以下、この発明に係る銅合金材の構成について説明し、次いで、銅合金材の製造方法について図1に示す主工程の流れに沿って説明する。なお、この発明に係る銅合金材および銅合金材の製造方法は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれると解することが相当である。なお、元素の含有率(数値)や材料の化学成分(数値)は、特段の断りがない限り、質量%で記載する。
この発明に係る銅合金材は、含有必須元素として、1.6%以上2.6%以下のFe(鉄)と、0.01%以上0.3%以下のP(燐)と、0.01%以上0.3%以下のZn(亜鉛)と、0.3%以上0.8%以下(好ましくは、0.3%を超えて0.8%以下)のSn(錫)とを含有し、残部がCu(銅)および不純物元素から成り、20℃の温度環境下において、620MPa以上(好ましくは625MPa以上、より好ましくは630MPa以上)の引張強さを有するとともに、40.0%IACS以上(好ましくは45.0%IACS以上)の導電率を有する。なお、この発明に係る銅合金材を構成する銅合金は、合金組成の観点からいえば、Cu-Fe-P-Zn-Sn系の銅合金である。
この発明に係る銅合金材は、好ましくは、0.01%以上0.20%以下のPを含有する。
この発明に係る銅合金材は、好ましくは、含有必須元素として、前記Fe(1.6%以上2.6%以下)と、前記P(0.01%以上0.3%以下、好ましくは0.01%以上0.20%以下)と、前記Zn(0.01%以上0.3%以下)と、前記Sn(0.3%以上0.8%以下、好ましくは0.3%を超えて0.8%以下)と、さらに、0.002%以上0.025%以下のMnとを含有し、残部がCuおよび不純物元素から成り、950℃の温度環境下において、20%を超える破断伸びを有する。
この発明に係る銅合金材は、好ましくは、(Mn含有率+不純物元素の総含有率)/(Fe含有率+P含有率+Sn含有率)×100で求まる値(以下、「MI値)という。)が、1.1以下である。
この発明に係る銅合金材を構成する銅合金に含有される元素の限定理由は、以下の通りである。
<Fe(鉄)>
この発明に係る銅合金材は、含有必須元素として、1.6%以上2.6%以下のFeを含有する。銅合金材において、Feは、銅合金のCuを主とする母相中に固溶する。また、一部のFeは、FeまたはFeとPを含む化合物として、母相中に分散析出する。こうしたFeの作用は、銅合金材の機械的強さや耐熱性の向上に寄与する。それゆえ、適量のFeを含有する銅合金材は、導電性を相応に維持しながらより高い機械的強さや耐熱性を有することができる。
なお、銅合金材に含有するFeが過度に少ない(1.6%未満)場合、上記したFeの作用効果が十分に発揮されない。また、銅合金材に含有するFeが過度に多い(2.6%超)場合、後述する銅合金鋳造材にFeの過大な晶出物が形成され、表面清浄性の劣化や加工割れの原因になることがある。この観点で、この発明に係る銅合金材は、Feを1.6%以上2.6%以下とし、好ましくは、よりバランスの良い特性を得るために2.1%以上2.4%以下とする。また、この発明に係る銅合金材は、Feを1.6%以上2.6%以下(好ましくは、2.1%以上2.4%以下)とし、後述するようにSn含有率を考慮すれば、引張強さと導電率のバランスが好ましいものとなる。この場合、たとえば、630MPa以上の引張強さと45.0%IACS以上の導電率を有する銅合金材となる。
<P(燐)>
この発明に係る銅合金材は、含有必須元素として、0.01%以上0.3%以下のPを含有する。銅合金材において、Pは、後述する溶解鋳造工程で溶融金属(溶湯)に存在する余分な酸素を取り除く脱酸剤として作用する。また、一部のPはFeとPを含む化合物を形成し、銅合金のCuを主とする母相中に分散析出する。こうしたPの作用は、銅合金材の機械的強さや耐熱性の向上に寄与する。それゆえ、適量のPを含有する銅合金材は、導電性を相応に維持しながらより高い機械的強さや耐熱性を有することができる。
なお、銅合金材に含有するPが過度に少ない(0.01%未満)場合、上記したPの作用効果が十分に発揮されない。また、銅合金材に含有するPが過度に多い(0.3%超)場合、後述する熱間圧延工程での熱間加工性の低下や銅合金材の導電率の低下の原因になることがある。この観点で、この発明に係る銅合金材は、Pを0.01%以上0.3%以下、より好ましくは、曲げ加工性の向上のために0.01%以上0.20%以下とする。
<Zn(亜鉛)>
この発明に係る銅合金材は、含有必須元素として、0.01%以上0.3%以下のZnを含有する。銅合金材において、Znは、銅合金材の表面の半田に対する濡れ性を向上させるとともに、銅合金材の表面に設けた半田めっき層の耐候性を向上させる。こうしたZnの作用は、上記したリードフレームなどのように銅合金材の表面に半田めっき層を設ける場合には特に必要とされる。それゆえ、適量のZnを含有する銅合金材は、実用上、利用可能性が高い。
なお、銅合金材に含有するZnが過度に少ない(0.01%未満)場合、上記したZnの作用効果が十分に発揮されない。また、銅合金材に含有するZnが過度に多い(0.3%超)場合、上記したZnの作用効果が飽和するとともに、銅合金材の導電率の低下の原因になることがある。この観点で、この発明に係る銅合金材は、Znを0.01%以上0.3%以下とし、好ましくは、よりバランスの良い特性を得るために0.05%以上0.2%以下とする。
<Sn(錫)>
この発明に係る銅合金材は、含有必須元素として、0.3%以上0.8%以下(好ましくは、0.3%を超えて0.8%以下)のSnを含有する。銅合金材において、Snは、銅合金のCuを主とする母相中に固溶し、銅合金材の機械的強さや耐熱性の更なる向上に寄与する。そのため、適量のSnを含有する銅合金材は、適量のSnを含有しない銅合金材と比べて、導電性を相応に維持しながらより高い機械的強さや耐熱性を有することができる。このSnの作用を利用し、Cu-Fe-Zn-P系の銅合金から成る銅合金材の機械的強さをCu-Ni-Si系の銅合金から成る銅合金材と略同等の水準に引き上げることができる。なお、このSnは、上記したC1940やC7025には添加されない。また、Cu-Fe-Zn-P系の銅合金から成る銅合金材が更に適量のSnを含有させても、上記した残留スマットの問題は発生しない。この点は、後述する表1などを参照されたい。
なお、銅合金材に含有するSnが過度に少ない(0.3%未満)場合、上記したSnの作用効果が十分に発揮されない。また、銅合金材に含有するSnが過度に多い(0.8%超)場合、銅合金材の機械的強さはより向上されるが、銅合金材の導電率が大きく低下する原因になる。この観点で、この発明に係る銅合金材は、Snを0.3%以上0.8%以下とし、好ましくは625MPa以上の引張強さを安定的に得るために0.3%を超えて0.8%以下とする。この点は、後述するSnの影響の項も参照されたい。また、この発明に係る銅合金材は、Snを0.5%以上0.7%以下とし、Fe含有率を上記のように考慮すれば、引張強さと導電率のバランスが好ましいものとなる。この場合、たとえば、630MPa以上の引張強さと45.0%IACS以上の導電率を有する銅合金材となる。
<Mn(マンガン)>
この発明に係る銅合金材は、含有必須元素として、FeとPとZnとSnとを上記範囲で含有し、好ましくは、さらに、0.002%以上0.025%以下のMnを含有する。この発明に係る銅合金材は、上記したように、Cu-Fe-P-Zn-Sn系の銅合金からなる銅合金材である。この銅合金材に含有するFeとPは、含有必須元素である一方、上記したように加工割れや熱間加工性の低下に係る元素である。また、この銅合金材は、一般的に使用される製造原料(銅材料)に由来して、不純物元素のS(硫黄)を含有する可能性がある。この銅合金材は、Sの固溶に起因して、圧延加工性が低下し、特に熱間圧延の段階での割れが発生しやすくなる。。そこで、この銅合金材では、好ましくは、含有必須元素として、さらにMnを含有し、積極的にMnSを生成させることより、固溶状態になるSを低減する。
この銅合金材の一般的な製造原料に含有するSは、実用上、0.001%~0.005%程度と考えることができる。MnSの組成比(Mn:S)は、原子比で1:1、質量比で63:37である。したがって、Sの全量がMnと反応すると仮定すれば、質量比で、Sの約1.7倍のMnが必要になる。たとえば、質量%で、0.001%以上0.005%以下のSを含有する銅合金材は、計算上、0.0017%以上0.0085%以下のMnを含有する必要になる。しかし、実際に、Mnの全量がSと反応してMnSを生成するとは限らない。そのため、S量に対して十分に余裕のあるMn量とし、Sに対して2倍~5倍(質量比)のMnを含有させることが実用的である。この観点から、この発明に係る銅合金材では、0.001%以上0.005%以下のSの含有が予測される場合、好ましくはS量に対応させて、Mnを0.002%以上0.025%以下の範囲で設定する。また、Sが0.002%以下であれば、好ましくはS量に対応させて、Mnを0.010%以下の範囲で設定する。これにより、圧延加工性の良い、特に熱間圧延の段階で割れにくい、銅合金材となる。
<Cu(銅)>
この発明に係る銅合金材は、上記した含有必須元素のFeとPとZnとSnを除く残部が、Cuおよび不純物元素から成る。そして、さらにMnを含む場合、この発明に係る銅合金材は、上記した含有必須元素のFeとPとZnとSnとMnを除く残部が、Cuおよび不純物元素から成る。この銅合金材において、Cuは、上記した含有必須元素の含有率に応じて、概ね96%以上98%以下の範囲で含有される。この銅合金材において、Cuと上記した含有必須元素を除く残部は、不純物元素である。銅合金材において、Cu(銅)は、銅合金の母相を構成する主元素であり、最も多く含有されている。銅から成る銅材や銅合金から成る銅合金材は優れた導電率を有し、電気・電子部品の材料として多用されている。たとえば、JISに規格されるC1020やC1100などの無酸素銅から成る銅材は、100%IACS程度の導電率と195MPa(質別O)から315MPa(質別H)程度の引張強さを有する。また、C1940から成る銅合金材は、60%IACS以上100%IACS未満の導電率と275MPa(質別O3)から590MPa(質別ESH)程度の引張強さを有する。また、C7025から成る銅合金材は、45.0%IACS程度の導電率と650MPa程度(質別1/2・H)の引張強さを有する。
<不純物元素>
この発明に係る銅合金材は、不純物元素を含む。この不純物元素は、銅合金材の製造過程で不可避的に混入し、意図的に添加しない。この不純物元素は、使用する製造原料や製造設備などにも拠るが、たとえば、Ag(銀)、Pb(鉛)、Ni(ニッケル)およびS(硫黄)などの元素が挙げられる。これらの不純物元素が過大に混入していると、銅合金材の諸特性(引張強さ、導電率、曲げ加工性など)を劣化させるおそれがある。また、この銅合金材において、上記したように、固溶状態となったSは圧延加工性の低下、特に熱間圧延の段階での割れの原因になる。この観点で、銅合金材の不純物元素の含有率は可能な限り小さく抑制し、たとえば、合計で0.05%以下、好ましくは0.03%以下、より好ましくは0.01%以下に抑制する。
また、この発明に係る銅合金材において、上記したように、FeおよびPは、加工割れや熱間加工性の低下に係る。また、Snは、機械的強さや耐熱性に係る。また、Ag、Pb、NiおよびSなどの不純物元素は、引張強さや曲げ加工性の劣化に係る。また、さらにMnを含有する場合、MnとSとの関係は、圧延加工性の低下や熱間圧延の段階での割れに係る。上記したFe、P、Sn、MnおよびSなどの不純物元素の影響を総合的に考慮し、この発明に係る銅合金材は、Mnを含有することが好ましい。その場合、好ましくは、(Mn含有率+不純物元素の総含有率)/(Fe含有率+P含有率+Sn含有率)×100で求まる値(以下、「MI値)という。)を考慮する。そして、MI値を、たとえば1.1以下(>0)とし、好ましくは1.0以下(>0)とする。これにより、この発明に係る銅合金材の圧延加工性(特に、熱間加工性)などを十分に高めることができる。
この発明に係る銅合金材は、含有必須元素として、FeとPとZnとSnとを上記した範囲で含有し、残部がCuおよび不純物元素から成る。これにより、この銅合金材は、20℃の温度環境下において、620MPa以上(好ましくは625MPa以上、より好ましくは630MPa以上)の引張強さを有するとともに40.0%IACS以上(好ましくは、45.0%IACS以上)の導電率を有し、後述するように残留スマットの発生が抑制される。この銅合金材は、上記した引張強さおよび導電率を有し、残留スマットの発生が抑制されるため、実用上、C1940などのCu-Fe-Zn-P系の銅合金から成る銅合金材や、より高強度のC7025から成る銅合金材の代替材として、十分に利用可能と考えられる。
また、この発明に係る銅合金材は、含有必須元素として、FeとPとZnとSnとMnとを上記した範囲で含有し、残部がCuおよび不純物元素から成る。これにより、この銅合金材は、950℃の温度環境下において、20%を超える破断伸びを有し、圧延加工性が向上し、特に熱間圧延の段階で割れにくくなる。この銅合金材は、上記した引張強さ、導電率および破断伸びを有し、残留スマットの発生が抑制されるため、実用上、C1940などのCu-Fe-Zn-P系の銅合金から成る銅合金材や、より高強度のC7025から成る銅合金材の代替材として、十分に利用可能と考えられる。
この発明に係る銅合金材の引張強さは、主に、FeまたはFeとPを含む化合物の粒子の分散析出による析出強化と冷間圧延による加工硬化に依存するものである。この析出強化と加工硬化による銅合金組織の強化機構は、製造条件の特定によって制御可能である。析出強化の効果は、熱処理の保持条件を特定範囲に制御し、銅合金組織の変形の障害として作用可能な適度な大きさの粒子を均一的に分散析出させることにより得ることができる。加工硬化の効果は、冷間圧延の加工条件を特定範囲に制御し、銅合金組織の変形の障害として作用可能な転位を含む結晶の適度な蓄積により得ることができる。また、この発明に係る銅合金材の導電率は、実質的にCuに依存しているが、上記した粒子の析出により母相のCu純度が高まる作用も利用している。
Cu-Fe-P-Zn-Sn系の銅合金からなる銅合金材が、20℃の温度環境下において、620MPa以上(好ましくは625MPa以上、より好ましくは630MPa以上)の引張強さを有するとともに、40.0%IACS以上(好ましくは、45.0%IACS以上)の導電率を有するためには、その製造方法が重要である。すなわち、この発明に係る銅合金材の製造方法は、次の(1)から(8)の工程を有し、この(1)から(8)の工程をこの順に実施する製造方法である。
(1)含有必須元素として、1.6%以上2.6%以下のFeと、0.01%以上0.3%以下(好ましくは、0.01%以上0.20%以下)のPと、0.01%以上0.3%以下のZnと、0.3%以上0.8%以下のSnとを含有し、残部がCuおよび不純物元素から成る、銅合金鋳造材を作製する溶解鋳造工程
(2)銅合金鋳造材を用いて熱間圧延を行って熱間圧延材を作製する熱間圧延工程
(3)熱間圧延材を用いて冷間圧延を行って第1冷間圧延材を作製する第1冷間圧延工程(4)第1冷間圧延材に対して500℃以上600℃以下の温度で4h以下の加熱保持を行って第1熱処理材を作製する第1熱処理工程
(5)第1熱処理材を用いて20%以上90%以下の圧延加工度で冷間圧延を行って第2冷間圧延材を作製する第2冷間圧延工程
(6)第2冷間圧延材に対して380℃以上480℃以下の温度で1h以上12h以下の加熱保持を行って第2熱処理材を作製する第2熱処理工程
(7)第2熱処理材を用いて60%以上80%以下の圧延加工度で冷間圧延を行って第3冷間圧延材を作製する第3冷間圧延工程
(8)第3冷間圧延材に対して250℃以上380℃以上の温度で4h以下の加熱保持を行って銅合金材を作製する第3熱処理工程
上記した(1)から(8)の主工程の流れを有する製造方法によれば、1.6%以上2.6%以下のFeと、0.01%以上0.3%以下(好ましくは、0.01%以上0.20%以下)のPと、0.01%以上0.3%以下のZnと、0.3%以上0.8%以下のSnとを含有し、残部がCuおよび不純物元素から成り、20℃の温度環境下において、620MPa以上の引張強さを有するとともに、40.0%IACS以上の導電率を有する、銅合金材を作製することができる。
また、上記した(1)の工程において、好ましくは、含有必須元素として、FeとPとZnとSnと、さらに、0.002%以上0.025%以下のMnとを含有し、残部がCuおよび不純物元素から成る、銅合金鋳造材を作製する。また、その場合、上記した(1)の工程において、MI値を、たとえば1.1以下(>0)とし、好ましくは1.0以下(>0)に調製した銅合金鋳造材を作製する。その後、上記した(2)~(8)の工程を、この順に実施する。この製造方法によれば、FeとPとZnとSnとを上記した範囲で含有し、さらに、0.002%以上0.025%以下のMnを含有し、残部がCuおよび不純物元素から成る、好ましい銅合金材を作製することができる。この好ましい銅合金材は、上記した20℃の温度環境下において、620MPa以上の引張強さを有するとともに、40.0%IACS以上の導電率を有し、さらに、950℃の温度環境下において、20%を超える破断伸びを有することができる。
以下、図1に示す主工程の流れに沿って、この発明に係る銅合金材の製造方法について説明する。なお、この発明に係る銅合金材の製造方法では、図1に示す主工程の流れにおいて、必要に応じて、第1冷間圧延工程と第1熱処理工程とを組み合わせて繰り返す工程にすることも、第1熱処理工程と第2冷間圧延工程とを組み合わせて繰り返す工程にすることも可能である。
(1)溶解鋳造工程
溶解鋳造工程では、FeとPとZnとSnとを添加した銅合金鋳造材を作製する。具体的には、第3熱処理工程まで経て得られる銅合金材が、質量%で、1.6%以上2.6%以下のFeと、0.01%以上0.3%以下のPと、0.01%以上0.3%以下のZnと、0.3%以上0.8%以下(好ましくは、0.3%を超えて0.8%以下)のSnとを含有し、残部がCuおよび不純物元素から成るように調製し、銅合金鋳造材を作製する。なお、この銅合金材の一般的な製造原料のS含有率は、たとえば、0.001%~0.005%程度である。そのため、Sの影響を抑止または緩和するために、この銅合金材は、さらにMnを含有することが好ましい。その場合、Mn含有率を0.002%以上0.025%以下に調製し、好ましくはMI値も調整する。MI値は、たとえば1.1以下(>0)、好ましくは1.0以下(>0)となるように調製する。
(2)熱間圧延工程
熱間圧延工程では、上記溶解鋳造工程で作製された銅合金鋳造材を用いて、熱間圧延を行って熱間圧延材を作製する。加熱保持温度や圧延加工度などの熱間圧延条件は、一般的な条件から任意に選定すればよい。一般に、銅材や銅合金材の場合、その組成に応じて、700℃~1000℃の幅広い温度下で熱間圧延が行われる。そして、添加元素の総含有率が比較的大きい銅合金材の場合、より高温側の900℃~1000℃の温度下で熱間圧延が行われる。この観点で、この発明に係る銅合金材では、その高温特性の評価を900℃~1000℃の中央付近の温度(約950℃)下で行っている。
(3)第1冷間圧延工程
第1冷間圧延工程では、上記熱間圧延工程で作製された熱間圧延材を用いて、冷間圧延を行って第1冷間圧延材を作製する。なお、圧延加工度などの冷間圧延条件は、任意でよい。
(4)第1熱処理工程
第1熱処理工程では、上記第1冷間圧延工程で作製された第1冷間圧延材に対して、500℃以上600℃以下の温度で4h以下の加熱保持を行って第1熱処理材を作製する。この第1熱処理工程は、最初の圧延である第1冷間圧延後に行う熱処理であって、冷間圧延で銅合金組織に蓄積された歪を十分に開放するために行う熱処理である。従来の一般的な銅合金材の製造方法では、この段階の熱処理を比較的高温(たとえば700℃以上900℃以下)の加熱保持を行う。これに対して、この発明の第1熱処理工程では、比較的低温の500℃以上600℃以下の温度で4h以下の加熱保持を行う。この比較的低温の加熱保持により、銅合金組織の歪を適度に解放する作用だけではなく、銅合金組織中にFeまたはFeとPを含む化合物の粒子を適度に析出させる作用を得る。この段階で銅合金組織中に適度に分散析出された上記粒子は、最終的に得られる銅合金材の引張強さをより向上させるように作用する。
なお、第1熱処理工程における加熱保持の温度が過度に低い(500℃未満)場合、銅合金組織の歪の解放が不十分になるだけでなく、銅合金組織中への上記粒子の析出が不十分になる。また、第1熱処理工程における加熱保持の温度が過度に高い(600℃超)場合または加熱保持の時間が過度に長い(4h超)場合、銅合金組織の歪の解放は十分になされるが、銅合金組織中に析出した上記粒子が過度に粗大化し、銅合金材の引張強さの向上を妨げるおそれがある。また、第1熱処理工程における加熱保持の温度が上記した比較的高温(たとえば700℃以上900℃以下)の場合、上記粒子の析出そのものが起こらないおそれがある。この観点で、第1熱処理工程では、第1冷間圧延材に対して500℃以上600℃以下の温度で4h以下の加熱保持を行うものとし、好ましくは、歪の解放と上記粒子の析出のバランスの良い銅合金組織を得るために550℃以上600℃以下の温度で4h以下(好ましくは2h以下)の加熱保持を行うものとする。
(5)第2冷間圧延工程
第2冷間圧延工程では、上記第1熱処理工程で作製された第1熱処理材を用いて、20%以上90%以下の圧延加工度で冷間圧延を行って第2冷間圧延材を作製する。この第2冷間圧延工程は、第1熱処理工程で作製された第1熱処理材の銅合金組織に転位を導入して適度に蓄積させるとともに、銅合金組織を適度に加工硬化させる工程である。銅合金組織を構成する結晶に導入された転位は、銅合金組織の析出強化を担う粒子を析出させるための起点として作用する。そのため、この段階で銅合金組織に転位を均等的に導入して適度に蓄積させておくことにより、次の第2熱処理工程で銅合金組織の析出強化を担う粒子を銅合金組織中に均等的に析出させることができる。その結果、最終的に得られる銅合金材の引張強さをより向上させることができる。
なお、第2冷間圧延工程における圧延加工度が過度に小さい(20%未満)場合、銅合金組織への転位の導入と蓄積が不十分になり、次の第2熱処理工程において銅合金組織中に析出される粒子数が不足しやすい。また、第2冷間圧延工程における圧延加工度が過度に大きい(90%超)場合、次の第2熱処理工程において銅合金組織中に析出される粒子が過度に大きく成長し、析出強化の効果が得られにくい場合がある。この観点で、第2冷間圧延工程では、上記第1熱処理工程で作製された第1熱処理材に対して20%以上90%以下の圧延加工度で冷間圧延を行うものとし、好ましくは、最終的に析出強化と加工硬化の相乗効果をバランス良く得るために40%以上75%以下の圧延加工度で冷間圧延を行うものとする。
(6)第2熱処理工程
第2熱処理工程では、上記第2冷間圧延工程で作製された第2冷間圧延材に対して、380℃以上480℃以下の温度で1h以上12h以下の加熱保持を行って第2熱処理材を作製する。この第2熱処理工程は、上記した第2冷間圧延後に行う熱処理であって、冷間圧延で導入して蓄積された転位を利用し、析出強化を担う粒子を銅合金組織中に十分に分散析出させる時効処理の工程である。従来の一般的なCu-Fe-P系の銅合金から成る銅合金材の製造方法の場合、時効処理の加熱保持はたとえば400℃以上600℃以下の温度で行われる。これに対して、この発明の第2熱処理工程では、比較的低温側の380℃以上480℃以下の温度で1h以上12h以下の加熱保持を行う。この比較的低温側の加熱保持により、銅合金組織中に析出されるFeまたはFeとPを含む化合物の粒子がより微細化されるとともに、より均一的に分散させることができる。その結果、銅合金組織に対する析出強化の効果を十分に得ることができる。また、この比較的低温側の加熱保持により、意図的に銅合金組織中の歪みの解放を不十分にすることで、第2冷間圧延工程までに得られた析出強化と加工硬化の相乗効果を十分に得ることができる。
なお、第2熱処理工程における加熱保持の温度が過度に低い(380℃未満)場合や加熱保持の時間が過度に短い(1h未満)場合は、銅合金組織中への上記粒子の析出が不十分になり、最終的に得られる銅合金材の引張強さや導電率が不十分になる場合がある。また、第2熱処理工程における加熱保持の温度が過度に高い(480℃超)場合や加熱保持の時間が過度に長い(12h超)場合は、銅合金組織中に析出させた上記粒子が大きく成長して析出強化の効果が減少するとともに、銅合金組織中の歪の解放が意図した程度を超えて十分に進んでしまい、第2冷間圧延工程までに得られた析出強化と加工硬化の相乗効果が消失される。その結果、最終的に得られる銅合金材の引張強さが不十分になる場合がある。この観点で、第2熱処理工程では、第2冷間圧延材に対して380℃以上480℃以下の温度で1h以上12h以下の加熱保持を行うものとし、好ましくは、歪の解放と上記粒子の析出のバランスの良い銅合金組織を得るために400℃以上460℃以下の温度で1h以上12h以下(好ましくは2h以上8h以下)の加熱保持を行うものとする。
(7)第3冷間圧延工程
第3冷間圧延工程では、上記第2熱処理工程で作製された第2熱処理材を用いて、60%以上80%以下の圧延加工度で冷間圧延を行って第3冷間圧延材を作製する。また、この工程で、最終的に所望する銅合金材の厚さ(製品厚さ)に調製することができる。この第3冷間圧延工程は、第2熱処理工程で作製された第2熱処理材の上記粒子が分散析出している銅合金組織に更に転位を導入して十分に蓄積させるとともに、銅合金組織を更に加工硬化させる工程である。これにより、第2熱処理工程までに得られた析出強化と加工硬化の相乗効果が十分に高まるため、最終的に得られる銅合金材の引張強さを十分に向上させることができる。
なお、第3冷間圧延工程における圧延加工度が過度に小さい(60%未満)場合、銅合金組織が十分に加工硬化されず、析出強化と加工硬化の相乗効果が十分に高まらない場合がある。また、第3冷間圧延工程における圧延加工度が過度に大きい(80%超)場合、銅合金組織中の歪みが過度に蓄積され、過剰に蓄積された歪が次の第3熱処理工程で意図した程度を超えて過度に解放され、最終的に得られる銅合金材の引張強さが十分に向上されない場合がある。この観点で、第3冷間圧延工程では、上記第2熱処理工程で作製された第2熱処理材に対して60%以上80%以下の圧延加工度で冷間圧延を行うものとし、好ましくは、最終的に析出強化と加工硬化の相乗効果をバランス良く得るために65%以上75%以下の圧延加工度で冷間圧延を行うものとする。
(8)第3熱処理工程
第3熱処理工程では、上記第3冷間圧延工程で作製された第3冷間圧延材に対して、250℃以上380℃以上の温度で4h以下の加熱保持を行って、目的とする銅合金材を作製する。この工程の加熱保持は、保持時間が0hであってもよく、つまり、昇温して目標の保持温度に達したら直ちに降温に入ってもよい。この第3熱処理工程は、上記した第3冷間圧延で作製された第3冷間圧延材の銅合金組織中に蓄積された歪を適度に解放し、目的とする銅合金材の伸びや曲げ加工性などの機械的特性を向上させる工程である。従来の一般的なCu-Fe-P系の銅合金から成る銅合金材の製造方法の場合、歪の解放を目的とする熱処理(焼鈍)の加熱保持はたとえば400℃以上500℃以下の温度で行われる。これに対して、この発明の第3熱処理工程では、これよりも低温側の250℃以上380℃以下の温度で4h以下の加熱保持を行う。この従来よりも低温側で行う加熱保持により、圧延加工に起因する銅合金組織中の歪が適度に解放されながらも過度に解放されない状態とし、歪を適度に含む銅合金組織を得ることにより、目的とする銅合金材の引張強さの低下を最小限に抑制することができる。
なお、第3熱処理工程における加熱保持の温度が過度に低い(250℃未満)場合、第3冷間圧延材の銅合金組織中の歪の解放が不十分になり、目的とする銅合金材の伸びや曲げ加工性などの機械的特性が向上されない場合がある。また、第3熱処理工程における加熱保持の温度が過度に高い(380℃超)場合や加熱保持の時間が過度に長い(4h超)場合は、第3冷間圧延材の銅合金組織中の歪の解放が過度になり、目的とする銅合金材の引張強さが得られない場合がある。この観点で、第3熱処理工程では、第3冷間圧延材に対して250℃以上380℃以下の温度で4h以下の加熱保持を行うものとし、好ましくは、目的とする銅合金材の引張強さと伸びや曲げ加工性のバランスの良い銅合金組織を得るために280℃以上350℃以下の温度で1h以下の加熱保持を行うものとする。
以上より、この発明によれば、C1940などのCu-Fe-Zn-P系の銅合金から成る銅合金材と同様に上記した残留スマットの問題がなく、より高強度なC7025などのCu-Ni-Si系の銅合金から成る銅合金材と略同等の導電性(導電率)と機械的強さ(引張強さ)を有する、銅合金材および銅合金材の製造方法を提供することができる。
この発明に係る銅合金材および銅合金材の製造方法の有効性について、実際の評価結果を挙げて、説明する。初めに、表1に、試料1~29(本発明例、比較例)の銅合金材の組成(添加元素)、主な製造条件、および機械的特性などの情報を纏めて示す。また、参考例として、試料30、31の銅合金材を併記する。なお、試料1~29では、意図的にMnを添加していない。また、試料1~29の添加元素以外の残部はCuおよび不純物元素と解してよく、0.01%未満の不純物元素(Ag、Pb、NiおよびSなど)は記載を略している。
表1に示す試料1の銅合金材は、2.2質量%のFeと、0.03質量%のPと、0.12質量%のZnと、0.60質量%のSnとを含有し、残部がCuおよび不純物元素から成る。この銅合金材は、下記(1)から(8)の工程を経て、作製されたものである。
(1)溶解鋳造工程において、高周波溶解炉を用いて、無酸素銅から成る溶解母材に所定の添加元素を含む添加材などを加えて窒素雰囲気下で溶解し、成分調整後に鋳造し、約25mmの厚さ、約30mmの幅、約150mmの長さの銅合金鋳造材を作製した。
(2)熱間圧延工程において、銅合金鋳造材を約950℃の温度に加熱した状態で熱間圧延し、約8mmの厚さの熱間圧延材を作製した。
(3)第1冷間圧延工程において、熱間圧延材を合計で約83%の圧延加工度になるように冷間圧延し、約1.4mmの厚さの第1冷間圧延材を作製した。
(4)第1熱処理工程において、第1冷間圧延材に対して約580℃の温度で約3分の加熱保持を行って、第1熱処理材を作製した。
(5)第2冷間圧延工程において、第1熱処理材を合計で約64%の圧延加工度になるように冷間圧延し、約0.5mmの厚さの第2冷間圧延材を作製した。この場合、第1冷間圧延工程と第2冷間圧延工程による合計の圧延加工度は約94%になる。
(6)第2熱処理工程において、第2冷間圧延材に対して約450℃の温度で約4hの加熱保持を行って、第2熱処理材を作製した。
(7)第3冷間圧延工程において、第2熱処理材を合計で約70%の圧延加工度になるように冷間圧延し、約0.15mmの厚さの第3冷間圧延材を作製した。この場合、第2冷間圧延工程と第3冷間圧延工程による合計の圧延加工度は約89%になり、第1冷間圧延工程と第2冷間圧延工程と第3冷間圧延工程による合計の圧延加工度は約98%になる。
(8)第3熱処理工程において、第3冷間圧延材に対して約350℃の温度で約1分の加熱保持を行って、最終的に約0.15mmの厚さの試料1の銅合金材を得た。試料1の銅合金材は本発明例である。
表1に示す試料2の銅合金材は、試料1の銅合金材の製造工程において、第2熱処理工程の加熱保持を約420℃の温度に設定した以外は、試料1の銅合金材と実質同等の製造工程を経て、最終的に試料1の銅合金材と同等の厚さを有するように作製されたものである。試料2の銅合金材は本発明例である。
表1に示す試料3の銅合金材は、試料1の銅合金材の製造工程において、第2熱処理工程の加熱保持を約420℃の温度に設定し、第3熱処理工程の加熱保持を約280℃の温度に設定した以外は、試料1の銅合金材と実質同等の製造工程を経て、最終的に試料1の銅合金材と同等の厚さを有するように作製されたものである。試料3の銅合金材は本発明例である。
表1に示す試料4の銅合金材は、試料1の銅合金材の製造工程において、溶解鋳造工程の成分調整で最終的に得られる銅合金材に含有されるSnが約0.30質量%になるようにした以外は、試料1の銅合金材と実質同等の製造工程を経て、最終的に試料1の銅合金材と同等の厚さを有するように作製されたものである。試料4の銅合金材は本発明例である。
表1に示す試料5の銅合金材は、試料1の銅合金材の製造工程において、第1熱処理工程の加熱保持を約550℃の温度に設定し、第2冷間圧延工程の圧延加工度を約73%に設定し、第2熱処理工程の加熱保持を約420℃の温度に設定し、第3冷間圧延工程の圧延加工度を約60%に設定した以外は、試料1の銅合金材と実質同等の製造工程を経て、最終的に試料1の銅合金材と同等の厚さを有するように作製されたものである。この場合、第2冷間圧延工程と第3冷間圧延工程による合計の圧延加工度は約89%になる。試料5の銅合金材は本発明例である。
表1に示す試料6の銅合金材は、試料1の銅合金材の製造工程において、第1熱処理工程の加熱保持を約550℃の温度に設定し、第2冷間圧延工程の圧延加工度を約46%に設定し、第3冷間圧延工程の圧延加工度を約80%に設定した以外は、試料1の銅合金材と実質同等の製造工程を経て、最終的に試料1の銅合金材と同等の厚さを有するように作製されたものである。この場合、第2冷間圧延工程と第3冷間圧延工程による合計の圧延加工度は約89%になる。試料6の銅合金材は本発明例である。
表1に示す試料7の銅合金材は、試料1の銅合金材の製造工程において、第2冷間圧延工程の圧延加工度を約73%に設定し、第2熱処理工程の加熱保持を約420℃の温度に設定し、第3冷間圧延工程の圧延加工度を約60%に設定した以外は、試料1の銅合金材と実質同等の製造工程を経て、最終的に試料1の銅合金材と同等の厚さを有するように作製されたものである。試料7の銅合金材は本発明例である。
表1に示す試料8の銅合金材は、試料1の銅合金材の製造工程において、第1熱処理工程の加熱保持を約600℃の温度に設定し、第2冷間圧延工程の圧延加工度を約73%に設定し、第2熱処理工程の加熱保持を約420℃の温度に設定し、第3冷間圧延工程の圧延加工度を約60%に設定した以外は、試料1の銅合金材と実質同等の製造工程を経て、最終的に試料1の銅合金材と同等の厚さを有するように作製されたものである。試料8の銅合金材は本発明例である。
表1に示す試料9の銅合金材は、試料1の銅合金材の製造工程において、第1熱処理工程の加熱保持を約600℃の温度に設定し、第2冷間圧延工程の圧延加工度を約46%に設定し、第3冷間圧延工程の圧延加工度を約80%に設定した以外は、試料1の銅合金材と実質同等の製造工程を経て、最終的に試料1の銅合金材と同等の厚さを有するように作製されたものである。試料9の銅合金材は本発明例である。
表1に示す試料10の銅合金材は、試料1の銅合金材の製造工程において、溶解鋳造工程の成分調整で最終的に得られる銅合金材に含有されるFeが約1.50質量%になるようにした以外は、試料1の銅合金材と実質同等の製造工程を経て、最終的に試料1の銅合金材と同等の厚さを有するように作製されたものである。試料10の銅合金材はFe含有率がこの発明の範囲外となる比較例である。
表1に示す試料11の銅合金材は、試料1の銅合金材の製造工程において、溶解鋳造工程の成分調整で最終的に得られる銅合金材に含有されるFeが約2.80質量%になるようにした以外は、試料1の銅合金材と実質同等の製造工程を経て、最終的に試料1の銅合金材と同等の厚さを有するように作製されたものである。試料11の銅合金材は比較例であり、Fe含有率がこの発明の範囲外となる。
表1に示す試料12の銅合金材は、試料1の銅合金材の製造工程において、溶解鋳造工程の成分調整で最終的に得られる銅合金材に含有されるPが約0.22質量%になるようにした以外は、試料1の銅合金材と実質同等の製造工程を経て、最終的に試料1の銅合金材と同等の厚さを有するように作製されたものである。試料12の銅合金材は本発明例である。
表1に示す試料13の銅合金材は、試料1の銅合金材の製造工程において、溶解鋳造工程の成分調整で最終的に得られる銅合金材に含有されるZnが約0.40質量%になるようにした以外は、試料1の銅合金材と実質同等の製造工程を経て、最終的に試料1の銅合金材と同等の厚さを有するように作製されたものである。試料13の銅合金材は比較例であり、Zn含有率がこの発明の範囲外となる。
表1に示す試料14の銅合金材は、試料1の銅合金材の製造工程において、溶解鋳造工程の成分調整で最終的に得られる銅合金材に含有されるSnが約0.20質量%になるようにした以外は、試料1の銅合金材と実質同等の製造工程を経て、最終的に試料1の銅合金材と同等の厚さを有するように作製されたものである。試料14の銅合金材は比較例であり、Sn含有率がこの発明の範囲外となる。
表1に示す試料15の銅合金材は、試料1の銅合金材の製造工程において、溶解鋳造工程の成分調整で最終的に得られる銅合金材に含有されるSnが約0.90質量%になるようにした以外は、試料1の銅合金材と実質同等の製造工程を経て、最終的に試料1の銅合金材と同等の厚さを有するように作製されたものである。試料15の銅合金材は比較例であり、Sn含有率がこの発明の範囲外となる。
表1に示す試料16の銅合金材は、試料1の銅合金材の製造工程において、溶解鋳造工程の成分調整で最終的に得られる銅合金材に含有されるSnが約0.30質量%になるようにし、第1熱処理工程の加熱保持を約450℃の温度に設定した以外は、試料1の銅合金材と実質同等の製造工程を経て、最終的に試料1の銅合金材と同等の厚さを有するように作製されたものである。試料16の銅合金材は比較例であり、第1熱処理工程がこの発明の範囲外となる。
表1に示す試料17の銅合金材は、試料1の銅合金材の製造工程において、第1熱処理工程の加熱保持を約650℃の温度に設定した以外は、試料1の銅合金材と実質同等の製造工程を経て、最終的に試料1の銅合金材と同等の厚さを有するように作製されたものである。試料17の銅合金材は比較例であり、第1熱処理工程がこの発明の範囲外となる。
表1に示す試料18の銅合金材は、試料1の銅合金材の製造工程において、第1熱処理工程の加熱保持を約5hの時間に設定した以外は、試料1の銅合金材と実質同等の製造工程を経て、最終的に試料1の銅合金材と同等の厚さを有するように作製されたものである。試料18の銅合金材は比較例であり、第1熱処理工程がこの発明の範囲外となる。
表1に示す試料19の銅合金材は、試料1の銅合金材の製造工程において、第2冷間圧延工程の圧延加工度を約17%に設定し、第3冷間圧延工程の圧延加工度を約80%に設定した以外は、試料1の銅合金材と実質同等の製造工程を経て、最終的に試料1の銅合金材と同等の厚さを有するように作製されたものである。この場合、第2冷間圧延工程と第3冷間圧延工程による合計の圧延加工度は約83%になる。試料19の銅合金材は比較例であり、第2冷間圧延工程がこの発明の範囲外となる。
表1に示す試料20の銅合金材は、試料1の銅合金材の製造工程において、第2冷間圧延工程の圧延加工度を約91%に設定し、第3冷間圧延工程の圧延加工度を約60%に設定した以外は、試料1の銅合金材と実質同等の製造工程を経て、最終的に試料1の銅合金材と同等の厚さを有するように作製されたものである。この場合、第2冷間圧延工程と第3冷間圧延工程による合計の圧延加工度は約96%になる。試料20の銅合金材は比較例であり、第2冷間圧延工程がこの発明の範囲外となる。
表1に示す試料21の銅合金材は、試料1の銅合金材の製造工程において、第2熱処理工程の加熱保持を約350℃の温度に設定した以外は、試料1の銅合金材と実質同等の製造工程を経て、最終的に試料1の銅合金材と同等の厚さを有するように作製されたものである。試料21の銅合金材は比較例であり、第2熱処理工程がこの発明の範囲外となる。
表1に示す試料22の銅合金材は、試料1の銅合金材の製造工程において、第2熱処理工程の加熱保持を約500℃の温度に設定した以外は、試料1の銅合金材と実質同等の製造工程を経て、最終的に試料1の銅合金材と同等の厚さを有するように作製されたものである。試料22の銅合金材は比較例であり、第2熱処理工程がこの発明の範囲外となる。
表1に示す試料23の銅合金材は、試料1の銅合金材の製造工程において、第2熱処理工程の加熱保持を約420℃の温度で約0.5hの時間に設定した以外は、試料1の銅合金材と実質同等の製造工程を経て、最終的に試料1の銅合金材と同等の厚さを有するように作製されたものである。試料23の銅合金材は比較例であり、第2熱処理工程がこの発明の範囲外となる。
表1に示す試料24の銅合金材は、試料1の銅合金材の製造工程において、第2熱処理工程の加熱保持を約450℃の温度で約20hの時間に設定した以外は、試料1の銅合金材と実質同等の製造工程を経て、最終的に試料1の銅合金材と同等の厚さを有するように作製されたものである。試料24の銅合金材は比較例であり、第2熱処理工程がこの発明の範囲外となる。
表1に示す試料25の銅合金材は、試料1の銅合金材の製造工程において、第2冷間圧延工程の圧延加工度を約79%に設定し、第3冷間圧延工程の圧延加工度を約50%に設定した以外は、試料1の銅合金材と実質同等の製造工程を経て、最終的に試料1の銅合金材と同等の厚さを有するように作製されたものである。この場合、第2冷間圧延工程と第3冷間圧延工程による合計の圧延加工度は約90%になる。試料25の銅合金材は比較例であり、第3冷間圧延工程がこの発明の範囲外となる。
表1に示す試料26の銅合金材は、試料1の銅合金材の製造工程において、第2冷間圧延工程の圧延加工度を約28%に設定し、第3冷間圧延工程の圧延加工度を約85%に設定した以外は、試料1の銅合金材と実質同等の製造工程を経て、最終的に試料1の銅合金材と同等の厚さを有するように作製されたものである。この場合、第2冷間圧延工程と第3冷間圧延工程による合計の圧延加工度は約89%になる。試料26の銅合金材は比較例であり、第3冷間圧延工程がこの発明の範囲外となる。
表1に示す試料27の銅合金材は、試料1の銅合金材の製造工程において、第3熱処理工程の加熱保持を約200℃の温度に設定した以外は、試料1の銅合金材と実質同等の製造工程を経て、最終的に試料1の銅合金材と同等の厚さを有するように作製されたものである。試料27の銅合金材は比較例であり、第3熱処理工程がこの発明の範囲外となる。
表1に示す試料28の銅合金材は、試料1の銅合金材の製造工程において、第3熱処理工程の加熱保持を約400℃の温度に設定した以外は、試料1の銅合金材と実質同等の製造工程を経て、最終的に試料1の銅合金材と同等の厚さを有するように作製されたものである。試料28の銅合金材は比較例であり、第3熱処理工程がこの発明の範囲外となる。
表1に示す試料29の銅合金材は、試料1の銅合金材の製造工程において、第3熱処理工程の加熱保持を約5hの時間に設定した以外は、試料1の銅合金材と実質同等の製造工程を経て、最終的に試料1の銅合金材と同等の厚さを有するように作製されたものである。試料29の銅合金材は比較例であり、第3熱処理工程がこの発明の範囲外となる。
表1に示す試料30の銅合金材は、C1940相当の組成(Cu-2.2質量%Fe-0.03質量%P-0.12質量%Zn)を有し、質別がESHで、試料1の銅合金材と同等の厚さを有する市販材である。試料30の銅合金材は参考例である。
表1に示す試料31の銅合金材は、C7025相当の組成(Cu-3質量%Ni-0.65質量%Si-0.15質量%Mg)を有し、質別が1/2・Hで、試料1の銅合金材と同等の厚さを有する市販材である。試料31の銅合金材は参考例である。
上記した試料1~31の銅合金材の特性等について、表1に示すように、引張強さ、導電率、曲げ加工性および残留スマットの有無に着目し、実際に確認して評価した。具体的に、銅合金材の引張強さは、常温環境下(約20℃)において、金属材料引張試験方法を規定するJIS-Z2241:2011に準拠して測定した。また、銅合金材の導電率は、常温環境下(約20℃)において、非鉄金属材料の導電率測定方法を規定するJIS-Z0505:1975に準拠して測定した。また、銅合金材の曲げ加工性は、常温環境下(約20℃)において、JIS-H3110:2018で曲げ試験として採用されているW曲げ試験で評価した。具体的には、被試験体(銅合金材)を0.15mmの曲げ半径(内側半径)で曲げたとき、試験体の曲げの外側面に割れが確認されなかった場合を「優」とし、微細であっても割れが確認された場合を「劣」とした。また、残留スマットの有無は、被試験体(銅合金材)を前処理し、化学研磨液中に約1分間浸漬し、水洗し、乾燥させた被試験体の表面を観察して確認した。このとき、化学研磨液は、約20質量%の硫酸と約8質量%の過酸化水素とを含む酸性水溶液とし、約40℃に保温した。化学研磨液に浸漬する被試験体の表面積は、約2000mm2(幅20mmで長さ50mmの表裏面)とした。被試験体の前処理は、エタノール脱脂、アルカリ電解脱脂、濃度5%の硫酸水溶液に浸漬(中和)、水洗、乾燥の順に行った。
なお、表1に示す参考例に関し、試料30の銅合金材は、引張強さが540MPaとなり、620MPa未満であった。導電率は63.0%IACSとなり、40.0%IACS以上であった。曲げ加工性は「優」となり、残留スマットは「無」となった。また、試料31の銅合金材は、引張強さが650MPaとなり、620MPa以上であった。導電率は45.0%IACSとなり、40.0%IACS以上であった。曲げ加工性は「優」となり、残留スマットは「有」となった。
<Feの影響>
表2(表1から抽出)に示す試料1、10および11の銅合金材は、溶解鋳造工程の成分調整で最終的に得られる銅合金材のFe含有率を異ならせるようにした以外は、実質同等の製造工程を経て、実質同等の厚さを有するように作製されたものである。具体的に、Fe含有率は、試料1は2.20%であるため、この発明で規定する1.6%以上2.6%以下の範囲内である。これに対して、試料10はより小さい1.50質量%であり、試料11はより大きい2.80%であるため、上記の範囲外である。
表2に示すように、引張強さは、試料1が670MPaとなり、試料11が672MPaとなり、いずれも620MPa以上となった。これに対して、試料10は575MPaとなり、620MPa未満となった。また、導電率は、試料1が48.2%IACSとなり、試料10が56.3%IACSとなり、いずれも40.0%IACS以上となった。これに対して、試料11は38.8%IACSとなり、40.0%IACS未満となった。また、曲げ加工性は、試料1、10の「優」に対して、試料11は「劣」となった。また、残留スマットは、試料1、10および11のいずれも「無」となった。
Fe含有率を異ならせた試料1、10および11の銅合金材の比較評価により、Fe含有率が小さくなって上記の範囲外になると、銅合金材の引張強さが低下して620MPaに達しないことが判明した。また、Fe含有率が大きくなって上記の範囲外になると、銅合金材の導電率が低下して40.0%IACSに達しないことが判明した。また、Fe含有率は、銅合金材の曲げ加工性や残留スマットに影響を及ぼしにくいことが判明した。したがって、残留スマットが無く、620MPa以上の引張強さを有し、40.0%IACS以上の導電率を有し、加えて、良好な曲げ加工性を有する観点で、実用上、1.6%以上2.6%以下のFeを含有する銅合金材は、有効である。
<Pの影響>
表3(表1から抽出)に示す試料1、12の銅合金材は、溶解鋳造工程の成分調整で最終的に得られる銅合金材のP含有率を異ならせるようにした以外は、実質同等の製造工程を経て、実質同等の厚さを有するように作製されたものである。具体的に、P含有率は、試料1は0.03%であるため、この発明で規定する0.01%以上0.3%以下の範囲内である。また、試料12は試料1よりも大きい0.22質量%であり、上記の範囲内であるが、発明者がより好ましいと考える0.01%以上0.20%以下の範囲外である。
表3に示すように、引張強さは、試料1、12ともに620MPa以上となり、試料12は試料1(670MPa)よりも大きい675MPaとなった。また、導電率は、試料1、12ともに40.0%IACS以上となり、試料12は試料1(48.2%IACS)よりも大きい48.8%IACSとなった。また、曲げ加工性は、試料1の「優」に対して、試料12は「劣」となった。また、残留スマットは、試料1、12ともに「無」となった。
P含有率を異ならせた試料1、12の銅合金材の比較評価により、P含有率は、銅合金材の引張強さや導電率に影響を及ぼしにくいことが判明した。また、P含有率が大きくなると、銅合金材の曲げ加工性が劣化する傾向があることが判明した。また、P含有率は、銅合金材の残留スマットに影響を及ぼしにくいことが判明した。したがって、残留スマットが無く、620MPa以上の引張強さを有し、40.0%IACS以上の導電率を有する観点で、実用上、この発明で規定する0.01%以上0.3%以下のPを含有する銅合金材は、有効である。加えて、良好な曲げ加工性を有する観点で、実用上、0.01%以上0.20%以下のPを含有する銅合金材は、有効である。
<Znの影響>
表4(表1から抽出)に示す試料1、13の銅合金材は、溶解鋳造工程の成分調整で最終的に得られる銅合金材のZn含有率を異ならせるようにした以外は、実質同等の製造工程を経て、実質同等の厚さを有するように作製されたものである。具体的に、Zn含有率は、試料1は0.12%であるため、この発明で規定する0.01%以上0.3%以下の範囲内である。これに対して、試料13はより大きい0.40%であるため、上記の範囲外である。
表4に示すように、引張強さは、試料1、12ともに620MPa以上となり、試料13は試料1(670MPa)よりも大きい674MPaとなった。また、導電率は、40.0%IACS以上となった試料1(48.2%IACS)に対して、試料13は39.2%IACSとなり、40.0%IACS未満となった。また、曲げ加工性は、試料1の「優」に対して、試料13は「劣」となった。また、残留スマットは、試料1、13ともに「無」となった。
Zn含有率を異ならせた試料1、13の銅合金材の比較評価により、Zn含有率が大きくなって上記の範囲外になると、銅合金材の導電率が低下して40.0%IACSに達しないとともに、銅合金材の曲げ加工性が劣化する傾向があることが判明した。また、Zn含有率は、銅合金材の引張強さや残留スマットに影響を及ぼしにくいことが判明した。したがって、残留スマットが無く、620MPa以上の引張強さを有し、40.0%IACS以上の導電率を有し、加えて、良好な曲げ加工性を有する観点で、実用上、0.01%以上0.3%以下のZnを含有する銅合金材は、有効である。
<Snの影響>
表5(表1から抽出)に示す試料1、4、14および15の銅合金材は、溶解鋳造工程の成分調整で最終的に得られる銅合金材のSn含有率を異ならせるようにした以外は、実質同等の製造工程を経て、実質同等の厚さを有するように作製されたものである。具体的に、Sn含有率は、試料1は0.60%であり、試料13は0.30%であるため、この発明で規定する0.3%以上0.8%以下の範囲内である。これに対して、試料4はより小さい0.20質量%であり、試料14はより大きい0.90%であるため、上記の範囲外である。
表5に示すように、引張強さは、試料1、4および15が620MPa以上となり、試料14が620MPa未満となった。具体的に、試料1(670MPa)の引張強さに対して、試料4は624MPaで小さくなり、試料14は604MPaでさらに小さくなったが、試料15は690MPaでより大きくなった。また、導電率は、試料1、4および14が40.0%IACS以上となり、試料15が40.0%IACS未満となった。具体的に、試料1(48.2%IACS)の導電率に対して、試料4は51.0%IACSでより大きくなり、試料14は55.0%IACSでより一層大きくなったが、試料15は39.8%IACSでより小さくなった。また、曲げ加工性は、試料1、4および14の「優」に対して、試料15は「劣」となった。また、残留スマットは、試料1、4、14および15ともに「無」となった。
Sn含有率を異ならせた試料1、4、14および15の銅合金材の比較評価により、Sn含有率が小さくなると、銅合金材の引張強さが低下する傾向があることが判明した。また、Sn含有率がさらに小さくなって上記の範囲外になると、銅合金材の引張強さが620MPaに達しないことが判明した。また、試料1、4の銅合金材の比較評価により、銅合金材が0.3%を超えるSnを含有していると、625MPa以上の引張強さが得られることが判明した。また、Sn含有率が小さくなると、銅合金材の導電率が大きくなる傾向があることが判明した。また、Sn含有率が大きくなって上記の範囲外になると、銅合金材の導電率がさらに低下して40.0%IACSに達しないことが判明した。また、Sn含有率が大きくなると、銅合金材の曲げ加工性が劣化する傾向があることが判明した。また、Sn含有率は、残留スマットに影響を及ぼしにくいことが判明した。したがって、残留スマットが無く、620MPa以上の引張強さを有し、40.0%IACS以上の導電率を有し、加えて、良好な曲げ加工性を有する観点で、実用上、0.3%以上0.8%以下のSnを含有する銅合金材は、有効である。
<第1熱処理工程の影響>
表6(表1から抽出)に示す試料1、4、16、17および18の銅合金材に着目し、第1熱処理工程の影響について説明する。試料1、16、17および18の銅合金材は、第1熱処理工程の加熱保持条件を異ならせるようにした以外は、実質同等の製造工程を経て、実質同等の厚さを有するように作製されたものである。また、試料1、17および18の銅合金材はSn含有率が0.60%となるように成分調整されたものであり、試料4、16の銅合金材は0.30%になるように成分調整されたものである。具体的に、第1熱処理工程の加熱保持条件は、試料1、4は580℃で約3分であるため、この発明で規定する500℃以上600℃以下で4h以下の範囲内である。これに対して、試料16はより低温の450℃であり、試料17はより高温の650℃であるため、保持時間は試料1、4と同等であるが、上記の範囲外である。また、試料18はより長時間の約5hであるため、保持温度は試料1、4と同等であるが、上記の範囲外である。
表6に示すように、引張強さは、620MPa以上である試料1(670MPa)に対して、試料4はSn含有率が試料1よりも小さいことに起因して624MPaと小さくなったが、620MPa以上であった。これに対して、低温の保持として上記の範囲外とした試料16は610MPaとなり、高温の保持として上記の範囲外とした試料17は596MPaとなり、長時間の保持として上記の範囲外とした試料18は612MPaとなり、これらのいずれもが620MPa未満となった。また、導電率は、40.0%IACS以上である試料1(48.2%IACS)に対して、試料4、18は51.0%IACSとなり、試料16は50.5%IACSとなり、試料17は51.8%IACSとなり、これらのいずれもが試料1よりも大きくなった。また、曲げ加工性は、試料1、16、17および18ともに「優」となった。また、残留スマットは、試料1、16、17および18ともに「無」となった。
第1熱処理工程の加熱保持温度を異ならせた試料1、17の銅合金材の比較評価および試料4、16の銅合金材の比較評価により、第1熱処理工程の加熱保持が高温または低温になって上記の範囲外になると、銅合金材の引張強さが低下して620MPaに達しない傾向があることが判明した。また、試料1、18の銅合金材の比較評価により、第1熱処理工程の加熱保持が長時間になって上記の範囲外になると、銅合金材の引張強さが低下して620MPaに達しない傾向があることが判明した。また、試料1、4、16、17および18の銅合金材の比較評価により、第1熱処理工程の加熱保持条件は、銅合金材の導電率や曲げ加工性や残留スマットに影響を及ぼしにくいことが判明した。したがって、残留スマットが無く、620MPa以上の引張強さを有し、40.0%IACS以上の導電率を有し、加えて、良好な曲げ加工性を有する観点で、実用上、第1冷間圧延材に対して500℃以上600℃以下の温度で4h以下の加熱保持を行って第1熱処理材を作製する第1熱処理工程は、有効である。
<第2冷間圧延工程の圧延加工度の影響>
表7(表1から抽出)に示す試料1、6、19および20の銅合金材に着目し、第2冷間圧延工程の影響について説明する。試料1、6、19および30の銅合金材は、第2冷間圧延工程の圧延加工度を異ならせるようにした以外は、実質同等の製造工程を経て、実質同等の厚さを有するように作製されたものである。具体的に、第2冷間圧延工程の圧延加工度は、試料1は64%であり、試料6は46%であるため、この発明で規定する20%以上90%以下の範囲内である。これに対して、試料19は17%であり、試料20は91%であるため、上記の範囲外である。
表7に示すように、引張強さは、620MPa以上である試料1(670MPa)に対して、圧延加工度を小さくした試料6は654MPaと小さくなり、圧延加工度を小さくして上記の範囲外とした試料19は624MPaと更に小さくなったが、これらのいずれもが620MPa以上であった。これに対して、圧延加工度を大きくして上記の範囲外とした試料20は610MPaとより一層小さくなり、620MPa未満となった。また、導電率は、40.0%IACS以上である試料1(48.2%IACS)に対して、圧延加工度を大きくして上記の範囲外とした試料20は、48.8%IACSで同程度であった。これに対して、圧延加工度を小さくした試料6は、45.8%IACSと小さくなった。また、圧延加工度を更に小さくして上記の範囲外とした試料19は、39.6%IACSと更に小さくなって、40.0%IACS未満となった。また、曲げ加工性は、試料1、6、19および20ともに「優」となった。また、残留スマットは、試料1、6、19および20ともに「無」となった。
第2冷間圧延工程の圧延加工度を異ならせた試料1、6および19の銅合金材の比較評価により、第2冷間圧延工程の圧延加工度が小さくなると銅合金材の引張強さが低下する傾向があることが判明した。また、試料1、6、19および20の銅合金材の比較評価により、第2冷間圧延工程の圧延加工度が過大になって上記の範囲外になると、銅合金材の引張強さが低下して620MPaに達しないことが判明した。また、試料1、6、19および20の銅合金材の比較評価により、第2冷間圧延工程の圧延加工度は、過大になって上記の範囲外になっても銅合金材の導電率に影響を及ぼしにくく、過小になって上記の範囲外になると銅合金材の導電率が低下して40.0%IACSに達しないことが判明した。また、試料1、6、19および20の銅合金材の比較評価により、第2冷間圧延工程の圧延加工度は、銅合金材の曲げ加工性や残留スマットに影響を及ぼしにくいことが判明した。したがって、残留スマットが無く、620MPa以上の引張強さを有し、40.0%IACS以上の導電率を有し、加えて、良好な曲げ加工性を有する観点で、実用上、第1熱処理材を用いて20%以上90%以下の圧延加工度で冷間圧延を行って第2冷間圧延材を作製する第2冷間圧延工程は、有効である。
<第2熱処理工程の加熱保持条件の影響>
表8(表1から抽出)に示す試料1、21、22、23および24の銅合金材に着目し、第2熱処理工程の影響について説明する。試料1、21、22、23および24の銅合金材は、第2熱処理工程の加熱保持条件を異ならせるようにした以外は、実質同等の製造工程を経て、実質同等の厚さを有するように作製されたものである。具体的に、第2熱処理工程の加熱保持条件は、試料1は450℃で約4hであるため、この発明で規定する380℃以上480℃以下で1h以上12h以下の範囲内である。これに対して、試料21はより低温の350℃であり、試料22はより高温の500℃であるため、保持時間は試料1と同等であるが、上記の範囲外である。また、試料23はより短時間の約0.5hであり、試料24はより長時間の約20hであるため、保持温度は上記の範囲内であるが、保持時間は上記の範囲外である。
表8に示すように、引張強さは、620MPa以上である試料1(670MPa)に対して、低温または高温の保持として上記の範囲外とした試料21(606MPa)と試料22(575MPa)、および、短時間または長時間の保持として上記の範囲外とした試料23(598MPa)と試料24(602MPa)のいずれもが小さくなり、620MPa未満となった。また、導電率は、40.0%IACS以上である試料1(48.2%IACS)に対して、低温の保持として上記の範囲外とした試料21(38.0%IACS)と短時間の保持として上記の範囲外とした試料23(39.7%IACS)のいずれもが小さくなり、40.0%IACS未満となった。また、導電率は、高温の保持として上記の範囲外とした試料22(50.5%IACS)と長時間の保持として上記の範囲外とした試料24(52.0%IACS)のいずれもが大きくなった。また、曲げ加工性は、試料1、21、22、23および24ともに「優」となった。また、残留スマットは、試料1、21、22、23および24ともに「無」となった。
第2熱処理工程の加熱保持温度を異ならせた試料1、21、22、23および24の銅合金材の比較評価により、第2熱処理工程の加熱保持が高温または低温になって上記の範囲外になると、銅合金材の引張強さが低下して620MPaに達しない傾向があることが判明した。また、試料1、21および23の銅合金材の比較評価により、第2熱処理工程の加熱保持が低温または短時間になって上記の範囲外になると、銅合金材の導電率が小さくなって40.0%IACSに達しない傾向があることが判明した。また、試料1、22および24の銅合金材の比較評価により、第2熱処理工程の加熱保持が高温または長時間になると、銅合金材の導電率が大きくなる傾向があることが判明した。また、試料1、21、22、23および24の銅合金材の比較評価により、第2熱処理工程の加熱保持条件は、銅合金材の曲げ加工性や残留スマットに影響を及ぼしにくいことが判明した。したがって、残留スマットが無く、620MPa以上の引張強さを有し、40.0%IACS以上の導電率を有し、加えて、良好な曲げ加工性を有する観点で、実用上、第2冷間圧延材に対して380℃以上480℃以下の温度で1h以上12h以下の加熱保持を行って第2熱処理材を作製する第2熱処理工程は、有効である。
<第3冷間圧延の圧延加工度の影響>
表9(表1から抽出)に示す試料1、25および26の銅合金材に着目し、第3冷間圧延工程の影響について説明する。試料1、25および26の銅合金材は、第3冷間圧延工程の圧延加工度を異ならせるようにした以外は、実質同等の製造工程を経て、実質同等の厚さを有するように作製されたものである。具体的に、第3冷間圧延工程の圧延加工度は、試料1は70%であるため、この発明で規定する60%以上80%以下の範囲内である。これに対して、試料25は50%であり、試料26は85%であるため、上記の範囲外である。
表9に示すように、引張強さは、620MPa以上である試料1(670MPa)に対して、圧延加工度を小さくして上記の範囲外とした試料25(569MPa)と圧延加工度を大きくして上記の範囲外とした試料26(580MPa)のいずれもが小さくなり、620MPa未満となった。また、導電率は、40.0%IACS以上である試料1(48.2%IACS)に対して、圧延加工度を小さくして上記の範囲外とした試料25(48.2%IACS)は同程度となり、圧延加工度を大きくして上記の範囲外とした試料26(46.0%IACS)は40.0%IACS未満にはならなかったものの試料1よりも小さくなった。また、曲げ加工性は、試料1、25および26ともに「優」となった。また、残留スマットは、試料1、25および26ともに「無」となった。
第3冷間圧延工程の圧延加工度を異ならせた試料1、25および26の銅合金材の比較評価により、第3冷間圧延工程の圧延加工度が上記の範囲外になると銅合金材の引張強さが低下して620MPaに達しない傾向があることが判明した。また、第3冷間圧延工程の圧延加工度が小さくなって上記の範囲外になっても、銅合金材の導電率に影響を及ぼしにくい傾向があることが判明した。また、第3冷間圧延工程の圧延加工度が大きくなって上記の範囲外になると、銅合金材の導電率が小さくなる傾向があることが判明した。また、第3冷間圧延工程の圧延加工度は、銅合金材の曲げ加工性や残留スマットに影響を及ぼしにくいことが判明した。したがって、残留スマットが無く、620MPa以上の引張強さを有し、40.0%IACS以上の導電率を有し、加えて、良好な曲げ加工性を有する観点で、実用上、第2熱処理材を用いて60%以上80%以下の圧延加工度で冷間圧延を行って第3冷間圧延材を作製する第3冷間圧延工程は、有効である。
<第3熱処理工程の加熱保持条件の影響>
表10(表1から抽出)に示す試料1、27、28および29の銅合金材に着目し、第3熱処理工程の影響について説明する。試料1、27、28および29の銅合金材は、第3熱処理工程の加熱保持条件を異ならせるようにした以外は、実質同等の製造工程を経て、実質同等の厚さを有するように作製されたものである。具体的に、第3熱処理工程の加熱保持条件は、試料1は430℃で約1分であるため、この発明で規定する250℃以上380℃以上で4h以下の範囲内である。これに対して、試料27はより低温の200℃であり、試料28はより高温の400℃であるため、保持時間は試料1と同等であるが、上記の範囲外である。また、試料29はより長時間の約5hであるため、保持温度は試料1と同等であるが、保持時間は上記の範囲外である。
表10に示すように、引張強さは、620MPa以上である試料1(670MPa)に対して、低温の保持として上記の範囲外とした試料27(718MPa)は大きくなったが、高温の保持として上記の範囲外とした試料28(603MPa)は小さくなって620MPa未満となった。また、導電率は、40.0%IACS以上である試料1(48.2%IACS)に対して、高温の保持として上記の範囲外とした試料28(48.2%IACS)は同程度になったが、低温の保持として上記の範囲外とした試料27(39.8%IACS)は小さくなって40.0%IACS未満となった。また、曲げ加工性は、試料1、28および29の「優」に対して、試料27は「劣」となった。また、残留スマットは、試料1、27、28および29ともに「無」となった。
第3熱処理工程の加熱保持温度を異ならせた試料1、28の銅合金材の比較評価および試料1、29の銅合金材の比較評価により、第3熱処理工程の加熱保持が高温または長時間になって上記の範囲外になると、銅合金材の引張強さが低下して620MPaに達しない傾向があることが判明した。また、試料1、27の銅合金材の比較評価により、第3熱処理工程の加熱保持が低温になると、銅合金材の引張強さが大きくなる傾向があることが判明した。また、第3熱処理工程の加熱保持温度を異ならせた試料1、27の銅合金材の比較評価により、第3熱処理工程の加熱保持が低温になって上記の範囲外になると、銅合金材の導電率が小さくなって40.0%IACSに達しない傾向があることが判明した。また、試料1、28の銅合金材の比較評価により、第3熱処理工程の加熱保持が高温になると、銅合金材の導電率が大きくなる傾向があることが判明した。また、試料1、27の銅合金材の比較評価により、第3熱処理工程の加熱保持が低温になって上記の範囲外になると、銅合金材の曲げ加工性が劣化する傾向があることが判明した。また、試料1、27、28および29の銅合金材の比較評価により、第3熱処理工程の加熱保持条件は、銅合金材の残留スマットに影響を及ぼしにくいことが判明した。したがって、残留スマットが無く、620MPa以上の引張強さを有し、40.0%IACS以上の導電率を有し、加えて、良好な曲げ加工性を有する観点で、実用上、第3冷間圧延材に対して250℃以上380℃以上の温度で4h以下の加熱保持を行って銅合金材を作製する第3熱処理工程は、有効である。
<Mnの影響>
Mnの影響を評価するために、意図的にMnを含有していない銅合金材(試料1A)および意図的にMnを含有している銅合金材(試料1B~1F)を作製した。試料1A~1Fの銅合金材は、最終的に得られる銅合金材のMn含有率を異ならせるように溶解鋳造工程で成分を調製した以外は、表1に示す試料1の場合と実質同等の製造工程を経て、実質同等の厚さを有するように作製した。そして、試料1A~1Fの銅合金材について、表1に示す試料1の場合と同様に、常温(約20℃)の引張強さ、導電率および曲げ加工性を測定・確認し、残留スマットの有無を確認した。また、上記したように、約950℃の高温環境下において、高温引張試験方法を規定するJIS-G0567:2020に準拠し、破断伸びを測定した。
表11に、試料1A~1F(本発明例)の銅合金材の組成(添加元素)、主な製造条件、および機械的特性などの情報を纏めて示す。なお、表11に示す試料1A~1Fの添加元素以外の残部は、Cuおよび不純物元素と解してよく、0.01%未満の不純物元素(Ag、Pb、NiおよびSなど)は記載を略している。
表11に示すように、意図的にMnを添加していない試料1AのMn含有率は、0.001%未満である。また、意図的にMnを添加している銅合金材のMn含有率は、試料1Bが約0.001%、試料1Cが約0.002%、試料1Dが約0.006%、試料1Eが約0.010%、および、試料1Fが約0.020%である。したがって、試料1C~1FのMn含有率は、この発明で好ましい銅合金材として上記したMn含有率(0.002%以上0.025%以下)の範囲内である。
常温環境下(約20℃)において、試料1A~1Fの引張強さ、導電率および曲げ加工性を評価し、残留スマットの有無を評価した結果、表11に示すように、引張強さは、いずれも620MPa以上であり、650~670MPaの範囲内であった。そして、Mnが0.002%以下の場合(試料1A~1C)に660MPa未満となり、Mnが0.002%を超える場合(試料1D~1F)に660MPa以上となった。これより、引張強さは、Mn含有による実質的な影響を受けにくく、0.002%以上0.025%以下のMnを含有しても620MPa以上になる可能性が高い。また、試料1A~1Fの導電率は、いずれも40%IACS以上であり、46.0~47.2%IACSの範囲内であった。これより、導電率は、Mn含有による実質的な影響を受けにくく、0.002%以上0.025%以下のMnを含有しても40%IACS以上になる可能性が高い。また、試料1A~1Fの曲げ加工性は、いずれも「優」となった。これより、曲げ加工性は、Mn含有による実質的な影響を受けにくく、0.002%以上0.025%以下のMnを含有しても「優」になる可能性が高い。また、試料1A~1Fの残留スマットは、いずれも「無」となった。これより、残留スマットは、Mn含有による実質的な影響を受けにくく、0.002%以上0.025%以下のMnを含有しても「無」である可能性が高い。
また、高温環境下(約950℃)において、試料1A~1Fの破断伸びを評価した。その結果、表11に示すように、試料1A~1Fの破断伸びは概ね20%以上であった。具体的には、破断伸びは、Mnが0.001%以下の場合(試料1A、1B)に20%未満になる可能性があり、Mnが0.002%以上の場合(試料1C~1F)に確実に20%を超えて、Mnが0.006%以上の場合(試料1D~1F)に30%以上になることが分った。また、破断伸びは、Mnが0.010%の場合(試料1E)に最大の37.0%になり、Mnが0.020%の場合(試料1F)に低下して32.0%になることが分った。これより、破断伸びは、Mn含有による影響を受けやすく、0.002%以上0.025%以下のMnの含有により確実に20%を超えて、0.005%以上0.020%以下のMnの含有により30%以上になる可能性が高い。
上記したように、残留スマットが無く、常温環境下(約20℃)で620MPa以上の引張強さを有するとともに40.0%IACS以上の導電率を有し、加えて、良好な曲げ加工性を有し、さらに、高温環境下(約950℃)で20%を超える破断伸びを有する観点で、実用上、上記範囲でFeとPとZnとSnとを含有し、さらに上記範囲でMnを含有する銅合金材は、有効である。
次に、表11に示すFe、P、SnおよびMnの各含有率(実測値)に基いて、MI値の算定を試みた。MI値は、上記したように、(Mn含有率+不純物元素の総含有率)/(Fe含有率+P含有率+Sn含有率)×100で求まる値である。FeとPとSnの合計の含有率は、2.82%である。たとえば、不純物元素の総含有率が0.001%の場合、表11に示す実測値に基づき、Mn含有率の0%(試料1A)から0.020%(試料1F)への増加に比例して、MI値は0.04(試料1A)から0.74(試料1F)へと大きくなることを確認することができる。しかし、試料1A~1Fにおいて、幾つかの不純物元素の含有率は0.01%未満であるが、全ての不純物元素を実測するのは現実的ではなく、不純物元素の総含有率の正確な値は不明である。そこで、不純物元素の総含有率を仮定して、表11に示す実測値に基づき、Mn含有率とMI値と破断伸びとの関係の予測を試みた。
具体的には、不純物元素の総含有率を、実用的に妥当と考えられる不純物元素の総含有率を0.010%(低純度)、0.005%(普通純度)および0.001%(高純度)の3条件とし、Mn含有率(実測値)と、表11に示す実測値に基づくMI値(条件付き計算値)との関係性を示す第1モデルを導出し、さらに、MI値(条件付き計算値)と破断伸び(実測値)との関係性を示す第2モデルを導出した。次いで、第1モデルを利用してMn含有率の範囲に対応するMI値の範囲を予測し、さらに、第2モデルを利用してMI値の範囲に対応する破断伸びの範囲を予測した。第1モデルは、実用性および容易性を考慮し、汎用の表計算ソフト(Microsoft製Excel)を用いて、Mn含有率(実測値)とMI値(条件付き計算値)とのグラフ(散布図)を作成し、線形(1次)近似式を求めて回帰モデルとして利用した。
第1モデルでは、Mn含有率(設定値)が独立変数xとなり、MI値(予測値)が第1従属変数pとなる。予測の区間は、0.000≦x≦0.030である。同様に、第2モデルは、MI値(条件付き計算値)と破断伸び(実測値)とのグラフ(散布図)を作成し、多項(2次)近似式を求めて回帰モデルとして利用した。第2モデルでは、第1モデルの第1従属変数pのMI値(予測値)が独立変数となり、破断伸び(予測値)が第2従属変数yとなる。第1モデルおよび第2モデルの信頼性は、機械学習の分野の考え方を参考し、決定係数(R2)が0.7以上(R2≦1)であれば無条件で「信頼性あり」と判断した。
表12~表13に、表11に示す実測値に基づいて、不純物元素の総含有率を0.010%(低純度)、0.005%(普通純度)および0.001%(高純度)の3条件とした場合のMn含有率(設定値)とMI値(予測値)と破断伸び(予測値)との予測結果を示す。なお、圧延加工性などへの影響が特に大きいSが不純物元素の主体である場合、一般的な製造原料のS含有率が0.001%~0.005%程度と考えられことや、実測が簡易で実用性が高い観点で、不純物元素の総含有率を0.001%~0.005%から選択的に設定して予測することもできる。また、不純物元素の主体が上記したAg、Pb、NiおよびSである場合、Ag、Pb、NiおよびSの合計の含有率を不純物元素の総含有率に設定して予測することもできる。
表12に示すように、FeとPとSnの合計の含有率(2.82%)に対する不純物元素の総含有率が0.010%(低純度)の場合、第1モデルによる予測結果は、たとえば、xが0.000のときにpが0.37、xが0.002のときにpが0.44、xが0.018のときにpが1.00、および、xが0.025のときにpが1.25となった。そして、第2モデルによる予測結果は、たとえば、pが0.37のときにyが21.1、pが0.44のときにyが25.5、pが1.00のときにyが34.0、および、pが1.25のときにyが22.6となった。なお、第1モデルのR2(0.9895)および第2モデルのR2(0.8590)は、いずれも信頼性の目安とした0.7よりも十分に大きい。したがって、第1モデルおよび第2モデルの予測結果は、外れ値の影響を大きく受けている可能性が小さいと考えられるため、「信頼性あり」と判断することができる。
これより、xが0.000でもyが20以上になる、ということが分る。また、xが0.018よりも大きくなってpが1.00よりも大きくなるとyが小さくなる、ということが分る。また、yが最大(35.7)になるときのpは0.72でxは0.010である、ということが分る。よって、Mn含有率を0.002%~0.025%に調製すれば、MI値が0.44~1.25となって、25.5%~22.6%(最大35.7%)の破断伸びを得ることができる。また、Mn含有率を0.010%~0.018%に調製すれば、MI値が0.72~1.00となって、34.0%~35.7%のより大きな破断伸びを得ることができる。よって、低純度のものにMnを含有させる場合、実用性や安定性などを考慮し、MI値を、たとえば、0.45以上(好ましくは、0.50以上)1.1以下(好ましくは、1.0以下、より好ましくは0.9以下)になるように調製すればよい。
表13に示すように、FeとPとSnの合計の含有率(2.82%)に対する不純物元素の総含有率が0.005%(中純度)の場合、第1モデルによる予測結果は、たとえば、xが0.000のときにpが0.19、xが0.002のときにpが0.26、xが0.023のときにpが1.00、および、xが0.025のときにpが1.07となった。そして、第2モデルによる予測結果は、たとえば、pが0.19のときにyが20.8、pが0.26のときにyが25.4、pが1.00のときにyが26.6、および、pが1.07のときにyが22.3となった。なお、第1モデルのR2(0.9950)および第2モデルのR2(0.8712)は、いずれも信頼性の目安とした0.7よりも十分に大きい。したがって、第1モデルおよび第2モデルの予測結果は、外れ値の影響を大きく受けている可能性が小さいと考えられるため、「信頼性あり」と判断することができる。
これより、xが0.000でもyが20以上になる、ということが分る。また、xが0.010よりも大きくなってpが0.54よりも大きくなるとyが小さくなる、ということが分る。また、yが最大(36.0)になるときのpは0.54でxは0.010である、ということが分る。よって、Mn含有率を0.002%~0.025%に調製すれば、MI値が0.26~1.07となって、25.4%~22.3%(最大36.0%)の破断伸びを得ることができる。また、Mn含有率を0.006%~0.020%に調製すれば、MI値が0.40~0.89となって、31.8%~36.0%のより大きな破断伸びを得ることができる。よって、普通純度のものにMnを含有させる場合、実用性や安定性などを考慮し、MI値を、たとえば、0.30以上(好ましくは、0.35以上)1.1以下(好ましくは、1.0以下、より好ましくは0.9以下)になるように調製すればよい。
表14に示すように、FeとPとSnの合計の含有率(2.82%)に対する不純物元素の総含有率が0.001%の場合、第1モデルによる予測結果は、たとえば、xが0.000のときにpが0.04、xが0.0003のときにpが0.05、xが0.002のときにpが0.11、xが0.025のときにpが0.93、および、xが0.027のときにpが1.00となった。そして、第2モデルによる予測結果は、たとえば、pが0.04のときにyが20.5、pが0.05のときにyが21.2、pが0.11のときにyが25.3、pが0.93のときにyが22.0、および、pが1.00のときにyが16.4となった。なお、第1モデルのR2(0.9980)および第2モデルのR2(0.8808)は、いずれも信頼性の目安とした0.7よりも十分に大きい。したがって、第1モデルおよび第2モデルの予測結果は、外れ値の影響を大きく受けている可能性が小さいと考えられるため、「信頼性あり」と判断することができる。
これより、xが0.000でもyが20以上になる、ということが分る。また、xが0.027以上になるとyが20未満になる、ということが分る。また、xが0.010よりも大きくなってpが0.39よりも大きくなるとyが小さくなる、ということが分る。また、yが最大(36.3)になるときのpは0.39でxは0.010である、ということが分る。よって、Mn含有率を0.002%~0.025%に調製すれば、MI値が0.11~0.93となって、25.3~22.0%(最大36.3%)の破断伸びを得ることができる。また、Mn含有率を0.006%~0.020%に調製すれば、MI値が0.25~0.75となって、31.8%~36.3%のより大きな破断伸びを得ることができる。よって、高純度のものにMnを含有させる場合、実用性や安定性などを考慮し、MI値を、たとえば、0.15以上(好ましくは、0.20以上)0.9以下(好ましくは、0.85以下、より好ましくは0.80以下)になるように調製すればよい。
以上より、銅合金材の銅合金組織を構成する添加元素(Fe、P、ZnおよびSn)の含有率を特定の範囲内に制御し、図1に示す銅合金材の製造工程において、第1熱処理工程、第2冷間圧延工程、第2熱処理工程、第3冷間圧延工程および第3熱処理工程の製造条件を特定の範囲内に制御することによって、C1940などのCu-Fe-Zn-P系の銅合金材と同様に残留スマットの問題がなく、C7025などのCu-Ni-Si系の銅合金材と略同等の引張強さと導電率を有する、銅合金材が得られることが確認された。また、上記添加元素の含有率と上記製造条件をより適切に制御することによって、曲げ加工性の良い銅合金材が得られることが確認された。また、上記4種の添加元素とともにMnを添加し、上記4種の添加元素およびMnの含有率を適切に制御することによって、高温での破断伸びが良好になり、圧延加工性の良い、特に熱間圧延の段階で割れにくい、銅合金材が得られることが確認された。