以下、添付図面を参照しながら本実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
本実施形態に係る点火プラグ10の構成について、図1を参照しながら説明する。尚、図1においては、点火プラグ10を、後述の中心軸CXを含む面で切断した場合の断面が左側部分に示されている。ただし、点火プラグ10を構成する部材のうち中心電極30及び端子金具40については、断面ではなくそれぞれの外観が示されている。
点火プラグ10は、不図示の内燃機関の各気筒に設けられ、当該気筒の燃焼室において燃料への着火を行うための装置である。点火プラグ10は、絶縁碍子20と、中心電極30と、端子金具40と、主体金具50と、接地電極60と、を備えている。
絶縁碍子20は、例えばアルミナ等の絶縁材料により形成された筒状の部材である。絶縁碍子20には軸孔200が形成されている。軸孔200は、絶縁碍子20をその中心軸に沿って貫くように形成された貫通孔である。軸孔200の中心軸は、絶縁碍子20の中心軸と一致している。軸孔200の中心軸のことを、以下では「中心軸CX」とも表記する。絶縁碍子20を、中心軸CXに対し垂直に切断した場合の断面においては、軸孔200の形状は円形となっている。
中心電極30は、軸孔200のうち、中心軸CXに沿った一方側の端部(図1では下方側の端部)となる位置において、絶縁碍子20により保持されている金属製の部材である。中心電極30は棒状の部材であり、その大部分が軸孔200の内側に配置されている。中心電極30の一部は、軸孔200から絶縁碍子20の外側へと突出しており、その突出している部分の先端には放電チップ31が取り付けられている。先に述べた絶縁碍子20は、中心電極30を外周側から保持している部材、ということができる。
端子金具40は、軸孔200のうち、中心軸CXに沿った他方側の端部(図1では上方側の端部)となる位置において、絶縁碍子20により保持されている金属製の部材である。端子金具40は棒状の部材であり、その大部分が軸孔200の内側に配置されている。端子金具40の一部は、軸孔200から絶縁碍子20の外側へと突出している。この突出している部分は、不図示の外部電源から電圧が印加される電極端子となっている。
図1においては、中心軸CXに沿った方向であって、且つ端子金具40から中心電極30に向かう方向がz方向となっている。また、z方向に対して垂直な方向であって、図1において左側から右側に向かう方向がx方向となっている。更に、z方向及びx方向のいずれに対しても垂直な方向であって、図1の紙面手前側から奥側に向かう方向がy方向となっている。以下の説明においては、これらz方向、x方向、及びy方向を用いて、各部の構成を説明する。z方向は、本実施形態における「第1方向」に該当する。x方向は、本実施形態における「第2方向」に該当する。y方向は、本実施形態における「第3方向」に該当する。
軸孔200のうち、端子金具40と中心電極30との間には、抵抗体71が配置されている。抵抗体71は、端子金具40から中心電極30に至る電路の電気抵抗を調整するために配置された部材である。抵抗体71は、粉末状のガラス及びジルコニアに対し所定量のカーボン粉末を添加した材料、により形成されている。抵抗体71の電気抵抗は、上記のカーボン添加量によって調整されている。端子金具40から中心電極30に至る電路に抵抗体71が配置されることで、点火プラグ10の火花放電に伴う電磁ノイズの発生が抑制される。抵抗体71と中心電極30との間は、導電性シール層72を介して電気的に接続されている。同様に、端子金具40と抵抗体71との間は、導電性シール層73を介して電気的に接続されている。導電性シール層72、73は、いずれも、粉末状のガラスに対し銅粉末を添加した材料により形成された、導電性を有する層である。
主体金具50は、絶縁碍子20の一部を外周側から保持している筒状の部材である。主体金具50は、その全体が金属により形成されている。主体金具50は、加締められることで絶縁碍子20に対し固定されており、その状態で絶縁碍子20を保持している。主体金具50は、嵌合部52と、フランジ部55と、挿入部56と、を有している。
嵌合部52は、内燃機関に対する点火プラグ10の取り付け時において、例えばプラグレンチのような工具と嵌合する部分である。中心軸CXに沿って見た場合における嵌合部52の形状は例えば六角形である。
フランジ部55は、内燃機関に点火プラグ10が取り付けられた際、内燃機関の外表面に対しガスケットGKを介して当接する部分である。フランジ部55は、嵌合部52よりもz方向側となる位置に設けられており、外周側に向けて突出している。
挿入部56は、フランジ部55よりも更にz方向側の部分であって、内燃機関に形成された不図示の挿入孔へと挿入される部分である。挿入部56の外周面には雄螺子561が形成されている。点火プラグ10が内燃機関に取り付けられる際には、嵌合部52が工具から受ける力により中心軸CXの周りに回転する。これにより、上記挿入孔の内周面に形成された雌螺子と、挿入部56の雄螺子561とが互いに螺合する。これにより、内燃機関に対して点火プラグ10が締結固定される。点火プラグ10が内燃機関に取り付けられた状態においては、主体金具50の電位は、内燃機関と同じ接地電位となる。
接地電極60は、主体金具50のうちz方向側の先端面Sから、更にz方向側へと伸びるように形成された金属製の部材である。先端面Sは中心軸CXに対し垂直な面である。先に述べたx方向(つまり第2方向)は、中心電極30と接地電極60とが並ぶ方向となっている。接地電極60は屈曲しており、その一部が、中心軸CXに沿って中心電極30の放電チップ31と対向した状態となっている。つまり、接地電極60は、その一端側が主体金具50の先端面Sに接続されており、他端側が中心電極30と対向している。接地電極60のうち中心電極30と対向する部分には、放電チップ61が取り付けられている。その結果、放電チップ61と放電チップ31とは、中心軸CXに沿って並んでおり互いに対向している。互いに対向する放電チップ61と放電チップ31との間に形成された隙間が、火花放電の生じる放電ギャップGPとなっている。
内燃機関の動作時においては、点火プラグ10の端子金具40と、内燃機関のボディとの間に、パルス状の高電圧が印加される。この高電圧は、互いに対向する放電チップ61と放電チップ31との間との間に印加されることとなり、放電ギャップGPにおいて火花放電を生じさせる。尚、放電チップ61及び放電チップ31のうち、いずれか一方もしくは両方が設けられていない態様であってもよい。
図2を参照しながら、接地電極60の具体的な形状について説明する。図2に示されるように、接地電極60は、第1直線部610と、屈曲部630と、第2直線部620と、を有している。
第1直線部610は、接地電極60のうち最も-z方向側の部分であって、先端面Sから直線状に伸びている部分である。第1直線部610が伸びている方向は、先端面Sに対して概ね垂直な方向であるが、先端面Sに対して厳密に垂直でなくてもよい。第1直線部610のうち-z方向の端部は、先端面Sに対して溶接されている。
屈曲部630は、第1直線部610のうち先端面Sとは反対側の端部から、中心電極30側(つまり-x方向側)に向かって円弧状に屈曲して伸びている部分である。屈曲部630は、中心電極30側に向けて概ね90度屈曲しているのであるが、当該角度が90度とは異なっていてもよい。図2においては、第1直線部610と屈曲部630との境界が点線DL1で示されている。
第2直線部620は、屈曲部630のうち第1直線部610とは反対側の端部から、更に中心電極30側(つまり-x方向側)に向かって直線状に伸びている部分である。第2直線部620が伸びている方向は、先端面Sに対して概ね平行な方向であるが、先端面Sに対して厳密に平行でなくてもよい。第2直線部620は、中心電極30の直上となる位置まで伸びている。第2直線部620のうち中心軸CXが通る部分には、先に述べた放電チップ61が取り付けられている。図2においては、屈曲部630と第2直線部620との境界が点線DL2で示されている。
図2のように点火プラグ10をy方向に沿って見た場合においては、第1直線部610のうち中心電極30側の部分の外形は直線となっている。当該直線のことを、以下では「直線L10」とも称する。図2に示される点P1は、直線L10と先端面Sとの交点である。図2に示される点P2は、第1直線部610と屈曲部630との境界(点線DL1)と、直線L10との交点である。図2に示される点P11は、直線L10に沿って点P1と点P2との中央となる位置、を示す点である。
図2のように点火プラグ10をy方向に沿って見た場合においては、屈曲部630のうち中心電極30側の部分の外形は円弧状の曲線となっている。当該曲線のことを、以下では「曲線L30」とも称する。図2に示される点P3は、第2直線部620と屈曲部630との境界(点線DL2)と、曲線L30との交点である。図2に示される点P12は、曲線L30に沿って点P2と点P3との中央となる位置、を示す点である。
図2のように点火プラグ10をy方向に沿って見た場合においては、第2直線部620のうち中心電極30側の部分の外形は直線となっている。当該直線のことを、以下では「直線L20」とも称する。図2に示される点P4は、直線L20のうち、屈曲部630とは反対側の端部を示す点である。図2に示される点P13は、直線L20に沿って点P3と点P4との中央となる位置、を示す点である。
以上を換言すれば、直線L10は図2の点P1から点P2まで伸びる直線であり、その中央が点P11となっている。曲線L30は図2の点P2から点P3まで伸びる曲線であり、その中央が点P12となっている。直線L20は図2の点P3から点P4まで伸びる直線であり、その中央が点P13となっている。
図2において符号「L11」が付されている直線は、直線L10と先端面Sとの交点である点P1から、先端面Sに対し垂直に伸びる仮想的な直線である。当該直線のことを、以下では「第1直線L11」とも称する。
図2において符号「L21」が付されている直線は、直線L20を、第1直線部610側(つまりx方向側)に向けて延長した仮想的な直線である。当該直線のことを、以下では「第2直線L21」とも称する。図2に示される点P5は、第1直線L11と第2直線L21との交点である。
図2に示される「A」は、第1直線L11のうち、先端面Sとの交点である点P1から、第2直線L21との交点である点P5までの長さを表している。また、図2に示される「B」は、第2直線L21のうち、屈曲部630と第2直線部620との境界(点線DL2)上にある点P3から、第1直線L11との交点である点P5までの長さを表している。BをAで除することにより得られる値(つまりB/A)のことを、以下では「曲げ比」とも称する。本実施形態の接地電極60は、曲げ比が0.35以下となるように各部の寸法が設定されている。その理由については後述する。
図2のように点火プラグ10をy方向に沿って見た場合において、第1直線部610のうち中心電極30側の部分の外形を示す直線(つまり直線L10)と、先端面Sとの間の角度のことを、以下では「角度θ」とも称する。角度θは、第1直線部610から見て中心電極30とは反対側の範囲、すなわち、直線L10よりも図2の左側の範囲における、直線L10と先端面Sとの間の角度を表している。このため、角度θが増加するほど、接地電極60は中心電極30に近づく方向に倒れ込むこととなる。本実施形態の接地電極60は、角度θが88度以上であり且つ96度以下となるように調整されている。その理由については後述する。
図3には、接地電極60を、その中心軸を通る面で切断した場合の断面が示されている。同図に示されるように、接地電極60は、その全体が単一の材料で形成されているのではなく、互いに異なる材料により形成された第1層641、第2層642、及び第3層643を有している。
第1層641は、接地電極60のうち最も内側に形成された層であり、純ニッケルにより形成されている。第2層642は、第1層641を外側から覆う層であり、銅により形成されている。第3層643は、第2層642を更に外側から覆う層であり、例えばインコネルのようなニッケル基系合金により形成されている。
このように、接地電極60の内部には、純ニッケルにより形成された第1層641と、銅により形成された第2層642とが設けられている。比較的熱伝導率の高い材料である銅が内部に埋め込まれていることにより、点火プラグの動作時においては、接地電極60の温度上昇を抑制することが可能となっている。
図4乃至図7を参照しながら、接地電極60を形成する方法について説明する。図4に示されるように、先端面Sに接地電極60が溶接された直後の段階においては、接地電極60は、その全体が棒状の部材、すなわち直線状の形状を有する部材となっている。このとき、接地電極60の長手方向は、中心軸CXの方向(つまりz方向)と一致している。接地電極60には、予め放電チップ31が溶接により取り付けられている。
直線状の接地電極60は、支持台910とローラー920とを用いて曲げ加工を施すことにより、図2等に示される形状とされる。支持台910は円柱形状の部材である。図4に示されるように、支持台910は、その中心軸をy方向に沿わせた状態で、接地電極60のうち中心電極30側の側面に対して当接した状態とされる。このとき、接地電極60を含む点火プラグ10の位置と、支持台910との位置は、いずれも固定されている。
ローラー920は、支持台910と同様の円柱形状の部材である。図4に示されるように、ローラー920は、その中心軸をy方向に沿わせた状態で、接地電極60のうち中心電極30とは反対側の側面であり、且つ、先端面Sとは反対側の端部近傍の部分に対して当接した状態とされる。ローラー920は、その中心軸の周りに回転自在な状態で、不図示の加工装置により支持されている。当該加工装置は、ローラー920の位置を変化させることにより接地電極60に力を加え、接地電極60を変形させるものである。
図4の状態から、加工装置は、ローラー920を矢印AR1の方向に移動させて行く。接地電極60は、支持台910及びローラー920の両方から受ける力によって、図5に示されるように変形して行く。加工装置は、ローラー920が接地電極60に当接した状態を維持しながら、ローラー920を更に矢印AR2の方向に移動させて行く。このとき、ローラー920は、接地電極60から受ける摩擦力により、矢印AR3の方向に回転する。最終的には、接地電極60が図6の状態となるまで、ローラー920による曲げ加工が行われる。図6の状態においては、接地電極60のうちローラー920が当接していた部分は、概ね先端面Sと平行な状態となっている。このとき、支持台910に当接している部分が、先に説明した屈曲部630となる。また、屈曲部630よりも先端面S側の部分が第1直線部610となり、これとは反対側の部分が第2直線部620となる。図6の状態においては、放電チップ61と放電チップ31とが互いに対向する状態となっており、両者の間には放電ギャップGPが形成されている。以上のように、本実施形態に係る点火プラグ10の接地電極60は、直線状の部材に対し曲げ加工を施すことにより形成されたものとなっている。
曲げ加工が終了した後は、例えばハンマー等の工具930を用いることにより、放電ギャップGPの調整が行われる。図7に示されるように、放電ギャップGPの調整作業は、支持台910やローラー920を取り外した状態で行われる。調整作業は、接地電極60のうち概ね放電チップ61の裏側となる部分を、工具930で叩くことにより行われる。
ところで、以上のような方法で接地電極60の曲げ加工及び放電ギャップGPの調整が行われると、接地電極60では歪みが生じ、一部において応力が残留することとなる。本発明者らは、内燃機関の動作中において点火プラグ10に大きな熱負荷が加えられ、接地電極60の温度が高くなると、上記のような残留応力に起因して、接地電極60が変形してしまうという新たな知見を得ている。このような接地電極60の変形は、高温となった接地電極60の硬度が低下することにより発現するものであると考えられる。熱負荷に伴う接地電極60の変形は、その方向等において振動に伴う変形とは異なるものである。具体的には、振動に伴う変形は、接地電極60が中心電極30から遠ざかる方向に(つまり、図2の角度θが減少する方向に)生じるのに対し、熱負荷に伴う変形は、接地電極60が中心電極30へと近づく方向に(つまり、図2の角度θが増加する方向に)生じる。
近年の車両では、内燃機関の更なる小型化及び高出力化が進んでおり、点火プラグ10に加えられる熱負荷が大きくなってきている。このため、接地電極60の形状を従来形状とした場合には、熱負荷に伴う接地電極60の変形が無視できない程に大きくなってしまうものと考えられる。
そこで、本実施形態に係る点火プラグ10では、接地電極60の形状を工夫することにより、熱負荷に伴う変形を抑制することとしている。具体的には、先に述べた曲げ比(B/A)を0.35以下とすること等により、熱負荷に伴う接地電極60の変形を抑制することとしている。
図8は、種々の形状の接地電極60について、曲げ比(横軸)と、変位量(縦軸)との関係を示すグラフである。「変位量」とは、熱負荷を加える前後において、放電ギャップGPで生じた変形の度合いを示す指標である。
図2に示される点P21は、接地電極60のうち放電チップ61とは反対側の面において、中心軸CXが通る点を示している。上記の変位量は、図2の点P21から先端面Sまでの距離の変化量であり、図8では、当該距離が減少する方向を正として各データがプロットしてある。尚、放電ギャップGPがどの程度変化したのかを示す指標として、放電ギャップGPそのものの変化量ではなく、上記の変位量を用いたのは、放電チップ61や放電チップ31が摩耗してしまうことの影響を排除するためである。
図8にプロットされた各データを取得するにあたっては、4気筒の内燃機関の各気筒に、同一形状の接地電極60を有する点火プラグ10を取り付けた。熱負荷を加える前の放電ギャップGPは、全ての点火プラグ10において0.6mmとなるように調整した。また、各点火プラグ10の雄螺子561の呼び径はM12とした。
その後、内燃機関を1000時間動作させることにより、4つの点火プラグ10に対し同時に熱負荷を加えた。動作中における接地電極60の温度は、実測値で950℃±50℃となるように調整した。図8においてプロットされた各データは、4つの点火プラグ10のそれぞれで測定された上記変位量の平均値である。
図8に示されるように、曲げ比であるB/Aの値が0.35以下の範囲においては、測定された変位量は概ね0であった。一方、B/Aの値が0.35を超えると、変位量の値は急激に増加することが確認された。すなわち、放電ギャップGPが減少する方向に、接地電極60が変形することが確認された。
このように、本実施形態に係る点火プラグ10では、B/Aの値が0.35以下となるように、接地電極60の各部の寸法を調整することで、高温となった際における接地電極60の変形を抑制することが可能となっている。
B/Aの値を0.35以下とした場合に、接地電極60の変形が抑制される理由の一つは、屈曲部630の曲率半径が小さくなり、当該部分で大きな加工硬化が生じることであると考えられる。屈曲部630で大きな加工硬化が生じると、熱負荷が加えられても変形しない程度にまで、屈曲部630における硬度が高くなる。換言すれば、屈曲部630の部分で大きな加工硬化が生じる結果、接地電極60で変形が生じるような限界温度が上昇し、内燃機関の動作時における温度よりも当該限界温度の方が高くなる。その結果として、熱負荷が加えられた際における接地電極60の変形が抑制されるものと考えられる。
これに対し、図12の比較例のように、屈曲部630に相当する部分の曲率半径が大きい場合には、加工硬化による硬度の上昇が十分には生じない。この場合、接地電極60の全体において硬度が低くなるので、従来形状においては、熱負荷が加えられると変形が生じてしまうのである。
尚、本実施形態に係る点火プラグ10では、上記のように、屈曲部630の硬度が加工硬化により高くなる。このため、図7の放電ギャップGPの調整作業が行われる際には、屈曲部630の部分は殆ど変形せず、これよりも先端側の第2直線部620において接地電極60が変形することで放電ギャップGPが変化する。
B/Aの値を0.35以下とした場合に、接地電極60の変形が抑制される理由のもう一つは、第1直線部610の傾斜角度である角度θが、当初の90度に近い角度であること、すなわち、接地電極60根元部分における変形量が小さい範囲に収まることであると考えられる。角度θが、当初の90度から大きく変化していた場合には、接地電極60の根元部分において歪み及び残留応力が生じ、当該残留応力により、高温時においては接地電極60が中心電極30側に倒れ込むような変形が生じてしまう。これに対し、本実施形態のようにB/Aの値を0.35以下とすれば、上記の残留応力を低減し、残留応力に起因した接地電極60の変形を抑制することができるのである。
本発明者らは、屈曲部630の曲率半径と、上記の変位量との関係についても実験により確認している。図9は、種々の形状の接地電極60について、屈曲部630の曲率半径(横軸)と、先に述べた変位量(縦軸)との関係を示すグラフである。尚、上記の曲率半径とは、具体的には、y方向に沿って見た場合における曲線L30(図2を参照)の曲率半径のことである。
図9の各データに対応するそれぞれの接地電極60は、曲率半径の値においては互いに異なっているが、その他の寸法においては互いに概ね同一である。具体的には、全ての接地電極60について、図2のAの長さを7mmに統一し、角度θを92度に統一している。
図9に示されるように、曲線L30の曲率半径が1.5mm以下の範囲においては、測定された変位量は概ね0であった。一方、曲率半径が1.5mmを超えると、変位量の値は急激に増加することが確認された。すなわち、放電ギャップGPが減少する方向に、接地電極60が変形することが確認された。
以上の結果から、B/Aの値を0.35以下とすることに加えて、曲線L30の曲率半径を1.5mm以下とすることで、高温となった際における接地電極60の変形を更に抑制できることが確認された。尚、曲線L30の曲率半径を0.5mmよりも小さくすると、屈曲部630の変形が急峻になり過ぎるため、曲げ加工時等において接地電極60に亀裂が生じることが確認されている。このため、曲線L30の曲率半径は、0.5mm以上であり且つ1.5mm以下の範囲に収めることが好ましい。
本発明者らは、角度θと、上記の変位量との関係についても実験により確認している。図10は、種々の形状の接地電極60について、角度θ(横軸)と、先に述べた変位量(縦軸)との関係を示すグラフである。
図10の各データに対応するそれぞれの接地電極60は、角度θの値においては互いに異なっているが、その他の寸法においては互いに概ね同一である。具体的には、全ての接地電極60について、図2のAの長さを7mmに統一し、曲線L30の曲率半径を1.0mmに統一している。
図9に示されるように、角度θが96度以下の範囲においては、測定された変位量は概ね0であった。一方、角度θが96度を超えると、変位量の値は急激に増加することが確認された。すなわち、放電ギャップGPが減少する方向に、接地電極60が変形することが確認された。
以上の結果から、B/Aの値を0.35以下とすることに加えて、角度θを96度以下とすることで、高温となった際における接地電極60の変形を更に抑制できることが確認された。尚、角度θを88度よりも小さくすると、接地電極60が、中心電極30から遠ざかる方向に倒れ過ぎてしまい、一部が外側へと突出してしまう。その結果、内燃機関に点火プラグ10を取り付ける際において、接地電極60が挿入孔の縁に干渉してしまう可能性がある。このため、角度θは、88度以上であり且つ96度以下の範囲に収めることが好ましい。
図11には、接地電極60の各部(図2の点P1、P11、P12、P13)におけるビッカース硬度を測定した結果が示されている。尚、図11においては、本実施形態に係る点火プラグ10が備える接地電極60のビッカース硬度の測定結果に加えて、図12の比較例に係る点火プラグ10Aが備える接地電極60のビッカース硬度の測定結果も、あわせて図示されている。
尚、図12の比較例に係る点火プラグ10Aは、接地電極60の形状においてのみ本実施形態と異なっている。この点火プラグ10Aでは、屈曲部630に相当する部分の曲率半径が本実施形態と比べて大きくなっており、B/Aの値は0.35を大きく超えている。図12では、接地電極60のうち、図2の点P1、P11、P12、P13と対応する点のそれぞれに、点P1、P11、P12、P13が付してある。図2及びと図12のそれぞれにおいては、点P1の位置から、接地電極60のうち中心電極30側の部分の外形に沿った各点までの長さが、互いに概ね等しくなっている。
本実施形態に係る点火プラグ10においては、点P1は、第1直線部610のうち最も先端面S側の位置であり、且つ、中心電極30側の位置を表している。点P1におけるビッカース硬度は、本実施形態における「第1硬度」に該当する。
本実施形態に係る点火プラグ10においては、点P11は、第1直線部610のうちその長手方向に沿った中央の位置であり、且つ、中心電極30側の位置を表している。点P11におけるビッカース硬度は、本実施形態における「第2硬度」に該当する。
本実施形態に係る点火プラグ10においては、点P12は、屈曲部630のうち、第1直線部610から第2直線部620に至るまでの中央となる位置であり、且つ、中心電極30側の位置を表している。点P12におけるビッカース硬度は、本実施形態における「第3硬度」に該当する。
本実施形態に係る点火プラグ10においては、点P13は、第2直線部620のうちその長手方向に沿った中央の位置であり、且つ、中心電極30側の位置における点を表している。点P13におけるビッカース硬度は、本実施形態における「第4硬度」に該当する。
図11に示されるように、本実施形態では、点P1の第1硬度、及び点P13の第4硬度、のそれぞれが、点P11の第2硬度の90%から110%の範囲内に収まっている。つまり、点P1、点P11、及び点P13の各点におけるビッカース硬度が、比較的狭い範囲に収まっている。一方で、残る点P12の第3硬度は比較的大きくなっており、第2硬度の130%から150%の範囲内に収まっている。
このように、本実施形態に係る点火プラグ10の接地電極60では、曲げ加工が行われた屈曲部630の部分(点P12)において、局所的にビッカース硬度が大きく上昇している一方で、その他の部分(点P1、P11、P13)におけるビッカース硬度は、初期の値から殆ど上昇していない。これにより、接地電極60が高温となった場合には、点P12においては加工硬化が十分であるために変形は生じず、その他の点においては、残留応力そのものが小さいのでやはり変形は生じない。
これに対し、比較例に係る点火プラグ10Aの接地電極60では、点P12においてビッカース硬度が緩やかに上昇しており、その周囲における点P11及び点P13のそれぞれにおいても、ビッカース硬度が僅かに上昇している。このため、接地電極60が高温となった場合には、点P12においては加工硬化が不十分であるために残留応力による変形が生じ、その周囲の点においても、やはり残留応力による変形が生じてしまう。
ここで、第3硬度を第2硬度で除した値を%の単位で表したものを、「硬度比」と定義する。硬度比は、加工硬化の影響が無い点P11における当初のビッカース硬度に比べて、加工硬化の影響が最も大きい点P12におけるビッカース硬度が、どの程度高くなっているのかを示す指標である。先に述べたように、本実施形態では、硬度比が130%から150%の範囲内に収まっている。
図13には、種々の形状の接地電極60について、上記の硬度比(横軸)と、先に述べた変位量(縦軸)との関係を示すグラフである。図13に示されるように、硬度比が130%以上の範囲においては、変位量は概ね0であった。一方、比較例のように硬度比が小さくなり130%を下回ると、変位量が無視できない程度に大きくなることが確認された。
硬度比が150を上回ると、屈曲部630の形状が急峻になり過ぎることに伴って、接地電極60の一部に亀裂が発生した。図13においては、このように亀裂が発生した実験結果が「×」として表されている。
以上のようであるから、硬度比は、130%から150%の範囲内に収まっていることが好ましい。
以上のような接地電極60の形状は、本実施形態のように複数の層を有する接地電極60の他、全体が単一の材料により形成された接地電極60に適用することもできる。ただし、本実施形態のように、銅からなる第2層642等が接地電極60の内部に存在する場合には、曲げ加工によって硬度が上昇する部分(具体的には第3層643)の肉厚が小さく、高温時の変形が生じない程度に、十分な加工硬化を生じさせることが難しい。このため、本実施形態のように、B/Aの値を0.35以下となる形状を採用することの必要性は特に大きい。
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。