JP7424550B1 - 水素輸送鋼管用高強度鋼板及びその製造方法並びに水素輸送用鋼管 - Google Patents

水素輸送鋼管用高強度鋼板及びその製造方法並びに水素輸送用鋼管 Download PDF

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Abstract

高圧水素環境下において、耐HISC性および疲労き裂進展抵抗に優れた水素輸送鋼管用高強度鋼板を提供する。本発明の水素輸送鋼管用高強度鋼板は、質量%で、C:0.030~0.060%、Si:0.01~0.50%、Mn:0.80~1.80%、P:0.015%以下、S:0.0015%以下、Al:0.010~0.080%、Cr:0.05~0.50%、Nb:0.005~0.080%、Ti:0.005~0.020%、N:0.0020~0.0080%およびCa:0.0005~0.0050%を含有し、鋼板表面下0.25mmにおけるビッカース硬さの平均値+3σが225HV以下であり、板厚中央組織における上位20%粒径が30μm以下であり、応力拡大係数範囲ΔKが45(MPa・m1/2)の時の疲労き裂進展速度が2.0×10-2(mm/cycle)未満であり、引張強さが535MPa以上である。

Description

本発明は、水素輸送鋼管用高強度鋼板に関し、特に、高圧水素ガスの輸送に用いられるラインパイプに供して好適な、水素輸送鋼管用高強度鋼板およびその製造方法に関するものである。また、本発明は、上記の水素輸送用高強度鋼板を用いた水素輸送用鋼管に関するものである。
一般に、ラインパイプは、厚板ミルや熱延ミルによって製造された鋼板を、UOE成形、プレスベンド成形およびロール成形等によって、鋼管に成形することで製造される。
ここに、高圧水素ガスの輸送に用いられるラインパイプは、強度、靭性、溶接性などの他に、耐水素脆化特性が必要とされる。中でも、操業中の圧力変動でラインパイプに繰返し応力がかかるため、使用寿命を長期化する上で、高圧水素ガス環境下での疲労き裂進展抵抗が必要とされる。また、高圧水素ガス環境下での耐水素誘起応力割れ性(耐HISC(Hydrogen Induced Stress Cracking)性)が必要とされる。水素圧が15MPa程度であれば、十分な肉厚を有する低合金鋼が用いられている。しかし、それ以上の圧力では使用中に水素脆化破壊する危険性が高まるため、低合金鋼は使用されず、低合金鋼よりも水素脆化し難いSUS316L等のオーステナイト系ステンレス鋼が用いられている。
オーステナイト系ステンレス鋼は、鋼材のコストが高いことに加えて、強度が低いため、高い水素圧に耐えうるように設計すると、肉厚が厚くなり、水素輸送用ラインパイプ自体の価格も高価となる。そのため、水素輸送用ラインパイプ向けとして、より低コストで、かつ高圧水素ガス環境にも耐えうる鋼材が要望されてきた。
上記の問題を解決するために、例えば特許文献1には、Mnの含有量が多いオーステナイト系鋼材が提案されている。
特許第6703608号公報
特許文献1に記載の技術によって、SUS316L等のオーステナイト系ステンレス鋼と比較し、低コストである鋼材の提供が可能であるが、特許文献1に記載の鋼材は、オーステナイト系合金であるため、一般的な低合金鋼と比べると高コストである。また、特許文献1に記載の鋼材においては、高圧水素ガス環境下における耐HISC性や疲労き裂進展抵抗は考慮されていない。
そこで本発明は、上記課題に鑑み、高圧水素環境下において、耐HISC性および疲労き裂進展抵抗に優れる水素輸送鋼管用高強度鋼板を、その有利な製造方法と共に提供することを目的とする。
また、本発明は、上記水素輸送鋼管用高強度鋼板を用いた水素輸送用鋼管を提供することを目的とする。
本発明者らは、高圧水素ガス環境下における、耐HISC性、および疲労き裂進展抵抗を確保するべく、鋼材の成分組成、ミクロ組織および製造条件について、数多くの実験と検討を繰り返した。その結果、以下のことを知見した。すなわち、鋼板表面下0.25mmにおけるビッカース硬さの標準偏差をσとしたときに、鋼板表面下0.25mmにおけるビッカース硬さの平均値+3σを225HV以下に制御し、板厚中央の組織における上位20%粒径を30μm以下にする。これにより、耐HISC性および疲労き裂進展抵抗が向上する。さらに、このような鋼組織を実現するためには、圧延条件および冷却条件を厳密にコントロールする必要があり、その条件を見出すことに成功した。本発明は、これら知見に基づいてなされたものである。
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
[1]質量%で、
C:0.030~0.060%、
Si:0.01~0.50%、
Mn:0.80~1.80%、
P:0.015%以下、
S:0.0015%以下、
Al:0.010~0.080%、
Cr:0.05~0.50%、
Nb:0.005~0.080%、
Ti:0.005~0.020%、
N:0.0020~0.0080%、および
Ca:0.0005~0.0050%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物である成分組成と、
鋼板表面下0.25mmにおけるビッカース硬さの標準偏差をσとしたときに、鋼板表面下0.25mmにおけるビッカース硬さの平均値+3σが225HV以下であり、板厚中央における上位20%粒径が30μm以下である組織を有し、
応力拡大係数範囲ΔKが45(MPa・m1/2)の時の疲労き裂進展速度が2.0×10-2(mm/cycle)未満であり、引張強さが535MPa以上である、水素輸送鋼管用高強度鋼板。
[2]前記成分組成が、さらに、質量%で、
Cu:0.50%以下、
Ni:0.50%以下、
Mo:0.50%以下、
V:0.1%以下、
Zr:0.02%以下、
Mg:0.02%以下、および
REM:0.02%以下
のうちから選んだ1種以上を含有する、[1]に記載の水素輸送鋼管用高強度鋼板。
[3]上記[1]または[2]に記載の成分組成を有する鋼片を1000~1250℃の温度に加熱したのち、
再結晶温度域での総圧下率:35%以上55%以下、
再結晶温度域での最終圧延パスの圧下率:10%以上、
(再結晶温度域の下限温度-80℃)以上、再結晶温度域の下限温度未満の温度域における最終圧延パスの圧下率:15%以上
である熱間圧延を施して鋼板とし、
その後、前記鋼板に対して、
冷却開始時の鋼板表面温度:Ar変態点(℃)以上、
鋼板全体における冷却開始時間差:50秒以内、
鋼板表面下0.25mmにおける鋼板温度で750℃から550℃までの平均冷却速度:15~50℃/s、
板厚中央における鋼板温度で750℃から550℃までの平均冷却速度:15~50℃/s、
鋼板表面下0.25mmおよび板厚中央における鋼板温度で冷却停止温度:250~550℃
である冷却を施す、水素輸送鋼管用高強度鋼板の製造方法。
[4]上記[1]または[2]に記載の水素輸送鋼管用高強度鋼板を用いた水素輸送用鋼管。
本発明の水素輸送鋼管用高強度鋼板および該水素輸送鋼管用高強度鋼板を用いた水素輸送用鋼管は、高圧水素環境下における耐HISC性、および疲労き裂進展抵抗に優れる。前記鋼管は、該鋼管において溶接部を含む領域においても、高圧水素環境下における耐HISC性に優れる。また、本発明の水素輸送鋼管用高強度鋼板の製造方法によれば、高圧水素環境下における耐HISC性、および疲労き裂進展抵抗に優れた水素輸送鋼管用高強度鋼板を製造することができる。
実施例における耐HISC性の評価のための試験片の採取方法を説明する模式図である。
以下、本発明の水素輸送鋼管用高強度鋼板について、具体的に説明する。なお、以下、本発明の水素輸送鋼管用高強度鋼板を、単に、高強度鋼板ともいう。
[成分組成]
まず、本発明の高強度鋼板の成分組成とその限定理由について説明する。以下の説明において%で示す単位は、特に断らない限り全て質量%である。
C:0.030~0.060%
Cは、強度の向上に有効に寄与するが、C含有量が0.030%未満では十分な強度が確保できないので、C含有量は0.030%以上とする。C含有量は、好ましくは0.035%以上とする。一方、C含有量が0.060%を超えると、加速冷却時に硬さが上昇するため、耐HISC性が劣化する。このため、C含有量は0.060%以下とする。C含有量は、好ましくは0.050%以下とする。
Si:0.01~0.50%
Siは、脱酸のため添加するが、Si含有量が0.01%未満では脱酸効果が十分でないので、Si含有量は0.01%以上とする。Si含有量は、好ましくは0.05%以上とする。一方、Si含有量が0.50%を超えると、溶接性が劣化するため、Si含有量は0.50%以下とする。Si含有量は、好ましくは0.45%以下とする。
Mn:0.80~1.80%
Mnは、強度の向上に有効に寄与するが、Mn含有量が0.80%未満ではその効果が十分には発現しない。このためMn含有量は0.80%以上とする。Mn含有量は、好ましくは1.00%以上とする。Mn含有量は、より好ましくは1.20%以上とする。一方、Mn含有量が1.80%を超えると加速冷却時に硬さが上昇するため、耐HISC性が劣化する。このため、Mn含有量は1.80%以下とする。Mn含有量は、好ましくは1.70%以下とする。Mn含有量は、より好ましくは1.60%以下とする。
P:0.015%以下
Pは、不可避不純物元素であり、硬さを上昇させることで、耐HISC性を劣化させる。P含有量が0.015%を超えるとその傾向が顕著となるため、P含有量の上限を0.015%とする。P含有量は、好ましくは0.008%以下とする。なお、P含有量は低いほどよいが、過度の脱Pは精錬コストの増加を招くので、精錬コストの観点からは、P含有量は0.001%以上とすることが好ましい。
S:0.0015%以下
Sは、不可避不純物元素であり、鋼中においてはMnS介在物を生成して低温靭性を劣化させるため、S含有量は、少ないことが好ましいが、0.0015%までは許容される。そのため、S含有量は0.015%以下とする。S含有量は、好ましくは0.0010%以下である。なお、S含有量は低いほどよいが、過度の脱Sは精錬コストの増加を招くので、精錬コストの観点からは、S含有量は0.0002%以上とすることが好ましい。
Al:0.010~0.080%
Alは、脱酸剤として添加するが、Al含有量が0.010%未満ではその効果が十分には発現しない。このためAl含有量は0.010%以上とする。Al含有量は、好ましくは0.015%以上とする。Al含有量は、より好ましくは0.025%以上とする。一方、Al含有量が0.080%を超えると連続鋳造時の浸漬ノズルのアルミナ詰まりが生じるため、Al含有量は0.080%以下とする。Al含有量は、好ましくは0.070%以下とする。Al含有量は、より好ましくは0.040%以下とする。
Cr:0.05~0.50%
Crは、Mnと同様、低C含有量の鋼でも十分な強度を得るために有効な元素であるが、Cr含有量が0.05%未満ではその効果が十分には発現しない。このためCr含有量は0.05%以上とする。Cr含有量は、好ましくは0.10%以上とする。Cr含有量は、より好ましくは0.15%以上とする。しかし、Cr含有量が0.50%を超えると、焼入れ性が過剰になるため、加速冷却時に硬さが上昇し、耐HISC性が劣化する。このため、Cr含有量は0.50%以下とする。Cr含有量は、好ましくは0.45%以下とする。Cr含有量は、より好ましくは0.35%以下とする。
Nb:0.005~0.080%
Nbは、固溶Nbとして存在すると熱間圧延時の未再結晶温度域を拡大し、結晶粒の粒径微細化に寄与するが、Nb含有量が0.005%未満ではその効果が十分には発現しない。このためNb含有量は0.005%以上とする。Nb含有量は、好ましくは0.010%以上とする。Nb含有量は、より好ましくは0.025%以上とする。一方、Nb含有量が0.080%を超えると凝固時に粗大な炭化物を晶出するため、耐水素誘起割れ性が劣化する。このため、Nb含有量は0.080%以下とする。Nb含有量は、好ましくは0.060%以下とする。Nb含有量は、より好ましくは0.055%以下とする。
Ti:0.005~0.020%
Tiは、TiNとして加熱時にオーステナイト粒をピンニングし、粒の成長を抑制する効果がある。Ti含有量が0.005%未満ではTiNが十分に生成しないため、Ti含有量は0.005%以上とする。Ti含有量は、好ましくは0.008%以上とする。また、Ti含有量が0.020%を超えると、生成したTiNが粗大化して、溶接熱影響部の十分な靱性が得られないため、Ti含有量は0.020%以下とする。Ti含有量は、好ましくは0.017%以下とする。Ti含有量は、より好ましくは0.015%以下とする。
N:0.0020~0.0080%
Nは、強度の向上に有効に寄与するが、N含有量が0.0020%未満では十分な強度が確保できない。このためN含有量は0.0020%以上とする。N含有量は、好ましくは0.0025%以上とする。N含有量は、より好ましくは0.0030%以上とする。一方、N含有量が0.0080%を超えると、加速冷却時に硬さが上昇するため、耐HISC性が劣化する。このため、N含有量は0.0080%以下とする。N含有量は、好ましくは0.0070%以下とする。N含有量は、より好ましくは0.0050%以下とする。
Ca:0.0005~0.0050%
Caは、硫化物系介在物の形態制御による耐水素誘起割れ性向上に有効な元素であるが、Ca含有量が0.0005%未満ではその添加効果が十分でない。このためCa含有量は0.0005%以上とする。Ca含有量は、好ましくは0.0008%以上とする。Ca含有量は、より好ましくは0.0015%以上とする。一方、Ca含有量が0.0050%を超えた場合、上述の効果が飽和するだけでなく、鋼の清浄度が低下することにより耐水素誘起割れ性が劣化するので、Ca含有量は0.0050%以下とする。Ca含有量は、好ましくは0.0045%以下とする。Ca含有量は、より好ましくは0.0035%以下とする。
以上、本発明の高強度鋼板における基本成分(必須成分)について説明した。本発明の高強度鋼板における成分組成のうち、上記以外の成分(残部)はFeおよび不可避的不純物とすることができる。
本発明の高強度鋼板の成分組成は、上記成分に加えて、さらに、Cu、Ni、Mo、V、Zr、MgおよびREMのうちから選んだ1種以上を、以下の範囲で任意に含有させることができる。
Cu:0.50%以下
Cuは、低温靭性の改善と強度の上昇に有効な元素であり、この効果を得るにはCu含有量を0.05%以上とすることが好ましい。Cu含有量は、0.10%以上がより好ましい。しかし、Cu含有量が0.50%を超えると、鋼板の表面疵が発生しやすくなるため、Cuを含有する場合は、Cu含有量を0.50%以下とする。Cu含有量は、好ましくは0.45%以下とする。
Ni:0.50%以下
Niは、低温靭性の改善と強度の上昇に有効な元素であり、この効果を得るにはNi含有量を0.05%以上とすることが好ましい。Ni含有量は、0.10%以上がより好ましい。一方で、Niは高価な元素であるため、Niを含有する場合は、Ni含有量を0.50%以下とする。Ni含有量は、好ましくは0.45%以下とする。
Mo:0.50%以下
Moは、低温靭性の改善と強度の上昇に有効な元素であり、この効果を得るにはMo含有量を0.05%以上とすることが好ましい。一方で、Moは高価な元素であるため、Moを含有する場合は、Mo含有量を0.50%以下とする。Mo含有量は、好ましくは0.45%以下とする。
V:0.1%以下
Vは、鋼板の強度および低温靭性を高めるために任意に添加することができる元素であるが、V含有量が0.005%未満ではその効果が十分には発現しない。このためVを含有する場合には、V含有量を0.005%以上とすることが好ましい。一方、V含有量が0.1%を超えると溶接部の靭性が劣化するので、Vを含有する場合は、V含有量を0.1%以下とするのが好ましい。V含有量は、0.050%以下がより好ましく、0.010%以下がさらに好ましい。
Zr:0.02%以下、Mg:0.02%以下、REM:0.02%以下
Zr、MgおよびREM(希土類金属)は、結晶粒微細化を通じて疲労き裂進展抵抗を高めたり、介在物性状のコントロールを通して耐割れ性を高めたりするために任意に添加することができる元素である。各元素とも、含有量が0.0005%未満ではその効果が十分には発現しない。このためこれらの元素を含有する場合には、各元素の含有量をそれぞれ0.0005%以上とすることが好ましい。一方、各元素の含有量がそれぞれ0.02%を超えるとその効果が飽和するので、Zr、MgおよびREMを含有する場合は、各元素の含有量をそれぞれ0.02%以下とするのが好ましい。前記各元素の含有量は、それぞれ、0.0050%以下がより好ましく、0.0030%以下がさらに好ましい。なお、REMは、Sc、Yと、原子番号57のランタン(La)から原子番号71のルテチウム(Lu)までの15元素の総称であり、ここでいうREM含有量は、これらの元素の合計含有量である。
なお、上記した元素以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。ただし、本発明の作用効果を害しない限り、他の微量元素の含有を妨げない。例えば、Oは鋼中に不可避的に含まれる元素であるが、その含有量が0.0050%以下、好ましくは0.0040%以下であれば、本発明においては許容される。
[鋼板表面下0.25mmの硬さ]
本発明の高強度鋼板は、鋼板表面下0.25mmにおけるビッカース硬さ(HV0.5)の標準偏差をσとしたときに、鋼板表面下0.25mmにおけるビッカース硬さ(HV0.5)の平均値+3σが225HV以下であることが重要である。この条件を満たすことにより、高圧水素環境下において、優れた耐HISC性を得ることができる。鋼板表面下0.25mmにおけるビッカース硬さ(HV0.5)の平均値+3σが225HV超えの場合、鋼板内の硬さのばらつきが大きいため、局所的に水素が集積することにより、当該局所的に水素が集積した部位における耐HISC性の劣化が生じてしまう。ここで、「鋼板表面下0.25mmにおけるビッカース硬さ(HV0.5)」は、鋼板の圧延方向の先端と尾端からそれぞれ、鋼板表面下0.25mmの位置(鋼板の表面から板厚中央方向に0.25mmの深さ位置)のビッカース硬さ(HV0.5)を、板幅方向に沿って等間隔に100点測定した。なお、前記鋼板の圧延方向の先端は、鋼板の最先端から圧延方向に1m下流側の位置である。前記鋼板の圧延方向の尾端は、鋼板の最尾端から圧延方向に1m上流側の位置である。測定は、板幅方向端部近傍の非定常部を除いた領域について行った。ここで、通常用いられる10kgfに代えて0.5kgfで鋼板の硬さを測定するのは、0.5kgfで測定することにより圧痕が小さくなるので、より表面に近い位置での硬さ情報や、よりミクロ組織に敏感な硬さ情報を得ることが可能となるからである。0.5kgfよりも小さな試験力でビッカース硬さを測定すると、圧痕サイズが過度に小さく、測定ばらつきが大きくなるため好ましくない。鋼板表面下0.25mmにおけるビッカース硬さの平均値+3σは220HV以下が好ましい。また、一例として、鋼板表面下0.25mmにおけるビッカース硬さの平均値+3σは200HV以上である。
[板厚中央における上位20%粒径]
平均結晶粒径を微細化することで、疲労き裂進展抵抗が向上するが、Ar変態点温度以上で冷却を開始する場合においては、平均結晶粒径の微細化に限界がある。本発明においては、粗大な結晶粒の形成を抑制することが肝要である。すなわち、上位20%粒径が大きいと、疲労き裂進展抵抗が劣化する。特に、板厚中央において、結晶粒径の分布における上位20%が30μm超である組織は、き裂が伝播しやすいので、疲労き裂進展抵抗が著しく劣化する。よって、板厚中央(板厚1/2位置)における上位20%粒径が30μm以下である組織とする必要がある。前記上位20%粒径は25μm以下が好ましい。また、一例として、前記上位20%粒径は15μm以上である。なお、上位20%粒径とは、結晶粒径の分布において、結晶粒径を大きい順に整理した際、結晶粒径の大きいほうから20%位置にあたる粒径である。結晶粒径の測定範囲は、板厚中央位置の1mm×1mmとした。より具体的には、結晶粒径は、板厚中央位置における組織をEBSD(Electron Backscatter Diffraction)法により解析した結果、15°以上の方位差を有する境界を結晶粒界と判断して、個々の結晶粒の面積から円相当径の直径を結晶粒径として算出した。また、本発明においては、測定対象の全結晶粒について、度数分布表を作成し、算出した結晶粒径の大きいほうからの累積相対度数が20%に相当する結晶粒径を「上位20%粒径」と称する。
[疲労き裂進展速度]
本発明の高強度鋼板は、21MPa高圧水素ガス中の疲労き裂進展試験において、応力拡大係数範囲ΔKが45(MPa・m1/2)の時の疲労き裂進展速度が2.0×10-2(mm/cycle)未満である。好ましくは、前記疲労き裂進展速度は1.5×10-2(mm/cycle)以下である。前記疲労き裂進展速度は、低いほど好ましい。また、一例として、前記疲労き裂進展速度は、1.0×10-2(mm/cycle)以上である。
[引張強さ]
本発明の高強度鋼板は、主にAPI 5LのX65グレード以上の強度を有する鋼管用の鋼板に向けられたものであることから、535MPa以上の引張強さを有するものとする。なお、本発明の高強度鋼板の引張強さの上限は特に限定されないが、一例として、本発明の高強度鋼板の引張強さは、760MPa以下である。また、本発明の高強度鋼板の引張強さは、600MPa以下としてもよい。
[高強度鋼板の厚さ]
本発明の高強度鋼板の板厚は、特に限定されないが、12mm以上であることが好ましい。また、本発明の高強度鋼板の板厚は、特に限定されないが、39mm以下であることが好ましい。
[製造方法]
以下、上記高強度鋼板を製造するための製造方法および製造条件について、具体的に説明する。
本発明の高強度鋼板の製造方法は、上記成分組成を有する鋼片(スラブ)を加熱したのち、当該鋼片に熱間圧延を施して鋼板とし(熱間圧延工程)、その後、当該鋼板に対して所定条件下での冷却を行う(冷却工程)。
[鋼片の加熱温度]
鋼片の加熱温度:1000~1250℃
鋼片(スラブ)の加熱温度が1000℃未満では、炭化物の固溶が不十分となり、固溶C等による固溶強化量が少なくなるため、必要な強度が得られない。一方、鋼片の加熱温度が、1250℃を超えると、結晶粒が極端に粗大化し、疲労き裂進展抵抗が劣化するため、鋼片の加熱温度は1000~1250℃とする。鋼片の加熱温度は、好ましくは1030℃以上とする。また、鋼片の加熱温度は、好ましくは1200℃以下とする。なお、鋼片(スラブ)は中心部まで前記加熱温度に加熱される。
[再結晶温度域での総圧下率:35%以上55%以下]
板厚中央の組織における上位20%粒径を微細にするためには、再結晶温度域での熱間圧延で、結晶粒の再結晶を促進し、粗大粒の形成を抑制する必要がある。再結晶温度域での総圧下率が35%未満の場合、再結晶が不十分であるため、粗大粒が残存する。よって、再結晶温度域での総圧下率は35%以上とし、好ましくは38%以上とする。一方、再結晶温度域での総圧下率が55%を超えると、結晶粒の粗大化は抑制できるが、未再結晶域での圧下が不足するため、結晶粒の微細化ができない。よって、再結晶温度域での総圧下率は55%以下とし、好ましくは52%以下とする。ここで、再結晶温度域の下限温度Tnr(℃)は、例えば、鋼の成分から以下の式で求めることができる。なお、熱間圧延における温度は、被圧延材(鋼片ないし鋼板)の表面温度とし、前記表面温度は放射温度計等で測定することができる。
Tnr(℃)=174×log[%Nb][%C+(12/14)%N]+1444
ただし、上記式中の[%X]は、X元素の鋼中含有量(質量%)を示す。
[再結晶温度域での最終圧延パスの圧下率:10%以上]
再結晶温度域での総圧下率を35%以上55%以下にするのに加えて、再結晶温度域での最終圧延パスの圧下率を十分に確保し、再結晶を十分に促進させることで、粗大粒が存在しない均一粒の状態で部分再結晶域圧延を開始する必要がある。再結晶温度域での最終圧延パスの圧下率が10%未満の場合、再結晶が不十分であるため、粗圧延後仕上げ圧延開始までの保持時間の間に粗大粒に成長する。よって、再結晶温度域での最終圧延パスの圧下率は10%以上とし、好ましくは11%以上とする。再結晶温度域での最終圧延パスの圧下率の上限は特に限定されず、高いほど好ましい。一例として、再結晶温度域での最終圧延パスの圧下率は20%以下である。
[(再結晶温度域の下限温度-80℃)以上、再結晶温度域の下限温度未満の温度域における最終圧延パスの圧下率:15%以上]
再結晶温度域での圧延完了後も部分的には再結晶するため、(再結晶温度域の下限温度-80℃)以上、再結晶温度域の下限温度未満の温度域における圧下率をさらに高めることで、再結晶を促進することが可能である。これにより、板厚中央の組織における上位20%粒径を有効に微細化することができる。よって、(再結晶温度域の下限温度-80℃)以上、再結晶温度域の下限温度未満の温度域における最終圧延パスの圧下率は15%以上とし、好ましくは16%以上とする。前記温度域における最終圧延パスの圧下率の上限は特に限定されず、高いほど好ましい。一例として、前記温度域における最終圧延パスの圧下率は25%以下である。
(再結晶温度域の下限温度-80℃)未満における圧延は、低温で圧延した方が、歪みが多く導入されるため、結晶粒微細化に有効である。このため、冷却の冷却開始温度を遵守できる範囲内で、(再結晶温度域の下限温度-80℃)未満の低温で圧延するのが好ましい。
[圧延終了温度]
熱間圧延工程において、結晶粒を微細にするためには、圧延終了温度は低いほどよい。その反面、高圧水素環境下において、耐HISC性を確保する観点からは、熱間圧延工程後の冷却工程における冷却開始温度を、鋼板表面温度でAr変態点以上とする必要があることを踏まえて、圧延終了温度を設定する必要がある。ここで、Ar変態点とは、冷却中におけるフェライト変態開始温度を意味し、例えば、鋼の成分から以下の式で求めることができる。なお、鋼板の表面温度は放射温度計等で測定することができる。
Ar変態点(℃)=910-310[%C]-80[%Mn]-20[%Cu]-15[%Cr]-55[%Ni]-80[%Mo]
ただし、上記式中、[%X]は、X元素の鋼中含有量(質量%)を示し、含有しない元素は0とする。
[冷却の冷却開始温度]
冷却開始温度:鋼板表面温度でAr変態点(℃)以上
熱間圧延工程後の鋼板に、冷却(制御冷却)を施す。冷却開始時の鋼板表面温度がAr変態点(℃)未満の場合、冷却前にフェライトが生成して、強度低下が大きくなる。このため、冷却開始時の鋼板表面温度はAr変態点(℃)以上とする。なお、冷却開始時の鋼板表面温度は、冷却開始温度が最も低くなる鋼板表面領域の温度である。具体的には、冷却開始時の鋼板表面温度は、例えば、冷却装置に対して鋼板を一方向に走行させながら冷却する場合には、鋼板尾端部の鋼板表面温度である。また、例えば、鋼板全体について、一定の領域ごとに冷却を行い、前記領域の間で冷却を開始する時間が異なる場合には、最後に冷却した領域の鋼板表面温度である。なお、一例として、冷却開始時の鋼板表面温度の上限は、上記圧延終了温度である。
[冷却の冷却開始時間]
鋼板全体における冷却開始時間差:50秒以内
鋼板全体における冷却開始時間差が50秒超えの場合、鋼板内において温度差が大きくなるため、冷却停止時の鋼板温度のばらつきが大きくなり、鋼板表面下0.25mmにおけるビッカース硬さのばらつきが大きくなると共に耐HISC性が劣化する。このため、鋼板全体における冷却開始時間差は50秒以内とし、好ましくは45秒以内とする。具体的には、例えば、冷却装置に対して鋼板を一方向に走行させながら冷却する場合には、鋼板先端の冷却開始時間と鋼板尾端の冷却開始時間の差を50秒以内とする。また、例えば、鋼板全体について、一定の領域ごとに冷却を行い、前記領域の間で冷却を開始する時間が異なる場合には、最初の領域の冷却開始時間と最後の領域の冷却開始時間の差を50秒以内とする。なお、鋼板全体を一度に冷却できる場合には、鋼板全体における冷却開始時間差は0秒であってもよい。
[冷却の冷却速度]
優れた耐HISC性を得つつ、高強度化を図るためには、鋼板表面下0.25mmおよび板厚中央における冷却速度を制御する必要がある。
鋼板表面下0.25mmにおける750℃から550℃までの平均冷却速度:15~50℃/s
鋼板表面下0.25mmにおける鋼板温度で750℃から550℃までの平均冷却速度を極力遅くし、グラニュラーベイナイトを造り込むことが重要である。750℃から550℃までの温度域がベイナイト変態において重要な温度域となるので、この温度域における冷却速度を制御することが重要になる。前記温度域における平均冷却速度が50℃/s超では、硬さのばらつきが生じる恐れがあり、造管後の耐HISC性が劣化する。そのため、当該平均冷却速度は50℃/s以下とする。好ましくは45℃/s以下である。一方、冷却速度が過度に小さくなるとフェライトやパーライトが生成して強度不足となるため、これを防ぐ観点から、前記温度域における平均冷却速度は15℃/s以上とし、17℃/s以上とすることが好ましい。なお、鋼板表面下0.25mmにおける鋼板温度で550℃以下の温度域での冷却については、冷却速度が遅い場合、安定した核沸騰状態での冷却にならず、鋼板の極表層部で硬さがばらつく恐れがある。そのため、鋼板表面下0.25mmにおける鋼板温度で550℃から冷却停止温度までの平均冷却速度は150℃/s以上が好ましい。硬さのばらつきをより抑制しやすくなる点から、当該平均冷却速度は250℃/s以下が好ましい。
板厚中央における750℃から550℃までの平均冷却速度:15~50℃/s
板厚中央における750℃から550℃までの平均冷却速度が15℃/s未満では、グラニュラーベイナイト組織が得られずに強度低下が生じる。このため、板厚中央における750℃から550℃までの平均冷却速度は15℃/s以上とする。組織のばらつき抑制の観点からは、前記平均冷却速度は17℃/s以上とすることが好ましい。一方、粒径のばらつきを抑制するために、前記平均冷却速度は、50℃/s以下とし、45℃/s以下とすることが好ましい。なお、板厚中央における鋼板温度で550℃以下の温度域での冷却については、特に限定されないが、組織や粒径のばらつき抑制の観点から、前記温度域での平均冷却速度は15℃/s以上とすることが好ましい。また、前記観点から、前記温度域での平均冷却速度は50℃/s以下とすることが好ましい。
なお、鋼板表面下0.25mmおよび板厚中央における鋼板温度は、物理的に直接測定することはできない。しかし、放射温度計にて測定された冷却開始時の表面温度と目標の冷却停止時の表面温度をもとに、例えばプロセスコンピューターを用いて差分計算により板厚断面内の温度分布を計算し、その結果からリアルタイムに求めることができる。当該温度分布における鋼板表面下0.25mmでの温度を本明細書における「鋼板表面下0.25mmにおける鋼板温度」とし、当該温度分布における板厚中央の温度を本明細書における「板厚中央における鋼板温度」とする。
[冷却停止温度]
冷却停止温度:鋼板表面下0.25mmおよび板厚中央における鋼板温度で250~550℃
鋼板表面下0.25mmおよび板厚中央における鋼板温度で冷却停止温度が550℃を超えると、ベイナイト変態が不完全になり、十分な強度が得られない。このため、前記冷却停止温度は550℃以下とし、500℃以下とすることが好ましい。また、前記冷却停止温度が250℃未満では、硬さが上昇するため、耐HISCが劣化する。このため、前記冷却停止温度は250℃以上とし、300℃以上とすることが好ましい。
[水素輸送用鋼管]
本発明の高強度鋼板を、プレスベンド成形、ロール成形、UOE成形等で管状に成形した後、突き合わせ部を溶接することにより、高圧水素ガスの輸送に好適な水素輸送用鋼管(UOE鋼管、電縫鋼管、スパイラル鋼管等)を製造することができる。また、本発明の高強度鋼板を用いて鋼管を製造することにより、溶接部に高硬度域が存在しても、耐HISC性に優れる鋼管を製造することができる。なお、本発明において、高圧水素とは、一例として、15MPa以上の水素ガス環境を意味する。
例えば、UOE鋼管は、鋼板の端部を開先加工し、Cプレス、Uプレス、Oプレスで鋼管形状に成形した後、内面溶接および外面溶接で突き合わせ部をシーム溶接し、さらに必要に応じて拡管工程を経て製造される。また、溶接方法は十分な継手強度と継手靭性が得られる方法であれば、いずれの方法でも良いが、優れた溶接品質と製造能率の観点から、サブマージアーク溶接を用いることが好ましい。また、プレスベンド成形により管状に成形した後、突き合せ部をシーム溶接した鋼管に対しても、拡管を実施することができる。
表1に示す成分組成からなる鋼(鋼種A~W)を、連続鋳造法により鋼片(スラブ)とし、表2に示す加熱温度に加熱したのち、表2に示す条件で熱間圧延と冷却を施し、表2に示す最終板厚の鋼板とした。冷却工程では、鋼板を一方向に走行させながら水冷型の制御冷却装置を用いて制御冷却を行った。その後、鋼板の端部を開先加工し、Cプレス、Uプレス、Oプレスで鋼管形状に成形した後、内面および外面の突き合わせ部をサブマージアーク溶接でシーム溶接し、拡管工程を経て鋼管にした。なお、表1中のAr変態点、再結晶温度域の下限温度Tnrは、それぞれ上述した式から求めた。
[ビッカース硬さの測定]
鋼板の圧延方向の先端と尾端からそれぞれ、圧延方向に垂直な断面について、JIS Z 2244(2009年)に準拠して、鋼板表面下0.25mmの位置において、板幅方向に沿って等間隔に100点のビッカース硬さ(HV0.5)を測定した。そして、計200点のビッカース硬さ(HV0.5)の平均値および標準偏差σを求めた。なお、前記鋼板の圧延方向の先端は、鋼板の最先端から圧延方向に1m下流側の位置である。前記鋼板の圧延方向の尾端は、鋼板の最尾端から圧延方向に1m上流側の位置である。また、測定は、板幅方向端部近傍の非定常部を除いた領域について行った。鋼板表面下0.25mmにおけるビッカース硬さの平均値+3σの値を表3に示す。
[上位20%粒径の算出]
上記に従って得られた鋼板の板幅中央部より金属組織観察用サンプルを採取した。このサンプルについて板幅方向に垂直な断面を鏡面研磨したあと、コロイダルシリカでエッチングを行った。その後、板厚中央の位置で1mm×1mmの視野でEBSD(Electron Backscatter Diffraction)法にて結晶データを収集した(測定ステップ:0.8μm)。データ収集後、OIM-Analysis(EDAX社製、OIM Analysisソフトウェア)を用いて、15°以上の方位差を有する境界を結晶粒界と判断して、個々の結晶粒の面積から円相当径の直径を結晶粒径として算出した。また、測定対象の全結晶粒について、度数分布表を作成し、算出した結晶粒径の大きいほうからの累積相対度数が20%に相当する結晶粒径を「上位20%粒径」とした。測定の結果を表3に示す。
[疲労き裂進展速度の導出]
上記に従って得られた鋼板から、荷重負荷方向が圧延方向と平行になるようASTM E 647に準拠したCT試験片を採取した。前記CT試験片は、板厚1/2位置から採取した厚さ10mmの試験片である。そして、クリップゲージを用いて、コンプライアンス法で疲労き裂の長さを測定して、21MPa高圧水素ガス中における疲労き裂進展速度を求めた。そして、応力拡大係数範囲ΔKが45(MPa・m1/2)での疲労き裂進展速度(mm/cycle)を評価した。その結果を表3に示す。
[引張強さの測定]
圧延方向に垂直な方向の全厚試験片を引張試験片として、JIS Z2241(2011年)の規定に準拠した引張試験を行い、引張強さおよび降伏強さを測定した。その結果を表3に示す。
[耐HISC性の評価]
耐HISC性は、図1に示すように、得られた鋼管から切り出した試験片(クーポン;coupon)を平坦化した後、3mm×10mm×50mmの試験片を鋼管内面より採取した。このとき、溶接部を含まない母材だけの試験片のほかに、溶接部と母材の両方を含む試験片を採取した。被検面である内面は、最表層の状態を残すために黒皮付きのままとした。すなわち、鋼板表面下0.25mmは試験片に含まれている。かくして採取した試験片に、各鋼管の実際の降伏強度(0.5%YS)の90%の応力を負荷し、21MPa高圧水素ガス中にて、4点曲げ試験を行った。720時間の暴露後に、溶接部を含まない母材だけの試験片と、溶接部と母材の両方を含む試験片との両方において、割れが認められない場合を耐HISC性に優れる(良好)と判断して○とした。また、少なくとも一方の試験片において割れが発生した場合を不良と判断して×とした。結果を表3に示す。
本発明の目標範囲は、以下のとおりとした。水素輸送鋼管用高強度鋼板として、鋼板表面下0.25mmにおけるビッカース硬さの平均値+3σが225HV以下である。板厚中央の組織における上位20%粒径が30μm以下である。応力拡大係数範囲ΔKが45(MPa・m1/2)の時の疲労き裂進展速度が2.0×10-2(mm/cycle)未満である。引張強さが535MPa以上である。さらに、上記耐HISC性の評価(4点曲げ試験)で割れが認められないことである。
Figure 0007424550000001
Figure 0007424550000002
Figure 0007424550000003
表2に示したように、No.1~No.9、No.33~No.35は、成分組成および製造条件が本発明の適正範囲を満足する発明例である。表3に示したように、No.1~No.9、No.33~No.35は、いずれも、高強度鋼板として鋼板表面下0.25mmにおけるビッカース硬さの平均値+3σが225HV以下であった。板厚中央の組織における上位20%粒径が30μm以下であった。応力拡大係数範囲ΔKが45(MPa・m1/2)の時の疲労き裂進展速度が2.0×10-2(mm/cycle)未満であった。引張強さが535MPa以上であった。さらに、耐HISC性も良好であった。
これに対し、No.10~No.20は、鋼板の成分組成が本発明の範囲外である。No.10、No.12、No.15およびNo.19は固溶強化が十分でなく、強度が不足した。No.11、No.13、No.14、No.16およびNo.20は、鋼板表面下0.25mmにおけるビッカース硬さが上昇したため、耐HISC性が劣っていた。No.17およびNo.18は析出物による粒成長抑制が不十分であり、疲労き裂進展抵抗が劣っていた。
No.21~No.32は、成分組成は本発明の範囲内であるが、製造条件が本発明の範囲外の比較例である。No.21は、鋼片(スラブ)の加熱温度が低いため、炭化物の固溶が不十分であり低強度であった。No.22は、鋼片の加熱温度が高いため、結晶粒が粗大化し、疲労き裂進展抵抗が劣化した。No.23は、再結晶温度域での総圧下率が不足したため、粗大粒が残存し、疲労き裂進展抵抗が劣化した。No.24は、再結晶温度域での総圧下率が過多のため、板厚中央の組織における上位20%粒径が大きく、疲労き裂進展抵抗が劣化した。No.25は、再結晶温度域の最終圧延パスでの圧下率が不足したため、粗大粒が残存し、疲労き裂進展抵抗が劣化した。No.26は、(再結晶温度域の下限温度-80℃)以上、再結晶温度域の下限温度未満の温度域の最終圧延パスでの圧下率が不足したため、板厚中央の組織における上位20%粒径が大きく、疲労き裂進展抵抗が劣化した。No.27は、冷却開始温度が低く、フェライトが一部生成したため、低強度であった。No.28は、鋼板全体における冷却開始時間差が大きかったため、鋼板表面下0.25mmにおけるビッカース硬さのばらつきが大きくなり、耐HISC性が劣化した。No.29は、750℃から550℃までの平均冷却速度が低く、フェライトが一部生成したため、低強度であった。No.30は、750℃から550℃までの平均冷却速度が高く、鋼板表面下0.25mmにおけるビッカース硬さのばらつきが大きくなったため、耐HISC性が劣っていた。No.31は、冷却停止温度が低く、鋼板表面下0.25mmにおけるビッカース硬さのばらつきが大きくなったため、耐HISC性が劣化した。No.32は、冷却停止温度が高く、フェライトが一部生成したため、低強度であった。
本発明によれば、高圧水素環境下において、耐HISC性および疲労き裂進展抵抗に優れた水素輸送鋼管用高強度鋼板を供給することができる。

Claims (4)

  1. 質量%で、
    C:0.030~0.060%、
    Si:0.01~0.50%、
    Mn:0.80~1.80%、
    P:0.015%以下、
    S:0.0015%以下、
    Al:0.010~0.080%、
    Cr:0.05~0.50%、
    Nb:0.005~0.080%、
    Ti:0.005~0.020%、
    N:0.0020~0.0080%、および
    Ca:0.0005~0.0050%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物である成分組成と、
    鋼板表面下0.25mmにおけるビッカース硬さの標準偏差をσとしたときに、鋼板表面下0.25mmにおけるビッカース硬さの平均値+3σが225HV以下であり、板厚中央における上位20%粒径が30μm以下である組織を有し、
    応力拡大係数範囲ΔKが45(MPa・m1/2)の時の疲労き裂進展速度が2.0×10-2(mm/cycle)未満であり、引張強さが535MPa以上である水素輸送鋼管用高強度鋼板。
  2. 前記成分組成が、さらに、質量%で、
    Cu:0.50%以下、
    Ni:0.50%以下、
    Mo:0.50%以下、
    V:0.1%以下、
    Zr:0.02%以下、
    Mg:0.02%以下、および
    REM:0.02%以下
    のうちから選んだ1種以上を含有する、請求項1に記載の水素輸送鋼管用高強度鋼板。
  3. 請求項1または2に記載の水素輸送鋼管用高強度鋼板の製造方法であって、
    前記成分組成を有する鋼片を1000~1250℃の温度に加熱したのち、
    再結晶温度域での総圧下率:35%以上55%以下、
    再結晶温度域での最終圧延パスの圧下率:10%以上、
    (再結晶温度域の下限温度-80℃)以上、再結晶温度域の下限温度未満の温度域における最終圧延パスの圧下率:15%以上
    である熱間圧延を施して鋼板とし、
    その後、前記鋼板に対して、
    冷却開始時の鋼板表面温度:Ar変態点(℃)以上、
    鋼板全体における冷却開始時間差:50秒以内、
    鋼板表面下0.25mmにおける鋼板温度で750℃から550℃までの平均冷却速度:15~50℃/s、
    板厚中央における鋼板温度で750℃から550℃までの平均冷却速度:15~50℃/s、
    鋼板表面下0.25mmおよび板厚中央における鋼板温度で冷却停止温度:250~550℃
    である冷却を施す、水素輸送鋼管用高強度鋼板の製造方法。
  4. 請求項1または2に記載の水素輸送鋼管用高強度鋼板を用いた水素輸送用鋼管。
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