JP7466866B2 - 鉄筋コンクリート構造物の健全性把握方法 - Google Patents

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Description

本発明は、鉄筋コンクリート構造物の健全性把握方法に関し、さらに詳しくは、鉄筋コンクリート構造物の健全性を、より明瞭かつ簡便に把握できる鉄筋コンクリート構造物の健全性把握方法に関するものである。
塩害や中性化などが原因で、鉄筋コンクリート構造物を構成する鉄筋が腐食することがある。鉄筋が腐食すると、断面減少に伴う鉄筋の引張強度や伸び性が低下するだけでなく、鉄筋の体積膨張により、鉄筋周囲のコンクリートにひび割れや空洞が発生して、鉄筋とコンクリートの付着低下が生じ、鉄筋コンクリート構造物の安全性の低下を引き起こす。また、隣り合う鉄筋が腐食した場合、鉄筋間でひび割れが繋がって空洞に進展することもあり、コンクリート片の剥落による第三者被害を招いたり、鉄筋の腐食がさらに速い速度で進行する。さらに、コンクリート中の鉄筋に生成される腐食生成物はコンクリートの含水状態や酸素の供給条件等によって様々であることが知られており、腐食生成物の種類によっては、鉄筋コンクリート構造物の補修工法である電気防食工法や脱塩工法などの電気化学的防食工法の効果を阻害するものもある(例えば、γ-FeOOHなど)。そのため、鉄筋コンクリート構造物の点検や補修工法の選定にあたっては、鉄筋の腐食の有無や、コンクリート中のひび割れ、空洞の有無、さらにはその鉄筋コンクリート構造物の健全ではない範囲(鉄筋の腐食範囲やコンクリート中のひび割れ、空洞が存在する範囲)を適切に把握することが重要である。従来、鉄筋コンクリート構造物を診断する方法が種々提案されている(例えば特許文献1参照)。
鉄筋が腐食している範囲を把握する従来の方法として自然電位法がある。従来の自然電位法では、鉄筋が腐食している可能性や腐食している範囲に関して概略の推定はできるが、鉄筋に補修工法の選定において電気化学的防食工法の効果を阻害する腐食生成物が生成されているか否かまでは判定できなかった。即ち、実際にコンクリートをはつり取って鉄筋表面の腐食生成物を採取し、試験室にて高度な分析(ラマン分光光度分析等)を実施しない限り、鉄筋に電気化学的防食工法の効果を阻害する導電性に劣る腐食生成物が生成されているか否かを把握することはできなかった。また、自然電位法では、鉄筋の腐食やその他の原因(建設時の施工欠陥や供用中の疲労)で生じているコンクリート中のひび割れや空洞の有無を把握することはできなかった。
一方、特許文献1に記載のコンクリート欠陥診断方法では、コンクリート表面を打撃したときの打音を測定し、打音の違いによって鉄筋とコンクリート表面との間に存在する空洞や、隣り合う鉄筋の腐食により鉄筋間で繋がったひび割れや空洞の有無を判別している。しかしながら、空洞の位置が鉄筋コンクリート構造物の表面から深い場合(例えば、50mm~100mm程度以上)には、空洞の有無による打音の違いが判別し難く、鉄筋の腐食箇所の見落としが生じ易かった。また、鉄筋の腐食は生じているが隣り合う鉄筋間を繋ぐ空洞に至っていない場合には、打音を測定分析する方法では、鉄筋の腐食の有無や腐食範囲を把握できない。
特開2002-340870号公報
本発明の目的は、鉄筋コンクリート構造物の健全性をより明瞭かつ簡便に把握できる鉄筋コンクリート構造物の健全性把握方法を提供することにある。
上記目的を達成するため本発明の鉄筋コンクリート構造物の健全性把握方法は、鉄筋コンクリート構造物の健全性把握方法であって、前記鉄筋コンクリート構造物を構成する鉄筋およびコンクリートに電流を流していない状態の前記鉄筋の対象箇所の自然電位を前記鉄筋コンクリート構造物の表面の検知位置から電位測定装置により測定し、通電装置の陰極を前記鉄筋に電気的に接続し、前記通電装置の陽極を前記鉄筋コンクリート構造物の表面に設置して、前記通電装置により前記鉄筋および前記コンクリートに電流を流した状態の前記対象箇所の通電時の電位を前記検知位置から電位測定装置により測定し、前記対象箇所またはその近傍での前記鉄筋の腐食、特定の腐食生成物、前記対象箇所と前記検知位置の間での前記コンクリートのひび割れ、空洞を少なくとも把握対象として、前記自然電位と前記通電時の電位との電位変化量に基づいて、前記把握対象のいずれかが存在しているか否を把握することを特徴とする。
本発明によれば、鉄筋の腐食の有無や、腐食生成物の種類、コンクリート中のひび割れ、空洞の有無によって鉄筋の対象箇所への電流の流れ易さが異なるため、電位測定装置により測定した鉄筋の対象箇所の自然電位と、通電装置により鉄筋およびコンクリートに電流を流した状態の鉄筋の対象箇所の通電時の電位との電位変化量(電位差の大きさ)に基づいて、対象箇所またはその近傍での鉄筋の腐食、特定の腐食生成物、対象箇所と検知位置の間でのコンクリートのひび割れ、空洞を少なくとも把握対象として、前記把握対象のいずれかが存在しているか否かを把握することができる。そのため、鉄筋コンクリート構造物を構成する鉄筋およびコンクリートの健全性をより明瞭かつ簡便に把握することが可能となる。
電位測定装置および通電装置が設置された鉄筋コンクリート構造物の測定対象面を正面視で模式的に例示する説明図である。 図1のA-A断面矢視図である。 鉄筋に電流を流していない状態から、通電装置により鉄筋およびコンクリートに電流を流したときの鉄筋の対象箇所の電位の時間推移を例示するグラフ図である。 鉄筋の対象箇所の補修領域に鉄筋を防食する注入材を注入しつつ、通電装置により鉄筋およびコンクリートに電流を流して、注入材を注入中の補修領域の鉄筋の通電時の電位を測定している状況を模式的に例示する説明図である。 図1の通電装置と陽極の設置方法の別例を示す説明図である。 図1の通電装置と陽極の設置方法の別例を示す説明図である。
以下、本発明の鉄筋コンクリート構造物の健全性把握方法(以下、把握方法という)を図に示した実施形態に基づいて説明する。
図1および図2に例示する本発明の把握方法では、鉄筋コンクリート構造物10を構成する鉄筋11の腐食、特定の腐食生成物、コンクリート12中のひび割れ、空洞15を少なくとも把握対象として、鉄筋コンクリート構造物10の健全性を把握する。
より具体的には、鉄筋コンクリート構造物10が健全ではない状態である(ケース1)鉄筋11の腐食が生じているがコンクリート12中において隣り合う鉄筋11間のひび割れが繋がって生じる空洞15にまで至っていない状態、(ケース2)隣り合う鉄筋11間の腐食によりコンクリート12中においてひび割れが繋がり空洞15が生じている状態、(ケース3)鉄筋11の腐食は生じていないが建設当時の施工欠陥等により隣り合う鉄筋11の間に空洞15が生じている状態の少なくともいずれかに該当しているか否かを把握することができる。
図2では、鉄筋11に腐食箇所14が存在している。また、腐食による鉄筋11の体積膨張に起因してコンクリート12に空洞15が生じている。この把握方法では、自然電位測定工程、通電時電位測定工程、および電位変化量比較工程の3つの工程を行う。以下では、鉄筋コンクリート構造物10として、鉄筋コンクリート造の壁体の健全性を把握する場合を例示して、各作業の詳細を説明する。対象となる鉄筋コンクリート構造物10としては、壁体の他にも例えばスラブ(道路橋の床版等)や梁体、柱体などが例示できる。
自然電位測定工程では、鉄筋11およびコンクリート12に電流を流していない状態の鉄筋11の対象箇所Tの自然電位を鉄筋コンクリート構造物10の表面10aの検知位置Dから電位測定装置1により測定する。鉄筋コンクリート構造物10の鉄筋11の腐食を診断する方法として知られている自然電位法と同様に、公知の電位測定装置1を用いて、電位測定装置1の測定部1aを、健全性を把握する鉄筋11の対象箇所Tに対向する鉄筋コンクリート構造物10の表面10aの検知位置Dに押し当てることで、鉄筋11の対象箇所Tの自然電位を測定する。
健全なコンクリート12は、セメントの水和反応によって生成した水酸化カルシウムなどのアルカリイオンによって強いアルカリ性(pH12程度)を示す。腐食していない健全な状態の鉄筋11は、この強アルカリ性により表面に不動態被膜が形成されて保護されている。ところが、塩害やコンクリート12の中性化などにより鉄筋11の不動態被膜が破壊されると、鉄筋11を形成する鉄がイオン化して電子を生成するアノード反応(Fe→Fe2++2e)と、生成された電子が水および酸素と反応するカソード反応(HO+1/2O+2e→2OH)が進行する。
そして、溶け出した鉄イオンが水酸化イオンと反応し、さらにコンクリート12中の酸素との反応が進行して、腐食生成物(所謂、さび)が生成されることで鉄筋11の腐食が進行する。このように、コンクリート12に埋設された鉄筋11の腐食は電気化学反応に基づいて進行するため、鉄筋11の不動態被膜が存在する箇所と不動態被膜が破壊された腐食箇所とでは、鉄筋11の自然電位が異なる。従来技術の自然電位法では、前述した鉄筋11の電気化学的な性質を利用して、鉄筋11の自然電位の測定結果に基づいて鉄筋11の腐食の有無を把握している。
鉄筋11の自然電位はコンクリート12の含水率や測定条件などによって変わる。また、コンクリート12中にひび割れや空洞15が存在している場合には、鉄筋11の自然電位を精度よく測定できないことがある。そのため、自然電位の測定値だけでは、鉄筋11の腐食が生じている可能性は把握できても、鉄筋11の腐食やその他の原因で生じているコンクリート12中のひび割れや空洞15が存在している箇所や範囲を把握することはできない。そこで、本発明では、鉄筋コンクリート構造物10を構成する鉄筋11およびコンクリート12の健全性をより明瞭かつ網羅的に把握するために、自然電位測定工程に加えて、さらに、通電時電位測定工程および電位変化量比較工程を行う。即ち、本発明は従来の自然電位法を利用しつつ、更なる工夫、改善を施した内容になっている。
図1および図2に例示するように、通電時電位測定工程では、通電装置2の陰極(排流端子)3を、鉄筋コンクリート構造物10を構成する鉄筋11に電気的に接続し、通電装置2の陽極4を鉄筋コンクリート構造物10の表面10aの検知位置Dに設置する。そして、通電装置2により鉄筋11およびコンクリート12に電流を流した状態の鉄筋11の対象箇所Tの通電時の電位を、鉄筋コンクリート構造物10の表面10aの検知位置Dから電位測定装置1により測定する。
より具体的には、鉄筋コンクリート構造物10の表面10aからコンクリート12に、鉄筋11まで連通する穴13を形成し、通電装置2の陰極3を鉄筋11に電気的に接続する。陰極3の接続位置は、健全性を把握する鉄筋11に電気的に接続されていて電流が流れる条件であれば、健全性を把握する鉄筋11と異なる鉄筋11であってもよい。鉄筋11または鉄筋11に電気的に接続されている別の鉄筋11に、陰極3を接続可能な露出した部分が存在する場合には、前述した穴13を形成する作業は省略できる。鉄筋コンクリート構造物10は基本的に、配力鉄筋などを介して鉄筋11どうしが電気的に接続された構造になっているので、いずれか1本の鉄筋11に陰極3を接続して電流を流すことで、同じ鉄筋コンクリート構造物10を構成している他の鉄筋11にも電流を流すことができる。それ故、複数ヶ所の鉄筋11の健全性を把握する場合にも、それぞれの鉄筋11に対して陰極3を接続するための穴13を形成する必要はない。
そして、通電装置2の陽極4を鉄筋コンクリート構造物10の表面10aに設置する。この実施形態では、面状の陽極4を鉄筋コンクリート構造物10の表面10aに複数張り付けて設置している。陽極4の形状やサイズ、配置数、設置方法等は特に限定されず、面状の陽極4の他にも例えば、線状の陽極4や網状の陽極4、点状の陽極4などを使用することもできる。また、より精度を求める場合には、隣り合う鉄筋11どうしの間隔よりも小さいサイズの陽極4を使用することが望ましく、測点数を細かくすることで劣化範囲を推定することもできる。
陽極4は、鉄筋11の対象箇所Tに出来るだけ近い位置に対向させて設置することが好ましい。ただし、電位測定装置1により鉄筋11の対象箇所Tの電位を測定できるように、電位測定装置1の測定部1aを押し当てる検知位置Dの表面10aは陽極4で覆うことなく露出した状態にしておく。この実施形態の面状の陽極4には、電位測定装置1の測定部1aが貫通可能な複数の孔部5が設けられていて、それらの孔部5に測定部1aを貫通させた状態で鉄筋11の対象箇所Tの電位を測定できる構成になっている。
陽極4を設置する際には、水を散布するなどして予めコンクリート12を湿らせて、コンクリート12が通電しやすい状態にするとよい。また、鉄筋コンクリート構造物10の表面10aに陽極4とコンクリート12との接触抵抗を低減させる塗布材(例えば、ジェル等)を塗布し、その上に陽極4を設置するとよい。例えば、鉄筋コンクリート構造物10の表面10aに電流が流れ難い塗料などが塗装されている場合には、その塗料を除去した上で陽極4を設置するとよい。
次いで、鉄筋コンクリート構造物10に対して陰極3と陽極4を設置した後に、通電装置2により鉄筋11およびコンクリート12に電流を流し、その電流を流した状態の鉄筋11の対象箇所Tの通電時の電位を検知位置Dから電位測定装置1によって測定する。電流は直流と交流のいずれでもよく、直流の場合は定電流および定電圧による印加でもよい。より好ましくは直流電流がよく、通電装置2により鉄筋11およびコンクリート12に流す定電流を流す場合の電流の電流密度は、例えば、0.05A/m以上10A/m以下、より好ましくは0.05A/m以上1A/m以下に設定するとよい。
鉄筋コンクリート構造物10の補修方法として従来知られている電気化学的防食工法において、例えば電気防食工法であれば、鉄筋11に流される電流の電流密度は0.001~0.03A/m程度であるが、本発明では、前述したように鉄筋11およびコンクリート12に、電気防食工法よりも電流密度が高い電流を積極的に流す。そして、その電流密度の高い電流を流した状態の鉄筋11の対象箇所Tの通電時の電位を測定する。
自然電位測定工程と通電時電位測定工程の作業順は順不同であり、通電時電位測定工程を行った後に、鉄筋11の電位変化が生じなくなった状態(自然電位の定常状態)で、自然電位測定工程を行ってもよい。また、自然電位測定工程は、鉄筋コンクリート構造物10に通電装置2の陰極3と陽極4を設置していない状態で行うこともできるし、設置した状態で行うこともできる。対象箇所Tは必要に応じて鉄筋コンクリート構造物10の任意の範囲に設定できる。したがって、鉄筋コンクリート構造物10の一部の範囲に対して、この把握方法を適用することも全範囲を網羅するように適用することもできる。鉄筋コンクリート構造物10の複数ヶ所の健全性を把握する場合には、鉄筋11の複数の対象箇所Tに対して自然電位測定工程および通電時電位測定工程をそれぞれ行い、対象箇所T毎に測定した自然電位と通電時の電位とを記録しておく。
次いで、電位変化量比較工程では、自然電位測定工程で測定した鉄筋11の対象箇所Tの自然電位と、通電時電位測定工程で測定した鉄筋11の対象箇所Tの通電時の電位との電位変化量(電位差の大きさ)に基づいて、対象箇所Tまたはその近傍での鉄筋11の腐食、特定の腐食生成物、対象箇所Tと検知位置Dの間でのコンクリート12のひび割れ、空洞15を少なくとも把握対象(以下、把握対象という)として、鉄筋コンクリート構造物10が健全でないことを示す把握対象のいずれかが存在しているか否かを把握する。
図3は、鉄筋11の対象箇所Tの自然電位と通電時の電位の測定結果を例示したグラフ図である。横軸に示している時間t0は、自然電位測定工程で鉄筋11の対象箇所Tの自然電位V0を測定し始めた時間を示している。時間t1は通電時電位測定工程で鉄筋11およびコンクリート12への通電を開始し、鉄筋11の対象箇所Tの通電時の電位を測定し始めた時間を示している。時間t2は、通電開始からある程度時間が経過し、鉄筋11の対象箇所Tの通電時の電位が安定した時間を示している。図3では、鉄筋11の対象箇所Tの自然電位(V0)を実線で示している。そして、把握対象のいずれも存在していない場合、即ち、鉄筋11の対象箇所Tおよび対象箇所Tと検知位置Dとの間のコンクリート12が健全な場合の通電時の電位(V1)を太線の一点鎖線で示している。一方で、把握対象のいずれかが存在している場合、即ち、鉄筋11の対象箇所Tまたは対象箇所Tと検知位置Dとの間のコンクリート12の少なくともいずれかが健全ではない場合の通電時の電位(V2)を太線の破線で示している。
把握対象のいずれも存在しておらず、鉄筋11の対象箇所Tおよび対象箇所Tと検知位置Dとの間のコンクリート12が健全である場合には、鉄筋11の対象箇所Tに電流が流れやすい状態になっている。そのため、図3の一点鎖線で例示するように、通電装置2により鉄筋11およびコンクリート12に電流を流すと、鉄筋11の対象箇所Tの電位が自然電位V0から大幅に低くなり、鉄筋11の対象箇所Tの自然電位V0と通電時の電位V1との電位変化量(V0-V1)が比較的大きくなる。
一方で、把握対象のいずれかが存在しており、鉄筋11の対象箇所Tまたは対象箇所Tと検知位置Dとの間のコンクリート12の少なくともいずれかが健全ではない場合には、対象箇所Tに存在している導電性に劣る特定の腐食生成物の影響、或いは、対象箇所Tと検知位置Dとの間のコンクリート12に存在するひび割れや空洞15の影響により鉄筋11の対象箇所Tに電気が流れ難い状態となる。そのため、図3の太線の破線で例示するように、把握対象のいずれかが存在している場合には、通電装置2により鉄筋11およびコンクリート12に電流を流しても、鉄筋11の対象箇所Tの電位が自然電位V0からほとんど変化せずに、鉄筋11の対象箇所Tの自然電位V0と通電時の電位V2との電位変化量(V0-V2)が比較的小さくなる。
即ち、鉄筋11の対象箇所Tが腐食しておらず、対象箇所Tと検知位置Dとの間のコンクリート12にひび割れや空洞15がない、鉄筋コンクリート構造物10が健全な状態である場合には、鉄筋11の対象箇所Tの自然電位と通電時の電位との電位変化量が比較的大きくなる。一方で、鉄筋11の対象箇所Tが腐食している場合、対象箇所Tに導電性に劣る特定の腐食生成物が存在する場合、対象箇所Tと検知位置Dの間でのコンクリート12にひび割れ、空洞15が存在している場合の少なくともいずれかに該当する、鉄筋コンクリート構造物10が健全ではない状態である場合には、鉄筋11の対象箇所Tの自然電位と通電時の電位との電位変化量が比較的小さくなる。
この把握方法では、通電装置2により鉄筋11およびコンクリート12に意図的に電流を流すことで、把握対象が存在していない場合と、把握対象のいずれかが存在している場合とで、鉄筋11の対象箇所Tの自然電位と通電時の電位との電位変化量に顕著な差異が現れる。そのため、電位変化量に基づいて、鉄筋コンクリート構造物10が健全でないことを示す把握対象が存在しているか否かを明瞭に把握することができる。
つまり、鉄筋11の対象箇所Tが腐食している場合には、その鉄筋11の腐食箇所14や、鉄筋11の腐食が原因で生じたコンクリート12中のひび割れや空洞15が存在している可能性がある箇所をより確実に把握できる。また、鉄筋11の対象箇所Tが腐食していない場合にも、鉄筋11の腐食以外の原因で生じたコンクリート12中のひび割れや空洞15が存在している場合には、そのひび割れや空洞15が存在している可能性がある箇所をより確実に把握できる。
それ故、この把握方法は、従来の自然電位法よりも鉄筋コンクリート構造物10のコンクリート12中のひび割れや空洞15の見落としを防ぐには有利である。また、この把握方法では、対象箇所Tと検知位置Dとの間にひび割れや空洞15が存在していない場合にも、鉄筋11の対象箇所Tが腐食している場合には、その鉄筋11の腐食を把握できるので、従来の打音を測定分析する方法よりも鉄筋11の腐食箇所14の見落としを防ぐには有利である。さらに、この把握方法では、鉄筋11の対象箇所Tが鉄筋コンクリート構造物10の表面10aから深い場合(例えば、50mm~100mm程度以上)にも、鉄筋11の腐食の有無を把握することが可能となる。
このように、この把握方法は、比較的簡易な方法でありながら、対象箇所Tまたはその近傍での鉄筋11の腐食、特定の腐食生成物、対象箇所Tと検知位置Dの間でのコンクリート12のひび割れ、空洞15を少なくとも把握対象として、鉄筋コンクリート構造物10を構成する鉄筋11およびコンクリート12の健全性を網羅的に明瞭に把握できるので、鉄筋コンクリート構造物10の健全性の診断を行う当業者にとって利便性が高く、非常に有益である。
この把握方法を、鉄筋11の対象箇所Tを変えて鉄筋コンクリート構造物10の複数ヶ所で行うことで、鉄筋コンクリート構造物10において健全である範囲と健全ではない範囲(鉄筋11が腐食している可能性がある範囲や、コンクリート12中におけるひび割れや空洞15が存在している可能性がある範囲)を把握することが可能である。尚、鉄筋11の腐食を伴わない空洞15、例えば、対象箇所Tと検知位置Dとの間のコンクリート12に独立して形成された空洞15は、サイズが過小であると、その存在を確実には把握できない。それ故、把握対象となるこのような空洞15のサイズはある程度の大きさが必要である。
この把握方法では、特に、通電装置2により鉄筋11およびコンクリート12に1A/m以上の電流密度で電流を流すと、把握対象のいずれかが存在している場合といずれも存在していない場合との電位変化量の差異がより明瞭に判別し易くなるので、鉄筋コンクリート構造物10の健全性を明瞭に把握するにはより有利になる。
図4に例示するように、腐食していることが把握された鉄筋11の対象箇所Tに対しては、その腐食箇所14の補修領域に鉄筋11を防食する注入材7を注入して補修することが好ましい。前述した補修領域とは、鉄筋11の腐食箇所14または/およびその近傍である。注入材7としては、例えば、腐食箇所14に浸透または腐食箇所14を被覆して、鉄筋11の腐食を抑制する薬液(例えば、アミン系防錆剤の電解質水溶液等)や、対象箇所Tの近傍に存在するひび割れや空洞15を埋める穴埋め材(例えば、セメント系材料等)などが例示できる。
この把握方法では、腐食していることが把握された鉄筋11の対象箇所T(腐食箇所14)の補修領域に、注入機器6により鉄筋11を防食する注入材7を注入しつつ、上述した通電時電位測定工程と同様に、通電装置2により鉄筋11およびコンクリート12に電流を流し、注入材7を注入中の補修領域の鉄筋11の通電時の電位と、自然電位測定工程で測定しておいた自然電位との電位変化量に基づいて、補修領域での鉄筋11に対する防食程度(注入材7による防食効果や、ひび割れや空洞15に対する注入材7の充填度合い)を把握することもできる。
より具体的には、図4に例示するように、鉄筋コンクリート構造物10の表面10aから腐食していることが把握された鉄筋11の対象箇所Tの補修領域に向けてドリルなどを使用して注入材7を注入するための注入穴を形成する。この実施形態では、面状の陽極4に設けられた孔部5の内側に注入穴を形成している。
そして、その注入穴に注入機器6の注入部を挿入し、通電装置2により鉄筋11およびコンクリート12に電流を流している状態で、鉄筋11の補修領域(腐食箇所14やその近傍に存在するひび割れや空洞15)に注入材7を注入していく。そして、注入材7の注入作業と並行して、補修領域の鉄筋11の通電時の電位を継続して測定する。
補修領域の鉄筋11の通電時の電位と自然電位との電位変化量が大きくなるように通電時の電位が変化しているのであれば、補修領域の鉄筋11の腐食状態が改善されており、補修領域に対する注入材7の注入作業が適切に進行していると判断できる。一方で、注入材7を注入しているにもかかわらず、補修領域の鉄筋11の通電時の電位と自然電位との電位変化量にほとんど変化が見られない場合には、補修領域の鉄筋11の腐食状態が改善されておらず、注入材7の注入位置や注入材7の種類などを見直す必要があると判断できる。
このように、注入材7の注入作業中に補修領域の鉄筋11の通電時の電位を測定し、通電時の電位と自然電位との電位変化量をモニタリングすると、補修領域での鉄筋11に対する防食程度を把握できるので、鉄筋11の腐食箇所14の補修をより確実に遂行できる。このように、この把握方法は、鉄筋コンクリート構造物10の健全性を把握する単純方法としてだけでなく、鉄筋コンクリート構造物10の健全ではない箇所が補修された鉄筋コンクリート構造物10の製造方法として用いることができるので当業者にとって非常に有益である。
例えば、注入材7の注入作業終了後に補修領域の鉄筋11の通電時の電位を測定し、その通電時の電位と自然電位との電位変化量に基づいて、補修領域での鉄筋11に対する防食程度を把握することで、補修が適切に行われたか否かを判断することもできる。即ち、注入材7の注入作業を行った補修領域での鉄筋11の通電時の電位と自然電位との電位変化量が大きければ、補修領域での鉄筋11の腐食状態が改善され、補修領域での鉄筋11に対する補修作業が適切に行われたと判断できる。一方で、補修領域での鉄筋11の通電時の電位と自然電位との電位変化量が小さい場合には、補修領域での鉄筋11の腐食状態の改善が不十分であり、再度補修作業をやり直す必要があると判断できる。
図5および図6はそれぞれ、通電装置2の陽極4として、孔部5を有しない細長の帯状の陽極4を使用する場合と、線状の陽極4を使用する場合を例示している。図5や図6に例示する実施形態のように、電位測定装置1の測定部1aを貫通可能な孔部5や溝部を有していない陽極4を使用する場合には、電位測定装置1の測定部1aを押し当てる検知位置Dの表面10aを避けた位置に陽極4を設置するとよい。
なお、陽極4を鉄筋コンクリート構造物10の表面10aに設置可能であり、鉄筋11に陰極3を電気的に接続可能な通電装置2であれば、通電装置2の陰極3および陽極4の構成や、陰極3および陽極4の設置方法などは上記で例示した実施形態に限定されず、例えば、電気化学的防食工法で既に使用されている通電装置2や陽極4を利用することもできる。また、鉄筋コンクリート構造物10の表面10aから鉄筋11の電位を測定できる電位測定装置1であれば、通電装置2の構成は例示した実施形態に限定されず、例えば、電位測定装置1としてホイール式照合電極などを使用することもできる。
1 電位測定装置
1a 測定部
2 通電装置
3 陰極(排流端子)
4 陽極
5 孔部
6 注入機器
7 注入材
10 鉄筋コンクリート構造物
10a (鉄筋コンクリート構造物の)表面
11 鉄筋
12 コンクリート
13 穴
14 腐食箇所
15 空洞
T 対象箇所
D 検知位置

Claims (3)

  1. 鉄筋コンクリート構造物の健全性把握方法であって、
    前記鉄筋コンクリート構造物を構成する鉄筋およびコンクリートに電流を流していない状態の前記鉄筋の対象箇所の自然電位を前記鉄筋コンクリート構造物の表面の検知位置から電位測定装置により測定し、
    通電装置の陰極を前記鉄筋に電気的に接続し、前記通電装置の陽極を前記鉄筋コンクリート構造物の表面に設置して、前記通電装置により前記鉄筋および前記コンクリートに電流を流した状態の前記対象箇所の通電時の電位を前記検知位置から電位測定装置により測定し、
    前記対象箇所またはその近傍での前記鉄筋の腐食、特定の腐食生成物、前記対象箇所と前記検知位置の間での前記コンクリートのひび割れ、空洞を少なくとも把握対象として、
    前記自然電位と前記通電時の電位との電位変化量に基づいて、前記把握対象のいずれかが存在しているか否を把握することを特徴とする鉄筋コンクリート構造物の健全性把握方法。
  2. 前記通電装置により前記鉄筋および前記コンクリートに0.05A/m以上の電流密度で定電流を流す請求項1に記載の鉄筋コンクリート構造物の健全性把握方法。
  3. 腐食していることが把握された前記対象箇所の補修領域に前記鉄筋を防食する注入材を注入しつつ、前記通電装置により前記鉄筋および前記コンクリートに電流を流し、前記注入材を注入中の前記補修領域の前記鉄筋の通電時の電位と前記自然電位との電位変化量に基づいて、前記補修領域での前記鉄筋に対する防食程度を把握する請求項1または2に記載の鉄筋コンクリート構造物の健全性把握方法。
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