探傷の対象とすることもできる。いずれに
しても、被検査部材の表面に光沢のムラ等により放射率
にバラツキが生じているような場合、さらにはショット
肌等のように全体的に光沢により放射率が低くなってい
るような場合に、表面の放射率を均一化させ、更には全
体的に放射率を上げるために本発明の粉体被覆が有効で
ある。
【0009】上述の粉体による被覆工程において、その
粉体を被検査部材の探傷すべき表面に、その表面が完全
に隠れるように充分な厚さで付着させることも、極薄で
付着させることもできる。極薄被覆の場合、被検査部材
の表面に対し、その一部が露出する程度に粉体を付着さ
せることができる。その度合としては、被検査部材の表
面を微視的に観察した場合に、被検査部材の地肌が散点
状に分布して認められる程度を、一つの例として示すこ
とができる。
【0010】また、その被検査部材の表面の温度測定が
終了した後、被検査部材の表面に付着している粉体を除
去する工程を実施することが好ましい。この除去の工程
では、被検査部材に付着している粉体を、例えば吸引式
のクリーナで吸い取ったり、あるいは逆に高圧エアをノ
ズルやブロワから噴射して吹き飛ばしたりする。
【0011】本発明の探傷方法において、被検査部材が
非磁性材(例えば非磁性ステンレス鋼材等)である場合
は、高周波誘導加熱の電流浸透深さは、検出すべき傷の
深さよりも深くされる。そして、放射温度計の温度測定
で、傷の存在する部分が他の部分より温度が低いことに
基づいて傷が検出される。すなわち、図24に示すよう
に、高周波誘導加熱コイル101によって被検査部材W
の表層部に誘導電流(渦電流)が生じるが、図25に示
すように、誘導電流の浸透深さδが、検出すべき傷の深
さdより大きくされている場合、その誘導電流が傷の部
分を迂回して、大半の場合においてその付近の電流密度
が小さくなるため、温度も周りより低くなる(図25で
は温度の高さを上向き矢印の長さで概念的に示した)。
この温度差ΔTを放射温度計102が測定することによ
り傷を検出することができる。ただし、点状の傷や点状
の傷が連なった場合など、傷形態によっては、傷部の温
度は健全部の温度よりも高くなる場合がある。特に、角
材のコーナー部の割れ傷の場合はほとんど高くなる。
【0012】なお、図27に示すように、磁性材におい
ては、高周波誘導加熱による電流浸透深さδ0が、検出
すべき傷の深さdより浅くなるのが普通である。高周波
誘導加熱による発熱量は健全部より傷部の方が単位体積
当りの電流が密になるため大きくなり、したがって放射
温度計102で測定される温度も高くなる。この場合は
周囲より温度が高い部分が傷と判断されることとなる。
つまり、図27に示す探傷原理を採用する場合でも、図
28のように、例えば取扱い跡S1に傷が存在するよう
な場合、その部分は放射温度計102により温度が高い
部分として測定されるべきであるが、取扱い跡S1によ
って放射率が低下するため測定される見掛けの温度は低
くなる。この場合は本来検出されるべき傷が検出できな
くなる可能性があるが、本発明では粉体被覆により放射
率が均一化されるので、それを防ぐことができる。
【0013】本発明に係る探傷装置は、被検査部材を
送る搬送ラインと、その搬送ラインに設けられ、被検
査部材の探傷すべき表面を静電気などを利用して粉体で
被覆する粉体被覆装置と、上記搬送ラインに設けら
れ、被検査部材の表層部を加熱する高周波誘導加熱装置
と、その加熱され、粉体が付着された被検査部材の表
面の温度分布を測定する放射温度計と、その温度分布
に基づいて被検査部材の傷を検出する検出装置とを含
む。
【0014】このような探傷装置の上記搬送ラインに、
被検査部材の表面に付着している粉体を除去する粉体除
去装置を付加することができる。放射温度計は、高周波
誘導加熱装置で加熱された被検査部材の表面温度分布
を、できるだけその温度が低下しないうちに測定するこ
とが、傷データの信頼性を高める上で重要である。その
ためには加熱直後で放射温度計が測温することが望まし
く、さらには被検査部材の加熱状態で測温することも良
い。高周波誘導加熱装置は、一般に被検査部材を挿入さ
せる加熱コイルを備えるのが普通である。上記搬送ライ
ンにおいて、その加熱コイルの直後に測温ポイントがく
るように放射温度計を配置することは一つの例である
が、これ以外に、加熱コイル内において測温ポイントを
設定することも可能である。
【0015】例えば加熱コイルにその内側から外側まで
貫通する空隙部(スリット、切欠、孔等)を形成し、そ
こを通過した放射エネルギを放射温度計で受ける構成、
あるいは加熱コイルと被検査部材の隙間から出る放射エ
ネルギを、加熱コイルに対し斜め方向においた放射温度
計で受ける構成を採用することができる。特に、非磁性
鋼では、磁性鋼よりも電力吸収が小さいため、搬送速度
を遅くして探傷させる必要があり、熱伝導等による温度
の低下を極力抑えるため、加熱コイル内で温度測定する
ことが望ましい。
【0016】
【作用及び効果】本発明では、被検査部材の表面に静電
気などにより粉体が付着させられて、その表面が粉体で
被覆される。それによって、被検査部材の表面に、取扱
い跡等の放射率の低い部分が存在しても、その放射率が
粉体の被覆によりほぼ均一となり、その上で傷信号を検
出するため、誤検出等が少なくなる。また、放射率の低
いショット肌の被検査部材が粉体で被覆されることによ
り、放射率が全体として高められ、温度差ΔT(傷信
号)を大きくすることができる。かつ、ショット肌より
も放射率の低い取扱い跡が存在しても、その放射率が粉
体の被覆によりほぼ均一となる。つまり、ショット肌等
において、放射率のレベルを全体的に高めつつ放射率の
均一化を図ることができる。これにより強い探傷信号、
精度の高い探傷結果を得ることができる。
【0017】被検査部材への粉体の付着量を比較的厚く
した場合は、放射率を均一化する作用が高まる。一方、
粉体を極薄(例えば微視的にみてある程度の地肌が存在
する程度)で被覆した場合は、経済性のメリットがある
ことは言うまでもないが、被検査部材を加熱する際に、
それに付着している粉体の昇温に要する熱量が少なく、
加熱に必要な時間もエネルギも従来とほぼ同程度で足り
る。また、粉体の被覆層が厚いと、粉体内での熱伝導等
により傷信号がぼけるが、極薄の被覆であればよりシャ
ープな傷信号が得られ、探傷の感度を上げる上で好まし
い。
【0018】この粉体による被覆は、粉体静電塗装の原
理と同様に、一般には粉体を負に、被検査部材を正に帯
電させることにより実施されるが、粉体が被検査部材の
表面を覆うように付着すれば足り、一般の粉体塗装のよ
うな焼付けまでは必要ない。粉体被覆の後は、従来と同
様に高周波誘導加熱、さらに放射温度計による表面温度
の測定が行われ、その表面の温度分布に基づいて傷が検
出されることとなる。この際、加熱用誘導電流の浸透深
さが検出すべき傷より深いか浅いかで、または、傷の形
態によって検出すべき傷部分の温度が健全部より低くな
ったり高くなったりする。
【0019】また、粉体を除去する工程又は装置が付加
された発明では、放射温度計による温度測定が終了した
後、被検査部材の表面に付着している粉体が、例えば吸
引式のクリーナ等により除去される。そのため、被検査
部材の表面に粉体が残らず、後の工程に悪影響を及ぼす
ようなことがない。また、加熱コイル内において被検査
部材の表面温度分布を測定する場合は、温度降下がない
ためレベルの高い傷信号が得られる。
【0020】
【実施例】以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明
する。図1において、被検査部材Wは、例えば四角断面
の長手状の非磁性材で、その外周面は例えばショットブ
ラストによりスケールが落とされた後のショット面とな
っている。この被検査部材Wはつづみ状の搬送ローラ1
等を含む搬送ラインに沿って搬送される。
【0021】搬送ラインには粉体被覆装置2が設けられ
ている。これは静電気を利用して所定の粉体を被検査部
材Wの表面に付着させるもので、その付着させる原理に
ついては粉体静電塗装と同様のものである。これを概念
的に示したのが図5及び図6である。粉体スプレーノズ
ル3に粉体供給槽4から所定の粉体が供給されるが、こ
の粉体スプレーノズル3と被検査部材Wとの間には、高
電圧発生装置5により粉体スプレーノズル3が負極、被
検査部材Wが陽極となるように電圧がかけられ、また、
被検査部材Wはアースされる。
【0022】図6に示すように、粉体Pは例えば内部が
炭素C又はTi、外層が樹脂(例えばアクリル樹脂等)
からなる。その平均粒径は例えば10〜100μm程
度、中でも20〜50μm、特に経済上の理由から40
μm程度のものが好適に用いられる。そして、前述の電
圧(例えば約100kV、電流約50μA程度)により、
イオン化雰囲気で粉体Pの樹脂部分が負に帯電し、この
粉体Pが陽極側の被検査部材Wに引き寄せられてその表
面に付着することにより、その表面を被覆する。その被
覆ないしは付着の厚さは、微視的にみてその地肌が散点
状に露出する程度、すなわち付着している粉体を均一に
ならして平均化したと仮定した場合に、そのならされた
厚さが粉体粒径の1/3〜1/6程度の極薄に設定する
ことができる。
【0023】ここで、粉体スプレーノズル3は、例えば
図7に示すように、被検査部材Wの搬送方向に、被検査
部材Wの各面を個別に粉体被覆するように構成できる。
この場合、このような粉体スプレーノズル3を被検査部
材Wを挟んで4基だけ設けることにより、被検査部材W
の全周囲を1度に粉体被覆することができるし、あるい
は1箇所に設けた粉体スプレーノズル3により片側半分
を粉体被覆した後、被検査部材Wを反転させて上流へ戻
すよう往復移動させるようにして、残る片側半分の粉体
被覆を行うことも可能である。
【0024】そして、例えば図10(a)に示すよう
に、被検査部材Wの表面Sに、取扱い跡S1が存在して
いる場合でも、この取扱い跡S1を含む被検査部材Wの
表面全体が粉体Pで被覆されて(同図(b))、その表
面の放射率はほぼ均一なものとなる。ここで粉体Pの色
に制約は受けない。被検査部材Wの表面に付着した粉体
Pは、電気的に不良導体で負の電荷を維持するので、被
検査部材Wのアースを解除しても、ある程度の時間は粉
体が脱落することはない。なお、図10においては、粉
体Pの塗布厚さは図面作成上の都合から意図的に拡大さ
れている。
【0025】ここで、被検査部材Wがショット工程を経
たものであれば、その表面Sはショット肌であり、ロー
ル、バール、ワイヤ等による取扱い跡S1は一般にはシ
ョット肌より更に光沢のある鏡面状の部分である。ま
た、被検査部材Wがショット工程前のスケール付のもの
である場合は、その表面Sはスケール、取扱い跡S1は
スケール剥がれ部に相当するが、通常は表面Sはショッ
ト工程を経たショット肌であることが多い。
【0026】図1に戻って、被検査部材Wの搬送ライン
において、粉体被覆装置2の下流側には、高周波誘導加
熱装置8が設けられている。これは被検査部材Wを取り
巻くように環状に形成され、図24に示したような誘導
電流(渦電流)を被検査部材Wの表層部に生じさせる公
知のものである。被検査部材Wが非磁性材の場合、図2
5に示す電流浸透深さδは、検出すべき傷の深さdより
大きくなるように、周波数が設定される。
【0027】そして図10(c)に示すように、非磁性
材の被検査部材Wの表層部に誘導電流(渦電流)が発生
させられることにより、その表層部が加熱される。被検
査部材Wのコーナーの割れ傷の場合等は、健全部より傷
部の方が温度が高くなるが、多くの場合、傷の部分を渦
電流が迂回することによりその部分の温度は健全部より
低くなる。ここで、被検査部材Wは常温から上記のよう
に加熱され、常温より例えば20〜30℃程度高くされ
る。つまり、常温を例えば20℃とすれば、加熱温度は
40〜50℃程度となる。
【0028】図1において、高周波誘導加熱装置8の直
後には、放射温度計9が設けられ、表層部が加熱された
被検査部材Wの表面の温度を測定するようになってい
る。放射温度計9は、被検査部材Wの表面から放射され
る放射エネルギを、センサにて電気的出力に変換して測
定器に表示させる公知の温度計であり、図1において例
えば被検査部材Wの1つの面や角に対応して複数個設置
される。
【0029】なお、図12〜図14に示すように、加熱
コイル8として、二又状のもの、言い換えれば、その中
央部に内側から外側まで貫通するスリット8a等の空隙
部を有するものを使用することができる。そのコイル8
内に被検査部材Wが挿入され、加熱される。その加熱部
分の表面温度が加熱コイル8内において、図15に示す
ようにスリット8aを通じて適数の放射温度計9により
測定される。このような加熱コイル8内における温度測
定により、その加熱部分の温度降下がほとんどなく、高
い測定精度が得られる。
【0030】図16もこれと同様な結果を得るものであ
る。この場合の放射温度計9は、加熱コイル8とその内
側に挿入された被検査部材Wとのスキマ(ギャップ)を
通じて、加熱コイル8内の被検査部材Wを斜め方向から
指向する位置及び向きに配置される。
【0031】図17は、その加熱コイル8の中心を基準
として、その中心線と平行な方向において、傷信号ΔT
の感度(強さ)を測定したグラフである。加熱コイルに
対する電力は130KVA、被検査部材の加熱コイルに対
する搬送速度は10m/min、20m/min、40m/mi
nの3通りに設定した。この結果によれば、搬送速度の
違いに拘らず、加熱コイルの中央から出口付近で温度測
定することが、傷信号ΔTのレベルを高める上で好まし
いことが分かる。また、図18は被検査部材の傷信号Δ
Tを、被検査部材Wの表面(肌)温度の上昇度との比
(肌温度の上昇に対し傷信号ΔTがどれだけ強く生じる
のかの度合)で評価したものであるが、加熱コイルの幅
内で良好な感度が得られている。
【0032】いま、被検査部材Wの表面に、例えば図1
1(a)、(b)に示すような傷があったとすれば、放
射温度計9で測定される温度分布は図11(c)に示す
ようになる。ここで、図10(a)に示すような取扱い
跡S1が存在しても、それが粉体Pで被覆されているた
め、被検査部材Wの表面における放射率はほぼ一定とな
り、この取扱い跡S1で放射温度計の測定値が低く表れ
ることはない。従って、取扱い跡S1が傷であるかのよ
うに誤って検出されることがない。
【0033】なお、放射温度計9の測定値に基づく温度
分布を目視することにより傷を判定してもよいが、図1
に概念的に示すように、放射温度計9をコンピュータ等
で構成される判定手段10に接続し、この判定手段10
において温度分布の乱れが測定された場合に、それを自
動的に判断して警報を発するとともに、表示手段に傷の
位置、深さ等を表示させるように構成することもでき
る。あるいは、マーキング装置15に指令を出して被検
査部材Wの表面に傷の位置をマークさせるように構成す
ることもできる。また、砥石研削装置16に傷の位置信
号を送り、自動的に傷を除去することもできる。
【0034】放射温度計9の下流側には、粉体除去装置
11が設けられている。これは、被検査部材Wを取り囲
むように設けられた吸引部12と、この吸引部12に接
続された吸引ポンプ13及び粉体回収部14とを備える
もので、被検査部材Wの表面に付着している粉体を、放
射温度計9の温度測定の後に吸引・除去して、粉体回収
部14に回収する。なお、粉体除去装置11の吸引部1
2を被検査部材Wの長手方向に移動させるように構成す
ることもできる。
【0035】なお、図1の装置概念をより具体的な探傷
装置として構成したものが図2〜図4に示すものであ
る。図2で、鋼材(被検査部材)Wはつづみ状の複数の
ローラ1で長手方向へ送られる。まず、鋼材Wは粉体塗
布ボックス20の内部を通過する際に、その表面に粉体
が静電付着させられる。このボックス20内には図示し
ない塗布ガンが鋼材の1面・1コーナに対応して1基の
割合で、例えば2基存在する。このボックス20の下流
に、図3のような加熱コイル8があり、加熱コイル8に
加熱電源21からコイルトランス22を経て高周波電流
が供給される。
【0036】この加熱コイル8を通過する過程で鋼材W
が加熱され、同時に粉体が鋼材Wからの熱伝達によって
加熱され、その下流に図2に示すように複数の放射温度
計9が配置される。これらの放射温度計9は、例えば図
4に示すように面温度計9aが2台、コーナ温度計9b
が2台の都合4台が配置され、1回で鋼材Wの片側の温
度測定を行う。この更に下流に図2のような粉体回収ボ
ックス23があり、ここで鋼材Wの表面から粉体が回収
される。なお、24は粉体集塵装置である。また鋼材W
は1サイクルで例えばその片側半分の探傷が行われ、一
旦上流へ戻して、あるいは更に下流で次の1サイクルが
行われ、残る片側半分の探傷を行うようにすることがで
きる。
【0037】ところで、いま図9に示すように、粉体P
が被検査部材Wの表面(例えばショット肌)に複数層付
着した状態を想定する。この場合は、ショット地肌はす
べて覆い隠され、放射率は粉体Pのそれによって決まる
ため、放射率を同一化するという目的が達成される。た
だ、粉体の被覆層が厚くなると、その粉体を含めて被検
査部材Wを加熱する際に、加熱時間が長くかかるため、
その被検査部材Wの搬送速度を遅くするか、あるいは加
熱時間を一定とすれば単位時間の熱量を増やすことが必
要となる。また、被検査部材Wの傷信号を示す谷等の温
度傾斜が粉体Pの厚い被覆層の熱伝導で拡散し、傷信号
がぼけて探傷の感度を落とす場合がある。
【0038】もとより、本発明において、粉体Pで被検
査部材Wの地肌を完全に覆えるように、充分な厚さの被
覆層を形成することを除外するものではないが、上述の
ような弊害を考慮すれば、粉体Pはできるだけ薄く付着
させることが望まれる。例えば図8(e)に示すよう
に、粉体Pを一層のみ付着させれば、最小の粉体量で地
肌をほぼ被覆することができ、熱伝導の点でも無駄がな
い。しかし、このような一層の被覆状態を得ることは難
しく、被覆層の薄さを追究していけば地肌の露出した部
分が生じる。これは一見好ましくない状態と思われる
が、この部分的な地肌の露出がむしろ好結果をもたらす
のである。
【0039】いま、図8(a)、(b)等において、被
検査部材Wのショット肌等に対して、その地肌がある程
度露出する程度に粉体Pが極薄に付着した状態を想定す
る。なお、図8はあくまでも概念を説明するための図で
あり、実際の付着状態を忠実に描いたものではない。粉
体P間の平均的な間隔は、その間隔の中に検出すべき傷
(又は取扱い跡)が入り込んでしまう程の大きなもので
はなく、図8(b)のように、傷等は一般には多数の粉
体Pの下に隠れるように存在する。いま、同図(a)の
ように、被検査部材W及び粉体Pが温度Tに加熱されて
いるとし、また粉体Pを黒体とみなせば、その放射エネ
ルギQはTの4乗に比例する(シュテフアンボルツマン
の放射法則)。同図(c)のように、粉体Pからの放射
エネルギはQ(放射率ε=1とする)であり、粉体P間
の地肌部(ショット面)は光沢があり、粉体Pより放射
率εが低い(ε<1)ため、その地肌部からの放射エネ
ルギはεQとなる。
【0040】これだけみると露出している地肌部では放
射温度計で検出される温度が周りより低くなるが、同図
(d)に概念のみごく単純化して示すように、反射率の
高いショット地肌部が露出していることで、粉体Pから
周囲に発散する放射エネルギの一部がその地肌部で反射
し、この反射した放射エネルギ(これは地肌部の反射率
をγとすれば、ほぼγQとみなし得る)が、地肌部から
直接放射される前述の放射エネルギεQに加えられ、こ
れらの和(εQ+γQ)の放射エネルギが放射温度計9
で検出されることとなる。つまり、反射率の大きい地肌
面が一部露出していることは、そこから直接発散される
放射エネルギεQが低レベルとなることを意味するが、
逆に反射率が大きいことで、粉体から出て地肌面で反射
する分の放射エネルギは相当大きくなる。この合算の放
射エネルギは、説明を分かりやすくするためにごく単純
化すれば、(ε+γ=1)よりεQ+γQ=Qとなる。
これは、同図(e)に示すように、地肌が粉体で覆わ
れ、かつ粉体が瞬時に加熱され、鋼材の温度と等しくな
る場合と同様な結果となる。そのため同図(f)のよう
に、ショット地肌の検出温度レベルが全体的にアップ
し、他方、傷部の温度は大きく変わるものではないか
ら、谷状の傷信号が深くなり、感度が高まる結果とな
る。
【0041】このように、ある程度地肌が露出していて
も、粉体で覆われる場合に比べて余り遜色がなく、不都
合がないばかりか、それが反射による放射エネルギの付
加という新たな結果をもたらす。そして、ほぼ同程度の
効果が得られるのであれば、使用する粉体は、被検査部
材の加熱時間、傷信号の感度等の点からできるだけ少な
い方がよい。そこで、積極的に地肌を露出させる程度の
極薄に、粉体を被検査部材に付着させることが推奨され
る。もっとも、前述のとおり粉体を地肌が露出しないよ
うに充分な厚さで付着させることを排除するものでなは
い。
【0042】次に、図19に示す表面状態を有する被検
査部材に、本発明の誘導加熱探傷法を適用した場合につ
いて説明する。
【0043】(比較例)図19に示す被検査部材を従来
の誘導加熱探傷法により探傷し、その結果を図20に示
す。図20より明らかなように、傷のみならず、コスレ
跡等の取扱い跡の温度も低く測定され、傷とコスレ跡と
の判別ができないことがわかる。
【0044】(実施例1)図19に示す被検査部材の表
面を平均粒径が40μmの粉体で被覆した。その際の塗
布速度は50m/分とした。しかるのち、誘導加熱探傷
を行い、その結果を図21に示す。図20より明らかな
ように、傷の部分のみの温度が低く測定されているのが
分かる。
【0045】図22に、実施例1の被検査部材における
表面の顕微鏡写真のスケッチ図を示す。図22より、と
ころどころに被検査部材の地肌(図中で白く見えている
部分)が出ているのが分かる。すなわち、地肌が散点状
に分布しているのが認められる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例である探傷方法及びそれを実
施する装置の概念図。
【図2】図1の装置概念をより具体化した探傷装置の斜
視図。
【図3】図2の一部拡大図。
【図4】図2の放射温度計の配置図。
【図5】粉体静電被覆の原理図。
【図6】それをさらに詳しくした原理図。
【図7】粉体被覆の具体例を示す説明図。
【図8】粉体を被検査部材に地肌が一部露出する程度に
極薄に付着させた場合の作用説明図。
【図9】粉体を被検査部材に地肌が表れない充分な厚さ
で付着させた場合の説明図。
【図10】被検査部材の探傷工程を示す断面図。
【図11】被検査部材に存在する傷と放射温度計が測定
する温度との関係を示す図。
【図12】中央部にスリットがある加熱コイルを用いる
場合の斜視図。
【図13】図12の正面図。
【図14】図13の側面図。
【図15】被検査部材の温度測定を加熱コイル内で行う
場合の第一の例を示す説明図。
【図16】同じく第2の例を示す説明図。
【図17】加熱コイル内で温度測定を行う場合の第一の
グラフ説明図。
【図18】同じく第2のグラフ説明図。
【図19】比較例及び実施例1が適用される被検査部材
の表面状態の説明図。
【図20】比較例における探傷結果のグラフ。
【図21】実施例1における探傷結果のグラフ。
【図22】実施例1の被検査部材の表面の顕微鏡写真の
スケッチ図。
【図23】従来の探傷方法の一例を示す斜視図。
【図24】それの高周波誘導加熱コイル部分の断面図。
【図25】傷の存在と誘導電流の経路との関係を示す説
明図。
【図26】被検査部材に取扱い跡が存在する場合の放射
エネルギを説明する図。
【図27】被検査部材の表層部の電流浸透深さを、傷の
深さより浅くした場合の説明図。
【図28】その探傷方法で取扱い跡に傷が存在する場合
の説明図。
【符号の説明】
2 粉体被覆装置 3 粉体スプレーノズル 8 高周波誘導加熱装置 9 放射温度計 11 粉体除去装置 12 吸引部 13 吸引ポンプ 14 粉体回収部
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 石川 信夫 愛知県知多市旭桃台409番地 (72)発明者 矢野 泰三 愛知県名古屋市南区泉楽通4−3−2

Claims (11)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 被検査部材の表面に存在する傷を検出す
    るための探傷方法であって、 粉体を被検査部材の探傷すべき表面に付着させて、その
    表面を粉体で被覆する工程と、 高周波誘導加熱により被検査部材の表層部を加熱する工
    程と、 その加熱され、粉体が付着された被検査部材の表面から
    放射される放射エネルギを利用して、被検査部材の表面
    の温度分布を放射温度計により測定する工程とを含み、 その表面の温度分布に基づいて被検査部材の傷を検出す
    ることを特徴とする探傷方法。
  2. 【請求項2】 前記粉体を被検査部材の探傷すべき表面
    に極薄に付着させる請求項1記載の探傷方法。
  3. 【請求項3】 前記粉体を被検査部材の探傷すべき表面
    に極薄に付着させて、その表面をその一部が露出する程
    度に前記粉体で被覆する請求項2記載の探傷方法。
  4. 【請求項4】 前記粉体により被覆された被検査部材の
    表面を微視的に観察した場合、その地肌が散点状に分布
    して認められる請求項2又は3記載の探傷方法。
  5. 【請求項5】 前記被検査部材の表面の温度分布を、前
    記高周波誘導加熱が行われる位置で、前記放射温度計に
    より測定する請求項1ないし4のいずれかに記載の探傷
    方法。
  6. 【請求項6】 前記被検査部材の表面の温度測定が終了
    した後、その被検査部材の表面に付着している粉体を除
    去する工程を含む請求項1ないし5のいずれかに記載の
    方法。
  7. 【請求項7】 前記被検査部材が非磁性材であって、前
    記高周波誘導加熱の電流浸透深さは検出すべき傷の深さ
    より大きくされ、かつ、前記放射温度計の温度測定で傷
    の存在する部分の温度が他の部分より低いことに基づい
    て傷を検出する請求項1ないし6に記載の探傷方法。
  8. 【請求項8】 被検査部材の表面に存在する傷を検出す
    るための探傷装置であって、 被検査部材を送る搬送ラインと、 その搬送ラインに設けられ、被検査部材の探傷すべき表
    面を粉体で被覆する粉体被覆装置と、 前記搬送ラインに設けられ、被検査部材の表層部を加熱
    する高周波誘導加熱装置と、 その加熱され、粉体が付着された被検査部材の表面の温
    度分布を測定する放射温度計と、 その温度分布に基づいて被検査部材の傷を検出する検出
    装置と、 を含むことを特徴とする探傷装置。
  9. 【請求項9】 前記被検査部材の表面に付着している粉
    体を除去する粉体除去装置が前記搬送ラインに設けられ
    ている請求項8記載の探傷装置。
  10. 【請求項10】 前記高周波誘導加熱装置が、前記被検
    査部材を挿入させる加熱コイルを備え、その加熱コイル
    にその内側から外側まで貫通する空隙部が形成されてい
    て、前記放射温度計はその空隙部を経て前記加熱コイル
    内における前記被検査部材の表面の温度分布を測定する
    ものである請求項8記載の探傷装置。
  11. 【請求項11】 前記高周波誘導加熱装置が、前記被検
    査部材を挿入させる加熱コイルを備え、ここに挿入され
    る前記被検査部材と前記加熱コイルとの隙間を通じて、
    前記放射温度計は斜め方向から前記加熱コイル内におけ
    る前記被検査部材の表面の温度分布を測定するものであ
    る請求項8記載の探傷装置。
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