JP7543932B2 - 光学フィルムの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、光学フィルム及びその製造方法に関する。
従来から、特定の光学的特性を有する樹脂フィルムを、光学的な用途に用いることが行われており、そのようなフィルムの製造方法についても種々のものが知られている。例えば、結晶性樹脂を特定の処理方法により処理し、それにより加熱収縮性を低減し、その結果機械的特性が良好なフィルムを得ることが知られている(特許文献1)。
光学フィルムのうち、NZ係数が0<NZ<1を満たすフィルムは三次元位相差フィルムと呼ばれる。三次元位相差フィルムは、液晶表示装置等の表示装置に設けられた場合、傾斜方向から見た表示面の色付きを低減するといった効果を発現することができることが知られている。
三次元位相差フィルムは、y軸方向(即ち面内遅相軸方向に直交する面内方向)の位相差よりも、z軸方向(即ち厚み方向)において大きい位相差を有する。そのため、通常の固有複屈折が正の光学フィルム用樹脂を単に延伸するといった、通常の位相差フィルムの製造方法では製造することができない。そのため、通常の製膜方法の工程と、フィルムを収縮させる等の複雑な工程とを組み合わせて、三次元位相差フィルム又はそれに類するフィルムを製造することが、これまで提案されている(例えば、特許文献2)。
特開2016-26909号公報 国際公開第2017/065222号
これまで提案されている三次元位相差フィルムの製造方法は、フィルムの収縮等の複雑な工程を要するため、製造の手間が大きい。加えて、また、かかる複雑な工程を行った結果、位相差フィルムの光学的精度が不十分となり、その結果例えば表示装置に用いた場合の色ムラの発生を抑制する効果が不十分となるといった問題も生じる。そのためこれまで、結晶性樹脂からなる三次元位相差フィルムであって、且つ十分な光学的精度を有するものは得られていなかった。
従って、本発明の目的は、機械的特性が良好であり、三次元位相差フィルムとして良好な効果を発現することができる光学フィルム、及び、そのような光学フィルムを容易に製造することができる製造方法を提供することにある。
本発明者は、前記の課題を解決するべく検討した。その結果、本発明者は、特定の材料を採用し、所望の光学特性を発現するフィルムを得て、上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記のものを含む。
〔1〕 結晶性樹脂(a)からなる層を備え、その遅相軸又は進相軸と、その長手方向とがなす角度が1°以下であり、Nz係数が1未満である、長尺の、光学フィルム。
〔2〕 Nz係数が0より大きい、〔1〕に記載の光学フィルム。
〔3〕 単層のフィルムである、〔1〕又は〔2〕に記載の光学フィルム。
〔4〕 前記結晶性樹脂(a)の固有複屈折値が、正である、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の光学フィルム。
〔5〕 前記結晶性樹脂(a)が、脂環式構造含有重合体を含む、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の光学フィルム。
〔6〕 〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法であって、
結晶性樹脂(a)からなる層を備える長尺のフィルム(pA)を用意する工程(I)と、
前記フィルム(pA)の一方又は両方の表面に溶媒を接触させて、前記フィルム(pA)の厚み方向の複屈折を変化させる工程(II)と、
前記工程(II)の後に、前記フィルム(pA)の長尺方向に張力を負荷した状態で、前記フィルム(pA)を乾燥させる工程(III)と、
をこの順に含む製造方法。
〔7〕 前記工程(III)における前記張力の負荷を、前記工程(II)よりも上流のニップ位置(U)から、前記工程(III)よりも下流のニップ位置(D)にわたって行い、
前記ニップ位置(U)におけるフィルム搬送速度に対する、前記ニップ位置(D)におけるフィルム搬送速度が、1.1倍以上であり、
前記工程(III)が、オーブン内で、前記フィルム(pA)の両方の幅方向端部領域を、中央部より高い温度で加熱することを含み、
得られる前記光学フィルムが、長手方向に遅相軸を有する縦一軸延伸フィルムである、〔6〕に記載の製造方法。
本発明によれば、機械的特性が良好であり、三次元位相差フィルムとして良好な効果を発現することができる光学フィルム、及び、そのような光学フィルムを容易に製造することができる製造方法が提供される。
図1は、本発明の製造方法を実施するための処理装置及びそれを用いた本発明の製造方法の操作の一例を概略的に示す側面図である。 図2は、本発明の光学フィルムの製造方法において工程(III)に供されるフィルム(pA)11の具体例を概略的に示す部分斜視図である。 図3は、本発明の光学フィルムの具体例を概略的に示す部分斜視図である。
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
以下の説明において、フィルム等の層状の構造物の面内レターデーションReは、別に断らない限り、Re=(nx-ny)×dで表される値である。層状の構造物の厚み方向のレターデーションRthは、別に断らない限り、Rth=[{(nx+ny)/2}-nz]×dで表される値である。層状の構造物のNZ係数は、別に断らない限り、(nx-nz)/(nx-ny)で表される値である。
nxは、層状の構造物の厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表す。nyは、層状の構造物の前記面内方向であってnxの方向に直交する方向の屈折率を表す。nzは、層状の構造物の厚み方向の屈折率を表す。dは、層状の構造物の厚みを表す。測定波長は、別に断らない限り、590nmである。
以下の説明において、固有複屈折が正の材料とは、別に断らない限り、延伸方向の屈折率がそれに垂直な方向の屈折率よりも大きくなる材料を意味する。また、固有複屈折が負の材料とは、別に断らない限り、延伸方向の屈折率がそれに垂直な方向の屈折率よりも小さくなる材料を意味する。固有複屈折の値は誘電率分布から計算することができる。
以下の説明において、「長尺」のフィルムとは、幅に対して、5倍以上の長さを有するフィルムをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムをいう。長さの上限に特段の制限は無いが、通常、幅に対して10万倍以下である。
以下の説明において、層状の構造物の遅相軸は、別に断らない限り、面内の遅相軸である。
〔光学フィルム〕
本発明の光学フィルムは、結晶性樹脂(a)からなる層を備えるフィルムである。本発明の光学フィルムは、結晶性樹脂(a)からなる層以外の層を備えていてもよいが、結晶性樹脂(a)のみからなるフィルムであってもよい。フィルム(pA)が結晶性樹脂(a)からなる層以外の層を備える場合は、その製造を後述する本発明の製造方法で行う観点からは、フィルム(pA)のオモテ面及びウラ面のうち少なくとも一方を結晶性樹脂(a)からなる層としうる。また本発明の光学フィルムは、結晶性樹脂(a)からなる層を2層以上有していてもよいが、通常は、1層の結晶性樹脂(a)からなる層のみからなる単層のフィルムである。
〔光学フィルムを構成する材料〕
光学フィルムを構成する結晶性樹脂(a)は、結晶性を有する重合体を含む樹脂としうる。「結晶性を有する重合体」とは、融点Tmを有する重合体を表す。すなわち、「結晶性を有する重合体」とは、示差走査熱量計(DSC)で融点を観測することができる重合体を表す。以下の説明において、結晶性を有する重合体を、「結晶性重合体」ということがある。結晶性樹脂は、好ましくは熱可塑性樹脂である。
結晶性重合体は、正の固有複屈折を有し、それにより、結晶性樹脂(a)が正の固有複屈折値を有することが好ましい。正の固有複屈折を有する結晶性樹脂を用いることにより、本発明の要件、特にNZ(A)<1の要件を満たす光学フィルムを特に容易に製造できる。
結晶性重合体は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン;等でもよく、特に限定されることはないが、脂環式構造を含有することが好ましい。脂環式構造を含有する結晶性重合体を用いることにより、位相差フィルムの機械特性、耐熱性、透明性、低吸湿性、寸法安定性及び軽量性を良好にできる。脂環式構造を含有する重合体とは、分子内に脂環式構造を有する重合体を表す。このような脂環式構造を含有する重合体は、例えば、環状オレフィンを単量体として用いた重合反応によって得られうる重合体又はその水素化物でありうる。
脂環式構造としては、例えば、シクロアルカン構造及びシクロアルケン構造が挙げられる。これらの中でも、熱安定性などの特性に優れる位相差フィルムが得られ易いことから、シクロアルカン構造が好ましい。1つの脂環式構造に含まれる炭素原子の数は、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、特に好ましくは15個以下である。1つの脂環式構造に含まれる炭素原子の数が上記範囲内にあることで、機械的強度、耐熱性、及び成形性が高度にバランスされる。
脂環式構造を含有する結晶性重合体において、全ての構造単位に対する脂環式構造を有する構造単位の割合は、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上、特に好ましくは70重量%以上である。脂環式構造を有する構造単位の割合を前記のように多くすることにより、耐熱性を高めることができる。全ての構造単位に対する脂環式構造を有する構造単位の割合は、100重量%以下としうる。また、脂環式構造を含有する結晶性重合体において、脂環式構造を有する構造単位以外の残部は、格別な限定はなく、使用目的に応じて適宜選択しうる。
脂環式構造を含有する結晶性重合体としては、例えば、下記の重合体(α)~重合体(δ)が挙げられる。これらの中でも、耐熱性に優れる位相差フィルムが得られ易いことから、重合体(β)が好ましい。
重合体(α):環状オレフィン単量体の開環重合体であって、結晶性を有するもの。
重合体(β):重合体(α)の水素化物であって、結晶性を有するもの。
重合体(γ):環状オレフィン単量体の付加重合体であって、結晶性を有するもの。
重合体(δ):重合体(γ)の水素化物であって、結晶性を有するもの。
具体的には、脂環式構造を含有する結晶性重合体としては、ジシクロペンタジエンの開環重合体であって結晶性を有するもの、及び、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物であって結晶性を有するものがより好ましい。中でも、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物であって結晶性を有するものが特に好ましい。ここで、ジシクロペンタジエンの開環重合体とは、全構造単位に対するジシクロペンタジエン由来の構造単位の割合が、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは100重量%の重合体をいう。
ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物は、ラセモ・ダイアッドの割合が高いことが好ましい。具体的には、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物における繰り返し単位のラセモ・ダイアッドの割合は、好ましくは51%以上、より好ましくは70%以上、特に好ましくは85%以上である。ラセモ・ダイアッドの割合が高いことは、シンジオタクチック立体規則性が高いことを表す。よって、ラセモ・ダイアッドの割合が高いほど、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物の融点が高い傾向がある。
ラセモ・ダイアッドの割合は、後述する実施例に記載の13C-NMRスペクトル分析に基づいて決定できる。
上記重合体(α)~重合体(δ)としては、国際公開第2018/062067号に開示されている製造方法により得られる重合体を用いうる。
結晶性重合体の融点Tmは、好ましくは200℃以上、より好ましくは230℃以上であり、好ましくは290℃以下である。このような融点Tmを有する結晶性重合体を用いることによって、成形性と耐熱性とのバランスに更に優れた光学フィルムを得ることができる。
通常、結晶性重合体は、ガラス転移温度を有し、したがって結晶性重合体を主成分とする結晶性樹脂(a)についてもガラス転移温度が観測されうる。結晶性樹脂(a)のガラス転移温度Tg(a)は、特に限定されないが、通常は85℃以上、通常170℃以下である。
ガラス転移温度Tg及び融点Tmは、以下の方法によって測定できる。まず、サンプルを、加熱によって融解させ、融解したサンプルをドライアイスで急冷する。続いて、このサンプルについて、示差走査熱量計(DSC)を用いて、10℃/分の昇温速度(昇温モード)で、ガラス転移温度Tg及び融点Tmを測定しうる。
結晶性重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000以上、より好ましくは2,000以上であり、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下である。このような重量平均分子量を有する結晶性重合体は、成形加工性と耐熱性とのバランスに優れる。
結晶性重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上であり、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.5以下である。ここで、Mnは数平均分子量を表す。このような分子量分布を有する結晶性重合体は、成形加工性に優れる。
重合体の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、テトラヒドロフランを展開溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算値として測定しうる。
結晶性重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
結晶性樹脂(a)における結晶性重合体の割合は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。結晶性重合体の割合が前記下限値以上である場合、光学フィルムの複屈折の発現性及び耐熱性を高めることができる。結晶性重合体の割合の上限は、100重量%以下でありうる。
結晶性樹脂(a)は、結晶性重合体に加えて、任意の成分を含みうる。任意の成分としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等の酸化防止剤;ヒンダードアミン系光安定剤等の光安定剤;石油系ワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリアルキレンワックス等のワックス;ソルビトール系化合物、有機リン酸の金属塩、有機カルボン酸の金属塩、カオリン及びタルク等の核剤;ジアミノスチルベン誘導体、クマリン誘導体、アゾール系誘導体(例えば、ベンゾオキサゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、及びベンゾチアソール誘導体)、カルバゾール誘導体、ピリジン誘導体、ナフタル酸誘導体、及びイミダゾロン誘導体等の蛍光増白剤;ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリチル酸系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤等の紫外線吸収剤;タルク、シリカ、炭酸カルシウム、ガラス繊維等の無機充填材;着色剤;難燃剤;難燃助剤;帯電防止剤;可塑剤;近赤外線吸収剤;滑剤;フィラー;及び、軟質重合体等の、結晶性重合体以外の任意の重合体;などが挙げられる。任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
〔結晶性樹脂(a)に含まれる有機溶媒〕
光学フィルムを構成する結晶性樹脂(a)は、有機溶媒等の溶媒を含みうる。この溶媒は、通常、本発明の製造方法の工程(II)においてフィルム中に取り込まれたものである。
工程(II)においてフィルム中に取り込まれた溶媒の全部または一部は、重合体の内部に入り込みうる。したがって、溶媒の沸点以上で乾燥を行ったとしても、容易には溶媒を完全に除去することは難しい。よって、光学フィルムにおける結晶性樹脂(a)は、溶媒を含むことが通常である。
溶媒は、結晶性重合体を溶解しない有機溶媒としうる。好ましい有機溶媒としては、例えば、トルエン、リモネン、デカリン等の炭化水素溶媒;二硫化炭素;が挙げられる。有機溶媒の種類は、1種類でもよく、2種類以上でもよい。
製品たる光学フィルムとなった時点での結晶性樹脂(a)100重量%に対する、その中に含まれる有機溶媒の比率(溶媒含有率)は、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、特に好ましくは0.1重量%以下である。溶媒含有率の下限は特に限定されないが、0.001重量%以上、又は0.01重量%以上としうる。フィルム中の溶媒の含有量は、熱質量分析によって測定しうる。
〔光学フィルムの光学的特性〕
本発明の光学フィルムは、そのNZ係数が1未満である。具体的には、光学フィルムのNZ係数NZ(A)は、0<NZ(A)<1を満たすか、又は、NZ(A)<0を満たすものとしうる。前者は、所謂三次元位相差フィルムとして有用に用いうる。後者は、三次元位相差フィルムを製造するための材料として有用に用いうる。即ち一軸延伸等の簡単な処理により、容易に0<NZ(A)<1を満たすフィルムに変換しうる。
光学フィルムが0<NZ(A)<1を満たす場合、NZ(A)は0より大きく、好ましくは0.2以上であり、一方1より小さく、好ましくは0.8以下である。NZ(A)がこの範囲であることにより、光学フィルムが液晶表示装置等の表示装置に設けられた場合、傾斜方向から見た表示面の色付きを低減するといった効果を特に良好に発現することができる。
本発明の光学フィルムにおいては、フィルムの遅相軸又は進相軸と、フィルム長手方向とがなす角度が1°以下である。特に、結晶性樹脂(a)が固有複屈折値正の樹脂である場合、遅相軸とフィルム長手方向とがなす角度を1°以下としうる。
当該角度は、具体的には以下の方法により求めうる。即ち、当該長尺の光学フィルムの長手方向500m以上にわたりフィルムの遅相軸方向又は進相軸方向を測定し、当該軸方向がフィルム長手方向となす角度を求める。長手方向の測定間隔は、25mmとしうる。全幅のうち、フィルムの長手方向に対する当該軸方向の角度を、平面上のある回転方向を正、反対の回転方向を負として求めた場合は、それらの絶対値を、これらがなす角度とする。そして得られた角度のうち最大の値を、軸方向のバラツキとして記録する。当該バラツキが1°以下である場合、当該軸方向とフィルム長手方向とがなす角度が1°以下である。当該バラツキは、好ましくは0.9°以下、より好ましくは0.8°以下としうる。軸方向の測定は、インラインの位相差測定を行いうる位相差計(例えば王子計測機器社製「KOBRA-WIST-IE」)を用いて行いうる。
フィルム幅方向における軸方向の測定位置は、フィルム端部から所定距離だけ内側、例えば10cm内側の位置としうる。
長尺のフィルムは、その全幅のうち、幅方向内側のある範囲の部分のみを最終的な製品とすることがある。その場合は、幅方向における測定位置は、製品とする部分の端部から所定距離だけ内側の位置としうる。これを図3を参照して説明する。図3は、本発明の光学フィルムの具体例を概略的に示す部分斜視図である。この例において、光学フィルム12のうち、最終的な製品としての使用に供する部分は、フィルム縁12bから所定距離A4だけ内側の線12dより内側の領域12cである。そして、線12dよりさらに所定距離A3(例えば10cm)内側の線12f上の位置を、軸方向の測定位置としうる。
〔光学フィルムのその他の特徴〕
本発明の光学フィルムの厚みは、所望の光学特性が得られる厚みに適宜調整しうる。光学フィルムの厚みは、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上であり、一方好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下である。
光学フィルムに含まれる結晶性重合体の結晶化度は、特段の制限はないが、通常は、ある程度以上高い。具体的な結晶化度の範囲は、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、特に好ましくは30%以上である。結晶性重合体の結晶化度は、X線回折法によって測定しうる。
〔光学フィルムの製造方法〕
本発明の光学フィルムは、下記工程(I)~(III)を含む製造方法により製造しうる。以下において、かかる製造方法を、本発明の光学フィルムの製造方法として説明する。
工程(I):結晶性樹脂(a)からなる層を備える長尺のフィルム(pA)を用意する工程。
工程(II):フィルム(pA)の一方又は両方の表面に溶媒を接触させて、フィルム(pA)の厚み方向の複屈折を変化させる工程。
工程(III):工程(II)の後に、フィルム(pA)の長尺方向に張力を負荷した状態で、フィルム(pA)を乾燥させる工程。
〔工程(I)〕
工程(I)では、結晶性樹脂(a)からなる層を備える長尺フィルム(pA)を用意する。フィルム(pA)は、通常は、1層の結晶性樹脂(a)の層からなるフィルムである。フィルム(pA)の用意は、単に市販品を入手することによって行ってもよく、結晶性樹脂(a)を材料として用いフィルム(pA)を製膜することによって行ってもよい。
工程(I)を、結晶性樹脂(a)を材料として用いフィルム(pA)を製膜することによって行う場合の製膜は、既知の各種の製膜方法により行いうる。特に、溶融押出成形により製膜を行うことが、長尺のフィルム(pA)を効率的に製造する観点から好ましい。具体的には、通常の押出成形用のダイを備えた押出装置にて、結晶性樹脂(a)を溶融押出成形することにより、長尺の結晶性樹脂(a)のフィルム(pA)を成形しうる。成形の条件は、結晶性樹脂(a)の性質に応じて適宜調整しうる。工程(I)にて用意するフィルム(pA)の厚みは、特に限定されず、製品としての光学フィルムの厚みが所望の値となるよう適宜調整しうる。フィルム(pA)は、光学異方性を有するフィルムであってもよいが、特に光学異方性を有していない状態であっても、この後の工程に供することにより、本発明の光学フィルムを容易に製造しうる。
〔工程(II)及び(III)〕
工程(II)では、フィルム(pA)の一方又は両方の表面に溶媒を接触させて、フィルム(pA)の厚み方向の複屈折を変化させる。工程(III)では、工程(II)の後に、フィルム(pA)の長尺方向に張力を負荷した状態で、フィルム(pA)を乾燥させる。ここで、工程(III)における張力の負荷は、工程(II)よりも上流のニップ位置(U)から、工程(III)よりも下流のニップ位置(D)にわたって行うことが好ましい。
図1は、本発明の製造方法を実施するための処理装置及びそれを用いた本発明の製造方法の操作の一例を概略的に示す側面図である。この図では、工程(II)及び(III)における操作が特に具体的に説明される。図1において、処理装置10は、搬送経路の上流から順に、繰り出し装置110、上流ニップ装置120、ダイコーター130、オーブン140、下流ニップ装置150、測定装置160、及び巻取装置170を含む。
繰り出し装置110は、工程(I)で得たフィルム(pA)のロールからフィルム11(フィルム(pA))を矢印A1方向に巻き出し、上流ニップ装置120に導く装置である。上流ニップ装置120は、上側ニップロール121及び下側ニップロール122の対を含み、上流ニップ位置(U)において、フィルム(pA)11をニップする。上流ニップ装置120は、適切な周速にて駆動され、それにより、フィルム11を所定の搬送速度にて下流方向に送出する。
一方、下流ニップ装置150は、上側ニップロール151及び下側ニップロール152の対を含み、下流ニップ位置(U)において、フィルム11をニップする。下流ニップ装置150は、適切な周速にて駆動され、それにより、フィルム11を所定の搬送速度にて下流方向に送出する。上流ニップ装置120の搬送速度を100%とした場合における、下流ニップ装置150の搬送速度比を100%より速い速度とすることにより、ニップ位置(U)からニップ位置(D)までの搬送経路において、フィルム11に張力を負荷し、フィルム11を長手方向に延伸しうる。
延伸倍率は、好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.2倍以上であり、好ましくは3.0倍以下、より好ましくは2.0倍以下である。具体的な延伸倍率は、製品たる光学フィルムの光学特性、厚み、強度などの要素に応じて適切に設定することが望ましい。延伸倍率が前記下限値以上である場合、延伸によって複屈折を大きく変化させることができる。また、延伸倍率が前記上限値以下である場合、遅相軸の方向を容易に制御したり、フィルムの破断を効果的に抑制したりできる。
図1の例では、工程(II)は、ダイコーター130により、水平方向に搬送されるフィルム11の上側の面に溶媒を塗布することにより行われる。溶媒を均一に塗布する観点からは、このように水平方向に搬送されるフィルムに対して塗布することが好ましい。
図1の例では、ダイコーター130は、搬送経路の上流ニップ位置(U)及び下流ニップ位置(D)の間に位置するため、これによる処理は、フィルム11に張力を負荷した状態で行われる。このように張力を負荷した状態での処理を行うことにより、フィルム11を安定に走行させ、より均一な塗布を行うことができる。
工程(II)でフィルム(pA)に接触させる溶媒としては、結晶性樹脂(a)を溶解させずに当該樹脂中に浸入できる溶媒を適宜選択しうる。溶媒としては、通常は有機溶媒が用いられる。有機溶媒の例としては、トルエン、リモネン、デカリン等の炭化水素溶媒;及び二硫化炭素が挙げられる。溶媒の種類は、1種類でもよく、2種類以上でもよい。
図1の例では、工程(II)は、ダイコーター130を用いた塗布により行っているが、工程(II)における接触の具体的操作はこれに限られず、任意の操作により達成しうる。例えば、ダイコーター以外の塗布装置(例えばバーコーター等)を用いてフィルム表面に溶媒を塗布する塗布法により工程(II)を行ってもよい。または、フィルム(pA)の表面に溶媒をスプレーするスプレー法;及びフィルム(pA)を溶媒中に浸漬する浸漬法によっても、工程(II)を行いうる。接触する溶媒の量を精密に制御しうる観点からは、塗布装置を用いた塗布法が好ましい。
工程(II)の接触時における溶媒の温度は、溶媒が液体状態を維持できる範囲で任意であり、よって、溶媒の融点以上沸点以下の範囲に設定しうる。
フィルム(pA)と溶媒とを、溶媒の塗布により接触させる場合、塗布面積及び溶媒の供給量から計算される塗布厚みを適宜調整しうる。塗布厚みは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であり、一方好ましくは100μm以下としうる。塗布厚みが前記下限値以上である場合、溶媒との接触によるフィルム(pA)のNZ係数の調整を効果的に行うことができる。他方、接触時間を前記上限より長くしたり塗布厚みを前記上限より厚くしてもNZ係数の調整量は大きく変わらない傾向がある。よって、接触時間又は塗布厚みが前記上限値以下である場合、フィルム(pA)の品質を損なわずに生産性を高めることができる。
工程(II)での溶媒との接触の結果、フィルム(pA)の屈折率が変化する。かかる変化に際しては、かかる屈折率の変化と併せて、その厚みお増加しうる。このような、溶媒との接触によりもたらされる変化は、光学フィルム用樹脂を単に延伸するといった、通常の位相差フィルムの製造方法では得ることが困難なものである。したがって、かかる変化の結果、本発明の光学フィルムの容易な製造が可能となる。
図1の例では、工程(III)は、オーブン140により、搬送されるフィルム(pA)11を加熱し、フィルム(pA)11を乾燥させる。同時に、加熱により、搬送経路のこの時点においてフィルムが軟化するため、張力の負荷による延伸が主にこの時点において達成される。
オーブン140は、搬送経路の上流ニップ位置(U)及び下流ニップ位置(D)の間に位置するため、これによる工程(III)の処理は、ダイコーター130と共通して、これらのニップ位置の間においてフィルム11に張力を負荷した状態で行われる。つまり、工程(III)における張力の負荷は、工程(II)よりも上流のニップ位置(U)から、工程(III)よりも下流のニップ位置(D)にわたって行われる。このように、工程(II)と工程(III)とが共通した張力負荷の環境下で行われることにより、工程(II)と(III)との間におけるニップの必要が無くなり、その結果、工程(II)において塗布された溶媒の層を、円滑に、厚みが均一な状態を維持したまま、工程(III)に搬送することが可能となる。その結果、製造効率を高めることができ、且つ、得られる光学フィルムの品質をさらに向上させることができる。
オーブン140は、その内部に加熱空気を導入する装置(不図示)を備え、それにより内部温度を一定の高い温度に保ちうる。
オーブン140はさらに、オーブン内の搬送経路の中央付近であって、且つ搬送されるフィルム(pA)11の幅方向端部領域に対応する箇所に、局所加熱用のヒーター141を備え、それにより、フィルム11の幅方向端部領域を、中央部より高い温度で加熱しうる。これを図2を参照して説明する。図2は、本発明の光学フィルムの製造方法において工程(III)に供されるフィルム(pA)11の具体例を概略的に示す部分斜視図である。この例において、フィルム(pA)11の端部領域11eは、フィルム11の縁11bから内側の、ある幅(図2において矢印A2で示す幅)にわたる領域であり、かかる幅は、好ましくは100mm以上、より好ましくは150mm以上であり、一方好ましくは500mm以下、より好ましくは450mm以下である。このような端部領域11eに対応する位置を、局所加熱用のヒーター141で加熱することにより、幅方向端部領域を、中央部より高い温度で加熱する。幅方向端部領域の温度と、それ以外の領域の温度の温度差は、好ましくは1℃以上、より好ましくは5℃以上であり、一方好ましくは50℃以下、より好ましくは45℃以下である。このような幅方向端部領域の加熱を行うことにより、遅相軸のバラツキをより有効に抑制し、光学フィルムの性能を容易に向上させることができる。
工程(III)における加熱温度(幅方向端部領域以外の温度)は、結晶性樹脂(a)のガラス転移温度Tg(a)と相対的に規定しうる。図1の例では、加熱温度は、オーブン140に導入する空気の温度等の操作条件の制御により調整しうる。加熱温度は、好ましくは「Tg(a)+5」℃以上、より好ましくは「Tg(a)+10」℃以上であり、好ましくは「Tg(a)+50」℃以下、より好ましくは「Tg(a)+45」℃以下である。加熱温度が前記下限値以上である場合、フィルムを十分に軟化させて延伸を均一に行うことができる。また、加熱温度が前記上限値以下である場合、結晶性重合体の結晶化の進行によるフィルムの硬化を抑制できるので、延伸を円滑に行うことができ、また、延伸によって大きな複屈折を発現させることができる。
ニップ装置120及び150による延伸、ダイコーター130による溶媒の塗布及びオーブン140の加熱による乾燥により、工程(II)及び工程(III)が達成され、光学フィルム12が得られる。光学フィルム12は、測定装置160による諸物性の測定に供された後、巻取装置170により巻き取られる。測定装置160は、厚み測定装置、位相差測定装置等の各種の測定装置、又はこれらの組み合わせとしうる。測定装置により測定された結果を上流の各工程にフィードバックし工程(II)及び(III)の条件を適宜制御し、所望の製品を得ることができる。
工程(III)を経たフィルム12は、そのままを本発明の光学フィルムとしてもよい。又は、工程(III)を経たフィルム12を、さらに任意の工程に供した後、本発明の光学フィルムとしてもよい。例えば、工程(III)を経たフィルムを、その寸法を維持したまま加熱し結晶化度を高める工程を行ってもよい。
〔その他の工程〕
本発明の光学フィルムの製造方法は、上述した工程に組み合わせて、更に任意の工程を含みうる。例えば、工程(II)の後で、フィルムに付着した溶媒を除去する工程を含みうる。溶媒の除去方法としては、例えば、ふき取り等が挙げられる。
〔用途〕
本発明の光学フィルムは、必要に応じて矩形などの所望の形状に加工した上で、表示装置等の光学装置の構成要素として使用しうる。本発明の光学フィルム又は本発明の位相差フィルムを表示装置の構成要素として用いた場合、表示装置に表示される画像の視野角、コントラスト、画質等の表示品質を改善することができる。
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り、重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
(重合体の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnの測定方法)
重合体の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnは、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)システム(東ソー社製「HLC-8320」)を用いて、ポリスチレン換算値として測定した。測定の際、カラムとしてはHタイプカラム(東ソー社製)を用い、溶媒としてはテトラヒドロフランを用いた。また、測定時の温度は、40℃であった。
(重合体の水素化率の測定方法)
重合体の水素化率は、オルトジクロロベンゼン-dを溶媒として、145℃で、H-NMR測定により測定した。
(ガラス転移温度Tg及び融点Tmの測定方法)
重合体のガラス転移温度Tg及び融点Tmの測定は、以下のようにして行った。まず、重合体を、加熱によって融解させ、融解した重合体をドライアイスで急冷した。続いて、この重合体を試験体として用いて、示差走査熱量計(DSC)を用いて、10℃/分の昇温速度(昇温モード)で、重合体のガラス転移温度Tg及び融点Tmを測定した。
(重合体のラセモ・ダイアッドの割合の測定方法)
重合体のラセモ・ダイアッドの割合の測定は以下のようにして行った。オルトジクロロベンゼン-dを溶媒として、200℃で、inverse-gated decoupling法を適用して、重合体の13C-NMR測定を行った。この13C-NMR測定の結果において、オルトジクロロベンゼン-dの127.5ppmのピークを基準シフトとして、メソ・ダイアッド由来の43.35ppmのシグナルと、ラセモ・ダイアッド由来の43.43ppmのシグナルとを同定した。これらのシグナルの強度比に基づいて、重合体のラセモ・ダイアッドの割合を求めた。
(フィルムの光学特性の測定方法)
光学フィルムの面内方向のレターデーションRe、厚み方向のレターデーションRth及びNZ係数を、複屈折量測定計(Axometrics社製「AxoScan」)を用いて、測定波長590nmで測定した。測定は、フィルムの幅方向において5cm間隔の複数の地点で行い、各地点での測定値の平均値を測定結果として採用した。
(フィルムの厚みの測定方法)
スナップゲージ(ミツトヨ社製「ID-C112BS」)を用いて、フィルムの幅方向において5cm間隔の複数の地点で厚みを測定した。それらの測定値の平均値を計算することにより、フィルムの平均厚みを求めた。
(結晶化度)
結晶性重合体の結晶化度(%)は、X線回折法によって測定した。
(遅相軸の測定方法)
製造された長尺の光学フィルムの幅方向の縁から200mmの位置(図3に示す破線12fの線上の位置)において、光学フィルムの長手方向に対する遅相軸方向の角度θ(即ち、フィルム長手方向と、フィルム遅相軸とがなす角度)を平行ニコル回転法位相差計(王子計測機器社製「KOBRA-WIST-IE」)を用いて、インラインで測定した。測定は、長手方向に500m以上の長さで行った。角度θは、長手方向に対するある回転角度の方向を正、反対の回転角度の方向を負として記録した。全ての測定の結果の平均値を遅相軸平均とした。また、全ての測定の結果のうち、その絶対値が最大のものの絶対値を遅相軸バラツキとした。
(レターデーションの測定方法)
長尺のフィルム(pA)又は長尺の光学フィルムの面内レターデーションRe及び厚み方向レターデーションRthを、平行ニコル回転法位相差計(王子計測機器社製「KOBRA-WIST-IE」)を用いて、インラインで測定した。測定は、長手方向に500m以上の長さにわたり、フィルム幅方向の中央部の位置で行った。全ての測定の結果の平均値を求めた。
(厚みの測定方法)
スナップゲージ(ミツトヨ社製「ID-C112BS」)を用いて、フィルムの幅方向に5cm間隔で厚みを測定し、その平均値を当該フィルムの厚みとした。
(液晶表示装置の色ムラの評価方法)
透過軸が幅方向にある偏光板(サンリッツ社製「HLC2-5618S」、厚さ180μm)を用意した。この長尺の偏光板と、製造された長尺の光学フィルムを、適宜矩形の形状に切り出し貼合し、円偏光板サンプルを得た。切り出し及び貼合に際しては、偏光板の吸収軸と、光学フィルムの遅相軸が45°の角度をなすよう、これらの向きを調整した。
この円偏光板サンプルを、IPS(インプレーンスイッチング)モードの反射型液晶表示装置の視認側とは反対側の偏光板と置き換えた。この際、円偏光板サンプルは、光学フィルム側の面が液晶セルに向き合うように設けた。
こうして作製した液晶表示装置に画像を表示させ、表示された画像を目視によって画面の正面方向及び傾斜方向から観察した。ここで画面の正面方向とは画面の法線方向を表し、画面の傾斜方向とは画面に対する極角φが0°<φ<90°の方向を表す。観察された結果から、その液晶表示装置の色ムラを下記の基準で評価した。
「良」:全幅にわたり、色ムラが観察されず、良好な表示である。また、画面を傾斜方向から観察して視認される色合いと、画面を正面方向から観察して視認される色合いとが同じ色合いであり、観察方向によって画面の変色は見られない。
「不良」:画面に色ムラが観察された。また、画面を傾斜方向から観察すると、画面内に若干の色ムラが観察される。
〔製造例1:ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物〕
金属製の耐圧反応器を、充分に乾燥した後、窒素置換した。この金属製耐圧反応器に、シクロヘキサン154.5部、ジシクロペンタジエン(エンド体含有率99%以上)の濃度70%シクロヘキサン溶液42.8部(ジシクロペンタジエンの量として30部)、及び1-ヘキセン1.8部を加え、53℃に加温した。
テトラクロロタングステンフェニルイミド(テトラヒドロフラン)錯体0.014部を0.70部のトルエンに溶解し、溶液を調製した。この溶液に、濃度19%のジエチルアルミニウムエトキシド/n-ヘキサン溶液0.061部を加えて10分間攪拌して、触媒溶液を調製した。
この触媒溶液を耐圧反応器内の混合物に加えて、開環重合反応を開始した。その後、53℃を保ちながら4時間反応させて、ジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液を得た。
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、それぞれ、8,830および29,800であり、これらから求められる分子量分布(Mw/Mn)は3.37であった。
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液200部に、停止剤として1,2-エタンジオール0.037部を加えて、60℃に加温し、1時間攪拌して重合反応を停止させた。ここに、ハイドロタルサイト様化合物(協和化学工業社製「キョーワード(登録商標)2000」)を1部加えて、60℃に加温し、1時間攪拌した。その後、濾過助剤(昭和化学工業社製「ラヂオライト(登録商標)#1500」)を0.4部加え、PPプリーツカートリッジフィルター(ADVANTEC東洋社製「TCP-HX」)を用いて吸着剤と溶液を濾別した。
濾過後のジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液200部(重合体量30部)に、シクロヘキサン100部を加え、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム0.0043部を添加して、水素圧6M(pA)、180℃で4時間水素化反応を行った。これにより、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物を含む反応液が得られた。この反応液は、水素化物が析出してスラリー溶液となっていた。
前記の反応液に含まれる水素化物と溶液とを、遠心分離器を用いて分離し、60℃で24時間減圧乾燥して、結晶性を有するジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物28.5部を得た。この水素化物の水素化率は99%以上、ガラス転移温度Tgは97℃、融点Tmは266℃、ラセモ・ダイアッドの割合は89%であった。
〔製造例2:結晶性樹脂(a)のペレット〕
製造例1で得たジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物100部に、酸化防止剤(テトラキス〔メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン;BASFジャパン社製「イルガノックス(登録商標)1010」)0.5部を混合して、結晶性樹脂(a)を得た。
得られた結晶性樹脂(a)を、内径3mmΦのダイ穴を4つ備えた二軸押出機(東芝機械社製「TEM-37B」)に投入した。二軸押出機を用いて樹脂を熱溶融押出成形し、ストランド状の成形体を形成した。この成形体をストランドカッターにて細断して、結晶性樹脂(a)のペレットを得た。
〔実施例1〕
(1-1.工程(I):フィルム(pA))
製造例2で得られた結晶性樹脂(a)のペレットを、Tダイを備える熱溶融押出フィルム成形機に供給した。このフィルム成形機を用いて、結晶性樹脂(a)を、下記の運転条件で製膜し、27m/分の速度でロールに巻き取った。
・バレル温度設定:280℃~290℃
・ダイ温度:270℃
・スクリュー回転数:145rpm
・キャストロール温度:70℃
これにより、結晶性樹脂(a)からなる長尺のフィルム(pA)を得た。得られたフィルム(pA)の幅は1350mm、厚みは68μmであった。
フィルム(pA)の波長590nmにおける面内方向レターデーションRe(pA)は5nmであり、厚み方向レターデーションRth(pA)は5nmであり、従ってNz係数Nz(pA)は1.50であった。フィルム(pA)の遅相軸方向は幅方向であった。
(1-2.工程(II)及び(III))
図1に概略的に示す装置を用いて、(1-1)で得られたフィルム(pA)を、工程(II)及び(III)に供した。
図1において、処理装置10は、搬送経路の上流から順に、繰り出し装置110、上流ニップ装置120、ダイコーター130、オーブン140、下流ニップ装置150、測定装置160、及び巻取装置170を含む。これらの詳細は上に説明した通りである。
(1-1)で得られたフィルム(pA)11を、繰り出し装置110から矢印A1方向に巻き出し、上流ニップ装置120に導き、搬送速度15m/sにて下流方向に送出した。一方下流ニップ装置150での搬送速度は19.5m/sとした。その結果、上流ニップ装置120から下流ニップ装置150にわたり張力が負荷され、上流ニップ装置120に対する下流ニップ装置150の搬送速度比は1.3倍であった。ダイコーター130及びオーブン140は、搬送経路の上流ニップ装置120による上流ニップ位置(U)及び下流ニップ装置150による下流ニップ位置(D)の間に位置するため、これらによる処理は、フィルム11に張力を負荷した状態で行われた。
ニップ装置120の下流で、ダイコーター130により、フィルム11の上側の面に溶媒を塗布し、工程(II)を行った。溶媒としてトルエンを使用し、塗布厚みは8μmとした。
ダイコーター130の下流で、オーブン140により工程(III)を行った。工程(III)における加熱は、オーブン140内部の空気温度を138℃に保つ一方、オーブン内の搬送経路の中央付近であって、且つ搬送されるフィルム(pA)11の幅方向端部領域に対応する箇所において、局所加熱用のヒーター141による局所加熱を行い、フィルムの幅方向の端部領域の温度を、中央部より15℃高い温度に保った。図2に示す通り、フィルムの端部領域11eは、フィルム11の縁11bから内側の、ある幅(図2において矢印A2で示す幅)にわたる領域であり、本実施例では、端部領域11eの幅は200mmとした。
オーブン140の下流では、温調ロール(不図示)でフィルムを冷却しながら搬送し、フィルムを下流ニップ装置150に導いた。
工程(II)及び(III)の結果得られた光学フィルム12は、下流ニップ装置150から送出され、測定装置160において、光学フィルム12の厚み、Re、Rth、及び遅相軸を測定し、Nz係数、遅相軸平均及び遅相軸のバラツキを求めた。また、得られた光学フィルム12からサンプルを切り出し、結晶化度を測定した。さらに得られた光学フィルムについて、液晶表示装置色ムラ抑制効果を評価した。
〔実施例2〕
下流ニップ装置150の周速を変更し、上流ニップ装置120に対する下流ニップ装置150の速度比を1.7倍に変更した他は、実施例1と同じ操作により、光学フィルムを得て評価した。
〔比較例1〕
下記の変更点の他は、実施例1同じ操作により、光学フィルムを得て評価した。
・オーブン140内において、局所加熱用のヒーターによる加熱を行わなかった。
実施例及び比較例の操作の概要及び評価結果を、表1に示す。
Figure 0007543932000001
実施例及び比較例の結果から明らかな通り、本発明の製造方法により得られた本発明の光学フィルムは、機械的特性が良好な結晶性樹脂のフィルムであり且つ遅相軸のバラツキが少なく色ムラ抑制効果の高い三次元位相差フィルムとしうる光学フィルムとすることができる。比較例1は「遅相軸バラツキが1.2°であり、遅相軸とフィルム長手方向とのなす角度が1°を超えるため、評価項目が不良となる。
10:処理装置
11:フィルム(pA)
11b:フィルム11の縁
11e:端部領域
12:光学フィルム
12b:フィルム縁
12c:内側の領域
12d:内側の線
12f:内側の線
110:繰り出し装置
120:上流ニップ装置
121:上側ニップロール
122:下側ニップロール
130:ダイコーター
140:オーブン
141:局所加熱用のヒーター
150:下流ニップ装置
151:上側ニップロール
152:下側ニップロール
160:測定装置
170:巻取装置
A1:搬送方向
A2:距離
A3:距離
A4:距離
D:下流ニップ位置
U:上流ニップ位置

Claims (6)

  1. 結晶性樹脂(a)からなる層を備え、その遅相軸又は進相軸と、その長手方向とがなす角度が1°以下であり、Nz係数が1未満である、長尺の、光学フィルムの製造方法であって、
    前記結晶性樹脂(a)からなる層を備える長尺のフィルム(pA)を用意する工程(I)と、
    前記フィルム(pA)の一方又は両方の表面に溶媒を接触させて、前記フィルム(pA)の厚み方向の複屈折を変化させる工程(II)と、
    前記工程(II)の後に、前記フィルム(pA)の長尺方向に張力を負荷した状態で、前記フィルム(pA)を乾燥させる工程(III)と、
    をこの順に含む製造方法
  2. 前記光学フィルムのNz係数が0より大きい、請求項1に記載の光学フィルムの製造方法
  3. 前記光学フィルムが単層のフィルムである、請求項1又は2に記載の光学フィルムの製造方法
  4. 前記結晶性樹脂(a)の固有複屈折値が、正である、請求項1~3のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法
  5. 前記結晶性樹脂(a)が、脂環式構造含有重合体を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法
  6. 前記工程(III)における前記張力の負荷を、前記工程(II)よりも上流のニップ位置(U)から、前記工程(III)よりも下流のニップ位置(D)にわたって行い、
    前記ニップ位置(U)におけるフィルム搬送速度に対する、前記ニップ位置(D)におけるフィルム搬送速度が、1.1倍以上であり、
    前記工程(III)が、オーブン内で、前記フィルム(pA)の両方の幅方向端部領域を、中央部より高い温度で加熱することを含み、
    得られる前記光学フィルムが、長手方向に遅相軸を有する縦一軸延伸フィルムである、請求項1~5のいずれか1項に記載の光学フィルムの製造方法。
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