JPH0423104B2 - - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】 本発明は、内燃機関に用いられる油掻きピスト
ンリング係るものである。

この油掻きピストンリング１（以下油掻きリン
グと称する）は第１図に示す如くピストン２に設
けられたピストンリング溝３に装着され、更に真
円に加工されたシリンダ４内に装着されて用いら
れるものである。なお、油掻きリング１の上方に
設けられたピストンリング溝３１に装着されてい
るのは圧縮ピストンリング５である。

この油掻きリングの役割とするところは、潤滑
油が燃焼室に入らぬようにシールすること及びシ
リンダ内壁に存在する余分の潤滑油を掻き落し、
オイルパンに戻すとともにシリンダ内壁に常に適
正な潤滑油膜を形成することなどが主たる役割で
ある。

そのため、この油掻きリングに最も要求される
ことは、シリンダ内壁に対し、常に密着した状態
で摺動し得ることにある。

このために、油掻きリングについては、多くの
研究、開発が行なわれてきた。

その成果の１つとして、第２図に示す如く油掻
きリング本体１１に油窓１２を設けた一体型油掻
きリングの内周面にコイルエキスパンダ嵌合溝１
３を形成し、該嵌合溝１３にコイルエキスパンダ
６を装着した油掻きリングが広く使用に供されて
いる。

この一体型油掻きリングは、自由合口隙間を有
する状態にあつてはカム形状を呈し、真円加工さ
れたシリンダ内に装着した状態即ち、合口を閉じ
て装着時合口隙間（以下、セツトギヤツプと称す
る）とした時、初めて真円を呈するようにしてあ
り、この時の自己張力と、コイルエキスパンダの
張力によつてシリンダ内壁面を押圧しているもの
である。

しかしながら、このように自由合口隙間を閉じ
た時に初めて真円を呈するように作成されていた
一体型油掻きリングにあつては、次のような問題
点を有し、本来の油掻きリングの役割を充分に発
揮させるためには好ましいことではないと言うこ
とが、本発明者の研究の結果明らかとなつた。

即ち、通常油掻きリングは、外周カム加工を施
し、次工程で自由合口隙間に切放し、その後は、
内周旋削→外周仕上げ→外周溝加工→油窓加工→
合口仕上げと加工されるが、合口仕上げ加工を除
き全て自由合口隙間を閉じた状態で加工されてい
る。従つて、真円加工されたシリンダ内壁に対し
て完全に一致した外周面形状を有する油掻きリン
グを得ることに困難があつた。

また、自由合口隙間を切放した後の内周旋削、
外周仕上げ、外周溝加工は合口が既に切放されて
いるため断続切削とならざるを得ないため、工具
寿命の短命化、切削速度を上ることができない等
の多くの問題点を有していた。

本発明は、上述の如く問題点に鑑みて、巧みな
解決策によつて問題点を一掃した油掻きリングを
提供しようとするものである。

即ち、本発明の油掻きリングは、油掻きリング
本体の内周面にエキスパンダを配置した油掻きリ
ングにして、該油掻きリング本体は、自由状態に
おいて、自由時の自由合口隙間寸法がシリンダ内
に装着した時のセツトギヤツプ寸法に等しく形成
され、且つ、真円形状を呈し、内周面にはエキス
パンダが配置された油掻きリングである。

以下、本発明を添付図面に沿つて詳細に説明す
る。なお、従来図と同一名称は同一付号を用い
た。

第３図は本発明の油掻きリングの一実施例を示
す油掻きリング本体１１の自由状態の一部断面平
面図であり、第４図は第３図のＡ−Ａ断面図であ
る。

第３図に示す本発明の油掻きリング本体は、外
周面１４に凹溝１５を有し、このことによつて、
外周摺動面１４，１４は周方向に分割されてい
る。もちろん油掻きリング本体の断面形状はこの
形状に限定されるものでなく、従来公知の第７図
に示す如く外周面が３分割された形状や第８図に
示す如く油窓を無くしたような公知の断面形状の
ものであつてもよいことは言うまでもない。

そして、前記凹溝１５から内周面に貫通するよ
うに油窓１２が周方向に断続して設けられてい
る。

本発明の油掻きリング本体１１の最も特徴とす
るところは、第３図に明瞭に描かれるように、自
由状態において、自由時の自由合口隙間Ｃ寸法が
シリンダ内に装着した時のセツトギヤツプ寸法に
等しい形成され、且つ、真円形状を呈しているこ
とである。

従つて、油掻きリング本体１１は自己張力を全
く有しないため、第５図に示す如く内周面にコイ
ルエキスパンダ嵌合溝１３が形成され、該嵌合溝
１３にコイルエキスパンダ６を装着し、コイルエ
キスパンダの張力によつてシリンダ内壁面に押圧
されるように構成する。もちろん、内周面に設け
る外周方向の張力付与手段はコイルエキスパンダ
に限定されるものでなく第６図に示す如くプレー
トエキスパンダ６１でもよいものであり、要する
に従来公知のエキスパンダを配することによつ
て、エキスパンダの張力を油掻きリング本体に伝
達するものであればよい。

このように、本発明の油掻きリングにあつて
は、油掻きリング本体１１が自由状態において、
自由時の自由合口隙間Ｃ寸法がシリンダ内に装着
した時のセツトギヤツプ寸法に等しく形成され、
且つ、真円形状を呈した油掻きリング本体である
がため、真円加工されたシリンダ内に装着された
とき、油掻きリングの外周面はシリンダ内壁面に
完全に一致した油掻きリングが極めて容易に得ら
れるものである。

即ち、本発明の油掻きリングの加工に当つては
真円リング素材を製作し、該素材を外周真円加工
→内周真円旋削→外周真円仕上げ→外周真円溝加
工→油窓加工と合口を切放すことなく、シリンダ
内径と同一径の真円加工を施して所望形状を得、
最終外周面加工工程を外周ラツピング仕上げする
場合は、この外周ラツピング仕上げの前工程で合
口を切放し、最終外周面加工工程を研摩仕上げと
するときはこの外周面研摩仕上げ工程後に合口を
切放して製作することができる。

この時の合口切放し寸法即ち、自由合口隙間は
油掻きリング本体が真円形状を呈しているため、
油掻きリング本体がシリンダ内に装着された時要
する寸法、所謂セツトギヤツプの寸法とすればよ
い。要するに本発明油掻きリングの自由合口隙間
とセツトギヤツプとは同一寸法と言うことにな
る。

前記したように本発明油掻きリングにあつて
は、油掻きリング本体を、自由状態において、自
由時の自由合口隙間寸法がシリンダ内に装着した
時のセツトギヤツプ寸法に等しく形成し、且つ、
真円形状を呈するように構成することによつて、
油掻きリング本体の加工を従来の如くカム加工を
なくし真円加工のみによつて行うことができ、も
つて、真円加工されたシリンダに対して完全に一
致した外周面形状を呈する油掻きリングが提供で
きるものである。

しかして、従来から問題として大きく取り上げ
られてきた油掻きリング本体外周面からのオイル
漏れを顕著に防止できるものであると共に、油掻
きリング本来の機能を遺憾なく発揮するものであ
る。

以下、本発明油掻きリングの性能が優秀である
ことを立証するために、本発明油掻きリングと従
来の油掻きリングとのオイル消費量比較試験結果
を示す。

試験は本発明真円形状油掻きリングと従来のカ
ム形状油掻きリングを共にピストンリング用高級
鋳鉄材より作成し、両者とも表面処理として油掻
きリング本体の外周面及び内周面に硬質クロムめ
つきを施し、この双方の油掻きリング本体と組合
せるコイルエキスパンダをJIS SWP−Ａ材から
作成し、表面処理として、コイルエキスパンダ全
面に硬質クロムめつきを施し、実機によるオイル
消費性能比較試験を行い、同一実験を夫々３回繰
返した。

（供試機関） エンジン：デイーゼル機関 型式：水冷４サイクル 内径×工程：83mm×85mm 最高出力：65ps／4500rpm （供試油掻きリング本体） 本発明の油掻きリング本体： 自由合口隙間0.3mmセツトギヤツプ0.3mm 従来の油掻きリング本体： 自由合口隙間8.0mmセツトギヤツプ0.3mm （運転条件） Full／4700rpm……３時間運転 （燃料） 軽油 （潤滑油） 10w−30 この結果は第９図に示す如くであり、オイル消
費量は従来のカム形状油掻きリングを装着した場
合には平均値28.4gr／3Hrであつたものが、本発
明の真円形状油掻きリングを装着した場合には平
均値23.7gr／3Hrとなり、約16.5％節減という極
めて優れたオイル消費量であることが確認でき
た。

また本発明の油掻きリング本体を得るに当り、
本発明油掻きリングの二次的効果である加工性を
説明するため、外周カム加工を施した後、合口を
自由合口隙間に切放し、閉じて断続切削する従来
のカム形状油掻きリングと合口切放し前に連続切
削する本発明真円形状油掻きリングの加工性比較
試験を行つた。その結果を第１０図及び第１１図
に示す。

まず第１０図のバイト寿命は、油掻きリング本
体の削り出し初めから切削完了までを１サイクル
として測定したもので、比較試験の結果、従来の
カム形状油掻きリングは2000サイクルであつたも
のが本発明の真円形状油掻きリングでは3000サイ
クルとなり、バイト寿命は約50％向上することを
確認した。

次に、第１１図の切削速度比較試験の結果は、
従来のカム形状油掻きリングが80m／minてあつ
たものが本発明真円形状油掻きリングでは
110m／minとなり、切削速度が約37.5％向上する
ことを確認した。

このように、従来の如く合口がある為の断続切
削がなくなるので、本発明真円形状油掻きリング
のバイト寿命は約50％向上し、且つ、切削速度も
約37.5％向上するという極めて優れた二次的効果
を有することが確認できた。

なお、本発明の如く油掻きリングを得るに当つ
て、注意しなければならない点は、リング装着時
に於る応力の点であるが、本出願人の実験結果に
よれば、ピストンリング用高級鋳鉄を母材として
用いた場合は外周径Ｄ／厚さＴを34以上、スチー
ル材及びダクタイル鋳鉄を母材として用いた場合
Ｄ／Ｔを38以上と設計することによつて充分対応
できることが判明している。

そして、このＤ／Ｔを34以上もしくは38以上と
することは、油掻きリング本体断面を小さくする
ことであり、近時の重量軽減及びリングの曲げ剛
性が小さくなるためにシリンダ内壁への追従性を
向上した油掻きリングが得られることとなるもの
で優れた性能を発揮するものである。

加えて、本発明油掻きリングは、コイルエキス
パンダを組合わせた時に油掻きリング本体がコイ
ルエキスパンダを締付るようになるため、油掻き
リングをピストンリング溝に装着するとき極めて
装着性がよいと言う付随的効果も有するものであ
る。

【図面の簡単な説明】

第１図は従来の油掻きリングを装着したピスト
ンの要部断面図。第２図は第１図中の油掻きリン
グの拡大断面図。第３図は、本発明油掻きリング
の自由状態の一部断面平面図。第４図は第３図の
Ａ−Ａ拡大断面図。第５図は第３図に示す油掻き
リング本体にコイルエキスパンタを装着した使用
状態を示す要部断面図。第６図は第５図に相当す
る他の実施例を示す要部断面図。第７図第８図は
本発明の他の実施例を示す油掻きリング本体の断
面図を示す。第９図は本発明油掻きリングと従来
油掻きリングのオイル消費量の比較結果を示す図
である。第１０図は本発明油掻きリングと従来油
掻きリングのバイト寿命の比較結果を示す図であ
る。第１１図は本発明油掻きリングと従来油掻き
リングの切削速度の比較結果を示す図である。 付号の説明、１……油掻きリング、１１……油
掻きリング本体、１２……油窓、２……ピスト
ン、３……ピストンリング溝、４……シリンダ、
５……圧縮ピストンリング、６……コイルエキス
パンダ、６１……プレートエキスパンダ、Ｃ……
自由合口隙間。

Claims (1)

1. 【特許請求の範囲】 １ 油掻きリング本体の内周面にエキスパンダを
   配置した油掻きリングにして、該油掻きリング本
   体は、自由状態において、自由時の自由合口隙間
   寸法がシリンダ内に装着した時のセツトギヤツプ
   寸法に等しく形成され、且つ、真円形状を呈し、
   内周面にはエキスパンダが配置されたことを特徴
   とする油掻きリング。 ２ 前記、油掻きリング本体に於て、内周面にコ
   イルエキスパンダ嵌合溝が形成され、該嵌合溝に
   コイルエキスパンダが装着されたことを特徴とす
   る特許請求の範囲第１項記載の油掻きリング。 ３ 前記、油掻きリング本体に於て、内周面にプ
   レートエキスパンダを配置したことを特徴とする
   特許請求の範囲第１項記載の油掻きリング。