JP7525291B2 - アルミニウム基複合線材及びそれを用いた電線並びにアルミニウム基複合線材の製造方法 - Google Patents

アルミニウム基複合線材及びそれを用いた電線並びにアルミニウム基複合線材の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、アルミニウム基複合線材及びそれを用いた電線並びにアルミニウム基複合線材の製造方法に関する。
自動車用ワイヤーハーネス等に用いられる電線の導体材料としては、主として銅が使用されてきたが、導体の軽量化という要請からアルミニウムも注目されている。銅は、材料としての引張強さ及び導電性の点で優れているが、重量が大きいという問題があるのに対し、アルミニウムは軽量ではあるが、機械的強度が不足するという課題が残されている。この課題を解決するため、アルミニウムにマグネシウムやシリコンなどを添加したアルミニウム合金が用いられることがある。ただ、添加元素はアルミニウムと固溶体を形成して電気抵抗を増加させるため、添加元素種及び添加量に制限があり、機械的強度を十分に向上させることができない。そのため、アルミニウムと他の材料を複合化することにより、電気抵抗の増加を抑制しつつ機械的強度を向上させる方法が検討されている。
特許文献1では、アルミニウム製の母材にカーボンナノチューブを分散させることで、機械的強度と導電性とを両立した線材を開示している。具体的には、特許文献1は、アルミニウム製の内層と、内層の外周に設けられ、内層を被覆する外層とを具備する線材を開示している。そして、外層は、アルミニウム製の母材に、カーボンナノチューブが単体または凝集体で分散しており、線材の長手方向に垂直な断面での、単体または凝集体のサイズが、線材の径の1%以下である。
特開2015-176733号公報
特許文献1では、アルミニウム母材に分散しているカーボンナノチューブの単体または凝集体のサイズを線材の径の1%以下に制御しているものの、カーボンナノチューブとアルミニウム母材とを反応させていない。そのため、カーボンナノチューブの凝集体の内部に存在する気泡が欠陥となり、線材の伸びや導電率が低下してしまう恐れがあった。また、カーボンナノチューブとアルミニウム母材との結合力が不十分であるため、線材の強度も十分に向上しないという問題があった。
本発明は、このような従来技術が有する課題に鑑みてなされたものである。そして本発明の目的は、機械的特性及び導電性に優れたアルミニウム基複合線材及びアルミニウム基複合線材を用いた電線、並びにアルミニウム基複合線材の製造方法を提供することにある。
本発明の態様に係るアルミニウム基複合線材は、アルミニウム母相と、アルミニウム母相の内部に分散し、かつ、一部又は全ての添加物がアルミニウム母相におけるアルミニウムと反応することにより形成された分散体と、を有する。アルミニウム基複合線材において、分散体の含有量は、炭素量換算で0.25質量%以上2.00質量%以下である。そして、アルミニウム基複合線材の引張強さσUTSは、下限値が119.9MPaを超える数値であり、上限値が下記式(1)又は式(2)で表される数値未満である。
σUTS=92.7ε+129.1 (但し、0<ε<1)・・・(1)
σUTS=9.26ε+212.53 (但し、1≦ε)・・・(2)
[式(1)及び(2)中、ε=2×ln(d/d)であり、dは冷間伸線前の線材の線径(mm)を示し、dは冷間伸線後の線材の線径(mm)を示す。]
アルミニウム基複合線材において、添加物は、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノファイバー、カーボンブラック、炭化ホウ素及び窒化ホウ素からなる群より選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。
本発明の他の態様に係る電線は、上述のアルミニウム基複合線材を備える。
本発明のさらに他の態様に係るアルミニウム基複合線材の製造方法は、純度が99質量%以上のアルミニウム粉末と、添加物とを混合し、球状又は扁平状のアルミニウム粉末の周囲に添加物が分散した混合粉末を得る工程と、混合粉末を圧粉成形することにより、圧粉体を得る工程と、圧粉体を600~660℃の温度で加熱することにより、一部又は全ての添加物をアルミニウム粉末におけるアルミニウムと反応させ、アルミニウム母相の内部に分散体が分散した焼結体を得る工程と、焼結体を押出成形することにより、棒線材を得る工程と、棒線材を冷間伸線することにより、細線材を得る工程と、細線材を焼鈍する工程と、を有する。焼結体における分散体の含有量は、炭素量換算で0.25質量%以上2.00質量%以下である。そして、下記式(3)で表される冷間加工度εが0<ε<5である場合、細線材の焼鈍温度は200~600℃であり、冷間加工度εが5≦ε≦7である場合、細線材の焼鈍温度は200~400℃である。
ε=2×ln(d/d) ・・・(3)
[式(3)中、dは棒線材の線径(mm)を示し、dは細線材の線径(mm)を示す。]
アルミニウム基複合線材の製造方法において、添加物は、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノファイバー、カーボンブラック、炭化ホウ素及び窒化ホウ素からなる群より選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。
本発明によれば、機械的特性及び導電性に優れたアルミニウム基複合線材及びアルミニウム基複合線材を用いた電線、並びにアルミニウム基複合線材の製造方法を提供することができる。
本実施形態に係るアルミニウム基複合線材の製造方法を示すフローチャートである。 実施例1において、焼鈍処理を施していない細線材の引張強さと、冷間加工度及び細線材の線径との関係を示すグラフである。 実施例1における冷間加工度εが2.0である細線材に関し、未焼鈍の細線材と600℃で焼鈍した細線材に対して引張試験を実施した際の応力-ひずみ曲線を示すグラフである。 実施例1における冷間加工度εが3.7である細線材に関し、未焼鈍の細線材と300℃、400℃、500℃、600℃で焼鈍した細線材に対して引張試験を実施した際の応力-ひずみ曲線を示すグラフである。 実施例1における冷間加工度εが4.9である細線材に関し、未焼鈍の細線材と300℃、450℃、600℃で焼鈍した細線材に対して引張試験を実施した際の応力-ひずみ曲線を示すグラフである。 実施例1における冷間加工度εが7.0である細線材に関し、未焼鈍の細線材と300℃、450℃、600℃で焼鈍した細線材に対して引張試験を実施した際の応力-ひずみ曲線を示すグラフである。 実施例1において、冷間加工度εがそれぞれ2.0、3.7、4.9及び7.0である細線材における、焼鈍温度と引張強さとの関係を示すグラフである。 実施例1において、冷間加工度εがそれぞれ2.0、3.7、4.9及び7.0である細線材における、焼鈍温度と伸びとの関係を示すグラフである。 実施例1において、冷間加工度εがそれぞれ2.0、3.7、4.9及び7.0である細線材における、焼鈍温度と導電率との関係を示すグラフである。 実施例2において、分散体の含有量が炭素量換算で0.25質量%であり、冷間加工度εがそれぞれ2.0、3.7、4.9及び7.0である細線材の、焼鈍温度と引張強さとの関係を示すグラフである。 実施例2において、分散体の含有量が炭素量換算で0.4質量%であり、冷間加工度εがそれぞれ2.0、3.7、4.9及び7.0である細線材の、焼鈍温度と引張強さとの関係を示すグラフである。 実施例2において、分散体の含有量が炭素量換算で1.0質量%であり、冷間加工度εがそれぞれ2.0、3.7、4.9及び7.0である細線材の、焼鈍温度と引張強さとの関係を示すグラフである。 実施例2において、分散体の含有量が炭素量換算で2.0質量%であり、冷間加工度εがそれぞれ2.0、3.7、4.9及び7.0である細線材の、焼鈍温度と引張強さとの関係を示すグラフである。 実施例2において、分散体の含有量が炭素量換算で0.25質量%、0.4質量%、1.0質量%、2.0質量%であり、かつ、焼鈍処理を施していない細線材に関し、冷間加工度εと引張強さとの関係を示すグラフである。
以下、図面を用いて本実施形態に係るアルミニウム基複合線材及びアルミニウム基複合線材を用いた電線、並びにアルミニウム基複合線材の製造方法について詳細に説明する。
[アルミニウム基複合線材]
本実施形態のアルミニウム基複合線材は、アルミニウム母相と、当該アルミニウム母相の内部に分散し、かつ、一部又は全ての添加物がアルミニウム母相におけるアルミニウムと反応することにより形成された分散体とを有する。
従来の溶融法で作製された純アルミニウム材料は、引張強さが85MPa程度しかなかった。さらに、強度を高めるために炭素を添加したとしても、炭素はアルミニウムとの濡れ性が悪いため、アルミニウム中に均一に分散させることは困難であった。これに対し、本実施形態のアルミニウム基複合線材では、アルミニウム母相の内部に、添加物がアルミニウムと反応することにより形成された分散体を高分散させ、アルミニウムの結晶粒を微細化している。このように、アルミニウムの凝固組織を微細で均一にした複合材料を使用することにより、線材の強度を高めることが可能となる。
アルミニウム基複合線材におけるアルミニウム母相としては、純度が99質量%以上のアルミニウムを用いることが好ましい。また、アルミニウム母相は、日本産業規格JIS H2102(アルミニウム地金)に規定される純アルミニウム地金のうち、1種アルミニウム地金以上の純度のものを用いることも好ましい。具体的には、純度が99.7質量%の1種アルミニウム地金、純度が99.85質量%以上の特2種アルミニウム地金、及び純度が99.90質量%以上の特1種アルミニウム地金が挙げられる。アルミニウム母相としてこのようなアルミニウムを使用することにより、得られるアルミニウム基複合線材の導電性を高めることが可能となる。
なお、アルミニウム母相は、原材料及び製造段階にて混入される不可避不純物が含まれていてもよい。アルミニウム母相に含まれる可能性がある不可避不純物としては、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、ルビジウム(Pb)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、スズ(Sn)、バナジウム(V)、ガリウム(Ga)、ホウ素(B)、ナトリウム(Na)などが挙げられる。これらはアルミニウム基複合線材の効果を阻害せず、さらにアルミニウム基複合線材の特性に格別な影響を与えない範囲で不可避的に含まれるものである。なお、使用するアルミニウム地金に予め含有されている元素も、ここでいう不可避不純物に含まれる。不可避不純物の量としては、アルミニウム基複合線材中の合計で0.07質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以下であることがより好ましい。
アルミニウム基複合線材では、アルミニウム母相の内部に、アルミニウムと添加物とが反応することにより形成された分散体が高分散している。つまり、当該分散体は、焼結により、添加物がアルミニウム母相におけるアルミニウムと結合することにより形成されたものである。このような添加物は特に限定されないが、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノファイバー、カーボンブラック、炭化ホウ素(BC)及び窒化ホウ素(BN)からなる群より選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。このような添加物はアルミニウムと容易に反応し、アルミニウムの結晶粒を微細化することが可能となる。
アルミニウム母相中に分散している分散体の形状は特に限定されないが、分散体の形状は棒状又は針状であることが好ましい。分散体が棒状又は針状であることにより、アルミニウム母相の内部での分散性が向上し、アルミニウム基複合線材の結晶粒をより微細化することが可能となる。なお、分散体が棒状又は針状である場合、長さ(L)と直径(D)との比は、長さ(L)/直径(D)=1~30であることが好ましい。また、長さ(L)は0.01nm~500nmであることが好ましく、直径(D)は0.01nm~200nmであることが好ましい。分散体の長さと直径の長さを上記のような範囲とすることにより、アルミニウム基複合線材の機械的強度を十分に向上させることができる。なお、分散体の長さと直径は、アルミニウム基複合線材の断面を電子顕微鏡で観察することにより測定することができる。
アルミニウム母相中に分散している分散体の平均粒子径は、20nm以下であることが好ましい。分散体の平均粒子径を20nm以下とすることにより、結晶粒をさらに微細化して、アルミニウム基複合線材の強度を向上させることができる。なお、アルミニウム母相中に分散している分散体の平均粒子径の下限は特に限定されないが、0.4nmであることが好ましい。また、強度向上の観点から、アルミニウム母相中に分散している分散体の平均粒子径は10nm以下であることが好ましい。なお、分散体の平均粒子径(D50)は、体積基準における粒度分布の累積値が50%のときの粒子径を表し、例えば、レーザ回折・散乱法により測定することができる。また、分散体の平均粒子径は、例えば、電子顕微鏡で観察して測定した粒子径を平均化することで求めることもできる。
アルミニウム基複合線材では、アルミニウム母相の内部に、棒状又は針状の炭化アルミニウム(Al)からなる分散体が高分散していることがより好ましい。なお、この炭化アルミニウムは、棒状又は針状の炭素材料が、焼結により、アルミニウム母相におけるアルミニウムと結合することにより形成されたものである。このような炭素材料としては、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、及びカーボンナノファイバーからなる群より選ばれる少なくとも一種を使用することができ、この中でもカーボンナノチューブが特に好ましい。
アルミニウム母相中に分散している棒状又は針状の炭化アルミニウムは、上述のように、炭素材料とアルミニウム母相におけるアルミニウムとの反応により形成されている。ここで、カーボンナノチューブ等の炭素材料は、一部又は全てがアルミニウム母相中のアルミニウムと反応している。そして、本実施形態では、添加物である炭素材料の全てがアルミニウム母相中のアルミニウムと反応し、炭化アルミニウムに組成変化していることが最も好ましい。しかし、例えば、カーボンナノチューブが球状に凝集した部分がアルミニウム母相中に残存している場合、その凝集の内部のカーボンナノチューブはアルミニウム母相と接触していない。そのため、アルミニウム母相中にカーボンナノチューブのまま残存してしまう可能性がある。ただ、アルミニウム基複合線材の強度を向上させる観点から、添加物である炭素材料の95質量%以上がアルミニウム母相中のアルミニウムと反応していることが好ましく、炭素材料の98質量%以上が反応していることがより好ましい。そして、添加物である炭素材料の全てがアルミニウム母相中のアルミニウムと反応していることが特に好ましい。
アルミニウム基複合線材において、隣接する分散体の間隔は210nm以下であることが好ましい。分散体の間隔が210nm以下であることにより、アルミニウム母相の内部における分散体の分散性を高め、アルミニウムの結晶粒を微細にすることができることから、アルミニウム基複合線材の強度を向上させることが可能となる。また、アルミニウム基複合線材において、隣接する分散体の間隔は200nm以下であることがより好ましい。なお、本明細書において、分散体の間隔とは、隣接する分散体表面の最近接距離のことをいう。
隣接する分散体の間隔xは、アルミニウム基複合線材の断面を電子顕微鏡で観察し、直接測定して平均化することで求めることができる。また、隣接する分散体の間隔xは、以下の式(I)に代入することにより算出することも可能である。
Figure 0007525291000001
式(I)において、Xは隣接する分散体の間隔(nm)、rは分散体の平均粒子径(nm)、fνは分散体の含有量(質量比)を表す。
アルミニウム基複合線材において、分散体の含有量は、炭素量換算で0.25質量%以上2.00質量%以下であることが好ましい。分散体の含有量を0.25質量%以上とすることにより、アルミニウム基複合線材は十分な強度を得ることができる。ただ、分散体の含有量が2.00質量%を超える場合、アルミニウム母相中に分散体が略均一に分散するのが困難となり、分散体や添加物の凝集物が生じる場合がある。そして、アルミニウム母相中に分散体や添加物の凝集物が生じた場合、後述するように、アルミニウム粉末と添加物の圧粉体からなる棒線材を冷間伸線する際、凝集物が破壊の起点となり、冷間伸線が困難となる可能性がある。そのため、分散体の含有量は2.00質量%以下であることが好ましい。
ここで、Extreme Mechanics Letters; Volume 8, September 2016, Pages 245-250では、アルミニウムにカーボンナノチューブを分散させた場合、カーボンナノチューブの含有量が増加するに伴い、アルミニウム-カーボンナノチューブ複合材料の強度が向上することが報告されている。さらに、カーボンナノチューブの含有量が4.0体積%(3.25質量%)までは、当該含有量の増加に伴い、複合材料の強度が向上することも報告されている。そのため、分散体の含有量を炭素量換算で0.25質量%以上とし、さらに含有量を増加させることで、アルミニウム基複合線材の強度を向上させることができる。
なお、アルミニウム基複合線材の導電率を高める観点から、分散体の含有量は、炭素量換算で0.72質量%以下であることがより好ましい。また、アルミニウム基複合線材の引張強さを高める観点から、分散体の含有量は、炭素量換算で0.50質量%以上であることがより好ましい。
アルミニウム基複合線材の加工材において、アルミニウム母相の結晶粒径は2μm以下であることが好ましい。アルミニウム母相の結晶粒径が2μm以下まで微細化されていることにより、アルミニウム基複合線材の強度や靱性を高めることが可能となる。なお、アルミニウム母相の結晶粒径は、線分法により求めることができる。
本実施形態のアルミニウム基複合線材は、後述するように、(1)アルミニウム粉末と添加物とを混合して混合粉末を得る工程、(2)混合粉末を圧粉成形して圧粉体を得る工程、(3)圧粉体を加熱して、アルミニウム母相に分散体を分散させる工程、(4)分散体が分散した圧粉体を押出成形して棒線材を得る工程、(5)棒線材を冷間伸線して細線材を得る工程、(6)細線材を焼鈍する工程を経ることにより得ることができる。そして、このようにして得られたアルミニウム基複合線材の引張強さσUTSは、下限値が119.9MPaを超える数値であり、上限値が下記式(1)又は式(2)で表される数値未満であることが好ましい。
σUTS=92.7ε+129.1 (但し、0<ε<1)・・・(1)
σUTS=9.26ε+212.53 (但し、1≦ε)・・・(2)
式(1)及び(2)中、冷間加工度であるεは2×ln(d/d)であり、dは冷間伸線前の線材(棒線材)の線径(mm)を示し、dは冷間伸線後の線材(細線材)の線径(mm)を示す。
一般に、冷間加工材は、加工歪みの導入に伴い強度が向上するが、その背反として延性が低下してしまう。そのため、アルミニウム基複合線材の強度と延性を両立する観点から、適切な加工歪みの導入処理と、その後の焼鈍処理を施す必要がある。そして、アルミニウム基複合線材において、引張強さの下限値は119.9MPaを超える数値とし、上限値は式(1)又は式(2)で表される数値未満に制御することが好ましい。引張強さをこのような範囲に制御することにより、延性の過度な低下を抑制して、強度と延性を両立した複合線材を得ることができる。また、アルミニウム基複合線材において、引張強さの下限値は、130MPaであることがより好ましい。なお、本明細書において、線材の引張強さは、JIS C3002(電気用銅線及びアルミニウム線試験方法)に準拠して測定することができる。
このように、本実施形態のアルミニウム基複合線材は、アルミニウム母相と、アルミニウム母相の内部に分散し、かつ、一部又は全ての添加物がアルミニウム母相におけるアルミニウムと反応することにより形成された分散体と、を有する。アルミニウム基複合線材における分散体の含有量は、炭素量換算で0.25質量%以上2.00質量%以下である。そして、アルミニウム基複合線材の引張強さσUTSは、下限値が119.9MPaを超える数値であり、上限値が上記式(1)又は式(2)で表される数値未満である。
本実施形態のアルミニウム基複合線材のように、アルミニウム母相にナノサイズの分散体を略均一に分散させることで、アルミニウムの結晶粒が微細化するため、複合線材の強度を高めることができる。また、アルミニウム基複合線材中の分散物はナノサイズであり、均一分散しているため、導電性が純アルミニウムよりも著しく低下しない。そのため、当該アルミニウム基複合線材は高い導電性を有し、高温環境下でも使用することができる。さらに、アルミニウム基複合線材は、引張強さが所定の範囲内であるため、強度と延性を両立することが可能となる。
[電線]
本実施形態に係る電線は、上記アルミニウム基複合線材を備える。アルミニウム基複合線材は、上述のように高い機械的強度及び導電性を備えているため、電線の導体として使用することができる。
本実施形態の電線は、アルミニウム基複合線材からなる素線を含む導体(例えば、撚線)と、その導体の外周に設けられる被覆層とを備えるものであればよい。そのため、その他の具体的な構成及び形状は、何ら限定されることはない。例えば、素線が丸線であって自動車用の電線に使用する場合、直径(すなわち、最終線径)は0.07mm~1.5mm程度であることが好ましく、0.14mm~0.5mm程度であることがより好ましい。
被覆層に用いられる樹脂の種類は、架橋ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂や、塩化ビニルなど公知の絶縁樹脂を任意に使用できる。また、被覆層の厚さは適宜定めることができる。この電線は、電気又は電子部品、機械部品、車両用部品、建材などの様々な用途に使用することができるが、なかでも自動車用電線として好ましく使用できる。
[アルミニウム基複合線材の製造方法]
次に、本実施形態のアルミニウム基複合線材の製造方法について説明する。
図1に示すように、まず、アルミニウム基複合線材の原料であるアルミニウム粉末と添加物とを秤量する。アルミニウム粉末としては、上述のように、導電性を高めるために、純度が99質量%以上のアルミニウムを使用することが好ましい。また、添加物としては、上述のように、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノファイバー、カーボンブラック、炭化ホウ素(BC)及び窒化ホウ素(BN)等を用いることが好ましい。
秤量工程では、得られるアルミニウム基複合線材において、分散体の含有量が炭素量換算で0.25質量%以上2.00質量%以下となるように、アルミニウム粉末と添加物とを秤量する。
そして、秤量したアルミニウム粉末と添加物とを混合し、混合粉末を調製する。アルミニウム粉末と添加物との混合方法は特に限定されず、ミリングによる乾式法及びアルコール等で混合する湿式法の少なくともいずれか一方により混合することができる。
ここで、混合粉末は、隣接する添加物の間隔を300nm以下にすることが好ましい。隣接する添加物の間隔を300nm以下とすることにより、以下の圧粉成形において、隣接する分散体の間隔を210nm以下とすることができる。
隣接する添加物の間隔は、混合方法を制御することにより調整することができる。例えば、混合粉末をミリングにより混合する場合、総衝突エネルギーを所定の値以上にしてミリングすることにより、隣接する添加物の間隔を小さくすることができる。なお、ミリングの衝突エネルギーは、以下の式(II)を用いて算出することができる。
=(P×t×PW/K) (II)
式(II)において、Pは総衝突エネルギー(kJ/kg)、Pは単位時間あたりに加える衝突エネルギー(kJ/(s・kg))をそれぞれ表す。また、tはミリング時間(s)、PWは粉末の重量(kg)、Kはポットの相対回転速度(自転速度-公転速度)(rpm)をそれぞれ表す。
ミリングの総衝突エネルギーは、1500kJ/kg以上5000kJ/kg以下であることが好ましい。ミリングの総衝突エネルギーを1500kJ/kg以上とすることにより、隣接する添加物の間隔を小さくすることができ、アルミニウム基複合線材における分散体の分散性を向上させることができる。また、ミリングの総衝突エネルギーを5000kJ/kg以下とすることにより、ミリングによるアルミニウム基複合線材の強度低下を低減することができる。なお、ミリングの総衝突エネルギーは、2000kJ/kg以上4000kJ/kg以下であることがより好ましい。
ミリングの自転及び公転速度は、例えば200rpm~250rpmとすることが好ましい。さらに、ミリングの回転時間は5分~10分であることが好ましい。また、粉末量は380g~800gであり、衝突エネルギーを付与する直径5mm~10mmのジルコニアボールが約3kg同封されることが好ましい。ミリングの条件を上記のような範囲とすることにより、ミリングの総衝突エネルギーを最適な範囲とすることができる。
次に、混合したアルミニウム粉末及び添加物を圧粉成形することにより、圧粉体を作製する。この圧粉成形工程では、上記混合粉末に圧力を加えて押し固めることにより、圧粉体を作製する。成形工程では、混合粉末中のアルミニウム粉末と添加物との隙間が最小になるように混合粉末が押し固められることが好ましい。
圧粉体の成形工程で混合粉末に圧力を加える方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、筒状の成形容器に混合粉末を投入した後、この容器内の混合粉末を加圧する方法が挙げられる。また、混合粉末に加える圧力は特に限定されず、アルミニウム粉末と添加物との隙間が最小になるように適宜調整することが好ましい。
混合粉末に加える圧力としては、例えば、アルミニウム粉末を良好に成形することが可能な400MPa~600MPaとすることができる。また、成形工程で混合粉末に圧力を加える処理は、例えば常温下で行うことができる。さらに、成形工程で混合粉末に圧力を加える時間は、例えば5~60秒とすることができる。
次に、得られた圧粉体を焼結することにより、一部又は全ての添加物をアルミニウム粉末におけるアルミニウムと反応させ、アルミニウム母相の内部に炭化アルミニウムからなる分散体を分散させる。焼結工程では、アルミニウム粉末と添加物とが反応して分散体となる必要があることから、圧粉体の焼結温度は600℃以上とする。焼結温度が600℃未満の場合には、アルミニウム粉末と添加物との結合反応が十分に進行せず、得られるアルミニウム基複合線材の強度が不十分となるおそれがある。なお、焼結温度の上限は特に限定されないが、アルミニウムの溶融温度である660℃以下とすることが好ましく、630℃以下とすることがより好ましい。
圧粉体の焼結時間は特に限定されず、アルミニウム粉末と添加物とが反応する時間とすることが好ましい。具体的には、圧粉体の焼結時間は、例えば0.5~5時間とすることが好ましい。また、圧粉体の焼結雰囲気は、アルミニウム粉末及び添加物の酸化を抑制するために、真空又は不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。このような焼結工程により、アルミニウム母相の内部に分散体が分散した焼結体を得ることができる。
次いで、焼結工程で得られた焼結体を熱間押出加工することにより、棒線材を得る。棒線材は、外観が棒状であり、断面が円形状である線材であることが好ましい。焼結体を押出加工する方法は、このような棒線材を得ることができるならば特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、筒状の押出加工装置に焼結体を投入した後、焼結体を加熱して押し出す方法が挙げられる。焼結体の加熱は、焼結体が押出可能な温度である300℃以上となるように行うことが好ましい。
次に、熱間押出工程で得られた棒線材を冷間伸線することにより、細線材を得る。冷間伸線の方法は、細線材を得ることができるならば特に限定されず、公知の方法を用いることができる。また、冷間伸線は、室温で行うことができる。
ここで、棒線材を冷間伸線する際、以下の式(3)で表される冷間加工度εは、0<ε≦7であることが好ましい。
ε=2×ln(d/d) ・・・(3)
式(3)中、dは棒線材の線径(mm)を示し、dは細線材の線径(mm)を示す。
棒線材を冷間伸線して加工歪みを導入することにより、強度を高めることができるが、その背反として延性が低下してしまう。そのため、棒線材に対して、適切な加工歪みの導入処理と、その後の焼鈍処理を施す必要がある。本実施形態の製造方法では、得られるアルミニウム基複合線材の強度と延性を両立する観点から、冷間加工度εは0<ε≦7であることが好ましい。冷間加工度εが7を超える場合、その後の焼鈍処理により、顕著な強度低下が発生し、分散体を添加したことによる強度向上効果が失われる場合がある。
アルミニウム基複合線材の強度と延性を両立する観点から、冷間加工度εは、0<ε<5であることがより好ましく、2≦ε<5であることがさらに好ましい。冷間加工度εを5未満とすることにより、冷間加工度εが7を超える場合に現れる焼鈍後の顕著な引張強さの低下をより抑制することができる。
なお、冷間加工度εが5.0以上となるように冷間伸線を実施する場合には、冷間加工度εが5.0に到達する前に中間焼鈍を施し、加工歪みを低減及び緩和した上で、再度の冷間伸線を実施することが好ましい。これにより、焼鈍後の顕著な引張強さの低下を抑制することができる。
そして、冷間伸線工程で得られた細線材に対して焼鈍処理を施すことにより、アルミニウム基複合線材を得ることができる。上述のように、冷間伸線により強度は高まるが、その背反として延性が低下してしまうため、延性を回復するために、焼鈍処理を施すことが好ましい。
ここで、細線材への焼鈍条件は、冷間加工度εが0<ε<5である場合、焼鈍温度は200~600℃であることが好ましく、冷間加工度εが5≦ε≦7である場合、焼鈍温度は200~400℃であることが好ましい。細線材への焼鈍をこの温度範囲で行うことにより、細線材の強度の低下を抑制しつつも、延性を高めることが可能となる。なお、細線材の焼鈍時間は特に限定されないが、例えば1~5時間とすることができる。
本実施形態における製造方法において、添加物と混合するアルミニウム粉末の平均粒子径(D50)は、20μm以上であることが好ましい。アルミニウム粉末の平均粒子径が20μm未満であっても、得られるアルミニウム基複合線材の強度を高めることは可能である。ただ、当該平均粒子径が20μm未満の場合には、アルミニウム粉末の表面における酸素量が増加し、導電率が低下する場合がある。つまり、アルミニウムは空気中の酸素と反応することにより、表面に緻密な酸化膜を形成するため、導電率が低下する場合がある。
アルミニウム粉末の形状は特に限定されないが、例えば略球状とすることができる。なお、略球状であるとは、アルミニウム粉末のアスペクト比が1~2の範囲内であることをいう。また、本明細書において、アスペクト比とは、粒子の顕微鏡像において、(最大長径/最大長径に直交する幅)で定義される粒子の形状を表す値をいう。
また、アルミニウム粉末の形状は、扁平状とすることもできる。アルミニウム粉末を扁平状にすることで表面積が増え、粉末表面における分散体の分散度を向上させることができる。具体的には、粉体径が20μmの球状粉末を、厚さ1μm、長径72μmの扁平状に加工すれば、粉体径が3μmの球状粉末と同等の表面積となる。そのため、アルミニウム粉末の形状が扁平状である場合には、アルミニウム粉末の平均粉体径の上限は特に限定されない。なお、アルミニウム粉末の形状が扁平状であるとは、アルミニウム粉末の厚さに対する、最大長径の比(最大長径/厚さ)が10~100の範囲内にあることをいう。また、アルミニウム粉末の平均粉体径、最大長径、最大長径に直交する幅、及び厚さは、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより測定することができる。
アルミニウム粉末の形状を扁平状に加工する方法は特に限定されず、公知の方法により行うことができる。例えば、直径5mm~10mmのミリングボールとアルミニウム粉末及び添加物とを遊星ボールミルのポットに投入し、回転処理することで得ることができる。
このように、アルミニウム基複合線材の製造方法は、純度が99質量%以上のアルミニウム粉末と、添加物とを混合し、球状又は扁平状のアルミニウム粉末の周囲に添加物が分散した混合粉末を得る工程と、混合粉末を圧粉成形することにより、圧粉体を得る工程とを有する。当該製造方法は、さらに、圧粉体を600~660℃の温度で加熱することにより、一部又は全ての添加物をアルミニウム粉末におけるアルミニウムと反応させ、アルミニウム母相の内部に分散体が分散した焼結体を得る工程を有する。当該製造方法は、さらに、焼結体を押出成形することにより、棒線材を得る工程と、棒線材を冷間伸線することにより、細線材を得る工程と、細線材を焼鈍する工程と、を有する。焼結体における分散体の含有量は、炭素量換算で0.25質量%以上2.00質量%以下である。そして、下記式(3)で表される冷間加工度εが0<ε<5である場合、細線材の焼鈍温度は200~600℃であり、冷間加工度εが5≦ε≦7である場合、細線材の焼鈍温度は200~400℃である。
ε=2×ln(d/d) ・・・(3)
[式(3)中、dは棒線材の線径(mm)を示し、dは細線材の線径(mm)を示す。]
本実施形態の製造方法では、塑性変形による加工歪み、つまり冷間加工度εを最適化し、さらに当該加工歪みに見合った焼鈍処理を施している。そのため、このような製造方法によれば、強度が高く、延性が良好なアルミニウム基複合線材を得ることができる。
以下、本実施形態を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
まず、得られる分散体の含有量が炭素量換算で0.4質量%となるように、純アルミニウム粉末を796.8gとカーボンナノチューブ(CNT)を3.2gとを秤量した。なお、使用した純アルミニウム粉末とカーボンナノチューブは、以下の通りである。
(アルミニウム粉末)
ミナルコ株式会社製「♯260S」
粒子径:75μm以下(Ro-tap方式によるふるい分け)
(カーボンナノチューブ)
CNano Technology Limited製、製品名Flotube9100
平均直径:10nm~15nm
平均長さ:10μm
平均粒子径(D50):20nm
次に、秤量したアルミニウム粉末及びカーボンナノチューブを遊星ボールミルのポットに投入した。さらに、当該ポットに、ミリングボールとして直径φ5mmのジルコニアボールを3000g投入した。そして、自転速度250rpm、公転速度250rpm、回転時間10分でミリングすることにより、混合粉末を調整した。なお、遊星ボールミルは、株式会社セイシン企業製「SKF-04」を用いた。
なお、ミリングは、単位時間当たりに加える衝突エネルギーが5kJ/(s・kg)、総衝突エネルギーが3000kJ/kgとなるように調整した。本例では、アルミニウム粉末とカーボンナノチューブの混合工程において十分な衝突エネルギーを与えたため、アルミニウム粉末が扁平形状になった。そして、得られた混合粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、カーボンナノチューブ間の平均的な間隔は206nmであった。
次いで、得られた混合粉末400gを、内径が60mmである筒状の金型に投入し、常温で500MPaの圧力を加えることにより、直径が60mmである円柱状の圧粉体を得た。そして、得られた圧粉体を、電気炉を用いて、アルゴンガス雰囲気中650℃で300分間加熱することにより、アルミニウム母相中に炭化アルミニウムが分散した焼結体を得た。なお、得られた焼結体は、直径が60mmの円柱状であった。
そして、上記焼結体を、筒状の押出加工装置に投入した後、400℃で熱間押出することにより、直径φが7mmである棒線材を得た。
このようにして得られた棒線材に対して、以下の式3に示す冷間加工度εが2~7となるように、冷間伸線を行い、複数の細線材を得た。そして、得られた細線材に焼鈍処理を施さずに、引張強さを測定した。なお、細線材の引張強さは、JIS C3002に準拠して測定した。得られた細線材の引張強さと、冷間加工度及び細線材の線径との関係を図2に示す。
ε=2×ln(d/d) ・・・(3)
式(3)中、dは、棒線材の線径で7mmである。dは、細線材の線径(mm)である。
図2に示すように、冷間加工(伸線)を施して、細線材に加工ひずみを導入して蓄積することにより、細線材は高強度にシフトすることが分かる。
次に、冷間加工度εがそれぞれ2.0、3.7、4.9及び7.0である細線材を複数本準備した後、当該細線材に対して焼鈍処理を施した。なお、焼鈍温度は、300℃、400℃、450℃、500℃、600℃とし、焼鈍時間は1時間とした。そして、焼鈍後の細線材について、JIS C3002に準拠して引張強さ及び伸びを測定した。
図3では、冷間加工度εが2.0である細線材に関し、未焼鈍の細線材と600℃で焼鈍した細線材に対して引張試験を実施した際の応力-ひずみ曲線を示している。図4では、冷間加工度εが3.7である細線材に関し、未焼鈍の細線材と300℃、400℃、500℃、600℃で焼鈍した細線材に対して引張試験を実施した際の応力-ひずみ曲線を示している。図5では、冷間加工度εが4.9である細線材に関し、未焼鈍の細線材と300℃、450℃、600℃で焼鈍した細線材に対して引張試験を実施した際の応力-ひずみ曲線を示している。図6では、冷間加工度εが7.0である細線材に関し、未焼鈍の細線材と300℃、450℃、600℃で焼鈍した細線材に対して引張試験を実施した際の応力-ひずみ曲線を示している。そして、各細線材における焼鈍温度、引張強さ(応力最大値)及び伸び(ひずみ最大値)を表1に纏めて示す。
Figure 0007525291000002
図7では、冷間加工度εがそれぞれ2.0、3.7、4.9及び7.0である細線材における、焼鈍温度と引張強さとの関係を示している。また、図8では、冷間加工度εがそれぞれ2.0、3.7、4.9及び7.0である細線材における、焼鈍温度と伸びとの関係を示している。図7及び図8に示すように、冷間伸線を施した細線材を焼鈍することにより、引張強さは低下するが、伸びは向上することが分かる。そのため、冷間加工度ε及び焼鈍条件を調整することにより、引張強さ及び伸びを両立したアルミニウム基複合線材が得られることが分かる。
ただ、図7及び図8に示すように、冷間加工度εが7.0である細線材を450℃以上で焼鈍した場合、強度低下が大きく、さらに伸びも他の細線材と比べて低い水準となった。そのため、冷間加工度εを5以上にする場合には、細線材の焼鈍温度を400℃以下にすることが好ましいことが分かる。
次に、表1に示す細線材の導電率を、JIS C3002に準拠して測定した。各細線材の導電率を図9に纏めて示す。図9に示すように、焼鈍処理を施した細線材は、未焼鈍の細線材に比べて導電率が向上していることが分かる。
[実施例2]
まず、得られる分散体の含有量が炭素量換算で0.25質量%、0.4質量%、1.0質量%、2.0質量%となるように、純アルミニウム粉末とカーボンナノチューブ(CNT)とを秤量した。なお、純アルミニウム粉末とカーボンナノチューブは、実施例1と同じものを使用した。
次に、実施例1と同じ工程により、混合粉末、圧粉体、焼結体及び棒線材を得た。つまり、直径φが7mmであり、分散体の含有量がそれぞれ炭素量換算で0.25質量%、0.4質量%、1.0質量%、2.0質量%である棒線材を得た。
次いで、各棒線材に対し、冷間加工度εが2.0、3.7、4.9、7.0になるように冷間伸線を行い、細線材を得た。そして、得られた細線材に対して、300℃、400℃、450℃、500℃、600℃の焼鈍処理を行った。なお、焼鈍時間は、1時間、3時間、5時間とした。そして、焼鈍後の各細線材について、JIS C3002に準拠して引張強さ及び伸びを測定した。各細線材の分散体含有量、冷間加工度ε、焼鈍温度、焼鈍時間、引張強さ及び伸びを表2~5に纏めて示す。なお、表2~5では、各棒線材自体の引張強さ及び伸び、並びに焼鈍処理を行わなかった各細線材の引張強さ及び伸びも合わせて示す。
Figure 0007525291000003
Figure 0007525291000004
Figure 0007525291000005
Figure 0007525291000006
ここで、図10では、分散体の含有量が炭素量換算で0.25質量%であり、冷間加工度εがそれぞれ2.0、3.7、4.9及び7.0である細線材の、焼鈍温度と引張強さとの関係を示している。図11では、分散体の含有量が炭素量換算で0.4質量%であり、冷間加工度εがそれぞれ2.0、3.7、4.9及び7.0である細線材の、焼鈍温度と引張強さとの関係を示している。図12では、分散体の含有量が炭素量換算で1.0質量%であり、冷間加工度εがそれぞれ2.0、3.7、4.9及び7.0である細線材の、焼鈍温度と引張強さとの関係を示している。図13では、分散体の含有量が炭素量換算で2.0質量%であり、冷間加工度εがそれぞれ2.0、3.7、4.9及び7.0である細線材の、焼鈍温度と引張強さとの関係を示している。なお、図10~13では、焼鈍時間が1時間である細線材の結果を示している。
図10~13に示すように、冷間加工度が2.0、3.7、4.9であり、焼鈍処理を施した細線材の引張強さは、分散体含有量が0.25質量%、冷間加工度が0.0、かつ、焼鈍処理を施していない棒線材の引張強さ(119.9MPa)よりも向上している。つまり、これらの細線材は、分散体による強度向上効果に加え、冷間伸線による強度向上効果が得られていることが分かる。
これに対して、冷間加工度が7.0であり、400℃を超える焼鈍処理を施した細線材の引張強さは、分散体含有量が0.25質量%、冷間加工度が0.0、かつ、焼鈍処理を施していない棒線材の引張強さ(119.9MPa)よりも下回る場合がある。つまり、冷間加工度が7.0であり、焼鈍温度が高温の場合、得られる細線材に顕著な強度低下が見られ、分散体による強度向上効果が失われる場合がある。この原因は、冷間加工度の増大に伴う再結晶温度の低下と推測される。つまり、冷間加工度の増大に伴って、金属材料に導入される転位密度が高くなると、再結晶の駆動力となる蓄積された歪みエネルギーが増大し、低い温度でも再結晶が進行するようになる。そして、冷間加工度が7.0であり、焼鈍温度が高温の細線材では、金属材料の再結晶が完了し、粒成長モードに至っていると推測される。その結果、分散体を分散させたとしてもアルミニウムの結晶粒が粗大化し、得られる細線材の強度が低下すると考えられる。
そのため、アルミニウムの再結晶を抑制して、分散体による強度向上効果を発揮するために、冷間加工度εが5≦ε≦7である場合には、細線材の焼鈍温度は200~400℃とすることが好ましい。ただ、冷間加工度εが0<ε<5である場合には、細線材の焼鈍温度が高くても再結晶が抑制され、分散体による強度向上効果が発揮されるため、細線材の焼鈍温度は200~600℃にすることができる。
ここで、図14では、分散体の含有量が炭素量換算で0.25質量%、0.4質量%、1.0質量%、2.0質量%であるが、焼鈍処理を施していない細線材に関し、冷間加工度εと引張強さとの関係を示している。また、図14では、分散体の含有量が炭素量換算で0.25質量%、0.4質量%、1.0質量%、2.0質量%であり、冷間伸線及び焼鈍処理を施していない棒線材の引張強さも合わせて示す。
本実施形態のアルミニウム基複合線材は、上述のように、アルミニウム母相に分散体が分散した棒線材を、冷間伸線及び焼鈍処理することにより得ることができる。そして、上述のように、焼鈍後の細線材は、焼鈍前よりも引張強さが低下するが、その背反として延性が向上する。そのため、本実施形態のアルミニウム基複合線材は、冷間加工度ε及び焼鈍条件を調整することにより、図14の網掛け部分の範囲内で、引張強さを任意に選択することができる。言い換えれば、アルミニウム基複合線材の引張強さσUTSは、119.9MPaを超え、下記式(1)又は式(2)で表される数値未満の範囲内で、任意に選択することができる。
σUTS=92.7ε+129.1 (但し、0<ε<1)・・・(1)
σUTS=9.26ε+212.53 (但し、1≦ε)・・・(2)
式(1)及び(2)中、ε=2×ln(d/d)であり、dは冷間伸線前の線材(棒線材)の線径(mm)を示し、dは冷間伸線後の線材(細線材)の線径(mm)を示す。
以上、本実施形態を説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。

Claims (5)

  1. アルミニウム母相と、前記アルミニウム母相の内部に分散し、かつ、一部又は全ての添加物が前記アルミニウム母相におけるアルミニウムと反応することにより形成された分散体と、を有し、
    前記分散体の含有量は、炭素量換算で0.25質量%以上2.00質量%以下であり、
    引張強さσUTSは、下限値が119.9MPaを超える数値であり、上限値が下記式(1)又は式(2)で表される数値未満である、アルミニウム基複合線材。
    σUTS=92.7ε+129.1 (但し、0<ε<1)・・・(1)
    σUTS=9.26ε+212.53 (但し、1≦ε<5)・・・(2)
    [式(1)及び(2)中、ε=2×ln(d/d)であり、前記εは0<ε<5であり、は冷間伸線前の線材の線径(mm)を示し、dは冷間伸線後の線材の線径(mm)を示す。]
  2. 前記添加物は、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノファイバー、カーボンブラック及び炭化ホウ素からなる群より選ばれる少なくとも一つである、請求項1に記載のアルミニウム基複合線材。
  3. 請求項1又は2に記載のアルミニウム基複合線材を備える電線。
  4. 純度が99質量%以上のアルミニウム粉末と、添加物とを混合し、球状又は扁平状の前記アルミニウム粉末の周囲に前記添加物が分散した混合粉末を得る工程と、
    前記混合粉末を圧粉成形することにより、圧粉体を得る工程と、
    前記圧粉体を600~660℃の温度で加熱することにより、一部又は全ての添加物を前記アルミニウム粉末におけるアルミニウムと反応させ、アルミニウム母相の内部に分散体が分散した焼結体を得る工程と、
    前記焼結体を押出成形することにより、棒線材を得る工程と、
    前記棒線材を冷間伸線することにより、細線材を得る工程と、
    前記細線材を焼鈍する工程と、
    を有し、
    前記焼結体における分散体の含有量は、炭素量換算で0.25質量%以上2.00質量%以下であり、
    下記式(3)で表される冷間加工度εが0<ε<5であ、前記細線材の焼鈍温度は200~600℃である、アルミニウム基複合線材の製造方法。
    ε=2×ln(d/d) ・・・(3)
    [式(3)中、dは棒線材の線径(mm)を示し、dは細線材の線径(mm)を示す。]
  5. 前記添加物は、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノファイバー、カーボンブラック及び炭化ホウ素からなる群より選ばれる少なくとも一つである、請求項4に記載のアルミニウム基複合線材の製造方法。
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