JPH0340088B2 - - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】 ａ 産業上の利用分野 本発明は、帯鋸の製造工程において、帯鋸素材
を腰入れ加工する方法に関するものでるある。

ｂ 従来の技術 一般に、材料に力を加えると一定の変形を起こ
すが、加える力を徐々に増すとそれに応じて変形
量が大となる。ところが、材料の形状、力の加え
方によつては、その加える力がある大きさに達す
ると、それ迄の変形とは全然別異の変形に突然移
行する現象すなわち座屈現象が生じる。

帯鋸の場合、上述の如き座屈現象が熱応力によ
つて起こることがある。なお、この座屈現象が生
じるメカニズムは次の如くである。

帯鋸を用いて木材、木質材料（プラスチツクを
含む）等の被切断物を切削するときには、帯鋸の
歯辺部及びその近傍に摩擦熱が発生するが、その
際に帯鋸の鋸背側の部分には摩擦熱が発生しない
ため、帯鋸の歯辺部と鋸背部との間に比較的大き
な温室勾配を生じる。しかして、歯辺部に発生す
る摩擦熱のために歯辺部近傍の縁部は長手方向に
伸びようとするが、その他の部分の抵抗により伸
びることができないため当該その他の部分に引張
力が付与され、その反作用として歯辺部近傍の縁
部に圧縮応力を生じることとなる。従つて、帯鋸
の歯辺部と鋸背部との間で膨脹する割合が大きく
異なり、歯辺部近傍の縁部が膨脹するのに伴いそ
の縁部に圧縮応力が発生すると共に当該その他の
部分に引張応力が発生し、その結果、これらの間
に応力勾配が生じる。

熱応力が大となつて帯鋸の歯辺部がある温度ま
で上昇すると、それまで平面的に伸び縮みしてい
たものが急に別の種類の変形（例えば、帯鋸が断
面くの字状に曲がる変形）が生じる。このような
変形即ち座屈を生じると、帯鋸はもはや切削不能
となり、切削作業に支障を来たすこととなる。

そこで、従来より、上述の如き摩擦熱による座
屈の発生を防止するために、帯鋸素材に腰入れ加
工を行なうようにしている。この腰入れ加工は、
帯鋸素材の巾方向の中央部分を塑性展伸処理又は
熱処理を施すことにより行なわれ、これにより歯
辺部近傍の縁部において長手方向に引張内力が付
与され、切削時に熱応力として歯辺部及びその近
傍に生じる長手方向の圧縮応力が打消されること
となつて座屈が効果的に防止される。

ところで、この種の腰入れ方法としては、ハン
マーで帯鋸素材をたたいて塑性展伸処理を行なう
古典的なハンマー打法の他に、ローラ加圧法によ
る塑性展伸処理、或いは火焔加熱法による熱処理
が従来より行なわれている。

上述のローラ加圧法は、第６図に示すように、
帯鋸素材ａの歯辺部ｂと鋸背部ｃとの間の中央部
分ｄを一対の金属ローラｅ，ｆにて強力に挾持・
押圧しつつ、その長手方向に移動させながら塑性
展伸加工する方法であり、その作業に当つては、
第７図において鎖線で示す複数の軌道Ｒに沿つて
順次ロールをかけて腰入れを行なうようにしてい
る。

また、上述の火焔加熱法は、例えば酸素−アセ
チレン焔等の火焔を第８図に示す如く帯鋸素材ａ
の中央箇所ｇに向けて吹き付けて熱処理する方法
であり、その作業に当つては、火焔を前記中央箇
所ｇに沿つて長手方向に移動させながら加熱して
腰入れを行なうようにしている。

ｃ 発明が解決しようとする問題点 しかしながら、上述のようなローラ加圧法や火
焔加熱法は次に述べるような大きな問題点があつ
た。

まず、ローラ加圧法の場合には、ハンマーで帯
鋸素材をたたいて塑性展伸処理を行なう古典的な
ハンマー打法に比べて勘やコツ等の熟練を必要と
しないが、前加工の精度の良否によつて影響を受
け易く、腰入れの局部的強弱が生じ易い。従つ
て、腰入れ強度が加工の全面に亘つて不均一とな
る場合が多く、このような場合には、再三繰り返
してローラ加圧を行なうか、或いは、ハンマー打
法を併用するようにしていた。このため、生産効
率が非常に悪く、しかも一定の加工条件下で均一
な腰入れ強度を得ることが困難であり、自動化を
図ることができないといつた大きな問題点があつ
た。

また、火焔加熱法の場合には、400℃前後の温
度となるように帯鋸素材ａの中央箇所ｇを例えば
30cmの長さずつ加熱しながら長手方向の全体を段
階的に加熱処理するのに勘やコツを必要とし、こ
のような腰入れ加工を全面に亘つて均一に行なう
には可成りの熟練を必要とする。しかも、帯鋸素
材ａの焼戻し温度は400℃位であるため、400℃前
後の火焔加熱により帯鋸素材ａに軟化を生じ、硬
さむらを生じ易い。このため、一回の火焔加熱処
理では良好な腰入れを行なうことができないのが
現状である。よつて、この方法は、作業性が悪
く、均質な製品を得ることが困難であり、自動化
を図ることも不可能であつた。

本発明は、上述の如き実状に鑑みて発明された
ものであつて、その目的は、勘やコツ等の熟練を
全く必要とすることなく能率的にかつ均質な腰入
れ加工を施すことができ、しかも自動化を図り得
る帯鋸の腰入れ方法を提供することにある。

ｄ 問題点を解決するための手段 上述の問題点を解決するために、本発明では、
帯鋸の製造工程で行なわれる腰入れ方法におい
て、帯鋸素材を焼入れ及び焼戻し処理した後に、
この帯鋸素材の歯辺部近傍の縁部に隣接しかつ前
記帯鋸素材の長手方向に延びる帯状部分を焼戻し
温度以下の所定温度に高周波誘導加熱して冷却す
ることにより、前記帯状部分の長手方向に圧縮応
力を発生せしめ、もつて前記縁部の長手方向に引
張内力を付与するようにしている。

以下、本発明の一実施例に付き第１図〜第５図
を参照して説明する。

第１図は、焼入れ及び焼戻し工程を経て得られ
た腰入れ加工すべき帯鋸素材１の平面図を示すも
のであつて、同図において、２は帯鋸素材１の一
側部に形成された歯辺部、３は歯辺部２の反対側
に形成された平坦状の鋸背部である。

また、第２図〜第４図は本発明に係る帯鋸素材
の腰入れ方法を実施するために用いられる装置を
示すものであつて、同図において、４は高周波誘
導加熱コイル、５ａ，５ｂは高周波誘導加熱コイ
ル４の側部近傍に対向配置された一対の冷却ジヤ
ケツト、６は高周波誘導加熱コイル４に高周波電
流を供給する高周波電源である。

上述の高周波誘導コイル４は、直列接続された
一連の導電性パイプ材から成り、このパイプ材の
両端が高周波電源６に接続されている。このコイ
ル４は、第２図に明示する如く、ほぼ４角形状に
それぞれ引き回されかつ互いに対向するように配
設された一対のコイル本体部７ａ，７ｂと、これ
ら一対のコイル本体部７ａ，７ｂの一端を互いに
連結する連結部８と、一方のコイル本体部７ｂの
他端に接続されかつ前記連結部８に対して平行に
配設された連結部９と、コイル本体７ａ，７ｂ及
び高周波電源６の間にそれぞれ配設されたリード
部１０ａ，１０ｂとをそれぞれ具備している。な
お、このコイル４を構成するパイプ材の中空部１
１（第３図参照）には、コイル冷却水が図外の供
給源から供給されてその内部を一方向に流動する
ように構成されている。

また、上述の冷却ジヤケツト５ａ，５ｂは、片
面に多数のパンチ孔１２をそれぞれ有する箱状部
材から成り、これらの冷却ジヤケツト５ａ，５ｂ
には図外の冷却水供給源から導入管１３ａ，１３
ｂをそれぞれ介して冷却水が供給されるようにな
つている。

さらに、既述の高周波誘導加熱コイル４及び冷
却ジヤケツト５ａ，５ｂは、図外の支持部材にて
相対位置を規制された状態で固定配置されてい
る。なお、第２図及び第４図に示す如く、冷却ジ
ヤケツト５ａ，５ｂは高周波誘導加熱コイル４に
対して帯鋸素材１の移動方向（矢印Ａ方向）の後
方側近傍位置に配置されている。

次に、このような装置を用いて帯鋸素材１を腰
入れ加工する際の手順に付き述べる。

まず、鋼板を所定形状にプレス打抜きし、焼入
れ及び焼戻し処理して得られた平板状の素材をエ
ンドレス状にすべくその両端を溶接にて互いに連
結し、その後にアサリ出し加工及び仕上げ歯研を
順次行なう。このようにして得られた帯鋸素材１
を図外の支持部材により第２図及び第３図に示す
如く垂直状に立て、この状態で支持固定する。そ
して、図外の駆動機構を作動させることにより、
前記支持部材と共に帯鋸素材１を第２図及び第４
図において矢印Ａ方向に回動させる一方、高周波
誘導加熱コイル４に高周波電源６から高周波電流
を供給し、帯鋸素材１のうち、歯辺部２の近傍の
縁部１５及び鋸背部３の近傍の縁部１６を除いた
中央の帯状部分Ｌ（第１図及び第３図参照）を、
焼戻し温度以下の温度となるように順次に移動加
熱する。これと同時に、冷却ジヤケツト５ａ，５
ｂに冷却水を供給してパンチ孔１２から冷却水を
噴射し、帯鋸素材１の中央の帯状部分Ｌを高周波
誘導加熱後に直ちに冷却する。その結果、前記帯
状部分Ｌには圧縮応力が発生すると共に、これに
対応して前記両縁部１５，１６に引張内力が付与
されることとなる。

以下に、具体例を述べる。

具体例 (1) 帯鋸素材１の材質 SKS51 (2) 帯鋸素材１の寸法 鋸背部３から歯底部１７までの幅Ｗ（第１図
参照）120mm (3) 帯鋸素材１の高周波加熱領域（帯状部分Ｌ） Ｌ＝90mmであり、かつ鋸背部３と歯底部１７
との中央箇所ｇからそれぞれ45mmの部分 (4) 加熱条件 () 高周波電源６の周波数 200kHz () 入力 15kw () 加熱温度 380℃（帯鋸素材１の焼戻し
温度 400℃） () 帯鋸素材１の移動速度 30mm／分 () 冷却液 水 () 冷却液の流量 50／分 この具体例によつて得られた帯鋸素材１の表面
の長手方向に沿う残留応力を測定したところ、第
５図に示す如き結果を得た。

第５図に示す測定結果から明らかなように、高
周波誘導加熱前の帯鋸素材１の残留応力は破線で
示される如くその全域に亘つて＋５Kgｆ／mm²程度
であつたが、高周波誘導加熱後は、帯鋸素材１の
うち高周波誘導加熱した中央の帯状部分Ｌの残留
応力は実線で示される如く−15Kgｆ／mm²程度の充
分な圧縮応力が発生しているのが認められる。そ
して、高周波誘導加熱後の帯鋸素材１のうち、前
記帯状部分Ｌ以外の領域すなわち歯辺部２の近傍
の縁部１５及び鋸背部３の近傍の縁部１６の両部
分には＋８Kgｆ／mm²程度の引張内力が発生してい
るのが認められる。

従つて、この具体例によれば、帯鋸素材１には
極めて良好な腰入れ加工がなされていることが確
認された。

このようにして得られた帯鋸は、高周波誘導加
熱にて圧縮応力が付与された中央の帯状部分Ｌの
存在により、歯辺部２の近傍の縁部１５には予め
引張内力が付与されているので、帯鋸による切削
時に歯辺部２及びその近傍の縁部１５に摩擦力が
発生してその内部に圧縮応力が生じても、前記帯
状部分Ｌ及び鋸背部３の近傍の縁部１６に引張力
を及ぼすことなく熱膨脹することとなり、従つて
大きな応力勾配を生じるおそれがない。このた
め、帯鋸の熱座屈現象の発生を効果的に防止でき
る。

このような効果を確かめるために、本例で得ら
れた帯鋸を用いて切削試験を行つたところ、熱座
屈という異常現象は全く発生せず、耐久性につい
ても従来のローラ加圧法或いは火焔加熱法による
腰入れ加工と同様であり、良好な結果を得られ
た。

ところで、本例の場合は、帯鋸素材１の両縁部
１５，１６を除いた中央の帯状部分Ｌを高周波誘
導加熱するようにしているので、高い加熱温度に
より強い腰入れをしても帯鋸素材１の在留応力分
布は巾方向に沿つてバランスすることとなり、従
つて帯鋸素材１が反り返つてしまうようなおそれ
はない。

以上、本発明の一実施例に付き述べたが、本発
明は、既述の実施例に限定されるものではなく、
本発明の技術的思想に基づいて各種の変更が可能
である。

例えば、弱い腰入れでよい場合には、帯鋸素材
１の歯辺部２近傍の縁部１５を除く全ての部分
（前記帯状部分Ｌ及び縁部１６から成る帯状部分
L′）を比較的低い加熱温度となるように高周波誘
導加熱するようにしてもよい。すなわち、この場
合には、歯辺部２と鋸背部３との間に残留応力の
アンバランスを多少生じるが、弱い腰入れ加工で
あるため帯鋸素材１が反り返つてしまうようなお
それがないからである。なお、腰入れ強度の強弱
は、高周波誘導加熱条件及び冷却条件等を調整す
ることによつて容易に調整可能である。

また、既述の実施例ではエンドレス状の帯状素
材１を回動させるようにしたが、この帯状素材１
を固定しておき、高周波誘導加熱コイル４及び冷
却ジヤケツト５ａ，５ｂを移動させて腰入れ加工
するようにしてもよい。

ｅ 発明の効果 以上の如く本発明は、帯鋸素材の歯辺部近傍の
縁部に隣接しかつ前記帯鋸素材の長手方向に延び
る帯状部分に焼戻し温度以下の所定温度に高周波
誘導加熱して冷却することによつて、前記帯状部
分の長手方向に圧縮応力を発生せしめ、もつて前
記両縁部の長手方向に引張内力を付与するように
したものであるから、簡単な高周波誘導加熱処理
にて良好な腰入れ加工が施された帯鋸を得ること
ができる。しかも、本発明によれば、高周波誘導
加熱方式を利用しているため、従来のハンマー法
や火焔加熱法の場合のような勘やコツ等の熟練を
要することなく、帯鋸素材を短時間のうちにしか
も正確に焼戻し温度以下の所要の温度に加熱する
ことができ、また従来のローラ加圧法のような面
倒な繰り返し作業を行なうことなく一回の作業に
て能率的に腰入れ加工を行なうことができる。従
つて、腰入れ加工の自動化並びに省力化を図るこ
とが可能となる。

また、高周波誘導加熱による加熱温度の調整は
容易であり、この加熱温度の調整並びに冷却条件
等の調整により、腰入れ強度の調整を正確かつ容
易に行なうことができる。

【図面の簡単な説明】

第１図〜第５図は本発明の一実施例を説明する
ためのものであつて、第１図は帯鋸素材の平面
図、第２図は本発明に係る帯鋸素材の腰入れ方法
を実施するための装置を概略的に示す斜視図、第
３図は帯鋸素材及び高周波誘導加熱コイルの要部
を示す縦断面図、第４図は前記腰入れ装置の平面
図、第５図は高周波誘導加熱処理の前後における
帯鋸素材の表面の長手方向の残留応力の測定結果
を示すグラフ、第６図及び第７図は従来のロール
加圧法による帯鋸素材の腰入れ加工方法を説明す
るためのものであつて、第６図は帯鋸素材を一対
の金属ローラにて挾持・押圧している状態を示す
断面図、第７図は帯鋸素材のローラ軌道を示す平
面図、第８図は従来の火焔加熱方法による帯鋸素
材の腰入れ加工を説明するための断面図である。 １……帯鋸素材、２……歯辺部、３……鋸背
部、４……高周波誘導加熱コイル、５ａ，５ｂ…
…冷却ジヤケツト、６……高周波電源、１５，１
６……縁部、Ｌ……縁部１５，１６を除く中央の
帯状部分、L′……縁部１５を除く帯状部分。

Claims (1)

【特許請求の範囲】
1. １ 帯鋸の製造工程で行なわれる腰入れ方法にお
   いて、帯鋸素材を焼入れ及び焼戻し処理した後
   に、この帯鋸素材の歯辺部近傍の縁部に隣接しか
   つ前記帯鋸素材の長手方向に延びる帯状部分を焼
   戻し温度以下の所定温度に高周波誘導加熱して冷
   却することにより、前記帯状部分の長手方向に圧
   縮応力を発生せしめ、もつて前記縁部の長手方向
   に引張内力を付与するようにしたことを特徴とす
   る帯鋸の腰入れ方法。