JP3357863B2 - 析出硬化型ステンレス鋼およびその製品の製造方法 - Google Patents
析出硬化型ステンレス鋼およびその製品の製造方法Info
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Description
し、溶体化状態で加工しやすく、時効処理によって高強
度、高硬度となすことができ、しかも優れた耐食性を兼
備する鋼、およびその鋼を使用した鋼製品の製造方法に
関する。
って機械的性質を変えることができ、極めて高硬度の部
材にもできるので、化学工業、薬品工業、食品工業、海
洋関連、土木・建築等の分野で、特に耐食性と高硬度を
必要とする機器に利用するのに好適である。例えば、各
種機器のシャフト、ロール (ローラー) 、軸受等の支承
・免震装置の部品、金型、刃物等の工具類、耐圧容器、
ボルト・ナット類、等の機械部品、あるいはゴルフクラ
ブのような遊具類の材料等にも使用できる。
ても使用できるだけでなく、溶接材料 (棒、ワイヤー
等) としてハードフェーシング (肉盛) に使用でき、さ
らに粉末として焼結部品の製造にも利用できる。
鋼を始めとする各種の金属材料が知られている。このよ
うな材料の使用環境は様々であるが、機器の製造コス
ト、メインテナンスコストの低減と耐久性向上 (使用寿
命の延長) の面から、材料に求められる性質はますます
高度なものになっている。さらに、精密な機器の材料と
しては加工性にも優れていることが望ましい。
粒、ペレット化等のための装置が使用されており、その
ような装置では、各種の物質に対する耐食性は勿論のこ
と、長期の使用によっても摩耗を生じないための高硬度
が必要とされる。
料コストの面からは、鉄 (Fe) をベースとする合金、例
えばステンレス鋼が望ましい。一般に、ステンレス鋼に
おいては高硬度と優れた耐食性とは相反する性質である
が、その両者を備えたステンレス鋼系の合金として下記
のようなものがある。
び耐摩耗性には優れているが、耐食性が不十分である。
また、焼入れによって高硬度になるが、その熱処理時に
歪を生じやすく、その後の仕上加工が困難である。
の加工は容易である。
好であるが、前述のような種々の用途においては更に硬
度および耐食性の向上が望まれる。
第1,167,791 号 (特公昭57−17070 号公報) 等によって
知られるもので、シリコロイ (登録商標) と呼ばれてい
る。この鋼は、珪素 (Si) を比較的多量に含有させるこ
とによって、高強度 (高硬度) と優れた耐食性を兼備さ
せた合金である。しかし、最近の使用条件の過酷化に対
処するには、強度および耐食性の一層の向上が望まし
い。
な鍛造、圧延材料 (まとめて鍛練材という) としてだけ
用いられるのではない。例えば、鋳造材 (鋳物) として
使用されたり、粉末冶金法で作製される焼結部品用の粉
末、あるいは肉盛用の棒やワイヤーとしても使用され
る。しかしながら、これまでに知られた前記のような鋼
は、これら全ての用途に必ずしも適するものではない。
型ステンレス鋼 (以下、シリコロイと記す) は、主にオ
ーステナイトとマルテンサイトの二相組織を持つ時効硬
化性の鋼である。従って、溶体化の状態では比較的低硬
度で加工性がよく、製品に加工してから時効処理を施せ
ば高強度化 (高硬度化) する。この鋼の耐食性は、SUS
304 のようなオーステナイト系ステンレス鋼に匹敵する
が、SUS 316Lの耐食性には及ばない。そこで、本発明者
は、このシリコロイを更に改良し、前記のような広汎な
用途に適するものにすることを課題として、本発明を成
した。
の基本的な特性を生かしながら、耐食性と機械的性質
(特に硬度)を共に要求される前記のような用途にふさ
わしい鋼を提供することにある。更に具体的には、耐食
性が JISの SUS 316L と同等以上で、かつ熱処理条件
(特に時効処理条件)の選定によって、到達硬度が HRC
(ロックウェルC硬度) で 54 以上になり得る鋼を提供
することにある。
する製品の製造方法であって、優れた耐食性と機械的性
質を兼備する製品の製造方法を提供することにある。
発明鋼から第4発明鋼までに大別される。なお、この明
細書において、成分含有量に関する%は、すべて質量%
を意味する。
と下記-1式で示すNi当量が溶体化の状態で図1の直線
a、b、cおよびdで囲まれる斜線領域内(線上を含
む)にある析出硬化型ステンレス鋼。
ある。
u、NbおよびTaの含有量は、下記の範囲が望ましい。
Ta: 0.1 〜6.0 % (2) 第2発明鋼 C: 0.08%以下、 Si: 2.0 〜5.0 %、 Mn: 0.05〜3.0 %、 Ni: 4.0 〜10.0%、 Cr: 6.0 %から12.0%未満、 Mo: 0.2 〜5.0 %、 Cu: 0.5 〜6.0 %、 Ti: 0.1 〜2.0 %、 Nb: 5.0 %以下、 Ta: 8.0 %以下、 残部がFeおよび不純物からなり、前記式および-1式
でそれぞれ表されるCr当量とNi当量が溶体化の状態で前
記図1の直線a、b、cおよびdで囲まれる斜線領域内
(線上を含む)にある析出硬化型ステンレス鋼。
u、Nb、TiおよびTaの含有量は、下記の範囲が望まし
い。 Cu: 0.5 〜5.0 %、Ti: 0.3 〜1.2 %、Nb: 0.1 〜2.0
%、Ta:0.1〜6.0 % (3) 第3発明鋼 C: 0.08%以下、 Si: 2.0 〜5.0 %、 Mn: 0.05〜3.0 %、 Ni: 4.0 〜10.0%、 Cr: 6.0 %から12.0%未満、 Mo: 0.2 〜5.0 %、 Cu: 0.5 〜6.0 %、 Co: 0.5 〜20.0%、 Nb: 5.0 %以下、 Ta: 8.0 %以下、 残部がFeおよび不純物からなり、前記式で示すCr当量
と下記-2式で示すNi当量が溶体化の状態で前記図2の
直線a、b、cおよびdで囲まれる斜線領域内(線上を
含む)にある析出硬化型ステンレス鋼。
ある。
u、Nb、CoおよびTaの含有量は、下記の範囲が望まし
い。 Cu:0.5〜5.0 %、 Co: 4.0〜6.0 %、Nb: 0.1 〜2.0
%、Ta:0.1〜6.0 % (4)第4発明鋼 C: 0.08%以下、 Si: 2.0 〜5.0 %、 Mn: 0.05〜3.0 %、 Ni: 4.0 〜10.0%、 Cr: 6.0 %から12.0%未満、 Mo: 0.2 〜5.0 %、 Cu: 0.5 〜6.0 %、 Ti: 0.1 〜2.0 %、 Co: 0.5 〜20.0%、 Nb: 5.0 %以下、 Ta: 8.0 %以下、 残部がFeおよび不純物からなり、前記式および-2式
でそれぞれ表されるCr当量とNi当量が溶体化の状態で前
記図1の直線a、b、cおよびdで囲まれる斜線領域内
(線上を含む)にある析出硬化型ステンレス鋼。
u、Nb、Ti、CoおよびTaの含有量は、下記の範囲が望ま
しい。 Cu: 0.5 〜5.0 %、 Ti: 0.3〜1.2 %、 Co: 4.0〜6.0
%、Nb:0.1〜2.0 %、Ta: 0.1 〜6.0 %、 本発明の製造方法は、上記の本発明鋼を素材として製造
された装置、部品等、または本発明鋼で肉盛処理等を施
された装置、部品等 (ここではこれらをまとめて「本発
明鋼製品」という)に下記の熱処理を施すことを特徴と
する。
後、冷却 時効処理: 200〜700 ℃で加熱 の溶体化処理の加熱時間は、製品のサイズに応じて決
定する。およその目安としては、製品の肉厚1インチ当
たり1〜2時間である。冷却は油冷、水冷等の急冷でよ
く、また、わずかな歪の発生をも避けたい場合には空冷
も採用できる。
なオーステナイト、マルテンサイトおよびフェライトの
混合組織となる。そのときの硬さは、およそ HRC 34 〜
38程度である。従って、この溶体化の状態で、機械加工
を施して部品の形状を整える (仕上加工を行う) ことは
容易である。
トの一部がマルテンサイト化し、更にマトリックス組織
中にNi−Si系、Ni−Ti系、Co−Ti系等の様々な金属間化
合物が析出して、製品の硬度が著しく高まる。時効処理
温度は 200〜700 ℃とするが、その範囲内で採用する温
度、および処理時間は、製品に付与したい機械的性質に
応じて変える。その温度と時間の選定次第で、 HRC 54
以上の硬度とすることが可能である。なお、処理時間
は、通常は製品の肉厚の1インチ当たり1〜3時間が望
ましい。
その耐食性および硬化特性をさらに改良したことに大き
な特徴がある。その特徴は、本発明鋼を構成する全成分
の総合的な作用に基づくのであるが、まず、各合金成分
の作用効果と含有量の限定理由を説明する。
所定量のCの含有を必須としている。しかし、多量のSi
を含有する本発明鋼では、強度はSiによってもたらされ
る特異な金属組織で確保されるので、Cの含有は必須で
はない。むしろ、Cは本発明鋼の靱性を低下させるとと
もに耐酸化性や耐食性にも悪影響を及ぼす元素である。
また、Cは、前記-1式および-2式に示すように、Ni
当量に大きく影響する成分であり、過剰に存在すると他
の成分との含有量のバランスをとるのが難しくなる。従
って、Cの含有量はできるだけ少ない方がよい。0.08%
は許容上限値であるが、0.05%以下が望ましく、更に0.
02%以下に抑えるのが一層望ましい。現今の精錬技術で
は0.01%以下の極低炭素鋼の溶製も可能である。
なく、耐熱性、耐酸化性、耐食性、高温軟化抵抗性を付
与する。また、鋼の融点を下げ、流動性を増して鋳造性
を改善する元素でもある。その含有量が 2.0%未満の場
合は、上記の特性の向上効果が十分でない。一方、Siは
強力なフェライト形成元素であるから、前記式のCr当
量に及ぼす影響を考慮して上限を 5.0%とした。
素でもある。析出硬化型のステンレス鋼では、機械的性
質に大きく影響するものではないが、金属組織の緻密化
と安定化に役立つので、0.05%以上の含有が必要であ
る。しかし、3.0%を超えると耐食性が低下し、Ni当量
が過大になって時効後の硬度 (到達硬度)が低下する。
を付与するとともに、次に述べるCrとのバランスで、鋼
のマトリックスを望ましい組織に保つのに必須の元素で
ある。これらの作用効果を得るには 4.0%以上が必要で
ある。しかし、10.0%を超えると、Ni当量の増大によっ
てオーステナイト相が増加しすぎて到達硬度が低下し、
鋼の経済性も失われてしまう。
耐酸性) 、耐熱性、耐酸化性を確保するための成分であ
る。6.0 %未満ではこれらの性質が不十分である。他
方、Crが12.0%以上になると、Cr当量が大きくなって残
留オーステナイトが増え、所定の硬度が得難くなる。 Mo:0.2 〜5.0 % Moは鋼の耐食性 (耐酸性) とともに高温強度を高めて抗
クリープ性を改善し、また靱性と耐摩耗性の向上にも寄
与する。0.2 %未満ではこれらの効果が不十分である。
Moは、フェライト生成元素であるから、その含有量が多
くなれば、Cr当量が大きくなり、高硬度化が困難にな
る。また、Moは高価な元素でもある。これらのことを総
合的に考慮して、Moの含有量は0.2 〜5.0 %と定めた。
3.5〜5.0 %) 第1発明鋼は、Cuを多量に含有することに大きな特徴が
ある。Cuは、耐食性 (特に耐酸性) の改善とともに析出
硬化に寄与する元素である。
た表1のNo.1の基本鋼 (但し、Cuは無添加) をベースと
して、Cu含有量を変化させ、時効処理後の硬度および耐
食性を調べた結果をグラフに示したものである。時効処
理の条件、硬度および耐食性の測定方法は、実施例の欄
に記載のとおりである。
0.3%のTiまたは 5.0%のCo、およその両方を添加した
鋼においてCu含有量を変化させた場合の時効処理後の硬
度および耐食性を調べた結果をも併記した。
有しない鋼の場合には、硬度が HRC54を超えるのはCuが
3.0%を超えるときである。一方、TiまたはCoを含有量
する鋼では、Cuが 0.5%以上になれば HRC 54 以上の硬
度が得られ、TiとCoをともに含有する鋼では、Cu無添加
でもHRC 54を超える硬度が得られている。
量が 2.0%以上で SUS 316 Lの耐食性に勝るようになる
ことがわかる。CoまたはTiを含有する鋼の場合は、Cuが
0.5%以上のときに SUS 316 Lの耐食性に匹敵する耐食
性になり、また、TiとCoを共に含有する鋼では、Cu無添
加でもSUS 316 L の耐食性を凌いでいる。
ない第1発明鋼では、Cuの含有量を3.0 %を超える範囲
とした。ただし、6.0 %を超えるCuは、鋼の熱間加工性
を損なうので、上限は 6.0%とする。望ましいのは 3.5
〜5.0 %である。
%) Nbは、鋼の析出硬化に寄与して高硬度化を助長し、ま
た、時効処理の際の硬化深度を大きくする作用をもつ。
従って、厚肉製品の素材として用いたときに、その時効
処理時間の短縮に役立つ。このNbは必ずしも添加する必
要はないが、添加する場合は、上記の作用効果は顕著に
なる 0.1%以上を含有させるのが望ましい。ただし、5.
0 %を超えると熱間加工性に悪影響を生じ、またCr当量
が大きくなって高硬度化が困難になるので、5.0 %を上
限とするべきである。望ましいNbの含有量は 0.1〜2.0
%である。
%) Taは、Nbと同様の作用効果を持つほか、Cuとの相乗効果
で耐食性を損なわずに高硬度化に寄与する。しかし、Ta
は高価な元素であるから、必ずしも添加しなくてもよ
い。添加する場合は、含有量として 8.0%以下でよい。
望ましいのは 0.2〜6.0 %である。
ある。相違点は、Tiを下記の範囲で含有し、かつCuの含
有量の範囲が下記のように拡大されていることにある。
熱性の向上にも寄与する。また、図3に示したように、
耐食性改善にも寄与する。これらの効果は 0.1%以上で
明らかになる。しかし、Tiの過剰添加は靱性を劣化させ
るから、その含有量は 2.0%までに抑えるべきである。
%) 図3および図4から明らかなように、Tiを含む鋼におい
ては、Cuの含有量が0.5 %以上になると到達硬度がHRC
54以上となり、また、耐食性はSUS 316 L に優るように
なる。従って、Ti含有鋼においてはCuの含有量は0.5 %
以上とした。なお、上限値(6.0%) を定めた理由は第1
発明鋼と同じである。
ある。相違点は、Coを下記に範囲で含有すること、およ
びCuの含有量の範囲が拡大されていることにある。
元素である。従って、Niの作用を補う効果がある。さら
に、Coは時効硬化性を高めて製品の強度(硬度) を向上
させるほか、図4からも明らかなように、耐食性改善に
も寄与する。これらの効果は 0.5%から顕著になり、含
有量の増加に伴って効果も大きくなるが、過剰になると
Ni当量が大きくなって高硬度化が困難になる。また、Co
は高価な成分であるからその上限は20.0%とした。Coの
望ましい含有量は 0.5〜12%である。
%) 図3および図4に示すとおり、Coを含有する鋼における
Cuの到達硬度および耐食性に及ぼす影響は、Tiを含有す
る鋼における場合とほぼ同じである。従って、第2発明
鋼と同じくCuの含有量は 0.5〜6.0 %とした。望ましい
範囲も同じである。
ある。相違点は、TiおよびCoを下記の範囲で共に含有す
ること、およびCuが任意添加成分であることにある。
ある。ところが、これら2成分が共存すると、鋼の耐食
性改善と高硬度化の効果が一層大きくなる。その理由は
未だ明らかではないが、Co−Ti系の金属間化合物の形成
が共存効果の原因であろうと推測される。
2発明鋼および第3発明鋼の場合と同じである。
%) 図3および図4から明らかなように、TiとCoを含有する
鋼は、Cuが無添加であっても到達硬度は HRC 54 以上で
あり、耐食性はSUS 316Lを凌ぐ。従って、Cuの添加は必
ずしも必要ではない。しかし、Cuの添加によって、到達
硬度は一層高くなり、また耐食性も改善される。従っ
て、特にこれらの特性の向上が望まれる場合にはCuを添
加するのがよい。ただし、含有量の上限は、第1発明鋼
と同じ理由で 6.0%とするべきである。望ましい含有量
は 0.5〜5.0 %である。
必要に応じてNbまたは/およびTaを含有させることがで
きる。その作用効果および望ましい含有量は前記のとお
りである。
鉄(Fe)と通常の不純物からなる。
04%以下に抑えるのが望ましい。そして、上記各成分の
中でCr当量およびNi当量に大きな影響を及ぼす成分の含
有量は、次に述べるように、マトリックスの組織が図2
の所定領域(斜線部)に入るように調整される。
組織を示す図であり、図2は、その一部を抽出した拡大
した図である。横軸(x軸)はCr当量 (Creq)、縦軸
(y軸)はNi当量 (Nieq) である。ただし、Cr当量とNi
当量は、下記の式および-1式または-2式でそれぞ
れ算出される。
され、この直線より上はオーステナイト域またはオース
テナイト+フェライト域である。直線bはy=19.20 −
0.81xで表され、これより下はマルテンサイト域または
マルテンサイト+フェライト域である。
し、これはy=−8.48+1.03xで表させる。直線dはフ
ェライトが80%となる条件で、y=−5.00+0.50xで表
される。従って、図1の直線a、b、cおよびdで囲ま
れる斜線領域内は、オーステナイト、マルテンサイトお
よびフェライトの3相組織の領域で、フェライトが5〜
80%の領域である。
溶体化した状態で、図1、図2の直線a、b、cおよび
dで囲まれる斜線領域内になるように定めたのは、次の
理由に基づく。なお、図1、図2の組織は、溶体化状態
での組織であるが、時効処理後もマトリックスの組織は
溶体化状態と大きくは変わらない。時効処理によって、
そのマトリックス中に各種の金属間化合物が微細に析出
して高強度(高硬度)化するのである。ただし、マトリ
ックス自体の組織に多少の変化が生じても何ら差し支え
はない。以下に述べる硬度や耐食性は、溶体化した後に
時効処理を施した状態での硬度、耐食性である。
実質的にオーステナイト領域であり、硬度が不十分であ
る。直線aとbで挟まれる領域の中でもオーステナイト
とマルテンサイトとの2相域は、硬度は高くなるが耐食
性に劣る。直線bよりも下のマルテンサイトとフェライ
トの2相領域も硬度は高いが耐食性が悪い。直線dより
も下は、フェライト量が過剰で硬度も耐食性も低い。ま
た、直線aよりも上で、直線cとdで囲まれる領域は、
耐食性には優れるが硬度が不足する。
て析出硬化能が劣り、時効処理前後の硬度差が小さい。
時効処理前に高硬度のものは加工性が劣り、低硬度のも
のは時効処理後も高硬度にはならない。
度)、耐食性および加工性がともに良好な領域は、直線
a、b、cおよびdによって囲まれる領域、即ち、オー
ステナイト、マルテンサイトおよびフェライトの三相領
域で、フェライトが5%から80%までの領域であると言
える。
る。その種類、形態は任意である。この方法を特徴づけ
る熱処理は、次の2工程からなる。
する。950 ℃より低温では、溶体化が不十分で残留オー
ステナイトが増加し高硬度化が難しい。一方、1150℃を
超える高温では、結晶粒が粗大化して靱性が低下する。
加熱時間は、前記のとおり製品の肉厚1インチ当たり1
〜2時間が適当である。
ズ (肉厚) に応じて、溶体化状態が得られる冷却速度を
確保すればよい。例えば、水冷、油冷、空冷等の方法が
採用できる。
オーステナイト、マルテンサイトおよびフェライトの3
相組織になり、その硬さはおよそHRC 34〜38程度であ
る。従って、この溶体化の状態で機械加工を施して部品
の形状を整える (仕上加工を行う) ことは容易である。
(硬度) を上げる。200℃未満の低温または 700℃を超え
るような高温では、望ましい高硬度(HRC 54以上) は得
られない。特に望ましいのは、400 〜550 ℃の範囲であ
る。なお、処理温度および処理時間は、製品に付与すべ
き機械的性質に応じて選定することができる。
鋼のNo.5、No.13 、No.21 、およびNo.32 の鋼(即ち、
第1発明から第4発明までの鋼の代表鋼)の時効処理に
おける到達硬度と時効時間の関係をグラフにしたもので
ある。試験材は径20mmの丸棒で、溶体化は1050℃×1時
間の一定、時効温度は480 ℃の一定とした。
時間が1時間以上になると到達硬度は HRC 54 以上にな
っている。
時間を3時間の一定とし、時効処理温度を変化させた場
合の到達硬度を調べた結果である。図示のとおり、時効
温度に応じて到達硬度が変化し、400 〜550 ℃の範囲で
最高硬さが得られる。
合、保持温度を変えることによって到達硬度を変えるこ
とができる。例えば、耐摩耗性向上のために硬度を重視
する場合には 400〜550 ℃の範囲を選び、硬度よりも靱
性を重視する場合には 400℃よりも低温側、または 550
℃よりも高温側を選定すればよい。なお、時効処理は、
上記のように低温での処理であるから、部品の変形を招
くおそれはほとんどない。従って、前記(1) の処理の後
に最終形状に加工してから、(2) の熱処理を施して所定
の機械的性質 (強度、硬度、靱性等) を付与することが
できる。なお、わずかな歪の発生をも嫌う場合には、よ
り低温側を選ぶのがよい。ただし、低温の処理時間で高
い到達硬度を得るには、処理時間を長くしなければなら
ない。
のインゴットに鋳造し、熱間鍛造して径20mmの丸棒の供
試材とした。これに、下記の熱処理を施して、各種の試
験を実施した。なお、表1の区分欄のI〜IVは、それぞ
れ本発明の第1〜第4発明の範疇に属することを意味す
る。図2の中に表1の鋼の位置を示した。
処理および時効処理を施し、鏡面研磨してロックウェル
硬度計にて硬度を測定した。
号A引張り試験片とし、その後に前記の時効処理を施し
た。試験はJIS B 7721 に適合する試験機により室温(2
5 ℃) で行った。
号AのVノッチ付き試験片とし、その後に前記の時効処
理を施した。試験はJIS B 7722 に適合する試験機によ
り室温(25 ℃) で行った。
記の溶体化処理および時効処理を施し鏡面研磨して試験
片とした。その表面を脱脂・洗浄し、35%の濃塩酸(25
℃) 中に8時間浸漬した後、洗浄・乾燥して重量を測定
した。試験前後の重量差から腐食速度(g/mm2 ・hr)
を求めた。
いて、時効硬化性を持たないものである。No.40 のSUS
630 は時効硬化性ではあるが、時効処理後の硬度b (以
下、到達硬度という) は低く、耐食性も不足である。N
o.41 のSUS 420J2 は焼入れ型のステンレス鋼で、その
硬度は高いが、耐食性が劣る。逆に、No.39 のSUS 316L
は、耐食性は十分であるが硬度が著しく低い。
になるシリコロイ) は、硬度のbとaの差が大きく時効
硬化性に優れている。しかし、到達硬度は、52.0とやや
不足であり、また、耐食性はNo.39(SUS 316L) に遠く及
ばない。これは、Cuの含有量が 1.00 %と低いことが主
な原因である。
No.16 および第 III群の中のNo.24は、いずれもCr当量
または/およびNi当量が不適当なため、図2の斜線部に
入らない比較例である。これらは、いずれも到達硬度が
低い。
時効硬化性能に優れ、時効処理後の到達硬度は HRCで54
以上である。しかも、耐食性は、既存鋼の中で最も優れ
るNo.39(SUS 316L) をも上回る。これは、各合金成分の
含有量の適正化とともに、Cr当量およびNi当量を最適な
バランスに調整したことによる。
3に示す9種類を選び、その熱間鍛造丸棒(径20mm)を
再鍛造し、切削加工して径5.1 mm、長さ300 mmの溶接棒
とした。この溶接棒を用いてSUS 316Lの母材(幅および
長さ20mm、厚さ5mm)の表面に10mm厚の肉盛を行い供試
材とした。肉盛(溶接)条件その他の試験条件は下記の
とおりである。
の溶体化処理および時効処理を施し、鏡面研磨してロッ
クウェル硬度計にて硬度を測定した。
の溶体化処理を施し、それを切削加工してJIS 14号A引
張り試験片とし、その後に前記2の(2) の時効処理を施
した。試験はJIS B 7721 に適合する試験機により室温
(25 ℃) で行った。
の溶体化処理を施し、それを切削加工してJIS 4号Aの
Vノッチ付き試験片とし、その後に前記2の(2) の時効
処理を施した。試験はJIS B 7722 に適合する試験機に
より室温(25 ℃) で行った。
15mm、厚さ5mmに切断し切削加工して、前記の溶体化処
理および時効処理を施した。これをさらに鏡面研磨して
試験片とし、その表面を脱脂・洗浄し、35%の濃塩酸(2
5 ℃) 中に8時間浸漬した後、洗浄・乾燥して重量を測
定した。試験前後の重量差から腐食速度(g/mm2 ・h
r) を求めた。
盛材として使用した場合でも優れた時効硬化性を有し、
到達硬度が高い。しかも耐食性に優れるので、耐食、耐
摩耗正の表面被覆層を形成する材料としてきわめて好適
である。
体化の状態で加工性しやすく、その後の時効処理で高い
硬度を有するに到る。その上、SUS 316Lを凌ぐ優れた耐
食性を有するので、強度、耐摩耗性および耐食性を同時
に要求される部材用として前記各種の用途に使用でき
る。
のこと、肉盛用材料あるいは粉末冶金用材料として用い
ても上記の優れた総合効果を発揮する。
理の組合せからなる。従って、溶体化処理後の低硬度の
状態で加工し、その後に時効処理を施せば所望の硬さに
なすことができる。その時効処理は 200〜700 ℃という
低温で行われるので、部品の変形はほとんど問題になら
ない。
の関係を示す図である。
当量の最適バランスの領域である。
の関係を示す図である。
る。
る。
Claims (5)
- 【請求項1】質量%で、 C: 0.08%以下、 Si: 2.0 〜5.0 %、 Mn: 0.05〜3.0 %、 Ni: 4.0 〜10.0%、 Cr: 6.0 %から12.0%未満、 Mo: 0.2 〜5.0 %、 Cu: 3.0 %を超えて 6.0%まで、 Nb: 5.0 %以下、 Ta: 8.0 %以下、 残部がFeおよび不純物からなり、下記式で示すCr当量
と下記-1式で示すNi当量が溶体化の状態で図1の直線
a、b、cおよびdで囲まれる斜線領域内(線上を含
む)にある析出硬化型ステンレス鋼。 Cr当量= Cr(%)+ 0.3×Mo(%) + 1.5×Si(%) + 0.5×Nb(%) ・・・ Ni当量= Ni(%)+30×C(%) + 0.5×Mn(%) ・・・・・・・・・・・-1 ただし、直線aは、y=25.40 −0.80x 直線bは、y=19.20 −0.81x 直線cは、y=−8.48+1.03x 直線dは、y=−5.00+0.50x で、xは上記式のCr当量、yは上記-1式のNi当量で
ある。 - 【請求項2】質量%で、 C: 0.08%以下、 Si: 2.0 〜5.0 %、 Mn: 0.05〜3.0 %、 Ni: 4.0 〜10.0%、 Cr: 6.0 %から12.0%未満、 Mo: 0.2 〜5.0 %、 Cu: 0.5 〜6.0 %、 Ti: 0.1 〜2.0 %、 Nb: 5.0 %以下、 Ta: 8.0 %以下、 残部がFeおよび不純物からなり、下記式で示すCr当量
と下記-1式で示すNi当量が溶体化の状態で図1の直線
a、b、cおよびdで囲まれる斜線領域内(線上を含
む)にある析出硬化型ステンレス鋼。 Cr当量= Cr(%)+ 0.3×Mo(%) + 1.5×Si(%) + 0.5×Nb(%) ・・・ Ni当量= Ni(%)+30×C(%) + 0.5×Mn(%) ・・・・・・・・・・・-1 ただし、直線aは、y=25.40 −0.80x 直線bは、y=19.20 −0.81x 直線cは、y=−8.48+1.03x 直線dは、y=−5.00+0.50x で、xは上記式のCr当量、yは上記-1式のNi当量で
ある。 - 【請求項3】質量%で、 C: 0.08%以下、 Si: 2.0 〜5.0 %、 Mn: 0.05〜3.0 %、 Ni: 4.0 〜10.0%、 Cr: 6.0 %から12.0%未満、 Mo: 0.2 〜5.0 %、 Cu: 0.5 〜6.0 %、 Co: 0.5 〜20.0%、 Nb: 5.0 %以下、 Ta: 8.0 %以下、 残部がFeおよび不純物からなり、下記式で示すCr当量
と下記-2式で示すNi当量が溶体化の状態で図1の直線
a、b、cおよびdで囲まれる斜線領域内(線上を含
む)にある析出硬化型ステンレス鋼。 Cr当量= Cr(%)+ 0.3×Mo(%) + 1.5×Si(%) + 0.5×Nb(%) ・・・・ Ni当量= Ni(%)+30×C(%) + 0.5×Mn(%) + 0.1×Co(%) ・・・・・-2 ただし、直線aは、y=25.40 −0.80x 直線bは、y=19.20 −0.81x 直線cは、y=−8.48+1.03x 直線dは、y=−5.00+0.50x で、xは上記式のCr当量、yは上記-2式のNi当量で
ある。 - 【請求項4】質量%で、 C: 0.08%以下、 Si: 2.0 〜5.0 %、 Mn: 0.05〜3.0 %、 Ni: 4.0 〜10.0%、 Cr: 6.0 %から12.0%未満、 Mo: 0.2 〜5.0 %、 Cu: 6.0 %以下、 Ti: 0.1 〜2.0 %、 Co: 0.5 〜20.0%、 Nb: 5.0 %以下、 Ta: 8.0 %以下、 残部がFeおよび不純物からなり、下記式で示すCr当量
と下記-2式で示すNi当量が溶体化の状態で図1の直線
a、b、cおよびdで囲まれる斜線領域内(線上を含
む)にある析出硬化型ステンレス鋼。 Cr当量= Cr(%)+ 0.3×Mo(%) + 1.5×Si(%) + 0.5×Nb(%) ・・・・ Ni当量= Ni(%)+30×C(%) + 0.5×Mn(%) + 0.1×Co(%) ・・・・・-2 ただし、直線aは、y=25.40 −0.80x 直線bは、y=19.20 −0.81x 直線cは、y=−8.48+1.03x 直線dは、y=−5.00+0.50x で、xは上記式のCr当量、yは上記-2式のNi当量で
ある。 - 【請求項5】請求項1から4までのいずれかに記載の化
学組成を有する鋼の製品に、 950〜1150℃で加熱した後
冷却する溶体化処理と 200〜700 ℃で加熱する時効処理
を施すことを特徴とする請求項1から4までのいずれか
に記載の耐食性に優れた高硬度鋼製品の製造方法。
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