JP7435368B2 - 車両用制動装置 - Google Patents

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Description

本発明は、車両用制動装置に関する。
例えば米国特許第9205821号のブレーキシステムは、マスタシリンダ装置と、マスタカット弁と、電動シリンダと、リザーバと、を備える。電動シリンダの出力室とリザーバとは、マスタカット弁及びマスタシリンダ装置を介して接続され、さらにリザーバから出力室へのフルード流通のみを許容する逆止弁を介して接続されている。ブレーキバイワイヤモード(以下「バイワイヤモード」という)では、マスタカット弁は閉弁された状態で、電動シリンダによってフルードがホイールシリンダに供給される。マスタカット弁が閉じられると、ホイールシリンダとリザーバとの接続は遮断され、且つ電動シリンダの出力室からリザーバへのフルード流通は禁止される。
米国特許第9205821号
車両の走行中に、マスタカット弁を閉じた状態にしておくと、ブレーキパッドの摩擦等によりフルード温度が上昇した場合、フルードが膨張して、ホイールシリンダの液圧が上がってしまう。そうした場合、意図しない制動力が車両に付与され得る。そのため走行中にはマスタカット弁を開いた状態にしておき、ホイール圧が上がってしまっても、開弁したマスタカット弁を介してホイールシリンダからリザーバにフルードを逃がすことが可能な状態とすることが好ましい。この場合、ブレーキECUは、ブレーキペダルの操作が開始されると、マスタカット弁を閉弁させてバイワイヤモードを形成する。
しかし、例えばブレーキペダルの踏み込み操作が速い場合(急制動)、踏み込み操作の検出遅れ等によってマスタカット弁が完全に閉弁する前に、ブレーキペダル操作により、マスタシリンダ装置からフルードがマスタカット弁を通ってホイールシリンダに向けて供給される可能性がある。この場合、例えばABS制御等でホイール圧を0まで減圧させようとしても、マスタカット弁が閉弁する前にマスタシリンダ装置から供給された液量ΔV分のホイール圧が残存することになる。つまり、ホイール圧を0にすることが困難となり、車輪ロック抑制の観点で改良の余地がある。
また、ホイール圧を強制的に0にするためには、この液量ΔVのフルードを、最大限拡大され且つ密閉された電動シリンダの出力室に供給することとなる。この場合、電動シリンダの出力室や液路に大きな負荷がかかってしまう。つまり、この液量ΔVは、電動シリンダや液路の破損の原因となり得る。
本発明の目的は、マスタカット弁が閉じる前にマスタシリンダ装置からフルードがホイールシリンダに供給された場合でも、電動シリンダ及び液路への負荷を抑制しつつホイール圧を目標値まで減圧することができる車両用制動装置を提供することである。
本発明の車両用制動装置は、リザーバに接続され、ブレーキ操作に応じてフルードを供給可能なマスタシリンダ装置と、前記マスタシリンダ装置とホイールシリンダとを接続する液路に設けられたマスタカット弁と、前記液路において前記マスタカット弁と前記ホイールシリンダとの間の部分に接続され、シリンダ内でピストンが摺動することでフルードを供給可能に構成された電動シリンダと、前記ブレーキ操作が開始された場合に、前記マスタカット弁を閉じるマスタカット弁制御部と、前記マスタカット弁が開弁し前記リザーバと前記電動シリンダとが連通した状態で、前記ブレーキ操作と関係なく前記電動シリンダの前記ピストンを所定量だけ前進させる電動シリンダ制御部と、を備える。
本発明によれば、予め電動シリンダのピストンが所定量前進した状態が形成され、その状態でブレーキ操作に応じてマスタカット弁が閉弁され、バイワイヤモードが開始される。つまり、電動シリンダは、ピストンを所定量後退可能な状態から加圧制御を開始する。これにより、マスタカット弁が閉じる前にマスタシリンダ装置からフルードがホイールシリンダに供給された場合でも、ピストンを加圧制御の開始位置よりも後退させることで、電動シリンダ及び液路への負荷を抑制しつつホイール圧を目標値(例えば0)まで減圧することができる。
第1実施形態の車両用制動装置の構成図である。 第1実施形態の下流ユニットの構成図である。 第1実施形態の電動シリンダの所定位置を説明するための概念図である。 第1実施形態の制御例を説明するためのフローチャートである。 第2実施形態の車両用制動装置の構成図である。
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
<第1実施形態>
第1実施形態の車両用制動装置1は、図1に示すように、上流ユニット11と、下流ユニット3と、ホイールシリンダ81、82、83、84と、第1ブレーキECU91と、第2ブレーキECU92と、を備えている。第1ブレーキECU91は、主に上流ユニット11を制御する。第2ブレーキECU92は、主に下流ユニット3を制御する。
上流ユニット11は、主に、マスタシリンダ装置2と、リザーバ26と、第1マスタカット弁41と、第2マスタカット弁42と、電動シリンダ5と、を備えている。マスタシリンダ装置2は、リザーバ26に接続され、ブレーキ操作に応じてフルードを供給可能に構成されている。ブレーキ操作とは、ドライバによりブレーキペダルZが操作されることである。マスタシリンダ装置2は、マスタシリンダ21と、第1マスタピストン22と、第2マスタピストン23と、付勢部材24、25と、を備えている。
マスタシリンダ21は、有底円筒状の部材である。マスタシリンダ21には、入力ポート211、212と、出力ポート213、214とが形成されている。入力ポート211、212は、リザーバ26に接続されている。マスタシリンダ21内には、第1マスタ室21a及び第2マスタ室21b(以下「マスタ室21a、21b」ともいう)が形成されている。
第1マスタピストン22及び第2マスタピストン23(以下「マスタピストン22、23」ともいう)は、マスタシリンダ21内に配置されたピストン部材である。マスタピストン22、23は、ブレーキペダルZの操作に応じてマスタシリンダ21内を摺動する。第1マスタピストン22とブレーキペダルZとは機械的に接続されている。以下、第1マスタピストン22からブレーキペダルZに向かう方向を後方とし、その反対方向を前方とする。
第2マスタピストン23は、第1マスタピストン22の前方に配置されている。第1マスタ室21aは、マスタシリンダ21及びマスタピストン22、23により区画されている。第2マスタ室21bは、マスタシリンダ21及び第2マスタピストン23により区画されている。
第1マスタピストン22には貫通孔221が形成され、第2マスタピストン23には貫通孔231が形成されている。マスタピストン22、23が初期位置(後端位置)に位置する場合、貫通孔221と入力ポート211とが連通し、貫通孔231と入力ポート212とが連通する。つまり、マスタピストン22、23が初期位置に位置する場合、貫通孔221及び入力ポート211を介してマスタ室21aとリザーバ26とが連通し、貫通孔231及び入力ポート212を介してマスタ室21bとリザーバ26とが連通する。
付勢部材24は、第1マスタ室21aに配置され、第1マスタピストン22を初期位置に向けて付勢する。付勢部材25は、第2マスタ室21bに配置され、第2マスタピストン23を初期位置に向けて付勢する。
マスタシリンダ装置2は、第1マスタ室21a及び第2マスタ室21b(以下「マスタ室21a、21b」ともいう)が同圧になるように構成されている。リザーバ26とマスタ室21a、21bとの連通は、マスタピストン22、23が初期位置から所定量前進することで遮断される。出力ポート213は、第1マスタ室21aと第1液路61とを接続している。出力ポート214は、第2マスタ室21bと第2液路62とを接続している。マスタピストン22、23が前進すると、リザーバ26と遮断されたマスタ室21a、21bの容積が小さくなり、フルードが出力ポート213、214から出力される。
第1液路61は、マスタシリンダ装置2の第1マスタ室21aとホイールシリンダ81、82とを接続する液路である。第2液路62は、マスタシリンダ装置2の第2マスタ室21bとホイールシリンダ83、84とを接続する液路である。
第1マスタカット弁41は、第1液路61に設けられた、非通電状態で開くノーマルオープン型の電磁弁である。第2マスタカット弁42は、第2液路62に設けられたノーマルオープン型の電磁弁である。第1液路61のうち入力ポート211と第1マスタカット弁41との間の部分には、液路611を介してストロークシミュレータ27が接続されている。
液路611には、非通電状態で閉じるノーマルクローズ型の電磁弁であるシミュレータカット弁28が設けられている。シミュレータカット弁28が開くと、第1マスタ室21aとストロークシミュレータ27とが連通する。ストロークシミュレータ27は、ブレーキ操作に対する反力を発生させる装置である。第2液路62のうち入力ポート212と第2マスタカット弁42との間の部分には、圧力センサ71が接続されている。
電動シリンダ5は、シリンダ51内でピストン53が摺動することでフルードを供給可能に構成されている。電動シリンダ5は、第1液路61において第1マスタカット弁41とホイールシリンダ81、82との間の部分61a、及び第2液路62において第2マスタカット弁42とホイールシリンダ83、84との間の部分62aに接続されている。より詳細に、第1液路61の一部分61aは、第1液路61のうち第1マスタカット弁41と下流ユニット3との間の部分である。第2液路62の一部分62aは、第2液路62のうち第2マスタカット弁42と下流ユニット3との間の部分である。
電動シリンダ5は、シリンダ51と、電気モータ52と、ピストン53と、出力室54と、付勢部材55と、を有する。電動シリンダ5は、シリンダ51内に単一の出力室54が形成されているシングルタイプの電動シリンダである。以下、電動シリンダ5の説明において、ピストン53が出力室54を小さくする方向を前方とし、ピストン53が出力室54を大きくする方向を後方とする。
シリンダ51は、前端部にポート511、512が形成された有底筒状部材である。電気モータ52は、回転運動を直線運動に変換する直動機構52aを介してピストン53に接続されている。ピストン53は、電気モータ52の駆動によりシリンダ51内を摺動する。出力室54は、シリンダ51とピストン53により区画されており、ピストン53の移動に応じて容積が変化する。付勢部材55は、出力室54に配置され、ピストン53を初期位置に向けて付勢するばねである。電気モータ52が駆動していない場合、付勢部材55の付勢力によりピストン53は初期位置に位置する。
ポート511には、第3液路63が接続されている。第3液路63は、ポート511と第1液路61の一部分61aとを接続する液路である。第3液路63には、ノーマルクローズ型の電磁弁である第1カット弁43が設けられている。第3液路63から第4液路64が分岐している。
第4液路64は、第3液路63のうちポート511と第1カット弁43との間の部分と、第2液路62の一部分62aとを接続する液路である。第4液路64には、ノーマルクローズ型の電磁弁である第2カット弁44が設けられている。第1カット弁43が開くと、ポート511及び下流ユニット3を介して、出力室54とホイールシリンダ81、82とが連通する。第2カット弁44が開くと、ポート511及び下流ユニット3を介して出力室54とホイールシリンダ83、84とが連通する。
ポート512には、第5液路65が接続されている。第5液路65は、リザーバ26とポート512とを接続する液路である。第5液路65には、出力室54からリザーバ26へのフルード流通を禁止する逆止弁45が設けられている。例えばピストン53の後退により出力室54が負圧になった場合、液路65及び逆止弁45を介してリザーバ26からフルードが出力室54に供給される。なお、ストロークシミュレータ27、シミュレータカット弁28、第1カット弁43、及び第2カット弁44は、上流ユニット11に含まれる。
(下流ユニット)
下流ユニット3について図1及び図2を参照して説明する。下流ユニット3は、いわゆるESCアクチュエータであって、各ホイールシリンダ81~84の液圧を独立に調圧することができる。下流ユニット3は、ホイールシリンダ81、82を調圧可能に構成された第1液圧出力部31と、ホイールシリンダ83、84を調圧可能に構成された第2液圧出力部32と、を備えている。
第1液圧出力部31は、第1液路61のうち第1液路61と第3液路63との接続部分と、ホイールシリンダ81、82との間に配置されている。第2液圧出力部32は、第2液路62のうち第2液路62と第4液路64との接続部分と、ホイールシリンダ83、84との間に配置されている。第1液圧出力部31と第2液圧出力部32とは、下流ユニット3内で液圧回路上、互いに独立している。下流ユニット3の説明において、下流ユニット3に対する上流ユニット11の位置を上流とし、下流ユニット3に対するホイールシリンダ81~84の位置を下流とする。
第1液圧出力部31には、上流ユニット11からフルードが供給される。第1液圧出力部31は、上流ユニット11が発生させた基礎液圧を基に、ホイールシリンダ81、82の液圧を増大可能に構成されている。第1液圧出力部31は、入力された液圧とホイールシリンダ81、82の液圧との間に差圧を発生させることでホイールシリンダ81、82を加圧するように構成されている。
図2に示すように、第1液圧出力部31は、液路311と、ポンプ液路315aと、圧力センサ75と、差圧制御弁312と、チェックバルブ312aと、保持弁313と、チェックバルブ313aと、減圧液路314aと、減圧弁314と、ポンプ315と、電気モータ316と、リザーバ317と、還流液路317aと、を備えている。
液路311は、第1液路61の一部分61aとホイールシリンダ81とを接続する液路である。液路311は、ポンプ液路315aと接続された分岐部Xを含む。液路311は、分岐部Xで、ホイールシリンダ81に接続する液路311とホイールシリンダ82に接続する液路311aとに分岐する。液路311の2つの液路上の構成は同様であるため、ホイールシリンダ81に接続する液路311のみを説明する。
圧力センサ75は、液路311において差圧制御弁312よりも上流ユニット11側に設けられている。圧力センサ75が検出する圧力は、上流ユニット11から第1液圧出力部に入力される液圧に相当する。圧力センサ75によって検出されたデータは第2ブレーキECU92に送信される。
差圧制御弁312は、液路311において、分岐部Xと圧力センサ75との間に設けられたノーマルオープン型のリニアソレノイドバルブである。差圧制御弁312の開度が制御されることで、差圧制御弁312を挟んだ上下流間に差圧を発生させることができる。
チェックバルブ312aは、差圧制御弁312に対して並列に設けられている。チェックバルブ312aは、上流側から下流側に向けてのフルードの流通のみを許可するよう構成されている。保持弁313は、液路311において、分岐部Xとホイールシリンダ81との間に設けられたノーマルオープン型の電磁弁である。チェックバルブ313aは、保持弁313に対して並列に設けられている。チェックバルブ313aは下流側から上流側に向けてのフルードの流通のみを許可するように構成されている。
減圧液路314aは、液路311のうち保持弁313とホイールシリンダ81との間の部分と、リザーバ317とを接続する液路である。減圧液路314a上に、減圧弁314が設けられている。減圧弁314は、減圧液路314aに設けられたノーマルクローズ型の電磁弁である。減圧弁314が開弁状態の場合、ホイールシリンダ81内のフルードは減圧液路314aを介してリザーバ317に流入可能である。したがって、減圧弁314を開弁させることで、ホイールシリンダ81の圧力を減圧可能である。
リザーバ317はフルードを貯留する周知の調圧リザーバであり、減圧液路314aおよび還流液路317aと接続されている。還流液路317aは、液路311において圧力センサ75と差圧制御弁312との間の部分と、リザーバ317と、を接続する液路である。リザーバ317内のフルードは、ポンプ315の作動により吸入される。リザーバ317内のフルード量が減少すると、リザーバ317内の弁が開弁し、リザーバ317に還流液路317aを介して第1液路61の一部分61aからフルードが供給される。
ポンプ液路315aは、減圧液路314aにおいて減圧弁314とリザーバとの間の部分と、液路311の分岐部Xと、を接続する液路である。ポンプ液路315aにはポンプ315が設けられている。
ポンプ315は、電気モータ316の駆動に応じて作動するポンプであり、例えば周知のピストンポンプ又はギアポンプである。ポンプ315の吸入側はリザーバ317と接続されていて、ポンプ315の吐出側は分岐部Xに接続されている。ポンプ315が作動すると、リザーバ317内のフルードを吸入して、分岐部Xにフルードを供給する。例えば各保持弁313を閉じポンプ315の駆動によりホイール圧を減圧しようとすると、ポンプ315が吐出したフルードは、分岐部Xを介して電動シリンダ5の出力室54に供給される。ピストン53が初期位置に位置する際に、ポンプ315によりフルードを電動シリンダ5に供給しようとすると、電動シリンダ5に大きな負荷がかかる。
第1液圧出力部31は、各種電磁弁やポンプの作動により、上流側から入力された液圧を基にホイールシリンダ81、82を加圧可能に構成されている。第2液圧出力部32は圧力センサ75が設けられていない点を除き、第1液圧出力部31と同様の構成であるため、説明を省略する。第2液圧出力部32も第1液圧出力部31と同様に、基礎液圧を基にホイールシリンダ83、84の液圧を増大可能に構成されている。
(ブレーキECU)
第1ブレーキECU91及び第2ブレーキECU92(以下「ブレーキECU91、92」ともいう)は、それぞれCPUやメモリを備える電子制御ユニットである。各ブレーキECU91、92は、各種制御を実行する1つ又は複数のプロセッサを備えている。第1ブレーキECU901と第2ブレーキECU902とは、別個のECUであって、互いに情報(制御情報等)を通信可能に接続されている。
第1ブレーキECU91は、圧力センサ71、72を含む各種センサの検出値に基づいて、電動シリンダ5及び各電磁弁28、41~44を制御する。第1ブレーキECU91は、ブレーキ操作に応じてバイワイヤモードを形成し、電動シリンダ5の制御によりホイールシリンダ81~84を加減圧する。第2ブレーキECU92は、圧力センサ75を含む各種センサの検出値に基づいて、下流ユニット3を制御する。第2ブレーキECU92は、状況に応じて下流ユニット3を駆動し、例えばABS制御(アンチスキッド制御)やESC制御等を実行する。
(バイワイヤモード)
第1ブレーキECU91は、弁制御部(「マスタカット弁制御部」に相当する)911と、電動シリンダ制御部912と、を備えている。弁制御部911は、各電磁弁28、41~44を制御し、制御モードをバイワイヤモードと非バイワイヤモードとで切り替える。バイワイヤモードは、マスタカット弁41、42が閉じ、シミュレータカット弁28、第1カット弁43、及び第2カット弁44が開いた状態である。
弁制御部911は、例えば、第1ブレーキECU91が起動したらシミュレータカット弁28を開け、ブレーキ操作が開始された場合に、マスタカット弁41、42を閉じ、第1カット弁43及び第2カット弁44(以下「カット弁43、44」ともいう)を開ける。つまり、ブレーキ操作が開始されると、マスタシリンダ装置2とホイールシリンダ81~84とが液圧的に遮断され、電動シリンダ5及び下流ユニット3の少なくとも一方によりホイールシリンダ81~84を調圧するバイワイヤモードが形成される。電動シリンダ制御部912は、バイワイヤモードにおいて、ブレーキ操作に基づき演算された目標液圧に応じて、電気モータ52を駆動し、ピストン53を移動させる。
非バイワイヤモードは、マスタカット弁41、42が開き、シミュレータカット弁28が閉じた状態である。マスタカット弁41、42が開くと、マスタシリンダ装置2とホイールシリンダ81~84とが連通する。例えば電源失陥等により各電磁弁41、42、28、43、44及び電動シリンダ5が作動しない場合、ブレーキ操作が開始されても非バイワイヤモードが維持され、ブレーキ操作に応じてマスタシリンダ装置2からフルードがホイールシリンダ81~84に供給される。
非バイワイヤモードにおいてマスタピストン22、23が初期位置に位置する場合、マスタシリンダ21を介してリザーバ26とホイールシリンダ81~84及び電動シリンダ5とが連通する。
(特定前進制御)
電動シリンダ制御部912は、マスタカット弁41、42が開弁した状態で、カット弁43,44を開弁させ、リザーバ26と電動シリンダ5とが連通した状態で、ブレーキ操作と関係なく電動シリンダ5のピストン53を所定量だけ前進させる。つまり、電動シリンダ制御部912は、ブレーキ操作がされていない非バイワイヤモードにおいて、ブレーキ操作にかかわらずピストン53を所定量だけ前進させる特定前進制御を実行する。電動シリンダ制御部912は、弁制御部911がマスタカット弁41、42を閉じる前に、特定前進制御を実行する。以下、ピストン53が初期位置から所定量前進した位置を、所定位置と称する。
図3に示すように、特定前進制御が実行されると、ピストン53が所定位置で停止する。ピストン53の前進により減少した出力室54の容積ΔVc分のフルードは、出力室54からマスタシリンダ21を介してリザーバ26に供給される。出力室54とリザーバ26とは同圧で維持される。特定前進制御が完了すると、弁制御部911は、カット弁43、44を閉じる。これにより、例えば高熱でホイールシリンダ81~84のフルードが膨張した場合、フルードは、電動シリンダ5には供給されず、ホイールシリンダ81~84からマスタシリンダ21を介してリザーバ26に供給される。
特定前進制御は、ブレーキ操作が開始される前に完了する。つまり、弁制御部911は、ピストン53が所定位置に位置する状態で、ブレーキ操作の開始に応じて制御モードを非バイワイヤモードからバイワイヤモードに切り替える。バイワイヤモードは、ピストン53が所定位置に位置する状態で開始される。所定位置は、加圧制御の開始位置ともいえる。
所定量(すなわち特定前進制御におけるピストン53の前進量)は、予測流入量に基づいて設定されている。予測流入量は、マスタカット弁41、42が閉じる前にマスタシリンダ装置2からホイールシリンダ81~84に供給されるフルードの量の予測値(演算値)である。第1実施形態の予測流入量は、急ブレーキ(急なブレーキ操作)が行われた場合を想定した予測値である。予測流入量は、各種演算により算出できるが、例えば単位時間当たりのペダルストローク変化量が所定値であった場合(例えば急ブレーキ)を想定して演算される。第1実施形態の所定量は、特定前進制御により電動シリンダ5から出力される液量が予測流入量以上となるように設定されている。
(制御の流れの一例)
図4に示すように、例えば第1ブレーキECU91が起動すると、シミュレータカット弁28が開弁される(S101)。そして、ブレーキ操作が開始されていない場合すなわち制動中でない場合(S102:No)、マスタカット弁41、42は開弁される(S103)。つまり、制御モードは非バイワイヤモードである。
非バイワイヤモードにおいてピストン53が所定位置に位置していない場合(S104:No)、カット弁43、44が開弁され(S105)、特定前進制御が実行される(S106)。これにより、ピストン53は所定位置に位置する。非バイワイヤモードにおいてピストン53が所定位置に位置している場合(S104:Yes)、カット弁43、44が閉弁される(S107)。
ブレーキ操作が開始された場合すなわち制動中である場合(S102:Yes)、マスタカット弁41、42は閉弁される(S108)。制御モードはバイワイヤモードとなる。カット弁43、44は開弁され(S109)、出力室54の液圧が目標液圧に応じて制御される(S110)。
(第1実施形態の効果)
第1実施形態によれば、予め電動シリンダ5のピストン53が所定量前進した状態が形成され、その状態でブレーキ操作に応じてマスタカット弁41、42が閉弁され、バイワイヤモードが開始される。つまり、電動シリンダ5は、ピストン53を所定量後退可能な状態から加圧制御を開始する。これにより、マスタカット弁41、42が閉じる前にマスタシリンダ装置2からフルードがホイールシリンダ81~84に供給された場合でも、ピストン53を加圧制御の開始位置(すなわち所定位置)よりも後退させることで、電動シリンダ5及び液路への負荷を抑制しつつホイール圧を目標値(例えば0)まで減圧することができる。特定前進制御により出力室54が拡大可能な状態となり、電動シリンダ5が余分なフルードを吸収可能となる。
また、特定前進制御の所定量が予測流入量に基づいて設定されているため、精度良く、負荷を抑制しつつホイール圧を0にすることができる。第1実施形態では、特定前進制御により電動シリンダ5から出力される液量が予測流入量以上となるように設定されているため、より確実に、負荷なくホイール圧を0にすることができる。
<第2実施形態>
第2実施形態の車両用制動装置1Aは、図5に示すように、第1電動シリンダ501と、第2電動シリンダ502と、マスタシリンダ装置200と、リザーバ260と、連通路68と、マスタ液路69と、マスタカット弁46と、第1電磁弁47と、第2電磁弁48と、第1ブレーキECU901と、第2ブレーキECU902と、を備えている。第1電動シリンダ501及び第2電動シリンダ502(以下「電動シリンダ501、502」ともいう)は、それぞれ第1実施形態の電動シリンダ5と同様の構成であるため、第1実施形態と同符号を付して詳細説明は省略する。第2実施形態の説明において、第1実施形態の説明及び図面を参照することができる。
マスタシリンダ装置200は、マスタシリンダ210に1つのマスタ室210aが形成されているシングルタイプのマスタシリンダ装置である。マスタシリンダ210内には、マスタピストン220が摺動可能に配置されている。マスタ室210aは、マスタシリンダ210とマスタピストン220とで区画されている。
マスタ室210aは、入力ポート211及び貫通孔221を介してリザーバ260に接続され、出力ポート213を介してマスタ液路69に接続されている。マスタピストン220が初期位置に位置する場合、マスタ室210aとリザーバ260とは、入力ポート211及び貫通孔221を介して連通する。マスタ室210aとリザーバ260との連通は、マスタピストン220が初期位置から所定量前進すると遮断される。
マスタ室210aには、マスタピストン220を初期位置に向けて付勢する付勢部材240が配置されている。マスタシリンダ装置200は、ブレーキペダルZの操作量に応じて、マスタピストン220がマスタシリンダ210内のフルードをマスタ液路69に流出させるように構成されている。
第1電動シリンダ501は、ポート511及び第1液路66を介して、ホイールシリンダ85に接続されている。第1液路66は、第1電動シリンダ501とホイールシリンダ85とを接続する液路である。第1電動シリンダ501は、ピストン53の移動によりホイールシリンダ85の液圧を調整(加減圧)する。
第2電動シリンダ502は、ポート511及び第2液路67を介して、ホイールシリンダ86に接続されている。第2液路67は、第2電動シリンダ502とホイールシリンダ86とを接続する液路である。第2電動シリンダ502は、ピストン53の移動によりホイールシリンダ86の液圧を調整(加減圧)する。
連通路68は、第1液路66と第2液路67とを接続する液路である。マスタ液路69は、マスタシリンダ装置200の出力ポート213と連通路68とを接続する液路である。以下、マスタ液路69と連通路68との接続部分を接続部60とする。
マスタカット弁46は、マスタ液路69に設けられたノーマルオープン型の電磁弁である。マスタ液路69のうちマスタシリンダ装置200とマスタカット弁46との間の部分には、第1実施形態同様、液路691を介してストロークシミュレータ27及びシミュレータカット弁28が接続されている。
第1電磁弁47は、連通路68のうち接続部60と第1液路61との間の部分に設けられたノーマルオープン型の電磁弁である。第2電磁弁48は、連通路68のうち接続部60と第2液路62との間の部分に設けられたノーマルオープン型の電磁弁である。すなわち、第1電磁弁47及び第2電磁弁48(以下「電磁弁47、48」ともいう)は、接続部60を挟んで直列に接続されている。
各電磁弁47、48が閉じることで、ホイールシリンダ85、86の液圧を独立して制御することができる。また、例えば第1ブレーキECU901が電源失陥した場合、両電磁弁47、48が開くことで、第2ブレーキECU902による第2電動シリンダ502の制御によって、両方のホイールシリンダ85、86を調圧することができる。各電磁弁47、48は、マスタシリンダ装置200とホイールシリンダ85、86とを接続する液路に設けられており、当該液路を開閉するマスタカット弁としても機能する。
第1ブレーキECU901及び第2ブレーキECU902(以下「ブレーキECU901、902」ともいう)は、第1実施形態同様、CPUやメモリ等を備えている。各ブレーキECU901、902は、弁制御部911及び電動シリンダ制御部912を備えている。第1ブレーキECU901の弁制御部911は、第1電磁弁47、マスタカット弁46、及びシミュレータカット弁28を制御可能に構成されている。第1ブレーキECU901の電動シリンダ制御部912は、第1電動シリンダ501を制御する。第2ブレーキECU902の弁制御部911は、第2電磁弁48、マスタカット弁46、及びシミュレータカット弁28を制御可能に構成されている。第2ブレーキECU902の電動シリンダ制御部912は、第2電動シリンダ502を制御する。
(制御例)
ブレーキECU901、902が起動されると、シミュレータカット弁28が開弁される。そして、ブレーキ操作が開始されると、マスタカット弁46、第1電磁弁47、及び第2電磁弁48が閉弁される。これにより、バイワイヤモードが形成される。第1ブレーキECU901は、ホイールシリンダ85の目標液圧に応じて、第1電動シリンダ502を駆動させる。第2ブレーキECU902は、ホイールシリンダ86の目標液圧に応じて、第2電動シリンダ502を駆動させる。
第2実施形態でも第1実施形態同様、各ブレーキECU901、902の電動シリンダ制御部912は、特定前進制御を実行する。すなわち、各ブレーキECU901、902は、マスタカット弁46、第1電磁弁47、及び第2電磁弁48が閉弁される前に、ブレーキ操作に関係なくピストン53を所定量前進させる。特定前進制御は、マスタシリンダ装置200を介してリザーバ260と各電動シリンダ501、502とが連通している状態で実行される。所定量(前進量)は、特定前進制御により電動シリンダ5から出力される液量が、予測流入量以上となるように設定されている。
(第2実施形態の効果)
第2実施形態の構成でも、マスタカット弁46、第1電磁弁47、及び第2電磁弁48が閉じる前にマスタシリンダ装置200からフルードがホイールシリンダ85、86に供給され得る。当該供給された余分なフルードは、バイワイヤモードでは、第1電磁弁47より下流域及び第2電磁弁48より下流域に閉じ込められる。この場合、特定前進制御が実行されていない場合、余分なフルードの分の液圧が抜けず、ホイール圧を0にすることができない。この装置ではABS制御は車輪毎に対応する電動シリンダ501、502による圧力調整によって実施されるが、この場合、例えばABS制御において、制動力を0にすることができない。
しかし、第1ブレーキECU901及び第2ブレーキECU902は、対応する電動シリンダ501、502に対して、特定前進制御を実行する。これにより、各ピストン53が所定量前進した状態でバイワイヤモードが開始される。したがって、ブレーキ操作によって、マスタカット弁46、第1電磁弁47、及び第2電磁弁48が閉じる前にマスタシリンダ装置200からフルードがホイールシリンダ85、86に供給された場合でも、各ピストン53を所定位置からさらに後退させることで、ホイール圧を目標値(ここでは0)まで減圧することができる。第2実施形態では、第1実施形態同様、特定前進制御により各出力室54が拡大可能な状態となり、各電動シリンダ501、502が余分なフルードを吸収可能となる。
ホイールシリンダ85及び第1液路66の余分なフルードは、第1電動シリンダ501のピストン53が所定位置から後退することでその出力室54に収容される。ホイールシリンダ86及び第2液路67の余分なフルードは、第2電動シリンダ502のピストン53が所定位置から後退することでその出力室54に収容される。また、第1実施形態同様、所定量(前進量)が予測流入量に基づいて設定されているため、より確実に、ホイール圧を0にすることができる。
<その他>
本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、電動シリンダ5、501、502において、電気モータ52の駆動によりピストン53を後退させることができるため、付勢部材55は無くてもよい。この場合、電気モータ52に対する通電構成を冗長構成にすることが好ましい。また、例えば、下流ユニット3は、ポンプ315に替えて電動シリンダを備えてもよい。また、本発明は、例えば、回生制動装置を含む車両(ハイブリッド車や電気自動車)、自動ブレーキ制御を実行する車両、又は自動運転車両にも適用できる。
1、1A…車両用制動装置、2、200…マスタシリンダ装置、26、260…リザーバ、41、42、46…マスタカット弁、5、501、502…電動シリンダ、51…シリンダ、53…ピストン、61、62…液路、911…弁制御部(マスタカット弁制御部)、912…電動シリンダ制御部。

Claims (2)

  1. リザーバに接続され、ブレーキ操作に応じてフルードを供給可能なマスタシリンダ装置と、
    前記マスタシリンダ装置とホイールシリンダとを接続する液路に設けられたマスタカット弁と、
    前記液路において前記マスタカット弁と前記ホイールシリンダとの間の部分に接続され、シリンダ内でピストンが摺動することでフルードを供給可能に構成された電動シリンダと、
    前記ブレーキ操作が開始された場合に、前記マスタカット弁を閉じるマスタカット弁制御部と、
    前記マスタカット弁が開弁し前記リザーバと前記電動シリンダとが連通した状態で、前記ブレーキ操作と関係なく前記電動シリンダの前記ピストンを所定量だけ前進させる電動シリンダ制御部と、
    を備える、車両用制動装置。
  2. 前記所定量は、前記マスタカット弁が閉じる前に前記マスタシリンダ装置から前記ホイールシリンダに供給されるフルードの量の予測値である予測流入量に基づいて設定されている、請求項1に記載の車両用制動装置。
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