JP2017197792A - 液体水素用Ni鋼 - Google Patents
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(2)上記(1)に記載のNi鋼では、体積分率で2%以上、15%以下のオーステナイト相を含んでもよい。
(3)上記(1)又は(2)に記載のNi鋼では、有効結晶粒径が2μm以上、8μm以下に制限してもよい。
(4)上記(1)〜(3)の何れかに記載のNi鋼では、板厚が、12mm以上、30mm以下、室温での降伏応力が、460MPa以上、580MPa以下、室温での引張強さが、560MPa以上、680MPa以下、であってもよい。
Cは、室温での降伏応力を上昇させる元素であり、マルテンサイトやオーステナイトの生成にも寄与する。C含有量が0.030%未満では強度が確保できず、粗大なベイナイトなどの生成によって極低温靭性が低下することがあるため0.030%以上を下限とする。好ましいC含有量の下限は0.035%以上である。一方、C含有量が0.070%を超えると、旧オーステナイト粒界にセメンタイトが析出しやすくなり、−253℃で粒界での破壊が起こり、極低温靭性が低下するため、その上限を0.070%以下とする。好ましいC含有量の上限は0.060%以下、より好ましくは0.050%以下であり、更に好ましいC含有量の上限は0.045%以下である。
Siは、室温での降伏応力を上昇させる元素である。Si含有量が0.03%未満では室温での降伏応力の向上効果が小さいので0.03%以上を下限とする。好ましいSi含有量の下限は0.05%以上である。一方、Si含有量が0.30%を超えると、旧オーステナイト粒界のセメンタイトが粗大化しやすくなり、−253℃で粒界での破壊が起こり、極低温靭性が低下する。したがって、Si含有量の上限を0.30%以下に制限することは、−253℃での靱性を確保するために、極めて重要である。好ましいSi含有量の上限は0.20%以下、より好ましくは0.15%以下であり、更に好ましいSi含有量の上限は0.10%以下である。
Mnは、室温での降伏応力を上昇させる元素である。Mn含有量が0.20%未満では強度が確保できず、粗大なベイナイトなどの生成によって極低温靭性が低下することがあるため0.20%以上を下限とする。好ましいMn含有量の下限は0.30%以上である。一方、Mn含有量が0.80%を超えると、旧オーステナイト粒界に偏析したMnや粗大に析出するMnSにより−253℃で粒界での破壊が起こり、極低温靭性が低下する。したがって、Mn含有量の上限を0.80%以下に制限することも、−253℃での靱性を確保するために、極めて重要である。好ましいMn含有量の上限は0.60%以下、より好ましくは0.50%以下である。
Niは、極低温靭性を確保するために必須の元素である。Ni含有量が11.5%未満であると、−253℃での靭性が不足するため、11.5%以上を下限とする。好ましいNi含有量の下限は11.8%以上である。しかし、Niは高価な元素であり、12.4%超含有すると経済性を損なうため、Ni含有量を12.4%以下に制限する。
Alは、主に脱酸に使用される元素であり、また、AlNを形成し、金属組織の微細化や、極低温靱性を低下させる固溶Nの低減にも寄与する。Al含有量が0.010%未満では脱酸の効果や金属組織の微細化効果及び固溶N低減効果が小さいので、0.010%以上を下限とする。Al含有量の下限は0.015%以上が好ましく、より好ましくは0.020%以上とする。しかし、Al含有量が0.060%を超えると、−253℃における靭性が低下するため、その上限を0.060%以下とする。より好ましいAl含有量の上限は0.040%以下である。
Nは、窒化物の形成に寄与し、N含有量を0.0015%未満へ低減すると、熱処理時にオーステナイト粒径の粗大化を抑制する微細なAlNが不足し、オーステナイト粒が粗大化して極低温靭性が低下する場合がある。このため、N含有量は、0.0015%以上とし、好ましくは0.0020%以上としてもよい。一方。N含有量が0.0060%を超えると固溶Nが増加したり、AlNが粗大化するため−253℃での靭性が低下する。このため、N含有量を0.0060%以下とし、好ましくは上限を0.0050%以下、より好ましくは0.0040%以下とする。
Oは、不純物であり、O含有量が0.0030%を超えるとAl2O3のクラスターが増加し、−253℃での靭性が低下する場合があるため、O含有量の上限を0.0030%以下とする。好ましいO含有量の上限は0.0025%以下であり、より好ましくは0.0020%以下、更に好ましくは0.0015%以下とする。O含有量は少ないほうが望ましいが、0.0007%未満へのO含有量の低減はコスト上昇を伴う場合があるので0.0007%以上を下限とする。
Pは、旧オーステナイト粒界での粒界脆化をもたらし、極低温靭性に有害な元素である。そのため、P含有量は少ないほうが望ましい。P含有量が0.0080%を超えると−253℃での靭性が低下する場合がある。したがって、P含有量を0.0080%以下に制限する。P含有量の上限は、好ましくは、0.0060%以下、より好ましくは、0.0040%以下、更に好ましくは、0.0030%以下である。Pは溶鋼製造時にスクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
Sは、MnSとして脆性破壊の発生起点となる場合があり、極低温靭性に有害な元素である。S含有量が0.0040%を超えると−253℃での靭性が低下する場合があるため、S含有量を0.0040%以下に制限する。S含有量の上限は、好ましくは0.0030%以下、より好ましくは、0.0020%以下、更に好ましくは、0.0010%以下である。Sは溶鋼製造時にスクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
Cuは、室温での降伏応力を上昇させる元素であり、Cuを含有してもよい。ただし、Cu含有量が0.50%を超えると−253℃における靭性が低下するため、上限を0.50%以下とする。Cu含有量の上限は、好ましくは0.40%以下、より好ましくは0.30%以下、更に好ましくは0.20%以下である。Cuは、溶鋼の製造時にスクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
Crは、室温での降伏応力を上昇させる元素であり、Crを含有してもよい。ただし、Cr含有量が0.50%を超えると−253℃における靭性が低下するため、上限を0.35%以下とする。Cr含有量の上限は、好ましくは0.30%以下、より好ましくは0.20%以下、更に好ましくは0.10%以下である。Crは、溶鋼の製造時にスクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
Moは、室温での降伏応力を上昇させる元素であり、粒界脆化を抑制する効果も有するのでMoを含有してもよい。ただし、Moは高価な元素であり、Mo含有量が0.40%を超えると経済性を損なうため、Mo含有量を0.40%以下に制限する。Moは、溶鋼の製造時にスクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
Nbは、室温での降伏応力を上昇させる元素であり、金属組織の微細化による極低温靭性の向上効果も有するのでNbを含有してもよい。ただし、Nb含有量が0.020%を超えると、−253℃における靭性が低下するため、その上限を0.020%以下とする。Nb含有量の上限は、好ましくは0.015%以下、より好ましくは0.010%以下である。Nbは溶鋼の製造時にスクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
Vは、室温での降伏応力を上昇させる元素であり、Vを含有してもよいが、0.080%超含有すると−253℃における靭性が低下するため、その上限を0.080%以下とする。V含有量の上限は、好ましくは0.060%以下、より好ましくは0.040%以下である。Vは溶鋼の製造時にスクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
Tiは、TiNを形成し、金属組織の微細化や、極低温靱性を低下させる固溶Nの低減にも寄与する。しかし、Ti含有量が0.020%を超えると、−253℃における靭性が低下するため、その上限を0.020%以下とする。好ましいTi含有量の上限は0.015%以下であり、より好ましい上限は0.010%以下である。Tiは、溶鋼の製造時にスクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
Bは、室温での降伏応力を上昇させる元素であり、また、BNを形成し、極低温靱性を低下させる固溶Nの低減にも寄与する。しかし、Bを0.0020%超含有すると−253℃における靭性が低下するため、その上限を0.0020%以下とする。B含有量の上限は、好ましくは0.0015%以下であり、より好ましくは0.0012%以下、更に好ましくは0.0010%以下である。Bは溶鋼の製造時にスクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
Caは、熱間圧延により延伸して極低温靭性への有害性が高まりやすいMnSをCaSとして球状化し、極低温靭性を向上させるのに有効であるためCaを含有してもよい。しかし、Ca含有量が0.0040%を超えると、Caを含有する酸硫化物が粗大化して、−253℃における靭性が低下する。このためCa含有量の上限を0.0040%以下に制限し、好ましくは0.0030%以下とする。Caは、溶鋼製造時にスクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
REM(希土類金属元素)は、Caと同様に、熱間圧延によって延伸して極低温靭性への有害性が高まりやすいMnSをREMの酸硫化物として球状化し、極低温靭性を向上させるのに有効であるためREMを含有してもよい。しかし、REM含有量が0.0050%を超えるとREMを含有する酸硫化物が粗大化して、−253℃における靭性が低下する。このためREM含有量の上限を0.0050%以下に制限し、好ましくは0.0040%以下とする。REMは、溶鋼の製造時にスクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
旧オーステナイト粒径は3μm以上、15μm以下とする必要がある。旧オーステナイト粒径が15μmを超えると旧オーステナイト粒界に析出するセメンタイトが粗大となり、また、MnやPの粒界の濃度が上昇する。粗大なセメンタイトの析出や、Mn、Pの濃化は、旧オーステナイト粒界の結合力を弱めて旧オーステナイト粒界での破壊を招いたり、脆性破壊の発生の起点となり、−253℃での極低温靭性を低下させるので、旧オーステナイト粒径の上限を15μmとする。旧オーステナイト粒径を3μm未満に細粒化するには熱処理の回数を増加させるなど、製造コストの上昇を伴うので下限を3μmとする。
更に、本発明では、−253℃での極低温靭性を確保するために、旧オーステナイト粒のアスペクト比を2.4以下とする必要がある。旧オーステナイト粒のアスペクト比とは、圧延に平行な面(L面)での旧オーステナイト粒の長さと厚さとの比、すなわち、旧オーステナイト粒の圧延方向長さ:旧オーステナイト粒の板厚方向の厚さ、である。したがって、旧オーステナイト粒の長さと厚さとが同一である場合がアスペクト比の下限であり、アスペクト比は1.0以上である。
また、−253℃における靭性を高めるには、オーステナイト相を体積分率で2%以上含有することが好ましい。ただし、このオーステナイト相は旧オーステナイトとは異なり、熱処理後のNi鋼に存在するオーステナイト相であり、体積分率をX線回折法で測定する。−253℃でも安定なオーステナイト相が存在する場合、負荷される応力や歪がオーステナイトの塑性変形によって緩和されるため、靱性が向上すると考えられる。また、オーステナイト相は旧オーステナイト粒界や焼戻しマルテンサイトのブロック境界やラス境界などに、比較的、均一に微細に生成する。
有効結晶粒径は2μm以上、8μm以下とすることが好ましい。有効結晶粒径は、結晶方位がほぼ同一の領域であり、微細化すると破壊亀裂の伝播の抵抗が大きくなり、靱性が向上する。ただし、有効結晶粒径を2μm以下に細粒化するには熱処理の回数を増加させるなど、製造コストの上昇を伴うので下限を2μmとする。また、有効結晶粒径が8μmを超えると、脆性破壊の発生の起点となる硬質相、すなわち、旧オーステナイト粒界や焼戻しマルテンサイト中の粗大なセメンタイトや、粗大なAlN、MnS、アルミナなどの介在物に作用する応力が高まり、−253℃での極低温靭性が低下する場合がある。
Claims (4)
- 質量%で、
C:0.030%以上、0.070%以下、
Si:0.03%以上、0.30%以下、
Mn:0.20%以上、0.80%以下、
Ni:11.5%以上、12.4%以下、
Al:0.010%以上、0.060%以下、
N:0.0015%以上、0.0060%以下、
O:0.0007%以上、0.0030%以下
を含有し、
P:0.0080%以下、
S:0.0040%以下、
Cu:0.50%以下、
Cr:0.50%以下、
Mo:0.40%以下、
Nb:0.020%以下、
V:0.080%以下、
Ti:0.020%以下、
B:0.0020%以下、
Ca:0.0040%以下、
REM:0.0050%以下
に制限し、
残部がFe及び不純物からなり、
旧オーステナイト粒の粒径が3μm以上、15μm以下、アスペクト比が1.0以上、2.4以下
であることを特徴とする、液体水素用Ni鋼。 - 体積分率で2%以上、15%以下のオーステナイト相を含有する
ことを特徴とする、請求項1に記載の液体水素用Ni鋼。 - 有効結晶粒径が2μm以上、8μm以下
であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の液体水素用Ni鋼。 - 板厚が、12mm以上、30mm以下、
降伏応力が、460MPa以上、580MPa以下、
引張強さが、560MPa以上、680MPa以下
であることを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の液体水素用Ni鋼。
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