JP7425269B2 - イオンビーム分析装置 - Google Patents

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Description

この発明は、イオンビームを用いた材料表面分析手段に係り、具体的には、イオンビーム入射により試料表面で散乱または反跳されるイオンのエネルギーを計測し、試料の組成や膜厚などを計測する機器であって、元素の深さ方向濃度プロファイルを高分解能で計測することができるイオンビーム分析装置及びイオンビーム分析法に関するものである。
材料表面の元素の濃度を深さ方向に分析するための方法として、ラザフォード後方散乱分光法(「RBS法」Rutherford Backscattering Spectrometry)が知られている。また、試料中の軽元素を入射イオンビームで反跳させ、この反跳されたイオンのエネルギーを分光することにより、反跳された元素の深さ方向の濃度分布を計測するイオン反跳分光法(「ERDA法」Elastic Recoil Detection Analysis)法が知られている。どちらもイオンビームを試料に入射し、試料から散乱されるイオンや反跳されるイオンのエネルギーを計測して試料中の元素の深さ方向組成を計測するもので、入射されるイオンエネルギーは数MeVから数十keVの範囲で利用される。このイオンエネルギー領域では入射イオン原子と試料中原子との相互作用が弾性散乱衝突であり、イオンビーム入射による表面でのスパッタリング現象などの相互作用が無いことで非破壊分析と称される。従来、散乱または反跳されるイオンのエネルギー計測では半導体検出器(Solid State Detector)が用いられてきたが、入射イオンエネルギーが500keV程度以下の中エネルギー領域ではイオンのエネルギー分解能を向上し、元素組成の深さ方向分解能をあげる手段として偏向電磁石とイオン位置検出器による分析法が用いられるようになってきた。これは入射イオンの試料元素との衝突による散乱イオン、または試料中の元素の反跳イオンを偏向電磁石によってイオン軌道を偏向させ、下流に設けたイオン位置検出器の位置情報からイオンエネルギーに変換してエネルギースペクトルを得るもので、半導体検出器(SSD)よりエネルギー分解能を向上することができることで、近年半導体薄膜や機能薄膜などでの表面分析に利用されてきている。また数keVから数十keVの領域では入射イオンと試料表面とのスパッタリング現象で発生したクラスタイオンを引出して、その質量を分析する二次イオン質量分析法(「SIMS」Secondary Ion Mass Spectrometry)が知られている。
本開示で取り扱うラザフォード後方散乱分光法(RBS法)及びイオン反跳分光法(ERDA法)は、図5に示すように入射イオン(質量M)と試料中の原子との弾性衝突によって散乱される散乱イオン(質量M)または反跳される標的原子(質量M)が試料から真空中に脱出したエネルギーを計測するもので、入射イオンエネルギー(E)に対する散乱イオンエネルギー(E1)または標的原子の反跳イオンエネルギー(E)の比は
それぞれ、以下に示す数1、数2の式で与えられる。ここでK及びKrはカイネマティッ
クファクター(Kファクター)と呼ばれ、イオンの衝突時におけるエネルギーロスの割合を示す計数である。ここでθ、φは入射イオンに対する散乱イオン方向または反跳イオン方向の角度で、それぞれ散乱角、反跳角と称される。これはM , M, 及びθまた
はφが一定であれば,E と E 1 との比、またはE と E との比は 常に 一 定であること示している。即ち,弾性散乱された散乱イオンまたは反跳イオンのエネルギーE 1 、E は ,試料内の成分原子の質量M の関数となる。従って,散乱イオンまたは反跳イオンのエネルギースペクトルを測定することにより試料を構成する元素の質量を算出することができる。
Figure 0007425269000001
Figure 0007425269000002
衝突が試料表面より内部で起こった場合、衝突前の入射イオン、衝突後の散乱イオン及び反跳イオンも試料内を進む途中でエネルギーを失うため、それぞれのイオンエネルギーより低くなる。このエネルギー損失は試料表面からの深さに関係し、その損失エネルギーから深さ情報が得られることで、深さ方向の濃度プロファイルが得られる。このようにRBS法もERDA法も入射イオンに対する散乱、または反跳イオンのエネルギーを計測するもので、計測する機器構成は同じものが利用できる。測定においては試料元素構成や深さ方向元素プロファイルなどを考慮して入射イオン方向に対し、散乱イオン角度(θ)または反跳イオン角度(φ)を変化させてエネルギースペクトルを測定する。従い入射イオンに対する試料面との入射角(α)及び出射角(β)を変更できるように試料を設置する試料台はゴニオメーターで位置、角度を制御し、また試料を設置した試料容器には計測器の入射イオンに対する散乱イオンまたは反跳イオンの計測取出し方向角度、すなわち前記散乱角(θ)または反跳角(φ)が変更できるよう複数の検出ポートが設置されている。
特開2010-71873号公報 特開2005-98899号公報 特開2019-56633号公報 特開2014-224775号公報
Yasuda K.,et al. "Development of a TOF-ERDA measurement system for analysis of light elements using a He beam." Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section B: Beam Interactions with Materials and Atoms 268. 11 (2010): 2023-2027.
特許文献1では、イオンエネルギーを計測するために偏向電磁石により散乱または反跳イオンの軌道を偏向させ、下流側に設置した位置検出器の到達位置情報からイオンエネルギーへ変換するエネルギー分光方法である(図6参照)。従来から利用されている半導体検出器(SSD)によるエネルギー分解能より一桁以上分解能が改善し、高分解能で試料深さ方向元素プロファイルが得られる。しかしながら、散乱または反跳イオンの軌道を偏向するための偏向電磁石は、入射イオンビームエネルギー500keVの利用で、散乱イ
オンまたは反跳イオンを偏向させるに必要な磁力が1テスラ程度となるため、ポールピース(磁極)やリターンヨーク、銅コイルなどの構成機器の総重量は300kg~400kgとなっている。
特許文献2では、前記偏向電磁石と位置検出器を用いた計測において、分析条件に応じて検出角θを適時変更できるように検出角変更に伴う計測器の移動方法が示されている。しかしながら、前記の通り重量物で構成される計測器を試料に応じて検出角(θ)や反跳角(φ)を変更する作業は、検出ポートの付け替えにともなう試料容器との真空遮断と分離、別の検出ポートへの移動と再度の試料容器との連結、真空引きなどの工程が必要で、時間と労力を要する。
一方でエネルギー分解能を向上させる計測法として、イオンビームをパルスイオンビーム発生器により試料に断続的に入射し、パルスの発生タイミングおよび反跳イオンの検出タイミングから反跳粒子の飛行時間を求めてイオンエネルギー分光を行う飛行時間計測法が提案されている(特許文献3)。イオンビームエネルギーを通過するイオン速度をパルス発生タイミングと検出器到達タイミングの時間差を計測し、その時間差(速度)からイオンエネルギーへ変換する方法である。この方法では、パルスジェネレータ等により制御された電源によって電位の時間変化を制御した平行平板電極の中心部に、電荷を持った入射イオンビームを通す(図8参照)。そして、平行平板電極の電位制御により入射イオンビーム軌道を曲げることで、ビーム軌道が平行平板電極の下流に設置されたスリットを瞬間的に横切り、入射ビームをパルス化する。このパルスイオンビーム発生器は極めてパルス幅が短い入射イオンビームとすることが必要で、パルスによるイオンビームのカットにより試料位置での平均ビーム電流はビーム径1mm×1mmサイズにおいて0.1pA程度まで低下する。十分なイオンビーム量を試料に入射して計測するには長時間を要するという問題がある。あわせてスリットによるイオンビーム遮断を行うためには入射ビームの軌道調整が必要となりパルス入射イオンビーム生成器の制御、調整が複雑となっている。
特許文献4は前記パルス入射イオンビーム生成器のような複雑な装置を利用しない方法として、連続入射イオンビームを用いた飛行時間計測法が示されている。図9に示すように、これは試料面から放出された二次粒子の飛行時間を計測するため、試料から直接放出された粒子の信号検出と、試料面と反対側の試料面から放出される粒子または光子(例えば、電子、イオン、中性粒子等)検出信号との時間差から飛行時間計測スペクトを得るもので、パルス入射イオンビームによる飛行時間計測のような精密で複雑な装置とその運用を必要としない方法である。しかしながら、試料面の反対側の試料面からの粒子検出効率が低く、この課題の対応のため入射イオンビームとして少なくとも4個以上の原子からなる原子集団や4個以上の原子から成る電荷をもった荷電原子集団など、特殊な入射イオンビーム(具体的には炭素原子が4個集まった2.0MeVのCイオン)を利用しなければならない。
非特許文献1は特許文献4同様、連続したイオンビーム入射による飛行時間計測法であり、試料入射イオンビームによる反跳イオンが2つの透過型時間ピックアップ検出器と半導体検出器(SSD)によって通過時間とエネルギーを計測するものである。通過時間計測はカーボンフォイル、静電反射ミラー、グリッド、マイクロチャネルプレート(MCP)から構成される。透過型時間ピックアップ検出器はイオンがカーボンフォイルを通過する際に発生する二次電子を検出するものであり、前述の平行電極にパルス電位をかけてパルスイオンビーム生成とタイミング信号を生成する方法に比べ、イオンの通過タイミングを正確に検出できるメリットがある。2つの透過型時間ピックアップ検出器間の時間差でイオンの飛行時間が求められ、最後部に設置された半導体検出器(SSD)によりイオンエネルギーが計測される。この連続イオンビーム入射による飛行時間計測法のデメリットとしては散乱または反跳イオン粒子検出効率が低いことがあげられる。これはカーボンフォイルで発生する二次電子の発生量やマイクロチャネルプレートでの捕捉効率が十分でないことが原因である。また通過するイオンの原子番号が小さくなるほど二次電子発生量も少なくなり、入射イオンビームエネルギーは高いほど、すなわち計測される散乱または反跳されるイオンエネルギーが高いほど二次電子発生量は少なくなる。検出効率が低いことへの対応として、計測に必要な反跳イオン数を検出するために入射イオン量を増やすか、計測時間を長くとるなどの対応が必要である。
本発明は前記課題を解決するために、試料に入射するイオンビームエネルギーは500keV以下の連続イオンビームを用いて、散乱または反跳されたイオンは2台の透過型時
間ピックアップ検出器と半導体検出器による飛行時間計測によりイオンビームエネルギー計測を行う。飛行時間計測器は、散乱または反跳イオン計測方向に試料中心に散乱角(θ)または反跳角(φ)を変更可能なフレキシブル継手を試料容器と飛行時間計測ダクトの連結部、または試料容器とイオンビーム入射ダクト間に備え、さらに前記飛行時間計測器は、2台の透過型時間ピックアップ検出器のうち試料に近い上流側透過型時間ピックアップ検出器と試料との間において、上流側検出器の試料に対する立体角を制限するスリットを設けるとともに、下流側透過型時間ピックアップ検出器からの信号をスタート信号として、上流側透過型時間ピックアップ検出器の信号を遅延させたものをストップ信号として処理する信号計測システムを備えたことを特徴とする分析装置及び分析方法を提供する。
本発明によると、試料に入射するイオンビームエネルギー利用を10keVから500
keVの範囲の連続イオンビームを試料に入射して、散乱または反跳されたイオンを飛行
時間計測法によってイオンエネルギー計測することによって、偏向電磁石と位置検出器による重量物で構成された計測器に対し軽量、コンパクトな計測器構成となり、高分解能でエネルギー計測が可能で、効率的な分析が行えるイオンビーム分析装置及び分析法を提供できる。
また、パルスイオンビーム照射において課題である、ビームチョッピングによる入射イオンビーム量の低下、すなわち計測イオン検出数の低下による長時間計測についても、連続イオンビーム入射により計測に利用できる入射イオンビームが増大することで計測時間の短縮が可能となる。
さらに、2個の透過型時間ピックアップ検出器による飛行時間計測法における検出効率が低いデメリットについては、イオン通過における薄膜からの二次電子発生量を増大させるための薄膜面密度や薄膜材料の選択、発生した二次電子を効果的にマイクロチャネルプレートへ導く幾何学的な検出器構造の選択などの対応と共に、非特許文献1の図10で示されるように、本発明における入射イオンビームエネルギーの500keV以下の領域で
はヘリウムで80%、水素で50%以上の検出効率に高まるため、高エネルギーイオン入射の場合の検出効率に対して大幅に検出効率を改善できる。
2個の透過型時間ピックアップ検出器による飛行時間計測法では、試料に近い上流側の透過型時間ピックアップ検出器が下流側の透過型時間ピックアップ検出器よりも大きな立体角を有するため、上流の検出器を通過するイオンの一部は下流側の検出器を通過せず飛行時間計測に寄与しないイオンによるデッドタイムが発生し、計数効率を低下させる。この課題に対しては、試料に近い上流側透過型時間ピックアップ検出器の前、試料との間に立体角を小さくするスリットを設けて上流側透過型時間ピックアップ検出器の立体角を絞ることと、計測タイミングをトリガするスタート信号入力を下流側透過型時間ピックアップ検出器とし、上流側透過型時間ピックアップ検出器の信号を遅延させたものをストップ信号とすることによって計測におけるデッドタイムを小さくすることが可能で、計測効率を向上することができる。
本発明の実施形態1に係るイオンビーム分析装置の構成を示す全体図。 本発明の実施形態2に係るイオンビーム分析装置の構成を示す全体図。 本実施形態における飛行時間計測器と信号処理回路を示す図。 磁場を利用した透過型時間ピックアップ検出器の幾何学的形状・配置例を示す図 衝突したイオンの弾性散乱を示す模式図。 従来技術1に関わるイオンビーム分析装置の構成を示す全体図。 従来技術1に関わる軽元素の反跳イオンのスペクトルを示す説明図。 従来技術3に係るイオンビーム分析装置の構成を示す図。 従来技術4に係るイオンビーム分析装置の構成を示す図。 従来技術5に係る飛行時間計測法による入射イオンビームエネルギーと検出効率を示す図。
以下添付図面を参照しながら,本発明の一実施形態について説明し,本発明の理解に供する。尚,以下の実施の形態は,本発明を具体化した一例であって,本発明の技術的範囲を限定するものではない。
図1は、この発明の第1の実施形態に係わるイオンビーム分析装置の全体構成を示したものである。加速器1内には、イオン源2、高圧電源3、加速管4および、高圧ターミナル5が内蔵され、イオン源2には、イオンガスが充填されたイオン用ガスボンベ6が接続されている。イオンガスは加速器1の外部から絶縁チューブを用いて高圧ターミナル内のイオン源に供給してもよい。高圧電源3の出力電位に保持された高圧ターミナル5内のイオン源2で生成されたイオンが加速管4で加速されて、加速器1からイオンビーム7として出射される。イオンビーム7のイオンは、RBS法では水素(H)、ヘリウム(He)を用い、ERDA法ではヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)の希ガス元素、または窒素(N)、酸素(O)の気体元素、または炭素(C)などを反跳する原子に応じて選択される。ビームライン下流側のウィーンフィルタ8で不純イオンビームを分離、スリット9でビームサイズが整形された後、必要に応じて集束マグネット10により整形されたビームサイズがさらに細く絞られ、試料容器11内の試料(被測定物)12にイオンビームが入射される。
試料表面に対する入射イオンビーム角度、すなわち入射角(α)は試料の位置、角度を制御するゴニオメータ(この図では非表示)により制御される。また試料12から散乱または反跳されるイオンは、出射角(β)の方向にスリット9と2つの透過型時間ピックアップ検出器13、14を通過して半導体検出器(SSD)15に到達する。反跳イオン計測の場合、半導体検出器15に入る一次イオン除去のためポリエステルフィルム23を設ける場合もある。飛行時間計測ダクト16と試料容器11との連結部にはフレキシブル継手17を介して連結されおり、この継手の揺動範囲内で試料上の入射位置中心に散乱角(θ)または反跳角(φ)の変更がスムーズに行えるよう、飛行時間計測ダクト16に円弧型スライドレールが取り付けられている。
測定は2つの透過型時間ピックアップ検出器13、14と半導体検出器15で行い、飛行時間は、2つの透過型時間ピックアップ検出器13、14から到着する信号の時間差によって測定され、イオンエネルギーを半導体検出器15で計測する。異なったイオン種は異なった質量線上に存在するので、特許文献1の実施例で示されるようにエネルギーと反跳イオン種毎にイオン数(カウント)が収集できる(図7参照)。半導体検出器15によるイオンエネルギー信号は質量を区別するパラメータとして利用する。
透過型時間ピックアップ検出器13、14はタイミング分解能が良いため、マイクロチャネルプレート(MCP)18を用いる。透過型時間ピックアップ検出器13,14はイオン軌道上に炭素フォイル22があり、計測イオンが炭素フォイル22を通過する際に二次電子を生成し、グリッド20の空間に入った二次電子を静電反射ミラー21の負電位によって90度反射してマイクロチャネルプレート18でそのタイミングを検出するものである。静電反射ミラー21、グリッド20及び炭素フォイル22の幾何学的形状・配置としては、図3で示すように電子が静電反射ミラー21を介して、炭素フォイル22に対して垂直なマイクロチャネルプレート18に偏向されるものが一般的であるが、図4に示すように磁場を利用してイオン前方に散乱した二次電子を180度偏向させてマイクロチャネルプレート18で検出するものや、炭素フォイルがイオンビームに対し垂直ではなく45度傾斜させ、生成された二次電子がまっすぐな経路でマイクロチャネルプレートにドリフトする直接輸送検出方式(図示無し)などがある。この幾何学的形状は、検出器への電子のタイミング分解能と効率的な輸送の両方を最適化するように設計される。ここでは最初に記載した静電反射ミラーによる90度偏向タイプを用いて信号処理回路とともに図3に示す。
2台の透過型時間ピックアップ検出器13、14による通過イオンの到達時間差と半導体検出器15で測定された波高はリストモードで記録される。上流側透過型時間ピックアップ検出器13と下流側透過型時間ピックアップ検出器14の間の寸法距離(飛行距離)は計測系時間分解能が1ns以下の性能を考慮すると600mm~900mmで十分な速度分解能、すなわちエネルギー分解能がえられる。透過型時間ピックアップ検出器からの信号はディスクリミネータCFD(Constant Fraction Discriminator)に入力され、飛行
時間計測のために時間電圧変換モジュールTAC(time to amplitude convertor)に送ら
れる。TACは二つのマイクロチャネルプレート18からの信号が特定の時間範囲に入った時に出力信号を送信する。試料から遠い方の下流側透過型時間ピックアップ検出器14からの信号をTACのスタートタイミングトリガ信号として入力し、上流側透過型時間ピックアップ検出器13の信号を遅延させたものをストップ信号としてTACに入力し飛行時間を計測する。これは試料に近い透過型時間ピックアップ検出器13の試料に対する立体角が、試料から遠い方の透過型時間ピックアップ検出器14に比べて大きいことで、下流側透過型時間ピックアップ検出器14には計測されないイオンまで上流側透過型時間ピックアップ検出器で信号として収集され、デッドタイム(計測不感帯)が発生することを抑制する効果がある。また試料に近い上流側透過型時間ピックアップ検出器13と試料12の間にスリット9を設け、立体角を小さくする機構をあわせて設置することで信号収集を最適化することも検出効率を向上させる効果がある。
非特許文献1では図10に示すように炭素の連続イオンビームを試料に入射して試料から反跳された炭素、ヘリウム、水素イオンの検出効率が示されている。炭素イオンの検出効率は100%に近いが、ヘリウム、水素は低い検出効率となっており、また入射イオンビームエネルギーが高くなるにつれて検出効率が低下し、ヘリウム、水素では大きく低下する。しかしながら、本発明における入射イオンビーム領域の500keV以下の範囲で
はヘリウム原子で80%、水素原子で40%の検出効率となり、高エネルギーイオンビーム入射の場合に比べ検出効率が高い領域で飛行時間計測を用いることができる。さらに二次電子を発生する炭素フォイルの面密度を高めることや、炭素フォイルとマイクロチャネルプレートの幾何学的形状・配置と静電反射ミラー形状を最適化することなどの手段で二次電子検出感度を向上することも可能である。
飛行時間計測法の散乱または反跳イオンのエネルギー分解能ΔEは次の式で示される。
Figure 0007425269000003
ここでm、Eはイオン質量、及びイオンエネルギー、l (エル) は飛行距離、Δtは
計測系の時間分解能を示す。計測系時間分解能、飛行距離、イオン質量の計測条件が同じであれば、計測イオンエネルギーが小さい領域ではエネルギー分解能が向上することを示しており、入射イオンビームにおいて2MeV入射イオンエネルギーの場合と500ke
Vではエネルギー分解能が8倍向上する。従い500keV以下のイオンビームエネルギ
ー利用によるイオンビーム加速装置(加速器)1は使用する高圧電源の回路が小さくできると共に、エネルギー分解能が向上することで試料深さ方向元素プロファイルをコンパクトで高分解能な計測が可能となる。
さらに、飛行時間計測法では図3に示すように、飛行時間計測器を構成する2台の透過型時間ピックアップ検出器13、14と半導体検出器15は直径50mm~150mm程度の飛行時間計測ダクト16に収納することができる。重量も40kg~50kgで偏向電磁石と位置検出器による計測器に比べ大幅な重量軽減が達成できる。このため飛行時間計測ダクト16と試料容器11との間にフレキシブル継手17を設置して、試料中心に円弧型スライドレールに沿って回転できる機構を設けることで、真空を破ることなく散乱角(θ)または反跳角(φ)を連続的に容易に変更可能となる。このように飛行時間計測器によるイオンビーム分光法では、偏向電磁石と位置検出器によるイオンビーム分光法に比べ測定条件変更作業が容易にできる構成・構造となり、全体として分析時間の短縮につながる。計測用スリット9は飛行時間計測ダクト16の角度変更に追随するよう計測用スリット支持器25により飛行時間計測ダクト16と一体化する。散乱角(θ)または反跳角(φ)を連続的に変更できる別の方法として、図1にも示しているようにイオンビーム7が試料容器11に入射される入射ダクトとの連結部にフレキシブル継手17を設け、試料容器11及び飛行時間計測ダクト16全体を一体として試料中心に円弧状に回転することでも達成できる。この場合、計測用スリット9は試料容器11と一体化して、角度変更に追随するよう計測用スリット支持器25を変更する必要がある。
また、図1で示した第1の実施形態では加速器1から出射されたイオンビームは磁場と電場を直交する形でイオンビームに印加して不純イオンを除去するウィーンフィルタ8を用いた構成例であり、このメリットはイオンビームが加速器出射方向と試料入射方向が直線ライン状に配置できることで、加速器1から試料容器11までを一つのフレーム内にコンパクト化に納めることができる。この第1の実施形態では加速器からのビーム出射方向を水平ビームとして機器配置することも、垂直ビームとして機器配置することも可能である。しかしながら後者の場合、構成機器が上下方向に一直線に並ぶことで装置全体が高くなり、設置場所の天井高さに影響を与える可能性がある。
図2に示す第2の実施形態では装置高さを低くするために、前記の不純イオンを除去するウィーンフィルタ8の代わりに偏向電磁石24を用いた実施例を示している。偏向電磁石24により加速器1から水平に出射されたイオンビームは垂直に90度偏向され、不純イオンはスリット9によって除去され、上方から垂直に試料に入射される。実施例1ではウィーンフィルタ8の上部に加速器が配置されているが、偏向電磁石24の採用により90度イオンビーム方向を変更できるため、偏向電磁石24と同じ高さの位置に加速器1を配置することができ装置高さが抑えられる。そのために加速器1の構成機器である高圧電源3を高圧ターミナル5の下方に配置することにより、加速器自体の高さ方向寸法も抑えた高圧電源3をもつ加速器構造としている。この機器配置構成は前記の通り、垂直ビームとして装置高さを低くする効果があるが、水平ビームでの利用を除外するものではない。
以上のように、本発明のイオンビーム分析装置によれば、入射イオンビームパルス生成器のような複雑な制御機器や、偏向電磁石と位置検出器で構成される高分解能計測機器を必要とせず、試料中の深さ方向元素プロファイルを高分解能、かつ短時間で分析することが可能である。すなわち本発明によれば、計測部における機器重量、サイズが小さく、簡単化されることで、装置の高さや、スペースの制限が緩和されるとともに、入射イオンビームに対する散乱イオン、または反跳イオンの検出角度が容易に変更可能となるため、測定操作や試料交換の自動化が容易となり、半導体薄膜、磁性薄膜や機能性薄膜などの各分野の試料の表面分析のみならず、各種製品成膜工程における基板上薄膜の深さ方向元素プロファイルや膜厚の検査としての利用も可能となる。
1 加速器 2 イオン源
3 高圧電源 4 加速管
5 高圧ターミナル 6 イオン用ガスボンベ
7 イオンビーム 8 ウィーンフィルタ
9 スリット 10 集束マグネット
11 試料容器 12 試料
13 透過型時間ピックアップ検出器(上流側)
14 透過型時間ピックアップ検出器(下流側)
15 半導体検出器(SSD) 16 飛行時間計測ダクト
17 フレキシブル継手 18 マイクロチャネルプレート(MCP)
19 散乱イオンまたは反跳イオン 20 グリッド
21 静電反射ミラー 22 炭素フォイル
23 ポリエステルフィルム 24 偏向電磁石
25 計測用スリット支持器


Claims (3)

  1. イオン加速器から出射されたイオンビームを試料に入射する手段と,
    上記試料を内部に保持する試料容器と,
    上記入射手段により上記試料に入射されたイオンビームによって上記試料から所定の方向に散乱イオンまたは反跳されたイオンを上記試料容器の外部に導く検出ポートと,
    上記検出ポートを介して導出された上記散乱イオンまたは反跳イオンのエネルギーを測定するスペクトル測定器を備えたイオンビーム分析装置において、
    上記試料に入射するイオンビームエネルギーは10keVから500keVの範囲の連続イオンビームを用いて試料に入射され、散乱イオンまたは反跳されたイオンは2台の時間ピックアップ検出器と半導体検出器による飛行時間計測とエネルギー計測を行う飛行時間計測器
    を具備し
    上記飛行時間計測器は試料が設置された試料容器との連結部に、散乱イオンまたは反跳イオン計測方向に試料中心として、散乱角または反跳角を変更可能なフレキシブル継手を具備してなるイオンビーム分析装置。
  2. イオン加速器から出射されたイオンビームを試料に入射する手段と,
    上記試料を内部に保持する試料容器と,
    上記入射手段により上記試料に入射されたイオンビームによって上記試料から所定の方向に散乱イオンまたは反跳されたイオンを上記試料容器の外部に導く検出ポートと,
    上記検出ポートを介して導出された上記散乱イオンまたは反跳イオンのエネルギーを測定するスペクトル測定器を備えたイオンビーム分析装置において、
    上記試料に入射するイオンビームエネルギーは10keVから500keVの範囲の連続イオンビームを用いて試料に入射され、散乱イオンまたは反跳されたイオンは2台の時間ピックアップ検出器と半導体検出器による飛行時間計測とエネルギー計測を行う飛行時間計測器
    を具備し、
    イオンビーム入射ダクトと試料容器との間に、試料容器と飛行時間計測器が一体として試料中心に、散乱角または反跳角を変更可能なフレキシブル継手を具備してなるイオンビーム分析装置
  3. イオンビームエネルギーが10keVから500keVの範囲の連続イオンビームを試料に入射するステップと、
    上記試料から所定の方向に散乱または反跳されたイオンの通過タイミングを計測する2つの時間ピックアップ検出器と半導体検出器により、上記イオンの飛行時間とイオンエネルギーを計測してエネルギー分光するイオンビーム分析法において、
    飛行時間計測器と試料が設置された試料容器との連結部、または試料容器と入射ダクトとの連結部にフレキシブル継手を設置して、散乱角または反跳角を連続的に変更可能とするイオンオンビーム分析法
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