JPH0598388A - 高靱性高炭素薄鋼板およびその製造方法 - Google Patents

高靱性高炭素薄鋼板およびその製造方法

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JPH0598388A
JPH0598388A JP25807891A JP25807891A JPH0598388A JP H0598388 A JPH0598388 A JP H0598388A JP 25807891 A JP25807891 A JP 25807891A JP 25807891 A JP25807891 A JP 25807891A JP H0598388 A JPH0598388 A JP H0598388A
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steel
steel sheet
high carbon
thin steel
toughness
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JP25807891A
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Inventor
Kiyoshi Fukui
清 福井
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Nippon Steel Corp
Original Assignee
Sumitomo Metal Industries Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 チェーン部品、ギヤ部品、ホースクリップな
どの素材として適する高炭素冷延鋼板の遅れ破壊耐久性
を改善する。 【構成】 C:0.30 〜0.70%、Si:0.15 〜0.50%、Mn:
0.05 〜1.00%、P:0.030%以下、Cr:0.50 〜2.00%、
V:0.05 〜0.50%、Nb:0.005〜0.100 %、sol.Al:0.08
%以下、N:0.002%超〜0.010 %、残部実質的にFeから
成るオーステナイト鋼に、Nb:0.005〜0.100 %、または
さらにMo:0.10 〜0.50%、Cu:0.05 〜0.50%、および
B:0.0003 〜0.0025%から成る群から選んだ1種または
2種以上、および/ またはTi:0.005〜0.10%を配合す
る。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、高靱性高炭素薄鋼板
およびその製造方法、特に、熱処理後のオーステナイト
組織が非常に微細化し、耐衝撃性、耐摩耗性、さらには
使用中の水素侵入による割れの発生抑止効果が優れ、し
かも製造性や加工性が良好であって、チェーン部品、ギ
ヤ部品、クラッチ部品、ホースクリップ、シートベルト
バックル、座金用等として好適な高靱性高炭素薄鋼板お
よびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】一般に、チェーン部品、ギヤ
部品、ホースクリップ、クラッチ部品、シートベルトバ
ックル、座金部品等は、JISG3311に規定されているSCM4
35あるいはSCM445等の高炭素鋼板や、S45CM-S50CM の高
炭素冷延鋼板を素材とし、これを成形加工した後、焼入
れ・焼戻し等の熱処理により硬化することで製造される
のが普通である。
【0003】ここで、前記各製品用の素材鋼板には、成
形加工前は軟質で加工し易く、成形加工後に施される焼
入れ、焼戻しあるいはオーステンパ等の熱処理によって
初めて所望の強度が得られ、かつ製品として使用時に十
分な耐衝撃性と耐摩耗性を発揮することが要求されてい
る。材質としては前述の如き炭素含有量の高いものが選
ばれるとともに、一般に、鉄鋼メーカからの薄鋼板の出
荷に際しては軟質とするための球状化焼鈍が施される。
【0004】そして、出荷後の素材薄鋼板はユーザにて
所望の形状に成形加工され、焼入れ、焼戻しあるいはオ
ーステンパの熱処理が施されて必要特性の付与が行われ
る。この場合、製品の耐衝撃性および耐摩耗性は特に焼
戻しの温度が影響することから、使用の形態や状況によ
って「焼入れまま」ないしは「550 ℃まで」の各焼戻し
処理温度が注意深く選択される。通常、180 〜450 ℃の
温度である。オーステンパ処理の場合には800 〜900 ℃
の温度域に均熱の後、200 〜400 ℃の温度域の塩浴ある
いは金属浴中に急冷する熱処理を施す。
【0005】しかしながら、JIS に規定されている高炭
素薄鋼板では、注意深い熱処理条件の選択にもかかわら
ず、耐衝撃性や耐水素割れ性が不十分である。例えば自
動車エンジンにおける燃料管あるいはガス管等の接続部
を固定するホースクリップについては高いバネ性が要求
されるためTS:200kgf/mm2 以上の高強度鋼の適用が検討
されている。
【0006】このような強度を確保するには、従来、C
量が0.50〜0.85%の高炭素鋼(S50C,SK5M,SK7M 等) をオ
ーステンパ処理して用いてきた。しかし、このような鋼
を適用した場合、使用中に応力集中を受ける部分より割
れが発生する問題が生じる。割れの破面は粒界破壊の様
相を呈していることから使用中に破断部に侵入した水素
が原因であると推定されている。
【0007】このような水素割れを防止するには、オー
ステナイト粒径を微細化するとともに、オーステナイト
粒界を強化するように化学成分を調整する必要がある。
オーステナイト粒径の微細化には、スラブ加熱あるいは
焼入れもしくはオーステンパ処理の均熱時において析出
するAlN 等の微細粒子により粒成長を抑制する方法が一
般的である。
【0008】しかし、従来よりさらに微細なオーステナ
イト結晶粒を得るためには、これらの析出物に加えさら
に多くの析出物が必要となる。従来にあっても耐遅れ破
壊性の改善には多くの提案がなされている。
【0009】例えば、特開昭58−61219 号公報にはP≦
0.010 %、N≦0.0020%とPおよびNを低減することで
粒界を強化するとともにTiを添加してTi炭窒化物の析出
により結晶粒の成長を抑制し、これらの総合作用で耐遅
れ破壊性を改善することが開示されている。特開平1−
149921号公報にはCa:0.0030 〜0.0100%添加することで
介在物を球状化して遅れ破壊に無害な水素トラップサイ
トとして作用させることが開示されている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】ところで、一般に付加
される応力が条鋼製品に比べて低い高炭素鋼板製品にお
いては遅れ破壊を抑制しながら使用できる強度の上限は
現在の一般高炭素鋼板でTS:1200 〜1500MPa である。こ
れに対し、本発明者はこの上限を200MPa上昇させる目的
でNb、Cu、Ti、Bを添加した鋼について特開平2−1560
44号公報および特開平2−149645号公報において提案し
た。
【0011】しかし、この鋼種は1700MPa 以上では急速
に遅れ破壊耐久性が劣化することから、さらに高い強度
域での遅れ破壊耐久性の向上が必要であることを本発明
者は認識した。そこで本発明の第一の目的は、さらに微
量合金成分を調整することにより、その使用上限を1900
MPa まで上昇させた高靱性高炭素鋼とその製造方法を提
供することである。
【0012】そのような鋼材料の用途はホースバンドや
湿潤雰囲気下で用いられるクラッチ等の板バネ部品であ
り、耐水素脆性に優れ、かつそのコストが低く抑えられ
ることが望ましいことは言うまでもない。したがって、
本発明の第二の目的は、先に提案した上述の鋼よりもや
やコスト的には高いものであるが、一般的にはコストを
十分抑えることができるとともに、強度が耐水素脆性を
十分に満足し、実用的価値の高い高靱性高炭素鋼とその
製造方法を提供することである。
【0013】
【課題を解決するための手段】そこで本発明者は、上述
の観点から、これら高強度鋼板の素材として十分満足で
きる硬度、引張り強度を備え、しかも加工性が良好で圧
延過程や最終製品への成形工程でも割れなど不都合を生
じることのない耐衝撃性および耐水素割れ性にすぐれた
薄鋼板を提供すべく研究を行ったところ、次に示すよう
な知見を得ることができた。
【0014】(a) 従来、材料強度の高い鋼種において生
じ易い水素脆化や疲労脆化は完全に防止することができ
ないと考えられているが、このような鋼種に対し、成分
として厳密に調整された特定量のNb(0.005〜0.100 %)
を添加すると、オーステナイト粒が効果的に微細化され
て水素脆性による割れは著しく抑制されること。
【0015】(b) Nbに加えて、更に、0.005 〜0.10%の
Tiを添加するとスラブ加熱時あるいは焼入れにおける均
熱時において炭窒化物を形成しオーステナイト粒成長を
効果的に抑制するものである。Ti、Nbを添加することに
よって得られるTiN,TiC,NbC,Nb(CN)あるいはTiNb(CN)に
よる効率的な細粒化を行うのである。なお、後述するよ
うにTi単独添加では耐遅れ破壊性は、Nの積極添加と相
挨ってむしろ耐遅れ破壊性を劣化させる。
【0016】(c) また、鋼中のPを特定値以下に低減す
ると、オーステナイト粒界に偏析したP量が減って脆性
破壊の要因となる粒界脆化が抑えられ、材料のさらなる
靱性改善がもたらされること。一方、Nの積極的添加に
よるa)、b)の各作用によるオーステナイト粒微細化も粒
界面積を増大し、単位粒界あたりのP量を低減する効果
がある。
【0017】(d) さらに、適量のCuの添加は走行中のギ
ヤ、チェーン、クラッチ材等の表面に硫化物の皮膜を形
成し、表面からの水素の侵入を抑制する特性があり、水
素脆性による割れの発生防止に効果があること。
【0018】(e) Mn含有量の低減もMnS 生成抑制を通じ
て靱性改善に大きく寄与し、コストダウンを目的とした
Mnの低減によって予想される焼入れ性低下も製品が薄板
であるために材質自体の高焼入れ性は特に必要とはせ
ず、Cr、Moの添加効果で強度も十分に保証できること。
【0019】(f) Vの添加は製品の焼戻し、オーステン
パ時におけるV自体の固溶硬化あるいは400 ℃以上の温
度域におけるVCの析出硬化により一般に用いられている
熱処理条件において従来鋼よりもさらに高強度が得られ
る。所定の焼戻しあるいはオーステンパ温度において従
来鋼よりも高い強度を確保するためには時効析出による
強度上昇や固溶硬化し得る合金元素の添加、特にV添加
が有効なのである。
【0020】(g) 一般に高炭素鋼板の高靱性化には焼入
れ、焼戻し前の成形性や打ち抜き性の低下が避けられな
かったが、鋼成分として特定量のMoを添加すると、上記
成形性や打ち抜き性の低下をともなうことなく焼入れ・
焼戻し後の靱性、特に「低温焼戻し靱性」と呼ばれる靱
性劣化が効果的に防止されるようになること。
【0021】(h) これらCrV 系高炭素鋼板は、一般に焼
鈍後の硬度が高く成形が困難であったが、冷間圧延前あ
るいは冷間圧延後の焼鈍条件を Ac1−70℃〜 Ac1+50℃
の温度域で4h 以上均熱する箱焼鈍を実施することによ
り従来のJISG3311に規定されたSC系、あるいはSK系高炭
素鋼板と同様の成形性を確保することができること。す
なわち、これら鋼板については、炭素量が高い、熱
延板での硬度を上昇させる合金成分が多い、との理由か
ら冷間圧延性とそれに依存する板厚精度、および冷延焼
鈍後の成形性が不十分となるなどの問題点があったが、
これら問題の解決手段として、熱延板の硬度が高い場合
に応じた冷間圧延前の箱焼鈍の実施、冷間圧延後の箱焼
鈍の実施を行うのである。その時の焼鈍の条件として
は、 Ac1−70℃〜 Ac1+50℃の温度域で4h 以上均熱す
るものとした。また、冷間圧延については板厚精度の確
保の点から圧下率を10%以上とし、冷間圧延時の側端部
の割れを防止する目的からその上限を80%とした。製品
の成形性確保のため冷間圧延後の箱焼鈍は、 Ac1−70℃
〜 Ac1+50℃の温度域で4h 以上均熱することで行う。
【0022】これら(a) 〜(h) に示した知見事項により
低温焼戻しあるいはオーステンパ後の靱性、並びに耐水
素脆性に優れた鋼種が製造可能となった。
【0023】この発明は、上記知見事項を基に完成され
たものであり、重量割合で C:0.30 〜0.70%、Si:0.15 〜0.50%、Mn:0.05 〜1.00
%、P:0.030%以下、Cr:0.50 〜2.00%、V:0.05 〜0.
50%、Nb:0.005〜0.100 %、sol.Al:0.08 %以下、N:
0.0020 %超〜0.0100%から成り、必要によりTi:0.005
〜0.10%、および/ または、Mo:0.10 〜0.50%、Cu:0.0
5 〜0.50%、およびB:0.0003 〜0.0025%のから成る群
から選ばれた1種または2種以上、残部が実質的にFeか
ら成る鋼組成を有する、優れた耐摩耗性、靱性 (耐衝撃
性) 、耐水素脆性を付与した高靱性高炭素薄鋼板であ
る。
【0024】特に、Ti、Nbを複合添加する場合、TiNb(C
N)等の複合炭化物を形成することによりオーステナイト
粒を効果的に微細化でき、またV添加により同じ熱処理
条件においてさらに高強度を得られる。さらに別の面か
らは、本発明は、板厚精度の確保と、熱処理前の成形性
確保のため、必要に応じて Ac1−70℃〜 Ac1+50℃の温
度域で4h 以上均熱する箱焼鈍を実施した後、圧下率10
〜80%の冷間圧延を行い、引続き Ac1−70℃〜 Ac1+50
℃の温度域で4h 以上均熱する箱焼鈍を行う、高靱性高
炭素薄鋼板の製造方法である。
【0025】
【作用】ここで、本発明にかかわる薄鋼板の成分組成を
上記のごとくに数値限定した理由を説明する。
【0026】(a) C:鋼板に所望の硬度、強度、焼入れ
性および耐摩耗性を得るためには0.30%以上のCの添加
が必要である。またC含有量が0.70%超の場合、焼入れ
前の加工性が劣化するばかりか、焼入れ後の脆性も増大
するためC添加量を0.30〜0.70%と定めた。
【0027】(b) Si:積極的添加は特に必要ないが、0.5
0%を超えて含有させると鋼板が硬質となって脆化する
傾向を見せることから、Si含有量は0.50%以下と定め
た。また焼入れ性を確保するために0.15%以上の添加は
必要である。
【0028】(c) Mn:Cr、Moを添加した本発明が対象と
している高炭素薄鋼板の用途はギヤ、チェーン等であ
り、一般の耐摩耗鋼板と異なり耐遅れ破壊性向上のため
Mnを低減する必要がある。特に本発明鋼板では1.00%を
超えて含有されると熱処理後の強度が過度に上昇し、さ
らにMnS を過剰に形成することから耐遅れ破壊性の劣化
を招く。一方、Mn含有量が0.05%未満であると、固溶S
が多くなって熱間加工時の脆化が生じ鋼板の製造性を害
するようになることから、Mn含有量は0.05〜1.00%と定
め、望ましくは0.80%以下に制限するのがよい。
【0029】(d) P:Moを含む鋼板においては通常レベ
ルでよいが、P含有量は低いほど靱性上好ましいことは
言うまでもない。P含有量は0.030 %以下、望ましくは
0.020 %以下に制限する。
【0030】(e) Nb:Nbは、オーステナイト粒を微細化
して鋼の靱性を向上させる作用を有しており、この作用
は水素脆化による破壊の防止にも非常に有効である。し
たがって、これら割れ発生防止を目的としてNbの添加が
なされるが、その含有量が0.005 %未満では前記作用に
よる所望の効果が確保できず、一方、0.100 %を超えて
含有させてもこれらの効果は飽和状態に達することか
ら、Nb含有量は0.005 〜0.100 %、好ましくは0.005 〜
0.050 %と定めた。望ましくは、TiNb系複合析出物を形
成するためにTi添加量の2倍程度を複合添加するのがよ
い。
【0031】(f) Cr:Crは、主として焼入れ性向上を目
的として0.50%以上添加される成分であるが、その含有
量が2.00%を超えて含有されると鋼の硬質化を招くほ
か、セメンタイト中に過度に固溶して熱処理時のセメン
タイトの分解を阻害し、残留したセメンタイトは脆性破
壊の起点となる。Cr含有量は0.50〜2.00%と定めた。
【0032】(g) V:Vの含有は、低温での焼戻しある
いはオーステンパでは固溶硬化により強度を上昇させる
効果を有する。また、400 ℃以上の温度で焼戻しを行っ
た場合にはVCの析出により析出硬化を示す。以上の点か
らVの添加は強度上昇に対して有効であり、その効果を
得るためには0.05%以上の添加を必要とする。しかし、
V自体は非常にコストの高い合金元素であることから、
強度上昇の効果が飽和する0.50%超の添加は不要であ
る。
【0033】(h) sol.Al:Alは鋼の脱酸材として必要に
応じて添加される成分であるが、sol.Alの含有量が0.08
%を超えるとコスト上昇を招くばかりか、鋼板の硬化を
もたらすので何ら利点はない。換言すれば、sol.Alの含
有量は、0.08%まで許容されることから、その含有量を
0.08%以下と定めた。
【0034】(i) N:Nの含有は鋼の硬度や引張強度の
向上に効果ある他、AlN 、NbN 、TiN 等を形成してオー
ステナイトの粗粒化を防止し、靱性向上に役立つが、そ
の含有量が0.010 %超の場合には硬度上昇により焼入れ
前の加工性を阻害することから、その含有量を0.010 %
以下に制限した。また、上記の合金元素と窒化物、炭窒
化物を形成するには、0.002 %を超えて含有する必要が
ある。好ましくは、0.002 %超〜0.008 %である。
【0035】(j) Ti:Tiは、鋼の焼入れ性を向上させる
とともに、TiN あるいはTiC を形成して微細分散させる
ことにより鋼の硬度および引張強度を増大させる作用を
有している所望添加成分である。Nbとの複合析出物とし
てTiNb(CN)を形成し、オーステナイト結晶粒の微細化を
促進する作用をも発揮する。しかし、Ti含有量が0.005
%未満では前記作用による所望の効果は得られず、一
方、0.10%を超えると過剰に含有されるとコストアップ
になるだけでなく、鋼の硬化につながって利点がなくな
ることから、Ti含有量は0.005 〜0.10%、好ましくは0.
005 〜0.050 %と定めた。このとき、TiNb系の複合析出
物を形成するにはNb添加量を超えないようにすることが
望ましい。なお、Ti単独添加の場合にはTiNの析出によ
り、オーステナイト粒の微細化がはかられるが、立方体
状のTiNが遅れ破壊の起点となりやすいのに対し、TiNb
系の複合析出物は球形となり、遅れ破壊の起点とはなり
にくい。
【0036】(k) Mo:Moは所望添加成分であり、Moの添
加によって、鋼板の熱処理前 (焼入れ・焼戻し前) の加
工性を劣化させることなく熱処理後の高靱性を維持する
効果がある。一般に、鋼は焼入れ後300 ℃前後の温度で
焼戻しをするといわゆる「低温焼戻し脆化」を生じて著
しく脆くなる。ところが所望の硬度を得たいときなどど
うしても上記温度での焼戻しが必要な場合がある。実
際、前記「低温焼戻し脆化」は特に板厚の厚い試料の場
合に顕著であって薄板では軽減される傾向があるため、
時にこの温度での焼戻しが採用されることがある。しか
し、その場合、使用状況によりやはり靱性の低下が問題
となる。このような脆化に対しても、Moの添加は非常に
有効である。しかし0.50%以上のMoの添加はCu添加によ
る水素吸収抑制効果を相殺する特性をもつことから上限
を0.50%とし、含有量は0.10〜0.50%と定めた。
【0037】(l) CuCuは、所望添加成分であって、焼入
れ性に対する効果はあまり大きくないが、表面に硫化物
の皮膜を形成し、水素の侵入に対する抑制効果が顕著で
ある。この効果により表層における割れ起点の発生が押
さえられる。この効果は0.05%以上で確認されている
が、0.50%超ではこの効果が飽和する。ところで通常の
鋼では転炉鋼、電気炉鋼により異なるがCuは0.05%未満
まで不可避的に含有される。しかし、水素脆性による割
れ防止には0.05%以上が必要であることから成分範囲を
0.05〜0.50%と設定した。
【0038】(m) B:Bの添加は、所望によって行えば
よい。焼戻しあるいはオーステンパ時のオーステナイト
粒界に対するPの析出、あるいは粒界でのセメンタイト
フィルムの形成抑制等の効果があることから、0.0003%
以上の若干の添加は耐遅れ破壊性あるいは靱性の向上に
効果がある。しかし、過度の添加はFe23(CB)6 を形成し
これを起点とした脆性破壊の危険性があることから添加
量の上限は0.0025%とする。
【0039】(n) 冷間圧延前焼鈍条件:冷間圧延前の焼
鈍は、冷間圧延の効率化を図るために熱延板の硬度が高
い場合、必要に応じて実施するものとする。このとき、
焼鈍温度の下限はセメンタイトの球状化を効率的に促進
する目的から Ac1−70℃とした。また上限は、セメンタ
イトのラメラ化の抑制と、熱エネルギーの効率化を目的
として Ac1+50℃と設定した。また、均熱時間はセメン
タイトの球状化促進を目的として4h 以上としたが、熱
エネルギーの効率化、およびセメンタイトへのCr、Moの
固溶を抑制する目的から上限を24h とするのが望まし
い。Ac1 以上の温度域にて焼鈍を行う際は、コイル内の
温度分布の均一化および冷却速度の均一化を図る目的で
雰囲気を100%水素とすることが望ましい。
【0040】(o) 冷間圧延圧下率:これら製品は、自動
車部品、機械部品として用いられその板厚精度が重要と
なる。このことから板厚精度の確保のため圧下率10%以
上の冷間圧延を実施するものとする。また圧下率が80%
を超えた場合、材料硬度が過度に上昇し、板厚側端部の
割れが生じることから圧下率の上限を80%とした。精度
確保のための20%以上の冷間圧延率、割れ発生防止のた
めの75%の冷間圧延率上限の設定が望ましい。なお、こ
こに「圧下率」は板厚の減少量で定義されるものであっ
て、一連の冷間圧延での合計圧下率である。
【0041】(p) 冷間圧延後焼鈍条件:冷延鋼板の成形
性向上を目的として、冷延鋼板にはいずれも箱焼鈍を実
施する。焼鈍温度の下限はセメンタイトの球状化を効率
的に促進する目的からAc1 −70℃とした。上限は、セメ
ンタイトのラメラ化の抑制と、熱エネルギーの効率化を
目的として Ac1+50℃と設定した。温度下限を650 ℃、
上限を Ac1+20℃と設定するのが望ましい。均熱時間は
セメンタイトの球状化促進を目的として4h 以上とした
が、熱エネルギーの効率化、およびセメンタイトへのC
r、Moの固溶を抑制する目的から上限を24h とするのが
望ましい。Ac1 以上の温度域にて焼鈍を行う際は、コイ
ル内の温度分布の均一化および冷却速度の均一化を図る
目的で雰囲気を100 %水素とすることが望ましい。
【0042】(q) その他:通常の鋼においてもSは低い
方がよいが、特に本発明に係わるような高強度鋼板で
は、MnS の存在が靱性劣化に及ぼす影響は著しい。この
ため、Mn含有量を低減した上でS含有量を0.0040%以下
に抑えるのが好ましい。
【0043】以上のようにして製造された薄鋼板は、通
常、ユーザにて加工され、次いで焼入れ、焼戻し、ある
いはオーステンパ処理等の熱処理が行われて所望の硬さ
・性能を備えた製品となる。続いて、本発明の効果を実
施例により比較例と対比しながら説明する。
【0044】
【実施例】
(実施例1)表1に示す組成を有する鋼を溶製し、加熱=
1200℃×1h、仕上げ=850 ℃、巻取り=550 ℃の条件で
熱間圧延そして圧下率50%の条件で冷間圧延を経て板厚
1.8mm の薄鋼板とした。各供試薄鋼板から試験片を切り
出し、各種の試験に供した。
【0045】表1の鋼種A〜Hは本発明例であり、鋼種
I〜L本発明の範囲を外れる比較例である。図1および
図2は、表2に示すオーステンパ処理による硬度変化を
グラフで示す。図3および図4は、表3および表4に示
すオーステンパ処理後の引張強度と耐遅れ破壊性との相
関をグラフで示す。
【0046】このとき遅れ破壊耐久性はスリット付の4
点曲げ試験片に低曲げ歪を付加し、55℃の温水中に保持
する方法にて評価した。図1に示すように、鋼種A〜C
では、Cr量の増大により同一オーステンパ温度条件下で
の硬度は増大する。また、Tiを添加した鋼種Dも同一
C、Cr量の鋼種Bと同じ硬度変化を示している。これに
対して、鋼種Iは炭素量が本発明の範囲よりも低く硬度
は低く推移する。また鋼種Jでは炭素量が本発明の範囲
よりも高く他の発明鋼種よりも高い硬度値を示す。
【0047】図2に示すように鋼種E〜Fでは、Mo、Cu
の添加により同一オーステンパ温度条件下での硬度は鋼
種Bよりも高い値を示す。また、Bを添加した鋼種Gは
炭素量が低いために他の鋼種よりも低い値を示す。この
他、Mo、Cu、B全てを添加した鋼種HはE〜H中で最も
高い値を示す。これに対して、鋼種K、Lは本発明鋼と
ほぼ同じ硬度値で推移するが、鋼種I〜Lはいずれも本
発明の特徴の一つであるNbが添加されていない。オース
テンパ後の遅れ破壊耐久性と引張強度との相関を図3お
よび図4にグラフで示す。
【0048】まず、鋼種Aは鋼種Bに比べて同一強度を
確保するためにオーステンパー温度を低くする必要があ
るが、このため図3に示すように、同一強度での遅れ破
壊耐久時間は鋼種Bが優れている。また、鋼種CはCr量
が高いため、同一オーステンパ条件では硬度が高すぎ、
良好な耐遅れ破壊特性が確保できない。また、鋼種Dで
は、Tiの添加により同一C、Cr量の鋼種Bよりもやや優
れた耐遅れ破壊特性を示す。これに対して、鋼種Iでは
C量が低く、同一硬度の確保のために低いオーステンパ
温度が必要となること、さらにNbの添加がないことか
ら、耐遅れ破壊特性は本発明にかかるA〜Dの各鋼種に
対して低くなる。さらに、鋼種JではNbが無添加である
ことからオーステナイト粒が粗大化し耐遅れ破壊性は低
くなっている。
【0049】次に、図4に示すように、鋼種E、F、H
は、鋼種B、Dと同様に1700〜1800MPa の強度域では、
遅れ破壊性は400h以上と比較用の鋼種L、Kよりも良好
である。また、鋼種Gは本発明の範囲内であるがC量が
低く1500MPa 域では鋼種L、Kよりも良好であるが、17
00MPa 域では耐久性は劣化していることから、炭素量は
0.50%程度とするのが望ましい。
【0050】(実施例2)実施例1と同様にして、各供試
鋼を用意し、各特性の評価を行った。表5、表6には鋼
種AA〜ATまでの本発明範囲内の鋼種と鋼種AU〜BEまでの
比較鋼の熱処理後の強度と耐遅れ破壊性の調査結果をま
とめて示す。特に、鋼種BDに示すように、Nが本発明の
範囲を下回った場合、上記のような効果的なオーステナ
イト粒の微細化がなされず、遅れ破壊耐久性は劣化して
いる。
【0051】(実施例3)実施例1に示した鋼種A〜Lに
対して表7に示す冷間圧延・焼鈍条件を適用した際の製
品硬度と、板厚精度について表7に示す。この結果、本
発明鋼板に本発明の冷間圧延・焼鈍条件を適用した場合
はいずれも板厚精度が良好でかつ、材料硬度が低い成形
性に優れた鋼種であることが確認された。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
【表4】
【0056】
【表5】
【0057】
【表6】
【0058】
【表7】
【0059】
【発明の効果】以上に示すように、本発明の鋼種は1700
〜1800MPa の強度域での耐遅れ破壊性が従来鋼種よりも
優れており、これはNb、Vの添加の有効性を示してい
る。
【図面の簡単な説明】
【図1】オーステンパ温度とオーステンパ後硬度との関
係を示すグラフである。
【図2】オーステンパ温度とオーステンパ後硬度との関
係を示すグラフである。
【図3】オーステンパ処理後の引張強度と遅れ破壊耐久
時間との関係を示すグラフである。
【図4】オーステンパ処理後の引張強度と遅れ破壊耐久
時間との関係を示すグラフである。

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 重量割合にて C:0.30 〜0.70%、Si:0.15 〜0.50%、Mn:0.05 〜1.00
    %、P:0.030%以下、Cr:0.50 〜2.00%、V:0.05 〜0.
    50%、Nb:0.005〜0.100 %、sol.Al:0.08 %以下、N:
    0.0020 %超〜0.0100%、残部実質的にFeから成る鋼組
    成を有するバネ性と靱性に優れた高炭素薄鋼板。
  2. 【請求項2】 重量割合にて、さらにMo:0.10 〜0.50
    %、Cu:0.05 〜0.50%、およびB:0.0003 〜0.0025%か
    ら成る群から選んだ1種または2種以上を含む、請求項
    1記載の高炭素薄鋼板。
  3. 【請求項3】 重量割合にて、さらにTi:0.005〜0.10%
    を含む、請求項1または2記載の高炭素薄鋼板。
  4. 【請求項4】 請求項1〜3のいずれかに記載の鋼組成
    を有する鋼片を熱間圧延の後、圧下率10〜80%の冷間圧
    延および Ac1−70℃〜 Ac1+50℃の温度域で4h 以上均
    熱する箱焼鈍を1回以上行うことを特徴とする高炭素薄
    鋼板の製造方法。
  5. 【請求項5】 前記熱間圧延の後、前記冷間圧延および
    箱焼鈍に先立って、Ac1 −70℃〜 Ac1+50℃の温度域で
    4h 以上均熱する箱焼鈍を行う、請求項4記載の高炭素
    薄鋼板の製造方法。
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