JP2017197792A - 液体水素用Ni鋼 - Google Patents

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Abstract

【課題】液体水素温度(−253℃)において十分な靭性を有し、室温での降伏応力が460MPa以上である、12%程度のNiを含有する液体水素用Ni鋼を提供する。【解決手段】質量%で、C:0.030%以上、0.070%以下、Si:0.03%以上、0.30%以下、Mn:0.30%以上、0.80%以下、Ni:11.5%以上、12.4%以下を含有し、旧オーステナイト粒の粒径が3μm以上、8μm以下、アスペクト比が1.0以上、2.4以下である、液体水素用Ni鋼。体積分率で2%以上、15%以下のオーステナイト相を含有してもよく、有効結晶粒径が2μm以上、8μm以下であってもよい。【選択図】なし

Description

本発明は、液体水素用Ni鋼、すなわち、液体水素を貯蔵するタンクなど、主に、−253℃付近での用途を対象とする、Niを含有する鋼に関するものである。
近年、クリーンエネルギーとしての液体水素の利用に対する期待が高まっている。液体水素などの液化ガスを貯蔵、運搬するタンクに使用される鋼板には、優れた極低温靭性が求められ、脆性破壊しにくいオーステナイト系ステンレス鋼が用いられている。オーステナイト系ステンレス鋼は十分な極低温靭性を有するが、汎用材の室温での降伏応力は200MPa程度である。
強度が不十分なオーステナイト系ステンレス鋼を液体水素タンクに適用する場合、大型化には限界がある。また、鋼材の降伏応力が200MPa程度であると、タンクの大型化に際して板厚を30mm超にする必要があるため、タンク重量の増大や製造コストの増加が問題となる。このような課題に対し、室温での0.2%耐力が450MPaの板厚5mmのオーステナイト系高Mnステンレス鋼が提案されている(例えば、特許文献1、参照)。
また、代表的な液化ガスである液化天然ガス(Liquefied Natural Gas:LNG)用のタンク(LNGタンクと称する場合がある。)には、フェライト系の9%Ni鋼が使用されている。LNGは液体水素に比べて高温であるとはいえ、9%Ni鋼は優れた極低温靭性を有しており、従来から、LNGタンクに適した種々の9%Ni鋼や、7%Ni鋼が提案されている(例えば、特許文献2〜4、参照)。また、9%Ni鋼は、室温での降伏強度を590MPa以上にすることも可能であり、大型のLNGタンクにも適用できる。
例えば、特許文献2には、5〜7.5%のNiを含有し、室温での降伏応力が590MPaより高く、−233℃でのシャルピー試験での脆性破面率が50%以下である、板厚25mmの低温用鋼が開示されている。特許文献2では、−196℃で安定な残留オーステナイトの体積分率を2〜12%として低温靭性を確保している。
また、特許文献3には、5〜10%のNiを含有し、室温での降伏応力が590MPa以上で、歪時効後の−196℃での低温靭性に優れた板厚6〜50mmの低温用鋼が開示されている。特許文献3では、残留オーステナイトの体積分率を3%以上、有効結晶粒径を5.5μm以下とし、粒内の組織に適度な欠陥を導入することにより、歪時効後の低温靭性を確保している。
更に、特許文献4には、7.5〜12%のNiを含有し、母材だけでなく、溶接熱影響部の低温靱性にも優れる、6mm厚の低温用薄物ニッケル鋼板が開示されている。特許文献4では、溶接熱影響部に島状マルテンサイトが生成しないように、Si及びMnの含有量を低減させて、−196℃での低温靭性を確保している。
特許第5709881号公報 特開2014−210948号公報 特開2011−219849号公報 特開平3−223442号公報
特許文献1に開示されたオーステナイト系高Mnステンレス鋼は、熱膨張係数がフェライト系の9%Ni鋼に比較して大きい。大型の液体水素タンクには、疲労等の問題から、熱膨張係数が小さい9%Ni鋼が有利である。一方、特許文献2〜4に開示された9%Ni鋼や、7%Ni鋼は、本発明者らによる検討では、液体水素温度である−253℃では十分な靭性が得られていない。
本発明は、このような実情に鑑み、−253℃において十分な靭性を有すると共に、室温での降伏応力が460MPa以上である、Niを含有する極低温用鋼の提供を課題としてなされたものである。
本発明者らは、Niの含有量を従来の9%Niよりも高めて12%程度とした鋼の、−253℃における靭性と室温での降伏応力について数多くの検討を実施した。その結果、極低温靭性の確保には、Siの含有量を制限し、Mnの含有量を厳格に制限するとともに、旧オーステナイトの粒径とアスペクト比を最適に制御することが必要であることを見出した。
本発明は、以上のような知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
(1)本発明の一態様に係る極低温用鋼は、質量%で、C:0.030%以上、0.070%以下、Si:0.03%以上、0.30%以下、Mn:0.20%以上、0.80%以下、Ni:11.5%以上、12.4%以下、Al:0.010%以上、0.060%以下、N:0.0015%以上、0.0060%以下、O:0.0007%以上、0.0030%以下を含有し、P:0.0080%以下、S:0.0040%以下、Cu:0.50%以下、Cr:0.50%以下、Mo:0.40%以下、Nb:0.020%以下、V:0.080%以下、Ti:0.020%以下、B:0.0020%以下、Ca:0.0040%以下、REM:0.0050%以下に制限し、残部がFe及び不純物からなり、旧オーステナイト粒の粒径が3μm以上、15μm以下、アスペクト比が1.0以上、2.4以下であることを特徴とする、液体水素用Ni鋼。
(2)上記(1)に記載のNi鋼では、体積分率で2%以上、15%以下のオーステナイト相を含んでもよい。
(3)上記(1)又は(2)に記載のNi鋼では、有効結晶粒径が2μm以上、8μm以下に制限してもよい。
(4)上記(1)〜(3)の何れかに記載のNi鋼では、板厚が、12mm以上、30mm以下、室温での降伏応力が、460MPa以上、580MPa以下、室温での引張強さが、560MPa以上、680MPa以下、であってもよい。
本発明によれば、液体水素タンク用途として十分な極低温靭性を有すると共に、高い室温での降伏応力を有する液体水素用Ni鋼を提供することが可能になる。したがって、本発明の液体水素用Ni鋼を液体水素タンクに使用すれば、オーステナイト系ステンレス鋼に比べて、タンク用鋼板の板厚を薄くすることが可能となる。このため、本発明により、液体水素タンクの大型化や軽量化、体積に対する表面積が小さくなることによる防熱性能の向上、タンクの敷地の有効利用や液体水素運搬船の燃費向上などが可能となる。また、オーステナイト系ステンレス鋼に比較して、本発明の液体水素用Ni鋼は熱膨張係数が小さいため、大型タンクの設計が複雑なものとならずタンク製造コストが低減できる。このように、本発明は産業上の貢献が極めて顕著である。
12%程度のNiを含有する鋼(12%Ni鋼と称することがある。)は、9%Ni鋼に比較し、低温靭性を向上させるNiを3%多く含有するものの、低温靱性に関して本発明が狙いとする−253℃は9%Ni鋼の従来の評価温度である−165℃や−196℃よりも、大幅に低温である。本発明者らは、12%Ni鋼の−253℃における靭性に及ぼす成分含有量や金属組織の影響を明らかにするために数多くの検討を実施した。そして、本発明者らの検討の結果、9%Ni鋼に対して、単にNi量を3%増加しても、−253℃での靭性は不十分な場合があることがわかった。
更に、本発明者らは、12%Ni鋼の−253℃における靭性を高める方法を検討した。その結果、特に、(a)Cの含有量を0.030%以上、0.070%以下にすること、(b)Siの含有量を0.03%以上、0.30%以下にすること、(c)Mnの含有量を0.20%以上、0.80%以下にすること、(d)旧オーステナイトの粒径及び形態を制御すること、の4つの条件を同時に満足する必要があることがわかった。更に、(e)オーステナイト相の体積分率を制御することや、(f)有効結晶粒径を制御すること、により、−253℃での低温靭性が向上するという知見も得られた。
以下、本発明について説明する。まず、Ni鋼の成分組成について説明する。なお、含有量の%は、特に説明がない限り、質量%を意味する。
(C:0.030%以上、0.070%以下)
Cは、室温での降伏応力を上昇させる元素であり、マルテンサイトやオーステナイトの生成にも寄与する。C含有量が0.030%未満では強度が確保できず、粗大なベイナイトなどの生成によって極低温靭性が低下することがあるため0.030%以上を下限とする。好ましいC含有量の下限は0.035%以上である。一方、C含有量が0.070%を超えると、旧オーステナイト粒界にセメンタイトが析出しやすくなり、−253℃で粒界での破壊が起こり、極低温靭性が低下するため、その上限を0.070%以下とする。好ましいC含有量の上限は0.060%以下、より好ましくは0.050%以下であり、更に好ましいC含有量の上限は0.045%以下である。
(Si:0.03%以上、0.30%以下)
Siは、室温での降伏応力を上昇させる元素である。Si含有量が0.03%未満では室温での降伏応力の向上効果が小さいので0.03%以上を下限とする。好ましいSi含有量の下限は0.05%以上である。一方、Si含有量が0.30%を超えると、旧オーステナイト粒界のセメンタイトが粗大化しやすくなり、−253℃で粒界での破壊が起こり、極低温靭性が低下する。したがって、Si含有量の上限を0.30%以下に制限することは、−253℃での靱性を確保するために、極めて重要である。好ましいSi含有量の上限は0.20%以下、より好ましくは0.15%以下であり、更に好ましいSi含有量の上限は0.10%以下である。
(Mn:0.20%以上、0.80%以下)
Mnは、室温での降伏応力を上昇させる元素である。Mn含有量が0.20%未満では強度が確保できず、粗大なベイナイトなどの生成によって極低温靭性が低下することがあるため0.20%以上を下限とする。好ましいMn含有量の下限は0.30%以上である。一方、Mn含有量が0.80%を超えると、旧オーステナイト粒界に偏析したMnや粗大に析出するMnSにより−253℃で粒界での破壊が起こり、極低温靭性が低下する。したがって、Mn含有量の上限を0.80%以下に制限することも、−253℃での靱性を確保するために、極めて重要である。好ましいMn含有量の上限は0.60%以下、より好ましくは0.50%以下である。
(Ni:11.5%以上、12.4%以下)
Niは、極低温靭性を確保するために必須の元素である。Ni含有量が11.5%未満であると、−253℃での靭性が不足するため、11.5%以上を下限とする。好ましいNi含有量の下限は11.8%以上である。しかし、Niは高価な元素であり、12.4%超含有すると経済性を損なうため、Ni含有量を12.4%以下に制限する。
(Al:0.010%以上、0.060%以下)
Alは、主に脱酸に使用される元素であり、また、AlNを形成し、金属組織の微細化や、極低温靱性を低下させる固溶Nの低減にも寄与する。Al含有量が0.010%未満では脱酸の効果や金属組織の微細化効果及び固溶N低減効果が小さいので、0.010%以上を下限とする。Al含有量の下限は0.015%以上が好ましく、より好ましくは0.020%以上とする。しかし、Al含有量が0.060%を超えると、−253℃における靭性が低下するため、その上限を0.060%以下とする。より好ましいAl含有量の上限は0.040%以下である。
(N:0.0015%以上、0.0060%以下)
Nは、窒化物の形成に寄与し、N含有量を0.0015%未満へ低減すると、熱処理時にオーステナイト粒径の粗大化を抑制する微細なAlNが不足し、オーステナイト粒が粗大化して極低温靭性が低下する場合がある。このため、N含有量は、0.0015%以上とし、好ましくは0.0020%以上としてもよい。一方。N含有量が0.0060%を超えると固溶Nが増加したり、AlNが粗大化するため−253℃での靭性が低下する。このため、N含有量を0.0060%以下とし、好ましくは上限を0.0050%以下、より好ましくは0.0040%以下とする。
(O:0.0007%以上、0.0030%以下)
Oは、不純物であり、O含有量が0.0030%を超えるとAlのクラスターが増加し、−253℃での靭性が低下する場合があるため、O含有量の上限を0.0030%以下とする。好ましいO含有量の上限は0.0025%以下であり、より好ましくは0.0020%以下、更に好ましくは0.0015%以下とする。O含有量は少ないほうが望ましいが、0.0007%未満へのO含有量の低減はコスト上昇を伴う場合があるので0.0007%以上を下限とする。
(P:0.0080%以下)
Pは、旧オーステナイト粒界での粒界脆化をもたらし、極低温靭性に有害な元素である。そのため、P含有量は少ないほうが望ましい。P含有量が0.0080%を超えると−253℃での靭性が低下する場合がある。したがって、P含有量を0.0080%以下に制限する。P含有量の上限は、好ましくは、0.0060%以下、より好ましくは、0.0040%以下、更に好ましくは、0.0030%以下である。Pは溶鋼製造時にスクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
(S:0.0040%以下)
Sは、MnSとして脆性破壊の発生起点となる場合があり、極低温靭性に有害な元素である。S含有量が0.0040%を超えると−253℃での靭性が低下する場合があるため、S含有量を0.0040%以下に制限する。S含有量の上限は、好ましくは0.0030%以下、より好ましくは、0.0020%以下、更に好ましくは、0.0010%以下である。Sは溶鋼製造時にスクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
(Cu:0.50%以下)
Cuは、室温での降伏応力を上昇させる元素であり、Cuを含有してもよい。ただし、Cu含有量が0.50%を超えると−253℃における靭性が低下するため、上限を0.50%以下とする。Cu含有量の上限は、好ましくは0.40%以下、より好ましくは0.30%以下、更に好ましくは0.20%以下である。Cuは、溶鋼の製造時にスクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
(Cr:0.50%以下)
Crは、室温での降伏応力を上昇させる元素であり、Crを含有してもよい。ただし、Cr含有量が0.50%を超えると−253℃における靭性が低下するため、上限を0.35%以下とする。Cr含有量の上限は、好ましくは0.30%以下、より好ましくは0.20%以下、更に好ましくは0.10%以下である。Crは、溶鋼の製造時にスクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
(Mo:0.40%以下)
Moは、室温での降伏応力を上昇させる元素であり、粒界脆化を抑制する効果も有するのでMoを含有してもよい。ただし、Moは高価な元素であり、Mo含有量が0.40%を超えると経済性を損なうため、Mo含有量を0.40%以下に制限する。Moは、溶鋼の製造時にスクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
(Nb:0.020%以下)
Nbは、室温での降伏応力を上昇させる元素であり、金属組織の微細化による極低温靭性の向上効果も有するのでNbを含有してもよい。ただし、Nb含有量が0.020%を超えると、−253℃における靭性が低下するため、その上限を0.020%以下とする。Nb含有量の上限は、好ましくは0.015%以下、より好ましくは0.010%以下である。Nbは溶鋼の製造時にスクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
(V:0.080%以下)
Vは、室温での降伏応力を上昇させる元素であり、Vを含有してもよいが、0.080%超含有すると−253℃における靭性が低下するため、その上限を0.080%以下とする。V含有量の上限は、好ましくは0.060%以下、より好ましくは0.040%以下である。Vは溶鋼の製造時にスクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
(Ti:0.020%以下)
Tiは、TiNを形成し、金属組織の微細化や、極低温靱性を低下させる固溶Nの低減にも寄与する。しかし、Ti含有量が0.020%を超えると、−253℃における靭性が低下するため、その上限を0.020%以下とする。好ましいTi含有量の上限は0.015%以下であり、より好ましい上限は0.010%以下である。Tiは、溶鋼の製造時にスクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
(B:0.0020%以下)
Bは、室温での降伏応力を上昇させる元素であり、また、BNを形成し、極低温靱性を低下させる固溶Nの低減にも寄与する。しかし、Bを0.0020%超含有すると−253℃における靭性が低下するため、その上限を0.0020%以下とする。B含有量の上限は、好ましくは0.0015%以下であり、より好ましくは0.0012%以下、更に好ましくは0.0010%以下である。Bは溶鋼の製造時にスクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
(Ca:0.0040%以下)
Caは、熱間圧延により延伸して極低温靭性への有害性が高まりやすいMnSをCaSとして球状化し、極低温靭性を向上させるのに有効であるためCaを含有してもよい。しかし、Ca含有量が0.0040%を超えると、Caを含有する酸硫化物が粗大化して、−253℃における靭性が低下する。このためCa含有量の上限を0.0040%以下に制限し、好ましくは0.0030%以下とする。Caは、溶鋼製造時にスクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
(REM:0.0050%以下)
REM(希土類金属元素)は、Caと同様に、熱間圧延によって延伸して極低温靭性への有害性が高まりやすいMnSをREMの酸硫化物として球状化し、極低温靭性を向上させるのに有効であるためREMを含有してもよい。しかし、REM含有量が0.0050%を超えるとREMを含有する酸硫化物が粗大化して、−253℃における靭性が低下する。このためREM含有量の上限を0.0050%以下に制限し、好ましくは0.0040%以下とする。REMは、溶鋼の製造時にスクラップ等から不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
本実施形態に係る極低温用鋼は、上記成分を含有又は制限し、残部が鉄及び不純物を含む。ここで、不純物とは、鋼を工業的に製造する際に、鉱石やスクラップ等のような原料を始めとして、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。ただし、本発明においては、不純物のうち、P及びSについては、上述のように、上限を規定する必要がある。また、本実施形態に係る極低温用鋼には、上記成分の他に、鋼材自体の強度、極低温靭性等を一段と改善する目的で、あるいはスクラップ等の副原料からの不純物として、以下の合金元素を含有してもよい。
Sbは、極低温靭性を損なうため、Sb含有量は、0.005%以下であることが好ましく、0.003%以下であることがより好ましく、0.001%以下であることが最も好ましい。
Snは、極低温靭性を損なうため、Sn含有量は、0.005%以下であることが好ましく、0.003%以下であることがより好ましく、0.001%以下であることが最も好ましい。
Asは、極低温靭性を損なうため、As含有量は、0.005%以下であることが好ましく、0.003%以下であることがより好ましく、0.001%以下であることが最も好ましい。
また、上記成分の上記効果を十分に発揮させるために、Co、Zn及びWを、それぞれ0.01%以下又は0.005%以下に制限することが好ましい。
Sb、Sn、As、Co、Zn及びWの下限を制限する必要はなく、各元素の下限は0%である。また、下限の規定がない合金元素(例えば、P、S、Cu、Cr、Mo、Nb、V、Ti、B、Ca、及びREM)が意図的に添加されたとしても、又は不純物としての混入であっても、その含有量が請求範囲内にあれば、その極低温用鋼(鋼材)は本発明の請求範囲内と解釈する。
次に、本発明のNi鋼の金属組織について説明する。
本発明者らは、−253℃の極低温では、旧オーステナイト粒界で破壊が発生し、靭性が低下しやすいことを新たに見出した。本発明のNi鋼は、熱間圧延後に、水冷又は空冷し、再加熱焼入れ、中間熱処理、焼戻しという熱処理を施して製造されるが、ここで述べる旧オーステナイト粒界とは、再加熱焼入れの加熱の時に存在していたオーステナイトの粒界である。この旧オーステナイト粒界にはMn、P、Siが偏析しており、これらの元素が旧オーステナイト粒界の結合力を低下させ、−253℃での旧オーステナイト粒界での破壊が発生すると考えられる。
なお、中間熱処理時にも新たに旧オーステナイト粒界が生成するが、本発明の中間熱処理の温度は、590℃以上、670℃以下と低く、新たな旧オーステナイト粒界へ拡散するMn、P、Siの量は比較的少ないので、これらの新たな旧オーステナイト粒界からの破壊は比較的起こりにくいと考えられる。
本発明者らは、−253℃の極低温で、旧オーステナイト粒界での破壊を抑制する手段について数多くの検討を実施した。その結果、(イ)C含有量を0.070%以下とすること、(ロ)Mn含有量を0.80%以下とすること、(ハ)P含有量を0.0080%以下とすること、(ニ)Si含有量を0.30%以下とすること、(ホ)旧オーステナイト粒径を15μm以下とすること、(ヘ)旧オーステナイト粒のアスペクト比を2.4以下に抑制すること、の6つの条件を同時に満足した時に、旧オーステナイト粒界での破壊が抑制され、−253℃での靭性が確保できることを見出した。
−253℃の極低温で、旧オーステナイト粒界からの破壊が発生しやすい機構は明確ではないが、−253℃の極低温では焼戻しマルテンサイト組織における転位の移動による応力集中の緩和機構の効果が限られることが挙げられる。また、焼戻しマルテンサイト中のセメンタイトの微細化や、硬質の高Cマルテンサイト及び粗大な介在物などの破壊の起点の生成が抑制された結果、旧オーステナイト粒界が破壊の起点になり易くなった可能性がある。
このように、−253℃の極低温では、旧オーステナイト粒界のような、結合力が比較的弱い部分で選択的に破壊が発生しやすくなっていると推定される。したがって、旧オーステナイト粒界の結合力を弱めるようなセメンタイトや、Mn及びPの偏析を抑制することで、旧オーステナイト粒界の結合力の低下を抑制できると考えられる。また、C含有量とSi含有量との増加、及び、旧オーステナイト粒の粗大化は、粒界セメンタイトの粗大化を促進する。したがって、C含有量及びSi含有量の抑制と旧オーステナイト粒径の細粒化とが、−253℃における旧オーステナイト粒界での破壊の抑制に必要となる。
(旧オーステナイト粒径:3μm以上、15μm以下)
旧オーステナイト粒径は3μm以上、15μm以下とする必要がある。旧オーステナイト粒径が15μmを超えると旧オーステナイト粒界に析出するセメンタイトが粗大となり、また、MnやPの粒界の濃度が上昇する。粗大なセメンタイトの析出や、Mn、Pの濃化は、旧オーステナイト粒界の結合力を弱めて旧オーステナイト粒界での破壊を招いたり、脆性破壊の発生の起点となり、−253℃での極低温靭性を低下させるので、旧オーステナイト粒径の上限を15μmとする。旧オーステナイト粒径を3μm未満に細粒化するには熱処理の回数を増加させるなど、製造コストの上昇を伴うので下限を3μmとする。
(旧オーステナイト粒のアスペクト比:1.0以上、2.4以下)
更に、本発明では、−253℃での極低温靭性を確保するために、旧オーステナイト粒のアスペクト比を2.4以下とする必要がある。旧オーステナイト粒のアスペクト比とは、圧延に平行な面(L面)での旧オーステナイト粒の長さと厚さとの比、すなわち、旧オーステナイト粒の圧延方向長さ:旧オーステナイト粒の板厚方向の厚さ、である。したがって、旧オーステナイト粒の長さと厚さとが同一である場合がアスペクト比の下限であり、アスペクト比は1.0以上である。
アスペクト比が2.4を超えると、旧オーステナイト粒径が15μm以下であっても、圧延方向には20μmを超えるような粗大な旧オーステナイト粒界が含まれる確率が高くなるため、旧オーステナイト粒界での破壊が発生しやすくなる。また、アスペクト比は、未再結晶域での圧延によって旧オーステナイトが扁平化すると大きくなる。アスペクト比が2.4を超えると、未再結晶域での圧延による転位の導入が過剰になった結果、その後の再加熱焼入れ及び中間熱処理、焼戻しの後においても、消滅せずに残留している転位の量が過剰となるため、極低温靭性を低下させる。このため、旧オーステナイト粒のアスペクト比の上限を2.4とする。
旧オーステナイトの粒径及びアスペクト比は、再加熱焼入れ後の鋼から試料を採取して測定するのが望ましいが、焼戻し後の鋼から試料を採取して測定してもよい。旧オーステナイトの粒径及びアスペクト比の測定は、板厚中心部の圧延方向に平行な面(L面)を観察面として行う。旧オーステナイトの粒径は、観察面をピクリン酸飽和水溶液で腐食して旧オーステナイト粒界を現出させた後、走査型電子顕微鏡(SEM)で1000倍又は2000倍で5視野以上の写真を撮影して測定する。SEM写真を用いて、旧オーステナイト粒界を同定した後に、少なくとも20個の旧オーステナイト粒の円相当粒径(直径)を画像処理により求め、これらの平均値を旧オーステナイトの粒径とする。また、旧オーステナイトのアスペクト比は、粒径の測定と同様にSEM写真を用いて、少なくとも20個の旧オーステナイト粒の、圧延方向の長さと厚み方向の厚さとの比(アスペクト比)を測定し、これらの平均値を旧オーステナイトのアスペクト比とする。
(オーステナイト相の体積分率:2%以上、15%以下)
また、−253℃における靭性を高めるには、オーステナイト相を体積分率で2%以上含有することが好ましい。ただし、このオーステナイト相は旧オーステナイトとは異なり、熱処理後のNi鋼に存在するオーステナイト相であり、体積分率をX線回折法で測定する。−253℃でも安定なオーステナイト相が存在する場合、負荷される応力や歪がオーステナイトの塑性変形によって緩和されるため、靱性が向上すると考えられる。また、オーステナイト相は旧オーステナイト粒界や焼戻しマルテンサイトのブロック境界やラス境界などに、比較的、均一に微細に生成する。
すなわち、オーステナイト相は脆性破壊の発生の起点となる可能性が高い硬質相の近傍に存在し、硬質相の周囲への応力や歪の集中を緩和し、脆性破壊の発生の抑制に寄与すると考えられる。更に、2%以上のオーステナイト相を生成させた結果、脆性破壊の発生の起点となる粗大なセメンタイトも大幅に減少させることができると考えられる。一方、オーステナイト相の体積分率が増加すると、オーステナイト相へのCなどの濃化が不十分になり、−253℃ではマルテンサイトに変態する可能性が高くなる。極低温でマルテンサイトに変態する不安定なオーステナイトは、−253℃での極低温靭性を低下させる場合があり、オーステナイト相の体積分率は15%以下が好ましい。
(有効結晶粒径:2μm以上、8μm以下)
有効結晶粒径は2μm以上、8μm以下とすることが好ましい。有効結晶粒径は、結晶方位がほぼ同一の領域であり、微細化すると破壊亀裂の伝播の抵抗が大きくなり、靱性が向上する。ただし、有効結晶粒径を2μm以下に細粒化するには熱処理の回数を増加させるなど、製造コストの上昇を伴うので下限を2μmとする。また、有効結晶粒径が8μmを超えると、脆性破壊の発生の起点となる硬質相、すなわち、旧オーステナイト粒界や焼戻しマルテンサイト中の粗大なセメンタイトや、粗大なAlN、MnS、アルミナなどの介在物に作用する応力が高まり、−253℃での極低温靭性が低下する場合がある。
有効結晶粒径は、板厚中心部の圧延方向に平行な面(L面)を観察面として、走査型電子顕微鏡に付属の後方散乱電子線回折パターン法(Electron Back Scatter Diffraction:EBSD)解析装置を用いて測定する。倍率2000倍で5視野以上の観察を行い、15°以上の方位差を有する金属組織の境界を粒界と見なし、この粒界で囲まれた結晶粒を有効結晶粒として、それらの面積から円相当粒径(直径)を画像処理により求め、それらの円相当粒径の平均値を有効結晶粒径とする。
本発明における極低温用鋼の特性は、一例として、板厚は12mm以上、30mm以下、室温での降伏応力は460MPa以上、580MPa以下、引張強さは560MPa以上、680MPa以下であることが好ましい。
次に、本実施形態に係る極低温用鋼の製造方法について説明する。
鋼の溶製方法は、例えば溶鋼温度を1650℃以下として、溶鋼O濃度を0.01%以下、溶鋼S濃度を0.02%以下とした状態で、元素の含有量の調整を行った後、連続鋳造により鋼片を製造する。得られた鋼片を加熱し、熱間圧延を施し、水冷又は空冷した後、再加熱焼入れ、中間熱処理、焼戻しを、順次、施す熱処理を行う。
以下では、好ましい製造条件について説明する。
熱間圧延の加熱温度を950℃以上、1160℃以下とすることが好ましい。加熱温度が950℃を下回るとAlNが粗大化し、極低温靭性が低下することがある。加熱温度が1160℃を上回ると加熱時にオーステナイト粒径が粗大となり−253℃での極低温靭性が低下することがある。より好ましい加熱温度の上限は1100℃以下であり、さらに好ましくは1050℃以下である。加熱の保持時間は30分〜180分が望ましい。
熱間圧延では、950℃以下での圧下率が60%を下回ると、圧延中のオーステナイトの再結晶によるオーステナイト粒の細粒化が不十分となり、圧延後のオーステナイト粒の一部に粗大な粒が含まれ、極低温靭性が低下する場合がある。そのため、950℃以下での圧下率の下限は60%以上が好ましい。より好ましい圧下率の下限は85%以上であり、さらに好ましい下限は90%以上である。圧延の再結晶による旧オーステナイト粒の均質な細粒化は本発明の極低温靭性を確保する上で特に重要であり、圧延温度と圧下率の厳格な規制が好ましい。950℃以下での圧下率が95%を上回ると、圧延時間が長時間となり、生産性に課題が生じる場合があるので、950℃以下での圧下率の上限は95%以下が好ましい。
熱間圧延の終了温度は、650℃を下回ると変形抵抗が大きくなり、圧延機への負荷が増大する。よって、熱間圧延の終了温度の下限は650℃以上が好ましく、より好ましい熱間圧延の終了温度の下限は700℃以上であり、更に好ましくは740℃以上である。熱間圧延の終了温度が850℃を上回ると、圧延により導入された転位が回復により減少し、有効結晶粒径が8μmを超えて大きくなり極低温靭性が不足したり、室温の降伏応力が不足する場合があるので、終了温度の上限は850℃以下が好ましい。より好ましい熱間圧延の終了温度の上限は800℃以下である。
熱間圧延後の冷却は水冷又は空冷の何れでもよいが、室温付近まで水冷することが好ましい。水冷開始温度は、550℃以上、850℃以下が好ましい。水冷開始温度を550℃以上にすると、粗大なベイナイトの生成が抑制され、有効結晶粒径をより微細にすることができる。より好ましい水冷開始温度の下限は600℃以上である。水冷開始温度の上限は特に規制する必要はなく、熱間圧延の終了後、直ちに水冷を開始してもよい。圧延終了温度の好ましい上限である850℃以下が水冷開始温度の好ましい上限となる。
再加熱焼入れは、旧オーステナイトの微細化に有効であり、加熱温度は720℃以上、880℃以下が好ましい。再加熱焼入れの加熱温度(再加熱焼入れ温度)が720℃を下回るとオーステナイトに変態しない部分が一部残り、その未変態オーステナイトの部分は焼入れてもマルテンサイト組織が得られず母材強度が低下したり、有効結晶粒径が粗大化するため極低温靭性が低下することがある。より好ましい再加熱焼入れ温度の下限は750℃以上である。再加熱焼入れ温度が880℃を上回るとオーステナイト粒径が粗大化するとともに、AlNが粗大化するため極低温靭性が低下することがある。より好ましい再加熱焼入れ温度の上限は860℃以下であり、更に好ましくは840℃以下である。再加熱焼入れの時の保持時間は20分〜180分が望ましい。再加熱焼入れ時の冷却は、200℃以下まで水冷を行うなどの方法を採用することができる。
中間熱処理は、極低温靭性の向上に寄与する有効結晶粒径の細粒化とオーステナイト相の確保に有効であり、加熱温度は590℃以上、670℃以下が好ましい。中間熱処理の加熱温度(中間熱処理温度)が590℃を下回ると、オーステナイト変態が不十分で、また、過度に焼戻された焼戻しマルテンサイトの分率が増加し、母材強度が低下する場合がある。また、中間熱処理温度が590℃よりも低くなると、有効結晶粒径が8μmを超え、極低温靭性が低下する場合がある。より好ましい中間熱処理温度の下限は620℃以上である。
中間熱処理の温度が670℃を上回ると、過剰にオーステナイト変態が進行する。その結果、オーステナイトの安定化が不十分になり、体積分率で2%以上のオーステナイト相を確保することができなくなったり、有効結晶粒径を8μm以下に制御できずに極低温靭性が低下することがある。より好ましい中間熱処理温度の上限は650℃以下である。中間熱処理の保持時間は20分〜180分が望ましい。中間熱処理時の冷却方法は、焼戻し脆化を避けるために水冷を行うことが望ましい。
焼戻しも、オーステナイト相の確保に有効であり、加熱温度は510℃以上、570℃以下が好ましい。焼戻しの加熱温度(焼戻し温度)が510℃を下回ると、オーステナイト相を体積分率で2%以上確保することができなくなり、極低温靭性が不足する場合がある。より好ましい焼戻し温度の下限は530℃以上である。焼戻し温度の上限が570℃を上回ると、室温でのオーステナイト相が体積分率で15%を超えてしまい、これを−253℃まで冷却すると一部のオーステナイトが高Cマルテンサイトに変態し、極低温靭性を低下させる場合がある。このため焼戻し温度の好ましい上限は570℃以下であり、より好ましい上限は560℃以下である。焼戻しの保持時間は20分〜180分が望ましい。焼戻し時の冷却方法は、焼戻し脆化を避けるために水冷を行うことが望ましい。
以下に本発明の実施例を示すが、以下に示す実施例は本発明の一例であり、本発明は以下に説明する実施例に制限されるものではない。
転炉により鋼を溶製し、連続鋳造により厚さが150mm〜300mmのスラブを製造した。表1、表2に鋼種A1〜A24の化学成分を示す。これらのスラブを加熱し、制御圧延を行い、そのまま水冷又は空冷し、再加熱焼入れ、中間熱処理、焼戻しの熱処理を施して鋼板を製造した。熱間圧延の加熱の保持時間は30〜120分、再加熱焼入れ、中間熱処理、焼戻しの熱処理の保持時間は20〜60分とした。鋼板から試料を採取し、金属組織、引張特性、靱性を評価した。
Figure 2017197792
Figure 2017197792
旧オーステナイトの粒径は板厚中心部の圧延方向に平行な面(L面)を観察面として測定した。旧オーステナイトの粒径は、JIS G 0551に準拠して行った。まず、試料の観察面をピクリン酸飽和水溶液で腐食し、旧オーステナイト粒界を現出させた後、走査型電子顕微鏡で1000倍あるいは2000倍で5視野以上の写真を撮影した。組織写真を用いて、旧オーステナイト粒界を同定した後に、少なくとも20個の旧オーステナイト粒につき円相当粒径(直径)を画像処理により求め、これらの平均値を旧オーステナイトの粒径とした。
また、本発明鋼では旧オ−ステナイトの粒界が破壊しにくいよう、旧オーステナイト粒径の細粒化やP含有量の抑制などを実施するため、旧オーステナイト粒界を腐食により同定しにくいことがある。このような場合、450℃〜490℃に加熱後、1時間以上保持する熱処理を施した後、上述の方法で旧オーステナイト粒径を測定した。
また、450℃〜490℃での熱処理を行っても旧オーステナイト粒界の同定が難しい場合は、熱処理後のサンプルからシャルピー試験片を採取し、−196℃で衝撃試験を行い、旧オーステナイト粒界で破壊させたサンプルを使用した。この場合は、圧延方向に平行な面(L面)で破面の断面を作製し、腐食後、走査型電子顕微鏡で板厚中心部の破面断面の旧オーステナイト粒界を同定し、旧オーステナイト粒径を測定した。熱処理によって旧オーステナイト粒界を脆化させると、シャルピー試験時の衝撃荷重で旧オーステナイト粒界に微小なクラックが生じるため、旧オーステナイト粒界が同定しやすくなる。
旧オーステナイト粒のアスペクト比は、上述のようにして同定した旧オーステナイト粒界の長さの最大値(圧延方向の長さ)と、最小値(厚み方向の厚さ)の比として求めた。少なくとも20個の旧オーステナイト粒のアスペクト比を測定し、それらの平均値を旧オーステナイト粒のアスペクト比とした。
オーステナイト相の体積分率は、板厚中心部につき板面に平行なサンプルを採取してX線回折法で測定した。オーステナイト相の体積分率は、X線ピークのオーステナイト(面心立方構造)と焼戻しマルテンサイト(体心立方構造)との積分強度の比から求めた。
有効結晶粒径は板厚中心部の圧延方向に平行な面(L面)を観察面とし、走査型電子顕微鏡に付属のEBSD解析装置を用いて行った。倍率2000倍で5視野以上の観察を行い、15°以上の方位差を有する金属組織の境界を粒界と見なし、この粒界で囲まれた結晶粒を有効結晶粒として、それらの面積から円相当粒径(直径)を画像処理により求め、それらの円相当粒径の平均値を有効結晶粒径とした。
強度(降伏応力及び引張強さ)は、圧延方向に平行な方向(L方向)を長手方向とするJIS Z 2241に規定の1A号全厚引張試験片を採取し、JIS Z 2241に規定の方法で室温にて評価した。降伏応力の目標値は460MPa以上、580MPa以下であり、引張強さの目標値は560MPa以上、680MPa以下である。降伏応力は下降伏応力としたが、明瞭な下降伏応力が見られない場合も多く、その場合は0.2%耐力とした。
極低温靭性は、表裏面を各0.5mmづつ研削した全厚のCT試験片を圧延方向に直角の方向(C方向)に採取し、液体水素中(−253℃)にて、ASTM規格E1820−13に規定の除荷コンプライアンス法に従いJ−Rカーブを作成し、J値をKIC値に換算した。極低温靭性の目標値は150MPa・√m以上である。
表3、表4に鋼種A1〜A24の化学成分を有するスラブを用いて製造した鋼材(鋼材No.1〜32)の板厚、製造方法、母材特性、金属組織を示す。
Figure 2017197792
Figure 2017197792
表3、表4から明らかな通り、鋼材No.1〜16は室温での降伏応力、及び、−253℃での極低温靭性が、目標値を満足している。なお、製造No.7は、熱間圧延の終了温度が好ましい範囲より高く、有効結晶粒径が大きくなっており、極低温靱性がやや低くなっている。製造No.10及び11は、中間熱処理温度が好ましい範囲外であり、オーステナイト相が少なく、極低温靱性がやや低くなっている。製造No.12は焼戻し温度が好ましい範囲より高いため、オーステナイト相が多くなり、極低温靭性がやや低くなっている。
これに対して、鋼材No.17はC含有量が少なく、鋼材No.20はMn含有量が少ないため、強度が低く、極低温靭性も低下している。鋼材No.18、19、21〜25は、それぞれ、C含有量、Si含有量、Mn含有量、P含有量、S含有量、Cr含有量、Al含有量が多く、極低温靭性が低下している。鋼材No.26は、Nb含有量及びB含有量が多く、旧オーステナイト粒のアスペクト比が大きくなり、極低温靭性が低下している。鋼材No.27は、Ti含有量及びN含有量が多く、極低温靭性が低下している。
鋼材No.28〜32は、好ましい範囲から逸脱する製造条件を採用した例である。鋼材No.28は、加熱温度が低く、旧オーステナイト粒のアスペクト比が大きくなり、極低温靭性が低下している。鋼材No.29、31、32は、それぞれ、加熱温度、圧延終了温度、再加熱焼入れ温度が高く、旧オーステナイト粒径が大きくなり、また、有効結晶粒径も大きくなり、極低温靭性が低下している。鋼材No.30は、950℃以下での圧下率が低く、旧オーステナイト粒径が大きくなり、極低温靭性が低下している。

Claims (4)

  1. 質量%で、
    C:0.030%以上、0.070%以下、
    Si:0.03%以上、0.30%以下、
    Mn:0.20%以上、0.80%以下、
    Ni:11.5%以上、12.4%以下、
    Al:0.010%以上、0.060%以下、
    N:0.0015%以上、0.0060%以下、
    O:0.0007%以上、0.0030%以下
    を含有し、
    P:0.0080%以下、
    S:0.0040%以下、
    Cu:0.50%以下、
    Cr:0.50%以下、
    Mo:0.40%以下、
    Nb:0.020%以下、
    V:0.080%以下、
    Ti:0.020%以下、
    B:0.0020%以下、
    Ca:0.0040%以下、
    REM:0.0050%以下
    に制限し、
    残部がFe及び不純物からなり、
    旧オーステナイト粒の粒径が3μm以上、15μm以下、アスペクト比が1.0以上、2.4以下
    であることを特徴とする、液体水素用Ni鋼。
  2. 体積分率で2%以上、15%以下のオーステナイト相を含有する
    ことを特徴とする、請求項1に記載の液体水素用Ni鋼。
  3. 有効結晶粒径が2μm以上、8μm以下
    であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の液体水素用Ni鋼。
  4. 板厚が、12mm以上、30mm以下、
    降伏応力が、460MPa以上、580MPa以下、
    引張強さが、560MPa以上、680MPa以下
    であることを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の液体水素用Ni鋼。
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