JPH05163148A - 抗腫瘍剤 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【構成】 下式（Ｉ） 【化１】 で表わされるジケトピペラジン誘導体またはその薬学的
に許容される酸付加塩を有効成分とする抗腫瘍剤。 【効果】 上記式（Ｉ）で表わされるジケトピペラジン
誘導体またはその薬学的に許容される酸付加塩は優れた
抗腫瘍活性を示し毒性が低いので、これを有効成分とす
る本発明の抗腫瘍剤は癌の治療に有効かつ安全に使用で
きる。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は抗腫瘍剤に関する。さら
に詳しくは、下式（Ｉ）

【０００２】

【化１】 で表わされるジケトピペラジン誘導体［化学名：３，６
−ビス（１−アジリジニルメチル）ピペラジン−２，５
−ジオン］またはその薬学的に許容される酸付加塩を有
効成分とする抗腫瘍剤に関する。

【０００３】

【従来の技術】癌はわが国の死因の第１位を占め、働き
盛りの年齢層の死者も多いことから、その治療は現代医
療の最も重要な課題の一つとなっている。癌の治療法と
しては外科療法、化学療法、放射線療法または免疫療法
等が挙げられ、それらは単独あるいは複数の組み合わせ
で施行される。なかでも手術不適応の症例、例えば白血
病のような全身性の癌や、転移の観察される進行癌に対
しては化学療法が中心的役割を担っている。近年、新規
な抗腫瘍剤の登場や、多剤併用療法の進歩にともなっ
て、癌の化学療法の成績は著しく向上してきている。し
かし、癌の生物学的特徴である多様性や不均一性、ある
いは抗腫瘍剤に対する薬剤耐性の問題を克服するには十
分とはいえず、新規な抗腫瘍剤の開発が待望されてい
る。抗腫瘍スペクトラムおよび薬剤耐性がその有効成分
の化学構造に大きく依存することから、従来の抗腫瘍剤
の有効成分の化学構造とは異る化学構造の物質を有効成
分とする抗腫瘍剤が望まれる。

【０００４】さて、前記の式（Ｉ）で示されるジケトピ
ペラジン誘導体は、（＋）−シス−３，６−ビス（アミ
ノオキシメチル）ピペラジン−２，５−ジオンとエチレ
ンイミンとの脱離−付加反応の成績体として記載されて
いる公知の化合物であるが〔Archiv der Pharmazie und
Berichte der Deutschen Pharmazeutischen Gesellsch
aft ，312 巻，963 頁（1979年) 〕、その抗腫瘍効果に
ついては何ら知られていない。

【０００５】

【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、従来
の抗腫瘍剤の有効成分とは化学構造を異にする化合物を
有効成分とする、優れた抗腫瘍剤を提供することにあ
る。

【０００６】

【課題を解決するための手段】鋭意検討を重ねた結果、
本発明者らは前記式（Ｉ）で表わされるジケトピペラジ
ン誘導体〔以下、化合物（Ｉ）と呼ぶ〕またはその薬学
的に許容される酸付加塩が優れた抗腫瘍効果を有するこ
とを見出し、この知見をもとに本発明を完成した。

【０００７】化合物（Ｉ）は、ピペラジン環上の置換基
の立体配置により、トランス体（メソ体）および２種類
のシス体〔（３Ｒ，６Ｒ）−体および（３Ｓ，６Ｓ）−
体〕の合計３種類の立体異性体が存在し得るが、本発明
は、これら異性体、これらの混合物、あるいはこれらの
薬学的に許容される酸付加塩を有効成分とする抗腫瘍剤
を包含する。

【０００８】化合物（Ｉ）の薬学的に許容される酸付加
塩としては、例えば、塩酸、硫酸等の無機酸の酸付加
塩、酢酸、シュウ酸、マレイン酸、フマル酸、パラトル
エンスルホン酸等の有機酸の酸付加塩を挙げることがで
きる。

【０００９】化合物（Ｉ）は、Archiv der Pharmazie u
nd Berichte der Deutschen Pharmazeutischen Gesells
chaft, 312巻,963頁（1979年) に記載の方法に従って容
易に製造することができる。また、化合物（Ｉ）の薬学
的に許容される酸付加塩は公知の方法に従い、化合物
（Ｉ）から容易に製造することができる。

【００１０】本発明の抗腫瘍剤は、錠剤、顆粒剤、散剤
並びにカプセル剤などの各種経口投与製剤、並びに注射
剤などの非経口投与用の各種製剤を包含する。

【００１１】錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の経口
投与用製剤は、化合物（Ｉ）またはその薬学的に許容さ
れる酸付加塩を通常の医薬添加物、例えば、乳糖、合成
ケイ酸アルミニウム、ブドウ糖、デンプン、結晶セルロ
ース等の賦形剤、カルボキシメチルセルロース、アルギ
ン酸ナトリウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウ
ム、タルク等の滑沢剤あるいはヒドロキシプロピルセル
ロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビ
ニルピロリドンなどの結合剤と混合し、常法により製剤
化することによって製造することができる。

【００１２】注射剤は、化合物（Ｉ）またはその薬学的
に許容される酸付加塩を例えば水に溶解し、これにマン
ニトール、塩化ナトリウム、グルコース、ソルビット、
グリセロール、キシリトール、フルクトース、マルトー
ス、マンノース等の等張化剤を加え、要すればさらに亜
硫酸ナトリウム、アルブミン等の安定化剤およびベンジ
ルアルコール等の防腐剤を加えて常法により製造され、
あるいは常法により凍結乾燥し用時溶解用の凍結乾燥粉
末とされる。

【００１３】本発明の抗腫瘍剤は、通常、経口または注
射により投与する。投与量は、患者の病態、年令、体表
面積等により異るが、通常、成人に対し経口投与する場
合は１回当り化合物（Ｉ）として０．５〜１００ｍｇ／
ｍ²（体表面積）であり、注射による投与の場合は１回
当り化合物（Ｉ）として０．２５〜５０ｍｇ／ｍ²（体
表面積）であって、この量が通常、１日１回の割合で連
日あるいは一定期間の休薬日をおきながら投与される。

【００１４】

【発明の効果】化合物（Ｉ）は、優れた抗腫瘍効果を示
し、かつ安全である。例えば腹水癌を移植したマウスを
用いて試験したところ、化合物（Ｉ）の立体異性体はい
ずれも腹水癌に対し低用量で優れた抗腫瘍効果を示し治
療係数は１３〜２２と安全域が広かった（後記試験例１
参照）。また、大腸癌を移植したマウスを使用した試験
でも、化合物（Ｉ）の立体異性体はいずれも低用量で癌
の増殖を１００％抑制し、毒性によるマウスの死亡例は
認められなかった（後記試験例２参照）。さらに、ヌー
ドマウスに移植したヒト乳癌に対しても化合物（Ｉ）の
立体異性体はいずれも低用量で優れた抗腫瘍効果を示
し、毒性によるマウスの死亡例は認められなかった（後
記試験例３参照）。

【００１５】従って、化合物（Ｉ）またはその薬学的に
許容される酸付加塩を有効成分とする本発明の抗腫瘍剤
は、癌の治療に有効かつ安全に使用し得る。

【００１６】以下に試験例を挙げて本発明を詳細に説明
する。

【００１７】試験例１ （マウス腹水癌に対する抗腫瘍
効果） ａ）試験化合物 ・化合物（Ｉ−ａ）：トランス−３，６−ビス（１−ア
ジリジニルメチル）ピペラジン−２，５−ジオン［化合
物（Ｉ）のトランス体］ ・化合物（Ｉ−ｂ）：ｄｌ−シス−３，６−ビス（１−
アジリジニルメチル）ピペラジン−２，５−ジオン｛化
合物（Ｉ）の２種のシス体〔（３Ｒ，６Ｒ）−体および
（３Ｓ，６Ｓ）−体〕よりなるラセミ体｝ ｂ）使用動物および癌細胞 使用動物：ＣＤＦ₁雄性マウス（６週齢、一群６匹） 癌細胞：Ｐ３８８（マウス白血病） ｃ）試験方法 マウスの腹腔内に、一匹当り１×１０⁶ 個の癌細胞を移
植し、その１、５および９日後に各１回ずつ計３回、試
験化合物を生理食塩水に溶解してマウスの腹腔内に投与
した。一方、対照群マウスには、試験化合物の生理食塩
水溶液の代わりに生理食塩水のみを腹腔内に投与した。
癌細胞移植後３０日目までマウス生存日数を観察し、試
験化合物投与群マウスの平均生存日数（Ｘ）および対照
群マウスの平均生存日数（Ｙ）を求め、下式に従って延
命率（ＩＬＳ％）を算出した。

【００１８】 また、最小有効量（用量−作用曲線から求めた延命率３
０％を示す投与量）と至適投与量（最大の延命率を示す
投与量）から治療係数（治療係数＝至適投与量÷最小有
効量）を算出した。 ｄ）試験結果 試験結果を表１に示す。なお、表１において投与量（ｍ
ｇ／ｋｇ）は、試験化合物１回当りの投与量を意味す
る。

【００１９】

【表１】 この様に、化合物（Ｉ）は低用量で有効であり、治療係
数は大きいので有効かつ安全である。

【００２０】試験例２ （マウス固型癌に対する抗腫瘍
効果） ａ）試験化合物 試験例１に同じ。 ｂ）使用動物および癌細胞 使用動物：ＣＤＦ₁雄性マウス（６週齢、一群６匹） 癌細胞：Ｃｏｌｏｎ２６（マウス大腸癌） ｃ）試験方法 マウス皮下に一匹当り５×１０⁵個の癌細胞を移植し、
その１、５および９日後に各１回ずつ計３回、試験化合
物を生理食塩水に溶解してマウスの腹腔内に投与した。
一方、対照群マウスには、試験化合物の生理食塩水溶液
の代わりに生理食塩水のみを腹腔内に投与した。

【００２１】腫瘍移植後１４日目に腫瘍重量を量り、試
験化合物投与群マウスの平均腫瘍重量（Ｗ_T）および対
照群マウスの平均腫瘍重量（Ｗ_C）を求め、下式に従っ
て腫瘍増殖抑制率［ＧＩＲ（％）］を算出した。

【００２２】 ｄ）試験結果 試験結果を表２に示す。表２において投与量（ｍｇ／ｋ
ｇ）とは、試験化合物１回当りの投与量を意味する。本
試験の投与量で試験化合物の毒性に基づくマウスの死亡
例はなかった。

【００２３】

【表２】 試験例３ （ヌードマウス可移植性ヒト癌に対する抗腫
瘍効果） ａ）試験化合物 試験例１に同じ。 ｂ）使用動物および癌細胞 使用動物：ＢＡＬＢ／ｃ雄性ヌードマウス（５週齢、１
群６匹） 癌細胞：ＭＸ−１（ヌードマウス可移植性ヒト乳癌） ｃ）試験方法 ＭＸ−１をメスで約３ｍｍ角に細切し、トロッカー針を
用いてヌードマウスの片側背部皮下に移植した。移植後
１０日より腫瘍の長径（Ｌｍｍ）および短径（Ｗｍｍ）
を測定し、腫瘍重量（Ｌ×Ｗ²／２で計算して求めた
値）が１００〜３００ｍｇに達した時点を試験開始日と
した。試験開始日およびその４日後に、生理食塩水に溶
解した試験化合物を腹腔内に投与し〔試験化合物（Ｉ−
ａ）の１回当たり投与量：２．５ｍｇ／ｋｇ、試験化合
物（Ｉ−ｂ）の１回当たり投与量：１．２５ｍｇ／ｋ
ｇ〕、対照群マウスには試験化合物の生理食塩水溶液の
代わりに生理食塩水のみを投与した。試験開始日から２
０日目まで、４日毎に腫瘍の長径と短径とを測定して腫
瘍重量を算出し、試験開始日の腫瘍重量に対する比（相
対腫瘍重量比）を求めた。制癌効果は、試験化合物投与
群の相対腫瘍重量比（ＲＷ_T）と対照群の相対腫瘍重量
比（ＲＷ_C）を使用して、（１−ＲＷ_T／ＲＷ_C）×１０
０を計算し、この値を抗腫瘍効果率（％）として表わし
た。 ｄ）試験結果 試験結果を表３に示す。

【００２４】

【表３】 化合物（Ｉ−ａ）を１回当り２．５ｍｇ／ｋｇ投与した
群では、マウス６匹中４匹の腫瘍が完全に消失した。化
合物（Ｉ−ｂ）を１回当り１．２５ｍｇ／ｋｇ投与した
群では、マウス６匹中２匹の腫瘍が完全に消失した。本
試験の投与量で試験化合物の毒性に基づくマウスの死亡
例はなかった。

【００２５】

【実施例】以下、実施例および参考例を挙げて本発明を
説明する。

【００２６】実施例１ 注射剤の製造 トランス−３，６−ビス（１−アジリジニルメチル）ピ
ペラジン−２，５−ジオン１重量部およびマンニトール
２０重量部を１０００重量部の滅菌精製水に溶解させ、
この水溶液をメンブランフィルターで濾過した。濾液１
ｍｌずつをバイアルに充填し、凍結乾燥したのちに密栓
して１バイアル中にトランス−３，６−ビス（１−アジ
リジニルメチル）ピペラジン−２，５−ジオン１ｍｇを
含む用時溶解用の注射剤（凍結乾燥製剤）を得た。本剤
は用時１ｍｌの滅菌精製水に溶解して使用する。

【００２７】実施例２ 注射剤の製造 実施例１のトランス−３，６−ビス（１−アジリジニル
メチル）ピペラジン−２，５−ジオンの代わりにｄｌ−
シス−３，６−ビス（１−アジリジニルメチル）ピペラ
ジン−２，５−ジオンを用いる他は実施例１の場合と同
様にして１バイアル中にｄｌ−シス−３，６−ビス（１
−アジリジニルメチル）ピペラジン−２，５−ジオン１
ｍｇを含む注射剤を得た。

【００２８】実施例３ 錠剤の製造 トランス−３，６−ビス（１−アジリジニルメチル）ピ
ペラジン−２，５−ジオン５重量部、乳糖８５重量部、
結晶セルロース５０重量部、ヒドロキシプロピルメチル
セルロース１０重量部、カルボキシメチルセルロース４
０重量部に水１００重量部を加えて充分練合したのち、
練合物を粗砕して乾燥した。得られた乾燥物にステアリ
ン酸マグネシウム１０重量部を加えて混合し、顆粒を得
た。打錠機でこの顆粒を直径５ｍｍ、重量４０ｍｇの錠
剤に圧縮成形し、１錠中にトランス−３，６−ビス（１
−アジリジニルメチル）ピペラジン−２，５−ジオン１
ｍｇを含有する錠剤を得た。

【００２９】参考例１ トランス−３，６−ビス（１−アジリジニルメチル）ピ
ペラジン−２，５−ジオン［化合物（Ｉ−ａ）］および
ｄｌ−シス−３，６−ビス（１−アジリジニルメチル）
ピペラジン−２，５−ジオン［化合物（Ｉ−ｂ）］の製
造 以下の（１）〜（３）により［化合物（Ｉ−ａ）］およ
び［化合物（Ｉ−ｂ）］を製造した。 （１）３，６−ジメチレンピペラジン−２，５−ジオン
の製造 Ｄ−シクロセリン３０．５ｇ（０．３０モル）および酢
酸６２ｍｌをエタノール１．５リットルに溶解し４５分
間加熱還流した。放冷後、析出した結晶を濾取し熱エタ
ノール３００ｍｌで３回洗浄してシス−３，６−ビス
（アミノオキシメチル）ピペラジン−２，５−ジオン２
５．１ｇを得た。次いでこれを０．００８Ｎ水酸化ナト
リウム水溶液３．３リットルに溶解し、室温で３時間撹
拌した。反応混合物を冷蔵庫中に１晩放置し、生成した
結晶を濾取し水洗して３，６−ジメチレンピペラジン−
２，５−ジオン１１．１ｇを得た。

【００３０】¹Ｈ−ＮＭＲ（６０ＭＨｚ，ＤＭＳＯ−
ｄ₆）δppm ：１０．９０（２Ｈ，ｂｒ），５．３５
（２Ｈ，ｓ），５．０１（２Ｈ，ｓ）．

【００３１】（２）トランス−３，６−ビス（１−アジ
リジニルメチル）ピペラジン−２，５−ジオン［化合物
（Ｉ−ａ）］の製造 ５２ｍｌの水に溶解した２−クロロエチルアミン塩酸塩
３２．５ｇ（０．２８モル）に１４Ｎ−水酸化ナトリウ
ム水溶液５０ｍｌを３０分間かけてゆっくり滴下し、５
０℃で２時間撹拌した。反応混合物を減圧下（３０〜４
０ｍｍＨｇ）で蒸留し、１５％エチレンイミン水溶液４
１ｇを得た。この水溶液に３，６−ジメチレンピペラジ
ン−２，５−ジオン３．５ｇ（２５．３ミリモル）を加
え、室温で２４時間撹拌した。不溶物を濾過し、濾液を
減圧下で濃縮した。残渣にアセトニトリルを加えて結晶
化させ、結晶を濾取して［化合物（Ｉ−ａ）］３．２４
ｇを得た。

【００３２】融点：２５６℃付近で分解¹ Ｈ−ＮＭＲ（３００ＭＨｚ，ＤＭＳＯ−ｄ₆）δppm：
７．９８（２Ｈ，ｓ），３．８７（２Ｈ，ｍ），２．８
０（２Ｈ，ｄｄ，Ｊ＝１２．１Ｈｚ，３．７Ｈｚ），
２．２２（２Ｈ，ｄｄ，Ｊ＝１２．１Ｈｚ，３．３Ｈ
ｚ），１．５６（４Ｈ，ｍ），１．２３（２Ｈ，ｍ），
１．１６（２Ｈ，ｍ）． 元素分析値（Ｃ₁₀Ｈ₁₆Ｎ₄Ｏ₂として）： 計算値（％）：Ｃ，５３．５６；Ｈ，７．１９；Ｎ，２４．９８． 実測値（％）：Ｃ，５３．４０；Ｈ，７．０１；Ｎ，２４．８１．

【００３３】（３）ｄｌ−シス−３，６−ビス（１−ア
ジリジニルメチル）ピペラジン−２，５−ジオン［化合
物（Ｉ−ｂ）］の製造 上記（２）の［化合物（Ｉ−ａ）］濾取後の濾液を減圧
下に濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ
ー［展開溶媒：メタノール−クロロホルム（１５：８
５）］により精製し、化合物（Ｉ−ｂ）０．２８ｇを得
た。

【００３４】融点：１８２℃付近で分解¹ Ｈ−ＮＭＲ（３００ＭＨｚ，ＤＭＳＯ−ｄ₆）δppm
：８．０９（２Ｈ，ｓ），３．８７（２Ｈ，ｍ），
２．７３（２Ｈ，ｄｄ，Ｊ＝１１．９Ｈｚ，６．２Ｈ
ｚ），２．２１（２Ｈ，ｄｄ，Ｊ＝１１．９Ｈｚ，３．
３Ｈｚ），１．５７（４Ｈ，ｍ），１．２３（４Ｈ，
ｍ）． 元素分析値（Ｃ₁₀Ｈ₁₆Ｎ₄Ｏ₂・１／４Ｈ₂Ｏとして）： 計算値（％）：Ｃ，５２．５０；Ｈ，７．２７；Ｎ，２４．４９． 実測値（％）：Ｃ，５２．３８；Ｈ，７．０６；Ｎ，２４．５７．

Claims (1)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 下式（Ｉ） 【化１】 で表わされるジケトピペラジン誘導体またはその薬学的
   に許容される酸付加塩を有効成分とする抗腫瘍剤。