以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に渡り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
図1は、本発明の第1実施形態によるノック式筆記具1の縦断面図であり、図2は、図1のノック式筆記具1の後端部の縦断面図であり、図3は、図1のノック式筆記具1の後端部の斜視図である。
ノック式筆記具1は、筒状に形成され且つ口先部材2を備えた軸筒3と、軸筒3内に配置され且つ一端に筆記部4を備えた筆記体であるリフィル5と、リフィル5を後方へ付勢するスプリング6と、軸筒3の後端部に配置されたノック機構10とを有している。ノック機構10は、外カム20と、操作部30と、回転子40と、カバー部材50とを有している。軸筒3の前端部に配置された口先部材2は、前方に向かってテーパー状に形成され、リフィル5の筆記部4を突出させるための貫通孔が形成されている。
なお、本明細書中では、ノック式筆記具1の軸線方向において、筆記部4側を「前」側と規定し、筆記部4とは反対側を「後」側と規定する。また、ノック式筆記具1では、ノック機構10によって、リフィル5が軸筒3内を前後方向に移動する。このとき、筆記部4が軸筒3内に没入した状態を非筆記状態(図1)と称し、筆記部4が軸筒3から突出した状態を筆記状態(図示せず。)と称す。
図4は、図1のノック式筆記具1の軸筒3の後端部の縦断面図である。図4において、下方がノック式筆記具1の前方である。軸筒3の後端部の内面には、ノック機構10の一部を構成する4つの外カム20が周方向に等間隔に設けられている。隣接する外カム20によって、前後方向に延在する4つの第1ガイド溝21が画成されている。外カム20の各々は、前後方向に延在し且つ周方向に連続して配置された第1突起部22と第2突起部23とから成る。第1突起部22及び第2突起部23は同一形状である。第1突起部22と第2突起部23との間には、前後方向に延在する第2ガイド溝24が形成される。周方向における第1ガイド溝21の幅は、周方向における第2ガイド溝24の幅よりも大きい。第1ガイド溝21の深さ及び第2ガイド溝24の深さは同一である。外カム20において、第1ガイド溝21及び第2ガイド溝24の後端には、規制面25が設けられている。また、規制面25の反対側の外カム20の面、すなわち外カム20の後端面は、カバー部材50の前端面が当接可能な当接面26を構成する。
図5は、図1のノック式筆記具1の操作部30(いわゆるノック棒)及び回転子40の斜視図である。図5において、下方がノック式筆記具1の前方である。
操作部30は、後方に向かって緩いテーパー状に形成された筒状の部材である。操作部30の前側の外周面には、8つの係止突起部31が周方向に等間隔に設けられている。係止突起部31の各々は、隣接する外カム20間の第1ガイド溝21内、又は、第2突起部23の上、すなわち第1突起部22と第2突起部23との間の第2ガイド溝24内に配置される。また、係止突起部31の各々は、ノック操作によって、第1ガイド溝21内又は第2ガイド溝24内を前後方向に移動するように構成されている。
操作部30の前端面にはカム面32が形成されている。カム面32は8つの山部33及び谷部34を有する。操作部30の後端部には、後述するカバー部材50の嵌合部51が挿入される円形の嵌合孔35が設けられている。嵌合孔35の開口近傍の内面には、径方向内方へ突出する第1係止部36が設けられている(図2)。
回転子40は、操作部30の前端部から内部に挿入されて芯合わせに使用される小径部41と、小径部41の前方に配置された大径部42とから成る。大径部42は小径部41よりも大きな直径を有する。大径部42の後端面には、操作部30のカム面32と協働し且つ相補的な形状のカム受け面43が形成されている。カム受け面43は操作部30のカム面32と同様に8つの山部44及び谷部45を有する。大径部42の外周面には、前後方向に延在する突起である4つの内カム46が周方向に等間隔に設けられている。なお、図2に示されるように、回転子40の前端開口にはリフィル5の後端部が挿入されている。それによって、ノック式筆記具1の全長をより短くすることができる。
図6は、図1のノック式筆記具1の非筆記状態から筆記状態への切り替えを示すノック機構10の模式図である。すなわち、図6は、外カム20と操作部30と回転子40との位置関係を示す模式図であり、外カム20を周方向に展開したものに対して、操作部30の係止突起部31及び回転子40の内カム46の位置を示したものである。図中、下方がノック式筆記具1の前方であり、上方がノック式筆記具1の後方である。回転子40は、操作部30のカム面32と回転子40のカム受け面43とが協働することによって回転力を与えられ、中心軸線周りに回転する。そのため、回転子40は、図6においてノック操作毎に図の右から左へ移動する。
図6(a)は、ノック式筆記具1の非筆記状態におけるノック機構10の模式図である。このとき、リフィル5を介してスプリング6によって後方に付勢された回転子40の内カム46は、外カム20間の第1ガイド溝21内に配置されている。したがって、この状態では、筆記部4が軸筒3内に没入している。また、操作部30の係止突起部31は、第1ガイド溝21内又は第2ガイド溝24内に配置されている。カム面32及びカム受け面43は、位相がずれて配置されている。
図6(a)の状態から、スプリング6の付勢力に抗して操作部30を押圧するノック操作を行うことによって、操作部30及び回転子40を前進させる。このとき、操作部30の係止突起部31及び回転子40の内カム46は、第1ガイド溝21内を前方に移動する。また、操作部30及び回転子40は、カム面32及びカム受け面43の斜面を介して互いに反対方向の周方向の分力を受けているが、係止突起部31と外カム20の第1突起部22及び第2突起部23の側面との当接によって、周方向の移動が規制されている。
操作部30及び回転子40がさらに前進すると、内カム46の後端部が前後方向において外カム20の前端部、すなわち第1突起部22を越える(図6(b))。このとき、外カム20による、回転子40の周方向の移動の規制は解除され、カム面32とカム受け面43とが一致する。
カム面32とカム受け面43とが一致した状態から、操作部30の押圧を解除すると、操作部30及び回転子40は、スプリング6の付勢力によって後退する。このとき、回転子40は、外カム20の斜面から分力を受けて、中心軸線周りに回転する。すなわち、回転子40の内カム46は、外カム20の斜面を、第2突起部23の前端部側面に当接するまで移動し、回転子40の回転が停止する。上述したように、周方向における内カム46の幅は、第1ガイド溝21の幅よりも小さく且つ第2ガイド溝24の幅よりも大きいことから、内カム46は、第2ガイド溝24内に進入することができない。したがって、内カム46が第1突起部22の前端面と係止し、回転子40の後退が規制される(図6(c))。その結果、回転子40の前方に配置されたリフィル5の筆記部4が軸筒3から突出し、ノック式筆記具1は筆記状態となる。
図7は、図1のノック式筆記具1の筆記状態から非筆記状態への切り替えを示すノック機構10の模式図である。図7は、外カム20と操作部30と回転子40との位置関係について、図6と同様に示されている。
図7(a)は、ノック式筆記具1の筆記状態におけるノック機構10の模式図であり、図6(c)と同一の模式図である。図7(a)の状態から、スプリング6の付勢力に抗して操作部30を押圧するノック操作を行うことによって、操作部30及び回転子40を前進させる。このとき、操作部30の係止突起部31及び回転子40の内カム46は、第1ガイド溝21内を前方に移動する。また、操作部30及び回転子40は、カム面32及びカム受け面43の斜面を介して互いに反対方向の周方向の分力を受けているが、係止突起部31と外カム20の第1突起部22及び第2突起部23の側面との当接によって、周方向の移動が規制されている。
操作部30及び回転子40がさらに前進すると、内カム46の後端部が前後方向において外カム20の前端部、すなわち第2突起部23を越える(図7(b))。このとき、外カム20による、回転子40の周方向の移動の規制は解除され、カム面32とカム受け面43とが一致する。
カム面32とカム受け面43とが一致した状態から、操作部30の押圧を解除すると、操作部30及び回転子40は、スプリング6の付勢力によって後退する。このとき、回転子40は、外カム20の斜面から分力を受けて、中心軸線周りに回転する。すなわち、回転子40の内カム46は、外カム20の斜面から第1ガイド溝21内に進入して後方に移動することから、操作部30及び回転子40が後退する。操作部30及び回転子40の後退は、操作部30の係止突起部31が、第1ガイド溝21及び第2ガイド溝24の後端に設けられた規制面25と係止することによって規制される(図7(c))。その結果、回転子40の前方に配置されたリフィル5の筆記部4が軸筒3内に没入し、ノック式筆記具1は非筆記状態となる。
図15を参照しながら上述したように、特許文献1に記載のような従来のノック機構100の外カム131において、真ん中に配置された第3突起部135は、操作部140の係止突起部141が配置される第2ガイド溝である。同時に、第3突起部135は、図15(d)に示されるように、筆記状態において回転子150が後退しないように内カム156と係止する係止部として機能する。したがって、外カム131は、係止部としても機能するように2段階の或る程度の厚みを有する必要がある。
他方、上述したノック式筆記具1のノック機構10は、従来のノック機構100における第3突起部135に相当する構成を有していない代わりに、第2ガイド溝24の幅を狭くすることによって内カム46の進入を防止し、第1突起部22が、筆記状態において回転子40が後退しないように内カム46と係止する係止部として機能する。したがって、外カム20は、全体として、第1突起部22及び第2突起部23という1段階の厚みを有しているだけでよい。
その結果、外カム20は、従来のノック機構100における外カム131よりも厚みを薄くすることができ、同一内径の軸筒を考えた場合、外カム20部分の内径をより大きくすることができる。したがって、ノック式筆記具1の軸筒3において外カム20の径方向内側を前後方向に移動する操作部30の外径をより大きくすることができ、意匠性又は設計上の様々な要求に応えることができる。
図2を参照して、カバー部材50について説明する。カバー部材50の内側後端面には、前方に突出する嵌合部51が設けられている。嵌合部51は、カバー部材50を操作部30に嵌合する際に、操作部30の嵌合孔35に挿入される。嵌合部51は、例えば円筒状であり、嵌合部51の前端部の外面には中心軸線に対して外方へ突出する第2係止部52が設けられている。嵌合部51の前端部は、例えば前端部から後方に延びる複数のスリットが設けられていることによって、径方向内方に撓ませることができる。カバー部材50の嵌合部51を操作部30の嵌合孔35に挿入するとき、カバー部材50の嵌合部51の第2係止部52が、操作部30の嵌合孔35の第1係止部36を乗り越えることによって、操作部30とカバー部材50とがスナップ式に嵌合する。カバー部材50が操作部30に嵌合した状態で、第1係止部36及び第2係止部52は互いに係止可能である。言い換えると、第1係止部36及び第2係止部52が互いに係止可能である限りにおいて、第1係止部36及び第2係止部52は、任意に構成することができる。
カバー部材50の後端部の内面には、規制部53が設けられている。操作部30とカバー部材50との嵌合の際に、操作部30の後端部が規制部53に係止することによって、カバー部材50内における操作部30の進入が規制される。カバー部材50の後端部には、環状又は円弧状の通気孔54が設けられている。通気孔54が設けられていることによって、カバー部材50を幼児等が誤飲したとしても、気道を閉塞することなく安全性を確保することが可能となる。
操作部30とカバー部材50とが嵌合した状態では、操作部30の外面にカバー部材50の内面が全体的に密着又は近接している。言い換えると、操作部30の外面にカバー部材50の内面が全体的に密着又は近接するように、操作部30及びカバー部材50が形成される。そのため、操作部30をより太く形成することができる。操作部30の嵌合孔35にカバー部材50の嵌合部51が挿入されることから、操作部30の後端部は、カバー部材50の内面及び嵌合部51によって挟持されたような状態となり、より強固な嵌合を実現することができる。
また、カバー部材50の内側後端面に設けられた嵌合部51に嵌合させるために、操作部30をカバー部材50に深く挿入する必要がある。そのため、例えば、カバー部材50を透明若しくは半透明にするか又はカバー部材50の側面に窓部若しくはスリットを設けることによって、カバー部材50の略全長に亘って内部に配置された操作部30を視認可能とすることができる。それによって、例えば、リフィル5による筆記色と操作部30の色とを同一にすることによって、使用者は筆記色を容易に認識することができる。また、店頭で商品陳列の際又は店頭で商品購入の際には、筆記色を容易に認識して特定することができる。
上述した操作部30及びカバー部材50によれば、嵌合構造のバリエーションを増やすことができ、意匠性又は設計上の様々な要求に応えることができるノック機構を有するノック式筆記具1を提供することができる。
図8は、本発明の第2実施形態によるノック式筆記具11の縦断面図であり、図9は、図8のノック式筆記具11の後端部の縦断面図である。第1実施形態によるノック式筆記具1及び第2実施形態によるノック式筆記具11は、ノック機構の形状及び構成において大きく異なる。
ノック式筆記具11は、筒状に形成され且つ口先部材2を備えた軸筒3と、軸筒3内に配置され且つ一端に筆記部4を備えた筆記体であるリフィル5と、リフィル5を後方へ付勢するスプリング6と、軸筒3の後端部に配置されたノック機構60とを有している。ノック機構60は、外カム70と、操作部80と、回転子90と、カバー部材50とを有している。軸筒3の前端部に配置された口先部材2は、前方に向かってテーパー状に形成され、リフィル5の筆記部4を突出させるための貫通孔が形成されている。
図10は、図8のノック式筆記具11の軸筒3の後端部の縦断面図である。図10において、下方がノック式筆記具11の前方である。軸筒3の後端部の内面には、ノック機構60の一部を構成する4つの外カム70が周方向に等間隔に設けられている。隣接する外カム70によって、前後方向に延在する4つの第1ガイド溝71が画成されている。外カム70の各々は、前後方向に延在し且つ周方向に連続して配置された第1突起部72と第2突起部73と第3突起部74とから成る。真ん中に配置された第3突起部74は、第1突起部72及び第2突起部73よりも薄い径方向の厚みを有する。したがって、第1突起部72と第2突起部73との間には、前後方向に延在する第2ガイド溝75が形成される。なお、周方向における、第1突起部72の幅と第2突起部73の幅と第3突起部74の幅と第1ガイド溝71の幅とは、等しくなるように形成されている。したがって、第1ガイド溝71の幅と第2ガイド溝75の幅とは等しい。
第1突起部72の周方向における側面、特に後端部近傍の側面には、第2ガイド溝75内に突出する楔状の被係止部76が設けられている。同様に、第2突起部73の周方向における側面、特に後端部近傍の側面には、第1ガイド溝71内に突出する突起状の被係止部76が設けられている。なお、被係止部76は、第1突起部72の周方向における反対側の側面から第1ガイド溝71内に突出し、且つ、第2突起部73の周方向における反対側の側面から第2ガイド溝75内に突出するようにしてもよい。すなわち、被係止部76は、第1突起部72及び第2突起部73の側面から周方向において同一方向に突出する凸部である。
被係止部76は、第1突起部72及び第2突起部73と同一の径方向の厚みを有している。被係止部76の後端面は、軸筒3の中心軸線に対して垂直な面である第1突起部72及び第2突起部73の後端面と面一である。被係止部76は楔状であるから、第1ガイド溝71内及び第2ガイド溝75内に面した被係止部76は、軸筒3の中心軸線に対して垂直な面に対して、周方向に傾斜した被係止斜面77を有している。被係止部76の被係止斜面77は、後述するように、操作部80の係止突起部81と係止するという点において、第1実施形態によるノック式筆記具1における規制面25と同様の機能を有している。なお、外カム70の後端面は、カバー部材50の前端面が当接可能な当接面78を構成する。
図11は、図8のノック式筆記具11の操作部80及び回転子90の斜視図である。図11において、下方がノック式筆記具11の前方である。
操作部80は、後方に向かって緩いテーパー状に形成された筒状の部材である。操作部80の前端部の外周面には、8つの係止突起部81が周方向に等間隔に設けられている。係止突起部81は、軸線方向に延びる細長い突起状の脚部87と、脚部87の前端に設けられた頭部88とを有している。係止突起部81の各々は、隣接する外カム70間の第1ガイド溝71内、又は、第2突起部73の上、すなわち第1突起部72と第2突起部73との間の第2ガイド溝75内に配置される。また、係止突起部81の各々は、ノック操作によって、第1ガイド溝71内又は第2ガイド溝75内を前後方向に移動するように構成されている。
操作部80の前端面にはカム面82が形成されている。詳細には、係止突起部81の前端面、すなわち頭部88の前端面がカム面82の一部を構成する。カム面82は8つの山部83及び谷部84を有する。操作部80の後端部には、カバー部材50の嵌合部51が挿入される円形の嵌合孔85が設けられている。嵌合孔85の開口近傍の内面には、径方向内方へ突出する第1係止部86が設けられている。
回転子90は、操作部80の前端部から内部に挿入されて芯合わせに使用される小径部91と、小径部91の前方に配置された大径部92とから成る。大径部92は小径部91よりも大きな直径を有する。大径部92の後端面には、操作部80のカム面82と協働するカム受け面93が形成されている。カム受け面93は4つの山部94及び谷部05を有する。大径部92の外周面には、前後方向に延在する突起である4つの内カム96が周方向に等間隔に設けられている。
操作部80とカバー部材50との嵌合構造及びそれによって奏する効果は、第1実施形態において説明したとおりであるから、説明は省略する。
図12は、図8のノック式筆記具11の非筆記状態から筆記状態への切り替えを示すノック機構60の模式図である。すなわち、図12は、外カム70と操作部80と回転子90との位置関係を示す模式図であり、外カム70を周方向に展開したものに対して、操作部80の係止突起部81及び回転子90の内カム96の位置を示したものである。図中、下方がノック式筆記具11の前方であり、上方がノック式筆記具11の後方である。回転子90は、操作部80のカム面82と回転子90のカム受け面93とが協働することによって回転力を与えられ、中心軸線周りに回転する。そのため、回転子90は、図12においてノック操作毎に図の右から左へ移動する。
図12(a)は、ノック式筆記具11の非筆記状態におけるノック機構60の模式図である。このとき、リフィル5を介してスプリング6によって後方に付勢された回転子90の内カム96は、外カム70間の第1ガイド溝71内に配置されている。したがって、この状態では、筆記部4が軸筒3内に没入している。カム面82及びカム受け面93は、位相がずれて配置されている。
操作部80の係止突起部81は、第1ガイド溝71内又は第2ガイド溝75内に配置されている。詳細には、係止突起部81の脚部87は、ノック操作中に常に、外カム70の被係止部76及び第1突起部72間又は被係止部76及び第2突起部73間に配置される。また、係止突起部81の脚部87の後端部は、ノック操作中に常に、外カム70よりも後方に突出している。
図12(a)の状態から、スプリング6の付勢力に抗して操作部80を押圧するノック操作を行うことによって、操作部80及び回転子90を前進させる。このとき、操作部80の係止突起部81及び回転子90の内カム96は、第1ガイド溝71内を前方に移動する。また、操作部80及び回転子90は、カム面82及びカム受け面93の斜面を介して互いに反対方向の周方向の分力を受けているが、係止突起部81と外カム70の第1突起部72及び第2突起部73の側面との当接によって、周方向の移動が規制されている。
操作部80及び回転子90がさらに前進すると、内カム96の後端部が前後方向において外カム70の前端部、すなわち第1突起部72を越える(図12(b))。このとき、外カム70による、回転子90の周方向の移動の規制は解除され、カム面82とカム受け面93とが一致する。
カム面82とカム受け面93とが一致した状態から、操作部80の押圧を解除すると、操作部80及び回転子90は、スプリング6の付勢力によって後退する。このとき、回転子90は、外カム70の斜面から分力を受けて、中心軸線周りに回転する。すなわち、回転子90の内カム96は、外カム70の斜面を、第2突起部73の前端部側面に当接するまで移動し、回転子90の回転が停止する。このとき、内カム96は第3突起部74の前端面と係止し、回転子90の後退が規制される(図12(c))。その結果、回転子90の前方に配置されたリフィル5の筆記部4が軸筒3から突出し、ノック式筆記具11は筆記状態となる。
図13は、図8のノック式筆記具11の筆記状態から非筆記状態への切り替えを示すノック機構60の模式図である。図13は、外カム70と操作部80と回転子90との位置関係について、図12と同様に示されている。
図13(a)は、ノック式筆記具11の筆記状態におけるノック機構60の模式図であり、図12(c)と同一の模式図である。図13(a)の状態から、スプリング6の付勢力に抗して操作部80を押圧するノック操作を行うことによって、操作部80及び回転子90を前進させる。このとき、操作部80の係止突起部81及び回転子90の内カム96は、第1ガイド溝71内を前方に移動する。また、操作部80及び回転子90は、カム面82及びカム受け面93の斜面を介して互いに反対方向の周方向の分力を受けているが、外カム70の第1突起部72及び第2突起部73の側面によって、周方向の移動が規制されている。
操作部80及び回転子90がさらに前進すると、内カム96の後端部が前後方向において外カム70の前端部、すなわち第2突起部73を越える(図13(b))。このとき、外カム70による、回転子90の周方向の移動の規制は解除され、カム面82とカム受け面93とが一致する。
カム面82とカム受け面93とが一致した状態から、操作部80の押圧を解除すると、操作部80及び回転子90は、スプリング6の付勢力によって後退する。このとき、回転子90は、外カム70の斜面から分力を受けて、中心軸線周りに回転する。すなわち、回転子90の内カム96は、外カム70の斜面から第1ガイド溝71内に進入して後方に移動することから、操作部80及び回転子90が後退する。操作部80及び回転子90の後退は、操作部80の係止突起部81が、第1ガイド溝71又は第2ガイド溝75の後端に設けられた被係止部76と係止することによって規制される(図13(c))。具体的には、係止突起部81の頭部88が、被係止部76の被係止斜面77と係止することによって、操作部80及び回転子90の後退が規制される。頭部88は、被係止部76の被係止斜面77と相補的な形状を有している。言い換えると、被係止部76の凸形状は、係止突起部81の一部と相補的な形状である。その結果、回転子90の前方に配置されたリフィル5の筆記部4が軸筒3内に没入し、ノック式筆記具11は非筆記状態となる。
ノック機構60によれば、ノック操作に必要なストロークを同じとした場合に特許文献1に記載のノック機構100と比較して、軸線方向における外カムの全長をより短くすることができる。これについて、図12及び図15を参照しながら説明する。
まず、特許文献1に記載のノック機構100について図15(a)を参照すると、外カム131の全長はL1である。前端は、第1突起部133又は第2突起部134の先端であり、後端は、第1実施形態によるノック式筆記具1におけるカバー部材50との当接面26に相当する面である。ノック操作に必要なストロークL0は、内カム156の先端と、第1突起部133又は第2突起部134の先端との間の距離に等しい。ノック機構100において、軸線方向に短小の係止突起部141によって、操作部140の中心軸線周りの回転が規制されている。そのため、図15(b)に示されるように、ノック操作によって操作部140が前進した場合にも、係止突起部141は、第1ガイド溝132又は第2ガイド溝から離脱しないように、カム面142よりも後方に設けられている。したがって、外カム131の全長を短くするためには、L1とL0との差分を小さくする必要がある。
次に、第2実施形態におけるノック機構60について図12(a)を参照すると、外カム70の全長はL5である。ノック操作に必要なストロークL0は、上述したように、内カム96の先端と、第1突起部72又は第2突起部73の先端との間の距離に等しい。ノック機構60において、軸線方向に細長い係止突起部81によって、操作部80の中心軸線周りの回転が規制されている。すなわち、係止突起部81の脚部87が、ノック操作中に常に、外カム70の被係止部76及び第1突起部72間、又は、被係止部76及び第2突起部73間に配置されることによって、操作部80の中心軸線周りの回転が規制されている。その結果、係止突起部81の頭部88を、カム面82近傍の操作部80の前端部に配置することができる。
ここで、特許文献1における外カム131の距離L1と、第2実施形態における外カム70の距離L5とを比較すると、概ね、図15(a)における係止突起部141の後端部と外カム131の後端面との間の距離L2、及び、係止突起部141の前端部とカム面142の山部143との間の距離L3の分だけ、距離L5の方が距離L1よりも短い。すなわち、図15(a)における距離L2に相当する図12(a)における距離は、係止突起部81の後端部、すなわち頭部88の後端部と当接面78との間の距離に相当するが、被係止部76が楔状であるため、実質的にゼロである。また、図15(a)における距離L3に相当する図12(a)における距離は、係止突起部81の前端面、すなわち頭部88の前端面がカム面82の一部を構成していることから、実質的にゼロである。したがって、ノック機構60によれば、特許文献1に記載のノック機構100と比較して、図15(a)における距離L2及び距離L3の分だけ、外カムの全長を短くすることができる。
ノック操作のストロークを変更することなく、外カムの全長を短くすることによって、ノック機構全体を短くすることができ、結果としてノック式筆記具の全長を短くすることができる。よって、意匠性又は設計上の様々な要求に応えることができるノック機構を有するノック式筆記具を提供することができる。
第2実施形態では、被係止部76は、被係止斜面77を有している。被係止斜面77と係止する係止突起部81の頭部88も被係止斜面77に相補的な形状、すなわち斜面を有している。そのため、ノック式筆記具11を組み立てる際に、軸筒3の前方から操作部80を挿入する際に、スムーズに挿入することができ、組み立て性が向上する。被係止部76は、第1ガイド溝71内及び第2ガイド溝75内に突出する限りにおいて、第1突起部72及び第2突起部73の側面の任意の箇所及び形状(例えば、円形の突起)で設けることができる。これに対し、係止突起部81の頭部88は、被係止部76と係止可能である限りにおいて、任意に構成することができる。また、係止突起部81の脚部87は、ノック操作中に常に、外カム70の被係止部76及び第1突起部72間、又は、被係止部76及び第2突起部73間に配置されることによって、操作部80の中心軸線周りの回転を規制する限りにおいて任意に構成することができる。
ところで、カバー部材50の外側後端面55に、パッド印刷等による印字又はシールの貼付等によって、ボールペンのボール径等の文字等を付してもよい。付された文字等は、店頭で商品陳列の際には、整然と並べるようにノック式筆記具の向きを揃えるための目安となる。軸筒3は、玉部7(図1及び図8)を備えたクリップ8を有している。より薄い物品、例えば1片の紙を挟持することができるように、軸筒3及びクリップ8の玉部7間をより狭くすることが好ましい。クリップ8の幅広の上面9(図3)における成形時の抜き勾配がより平面となるように設ける方が、美感を起こさせることから好ましい。口先部材2及び軸筒3の境界部分は、使用者が認識できない程度に連続的且つ滑らかに形成されていることが好ましい。スプリング6の前端部が口先部材2の内面に嵌合するようにしてもよい。この場合、リフィル5の交換時等に口先部材2を軸筒3から外しても、スプリング6が脱落して紛失することが防止される。
リフィル5は、ボールペン以外にマーキングペン、タッチペン、消しゴム等のその他種類の筆記体であってもよい。また、操作部又はカバー部材50の一部又は全部を、ノック式筆記具による筆跡を消去する消去部としてもよい。
リフィル5は、熱変色性インクが収容されたボールペンであってもよい。ここで、熱変色性インクとは、常温(例えば25℃)で所定の色彩(第1色)を維持し、所定温度(例えば60℃)まで昇温させると別の色彩(第2色)へと変化し、その後、所定温度(例えば-5℃)まで冷却させると、再び元の色彩(第1色)へと復帰する性質を有するインクをいう。熱変色性インクを用いた熱変色性筆記具では上記第2色を無色とし、第1色(例えば赤)で筆記した描線を昇温させて無色とすることを、ここでは「消去する」ということとする。したがって、描線が筆記された筆記面等に対して消去部である摩擦部材によって擦過して摩擦熱を生じさせ、それによって描線を無色に変化、すなわち消去させる。なお、当然のことながら上記第2色は、無色以外の有色でもよい。