JP7485250B1 - 片面サブマージアーク溶接方法および溶接継手の製造方法 - Google Patents

片面サブマージアーク溶接方法および溶接継手の製造方法 Download PDF

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Abstract

特に造船分野や建築分野などで厚鋼板の大入熱溶接において機械特性に優れ、高い生産性を備える片面サブマージアーク溶接方法およびその溶接方法を用いて作製された溶接継手を提供する。2枚の鋼板を突き合わせて溶接する片面サブマージアーク溶接方法において、前記鋼板の厚さを9~40mmとし、前記鋼板の突合せ開先の底部に0mm超5mm以下のルート面を形成し、開先部分に二段の角度を設け、表面側の一段目の開先角度を50~70°、ルート面と接する二段目の開先角度を20~45°、前記二段目の開先の深さを2~5mmとし、溶接入熱量を15~200kJ/cm、かつ式(1)の成立範囲内として、表面側から1パスで溶接する。(t-10)×5<H<(t-4)×6 ・・・(1) H:溶接入熱量(kJ/cm)、t:鋼板の板厚(mm)

Description

本発明は、サブマージアーク溶接方法を用いて効率的に優れた溶接継手特性を得ることが可能な片面サブマージアーク溶接方法およびその溶接方法で作製された溶接継手に関する。
サブマージアーク溶接(以下、「SAW」ともいう。)は、造船や建築の分野では巨大な板継ぎ溶接を行うために使われる。そのような溶接は、溶接後の反転作業が困難であり、反転作業が不要な片面溶接方法が多く用いられている。片面溶接方法では被溶接材である鋼板の突合せ開先としてV型開先やY型開先が用いられる。それらの開先は、開先角度を一定とすると板厚が厚くなるに従って、開先深さおよび開先幅が広くなる。そのため、開先深さの二乗に比例して開先の断面積が増大する。開先の断面積が増大すると溶着金属が増加し、溶接工数の増加を招来する。
このような課題に対して、例えば、特許文献1には、片面1層のサブマージアーク溶接方法で、電極数を増やして大入熱量で溶接することにより、単位時間当たりの溶着量を大幅に増加し、1層で溶接施工することが開示されている。
また、特許文献2には、厚鋼板の片面サブマージアーク溶接による1パス片面溶接施工の板厚限界の上昇と高能率化を図るために、特定のフラックスの限定下で、開先角度が少なくとも2段階で拡がる複数段開先とすることが開示されている。
また、特許文献3には、大径鋼管のシーム溶接に適したサブマージアーク溶接方法として、3電極以上とし第1電極のワイヤ径および電流密度の限定下で、底面側の開先角度を表面側のそれより小さくした二段開先とすることが開示されている。
特開2017-213569号公報 特開平02-258191号公報 国際公開第2013/080523号明細書
従来の片面溶接技術では、板厚が増大するとともに開先の断面積が飛躍的に大きくなり、溶接工数が大幅に増加し、溶接工数を抑えるには溶接入熱量(以下、単に、「入熱量」ともいう。)を大きくせざるを得なかった。その結果、過大な入熱量によって溶接熱影響部(以下、「HAZ」ともいう。)の低温靭性が著しく低下してしまうという問題があった。
特許文献1に記載の技術では、1層で必要な溶接金属量を溶接用ワイヤから供給するために、溶接電流を高く設定する必要があり、単位溶接長さ当りの入熱量は大きくなる。溶接入熱量を増加していくと、溶接後の冷却速度が極度に低下するため、溶接熱影響部が長時間高温にさらされ、金属ミクロ組織の結晶粒が粗大化し、機械特性が劣化するという課題があった。
特許文献2に記載の技術では、大入熱溶接において二段開先を用いて開先の断面積の減少による入熱量低減を図る実施例が示されている。しかしながら、開先底部側の開先角度と表面側の開先角度は大きな差がないために断面積を減少させる効果を充分に得ることができない。
特許文献3に記載の技術では、二段開先を採用した溶接方法を示している。しかしながら、底面側の開先角度が従来の開先形状と比較してあまり狭くなっていない。そのため、ビード幅を広げることを目的として表面側の開先角度が過剰に広くなり、従来のY型開先を用いる溶接と比較して開先の断面積を低減させる効果は低い。そのため、金属ミクロ組織に影響を与えるような大きな入熱量低減効果は得られていない。
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであり、特に造船分野や建築分野などで厚鋼板の大入熱溶接において機械特性に優れ、高い生産性を備えるサブマージアーク溶接方法およびその溶接方法を用いて作製された溶接継手を提供することを目的とする。
片面溶接に適用される従来の開先形状は、図2に示すようなY型開先である。Y型開先は、鋼板1a、1bの下面側に板合わせのためのルート面3a、3bと、鋼板の上部に所定の開先角度(θ1)をつけて加工されたテーパー部2a、2bとから形成されている。このY型開先では、ルート面の深さ(r)を一定とすると、板厚(t)が大きくなるにしたがって、開先深さ(テーパー部の深さ)(h1)および開先の幅が大きくなる。したがって、開先の断面積(S)は、開先深さ(h1)の二乗に比例して増大する。開先の断面積(S)が大きくなるにつれ、ワイヤから供給する溶接材料は多量に必要となり、生産性を維持するために溶接速度を一定に保持すると、ワイヤの供給速度を上昇させるために溶接電流を高くするか、電極数を増加させる場合があった。
しかしながら、溶接電流を高くする方法や、電極数を増加させる方法では、入熱量が増大し、溶接後の冷却速度が低下する。冷却速度が低下すると溶接熱影響部では高温にさらされる時間が長時間となる。その結果、結晶粒が粗大化し、機械特性が著しく劣化するという問題があった。また、設定電流や電極数に応じて、溶接電源装置の増設が必要となることもあり、設備のコスト上昇や設置スペースの確保なども問題となっていた。
一方、開先角度(θ1)を狭くすることによって開先の断面積(S)を小さくする方法の場合、開先角度(θ1)を狭くするとアークが開先内の上部で発生し、ルート面部分の溶け込みが不十分となってしまう。また、開先を浅くするためにルート面の深さ(r)を大きくすると、溶接時のアークでルート面のすべてを溶融させることができず、片面溶接では必要な裏波を形成させることができない。
発明者らは、前述の目的を達成するために、溶着金属量を減少させるための適正な開先形状を鋭意検討した。その結果、開先角度を二段とし、一段目の開先の底部に、溶け込みを補助することを目的とした浅くて特定の小角度の二段目の開先を付け加えることで、開先の断面積を必要最小限とすることができることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものであり、その要旨は、次のとおりである。
[1]2枚の鋼板を突き合わせて溶接する片面サブマージアーク溶接方法であって、
前記鋼板の厚さtを9~40mmの範囲とし、
前記鋼板の突合せ開先の底部に0mm超5mm以下の範囲の深さのルート面を形成し、開先部分に二段の角度を設け、表面側の一段目の開先角度を50~70°の範囲とし、ルート面と接する二段目の開先角度を20~45°の範囲とし、前記二段目の開先の深さを2~5mmの範囲とし、
溶接入熱量Hを15~200kJ/cmの範囲とし、
さらに、前記溶接入熱量H(kJ/cm)は前記鋼板の厚さt(mm)に対し下記式1を満たし、
表面側から1パスで溶接する、片面サブマージアーク溶接方法。
[式1]
(t-10)×5<H<(t-4)×6
[2]溶接速度を50~120cm/minの範囲とすること、
1本以上の電極を用いること、および、
第1電極の溶接電流を700~1600Aの範囲とすることのうちから選ばれるいずれか一により、または二以上を組み合わせて溶接する、前記[1]に記載の片面サブマージアーク溶接方法。
[3] 裏当てにフラックスを使用する、前記[1]または[2]に記載の片面サブマージアーク溶接方法。
[4] 前記[1]~[3]のいずれか一つに記載された片面サブマージ溶接方法で作製された溶接継手。
[5] 溶接熱影響部の-60℃でのシャルピー吸収エネルギーが27J以上である、前記[4]に記載の溶接継手。
本発明によれば、溶接熱影響部の低温靭性に優れた溶接継手を高能率で得られる溶接方法を提供することができ、産業上格段の効果を奏する。
本発明の実施形態にかかる溶接方法に適した開先形状の一例を示す模式断面図である。 従来の溶接方法におけるY型開先形状を示す模式断面図である。 上記実施形態にかかる溶接方法での板厚に対する溶接入熱量の好適範囲を示すグラフである。 シャルピー衝撃試験の試験片の採取位置を示す模式断面図である。 鋼板の板厚と溶接入熱量との関係を発明例と従来例とで比較したグラフである。
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。
[片面1層サブマージアーク溶接]
本実施形態は、2枚の鋼板を突き合わせて溶接する片面サブマージアーク溶接方法である。この方法では、高能率溶接施工のために、表面側から1パスで溶接することとする。すなわち、片面1層サブマージアーク溶接により完全溶け込み溶接(裏波溶接)を行うものである。
なお、サブマージアーク溶接(SAW)は、一般に、母材上に予め散布した粉粒状のフラックス中に溶接用ワイヤ(以下、単に、「ワイヤ」ともいう。)からなる電極を連続的に供給し、このワイヤの先端と母材との間でアークを発生させて行う溶接方法である。SAWには、大電流を採用してワイヤの溶着速度を高めることによって、能率よく溶接できるという利点がある。本実施形態では、後述するように、単電極または多電極溶接が適用される。多電極溶接では、鋼板の厚さや開先形状により、2~4電極を直列に配置して溶接効率を向上させる。また、片面1層で溶接する際に、裏波形状を適正化するために銅板の上に裏当てフラックスを散布して、溶接部の裏側からエアーホースの圧力で押し付けるフラックス銅裏当て方法を用いることができる。
[開先形状]
本実施形態では、開先形状として二段開先を採用する。この二段開先では、図1に示すように、鋼板1a、1bの突合せ開先の底部に深さrのルート面3a、3bを形成する。そして、開先部分に二段の角度を設ける。すなわち、表面側に形成する深さhのテーパー部2a、2bのなす一段目の開先角度θおよびルート面3a、3bに接して形成する深さkのテーパー部4a、4bのなす二段目の開先角度δを設ける。深さhは一段目の開先の深さであり、深さkは、二段目の開先の深さである。δはθよりも小さくする必要がある。ルート面の深さrおよび開先の深さh、kは鋼鈑の厚さ方向に測定するものとし、その合計が鋼板の厚さtに一致する。
(i)ルート面
ルート面3a、3bは、板合せのために裏面側に設けられるが、その深さrは、0mm超5mm以下の範囲とする。rが5mmを超えると、ルート面が溶け残り、裏波形状が不均一となるからである。なお、rが0mm超であるとは、ルート面が最小値として線状となって接している場合であり、好ましくは、rが3~4mmである。
(ii)一段目の開先角度
一段目の開先角度θは、50~70°の範囲とする。θが50°未満では、開先幅が狭いためにアークが表面付近で発生し、深い溶け込みが得られなくなる。また、θが70°を超えると、溶着金属量が過大となるからである。好ましくは、θが50~60°の範囲である。
(iii)二段目の開先角度
二段目の開先角度δは、20~45°の範囲とする。δが20°未満では、アーク発生位置が浅くなるため、溶け込み不足という不具合を招く。また、δが45°を超えると、目的とする開先の断面積を減らす効果が得られない。好ましくは、δが25~40°の範囲である。δはθより10~20°の範囲で小さくすることが好ましい。
(iv)二段目の開先の深さ
二段目の開先の深さkは、2~5mmの範囲とする。kが2mm未満では、溶着金属量を必要最小限まで減少させる効果がほとんど得られない。また、kが5mmを超えると、ルート面が溶け残り、裏波形状が不均一となるからである。好ましくは、kが3~4mmの範囲である。
ルート面の深さrは一段目の開先の深さhおよび二段目の開先の深さkの合計より小さくし、二段目の開先の深さkは一段目の開先の深さhより小さくすることが好ましい。
開先形状を前述のように設定することで、従来のY型開先の場合よりも溶接入熱量を低減できる。
[鋼板]
(i) 鋼板の厚さ
母材とする鋼板の厚さすなわち板厚tは9~40mmの範囲とする。tが9mm未満では、従来のY型開先での単電極によるサブマージアーク溶接を用いて、十分な片面1パス溶接が可能だからである。一方、tが40mmを超えると、4電極では1パスで健全に溶接を行うことが難しくなるからである。好ましくは、tが12~25mmの範囲である。
なお、板厚tが40mm超の鋼板に対しては、2パス以上の溶接が適用できる。その1パス目の溶接に本実施形態の範囲内の開先形状を採用することで、大幅な施工能率の向上が期待できる。
(ii)鋼板の鋼種
本実施形態では、HAZに優れた機械特性、特に優れた低温靭性をもたせるために、母材とする鋼板は引張強さが440MPa以上、-60℃でのシャルピー吸収エネルギー(以下、「-60」ともいう。)が70J以上になる鋼種であることが好ましい。かかる鋼種としては、JIS G 3126に規定されるSLA325Aなどが挙げられる。
[溶接条件]
(i)溶接入熱量
本実施形態では、溶接入熱量Hは15~200kJ/cmの範囲とする。入熱量Hは、複数の電極の場合、各電極の合計である。本実施形態の範囲内の開先形状において、入熱量Hが200kJ/cmを超えると、溶接継手のHAZの低温靭性の低下が生じ、一方、入熱量Hが15kJ/cm未満では、溶接欠陥が生じやすい。
さらに、溶接入熱量H(kJ/cm)は、溶接継手において健全な溶接部形状と優れたHAZの低温靭性を両立させる観点から、鋼板の厚さt(mm)に対し下記式1を満足する必要がある。
[式1]
(t-10)×5<H<(t-4)×6
したがって、板厚に対する溶接入熱量の適合範囲は、図3にハッチングで示す領域である。なお、このハッチングの領域の境界は、該領域に含まれる部分を実線で表し、含まれない部分を破線で表した。
(ii)溶接速度
本実施形態では、溶接速度が50~120cm/minの範囲であることが好ましい。溶接速度が50cm/min未満では、生産性が低くなる。一方、溶接速度が120cm/minを超えると、開先形状の加工誤差や溶接変形などによる外乱の影響を受けやすくなるからである。より好ましくは、溶接速度が60~90cm/minの範囲である。
(iii)電極
本実施形態では、1本以上の電極を用いることが好ましい。その理由は、電極が1本(単電極)でも高能率溶接施工が可能な場合があるからである。なお、電極が5本以上の場合は、溶接条件が複雑となるため、電極は4本以下がより好ましい。複数の電極を用いる場合には、先行する電極から順に、第1電極、第2電極、・・・と呼ぶ。
なお、3電極とした場合、用いるワイヤ直径の好適範囲は、第1電極では4.0~4.8mmφの範囲、第2、第3電極では4.8~6.4mmφの範囲が挙げられる。第1電極よりも第2、第3電極のワイヤ直径を大きくするのは、溶け込み幅を広くするためである。また、ワイヤ間隔に関し、第1-第2電極間では30~50mmとするのが好ましい。第1電極と第2電極の間隔が近いとアークが干渉して不安定なビードとなる場合があり、離れすぎると溶け込み深さが安定せず裏波の形成が不良になる場合がある。第2-第3電極間では120~180mmの範囲とするのが好ましい。第2電極と第3電極が近すぎると割れが発生する場合があり、離れすぎるとスラグを巻き込む場合がある。
(iv)第1電極の溶接電流・電圧
本実施形態では、第1電極(単電極の場合はその電極)の溶接電流(AC)は700~1600Aの範囲とすることが好ましい。第1電極の溶接電流が700A未満では、ルート面を溶かすことができず溶け込み不良という不具合を招く場合がある。一方、第1電極の溶接電流が1600A超では、ルート部を過剰に溶かしてしまい溶け落ちる不具合を招く場合がある。より好ましくは、第1電極の溶接電流が800~1500Aの範囲である。なお、第1電極の好ましい溶接電圧としては、25~40Vの範囲が挙げられる。より好ましくは、第1電極の溶接電圧が28~35Vの範囲である。
(v)第2、第3電極の溶接電流・電圧
電極数が3本の場合、第2電極の好ましい溶接電流(AC)としては、800~1400Aの範囲が挙げられる。より好ましくは、第2電極の溶接電流は900~1300Aの範囲である。なお、第2電極の好ましい溶接電圧としては、30~45Vの範囲が挙げられる。より好ましくは、第2電極の溶接電圧は32~40Vの範囲である。
また、第3電極の好ましい溶接電流(AC)としては、600~1300Aの範囲が挙げられる。より好ましくは、第3電極の溶接電流800~1200Aの範囲である。なお、第3電極の好ましい溶接電圧としては、30~50Vの範囲が挙げられる。より好ましくは、第3電極の溶接電圧は35~45Vの範囲である。
このように、先行の電極では、後行の電極と比べて溶接電流を高く、溶接電圧を低くすることで、ルート面を深く安定して溶融させることができる。一方、後行の電極では、先行の電極と比べて溶接電圧を高く設定することで、ビード幅が広がり、表面に安定したビード形状が得られる。
[溶接材料]
(i)裏当て材
本実施形態では、裏当て材として、銅板、セラミック、フラックス等のいずれも好ましく用いうるが、なかでも、フラックスを用いることがより好ましい。フラックスを用いる裏当て方法は、前述のフラックス銅裏当て方法が挙げられる。これにより、裏波形状がより安定化し、適正なものとなる。
フラックス銅裏当て方法に用いる裏当て用フラックスとしては、例えば次の組成のものが挙げられる。質量%で、BaO:8~47%、SiO:5~28%、MgO:10~21%、CaO:0~7%、CaF:12~24%、Al:5~15%、TiO:0~10%、ZrO:0~5%およびCO:0~9%を含有する組成である。なお、残部は脱酸剤ないし合金剤としての金属粉である。
本実施形態では、鋼板の突き合わせと裏当ての作業後、裏面側(二段目)および表面側(一段目)の開先内に溶接用フラックスを散布した後、予熱なし、下向き姿勢で片面1層の溶接を行う。その場合、本実施形態に適用する溶接用ワイヤおよび溶接用フラックスとして以下のものが挙げられる。
(ii)溶接用ワイヤ
本実施形態に適用する溶接用ワイヤとして、低温用鋼用のソリッドワイヤが挙げられる。その組成の一例は、質量%で、C:0.05~0.15%、Si:0.02~0.05%、Mn:1.3~2.0%、Ni:1.6~2.9%およびMo:0.3~0.8%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成である。しかし、本実施形態においては、溶接用ワイヤはこれに限定されるものではない。
(iii)溶接用フラックス
溶接用フラックスとしては、公知の溶融フラックスおよびボンドフラックスのいずれも使用することができる。例えば、ボンドフラックスの例としては、質量%で、SiO:10~30%、CaO:10~50%、MgO:20~50%、Al:10~30%、CaF:5~20%、CaCO:2~15%などを含有するフラックスが挙げられる。しかし、本発明においては、溶接用フラックスはこれに限定されるものではない。なお、ボンドフラックスを用いる場合、従来のSAWでの用法と同様、溶接前に200~300℃の範囲の温度で、1~2時間の範囲の乾燥を行うことが好ましい。
[溶接継手]
本発明の他の実施形態にかかる溶接継手は上記実施形態の溶接方法で作製されたものであり、HAZの低温靭性に優れる。
[HAZの低温靭性]
本実施形態にかかる溶接継手は、HAZの-60℃のシャルピー吸収エネルギーすなわち-60が27J以上であることが好ましい。-60≧27Jであれば、脆性破壊が起こりにくいという利点がある。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、実施例に記載される範囲のみに限定されるものではない。
[鋼板]
母材となる鋼板には、造船向け低温用アルミキルド鋼板で、組成が質量%で、C:0.07%、Si:0.28%、Mn:1.37%、P:0.007%およびS:0.002%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼板を用いた。鋼板の板厚は12~40mmである。鋼板の引張強さは500MPa、-60は70Jである。なお、鋼板の引張強さは、JIS Z 2241:2011の規定に準拠した引張試験により求めた。また、鋼板の-60は、JIS Z 2242:2018の規定に準拠したシャルピー衝撃試験により求めた。
[溶接材料・溶接条件]
溶接方法としては、裏当て用フラックスを散布した銅板を鋼板の裏面に押し当てて溶接するフラックス銅裏当て方法を用いた。裏当て用フラックスは、質量%で、BaO:32%、SiO:12%、MgO:11%、CaO:1%、CaF:15%、Al:10%、TiO:2%、ZrO:4%およびCO:9%を含有するものとした。なお、残部は脱酸剤ないし合金剤としての金属粉である。
開先内に散布する溶接用フラックスには、質量%で、SiO:20%、CaO:5%、MgO:25%、Al:10%、CaF:5%およびCaCO:5%を含有するボンドフラックスを用いた。なお、このボンドフラックスは開先内に散布する前に300℃の温度で、1時間の乾燥を行った。
溶接用ワイヤにソリッドワイヤ(直径4.8mmおよび6.4mm)を用いて、予熱なし、下向き姿勢で、1電極~4電極を用いて、表1に示す各種溶接条件により片面1層のサブマージアーク溶接を行った。このソリッドワイヤは、低温用鋼用のソリッドワイヤであり、質量%で、C:0.10%、Si:0.03%、Mn:1.65%、Ni:2.40%およびMo:0.50%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する。
[溶接継手の機械特性]
前述の片面1層のSAWにより得られた突合せ溶接継手部から、JIS Z 2242(金属材料のシャルピー衝撃試験方法)の規定に準拠して、図4に示す試験片採取位置から、シャルピー衝撃試験片(Vノッチ)を採取し、衝撃試験を実施した。
鋼板1aと1bを突き合わせて片面1層のSAWを行った結果、図4に示されるように、表面側の開先内に溶接金属5が、裏面側の開先内に裏波8が、また溶接金属5と鋼板との間に溶接熱影響部6が形成されている。試験片7については、JIS Z 3128(溶接継手の衝撃試験方法)に準じて、鋼板の板厚(t)の1/2tの深さにある溶接熱影響部6の位置からVノッチ7aを形成したシャルピーVノッチ試験片7を採取した。
シャルピー衝撃試験は、前記の採取した試験片7をそれぞれ3本用意し、-60を求め、その平均値を、各溶接継手の溶接熱影響部の低温靭性の値とした。
[溶接部形状の評価]
溶接部形状は、目視観察あるいはさらに寸法測定により、裏波形状および表面のビード外観で評価した。裏波形状の評価については、裏波8のビード幅5.0mm以上、ビード高さ1.0~2.5mmでアンダーカットの発生がないものを良好(○)、それ以外を不良(×)と評価した。ビード外観は、ビードの余盛高さや幅が均一で良好な状態のものを良好(○)、それ以外の例えば形状が不均一であったものおよびアンダーカットが発生したもののいずれかまたは両方の場合を不良(×)と評価した。
得られた評価結果を表2に示す。表2において、継手No.A~Iが、本発明例である。本発明例では、いずれも、所望の溶接部形状(良好なビード外観および良好な裏波形状)と、HAZの-60が27J以上になる優れた低温靭性とを兼備する溶接継手であった。なお、溶接継手強度については、JIS Z 3121:2013に準拠して継手引張試験を行い、引張強さが440~560MPaの範囲にあり、高強度であることを確認している。
一方、本発明の範囲を外れる比較例(継手No.J~V)では、ビード外観または裏波の形成が不十分であること、および、HAZの低温靭性が不十分(-60が27J未満)であることのいずれかまたは両方であった。すなわち、比較例では、良好な溶接部形状とHAZの優れた低温靭性とを両立する溶接継手が得られなかった。以下、個々の比較例について説明する。
継手No.Jは、Y型開先で、12mmの板厚に対して、良好な溶接部形状を得るための入熱量がHAZの低温靭性にとっては過大となり、HAZの低温靭性が低下(-60=9J<27J)している。
継手No.Kは、Y型開先で、ルート面を深く設定(r=6mm)したために、ルート面が溶け込み不足となり、裏波を形成することができず、かつ、シャルピー試験片を採取できなかった。
継手No.Lは、Y型開先で、16mmの板厚に対して、良好な溶接部形状を得るための入熱量がHAZの低温靭性にとっては過大となり、HAZの低温靭性が低下(-60=15J<27J)している。
継手No.Mは、Y型開先で、HAZの低温靭性を低下させない入熱量で溶接したものであるが、開先面積に対してワイヤ供給が不十分となり、ビードの高さが鋼板の表面まで満たされず、ビード外観が不良となった。
継手No.Nは、二段開先で、16mm板厚に対して入熱量が適合範囲を超過するため、HAZの低温靭性が低下(-60=20J<27J)している。また、開先の断面積に対しワイヤが過剰に供給され、ビード幅および余盛高さが不均一となった。
継手No.Oは、二段開先で、二段目の開先角度δが55°と、本発明範囲を外れており、開先の断面積を減少させる効果が十分に得られないために、ビードの高さが鋼板の表面まで満たされず、ビード外観が不良となった。
継手No.Pは、二段開先で、二段目の開先角度δが10°と、本発明範囲を外れており、ルート部の溶け込みを深くする効果が十分に得られないために、ルート面が溶け込み不足となり、裏波を形成することができなかった。
継手No.Qは、Y型開先で、25mmの板厚に対して、良好な溶接部形状を得るための入熱量がHAZの低温靭性にとっては過大となり、HAZの低温靭性が低下(-60=12J<27J)している。
継手No.Rは、Y型開先で、HAZの低温靭性を低下させない入熱量で溶接したものであるが、開先の断面積に対してワイヤ供給が不十分となり、ビードの高さが鋼板の表面まで満たされなかった。
継手No.Sは、Y型開先で、ルート面を深く設定(r=7mm)したために、ルート面が溶け込み不足となり、裏波を形成することができなかった。また、ルート面を溶け込ませようとして高めた入熱量がHAZの低温靭性にとっては過大となって、HAZの低温靭性が低下(-60=19J<27J)している。
継手No.Tは、Y型開先であって、40mmの板厚に対して、良好な溶接部形状を得るための入熱量が200kJ/cm超と本発明範囲を外れ、HAZの低温靭性が低下(-60=10J<27J)している。
継手No.Uは、Y型開先であって、HAZの低温靭性を低下させない入熱量で溶接したものであるが、開先の断面積に対してワイヤ供給が不十分となり、ビードの高さが鋼板の表面まで到達しなかった。
継手No.Vは、二段開先で、入熱量が200kJ/cm超と、本発明範囲を外れるため、HAZの低温靭性が低下(-60=24J<27J)している。また、開先の断面積に対しワイヤが過剰に供給され、ビード幅およびビードの高さが不均一となった。
Figure 0007485250000001
Figure 0007485250000002
なお、表2の発明例に採用した表1の条件No1、3、5、7をプロットB(●印、実線)として、表2の溶接部形状が良好であった比較例に採用した表1の条件No.2、4、6、8をプロットA(▲印、破線)として、良好な溶接部形状が得られる溶接入熱量と板厚の関係を図5に示した。このグラフから、発明例の方が従来例よりも溶接入熱量を低減できることがわかる。一般的に同じ板厚の鋼板に対して入熱量を低くすると靭性が向上することが知られており、本発明を用いることで過大な入熱量によるHAZの低温靭性の劣化を防止できるといえる。
1a、1b 鋼板
2a、2b テーパー部(一段目)
3a、3b ルート面
4a、4b テーパー部(二段目)
5 溶接金属
6 溶接熱影響部(HAZ)
7 試験片
7a Vノッチ
8 裏波
t 板厚(厚さ)
h 一段目の開先深さ
h1 (従来の)開先深さ
k 二段目の開先深さ
r ルート面の深さ
S 開先の断面積
θ 一段目の開先角度
θ1 (従来の)開先角度
δ 二段目の開先角度

Claims (7)

  1. 2枚の鋼板を突き合わせて溶接する片面サブマージアーク溶接方法であって、
    前記鋼板の厚さtを9~40mmの範囲とし、
    前記鋼板の突合せ開先の底部に0mm超5mm以下の範囲の深さのルート面を形成し、開先部分に二段の角度を設け、表面側の一段目の開先角度を50~70°の範囲とし、ルート面と接する二段目の開先角度を20~45°の範囲とし、前記二段目の開先の深さを2~5mmの範囲とし、
    溶接入熱量Hを15~200kJ/cmの範囲とし、
    さらに、前記溶接入熱量H(kJ/cm)は前記鋼板の厚さt(mm)に対し下記式1を満たし、
    表面側から1パスで溶接する、片面サブマージアーク溶接方法。
    [式1]
    (t-10)×5<H<(t-4)×6
  2. 溶接速度を50~120cm/minの範囲とすること、
    1本以上の電極を用いること、および、
    第1電極の溶接電流を700~1600Aの範囲とすることのうちから選ばれるいずれか一により、または二以上を組み合わせて溶接する、請求項1に記載の片面サブマージアーク溶接方法。
  3. 裏当てにフラックスを使用する、請求項1または2に記載の片面サブマージアーク溶接方法。
  4. 請求項1または2に記載された片面サブマージアーク溶接方法で作製する溶接継手の製造方法
  5. 請求項3に記載された片面サブマージアーク溶接方法で作製する溶接継手の製造方法
  6. 溶接熱影響部の-60℃でのシャルピー吸収エネルギーが27J以上である、請求項4に記載の溶接継手の製造方法
  7. 溶接熱影響部の-60℃でのシャルピー吸収エネルギーが27J以上である、請求項5に記載の溶接継手の製造方法
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