JP7497008B2 - プラズマ処理方法 - Google Patents

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Description

本発明は、プラズマ処理方法に関する。
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂は、耐熱性、耐候性、耐薬品性、電気絶縁性などの優れた性質を有しているため、フッ素樹脂成形体は種々の工業分野で利用されている。それ故、多くの工業分野において、フッ素樹脂成形体を異種材料と接合させる要望が存在している。しかしながら、フッ素樹脂成形体は化学的に安定であることから、異種材料と接合するのが容易ではないという問題がある。
フッ素樹脂成形体の表面に各種機能を付与するために、従来、エッチング処理、紫外線処理、化学蒸着処理、プラズマ処理等が行われている。例えば、フッ素樹脂成形体表面の濡れ性を高め、接着剤を定着させるために、プラズマ処理やエッチング処理が行われている。中でも、プラズマ処理は、高密度のラジカルによってフッ素樹脂成形体表面を改質するため、廃液処理の必要がないことから環境負荷が小さく、また、コストも安く抑えられるため有用な表面改質手法として知られている。
フッ素樹脂の中でも、PTFEは化学的安定性が極めて高く、表面を改質させにくいものである。そのため、従来、PTFE成形体にプラズマ処理を施す場合、バッチ式プラズマ処理を利用してPTFE成形体の表面改質を行っている。一方で、工業的な量産化の観点から、短時間で、所定の表面状態を有するPTFE成形体を安定的に製造することができるプロセスが望まれている。
特開2016-056363号公報 特開2017-002115号公報 特開2009-263529号公報
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、被着体との優れた剥離強度を実現可能なポリテトラフルオロエチレンフィルムのプラズマ処理方法を提供することを目的とする。
本発明の一側面によると、ローラ電極と、ローラ電極と対向する対向電極との間に位置する反応場にプラズマを発生させ、プラズマによりポリテトラフルオロエチレンのフィルムを処理する、プラズマ処理方法が提供される。このプラズマ処理方法は、フィルムをローラ電極の表面上に供給し、フィルムの被処理面とは反対側の面を、ローラ電極の10℃以上50℃以下の温度に保持された表面と接触させることと、反応場において、ローラ電極によりフィルムを0.5m/min以上1.0m/min以下の速度で移動させつつ、気圧が0.2Pa以上3Pa以下の条件で0.5kW以上3.0kW以下の電力を、0.5W/cm 2 以上3.0W/cm 2 以下の電力密度で印加して放電することによりプラズマを発生させ、フィルムにプラズマ処理を施すこととを含む。ローラ電極と、対向電極との距離は10mm以上100mm以下である。
本発明によると、被着体との優れた剥離強度を実現可能なポリテトラフルオロエチレンフィルムのプラズマ処理方法を提供することができる。
実施形態に係るプラズマ処理方法で用いる装置を模式的に示す断面図。
バッチ式プラズマ処理の場合、フッ素樹脂フィルムを静止させた状態で処理を行うため、安定的にフッ素樹脂表面を改質することが可能である。しかしながら、処理対象のフッ素樹脂フィルムを都度準備する必要があるため、数多くのフッ素樹脂フィルムに対して効率良くプラズマ処理を施すことが難しい。
また、処理対象となるフッ素樹脂フィルムは、処理前においては長尺なテープ形状にて保管されていることがある。テープ形状で保管されたフッ素樹脂フィルムに対して、プラズマ処理を連続的に施すことができれば、量産化の観点から非常に有利である。
そこで、本発明者らは、バッチ式ではなく、ロールトゥロール式のプラズマ処理によって、被着体との優れた剥離強度を実現可能な処理方法について鋭意研究を重ねた。ロールトゥロール式のプラズマ処理の場合、フッ素樹脂フィルムが連続的に移動している。それ故、バッチ式において知られているような条件でロールトゥロール式プラズマ処理を行ったとしても、十分な表面改質を達成することが難しい。これは、ロールトゥロール式プラズマ処理におけるフィルム近傍の反応場の状態が、バッチ式プラズマ処理におけるフィルム近傍の反応場の状態とは異なるためである。
本発明者らは、フッ素樹脂の中でも表面改質が難しいポリテトラフルオロエチレン(PTFE)から形成されたフィルムに対して、連続的にプラズマ処理を施す場合の最適条件を見出した。
実施形態に係るプラズマ処理方法は、ローラ電極と、このローラ電極と対向する対向電極との間に位置する反応場において、プラズマを生じさせることが可能なプラズマ発生装置を用いて行う。このプラズマ発生装置は、例えば、チャンバを備えている。このプラズマ発生装置は、チャンバ内を減圧することが可能な真空ポンプと、所望のガスを導入することが可能な配管とを更に備えていてもよい。実施形態に係るプラズマ処理方法では、反応場内において、プラズマ処理の被対象物であるPTFEフィルムを移動させながらプラズマ処理を行う。このような処理の一例として、例えば、上述したロールトゥロール式のプラズマ処理を挙げることができる。即ち、実施形態に係るプラズマ処理は、PTFEフィルムを静置した状態でプラズマ処理を行うバッチ式の処理とは異なる。
一例に係るプラズマ処理は、例えば以下の順序で行う。(1)PTFEフィルムの準備、(2)チャンバ内の減圧、(3)ガスの導入、(4)反応場におけるプラズマ発生、(5)反応場へのPTFEフィルムの供給、(6)プラズマ処理後のPTFEフィルムの巻取り。
以下、上記(1)-(6)のそれぞれの手順について説明する。
(1)PTFEフィルムの準備
まず、プラズマの被照射物であるPTFEフィルムを、ローラ電極の表面上且つ反応場内に供給することができるように準備する。例えば、PTFEフィルムが巻き付けられた供給ローラをチャンバ内に用意する。後行程において、この供給ローラからPTFEフィルムを巻き出すことにより、PTFEフィルムをローラ電極の表面上に供給することができる。
被照射物であるPTFEフィルムとしては、特に制限されるわけではないが、芯材となる織布等を含まないフィルムであることが望ましい。例えば、PTFEのスカイブドフィルム、キャストフィルム、未焼成フィルム、及び、圧延フィルムなどを被照射物とすることができる。PTFEフィルムの総厚みは、例えば10μm以上1000μm以下の範囲内であり得る。PTFEフィルムは、200℃以上の耐熱温度を有する絶縁性フィルムであり得る。PTFEフィルムが芯材を含んでいる場合、少なくとも片面に5μmのPTFE層を有し得る。
PTFEフィルムに含まれるPTFEに関して、結晶化度は、例えば50%以上99%以下であり、分子量は、例えば100Da以上1000Da以下であり得る。PTFEフィルムは、シリカ等のフィラーが充填されていないものであることが好ましい。
(2)チャンバ内の減圧
次に、チャンバ内を減圧する。チャンバ内を減圧する工程を含むことから、実施形態に係るプラズマ処理方法は、減圧プラズマ処理方法又は真空プラズマ処理方法であり得る。減圧は、真空ポンプを用いて、チャンバ内の気圧が、例えば10-4Pa以上10-3Pa以下となるように行う。減圧が不足すると、PTFEフィルムの表面等に吸着していたわずかな水気がプラズマ化され、意図しないプラズマが反応に影響を及ぼす可能性がある。過度に減圧しても接着能の向上に繋がる事は予想できない為、適度な減圧が好ましい。
(3)ガスの導入
その後、所望のガスをチャンバ内に導入する。所望のガスを導入して、チャンバ内の気圧を0.2Pa以上3Pa以下となるように調整する。チャンバ内の気圧は、好ましくは0.4Pa以上0.8Pa以下とする。チャンバ内の気圧を1Pa未満とした場合、平均自由行程を長くすることができる。これによりプラズマが高速化するため、PTFEフィルムの粗面化を促進することができ好ましい。チャンバ内の気圧が過度に高い場合、フィルムの粗面化のためには大電流を印加しなければならず、PTFEフィルムの粗面化が容易ではないため好ましくない。
ガスとしては、例えば、アルゴンガスなどの非重合性ガスを使用する。アルゴンガスの流量は、例えば10sccm以上100sccm以下とし、好ましくは30sccm以上70sccm以下とする。なお、「sccm:Standard Cubic Centimeter per Minute」は、標準状態において1分間当たりに流体が流れる体積を示す単位である。ここでは、標準状態は0℃、1atmを意味する。ガス流量が大きすぎると、チャンバ内を所定の気圧に保つ事が困難となる可能性がある。ガス流量が小さすぎると、所定の気圧への到達時間が長くなる他、プラズマ―PTFE間の反応アウトガスの系外排気効率が低下するデメリットがある。ガスとして、窒素又は水素などを使用してもよい。
アルゴンガスの純度は、例えば99.0%以上であり、好ましくは、99.9999%以上である。
ガスをチャンバ内に導入する際、純水又はアンモニア水にバブリングさせたマルチガスを導入してもよい。バブリングさせる液体の種類は、フィルムの被処理面に対して接合させる被着体の種類に応じて選択することができる。例えば、被着体としてポリエチレンを接合させる場合、アルゴンガスを純水にバブリングさせて導入することが好ましい。また、例えば、被着体としてエポキシ系接着剤を接合させる場合、アルゴンガスをアンモニア水にバブリングさせて導入することが好ましい。
(4)反応場におけるプラズマ発生
ローラ電極と対向電極との距離は、例えば、10mm以上100mm以下とし、好ましくは40mm以上80mm以下とする。PTFEフィルムのプラズマ処理面に対する粗面化を促進させるためには、プラズマを加速させるための距離、即ち平均自由行程が短くなりすぎないように調整することが望ましい。ローラ電極と対向電極との距離を上記範囲内とすると、十分な平均自由行程を得ることができる。また、上記範囲内の場合、チャンバ内に導入したガスが電極間(反応場)において十分に拡散するため好ましい。反応場とは、ローラ電極と対向電極とに挟まれた空間を指す。
プラズマを発生させる際に印加する電力は0.5kW以上3.0kW以下とし、好ましくは0.5kW以上2.5kW以下とし、より好ましくは0.8kW以上1.5kW以下とする。電力密度としては、例えば0.5W/cm2以上3.0W/cm2以下であり、好ましくは1W/cm2以上2W/cm2以下とする。周波数は、例えば、13.56Hzである。電力密度が3.0W/cm2を超えると、ローラ電極に接することなしにチャンバ内に位置するPTFEフィルムの温度が過度に高まり、例えばPTFEの連続使用温度である260℃を超える可能性がある。なお、ローラ電極は、後述するように、ローラ電極側面の表面温度を10℃以上50℃以下に保持することができる機能を有しているため、フィルムを冷却することができる。フィルムの温度が、260℃を超えると、フィルム表面が改質されやすい状態となり、過剰なエッチングが進行する傾向にある。フィルム表面が過剰にエッチングされると、μmスケールでの微細構造が損なわれたり、nmスケールでの表面修飾官能基の均一性が損なわれたりする事などにより、濡れ性に劣り、被着体との高い接着性が達成できない可能性がある。被着体との優れた剥離強度を達成するためには、粗面化しすぎないように制御する必要がある。

(5)反応場へのPTFEフィルムの供給
供給ローラから巻き出された未処理のPTFEフィルムは、ローラ電極の表面上、且つ、ローラ電極と対向電極との間に位置する反応場の中に供給され、ローラ電極が回転することによってローラ電極の表面上を移動する。PTFEフィルムは、ローラ表面上を移動しながらプラズマ照射を受ける。このとき、PTFEフィルムが有する主要な2面のうち、対向電極と向き合う面を被処理面とし、被処理面とは反対側の面を裏面とする。ローラ電極と接触するのは裏面である。
ローラ電極は、例えば、円柱形状を有する回転自在のローラであり、プラズマ発生装置の発信電源に接続されている。ローラ電極は、その湾曲した側面の表面温度を変化させることができると共に、その表面温度を保持することができるものである。
プラズマ放電に晒された基材は、自然昇温する。基材としてのPTFEフィルムの線膨張係数が約100ppm/Kであること、及び、フィルムに皺が発生するのを抑制する観点から、PTFEフィルムの到達温度(総厚平均)は約150℃以下であることが好ましい。プラズマ処理を実施する際は、ローラ電極側面の表面温度は、10℃以上50℃以下の範囲内に保持されている。ローラ電極側面の表面温度は、20℃以上30℃以下の範囲内に保持されていることが好ましい。
PTFEフィルムを移動させる際のフィルムの移動速度は、例えば0.3m/min以上5m/min以下とし、好ましくは0.5m/min以上1.0m/min以下とする。移動速度は、より好ましくは0.4m/min以上0.8m/min以下とする。フィルムの移動速度は、一例によると、プラズマ処理のライン速度と等しい。ロールトゥロール式プラズマ処理の場合、PTFEフィルムの粗面化を、短時間で、例えば反応場内を1回通過させる(1パス)ことによって、十分に進行させることが望まれる。フィルムの昇温を抑制しつつ、上述した大きめの電力を印加することを考慮すると、移動速度は上記範囲内が好ましい。ライン速度が過度に低いと、PTFEフィルムの温度が上がり過ぎて過剰に粗面化されてしまい、結果として、被着体との優れた剥離強度を達成できない可能性がある。ライン速度が高すぎると、フィルムに対するプラズマ処理が十分になされない可能性がある。
フィルムを移動させる際にフィルムに掛かる張力は、例えば、0.5N/mm2以上2.0N/mm2以下の範囲内にある。フィルムの応力-ひずみ曲線(S-S曲線)を考慮して、降伏点に達しないようにフィルムに張力を掛けるのが望ましい。また、フィルムが弛まないように、所定の張力をフィルムに掛けるのが望ましい。フィルムに対して上記範囲内の張力を掛けることにより、フィルムが弛んでいないため、ローラ電極とフィルムとの接触面積を大きくすることができる。フィルム表面のうち、ローラ電極とフィルムとが接触している部分と対向する被処理面の一部は、接触していない部分と対向する被処理面の一部と比較してプラズマ処理が進行しやすい傾向にある。この理由は、以下の通りであると考えられる。プラズマ中の+イオン(例えばAr+イオン)は、ローラ電極に向かって加速されながら移動し、ローラ電極又はフィルムの被処理面に衝突する。+イオンの平均速度は、加速の原理から、ローラ電極又はフィルムの被処理面への衝突直前で最大となる。
それ故、ローラ電極表面からフィルムの被処理面までの距離、即ちフィルムの弛み具合は小さければ小さいほど被処理面のプラズマ処理が進行しやすい傾向にある。言い換えると、ローラ電極とフィルムとの接触面積は大きい方が好ましい。
(6)処理済みPTFEフィルムの巻取り
反応場を通過し、プラズマ処理が施されたPTFEフィルムは、例えば、チャンバ内に設置された巻取ローラによって巻き取られる。実施形態に係るプラズマ処理方法においては、例えば、供給ローラからのPTFEフィルムの巻出しと、巻取ローラによるPTFEフィルムの巻取りとが、同一の速度で進行する。巻取ローラによって巻き取られた処理済みPTFEフィルムは、涼しいところで遮光保存し、被処理面において動摩擦を生じさせないことが望ましい。
実施形態に係るプラズマ処理方法は、一例として上記(1)-(6)の手順で完了する。プラズマ処理済みのPTFEフィルムに対して、2回目及びそれ以上の回数に亘って、繰り返しプラズマ処理を施してもよい。
実施形態に係るプラズマ処理方法によると、バッチ式のプラズマ処理と比較して短時間で多くのPTFEフィルムを処理できる上、被着体との剥離強度に優れたPTFEフィルムを安定的に得ることができる。
表面改質されたPTFEフィルムの用途は特に限定されないが、例えば、種々の接着剤又は液状樹脂との接着、金属スパッタリング、メッキ製膜、並びに、ゴム、エラストマー及び粘着剤の積層などに使用することができる。
[実施例]
以下に実施例を説明するが、実施形態は、以下に記載される実施例に限定されるものではない。
(実施例1-4)
実施例1-4では、以下に説明するように、プラズマ発生装置を用いて、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルムの片面に対してプラズマ処理を施した。
図1は、プラズマ発生装置10を用いて、実施形態に係るプラズマ処理方法を実施している様子を模式的に示している。供給ローラ1、巻取ローラ2及びローラ電極6は、モータ(図示しない)により駆動される。ローラ3及び4は、供給ローラ1、巻取ローラ2及びローラ電極6の回転によって自在に回転する。なお、図1では、供給ローラ1及び巻取ローラ2が、いずれも反時計回りに駆動している状態を示しているが、供給ローラ1及び巻取ローラ2は、それぞれ時計回りに駆動することも可能である。
プラズマ処理がなされていない未処理のPTFEフィルム8として、厚さ0.1mm、幅150mm、長さ10m程度のスカイブドテープ(中興化成工業株式会社製、MSF-100)を用意した。未処理のPTFEフィルム8は、直径3インチのアルミニウム製の供給ローラ1に巻き付けられていた。
未処理のPTFEフィルム8は、ローラ3及び4を介してローラ電極の表面上に供給される。
ローラ電極6は、直径250mm、面長200mmのドラム形状を有している。なお、面長とは、円柱形状のローラ電極6における底面から上面までの長さを表している。図1に示しているように、ローラ電極6が有する湾曲した側面の同心円上には、ローラ電極6と60mmの間隔を開けて対向電極7が設置されている。対向電極7は接地されている。ローラ電極6が有する側面全周(360°)の面積のうち、その3分の1である120°分に相当する側面が対向電極7と対向している。ローラ電極6に供給されるPTFEフィルム8が、この120°分に相当する位置でローラ電極6と接するように、ローラ3でPTFEフィルム8の位置決めを行った。ここでは、ローラ電極6が有する側面全周のうち、対向電極7と対向している面積は472cm2であり、ローラ電極6と対向している対向電極7の面積は770cm2であった。
チャンバ9を密閉し、真空ポンプ5を用いてチャンバ内の気圧を10-4Pa以上10-3Pa以下となるように減圧した。その後、気圧が0.6Paになるまで、純度が99.9999%のアルゴンガスを導入した。なお、アルゴンガスは、流量50sccm(Standard Cubic Centimeter per Minute)でチャンバ9に導入し続けると共に、0.6Paの気圧を維持するために、一部のガスは排出され続ける。
その後、下記表1に示すように、各種パラメータを設定し、ロールトゥロール式のプラズマ処理を行い、プラズマ処理後のPTFEフィルム8を、ローラ3及び4を介して巻取ローラ2で巻き取った。
表1は、ローラ電極表面温度及びライン速度を変化させ、且つ、電力を0.5kWから3.0kWまで0.5kW刻みで変化させた場合に得られた各PTFEフィルムに対して、低密度ポリエチレン(PE)を被着体として接着し、その際の剥離強度(N/cm)をそれぞれ測定した結果を示している。この測定は、後述する<低密度ポリエチレンとの積層試験体作製、及び、接着力測定>に従って行った。実施例1-4を通じて、周波数は13.56MHzであり、チャンバ内の気圧は0.6Paであり、アルゴンガス流量50sccmであった。
例えば、実施例1では、ライン速度が0.5m/minであり、ローラ電極表面温度が25℃である場合に、電力を0.5kWから3.0kWまで0.5kW刻みで変化させた場合に、被処理面とPEとの剥離強度がどのように変化するかを調べた。
(比較例)
未処理のPTFEフィルム8として用意した、プラズマ処理がなされていないスカイブドテープの片面上に、実施例1-4と同様にして、後述する<低密度ポリエチレンとの積層試験体作製、及び、接着力測定>に従って低密度ポリエチレン(PE)を被着体として接着し、その際の剥離強度(N/cm)を測定した。その結果、比較例に係るPTFEフィルムの剥離強度は0.1N/cmであった。
表1の実施例1から、アルゴンプラズマがPTFE表面へ衝突する際、ローラ温度25℃かつライン速度0.5m/minの場において、電力2.0kW以上は、表面のPTFE分子の切断および飛散が優勢となるエネルギーに相当した可能性がある。また、プラズマ処理時のローラ電極の表面温度は、50℃よりも25℃の方が、高い剥離強度を達成したフィルムが多いため好ましいことが分かる。この理由は定かではないが、ローラ温度の高さがフィルム温度上昇に反映され、先述の表面PTFE分子の飛散が過剰に進行したと考えられる。PEの接着原理は、PTFE表面微細凹凸へPEが浸透し、PEが硬化する事でアンカー効果が発現するものと考える。ここで、PTFE表層の微細構造が過剰なPTFE分子の飛散によって脆弱となっていれば、効果的なアンカー力が得られにくいと考えられる。また、ライン速度は、1.0m/minよりも0.5m/minの方が、高い剥離強度を達成したフィルムが多いため好ましいことが分かる。この理由は定かではないが、プラズマ暴露時間の差(2倍)が衝突回数に反映され、処理密度が高まったためと考えられる。
また、表1には示していないが、実施例1-4で作製した各PTFEフィルムについて、後述する<濡れ張力試験>に従って被処理面の濡れ張力を測定したところ、いずれも最大で34(mN/m)であった。それ故、実施例1-4に係るPTFEフィルムは、被着体の種類に依らず優れた剥離強度を示し得る。また、このことから、表1のように条件を変化させても親水性官能基の修飾効率にはあまり影響を与えないことが分かる。なお、比較例1として用意した未処理のPTFEフィルムに関しても<濡れ張力試験>に従って濡れ張力を評価したところ、その値は22.4未満であった。それ故、比較例1に係る無処理のPTFEフィルムは、被着体の種類によっては所望の剥離強度が得られない恐れがある。
<低密度ポリエチレンとの積層試験体作製、及び、接着力測定>
低密度ポリエチレンを被着体として接着した場合の剥離強度(PE接着力)測定の詳細は、以下の通りである。
試験体として、同一の条件でプラズマ処理を施したPTFEフィルムを2枚と、厚さが60μm±5μmの低密度ポリエチレンフィルム(以下、PEフィルム)を1枚用意する。2枚のPTFEフィルムの被処理面が、いずれもPEフィルムと接触するようにしてPEフィルムをサンドし、230℃で2分間に亘り熱プレスすることにより、ホットメルト積層させて積層試験体を得る。その後、積層試験体を25℃まで冷却する。なお、得られる積層試験体においてPEフィルムの層厚が60μm±10μmの範囲内となるように熱プレス時の圧力を調節する。PEフィルムの平均厚さは、積層試験体を形成するための熱プレスの前後で変化しないが、PEが溶融したり加圧されたりすることに伴ってフィルム内で偏肉(厚さのばらつき)が生じる。それ故、積層試験体の形成前におけるPEフィルムの厚さが60μm±5μmであるのに対して、積層試験体の形成後におけるPEフィルムの厚さは60μm±10μmとなる。
得られた積層試験体を、25℃の温度環境下で、T字剥離強さ試験に供して、剥離強度(N/cm)を測定する。T字剥離強さ試験は、JIS 6854-3:1999に準拠して行う。
<濡れ張力試験>
プラズマ処理済みのPTFEフィルムを用意し、被処理面に対して、綿棒を使用して、薄層を形成する程度にぬれ試薬を速やかに広げる。ぬれ試薬として、富士フィルム和光純薬株式会社製、ぬれ張力試験用混合液を使用する。濡れ、及び、ハジケの判定は、液膜を明るいところで観察し、2秒後の液膜の状態で行う。液膜がハジケを生じないで、塗布された状態を保っていれば、濡れたと判断する。濡れた場合はさらに表面張力の高いぬれ試薬に変更し、試験面を濡らす事ができる最大の表面張力をその試験面の濡れ張力(mN/m)と判定し、記録する。つまり、ぬれ試薬としては、表面張力が異なる複数種類のぬれ試薬を使用する。
(実施例5-8)
下記表2に示すように、各種パラメータを設定したことを除いて、実施例1-4と同様に複数のPTFEフィルムに対してプラズマ処理を実施した。但し、実施例5-8を通じて、ローラ電極表面の温度は25℃とした。
表2は、ローラ電極に印加する電力及びライン速度を変化させ、且つ、チャンバ内の気圧を0.6Pa、1.8Pa及び3Paの3水準において変化させた場合に得られた各PTFEフィルムに対して、上述したポリエチレンフィルムを使用したPE接着力試験、及び、ぬれ張力試験を実施した結果を示している。
例えば、実施例5では、電力が1.0kWであり、ライン速度が1.0m/minである場合に、気圧を0.6Pa、1.8Pa及び3Paにそれぞれ変化させた場合にPEとの接着性がどのように変化するか、並びに、ぬれ張力がどのように変化するかを調べた。
表2の結果から、気圧が大きくなるほど、PTFEフィルムの表面を改質するために大きな電力、又は、長い照射時間が必要となることが分かる。中でも、実施例6に示しているように、電力が1.0kWであり、ライン速度が0.5m/minであり、気圧が0.6Paである場合、優れた剥離強度を達成できたことが分かる。
(実施例9-17)
実施例9-17では、PTFEフィルムが反応場内を通過する回数を変更した場合に、被着体との剥離強度、及び、処理面の濡れ性にどのような影響が出るのかを調べた。
実施例9-14は、それぞれ、電力を下記表3に示すように変更したことを除いて、実施例1と同様にPTFEフィルムを処理した実施例である。即ち、実施例9-14におけるプラズマ処理の条件として、ライン速度は0.5m/min、ロール電極表面温度は25℃、アルゴンガス流量は50sccm及びチャンバ内の気圧は0.6Paであった。実施例9-14では、プラズマ発生装置10の反応場内を、フィルムが1回通過するように試験を実施した。表3において、「Pass1 電力」の行には、フィルムが反応場内を1回目に通過する場合(以下、1パスの場合とも呼ぶ)の各実施例における電力の値を示している。
実施例15は、PTFEフィルムが反応場内を2回通過するように実施した例であり、このときの反応場においては、1回目の通過時及び2回目の通過時共に、0.5kWの電力を印加してプラズマを発生させた。その他の条件は、1回目の通過時及び2回目の通過時共に、実施例9-14と同様の条件とした。即ち、1回目の通過時及び2回目の通過時共に、ライン速度は0.5m/min、ロール電極表面温度は25℃、アルゴンガス流量は50sccm及びチャンバ内の気圧は0.6Paであった。表3において、「Pass2 電力」の行には、フィルムが反応場内を2回目に通過する場合(以下、2パスの場合とも呼ぶ)の各実施例における電力の値を示している。
実施例16は、PTFEフィルムが反応場内を2回通過するように実施した例である。実施例16は、1回目の通過時及び2回目の通過時共に、1.0kWの電力を印加してプラズマを発生させたことを除いて実施例15と同様の方法でプラズマ処理を行った。
実施例17は、PTFEフィルムが反応場内を2回通過するように実施した例である。実施例17は、1回目の通過時及び2回目の通過時共に、1.5kWの電力を印加してプラズマを発生させたことを除いて実施例15と同様の方法でプラズマ処理を行った。
実施例9-17で得られた各PTFEフィルムの被処理面に対して、上述した<低密度ポリエチレンとの積層試験体作製、及び、接着力測定>に従って、低密度ポリエチレン(PE)を被着体として接着し、その際の剥離強度(N/cm)をそれぞれ測定した。これらの結果を表3にまとめる。
また、実施例9-17で得られた各PTFEフィルムの被処理面に対して、下記に説明する<エポキシ系接着剤との積層試験体作製、及び、接着力測定>に従って、エポキシ系接着剤を被着体として接着し、その際の剥離強度(N/cm)をそれぞれ測定した。これらの結果を表3にまとめる。
<エポキシ系接着剤との積層試験体作製、及び、接着力測定>
試験体として、同一の条件でプラズマ処理を施したPTFEフィルムを2枚と、エポキシ系接着剤として2液混合型のエポキシ系接着剤液(ナガセケムテックス社製 エポキシレジンAW-106/HV-953U)とを用意する。用意したPTFEフィルムのうちの一方のPTFEフィルムのプラズマ処理面上にエポキシ系接着剤液を塗布し、他方のPTFEフィルムのプラズマ処理面が接着剤液に接するように、2枚のPTFEフィルムで接着剤液をサンドして積層試験体を作製する。この積層試験体を、100℃で15分間に亘って熱プレス処理することにより接着剤を加熱硬化させる。なお、得られる積層試験体において接着剤の厚みが50μm-200μmの範囲内となるように熱プレス時の圧力を調節する。
得られた積層試験体を、25℃の温度環境下で、T字剥離強さ試験に供して、剥離強度(N/cm)を測定する。T字剥離強さ試験は、JIS 6854-3:1999に準拠して行う。
また、実施例9-17で得られた各PTFEフィルムの被処理面に対して、上述の<濡れ張力試験>に従って被処理面の濡れ張力を測定した。これらの結果を表3にまとめる。
表3の実施例9-11と、実施例12-14との対比から分かるように、1パスの場合には、2.0kW-3.0kWの電力を印加することによりエポキシ系接着剤の剥離強度が大きく高まる。これは、実施例12-14に係るフィルムの被処理面の方が、実施例9-11の被処理面と比較して大きい凹凸を有する微細形態であったためと考えられる。実施例12-14に係るフィルムの被処理面の方が、実施例9-11のそれらと比較して大きい比表面積を有する形態であることを走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)により確認した。被処理面の比表面積とエポキシ接着力との間には正の相関があるものと推測される。
また、実施例15-17に示しているように、2パスとすると、1パスのみの場合と比較してエポキシ系接着剤の剥離強度は向上する。この理由は、先述したのと同様に、1パスの場合の被処理面の比表面積と比較して、2パスの場合の被処理面の比表面積の方が大きいためであると推測される。一方、ポリエチレン(PE)接着力に関しては、実施例15-17に示す2パスの場合、実施例9-14に示す1パスの場合と比較して劣っていた。これは、エポキシとPEとで接着力の大小が逆転した事を意味する。逆転の理由として、被着体積層時に、プラズマ処理面が潰れずに微細凹凸形状を保持できたかどうかに影響を受けた可能性がある。つまり、エポキシ接着剤は、プラズマ処理面への積層時に液状から固体状へ硬化するプロセスを伴う為、プラズマ処理面の凹凸を潰す事なく積層しやすい。一方、PEフィルムの場合、熱プレスの初期段階ではPEが溶融しておらず硬い為、プラズマ処理面の微細凹凸が潰れるリスクを伴う。2パスの場合の実施例15-17では、プラズマ処理面の微細凹凸がPEにより潰れた可能性があり、それによってPE接着力が劣っていたと考えられる。以上より、被着体の積層プロセスに応じて、プラズマ処理面の微細形態を調整する事が重要と考えられる。
(実施例12-A)及び(実施例12-B)
上述の実施例12で得られたPTFEフィルムを、2週間に亘り常温で段ボール内において静置したものを実施例12-Aとした。また、実施例12で得られたPTFEフィルムを7ヶ月に亘り常温で段ボール内において静置したものを実施例12-Bとした。これら実施例12-A及び実施例12-Bのそれぞれについて、上述した<エポキシ系接着剤との積層試験体作製、及び、接着力測定>で説明した方法に従ってエポキシ系接着剤との積層試験体を作製し、エポキシ接着力を測定した。
実施例12-Aに係る積層試験体と実施例12-Bに係る積層試験体とのエポキシ接着力(剥離強度)を比較することにより、経時による接着力の保持率を算出した。実施例12-Aに係る積層試験体のエポキシ接着力は3.8N/cmであり、実施例12-Bに係る積層試験体のエポキシ接着力は3.5N/cmであった。それ故、実施例12-Aに係る積層試験体のエポキシ接着力を100%とした場合に、実施例12-Bに係るエポキシ接着力は92%と算出された。以上の結果を表4にまとめる。
実施例12-A及び12-Bとの対比から、実施例12に係るPTFEフィルムは、半年以上が経過してもエポキシ接着剤との良好な接着力を維持していたことがわかる。
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1] ローラ電極と、前記ローラ電極と対向する対向電極との間に位置する反応場にプラズマを発生させ、前記プラズマによりポリテトラフルオロエチレンのフィルムを処理する、プラズマ処理方法であって、
前記フィルムを前記ローラ電極の表面上に供給し、前記フィルムの被処理面とは反対側の面を、前記ローラ電極の10℃以上50℃以下の温度に保持された前記表面と接触させることと、
前記反応場において、前記ローラ電極により前記フィルムを移動させつつ、気圧が0.2Pa以上3Pa以下の条件で0.5kW以上3.0kW以下の電力を印加して放電することによりプラズマを発生させ、前記フィルムにプラズマ処理を施すことと
を含む、プラズマ処理方法。
[2] 前記反応場において、前記フィルムを0.3m/min以上5m/min以下の速度で移動させることを含む[1]に記載のプラズマ処理方法。
[3] 前記ローラ電極と、前記対向電極との距離は10mm以上100mm以下である[1]又は[2]に記載のプラズマ処理方法。
[4] 前記ローラ電極の前記表面を20℃以上30℃以下の温度に保持することを含む[1]~[3]の何れか1項に記載のプラズマ処理方法。
[5] 前記反応場における気圧を0.4Pa以上0.8Pa以下とすることを含む[1]~[4]の何れか1項に記載のプラズマ処理方法。
1…供給ローラ、2…巻取ローラ、3、4…ローラ、5…真空ポンプ、6…ローラ電極、7…対向電極、8…PTFEフィルム、9…チャンバ、10…プラズマ発生装置。

Claims (3)

  1. ローラ電極と、前記ローラ電極と対向する対向電極との間に位置する反応場にプラズマを発生させ、前記プラズマによりポリテトラフルオロエチレンのフィルムを処理する、プラズマ処理方法であって、
    前記フィルムを前記ローラ電極の表面上に供給し、前記フィルムの被処理面とは反対側の面を、前記ローラ電極の10℃以上50℃以下の温度に保持された前記表面と接触させることと、
    前記反応場において、前記ローラ電極により前記フィルムを0.5m/min以上1.0m/min以下の速度で移動させつつ、気圧が0.2Pa以上3Pa以下の条件で0.5kW以上3.0kW以下の電力を、0.5W/cm 2 以上3.0W/cm 2 以下の電力密度で印加して放電することによりプラズマを発生させ、前記フィルムにプラズマ処理を施すことと
    を含み、
    前記ローラ電極と、前記対向電極との距離は10mm以上100mm以下である、プラズマ処理方法。
  2. 前記ローラ電極の前記表面を20℃以上30℃以下の温度に保持することを含む請求項1に記載のプラズマ処理方法。
  3. 前記反応場における気圧を0.4Pa以上0.8Pa以下とすることを含む請求項1又は2に記載のプラズマ処理方法。
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