JP7708271B2 - 熱間加工用工具の製造方法 - Google Patents

熱間加工用工具の製造方法

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Description

本発明は、熱間鍛造等の熱間での塑性加工に使用される熱間加工用工具の製造方法に関するものである。
従来、被加工材を熱間で塑性加工する熱間加工用工具が使用されている。例えば、熱間鍛造に用いられる熱間鍛造用金型は、金型の使用寿命を長くする目的で、その打撃面を構成する部分(以下、打撃面または作業面と記す)に高温強度が高く耐摩耗性に優れた合金を肉盛溶接して使用されている。
例えば、本願出願人は特開2001-71086号公報(特許文献1)において、金型の基材としてJIS-SKT4相当合金を使用し、前記基材上に析出強化型Ni基合金を肉盛溶接して打撃面を形成した熱間鍛造用金型を提案している。また、特開2001-62541号公報(特許文献2)において、基材を含めた金型全体を析出強化型Ni基合金にするか、Ni基合金でなる基材を使用しかつ析出強化型Ni基合金を肉盛溶接して打撃面を形成する方法を提案している。この特許文献1や特許文献2で提案した熱間鍛造用金型では、肉盛用溶接金属として析出強化型Ni基合金であるAlloy713C、Alloy718、Alloy U520等を挙げている。
ところで、上記の析出強化型Ni基合金よりもAlやTiなどの析出強化元素を増してさらに高温強度を向上させたNi基合金が、航空機エンジン用耐熱材料やガスタービン用耐熱材料として開発されている。しかしながら、Ni基合金の場合、析出強化元素が増加するほど肉盛溶接時の高温割れや再熱割れが発生しやすくなるとされており(非特許文献1)、溶接性の観点から、析出強化元素を過剰に含有したNi基合金は、熱間鍛造金型用の肉盛用溶接金属として一般的に適していないとされている。
特開2001-71086号公報 特開2001-62541号公報
日本溶接協会特殊材料溶接研究委員会編、「スーパーアロイの溶接(耐熱・耐食合金の溶接ガイドブック)」、産報出版、p.36、p.46~48
上述したAlloy U520などの析出強化型Ni基合金を肉盛溶接して打撃面を形成した熱間鍛造用金型は優れた高温強度を有するものの、被鍛造材がNi基合金などの難加工材である場合に、打撃面の耐摩耗性が不足し、鍛造時に打撃面が塑性変形して摩耗し金型の使用寿命が著しく短くなるという問題があった。打撃面が変形した状態で熱間鍛造用金型を使用した場合、被鍛造材の形状精度が極端に悪化する。そのため、塑性変形した打撃面の補修作業が必要となり、多大な工数とコストが発生し生産性が悪化することになる。
また、打撃面の耐摩耗性を向上する目的で、析出強化元素を増した合金を肉盛用溶接金属として用いた場合、上述のように高温強度は増すものの溶接性が悪化し肉盛用溶接金属として適さないといった問題があった。Ni基合金の場合、過剰に析出強化元素を含有させると肉盛溶接時に高温割れや再熱割れの発生が顕著となる。再熱割れは溶接後熱処理中や使用中に発生する割れであるが、肉盛用溶接金属の場合であても、肉盛時に下層の肉盛層が熱影響を受けるため再熱割れが発生することがある。
打撃面に僅かでも割れを含んだ熱間鍛造用金型を使用して熱間鍛造を行った場合、鍛造中に割れ部に応力が集中し、割れが金型の打撃面から基材に進展するため、進展した割れの程度によっては、基材を含めて金型ごと交換する必要が生じることになる。
以上の観点から、熱間鍛造用金型の打撃面の肉盛用溶接金属を用いた肉盛層に関して、良好な溶接性と耐摩耗性を両立することは従来の技術において困難であった。
本発明の目的は、肉盛層を構成する肉盛用溶接金属の化学組成を最適化して、肉盛溶接時の溶接性を悪化させずに、熱間鍛造用の金敷や金型の熱間加工用工具の作業面の肉盛層に使用する場合に優れた耐摩耗性を有する熱間加工用工具の製造方法を提供することである。
本発明者は、熱間鍛造用金型や熱間鍛造用金敷の打撃面といった、熱間加工用工具の作業面に肉盛層を用いるときに、その肉盛層の耐摩耗性の不足と、耐摩耗性を向上させることによる溶接性悪化の問題を検討した。そして、肉盛用合金粉末の溶接性を悪化させない範囲で析出強化元素を合金に添加し、さらに従来の肉盛用溶接金属よりも固溶強化元素を多く合金中に含有させることで、打撃面の耐摩耗性を大きく改善できることを見出し本発明に到達した。
すなわち本発明は、合金工具鋼からなる基材と、作業面にNi基合金でなる肉盛層と、前記基材と前記肉盛層の中間に固溶強化型Ni基合金でなる中間層を有する熱間加工用工具の製造方法において、前記合金工具鋼からなる基材上に固溶強化型Ni基合金でなる中間層を形成し、前記中間層上に、肉盛溶接を順次繰返して積層させて肉盛層とし、前記肉盛層の組成が、質量%で、C:0.010~0.030%、Cr:13.0~18.0%、W:3.0~5.0%、Mo:5.0~7.0%、Co:12.0~15.0%、Al:1.0~2.8%、Ti:2.0~3.7%、Nb:0.5~1.5%、B:0.0010~0.0070%、残部はNi及び不可避的不純物でなる熱間加工用工具の製造方法である。
前記肉盛層は、組成の異なる2種類の合金粉末を混合した合金粉末を肉盛用溶接金属としたものであることが好ましく、また、上記熱間加工用工具が熱間鍛造用金型または熱間鍛造用金敷であることが好ましい。
本発明の熱間加工用工具の作業面に用いる肉盛層の合金組成は、溶接性と耐摩耗性の特性に優れているため、熱間加工用工具の作業面に肉盛溶接した際に割れの発生を抑制することが可能となる。また、この合金組成でなる肉盛層を有する熱間加工用工具は、難加工材を熱間加工する際の作業面の摩耗量が減少し熱間加工用工具の使用寿命を長くする効果を奏する。
本発明例と従来例の強度を比較する各温度における0.2%耐力を示す引張試験の結果である。
上述したように本発明の重要な特徴は、溶接性を悪化させず、かつ、肉盛用合金として熱間鍛造用金型や熱間鍛造用金敷の作業面に使用した際に優れた耐摩耗性を有する合金組成を採用したところにある。
具体的には、溶接性を極端に悪化させない固溶強化元素を合金元素として含有させることで、広い温度範囲にわたって打撃面を構成する肉盛層の強度を増し、結果として熱間加工用工具の打撃面の耐摩耗性を向上できることを見出したことに特徴がある。
例えば、熱間加工用工具の中でも、熱間鍛造用金型(金敷)には高い耐摩耗性が求められ、熱間鍛造時の熱飽和状態において、被鍛造材が約1000℃である場合に熱間鍛造用金型の打撃面は最高温度が約800℃と高温域で使用される。しかしながら、鍛造初期の打撃面の温度はそれほど高くなく、鍛造時間の経過とともに初期温度から徐々に高温まで温度上昇し熱飽和状態となる。また、熱飽和時においても打撃面を構成する肉盛層の全域が最高温度に到達するわけではなく、被鍛造材との接触機会の少ない領域、放熱しやすい金型の外側の領域、表面より内側の領域では、打撃面を構成する肉盛層が最高到達温度よりも低い温度に維持される。そのため、熱間鍛造用金型の打撃面の耐摩耗性を向上するには、高温強度だけではなく、広い温度範囲で強度を高くする必要があるといえる。
そこで、本発明においては広い温度範囲において強度を増すことが可能なMo、Wなどの固溶強化元素を肉盛用合金粉末に従来の肉盛用溶接金属よりも多く含有させ、打撃面を構成する肉盛層の耐摩耗性を向上させた。析出強化元素と比較して固溶強化元素は、ガンマプライム相(以下、γ’相と記す)の析出によるひずみを原因とした再熱割れに寄与しない。また、凝固温度範囲を極端に拡大しないため、高温割れにも寄与し難い。ゆえに、従来の析出強化型Ni基合金からなる肉盛用溶接金属よりも固溶強化元素を多く含有させれば、溶接性を悪化させずに打撃面の耐摩耗性を向上することが可能となるものである。
本発明の作業面に用いる肉盛層において、添加元素と各添加元素の範囲を規定した理由は以下の通りである。なお、特に記載のない限り質量%として記す。
<C:0.010~0.030%>
Cは、肉盛層中において炭化物を粒界に形成し、粒界を強化し肉盛層の強度を高めて耐摩耗性を向上させる効果がある。この効果を得るためには、Cを0.010~0.030%の範囲とする必要がある。Cが0.010%未満であると、肉盛層の強度が不足し十分な耐摩耗性が得られない。一方、0.030%を超えると粗大な炭化物が形成されるため肉盛層が脆化し靭延性が低下する。そのため、Cを0.010~0.030%の範囲とした。Cの好ましい上限は0.025%であり、好ましい下限は0.015%である。
<Cr:13.0~18.0%>
Crは、肉盛層の表面にCr2O3の被膜を形成し耐酸化性を向上し、さらに肉盛層の基地となるオーステナイト相(以下、γ相と記す)中に固溶して固溶強化により広い温度範囲において肉盛層の強度を高め、耐摩耗性を向上させる効果がある。この効果を得るためには、Crを13.0~18.0%の範囲とする必要がある。Crが13.0%未満であると、十分な耐酸化性が得られない。一方、18.0%を超えると脆化相であるシグマ相(以下、σ相と記す)を形成したり、粗大化するCr系炭化物を形成したりして肉盛層の靭延性を低下させる。そのため、Crを13.0~18.0%の範囲とした。Crの好ましい上限は17.0%であり、好ましい下限は14.0%である。
<W:3.0~5.0%>
Wは、肉盛層の基地となるγ相中に固溶して固溶強化により広い温度範囲において肉盛層の強度を高め、耐摩耗性を向上させる効果がある。この効果を得るには、Wを3.0~5.0%の範囲とする必要がある。Wが3.0%未満であると、肉盛層の強度が不足し十分な耐摩耗性が得られない。一方、5.0%を超えると脆化相であるミュー相(以下、μ相と記す)を形成し肉盛層の靭延性が低下する。そのため、Wを3.0~5.0%の範囲とした。Wの好ましい上限は4.5%であり、好ましい下限は3.5%である。
<Mo:5.0~7.0%>
Moは、γ相中に固溶するため固溶強化により広い温度範囲において肉盛層の強度を高め、耐摩耗性を向上させる効果がある。この効果を得るには、Moを5.0~7.0%の範囲とする必要がある。Moが5.0%未満であると、肉盛層の強度が不足し十分な耐摩耗性が得られない。一方、7.0%を超えると脆化相であるμ相やσ相を形成し肉盛層の靭延性が低下する。そのため、Moを5.0~7.0%の範囲とした。Moの好ましい上限は6.5%であり、好ましい下限は5.5%である。
<Co:12.0~15.0%>
Coは、γ相中に固溶するため固溶強化により広い温度範囲において肉盛層の強度を高め、耐摩耗性を向上させる効果がある。この効果を得るには、Coを12.0~15.0%の範囲とする必要がある。Coが12.0%未満であると、肉盛層の強度が不足し十分な耐摩耗を得られない。一方、15.0%を超えると脆化相であるμ相やσ相を形成し肉盛層の靭延性が低下する。また、Coは高価な元素であるため肉盛用合金粉末の製造コストが高くなる。そのため、Coを12.0~15.0%の範囲とした。Coの好ましい上限は14.0%であり、好ましい下限は13.0%である。
<Al:1.0~2.8%>
Alは、Niと結合してNi3Alからなるγ’相を整合析出し、析出強化により特に高温域において強度を高めて耐摩耗性を向上させる効果がある。この効果を得るには、Alを1.0~2.8%の範囲とする必要がある。Alが1.0%未満であると、高温域において肉盛層の強度が不足し十分な耐摩耗性が得られない。一方、2.8%を超えると肉盛溶接時における高温割れや肉盛溶接時の下層側の再熱割れの感受性が高くなり溶接性が悪化する。そのため、Alを1.0~2.8%の範囲とした。Alの好ましい上限は2.5%であり、好ましい下限は2.0%である。
<Ti:2.0~3.7%>
Tiは、Ni3Alのγ’相のAlサイトに置換固溶し、析出強化により特に高温域における強度を増し耐摩耗性を向上させる効果がある。この効果を得るには、Tiを2.0~3.7%の範囲とする必要がある。Tiが2.0%未満であると、高温域において肉盛層の強度が不足し十分な耐摩耗性が得られない。一方、3.7%を超えると肉盛溶接時における高温割れや肉盛溶接時の下層側の再熱割れの感受性が高くなり溶接性が悪化する。また、イータ相(η相)を析出して肉盛層の強度を低下させる。そのため、Tiを2.0~3.7%の範囲とした。Tiの好ましい上限は3.5%であり、好ましい下限は3.0%である。
<Nb:0.5~1.5%>
Nbは、Ni3Alのγ’相のAlサイトに置換固溶し、析出強化により特に高温域における強度を増し耐摩耗性を向上させる効果がある。この効果を得るには、Nbを0.5~1.5%の範囲とする必要がある。Nbが0.5%未満であると、高温域において肉盛層の強度が不足し十分な耐摩耗性が得られない。一方、1.5%を超えると肉盛溶接時の凝固の際に著しく偏析し、高温割れの感受性が高くなって溶接性が悪化する。また、デルタ相(δ相)を析出し肉盛層の強度を低下させる。そのため、Nbを0.5~1.5%の範囲とした。Nbの好ましい上限は1.3%であり、好ましい下限は0.8%である。
<B:0.0010~0.0070%>
Bは、結晶粒界を強化し高温の強度と延性を高める効果がある。この効果を得るには、Bを0.0010~0.0070%の範囲とする必要がある。Bが0.0010%未満であると、十分な粒界強化の効果を得られない。一方、0.0070%を超えると肉盛溶接時の凝固の際に、粒界に過度に偏析して低融点化合物を形成し、高温割れの感受性が高くなり溶接性が悪化する。そのため、Bを0.0010~0.0070%の範囲とした。Bの好ましい上限は0.0050%であり、好ましい下限は0.0020%である。
<残部:Ni及び不可避的不純物>
残部は実質的にNiであるが、製造上不可避的に混入する不純物は含まれる。特にSi、Mn、P、S、Zrは高温割れの感受性の悪化、Feはγ’相の析出量の低下、Oは肉盛溶接時の酸化スケールの巻込み、Nはブローホール発生の原因となり、これらの不純物元素は少ない方が好ましい。以下に、前記の不純物元素と、それ以外の代表的な不可避的不純物元素の好ましい許容範囲を記す。
Si≦1.0%、Mn≦1.0%、P≦0.01%、S≦0.01%、Fe≦1.0%、Zr≦0.03%、Mg≦0.005%、O≦0.03%、N≦0.05%。
以上、説明する本発明で用いる熱間加工用工具の作業面に用いる肉盛層は、その合金組成により肉盛溶接時における溶接性が良好であり、かつ、肉盛金属として耐摩耗性が良好であるといった効果を有することから、熱間加工用工具の作業面に肉盛溶接する溶接金属に好適である。
なお、本発明で言う「熱間加工用工具」とは、熱間加工温度に加熱された被加工材に接触して押圧し、前記被加工材を塑性変形させるときに用いる工具であり、圧延、延伸等に用いられる各種ロールもこれに含まれる。そして、本発明の熱間加工用工具の好ましい形態としては、自由鍛造やラジアル鍛造に用いる熱間鍛造用金敷や被加工材を部分的に押圧する治具、熱間型打鍛造に用いる熱間鍛造用金型等が挙げられる。そして、本発明に係る上記の肉盛層の合金組成は、特に、熱間鍛造用金型や熱間鍛造用金敷の打撃面を構成する部分に肉盛溶接する肉盛溶接金属に好適である。
<熱間加工用工具の製造方法>
次に、前述の組成を有する肉盛層を形成して、熱間加工用工具とするための一例を説明する。以下は、熱間鍛造用金型や熱間鍛造用金敷とするためのものである。
熱間鍛造用金型や熱間鍛造用金敷は基材と打撃面を構成する肉盛層から構成される。熱間鍛造用金型の大部分である基材は高い剛性を有する合金工具鋼であり、その材質としては、例えば、JIS-G4404に記された「熱間金型用」の合金やその改良合金であればよい。基材となる合金工具鋼は例えば800~1100℃の焼入れと、500~700℃の焼戻しを実施し、通常330~380HBW程度の硬さに調整すると良い。
また、本発明では合金工具鋼からなる基材と、前記の組成を有する肉盛層との間に、一種または二種の固溶強化型Ni基合金中間層を設けることができる。この中間層を介することで、基材に直接に肉盛層を形成(肉盛溶接)するよりも、各層の合金組成および機械特性が急激に変化しないため溶接性を向上させることができる。さらに、基材と打撃面を構成する肉盛層との間に発生する応力を緩和する効果が得られ、熱間鍛造用金型の使用寿命をさらに向上させることができる。この中間層はMIG溶接法などの一般的な溶接法で積層させればよい。
本発明において、打撃面に肉盛層を形成する方法として幾つかの方法がある。第1の方法としては、組成の異なる2種類の合金粉末を準備して、その異種の合金粉末を混合しながら、または、混合した合金粉末を肉盛用溶接金属として用いて肉盛溶接し、肉盛層を上記組成に調整しながら肉盛層を形成する方法である。この第1の方法では、何れか1種の合金粉末を入手可能な既存合金の合金粉末とし、もう1種の合金粉末の組成調整や配合比率を調整することで肉盛溶接後の組成を調整することが可能であり、既存合金の合金粉末を用いる点において、原料コストを低減することができる。また、組成の異なる2種類の合金粉末を用いれば、それぞれの合金粉末が有する特性の相乗効果も期待できる。
また、第2の方法としては、上記の化学組成の範囲内に成分調整した合金粉末を準備して肉盛用溶接金属とし、肉盛溶接する方法である。この第1または第2の方法を適宜選択して肉盛層を形成すると良い。
本発明において、打撃面に肉盛層を形成するには、肉盛溶接を順次繰返して積層させ、所定の厚みとする。そのための肉盛溶接方法としては、粉体プラズマ溶接法などの公知の技術を採用することができる。粉体プラズマ溶接法はTIG溶接法やガス溶接法よりも高速溶接が可能であり溶接組織が微細かつ緻密になるため、溶接性が問題となりやすい本発明のような析出強化型Ni基合金の溶接方法として適している。また、析出強化型Ni基合金は高温強度に優れている反面で難加工材であるため、ワイヤなどの溶接材料の製造が困難であるが、粉末形態であればガスアトマイズ法により比較的容易に製造できるといったメリットがある。
肉盛溶接によって、打撃面(作業面)に肉盛層を形成した熱間鍛造用金型または熱間鍛造用金敷は、そのまま熱間鍛造に使用できる。但し、肉盛溶接時に発生した応力の低減を行う場合には、500~620℃で1~10時間の熱処理を行って、応力を低減することも可能である。
また、肉盛溶接時においては基材の焼鈍温度未満の温度であれば、ヒートクラックを防止する目的で基材を予熱した状態で肉盛溶接しても良い。
(実施例1)
以下の実施例で本発明を更に詳しく説明する。実施例1では溶接性について説明する。
ラジアル鍛造用の熱間鍛造用金敷の基材としてJIS-SKT4相当合金を用意し、330~380HBW程度の硬さになるように熱処理した。
次に、基材の上に中間層として固溶強化型Ni基合金のHastelloy(登録商標) C相当合金をMIG溶接法により肉盛溶接した。このとき、後の打撃面(作業面)となる肉盛層と中間層との溶接性を改善する目的で、中間層の表面の酸化スケールをグラインダーで除いた。
中間層上に肉盛溶接するための肉盛用溶接金属の合金粉末として、2種類の異種合金粉末の混合粉末を準備しそれぞれの配合比率を変化させた。準備したのは、市販のAlloy U520相当合金(C0.016%、Cr19.2%、W1.0%、Mo6.0%、Co12.3%、Al2.0%、Ti3.2%、Nb0.01%未満、B0.0067%、残部Ni及び不可避的不純物)と、合金A(C0.024%、Cr13.5%、W5.8%、Mo6.0%、Co14.2%、Al2.2%、Ti3.4%、Nb1.9%、B0.0005%、残部Ni及び不可避的不純物)である。
ガスアトマイズ法により表1に示す化学組成を有する肉盛層を中間層の上に粉体プラズマ溶接法による肉盛溶接により、1層を2mmとして積層して打撃面を構成する肉盛層とした。なお、ガスアトマイズ法で作製した合金粉末は、粉体プラズマ溶接法に適した粒度とするため分級を実施し、63~250μmの粒度範囲とした。中間層の上の肉盛層は3層を積層するように肉盛溶接し(厚み約6mm)、1層肉盛溶接するごとに、割れや酸化スケールの噛み込みを防止するため、肉盛層の表面の酸化スケールをグラインダーで研削し除いた。
この実施例では肉盛用溶接金属を粉体プラズマ溶接法にて3層目まで溶接する際、各層の表面に目視で確認できる割れを1か所でも確認した場合、その肉盛用溶接金属は溶接性が不良(表中記号「×」)であると判定した。一方、3層目まで割れを確認できなかった場合、その肉盛用溶接金属の溶接性が良好(表中記号「〇」)であると判定した。
本発明例、従来例、比較例の溶接性の判定結果を表2に示す。本発明例と従来例の肉盛層の表面に割れは確認されず、本発明例と従来例の溶接性は良好であると判定された。一方、比較例は、2層目もしくは3層目で割れが確認されており、溶接性は不良であると判定された。比較例の場合、溶接性を悪化する一部の元素が、本発明で規定する化学組成の範囲を超えて合金中に含有しているため、肉盛溶接時の高温割れもしくは再熱割れが発生したものと考えられる。
以上の結果より、本発明例の肉盛層となる肉盛用溶接金属を用いれば肉盛溶接時における溶接性は良好であることが分かった。

(実施例2)
実施例2では耐摩耗性について説明する。
実施例1において、溶接性が良好であると判定されたNo.1と2の本発明例およびNo.11の従来例の組成を有する肉盛層を打撃面(作業面)に肉盛溶接した熱間鍛造用金敷を作製し、この金敷を用いて熱間鍛造を実施した。熱間鍛造用金敷の作製方法は実施例1と同様であるが、肉盛の溶接層数は2層とした。このときの打撃面の肉盛層の厚みは約4mmである。
熱間鍛造は高速四面鍛造機(ラジアル鍛造機)を用いて実施した。高速四面鍛造は被鍛造材を間欠回転しつつ、X字状の位置に配置された4つの金敷で4方向から同時に鍛造し、相対的に移動させることで、材料を軸方向のみに延伸させる鍛造方法である。
まずNo.1の本発明例とNo.11の従来例の肉盛用溶接金属を肉盛溶接した熱間鍛造用金敷の耐摩耗性を評価した。本発明例と従来例との耐摩耗性を正確に比較するため、高速四面鍛造機に配置される4つの熱間鍛造用金型のうち、対角線上の2つの金型(型1と型2)にNo.1の本発明例、もう2つの金型(型3と型4)にNo.11の従来例の肉盛層を有する金敷を配置した。
耐摩耗性は熱間鍛造用金敷の打撃面の摩耗量を測定することで評価した。このとき打撃面の最も摩耗した位置において、摩耗前の打撃面の表面位置を基準として摩耗深さを深さゲージにより測定し、摩耗量と定義した。
鍛造条件として、被鍛造材として析出強化型Ni基合金のAlloy718相当合金を4本鍛造し、続けて従来例と同一合金であるAlloy U520相当合金を15本鍛造した。鍛造時の鍛造荷重は700~750tonであった。また、熱間鍛造用金敷の打撃面の温度は鍛造時に初期温度から最高で約800℃まで上昇した。
鍛造後の各熱間鍛造用金敷の摩耗量の結果を表3に示す。なお、被鍛造材である析出強化型Ni基合金は合計で19本鍛造しており、本発明例と従来例の1本鍛造当りの摩耗量は、平均摩耗量を合計の鍛造本数で除して求めた。
No.2の本発明例とNo.11の従来例との比較も同様に実施した。熱間鍛造用金敷の作製方法および摩耗量の評価方法は上述の方法と全く同様である。一方、鍛造条件は異なっており、この場合の被鍛造材は1種類であり析出強化型Ni基合金のAlloy718が13本であった。鍛造時の鍛造荷重は700~750tonであった。また、熱間鍛造用金敷の打撃面の温度は鍛造時に初期温度から最高で約800℃まで上昇した。鍛造後の各熱間鍛造用金敷の摩耗量の結果を表4に示す。
表3と表4の結果より、従来例と比較し本発明例の1本鍛造当りの摩耗量は減少しており、本発明例の耐摩耗性が良好であることが分かる。摩耗量が鍛造本数に比例すると考えると、熱間鍛造用金敷の使用寿命は大きく向上するといえる。
また、No.1とNo.2の本発明例を比較した場合、1本鍛造当りの摩耗量はNo.2の方がやや良好であり、No.1の固溶強化元素および析出強化元素の含有量がNo.2よりも高いことが影響していると考えられる。
(実施例3)
実施例3では本発明例と従来例の各温度における強度について説明する。
表1に示した化学組成のうち、No.1の本発明例とNo.11の従来例を、実施例1と同様の方法で20mmの厚さまで肉盛溶接した。この肉盛層より引張試験片を複数本採取し、常温(22℃)から高温(900℃)までの各温度で引張試験を実施した。引張試験による各温度における0.2%耐力の結果を図1に示す。
従来例と比較し、どの温度においても本発明例の0.2%耐力が高く、本発明例では広い温度範囲にわたって強度が増していることがわかる。従来例のAlloy U520相当合金も固溶強化元素であるMoを多く含有するため、高温域に強度ピークを持たず低温域から高い強度を有するが、本発明例はその強度をすべての測定温度において上回っている。
前述のように熱間鍛造用金型や熱間鍛造用金敷は、熱飽和時の高温域の強度だけではなく、熱飽和に至るまでの低温域においても高い強度を付与する必要があり、本発明例を用いればそれを達成できることが分かる。
以上の実施例の結果より、本発明例は肉盛溶接時において高温割れや再熱割れは確認されず溶接性が良好であることが確認された。また、本発明例の肉盛用溶接金属を熱間鍛造用金型の打撃面として使用した場合、従来例のAlloy U520相当合金よりも耐摩耗性が優れていることが確認された。さらに、引張試験の結果から、従来例のAlloy U520相当合金と比較して、広い温度範囲にわたって本発明例の強度が高いことがわかった。
したがって、本発明例の肉盛用溶接金属による肉盛溶接を作業面に適用した場合、肉盛溶接時の溶接性を悪化させず、広い温度範囲にわたって肉盛金属の強度を増して耐摩耗性を向上し、熱間鍛造用金型を初めとする、各種の熱間加工用工具の使用寿命を長くできると言える。


Claims (3)

  1. 合金工具鋼からなる基材と、作業面にNi基合金でなる肉盛層と、前記基材と前記肉盛層の中間に固溶強化型Ni基合金でなる中間層を有する熱間加工用工具の製造方法において、
    前記合金工具鋼からなる基材上に固溶強化型Ni基合金でなる中間層を形成し、前記中間層上に、肉盛溶接を順次繰返して積層させて肉盛層とし、
    前記肉盛層の組成が、質量%で、C:0.010~0.030%、Cr:13.0~18.0%、W:3.0~5.0%、Mo:5.0~7.0%、Co:12.0~15.0%、Al:1.0~2.8%、Ti:2.0~3.7%、Nb:0.5~1.5%、B:0.0010~0.0070%、残部はNi及び不可避的不純物でなる熱間加工用工具の製造方法。
  2. 前記肉盛層は、組成の異なる2種類の合金粉末を混合した合金粉末を肉盛用溶接金属としたものである請求項1に記載の熱間加工用工具の製造方法。
  3. 前記熱間加工用工具が熱間鍛造用金型または熱間鍛造用金敷である請求項1または2に記載の熱間加工用工具の製造方法。


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