JP7488687B2 - 選択的trpチャネル活性化剤、およびその用途 - Google Patents

選択的trpチャネル活性化剤、およびその用途 Download PDF

Info

Publication number
JP7488687B2
JP7488687B2 JP2020079625A JP2020079625A JP7488687B2 JP 7488687 B2 JP7488687 B2 JP 7488687B2 JP 2020079625 A JP2020079625 A JP 2020079625A JP 2020079625 A JP2020079625 A JP 2020079625A JP 7488687 B2 JP7488687 B2 JP 7488687B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
hinokitiol
trpv1
trpm8
activation
cold
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2020079625A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2021172628A (ja
Inventor
浩明 岡本
恵介 梶田
誠之 森
泰生 森
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Kobayashi Pharmaceutical Co Ltd
Original Assignee
Kobayashi Pharmaceutical Co Ltd
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Kobayashi Pharmaceutical Co Ltd filed Critical Kobayashi Pharmaceutical Co Ltd
Priority to JP2020079625A priority Critical patent/JP7488687B2/ja
Publication of JP2021172628A publication Critical patent/JP2021172628A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP7488687B2 publication Critical patent/JP7488687B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Landscapes

  • Medicinal Preparation (AREA)
  • Cosmetics (AREA)

Description

特許法第30条第2項適用 (その1) ウェブサイトの掲載日 2019年9月30日 ウェブサイトのアドレス http://www.kokuhoken.jp/jaob61/ http://www.jaob.jp/publication/meet_abstract_61.html http://www.jaob.jp/file/abstract/61/all.pdf (その2) 開催日 2019年10月12日から2019年10月14日 集会名、開催場所 第61回歯科基礎医学会学術大会 東京歯科大学(東京都千代田区神田三崎町2-9-18) (その3) ウェブサイトの掲載日 2020年4月10日 ウェブサイトのアドレス http://www.perio.jp/ http://www.perio.jp/meeting/ http://www.perio.jp/meeting/file/meet_63_sp/all.pdf
本発明は、選択的TRPチャネル活性化剤、具体的にはTRPV1および/またはTRPM8の活性化剤に関する。
清涼感や刺激感を付与することを目的として、従来より、化粧品、ヘアケア製品、口腔ケア製品、トイレタリー製品、入浴剤、医薬品等の各種製品には、メントールを始めとする冷感物質がしばしば配合されている。メントールによる冷感の付与は、皮膚や粘膜組織中に存在する知覚神経終末にメントールが直接作用することにより生じると考えられており、この冷感付与に関するメカニズムの検討が進められてきた。
この検討のなかで、ラットを用いた試験により、感覚神経のうち、弱い冷却刺激が応答して内向きのイオン電流が生じるニューロンが、メントールに対しても同様の応答性を示すことが発見された(非特許文献1)。この発見により、メントールの刺激による冷感は、内向きのカルシウム電流により引き起こされることが明らかになった。そして、メントール及び冷刺激に応答性を示す受容体として、三叉神経ニューロンからCMR-1(cold and menthol sensitive receptor)が同定された(非特許文献2)。この受容体は、温度感受性(Transient Receptor Potential:TRP)イオンチャネルファミリーに属する興奮性のイオンチャネルであり、TRPM8と称され、これが前述のカルシウム電流を引き起こすと考えられている。前述するように、TRPM8は活性化により冷感を引き起こすため、TRPM8活性化作用を有する化合物は、メントールと同様に冷感(清涼感を含む。以下、同じ)を引き起こす作用を有し、冷感剤として有用であることが知られている(例えば、特許文献1等参照)。そのほか、TRPM8の活性化は鎮痛に関与することが報告されており(非特許文献3)、特に慢性ニューロパシー痛に対して鎮痛作用を発揮することが知られている(特許文献2)。
一方、TRPM8と同じく、TRPイオンチャネルファミリーに属する興奮性のイオンチャネルであるTRPV1は、カプサイシンや43℃以上の熱刺激で活性化される熱受容体として機能することが確認されている(非特許文献4及び5)。TRPV1は活性化により歯肉上皮細胞を増殖する等の口腔機能への関与が知られている(非特許文献6)。また、TRPV1は表皮細胞にも存在し、TRPV1を刺激して活性化することで表皮細胞のカルシウムイオン濃度が変動すること(特許文献3)、グリコール酸などのケミカルピーリング剤による表皮細胞や真皮線維芽細胞の増殖には、表皮細胞に存在するTRPV1の活性化が関与していることが知られている(特許文献4及び5)。
ところで、ヒノキチオールは、従来より、抗菌作用、組織に対する収斂作用、および抗炎症作用が知られており、口腔内の歯肉炎や歯槽膿漏の予防または治療を目的として口腔用組成物に配合されている。また、皮膚の創傷治癒、肌荒れの防止または改善、および皮膚のたるみやつやの消失を防ぐ老化防止効果などを目的として、皮膚外用組成物に配合されている。しかしながら、TRPチャネルへの作用は知られていない。
特開2013-136733号公報 特表2009-544682号公報 特開2002-372530号公報 特開2006-262806号公報 特開2009-298752号公報
Reid G, Flonta ML: Ion channels activated by cold and menthol in cultured rat dorsal root ganglion neurones. Neurosci Lett 2002, 324:164-168. McKemy DD, Neuhausser WM, Julius D.: Identification of a cold receptor reveals a general role for TRP channels in thermosensation. Nature. 2002; 416:52-58 Proudfoot CJ. Et al.,; Analgesia mediated by the TRPM8 cold receptor in chronic neuropathic pain. Current Biol. 2006; 16(16):1591-605 Caterina, M. J., Schumacher, M. A., Tominaga, M., Rosen, T. A., Levine, J. D., and Julius, D.: The capsaicin receptor: a heat-activated ion channel in the pain pathway. Nature 1997; 389: 816-824. M. J. Caterinal et al.,: Impaired Nociception and Pain Sensation in Mice Lacking the Capsaicin Receptor. Science 2000; 288: 306-313 N. Takahashi, et al., Epithelial TRPV1 Signaling Accelerates Gingival Epithelial Cell Proliferation. J Dent Res.2014; 93(11): 1141-1147
本発明は、ヒノキチオールについて新たに見出した機能に基づいて、ヒノキチオールの新規用途を提供することを課題とする。具体的には、ヒノキチオールを有効成分とする選択的TRPチャネル活性化剤、具体的にはTRPV1および/またはTRPM8の活性化剤を提供することを課題とする。また、ヒノキチオールの選択的TRPチャネル活性化作用に基づく新たな用途を提供することを課題とする。
本発明者等は、ヒノキチオールについて新たな機能を見出すべく研究を進めていたところ、ヒノキチオールに、TRPチャネルの一種であるTRPV1を選択的に活性化する機能があることを見出した。さらにヒノキチオールと構造類似の化合物であるγ-ツヤプリシンおよびトロポロンにも、ヒノキチオールと同様にTRPV1を選択的に活性化する作用があることを確認した。
さらに本発明者等は、ヒノキチオールに、TRPチャネルの一種であるTRPM8を選択的に活性化する機能があることを見出した。
本発明は、これらの知見に基づいて、さらに研究を重ねて完成したものであり、下記の実施形態を包含するものである。
(I)選択的TRPチャネル活性化剤
(I-1)ヒノキチオール及びその構造類似化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とする、選択的TRPチャネル活性化剤。
(I-2)活性化されるTRPチャネルが、TRPV1およびTRPM8よりなる群から選択される少なくとも1つである、(I-1)記載の選択的TRPチャネル活性化剤。
(I-3)ヒノキチオールの構造類似化合物が、γ-ツヤプリシンおよびトロポロンよりなる群から選択される少なくとも1つである、(I-1)または(I-2)記載の選択的TRPチャネル活性化剤。
(II)温冷覚刺激剤
(II-1)ヒノキチオールを有効成分とする温冷覚刺激剤。
(II-2)温感剤、冷感剤、または温感若しくは冷感による刺激剤である(III-1)に記載する温冷覚刺激剤。
(III)ヒノキチオールの使用方法
(III-1)ヒノキチオール及びその構造類似化合物よりなる群から選択される少なくとも1種のヒノキチオール化合物を組成物に配合することにより、当該組成物に対して、TRPV1活性化作用、TRPM8活性化作用、および/またはこれらの少なくとも一方の作用に起因する機能を付与することを特徴とする、ヒノキチオール化合物の使用方法。
(III-2)前記TRPV1活性化作用に起因する機能が、温覚刺激機能である、(III-1)に記載する方法。
(III-3)前記TRPM8活性化作用に起因する機能が、冷覚刺激機能である、(III-1)に記載する方法。
(III-4)ヒノキチオールの構造類似化合物が、γ-ツヤプリシンおよびトロポロンよりなる群から選択される少なくとも1つである、(III-1)記載の方法。
ヒノキチオールまたはその構造類似化合物は、細胞中のTRPV1を活性化する作用を有しており、TRPV1活性化剤として有用である。このため、ヒノキチオールまたはその構造類似化合物は、TRPV1の活性化に起因する種々の機能を発揮することができる。また、ヒノキチオールまたはその構造類似化合物を、組成物に添加配合することで、当該組成物に対して、TRPV1活性化作用を付与し、当該作用に起因する種々の機能を付与することができる。かかる機能として、制限されないものの、例えば、上皮細胞、表皮細胞、または真皮線維芽細胞の増殖促進作用、および温覚刺激機能を挙げることができる。このため、ヒノキチオール若しくはその構造類似化合物、及びこれらの少なくとも一種を含む組成物は上皮細胞、表皮細胞または真皮線維芽細胞の増殖促進剤としても、また温覚刺激剤(例えば温感剤や熱感剤など)として有用である。
ヒノキチオールは、細胞中のTRPM8を活性化する作用を有しており、TRPM8活性化剤として有用である。このため、ヒノキチオールは、TRPM8の活性化に起因する種々の機能を発揮することができる。また、ヒノキチオールを、組成物に添加配合することで、当該組成物に対して、TRPM8活性化作用を付与し、当該作用に起因する種々の機能を付与することができる。かかる機能として、制限されないものの、例えば冷覚刺激機能を挙げることができる。このため、ヒノキチオール、またはこれを含む組成物は冷覚刺激剤(例えば清涼剤や冷感剤など)として有用である。
実験例1で行ったヒノキチオールによるTRPM8活性化の測定結果を示す図である。 実験例2で行ったヒノキチオールによるTRPV1活性化の測定結果を示す図である。 実験例3で行ったヒノキチオールの構造類似化合物のTRPM8またはTRPV1に対する作用の評価結果を示す図である。 実験例4で行ったヒノキチオールの他のTRPチャネルへの影響の測定結果を示す図である。
ヒノキチオール
本発明の選択TRPチャネル活性化剤(TRPV1活性化剤、TRPM8活性化剤)、及び温冷覚刺激剤は、いずれもヒノキチオールを有効成分(活性本体)とするものである。ヒノキチオールは、β-ツヤプリシンとも称される公知の化合物であり、商業的に入手することができる。ヒノキチオールとして、天然由来のものを使用しても、また化学合成されたものを使用してもよい。また、本発明においてヒノキチオールは、本発明の効果を損なわないかぎり、精製品であっても、粗精製品であってもよく、後者としては、例えばヒバやヒノキなどの樹木から得られるヒノキチオール含有精油を例示することができる。
ヒノキチオールの構造類似化合物
ヒノキチオールの構造類似化合物としては、γ-ツヤプリシンおよびトロポロンを挙げることができる。当該構造類似化合物は、ヒノキチオールに代えて、またはヒノキチオールと組み合わせて、選択TRPチャネル活性化剤、特にTRPV1活性化剤として使用することができる。当該構造類似化合物も公知の化合物であり、商業的に入手することができる。
(I)選択的TRPチャネル活性化剤
温度感受性Transient Receptor Potential(TRP)チャネルは、生体の温感センサーとして発見された受容体である。熱いものや冷たいものに触れたり、極端に暑いまたは寒い環境におかれたりすると、生体に備わっている温感センサーのTRPチャネルが活性化して、脳に危険性を伝える。このとき、TRPチャネルは、温度だけでなく多くの化学的・物理的刺激を感受するセンサーとして多様な生体機能に関わっている。化学物質への感受性は、有害化合物の暴露に対する生体防御システムとしての役割を担い、有害化合物によりもたらされる刺激は、生体侵害に対する警告信号となっている。一方、さまざまな風味を付与する香辛料やハーブ類は、口蓋や鼻腔における体性感覚神経を活性化することで独特の感覚を惹起し、その適度な刺激(辛み、温感、冷感)が好まれて積極的に摂取されている。TRPチャネル刺激物質(TRPチャネル活性化剤)によりもたらされる体性感覚の伝達は抹消から中枢へ至る求心性の一般知覚性神経によって担われる。
本発明が対象とするTRPチャネルは、TRPV1(Transient Receptor Potential Vanilloid 1)およびTRPM8(Transient Receptor Potential Melastatin 8)である。実験例で示すように、ヒノキチオールは、複数あるTRPチャネルのうち、TRPV1およびTRPM8を選択的に活性化する作用を有する。またヒノキチオールの構造類似化合物であるγ-ツヤプリシンおよびトロポロンもまた、TRPV1を選択的に活性化する作用を有する。その意味で、これらは選択的TRPチャネル活性化剤と称される。このため、ヒノキチオール及びその構造類似化合物はTRPV1活性化剤として使用することができ、またヒノキチオールはTRPM8活性化剤として使用することができる。
(I-1)TRPV1活性化剤
TRPV1は、辛味成分であるカプサイシンに対する受容体として単離されたTRPチャネルの一つであり、カプサイシン等の辛味成分のほか、43℃以上の熱、酸(プロトン)、ブラジキニン、PGE、またはATP等によって活性化されることが知られている。TRPV1は活性化されると、カチオン、主としてカルシウムイオンの輸送を起こす。当該イオンは濃度勾配の低い方へ流れ、脱分極し、次いで神経末端から神経伝達物質の遊離を引き起こす。TRPV1は、脳、腎臓、気管支上皮細胞や歯肉上皮細胞等の上皮細胞、および表皮角質細胞などの、多くの組織に存在していることが報告されている。またTRPV1の活性化は、前記上皮細胞、表皮細胞、及び真皮線維芽細胞の増殖に関連することが知られている(非特許文献6、特許文献4及び5)。
このため、ヒノキチオール及びその構造類似化合物は、TRPV1活性化剤として用いられることで、TRPV1の活性化を介して、当該TRPV1の活性化に起因する種々の機能を発揮することができる。かかる機能には、TRPV1の活性化を介して生じるあらゆる機能が含まれる。これらの機能には、制限されないものの、上皮細胞(気管支上皮細胞、歯肉上皮細胞など)、表皮細胞、または真皮線維芽細胞の増殖を促進する機能が含まれる。また鎮痛機能、および嚥下障害の治療若しくは予防機能(国際特許公報WO2014/181724)が含まれる。
なお、歯肉上皮細胞は、歯頚部および歯根部を取り囲んで隣接組織の支持構成物としての役割を果たす口腔内粘膜の上皮細胞(口腔内縁粘膜上皮細胞)である。この上皮細胞は、健康な状態では歯牙のエナメル層表面に付着しているが、歯周炎が進行すると歯周ポケットが形成される。このため、歯肉上皮細胞の増殖を促進することは、歯肉細胞の賦活化、歯肉の活性化、正常化、または修復促進につながり、歯の健全な維持に有用である。このため、ヒノキチオール及びその構造類似化合物は、口腔ケア製品に対して、TRPV1活性化剤、歯肉上皮細胞増殖促進剤、歯肉賦活化剤、歯肉活性化剤、または歯肉修復促進剤として、その機能を発揮する有効量を添加配合して用いることができる。その配合量としては、効果を奏する限り、制限されないものの、最終の口腔ケア製品中に0.0001~0.5質量%の範囲で含まれるように、適宜設定調整することができる。好ましくは0.005~0.2質量%、より好ましくは0.001~0.2質量%である。
TRPV1活性化による表皮細胞または真皮線維芽細胞の増殖促進メカニズムは、拘束されるものではないが、特許文献4によると、「表皮細胞のTRPV1活性化→表皮細胞内へCa2+イオンが流入→表皮細胞からATPが遊離→表皮細胞が増殖→表皮細胞からIL-1αが遊離→真皮線維芽細胞が増殖」とされている。このため、ヒノキチオールまたはその構造類似化合物は、TRPV1活性化を介して、表皮細胞または真皮線維芽細胞の増殖促進機能を有し、美肌効果を発揮することが可能となる。具体的には、皮膚の皺、シミ、くすみ、またはニキビなどの改善作用を例示することができる。このため、ヒノキチオール及びその構造類似化合物は、皮膚外用組成物(医薬品、医薬部外品、化粧品)に対して、TRPV1活性化剤、表皮細胞増殖促進剤、真皮線維芽細胞増殖促進剤、肌賦活化剤、はり付与剤、美肌剤、抗しわ剤、抗くすみ剤、アンチエイジェント剤、美白剤、または創傷跡治癒促進剤として、その機能を発揮する有効量を添加配合することができる。その配合量としては、効果を奏する限り、制限されないものの、最終の皮膚外用組成物中に0.0001~0.5質量%の範囲で含まれるように、適宜設定調整することができる。好ましくは0.005~0.2質量%、より好ましくは0.001~0.2質量%である。
また、TRPV1活性化剤は、前述するように鎮痛機能を発揮するため、鎮痛剤としても使用することができる。またTRPV1活性化剤は、嚥下障害の治療または予防機能を発揮するため、嚥下障害の治療または予防にも有用である。さらにTRPV1活性化剤は、温覚刺激機能を発揮するため、温感剤または熱感剤として使用することができる。このため、ヒノキチオール及びその構造類似化合物は、TRPV1の活性化を介して、鎮痛機能、嚥下障害の治療若しくは予防機能、または温覚刺激機能を発揮し、各種組成物に添加配合することで、当該組成物にかかる機能を付与することができる。
(I-2)TRPM8活性化剤
TRPM8は、約8~28℃の低温で活性化する冷刺激受容体である。TRPM8を発現させた細胞での電気生理学的な解析から、TRPM8はCa2+透過性の高い非選択性陽イオンチャネルであり、TRPM8にリガンドが結合することで、TRPM8が活性化されて同チャネルを通過するCa2+の流入量が上昇して膜の脱分極が生じ、それにより冷感が感じられることが知られている。冷感物質として知られているメントールは、上記リガンド(TRPM8活性化剤)として機能することが知られている化合物である。使用中や使用後における冷感(清涼感を含む)を付与することを目的として、化粧品、口腔ケア製品、トイレタリー製品、ヘヤーケア製品(頭皮を対象とする製品を含む)、入浴剤、皮膚外用剤、医薬品等の各種製品には、TRPM8活性化剤(冷感物質)がしばしば配合されている(特許文献1)。また、TRPM8を活性化することで、慢性ニューロパシー痛が和らぐ(鎮痛作用)ことが知られている(特許文献2)。当該特許文献によると慢性ニューロパシー痛は、中枢神経系の変化に関連した症状であり、制限されないが、外傷誘発ニューロパシー痛、脱髄誘発痛、炎症痛状態、幻肢痛、癌に関連したニューロパシー痛、化学療法誘発ニューロパシー痛、背痛、ならびに骨痛及び癌誘発性骨痛が、含まれるとされている。
ヒノキチオールは、TRPM8活性化剤として用いられることで、TRPM8の活性化を介して、当該TRPM8の活性化に起因する種々の機能を発揮することができる。かかる機能には、TRPM8の活性化を介して生じるあらゆる機能が含まれる。これらの機能には、制限されないものの、冷覚刺激機能、および慢性ニューロパシー痛に対する鎮痛機能などが含まれる。つまり、ヒノキチオールは、各種組成物(例えば、前述する化粧品、口腔ケア製品、トイレタリー製品、ヘヤーケア製品(頭皮を対象とする製品を含む)、入浴剤、皮膚外用剤、医薬品、飲食物等)に対して、TRPM8活性化剤、冷覚刺激剤、または慢性ニューロパシー痛に対する鎮痛剤として、その機能を発揮する有効量を添加配合して用いることができる。その配合量としては、効果を奏する限り、制限されないものの、最終の組成物中に0.0001~0.5質量%の範囲で含まれるように、適宜設定調整することができる。好ましくは0.005~0.2質量%、より好ましくは0.001~0.2質量%である。
(II)上皮細胞、表皮細胞または真皮線維芽細胞の増殖促進剤
前述するように、ヒノキチオールまたはその構造類似化合物は、そのTRPV1活性化作用に基づいて、上皮細胞、表皮細胞または真皮線維芽細胞の増殖促進剤の有効成分(活性本体)として機能する。ここで上皮細胞には、歯肉上皮細胞、気管支上皮細胞、表皮角化細胞などが制限なく含まれる。好ましくは、歯肉上皮細胞である。
このため、本発明の一態様は、ヒノキチオールまたはその構造類似化合物を有効成分とする上皮細胞増殖促進剤、好ましくは歯肉上皮細胞増殖促進剤である。当該上皮細胞増殖促進剤は、ヒノキチオールおよびその構造類似化合物よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物(以下、ヒノキチオール化合物と総称する)を有効成分(活性本体)とするものであり、これら100質量%からなるものであってもよい。ヒノキチオールの構造類似化合物には、γ-ツヤプリシンおよびトロポロンが含まれる。ヒノキチオール化合物として、好ましくはヒノキチオールである。上皮細胞増殖促進剤には、ヒノキチオール化合物のTRPV1活性化作用に起因する上皮細胞増殖促進作用を損なわないことを限度として、その形態に応じて、ヒノキチオール化合物以外の成分(例えば、賦形剤、増量剤、抗酸化剤など)を、制限されることなく任意に配合することができる。
本発明の上皮細胞増殖促進剤、特に歯肉上皮細胞増殖促進剤は、好適には口腔ケア製品に配合して用いることができる。ここで口腔ケア製品とは、通常の使用過程において、口腔内への任意の機能(例えば、清浄、口臭除去、歯石除去、抗炎症、鎮痛、歯周病や歯肉炎の歯肉疾患や虫歯等の予防または治療など)を目的として、一部若しくは全ての、歯表面及び/又は口腔組織と接触させるのに十分な時間にわたって、口腔内に保持される製品を意味する。口腔ケア製品には、歯磨剤(ペースト、ゲル、粉末、タブレット、又は液体の製剤を含む)、洗口剤、歯肉用クリーム、歯肉縁下用ゲル、義歯装着用製品、又はチューインガムやグミなどが含まれる。これらの口腔ケア製品には、本発明の歯肉上皮細胞増殖促進剤(ヒノキチオールまたはその構造類似化合物)に加えて、各種製品の目的や形態に応じて、慣用の成分を配合することができる。制限されないものの、こうした成分として、研磨剤、増粘剤、湿潤剤、緩衝剤、界面活性剤、風味剤、甘味料、着色料、抗う蝕剤、抗過敏症剤、抗炎症剤、抗歯石剤、キレート化剤、抗酸化剤、または鎮痛剤などを例示することができる。
口腔ケア製品に対するヒノキチオール化合物の配合量は、TRPV1活性化作用に基づいて歯肉上皮細胞の増殖を促進する機能を発揮する有効量であればよく、制限されないものの、最終の口腔ケア製品中に0.0001~0.5質量%の範囲で含まれるように、適宜設定調整することができる。好ましくは0.005~0.2質量%、より好ましくは0.001~0.2質量%である。
また本発明の他の一態様は、ヒノキチオールまたはその構造類似化合物を有効成分とする表皮細胞または真皮線維芽細胞の増殖促進剤(以下、「表皮細胞増殖促進剤」と総称する)である。当該表皮細胞増殖促進剤は、ヒノキチオールおよびその構造類似化合物よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物(ヒノキチオール化合物)を有効成分(活性本体)とするものであり、これら100質量%からなるものであってもよい。ヒノキチオール化合物として、好ましくはヒノキチオールである。表皮細胞増殖促進剤には、ヒノキチオール化合物のTRPV1活性化作用に起因する表皮細胞増殖促進作用を損なわないことを限度として、その形態に応じて、ヒノキチオール化合物以外の成分(例えば、賦形剤、増量剤、抗酸化剤など)を、制限されることなく任意に配合することができる。
本発明の表皮細胞増殖促進剤は、好適には皮膚外用組成物に配合して用いることができる。ここで皮膚外用組成物には、化粧料、外用医薬部外品、および外用医薬品が含まれる。皮膚外用組成物の剤形は任意であり、溶液系、可溶化系、乳化系、粉末分散系、水-油二層系、水-油-粉末三層系、ジェル、ミスト、スプレー、ムース、ロールオン、スティック、軟膏、クリーム等が含まれる。また、不織布等のシートに含浸ないし塗布した形態の製剤も含まれる。化粧料として、制限されないものの、具体的には、化粧水、乳液、クリーム、パック等のフェーシャル化粧料;ファンデーション、口紅、アイシャドー等のメーキャップ化粧料;日焼け止め化粧料(サンスクリーン剤);ボディー化粧料;芳香化粧料;メーク落とし、ボディーシャンプーなどの皮膚洗浄料;ヘアリキッド、ヘアトニック、ヘアコンディショナー、シャンプー、リンス、育毛料等の毛髪(頭皮)化粧料等を挙げることができる。制限されないものの、日常的な使用が可能であり、塗布直後の洗い流しを要さないリーブオン型の化粧料が好適に例示される。
これらの皮膚外用組成物には、本発明の表皮細胞増殖促進剤(ヒノキチオールまたはその構造類似化合物)に加えて、各種製品の目的や形態に応じて、通常化粧品や医薬品等の皮膚外用剤に用いられる慣用の成分を配合することができる。制限されないものの、例えば、粉末成分、液体油脂、固体油脂、ロウ、炭化水素、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル、シリコーン、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、水溶性高分子、増粘剤、皮膜剤、紫外線吸収剤、金属イオン封鎖剤、低級アルコール、多価アルコール、糖、アミノ酸、有機アミン、高分子エマルジョン、pH調製剤、皮膚栄養剤、ビタミン、酸化防止剤、酸化防止助剤、香料、水等を例示することができる。
皮膚外用組成物に対するヒノキチオール化合物の配合量は、TRPV1活性化作用に基づいて表皮細胞または真皮線維芽細胞の増殖を促進する機能を発揮する有効量であればよく、制限されないものの、最終の皮膚外用組成物中に0.0001~0.5質量%の範囲で含まれるように、適宜設定調整することができる。好ましくは0.005~0.2質量%、より好ましくは0.001~0.2質量%である。
(III)温冷覚刺激剤
前述するように、ヒノキチオールは、TRPV1活性化作用またはTRPM8活性化作用に基づいて体性感覚、特に皮膚感覚を刺激する機能を有する。当該皮膚感覚には、温覚を刺激する機能(温覚刺激機能)、および冷覚を刺激する機能(冷覚刺激機能)が好適に含まれる。ヒトを含む温血動物においてTRPV1またはTRPM8が活性化されることよって温度感覚閾値温度が変わり、例えばTRPV1活性化により温覚が刺激されると、実際は温度上昇を伴っていないにも拘わらず、「温かい」または「熱い」と感じられ、またそれが過ぎると「痛み」として感じられる。一方、TRPM8活性化により冷覚が刺激されると、実際は温度低下を伴っていないにも拘わらず、「涼しい」または「冷たい」と感じられ、またそれが過ぎると「痛み」として感じられる。本発明において、温冷覚刺激機能とは、ヒトを含む温血動物においてTRPV1またはTRPM8 を活性化することによって生じる上記の機能を意味する。ヒノキチオールは、ヒトを含む温血動物に対して温冷覚刺激をもたらす温冷覚刺激剤の有効成分(活性本体)として有用である。また、ヒノキチオールは、ヒトを含む温血動物に適用される製品に前記の温冷覚刺激作用を付与するための温冷覚刺激剤の有効成分(活性本体)としても有用である。
具体的にはヒノキチオールを有効成分(活性本体)とする温冷覚刺激剤には、温覚刺激剤、および冷覚刺激剤が含まれる。前者の温覚刺激剤は、ヒトを含む温血動物に適用されることで温血動物に温かいまたは熱いと感じさせる製剤(温感剤または熱感剤とも称される)を意味し、好適には、例えば皮膚外用組成物(化粧料、外用医薬部外品、外用医薬品)、貼付剤、口腔ケア製品、トイレタリー製品、ヘヤーケア製品(頭皮を対象とする製品を含む)、入浴剤、飲食物などの各種製品に配合して用いることができる。後者の冷覚刺激剤は、ヒトを含む温血動物に適用されることで温血動物に涼しいまたは冷たいと感じさせる製剤(清涼剤または冷感剤とも称される)を意味し、好適には、例えば前記の各種製品に配合して用いることができる。
温冷覚刺激剤はヒノキチオール100質量%からなるものであってもよい。温冷覚刺激剤には、ヒノキチオールのTRPM8活性化作用に起因する温冷覚刺激機能を損なわないことを限度として、その形態に応じて、ヒノキチオール以外の成分(例えば、賦形剤、増量剤、抗酸化剤など)を、制限されることなく任意に配合することができる。
本発明の温冷覚刺激剤は、前述するように好適には皮膚外用組成物(化粧料、外用医薬部外品、外用医薬品)、口腔ケア製品、飲食物などの各種製品に配合して用いることができる。皮膚外用組成物の形態及び他の配合成分は、本発明の効果を妨げないことを限度として、前述した通りであり、上記記載をここに援用することができる。口腔ケア製品の形態及び他の配合成分も、本発明の効果を妨げないことを限度として、前述した通りであり、上記記載をここに援用することができる。飲食物の形態及び他の配合成分も、本発明の効果を妨げないことを限度として、特に制限されず、慣用の形態及び成分を採用することができる。制限されないものの、好適には、キャンディー、ガム、口中清涼剤、タブレット、飲料水、清涼飲料水等を挙げることができる。
これらの製品に対するヒノキチオールの配合量は、TRPV1活性化作用に基づいて温覚刺激機能を発揮する有効量またはTRPM8活性化作用に基づいて冷覚刺激機能を発揮する有効量であればよく、制限されないものの、最終の製品中に0.0001~0.5質量%の範囲で含まれるように、適宜設定調整することができる。好ましくは0.005~0.2質量%、より好ましくは0.001~0.2質量%である。
(IV)ヒノキチオールの使用方法
本発明は、ヒノキチオール及びその構造類似化合物よりなる群から選択される少なくとも1種のヒノキチオール化合物の使用方法を提供する。
前述するように、ヒノキチオール及びその構造類似化合物(ヒノキチオール化合物)は、TRPV1活性化作用を有し、その作用に起因して各種機能を発揮する。このため、ヒノキチオール化合物を組成物に配合することで、当該組成物に、TRPV1活性化作用を付与することができ、またその作用に基づいて各種機能を付与することができる。TRPV1活性化作用に基づく機能には、上皮細胞、表皮細胞または真皮線維芽細胞の増殖促進機能、温覚刺激機能、鎮痛機能、または嚥下障害の治療若しくは予防機能が含まれる。対象とする組成物は、付与する機能に応じて、適宜選択することができる。例えば、歯肉上皮細胞増殖促進機能を付与する対象の組成物としては口腔ケア製品を、また表皮細胞または真皮線維芽細胞の増殖促進機能を付与する対象の組成物としては皮膚外用組成物(化粧料、外用医薬部外品、外用医薬品)を、また温覚刺激機能を付与する組成物としては、皮膚外用組成物(化粧料、外用医薬部外品、外用医薬品)、貼付剤、口腔ケア製品、トイレタリー製品、ヘヤーケア製品(頭皮を対象とする製品を含む)、入浴剤、または飲食物等を例示することができる。これらの組成物に配合するヒノキチオール化合物の割合は、制限されないものの、最終の組成物中に0.0001~0.5質量%の範囲で含まれるように、適宜設定調整することができる。好ましくは0.005~0.2質量%、より好ましくは0.001~0.2質量%である。
ヒノキチオールは、TRPM8活性化作用を有し、その作用に起因して各種機能を発揮する。このため、ヒノキチオールを組成物に配合することで、当該組成物に、TRPM8活性化作用を付与することができ、またその作用に基づいて各種機能を付与することができる。TRPM8活性化作用に基づく機能には、冷覚刺激機能、慢性ニューロパシー痛への鎮痛機能が含まれる。対象とする組成物は、付与する機能に応じて、適宜選択することができる。例えば、冷覚刺激機能を付与する対象の組成物としては、皮膚外用組成物(化粧料、外用医薬部外品、外用医薬品)、貼付剤、口腔ケア製品、トイレタリー製品、ヘヤーケア製品(頭皮を対象とする製品を含む)、入浴剤、飲食物等を例示することができる。これらの組成物に配合するヒノキチオール化合物の割合は、制限されないものの、最終の組成物中に0.0001~0.5質量%の範囲で含まれるように、適宜設定調整することができる。好ましくは0.005~0.2質量%、より好ましくは0.001~0.2質量%である。
以上、本明細書において、「含む」及び「含有する」の用語には、「からなる」及び「から実質的になる」という意味が含まれる。
以下、本発明の構成及び効果について、その理解を助けるために、実験例を用いて本発明を説明する。但し、本発明はこれらの実験例によって何ら制限を受けるものではない。以下の実験は、特に言及しない限り、室温(25±5℃)、及び大気圧条件下で実施した。なお、特に言及しない限り、以下に記載する「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
実験方法
後述する実験は、下記の方法を用いて行った。
(1)細胞培養
ヒト胎児腎細胞由来株HEK293細胞を、10%ウシ胎児血清、30単位/ mlペニシリン、および30μg/ mlストレプトマイシンを含むダルベッコの改変イーグル培地(DMEM製)で、5容量%CO2下で培養した。
(2)細胞でのcDNA発現
pCI-neoベクター(Promega Corp.製)を用いて、hTRPM8、hTRPV1、hTRPV3、hTRPV4およびhTRPA1のcDNAをそれぞれ有する組換えプラスミド(ヒトTRPM8発現ベクター、ヒトTRPV1発現ベクター、ヒトTRPV3発現ベクター、ヒトTRPV4発現ベクター、またはヒトTRPA1発現ベクター)を調製した。トランスフェクション試薬であるSuperFect Transfection Reagent(Qiagen製)を使用して、HEK293細胞に前記組換えプラスミドをトランスフェクトした。細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)の測定および電気生理学的測定のために、組換えプラスミドをpEGFP-Fでコトランスフェクトし、緑色蛍光を有するHEK293細胞を分析した。なお、トランスフェクトされた細胞は、18~36時間培養させた後に、下記の細胞内カルシウムイオン濃度測定([Ca2+]i測定)及び電気生理学測定に供した。
(3)細胞内の遊離Ca2+濃度測定([Ca2+]i測定)
トランスフェクトされたHEK293細胞は、ポリ-L-リジンでコーティングされたガラスカバースリップの上に播種してから3~16時間後に[Ca2+]i測定に供した。2 mMのカルシウムを含有するHEPES緩衝生理食塩水(HBS)(107 mM NaCl、6 mM KCl、1.2 mM MgSO4、2 mM CaCl2、11.5 mMグルコース、および20 mM HEPESを含有。NaOHでpH7.4に調整)に、カルシウム感受性蛍光色素であるFura2-AM(1μM,Sigma社製)を添加して調製した水溶液を用いて、トランスフェクトされたHEK293細胞を、37℃のCOインキュベーターにて30分間インキュベートした。斯くして当該HEK293細胞にFura2-AMを取り込ませた後、前記HEPES緩衝生理食塩水で洗浄し、[Ca2+]i測定に供した。測定は、室温で行い、細胞の蛍光画像を記録し、cellSensDemension(Olympas Corp.製)で分析した。具体的には、細胞を前記HEPES緩衝生理食塩水(2mMカルシウム水溶液)で還流した後、被験物質を約90秒間、還流適用し、細胞内Caイオン濃度の変化を、Caイメージングシステム(cellSenseDemension, オリンパス社製)にて測定し(励起波長:340nm及び380nm、測定波長:510nm)、340nmで励起したときの蛍光強度と380nmで励起したときの蛍光強度との比(340nm/380nmの蛍光比:Fura2-比)を求めた。
(4)電気生理学測定
電気生理学的測定のために、トランスフェクトされたHEK293細胞を含むカバースリップを、溶液の入ったディッシュに入れた。細胞からの電流を、EPC-10(Heka Elektronik、Lambrecht / Pfalz製)パッチクランプアンプを使用したホールセルモードのパッチクランプ技術を使用して、室温で記録した。ホウケイ酸ガラス・キャピラリー管から調製したパッチ電極の抵抗は2~4メガオームであった。電流信号は、4-ポール・ベッセルフィルターを用いて、2.9 kHzでフィルター処理し、10 kHzでデジタル化した。コマンドパルス制御、データ収集、およびデータ分析には、Patchmaster(Heka Elektronik製)ソフトウェアを使用した。直列抵抗を補うことで(50~70%)、電圧誤差を最小化した。全ての実験には-80 mVの保持電位を採用した。外部溶液として、100mM NaCl、5mM KCl、2mM BaCl2、5mM MgCl2、25mM HEPES、および30mMグルコース(NaOHでpH7.3に調整し、D-マンニトールで浸透圧を320mosMに調整)を含む水溶液を使用した。ピペット溶液として、140mM CsCl、4mM MgCl2、10mM EGTA、10mM HEPES(CsOHでpH 7.3およびD-マンニトールで浸透圧300mosMに調整)を含む水溶液を使用した。
実験例1 ヒノキチオールによるTRPM8チャネル活性化の測定
被験物質としてヒノキチオールを用いて、ヒトTRPM8を発現するHEK293細胞のヒノキチオールに対する応答を、[Ca2+]i測定及び電気生理学測定により評価した。
結果を、図1に示す。
図1Aは、[Ca2+]i測定において、ヒトTRPM8を発現するHEK293細胞(n=54)に500μMヒノキチオールを適用した際のFura-2比(340nm/380nmの蛍光比)の経時的変化を示す。図1Bは、ヒトTRPM8チャネルを発現するHEK293細胞に適用するヒノキチオールの濃度を変えてFura-2比を測定し(50μM(n=56)、200μM(n=66)、500μM(n=54))、ヒノキチオール非含有HEPES緩衝生理食塩水のFura-2比と、ヒノキチオール含有HEPES緩衝生理食塩水還流後のFura-2比の最大値との差(ΔFura-2比)を算出した結果を示す。図1Cは、500μMヒノキチオールによって誘導されたヒトTRPM8を介した細胞内電流をトレースしたものである。図1Dは、選択的TRPM8アンタゴニストとして知られているAMTB(N-(3-アミノプロピル)-2-[(3-メチルフェニル)メトキシ] -N-(2-チエニルメチル)ベンズアミド)塩酸塩(AMTB)1μMを含む(+)、または含まない(-)場合における、l-メントール(137μM)またはヒノキチオール(500μM)に対する応答のΔFura-2比を示したものである。アンタゴニストは各薬剤による処理の60秒前に還流し、その後、共還流した。
これらの結果から、ヒノキチオールの適用により、TRPM8発現細胞の[Ca2+]iおよび電気生理学的変化はいずれも増加することが確認された。またTRPM8発現細胞の[Ca2+]iは、適用するヒノキチオールの濃度依存的に増加することが確認された。また、TRPM8活性化剤として知られているl-メントールと同様に、TRPM8発現細胞におけるヒノキチオールによるCa2+流入は、選択的TRPM8アンタゴニストによって阻害されることが確認された。このことから、ヒノキチオールは、l-メントールと同様に、TRPM8を活性化する作用を有するものと考えられる。
実験例2 ヒノキチオールによるTRPV1チャネル活性化の測定
被験物質としてヒノキチオールを用いて、ヒトTRPV1を発現するHEK293細胞のヒノキチオールに対する応答を、[Ca2+]i測定及び電気生理学測定により評価した。
結果を、図2に示す。
図2Aは、[Ca2+]i測定において、ヒトTRPV1を発現するHEK293細胞(n=62)に500μMヒノキチオールを適用した際のFura-2比(340nm/380nmの蛍光比)の経時的変化を示す。図2Bは、ヒトTRPV1を発現するHEK293細胞に適用するヒノキチオールの濃度を変えてFura-2比を測定し(50μM(n=81)、200μM(n=77)、500μM(n=62))、ヒノキチオール非含有HEPES緩衝生理食塩水のFura-2比と、ヒノキチオール含有HEPES緩衝生理食塩水還流後のFura-2比の最大値との差(ΔFura-2比)を算出した結果を示す。図2Cは、500μMヒノキチオールによって誘導された全細胞(whole cell)のヒトTRPM8を介した細胞内電流をトレースしたものである。図2Dは、TRPV1アンタゴニストとして知られている1μM カプサゼピン(CZP)またはSB-366791(SB)を含む、または含まない(-)場合における、カプサイシノイド(350μM)またはヒノキチオール(500μM)に対する応答のΔFura-2比を示したものである。なお、カプサイシノイドとしてノナン酸バニリルアミドを使用した。アンタゴニストは各薬剤による処理の60秒前に還流し、その後、共還流した。
これらの結果から、ヒノキチオールの適用により、TRPV1発現細胞の電気生理学的な変化はわずかであるか、またはほとんど観察されなかったものの、[Ca2+]iは明らかな変化が認められ増加することが確認された。その増加は、適用するヒノキチオールの濃度依存的であった。また、TRPV1発現細胞の[Ca2+]i変化の増加は、TRPV1活性化剤として知られているカプサイシノイドと同様に、TRPV1アンタゴニストによって阻害されることが確認された。このことから、カプサイシノイドと同様に、TRPV1を活性化する作用を有するものと考えられる。
実験例3 ヒノキチオールの構造類似化合物のTRPM8チャネルまたはTRPV1チャネルに対する作用
ヒノキチオール(β-ツヤプリシン)に代えて、実験例1及び2と同様にして、その構造類似体であるγ-ツヤプリシン(500μM)およびトロポロン(500μM)を用いて、ヒトTRPM8またはヒトTRPV1を発現するHEK293細胞のCa2+応答性を測定した。
結果を図3に示す。図3は、ヒトTRPM8を発現するHEK293細胞(a)、ヒトTRPV1チャネルを発現するHEK293細胞(b)、及び空のベクターでトランスフェクトされたHEK293細胞(c)に、各々γ-ツヤプリシン(500μM)およびトロポロン(500μM)を適用して、Fura-2比を測定し、各化合物非含有HEPES緩衝生理食塩水のFura-2比と、各化合物含有HEPES緩衝生理食塩水還流後のFura-2比の最大値との差(ΔFura-2比)を算出した結果を示す。
図3に示すように、[Ca2+]i測定において、TRPM8はほとんど応答しなかった。一方、TRPV1は、両化合物により活性化されることが確認された。このことから、ヒノキチオールの構造類似体であるγ-ツヤプリシンおよびトロポロンは、ヒノキチオールと同様に、TRPV1活性化作用を有し、TRPV1チャネル活性化剤として使用できるものと考えられる。
実験例4 ヒノキチオールの他のTRPチャネルへの影響
ヒトTRPA1、ヒトTRPV3、またはヒトTRPV4を発現するHEK293細胞を用いて、これらのTRPチャネルに対するヒノキチオール(500μM)と各アゴニストのCa2+応答性を測定した。
各種TRPチャネルのアゴニストとして下記の化合物を使用した。
TRPA1のアゴニスト:500μM アリルイソチオシアネート(AITC)
TRPV3のアゴニスト:200μM 2-アミノエトキシジフェニルボラン(2-APB)
TRPV4のアゴニスト:1μM GSK-1016790A(GSK)
結果を図4に示す。図4に示すように、ヒノキチオールは、[Ca2+] i測定において、TRPA1、TRPV3、またはTRPV4発現細胞に対して、わずかな変化を与えるか、または顕著な変化は与えなかった。このことから、ヒノキチオールは、実験例1~3で示すように、TRPTM8、及びTRPV1に対して選択的に作用するものと考えられる。

Claims (4)

  1. ヒノキチオールを有効成分とする、TRPV1チャネル及びTRPM8チャネルに対する選択的TRPチャネル活性化剤。
  2. γ-ツヤプリシン及びトロポロンよりなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とする、選択的TRPV1チャネル活性化剤。
  3. ヒノキチオールを有効成分とする温冷覚刺激剤。
  4. ヒノキチオールを組成物に配合することにより、当該組成物に対して、TRPV1活性化作用及びTRPM8活性化作用、またはこれらの作用に起因する機能を付与することを特徴とする、ヒノキチオールの使用方法。
JP2020079625A 2020-04-28 2020-04-28 選択的trpチャネル活性化剤、およびその用途 Active JP7488687B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2020079625A JP7488687B2 (ja) 2020-04-28 2020-04-28 選択的trpチャネル活性化剤、およびその用途

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2020079625A JP7488687B2 (ja) 2020-04-28 2020-04-28 選択的trpチャネル活性化剤、およびその用途

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2021172628A JP2021172628A (ja) 2021-11-01
JP7488687B2 true JP7488687B2 (ja) 2024-05-22

Family

ID=78279493

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2020079625A Active JP7488687B2 (ja) 2020-04-28 2020-04-28 選択的trpチャネル活性化剤、およびその用途

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP7488687B2 (ja)

Citations (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2017125038A (ja) 2012-05-25 2017-07-20 ザ プロクター アンド ギャンブル カンパニー Trpa1及びtrpv1感覚を軽減するための組成物
JP2018016575A (ja) 2016-07-27 2018-02-01 日本メナード化粧品株式会社 Trpm8活性化剤、冷感剤、化粧料及び口腔用組成物

Patent Citations (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2017125038A (ja) 2012-05-25 2017-07-20 ザ プロクター アンド ギャンブル カンパニー Trpa1及びtrpv1感覚を軽減するための組成物
JP2018016575A (ja) 2016-07-27 2018-02-01 日本メナード化粧品株式会社 Trpm8活性化剤、冷感剤、化粧料及び口腔用組成物

Non-Patent Citations (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Title
HAN, A. Young et al.,Foeniculum vulgare Mill. increases cytosolic Ca2+ concentration and inhibits store-operated Ca2+ entry in vascular endothelial cells,Biomedicine & Pharmacotherapy,84,800-805,DOI:10.1016/j.biopha.2016.10.013
KUMAMOTO, Eiichi,Effects of plant-derived compounds on excitatory synaptic transmission and nerve conduction in the nervous system: involvement in pain modulation,Current Topics in Phytochemistry,2018年,14,45-70
中川 貴之,TRP チャネルと慢性痛,基礎老化研究,2018年,42,21-27

Also Published As

Publication number Publication date
JP2021172628A (ja) 2021-11-01

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP5067529B2 (ja) 口腔用組成物
CN106458861B (zh) 具有凉爽性质的环丙烷甲酰胺
JPH08283172A (ja) 活性酸素消去剤及びこれを含有する皮膚外用剤
BRPI0418784B1 (pt) Composição restauradora de cabelo, e, método não-terapêutico para restaurar cabelo
JP2006514957A (ja) 顔面のしわを治療するスベリヒユの使用
KR20090054777A (ko) 피부의 pΗ 조절용 조성물 및 이를 포함하는 화장품
TW436289B (en) The pharmaceutical composition of a flavonoid extract of Ginkgo biloba leaves and more specifically of a terpene-free extract useful in buccodental domain
JP6859428B2 (ja) Trpa1の活性抑制剤
JP2002370966A (ja) 皮膚加齢の徴候を処置するための組成物
JP7488687B2 (ja) 選択的trpチャネル活性化剤、およびその用途
JP2007161662A5 (ja)
JP4579564B2 (ja) シワ改善剤
JP2012153617A (ja) 冷感増強剤
JP2002255827A (ja) 皮膚外用剤
JP2004091354A (ja) 養毛料
CN105764571A (zh) 用于递送口腔舒适感的组合物
JP4162823B2 (ja) 頭髪用化粧料
JPH11255636A (ja) 血流促進剤
JPH0437044B2 (ja)
JP7261419B2 (ja) メントールの刺激抑制剤および刺激抑制方法
JP2013523787A (ja) ジヒドロデヒドロジイソオイゲノールの使用およびジヒドロデヒドロジイソオイゲノールを含む製剤
JPH11343497A (ja) 化粧料
JP3342672B2 (ja) 表皮肥厚抑制剤
JPH07267830A (ja) 育毛・養毛剤
JP2022099542A (ja) Trpv3活性化剤

Legal Events

Date Code Title Description
A80 Written request to apply exceptions to lack of novelty of invention

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A80

Effective date: 20200528

A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20221214

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20240109

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20240301

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20240507

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20240510

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 7488687

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150