JP7428399B2 - 統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーション方法、及び建造シミュレーションプログラム - Google Patents

統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーション方法、及び建造シミュレーションプログラム Download PDF

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Description

本発明は、統一データベースに基づく船舶の建造をシミュレーションする方法及びプログラムに関する。
造船の生産(建造)計画や日程計画の設定根拠となる各作業の作業量、つまり工数は、一般に「工数=管理物量あたりの標準時間×管理物量」の考え方に基づき求められている。
しかし、本質的には、管理物量に比例するのは主作業(それによって製品が完成に向かって進む作業)のみであり、付随作業(それをしないと主作業を進められないが、それ自体では製品が完成に向かって進まない作業)や無付加価値行為(製品の完成に対して何の価値もない行為)は管理物量と違う次元で決まるにもかかわらず、現状、これらをすべて管理物量に比例するものとして簡便に扱っている。造船における主作業率は、職種にもよるが一般に30~40%との報告があり、工数を管理物量から比例的に推定することには精度上の課題がある。
一方で、製造工程のシミュレーションを実施するラインシミュレータが存在するが、すべての細かな作業の一つ一つを手入力する必要がある。また、ラインシミュレータは、大量生産品のライン生産のように物の流れと作業者の動きが決まっており同様の作業を繰り返すシミュレーションには向いているものの、受注生産である造船のように様々な作業を状況に応じて変更するようなシミュレーションには向いていない。
ここで、特許文献1には、各造船所の各々異なる環境と関係なく共通的に適用される船舶及び海洋プラント生産シミュレーションフレームワークと、この船舶及び海洋プラント生産シミュレーションフレームワークに基づき、各造船所の異なる環境に合わせて差別的に適用される造船海洋工程の相互検証シミュレーションシステム、ブロックのクレーンリフティング及び搭載シミュレーションシステム、GIS情報基盤設備シミュレーションシステム、及びブロック及び物流管制シミュレーションシステムを分離可能に結合することによって、各造船所の状況に合わせて効果的に適用される拡張性とリサイクル性を備えた船舶及び海洋プラント生産シミュレーション統合ソリューションシステムが開示されている。
また、特許文献2には、プロジェクト計画を生成する方法であって、タスク間の順位関係を記述する情報、タスクの所要時間を示す情報、及びタスクの所要時間の変動性を示す情報を含むプロジェクト明細情報をプロセッサユニットによって受信し、プロジェクト明細情報を使用してプロセッサユニットによって、プロジェクトのシミュレーションモデルを生成し、シミュレーションモデルを複数回実行して、クリティカルパスを形成しているタスクのサブセットを識別して、シミュレーション結果データを生成し、シミュレーション結果データから、クリティカルパスを形成しているタスクの識別されたサブセットを含むプロジェクトネットワークプレゼンテーションを生成することを含み、プロジェクト明細情報は、テキストファイル、電子スプレッドシートファイル、及び拡張マークアップ言語ファイルからなる情報形式のグループから選択された情報形式でプロセッサユニットによって受信される方法が開示されている。
また、特許文献3には、複数の工程からなる生産対象物の生産スケジューリングを行うスケジューリング装置であって、工程の接続順序関係を設定するための工程接続情報と、工程に含まれる各ブロックの移動経路を設定するブロックフロー情報と、各ブロックの各工程での工期を設定する作業工期情報と、各工程の制約条件とが蓄積された蓄積手段と、蓄積手段に蓄積された情報から工程を下流から上流に遡る順序に並べ替える解釈手段と、解釈手段により得られる並べ替え後の工程データに基づいてスケジューリングモデルを作成するモデル作成手段と、モデル作成手段により得られるスケジューリングモデル毎にスケジュールを最適化する日程計画作成手段と、日程計画作成手段により得られるスケジューリング結果を出力する出力手段とを有するスケジューリング装置が開示されている。
また、特許文献4には、工程計画と、工程計画に基づく設備配置計画と、工程計画および設備配置計画に基づく配員計画と、工程計画、設備配置計画および配員計画に基づく生産計画とを用い、各計画において作成された生産ラインモデルにより、生産活動をシミュレーションして各計画の評価規範値を作成し、規範値により各計画の良否を判定し、それに基づき計画の修正を行う生産システム計画方法が開示されている。
また、特許文献5には、生産物流設備の操業実績情報及び作業計画情報を格納する実績・計画情報データベースと、ここに格納されている操業実績情報及び作業計画情報を用いて、指定された時間帯における生産物流設備の操業状況の統計値を算出する統計情報計算部と、算出された生産物流設備の操業状況の統計値を用いて、指定された時間帯における生産物流設備に含まれる設備の操業状況を示す設備稼働状況画面を表示すると共に、設備稼働状況画面に表示されている設備が選択操作されるのに応じて、選択操作された設備において行われる作業のリストを作業情報リストとして設備稼働状況画面上に重畳表示する設備稼働状況表示部と、製品が選択操作されるのに応じて、生産物流設備に含まれる設備のガントチャート又は選択操作された製品に関係する作業が識別表示されたガントチャート画面を表示すると共に、ガントチャート画面内の作業が選択操作されるのに応じて、選択操作された作業と先行後続関係にある作業を識別表示するガントチャート表示部とを備えた生産物流設備の操業支援システムが開示されている。
また、非特許文献1には、造船CIMを構築するための工程管理に対応する具体的なはたらきとしてProcess PlanningとSchedulingが挙げられ、Process Planningでは、製品情報について製造現場に関する概念的な知識に基づき製造のための方法・手順を決定すること、Schedulingでは、実際の製造現場における具体的な状況に関する知識に基づいてProcess Planningの結果を時間・現場機材の活用の観点から展開し、納期その他の条件を満たす日程計画を作成することが記載されていると共に、オブジェクト指向に基づく工程管理のための造船工場モデルが開示されている。
また、非特許文献2には、船舶建造プロセスにおける生産設備の導入効果を評価するため、生産プロセスで対象とする製品の製造誤差に基づく手直し作業を考慮した生産プロセスシミュレーションを利用して、新規生産設備導入によるプロセス全体の期間と費用への影響を評価する手法が開示されており、当該生産プロセスシミュレーションにおいては、造船所の作業場所の制約と作業員のスキルを考慮することが記載されている。
実用新案登録第3211204号公報 特開2013-117959号公報 特開2007-183817号公報 特開2003-162313号公報 特開2015-138321号公報
小山健夫,外1名,"造船CIM構築のための工程管理システムに関する基礎的研究",日本造船学会論文集,日本造船学会,平成元年11月,第166号,p.415-423 満行泰河,外3名,"船舶建造プロセスシミュレーションを用いた生産設備の導入に関する研究",日本船舶海洋工学会論文集,日本船舶海洋工学会,2016年12月,第24号,p291-298
特許文献1-4、及び非特許文献1-2は、建造のシミュレーションにおいて作業員の生産行為を主作業や付随作業まで含めて精密に再現しようとするものではない。
また、特許文献5は、シミュレーションのための工場の設備と作業員に関する情報を、データベースに蓄積しているものではない。
そこで本発明は、船舶の建造を細かな作業レベルでシミュレーションすることができる統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーション方法、及び建造シミュレーションプログラムを提供することを目的とする。
請求項1記載に対応した統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーション方法においては、船舶の建造を統一データベースに蓄積された標準化したデータ構造で表現された情報に基づいてシミュレーションする方法であって、船舶の基本設計情報を統一データベースから取得して標準化したデータ構造で表現したプロダクトモデルとして設定するプロダクトモデル設定ステップと、船舶を建造する工場の設備と作業員に関する情報を統一データベースから取得して標準化したデータ構造で表現したファシリティモデルとして設定するファシリティモデル設定ステップと、先に設定したプロダクトモデルとファシリティモデルに基づいて、船舶を構成部品から建造するための組み立て手順をプロダクトモデルの構成部品と構成部品間の結合情報から組み立ての依存関係を表す組立ツリーとして定義し、組み立て手順の各段階におけるタスクをファシリティモデルの設備と作業員に関する情報から定義し、タスクの依存関係をタスクツリーとして定義し、かつタスクがファシリティモデルにおける設備と作業員の能力値範囲内か否かを考慮して標準化したデータ構造で表現したプロセスモデルを作成するプロセスモデル作成ステップと、プロセスモデルに基づいて時間ごとの建造の進行状況を逐次計算する時間発展系シミュレーションを行うシミュレーションステップと、時間発展系シミュレーションの結果を時系列データ化し建造時系列情報とする時系列情報化ステップと、建造時系列情報を提供する情報提供ステップとを実行し、時間発展系シミュレーションにおいて、作業員が仮想的な作業を進めるため、又は作業員が仮想的な作業で使用する設備を決めるための自律判断に必要な制約及び選択肢である予め取得したルール情報に基づいて、作業員が自律判断を行って仮想的な作業を進めることを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、ユーザは船舶の建造を標準化したデータ構造で表現された情報に基づいて、時間ごとに細かな作業レベルでシミュレーションすることが可能となり、その精度の高いシミュレーション結果としての建造時系列情報に基づいて工場の改善、生産設計の改善、受注時のコスト予測、及び設備投資などを検討することができるため、建造コストの低減や工期の短縮につながる。また、組み立ての手順と、それに関わるタスクの依存関係を明確にし、プロセスモデルを精度よく作成することができる。また、ルール情報を利用することにより、時間発展系シミュレーションにおける作業員が的確に仮想的な作業を進めることや設備を決めることが容易になる。
請求項2記載の本発明は、ファシリティモデルは、設備と作業員に関する情報に基づいて予め作成され、標準化したデータ構造で表現して統一データベースに蓄積されたものであることを特徴とする。
請求項2に記載の本発明によれば、ファシリティモデルが統一データベースに標準化したデータ構造として蓄積されているため、標準化したデータ構造のファシリティモデルの取得や、共同利用、設定、新たな情報の蓄積等を簡便に行うことができる。
請求項3記載の本発明は、プロダクトモデルは、船舶の基本設計情報に基づいて予め作成され、標準化したデータ構造で表現して統一データベースに蓄積されたものであることを特徴とする。
請求項3に記載の本発明によれば、プロダクトモデルの取得を、例えば、設計システムにアクセスすることなく簡便に行うことができる。また、プロダクトモデルが、例えば、情報の種類や属性、また複数の情報間の関係性を標準化したデータ構造であるため、プロダクトモデルの取得やプロセスモデルの作成をより簡便に行うことや蓄積を容易に行うことができる。
請求項4記載の本発明は、プロセスモデル作成ステップで作成された標準化したデータ構造で表現したプロセスモデルを統一データベースに蓄積するプロセスモデル蓄積ステップをさらに実行することを特徴とする。
請求項4に記載の本発明によれば、例えば、次のシミュレーションの機会、又は類似した船舶のシミュレーションにおける過去船プロセスデータとして、蓄積したプロセスモデルを用いて時間発展系シミュレーションを行うことができる。また、例えば、プロセスモデルのデータ構造が、情報の種類や属性、また複数の情報間の関係性を標準化したものであるため、プロセスモデルの蓄積や利用が容易となる。
請求項5記載の本発明は、プロセスモデル蓄積ステップを予め実行してプロセスモデルを統一データベースに蓄積し、シミュレーションステップで統一データベースからプロセスモデルを取得してシミュレーションステップ、時系列情報化ステップ、及び情報提供ステップを実行することを特徴とする。
請求項5に記載の本発明によれば、いざ時間発展系シミュレーションを行おうとする際にプロセスモデルを作成する時間を省くことができる。また、他のコンピュータや他の場所に設置したコンピュータで、統一データベースからプロセスモデルを取得し、時間発展系シミュレーションを行うことができる
求項記載の本発明は、タスクは、時間発展系シミュレーションで実行可能な関数であるベーシックタスクを組み合わせて構築されるカスタムタスクを含むことを特徴とする。
請求項に記載の本発明によれば、作業の種類別に小さな作業を組み合わせたカスタムタスクにより、時間発展系シミュレーションの精度を向上させることができる。
請求項記載の本発明は、プロセスモデル作成ステップにおいて、組み立て手順とタスクに基づいて作業員のスケジュール情報を作成することを特徴とする。
請求項に記載の本発明によれば、スケジュール情報に基づき、主作業や付随作業まで含めた作業員のすべての生産行為を精密に再現して時間発展系シミュレーションを行うことができる。
請求項記載の本発明は、プロセスモデル作成ステップにおいて、組み立て手順とタスクに基づいて、工場内の設備と作業員の配置に関する工場レイアウト情報を作成することを特徴とする。
請求項に記載の本発明によれば、設備と作業員の配置が反映された工場レイアウト情報に基づき、時間発展系シミュレーションを行うことができる。
請求項記載の本発明は、情報提供ステップで、スケジュール情報及び工場レイアウト情報の少なくとも一方を提供することを特徴とする。
請求項に記載の本発明によれば、ユーザは作成されたスケジュール情報及び工場レイアウト情報の少なくとも一方を、直接又は間接的に必要に応じて確認することができる。
請求項10記載の本発明は、プロセスモデルの作成に当たって、過去に建造した過去船のプロセスデータを統一データベースから取得し、流用することを特徴とする。
請求項10に記載の本発明によれば、基本設計情報に基づきプロダクトモデルやファシリティモデルが変更された場合に、一からプロセスモデルを作成するよりも少ない労力で、早く精度よくプロセスモデルを作成することができる。なお、プロセスデータには、プロセスモデルを含み、プロセスデータも標準化したデータ構造で表現して統一データベースに蓄積することができる。
請求項11記載の本発明は、シミュレーションステップにおける時間発展系シミュレーションは、時間ごとの船舶の完成部品又は構成部品の位置、設備及び作業員の位置と占有状況、組み立てとタスクの進行状況を逐次計算するものであることを特徴とする。
請求項11に記載の本発明によれば、船舶の建造に関わる時間発展系シミュレーションを精度よく行うことができる。
請求項12記載の本発明は、ルール情報として、判断ルールであるブレインを含むルール情報を利用することを特徴とする。
請求項12に記載の本発明によれば、繰り返し作業ではなく現場で判断することが非常に多い作業を作業員がブレインを利用して判断し、仮想的な作業を円滑に進めることができる。
請求項13記載の本発明は、プロダクトモデル、ファシリティモデル、及びプロセスモデルの標準化したデータ構造は、少なくとも複数のデータの種類ごとに分けたクラスと、クラス間の関係、及びクラス間の親子関係を含むデータ構造を有することを特徴とする。
請求項13に記載の本発明によれば、プロダクトモデル、ファシリティモデル、及びプロセスモデルの取得や蓄積、利用等が、クラスやクラス間の関係を軸としたデータ構造により容易となる。
請求項14記載の本発明は、建造時系列情報は、ガントチャート、作業分解構成図、作業手順書、工数、又は動線の少なくとも一つを含むことを特徴とする。
請求項14に記載の本発明によれば、このような建造時系列情報を具体化した情報を提供することにより、ユーザは時間発展系シミュレーションの結果としての建造時系列情報を知って、構成部品又はファシリティの変更や、ボトルネックの分析・解明、工数予測など、建造に有益な知見を得ることができる。
請求項15記載の本発明は、情報提供ステップにおいて、少なくとも建造時系列情報を標準化したデータ構造として、統一データベースに提供することを特徴とする。
請求項15に記載の本発明によれば、建造時系列情報として提供する情報の種類や属性、またフォーマット等を、プロダクトモデル等との関係性を考慮して建造時系列情報としての標準化したデータ構造で、統一データベースに容易に蓄積ができる。また、標準化したデータ構造として蓄積した建造時系列情報を、例えば、統一データベースから取得して、実際の船舶の建造時に参照したり、後のシミュレーション時の情報として利用したり、ルール情報の機械学習に活用したりすること等ができる。
請求項16記載の本発明は、時系列情報化ステップで時系列データ化された建造時系列情報を検証する検証ステップと、検証の結果に基づいてプロダクトモデル及びファシリティモデルの少なくとも一方を修正するモデル修正ステップをさらに実行することを特徴とする。
請求項16に記載の本発明によれば、プロダクトモデルやファシリティモデルを修正すべきか否かを、建造時系列情報を所期目標に基づいて検証することによって判別し、プロダクトモデルやファシリティモデルを適切に修正することができる。
請求項17記載の本発明は、モデル修正ステップで、プロダクトモデル及びファシリティモデルの少なくとも一方を修正した場合は、修正されたプロダクトモデル及びファシリティモデルの少なくとも一方に基づいて、プロセスモデル作成ステップと、シミュレーションステップと、時系列情報化ステップと、検証ステップを繰り返すことを特徴とする。
請求項17に記載の本発明によれば、プロダクトモデルやファシリティモデルを修正した、船舶の建造が目標の範囲内に収まるシミュレーション結果を得ることができる。
請求項18記載に対応した統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーションプログラムにおいては、船舶の建造を統一データベースに蓄積された標準化したデータ構造で表現された情報に基づいてシミュレーションするプログラムであって、コンピュータに、統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーション方法におけるプロダクトモデル設定ステップと、ファシリティモデル設定ステップと、プロセスモデル作成ステップと、シミュレーションステップと、時系列情報化ステップと、情報提供ステップとを実行させることを特徴とする。
請求項18に記載の本発明によれば、ユーザは船舶の建造を標準化したデータ構造で表現された情報に基づいて、時間ごとに細かな作業レベルでシミュレーションすることが可能となり、その精度の高いシミュレーション結果としての建造時系列情報に基づいて工場の改善、生産設計の改善、受注時のコスト予測、及び設備投資などを検討することができるため、建造コストの低減や工期の短縮につながる。
請求項19記載の本発明は、コンピュータに、プロセスモデル蓄積ステップをさらに実行させることを特徴とする。
請求項19に記載の本発明によれば、例えば、次のシミュレーションの機会、又は類似した船舶のシミュレーションにおける過去船プロセスデータとして、蓄積したプロセスモデルを用いて時間発展系シミュレーションを行うことができる。また、例えば、プロセスモデルのデータ構造が、情報の種類や属性、また複数の情報間の関係性を標準化したものであるため、プロセスモデルの蓄積や利用が容易となる。
請求項20記載の本発明は、コンピュータに、検証ステップと、モデル修正ステップをさらに実行させることを特徴とする。
請求項20に記載の本発明によれば、プロダクトモデルやファシリティモデルを修正すべきか否かを、建造時系列情報を所期目標に基づいて検証することによって判別し、プロダクトモデルやファシリティモデルを適切に修正することができる。
本発明の統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーション方法によれば、ユーザは船舶の建造を標準化したデータ構造で表現された情報に基づいて、時間ごとに細かな作業レベルでシミュレーションすることが可能となり、その精度の高いシミュレーション結果としての建造時系列情報に基づいて工場の改善、生産設計の改善、受注時のコスト予測、及び設備投資などを検討することができるため、建造コストの低減や工期の短縮につながる。また、組み立ての手順と、それに関わるタスクの依存関係を明確にし、プロセスモデルを精度よく作成することができる。また、ルール情報を利用することにより、時間発展系シミュレーションにおける作業員が的確に仮想的な作業を進めることや設備を決めることが容易になる。
また、ファシリティモデルは、設備と作業員に関する情報に基づいて予め作成され、標準化したデータ構造で表現して統一データベースに蓄積されたものである場合は、ファシリティモデルが統一データベースに標準化したデータ構造として蓄積されているため、標準化したデータ構造のファシリティモデルの取得や、共同利用、設定、新たな情報の蓄積等を簡便に行うことができる。
また、プロダクトモデルは、船舶の基本設計情報に基づいて予め作成され、標準化したデータ構造で表現して統一データベースに蓄積されたものである場合は、プロダクトモデルの取得を、例えば、設計システムにアクセスすることなく簡便に行うことができる。また、プロダクトモデルが、例えば、情報の種類や属性、また複数の情報間の関係性を標準化したデータ構造であるため、プロダクトモデルの取得やプロセスモデルの作成をより簡便に行うことや蓄積を容易に行うことができる。
また、プロセスモデル作成ステップで作成された標準化したデータ構造で表現したプロセスモデルを統一データベースに蓄積するプロセスモデル蓄積ステップをさらに実行する場合は、例えば、次のシミュレーションの機会、又は類似した船舶のシミュレーションにおける過去船プロセスデータとして、蓄積したプロセスモデルを用いて時間発展系シミュレーションを行うことができる。また、例えば、プロセスモデルのデータ構造が、情報の種類や属性、また複数の情報間の関係性を標準化したものであるため、プロセスモデルの蓄積や利用が容易となる。
また、プロセスモデル蓄積ステップを予め実行してプロセスモデルを統一データベースに蓄積し、シミュレーションステップで統一データベースからプロセスモデルを取得してシミュレーションステップ、時系列情報化ステップ、及び情報提供ステップを実行する場合は、いざ時間発展系シミュレーションを行おうとする際にプロセスモデルを作成する時間を省くことができる。また、他のコンピュータや他の場所に設置したコンピュータで、統一データベースからプロセスモデルを取得し、時間発展系シミュレーションを行うことができる
た、タスクは、時間発展系シミュレーションで実行可能な関数であるベーシックタスクを組み合わせて構築されるカスタムタスクを含む場合は、作業の種類別に小さな作業を組み合わせたカスタムタスクにより、時間発展系シミュレーションの精度を向上させることができる。
また、プロセスモデル作成ステップにおいて、組み立て手順とタスクに基づいて作業員のスケジュール情報を作成する場合は、スケジュール情報に基づき、主作業や付随作業まで含めた作業員のすべての生産行為を精密に再現して時間発展系シミュレーションを行うことができる。
また、プロセスモデル作成ステップにおいて、組み立て手順とタスクに基づいて、工場内の設備と作業員の配置に関する工場レイアウト情報を作成する場合は、設備と作業員の配置が反映された工場レイアウト情報に基づき、時間発展系シミュレーションを行うことができる。
また、情報提供ステップで、スケジュール情報及び工場レイアウト情報の少なくとも一方を提供する場合は、ユーザは作成されたスケジュール情報及び工場レイアウト情報の少なくとも一方を、直接又は間接的に必要に応じて確認することができる。
また、プロセスモデルの作成に当たって、過去に建造した過去船のプロセスデータを統一データベースから取得し、流用する場合は、基本設計情報に基づきプロダクトモデルやファシリティモデルが変更された場合に、一からプロセスモデルを作成するよりも少ない労力で、早く精度よくプロセスモデルを作成することができる。なお、プロセスデータには、プロセスモデルを含み、プロセスデータも標準化したデータ構造で表現して統一データベースに蓄積することができる。
また、シミュレーションステップにおける時間発展系シミュレーションは、時間ごとの船舶の完成部品又は構成部品の位置、設備及び作業員の位置と占有状況、組み立てとタスクの進行状況を逐次計算するものである場合は、船舶の建造に関わる時間発展系シミュレーションを精度よく行うことができる。
また、ルール情報として、判断ルールであるブレインを含むルール情報を利用する場合は、繰り返し作業ではなく現場で判断することが非常に多い作業を作業員がブレインを利用して判断し、仮想的な作業を円滑に進めることができる。
また、プロダクトモデル、ファシリティモデル、及びプロセスモデルの標準化したデータ構造は、少なくとも複数のデータの種類ごとに分けたクラスと、クラス間の関係、及びクラス間の親子関係を含むデータ構造を有する場合は、プロダクトモデル、ファシリティモデル、及びプロセスモデルの取得や蓄積、利用等が、クラスやクラス間の関係を軸としたデータ構造により容易となる。
また、建造時系列情報は、ガントチャート、作業分解構成図、作業手順書、工数、又は動線の少なくとも一つを含む場合は、このような建造時系列情報を具体化した情報を提供することにより、ユーザは時間発展系シミュレーションの結果としての建造時系列情報を知って、構成部品又はファシリティの変更や、ボトルネックの分析・解明、工数予測など、建造に有益な知見を得ることができる。
また、情報提供ステップにおいて、少なくとも建造時系列情報を標準化したデータ構造として、統一データベースに提供する場合は、建造時系列情報として提供する情報の種類や属性、またフォーマット等を、プロダクトモデル等との関係性を考慮して建造時系列情報としての標準化したデータ構造で、統一データベースに容易に蓄積ができる。また、標準化したデータ構造として蓄積した建造時系列情報を、例えば、統一データベースから取得して、実際の船舶の建造時に参照したり、後のシミュレーション時の情報として利用したり、ルール情報の機械学習に活用したりすること等ができる。
また、時系列情報化ステップで時系列データ化された建造時系列情報を検証する検証ステップと、検証の結果に基づいてプロダクトモデル及びファシリティモデルの少なくとも一方を修正するモデル修正ステップをさらに実行する場合は、プロダクトモデルやファシリティモデルを修正すべきか否かを、建造時系列情報を所期目標に基づいて検証することによって判別し、プロダクトモデルやファシリティモデルを適切に修正することができる。
また、モデル修正ステップで、プロダクトモデル及びファシリティモデルの少なくとも一方を修正した場合は、修正されたプロダクトモデル及びファシリティモデルの少なくとも一方に基づいて、プロセスモデル作成ステップと、シミュレーションステップと、時系列情報化ステップと、検証ステップを繰り返す場合は、プロダクトモデルやファシリティモデルを修正した、船舶の建造が目標の範囲内に収まるシミュレーション結果を得ることができる。
また、本発明の統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーションプログラムによれば、ユーザは船舶の建造を標準化したデータ構造で表現された情報に基づいて、時間ごとに細かな作業レベルでシミュレーションすることが可能となり、その精度の高いシミュレーション結果としての建造時系列情報に基づいて工場の改善、生産設計の改善、受注時のコスト予測、及び設備投資などを検討することができるため、建造コストの低減や工期の短縮につながる。
また、コンピュータに、プロセスモデル蓄積ステップをさらに実行させる場合は、例えば、次のシミュレーションの機会、又は類似した船舶のシミュレーションにおける過去船プロセスデータとして、蓄積したプロセスモデルを用いて時間発展系シミュレーションを行うことができる。また、例えば、プロセスモデルのデータ構造が、情報の種類や属性、また複数の情報間の関係性を標準化したものであるため、プロセスモデルの蓄積や利用が容易となる。
また、コンピュータに、検証ステップと、モデル修正ステップをさらに実行させる場合は、プロダクトモデルやファシリティモデルを修正すべきか否かを、建造時系列情報を所期目標に基づいて検証することによって判別し、プロダクトモデルやファシリティモデルを適切に修正することができる。
本発明の第一の実施形態による統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーション方法のフロー 同建造シミュレーション方法に用いるシミュレータのブロック図 同全体概要図 同プロダクトモデルの例を示す図 同5枚板モデルの結合関係を示す図 同第一の板P1の3次元モデルを示す図 同3枚板モデルのプロダクトモデルの例を示す図 同ファシリティの3次元モデルの例を示す図 同ファシリティモデルの例を示す図 同プロセスモデルの概念図 同プロセスモデル作成ステップの詳細フロー 同5枚板モデルの組立ツリーの例を示す図 同3枚板モデルの組立ツリーの例を示す図 同全タスクの関係をツリーとして表現した例を示す図 同3枚板モデルのタスクツリーの例を示す図 同3枚板モデルのタスクツリーのデータの例を示す図 同3枚板モデルにおける作業員へのタスクの割り振りとタスクの順番の例を示す図 同実際にシミュレーション空間に配置した例を示す図 同3枚板モデルにおける工場レイアウト情報の例を示す図 同シミュレーションステップの詳細フロー 同ブレインを利用したシミュレーションの様子を示す図 同シミュレーションステップの疑似コードを示す図 同ベーシックタスクの例として移動タスク(move)を示す図 同ベーシックタスクの例として溶接タスク(weld)を示す図 同ベーシックタスクの例としてクレーン移動タスク(CraneMove)を示す図 同配材タスク「取りに行く」の例を示す図 同配材タスク「配置する」の例を示す図 同本溶接タスクをベーッシックタスクの組合せで表現した例を示す図 同2つの入り口がある壁で囲まれた領域のうち、移動可能なメッシュを構成した例を示す図 同形状データの例を示す図 同溶接線データの例を示す図 同裏焼き線データの例を示す図 同プロダクトモデルデータの例を示す図 同ポリラインデータの例を示す図 同組立ツリーデータの例を示す図 同タスクツリーデータの例を示す図 同出力処理の詳細フロー 本発明の第二の実施形態による統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーション方法のフロー 同建造シミュレーション方法に用いるシミュレータのブロック図 本発明の実施形態によるプロダクトモデルの標準化したデータ構造の例を示す図 同ファシリティモデルの標準化したデータ構造の例を示す図 同プロダクトモデル、ファシリティモデル、及びプロセスモデルの標準化したデータ構造の例のうち、プロダクトモデルを示す図 同プロダクトモデル、ファシリティモデル、及びプロセスモデルの標準化したデータ構造の例のうち、ファシリティモデルを示す図 同プロダクトモデル、ファシリティモデル、及びプロセスモデルの標準化したデータ構造の例のうち、プロセスモデルを示す図 本発明の実施例によるケース1の組立シナリオにおけるシミュレーションの計算結果のガントチャート 同ケース2の組立シナリオにおけるシミュレーションの計算結果のガントチャート 同ケース2におけるシミュレーションの3次元的な外観図
本発明の第一の実施形態による統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーション方法、及び建造シミュレーションプログラムについて説明する。
図1は本実施形態による統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーション方法のフロー、図2は建造シミュレーション方法に用いるシミュレータのブロック図、図3は全体概要図である。
統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーション方法は、船舶の建造を、統一データベース70に蓄積された標準化したデータ構造で表現された情報に基づいてシミュレーションするものである。この方法においては、作業員の詳細な動き、すなわち要素作業の動きまでを建造シミュレーション内で表現することを目的に、仮想的な造船工場を構築するために必要な情報を整理する。造船工場は、プロダクト(製品)モデル、ファシリティ(道具を含む設備・作業員)モデル、及びプロセス(作業)モデルという、3つのモデルから構築される。この3つのモデルが、造船工場をモデル化するために必要な核となるデータである。また、シミュレーションを実施するにあたり、これらの情報を補完する2つの付随情報として、スケジュール情報31と工場レイアウト情報32を併せて定義する。
なお、プロダクトモデルは実際の製品を、ファシリティモデル72は実際の設備や作業員を抽象化しシミュレーションで扱えるようにした体系化されたデータ群であり、仮想的な製品、設備や作業員であるともいえる。また、プロセスモデルは、プロダクトモデルとファシリティモデル72により導かれる仮想的な作業の体系であるともいえる。
建造シミュレーション方法に用いるシミュレータは、プロダクトモデル設定部10と、ファシリティモデル設定部20と、建造シミュレーション部30と、情報提供部40と、検証部50と、モデル修正部60と、プロセスモデル蓄積部80を備え、船舶の建造に関わる情報を標準化したデータ構造で蓄積する統一データベース70と接続されている。
統一データベース70には、基本設計情報71と、設備情報72A及び作業員情報72Bを有するファシリティモデル72と、過去船のプロセスデータ73と、ルール情報74と、品質情報77が蓄積されている。このように統一データベース70に各種情報を蓄積することで、情報の種類ごとに別々のデータベースが設けられている場合と比べて情報の蓄積や取得が容易となり、情報の共同利用が可能となり、またデータベースの管理を一元化することができる。なお、統一データベース70は、物理的にまとまったデータベースであってもよいし、通信回線を介して連係する分散型のデータベースであってもよい。まとまったデータベースであっても、分散型のデータベースであっても、基本的に蓄積された各種情報がそれぞれの標準化したデータ構造を有していること、又は標準化したデータ構造を有するように変換し得ることが重要であり、各種情報がそれぞれの標準化したデータ構造を有すること、又は標準化したデータ構造に変換し得ることをさして「統一」ともいう。
ファシリティモデル72は、工場の設備と作業員に関する情報(設備情報72A及び作業員情報72B)に基づいて予め作成し、標準化したデータ構造で表現して統一データベース70に蓄積されたものである。ファシリティモデル72の「標準化したデータ構造」とは、設備と作業員に関する情報の種類や属性をクラスとして定義しておくことであり、クラス同士の親子関係等といった関係性を情報のツリーとして定義する。なお、工場の設備には道具も含まれる。
図1に示すプロダクトモデル設定ステップS1においては、プロダクトモデル設定部10を用い、船舶の基本設計情報71を取得してプロダクトモデルとして設定する。
基本設計情報71には、船舶の完成部品と完成部品を構成する構成部品の結合関係が含まれている。例えば、プロダクト(製品)が船殻である場合、完成部品は船殻を構成するブロック(区画)であり、構成部品はブロックを構成する板材である。結合関係は、ノード(Node,部品の実体情報)とエッジ(Edge,部品の結合情報)で表現される。なお、船舶の完成部品として船舶全体を設定し、構成部品を船体、船殻、バラストタンク、燃料タンク、主機、補機、配管、配線等の船舶を構成する部品に位置付けることもできる。
基本設計情報71は、統一データベース70に蓄積されている。これにより、基本設計情報71の取得を、例えば、設計システムにアクセスすることなく簡便に行うことができる。
また、基本設計情報71は、CADシステム(図示なし)から取得することもできる。CADシステムから基本設計情報71を取得することにより、CADシステムで作成された基本設計情報71をプロダクトモデルの設定等に有効利用できる。なお、基本設計情報71には、例えば、船殻の設計CADデータを変換したノードとエッジで表現される結合関係を含む情報も含めることができる。この結合関係を含む情報は、CADシステムで予め変換して得てもよいし、基本設計情報71を取得後にプロダクトモデル設定部10で変換して得てもよい。また、CADシステムから取得する基本設計情報71が、各CADシステムにおける独自のデータ構造で保持されている場合は、プロダクトモデル設定部10において、CADデータをシミュレーションで利用できるデータ構造に変換する。また、CADシステムからの基本設計情報71の取得は、通信回線を介した取得の他、近距離無線通信や記憶手段を用いた取得等、様々な手段を利用して行うことができる。
プロダクトモデルでは、組立対象のプロダクトに関わる情報として、プロダクトを構成する部品自身の属性情報ならびに部品間の結合情報を定義する。プロダクトモデルには、プロダクトの組立に関わる作業(組み立て手順、プロセス)の情報は含まれない。
プロダクトは構成部品である実体をもつ部品同士が個々に結合されていると考える。そこでプロダクトモデルは、グラフ理論に基づきノードとエッジで表現されるグラフ構造を用いて定義する。ノード同士の結合であるエッジには方向性は無いとし、無向グラフとする。
図4はプロダクトモデルの例を示す図、図5は5枚板モデルの結合関係を示す図である。なお、図5の5枚板モデルは、説明の便宜上、簡略化したプロダクトモデルを示しているが、プロダクトモデルの対象としては、複雑な船殻のブロックや、船体構造、また船舶全体まで含めることが可能である。
ここでは、図4(a)に示すような二重底ブロックを、図4(b)に示すように簡略化した5枚板モデルを対象としている。厳密には異なるが、第一の板P1がインナーボトム、第三の板P3がボトムシェル、第二の板P2と第四の板P4がガーダー、第五の板P5をロンジと見立てて簡略化している。カラープレートやフロアがなく、ロンジも本数が少ないなど、実際の完成部品とは異なるものの、十分かつ本質的な要素を抽出している。
この完成部品は、図5に示される結合関係で定義される。各板P1~P5が構成部品実体のノードに該当し、それらの結合関係であるline1~line5がエッジに該当する。ここでは簡単のために5枚板モデルを用いているが、数多くの構成部品で構成される実際の完成部品においても、構成部品実体とそれらの結合関係で完成部品全体を定義することができるため、同様なグラフ表現を用いてプロダクトモデルを定義することが可能である。
図6は第一の板P1の3次元モデルを示す図である。
プロダクトの構成部品の形状は、3DCADモデルを入力することで定義できる。図6に示すように、3次元モデルの座標系は、その部材全体を囲む四角形(Bounding-box)を定義し、その四角形の8頂点のうち、x,y,z座標値が最小となる頂点が原点位置になるように3次元モデルを配置した。またシミュレーションの実行中は、3次元モデルに定義した基準点の位置(ローカル座標系、又はグローバル座標系における座標)、姿勢情報(初期姿勢を基準としたオイラー角・クォータニオン)を随時参照できるものとする。
構成部品同士の接合情報を示すエッジには、当該構成部品同士の接合情報を示す必要がある。本実施形態では、簡単のために、完成部品の完成状態の座標系における、それぞれの構成部品の位置・姿勢の情報を与える。具体的には、各構成部品に対して基準点とする3点を任意に与え、その3点が完成状態の座標系において、どこに位置するか、という座標データで情報を保持する。その情報を用いることで、任意の構成部品間の位置関係を算出することが可能である。
溶接線情報は、3次元的な情報で保持される。例えば、1本の溶接線は、溶接線経路(ポリライン)と、溶接トーチの方向ベクトル(法線ベクトル)で構成されるとする。これらの情報は、完成部品の完成状態の座標系において定義されるデータとし、実際にシミュレーションにて溶接タスク(カスタムタスク33)が実施される際に、そのタイミングにおける構成部品の位置・姿勢に基づき、溶接線データに対して座標変換を行う。溶接線経路に加えて、トーチの方向も定義することで、溶接中の作業員の位置を定義することができる。さらに溶接中のトーチの向きを認識することができるため、溶接姿勢を判定することが可能となる。
このように、プロダクトモデルには、構成部品同士の連結関係、連結部における接合データ、及び完成部品における構成部品の位置と角度などの情報が含まれる。なお、CADシステムの性能によっては、CADシステムから取得する基本設計情報71にプロダクトモデルの作成に必要なデータが一部含まれない場合がある。例えば、裏焼き線データを取り扱えるCADシステムは少数である。そのような場合は、プロダクトモデル設定ステップS1において、基本設計情報71に含まれなかったプロダクトモデルの作成に必要なデータの作成を行う。
以上説明したデータについてまとめると、プロダクトモデルは、下表1及び下表2に示すようなノードとエッジの情報として整理される。
また、図7は3枚板モデルのプロダクトモデルの例を示す図である。
図7では、構成部品(第一の板P1、第二の板P2、第三の板P3)間の接合関係が登録されたデータベースであるプロダクトモデルを示している。「name」は名前、「parent」は親プロダクト、「type」は種別である。なお、各板P1~P3の基準座標3点(vo(0,0,0),vx(1,0,0),vz(0,0,1))は省略している。また、データには本来は対象IDを記載するが、説明用に「name」で記載している。
上述のように、プロダクトモデルには、組立に関わる作業(プロセス)の情報は含まれない。
図1に戻り、ファシリティモデル設定ステップS2においては、ファシリティモデル設定部20を用い、標準化したデータ構造で表現したファシリティモデル72を設定する。
ファシリティモデル設定ステップS2においては、船舶を建造する工場の設備と作業員に関する情報(データ)を統一データベース70から取得して標準化したデータ構造で表現したファシリティモデル72として設定することもできるが、本実施形態では、上述のように予め作成されたファシリティモデル72が統一データベース70に蓄積されているため、標準化したデータ構造で表現されたファシリティモデル72を統一データベース70から直接取得して設定する。ファシリティモデル72が統一データベース70に標準化したデータ構造として蓄積されていることにより、標準化したデータ構造のファシリティモデル72の取得や、共同利用、設定、新たな情報の蓄積等を簡便に行うことができる。
ファシリティモデル72では、工場のファシリティに関する情報として、ファシリティの個別の名前(例えば、溶接機No.1)、種別(例えば、溶接機)に加えて、個々のファシリティが有する能力値を定義する。能力値には、そのファシリティが有する機能の最大値(範囲)を定義する。例えば、クレーンが有する能力値の一つとしては、吊り上げ荷重値や速度などが挙げられ、その能力値範囲は、最大吊り上げ荷重値や最大速度となる。
また、プロダクトだけでなく、ファシリティも作業員の移動経路上の障害物になり得るため、3次元モデルを用いて形状を定義する。それにより、シミュレータ内では、オブジェクト同士の3次元的な干渉を判断することも可能となる。ここで図8はファシリティの3次元モデルの例を示す図であり、図8(a)は作業員、図8(b)は溶接機、図8(c)はクレーン、図8(d)は床、図8(e)は定盤である。
ファシリティモデル72が保持する具体的な属性情報を下表3に示す。
また、図9はファシリティモデルの例を示す図である。
図9では、工場のファシリティが登録されたデータベースであるファシリティモデルを示している。「name」は名前、「type」は種別、「model_fwile_path」は形状(3次元モデルデータ)、「ability」は能力(ファシリティの能力値範囲を定義)である。
このように、プロダクトモデルにおける完成部品と構成部品、及びファシリティモデル72における工場の設備を3次元モデルで表現する。3次元モデルを利用することで、シミュレーションの精度を向上させることができる。
図1に戻り、プロセスモデル作成ステップS3では、プロダクトモデルとファシリティモデル72に基づいて、船舶を構成部品から建造するための組み立て手順とタスクを明確化し標準化したデータ構造で表現したプロセスモデルを作成する。ここで、先にプロダクトモデルとファシリティモデル72が設定され、後からプロセスモデルを作成する点が重要である。この順番に進めることで、的確に、後戻りすることなくプロセスモデルが作成でき、後の処理が滞りなくできる。
図10はプロセスモデルの概念図である。
プロセスモデルは、一連の組立工程に関わる作業情報が定義されたデータである。プロセスモデルは、船舶を構成部品から建造するための組み立て手順として組み立ての依存関係を表す組立ツリーと、組立ツリーに基づいたタスク間の依存関係を表すタスクツリーを含む。これにより、組み立ての手順と、それに関わるタスクの依存関係を明確にし、プロセスモデルを精度よく作成することができる。ここでタスクとは、カスタムタスク33を含む一単位の作業を指す。
図11はプロセスモデル作成ステップの詳細フローである。
まず、プロダクトモデル設定ステップS1で設定したプロダクトモデルと、ファシリティモデル設定ステップS2で作成したファシリティモデル72を、建造シミュレーション部30に読み込む(プロセスモデル作成情報読込ステップS3-1)。
次に、プロセスモデルの作成に当たって、過去に建造した過去船のプロセスデータ73を統一データベース70から参照し、流用するか否かを選択する(流用判断ステップS3-2)。
流用判断ステップS3-2において、流用しないことを選択した場合は、過去船のプロセスデータ73を参照せずに、構成部品の中間部品を含む組み立て手順を組立ツリーとして定義し(組立ツリー定義ステップS3-3)、組み立て手順の各段階における適切なタスクを定義し(タスク定義ステップS3-4)、タスクの依存関係としての前後関係をタスクツリーとして定義する(タスクツリー定義ステップS3-5)。
一方、流用判断ステップS3-2において、流用することを選択した場合は、統一データベース70から類似のプロセスデータを抽出し(過去船プロセスデータ抽出ステップS3-6)、組立ツリー定義ステップS3-3、タスク定義ステップS3-4、及びタスクツリー定義ステップS3-5において、抽出した過去船のプロセスデータ73を参照して流用する。過去船のプロセスデータ73を流用することで、基本設計情報71に基づきプロダクトモデルやファシリティモデル72が変更された場合に、一からプロセスモデルを作成するよりも少ない労力で、早く精度よくプロセスモデルを作成することができる。なお、プロセスデータ73には、プロセスモデルを含み、プロセスデータ73も標準化したデータ構造で表現して統一データベース70に蓄積することができる。
ここで、図12は5枚板モデルの組立ツリーの例を示す図である。
組立ツリー定義ステップS3-3において、組立ツリーには、中間部品の情報(名前、部品の姿勢)及び組み立ての前後関係の情報を定義する。部品の組立順番には前後関係が存在するため、組立ツリーは有向グラフで表現される。
中間部品とは、幾つかの部材が結合した状態の構成部品であり、中間部品と部材、又は中間部品同士を組み立てることで完成部品となる。図12では、第一の板P1と第二の板P2と第四の板P4が組み合わされて第一の中間部品U1を成し、第三の板P3と第五の板P5が組み合わされて第二の中間部品U2を成し、第一の中間部品U1と第二の中間部品U2を組み合わせて完成部品SUB1を成す状態を示している。なお、第一の中間部品U1を組み立てるにあたっては第一の板P1をベースとし、第二の中間部品U2を組み立てるにあたっては第三の板P3をベースとし、完成部品SUB1を組み立てるにあたっては第二の中間部品U2をベースとしている。
組立ツリーの定義に必要な属性情報を下表4に示す。これらの情報をすべての中間部品及び完成部品において定義する。
また、図13は3枚板モデルの組立ツリーの例を示す図である。「name」は名前、「product1(base)」は接合する対象部品のうちベースとする部品、「product2」は接合する対象部品、「中間部品における構成部品の座標変換情報」は中間部品の定義である。なお、中間部品や完成部品の基準座標3点(vo(0,0,0),vx(1,0,0),vz(0,0,1))は省略している。また、データには本来は対象IDを記載するが、説明用に「name」で記載している。
図13の3枚板モデルでは、第一の板P1と第二の板P2が組み合わされて中間部品を成し、その中間部品に第三の板P3が組み合わされて完成部品を成す。なお、中間部品を組み立てるにあたっては第一の板P1をベースとし、完成部品を組み立てるにあたっては第三の板P3をベースとしている。
タスクツリー定義ステップS3-5において、タスクツリーには、タスクに必要な情報とタスク同士の前後関係の情報を定義する。例えば、タスク定義ステップS3-4において、下表5に示す3種類のタスクを定義する。
ここで、図14は全タスクの関係をツリーとして表現した例を示す図である。
図14は、5枚板モデルに対して、P1~P5の各板(鋼板)を所定の位置に配材して、仮溶接及び本溶接を行うことで、完成部品を組み立てるシナリオを想定したものである。
タスクには前後関係があるため、タスクツリー定義ステップS3-5において、タスクのツリーは有向グラフで表現される。例えばタスク[仮溶接0]は、[配材0]、[配材1]、[配材2]のすべてのタスクを完了してからでないと開始することが出来ないことを意味している。
また、タスクツリーが有する具体的な属性情報を下表6に示す。例えば、タスク[配材 0]では、オブジェクト[第二の板P2]をファシリティ[クレーン 1]を用いて、オブジェクト[定盤 2]上の位置 (8m,0m,2m)に、オイラー角 (0,0,0) の姿勢で配置されるように運搬する、という情報が定義される。配材タスクでは始点の座標を定義しておらず、シミュレーション実施時に当該タスクの実行時点における座標から開始される。他にも同様にタスク[本溶接0]は、エッジ[line1](第一の板P1と第二の板P2との結合部)を対象にファシリティ[溶接機 2]を用いて、0.2m/sの速度で本溶接する、という情報が定義される。ただし、このタスクはタスクの前後関係から、タスク[仮溶接0]が完了してからでなければ開始することは出来ない。溶接経路の情報はプロダクトモデルの当該エッジに関連付けられた情報を参照する。
また、図15は3枚板モデルのタスクツリーの例を示す図であり、右側の表は左側のグラフ図を表現している。また、図16は3枚板モデルのタスクツリーのデータの例を示す図である。図16の「name」は名前、「task type」は種別、「product」は関連する部品、「facility」は関連するファシリティ、「conditions」はタスクツリー情報、「task data」はタスク情報(そのタスクに必要な固有のデータ)である。なお、データには本来は対象IDを記載するが、説明用に「name」で記載している。
この例では、図15に示すように、3枚板モデルに対して、P1~P3の各板(鋼板)を所定の位置に配材して、仮溶接及び本溶接を行うことで、完成部品を組み立てるシナリオを想定している。
また、図11に示すように、プロセスモデル作成ステップS3においては、組み立て手順とタスクに基づいて作業員のスケジュール情報31を作成する(スケジュール情報作成ステップS3-8)。図11に示されるように、組み立て手順を先に決めて、タスクを決めることが重要であり、これにより、的確に、後戻りすることなくプロセスモデルが作成でき、後の処理が滞りなくできる。すなわち、組立ツリーを先に作成し、後からタスクツリーを作成する。
スケジュール情報31は、各行動主体となる作業員に対してタスクを順番も含めて割り当てたものである。これにより、スケジュール情報31に基づき、主作業や付随作業まで含めた作業員のすべての生産行為を精密に再現してシミュレーションを行うことができる。また、スケジュール情報31は、情報提供部40が備えるモニタやプリンタ等からユーザに提供される。これにより、ユーザは作成されたスケジュール情報31を、直接又は間接的に必要に応じて確認することができる。なお、スケジュール情報31は、ユーザの要望があったときのみ提供することも可能である。
プロセスモデルでは組立ツリーとタスクツリーに関わる情報が定義されたが、スケジュール情報31ではタスクツリーで定義されたそれぞれのタスクに対して、担当作業者の割り振りと、タスクの具体的な実行順番が定義される。
スケジュール情報31の作成例を下表7に示す。この例では、作業員1は鉄工職の作業者を想定しており、配材タスクと仮溶接タスクが割り当てられている。作業員1は、タスク[配材0]から開始し、タスク[仮溶接4]まで順次実施する。一方、作業員2は溶接職の作業者を想定しており、本溶接タスクが順番に割り当てられている。作業員2は、タスク[本溶接0]から開始し、タスク[本溶接3]まで順次実施する。
また、図17は図15、16で示した3枚板モデルにおける作業員へのタスクの割り振りとタスクの順番の例を示す図であり、図17(a)は作業員1へのタスクの割当てとタスク順番を示し、図17(b)は作業員2へのタスクの割当てとタスク順番を示し、図17(c)はデータ形式のスケジュール情報である。なお、データには本来は対象IDを記載するが、説明用に「name」で記載している。
また、図11に示すように、本実施形態では、スケジュール情報作成ステップS3-8の前に、ファシリティモデル72に基づいて、タスクがファシリティの能力値範囲を超えるか否かを判断する(能力値範囲判断ステップS3-7)。
能力値範囲判断ステップS3-7において、タスクがファシリティの能力値範囲を超えないと判断した場合は、スケジュール情報作成ステップS3-8に進んでスケジュール情報31を作成する。このように、タスクがファシリティの能力値範囲を超えないと判断した場合にスケジュール情報31を作成することで、ファシリティやタスクの能力値を超えたシミュレーションが行われるスケジュール情報31を作成することを防止できる。また、作成したプロセスモデルは情報提供部40からユーザに提供される。
一方、能力値範囲判断ステップS3-7において、タスクがファシリティの能力値範囲を超えると判断した場合は、組立ツリー定義ステップS3-3、タスク定義ステップS3-4、及びタスクツリー定義ステップS3-5に戻り、中間部品の定義、組立ツリーの定義、タスクの定義、及びタスクツリーの定義を再定義する。各定義を再定義することにより、より精度の高いプロセスモデルを作成することができる。
スケジュール情報作成ステップS3-8の後、組み立て手順とタスクに基づいて、実際に使用する工場内の設備と作業員の配置に関する工場レイアウト情報32を作成する(工場レイアウト情報作成ステップS3-9)。これにより、設備と作業員の配置が反映された工場レイアウト情報32に基づき、シミュレーションを行うことができる。また、工場レイアウト情報32は、情報提供部40が備えるモニタやプリンタ等からユーザに提供される。これにより、ユーザは作成された工場レイアウト情報32を、直接又は間接的に必要に応じて確認することができる。なお、工場レイアウト情報32は、ユーザの要望があったときのみ提供することも可能である。
これまで定義したプロダクトモデル及びファシリティモデル72には、工場での配置情報を定義していない。そこで工場レイアウト情報32では、各オブジェクトの初期配置を定義する。必要な属性情報を下表8に示す。また、図18は実際にシミュレーション空間に配置した例を示す図である。
また、図19は3枚板モデルにおける工場レイアウト情報の例を示す図である。なお、データには本来は対象IDを記載するが、説明用に「名前」で記載している。
プロダクトモデル、ファシリティモデル72のデータベースから、実際にシミュレーションに利用する部品、ファシリティの配置情報をlayout.csvで定義している。
図1に戻り、プロセスモデル作成ステップS3の後は、プロセスモデル蓄積部80を用い、作成された標準化したデータ構造で表現したプロセスモデルを統一データベース70に蓄積する(プロセスモデル蓄積ステップS4)。プロセスモデル蓄積ステップS4を実行することで、例えば、次のシミュレーションの機会や類似した船舶のシミュレーションにおける過去船のプロセスデータ73として、蓄積したプロセスモデルを用いて時間発展系シミュレーションを行うことが可能となる。
また、例えば、プロセスモデルのデータ構造が、情報の種類や属性、また複数の情報間の関係性を標準化したものであるため、プロセスモデルの蓄積や利用が容易となる。プロセスモデルの「標準化したデータ構造」とは、プロセスに関する情報、例えば、要素作業としてのタスク(属性情報に開始時間や終了時間等を持たせたもの)等の情報の種類や属性をクラスとして定義しておくことであり、クラス同士の親子関係等といった関係性を情報のツリーとして定義する。
なお、統一データベース70に蓄積された標準化したデータ構造の品質情報77を、プロセスモデルの作成に利用することもできる。例えば、組立ツリーやタスクツリーの定義や作成、またスケジュール情報31や工場レイアウト情報32の作成に当たって、品質情報77としての品質基準や、過去の品質状況を考慮して作成することができる。さらに、過去船の設計条件や製造条件と検査結果、就航試験や就航後の品質として蓄積された品質状況を考慮して、プロセスモデル等を作成することができる。例えば、溶接時の作業標準、組み立て部品と溶接欠陥の起こりやすさとの関係、補修を要した過去の事例、非破壊検査時の不具合と事前対策方法、また就航後の劣化や不具合の発生と対策方法等を考慮して、プロセスモデルやスケジュール情報31、また、工場レイアウト情報32を作成できる。
また、プロセスモデル作成ステップS3の後は、作成したプロセスモデルに基づいて時間ごとの建造の進行状況を逐次計算する時間発展系シミュレーション(3次元空間上の時間発展)を行う(シミュレーションステップS5)。
時間発展系シミュレーションにおいては、プロセスモデルを基に、3次元プラットフォーム上での各ファシリティとプロダクトの位置と占有状況、カスタムタスク33の進捗状況を変化させることで、造船における建造をシミュレーションする。なお、乱数を与えて中間部品の精度をあえて悪くし、その影響を下流の工程に至るまでシミュレーションすることもできる。また、カスタムタスク33とタスクツリーとの関係は、カスタムタスク33をツリー構造で前後関係を表し、繋ぎ合わせたものがタスクツリーとなる。
本実施形態では、3次元プラットフォームをゲームエンジンであるUnity(登録商標)を活用して構築している。
時刻tにおける各ファシリティとプロダクトの位置、角度および占有を表す変数x、xと、プロセスモデルにおけるカスタムタスク33の未完又は完了を表す状態のsの3つを引数とすると、建造シミュレーション部30が定義したスケジュールに記載のカスタムタスク33の順に、タスクに関係する各引数を事前に設定したルールに従って変化させることで、次の時刻t+1へのx、x、sの変化を表すことができる。これにより各引数の時刻歴が出力される。
図20は時間発展系シミュレーションの詳細フローである。
まず、プロダクトモデル設定ステップS1で設定したプロダクトモデルと、ファシリティモデル設定ステップS2で設定したファシリティモデル72と、プロセスモデル作成ステップS3で作成したプロセスモデル、スケジュール情報31、及び工場レイアウト情報32と、統一データベース70から取得した作業員が自律的に仮想的な作業を進めるためのルール情報74に基づいて、3次元プラットフォーム上にオブジェクトを配置する(シミュレーション実行情報読込ステップS5-1)。なお、ルール情報74には、作業員が仮想的な作業で使用する設備を決めるための情報も含むことができる。
ここで、ルール情報74とは、建造シミュレーション部30による自律判断に必要な制約や選択肢である。例えば、溶接タスク(カスタムタスク33)では、使える溶接機の種類だけをルール情報74として指定しておき、どの溶接機を使用するかはシミュレーションの途中で建造シミュレーション部30が自律的に判断する。
すなわち、仮想的な作業員がシミュレーション内でどのように判断するのかを記述したものがルール情報74となる。ルール情報74を利用することにより、シミュレーションにおける作業員が的確に仮想的な作業を進めやすく、また、設備を選択しやすくなる。また、ルール情報74は統一データベース70とは別のデータベースに蓄積しておくこともできるが、本実施形態のようにルール情報74を統一データベース70に蓄積することで、他のシミュレーションでも共通的に利用が可能となる。ルール情報74は、あらかじめカタログのように作成して統一データベース70に蓄積しておく。なお、ルール情報74は、強化学習やマルチエージェント等により自律的に学習させて作成して取得することも可能である。強化学習等により自律的にルール情報74を作成する方法としては、エージェントが建造シミュレーション部30内を自由に動き回り効率的なルールを学習してルール情報74を生成する手法を用いる。ルール情報74の一例は以下の通りである。
ルール1A:空いている近い道具を取得する。
ルール1B:後工程でも空いている近い道具を取得する。
ルール2:クレーンを使用する場合、クレーン同士の干渉によって他の工程が妨げられないようなクレーンを選択する。
ルール3:使用後、マグネット式の釣り具は台車の上に置く。
ルール4:作業場所が同じ後の工程について、道具をまとめて取ってくる。
これらのルールは、時間発展系シミュレーションを行う以前に作業員に割り当てておくものであり、例えば以下のようになる。
作業員1:ルール1A
作業員2:ルール1B、ルール2、ルール3、ルール4
作業員1は新人を想定し、作業員2は熟練者を想定したものである。新人の作業員1は自分のことだけを考えて動くため、他工程の邪魔になったりもする。
ルール情報74により、時間発展系シミュレーションの実施中に、未入力だったタスク情報やスケジュール情報31が自動構築される。本実施形態では、ルール情報74として、作業員に付与される判断ルールであるブレインを含む。
ブレインは、カスタムタスク33に1対1で対応させ、時間発展系シミュレーションを実行する前に構築しておく。時間発展系シミュレーション上では、ブレインを逐次動作させることで、時間発展の中で状況に応じて作業員が判断する様子を再現する。そのため、特に造船工程のような、繰り返し作業ではなく現場で判断することが非常に多い作業を作業員がブレインを利用して判断し、仮想的な作業を円滑に進めることができる。
ルール情報74の一つであるブレインで判断される内容は、大別すると以下の四つである。
1.ある一つのカスタムタスク33に対して、必要な引数を決定する。
2.ある一つの種類(タスクタイプ)に属する複数のカスタムタスク33の中から一つのカスタムタスク33を選択する。
3.複数の種類のカスタムタスク33から一つの種類を選択する。
4.カスタムタスク33を実施中に競合が発生した場合の対応をルールに基づいて選択する。
ブレインによる判断方法においては、まず引数の組合せとして候補群を作成し、その候補群それぞれに対して評価パラメータを抽出し、所定の評価値ルールに基づく評価値の計算を実施し、最終的に最も評価値が高いものを選択する。
評価パラメータの抽出、所定のルール、評価値に基づく選択は、配材タスクを例にすると、それぞれ例えば以下のようになる。
[評価パラメータの抽出]
判断に関わる評価パラメータ群を、時間発展系シミュレーション中に順次取得する。
・p1:作業員の現在地からプロダクトまでの距離
・p2:プロダクトからクレーンまでの距離
・p3:プロダクトから目的地までの距離(目的地は自動計算)
・p4:ベース板か否か(0 or 1)
・p5:干渉無く行動可能か(0 or 1)
[評価値ルール]
v=(p4-0.2*(p1+p2+p3))*p5
[選択]
0より大きい評価値の中で最大の評価値を得たタスクを選択する。
タスク1:v1
タスク2:v2
タスク3:v3
・・・
ブレインの評価値ルールは、手動又は機械学習によって構築する。
手動で構築する場合は、ビデオ分析の結果や作業員に対するヒアリング等を通じてルールを推定し構築する。
機械学習によって構築する場合は、二つの構築方法がある。一つ目の構築方法は、造船工場での作業員、道具、及びプロダクトの動きに関するデータをカメラや位置センサ等を用いたモニタリングにより取得し、取得した大量のデータから、作業員とプロダクトとの距離や作業員と道具との距離などのパラメータXと、作業員のタスク選択結果(判断履歴)Yを整理し、整理したデータを教師データとし、パラメータXからタスク選択結果Yを予測するニューラルネット等の機械学習モデルとして構築するものである。また、二つ目の構築方法は、例えば時間が短いほど良い等の目標を設定し、その目標を報酬とした強化学習を適用し、最適な戦略を自動構築するものである。
タスクタイプごとのブレインの例を下表9に示す。表中の「AtBrain」は配材Atのブレイン、「FtBrain」は仮付Atのブレイン、「WtBrain」は本溶接Wtのブレイン、「DtBrain」は裏焼きDtのブレインである。
カスタムタスク33について、シミュレーション中に自動決定される引数と、事前にタスクツリーで構築しておく引数を下表10に示す。下線が引かれた引数が自動決定される引数、下線が引かれていない引数が事前に構築しておく引数である。
図21はブレインを利用したシミュレーションの様子を示す図であり、図21(a)は配材タスク、図21(b)は溶接タスクである。
配材タスクにおいては、配材場所の制約と配置位置が自動決定される。
溶接タスクにおいては、溶接線の位置などの評価パラメータが取得され、評価値計算が実施される。なお評価値計算では、溶接作業者の近くで別の作業を実施しないなど、溶接領域が考慮される。
図20に示すように、シミュレーション実行情報読込ステップS5-1の後、スケジュール情報31に記載のカスタムタスク33のうち、全行動主体に対して先頭に存在するタスクを実行し、時間を1秒プラスする。(タスク実行ステップS5-2)。カスタムタスク33は事前にメソッドとして定義しておき、割り当てられたカスタムタスク33を状況に応じてルール情報74等に基づき変更する。
時間発展系シミュレーションでは、時間ごとの船舶の完成部品又は構成部品の位置、設備及び作業員の位置と占有状況、組み立て手順とタスクの進行状況を逐次計算する。これにより、船舶の建造に関わる時間発展系シミュレーションを精度よく行うことができる。
次に、カスタムタスク33が終了したか否かを判定する(タスク終了判定ステップS5-3)。
タスク終了判定ステップS5-3において、カスタムタスク33が終了していないと判定した場合は、タスク実行ステップS5-2に戻り、カスタムタスク33を実行する。
一方、タスク終了判定ステップS5-3において、カスタムタスク33が終了したと判定した場合は、終了したカスタムタスク33をスケジュールの先頭から削除し、割り当てられたカスタムタスク33がすべて終了したか否かを判定する(シミュレーション終了判定ステップS5-4)。
シミュレーション終了判定ステップS5-4において、割り当てられたカスタムタスク33がすべて終了していないと判定された場合は、タスク実行ステップS5-2に戻り、カスタムタスク33を実行する。
一方、シミュレーション終了判定ステップS5-4において、割り当てられたカスタムタスク33がすべて終了したと判定された場合は、シミュレーションを終了する。このようにシミュレーションは、すべての予定されたカスタムタスク33がなくなるまで繰り返し実行する。
また、図1に示すように、シミュレーションステップS5においては、時間発展系シミュレーションの途中結果を、情報提供部40から提供する(途中結果提供ステップS5-5)。シミュレーションの途中結果は、例えばタスク実行ステップS5-2が終了するたびにユーザに提供される。ユーザは、提供された途中結果を基に、そのままシミュレーションを続行するか、又はカスタムタスク33等を変更して次のシミュレーションを行うかなどを判断する。これにより、ユーザが途中結果に基づいて判断し、ユーザの意図に沿ったシミュレーションを行いやすくなる。
途中結果提供ステップS5-5における途中結果の提供は、ユーザが例えばシミュレータの実行ボタンを押す際に任意にオン/オフを選択可能であり、オフが選択されている場合は実行されない。一方、オンが選択されている場合は、例えばモニタが閲覧モードとなり、シミュレーションの状況がアニメーション的に流れていく様子が提供され、ユーザは一時停止ボタンを押したり、また再生ボタンを押したりして、逐次確認することができる。ユーザは、一時停止ボタンを押したとき、既に終了しているカスタムタスク33、実施中のカスタムタスク33、及び未実施の予定されているカスタムタスク33を見ることができ、例えば予定されているカスタムタスク33の順番を変更したり、そのカスタムタスク33で使う道具を変更及び指定したりできる。変更後、再生ボタンを押すと、シミュレーションが再開し、変更したシナリオで進行する。
また、シミュレーションステップS5の時間発展系シミュレーションにおいては、予め取得したルール情報74とタスクを利用し、仮想の作業員が自律的に仮想的な作業を進める。具体的には、ルール情報74と、タスクとしてのベーッシックタスクを組み合わせて構成したカスタムタスク33を利用して仮想的な作業を進める。
ルール情報74とは、上述のように例えば、使える溶接機の種類などである。ルール情報74とタスクを利用することにより、シミュレーションにおける仮想の作業員が的確に仮想的な作業を進めやすくなる。
なお、途中結果提供ステップS5-5の後に、ユーザから変更を加えた変更条件を受け付け、変更条件に基づいて時間発展系シミュレーションを実行することも可能である。これにより、ユーザの意向が反映された変更条件を基に精度よくシミュレーションを行うことができる。
図22はシミュレーションの疑似コードを示す図である。
カスタムタスク33を構成するベーシックタスクは、汎用的に使われうる小さな作業を表す。
ベーシックタスクは、時間発展系シミュレーション上で実行可能な関数であり、時間発展系シミュレーションを実行する前に、関数として構築しておく。ベーシックタスクは、引数が与えられ、その引数に関連したシミュレーションのオブジェクトを移動させたり占有したりといった、シミュレーションに必要な基本的な関数である。また、ベーシックタスクは、3次元的な制約を考慮した関数となる。
ベーシックタスクの組合せとしてカスタムタスク33を構築する。タスクが時間発展系シミュレーションで実行可能な関数であるベーシックタスクを組み合わせて構築されるカスタムタスク33を含むことで、作業の種類別に小さな作業を組み合わせたカスタムタスク33により、時間発展系シミュレーションの精度を向上させることができる。
ベーシックタスクの具体例を下表11に示す。なおベーシックタスクは、表11に挙げたもの以外にも多数存在する。
図23はベーシックタスクの例として移動タスク(move)を示す図である。移動タスクの定義は以下の通りである。
・動く主体名と目的地の座標値を引数として持つ。
・シミュレーション上では、特定のスピードで主体者を移動させる関数となる。
・3次元的な地形を考慮して最短経路を自動算出する。
・経路の途中にマンホールやロンジなどの障害物が存在し、当該障害物をくぐったり跨いだりして越える必要がある場合、それに応じて速度を減速させる。
図24はベーシックタスクの例として溶接タスク(weld)を示す図である。溶接タスクの定義は以下の通りである。
・主体名、対象溶接線名、及び利用する溶接機名を引数とする。
・シミュレーション上では、特定の溶接スピードで溶接線近くを移動させる関数となる。
・溶接機には電源ケーブル、トーチ、及びホースを再現し、ケーブルとホースは他のオブジェクトと干渉する。
・溶接線が上向きにある場合と下向きにある場合で溶接速度が変更される。
図25はベーシックタスクの例としてクレーン移動タスク(CraneMove)を示す図である。クレーン移動タスクの定義は以下の通りである。
・主体名と目的地の座標値を引数とする。
・シミュレーション上では、特定の移動スピードで目的地まで移動する関数となる。
・本ベーシックタスクは、主体者が機器(クレーン)となる。機器については、外部からタスクを命じられて実行するという形態をとる。
・他のクレーンとの干渉判定を行い、移動可能な領域を制約として考慮する。
ここで、タスク実行ステップS5-2の前に事前にメソッドとして定義しておくカスタムタスク33について詳細に説明する。カスタムタスク33は以下のように定義される。
・カスタムタスク33は、ベーシックタスクの組合せとして構築するものであり、パターン化又は慣習化された途切れない一連の作業の集合を一つのカスタムタスク33として表現する。例えば、カスタムタスク33が配材タスクの場合は、「物へ移動→物をつかむ→物と移動→物を置く」となる。
・カスタムタスク33に引数が渡され、その引数に基づいて、事前に決められた順番のベーシックタスクを構築していき、最終的にベーシックタスクのリストを構築する。
・カスタムタスク33は、配材タスク、仮付タスク、溶接タスクなど、再現したいタスク毎に構築する。
・カスタムタスク33は、インプットとして共通の引数とタスク毎に固有の引数を持つ。
・カスタムタスク33には、人が主体となるものと、機器が主体となるものがある。例えば、配材タスクの主体は人(作業員)、自動溶接タスクの主体は機器(自動溶接機)となる。
人に割り当てられるカスタムタスク33のタスクタイプ、関数名、及び引数の例を下表12に示し、機器に割り当てられるカスタムタスク33の関数名、及び引数の例を下表13に示す。
図26はカスタムタスクとしての配材タスク「取りに行く」の例を示す図である。なお、ホイストクレーンを使用する。
この配材タスクのタスクタイプは「配材At」、関数名は「AtPick」、共通の引数は「タスク名,タスクタイプ,関数名,対象,利用ファシリティ,先行タスク,主体名,要求ファシリティ種別・個数」、固有の引数はなしとなる。
配材タスク「取りに行く」を構成するベーシックタスクのリストの例を以下に示す。
1.move (主体者,ファシリティの場所)
2.move (主体者とファシリティ,対象の場所)
3.CraneHoist (下げる)
4.Timeout (指定秒数)
5.CraneHoist (上げる)
なお、上記3のベーシックタスクはフックを下降させ、上記4のベーシックタスクは玉掛時間分待機させ、上記5のベーシックタスクはフックを上昇させるものである。
図27はカスタムタスクとしての配材タスク「配置する」の例を示す図である。
この配材タスクのタスクタイプは「配材At」、関数名は「AtPlace」、共通の引数は「タスク名,タスクタイプ,関数名,対象,利用ファシリティ,先行タスク,主体名,要求ファシリティ種別・個数」、固有の引数は「配材先の基準オブジェクト,座標値(x,y,z)、オイラー角(θ,φ,ψ)」となる。
配材タスク「配置する」を構成するベーシックタスクのリストの例を以下に示す。
1.move (主体者,ファシリティと対象,指定された座標値へ)
2.CraneHoist (下げる)
3.Timeout (指定秒数)
4.CraneHoist (上げる)
なお、上記3のベーシックタスクは物を取り外す時間分待機させるものである。
図28はカスタムタスクの一つである本溶接タスクをベーッシックタスクの組合せで表現した例を示す図である。
メソッドとしてのタスクを実行することにより,変数x、x、sを変化させる。そのために、各カスタムタスクそれぞれに対してメソッドを定義するが、そのカスタムタスクをさらに細かなメソッドであるベーッシックタスクの組合せで表現する。
まず、開始条件を確認するベーッシックタスク(Wait_start)は、条件が満たされるまでは待つといったメソッドとなる。
道具を確保するベーッシックタスク(Wait_hold)は、使用する道具がすべて空いていなければ待ち、空いていれば、本タスクのために占有する状態に変化させるといった基本的なメソッドとなる。
また、クレーンによって構成部品を移動させるなどの表現は、移動タスク(move)として表し、指定した速度で位置や角度を変更する。
溶接タスク(weld)は、プロダクトモデルに定義された溶接線情報を基に、溶接開始点までの移動と溶接姿勢に基づく速度で溶接トーチおよび作業者を移動させ、構成部品を次の中間部品へと変化させるといったメソッドとしている。このようなベーッシックタスクの組合せで様々なタスクを表現し、メソッドとして事前(タスク実行ステップS5-2の前)に構築する。
このように、カスタムタスク33はあらかじめ決められた標準的な手順を記載するものである。カスタムタスク33は、時間発展系シミュレーションの前にカタログのように作っておく。カスタムタスク33の一例は以下の通りである。
仮溶接(カスタムタスク33):溶接機を取りに行く+クレーンを取りに行く+部品を吊る+位置をあわせる+仮止めする
このとき、どの道具(溶接機1又は溶接機2など)を選択するかはルール情報74(ルール1A、ルール1B、ルール2など)に基づいて決められる。また、ルール情報74のうちのルール3に関し、マグネット式のクレーンを使っていた場合は、道具を使用後に台車の上に置くという新たなタスクが発生する。もちろん、ルール情報74に基づかずに、使用する道具をユーザが指定することもできる。
また、ベーッシックタスクの中でも移動については、すべてのタスク内の移動経路を手入力することが困難なことが多いと想定されるため、建造シミュレーション部30が経路探索を行い自動判断するように設定することが好ましい。この場合、具体的には、まず移動可能な領域をメッシュで動的に生成し、そのメッシュの頂点と線分を経路と見立て、A*アルゴリズムにより経路を自動算出する。
図29は2つの入り口がある壁で囲まれた領域のうち、移動可能なメッシュを構成した例を示す図である。壁90付近はメッシュが存在しないため、壁90を回り込んで移動するような経路が生成されることとなる。実装には、例えばUnity(登録商標)のNavmeshAgentクラスを活用する。これによりベーッシックタスクでは到達先の地点又は到達先のオブジェクトを指定することで、途中の経路は自動算出され入力の手間を大幅に削減することが可能となる。
ここで、シミュレーションにおいて入力するインプットデータの具体例を下表14に示す。なお、ファシリティに関するデータは除いている。
図30は形状データの例を示す図である。
図30に示すサンプルは、SUB_Fという名前の小組を想定している。すべての部品について、部品ごとのローカル座標系で、かつ安定な姿勢で定義している。なおソリッドモデルとしているが、他のデータ形式とすることもできる。
図31は溶接線データの例を示す図である。
溶接線データは、溶接線1本ごとに定義し、溶接線のポリラインは、完成状態の座標系におけるものである。中央の図において実線は溶接線、点線は溶接線をトーチを当てる逆方向に引いた線である。また、右側の図は側方から見た図であり、「〇」は溶接線の位置、「△」は溶接線をトーチを当てる逆方向に引いた線の位置を示している。
なお、上述のように、本実施形態では溶接線が上向きにある場合と下向きにある場合で溶接速度が変更されるように定義しているが、実際の溶接速度に関するデータを予め取得して、それに基づいて溶接速度を変更することもできる。
図32は裏焼き線データの例を示す図である。
ここでは、ひずみをとる目的で、小組段階で骨の裏側にガスバーナーで火をいれることを想定している。裏焼き線のポリラインは、完成状態の座標系におけるものである。左側の図において実線は裏焼き線、点線は裏焼き線をガスバーナーを向ける逆方向に引いた線である。また、右側の図は側方から見た図であり、「〇」は裏焼き線の位置、「△」は溶接線をガスバーナーを向ける逆方向に引いた線の位置を示している。
図33はプロダクトモデルデータの例を示す図である。
列Aはタイトルが「名前」であり、部品と溶接線の名前が記載されている。列Bはタイトルが「グループ名」であり、属するグループ名が記載されている。列Cはタイトルが「種別」であり、部品であれば「node」、線であれば「edge」が記載されている。列D、Eはタイトルが「node」であり、どの部品と部品をつなげる線かの情報が記載されている。列Fはタイトルが「Path」であり、形状データと溶接線データの保存場所を示すパスが記載されている。列Gはタイトルが「姿勢情報」であり、完成状態における部品の相対位置と角度が記載されている。列Hはタイトルが「重量」であり、部品の重量が記載されている。
図34はポリラインデータの例を示す図である。
列Aはタイトルが「LineName」であり、裏焼き線の名前が記載されている。列Bはタイトルが「LineType」であり、線のタイプが記載されている。列Cはタイトルが「ParentProductName」であり、どの製品(親プロダクト)を基準にするかの情報が記載されている。列Dはタイトルが「Path」であり、裏焼き線データの保存場所を示すパスが記載されている。
図35は組立ツリーデータの例を示す図である。
左側の図において、列Aはタイトルが「Name」であり、中間部品の名前が記載されている。列Bはタイトルが「ComponentName」であり、中間部品を構成する部材の名前が記載されている。列Cはタイトルが「isBasedProduct」であり、ベース板であれば「base」が記載されている。列Dはタイトルが「ProductPose」であり、ベース板の場合は、中間部品の局所座標系におけるベース板の位置と角度が記載されている。
また、右側の図は、板モデルの組立ツリーの例を示している。
図36はタスクツリーデータの例を示す図である。
列Aはタイトルが「TaskName」であり、タスクの名前が記載されている。列Bはタイトルが「TaskType」であり、タスクの種類が記載されている。列Cはタイトルが「FunctionName」であり、シミュレータ内の名前が記載されている。列D~Gにはタスクごとに必要な引数が記載されている。列Hはタイトルが「RequiredFacilityList」であり、必要ファシリティが記載されている。
列Bに記載されるタスクの種類としては、At1(配材)、Ft(仮付)、Wt(本溶接)、Tt(反転)、Dt(裏焼き)、At2又はAt3(製品の移動)などがある。
タスクごとに必要な引数が記載される列D~Gにおいて、列Dはタイトルが「TaskObject」であり、対象物が記載されている。列Eはタイトルが「TaskFacility」であり、利用するファシリティ名が記載されている。列Fはタイトルが「TaskConditions」であり、先行タスクが記載されている。列Gはタイトルが「TaskParameter」であり、タスクに固有なパラメータが記載されている。なお、列Fのタスクコンディション欄には「null」と記載されているが、これはシミュレーション内で自動決定される。
列Hの記載は、どの種別の道具が何個無いとできない作業なのかを示すものであり、例えば図中の「Crane 1」は、クレーンが1台無いとできない作業であることを示している。
図1に戻り、シミュレーションステップS5の後、時間発展系シミュレーションの結果を時系列データ化し建造時系列情報34とする(時系列情報化ステップS6)。時系列データは、行動主体である作業員を含む各ファシリティの位置、角度、及び占有状況等の時刻歴データである。
時系列情報化ステップS6の後、情報提供部40を用いて、建造時系列情報34をユーザに提供する(情報提供ステップS7)。ユーザは、取得した建造時系列情報34を、クラウドサーバ等を利用して、作業者、設計者、管理者など関係各所で横断的に共有すること等ができる。なお、ユーザは、取得した建造時系列情報34を見てシミュレーションの条件を修正する必要性を感じた場合、若干の変更であれば現場からクラウドサーバを通じて船舶の建造シミュレーションシステムに対する操作を行うことができる。
ここで、図37は情報提供手部による出力処理の詳細フローである。
まず、プロダクトモデル、ファシリティモデル72、プロセスモデル、スケジュール情報31、ルール情報74、及び建造時系列情報34を読み込む(出力情報読み込みステップS7-1)。
次に、表示に必要な計算や生成等を行い、建造時系列情報34を表示する(表示ステップS7-2)。建造時系列情報34は、ガントチャート、作業手順書、作業分解構成図、工数、又は動線の少なくとも一つを含むことが好ましい。このような建造時系列情報34を具体化した情報を提供することにより、ユーザはシミュレーションの結果としての建造時系列情報34を知って、構成部品又はファシリティの変更や、ボトルネックの分析・解明、工数予測など、建造に有益な知見を得ることができる。なお、作業分解構成図は、時系列情報から各タスクの開始時間や終了時間を記載できるため、直接的ではないが、建造時系列情報34として扱うことができる。また、工数とは、例えば、各作業にかかる日数を「〇〇人日」のように表したものである。また、建造時系列情報34は、パート(PERT)図として表現することもできる。また、作業手順書は、作業員が次にどの作業にかかって、その時どの設備(クレーンなど)を使用し、どの道具をどこから取得すべきか等を表したものである。なお、作業手順書、作業分解構成図、工数、及び動線は、時系列化された情報として表現することも可能である。
このように、船舶の基本設計情報71を統一データベース70から取得して標準化したデータ構造で表現したプロダクトモデルとして設定するプロダクトモデル設定ステップS1と、船舶を建造する工場の設備と作業員に関する情報を統一データベース70から取得して標準化したデータ構造で表現したファシリティモデル72として設定するファシリティモデル設定ステップS2と、プロダクトモデルとファシリティモデル72に基づいて、船舶を構成部品から建造するための組み立て手順とタスクを明確化し、標準化したデータ構造で表現したプロセスモデルを作成するプロセスモデル作成ステップS3と、プロセスモデルに基づいて時間ごとの建造の進行状況を逐次計算する時間発展系シミュレーションを行うシミュレーションステップS5と、時間発展系シミュレーションの結果を時系列データ化し建造時系列情報34とする時系列情報化ステップS6と、建造時系列情報34を提供する情報提供ステップS7を実行することで、ユーザは、標準化したデータ構造で表現された情報に基づいて、船舶の建造を時間ごとに細かな作業レベルでシミュレーションすることが可能となり、その精度の高いシミュレーション結果としての建造時系列情報34に基づいて工場の改善、生産設計の改善、受注時のコスト予測、及び設備投資などを検討することができるため、建造コストの低減や工期の短縮につながる。また、ファシリティモデル72は、設備と作業員に関する情報に基づいて予め作成され、標準化したデータ構造で表現して統一データベース70に蓄積されたものであるため、標準化したデータ構造のファシリティモデル72の取得や共同利用、また新たな情報の蓄積等を簡便に行うことができる。
また、建造時系列情報34は、非常に細かい作業レベルまで存在するので、タブレット等の携帯端末、AR(Augmented Reality)技術、MR(Mixed Reality)技術、又はホログラムディスプレイを活用した視覚的な確認や、VR(Virtual Reality)を用いた仮想空間における実寸大での確認ができるように、作業者に対して情報伝達することで、作業効率を向上させることができる。AIチャットボットなどで音声的に作業案内することも可能である。
また、情報提供ステップS7においては、少なくとも建造時系列情報34を標準化したデータ構造として、統一データベース70に提供する。これにより、建造時系列情報34として提供する情報の種類や属性、またフォーマット等を、プロダクトモデル等との関係性を考慮して建造時系列情報34としての標準化したデータ構造で、統一データベース70に容易に蓄積できる。また、標準化したデータ構造として蓄積した建造時系列情報34を、例えば、統一データベース70から取得して、実際の船舶の建造時に参照したり、後のシミュレーション時の情報として利用したり、ルール情報74の機械学習に活用したりすること等ができる。
建造時系列情報34の「標準化したデータ構造」とは、建造時系列情報34としての情報の種類や属性、フォーマット等を定義しておくことであり、情報同士の親子関係や情報ごとのフォーマット、また、フォーマットに当てはめるデータ等の関係性を定義する。
また、設定されたプロダクトモデル、ファシリティモデル72、プロセスモデル、スケジュール情報31、及び工場レイアウト情報32等を統一データベース70に提供することも可能である。
また、検証部50を用いて、時系列情報化ステップS6で時系列データ化された建造時系列情報34を検証する(検証ステップS8)。そして、モデル修正部60を用いて、検証ステップS8における検証の結果に基づいてプロダクトモデル及びファシリティモデル72の少なくとも一方を修正する(モデル修正ステップS9)。例えば、検証ステップS8において建造時系列情報34の結果が所期目標の範囲を超えているか否かを判断し、超えている場合は、モデル修正ステップS9においてプロダクトモデル及びファシリティモデル72の少なくとも一方を修正する。これにより、プロダクトモデルやファシリティモデル72を修正すべきか否かを、建造時系列情報34を所期目標に基づいて検証することによって判別し、プロダクトモデルやファシリティモデル72を適切に修正することができる。なお、検証ステップS8において建造時系列情報34の結果が所期目標の範囲を超えていないと判断された場合は、モデル修正ステップS9に進むことなく処理を終了する。なお、所期目標としては、例えば所定の時間等が設定されるが、それだけでなく、作業の平準化の度合(作業負荷を分散できているか)や、作業場の安全確保の度合、危険性の有無等を含めることができる。
また、モデル修正ステップS9でプロダクトモデル及びファシリティモデル72の少なくとも一方を修正した場合は、修正されたプロダクトモデル及びファシリティモデル72の少なくとも一方に基づいて、プロセスモデル作成ステップS3と、シミュレーションステップS5と、時系列情報化ステップS6と、検証ステップS8を繰り返す。なお、この際、モデル修正ステップS9で修正しなかったプロダクトモデル又はファシリティモデル72については修正前のものを用いる。このように各ステップを繰り返すことで、プロダクトモデルやファシリティモデル72を修正した、船舶の建造が目標の範囲内に収まるシミュレーション結果を得ることができる。目標としては、例えば所定の時間等が設定されるが、それだけでなく、作業の平準化(作業負荷を分散できているか)や、作業場の安全確保、危険性の有無等を含めることができる。
なお、上述した各ステップは、建造プログラムによりコンピュータに実行させることができる。
この場合、プログラムは、コンピュータに、プロダクトモデル設定ステップS1と、ファシリティモデル設定ステップS2と、プロセスモデル作成ステップS3と、シミュレーションステップS5と、時系列情報化ステップS6と、情報提供ステップS7とを少なくとも実行させる。これにより、ユーザは、標準化したデータ構造で表現された情報に基づいて、船舶の建造を時間ごとに細かな作業レベルでシミュレーションすることが可能となり、その精度の高いシミュレーション結果としての建造時系列情報34に基づいて工場の改善、生産設計の改善、受注時のコスト予測、及び設備投資などを検討することができるため、建造コストの低減や工期の短縮につながる。
また、コンピュータに、プロセスモデル蓄積ステップS4をさらに実行させることで、例えば、次のシミュレーションの機会や類似した船舶のシミュレーションにおける過去船のプロセスデータ73として、蓄積したプロセスモデルを用いて時間発展系シミュレーションを行うことができる。また、例えば、プロセスモデルのデータ構造が、情報の種類や属性、また複数の情報間の関係性を標準化したものであるため、プロセスモデルの蓄積や利用が容易となる。
また、コンピュータに、検証ステップS8と、モデル修正ステップS9をさらに実行させることで、プロダクトモデルやファシリティモデル72を修正すべきか否かを、建造時系列情報34を所期目標に基づいて検証することによって判別し、プロダクトモデルやファシリティモデル72を適切に修正することができる。
次に本発明の第二の実施形態による統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーション方法、及び建造シミュレーションプログラムについて説明する。なお、上記した実施形態と同一機能部材については同一符号を付して説明を省略する。
図38は本実施形態による統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーション方法のフロー、図39は建造シミュレーション方法に用いるシミュレータのブロック図である。
本実施形態では、プロダクトモデル75は、船舶の基本設計情報71に基づいて予め作成され、標準化したデータ構造で表現して統一データベース70に蓄積されたものである。これにより、プロダクトモデル75の取得を、例えば、設計システムにアクセスすることなく簡便に行うことができる。なお、プロダクトモデル75をプロダクトモデル設定用のデータとして統一データベース70に蓄積しておくこともできる。
また、プロダクトモデル75が、例えば、情報の種類や属性、また複数の情報間の関係性が標準化したデータ構造であるため、プロダクトモデル75の取得やプロセスモデル76の作成をより簡便に行うことや蓄積を容易に行うことができる。プロダクトモデル75の標準化したデータは、例えば、ブロック割りでツリー構造化された各ブロックの情報であり、具体的には、ブロック名、ブロックの構成部材、部材名、各部材の形状、部材の接続情報、及び溶接線の情報である。プロダクトモデル75の「標準化したデータ構造」とは、これらの情報の種類や属性をクラスとして定義しておくことであり、クラス同士の親子関係等といった関係性を情報のツリーとして定義する。
また、建造シミュレーション部30は、建造シミュレーション部Iと建造シミュレーション部IIの二つに分けられ、建造シミュレーション部Iでプロセスモデル76の作成を行い、建造シミュレーション部IIで時間発展系シミュレーションを実行するように構成されている。
本実施形態では、シミュレーション前に予めプロセスモデル蓄積ステップS4を実行することにより、作成したプロセスモデル76を統一データベース70に蓄積しておく。このプロセスモデル76は、標準化したデータ構造で表現したものである。そして、シミュレーションステップS5で統一データベース70からプロセスモデル76を取得してシミュレーションステップS5、時系列情報化ステップS6、及び情報提供ステップS7を実行する。これにより、いざ時間発展系シミュレーションを行おうとする際にプロセスモデル76を作成する時間を省くことができる。また、他のコンピュータや他の場所に設置したコンピュータで、統一データベース70からプロセスモデル76を取得し、時間発展系シミュレーションを行うことができる。
なお、本実施形態においても、上述した各ステップを建造プログラムによりコンピュータに実行させることができる。
図40はプロダクトモデルの標準化したデータ構造の例を示す図である。
プロダクトモデルの標準化したデータ構造は、製品情報をBOM(Bill of Materials)で表現したものであり、クラス間の階層構造と、各クラスの属性情報を示している。
図40においては、標準化したデータ構造の構成要素であるクラスを四角で示し、その種類(名称)を四角内に記載すると共に、クラス間の関係及びクラス間の親子関係をツリー構造で示している。また、各クラスの属性情報を四角の右隣に記載している。具体的には、最上位のクラスは1番船や2番船など建造対象の船舶を示す「番船」であり、その一つ下のクラスは船殻を構成する「ブロック」であり、さらに一つ下のクラスはブロックを構成する「部材」、「接続線」、又は「材料」であり、さらに一つ下のクラスは接続線を構成する「溶接線」、部品を構成する「管」及び「艤装品」、材料を構成する「溶材」、「塗料」、「吊りピース」及び「取付治具」である。また、クラス「溶接線」の属性情報は「脚長」及び「開先形状」であり、クラス「管」の属性情報は「管系統」及び「管材質」であり、クラス「艤装品」の属性情報は「艤装品種類」であり、クラス「溶材」の属性情報は「種類(材料)」及び「ワイヤー径」であり、クラス「塗料」の属性情報は「種類(材料)」であり、クラス「吊りピース」の属性情報は「吊りピース種類」であり、クラス「取付治具」の属性情報は「取付金具種類」である。
なお、図示はしていないが、艤装品毎に更にサブクラスを設置することもできる。サブクラスの例としては、「梯子」や「管サポート」等が挙げられる。
図41はファシリティモデルの標準化したデータ構造の例を示す図である。
ファシリティモデルの標準化したデータ構造は、ファシリティ情報をBOE(Bill of Equipment)で表現したものであり、クラス間の階層構造と、各クラスの属性情報を示している。
図41においては、標準化したデータ構造の構成要素であるクラスを記載すると共に、クラス間の関係及びクラス間の親子関係をツリー構造で示している。最上層のクラスは「工場A/B」など造船工場の種別(名前)であり、その一つ下のクラスは「棟A/B/C」など各工場における棟の種別(名前)であり、さらに一つ下のクラスは「定盤A/B/C/D」など各棟における定盤の種別(名前)であり、さらに一つ下のクラスは「溶接機A/B/C」、「送給機A/B/C」、「簡易自動台車A/B」、「グラインダーA/B」、「盤木A」、「ガストーチA/B」、「クレーンA/B」、「取付班A」、「溶接班A」、及び「配材班A」など各定盤で用いる設備(又は道具)、作業員の種別(名前)である。
また、図示はしていないが、能力値や形状といった属性情報が、溶接機や取付班といったクラスごとに設定されている。なお、形状は、クラス「溶接機」や「クレーン」等と関連のあるクラスとして整理することもできる。
図42-1~3はプロダクトモデル、ファシリティモデル、及びプロセスモデルの標準化したデータ構造の例を示す図であり、図42-1に示すプロダクトモデルのデータ構造をBOM、図42-2に示すファシリティモデルのデータ構造をBOE、図42-3に示すプロセスモデルのデータ構造をBOP(Bill of Process)で表現している。なお、図42-1に示すプロダクトモデルの標準化したデータ構造は、クラス「ブロック」のインスタンスの中で「大組」、「中組」、「小組」の親子関係に分かれている点等において、図40に示すプロダクトモデルの標準化したデータ構造と異なっている。また、図42-2に示すファシリティモデルの標準化したデータ構造は、最下層のクラスを上位概念的な表現としている点等において、図40に示すファシリティモデルの標準化したデータ構造と異なっている。
図42-1~3に示すように、シミュレータで再現するプロセスモデルの情報を、当該プロセスモデルの対象となるプロダクトモデルの情報と、当該プロセスモデルに必要となるファシリティモデルの情報を組み合わせて、ツリー構造で表現し、各モデルの関係を整理する。これにより、プロセスモデルに各プロセスの対象となるプロダクトとファシリティを関連付けて管理できる。また、シミュレータの運用に必要なプロセスの表現(プロセスの粒度)を整理する。これにより、造船設計や生産計画において取り扱うデータを統一データベース70上で統一的に管理できるため、造船設計と生産計画業務において単一の情報に基づいて業務を運用することができ、建造のリードタイム短縮や設計及び生産計画の最適化に寄与する。
図42-3に示すプロセスモデルの標準化したデータ構造のうち、タスク「プロセスA-1~3」の具体例は「配材A~C」、タスク「プロセスB-1~4」の具体例は「取付A~D」、タスク「プロセスC-1~2」の具体例は「溶接A~B」、タスク「プロセスD-1」の具体例は「反転A」、タスク「プロセスE-1~2」の具体例は「配管A~B」、タスク「プロセスF-1~2」の具体例は「歪み取りA~B」、タスク「プロセスG-1~2」の具体例は「錆止塗装A~B」、タスク「プロセスH-1~2」の具体例は「清掃A~B」である。
配材、取付、溶接等といった各プロセスについて、そのプロセスをシミュレータで適切に表現するためのプロダクトモデルの情報とファシリティモデルの情報を対応付けて整理している。すなわち、プロダクトモデルのどの情報とファシリティモデルのどの情報をセットにして表現すればシミュレータは各プロセスを再現できるかを整理し、BOPの設計に反映させている。特に、溶接作業等に付帯する清掃作業、錆止塗装作業等の表現を工夫しており、例えば「清掃」タスクについては、溶接作業後に溶接線に沿った箒掛けが行われているという実態に着目し、プロダクトモデルの情報として「溶接線」を対応付けている。
また、プロセスモデルにおいては、各プロセスの実行順序を規定している。実行順序は、例えば図42-3の右側に示すように、「プロセスA-1(配材A)」→「プロセスB-1(取付A)」→「プロセスB-2(取付B)」→「プロセスC-1(溶接A)」→「プロセスE-1(配管A)」→「プロセスF-1(歪み取りA)」→「プロセスH-1(清掃A)」→「プロセスG-1(錆止塗装A)」→「プロセスD-1(反転A)」→「プロセスA-2(配材B)」→「プロセスB-3(取付C)」→「プロセスA-3(配材C)」→「プロセスB-4(取付D)」→「プロセスC-2(溶接B)」→「プロセスE-2(配管B)」→「プロセスF-2(歪み取りB」→「プロセスH-2(清掃B)」→「プロセスG-2(錆止塗装B)」とする。
このように、プロダクトモデル、ファシリティモデル、及びプロセスモデルの標準化したデータ構造は、少なくとも、データの種類ごとに分けた複数のクラスと、クラス間の関係及びクラス間の親子関係とを含む。これにより、プロダクトモデル、ファシリティモデル、及びプロセスモデルの取得や蓄積、利用等が、クラスやクラス間の関係を軸としたデータ構造により容易となる。
造船工場モデルを入力データとした実施例について説明する。シミュレーションにあたって設定した作業員の移動速度、クレーンの移動速度、及び溶接作業の単位長さ当たりの速度の設定値を下表15に示す。なお、ここではこれらの値を一律に設定しているが、タスクごとに(例えば、溶接姿勢に応じて)定義することも可能である。
仮溶接は、本来であればタック溶接のように断続的な溶接線で表現されるべきであるが、本実施例では簡単のために、本溶接に利用する溶接線経路(ポリライン)を併用し、 単位長さ当たりの溶接速度を変えることによって、作業の差を表現している。また、本実施例で設定した組立シナリオにおける溶接作業は、水平すみ肉溶接のみであり、上向き溶接は発生しない。
3DCADモデルのファイルは、Unity(登録商標)にインポート可能な汎用的な中間ファイル形式であるOBJ形式(Wavefront Technologies社)を採用した。
(ケース1)
図43はケース1の組立シナリオにおけるシミュレーションの計算結果のガントチャートである。縦軸の名称は各ファシリティとプロダクト(完成部品、中間部品、構成部品)を表し、横軸は時間(s)を示している。縦線の横棒は配材タスク、横線の横棒は仮溶接タスク、斜線の横棒は本溶接タスクで占有した時間を示している。このガントチャートは、プロセスモデルに基づいて時間発展系シミュレーションを行った時系列情報を、プロダクトモデルやファシリティモデルの情報とも関連付けて表現したものであるともいえる。
ケース1のシナリオでは、5枚板モデルに対して、鉄工職1名と溶接職1名の計2名の作業員で組み立て作業を行う。定めた各作業員のスケジュールは表7の通りである。表7の2行目の作業員1が鉄工職であり、2行目の作業員2が溶接職である。各作業員は表7に記載した順にタスクを実施していく。
このシナリオに基づき船舶の建造シミュレーションシステムによって計算されたガントチャートである図43から、縦線の横棒で示される各板P1~P5の配材にかかる時間が約370秒であることがわかる。この時間は全体の約4分の1弱に相当している。この配材にかかる時間は、従来の溶接長から算出する方法では直接的に計算できないものであり、付随作業に相当する。また、作業員2は、配材と仮溶接タスクが終わらない限り作業を開始できないため、480秒近く待つことになる。その後、作業員2が中間部品U2を完成させるまで作業員1はタスクを待つ必要があり、1100秒付近から仮溶接タスクを実行して終了となる。
このように、船舶の建造シミュレーションシステムによって、従来の算出法だけでは計算できないような各タスクの必要な時間が計算され、タスクの進行度合いによって待ち時間が発生する様子が再現されている。
(ケース2)
図44はケース2の組立シナリオにおけるシミュレーションの計算結果のガントチャートである。縦軸の名称は各ファシリティとプロダクト(完成部品、中間部品、構成部品)を表し、横軸は時間(s)を示している。縦線の横棒は配材タスク、横線の横棒は仮溶接タスク、斜線の横棒は本溶接タスクで占有した時間を示している。また、図45はケース2におけるシミュレーションの3次元的な外観図である。
ケース2では、ケース1と同様に5枚板モデルを対象として、鉄工職2名(作業員1、3)と溶接職2名(作業員2、4)の計4名の作業員に増やしたシナリオを設定した。それに合わせて、溶接機を2台追加している。各作業員のスケジュールは下表16の通りである。
このシナリオに基づきシミュレータによって計算されたガントチャートである図44から、各板P1~P5の配材にかかる時間が約400秒となっており、ケース1よりも長くなっていることがわかる。これは、作業員1と作業員3が1台のクレーンを共有して使うため、余計な歩行時間を要していることが要因にある。仮溶接の時間についても同様に1台のクレーンを共有して使うため、ケース1よりも長くなっている。中間部品U1と完成部品SUB1の本溶接は、それぞれ2本の溶接線を2名で並行して実施しているため、ケース1よりも時間が短縮されている。一方で、開始から終了までの総工期については、人数をケース1の2倍にしたが半分とはならず、結果的にその差は中間部品U1と完成部品SUB1の本溶接時間の短縮による150秒程度のみである。
このように、従来の能率という考えでは検討できない内容まで検討することが可能となり、定量的差とその根拠が明確となる。
また、図45に示すように、各モデルの3次元オブジェクトの位置が変更している様子を直接的に確認することも可能である。
本発明は、製造時における物の流れと作業員の動きが定型的なものではなく状況に応じて細かな作業の判断を要する船舶の建造を精度よくシミュレーションし、その結果を、コスト予測、生産設計、建造計画の立案及び改善、設備投資、生産現場の分析やボトルネックの解明など、建造に関わる多岐の用途で利用することができる。また、船舶と同様のアナロジーが成り立つような浮体、洋上風力発電施設、水中航走体や海洋構造物などの他製品、また建築業界など他産業への展開も可能である。これらに適用する場合は、請求項における船舶を他製品や他産業で対象とする言葉に置き替えて解釈することができる。
31 スケジュール情報
32 工場レイアウト情報
33 カスタムタスク
34 建造時系列情報
70 統一データベース
71 基本設計情報
72 ファシリティモデル
73 過去船のプロセスデータ
74 ルール情報
75 プロダクトモデル
76 プロセスモデル
S1 プロダクトモデル設定ステップ
S2 ファシリティモデル設定ステップ
S3 プロセスモデル作成ステップ
S4 プロセスモデル蓄積ステップ
S5 シミュレーションステップ
S6 時系列情報化ステップ
S7 情報提供ステップ
S8 検証ステップ
S9 モデル修正ステップ

Claims (20)

  1. 船舶の建造を統一データベースに蓄積された標準化したデータ構造で表現された情報に基づいてシミュレーションする方法であって、
    前記船舶の基本設計情報を前記統一データベースから取得して前記標準化したデータ構造で表現したプロダクトモデルとして設定するプロダクトモデル設定ステップと、
    前記船舶を建造する工場の設備と作業員に関する情報を前記統一データベースから取得して前記標準化したデータ構造で表現したファシリティモデルとして設定するファシリティモデル設定ステップと、
    先に設定した前記プロダクトモデルと前記ファシリティモデルに基づいて、前記船舶を構成部品から建造するための組み立て手順を前記プロダクトモデルの前記構成部品と前記構成部品間の結合情報から組み立ての依存関係を表す組立ツリーとして定義し、前記組み立て手順の各段階におけるタスクを前記ファシリティモデルの前記設備と前記作業員に関する情報から定義し、前記タスクの依存関係をタスクツリーとして定義し、かつ前記タスクが前記ファシリティモデルにおける前記設備と前記作業員の能力値範囲内か否かを考慮して前記標準化したデータ構造で表現したプロセスモデルを作成するプロセスモデル作成ステップと、
    前記プロセスモデルに基づいて時間ごとの建造の進行状況を逐次計算する時間発展系シミュレーションを行うシミュレーションステップと、
    前記時間発展系シミュレーションの結果を時系列データ化し建造時系列情報とする時系列情報化ステップと、
    前記建造時系列情報を提供する情報提供ステップとを実行し、前記時間発展系シミュレーションにおいて、前記作業員が仮想的な作業を進めるため、又は前記作業員が前記仮想的な作業で使用する前記設備を決めるための自律判断に必要な制約及び選択肢である予め取得したルール情報に基づいて、前記作業員が自律判断を行って前記仮想的な作業を進めることを特徴とする統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーション方法。
  2. 前記ファシリティモデルは、前記設備と前記作業員に関する情報に基づいて予め作成され、前記標準化したデータ構造で表現して前記統一データベースに蓄積されたものであることを特徴とする請求項1に記載の統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーション方法。
  3. 前記プロダクトモデルは、前記船舶の前記基本設計情報に基づいて予め作成され、前記標準化したデータ構造で表現して前記統一データベースに蓄積されたものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーション方法。
  4. 前記プロセスモデル作成ステップで作成された前記標準化したデータ構造で表現した前記プロセスモデルを前記統一データベースに蓄積するプロセスモデル蓄積ステップをさらに実行することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーション方法。
  5. 前記プロセスモデル蓄積ステップを予め実行して前記プロセスモデルを前記統一データベースに蓄積し、前記シミュレーションステップで前記統一データベースから前記プロセスモデルを取得して前記シミュレーションステップ、前記時系列情報化ステップ、及び前記情報提供ステップを実行することを特徴とする請求項4に記載の統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーション方法。
  6. 前記タスクは、前記時間発展系シミュレーションで実行可能な関数であるベーシックタスクを組み合わせて構築されるカスタムタスクを含むことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーション方法。
  7. 前記プロセスモデル作成ステップにおいて、前記組み立て手順と前記タスクに基づいて前記作業員のスケジュール情報を作成することを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーション方法。
  8. 前記プロセスモデル作成ステップにおいて、前記組み立て手順と前記タスクに基づいて、前記工場内の前記設備と前記作業員の配置に関する工場レイアウト情報を作成することを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーション方法。
  9. 前記情報提供ステップで、前記スケジュール情報及び前記工場レイアウト情報の少なくとも一方を提供することを特徴とする請求項7を引用する請求項に記載の統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーション方法。
  10. 前記プロセスモデルの作成に当たって、過去に建造した過去船のプロセスデータを前記統一データベースから取得し、流用することを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーション方法。
  11. 前記シミュレーションステップにおける前記時間発展系シミュレーションは、時間ごとの前記船舶の完成部品又は前記構成部品の位置、前記設備及び前記作業員の位置と占有状況、前記組み立てと前記タスクの進行状況を逐次計算するものであることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーション方法。
  12. 前記ルール情報として、判断ルールであるブレインを含むルール情報を利用することを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーション方法。
  13. 前記プロダクトモデル、前記ファシリティモデル、及び前記プロセスモデルの前記標準化したデータ構造は、少なくとも複数のデータの種類ごとに分けたクラスと、前記クラス間の関係、及び前記クラス間の親子関係を含むデータ構造を有することを特徴とする請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーション方法。
  14. 前記建造時系列情報は、ガントチャート、作業分解構成図、作業手順書、工数、又は動線の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーション方法。
  15. 前記情報提供ステップにおいて、少なくとも前記建造時系列情報を前記標準化したデータ構造として、前記統一データベースに提供することを特徴とする請求項1から請求項14のいずれか1項に記載の統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーション方法。
  16. 前記時系列情報化ステップで時系列データ化された前記建造時系列情報を検証する検証ステップと、前記検証の結果に基づいて前記プロダクトモデル及び前記ファシリティモデルの少なくとも一方を修正するモデル修正ステップをさらに実行することを特徴とする請求項1から請求項15のいずれか1項に記載の統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーション方法。
  17. 前記モデル修正ステップで、前記プロダクトモデル及び前記ファシリティモデルの少なくとも一方を修正した場合は、修正された前記プロダクトモデル及び前記ファシリティモデルの少なくとも一方に基づいて、前記プロセスモデル作成ステップと、前記シミュレーションステップと、前記時系列情報化ステップと、前記検証ステップを繰り返すことを特徴とする請求項16に記載の統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーション方法。
  18. 船舶の建造を統一データベースに蓄積された標準化したデータ構造で表現された情報に基づいてシミュレーションするプログラムであって、
    コンピュータに、
    請求項1から請求項17のいずれか1項に記載の統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーション方法における
    前記プロダクトモデル設定ステップと、
    前記ファシリティモデル設定ステップと、
    前記プロセスモデル作成ステップと、
    前記シミュレーションステップと、
    前記時系列情報化ステップと、
    前記情報提供ステップとを実行させることを特徴とする統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーションプログラム。
  19. 前記コンピュータに、前記プロセスモデル蓄積ステップをさらに実行させることを特徴とする請求項4又は請求項5を引用する請求項18に記載の統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーションプログラム。
  20. 前記コンピュータに、前記検証ステップと、前記モデル修正ステップをさらに実行させることを特徴とする請求項16又は請求項17を引用する請求項18に記載の統一データベースに基づく船舶の建造シミュレーションプログラム。
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