JP7539337B2 - 電気化学式酸素センサ - Google Patents

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Description

特許法第30条第2項適用 試供品を配布した。
本願は、長期間にわたり高い測定精度を維持することができる電気化学式酸素センサに関するものである。
電気化学式酸素センサは、安価、手軽であり、かつ常温での作動が可能という利点を有することから、船倉内部やマンホール内の酸欠状態のチェック、麻酔器や人工呼吸器などの医療機器における酸素濃度の検出など、広い分野で使用されている。
このような電気化学式酸素センサとしては、例えば、水溶液系の電解液を有し、負極にPb、Zn、Snなどの卑金属やその合金を使用したガルバニ電池式酸素センサが知られている(特許文献1~3など)。このガルバニ電池式酸素センサでは、一般に、正極と負極の間に接続された抵抗(固定抵抗、温度補償用サーミスタなど)の両端における電圧が出力され、上記出力電圧を酸素濃度に変換することにより酸素濃度の測定がなされる。
上記ガルバニ電池式酸素センサでは、酸素濃度と上記抵抗を流れる電流値が比例関係にあり、酸素濃度に応じた出力電圧が得られるため、測定の初期の段階では、酸素濃度の変化を正確に測定することができる。一方、長期間測定を続けた場合、経時劣化により、酸素濃度と出力電圧との関係を示す直線の傾きが変動するため、実際の酸素濃度と、酸素センサの出力電圧を変換して求められる酸素濃度との間にずれが生じてしまい、酸素センサの測定精度が低下するという問題を生じることが指摘されている(特許文献4)。上記問題は、酸素濃度が高くなるほど大きくなるため、高濃度の酸素を測定可能であり、かつ長期間にわたり高い測定精度を維持することのできるガルバニ電池式酸素センサを構成するためには、上記の問題を解決することが必要である。
特開2006-194708号公報 特開2016-6412号公報 特開2018-109549号公報 特開昭62-135761号公報
特許文献4のガルバニ電池式酸素センサでは、周囲温度の変動に対応して、正極と負極の間に接続される固定抵抗の値を変えることにより、出力電圧の変動を吸収することが可能となる。一方、経時劣化については、初期品における大気中の酸素濃度:20.6(%)での出力電圧:V0と、経時劣化前の危険な酸素濃度:18.0(%)での出力電圧:V1との比が、2回目以降の劣化品における大気中の酸素濃度:20.6(%)での出力電圧V0’と、危険な酸素濃度:18.0(%)での出力電圧V1’との比と同じ値となることから、測定の都度、最初に計測した出力電圧値とその後に計測した出力電圧値との比を見ることにより、正確に空気中の酸素濃度を検知できることが示されている。
しかし、特許文献4の技術は、酸素センサの出力電圧の経時変化を抑制するものではないため、幅広い濃度範囲で酸素濃度を測定することができ、高い測定精度を長期間維持することを可能とする酸素センサを構成するためには、更なる検討が必要である。
本願は、上記事情に鑑みてなされたものであり、幅広い濃度範囲で酸素濃度を測定することができ、かつ高い測定精度を長期間維持することが可能なガルバニ電池式酸素センサを提供することにある。
本願の電気化学式酸素センサは、正極、負極および電解液を含み、前記正極への酸素の供給量を制限する隔膜を備え、前記正極と前記負極とを接続する抵抗素子を備え、25℃で1気圧、相対湿度50%の大気中において、前記抵抗素子を流れる電流値が7μA以上であり、前記抵抗素子の抵抗値が1050Ω以下に設定されている。
本願によれば、幅広い濃度範囲で酸素濃度を測定することができ、かつ高い測定精度を長期間維持することが可能なガルバニ電池式酸素センサを提供することができる。
図1は、本願の電気化学式酸素センサの一例であるガルバニ電池式酸素センサを模式的に表す断面図である。 図2は、加速的寿命試験における出力電圧の維持率の変化を示す図である。
本願の電気化学式酸素センサは、正極、負極および電解液を含み、上記正極への酸素の供給量を制限する隔膜を備え、上記正極と上記負極とを接続する抵抗素子を備え、25℃で1気圧、相対湿度50%の大気中において、上記抵抗素子を流れる電流値が7μA以上、より好ましくは10μA以上であり、上記抵抗素子の抵抗値が1050Ω以下、より好ましくは600Ω以下に設定されている。
一般に、電気化学式酸素センサでは、流れる電流をある程度大きくして応答速度を高めるためには、通常、後述する隔膜の厚さを薄くして、単位時間当たりの酸素透過量を多くすることが行われる。これにより、応答速度は速くなるが、酸素透過量の増大により正極の反応速度が増加し、負極の溶出速度も増加するため、短寿命となる。一方、隔膜を厚くすると、酸素透過量が少なくなるため、応答速度は低くなるが、長寿命となる。
そこで、本願の電気化学式酸素センサでは、流れる電流をある程度大きくして応答速度を高めると共に、それにより生じる短寿命化を阻止するために、内蔵抵抗の抵抗値を一定以下の値に制御したものである。これにより、幅広い濃度範囲で酸素濃度を測定することができ、かつ高い測定精度を長期間維持することができる酸素センサを提供できる。これにより、例えば、国連の提唱する持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)の目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」および目標12「つくる責任 つかう責任」に寄与することができる。
次に、本願の電気化学式酸素センサを、好適な実施形態の一例であるガルバニ電池式酸素センサ(以下、単に酸素センサともいう。)を例にとり、内蔵抵抗の抵抗値を一定以下の値に制御すると短寿命化を阻止できる理由について説明する。
本願の酸素センサの正極の上部には、酸素を選択的に透過させ、かつ透過量を電池反応に見合うように制限する隔膜が配置されている。隔膜を通って酸素センサの内部に入った酸素は、正極が有する触媒電極で還元され、電解液を介して負極との間で次のような電気化学反応を起こす。なお、下記の電気化学反応式では、負極がSnまたはSn合金で構成された場合を表す。
正極反応:O2+4H++4e-→2H2
負極反応:Sn+2H2O→SnO2+4H++4e-
ここで、正極への酸素の流入量は、隔膜により制限されるため、酸素センサの電流-電圧特性に飽和電流特性が現れる。即ち、正極に流入した酸素が全て上記正極反応で消費される定常状態に達する。このような飽和電流は、限界電流と呼ばれ、この限界電流の大きさは外界の酸素濃度によって決定される。また、酸素センサには、限界電流に応じて出力電圧を測定するために、内蔵抵抗が正極と負極との間に配置されている。このため、この限界電流が流れている状態での酸素センサの出力電圧と、外界の酸素濃度とは比例関係が成立し、限界電流が流れている状態での酸素センサの出力電圧を測定することで、外界の酸素濃度を測定することができる。
しかし、酸素センサに配置された内蔵抵抗の抵抗値を大きくし過ぎると、限界電流よりも小さい電流しか流れなくなり、酸素センサの出力電圧と、外界の酸素濃度との比例関係が崩れ、外界の酸素濃度を測定することができなくなる。また、本願の発明者らの検討により、酸素センサの経時劣化により酸素センサの電流-電圧特性が変化し、酸素センサの出力電圧と、外界の酸素濃度との比例関係を成立させるために使用できる内蔵抵抗の抵抗値の範囲が低抵抗値方向に狭まることが判明した。
上記問題を解決するには、内蔵抵抗の抵抗値をできるだけ小さくすることが有利となる。そこで、本実施形態では、内蔵抵抗、即ち、抵抗素子の抵抗値を1050Ω以下、より好ましくは600Ω以下に設定した。この範囲の抵抗値を使用することで、酸素センサの出力電圧と、外界の酸素濃度との比例関係を維持しつつ、酸素センサの経時劣化による酸素センサの電流-電圧特性の変化を吸収して、長寿命の酸素センサを実現したものである。
一方、内蔵抵抗の抵抗値を小さくし過ぎると、酸素センサの出力電圧が小さくなりすぎ、電圧の測定誤差が大きくなるため好ましくない。そこで、本願では酸素センサの出力電圧は5mV以上に設定することが好ましく、出力電圧が5mV以上となるように内蔵抵抗の抵抗値の下限値を選定することが好ましい。具体的には、本願の酸素センサの抵抗素子の抵抗値は、200Ω以上に設定することが好ましい。
また、隔膜の厚さが薄すぎると、電流値が大きくなり過ぎて短寿命となるため、隔膜の厚さは8μm以上であることが好ましい。また、隔膜の厚さが厚過ぎると電流値が小さくなり、応答速度が遅くなるため、材質にもよるが、隔膜の厚さは、例えば40μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。
以下、本実施形態のガルバニ電池式酸素センサを、図面を用いて説明する。図1は、本実施形態のガルバニ電池式酸素センサを模式的に表す断面図である。
図1に示す酸素センサ1は、有底筒状のホルダー20内に正極50、負極100および電解液110を有している。ホルダー20の上部開口部には、第1ホルダー蓋(中蓋)11と、第1ホルダー蓋11を固定するための第2ホルダー蓋(外蓋)12とで構成され、酸素センサ1内に酸素を取り込むための貫通孔150を有するホルダー蓋10が、O-リング30を介して取り付けられている。
ホルダー20内の電解液110を収容する槽中には、負極100が電解液中に浸漬された状態で配されている。負極100には、リード線120が取り付けられており、このリード線120には、ホルダー20の外部で固定抵抗(補正抵抗)130および温度補償用サーミスタ140が直列に連結されて抵抗素子を構成している。そして、この抵抗素子の総抵抗値は、1050Ω以下に設定されている。また、正極50は、触媒電極51と正極集電体52とが積層されて構成されており、正極集電体52にも、リード線120が取り付けられている。そして、正極50は、電解液収容槽の上部に、正極集電体保持部70を介して配されている。また、正極集電体保持部70には、電解液収容槽の電解液110を正極50に供給するための穿孔80と、正極集電体52に取り付けられたリード線120を通すための穿孔90とが設けられている。
正極50の上部には、酸素を選択的に透過させ、かつ透過量を電池反応に見合うように制限する隔膜60が配されており、ホルダー蓋10に設けられた貫通孔150からの酸素が、隔膜60を通じて正極50へ導入される。また、隔膜60の上部には、隔膜60へのゴミやチリ、水などの付着を防止するための保護膜40が配されており、第1ホルダー蓋11によって固定されている。
即ち、第1ホルダー蓋11は、保護膜40、隔膜60および正極50の押圧端板として機能する。図1に示す酸素センサ1では、第2ホルダー蓋12に、ホルダー20の外周部に形成されたネジ部と螺合するように、内周部にネジ部が形成されている。そして、ホルダー蓋10をネジ締めすることにより、第1ホルダー蓋11がO-リング30を介してホルダー20に押し付けられることで、気密性および液密性を保持した状態で、保護膜40、隔膜60および正極50をホルダー20に固定できるようになっている。
次に、キレート剤を含有する電解液を有するガルバニ電池式酸素センサの動作原理について、図1を参照しつつ説明する。
隔膜60を通って酸素センサ1の内部に入った酸素は、正極50が有する触媒電極51で還元され、電解液110を介して負極100との間で次のような電気化学反応を起こす。
正極反応:O2+4H++4e-→2H2
負極反応:Sn+2H2O→SnO2+4H++4e-
X-+SnO2+4H+→YSn4-x+2H2
但し、Yはキレート剤(クエン酸)を示す。
負極100は、例えば、Cu、Fe、Ag、Ti、Al、Mg、Zn、NiおよびSnなどの金属やそれらの合金によって構成することができるが、酸性の電解液中で腐食し難く、かつEU(欧州連合)での特定有害物質の使用規制に関するRoHS指令(Restriction of the Use of Certain Hazardous Substances in Electrical and Electronic Equipment)にも対応可能であることから、SnまたはSn合金が好ましく用いられる。従って、上記の電気化学反応式は、負極がSnまたはSn合金で構成されている場合を表している。
この電気化学反応により、触媒電極51と負極100との間に酸素濃度に応じた電流が発生する。触媒電極51での正極反応によって生じた電流は、触媒電極51に圧接された正極集電体52で集電され、リード線120によって外部に導かれ、固定抵抗(補正抵抗)130および温度補償用サーミスタ140を通して負極100に流れる。これによって上記電流が電圧信号に変換され、酸素センサ出力として電圧が得られる。その後、得られた出力電圧が周知の方法で酸素濃度に変換され、酸素濃度として検知される。
ここで、キレート剤であるクエン酸(Y)は、電解液中でクエン酸イオンとなり、負極の構成金属をキレート化して電解液に溶解させる作用(以下、「キレート化作用」という。)を有する。しかし、負極由来の金属(例えばSn)が電解液中に溶解して飽和濃度に達し、上記金属の酸化物が生成して負極が不活性になると、酸素センサの寿命が低下する場合がある。
そこで、電解液に溶解できるスズの量を高めること、即ち電解液中のクエン酸(Y)のモル濃度を高めることにより、電解液中で負極から溶解したスズが飽和濃度に達するのを遅らせることで、酸素センサの寿命を向上させることにした。
本実施形態の酸素センサの電解液に用いるクエン酸は、金属イオンと配位結合をする官能基を複数有し、金属イオンと錯体を形成(錯化)して金属イオンを不活性化させるものであり、電解液を構成する溶媒中でクエン酸自身やその塩(本明細書では、クエン酸とクエン酸塩とを合わせてクエン酸類とする。)として電解液に含有させることができる。
本実施形態の酸素センサにおいては、少なくともクエン酸類を溶解した水溶液を電解液として使用することが好ましい。ここで、上記水溶液は、アルカリ金属を含有しており、クエン酸類の総含有量が、2.1mol/L以上であり、アルカリ金属の含有量が、クエン酸類の総含有量の0.1~1.6倍であり、pHが3.9~4.6であるよう調製されていることが好ましい。なお、電解液の溶媒は水である。このような電解液であれば、クエン酸イオンのモル濃度を高めることができ、酸素センサの寿命を向上させることが可能となる。
クエン酸のようなキレート剤は、一般に、キレート化作用を有し、かつ、pH緩衝能(少量の酸や塩基が添加されても、溶液のpHをほぼ一定に保つ能力)を有しているが、水溶液中でキレート化作用を生じる酸やその塩を単体で水に溶かした場合は、主にキレート剤の種類や濃度によって水溶液のpHが決定される。このため、用いるキレート剤の種類によっては、水溶液のpHが負極材料のガルバニ腐食を進行させる領域となってしまい、センサの電解液として使用し難くなる場合も生じる。
よって、優れたpH緩衝能を維持しながら、電解液のpHを好適な範囲に調整するために、キレート剤となる酸とその塩とを含有する混合溶液を用いることも提案されている。しかし、キレート剤としてクエン酸を用いる場合には、クエン酸とその塩(すなわちクエン酸類)の総含有量を多くし、電解液のpHを好適な範囲に調整しても、必ずしも寿命の向上にはつながらないこと、更に、アルカリ金属の塩、例えば有機酸のアルカリ金属塩、好ましくはクエン酸のアルカリ金属塩を溶解させるなどの方法で、クエン酸を含む電解液中にアルカリ金属(ほとんどは、電離してアルカリ金属イオンの状態で存在すると推測される。)を特定の含有量で存在させることが重要であることが明らかとなった。
即ち、理由は明確ではないものの、電解液に溶存するクエン酸類の総含有量を2.1mol/L以上にすると共に、電解液に含まれているアルカリ金属の含有量をクエン酸類の総含有量の0.1~1.6倍とし、更に電解液のpHが3.9~4.6の範囲に調整されている場合に、クエン酸(電離してイオン化したものを含む。)のキレート剤としての作用を最大限に活用することができ、酸素センサの長寿命化を実現することができることが判明した。
上記構成の電解液は、クエン酸類とアルカリ金属塩、例えば、クエン酸と有機酸のアルカリ金属塩、好ましくは、クエン酸とクエン酸のアルカリ金属塩とを溶媒である水に溶解して作製することができる。クエン酸のアルカリ金属塩は、クエン酸三アルカリ金属塩、クエン酸水素二アルカリ金属塩、クエン酸二水素アルカリ金属塩などを用いることができ、具体的には、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩などであり、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸水素二ナトリウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸水素二カリウム、クエン酸二水素カリウムなどを好ましく用いることができる。
例えば、クエン酸とクエン酸三カリウムを、それぞれ1.2mol/Lおよび1.0mol/Lの割合で水に溶解させた混合溶液は、溶存するクエン酸類の総含有量が2.2mol/Lであり、クエン酸三カリウムに由来するアルカリ金属(カリウム)の含有量が1.0×3=3.0mol/Lであり、即ちアルカリ金属の含有量がクエン酸類の総含有量の3.0/2.2=1.36倍であり、更に、25℃でのpHが4.23である電解液となる。
また、クエン酸以外の有機酸のアルカリ金属塩を用い、上記構成の電解液を作製することもできる。例えば、酢酸、ギ酸、シュウ酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、グルタル酸、アジピン酸、リンゴ酸、マロン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスコルビン酸などの、モノカルボン酸や多価カルボン酸のアルカリ金属塩(酸性塩を含む。)を用いてもよく、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、シュウ酸水素ナトリウム、シュウ酸水素カリウム、シュウ酸二ナトリウム、シュウ酸二カリウム、酒石酸水素ナトリウム、酒石酸水素カリウム、酒石酸アンモニウムカリウム、酒石酸二ナトリウム、酒石酸二カリウムなどが好ましく用いられる。なお、上記多価カルボン酸は、キレート剤としても作用するため、上記多価カルボン酸またはその塩を添加することにより、電解液中でスズが飽和濃度に達するのを遅らせ、酸素センサの寿命を向上させることが期待できる。
例えば、クエン酸と酢酸カリウムを、それぞれ2.5mol/Lおよび1.0mol/Lの割合で水に溶解させた混合溶液は、溶存するクエン酸類の総含有量が2.5mol/Lであり、酢酸カリウムに由来するアルカリ金属(カリウム)の含有量が1.0mol/Lであり、即ちアルカリ金属の含有量がクエン酸類の総含有量の1.0/2.5=0.4倍である電解液となる。
また、クエン酸と有機酸のアルカリ金属塩との混合溶液のpHをより適切に調整するために、電解液にpH調整剤を添加してもよい。pH調整剤としては、有機酸およびその塩、無機酸およびその塩、アンモニア、水酸化物などを例示することができる。上記クエン酸と酢酸カリウムの混合溶液の場合には、アンモニアを3.0mol/Lの含有量で添加することにより、25℃でのpHを4.32に調整することができる。
pH調整剤となる有機酸は、酢酸、ギ酸、シュウ酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、グルタル酸、アジピン酸、リンゴ酸、マロン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸などのモノカルボン酸や多価カルボン酸、あるいはアスコルビン酸などが例示され、有機酸の塩としては、酢酸アンモニウム、酒石酸二アンモニウム、酒石酸水素アンモニウムなど、上記有機酸のアンモニウム塩(酸性塩を含む。)の他、クエン酸水素二アンモニウム、クエン酸三アンモニウムなど、アルカリ金属塩以外のクエン酸の塩を用いることもできる。なお、上記クエン酸の塩を添加する場合には、その含有量はクエン酸類の総含有量に加算される。
pH調整剤となる無機酸は、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、炭酸などが例示され、無機酸の塩としては、塩化アンモニウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸水素カリウム、硫酸アンモニウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムなど、上記無機酸のアルカリ金属塩やアンモニウム塩(それぞれ酸性塩を含む。)などを例示することができる。なお、上記無機酸のアルカリ金属塩を添加する場合には、その化合物に含まれるアルカリ金属は、「電解液に含まれているアルカリ金属の含有量」として加算される。
なお、アンモニアは揮発性を有するため、揮発による電解液の組成変化を考慮すると、アンモニア水やアンモニウム塩に由来するものを含めた電解液中のアンモニアの総含有量を一定以下とすることが好ましく、電解液中でのクエン酸類の総含有量に対するアンモニアの総含有量のモル比を、1.1以下とすることが好ましく、0.5以下とすることがより好ましく、電解液にはアンモニアが含まれていなくてもよい。
pH調整剤となる水酸化物は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物を例示することができる。なお、上記アルカリ金属の水酸化物を添加する場合には、その化合物に含まれるアルカリ金属は、「電解液に含まれているアルカリ金属の含有量」として加算される。
本実施形態において用いる電解液は、クエン酸類およびアルカリ金属塩の種類やその量比を適宜選択し、必要に応じてpH調整剤を添加することにより作製することができる。
本実施形態において用いる電解液は、アルカリ金属の含有量をクエン酸類の総含有量の0.1~1.6倍とし、pHが3.9~4.6の範囲に調整されており、上記の条件においては、クエン酸類の総含有量が多くなるほど、電解液のキレート化作用を長時間維持することができる。従って、酸素センサの長寿命化のためには、電解液中のクエン酸類の総含有量は、2.4mol/L以上とすることが好ましく、2.7mol/L以上とすることがより好ましい。
また、理由は明確ではないものの、クエン酸類の総含有量やpHが同じであっても、その中のクエン酸の含有量が多い方が電解液のキレート化作用を長時間維持することができるので、電解液中でのクエン酸の含有量は、1.1mol/L以上であることが好ましく、1.7mol/L以上であることがより好ましく、2.0mol/L以上であることが特に好ましい。
同様に、理由は明確ではないものの、電解液中のアルカリ金属の含有量がクエン酸類の総含有量の0.1倍より少ない場合、および1.6倍を超えた場合、一定以上の長寿命化ができなくなる。電解液中のアルカリ金属の含有量は、電解液のイオン伝導度を高める点から、クエン酸類の総含有量の0.45倍以上とすることが好ましい。なお、電解液中のアルカリ金属の含有量がクエン酸類の総含有量の0.1倍より少ない場合、pHが上記の範囲において電解液のイオン伝導度を高くすることが難しくなり、酸素センサの動作が不安定になることがある。
また、本実施形態の酸素センサは、上記電解液の特性を生かすために、負極の反応物質であるスズの質量に対する電解液の液量が一定以上となるよう構成されることが好ましい。即ち、酸素センサ内部の電解液量をx(ml)とし、負極に含まれるスズの含有量をy(g)としたときに、x/yが0.3(ml/g)以上となるよう電解液量を調整することが好ましい。x/yが0.3(ml/g)未満となる場合には、酸素センサの使用の際の電解液のpH変化が早くなり、上記電解液の特性が生かされず、酸素センサの寿命向上効果が不十分となる場合がある。
酸素センサの使用時の電解液のpH変化を抑制するために、x/yの値は、0.7(ml/g)以上とすることが好ましく、1(ml/g)以上とすることがより好ましい。一方、電解液の収納容積を減らし、酸素センサの容積をできるだけ小さくするために、x/yの値は、10(ml/g)以下とすることが好ましく、6.5(ml/g)以下とすることがより好ましく、3(ml/g)以下とすることが特に好ましい。
本実施形態の酸素センサの負極には、SnまたはSnの合金が用いられるが、電解液との反応を抑制し水素の発生を防ぐため、Sn合金を用いることが好ましい。Sn合金としては、Sn-Ag合金、Sn-Cu合金、Sn-Ag-Cu合金、Sn-Sb合金などが例示されるが、Al、Bi、Fe、Mg、Na、Zn、Ca、Ge、In、Ni、Coなどの金属元素を含有する合金であってもよい。
また、SnまたはSn合金は、一定量の不純物を含有していてもよいが、RoHS指令に適合させるため、Pbの含有量は1000ppm未満であることが望ましい。
Sn合金としては、具体的には、一般的な鉛フリーはんだ材料(Sn-3.0Ag-0.5Cu、Sn-3.5Ag、Sn-3.5Ag-0.75Cu、Sn-3.8Ag-0.7Cu、Sn-3.9Ag-0.6Cu、Sn-4.0Ag-0.5Cu、Sn-1.0Ag-0.5Cu、Sn-1.0Ag-0.7Cu、Sn-0.3Ag-0.7Cu、Sn-0.75Cu、Sn-0.7Cu-Ni-P-Ge、Sn-0.6Cu-Ni-P-GeSn-1.0Ag-0.7Cu-Bi-In、Sn-0.3Ag-0.7Cu-0.5Bi-Ni、Sn-3.0Ag-3.0Bi-3.0In、Sn-3.9Ag-0.6Cu-3.0Sb、Sn-3.5Ag-0.5Bi-8.0In、Sn-5.0Sb、Sn-10Sb、Sn-0.5Ag-6.0Cu、Sn-5.0Cu-0.15Ni、Sn-0.5Ag-4.0Cu、Sn-2.3Ag-Ni-Co、Sn-2Ag-Cu-Ni、Sn-3Ag-3Bi-0.8Cu-Ni、Sn-3.0Ag-0.5Cu-Ni、Sn-0.3Ag-2.0Cu-Ni、Sn-0.3Ag-0.7Cu-Ni、Sn-58Bi、Sn-57Bi-1.0Agなど)や、Sn-Sb合金を好ましく用いることができる。
本実施形態の酸素センサの正極には、例えば、図1に示すように、触媒電極と正極集電体とで構成されたものが使用される。触媒電極の構成材料としては、正極上の電気化学的な酸素の還元によって電流が生じ得るものであれば特に限定されないが、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、チタン(Ti)などの、酸化還元に活性な触媒が好適に用いられる。
また、酸素センサの正極の外面には、触媒電極に到達する酸素が多くなりすぎないように、酸素の侵入を制御するための前述の隔膜が配置されている。隔膜としては、酸素を選択的に透過させると共に、酸素ガスの透過量を制限できるものが好ましい。隔膜の材質については特に制限はないが、通常、四フッ化エチレン樹脂、四フッ化エチレン-六フッ化プロピレンコポリマーなどのフッ素樹脂;ポリエチレンなどのポリオレフィン;などが使用される。隔膜には、多孔膜、無孔膜、更には、キャピラリー式と呼ばれる毛細管が形成された孔を有する膜を使用することができる。
隔膜の厚さは、前述のとおり、8~40μmが好ましい。
更に、上記隔膜を保護するために、隔膜上に多孔性の樹脂膜からなる保護膜を配置することが好ましい。保護膜は、隔膜へのゴミやチリ、水などの付着を防止でき、空気(酸素を含む。)を透過する機能を有していれば、その材質や厚みについては特に制限はないが、通常、四フッ化エチレン樹脂などのフッ素樹脂が使用される。
図1に示す酸素センサ1の外装体であるホルダー20は、例えばABS樹脂で構成することができる。また、ホルダー20の開口部に配されるホルダー蓋10(第1ホルダー蓋11および第2ホルダー蓋12)は、例えば、ABS樹脂、ポリプロピレン、ポリカーボネート、フッ素樹脂などで構成することができる。更に、ホルダー20内において、正極50を保持するための正極集電体保持部70は、例えばABS樹脂で構成することができる。
更に、ホルダー20とホルダー蓋10(第1ホルダー蓋11)との間に介在させるO-リング30は、ホルダー20と第2ホルダー蓋12とのネジ締めによって押圧されて変形することで、酸素センサ1の気密性および液密性を保持できるようになっている。O-リングの材質については特に制限はないが、通常、ニトリルゴム、シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ素樹脂などが使用される。
これまで、本実施形態のガルバニ電池式酸素センサを例にとって説明してきたが、本願の酸素センサは上記実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内で種々の変更が可能である。また、図1に示す酸素センサについても、酸素センサとしての機能および前述した酸素供給経路を備えていれば、各種設計変更が可能である。
以下、実施例に基づいて本願の酸素センサについて説明する。但し、下記実施例は、本願の酸素センサを制限するものではない。
(実施例1)
<電解液の調製>
クエン酸およびクエン酸三カリウムおよびアンモニアを水に溶解させて電解液を調製した。電解液中のモル濃度は、クエン酸:2.5mol/L、クエン酸三カリウム:0.5mol/L、アンモニア:3.0mol/Lとした。この電解液に溶存するクエン酸類の総含有量は3.0mol/Lであり、アルカリ金属(カリウム)の含有量:1.5mol/Lは、クエン酸類の総含有量の0.5倍であり、電解液のpHは25℃で4.30であった。また、電解液中でのクエン酸類の総含有量に対するアンモニアの総含有量のモル比は、1であった。
<酸素センサの組み立て>
上記電解液を4.3ml用いて、図1に示す構成のガルバニ電池式酸素センサを組み立てた。ホルダー蓋10(第1ホルダー蓋11および第2ホルダー蓋12)、ホルダー20および正極集電体保持部70は、ABS樹脂で形成した。また、保護膜40には多孔性の四フッ化エチレン樹脂製シートを使用し、隔膜60には、厚みが12μmの四フッ化エチレン-六フッ化プロピレンコポリマー膜を使用した。
正極50の触媒電極51は金で構成し、正極集電体52およびリード線120にはチタン製のものを使用して、正極集電体52とリード線120は溶接して一体化した。また、負極100は、3.7gのSn-Sb合金(Sb含有量が5質量%であり、Snの質量は3.52g)によって構成し、負極にもリード線120を取り付けた。
また、25℃における抵抗値が500Ωである温度補償用サーミスタ140と、39Ωの固定抵抗(補正抵抗)130とを直列に接続して抵抗素子(25℃における合成抵抗:539Ω)を構成し、正極と負極のそれぞれのリード線120、120に上記抵抗素子を接続した。
得られた酸素センサ1においては、第1ホルダー蓋11、O-リング30、四フッ化エチレン樹脂製シート製の保護膜40、四フッ化エチレン-六フッ化プロピレンコポリマー膜製の隔膜60、触媒電極51、および正極集電体52は、ホルダー20と第2ホルダー蓋12とのネジ締めによって押圧され良好な接触状態が保持されていた。第1ホルダー蓋11は押圧端板として機能し、また、O-リング30によって気密性および液密性が確保されていた。また、収容された電解液量(4.3ml)と負極に含まれるSnの質量(3.52g)の比の値は、1.22(ml/g)であった。
(実施例2)
隔膜を、厚みが25μmの四フッ化エチレン-六フッ化プロピレンコポリマー膜に変更した以外は、実施例1と同様にしてガルバニ電池式酸素センサを組み立てた。
(実施例3)
抵抗素子を、25℃における抵抗値が900Ωである温度補償用のサーミスタと、73Ωの固定抵抗(補正抵抗)とを直列に接続して構成した抵抗素子(25℃における合成抵抗:973Ω)に変更した以外は、実施例2と同様にしてガルバニ電池式酸素センサを組み立てた。
(比較例1)
抵抗素子を、25℃における抵抗値が1kΩである温度補償用のサーミスタと、82Ωの固定抵抗(補正抵抗)とを直列に接続して構成した抵抗素子(25℃における合成抵抗:1082Ω)に変更した以外は、実施例1と同様にしてガルバニ電池式酸素センサを組み立てた。
(比較例2)
隔膜を、厚みが50μmの四フッ化エチレン-六フッ化プロピレンコポリマー膜に変更し、抵抗素子を、25℃における抵抗値が10kΩである温度補償用のサーミスタと、220Ωの固定抵抗(補正抵抗)とを直列に接続して構成した抵抗素子(25℃における合成抵抗:10220Ω)に変更した以外は、実施例1と同様にしてガルバニ電池式酸素センサを組み立てた。
実施例および比較例の各酸素センサを25℃で1気圧、相対湿度50%の大気中に静置し、それぞれの抵抗素子の両端の電圧を測定することにより、各抵抗素子を流れる電流を調べた。その結果を表1に示す。
次に、実施例および比較例の各酸素センサについて、温度40℃の雰囲気中で、100%酸素ガスを通気して加速的寿命試験を行った。40℃では、室温時の約2倍の速度で電気化学反応が進行する。また、100%酸素ガス通気では、大気中での約5倍の速度で電気化学反応が進行する。このため、温度40℃中で100%酸素ガス通気では、大気中で室温放置時の約10倍のスピードで寿命判断が可能である。本試験では、それぞれの酸素センサの出力電圧を測定し、初期の電圧を100%として出力電圧の変化(維持率)を図2に示した。図2において、横軸は、測定時間を10倍して換算した測定期間として示した。
100%に近い維持率(例えば、90%以上の維持率)を維持することのできる時間が長いほど、長時間にわたり高い測定精度を維持することができると判断することができる。図2に示す結果から、本願の実施例1~3のガルバニ電池式酸素センサは、比較例1および2の酸素センサと比較して、高い測定精度を長期間維持することが可能であることが分かる。
本願の電気化学式酸素センサは、従来から知られている電気化学式酸素センサと同じ用途に適用することができる。
1 ガルバニ電池式酸素センサ
10 ホルダー蓋
11 第1ホルダー蓋(中蓋)
12 第2ホルダー蓋(外蓋)
20 ホルダー
30 O-リング
40 保護膜
50 正極
51 触媒電極
52 正極集電体
60 隔膜
70 正極集電体保持部
80 電解液供給用の穿孔
90 リード線用の穿孔
100 負極
110 電解液
120 リード線
130 固定抵抗(補正抵抗)
140 温度補償用サーミスタ
150 貫通孔

Claims (9)

  1. 正極、負極および電解液を含む電気化学式酸素センサであって、
    前記正極への酸素の供給量を制限する隔膜を備え、
    前記正極と前記負極とを接続する抵抗素子を備え、
    25℃で1気圧、相対湿度50%の大気中において、前記抵抗素子を流れる電流値が7μA以上25μA以下であり、
    前記抵抗素子の抵抗値が200Ω以上1050Ω以下に設定された電気化学式酸素センサ。
  2. 前記抵抗素子は、固定抵抗とサーミスタ素子とを直列に接続して構成されている請求項1に記載の電気化学式酸素センサ。
  3. 前記隔膜の厚さが、8μm以上である請求項1または2に記載の電気化学式酸素センサ。
  4. 前記隔膜が、フッ素樹脂で構成されている請求項1~3のいずれかに記載の電気化学式酸素センサ。
  5. 前記電解液が、キレート剤を含有する水溶液である請求項1~4のいずれかに記載の電気化学式酸素センサ。
  6. 前記電解液が、クエン酸又はその塩を含有する請求項1~4のいずれかに記載の電気化学式酸素センサ。
  7. 前記電解液中でのクエン酸の含有量が、2.0mol/L以上である請求項6に記載の電気化学式酸素センサ。
  8. 前記電解液の液量をx(ml)とし、前記負極に含まれるスズの含有量をy(g)としたときに、x/y≧0.3(ml/g)である請求項1~7のいずれかに記載の電気化学式酸素センサ。
  9. 前記負極が、SnまたはSnの合金を含有する請求項1~8のいずれかに記載の電気化学式酸素センサ。
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