JP7616631B2 - 延性に優れた高強度鋼 - Google Patents

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Description

本発明は、CO排出量削減が強く求められている自動車分野の車体構造部材や、構造物の大型化が進んでいる鋼橋または建築分野における構造部材などに用いられる、高強度鋼に関するものである。
近年、地球温暖化の問題などから、自動車から排出されるCO量を削減する動きが盛んである。CO削減方法としては、自動車重量を低減し燃費を向上させる方法があるが、これの実現のためには、車体構造を形成している鋼板の板厚を低減するなどの方法が考えられる。電気自動車などの利用も有効な手段であるが、搭載される蓄電池の重量を考慮すると、車体構造の重量低減は避けて通れない。これら問題の解決手段として高強度鋼の適用があり、これまで多く検討されてきた。高強度鋼の適用に関しては、自動車分野のみならず、構造物の大型化が進んでいる鋼橋や建築分野でも同様な課題を有している。
鋼材の高強度化の問題は、強度以外の問題を考慮しなければ、それほど難しい課題ではない。例えば、金属組織の代表例であるマルテンサイト組織は、極めて高い硬さ、すなわち高い強度を有しており、鋼材の組織をマルテンサイト主体の組織にするだけで、要求される強度レベルが達成される。
一方、構造物として十分な特性を持たせるためには、強度のみならず延性も十分確保する必要がある。しかし、強度と延性は相反する傾向を持っている。すなわち、鋼の強度を増加させると延性が低下してしまう傾向がある。この問題の解決のために、強度と延性を同時に満たす種々の技術が開示されてきた。
例えば、特許文献1では、体積率で3~20%の残留オーステナイト相を含む鋼板が開示されている。この技術は、オーステナイト相という強度はあまり高くはないが延性に優れた組織を鋼板に導入し、残りをマルテンサイト相などの強度の高い組織とすることで、鋼板の延性をオーステナイト相で確保し、強度はマルテンサイト相で確保するという技術である。オーステナイト相の変形が進むとマルテンサイト変態が誘起され、変態後には強度確保にも寄与することができる。
また、特許文献2には、体積率で15~60%のフェライト相を含む鋼板が開示されている。この技術では、残り組織は焼き戻しマルテンサイト相であり、延性はフェライト相で、強度は焼き戻しマルテンサイト相で確保する、という技術である。この技術は、オーステナイト相の代わりにフェライト相を利用しているものであるが、オーステナイト相のように変形後のマルテンサイト変態は期待できない。しかし、オーステナイト相を鋼板に導入する方法は、熱処理工程の管理をより厳しくする必要があるなどの問題もあるため、このような技術が開示されてきた。
以上を鑑みると、従来技術では、高強度と高延性を同時に満足させるために、鋼の金属組織として、強度を確保するための組織と延性を確保するための組織の両方を導入させていることがわかる。すなわち、延性を確保する組織としてオーステナイト相やフェライト相を導入し、強度を確保する組織として、マルテンサイト相や焼き戻しマルテンサイト相を導入するという技術である。それぞれの組織を所定の値にするために、鋼の組成のみならず鋼板製造時の熱処理工程などが複雑になり、製造上必ずしも好ましいことではない。
特許第5250938号公報 特許第5668337号公報
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、鋼板製造コストを上昇させる合金や熱処理工程に過剰に頼らなくても、高強度でありながら高延性特性を併せ持つ鋼材を提供することを目的とする。
従来技術によれば、延性を確保するために、オーステナイト相やフェライト相といった、延性に富んだ組織を部分的に鋼板に導入させ、鋼板に負荷が加わった時、強度が相対的に低いこれら組織が変形することで、全体としての鋼板延性を確保してきた。そのため、特性の異なる組織を所定量同時に鋼板に導入しなければならなかった。この場合、鋼板組成が高くなり、また熱処理工程が複雑になるため、鋼板製造コストの増加原因になった。
これに対し、強度を確保するための組織そのものの延性を向上させることができれば、高強度鋼の延性確保は格段に達成しやすくなる。また、従来技術における延性確保のための組織導入に関しても、鋼板組成および熱処理工程などの問題を緩和させることが可能になる。
そこで、本発明者らは、強度を確保するために導入されているマルテンサイト相および焼き戻しマルテンサイト相の延性を向上させるべく鋭意研究を重ねてきた。そして、鋼材成分の1つであるSの添加量を制御することで、これら相の延性が格段に向上させることができ、延性に優れた高強度鋼を提供できることを見出すに至った。本発明は、かかる知見に基づくものであり、その要旨は以下のとおりである。
(1)引張強度が1200MPa以上、かつマルテンサイト相の体積率が95%以上である高強度鋼であって、質量比でSを0.008~0.03%含有し、破断伸びが8%以上であることを特徴とする高強度鋼。
(2)引張強度が1100MPa以上、フェライト相の体積率が5~30%、フェライト相以外かつマルテンサイト相以外の金属組織の体積率が5%未満、その他の金属組織がマルテンサイト相である高強度鋼であって、質量比でSを0.008~0.03%含有し、破断伸びが12%以上であることを特徴とする高強度鋼。
(3)MnSまたはFeSまたはそれらを主体とした硫化物、さらには酸化物、窒化物と複合化された硫化物のうち、アスペクト比が3以下であるもののうち円換算直径が0.03μm以上かつ0.2μm以下である硫化物が、1μm当たり10個以上50個以下でマルテンサイト相中に存在することを特徴とする、前記(1)または(2)記載の鋼強度鋼。
(4)質量比で、C:0.20~0.45%、Si:0.1~2.0%、Mn:0.6~2.5%、P:0.03%以下、Al:0.005~0.1%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなることを特徴とする、前記(1)~(3)のいずれか1に記載の延性に優れた高強度鋼。
(5)質量比で、Cr:0.01~0.5%、Mo:0.01~0.5%、Cu:0.05~0.5%、Ni:0.05~0.5%、Nb:0.005~0.08%、V:0.01~0.2%、Ti:0.005~0.08%、B:0.0003~0.0040%のいずれか1種もしくは2種以上を含有する、前記(1)~(4)のいずれか1に記載の延性に優れた高強度鋼。
(6)引張強度が1100MPa以上、かつ焼き戻しマルテンサイト相の体積率が95%以上である高強度鋼であって、質量比でSを0.008~0.03%含有し、破断伸びが10%以上であることを特徴とする高強度鋼。
(7)引張強度が1000MPa以上、フェライト相の体積率が5~30%、フェライト相以外かつ焼き戻しマルテンサイト相以外の金属組織の体積率が5%未満、その他の金属組織が焼き戻しマルテンサイト相である高強度鋼であって、質量比でSを0.008~0.03%を含有し、破断伸びが15%以上であることを特徴とする高強度鋼。
(8)MnSまたはFeSまたはそれらを主体とした硫化物、さらには酸化物、窒化物と複合化された硫化物のうち、アスペクト比が3以下であるもののうち円換算直径が0.03μm以上かつ0.2μm以下である硫化物が、1μm当たり10個以上50個以下で焼き戻しマルテンサイト相中に存在することを特徴とする、前記(6)または(7)記載の延性に優れた鋼強度鋼。
(9)質量比で、C:0.25~0.55%、Si:0.1~2.0%、Mn:0.6~2.5%、P:0.03%以下、Al:0.005~0.1%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなることを特徴とする、前記(6)~(8)のいずれか1に記載の延性に優れた高強度鋼。
(10)質量比で、Cr:0.01~0.5%、Mo:0.01~0.5%、Cu:0.05~0.5%、Ni:0.05~0.5%、Nb:0.005~0.08%、V:0.01~0.2%、Ti:0.005~0.08%、B:0.0003~0.0040%のいずれか1種もしくは2種以上を含有する、前記(6)~(9)のいずれか1に記載の延性に優れた高強度鋼。
本発明によれば、従来技術における高強度高延性鋼と比べ、合金元素添加量や熱処理工程を低減させることができるため、鋼材製造コストを削減させることができる。そのため、自動車分野の車体構造部材、鋼橋または建築分野における構造部材などへの適用を格段に推し進めることができ、CO排出量削減による地球環境への寄与、構造物大型化が可能となることによる都市計画の発展など、その技術的意義は極めて大きい。
引張試験を行い、引張強度、破断伸びなどを求める試験片の形状を示す概略図である。
以下に、本発明の実施形態について説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
まず、本発明における技術思想について述べる。
一般に、マルテンサイト相などのような強度が高い組織は延性に劣る傾向がある。延性は荷重を負荷された際に生じる変形量がどの程度発生するかで決まるが、延性が低い鋼材とは、破断に至るまでに生じる変形量が少ない鋼材である。
鋼材の変形は、荷重が負荷された際に発生する転位が動くことにより生じる。マルテンサイト相などのような高強度組織は、荷重負荷する前に既に高密度の転位を含有しており、転位同士の相互作用により転位そのものが動きにくくなっている。すなわち、荷重が負荷されても転位が動きにくいため延性に乏しい。一方、従来技術で用いられている延性を確保するための組織、すなわちオーステナイト相やフェライト相はマルテンサイト相ほど転位密度が高くはなく、荷重が負荷された際、導入された転位は十分動くことができ、これが延性確保につながる。しかし、転位が動きやすいということは、強度が十分ではないことを意味するものであり、オーステナイト相やフェライト相では強度が確保できない。
そこで、本発明者らは、転位密度が高いマルテンサイト相や焼き戻しマルテンサイト相の延性を向上させる組成の探索を実施してきた。その結果、S(硫黄元素)を所定量添加させれば、これら組織の延性を格段に向上させることができることを見出した。なお、Sを添加することは、必ずしもマルテンサイト相や焼き戻しマルテンサイト相の転位密度を低減するものではない。すなわち、Sの添加は、マルテンサイト相や焼き戻しマルテンサイト相の強度を低下させその分延性を確保させるというものではない。Sの働きがどのようにして強度低下を伴わずにマルテンサイト相や焼き戻しマルテンサイト相の延性を向上させるのか、は十分解明はされていない。考えられる機構としては、以下のようなものである。
Sを添加するとMnSが形成されるが、S添加量がある程度多くなると、少量ではあるがFeSも形成される。これら硫化物のうち、そのサイズが比較的小さいものがある程度マルテンサイト相や焼き戻しマルテンサイト相中に存在するようになる。このような微細なる硫化物が転位密度の高い組織に存在すると、変形により導入される転位を対消滅させる働きがあり、その結果、変形が進んでも転位密度の増加量を抑えることができる。転位密度増加が小さいということは、鋼材としては、変形によって新たに導入される転位を受け入れる余裕が大きいということになり、これにより延性確保が可能となる。あるいは、これら硫化物がマルテンサイト相などのラス境界面の滑りを促進させ、これにより荷重負荷時の変形を発生させる働きがあるかもしれない。あるいは、硫化物が分布することにより、荷重負荷時に発生する変形が一部に集中せず均一に分散させる効果をもたらし、破断に至るまでに発生する全変形量を増加させる働きがあるのかもしれない。
以上の説明は仮定的な解釈を含むものであるが、いずれにしろ、強度を確保するために導入される組織の延性を向上させることができると、もともと強度確保のためには必ずしも有利ではなかった、オーステナイト相やフェライト相の導入量を少なくすることも可能であり、場合によっては導入する必要もなくなる。これにより、本発明は従来技術とは異なった方法で高強度鋼の延性を確保できるので、鋼材製造コストを削減させることが可能となる。すなわち、本発明の本質は、S添加することでマルテンサイト相や焼き戻しマルテンサイト相の延性を向上させる技術である。
次に、本発明が対象とする高強度鋼のより具体的態様について述べる。
本発明では、引張強度が1200MPa以上でマルテンサイト相の体積率が95%以上の高強度鋼(以降、「aタイプ鋼」と呼ぶ)、または、引張強度が1100MPa以上でフェライト相の体積率が5~30%でフェライト相以外かつマルテンサイト相以外の金属組織の体積率が5%未満で残りがマルテンサイト相の高強度鋼(以降、「bタイプ鋼」と呼ぶ)、または、引張強度が1100MPa以上で焼き戻しマルテンサイト相の体積率が95%以上の高強度鋼(以降、「cタイプ鋼」と呼ぶ)、または、引張強度が1000MPa以上でフェライト相の体積率が5~30%でフェライト相以外かつ焼き戻しマルテンサイト相以外の金属組織の体積率が5%未満で残りが焼き戻しマルテンサイト相の高強度鋼(以降、「dタイプ鋼」と呼ぶ)、を対象としている。なお、本発明では、対象としている高強度鋼の引張強度の上限は設けていないが、著しく高い引張強度の場合、本発明の技術を適用して延性を改善したとしても、要求特性が得られない可能性も出てくるので、対象とする高強度鋼の引張強度の上限を1800MPaとすることが望ましい。
本発明は、マルテンサイト相または焼き戻しマルテンサイト相の延性を改善する技術であり、そのため、これら金属組織により強度を確保している高強度鋼すべてに対して適用可能である。
一方、延性に優れた鋼とは、本発明では破断伸びが大きい鋼を意味している。フェライト相やオーステナイト相は延性に優れた組織であり、従来技術ではマルテンサイト相や焼き戻しマルテンサイト相と併用することで高強度と高延性を満足させていた。本発明により延性が改善されたマルテンサイト相や焼き戻しマルテンサイト相であっても、フェライト相やオーステナイト相ほど延性が優れているというわけではない。本発明が対象としている高強度鋼に対して引張強度を設定しているのは、設定引張強度未満の鋼材では、フェライト相やオーステナイト相の体積率を十分確保できてしまうので、本発明の技術を採用しなくても従来技術でも目標を達成できるからである。
本発明におけるaタイプ鋼およびcタイプ鋼は、それぞれマルテンサイト相、焼き戻しマルテンサイト相の体積率が95%以上である鋼材である。マルテンサイト相の体積率を95%以上にするための熱処理として水焼き入れ、またはそれと同等の冷却速度が得られる熱処理が考えられる。このような熱処理を実施すると、ほぼ100%マルテンサイト相組織が得られるが、熱処理する鋼材の焼き入れ性や板厚によっては、100%マルテンサイト相ではなくなる場合もあり得る。しかし、マルテンサイト相が95%以上であれば、熱処理された鋼材の特性は、マルテンサイト相以外の相の種類によらずマルテンサイト相のみで決定される。そのため、本発明では、aタイプ鋼はマルテンサイト相を95%以上の鋼材としている。cタイプ鋼は、焼き戻しマルテンサイト相の体積率が95%以上の鋼材であるが、このような鋼材は、最初にマルテンサイト相を95%以上にして、その後焼き戻し熱処理をすることで達成される。この場合も鋼材の特性は焼き戻しマルテンサイト相のみで決定されるため、本発明では、cタイプ鋼は、焼き戻しマルテンサイト相の体積率が95%以上の鋼材としている。
一方、bタイプ鋼やdタイプ鋼のように、フェライト相の体積率が5~30%である高強度鋼も本発明では対象としている。フェライト相を導入すると、延性が向上するだけではなく、降伏比も制御することができるようになる。鉄鋼材料は、自動車、鋼橋、建築など、その適用先はさまざまであり、それぞれの産業によって要求特性が異なってくることもある。フェライト相を含有している高強度鋼は、高破断伸びに加え、降伏比が低いという特徴を持つ。低降伏比は、最終構造物になる前にプレス加工がある場合などに好ましい。主な適用先は自動車産業になる。一方で、このような低降伏比の鋼材でも、強度確保している組織はマルテンサイト相または焼き戻しマルテンサイト相であることには変わりはなく、これら組織の延性改善は産業上好ましいことは言うまでもない。フェライト相を導入しているため、従来技術の範囲で延性が向上しているが、本発明が提供する技術を、これら高張力鋼に適用しないのは合理的ではないと判断した。なお、フェライト相の体積率が30%を上回る場合、残りのマルテンサイト相や焼き戻しマルテンサイト相の延性を改善しなくても破断伸びを十分確保できるようになるので、本発明の対象とはしていない。また、フェライト相ではなくオーステナイト相でも低降伏比が達成できるのであるが、オーステナイト相を導入するためには、熱処理工程の管理が厳しく、製造コスト増加要因になるため、本発明の対象とはしなかった。また、本発明でフェライト相の体積率が5~30%である高強度鋼を対象とする場合は、プレス加工性を考慮して、降伏比が80%以下になる高強度鋼を対象とすることが望ましい。
本発明におけるbタイプ鋼は、フェライト相以外かつマルテンサイト相以外の相が、dタイプ鋼では、フェライト相以外かつ焼き戻しマルテンサイト相以外の相が、それぞれ5%未満の鋼材である。bタイプ鋼のような鋼材を製造するためには、例えば、一度オーステナイト温度領域まで加熱し、その後2相域まで冷却し、その温度で所定のフェライト相になるまで保持し、さらにその後水焼き入れなどをして残っているオーステナイト相をマルテンサイト相に変態させればよい。この時、残っていたオーステナイトが完全にマルテンサイトに変態するか、は、その時の冷却速度、鋼材の焼き入れ性や板厚などに依存する。しかし、冷却時に発生するマルテンサイト相以外の相が5%未満の場合、熱処理後の鋼材特性は、フェライト相とマルテンサイト相で決定される。そのため、bタイプ鋼では、フェライト相以外かつマルテンサイト相以外の相の体積率が5%未満の鋼材を対象とした。同様な理由で、dタイプ鋼では、フェライト相以外かつ焼き戻しマルテンサイト相以外の相の体積率が5%未満である鋼材を対象としている。
本発明におけるbタイプ鋼とdタイプ鋼はフェライト相を所定量含有させることでプレス加工性を確保しているが、これに対し、aタイプ鋼とcタイプ鋼は、フェライト相によるプレス加工性は期待できない。マルテンサイト相または焼き戻しマルテンサイト相が95%以上のような高強度鋼をプレス加工する場合、スプリングバックにより加工精度が十分でない問題が発生する可能性があるからである。このような問題を解決する手段としては、熱間プレス法の利用などがある。すなわち、所定のSを添加した鋼材を一度オーステナイト温度領域まで加熱し、その後プレス成形を行い、同時に成形後の冷却により焼き入れを行い、マルテンサイト相を導入すればよい。さらに、マルテンサイト相を導入した後に焼き戻し処理を行えば焼き戻しマルテンサイト相を導入することができる。本発明が対象とする鋼材には、熱間プレス後に、ミクロ組織(マルテンサイト相又は焼き戻しマルテンサイト相)の体積率が所定の値になっており、かつ引っ張り強度が所定の値になっている鋼材も含まれており、本発明が提供する技術は、このような熱間プレス用鋼材に対しても問題なく適用できる技術である。
次に、本発明においてSの添加量を規定した理由について述べる。
S添加は、本発明の最も重要な部分を形成する。従来技術によれば、Sは、快削鋼などの場合を除くと、不純物扱いされ、その添加量は極力低いことが好ましいが、過度の削減は製造コストを増加させるために鋼材特性を損なわない程度の範囲内に設定する、とされていた。しかし、本発明は、S添加を鋼材特性改善、特にマルテンサイト相や焼き戻しマルテンサイト相の特性改善、すなわち延性確保のために積極的に利用することを特徴とするものである。S含有量における下限の0.008%は、これを下回る添加量では、マルテンサイト相または焼き戻しマルテンサイト相の延性確保が十分ではなくなる。また、上限の0.03%は、これを上回る添加量では、MnSなどの硫化物の量が増加しすぎ、荷重を負荷した際に欠陥として働き、強度そのものが確保できなくなる。なお、Sの下限値は、好ましくは0.01%と設定することが望ましい。
次に、本発明において、アスペクト比および硫化物サイズを規定した理由について述べる。
鋼材中にSを添加すると、MnやFeなどと結合し、MnSやFeSなどの介在物を形成する。鋼材中の硫化物といえばこれらを意味する場合が多いが、これらが単独で形成されていない場合もある。例えば、酸化物や窒化物などと複合化されている場合もある。したがって、本発明における硫化物とは、MnSやFeSだけではなく、これらを主体とした硫化物、さらには酸化物や窒化物と複合化された硫化物も含まれる。一般に、酸化物、窒化物は融点が高く、鋼材製造時の早い段階で形成されるが、硫化物が複合化するのは、硫化物が形成される前に酸化物や窒化物が存在しているという背景があるものと考えられる。硫化物は、鋼材製造時の圧延工程で伸ばされ、伸長した硫化物は、体積に比して表面積が大きく、必然的に地鉄と硫化物の境界面も大きくなる。この境界面は延性には必ずしも寄与しないので、アスペクト比の上限を3に設定した。次に、本発明では、これら硫化物のサイズが、円換算した時の直径が、0.03μm以上で0.2μm以下のものを規定している。硫化物のサイズは、0.2μmより大きいものがあり、主にMnSがその主成分である。その大きさは、10μm以上になる場合がある。このような硫化物は、連続鋳造時、スラブ中央が最終凝固する際、融点が低いMnSがそこに集中し、中心偏析が発生する場合に生じる。このような硫化物は鋼材特性を劣化させる。本発明では硫化物のサイズを限定することで、延性を確保できるようにしている。なお、従来技術においてSが不純物扱いされていたのは、このような大きな硫化物の発生をできるだけ抑制するためである。
上述のように、本発明では、硫化物のサイズは円換算した時の直径(「円換算直径」)で規定される。ここで、アスペクト比および円換算直径を求める方法としては、本発明においては、抽出レプリカ法を用いて硫化物を抽出し、その後電顕観察を行い、その図を画像解析して各硫化物を楕円近似したときの長径および短径からアスペクト比を決定し、各硫化物の面積から円換算したときの直径を決定する方法を用いている。このようにして求めたアスペクト比が3以下である硫化物の円換算直径が0.03μm~0.2μmの範囲内にある場合は、特に延性向上が期待できるので、円換算直径の下限および上限を、それぞれ、0.03μm、0.2μmとした。
次に、本発明において、硫化物の個数を限定した理由について述べる。
本発明における円換算直径が0.03~0.2μmの硫化物は、中心偏析部に生じている大きな硫化物と異なり、鋼材延性を改善させる働きがあるので、かなり多くの量を含有しても問題はない。一方、この範囲の大きさの硫化物を1μm当たり10個~50個とすることで、特に延性向上効果が期待できる。上限を50個とすることで、それを上回る個数を導入する際に伴う中心偏析部の大きな硫化物を防ぐこともでき、かつ、下限を10個とすることで、硫化物量を適切に確保でき延性向上効果が確実に期待できるようになる。
次に、本発明において破断伸びを限定した理由について述べる。
本発明では、破断伸びが高い高強度鋼は延性が良好な高強度鋼と定義している。特に、本発明におけるaタイプ鋼やcタイプ鋼は、金属組織のうち95%以上がマルテンサイト相または焼き戻しマルテンサイト相であり、かつ、それぞれ、1200MPa以上、1100MPa以上の引張強度を有する高強度鋼である。従来鋼で用いられている延性を確保するための金属組織、すなわちフェライト相やオーステナイト相がほとんど含有されていないため、従来技術では、破断伸びは不十分なままである。本発明は、従来技術における、このような破断伸びが低い高強度鋼を対象としているものであり、強度確保に用いられている金属組織そのものの延性を改善するためにこそ、その威力が発揮される。
本発明におけるaタイプ鋼は、引張強度が1200MPa以上であり、マルテンサイト相が体積率で95%以上の高強度鋼である。この場合、破断伸びは、マルテンサイト相の延性だけで決定されると考えてよい。そのため、従来技術では破断伸びを十分確保することは難しい。本発明では、従来技術では達成できない延性に優れた高強度鋼を提供することを目的としている。破断伸びの下限値である8%は、これを下回る破断伸びでは、従来技術で製造された高強度マルテンサイト鋼の破断伸びと比較して、十分改良されたとは言い切れなくなるのでこの値を設定した。
本発明におけるcタイプ鋼は、引張強度が1100MPa以上であり、焼き戻しマルテンサイト相が体積率で95%以上の高強度鋼である。aタイプ鋼同様、従来技術では延性が乏しい焼き戻しマルテンサイト相で破断伸びが決定される。一般に、マルテンサイト相でも焼き戻し熱処理を行い、焼き戻しマルテンサイトにすると延性が回復し破断伸びも高くなる。しかし、この理由は、マルテンサイト相を焼き戻すことで引張強度が低下することからくるものである。本発明が対象としている引張強度が1100MPa以上の場合は、焼き戻しマルテンサイト相の引張強度を高く設定せざるを得ず、従来技術では破断伸びは高くはならない。本発明におけるcタイプ鋼は、aタイプ鋼に焼き戻し熱処理を施工することで製造可能である。そのため、本発明が対象としているcタイプ鋼の引張強度は、aタイプ鋼より低い1100MPa以上である。引張強度が低くなった分、従来技術においても破断伸びは少し高くなる傾向がある。本発明では、cタイプ鋼の破断伸びの下限を10%に設定しているが、これを下回る伸びでは、従来技術と比較して、十分改良されたとは言い切れなくなるのでこの値を設定した。
本発明におけるbタイプ鋼は、引張強度が1100MPa以上でフェライト相の体積率が5~30%でフェライト相以外かつマルテンサイト相以外の金属組織の体積率が5%未満で残りがマルテンサイト相の高強度鋼である。aタイプ鋼、cタイプ鋼と異なり、フェライト相が含有されている高強度鋼を対象としている。本発明がフェライト相を含有している高強度鋼を対象としている理由は、降伏比を制御したい場合があるからである。しかし、フェライト相があることにより、従来技術の場合でも、破断伸びがある程度上昇することも生じ得る。そのため、本発明におけるbタイプ鋼の破断伸びは、従来技術と比較して、十分改善されたと判断できるように、下限値として12%を設定した。
本発明におけるdタイプ鋼は、引張強度が1000MPa以上でフェライト相の体積率が5~30%でフェライト相以外かつ焼き戻しマルテンサイト相以外の金属組織の体積率が5%未満で残りが焼き戻しマルテンサイト相の高強度鋼である。dタイプ鋼は、本発明のbタイプ鋼を焼き戻し熱処理することで得られる。dタイプ鋼のマルテンサイト相を焼き戻すことで延性が改善するが、引張強度も低下する。本発明が対象としている、引張強度1000MPa以上の高強度鋼では、従来技術では、延性を改善することができない。但し、bタイプ鋼同様、従来技術でも、フェライト相を含有していることによる延性改善効果もある程度生じる場合がある。そのため、本発明におけるdタイプ鋼の破断伸びは、従来技術と比較して、十分改善されたと判断できるように、下限値として15%を設定した。
次に、本発明におけるS以外の鋼材成分について述べる。
本発明におけるC(炭素)の範囲は、aタイプ鋼、cタイプ鋼と、bタイプ鋼、dタイプ鋼で異なる範囲を設定している。その理由は、強度を確保する組織として、マルテンサイト相を利用しているか、焼き戻しマルテンサイト相を利用しているか、の違いによるものである。マルテンサイト相を焼き戻して焼き戻しマルテンサイト相にすると引張強度が低下する。このような状況下で所定の引張強度を示す高強度鋼の場合、焼き戻す前のマルテンサイト相の引張強度をそれだけ高く設定していることになり、Cの範囲もそれだけ高く限定する必要がある。
本発明における、aタイプ鋼、cタイプ鋼、すなわち、強度確保のための金属組織がマルテンサイト相である高強度鋼においては、Cの範囲は、マルテンサイト相の引張強度を確保するために必要な範囲にすべきである。下限の0.20%は、これを下回る量では、マルテンサイト相の引張強度が低下し、高強度を達成させることができなくなるためこの値を設定した。上限の0.45%は、これを上回る量の添加は、鋼材にマルテンサイト相を導入した際に鋼材強度が高くなりすぎ、本発明の技術をもってしても延性が確保できなくなるため、この値を設定した。
本発明における、bタイプ鋼、dタイプ鋼、すなわち、強度確保のための金属組織が焼き戻しマルテンサイト相である高強度鋼においては、Cの範囲は、マルテンサイト相を焼き戻し処理しても引張強度が確保できるような範囲に設定する必要がある。下限の0.25%は、これを下回る量では、焼き戻し熱処理する前のマルテンサイト相の強度が不十分で、所定の引張強度にならないことからこの値を設定した。上限の0.55%は、これを上回るC量では、高強度鋼を用いて最終構造物を製造する際、溶接部に高温割れなどの欠陥が発生し、構造物の安全性に多大な影響を及ぼす危険性が出てくるため、この値を設定した。
Si(ケイ素)は、強度向上元素として添加するものであるが、その働きはCとは異なる。Cはマルテンサイト相の強度を増加させる働きがあるが、Siは、焼入性を確保し、鋼製造時においてマルテンサイト相を導入しやすくすることで強度向上に寄与する。鋼材にマルテンサイト相を導入するためには、鋼材を高温から冷却させる必要があるが、Si添加をすることで、マルテンサイト相を導入できる冷却速度の範囲を広くすることが可能となる。下限の0.2%は、焼入性を向上させることができる最小の値として設定した。一方、Siの過度の添加は、鋼材にメッキを施す場合、メッキ性を劣化させるので上限を2.0%とした。なお、Siに関しては、焼入性確保がその主な目的であり、次に述べるMn添加でも焼入性を確保することができるので、好ましくはSiの上限を0.5%にすることが望ましい。
Mn(マンガン)は、焼入性元素としてこれまでのよく用いられてきた元素である。Mnの下限値、0.6%は、これを下回る添加量では、焼入性向上が十分ではなく、鋼材にマルテンサイト相を十分導入することができなくなるためこの値を設定した。上限の2.5%は、この値を上回る添加量では、強度向上が著しくなり、本発明の技術をもってしても延性を確保することができなくなるためこの値を設定した。
P(リン)は、本発明においては不純物である。Pの上限、0.03%は、これを上回る添加量では、粒界偏析した際の脆化の影響が大きいため、この値を設定した。
Al(アルミニウム)は、本発明においては、脱酸元素として選択されるものである。Alを添加することで鋼中の酸素を低減させることができるが、0.005%未満の添加量では十分な脱酸効果が得られないのでこの値を設定した。上限の0.1%は、これを上回る量を添加しても脱酸効果の向上が期待できず、さらには鋼中介在物が増加してくるのでこの値を設定した。
Cr(クロム)は、Mn同様焼入性を向上させる元素である。Crは、次に述べるMoと同様に、Mnより焼入性向上割合が高い元素であるが、一方で、高価な元素であるために、積極的な添加は、高強度高延性鋼の製造コストを削減するという本発明の本意に反する。下限の0.01%は、これを下回る添加量では、焼入性向上が期待できないのでこの値を設定した。上限の0.5%は、既にMn添加である程度焼入性が確保されているので、過度の強度向上や添加合金元素コスト増加などの問題が発生するため、この値を設定した。
Mo(モリブデン)もCrと同様、鋼材の焼入性を向上させる元素である。MoもMnより焼入性向上割合が高い元素であり、Cr同様高価な元素でもある。下限の0.01%は、これを下回る添加量では焼入性向上が期待できないためこの値を設定した。上限の0.5%は、既にMn添加である程度焼入性が確保されているので、過度の強度向上や添加合金元素コスト増加などの問題が発生するため、この値を設定した。
Cu(銅)もCr同様、焼入性向上元素である。Cuの焼入性向上割合は、CrやMoほどには高くはない。そのため、焼入性向上を発現させるための下限値は、CrやMoより高めに設定する必要がある。下限の0.05%は、これを下回る添加量では、焼入性向上も耐候性特性も確保できないため、この値を設定した。上限の0.5%は、これを上回る添加量では、鋼材製造時にCuクラックを発生させる危険が出てくるため、この値を設定した。
Ni(ニッケル)もCr同様焼入性を向上させる元素であるが、Cu同様、Cr、Moほどには焼入性向上割合は大きくはない。下限の0.05%は、これを下回る添加量では、焼入性向上効果が期待できないのでこの値を設定した。上限の0.5%は、Niは高価な元素であり、これを上回る添加量は本発明の本意に反するのでこの値を設定した。
Nb(ニオブ)は析出元素であり、Cと結合することで炭化物を形成し鋼材強度を向上させる元素である。さらには、鋼材加熱時に粒成長を抑えることで、細粒化を図ることができ強度向上が期待できる。Nbの下限値、0.005%は、これら効果が発現できる最低の値として設定した。上限の0.08%は、これを上回る量を添加してもその効果は飽和してくるのでこの値を設定した。
V(バナジウム)もNb同様析出元素である。しかし、その効果はNbほど強くはないので、添加量の範囲として異なる値を設定した。下限値の0.01%は、V添加による強度向上が発現できる最低限の値として設定した。上限の0.2%は、これを上回る量を添加してもその効果が飽和してくるのでこの値を設定した。
Ti(チタン)も、Nb、V同様析出元素であり、それら元素と同様な働きを持っている。Tiはそれ以外にも脱酸元素として用いることが可能である。また、Nと結合し、固溶Nを低減する働きもある。このうち、固溶Nを低減する効果については、次に述べるBの働きに関係してくるため、B添加を選択する場合は、Ti添加の選択も同時に行うことが好ましい。Ti添加量の下限値、0.005%は、これを下回る添加量では、鋼板強度向上や脱酸効果などが発現されないためこの値を設定した。上限の0.08%は、これを上回る量を添加してもその効果が飽和してくるのでこの値を設定した。なお、固溶Nを低減させるためには、好ましくはTiの下限を0.02%に設定することが望ましい。
B(ホウ素)は鋼板の焼入性を向上させるために添加する元素である。Bの焼入性向上メカニズムはいくつかの説があり必ずしも明確にはなっていないが、鋼材が加熱されオーステナイト化されている時に粒界に偏析し、そこからの変態を抑制する働きがあるため、とされている。粒界に偏析するためには、Bは鋼中に固溶している必要があるが、固溶Nが存在するときは、BNを形成するため焼入性向上に寄与しなくなるとされている。そのため、Nを何らかの方法で固定化しておく必要がある。Nと結合し析出物を形成する元素としては、AlとTiがある。それぞれAlN、TiNを形成することでNを固定化する。本発明では、Alは必須成分としているため、Al添加でNを固定化することができる。B添加量の下限、0.0003%は、これを下回る添加量では、鋼板焼入性向上効果が発現できないためこの値を設定した。上限の0.0040%は、これを上回る量を添加しても効果が飽和してくるのでこの値を設定した。なお、本発明では、Alは脱酸元素としても利用している。脱酸に利用されたAlはNを固定する働きがなくなるので、よりBの効果を発現するためには、B添加を選択する場合はTi添加も同時に選択することが望ましい。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
表1に記載された成分の鋼板は、本発明の実施例に用いられた鋼板である。これらの鋼材を圧延することで、すべて板厚を15mmにした。このうち、鋼番号1~12の12鋼種は実施例1に用いた鋼材の成分である。なお、鋼番号3、4、9の3種の鋼材は、Sが本発明の範囲外である点で、比較例に相当する。これら鋼材を、1100℃で1時間保持しオーステナイト化した後、水焼入れすることでマルテンサイト相を導入した。マルテンサイト相の体積率は、急冷後の鋼板より試験片を採取し、光学顕微鏡にてミクロ組織観察を行うことで決定した。また、抽出レプリカ法で鋼板の硫化物を抽出して電験観察し、その写真を画像解析することで、アスペクト比と円換算直径を各硫化物に対して決定し、アスペクト比が3以下であるもので円換算直径が0.03~0.2μmである硫化物の1μm当たりの個数を決定した。
Figure 0007616631000001
マルテンサイト相を導入した後に、図1に示す引張試験片を採取した。本発明における破断伸びは、図1に示す引張試験片で測定された破断伸びである。表2は、引張強度、マルテンサイト相の体積率(VM)、アスペクト比が3以下で円換算直径が0.03μm~0.2μmである硫化物の1μm当たりの個数(N)、および破断伸びの結果を示している。引張強度に関しては、本発明例、比較例にかかわらず1200MPa以上の値を示しているのがわかる。また、マルテンサイト相の体積率も全て95%以上であり、本発明が対象としている高強度鋼であることがわかる。また、S添加量及びNが本発明の範囲内である、No.101,No.102、No.105~No.108、No.110~No.112に関しては、全て破断強度が8%を上回っていることがわかり、延性に優れた高強度鋼であることがわかる。これに対し、S添加量及びNが本発明の範囲外である比較例、No.103、No.104、No.109に関しては、破断伸びが8%に達しなかった。
Figure 0007616631000002
表1にある鋼材で圧延により板厚を15mmにした鋼材のうち、鋼番号1~12の鋼材に対して、1100℃で1時間保持しオーステナイト化した後、表3にあるTp2温度まで急冷し、その温度で1分~2時間の間で保持して、フェライト変態を促進させ、その後水焼入れしてマルテンサイト相を導入した。各相の体積率および硫化物個数は、実施例1と同じ方法で決定した。表3には、フェライト相の体積率(VF)、マルテンサイト相の体積率(VM)、アスペクト比が3以下で円換算直径が0.03μm~0.2μmである硫化物の1μm当たりの個数(N)、その他金属組織の体積率(V)を示した。これら熱処理後の鋼から図1に示す引張試験片を採取し引張試験を行った。引張強度はすべて1100MPaを上回り、フェライト相の体積率は、5~30%の範囲内にあり、フェライト相以外かつマルテンサイト相以外の組織の体積率は5%未満で、残りの組織がマルテンサイト相であり、本発明の対象としている高強度鋼であることがわかる。また、降伏比も表3に示した。降伏比は、すべて80%を下回る値になっている。S添加量およびNが本発明の範囲内である、No.151、No.152、No.155~No.158、No.160~No.162に関しては、破断伸びは12%を上回っており、高い延性を示した。一方、S添加量およびアスペクト比が3以下で円換算直径が0.03μm~0.2μmの範囲内にある硫化物の個数(N)が本発明の範囲外であるNo.153、No.154、No.159では、破断伸びがすべて12%を下回り、延性は良好ではなかった。

Figure 0007616631000003
表1にある鋼番号1~11および13の鋼材を圧延にて板厚を15mmにして、1100℃で1時間保持しオーステナイト化した後、水焼入れすることでマルテンサイト相を導入した。その後、マルテンサイト相を焼き戻しマルテンサイト相にするため、焼き戻し熱処理を行った。熱処理時間は25分で、各鋼材に対して共通であるが、熱処理温度はそれぞれ異なっている。各鋼材に対する熱処理温度は表4に示してある通りである。なお、表4のTは焼き戻し温度である。各相の体積率および硫化物個数は、実施例1と同じ方法で決定した。これら12鋼種に対し、図1に示す引張試験片を採取し引張試験を行い、引張強度および破断伸びを測定した。表4にその結果を示した。No.201~No.212に対しては、引張強度はすべて1100MPa以上であり、また、VTMはすべて95%以上の値を示しており、本発明が対象としている高強度鋼であることがわかる。一方、No.213に関しては、No.203の熱処理温度400℃を550℃に高めた場合であり、VTMは同じであるが、引張強度は1100MPaを下回った鋼材なので、本発明が対象としている鋼材ではない。
Figure 0007616631000004
No.201~No.212の破断伸びを比較すると、S添加量およびNが本発明の範囲内である、No.201、No.202.No.205~No.208、No.210~No.212に関しては、すべて破断伸びが10%以上であり良好な延性を示していることがわかる。一方、S添加量およびNが本発明の範囲外である、No.203、No.204、No.209は破断伸びが10%未満であり、本発明例と比較して延性が十分ではないことがわかる。No.213は、S添加量が本発明の範囲外の場合であるが、焼き戻し熱処理温度が高く、その分引張強度が929MPaと低くなり、本発明の対象外になった鋼材である。この場合、破断伸びは15%と良好な値を示しているが、これは強度低下によりもたらされたものである。本発明では、高強度と高延性を同時に満たす技術を社会に提供することを目的としているため、No.213のような場合は対象外としている。
表1にある鋼番号1~11および13の鋼種を圧延にて板厚を15mmにして、1100℃で1時間保持しオーステナイト化した後、表5にあるTp2温度まで急冷し、その温度で1分~2時間の間で保持して、フェライト変態を促進させ、保持後水焼入れしてマルテンサイト相を導入した。さらに、導入されたマルテンサイト相を焼き戻しマルテンサイト相にするため、焼き戻し熱処理を実施した。その時の熱処理時間は25分と共通であるが、各鋼材に対する焼き戻し温度(T)は表5に示している温度である。フェライト相の体積率(VF)、焼き戻しマルテンサイト相の体積率(VTM)、それ以外の組織の体積率(V)は、熱処理後の鋼より試験片を採取し、光学顕微鏡でミクロ組織観察を行うことで決定した。また、アスペクト比が3以下で円換算直径が0.03μm~0.2μmの範囲内にある硫化物の個数(N)を測定した。これらの測定方法は、実施例1の場合と同じである。熱処理後の各鋼材より図1に示す引張試験片を採取し引張試験を実施した。試験結果を表5に示した。表5におけるNo.251~No.263は、引張強度がすべて1000MPa以上であり、かつフェライト相の体積率が5~30%の範囲内で、本発明が対象としている高強度鋼である。一方、No.264は、焼き戻し温度をNo.253の場合より高くした鋼材で、引張強度が1000MPaを下回ったもので、本発明の対象ではない鋼材である。
Figure 0007616631000005
表5より、本発明が対象としているNo.251~No.263の高強度鋼のうち、S添加量およびNが本発明の範囲内である、No.251、No.252、No.255~No.258、No.260~No.263については、破断伸びがすべて15%以上を示しており、延性に優れた高強度鋼であることがわかる。一方、本発明が対象にしている高強度鋼のうち、S添加量およびNが本発明の範囲外であるNo.253、No.254、No.259は破断伸びがすべて15%を下回っており、本発明例と比べ延性が劣っていることがわかる。本発明の対象ではないNo.264については、焼き戻し温度が高く、引張強度が1000MPaを下回っている鋼材である。破断伸びは18%と良好であるが、これは、焼き戻し温度が高いことにより強度が低下したことによるものである。本発明では、高強度と高延性を同時に満たす技術を社会に提供することを目的としているため、No.264のような場合は対象外としている。
本発明は、強度確保のために導入されているマルテンサイト相や焼き戻しマルテンサイト相の延性を向上させることで高強度かつ高延性を達成させる技術であり、軽量化が必須の自動車産業や、構造物の大型化が進む鋼橋および建築産業にとって極めて好適な素材である。

Claims (3)

  1. 引張強度が1200MPa以上、かつマルテンサイト相の体積率が95%以上である高強度鋼であって、
    質量比で、S:0.014~0.03%、C:0.20~0.45%、Si:0.1~2.0%、Mn:0.6~2.5%、P:0.03%以下、Al:0.005~0.1%を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなり、破断伸びが8%以上であることを特徴とする高強度鋼。
  2. MnSまたはFeSまたはそれらを主体とした硫化物、さらには酸化物、窒化物と複合化された硫化物のうち、アスペクト比が3以下であるもののうち円換算直径が0.03μm以上かつ0.2μm以下である硫化物が、1μm当たり10個以上50個以下でマルテンサイト相中に存在することを特徴とする、請求項1に記載の鋼強度鋼。
  3. 質量比で、Cr:0.01~0.5%、Mo:0.01~0.5%、Cu:0.05~0.5%、Ni:0.05~0.5%、Nb:0.005~0.08%、V:0.01~0.2%、Ti:0.005~0.08%、B:0.0003~0.0040%のいずれか1種もしくは2種以上をさらに含有する、請求項1又は2に記載の高強度鋼。
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