JP7446955B2 - 発電素子、電源装置、および電子機器 - Google Patents

発電素子、電源装置、および電子機器 Download PDF

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Description

本発明は、離間した場所から供給されるエネルギーを受けて電荷を発生させる発電素子と、当該発電素子を備える電源装置および電子機器に関する。
近年、ワイヤレスで電力を送受電する非接触型の給電システムが注目されており、非接触給電に関する技術開発が活発化している。たとえば、特許文献1では、電磁誘導を利用する非接触給電システムが開示されており、特許文献2では、磁界共鳴を利用する非接触給電システムが開示されている。
このような電磁誘導型もしくは磁界共鳴型の非接触給電システムでは、電力の送受電を行うために、磁性体コアの周囲に導体を巻回したコイルが用いられている。上記の非接触給電において電力伝送効率を確保するためには、送受電用のコイルにおける巻回数を十分に確保する必要があり、当該コイルのサイズが大きくなる傾向となる。そのため、上記の非接触給電システムでは、装置の小型化が容易ではない。
一方、上記以外の非接触給電システムとして、たとえば、特許文献3に示すような音波共鳴型の発電素子が知られている。特許文献3の発電素子では、外部エネルギーとして電磁波や磁場ではなく音波を利用し、外部から供給される音波により振動子を共鳴させることで、音波を電力に変換することができる。ただし、音波共鳴型の発電素子では、送信過程における音波の反射や音波の減衰により、効率的にエネルギーを送電することができず、エネルギー変換効率が悪いという問題があった。
特開平10-014124号公報 特開2012-191699号公報 特開平05-330424号公報
本発明は、このような実情を鑑みてなされ、その目的は、高効率なエネルギー変換が可能で、かつ、小型化が容易な発電素子、および、当該発電素子を用いた電源装置と電子機器とを提供することである。
上記の目的を達成するために、本発明に係る発電素子は、
外部から非接触で供給されるエネルギーを受けて電力を発生させる非接触型の発電体を有し、
前記発電体は、圧電特性と磁歪特性とを兼ね備える単層または複数層の機能膜を含む振動部を有し、
前記振動部は、固有周波数で弾性波振動が可能な振動子であり、
前記振動部のQ値が100以上である。
本発明に係る発電素子では、発電体に含まれる振動部が、電磁波や交流磁場などの外部エネルギーを受けて共振し、弾性波振動することで、電力を発生させることができる。特に、本発明に係る発電素子では、弾性波振動する振動部のQ値が100以上に設定してある。振動部のQ値を高く設定することで、振動部では、より大きな振幅の弾性波振動を発生させることが可能となり、高効率なエネルギー変換が可能となる。また、弾性波振動を有する振動部は、電磁誘導用の受電コイルや磁界共鳴用の受電コイルと比べて、寸法を遥かに小さくすることができ、小型化が容易である。
好ましくは、前記振動部の前記機能膜は、圧電体層と磁歪層とを有し、前記振動部において、前記圧電体層と前記磁歪層とが積層してある。振動部が、上記のような圧電体層と磁歪層とを有することで、発電素子のエネルギー変換効率がより向上する。
好ましくは、前記発電体が、開口部を有する基板に設置してあり、前記基板に面して接続してある固定部と、前記固定部と前記振動部とを連結する少なくとも1つの支持部と、をさらに有する。そして、好ましくは、前記振動部が、前記基板の前記開口部に対向して配置してあり、前記振動部における前記開口部と対向する面が、前記基板に直に接していない非拘束面である。発電素子の構造を上記の構成とすることで、振動部でより大きな振幅の弾性波振動を発生させることができ、発電素子のエネルギー変換効率がより向上する。
また、前記振動部の厚み方向と平行な方向からの平面視において、前記振動部の外周縁と、前記基板における前記開口部の内周縁とは、互いに接触していないことが好ましい。そして、前記振動部の前記外周縁と、前記開口部の前記内周縁との間には、隙間が存在することが好ましい。上記構成を有することで、本発明の発電素子では、エネルギー変換効率がさらに向上する。
また、好ましくは、前記支持部の連結方向を第1軸とし、前記第1軸と直交する方向を第2軸として、前記支持部の前記第2軸における幅が、前記振動部の前記第2軸における幅よりも小さい。上記構成を有することで、振動部でより大きな振幅の弾性波振動を発生させることができ、発電素子のエネルギー変換効率がさらに向上する。
好ましくは、前記支持部の連結方向と直交する方向における前記振動部の幅が、前記固有周波数における電磁波の波長に対して1/100倍以下である。上記構成を有することで、振動部でより大きな振幅の弾性波振動を発生させることができ、発電素子のエネルギー変換効率がより向上する。
好ましくは、前記弾性波振動が、バルク弾性波であり、前記振動部が、バルク弾性波振動子である。また、好ましくは、前記弾性波振動の振動姿態が、面内伸縮振動であり、前記振動部が、面内伸縮振動での弾性波振動が可能なバルク弾性波振動子である。振動部の弾性波振動が上記の構成を有することで、発電素子のエネルギー変換効率がより向上する。
好ましくは、本発明の発電素子は、前記発電体を複数有している。本発明に係る発電素子は、上記のとおり発電体を複数有するアレー素子とすることで、弾性波振動の共振により発生する電力をより大きくすることができる。たとえば、複数の発電体を直列に配列した場合には、出力電圧を高くすることができ、複数の発電体を並列に配列した場合には、出力電流をより大きくすることができる。
また、発電素子を上記のようなアレー素子とする場合、複数の前記発電体において、前記固有周波数の平均値をfAとして、前記固有周波数のばらつきがfA±1.0%未満の範囲内であることが好ましい。上記の構成を有することで、本発明の発電素子では、より大きな電力を発生させることができ、エネルギー変換効率がより向上する。
本発明の発電素子は、電源装置に組み込んで好適に用いることができる。そして、当該電源装置を組み込んだ電子機器は、有線方式の電力供給が不要な自立したデバイスとして、長時間駆動することができる。また、本発明に係る電源装置および電子機器は、人の体内に装着できるほど小型化することが可能である。なお、本発明の電子機器としては、たとえば、イヤホンや補聴器などのヒアラブルデバイス、スマートウォッチ、スマートグラス、スマートコンタクトレンズ、ウェアラブル体温計、ウェアラブル脈波センサなどの各種ウェアラブル端末の他、人体の内部に装着される人口内耳や心臓ペースメーカ、筋肉や脳などへの電気刺激機器、ニューロRFID、マイクロロボットなどが挙げられる。
図1は、本発明の一実施形態に係る発電素子を示す平面図である。 図2は、図1に示すII-II線に沿う概略断面図である。 図3は、図1に示すIII-III線に沿う概略断面図である。 図4は、振動部の周波数特性を概略的に示すグラフである。 図5は、図1に示す発電素子を搭載した電源装置および電子機器を示す概略図である。 図6は、本発明に係る発電素子の変形例を示す平面図である。 図7は、本発明に係る発電素子の変形例を示す平面図である。 図8は、本発明に係る発電素子の変形例を示す平面図である。 図9は、本発明に係る発電素子の変形例を示す概略断面図である。
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき詳細に説明する。
第1実施形態
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る発電素子1は、基板6と、基板6の上に形成してある発電体4と、を有する。また、本実施形態において、発電体4は、X軸方向の略中央に位置する振動部41と、X軸方向の両端に位置する2つの固定部42a,42bと、振動部41と固定部42a,42bとを連結する2つの支持部43と、を有する。なお、本実施形態において、発電体4の長手方向をX軸とし、発電体4の短手方向をY軸とし、発電体4の厚み方向をZ軸とする。X軸、Y軸、およびZ軸は、相互に略垂直である。
図1~3に示すように、発電体4の振動部41には、機能膜として、圧電特性を有する圧電体層14と、磁歪特性を有する磁歪層16とが含まれている。この圧電体層14および磁歪層16は、X軸およびY軸を含むX-Y平面と実質的に平行であり、X-Y平面と略垂直な方向(すなわちZ軸方向)に沿って積層してある。なお、「実質的に平行」とは、ほとんどの部分が平行であるが、多少平行でない部分を有していてもよりことを意味し、圧電体層14と磁歪層16とは、多少、凹凸があったり、傾いていたりしてもよいという趣旨である。
本実施形態の発電素子1では、電力の発生に際して、上記のような機能膜を有する振動部41が重要な役割を果たす。そこで、本実施形態では、主に振動部41の特徴について、説明する。
発電体4の振動部41は、固有周波数fを有する振動子である。振動子としては、音波に呼応する振動子や、単なる機械的な振動に呼応する振動子が知られているが、本実施形態の振動部41は、電磁波や交流磁場などに呼応して弾性波振動することが可能な振動子である。また、振動部41が有する固有周波数fとは、応答が最大となる場合の周波数であって、共振周波数とも呼ばれる。なお、発電素子1の場合、「応答」とは、出力電力を意味する。
発電素子1に対して、固有周波数fに近い周波数を有する電磁波や交流磁場などの外部エネルギーが放射されると、弾性波振動子である振動部41は、外部エネルギーによって励振されて、弾性波振動する。より具体的には、振動部41が外部エネルギーを受けると、磁歪効果によって磁歪層16に歪みが生じ、その歪みに応じて固有周波数fの弾性波振動が発生する。そして、この弾性波振動が発生すると、振動部41では、圧電体層14の圧電効果により圧電体層14の表面に電荷が発生する。つまり、本実施形態の発電素子1では、振動部41の弾性波振動により、電磁波または交流磁場などの外部エネルギーを電気エネルギーに変換することができる。
上記のような発電機構を有する発電素子1において、振動部41のQ値(単位なし)は、100以上であり、500以上であることが好ましく、1000以上であることがより好ましい。Q値とは、周波数特性におけるピークの鋭さを表す尺度である。
ここで、図4に基づいて、振動部41の周波数特性について説明しておく。図4に示すグラフでは、横軸が、外部から供給される外部エネルギーの周波数であり、縦軸が、振動部41に発生する出力電圧である。前述したように、固有周波数fでは、出力電圧が最大(最大出力V)となり、固有周波数fがピークトップとなる。そして、高周波側において最大出力Vの1/√2倍の出力(V×1/√2)が得られる周波数をfとして、低周波側において1/√2倍の出力となる周波数をfとすると、Q値は以下の式で表される。
Q=f/(f-f
ウェアラブル端末への応用が期待されている共振子では、幅の広い信号を受信できるように、Q値を低く設定することが一般的であった。これに対して、本実施形態の発電素子1では、振動部41のQ値を100以上と高く設定することで、より大きな振幅の弾性波振動を発生させることが可能となり、エネルギーの変換効率を向上させることができる。なお、振動部41のQ値は、高ければ高いほど好ましく、Q値の上限値は、特に限定されないが、たとえば、50000以下とすることができ、10000以下であることが好ましい。
また、図4に示す振動部41の周波数特性において、固有周波数fから(1/100)×fだけ高周波側にシフトした周波数をfとし(すなわちf=f+(1/100)×f)、固有周波数fから(1/100)×fだけ低周波側にシフトした周波数をfとして(すなわちf=f-(1/100)×f)、周波数fおよび周波数fにおける出力をそれぞれV,Vとする。この場合、振動部41は、最大出力Vが、出力Vまたは出力Vに対して2倍以上となるように設計することが好ましい(すなわちV>2V,V>2V)。振動部41が上記のような条件を満足する周波数特性を有することで、本実施形態の発電素子1では、より大きな電力を得ることができ、エネルギーの変換効率がより向上する。
また、本実施形態において、振動部41は、表面弾性波(SAW:Surface Acoustic Wave)などではなく、バルク弾性波(BAW:Bulk Acoustic Wave)で振動するバルク弾性波振動子であることが好ましい。表面弾性波の振動子では、物体表面に伝播する波(振動)を利用するが、バルク弾性波の振動子では、表面ではなく物体自体が振動することを利用する。本実施形態の発電素子1では、振動部41をバルク弾性波振動子とすることで、より大きな電荷を発生させることができ、エネルギーの変換効率がより向上する。
また、振動部41で発生する弾性波振動の振動姿態は、面外振動ではなく面内伸縮振動であることが好ましい。ここで、面外振動とは、振動子が、回転や屈曲などの体積変化を伴わない動態で振動することを意味する。面外振動する振動子の場合(特に屈曲振動する振動子の場合)、当該振動子の固有周波数fは、100kHz以下の低周波となる傾向がある。一方、面内伸縮振動とは、振動子がX-Y平面もしくはZ軸を含む平面に沿って伸縮することで振動することを意味する。本実施形態では、X-Y平面に沿って伸縮する面内伸縮振動を、拡がり振動と称し、Z軸を含む平面に沿って伸縮する面内伸縮振動を、厚み縦振動と称する。面内伸縮振動する振動子では、固有周波数fが面外振動の振動子よりも高周波帯となる傾向があり、拡がり振動と厚み縦振動とでは、厚み縦振動の固有周波数fのほうが高周波帯となる傾向がある。本実施形態の発電素子1では、振動部41を面内伸縮振動のバルク弾性波振動子とすることで、より大きな電荷を発生させることができ、エネルギーの変換効率がより向上する。
なお、上述したような振動部41の固有周波数f、Q値、周波数特性、および振動様態は、インピーダンスアナライザを用いて測定することができる。また、振動部41の振動様態は、機能膜(圧電体層14や磁歪層16など)の材質、機能膜の厚み、機能膜の結晶配向性、振動部41の形状、および、発電体4における各部位の寸法(特に振動部41および支持部43の寸法)などに影響されて定まる。また、振動部41の固有周波数f、Q値、および、周波数特性は、振動様態と同様に、発電体4の各部位の構造、機能膜の構成、および、振動部41の振動姿態などに影響されて定まる。
第2実施形態
第2実施形態では、振動部41が面内伸縮振動のバルク弾性波振動子である場合の発電素子1ついて例示し、その詳細な構成を説明する。なお、第2実施形態でも、第1実施形態と同様に図1~3を参照し、第1実施形態と共通の構成に関しては、同じ符号を使用する。
まず、図1~3に基づいて、発電素子1の形態的特徴を詳細に説明する。
図1に示すように、発電素子1のZ軸方向における最下層には、平面視において略矩形の外縁形状を有する基板6が存在する。なお、基板6の平面視形状は、特に限定されず、円形、楕円形、角部が丸みを帯びた四角形、およびその他多角形であってもよい。また、基板6の厚みも、特に限定されず、十分な強度を確保できる厚みであればよい。この基板6は、X-Y平面の略中央部において、開口部61を有しており、この開口部61のZ軸方向の上方に振動部41が位置している。つまり、発電体4の振動部41は、基板6の開口部61に対向して配置してある。開口部61の平面視形状および寸法は、振動部41の形状や寸法に合わせて決定される。第2実施形態では、開口部61が略矩形の平面視形状を有する。
発電体4は、機能膜を積層した積層構造体であり、第2実施形態における発電体4には、少なくとも下部電極層12と、前述した圧電体層14および磁歪層16とが含まれている。発電体4のZ軸下方には、下部電極層12が位置し、当該下部電極層12の上に圧電体層14が積層してあり、当該圧電体層14の上に磁歪層16が積層してある。なお、各機能膜の構成に関しては、追って詳述する。
図2に示すように、発電体4は、基板6のZ軸方向の上方において、開口部61の上部開口面を、X軸方向に架け渡すように存在している。そして、発電体4のX軸方向における一方の端部は、基板6の表面に面して接続してあり、固定部42aとなっている。また、X軸方向における発電体4の他方の端部も、基板6の表面に面して接続してあり、固定部42bとなっている。
固定部42aでは、取出電極18aが下部電極層12に電気的に接続してあり、この取出電極18aを介して、図示しない外部回路が接続可能となっている。一方、固定部42bには、磁歪層16に電気的に接続してある取出電極18bが存在しており、この取出電極18bを介して図示しない外部回路が接続可能となっている。なお、固定部42bにおいて、取出電極18bと下部電極層12との間には絶縁層20が介在してあり、この絶縁層20によって、取出電極18bと下部電極層12とが、短絡しないように互いに絶縁されている。なお、以降の段落では、固定部42aおよび固定部42bを、総称して「固定部42」と記載する場合がある。
発電体4の振動部41は、開口部61の上部開口面よりも寸法が小さい略矩形の平面視形状を有しており、X軸と平行な縁辺とY軸と平行な縁辺とを有している。第2実施形態では、X軸方向が、振動部41の長手方向となっており、Y軸方向が、振動部41の短手方向となっている。前述したように、振動部41は開口部61の上方に位置しており、図3に示す断面では、振動部41が、開口部61のZ軸上方において浮遊しているように見える。図3に示すように、X-Y平面と平行な振動部41の上面および下面は、基板6に直に接していない非拘束面であることが好ましい。なお、振動部41の上面および下面とは、開口部61と対向する面である。また、図3に示す断面とは、図1に示すIII-III線に沿う断面であって、支持部43を含まないX-Z断面である。
そして、発電体4の振動部41は、一対の支持部43を介して、各固定部42a,42bに一体的に接続してある。つまり、振動部41は、支持部43を介して基板6に連結してある。第2実施形態では、支持部43により振動部41と固定部42とが連結される方向を、連結方向(図1~3ではX軸方向)と称する。
図1および図3に示すように、Z軸方向からの平面視において、振動部41の外周縁と、開口部61の内周縁とは、互いに接触しておらず、振動部41の外周縁と開口部61の内周縁との間には、隙間46が存在する。ここで、上記の「振動部41の外周縁」とは、振動部41における下部電極層12の外周縁であり、より具体的に、振動部41における支持部43との連結部分を除く下部電極層12の外周縁を意味する。第2実施形態において、隙間46の平均幅Wgは、1μm~500μmであることが好ましい。なお、第2実施形態において、隙間46は、機能膜12~16や基板6が存在していない空間となっている。また、隙間46の幅Wgは、平面視における下部電極層12の外周縁から開口部61の内周縁までの間隔を意味する。
また、振動部41において、連結方向と直交する方向の幅Wvy(図1~3では、Y軸方向の幅)は、固有周波数fと同じ周波数の電磁波EWの波長と比較して、1/100倍以下であることが好ましく、1/200倍以下であることがより好ましい。連結方向と直交する方向の幅Wvyの下限値は、特に限定されないが、たとえば、固有周波数fと同じ周波数の電磁波の波長と比較して、1/200000倍以上とすることが好ましい。なお、上記において、「電磁波EWの波長」とは、外部エネルギーの伝達経路となる媒介中(例えば空気中)における電磁波の波長を意味する。たとえば、第2実施形態の発電素子1において、幅Wvy以外の構成を変えずに幅Wvyを広くした場合、振動部41が有する固有周波数fは、低くなる傾向となる。逆に幅Wvyを狭くすると、振動部41が有する固有周波数fは、高くなる傾向となる。
一方、振動部41において、連結方向の幅Wvx(図1~3ではX軸方向の幅)は、特に限定されず、上記の幅Wvyよりも狭い幅とすることもできるが、幅Wvyよりも広い幅とすることが好ましい。
また、振動部41の平均厚みTvは、各機能膜の厚みに依存し、特に限定されないが、たとえば、0.5μm~30μmとすることが好ましい。
また、前述のとおり、振動部41は、X軸およびY軸を含む平面に沿った板状の形態を有するが、この板状の振動部41は、可能な限り平坦であることが好ましい。たとえば、振動部41の平面度は、幅Wvyよりも小さい値とすることが好ましい。また、X-Y平面と平行な振動部41の上面および下面は、表面粗さが、算術平均粗さ(Ra)または二乗平均平方根粗さ(Rq:旧RMS)で、1μm以下であることが好ましい。もしくは、振動部41における上面の表面粗さ(RaまたはRq)、および、下面の表面粗さ(RaまたはRq)は、振動部41の弾性波振動の波長と比較して、1/10倍以下であることが好ましい。
なお、平面度は、接触式で測定してもよいし、非接触式で測定してもよい。たとえば、CNC画像測定器やレーザ顕微鏡などにより平面度を測定することができる。また、表面粗さRa,Rqについても、接触式で測定してもよいし、非接触式で測定してもよく、JIS-B0601に準拠して測定すればよい。
発電部4の支持部43は、振動部41のX軸方向における端部と、固定部42とを、X軸方向に沿って連結しており、第2実施形態では、支持部43が、固定部42の数に応じて2つ形成してある。この支持部43は、振動部41の弾性波振動を妨げないように、振動部41よりも剛性が低くなるような様態で形成してあることが好ましい。
たとえば、支持部43において、連結方向と直交する方向(Y軸方向)の幅Wsyは、振動部41の幅Wvyよりも狭くすることが好ましい。より具体的に、振動部41の幅Wvyに対する支持部43の幅Wsyの比率(Wsy/Wvy)は、10%~90%とすることがより好ましい。あるいは、支持部43のZ軸方向の平均厚みTsは、振動部41のZ軸方向の平均厚みTvよりも薄いことが好ましい。より具体的には、振動部41の平均厚みTvに対する支持部43の平均厚みTsの比率(Ts/Tv)は、50%~95%であることがより好ましい。
さらに、支持部43において、平均厚みTsと幅Wsyとの積(Ts×Wsy)は、振動部41における平均厚みTvと幅Wvyとの積と比較して、90%以下であることが好ましく、75%以下であることがより好ましい。支持部43における平均厚みTsおよび幅Wsyを、上記条件の範囲内に制御することで、振動部41における弾性波振動の振幅をより大きくすることができ、より大きな電力を発生させることができる。
また、支持部43において、連結方向(X軸)の長さWsxは、振動部41の弾性波振動の波長と比較して、1/10倍~1/2倍程度の範囲内とすることが好ましい。支持部43の長さWsxを上記の範囲内とすることで、弾性波振動の振動エネルギーを振動部41に効率的に閉じ込めることができ、より大きな電力を得ることができる。また、発電素子が図6に示すような発電体4を複数有するアレー素子である場合には、支持部43の長さWsxを上記の範囲内とすることで、複数の発電体4の間で相互干渉が発生することを抑制することができる。
次に、発電素子1を構成する基板6や機能膜などの各要素の特徴について詳述する。
(基板6)
第2実施形態において、基板6は、少なくとも発電体4を支持できる絶縁物であればよいが、単結晶の基板であることが好ましい。単結晶基板としては、Si、MgO、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、ニオブ酸リチウム(LiNbO)などが挙げられる。第2実施形態では、特に、表面がSi(100)面の単結晶となっているシリコン基板を使用することがより好ましい。なお、Si(100)面の単結晶とは、シリコン基板において、立方晶の(100)面が、厚み方向に対して略平行となるように配向していることを意味する。
(圧電体層14)
圧電体層14は、一方の固定部42aから他方の固定部42bにかけて延在している、単層の薄膜である。図1に示すように、圧電体層14の平面視形状は、発電体4の各部位41~43の形状に適合しており、X-Y平面における寸法が、後述する下部電極層12の平面寸法よりも小さくなっている。また、圧電体層14の平均厚みは、0.4μm~10μmの範囲内であることが好ましく、0.4μm~2μmであることがより好ましい。そして、圧電体層14の厚みのばらつきは、±5%以下であることが好ましい。
なお、圧電体層14の平均厚みは、たとえば、走査型電子顕微鏡(SEM)や走査透過型電子顕微鏡(STEM)などによりX-Z断面もしくはY-Z断面を観察し、その際に得られる断面写真を画像解析することで求められる。この際、面内方向において少なくとも3点以上の箇所で計測を行い、その平均値を算出する。
圧電体層14は、圧電材料で構成してあり、圧電効果または逆圧電効果を奏する。圧電体層14を構成する圧電材料としては、たとえば、水晶、ニオブ酸リチウム、窒化アルミニウム(AlN)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT:Pb(Zr,Ti)O)、ニオブ酸カリウムナトリウム(KNN:(K,Na)NbO)、ジルコン酸チタン酸バリウムカルシウム(BCZT:(Ba,Ca)(Zr,Ti)O)、などが例示される。
第2実施形態では、上記の圧電材料のうち、特に、PZT、KNN、およびBCZTなどのペロブスカイト構造を有する圧電材料を用いることが好ましい。ペロブスカイト構造の圧電材料は、優れた圧電特性を有するため、圧電体層14をこれらの材質で構成することで、発電素子4の性能が向上する。なお、圧電体層14を構成する上記の圧電材料には、圧電特性をさらに改善するために、適宜他の元素や化合物が添加してあってもよい。
また、ペロブスカイト構造の圧電材料を用いる場合、圧電体層14は、エピタキシャル成長した膜であることがより好ましい。ここで、エピタキシャル成長とは、成膜の際に、膜の結晶が、下地材料の結晶格子に整合する形で、膜厚方向(Z軸方向)および平面方向(X軸およびY軸方向)に揃いながら成長することをいう。そのため、より好ましい様態の場合、圧電体層14は、成膜中の高温状態において、結晶が、X軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向の3軸すべての方向に揃って配向した状態(3軸配向)となる。圧電体層14における結晶の軸を揃えて配向性を向上させるほど、振動部41のQ値が高くなる傾向がある。また、圧電体層14をエピタキシャル成長した膜とすることで、振動部41が面内伸縮振動で弾性波振動し易くなる。
なお、3軸配向するようにエピタキシャル成長しているか否かは、薄膜形成過程において反射高速電子線回折評価(RHEED評価)を行うことで確認できる。成膜中の膜表面において、結晶配向に乱れがある場合には、RHEED像は、リング状に伸びたパターンを示す。一方で、上記のようにエピタキシャル成長している場合には、RHEED像は、スポット状またはストリーク状のシャープなパターンを示す。上記のようなRHEED像は、あくまでも成膜中の高温状態で観測される。
また、エピタキシャル成長した場合、圧電体層14は、成膜後の室温状態において、結晶粒界がほとんど形成されず、単結晶に近い(完全な単結晶ではない)結晶構造を有する。より具体的に、成膜後における圧電体層14の結晶構造は、3軸配向したうえで、複数の結晶相を有することが好ましく、また、少なくとも3種のドメイン(域)を含むドメイン構造を有することが好ましい。圧電体層14がドメイン構造を有することで、圧電特性がより向上し、振動に対する圧電応答性が高まる。
圧電体層14がドメイン構造を有する場合、ドメイン構造の具体的な構成は、使用する圧電材料によって異なる。たとえば、圧電体層14がPZTのエピタキシャル成長した膜である場合には、正方晶と菱面体晶の少なくとも2種の結晶相を有することができる。そして、この場合、正方晶は、c軸(直方体(結晶格子)の長手方向の軸)が膜厚方向を向いたドメインと、c軸が面内方向を向いたドメインと、を有する。また、菱面体晶の結晶相は、膜厚方向に対して(100)面が平行となるように配向している。すなわち、圧電体層14がPZTのエピタキシャル成長した膜である場合には、正方晶の2種のドメインと、菱面体晶のドメインとの計3種のドメインを含むことが好ましい。
一方、圧電体層14がKNNのエピタキシャル成長した膜である場合には、斜方晶の2種のドメインと、単斜晶の1種のドメインと(計3種のドメイン)を有することが好ましい。上記の場合、斜方晶の2種のドメインとは、斜方晶の(001)面が膜厚方向に対して略平行となるように配向したドメイン(aドメイン)と、斜方晶の(010)面が膜厚方向に対して略平行となるように配向したドメイン(cドメイン)とが存在し得る。また、単斜晶のドメインでは、(100)面または(010)面が膜厚方向に対して略平行となっていることが好ましい。
また、圧電体層14がBCZTのエピタキシャル成長膜である場合には、正方晶の2種のドメインと、斜方晶の2種のドメインと(計4種のドメイン)を有することが好ましい。
上述したような複数のドメインは、共通のドメイン境界を挟んで接しているため、各ドメインの結晶軸の向きは、膜厚方向や面内方向から数度程度(具体的には、最大±3度程度)ずれていてもよい。また、上述したような複数のドメインは、少なくとも成膜時の高温状態においては、同じ結晶系の同じ方位に配向した等価なドメインであり、成膜後に室温や使用温度に冷却される過程で、より安定な結晶相やドメインに転移することで形成される。なお、複数のドメインが混在して存在する様子は、圧電体層14を、STEMもしくは透過型電子顕微鏡(TEM)の電子線回折、または、X線回折(XRD)などで分析することにより確認できる。
(下部電極層12)
下部電極層12も、圧電体層14と同様に、一方の固定部42aから他方の固定部42bにかけて延在している、単層の薄膜である。下部電極層12は、圧電体層14で発生した電荷を回収し取り出すための電極であり、下部電極層12のX軸方向における一方の端部が取出電極18aと電気的に接続してある。下部電極層12の平均厚みは、3nm~200nmとすることが好ましい。
下部電極層12は、金属や酸化物導電体などの導電材料で構成される。特に、圧電体層14をエピタキシャル成長した膜とする場合、下部電極層12も、エピタキシャル成長した膜とすることが好ましい。この場合、下部電極層12は、たとえば、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、金(Au)などの面心立方構造の金属薄膜か、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3:以下SROと略す)やニッケル酸リチウム(LiNiO3)などの酸化物導電体薄膜とすることが好ましい。このような金属薄膜および酸化物導電体薄膜は、単結晶の基板上にエピタキシャル成長させることができる。そして、エピタキシャル成長した膜とする場合、下部電極層12では、膜厚方向(Z軸方向)において(001)面が配向していることが好ましい。また、面内方向(X軸方向またはY軸方向)においては、圧電体層14の(100)面と下部電極層12の(100)面とが略平行となっていることが好ましい。
なお、下部電極層12もエピタキシャル成長した膜とする場合、下部電極層12は、上記の金属薄膜と上記の酸化物導電体薄膜とを積層して構成してもよい。その場合、下部電極層12における下方側(すなわち基板6側)には、金属薄膜を積層し、当該金属薄膜の上に酸化物導電体薄膜を積層することが好ましい。
(磁歪層16)
図1に示すように、第2実施形態において、磁歪層16は、振動部41において積層してある単層の薄膜であり、固定部42および支持部43には、磁歪層16が形成されていない。このように、磁歪層16は、振動部41に積層してあればよく、必ずしも固定部42や支持部43に積層してある必要はない。ただし、支持部43や、固定部42の一部において磁歪層16が存在していてもよい。また、図1において磁歪層16は、略矩形の平面視形状を有している。磁歪層16の平面寸法は、圧電体層14の振動部41における平面寸法よりも小さくすることが好ましい。換言すると、X-Y平面において、磁歪層16の外周縁は、圧電体層14の外周縁よりも内側に位置することが好ましい。上記のように磁歪層16の平面寸法を制御することで、振動部41の耐久性を向上させることができる。
磁歪層16の平均厚みは、0.1μm~5μmの範囲であることが好ましく、0.1μm~1μmであることがより好ましい。また、圧電体層14の平均厚みに対する磁歪層16の平均厚みの比は、1/10~10の範囲内であることが好ましく、1/10以上、1未満であることがより好ましい。そして、磁歪層16の厚みのばらつきも、圧電体層14の場合と同様、±5%以下であることが好ましい。なお、磁歪層16の平均厚みも、圧電体層14と同様にして測定可能である。
磁歪層16は、磁歪特性を有する強磁性体で構成してある。強磁性体としては、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)などの純金属、または、上記金属元素のうち少なくとも1種を含む合金(たとえば、Fe-Co系、Fe-Ni系、Fe-Si系、Fe-Dy-Tb系、Fe-Ga系、Fe-Si-Al系の合金など)、もしくは、上記金属元素の酸化物を含む酸化物磁性体を用いることができる。また、磁歪層16は、上記の強磁性体を含む単一膜であってもよいし、複数の層からなる多層膜や、強磁性体と反強磁性体との積層膜であってもよい。
磁歪層16は、上記の強磁性体薄膜の中でも、特に、軟磁性の高磁歪膜であることが好ましい。第2実施形態において、軟磁性の高磁歪膜とは、保持力Hやしきい磁場HTHが低い(好ましくは、Hが2500A/m未満、HTHが500A/m未満)軟磁性体で構成されており、かつ、飽和磁歪λMAXが5ppm以上の膜であることを意味する。具体的に軟磁性高磁歪膜の磁歪層16としては、Fe-Si-B系合金、Fe-Cr-Si-B系合金、Fe-Ni-Mo-B系合金、Fe-Co-B系合金、Fe-Ni-B系合金、Fe-Al-Si-B系合金、またはFe-Co-Si-B系合金などを主成分とする合金膜が例示される。強磁性体の多くは磁歪効果を示すが、特に上記の軟磁性高磁歪膜で磁歪層16を構成すると、より振幅が大きい弾性波振動を発生させることができる。
また、磁歪層16の結晶構造は、非晶質であってもよいし、多結晶であってもよいが、磁歪層16が軟磁性高磁歪膜である場合には、非晶質相と結晶相とを、混在して有することが好ましい。強磁性体薄膜16が非晶質相と結晶相とを混在して含むことで、外部エネルギーに対する応答性を向上させることができるとともに、磁歪変化率(dλ/dH)を大きくすることができる。
なお、Feを含む合金は、体心立法構造で結晶化されることが通常である。第2実施形態においては、磁歪層16が非晶質相と結晶相とを有する場合、磁歪層16に含まれる結晶相のほとんどが、面心立法構造を有することが好ましい。磁歪層16が上記のような結晶構造を有することで、発電素子1のエネルギー変換効率をより向上させることができる。
磁歪層16の結晶構造は、圧電体層14と同様に、TEMの電子線回折またはXRDなどで分析することで確認できる。たとえば、磁歪層16が非晶質相のみで構成される場合、XRDを用いてCu-Kα線によるθ-2θ測定を行うと、ブロードで幅が広いハローパターンのみが検出される。一方、磁歪層16が結晶相のみで構成された場合には、半値幅が狭い極めてシャープな反射ピークのみが検出される。また、磁歪層16が非晶質相と結晶相とを混在して有する場合、非晶質相の存在を示すブロードな盛り上がり(ハロー)部分と、結晶相の存在を示すシャープなピーク部分とを共に有する反射ピークが検出される。
また、非晶質相と結晶相との割合は、電子線回折もしくはXRDで得られた反射ピークに対して、プロファイルフィッティングを行い、結晶化度を算出することで確認できる。具体的には、結晶相部分(ピーク部分)と非晶質相部分(ハロー部分)のフィッティングを行い、各部分の積分強度(面積)を測定する。そして、結晶化度(%)は、結晶相部分の積分強度(Ic)と非晶質相部分の積分強度(Ia)との和(すなわち全ピーク面積)に対する、結晶相部分の積分強度(Ic)の比(Ic/(Ic+Ia)×100)で表される。第2実施形態において、磁歪層16が非晶質相と結晶相とを混在して有する場合、結晶化度は、1%~50%であることが好ましく、5%~20%であることがより好ましい。
磁歪層16は、前述したように、電磁波や交流磁場などの外部エネルギーを受けて、弾性波振動の発生に寄与する。また、図1~3に示す発電素子1の場合、磁歪層16は、圧電体層14で発生した電荷を回収し取り出すための電極としても機能する。
(取出電極18)
取出電極18は、導電性を有していればよく、その材質や寸法は特に制限されない。たとえば、取出電極18は、Pt、Ag、Cu、Au、Alなどの導電性金属を含むことができ、導電性金属の他にガラス成分などが含まれていてもよい。なお、図1および図2において、取出電極18は、薄膜状の電極としているが、ビアホール電極としてもよい。
(絶縁層20)
絶縁層20は、電気絶縁性を有していればよく、その材質や厚みは特に制限されない。たとえば、絶縁層20は、SiO、Al、ポリイミドなどで構成することができる。
(その他の機能膜)
なお、図1~3では図示していないが、発電体4には、上述した下部電極層12、圧電体層14、および磁歪層16の他に、その他の機能膜が含まれていてもよい。
たとえば、発電体4のZ軸方向の最下層(すなわち下部電極層12の下方)には、下部電極層12の結晶性および圧電体層14の結晶性を制御するバッファ層が形成してあってもよい。特に圧電体層14をエピタキシャル成長した膜とする場合には、バッファ層を形成することが好ましい。バッファ層は、酸化ジルコニウム(ZrO)、もしくは、希土類元素(ScおよびYを含む)により安定化された酸化ジルコニウム(安定化ジルコニア)を主成分とすることが好ましい。
このバッファ層も、成膜用基板の結晶格子に整合する形で、結晶が膜厚方向(Z軸方向)および面内方向(X軸およびY軸方向)に揃いながらエピタキシャル成長した膜であることが好ましい。バッファ層は、下部電極層12と同様に、膜厚方向において、(001)面が配向していることが好ましい。そして、面内方向(X軸方向またはY軸方向)においては、圧電体層14の(100)面と、下部電極層12の(100)面と、バッファ層の(100)面とが略平行となっていることがより好ましい。具体的に、バッファ層がZrOで、下部電極層12がPtで、圧電体層14がPZTの場合、各層の好ましい配向関係は、膜厚方向が、ZrO(001)//Pt(001)//PZT(001)であって、面内方向が、ZrO(100)//Pt(100)//PZT(100)である。
バッファ層が形成してあることで、下部電極層12および圧電体層14をエピタキシャル成長させ易くすることができ、これらの層12,14の結晶性がより良好となる。また、バッファ層は、エッチングにより開口部61を形成する際に、エッチングストッパ層としても機能する。バッファ層を形成する場合、その平均厚みは、5nm~100nmとすることが好ましい。
また、圧電体層14と磁歪層16との間には、上部電極層が形成してあってもよい。上部電極層を形成することで、圧電体層14で発生する電荷をより効率よく取り出すことができる。上部電極層は、下部電極層12と同様の構成(厚みや材質)とすることができる。なお、圧電体層14をエピタキシャル成長した膜とする場合、下部電極層12もエピタキシャル成長した膜とすることが好ましいが、上部電極層については必ずしもエピタキシャル成長させる必要はない。一方、磁歪層16において非晶質相と結晶相とを混在させる場合は、上部電極層の結晶構造は、面心立方の多結晶構造、もしくは、非晶質相と面心立法の結晶相とが混在した結晶構造とすることが好ましい。
さらに、発電体4において、下面を除く最外層には、保護層が形成してあってもよい。保護層としては、Ti,Ta,またはPtなどの金属を含む保護層や、SiO、Al、またはポリイミドなどで構成する絶縁性の保護層が例示され、金属製の保護層と絶縁性の保護層とを両方形成してもよい。なお、保護層の平均厚みは、特に限定されず、たとえば、5nm~50nmとすることができる。
図1~3に示す発電素子1では、上述したような内部構造(各機能膜の構成)を有し、上述したような形態的特徴(発電体4の各部位の形状や寸法など)を有することで、振動部41が面内伸縮振動のバルク弾性波振動子となる。特に、内部構造や形態的特徴が、前述したような好適な条件を満たす場合、振動部41の振動姿態は、拡がり振動となる傾向がある。
(発電素子1の製造方法)
以下、図1~3に示す発電素子1の製造方法の一例について説明する。
第2実施形態の発電素子1は、半導体製造プロセスで用いられるような微細加工技術を用いて製造することができる。まず、まず、成膜用基板の上に下部電極層12と、圧電体層14と、磁歪層16とを、各種薄膜作製法により形成する。薄膜作製法としては、蒸着法、スパッタリング法、ゾルゲル法、CDV法、PLD法などが適用でき、特に好ましくは、スパッタリング法である。スパッタリング法で製膜することにより、各機能膜の間の密着力を高めることができる。その結果、膜の剥離などの不良の発生を抑えることができるとともに、磁歪層16の歪を効率的に圧電体層14に伝達することができるようになり、エネルギーの変換効率が向上する。
各層12,14,16の成膜条件は、公知の条件を採用でき、特に制限されない。ただし、圧電体層14をエピタキシャル成長膜とする場合には、スパッタリングターゲットの組成、成膜用基板の温度、成膜速度、ガス組成、真空度、基板ターゲット間距離などを適正に制御する。また、圧電体層14がドメイン構造を有するためには、特に、スパッタリングターゲットの組成、成膜用基板の温度、もしくは、圧電体層14の上に積層する磁歪層16の応力、などを制御すればよい。
たとえば、スパッタリングターゲットの組成は、圧電材料の材質に応じて、複数のドメインや結晶相が形成されやすい組成を選択すると共に、蒸気圧の高い元素を、化学量論的組成の20~120%増しとすることが好ましい。PZTを例にとると、Pb/(Zr+Ti)で表される原子数比が、1.2~2.2であることが好ましく、Zr/(Zr+Ti)で表される原子数比が、1~1.5となるように制御することが好ましい。また、成膜用基板の温度については、550~650℃となるように制御することが好ましい。さらに、磁歪層16の応力は、圧縮応力とすることが好ましい。加えて、圧電体層14をエピタキシャル成長させた後で、酸化雰囲気下において、300℃~500℃の温度でアニール処理することも、上述したドメイン構造を得るために効果的である。
なお、圧電体層14をエピタキシャル成長させる場合、成膜用基板としては、前述したように、単結晶のシリコン基板(ウェハ)を使用することが好ましい。また、下部電極層12も、シリコン基板上にエピタキシャル成長させて形成することが好ましい。下部電極層12をエピタキシャル成長させる方法については、公知の方法を採用すればよい。
また、磁歪層16ついては、非晶質相と結晶相とを混在させる場合、スパッタリング時に、真空度、成膜用基板の温度、ガス組成、ガス圧力、パワー、ターゲットと成膜用基板との距離などの成膜条件を適切に制御する。たとえば、ガス圧力は、0.01~0.1Paとすることが好ましい。また、成膜用基板の温度は、20~200℃とすることが好ましく、ターゲットと成膜用基板との距離は、基板温度が成膜中に上昇しないように、100mm以上離すことが好ましい。
上記のように機能膜を形成した成膜用基板については、フォトエッチングやレーザードライエッチングなどの各種エッチング法によりパターニング加工を施す。このパターニング加工では、成膜用基板の上に、図1~3に示す積層パターンを形成する。
たとえば、フォトエッチングによりパターニングする場合には、まず、スピンコート法などの各種コーティング法により、磁歪層16の上にフォトレジスト剤を塗布する。そして、塗布したフォトレジスト剤の上に所望のパターン形状を有するマスクをあてて、紫外線を照射し、磁歪層16を除去したい部分のみを露光させる(つまり、磁歪層16を残存させる部分をマスクする)。その後、フォトレジスト膜の現像と磁歪層16のエッチングを行い、露光した部分に対応するフォトレジスト膜と磁歪層16とを除去することで、図1に示す磁歪層16の外周縁が形成される。なお、磁歪層16の上に残存しているフォトレジストは、酸素プラズマや所定の薬品などによる表面処理で取り除くことができる。また、磁歪層16の上に残存したフォトレジストは、取り除くことなく、保護層として利用してもよい。
上記の手順により磁歪層16のパターンを形成した後、圧電体層14および下部電極層12についても、上記と同様の方法によりパターニングする。なお、圧電体層14のパターニング時に使用するマスクは、磁歪層16のパターニング時に使用するマスクよりも、1パターン当たりの寸法が、大きくなるように調整することが好ましい。
また、圧電体層14をエピタキシャル成長させた場合、発電体4の延面方向(パターニング形状)を、圧電体層14の所定の結晶方位に合わせて制御することが好ましい。具体的に、上記のパターニング加工において、発電体4の長手方向(X軸方向)または短手方向(Y軸方向)が、圧電体層16の<110>方向、および、単結晶シリコン基板の<110>方向に対して、略平行となるように、マスクの位置を調整する。
上記のように、発電体4の延面方向(パターニング形状)を制御することで、発電素子1の耐久性を向上させることができる。また、圧電体層14の分極方向が膜厚方向に向きやすくなり、圧電体層14の圧電特性が向上する。なお、マスク位置は、単結晶シリコン基板に形成してあるオリエンテーションフラット(オリフラ)やノッチを基準として調整すればよい。つまり、成膜前の単結晶シリコン基板には、予め基板の結晶方位がわかるようにオリフラやノッチを形成しておく。また、第2実施形態において、丸括弧は、ミラー指数(面)を表しており、三角括弧および角括弧は、結晶方位(方向)を表している。
上記の手順でパターニング加工を施した後、取出電極18および絶縁層20を形成する。
そして、成膜用基板の一部をエッチングにより除去して、図1~3に示す開口部61を形成する。この場合、エッチング後に残存した部分が基板6となる。成膜用基板のエッチングは、Deep-RIE法などのドライエッチングや、異方性ウェットエッチングなどが適用できる。なお、成膜用基板は、上記のエッチングによりすべて除去してもよい。この場合、発電体4は、成膜用基板を除去した後、別部材の基板6に貼り付けて固定すればよい。
以上のような工程で、図1~3に示す発電素子1が得られる。なお、上記の製造工程では、エッチング法によりパターニングする方法を説明したが、各層のパターニング加工は、リフトオフ法により実施してもよい。リフトオフ法の場合、たとえば、磁歪層16を成膜する前に、磁歪層16の形成予定領域以外を覆うように、圧電体層14の上にレジスト膜を形成する。磁歪層16は、レジスト膜が形成された圧電体層14の上に強磁性体成分をスパッタし、その後、レジスト膜を剥離(リフトオフ)することで形成される。つまり、リフトオフ法の場合、リフトオフ後に、レジスト膜を形成しなかった場所に残存した強磁性体成分が、磁歪層16となる。また、磁歪層16の外周縁は、レジスト膜上に成膜された強磁性体成分が、リフトオフにより除去されることで、形成される。
(発電素子1の使用形態)
第2実施形態の発電素子1は、微細加工技術で作製するMEMS素子(Micro Electro Mechanical Systems)の一種であり、従来の受信装置(電磁誘導用コイルや磁界共鳴用コイルなど)よりも遥かに小型化が容易である。そのうえ、第2実施形態では、発電体4の形態や各機能膜の構成(材質、厚み、結晶性など)を好適な条件に制御することで、振動部41が拡がり振動のバルク弾性波振動子となっている。そのため、第2実施形態の発電素子1は、小型であっても、高い変換効率で電力を発生させることができる。
このような小型でかつエネルギー変換効率の高い発電素子1は、電源装置に組み込んで電子機器の電力供給源として、好適に用いることができる。ここで、発電素子1の適用例として、図5に示す非接触給電システム300について簡単に説明する。
図5に示すように、非接触給電システム300は、送信アンテナ250と、電子機器200と、当該電子機器200の内部に搭載された電源装置100と、を有している。送信アンテナ250は、電子機器200から離間した場所に設置してあり、電子機器200に対して、非接触で電磁波や交流磁場などの外部エネルギーEを供給している。なお、送信アンテナ250としては、たとえば、ダイポールアンテナ、モノポールアンテナ、ループアンテナ、コイルアンテナ、レクテナなどを用いることができ、特に限定されない。
一方、エネルギーの受信側である電源装置100は、第2実施形態の発電素子1に、整流回路などが搭載されているパワーマネジメントIC(PMIC)110と、キャパシタ120と、を接続して一体化することで構成してある。
送信アンテナ250から供給された外部エネルギーEを、電源装置100の発電素子1が受信すると、発電素子1の内部では、外部エネルギーEによって振動部41の弾性波振動が誘起され、この弾性波振動に伴い電力が発生する。なお、送信アンテナから供給する外部エネルギーEの周波数Fは、発電素子1の振動部41が有する固有周波数fと、実質的に同一であることが好ましい。実質的に同一とは、以下の式で表される周波数Fと固有周波数fのずれFGが1%以下であることを意味する。
FG=|F-f|/f×100(%)
発電素子1で発生した電力は、PMIC110を介してキャパシタ120に送られ、キャパシタ120に蓄えられる。そして、電子機器200で電力を消費する場合は、キャパシタ120に蓄えていた電力が、PMIC110を介して電子機器200の各構成要素210に送られる。なお、図5に示す構成要素210とは、たとえば、電子機器200が外耳装着式のカナル型イヤホンである場合、圧電式スピーカ、圧電式マイク、圧力センサ、増幅器を含む音響用IC、記憶装置などである。
このように、非接触給電システム300では、送信アンテナ250から供給される電磁波または交流磁場を、電源装置100で受信し電気エネルギーに変換している。そして変換した電気エネルギーを用いて電子機器200を駆動させている。従来から知られているような、電磁誘導方式の給電システムでは、非接触給電が可能ではあるものの、受電側の電子機器を送電装置に近づけて静置しておく必要がある。一方、図5に示す非接触給電システム300の場合、送信アンテナ250と電子機器200とが最大10m程度離れた場合であっても送受電が可能であり、また、電子機器200を静置していない状態であっても送受電が可能である。
また、上記の非接触給電システム300は、様々な電子機器に適用でき、発電素子1を適用可能な電子機器200の種類は特に限定されない。前述したように、第2実施形態の発電素子1は、小型でかつ高効率であるため、小型な電子機器や体内に埋め込む電子機器などへの適用が特に有効である。このような電子機器としては、たとえば、イヤホンや補聴器などのヒアラブルデバイス、スマートウォッチ、スマートグラス、スマートコンタクトレンズ、ウェアラブル体温計、ウェアラブル脈波センサなどの各種ウェアラブル端末の他、人体の内部に装着される人口内耳や心臓ペースメーカ、筋肉や脳などへの電気刺激機器、ニューロRFID、マイクロロボットなどが例示される。
(第2実施形態のまとめ)
第2実施形態に係る発電素子1では、基板6が開口部61を有し、発電体4が、弾性波振動子である振動部41と、基板6に面して接続してある固定部42と、固定部42と振動部41とを連結する支持部とを有している。そして、振動部41が、基板6の開口部61に対向して配置してあり、振動部41におけるX軸およびY軸を含む平面が、基板6に直に接していない非拘束面となっている。発電素子1が上記の構成を有することで、振動部41でより大きな振幅の弾性波振動を発生させることができ、発電素子1のエネルギー変換効率をより向上させることができる。
また、第2実施形態に係る発電素子1において、振動部41の外周縁と、基板6における開口部61の内周縁とは、互いに接触していない。そして、振動部41の厚み方向から見た平面視において、振動部41の外周縁と、開口部61の内周縁との間には、隙間46が存在する。このように、振動部41と基板6との間に隙間46を形成することで、振動部41でより大きな振幅の弾性波振動を発生させることができ、発電素子1のエネルギー変換効率をより向上させることができる。
また、第2実施形態において、支持部43の連結方向と直交する方向(Y軸方向)の幅Wsyは、振動部41の幅Wvyよりも小さくしてある。このように支持部43の幅Wsyを設定することで、支持部43の剛性をより低下させることができる。その結果、振動部41でより大きな振幅の弾性波振動を発生させることができ、発電素子1のエネルギー変換効率をより向上させることができる。
また、第2実施形態において、連結方向と直交する方向における振動部41の幅Wvyが、固有周波数fと同じ周波数の電磁波EWの波長と比較して、1/100倍以下である。振動部41の大きさを上記の条件の範囲内とすることで、振動部41でより大きな振幅の弾性波振動を発生させることができ、発電素子1のエネルギー変換効率をより向上させることができる。なお、第2実施形態において、振動部41の最大幅とは、基板6との連結方向における幅Wvxである。
第3実施形態
第3実施形態では、図6~図8に基づいて、発電素子1の変形例について説明する。なお、第3実施形態における第1および第2実施形態と共通の構成に関しては、説明を省略し、同様の符号を使用する。
まず、図6に示す発電素子1aは、複数の発電体4を有するアレー素子である。発電素子1aの基板6aには、同一平面上に複数の開口部61が形成してあり、その複数の開口部61に、それぞれ発電体4が形成してある。複数の発電体4は、基板6aのX-Y平面において、X軸方向とY軸方向の両方向に沿って配列してある。より具体的に、図6に示す発電素子1aでは、発電体4が、X軸方向に沿って5列、Y軸方向に沿って8列並んでおり、合計40個の発電体4が形成してある。ただし、発電体4の個数および配列形式は、特に限定されない。1つの基板上に配列する発電体4の個数は、たとえば、1~500個とすることができる。また、発電体4を、1軸方向(X軸方向またはY軸方向)においてのみ配列し、1Dアレー型の配列形式としてもよい。
図6では、複数の発電体4が、配線80a,80bを介して並列に接続してある。このように、複数の発電体4を並列で繋ぐことで、発電素子1aの出力電流(A)を大きくすることができる。なお、図示していないが、複数の発電体4を直列で接続してもよい。直列に繋いだ場合は、発電素子1aの出力電圧(V)を高くすることができる。
また、複数の発電体4には、それぞれ、固有周波数fを有する振動部41が形成してあるが、各振動部41の固有周波数fは、すべて同程度の値であることが好ましい。具体的に、アレー素子を構成する各振動部41の固有周波数fは、いずれも、f±1.0%未満の範囲内であることが好ましい。上記において、fは、各振動部41の固有周波数fを母集団とした場合の平均値を意味する。このように各振動部41の固有周波数fを揃えることで、発電素子1aの出力をより大きくすることができ、エネルギー変換効率をより向上させることができる。なお、各振動部41の固有周波数fを揃えるためには、たとえば、各発電体4の形状を揃えて、寸法誤差を小さくすればよい。
ただし、各振動部41の固有周波数fを揃えずに、互いに異なる固有周波数fを有する複数の振動部41で発電素子1a(アレー素子)を構成してもよい。この場合、発電素子1aは、様々な周波数帯の外部エネルギーに応答することができる。たとえば、アレー素子において、固有周波数fのばらつきの範囲が1MHz~3MHzであった場合、当該アレー素子は、1MHz~3MHzの外部エネルギーに呼応して電力を発生させることができる。なお、発電素子1aのようなアレー素子において、各振動部41の固有周波数fをずらす場合は、たとえば、各振動部41の幅Wvyを調整すればよい。
また、図6では、1つの基板6aの上に複数の発電体4を配列しているが、当該基板6aを複数枚組み合わせて、3Dアレー型の発電素子を構成してもよい。この場合、複数の基板6aの配列方向は、特に限定されず、X-Y平面上に配列してもよいし、Z軸方向に配列してもよい。3Dアレー型の発電素子の場合、それぞれの基板6a上に複数の発電体4が形成してあるため、発電体4の搭載個数が増えて、出力をより大きくすることができる。
次に、図7に示す発電素子1bについて説明する。図7に示す発電素子1bでは、基板6bに平面視形状が円形の開口部61bが形成してある。そして、その基板6bの上には、発電体4bが形成してあり、当該発電体4bは、平面視形状が円形の振動部41bを有する。この発電素子1bにおいても、振動部41bは、開口部61bの上方に存在しており、振動部41bの上面および下面が非拘束面となっている。また、振動部41bの外周縁と開口部61bとの内周縁との間には隙間46が存在する。
図7に示すような、円板状の振動部41bの場合、各機能膜(特に圧電体層14および磁歪層16)の結晶性などを最適化することで、厚み縦振動(面内伸縮)でのバルク弾性波振動を発生させることができる。換言すると、振動部41bが、厚み縦振動のバルク弾性波振動子となる。厚み縦振動のバルク弾性波振動子は、拡がり振動のバルク弾性波振動子よりも固有周波数fが高くなる傾向となる。
一方、図8に示す発電素子1cでは、振動部41cがカンチレバー型の構造となっている。具体的に、発電素子1cの発電体4cは、X軸方向の一端でのみ基板6cに固定してあり、発電体4のX軸方向の他端(すなわち、振動部41cの先端)は、自由端となっている。また、発電素子1cの発電体4cでは、支持部43cのY軸方向の幅が、振動部41cのY軸方向の幅と略同一となっている。
このようなカンチレバー型の振動部41cの場合、屈曲振動(面外振動)でのバルク弾性波振動を発生させやすい。発電素子1cの振動部41cが屈曲振動となる場合は、発電素子1cが搭載してある容器内を、粘性の低いガスで充填することが好ましい。もしくは、当該容器内の真空度を高くする(容器の内圧を下げる)ことが好ましい。このように、素子周囲の雰囲気を制御することで、振動部41cにかかる空気抵抗を低減することができ、エネルギー変換効率を向上することができる。
なお、弾性波振動子の振動姿態は、振動部の形状のみに依存して決まるわけではなく、その他、発電体の厚み、支持部の形態、各機能膜の構成などの影響も受ける。そのため、図8に示す振動部の形状であっても、面内伸縮振動のバルク弾性波振動を発生させることができる場合もある。同様に、図1~3に示す振動部の形状および図7に示す振動部の形状でも、面内伸縮振動の場合だけでなく、屈曲振動などの面外振動の振動姿態となる場合があり得る。
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の範囲内で種々に改変することができる。たとえば、上記の実施形態では、振動部41において圧電体層14と磁歪層16とを積層していたが、圧電特性と磁歪特性とを兼ね備える材料で機能膜を構成してもよい。このような圧電特性と磁歪特性とを兼ね備える材料としては、たとえば、BiFeOや、Biの一部をLaなど他の元素で置き換えた(Bi,La)FeOなどが例示される。
また、上記の実施形態(特に第2実施形態)では、基板6として単結晶のシリコン基板を例示したが、基板6として図9(a)に示すようなSOI基材8(Silicon on Insulator)を使用してもよい。SOI基材8は、表面がSi(100)面となるように配向した単結晶のSi層8αと、SiOからなる絶縁層8βと、Siからなる基板6dとで構成してあり、単結晶のSi層8αが、絶縁層8βを介して基板6dの表面に積層してある。Si層8αの平均厚み、および、絶縁層8βの平均厚みは、特に限定されないが、たとえば、いずれも1μm~10μm程度とすることができる。また、SOI基材8における基板6dの平均厚みも、特に限定されないが、たとえば、100μm~700μm程度とすることができる。
このSOI基材8を使用した場合、発電素子4の固定部42は、Si層8αおよび絶縁層8βを介して、基板6dの上に接続される。また、SOI基材8を用いて発電素子を製造した場合、図9(b)に示すような構造の発電素子1dが得られることがある。なお、図9(b)は、図3と同様の箇所を示す断面図である。第2実施形態で説明したように、開口部61は、基板をエッチングして基板の一部を除去することで形成されるが、SOI基材8を使用した場合、エッチング後に、振動部41の下面側にSi層8αと絶縁層8βとが残存することがある。この場合、Si層8αおよび絶縁層8βは、振動部41の下面の全面に残存していてもよいし、当該下面の一部において部分的に残存していてもよい。
ただし、図9(b)に示すように、隙間46では、Si層8αおよび絶縁層8βも除去され、開口部61と対向する振動部41の下面および上面は、基板6dに拘束されていない非拘束面であることが好ましい。つまり、SOI基材8を使用する場合であっても、振動部41の外周縁と開口部61の内周縁とは、Z軸方向からの平面視において、互いに接触していないことが好ましい。なお、振動部41の下面にSi層8αおよび絶縁層8βが残存した場合であっても、振動部41の外周縁は、平面視における下部電極層12の外周縁を基準として、判別する。
SOI基材8を使用した場合において、Si層8αおよび絶縁層8βが残存したとしても、これらの残存層の厚みは、数μm程度であり、振動部41の弾性波振動を阻害しない。そのため、図9(b)に示す発電素子1dにおいても、振動部41は、面内伸縮で弾性波振動するバルク弾性波振動子となり、発電素子1dでは、上述した実施形態と同様の作用効果が得られる。
以下、実施例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実験1
実験1では、図1に示す形状で、振動部のQ値が異なる2つの発電素子試料を作製し、その性能を比較した。
(試料1)
まず、表面がSi(100)面である単結晶のシリコン基板を準備し、当該シリコン基板の上に、以下に示す各層をスパッタリング法により製膜した。シリコン基板の最表面には、ZrOからなる酸化物層(バッファ層)と、Ptからなる下部電極層12と、をエピタキシャル成長させた。なお、積層順は、シリコン基板→酸化物層→下部電極膜12の順番であり、酸化物層の平均厚みを50nm、下部電極層12の平均厚みを100nmとした。
そして、下部電極層12の上に、PZTからなる圧電体層14をエピタキシャル成長させた。この際に使用したスパッタリングターゲットの組成は、原子数比で、Pb:Zr:Tiが、1.3:0.55:0.45であった。また、PZT膜を形成する際の基板温度は、600℃とし、成膜速度は、0.1nm/secとした。その他の条件については、スパッタリング時の導入ガスを、酸素10モル%-アルゴン(Ar)90モル%の混合ガスとし、導入ガスの圧力を、0.3Paとし、基板とターゲットの距離を200mmとした。また、製膜した圧電体層14の平均厚みは、1μmであった。
なお、酸化物層から圧電体層14までの成膜時には、RHEED評価を行い、各層がエピタキシャル成長しているか否かを確認した。その結果、酸化物層から圧電体層14までの各層は、すべて、成膜過程においてエピタキシャル成長していることが確認できた。また、圧電体層14の製膜後に、XRDで結晶構造解析を行ったところ、圧電体層14には、菱面体晶のドメインと正方晶の2つのドメインとの計3つのドメインが含まれていることが確認できた。
次に、圧電体層14を成膜した後、製膜後のシリコン基板に対して、アニール処理を施した。アニール処理の条件は、処理雰囲気を、1気圧の酸素雰囲気下とし、350℃で1時間保持することとした。
アニール処理後、圧電体層14の上に、Ptからなる多結晶構造の上部電極層を、平均厚み100nmで形成した。そして、上部電極層の上に、以下に示す条件で、Fe-Co-Si-
B合金からなる磁歪層16を製膜した。磁歪層16は、超高真空DCスパッタリング装置(キャノンアネルバ株式会社製:C-7960UHV)を使用して成膜し、その際、成膜時の真空度を3×10-6Paとした。また、成膜時には、基板加熱は行わずに、基板温度が上昇しないように、ターゲットと基板間距離を十分に確保して成膜した。その他の成膜条件は、導入ガスとしてArガスを使用し、導入ガスの圧力を0.03Paとし、出力を200W(DC)とした。また、製膜した磁歪層16の平均厚みは、500nmであった。
形成した磁歪層16の結晶構造を、XRDおよびTEMの電子線回折により確認した。その結果、当該磁歪層16には、非晶質相と結晶相とが混在していることが確認できた。
なお、磁歪層16の上には、さらにPtからなる表面保護層を、平均20nmの厚みで形成した。
シリコン基板に積層した各層に対して、フォトエッチング法によりパターニング加工を施し、図1に示すような平面形状を有する発電体4を形成した。その後、シリコン基板の一部をRIEエッチングにより除去し、開口部61を形成した。このようにして、試料1に係る発電素子を得た。
なお、当該発電体試料における発電体4の寸法は以下のとおりであった。
振動部41のX軸方向の幅Wvx:2000μm
振動部41のY軸方向の幅Wvy:500μm
支持部43のX軸方向の長さWsx:100μm
支持部43のY軸方向の幅Wsy:200μm
隙間46の幅Wg:50μm
作製した試料1に係る発電素子の振動特性を、インピーダンスアナライザを用いて測定した。その結果、試料1の発電素子では、振動部41の固有周波数fが3.0MHzであり、振動部41のQ値が120であり、当該振動部41の振動姿態が拡がり振動であることが確認できた。
(試料2)
試料2では、圧電体層14の製膜に際して、基板の過熱を行わずに、室温でスパッタリングを実施し、結晶配向性が悪い多結晶構造の圧電体層14を形成した。圧電体層14の製膜条件以外の製造条件は、試料1と同様として、試料2に係る発電素子を得た。
試料2においても、インピーダンスアナライザを用いて、発電素子試料の振動特性を測定したところ、試料2でも、振動部41の固有周波数fが3.0MHzであり、振動姿態が拡がり振動であることが確認できた。ただし、試料2では、振動部41のQ値が80であった。
(出力電圧の測定)
作製した発電素子試料の性能を評価するために、10cm離れた位置から外部エネルギーを供給し、試料の発電量(出力)を測定した。当該測定において、外部エネルギーは、周波数が3.0MHzで振幅が50nTである交流磁場とした。また、f±f×(1/100)に相当する周波数3.03MHz、および、周波数2.97MHzでも発電量の測定を行った。なお、発電素子に生じる交流電圧は、ロックインアンプを用いて測定した。
測定の結果、試料1では、3.0MHzでの出力が1.8mVであり、3.03MHzおよび2.97MHzでは、それぞれ、0.3mV,0.3mVの出力が得られた。一方、試料2では、3.0MHzでの出力が0.22mVであり、3.03MHzおよび2.97MHzでは、それぞれ、0.08mV,0.09mVの出力が得られた。この結果から、振動部41のQ値を100以上と高くすることで、より大きな出力が得られ、エネルギーの変換効率が高くなることが確認できた。
なお、試料1の発電素子に対してPMIC110およびキャパシタ120を接続して一体化し、電源装置100を作製した。そして、当該電源装置100をカナル型のイヤホンに組み込んで、外部から交流磁場を供給したところ、イヤホンが正常に動作することが確認できた。
実験2
実験2では、振動部の形態を変更した発電素子試料を作製し、その固有周波数fと振動特性とを調査した。
(試料3)
試料3では、振動部41のY軸方向の幅Wvyを10000μmに設定して、試料3に係る発電素子を作製した。つまり、試料3では、振動部41の幅Wvyを、試料1よりも広くした。なお、当該寸法以外の実験条件は、試料1と同様とした。
試料3の発電素子についても振動特性を測定したところ、試料3では、振動姿態が拡がり振動となり、その固有周波数が150kHzであった。つまり、試料3の発電素子では、試料1よりも固有周波数が低くなった。この結果から、振動部の幅Wvyに基づいて固有周波数の調整が可能であることがわかった。
(試料4)
試料4では、図7に示すような、振動部41が直径500μmの円板状である発電素子を作製した。また、試料4では、圧電体層14の平均厚みを400nmとし、磁歪層の平均厚みを200nmとし、振動部の厚みを試料1よりも薄くした。なお、試料4の発電素子において、振動部の形状と各層の厚み以外の構成は、試料1の発電素子と同様とした。
試料4の発電素子の振動特性を測定したところ、円板状の振動部41では、固有周波数2.5GHzの厚み縦振動が発生した。
(試料5)
試料5では、図8に示すようなカンチレバー型の発電素子を作製した。試料5では、振動部41のX軸方向の幅Wvxを300μmとし、振動部の厚みを1.5μm程度とした。なお、試料5において、振動部の形態以外の構成は、試料1の発電素子と同様とした。
試料5の発電素子の振動特性を測定したところ、カンチレバー型の振動部41では、固有周波数8kHzの屈曲振動が発生した。試料1~5の評価結果を比較すると、振動姿態の変化に、振動部41の形状が影響していることが確認できた。また、振動姿態によって、固有周波数が異なり、厚み縦振動では固有周波数が高くなり、屈曲振動では固有周波数が低くなることが確認できた。
1,1a~1c … 発電素子
4 … 発電体
41,41b,41c … 振動部
12 … 下部電極層
14 … 圧電体層
16 … 磁歪層
18,18a,18b … 取出電極
20 … 絶縁層
42,42a~42c … 固定部
43 … 支持部
6,6a~6c … 基板
61,61b,61c … 開口部
46 … 隙間
300 … 非接触給電システム
250 … 送信アンテナ
200 … 電子機器
100 … 電源装置
110 … パワーマネジメントIC(PMIC)
120 … キャパシタ
210 … 構成要素

Claims (13)

  1. 外部から非接触で供給されるエネルギーを受けて電力を発生させる非接触型の発電体、を有する発電素子であり、
    前記発電体は、圧電特性と磁歪特性とを兼ね備える単層または複数層の機能膜を含む振動部を有し、
    前記振動部は、固有周波数で弾性波振動が可能な振動子であり、
    前記振動部のQ値が100以上であり、
    前記発電体は、開口部を有する基板に設置してあり、
    前記発電体は、
    前記基板に面して接続してある固定部と、
    前記固定部と前記振動部とを所定の1の連結方向において連結する少なくとも1つの支持部と、をさらに有し、
    前記振動部が、前記基板の前記開口部に対向して配置してあり、
    前記振動部における前記開口部と対向する面が、前記基板に直に接していない非拘束面であり、
    前記振動部が、前記少なくとも1つの支持部により前記1の連結方向のみにおいて前記固定部に連結されており、
    前記振動部の前記外周縁と前記基板の前記開口部における内周縁との間に、前記振動部の前記連結方向に沿う前記外周縁の全体に沿って連続する隙間が存在する発電素子。
  2. 前記振動部の前記機能膜は、圧電体層と磁歪層とを有し、
    前記振動部において前記圧電体層と前記磁歪層とが、積層してある請求項1に記載の発電素子。
  3. 前記振動部のQ値が1000以上である請求項1または2に記載の発電素子。
  4. 前記振動部の前記外周縁と前記基板の前記開口部における前記内周縁との間に、前記振動部の厚み方向と平行な方向からの平面視において前記振動部の前記連結方向と直交する直交方向に沿う前記外周縁の前記支持部の部分を除く全体に沿って連続する隙間が存在する請求項1~3のいずれかに記載の発電素子。
  5. 前記連結方向に沿う前記外周縁の全体に沿って連続する隙間と、前記直交方向に沿う前記外周縁の前記支持部の部分を除く全体に沿って連続する隙間とが連続している請求項4に記載の発電素子。
  6. 記連結方向を第1軸とし、前記振動部の厚み方向と平行な方向からの平面視において前記第1軸と直交する方向を第2軸として、
    前記支持部の前記第2軸における幅が、前記振動部の前記第2軸における幅よりも小さい請求項~5のいずれかに記載の発電素子。
  7. 前記振動部の厚み方向と平行な方向からの平面視において記連結方向と直交する方向における前記振動部の幅が、前記固有周波数における電磁波の波長に対して、1/100倍以下である請求項~6のいずれかに記載の発電素子。
  8. 前記弾性波振動が、バルク弾性波であり、
    前記振動部が、バルク弾性波振動子である請求項1~7のいずれかに記載の発電素子。
  9. 前記弾性波振動の振動姿態が、面内伸縮振動であり、
    前記振動部が、面内伸縮振動での弾性波振動が可能なバルク弾性波振動子である請求項1~8のいずれかに記載の発電素子。
  10. 前記発電体を複数有する請求項1~9のいずれかに記載の発電素子。
  11. 複数の前記発電体において、前記固有周波数の平均値をfAとして、前記固有周波数のばらつきがfA±1.0%未満の範囲内である請求項10に記載の発電素子。
  12. 請求項1~11のいずれかに記載の発電素子を備える電源装置。
  13. 請求項10に記載の電源装置を備える電子機器。
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