JP7461003B2 - パーキンソン病の予防又は治療剤 - Google Patents

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Description

本発明は、パーキンソン病の予防又は治療に関する。
パーキンソン病は、中脳の黒質のドーパミン神経細胞が減少することにより発症し、進行性の運動機能障害(筋固縮、動作緩慢、姿勢保持障害)や制御不能な震え(振戦)を特徴としている。日本では指定難病に指定されている。現在の治療は主に対症療法であり、根治療法はない。薬物療法としては、L-DOPA製剤、ドパミンアゴニスト、抗コリン薬、塩酸アマンタジン、レボドパ併用剤、アドレナリン受容体刺激薬等が用いられている。薬物療法で症状が改善しない場合、凝固術や脳深部刺激治療などの定位脳手術による外科的治療が行われている。
活性酸素は、生命維持に必要である一方、生体を構成する細胞を酸化して損傷させることが知られている。活性酸素は、スーパーオキシドアニオンラジカル、ヒドロキシルラジカル、過酸化水素、一重項酸素を含むが、ヒドロキシルラジカルはきわめて酸化力が高いラジカルであり、生体内で発生すると近接する物質、例えば、DNA、脂質、タンパク質等を酸化し、臓器に損傷を与えることが知られている。ヒドロキシルラジカルは、このような作用により、癌、生活習慣病等のさまざまな病気、及び老化を引き起こすとされている。
体内で生成したヒドロキシルラジカルを消滅させる物質として水素が知られている。水素がヒドロキシルラジカルと反応して生成するのは水であり、生体に有害な物質を生成しない。そこで、体内のヒドロキシルラジカルを消滅させる水素を含有する水素水については多くの報告がある。
ところが、飽和水素濃度は室温で1.6ppmであり、1リットルの水素水中に含まれる水素量は飽和状態でも気体換算で18ml(ミリリットル)にすぎない。また、水素は分子サイズが小さく水素水中の水素は容器を通過して空気中に拡散し、水素水中の溶存水素量を維持することは難しい。また、たとえ高濃度の水素水を摂取したとしても、胃等の上部消化管において水素水中の水素の多くがガス化してしまい、呑気症状(いわゆる「げっぷ」)を引き起こすこともある。したがって、水素水を摂取するという方法では、体内のヒドロキシルラジカルと反応させるために十分な量の水素を体内に取り込むことは容易ではない。さらに、水素が吸収され各器官に輸送されても、その濃度は1時間程度で水素水摂取前の濃度に戻る。また、日常生活の中で気体の水素を吸引することは難しい。
シリコン(ケイ素、Si)は半導体材料等、幅広い分野で使用されているものである。本願発明者等は、シリコン微粒子と水との反応性を種々検討してきた。
本願発明者等は、シリコン微粒子は水と接して水素を発生し得えることを見いだした。反応は、以下の式で示される。
Si+2HO→SiO+2H
また、pHが5未満の水との接触ではこの反応はほとんど進行せず、pH7以上の水に接したときは、反応が進行し、pH8以上で反応がより速く進行することを見いだした。また、シリコン微粒子を表面処理することにより、上記反応が好適に進むことを見いだした。さらに、シリコン微粒子は水と接触している間、持続的に20時間以上にわたり水素を発生し続け、条件によっては、シリコン微粒子1gで水素を400ml以上発生することを見いだした(特許文献1~6、非特許文献1)。水素400mlは飽和水素水22リットルに含まれる水素に相当する。
特開2016-155118号公報 特開2017-104848号公報 国際公開2017/130709号公報 国際公開2018/037752号公報 国際公開2018/037818号公報 国際公開2018/037819号公報
松田真輔ほか、シリコンナノ粒子による水の分解と水素濃度、第62回応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集、2015、11a-A27-6
本発明は、パーキンソン病の予防又は治療のための医薬、医療機器、食品、又は飲料等を提供することを課題とする。
本発明者等は、シリコン微粒子がパーキンソン病を予防及び/又は治療することができることを見出し、本発明を完成した。
1.シリコン微粒子を含有するパーキンソン病の予防又は治療剤。
2.ドーパミン産生細胞の脱落抑制によるパーキンソン病の予防又は治療である、前項1に記載の予防又は治療剤。
3.前記パーキンソン病がパーキンソン病における運動機能障害である前項1または2に記載の予防又は治療剤。
4.前記シリコン微粒子が、水と接して水素を発生し得るシリコンを含有する微粒子である、前項1~3のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
5.前記シリコン微粒子が、シリコン微細粒子及び/又は該シリコン微細粒子の凝集体である、前項1~4のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
6.前記シリコン微細粒子が、シリコン単体からなる微細粒子であって、その表面に酸化シリコン膜が形成されている微細粒子である、前項5に記載の予防又は治療剤。
7.前記シリコン微細粒子が、シリコン単体の塊もしくは粒子が粉砕された微細粒子である、前項5又は6に記載の予防又は治療剤。
8.前記シリコン微細粒子の凝集体の粒子径が、10nm以上500μm以下である、前項5~7のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
9.前記シリコン微粒子が多孔質シリコン粒子である、前項1~4のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
10.前記シリコン微粒子が、親水化処理されたシリコン微粒子である、前項1~9のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
11.前記親水化処理が、過酸化水素水処理である、前項10に記載の予防又は治療剤。
12.経口投与用である、前項1~11のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
13.シリコン微粒子を含有するパーキンソン病の予防又は治療用医薬組成物。
14.前項1~12のいずれか1に記載の予防又は治療剤を含有する医療機器。
15.前項1~12のいずれか1に記載の予防又は治療剤を含有する食品又は飲料。
本発明の予防又は治療剤は、パーキンソン病を予防及び/又は治療することができる。その予防効果及び治療効果は非常に優れている。
本発明の予防又は治療剤が含有するシリコン微粒子は、水素を発生することができる微粒子である。水素発生反応にはOHイオンが触媒的に働くため、アルカリ性下で水素が効率的に20時間以上持続して水素を発生する。一方、通常ヒトの腸内の食物の滞留時間は20時間以上である。
経口投与された本発明の予防又は治療剤は、腸内で長時間にわたって水素を発生し続け、体内に水素を配給し続けることができる。また、皮膚上もしくは粘膜上に本発明の予防又は治療剤を長時間留置すると、長時間にわたって体内に水素を配給し続けることができると考えられる。このように水素を配給し続けることにより体内の抗酸化力が向上し、その向上した抗酸化力が維持されると考えられる。
水素水や気体の水素では、長時間にわたり連続的に体内に水素を配給し続けることができなかったが、本発明の予防又は治療剤は長時間にわたり連続的に体内に水素を配給し続けることができる。さらに本発明の予防又は治療剤には顕著な効果があることから、水素水にはない作用があるとも考えられる。
本発明の予防又は治療剤による予防及び治療は、パーキンソン病の原因療法の1つになり得る。原因療法は効果に優れ安全性にも優れている。また、本発明の予防又は治療剤は、ヒドロキシルラジカルと反応して生成する生成物が水であることからも安全性に優れている。パーキンソン病の患者は、人口の高齢化に伴い近年増加している。根治療法がない疾患であることより、パーキンソン病の原因療法を見いだしたことは、今後の医療や健康増進に大いに貢献するものである。
また、本発明の予防又は治療剤は、水素水のように投与前に水素が拡散してしまうことがない。この性質は製品の品質保持に貢献し、製造者、販売者及び利用者の利便性に貢献する。
図1は、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影された、シリコン微粒子(シリコン結晶子及びその凝集体の混合物)の写真である(実施例2)。 図2は、実施例2で得られたシリコン微粒子を36℃、pH8.2の水に接触させることによって発生したシリコン微粒子1gあたりの水素量(累積量)を示すグラフである。 図3は、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影された、シリコン微粒子(シリコン結晶子の凝集体)の写真である(実施例3)。 図4は、シリコン微粒子を8週間投与した正常SDラットの血漿の抗酸化力(BAPテスト)の結果を示すグラフである。Conはコントロール群、Siはシリコン微粒子投与群を示す。 図5は、マウス線条体を含む前脳の冠状断面であり、パーキンソン病モデルマウスを作製するために6‐ヒドロキシドーパミン塩酸塩(6‐OHDA)を注入する部位を示す画像である。 図6は、パーキンソン病モデルマウス及び正常マウスのアポモルフィン投与による回転運動試験の結果を示すグラフである。縦軸は回転数を示す。Controlは正常マウスの通常食群、Control+Siは正常マウスのシリコン微粒子含有食群、6‐OHDAはパーキンソン病モデルマウスの通常食群、6‐OHDA+Siはパーキンソン病モデルマウスのシリコン微粒子含有食群を示す。 図7は、パーキンソン病モデルマウス前脳の冠状断切片の免疫組織染色画像であり、線条体内に投射している中脳黒質のドーパミン産生細胞軸索末端に存在するドーパミン合成酵素(チロシン水酸化酵素)の染色画像である。6‐OHDAは通常食のパーキンソン病モデルマウス、6‐OHDA+Siはシリコン微粒子含有食のパーキンソン病モデルマウスを示す。各画像は別の個体の画像である。 図8は、パーキンソン病モデルマウス中脳の冠状断切片の免疫組織染色画像であり、黒質内に存在するドーパミン産生細胞の細胞体に存在するドーパミン合成酵素(チロシン水酸化酵素)の染色画像である。6‐OHDAは通常食のパーキンソン病モデルマウス、6‐OHDA+Siはシリコン微粒子含有食のパーキンソン病モデルマウスを示す。各画像は別の個体の画像である。矢印は6‐OHDA投与によって脱落したドーパミン作動性神経細胞を示す。 図9は、パーキンソン病モデルマウス及び正常マウスのロータロッド滞在時間を示すグラフである。縦軸は滞在時間(秒)を示す。Controlは正常マウスの通常食群、Control+Siは正常マウスのシリコン微粒子含有食群、6‐OHDAはパーキンソン病モデルマウスの通常食群、6‐OHDA+Siはパーキンソン病マウスモデルのシリコン微粒子含有食群を示す。 図10は、パーキンソン病モデルマウス及び正常マウスの自発活動量計測(スーパーメックス)及びオープンフィールドテストの結果を示す。(a)のグラフは自発活動量、(b)のグラフはオープンフィールドテストの移動距離、(c)のグラフはオープンフィールドテストの移動速度、(d)のグラフはオープンフィールドテストの活動時間/不動時間(各群とも左が活動時間、右が不動時間)を示し、縦軸は時間(秒)を示す。各グラフのControlは正常マウスの通常食群、Control+Siは正常マウスのシリコン微粒子含有食群、6‐OHDAはパーキンソン病モデルマウスの通常食群、6‐OHDA+Siはパーキンソン病モデルマウスのシリコン微粒子含有食群を示す。いずれの群でも自発活動量及び新奇環境下での運動量に差はみられなかった。よって、上記のアポモルフィン投与による回転運動試験及びロータロッドテストに供された各群のマウスの自発活動量及び新奇環境下での運動量に差がないことを示す。 図11は、硫黄関連化合物に基づいた多変量解析を行った結果、10種類の硫黄関連化合物によってコントロール群とシリコン微粒子投与群を区別することができることを示すグラフである。Conはコントロール群、Siはシリコン微粒子投与群を示す。
本発明の予防又は治療剤に含まれるシリコン微粒子は、シリコンを含有する微粒子であって、水と接して水素を発生し得るシリコンを含有する微粒子であればよい。
前記の「水と接して水素を発生し得るシリコンを含有する微粒子」(水素発生能を有するシリコン微粒子)とは、36℃、pH8.2の水に接したときに、持続的に水素を発生し、24時間でシリコン微粒子1グラムあたり10ml以上の水素を発生することができるシリコン微粒子を意味する。好ましくは、20ml以上、40ml以上、80ml以上、150ml以上、200ml以上、300ml以上である。
本発明の予防又は治療剤に含まれるシリコン微粒子は、好ましくはシリコン微細粒子、該シリコン微細粒子の凝集体、及び/又は、多孔質シリコン粒子(ポーラスシリコン粒子)である。
本発明の予防又は治療剤の有効成分は、好ましくは、シリコン微細粒子、該シリコン微細粒子の凝集体、及び、多孔質シリコン粒子からなる群から選択される少なくとも1種の粒子である。すなわち、好ましい有効成分としては、シリコン微細粒子単独でもよく、シリコン微細粒子の凝集体単独でもよく、多孔質シリコン粒子単独でもよい。また有効成分として2種以上のシリコン微粒子を含んでいてもよい。本発明の予防剤又は治療剤は、好ましくは、シリコン微細粒子及び/又は該シリコン微細粒子の凝集体を含有する。より好ましくは、シリコン微細粒子の凝集体を主成分とする。
本発明におけるシリコン微粒子は、シリコン単体からなる微粒子であることが好ましいが、シリコン単体は、大気に曝露した場合、表面が酸化され酸化シリコン膜が生成する。よって、本発明におけるシリコン微粒子は、表面に酸化シリコン膜が形成されている微粒子であることが好ましい。本発明における好ましいシリコン微粒子は、シリコン単体からなる微細粒子であって、その表面に酸化シリコン膜が形成さているシリコン微細粒子、該シリコン微細粒子の凝集体、及び多孔質のシリコン単体からなる粒子であって、その表面に酸化シリコン膜が形成されている多孔質シリコン粒子からなる群から選択される少なくとも1種の粒子である。
シリコン微粒子中のシリコンの含有量は、好ましくは10重量%以上、さらに好ましくは20%重量以上、さらに好ましくは50%重量以上、最も好ましくは70重量%以上である。
前記シリコン単体とは、高純度シリコンある。本明細書において、高純度シリコンとは、シリコンの純度が99%以上、好ましくは99.9%以上、より好ましくは99.99%以上のシリコンである。
シリコン微粒子の形に制限はない。不定形、多角形、球、楕円形、円柱状等が挙げられる。
前記シリコン微粒子は、結晶性を有する結晶シリコン微粒子であり得る。また、結晶性を有しないアモルファスシリコン微粒子であり得る。結晶性を有している場合、単結晶でも多結晶でもよい。好ましくは、結晶シリコン微粒子であり、より好ましくは単結晶シリコン微粒子である。
前記アモルファスシリコン微粒子は、プラズマCVD法やレーザーアブレーション法等で形成されるアモルファスシリコン微粒子であり得る。
本発明におけるシリコン微粒子の表面に形成される前記酸化シリコン膜は、大気に曝され自然に酸化されて形成された酸化シリコン膜であり得る。また、硝酸等の酸化剤による化学酸化等の公知の方法により、人為的に形成された酸化シリコン膜であり得る。
前記酸化シリコン膜の厚さは、シリコン単体からなる微粒子が安定し、効率的な水素発生を可能にする厚さであればよい。例えば0.3nm~3nm、0.5nm~2.5nm、0.7~2nm、0.8nm~1.8nm、1.0~1.7nmである。酸化シリコン膜は、シリコン単体からなる微粒子の表面のシリコンが酸素と結合して、SiO、SiO、Si、SiO等の酸化物を含む膜である。SiO、SiO、Si等は水素発生反応を促進する。
前記シリコン微細粒子は、結晶性を有する結晶シリコン微細粒子であり得る。また、結晶性を有しないアモルファスシリコン微細粒子であり得る。結晶性を有している場合、単結晶でも多結晶でもよい。好ましいシリコン微細粒子は、結晶シリコン微細粒子であり、より好ましくは単結晶シリコン微細粒子(以下、シリコン結晶子ともいう)である。
前記シリコン微細粒子は、単結晶シリコン微細粒子、多結晶シリコン微細粒子及びアモルファスシリコン微細粒子からなる群から選択される少なくとも2つが混合された微細粒子であり得る。
本発明におけるシリコン微細粒子は、シリコン微細粒子が製造された後に自然に又は人為的に酸化シリコン膜が形成されたシリコン微細粒子であり得る。より好ましいシリコン微細粒子は、シリコン結晶子の表面に酸化シリコン膜が形成されている微細粒子である。
本発明におけるシリコン微細粒子は、シリコン単体(高純度シリコン)の塊が粉砕された粒子又はシリコン単体の粒子が粉砕された粒子であり得る。シリコン単体の塊もしくは粒子が粉砕されてシリコン微細粒子が製造されると、そのシリコン微細粒子の表面が自然酸化されて酸化シリコン膜が形成される。
本発明におけるシリコン微細粒子の粒子径(微細粒子がシリコン結晶子である場合は結晶子径)は、好ましくは、0.5nm以上100μm以下であり、より好ましくは1nm以上50μm以下、より好ましくは1.5nm以上10μm以下、より好ましくは、2nm以上5μm以下、より好ましくは、2.5nm以上1μm以下、5nm以上500nm以下、7.5nm以上200nm以下、10nm以上100nm以下である。粒子経が500nm以下であれば、好適な水素の発生速度及び水素発生量が得られ、200nm以下であればさらに好適な水素の発生速度及び水素発生量が得られる。
本発明におけるシリコン微細粒子の凝集体は、前記シリコン微細粒子の凝集体である。自然に形成されたものでも、人為的に形成されたものでもよい。好ましくは、酸化シリコン膜が形成されたシリコン微細粒子が凝集した凝集体である。自然に形成された凝集体は、消化管内で凝集したままであると考えられる。好ましい凝集体は、内部に空隙を有し水分子が凝集体に浸入して内部の微細粒子と反応できる構造を有する。自然に形成された凝集体の水素発生速度は、凝集体サイズに依存しないことより、該凝集体は、内部に空隙を有し水分子が凝集体に浸入して内部の微細粒子と反応できる構造を有する。
シリコン微細粒子の凝集体の大きさに特に制限はない。好ましいシリコン微細粒子の凝集体の粒子径は、10nm以上500μm以下である。より好ましくは、50nm以上100μm以下である、さらに好ましくは100nm以上50μm以下である。凝集体は微細粒子の表面積を保持するように形成され得、高い水素発生能を実現するために十分な表面積を有し得る。
本発明におけるシリコン微細粒子の凝集体を構成するシリコン微細粒子の粒子径は、好ましくは、0.5nm以上100μm以下であり、より好ましくは1nm以上50μm以下、より好ましくは1.5nm以上10μm以下、より好ましくは、2nm以上5μm以下、より好ましくは、2.5nm以上1μm以下、5nm以上500nm以下、7.5nm以上200nm以下、10nm以上100nm以下である。シリコン凝集体を構成するシリコン微細粒子は、結晶シリコン微細粒子であってもアモルファスシリコン微細粒子であってもよい。好ましい凝集体は、結晶子径1nm以上10μm以下のシリコン結晶子の凝集体である。好ましくは、表面に酸化シリコン膜が形成されているシリコン結晶子が凝集した凝集体である。
本発明の予防又は治療剤は、好ましくは結晶子径1nm~1μm、より好ましくは結晶子径1nm以上100nm以下のシリコン結晶子であって、その表面に酸化シリコン膜が形成されている結晶子、及び/又はその凝集体を含有する。好ましくは、表面に酸化シリコン膜が形成されているシリコン結晶子の凝集体を主成分として含有する。
多孔質シリコン粒子(ポーラスシリコン粒子)は、シリコン粒子の多孔質体であり得る。またシリコン微細粒子が凝集され加工された多孔質体であってもよい。前記多孔質シリコン粒子は、好ましくは、多孔質のシリコン単体からなる粒子であって、表面に酸化シリコン膜が形成されている粒子である。
前記多孔質シリコン粒子は、結晶性を有する多孔質シリコン粒子であり得る。また、結晶性を有しないアモルファス多孔質シリコン粒子であり得る。結晶性を有している場合、単結晶でも、多結晶でもよい。
多孔質シリコン粒子に存在する空隙の大きさに制限はないが、通常は1nm~1μmであり得、多孔質シリコン粒子は高い水素発生能を実現するために十分な表面積を有する。多孔質シリコン粒子の大きさに特に制限はない。好ましくは200nm~400μmであり得る。
シリコン微細粒子の凝集体及び多孔質シリコン粒子は、全体としての粒子径が大きく、かつ表面積が大きい粒子であるため、経口投与用には好適な粒子である。粒子が大きければ消化管、特に腸管の細胞膜及び細胞間を通過せず、体内にシリコン微粒子が吸収されず安全性の観点から優れている。
本発明におけるシリコン微粒子は、親水化処理されたシリコン微粒子が好ましい。親水化処理されたシリコン微粒子は、表面と水の接触効率がよくなり、水素発生反応が促進され、多くの水素を発生することができる。親水化処理の方法は、特に限定されず、公知の親水化処理方法を用いればよい。例えば、過酸化水素水処理、硝酸処理が挙げられる。好ましくは過酸化水処理である。親水化処理は、粒子表面の酸化シリコン膜のSiH基を除去して水酸基を粒子表面に付加する処理が好ましい。該粒子表面とは、シリコン微細粒子の表面、多孔質シリコン粒子の表面、及びシリコン微細粒子の凝集体を形成するシリコン微細粒子の表面である。
過酸化水素水処理の具体的方法は、例えば、シリコン微粒子を過酸化水素水中に浸漬して撹拌する。過酸化水素の濃度は1~30%が好ましく、より好ましくは1.5~20%であり、さらに好ましくは2~15%、2.5~10%、最も好ましくは3~5%である。浸漬して撹拌する時間は、5~90分が好ましく、より好ましくは10~80分、さらに好ましくは、20~70分である。最も好ましくは30~60分である過酸化水素水処理することによりシリコン微粒子の親水性を向上させることができるが、処理時間が長くなるとシリコン微粒子からの水素発生反応が進行してシリコン微粒子の酸化膜の厚みに影響を与える。過酸化水素水処理時の過酸化水素水の温度は20~60℃が好ましく、より好ましくは、25~50℃、より好ましくは30~40℃、最も好ましくは35℃である。
本発明の予防又は治療剤に含まれるシリコン微細粒子の粒子サイズ分布、シリコン単体からなる微細粒子の粒子サイズ分布もしくは結晶子サイズ分布に特に制限はない。多分散であってもよい。特定範囲の粒子サイズもしくは結晶子サイズを持つシリコン微細粒子を含有する製剤であってもよい。また、シリコン微細粒子の凝集体のサイズ分布に特に制限はない。
本発明のシリコン微粒子の製造方法に特に制限はないが、シリコン含有粒子を目的とする粒子径まで物理的に粉砕することによって製造することができる。物理的粉砕法の好適な例は、ビーズミル粉砕法、遊星ボールミル粉砕法、衝撃波粉砕法、高圧衝突法、ジェットミル粉砕法、又はこれらを2種以上組み合わせた粉砕法である。また、公知の化学的方法を採用することも可能である。製造コスト又は、製造管理の容易性の観点から、好適な粉砕法は、物理的粉砕法である。シリコン単体の微細粒子からなる微粒子は、大気に曝露することにより、表面が酸化され酸化シリコン膜が形成される。また、粉砕した後に過酸化水素水や硝酸等の酸化剤による化学酸化等の公知の方法により、人為的に酸化シリコン膜を形成させてもよい。
シリコン含有粒子をビーズミル装置を用いて目的とする粒子径にまで粉砕して製造する場合、適宜、ビーズの大きさ及び/又は種類を変えることにより、目的とする粒子の大きさ又は粒度分布を得ることができる。
出発材料のシリコン含有粒子は、高純度シリコン粒子であれば制限はない。例えば、市販の高純度シリコン粒子粉末が挙げられる。出発材料のシリコン含有粒子は単結晶でも多結晶でも、アモルファスでもよい。
本発明は、パーキンソン病の予防又は治療剤である。パーキンソン病の予防又は治療剤には、パーキンソン病を予防する剤、パーキンソン病を治療する剤、及びパーキンソン病を予防及び治療する剤が含まれる。
本発明の予防又は治療剤は脳内のドーパミン産生細胞の脱落を抑制することによるパーキンソン病の予防又は治療剤であり得る。本発明の予防又は治療剤は、パーキンソン病に係る1つ以上の症状について、発症の予防、症状の改善、症状の悪の抑制等の効果を奏する。パーキンソン病の症状には、筋固縮、動作緩慢、姿勢保持障害、運動協調性の低下、制御不能な震え(振戦)等が含まれる。
本発明の予防又は治療剤は、パーキンソン病における運動機能障害の予防又は治療剤、若しくは運動機能障害の改善剤であり得る。運動機能障害には、筋固縮、動作緩慢、姿勢保持障害、運動協調性の低下等が含まれる。
本発明におけるシリコン微粒子は、in vitroでは、長時間(20時間以上)にわたり水素を発生し続ける性質を持つ。本発明の一実施形態の製剤では、シリコン微粒子がpH7以上の水と接触すると水素を発生し、pH8以上でより多くの水素を発生する。一方、pH5以下では水素をほとんど発生しない性質を有する。
本発明におけるシリコン微粒子を経口投与した場合には、上記のような性質により、胃では水素をほとんど発生しないと考えらえるが、腸内で水素を発生する。正常マウスに本発明におけるシリコン微粒子を投与すると大腸の一部である盲腸において水素発生が確認され、同条件で正常マウスに通常食を与えても、水素は検出限界以下であった。腸内の食物の滞留時間は、通常ヒトでは20時間以上であることより、本発明の予防又は治療剤は、経口投与されることにより腸内で長時間にわたって水素を発生し続け、体内に水素を配給することができると考えられる。
また皮膚又は粘膜上にシリコン微粒子を長時間留置することにより経皮又は経粘膜で体内に水素を長時間にわたって配給することができると考えられる。
また、ラットにシリコン微粒子を投与した後に、血漿の抗酸化力を評価(BAPテスト)したところ、シリコン微粒子投与群で抗酸化力が有意に高くなったことが確認されている。
パーキンソン病が予防及び/又は治療される作用機序の一つは、本発明におけるシリコン微粒子が長時間にわたり水素を発生し続け、発生した水素が、血中や各器官に輸送され、水素がヒドロキシルラジカルと選択的に反応することによると考えられる。また、血液中の抗酸化力が向上していることから、血液中で生成された抗酸化物質によるものと考えられる。さらに、酸化ストレスが関与する疾患モデル動物を用いた研究において水素水と比較して顕著な効果を示すことから、水素水にはない別の作用があることが考えられる。例えば、シリコン微粒子と水との反応によって腸内で生じる発生初期状態の水素を、コバルト等の金属元素を含むタンパク質が捕獲するまたは水素原子が電子を供与する結果還元力が強くなったタンパク質が各器官に輸送され、ヒドロキシラジカルと反応し、それを消滅させる機序が考えられる。
本発明の予防又は治療剤の予防又は治療対象は、ヒト及び非ヒト動物である。好ましい非ヒト動物として、ペットや家畜等が挙げられる。
本発明におけるシリコン微粒子は、その1種又は2種以上がそのままヒトや非ヒト動物に投与されてもよいが、必要に応じて、許容される添加剤又は担体と混合され、当業者に周知の形態に製剤化されて投与され得る。そのような添加剤又は担体としては、例えば、pH調整剤(例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、クエン酸等)、賦形剤(例えば、マンニトール、ソルビトールの如き糖誘導体;トウモロコシデンプン、バレイショデンプンの如きデンプン誘導体;又は、結晶セルロースの如きセルロース誘導体等)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウムの如きステアリン酸金属塩;又はタルク等)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、又はポリビニルピロリドン等)、崩壊剤(例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウムの如きセルロース誘導体等)、防腐剤(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベンの如きパラオキシ安息香酸エステル類;又はクロロブタノール、ベンジルアルコールの如きアルコール類等)が挙げられる。これら添加剤及び担体は、単独又は2種以上を混合してシリコン微粒子に配合され得る。好ましい添加剤としては、pHを8以上に調整可能なpH調整剤が挙げられる。好ましいpH調整剤としては、炭酸水素ナトリウムが挙げられる。
本発明の予防又は治療剤の投与経路に特に制限はないが、好ましい投与経路として、経口、経皮、経粘膜(口腔、直腸、膣等)が挙げられる。
経口投与用製剤としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤(ドライシロップ剤)、経口ゼリー剤などが挙げられる。経皮投与用又は経粘膜投与用製剤としては、貼付剤、軟膏剤等が挙げられる。
錠剤、カプセル剤、顆粒剤及び散剤等は、腸溶性製剤とすることができる。例えば、錠剤、顆粒剤、散剤に腸溶性のコーティングを施す。腸溶性コーティング剤としては、胃難溶性腸溶性コーティング剤を用いることができる。カプセル剤は腸溶性カプセルに、本発明のシリコン微粒子を充填することにより、腸溶性にすることができる。また、水素の発生速度は、シリコン微粒子の粒子径や粒度分布の調整により調整することができる。
本発明の予防又は治療剤は、上記の剤形に製剤化した後、ヒト又は非ヒト動物に投与され得る。
本発明の予防又は治療剤中のシリコン微粒子の含有量は特に制限はないが、例えば、0.1~100重量%、1~99重量%、5~95%が挙げられる。
本発明におけるシリコン微粒子の投与量及び投与回数は、投与対象、その年齢、体重、性別、目的(予防用か治療用か等)、症状の重篤度、剤形、投与経路等の条件によって適宜変化しうる。ヒトに投与する場合、シリコン微粒子の好ましい投与量は、例えば、1日当たり、約0.1mg~10g、好ましくは約1mg~5g、より好ましくは約1mg~2g投与される。また、投与回数は、1日当たり1回又は複数回、又は数日に1回であってもよい。例えば、1日当たり1~3回、1~2回、又は1回であってよい。
本発明のシリコン微粒子を含有するパーキンソン病の予防又は治療剤は、医薬品、医薬部外品、医療機器、衛生用品、食品、飲料に利用することができる。
本願はまた、シリコン微粒子を含有するパーキンソン病の予防又は治療用医薬組成物の発明に係るものである。本願はまた、前記シリコン微粒子を含有するパーキンソン病の予防又は治療剤を含有する医薬組成物の発明に係るものである。本発明における医薬組成物は、医薬部外品に該当するような作用が緩やかな組成物も含む。本発明の医薬組成物の実施形態は、上述の予防又は治療剤に係る発明の実施形態を挙げることができる。
本願はまた、前記シリコン微粒子を含有するパーキンソン病の予防又は治療剤を含有する医療機器の発明に係るものである。また、前記シリコン微粒子を含有するパーキンソン病の予防又は治療用医療機器の発明に係るものである。本発明における医療機器とは、ヒト若しくは非ヒト動物の疾病の治療もしくは予防に使用されることが目的とされている用具や器具等である。医療機器として、例えばマスクが挙げられる。本発明のマスクを装着することにより、気管又は肺に直接水素を供給することができる。また、他の例として、絆創膏が挙げられる。
本願はまた、前記シリコン微粒子を含有するパーキンソン病の予防又は治療剤を含有する食品又は飲料の発明に係るものである。また、前記シリコン微粒子を含有するパーキンソン病の予防又は治療用食品又は飲料の発明に係るものである。本発明の食品又は飲料の好ましい例としては、健康食品、機能性表示食品、特定保健用食品等が挙げられる。食品又は飲料の形態に制限はない。例えば、既存の食品や飲料に混合した混合物の形態や製剤化した形態が挙げられる。例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、ゼリー等が挙げられる。
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<実施例1>
高純度シリコン粉末(高純度化学研究所社製、粒度分布<φ5μm(但し、結晶粒子径が1μm超のシリコン粒子)、純度99.9%)200gを、99.5wt%のエタノール溶液4L(リットル)中に分散させ、φ0.5μmのジルコニア製ビーズ(容量750ml)を加えて、ビーズミル装置(アイメックス株式会社製、横型連続式レディーミル(型式、RHM-08))を用いて、4時間、回転数2500rpmで粉砕(一段階粉砕)を行って微細化した。
微細化されたシリコン粒子を含むエタノール溶液は、ビーズミル装置の粉砕室内部に設けられたセパレーションスリットにより、ビーズと分離された後、減圧蒸発装置を用いて30℃~35℃に加熱された。エタノール溶液を蒸発させることによって、微細化されたシリコン粒子(結晶子)が得られた。
上記方法により得られた、微細化されたシリコン粒子(結晶子)は、主として、結晶子径が1nm以上100nm以下であり、ほとんどの結晶子が凝集体を形成していた。また、結晶子は酸化シリコン膜に被覆されており、酸化シリコン膜の厚さは約1nmであった。このシリコン結晶子をX線回折装置(リガク電機製スマートラボ)によって測定した結果、体積分布において、モード径が6.6nm、メジアン径が14.0nm、平均結晶子径が20.3nmであった。得られた酸化シリコン膜が形成されているシリコン結晶子及びその凝集体の混合物は、本発明の有効成分であるシリコン微粒子の一実施形態である。
<実施例2>
実施例1で得られたシリコン結晶子及びその凝集体を、ガラス容器中で、過酸化水素水(3wt%)と混合し、35℃で30分間撹拌した。過酸化水素水で処理されたシリコン結晶子及びその凝集体を、公知の遠心分離処理装置を用いて、固液分離処理によって過酸化水素水を除いた。さらにその後、得られたシリコン結晶子及びその凝集体とエタノール溶液(99.5wt%)とを混合し、十分に撹拌した。エタノール溶液と混合されたシリコン結晶子及びその凝集体を、公知の遠心分離処理装置を用いて、固液分離処理によって揮発性の高いエタノール溶液を除いてから十分に乾燥させた。得られた過酸化水素水処理された、酸化シリコン膜が形成されているシリコン結晶子及びその凝集体の混合物は、本発明の有効成分であるシリコン微粒子の一実施形態である。得られたシリコン微粒子の電子走査顕微鏡(SEM)写真を図1に示す。なお、得られたシリコン結晶子の凝集体の水素発生速度は、凝集体サイズに依存しなかった。
実施例2で得られたシリコン微粒子(シリコン結晶子及びその凝集体)の水素発生量を測定した。シリコン微粒子10mgを容量100mlのガラス瓶(硼ケイ酸ガラス厚さ1mm程度、ASONE社製ラボランスクリュー管瓶)に入れた。炭酸水素ナトリウムでpH8.2に調整した水をこのガラス瓶に入れて、液温を36℃の温度条件において密閉し、該ガラス瓶内の液中の水素濃度を測定した。水素濃度の測定には、ポータブル溶存水素計(東亜DKK株式会社製、型式DH-35A)を用いた。シリコン微粒子1gあたりの水素発生量を図2に示す。
<実施例3>
実施例2と同様の方法で、実施例1で得られたシリコン微粒子(シリコン結晶子及びその凝集体)を過酸化水素水で処理しエタノール溶液と混合し撹拌した。エタノール溶液と混合されたシリコン微粒子をスプレードライヤ(ADL311S‐A、ヤマト科学製)を用いて乾燥させた。得られたシリコン結晶子の凝集体は、本発明の有効成分であるシリコン微粒子の一実施形態である。得られたシリコン微粒子(シリコン結晶子の凝集体)の電子走査顕微鏡(SEM)写真を図3に示す。
<実施例4>
実施例1と同様に一段階粉砕を行った。一段階粉砕に用いたφ0.5μmのジルコニア製ビーズ(容量750ml)は、ビーズミル粉砕室内部において、自動的にシリコン結晶子を含む溶液から分離された。得られたシリコン結晶子を含む溶液に、0.3μmのジルコニア製ビーズ(容量750ml)を加えて4時間、回転数2500rpmでシリコン結晶子をさらに粉砕(二段階粉砕)して微細化した。
ビーズは、上述のとおりシリコン結晶子を含む溶液から分離され、得られたシリコン結晶子を含むエタノール溶液は、実施例1と同様に減圧蒸発装置を用いて40℃に加熱された。エタノールは蒸発し、二段階粉砕されたシリコン結晶子が得られた。このように二段階粉砕された酸化シリコン膜が形成されているシリコン結晶子も本発明の有効成分であるシリコン微粒子の一実施形態である。
<実施例5>
実施例2で得られた過酸化水素水処理された酸化シリコン膜が形成されているシリコン結晶子及びその凝集体の混合物を、市販のカプセル3号に充填し、カプセル製剤を得た。本カプセル製剤は過酸化水素水処理された酸化シリコン膜が形成されているシリコン結晶子の凝集体を主成分とし、さらに過酸化水素水処理された酸化シリコン膜が形成されているシリコン結晶子を含有する。
<試験例>
I.シリコン微粒子含有食の調製
通常飼料(オリエンタル酵母工業株式会社製、型番AIN93M)に、実施例2で製造されたシリコン微粒子(シリコン結晶子及びその凝集体)を2.5wt%になるように混合した。さらにクエン酸水溶液(pH4)を、該シリコン微粒子と該飼料との総量に対して約0.5wt%の量で加え、公知の混錬装置を用いて混錬し、シリコン微粒子含有食を得た。
II.シリコン微粒子の薬理作用
A.抗酸化力の向上
SDラット(6週齢)を入手した。シリコン微粒子投与群には、上記シリコン微粒子含有食を与え、コントロール群には、通常の飼料(通常食)(オリエンタル酵母工業株式会社製、型番AIN93M)を与えた。8週間投与後に採血し、血漿の抗酸化力の評価(BAPテスト)(フリーラジカル解析装置 FREE Carrio Duo)を行った。結果を図4に示す。シリコン微粒子投与群で有意に抗酸化力が高くなったことが示された。
B.パーキンソン病モデルマウスにおける薬理試験
B-1 パーキンソン病モデルマウスの作製
C57Bl6/Jマウス(雄9~10週齢、体重26~30g)を日本SLCより入手し、1週間、通常食(オリエンタル酵母工業株式会社製、型番AIN93M)を与え飼育した。
神経毒である6‐ヒドロキシドーパミン塩酸塩(シグマ)(以下、6‐OHDA)を0.2%L(+)‐アスコルビン酸(和光純薬)入り生理食塩水(大塚製薬)に懸濁し、0.2%6‐OHDA懸濁液を得た。麻酔下のマウスの頭部をマウス専用ステレオタキシック(室町機械株式会社)にて固定し、左側線条体(黒質ー線条体路:図5矢印部分)にマイクロシリンジ(ハミルトン製)にて6‐OHDA懸濁液を3μl(6‐OHDA6μg)注入し、黒質のドーパミン産生細胞に障害を与え、片側パーキンソン病モデルを作製した(Mandel RJ, Randall PK. Brain Res Bull. 1990 Feb;24(2):175-80)。
片側パーキンソン病モデルマウスを、上記手術後にシリコン微粒子含有食群(6‐OHDA+Si)と通常食群(6‐OHDA)の2群に分けた。また、手術をしていない正常マウスをシリコン微粒子含有食群(Control+Si)と通常食群(Control)の2群に分けた。下記のテストではパーキンソン病モデルマウスのシリコン微粒子含有食群(6‐OHDA+Si)群7匹、同モデルマウスの通常食群(6‐OHDA)群8匹、正常マウスシリコン微粒子含有食群(Control+Si)群6匹及び通常食群(Control)群6匹のマウスを用いた。
黒質ドーパミン産生細胞の脱落度をアポモルフィン投与による回転運動試験及びドーパミン産生細胞マーカーであるドーパミン合成酵素(チロシン水酸化酵素)に対する抗体を用いた蛍光免疫染色法にて解析した。
B-2 アポモルフィン(ドーパミン受容体D1/D2アゴニスト)投与による回転運動試験
術後5週目に各群のマウスに生理食塩水で希釈したアポモルフィン(SIGMA)1mg/kgを腹腔内に注射した。投与5分後から計測し始め、10分間の総回転数を計測した。結果を図6に示す。6‐OHDA注入により黒質ドーパミン産生細胞が脱落すると、線条体内のドーパミンが枯渇し、線条体内のドーパミン受容体を持つ神経細胞は、除神経感受性増大を引き起こす。アポモルフィン投与後、除神経感受性増大によって注入側の線条体内のドーパミン受容体を持つ神経細胞の興奮が生じ、注入側の反対側(以下、健常側)方向へ回転運動が生じる( Costall B, Kelly ME, Naylor RJ. Neuropharmacology. 1983 Mar;22(3):295-302 )。パーキンソン病モデルマウスの通常食群(6‐OHDA)のマウスには、黒質ドーパミン産生細胞の脱落により回転運動が生じたが、シリコン微粒子含有食群(6‐OHDA+Si)のマウスには回転運動が生じなかった。この結果より、シリコン微粒子により、黒質ドーパミン細胞の脱落が有意に抑制されたことが明らかになった。
B-3 組織学的解析
術後5週目に、4%パラホルムアルデヒド固定液にて灌流固定をマウスに行った。その後、摘出した脳は凍結し、厚さ40μmの凍結切片を作製した。切片作製時に、6‐OHDAの注入部位(左側線条体)を肉眼観察によって確認した。チロシン水酸化酵素(Tyrosine hydroxylase:ドーパミン産生細胞マーカー)に対する抗体を用いた蛍光免疫染色法によって、黒質のドーパミン産生ニューロンの状態を解析した。黒質内のドーパミン産生ニューロンの細胞体や樹状突起及び線条体内の産生細胞の軸索の変性脱落度合いを観察した。
図7は、線条体内のドーパミン合成酵素(チロシン水酸化酵素)の免疫染色の結果を示す。6‐OHDAを注入後通常食群(6‐OHDA)は、健常側に比較して注入側の蛍光が減弱していることから、ドーパミン産生細胞の軸索が脱落していることが確認された。一方、シリコン含有食群(6‐OHDA+Si)では、健常側に比較して注入側の蛍光の減弱が抑えられており、ドーパミン産生細胞の軸索の脱落が抑制されていた。
図8は、黒質内のドーパミン合成酵素(チロシン水酸化酵素)の免疫染色の結果を示す。6‐OHDAを注入後通常食群(6‐OHDA)は、健常側に比較して注入側(矢印で示す)の蛍光が減弱していることから、ドーパミン産生細胞が脱落していることが確認された。一方、シリコン含有食群(6‐OHDA+Si)では、健常側に比較して注入側(矢印で示す)の蛍光の減弱が抑えられており、ドーパミン産生細胞の脱落が抑制されていた。
B-4 ロータロッドテスト
ロータロッド(rotarod)テストは、ゆっくりと回る棒の上にマウスを載せて、段階的に加速していく棒の上にどれだけの時間留まれるかを観察し、運動協調性を評価する試験である。術後4週目に室町機械社製マウス用ロータロッド MK-610A MODE Cで加速回転により各群の運動協調性を測定した。図9に示す通り、パーキンソン病モデルマウスの通常食群(6‐OHDA)は、運動協調性が明らかに低下しているのに対し、パーキンソン病モデルマウスのシリコン微粒子含有食群(6‐OHDA+Si)の運動協調性は、正常マウス群(Control+Si及びControl)と同等であった。パーキンソン病モデルマウスでは、シリコン微粒子により、運動協調性の低下が有意に抑制された。
B-5 自発活動量計測及びオープンフィールドテスト
術後4週目に自発活動量計測とオープンフィールドテストを実施した。自発活動量はスーパーメックス(Supermex、室町機械社製)を用いて10分間測定した。オープンフィールドテストは、室町機械社製マウス用角型オープンフィールド(500mm×500mm×400mm)を用いて、新奇環境下での自発的活動性 (移動距離、移動速度、活動時間/不動時間)を10分間計測した。図10に結果を示す。(a)のグラフは自発活動量、(b)のグラフはオープンフィールドテストの移動距離、(c)のグラフはオープンフィールドテストの移動速度、(d)のグラフはオープンフィールドテストの活動時間/不動時間(各群とも左が活動時間、右が不動時間)を示す。いずれの群でも自発活動量及び新奇環境下での自発活動性に差はみられなかった。よって、上記のアポモルフィン投与による回転運動試験及びロータロッドテストに供された各群のマウスの自発活動量及び新奇環境下での自発活動性には差がないことが確認された。
C.硫黄関連化合物に基づいた多変量解析
C-1 サンプル調製
C57BL/6Jマウス(雄、7週齢)を日本SLCより入手した。シリコン微粒子投与群には、上記シリコン微粒子含有食を、コントロール群には、通常の飼料(通常食)(オリエンタル酵母工業株式会社製、型番AIN93M)を各群5匹ずつ1週間与えた。各々のマウスについて、深麻酔下で大腸を摘出し、盲腸、結腸及び直腸の3つに分けた。腸管内包物を取り出した各部位の一部(約2cm)をまとめて、重量を計測した。計測後、粉末状ドライアイスにて急速凍結し、マウス1匹の大腸サンプルとする。1群5匹の総計10匹の凍結大腸サンプルは、サルファーインデックス分析(株式会社ユーグレナ)に用いた。後日同様にサンプル調製を行い、1群5匹の総計10匹の凍結大腸サンプルを調製し、同様にサルファーインデックス分析(株式会社ユーグレナ)に用いた。
C-2 分析前処理
1回目のサンプル調製で得られた同群の凍結マウス大腸サンプル(5つ)を合わせ、内部標準化合物を含むメタノール抽出液を添加し(1 ml /g(臓器))、ペッスルですり潰した。その後、遠心分離を行い、上清100μlをサンプルとした。遠心後のサンプル上清100μlに対して硫黄化合物標識試薬等を添加し(計130μl)、懸濁した。遠心分離した上清(87μl)を遠心型エバポレーターで乾固した。水60μlに再懸濁後遠心分離した上清5μlをサルファーインデックス分析用サンプルとした。2回目のサンプル調製で得られたサンプルも同様に処理しサルファーインデックス分析用サンプルを得た。サルファーインデックス分析に用いたサンプルは、シリコン微粒子投与群は2サンプル(5匹からの混合サンプルが2つ)、コントロール群も2サンプル(5匹からの混合サンプルが2つ)である。
C-3 サルファーインデックス分析
調製したサンプルに含まれる硫黄化合物は、サルファーインデックスメソッドを用いてLC MSMS 8040(島津製作所製)で分析を行った。具体的には、表1及び表2の測定対象化合物種うち、内部標準化合物(No. 53; Camphorsulfonate)およびチオール基修飾剤(No. 40; Monobromobimane)を除く、全61種の硫黄関連化合物種で相対定量を実施した。相対定量には、得られたマスクロマトグラムのピーク面積(内標化合物で標準化)を用いた。大腸サンプルにおいて計35種の化合物が検出された。検出された硫黄関連化合物データに基づく多変量解析に基づく、サンプル間の類似度のマッピング解析(Rソフトveganパッケージを活用)を行った。

C-4 多変量解析
上記C-3で検出された35種類の硫黄関連化合物に基づき各サンプルについて多変量解析を行った結果、シリコン微粒子投与群とコントロール群は下記の10の化合物によって区別することができた。シリコン微粒子投与群の2つのサンプルの下記10化合物による多変量解析結果の平均値、及びコントロール群の2つのサンプルの下記10化合物による多変量解析結果の平均値を図11に示す。
グルタチオンモノスルフィド(ラベル化)
システニルグリシン(ラベル化)
チオ硫酸イオン(ラベル化)
ヒポタウリン
5-グルタミルシステイン(ラベル化)
システインモノスルフィド(ラベル化)
S-スルホシステイン
亜硫酸イオン(ラベル化)
セリン
タウリン
上記化合物の中には、生体内で抗酸化作用に関わるグルタチオンモノスルフィドやシステインモノスルフィドなどが含まれており、シリコン製剤の抗酸化作用の一端を担っていると考えられる。水素ではその様な報告がされていないので、本発明の予防又は治療剤特有の抗酸化作用の一つである可能性がある。
以上の結果より、本発明におけるシリコン微粒子はパーキンソン病に対して高い予防効果及び高い治療効果を発揮することが明らかになった。
本発明は、パーキンソン病の原因療法の1つになり得、今後の医療や健康増進に大いに貢献する。

Claims (13)

  1. シリコン微粒子を含有するパーキンソン病の予防又は治療剤であって、該シリコン微粒子は、表面に酸化シリコン膜が形成されているシリコン単体からなる微細粒子、及び/又は該シリコン微細粒子の凝集体である、予防又は治療剤
  2. 有効成分としてシリコン微粒子を含有する、請求項1に記載の予防又は治療剤。
  3. ドーパミン産生細胞の脱落抑制によるパーキンソン病の予防又は治療である、請求項1又は2に記載の予防又は治療剤。
  4. 前記パーキンソン病がパーキンソン病における運動機能障害である請求項1~3のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
  5. 前記シリコン微粒子が、水と接して水素を発生し得るシリコンを含有する微粒子である、請求項1~のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
  6. 前記シリコン単体からなる微細粒子は、シリコン結晶子である、請求項1~5のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
  7. 前記シリコン微細粒子が、シリコン単体の塊もしくは粒子が粉砕された微細粒子である、請求項1~6のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
  8. 前記シリコン微細粒子の凝集体の粒子径が、10nm以上500μm以下である、請求項1~7のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
  9. 前記シリコン微粒子が、親水化処理されたシリコン微粒子である、請求項1~のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
  10. 前記親水化処理が、過酸化水素水処理である、請求項に記載の予防又は治療剤。
  11. 経口投与用である、請求項1~10のいずれか1に記載の予防又は治療剤。
  12. シリコン微粒子を含有するパーキンソン病の予防又は治療用医薬組成物であって、該シリコン微粒子は、表面に酸化シリコン膜が形成されているシリコン単体からなる微細粒子、及び/又は該シリコン微細粒子の凝集体である、組成物
  13. 請求項1~11のいずれか1に記載の予防又は治療剤を含有するパーキンソン病の予防又は治療用食品
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