A.第1実施例:
A1.車両10の構成:
図1(A)-図1(C)、図2(A)、図2(B)は、移動装置の一実施例である車両10を示す説明図である。図1(A)は、車両10の右側面図を示し、図1(B)は、車両10の上面図を示し、図1(C)は、車両10の下面図を示している。また、図2(A)、図2(B)は、車両10の背面図を示している。これらの図は、水平な地面GL(図1(A))上に配置され、傾斜していない状態の車両10を、示している。各図には、6つの方向DF、DB、DU、DD、DR、DLが示されている。前方向DFは、車両10の前方向(すなわち、前進方向)であり、後方向DBは、前方向DFの反対方向である。上方向DUは、鉛直上方向であり、下方向DDは、鉛直下方向(すなわち、上方向DUの反対方向)である。鉛直下方向は、重力の方向である。右方向DRは、前方向DFに走行する車両10から見た右方向であり、左方向DLは、右方向DRの反対方向である。方向DF、DB、DR、DLは、いずれも、水平な方向である。右と左の方向DR、DLは、前方向DFに垂直である。
本実施例では、車両10は、一人乗り用の小型車両である。車両10(図1(A)、図1(B))は、車体100と、一対の前輪20R、20Lと、一対の後輪30R、30Lと、を有する四輪車である。左前輪20Lと右前輪20Rとは、車両10の幅方向の中心に対して対称に、幅方向に互いに離れて配置されている。前輪20R、20Lは、回動輪の例である。回動輪は、車両10の幅方向(すなわち、右方向と左方向)に回動可能な車輪である。回動輪の進行方向は、前方向DFから右と左とに回転可能である。左後輪30Lと右後輪30Rとは、駆動輪であり、車両10の幅方向の中心に対して対称に、幅方向に互いに離れて配置されている。車両10が走行する場合、車輪20R、20L、30R、30Lは、回転軸20Rx、20Lx、30Rx、30Lxを中心に、それぞれ回転する。
車体100(図1)は、本体部110を有している。本体部110は、底部113と、底部113の前方向DF側に接続された前壁部112と、前壁部112の上端から前方向DFに向かって延びる前部111と、底部113の後方向DB側に接続された後壁部114と、後壁部114の上端から後方向DBに向かって延びる後部115と、を有している。本体部110は、例えば、金属製のフレームと、フレームに固定されたパネルと、を有している。
車体100は、さらに、底部113上に固定された座席120と、座席120の前方向DF側に配置されたアクセルペダル170とブレーキペダル180と、底部113に固定された制御装置900とバッテリ800と、前部111に取り付けられたハンドル160と、を有している。図示を省略するが、本体部110には、他の部材(例えば、屋根、前照灯など)が固定され得る。車体100は、本体部110に固定された部材を含んでいる。
ハンドル160は、右方向と左方向とに回転可能な部材である。直進を示す所定の回転位置(直進回転位置と呼ぶ)に対するハンドル160の回転角度(入力角とも呼ぶ)は、旋回の目標方向と旋回の目標程度とを表す旋回目標情報の例である。本実施例では、「入力角=ゼロ」は、直進を示し、「入力角>ゼロ」は、右旋回を示し、「入力角<ゼロ」は、左旋回を示している。入力角の大きさ(すなわち、絶対値)は、旋回の目標程度を示している。運転者は、ハンドル160を操作することによって、旋回目標情報を入力できる。
図1(B)には、前輪20R、20Lの回転軸20Rx、20Lxと方向D20R、D20Lが示されている。車両10が前進する場合、前輪20R、20Lは、方向D20R、D20Lに向かって進行する。方向D20R、D20Lは、回転軸20Rx、20Lxに垂直に前方向DF側に延びる方向である。
図1(A)、図1(B)には、前輪20R、20Lの回動軸27R、27Lが示されている。車両10の旋回時、方向D20R、D20Lは、回動軸27R、27Lを中心に、旋回方向へ回動する。図1(B)の方向D20は、前進時に前輪20R、20Lによって実現される車両10の進行方向である(前輪方向D20とも呼ぶ)。前輪方向D20は、前輪20R、20Lの方向D20R、D20Lと、おおよそ同じである。
車輪角Aw(図1(B))は、前方向DFを基準とする前輪方向D20の角度である。車輪角Awは、車体100の上方向(車体100が鉛直上方向DUに対して傾斜していない場合には、鉛直上方向DUと同じ)に平行な軸まわりの角度を示している。本実施例では、「Aw=ゼロ」は、「D20=DF」を示している。「Aw>ゼロ」は、「旋回方向=右方向DR」を示し、「Aw<ゼロ」は、「旋回方向=左方向DL」を示している。車輪角Awは、前輪20R、20Lの回動の角度を示している。前輪20R、20Lが操舵される場合、車輪角Awは、いわゆる操舵角に対応する。
図1(A)中の角度CAは、いわゆるキャスター角である。キャスター角CAは、車体100の上方向(車体100が鉛直上方向DUに対して傾斜していない場合には、鉛直上方向DUと同じ)と、回動軸27R、27Lに沿って鉛直上方向DU側へ向かう方向と、のなす角度である。本実施例では、キャスター角CAがゼロよりも大きい。
図1(A)、図1(C)中の交点26R、26Lは、回動軸27R、27Lと地面GLとの交点である。交点26R、26Lは、前輪20R、20Lの地面GLとの接触中心29R、29Lよりも、前方向DF側に位置している。交点26R、26Lと接触中心29R、29Lとの間の後方向DBの距離Ltは、トレールと呼ばれる。正のトレールLtは、接触中心29R、29Lが交点26R、26Lよりも後方向DB側に位置していることを示している。なお、図1(C)に示すように、左前輪20Lの接触中心29Lは、左前輪20Lと地面GLとの接触領域28Lの重心である。接触領域の重心は、接触領域内に質量が均等に分布していると仮定する場合の重心の位置である。他の車輪20R、30R、30Lと地面GLとの接触領域28R、38R、38Lと、接触中心29R、39R、39Lとは、同様に決定される。
図1(A)に示すように、車両10は、車体100の後壁部114の後方向DB側に配置された後連結装置600を有している。図2(A)には、車両10のうちの後連結装置600を含む一部分の簡略化された背面図が示されている。図2(A)に示すように、2つの後輪30L、30Rと、車体100とは、後連結装置600によって連結されている。後連結装置600は、後リンク機構60と、後リンク機構60に固定された駆動モータ660R、660Lと、後リンク機構60に取り付けられた後リーンモータ650と、後リンク機構60の上側の部分である支持部69と車体100の後部115とを接続する後サスペンションシステム670と、後リンク機構60(図1(C))と車体100の後壁部114とを接続する2本の後アーム680と、を備えている。
後リンク機構60(図2(A))は、いわゆる、平行リンクである。後リンク機構60は、右方向DRに向かって順番に並ぶ3つの縦リンク部材61L、61C、61Rと、下方向DDに向かって順番に並ぶ2つの横リンク部材61U、61Dと、中縦リンク部材61Cの上部に固定された支持部69と、を有している。水平な地面GL(すなわち、鉛直上方向DUに垂直な地面GL)上で車体100が傾斜せずに直立している場合、縦リンク部材61L、61C、61Rは、鉛直方向に平行であり、横リンク部材61U、61Dは、水平方向に平行である。2つの縦リンク部材61L、61Rと、2つの横リンク部材61U、61Dとは、平行四辺形リンク機構を形成している。中縦リンク部材61Cは、2つの横リンク部材61U、61Dの中央部分を連結している。リンク部材61L、61C、61R、61U、61Dと、支持部69とは、例えば、金属で形成されている。
後リンク機構60は、複数のリンク部材を回転可能に連結する軸受を有している。例えば、軸受68Dは、2個のリンク部材61D、61Cを回転可能に連結し、軸受68Uは、2個のリンク部材61U、61Cを回転可能に連結している。説明を省略するが、他の複数のリンク部材も、軸受によって連結されている。軸受の回転軸は、後方向DB側から前方向DF側に向かって延びている(本実施例では、回転軸は、前方向DFに平行である)。互いに連結された2個のリンク部材は、予め決められた角度範囲(例えば、180度未満の範囲)内で、回転軸を中心に相対的に回転可能であってよい。
左縦リンク部材61Lには、左駆動モータ660Lが取り付けられている。左駆動モータ660Lには、左後輪30Lが取り付けられている。また、右縦リンク部材61Rには、右駆動モータ660Rが取り付けられている。660右駆動モータ660Rには、右後輪30Rが取り付けられている。
後リーンモータ650は、後リンク機構60を駆動するように構成されている駆動装置の例であり、本実施例では、電気モータである。後リーンモータ650は、中縦リンク部材61Cと上横リンク部材61Uとに接続されている。後リーンモータ650は、上横リンク部材61Uを、中縦リンク部材61Cに対して、回転させる。これにより、車体100は、幅方向(すなわち、右方向、または、左方向)に傾斜する(詳細は、後述)。このように傾斜する運動は、ロール運動とも呼ばれる。なお、後リーンモータ650と中縦リンク部材61Cとは、ギヤを介して接続されてよい。また、後リーンモータ650と上横リンク部材61Uとは、ギヤを介して接続されてよい。以下、後リーンモータ650によって生成されるトルクを、後リーンモータトルクとも呼ぶ。後リーンモータトルクは、車体100をロールさせる。
図1(A)、図1(C)、図2(A)に示すように、2本の後アーム680は、車両10の幅方向に並んで配置されている。2本の後アーム680は、前方向DFにおおよそ平行に延びている。後アーム680の前方向DF側の端部は、後壁部114に、回転可能に接続されている。また、後アーム680の後方向DB側の端部は、中縦リンク部材61Cに回転可能に接続されている。
後サスペンションシステム670(図2(A))は、左サスペンション670Lと右サスペンション670Rと、を有している。本実施例では、サスペンション670L、670Rは、図示しないコイルスプリングとショックアブソーバとを内蔵するテレスコピックタイプのサスペンションである。サスペンション670L、670Rの上方向DU側の端部は、車体100の後部115に、回転可能に接続されている。また、サスペンション670L、670Rの下方向DD側の端部は、後リンク機構60の支持部69に、回転可能に接続されている。
2本の後アーム680と後サスペンションシステム670とは、車体100と後リンク機構60との間の相対的な動きを許容する。
図1(A)に示すように、車両10は、車体100の前壁部112の前方向DF側に配置された前連結装置400を有している。図2(B)には、車両10のうちの前連結装置400を含む一部分の簡略化された背面図が示されている。図2(B)に示すように、2つの前輪20R、20Lと、車体100とは、前連結装置400によって連結されている。前連結装置400の構成は、後連結装置600(図2(A))の構成と同様である。前連結装置400は、後リンク機構60と後リーンモータ650とに対応する前リンク機構40と前リーンモータ450とを有している。前リンク機構40は、後リンク機構60のリンク部材61L、61C、61R、61U、61Dと支持部69とに対応するリンク部材41L、41C、41R、41U、41Dと支持部49とを有している。前リンク機構40の軸受48U、48Dは、後リンク機構60の軸受68U、68Dに対応する。前リーンモータ450は、上横リンク部材41Uを、中縦リンク部材41Cに対して回転させることによって、車体100をロールさせる。以下、前リーンモータ450によって生成されるトルクを、前リーンモータトルクとも呼ぶ。
また、車両10は、さらに、前輪20R、20Lを回動軸27R、27Lを中心に幅方向に回動させるように構成されている回動装置500を備えている。回動装置500の構成は、公知の任意の構成であってよい。図示を省略するが、例えば、回動装置500は、回転軸20Rxを中心に右前輪20Rを回転可能に支持する右ハブと、右回動軸27Rを中心に回動可能に右ハブを支持する右軸受と、回転軸20Lxを中心に回転可能に左前輪20Lを支持する左ハブと、左回動軸27Lを中心に回動可能に左ハブを支持する左軸受と、右ハブと左ハブとを連結するリンク機構と、を有してよい。左軸受は、左縦リンク部材41Lに取り付けられてよく、右軸受は、右縦リンク部材41Rに取り付けられてよい。
また、車両10は、回動装置500を駆動する操舵モータ550を有している。操舵モータ550は、電気モータであり、前輪20R、20Lを幅方向(すなわち、右方向と左方向)に回動させる回動トルクを生成する(以下、回動駆動装置550とも呼ぶ)。操舵モータ550は、例えば、回動装置500のリンク機構を動かすことによって、前輪20R、20Lを回動させる。回動装置500と操舵モータ550とを備えるシステムの構成は、ラック・アンド・ピニオン型や、ボールナット型などの種々の構成であってよい。
図1(A)、図1(C)、図2(B)に示すように、前連結装置400は、前リンク機構40の上側の部分である支持部49と車体100の前部111とを接続する前サスペンションシステム470と、前リンク機構40(図1(C))と車体100の前壁部112とを接続する2本の前アーム480と、を備えている。2本の前アーム480は、車両10の幅方向に並んで配置されている。2本の前アーム480は、前方向DFにおおよそ平行に延びている。前アーム480の後方向DB側の端部は、前壁部112に、回転可能に接続されている。また、前アーム480の前方向DF側の端部は、中縦リンク部材41Cに回転可能に接続されている。
前サスペンションシステム470(図2(B))の構成は、後サスペンションシステム670(図2(A))の構成と同様である。 前サスペンションシステム470は、左サスペンション470Lと右サスペンション470Rと、を有している。本実施例では、サスペンション470L、470Rは、テレスコピックタイプのサスペンションである。サスペンション470L、470Rの上方向DU側の端部は、車体100の前部111に、回転可能に接続されている。また、サスペンション470L、470Rの下方向DD側の端部は、前リンク機構40の支持部49に、回転可能に接続されている。
2本の前アーム480と前サスペンションシステム470とは、車体100と前連結装置400との間の相対的な動きを許容する。また、図1(A)に示すように、前連結装置400は、ゼロよりも大きいキャスター角CAのために、鉛直上方向DUに対して傾いた状態で、車体100に接続されている。具体的には、前リンク機構40の縦リンク部材41L、41C、41Rが、前輪20R、20Lの回動軸27R、27Lに平行となるように、前連結装置400は傾いている。図2(B)では、前連結装置400の傾斜が省略されている。ただし、縦リンク部材41L、41C、41Rが、車体100の上方向(車体100が鉛直上方向DUに対して傾斜していない場合には、鉛直上方向DUと同じ)に平行であるように、前連結装置400が構成されてもよい。この場合も、回動装置500は、前輪20R、20Lを回動軸27R、27Lを中心に幅方向に回動させるように構成される。
図3(A)、図3(B)は、水平な地面GL上の車両10の状態を示す概略図である。図中には、車両10のうちの後連結装置600を含む一部分の簡略化された背面図が示されている。図3(A)は、車両10が直立している状態を示し、図3(B)は、車両10が傾斜している状態を示している。図3(A)に示すように、上横リンク部材61Uが中縦リンク部材61Cに対して直交する場合、後輪30L、30Rは、水平な地面GLに対して直立する。そして、車体100を含む車両10の全体は、地面GLに対して、直立する。図中の車体上方向DVUは、車体100の上方向である。車両10が傾斜していない状態では、車体上方向DVUは、上方向DUと同じである。本実施例では、車体100に対して予め決められた上方向が、車体上方向DVUとして用いられる。
図3(B)に示すように、背面図上で、中縦リンク部材61Cが上横リンク部材61Uに対して時計回り方向に回転することによって、車体100に対して相対的に、右後輪30Rが車体上方向DVU側に移動し、左後輪30Lが反対側に移動する。従って、後輪30R、30Lが地面GLに接触した状態で、後輪30L、30R、ひいては、車体100は、地面GLに対して、右方向DR側に傾斜している。図示を省略するが、中縦リンク部材61Cが上横リンク部材61Uに対して反時計回り方向に回転することによって、車体100は、左方向DL側に傾斜する。
図3(B)では、車体上方向DVUは、上方向DUに対して、右方向DR側に傾斜している。以下、前方向DFを向いて車両10を見る場合の、上方向DUと車体上方向DVUとの間の角度を、ロール角Ar、または、傾斜角Arと呼ぶ。ここで、「Ar>ゼロ」は、右方向DR側への傾斜を示し、「Ar<ゼロ」は、左方向DL側への傾斜を示している。車体100のロール角Arは、車体100を有する車両10のロール角Arであるということができる。
図3(B)には、後リンク機構60の後制御角ACrが示されている。後制御角ACrは、上横リンク部材61Uの向きに対する中縦リンク部材61Cの向きの角度を示している。図3(B)の背面図において、「ACr=ゼロ」は、上横リンク部材61Uに対して中縦リンク部材61Cが垂直であることを、示している。「ACr>ゼロ」は、中縦リンク部材61Cが、上横リンク部材61Uに対して、「ACr=ゼロ」の状態から時計回り方向に回転した状態を示している。図示を省略するが、「ACr<ゼロ」は、中縦リンク部材61Cが、「ACr=ゼロ」の状態から上横リンク部材61Uに対して反時計回り方向に回転した状態を示している。図示するように、車両10が、水平な地面GL(すなわち、鉛直上方向DUに垂直な地面GL)上に位置している場合、後制御角ACrは、ロール角Arと、おおよそ同じである。
図3(C)、図3(D)は、図3(A)、図3(B)と同様に、車両10の簡略化された背面図を示している。図3(C)、図3(D)では、地面GLxは、鉛直上方向DUに対して斜めに傾斜している(右側が高く、左側が低い)。図3(C)は、後制御角ACrがゼロである状態を示している。この状態では、後輪30R、30Lが、地面GLxに対して直立する。そして、車体上方向DVUは、地面GLxに対して垂直であり、また、鉛直上方向DUに対して左方向DL側に傾斜している。
図3(D)は、ロール角Arがゼロである状態を示している。この状態では、上横リンク部材61Uは、地面GLxにおおよそ平行であり、中縦リンク部材61Cに対して反時計回りの方向に傾斜している。また、後輪30R、30Lは、地面GLに対して傾斜している。
このように、地面GLxが傾斜している場合、車体100のロール角Arは、後リンク機構60の後制御角ACrと、異なり得る。
図示を省略するが、前リンク機構40と前リーンモータ450も、同様に、車体100を、右と左とに傾斜させることができる。図3(A)-図3(D)中の地面GL上の軸AxLは、傾斜軸AxLである。リンク機構40、60とリーンモータ450、650とは、車体100を、傾斜軸AxLを中心に、右と左とに傾斜させることができる。以下、傾斜軸AxLを、ロール軸とも呼ぶ。本実施例では、ロール軸AxLは、車両10の幅方向の中心を通り前方向DFに平行な直線である。
リンク機構40、60は、車体100を車両10の幅方向に傾斜させるように構成されている傾斜装置の例である(前傾斜装置40、及び、後傾斜装置60とも呼ぶ)。リーンモータ450、650は、傾斜装置40、60を駆動する駆動力(すなわち、リーンモータトルク)を生成するように構成されている駆動装置の例である(前駆動装置450、及び、後駆動装置650とも呼ぶ)。前駆動装置450の駆動力は、一対の前輪20R、20Lに対して車体100を幅方向にロールさせる力である。後駆動装置650の駆動力は、一対の後輪30R、30Lに対して車体100を幅方向にロールさせる力である。
なお、後連結装置600は、後リンク機構60の動きを止める図示しないロック機構を有している。ロック機構を作動させることによって、後制御角ACrが固定される。例えば、車両10の駐車時に、後制御角ACrはゼロに固定される。前連結装置400も、同様のロック機構を有している。
図4は、旋回時の力のバランスの説明図である。図中には、旋回方向が右方向である場合の後輪30R、30Lの背面図が示されている。後述するように、旋回方向が右方向である場合、制御装置900(図1(A))は、車輪20R、20L、30R、30L(ひいては、車体100)が地面GLに対して右方向DRに傾斜するように、リーンモータ450、650を制御する場合がある。このように、車両10は、旋回時に旋回の内側に傾斜する。
図4には、車体100の重心100cが示されている。重心100cは、車体100が乗員(可能なら荷物も)を積んだ状態での重心である。
図中の第1力F1は、車体100に作用する遠心力である。第2力F2は、車体100に作用する重力である。以下、車体100に作用する力は、車体100の重心100cに作用することとする。ここで、車体100の質量をM(kg)とし、重力加速度をg(おおよそ、9.8m/s2)とし、鉛直方向に対する車両10のロール角をAr(度)とし、旋回時の車両10の速度(車速とも呼ばれる)をV(m/s)とし、旋回半径をR(m)とする。第1力F1と第2力F2とは、以下の式1、式2で表される。
(式1)F1=(M*V2)/R
(式2)F2=M*g
ここで、*は、乗算記号(以下、同じ)。
また、図中の力F1bは、第1力F1の、車体上方向DVUに垂直な方向の成分である。力F2bは、第2力F2の、車体上方向DVUに垂直な方向の成分である。力F1bと力F2bとは、以下の式3、式4で表される。
(式3)F1b=F1*cos(Ar)
(式4)F2b=F2*sin(Ar)
ここで、「cos()」は、余弦関数であり、「sin()」は、正弦関数である(以下、同じ)。
力F1bは、車体上方向DVUを左方向DL側に回転させる成分であり、力F2bは、車体上方向DVUを右方向DR側に回転させる成分である。車両10がロール角Ar(さらには、速度Vと旋回半径R)を保ちつつ旋回を続ける場合には、F1bとF2bとの関係は、以下の式5で表される
(式5)F1b=F2b
式5に上記の式1~式4を代入すると、旋回半径Rは、以下の式6で表される。
(式6)R=V2/(g*tan(Ar))
ここで、「tan()」は、正接関数である(以下、同じ)。
式6は、車体100の質量Mに依存せずに、成立する。
図5は、車輪角Awと旋回半径Rとの簡略化された関係を示す説明図である。図中には、下方向DDを向いて見た車輪20R、20L、30L、30Rが示されている。ここで、説明を簡略化するために、ロール角Arがゼロであることとする(すなわち、車体上方向DVUは、下方向DDに平行)。図中では、前輪方向D20は、右方向DRに回動しており、車両10は、右方向DRに旋回する。図中の前中心Cfは、2つの前輪20R、20Lの接触中心29R、29Lの間の中心である。後中心Cbは、2つの後輪30R、30Lの接触中心39R、39Lの間の中心である。中心Crは、旋回の中心である。車両10の右方向DR側に位置する中心Crは、旋回の中心である。車両10の旋回運動は、車両10の公転運動と、車両10の自転運動と、を含んでいる。中心Crは、公転運動の中心である(公転中心Crとも呼ぶ)。なお、本実施例では、後輪30R、30Lは回動輪ではなく、前輪20R、20Lが回動輪である。従って、自転中心は、後中心Cbとおおよそ同じである。ホイールベースLhは、前中心Cfと後中心Cbとの間の前方向DFの距離である。図1(A)に示すように、ホイールベースLhは、前輪20R、20Lの回転軸20Rx、20Lxと、後輪30R、30Lの回転軸30Rx、30Lxとの間の前方向DFの距離と同じである。
図5に示すように、前中心Cfと後中心Cbと公転中心Crとは、直角三角形を形成する。点Cbの内角は、90度である。点Crの内角は、車輪角Awと同じである。従って、車輪角Awと旋回半径Rとの関係は、以下の式7で表される。
(式7)Aw=arctan(Lh/R)
ここで「arctan()」は、正接関数の逆関数である(以下、同じ)。
上記の式6、式7は、車両10が、速度Vと旋回半径Rとが変化しない状態で、旋回している場合に成立する関係式である。具体的には、式6、式7は、遠心力に起因する力F1b(図4)と重力に起因する力F2bとが釣り合う静的な状態を示している。式7は、車輪角Awと旋回半径Rとの関係を示す良い近似式として、利用可能である。なお、現実の車両10の動きと、図5の簡略化された動きと、の間には、種々の差異が存在する。例えば、車両に作用する現実の力は、動的に変化する。現実の車輪20R、20L、30R、30Lは、地面に対して滑り得る。現実の車輪20R、20L、30R、30Lは、地面に対して傾斜し得る。従って、現実の旋回半径は、式7の旋回半径Rと異なり得る。ただし、式7は、車輪角Awと旋回半径Rとの関係を示す良い近似式として、利用可能である。
A2.車両10の制御の概要:
図6は、車両10の制御に関する構成を示すブロック図である。車両10は、速度センサ720と、前制御角センサ741と、後制御角センサ742と、車輪角センサ755と、入力角センサ760と、アクセルペダルセンサ770と、ブレーキペダルセンサ780と、方向センサ790と、制御装置900と、右駆動モータ660Rと、左駆動モータ660Lと、前リーンモータ450と、後リーンモータ650と、操舵モータ550と、を有している。
速度センサ720は、車両10の速度を検出するセンサである。本実施例では、速度センサ720は、右前輪20R(図1(A))の中心部分に取り付けられている。速度センサ720は、右前輪20Rの回転速度を検出する。回転速度は、車両10の速度(速度とも呼ぶ)と相関を有している。従って、回転速度を検出するセンサ720は、速度を検出しているということができる。なお、速度センサ720は、他の車輪に取り付けられてよい。
前制御角センサ741は、前リンク機構40(図2(B))の上横リンク部材41Uと中縦リンク部材41Cとの連結部分に取り付けられている。前制御角センサ741は、図3(B)等で説明した後制御角ACrと同様の前制御角ACfを測定する。前制御角ACfは、上横リンク部材41Uの向きに対する中縦リンク部材41Cの向きの角度である。
後制御角センサ742は、後リンク機構60(図2(A))の上横リンク部材61Uと中縦リンク部材61Cとの連結部分に取り付けられている。後制御角センサ742は、図3(B)等で説明した後制御角ACrを測定する。
車輪角センサ755は、車輪角Aw(図1(B))を検出するセンサである。本実施例では、車輪角センサ755は、回動装置500(図2(B))に取り付けられている。車輪角センサ755は、前輪20R、20Lの回動軸27R、27Lに並行な軸まわりの車輪角を検出する(検出角Awxとも呼ぶ)。回動軸27R、27Lは、車体100とともに、ロールする。また、回動軸27R、27Lに平行な方向は、車体上方向DVUとは異なり得る。この場合、車体上方向DVUに平行な軸まわりの車輪角Awは、回動軸27R、27Lに並行な方向と車体上方向DVUとの間の差を用いて検出角Awxを補正することによって、算出される。例えば、車体上方向DVUに対するキャスター角CAがゼロではない場合、近似式「Aw=cos(CA)*Awx」に従って、車輪角Awが算出されてよい。
入力角センサ760は、ハンドル160(図1(A))の向き(すなわち、入力角)を検出するセンサであり、ハンドル160に取り付けられている。入力角センサ760は、入力角AI(旋回目標情報の例)を取得するように構成されている旋回目標情報取得装置の例である。
アクセルペダルセンサ770は、アクセルペダル170(図1(A))に取り付けられており、アクセル操作量Paを検出する。ブレーキペダルセンサ780は、ブレーキペダル180(図1(A))に取り付けられており、ブレーキ操作量Pbを検出する。
各センサ720、741、742、755、760、770、780は、例えば、レゾルバ、または、エンコーダを用いて構成されている。
方向センサ790は、ロール角Arとヨー角速度を測定するセンサである。本実施例では、方向センサ790は、車体100(図1(A))に固定されている(具体的には、後壁部114)。また、本実施例では、方向センサ790は、加速度センサ792と、ジャイロセンサ793と、制御部791と、を含んでいる。加速度センサ792は、任意の方向の加速度を検出するセンサであり、例えば、3軸の加速度センサである。以下、加速度センサ792によって検出される加速度の方向を、検出方向と呼ぶ。車両10が停止している状態では、検出方向は、鉛直下方向DDと同じである。ジャイロセンサ793は、任意の方向の回転軸を中心とする角速度を検出するセンサであり、例えば、3軸の角速度センサである。制御部791は、加速度センサ792からの信号とジャイロセンサ793からの信号と速度センサ720からの信号とを用いて、ロール角Arとヨー角速度とを特定する。制御部791は、例えば、コンピュータを含むデータ処理装置である。
制御部791は、速度センサ720によって測定される速度Vを用いることによって、車両10の加速度を算出する。そして、制御部791は、加速度を用いることによって、車両10の加速度に起因する現実の鉛直下方向DDに対する検出方向のずれを検出する(例えば、検出方向の前方向DFまたは後方向DBのずれが検出される)。また、制御部791は、ジャイロセンサ793によって測定される角速度を用いることによって、車両10の角速度に起因する現実の鉛直下方向DDに対する検出方向のずれを検出する(例えば、検出方向の右方向DRまたは左方向DLのずれが、検出される)。制御部791は、検出されたずれを用いて検出方向を修正することによって、鉛直下方向DDを特定する。このように方向センサ790は、車両10の種々の走行状態において、適切な鉛直下方向DDを特定できる。そして、制御部791は、鉛直下方向DDの反対の鉛直上方向DUを特定し、鉛直上方向DUと予め決められた車体上方向DVUとの間のロール角Arを算出する。このように、方向センサ790と速度センサ720との全体は、重力方向を基準とする車体100の幅方向のロール角Arを測定するように構成されたロール角センサの例である(以下、ロール角センサ730とも呼ぶ)。なお、ロール角センサの構成は、公知の他の種々の構成であってよい。また、制御部791は、ジャイロセンサ793によって測定される角速度から車体上方向DVUに平行な軸を中心とする角速度の成分を特定し、特定した角速度をヨー角速度として採用する。
制御装置900は、主制御部910と、駆動装置制御部920と、リーンモータ制御部930と、操舵モータ制御部940と、を有している。制御装置900は、バッテリ800(図1(A))からの電力を用いて動作する。本実施例では、制御部910、920、930、940は、それぞれ、コンピュータを有している。具体的には、制御部910、920、930、940は、プロセッサ910p、920p、930p、940p(例えば、CPU)と、揮発性記憶装置910v、920v、930v、940v(例えば、DRAM)と、不揮発性記憶装置910n、920n、930n、940n(例えば、フラッシュメモリ)と、を有している。不揮発性記憶装置910n、920n、930n、940nには、対応する制御部910、920、930、940の動作のためのプログラム910g、920g、930g、940gが、予め格納されている。また、主制御部910の不揮発性記憶装置910nには、マップデータMAr、MAwが、予め格納されている。プロセッサ910p、920p、930p、940pは、それぞれ、対応するプログラム910g、920g、930g、940gを実行することによって、種々の処理を実行する。
制御装置900は、センサ720、741、742、755、760、770、780、790、からの信号を受信する。そして、主制御部910は、受信した信号によって表される情報を用いて、駆動装置制御部920とリーンモータ制御部930と操舵モータ制御部940とに指示を出力する。
本実施例では、主制御部910は、デジタル信号を処理する。図示を省略するが、制御装置900は、アナログ信号をデジタル信号に変換するコンバータを有している。センサがアナログ信号を出力する場合、センサからのアナログ信号は、コンバータによって、デジタル信号に変換される。
駆動装置制御部920のプロセッサ920pは、主制御部910からの指示に従って、駆動モータ660R、660Lを制御する。リーンモータ制御部930のプロセッサ930pは、主制御部910からの指示に従って、前リーンモータ450、650を制御する。操舵モータ制御部940のプロセッサ940pは、主制御部910からの指示に従って、操舵モータ550を制御する。駆動装置制御部920は、モータ660R、660Lにバッテリ800からの電力をそれぞれ供給する電力制御部920cR、920cLを有している。同様に、リーンモータ制御部930は、リーンモータ450、650にバッテリ800からの電力を供給する電力制御部930cf、930rを有している。操舵モータ制御部940は、操舵モータ550にバッテリ800からの電力を供給する電力制御部940cを有している。電力制御部920cR、920cL、930cf、930cr、940cは、電気回路(例えば、インバータ回路)を用いて、構成されている。
以下、車両10が前進する場合の制御について説明する。
A3.リーンモータの制御:
図7は、リーンモータ450、650(図6)の制御処理の例を示すフローチャートである。本実施例では、ロール角Arを目標のロール角に近づけるリーンモータトルクを生成するように、リーンモータ450、650が制御される。S510では、制御装置900(図6)は、センサ720-790から、信号を取得する。そして、主制御部910のプロセッサ910pは、現行の情報、具体的には、入力角AIと、ロール角Arと、速度Vとを、特定する。
S522では、プロセッサ910pは、速度Vと入力角AIを用いて、目標ロール角Artを特定する。図8は、速度Vと入力角AIとの組み合わせと目標ロール角Artとの対応関係の例を示すグラフである。横軸は、速度Vを示し、縦軸は、目標ロール角Artを示している。図中には、第1閾値Vtと、最大速度Vxとが、示されている(ゼロ<Vt<Vx)。最大速度Vxは、車両10に許容された最大速度である。
図中には、6個のグラフArt0-Art5が示されている。これらのグラフArt0-Art5は、それぞれ、入力角AIが一定である状態(一定目標状態とも呼ぶ)における対応関係を示している。一定目標状態は、入力角AIによって示される旋回の目標方向と目標程度とのそれぞれが一定である状態である。6個のグラフArt0-Art5には、入力角AIの6個の値AI0-AI5が、それぞれ対応している。ゼロ番の値AI0はゼロであり、AI0<AI1<AI2<AI3<AI4<AI5である。第5値AI5は、入力角AIの大きさの許容範囲の最大値である。最大ロール角Armは、ロール角Arの大きさの許容範囲の最大値である。入力角AIがゼロである場合(AI=AI0)、目標ロール角Art0は、速度Vに拘わらず、ゼロである。
一定目標状態において、V<Vtの場合、目標ロール角Artは、速度Vが大きいほど大きい。この理由は、以下の通りである。釣合状態(図4)では、上記式6に示すように、速度Vの増大によって、旋回半径Rが増大し得る。ここで、式6に示すように、旋回半径Rは、tan(Ar)に反比例する。一定目標状態において、速度Vの増大に応じて目標ロール角Art(すなわち、ロール角Ar)が増大する場合、旋回半径Rの増大が抑制される。逆に、一定目標状態において、速度Vの低減に応じて目標ロール角Art(すなわち、ロール角Ar)が低減する場合、旋回半径Rの低減が抑制される。このように、一定目標状態において、速度Vの変化に起因する旋回半径Rの変化は抑制される。
本実施例では、V<Vtの場合、目標ロール角Artは、速度Vの変化に対して直線的に変化する。ただし、速度Vと目標ロール角Artとの対応関係は、他の関係であってよい。例えば、目標ロール角Artは、速度Vの変化に対して曲線を描くように変化してもよい。目標ロール角Artを速度Vの関数で表す場合に、その関数は、速度Vのべき乗(例えば、Vの2乗)を含んでよい。
一定目標状態において、速度Vが第1閾値Vt以上である場合、目標ロール角Artは、速度Vに拘わらず一定である。従って、ロール角Arの過度の増大は抑制される。なお、入力角AIの大きさが第5値AI5(すなわち、最大値)である場合、目標ロール角Artの大きさは、最大ロール角Armである。
また、速度Vに拘わらず、目標ロール角Artは、入力角AIが大きいほど、大きい。図4で説明した遠心力と重力とが釣り合う状態(釣合状態とも呼ぶ)では、上記式6に示すように、傾斜角Arの大きさが大きいほど、旋回半径Rは小さい。従って、入力角AIがより大きい場合に、車両10は、より小さい旋回半径Rで旋回できる。
本実施例では、速度Vが一定である場合、目標ロール角Artは、入力角AIに比例する。目標ロール角Artと入力角AIとの対応関係は、比例関係とは異なる他の関係であってよい。例えば、目標ロール角Artは、入力角AIの変化に対して曲線を描くように変化してもよい。目標ロール角Artを入力角AIの関数で表す場合に、その関数は、入力角AIのべき乗(例えば、AIの2乗)を含んでよい。
なお、図8は、入力角AIがゼロ以上である場合の対応関係を示している。図示を省略するが、AI<ゼロの場合、目標ロール角Artは負値に設定される。そして、入力角AIの絶対値と速度Vとの組み合わせと目標ロール角Artの絶対値との対応関係は、「AI<ゼロ」の場合と「AI>ゼロ」の場合との間で、共通である。そして、目標ロール角Artは、他のパラメータV、AIの変化に対して連続的に変化する(すなわち、目標ロール角Artは、パラメータV、AIの変化に対して滑らかに変化する)。なお、第1閾値Vtは、例えば、時速10km以上、時速30km以下であってよい。
S524(図7)では、プロセッサ910pは、目標ロール角Artから現行のロール角Arを減算することによって、ロール角差dArを算出する。
S526では、プロセッサ910pは、ロール角差dArを用いて、制御値CLを決定する。そして、プロセッサ910pは、決定した制御値CLを示すデータを、リーンモータ制御部930に供給する。制御値CLは、リーンモータ450、650によって出力されるリーンモータトルクを制御するための値である。本実施例では、制御値CLは、リーンモータ450、650に供給すべき電流の向きと大きさとを示している。制御値の絶対値は、電流の大きさ(すなわち、トルクの大きさ)を示している。制御値の正負の符号は、電流の向き(すなわち、トルクの方向)を示している(例えば、正は右ロールを示し、負は左ロールを示す)。このように、制御値CLは、リーンモータトルクを示している。
本実施例では、プロセッサ910pは、ロール角差dArとPゲインG1とを用いる比例制御によって、制御値CLを決定する(CL=G1*dAr)。本実施例では、PゲインG1は、予め決められた値である。これに代えて、プロセッサ910pは、種々のパラメータ(例えば、速度V)を用いて、PゲインG1を調整してよい。
いずれも場合も、制御値CLによって示されるリーンモータトルクの方向は、ロール角Arを目標ロール角Artへ近づける方向に設定される。また、制御値CLによって示されるリーンモータトルクの大きさは、他のパラメータ(例えば、速度V)が一定である場合に、ロール角差dArの大きさが大きいほど、大きい値に設定されることが好ましい。このような制御値CLは、ロール角差dArと相関を有している。従って、制御値CLは、ロール角差dArを示している。
続いて、リーンモータ制御部930は、S570、S580を、並列に実行する。S570は、前リーンモータ450を制御する処理であり、S580は、後リーンモータ650を制御する処理である。
S570では、リーンモータ制御部930のプロセッサ930pは、制御値CLを示すデータを、前リーンモータ450のための前電力制御部930cfに供給する。前電力制御部930cfは、制御値CLに従って、前リーンモータ450に供給される電力を制御する。前リーンモータ450は、供給された電力に応じて、前リーンモータトルクを出力する。
S580では、リーンモータ制御部930のプロセッサ930pは、制御値CLを示すデータを、後リーンモータ650のための後電力制御部930crに供給する。後電力制御部930crは、制御値CLに従って、後リーンモータ650に供給される電力を制御する。後リーンモータ650は、供給された電力に応じて、後リーンモータトルクを出力する。
S570、S580の後、図7の処理が終了する。制御装置900は、図7の処理を繰り返し実行する。これにより、制御装置900は、車両10の状態に適したリーンモータトルクを出力するように、リーンモータ450、650を制御し続ける。リーンモータ450、650は、ロール角Arを目標ロール角Artに近づけるリーンモータトルクを出力する。
なお、本実施例では、制御装置900は、前傾斜装置40の前制御角ACfの大きさと、前制御角ACfの角加速度と、後傾斜装置60の後制御角ACrの大きさと、後制御角ACrの角加速度と、に拘わらずに、同じ制御値CLに基づいて、前リーンモータ450と後リーンモータ650とを制御する。このような制御装置900は、以下に説明するように、ロール角Arを適切に制御可能である。
図9(A)、図9(B)は、車両10の状態の例を示す説明図である。図9(A)は、車両10のうちの後連結装置600を含む一部分の簡略化された背面図を示し、図9(B)は、車両10のうちの前連結装置400を含む一部分の簡略化された背面図を示している。これらの図は、車両10が凹凸を有する地面GLz上を走行している状態を示している。ここで、目標ロール角Artがゼロであり、車体100が右方向DR側へ傾斜していることとする。
図9(A)に示すように、左後輪30Lは、地面GLzの凸部GP1によって、上方向DU側に押し上げられている。これにより、図9(A)の背面図上で、後輪30R、30L(ひいては、上横リンク部材61U)は、車体100に対して、相対的に、時計回り方向に回転する。すなわち、車体100は、後輪30R、30Lに対して、相対的に、反時計回り方向にロールする。
図9(B)に示すように、右前輪20Rは、地面GLzの凸部GP2によって、上方向DU側に押し上げられている。これにより、図9(B)の背面図上で、前輪20R、20L(ひいては、上横リンク部材41U)は、車体100に対して、相対的に、反時計回り方向に回転する。すなわち、車体100は、前輪20R、20Lに対して、相対的に、時計回り方向にロールする。前輪20R、20Lに対するこのロール方向は、後輪30R、30L(図9(A))に対するロール方向の反対方向である。
図9(A)、図9(B)に示すように、車体上方向DVUは、鉛直上方向DUに対して、右方向DR側に傾斜している。そして、目標ロール角Artは、ゼロである。すなわち、ロール角Arを目標ロール角Artへ近づけるロール方向は、左方向DL方向である。
図9(A)には、後リーンモータトルクTqrが示されている。後リーンモータトルクTqrは、後リーンモータ650によって生成されるトルクであり、後輪30R、30Lに対して車体100をロールさせる駆動力の例である。図中には、後ロールトルクRTrが示されている。後ロールトルクRTrは、後リーンモータトルクTqrによって引き起こされるロールトルクであり、車体100に作用するロールトルクである。
後ロールトルクRTrは、後リーンモータトルクTqrとおおよそ同じであり得る。ただし、種々の原因に起因して、後ロールトルクRTrは、後リーンモータトルクTqrと異なり得る。例えば、後リーンモータ650は、ロータ等の可動部品を含んでいる。図2(A)で説明したように、後リーンモータ650と後リンク機構60とは、ギヤを介して接続され得る。後連結装置600の複数の部材は、車体100がロールする場合に、動く。このように、車体100がロールする場合、種々の部材が動く。これらの部材の慣性モーメントが、後リーンモータトルクTqrと後ロールトルクRTrとの間の差を生み出す。また、部材が動く場合には、摩擦力が生じ得る。摩擦力が、上記の差を生み出す。また、車両10の部材(例えば、後輪30R、30Lの図示しないタイヤ)は、弾性変形し得る。このような部材の変形が、上記の差を生み出す。なお、いずれの場合も、後リーンモータトルクTqrは、同じ方向の後ロールトルクRTrを車体100に作用させる。
図9(B)には、前リーンモータトルクTqfが示されている。前リーンモータトルクTqfは、前リーンモータ450によって生成されるトルクであり、前輪20R、20Lに対して車体100をロールさせる駆動力の例である。図中には、前ロールトルクRTfが示されている。前ロールトルクRTfは、前リーンモータトルクTqfによって引き起こされるロールトルクであり、車体100に作用するロールトルクである。後ロールトルクRTrと後リーンモータトルクTqrとの間の差と同様に、前ロールトルクRTfと前リーンモータトルクTqfとの間に差が生じ得る。なお、いずれの場合も、前リーンモータトルクTqfは、同じ方向の前ロールトルクRTfを車体100に作用させる。
図7のS570、S580で説明したように、制御装置900は、ロール角Arと目標ロール角Artとの間のロール角差dArを示す同じ制御値CLを用いて、前リーンモータ450と後リーンモータ650とを制御する。従って、前リーンモータトルクTqfによる車体100のロール方向は、後リーンモータトルクTqrによる車体100のロール方向と同じである。具体的には、これらのリーンモータトルクTqf、Tqrによるロール方向は、ロール角Arを目標ロール角Artに近づける方向である。
以上のように、本実施例では、図7のS522では、制御装置900は、入力角AIを用いて車体100の目標ロール角Artを決定する。そして、S524、S526、S570では、制御装置900は、ロール角Arを目標ロール角Artに近づける前リーンモータトルクTqfを前駆動装置450に生成させる。S524、S526、S580では、制御装置900は、ロール角Arを目標ロール角Artに近づける後リーンモータトルクTqrを後駆動装置650に生成させる。そして、図9(A)、図9(B)に示すように、一対の前輪20R、20Lと車体100との間の相対的なロール運動の方向は、一対の後輪30R、30Lと車体100との間の相対的なロール運動の方向の反対方向であり得る。このような状態において、制御装置900は、車体100を同じロール方向にロールさせる前リーンモータトルクTqfと後リーンモータトルクTqrとを前駆動装置450と後駆動装置650とに生成させる。従って、凹凸を有する地面上を車両10が移動する場合に、制御装置900は、車体100のロール角Arを安定化できる。例えば、制御装置900は、ロール角Arを、適切に、目標ロール角Artに近づけることができる。なお、図示を省略するが、車両10が平坦な地面上を走行する場合も、制御装置900は、前リーンモータ450と後リーンモータ650とのそれぞれに、ロール角Arを目標ロール角Artに近づけるトルクを生成させる。
また、図7のS526、S570、S580で説明したように、制御装置900は、ロール角Arと目標ロール角Artとの間の差を示す同じ制御値CLに基づいて、前駆動装置450と後駆動装置650とを制御する。図9(A)、図9(B)で説明したように、一対の前輪20R、20Lと車体100との間の相対的なロール運動の方向は、一対の後輪30R、30Lと車体100との間の相対的なロール運動の方向の反対方向であり得る。このような状態において、制御装置900は、前駆動装置450と後駆動装置650との両方に、ロール角Arを目標ロール角Artに近づけるリーンモータトルクTqf、Tqrを生成させることができる。
なお、本実施例では、制御値CLの大きさは、モータに供給される電流値を示している。従って、前リーンモータ450と後リーンモータ650との間で、電流値は同じである。
A4.他の装置の制御:
主制御部910と操舵モータ制御部940とは、操舵モータ550を制御する。操舵モータ550の制御処理は、任意の処理であってよい。例えば、操舵モータ550の制御処理は、入力角AIを用いて決定される目標車輪角Awtに車輪角Awを近づける処理であってよい。このような処理は、種々の処理であってよい。例えば、マップデータMAw(図6)は、入力角AIと目標車輪角Awtとの対応関係を定めている。主制御部910は、マップデータMAwを参照して、入力角AIに対応付けられた目標車輪角Awtを特定する。主制御部910は、目標車輪角から車輪角Awを減算することによって、車輪角差を算出する。主制御部910は、車輪角差を入力値として用いる比例制御によって、制御値を算出する(例えば、制御値=PゲインG2*車輪角差)。そして、操舵モータ制御部940は、制御値に従って、操舵モータ550を制御する。なお、目標車輪角は、入力角AIと他のパラメータ(例えば、速度V)とを含む複数のパラメータに組み合わせに基づいて、決定されてよい。
主制御部910は、速度Vが大きいほど、PゲインG2を小さくしてよい。すなわち、速度Vが大きいほど、操舵モータ550のトルクが小さくてよい。この理由は、以下の通りである。本実施例では、車体100(図2(B))がロールする場合、前輪20R、20Lの回動軸27R、27Lも、車体100とともにロールする。この場合、いわゆるジャイロモーメント、キャンバースラストなどの種々のメカニズムによって、回動トルクが前輪20R、20Lに作用する。このような回動トルクにより、前輪20R、20Lの方向D20R、D20L(ひいては、前輪方向D20)は、ロール角Arの変化に続いて、自然に、ロール角Arの変化の方向へ回動可能である。また、本実施例では、トレールLt(図1(A))は、ゼロよりも大きい。従って、前輪方向D20(ひいては、車輪角Aw)は、自然に、車両10の進行方向と同じになる。従って、速度Vが大きい場合には、操舵モータ550のトルクは小さくてよい。
また、主制御部910と駆動装置制御部920とは、駆動モータ660R、660Lを制御する駆動制御装置990として機能する。駆動制御装置990は、アクセル操作量Paに適した加速と、ブレーキ操作量Pbに適した減速と、を行うように、駆動モータ660R、660Lを制御する。
B.第2実施例:
図10(A)は、リーンモータ450、650(図6)の制御処理の別の実施例を示すフローチャートである。図7の処理との差異は、S526、S570、S580が、S526a、S570a、S580aに、それぞれ置換されている点だけである。S510-S524の処理は、図7の実施例と同じである(説明を省略する)。
S526aでは、プロセッサ910p(図6)は、ロール角差dArを用いて、前リーンモータ450用の前制御値CLfと、後リーンモータ650用の後制御値CLrとを決定する。そして、プロセッサ910pは、決定した前制御値CLfを示すデータと後制御値CLrを示すデータとを、リーンモータ制御部930に供給する。本実施例では、前制御値CLfは、後制御値CLrと異なっている。この理由については、後述する。
続いて、リーンモータ制御部930は、S570a、S580aを、並列に実行する。S570aとS570(図7)との間の差異は、制御値CLに代えて、前制御値CLfが用いられる点だけである。S580aとS580(図7)との間の差異は、制御値CLに代えて後制御値CLrが用いられる点だけである。S570a、S580aの後、図10(A)の処理(図7のS510-S524を含む)が終了する。制御装置900は、図10(A)の処理を繰り返し実行する。
次に、前制御値CLfと後制御値CLrとの間の違いについて説明する。図10(B)は、車両10の概略図である。図10(B)は、水平な地面GL上で停止している車両10を示している。前荷重Wfは、一対の前輪20R、20Lに印加される荷重であり、後荷重Wrは、一対の後輪30R、30Lに印加される荷重である。前荷重Wfは、前輪20R、20Lが地面GLに印加する力と同じであり、後荷重Wrは、後輪30R、30Lが地面GLに印加する力と同じである。
前荷重Wfは、前輪20R、30Rの下に配置された重量計(図示せず)によって、測定可能である。重量計によって測定される重量が、前荷重Wfである。なお、前荷重Wfは、右前輪20Rからの力と左前輪20Lからの力との合計である。同様に、後荷重Wrは、後輪30R、30Lの下に配置された重量計によって、測定可能である。重量計によって測定される重量が、後荷重Wrである。後荷重Wrは、右後輪30Rからの力と左後輪30Lからの力との合計である。
車体100の構成に起因して、前荷重Wfは、後荷重Wrと異なり得る。図10(B)には、車体100の前部分100fと後部分100rとが示されている。前部分100fは、前方向DF側の部分であり、後部分100rは、後方向DB側の部分である。前部分100fは、車体100のうちの前連結装置400が接続されている部分を含んでいる。後部分100rは、車体100のうちの後連結装置600が接続されている部分を含んでいる。前部分100fが後部分100rよりも重い場合、Wf>Wrであり得る。前部分100fが後部分100rよりも軽い場合、Wf<Wrであり得る。このように、前荷重Wfと後荷重Wrとの間の差は、車体100の前部分100fと後部分100rとの間の質量の差を示している。
一般的に、物体に印加されるトルクが一定である場合、物体の質量が大きいほど、物体の角加速度は小さくなる。従って、前リーンモータ450の前リーンモータトルクTqfが一定である場合、前部分100fの質量が大きいほど、前部分100fのロール角加速度は小さくなる。同様に、後リーンモータ650の後リーンモータトルクTqrが一定である場合、後部分100rの質量が大きいほど、後部分100rのロール角加速度は小さくなる。
車両10の走行安定性を向上するためには、前部分100fと後部分100rとの間のロール角加速度の差を小さくすることが好ましい。このためには、前部分100fと後部分100rとのうちの重い方に作用するロールトルクが、軽い方に作用するロールトルクと比べて、大きいことが好ましい。
本実施例では、前荷重Wfが、後荷重Wrと異なっていることとする。図10(C)、図10(D)は、前荷重Wfと後荷重Wrと関係と、前ロールトルクRTfと後ロールトルクRTrとの関係と、の組み合わせの説明図である。ここで、前側と後側とのうち大きい荷重に対応付けられる側を重側と呼ぶ。前側と後側とのうち小さい荷重に対応付けられる側を軽側と呼ぶ。例えば、Wf>Wrの場合、重側は、前側であり、軽側は、後側である。S526aでは、プロセッサ910pは、重側のロールトルクが、軽側のロールトルクよりも大きくなるように、前制御値CLfと後制御値CLrとを決定する。
なお、車体100に作用するロールトルクRTf、RTrは、実験によって測定されてよい。また、車両10を表すシミュレーションモデルを用いる数値計算によって、ロールトルクRTf、RTrが算出されてよい。
図10(C)に示すように、後荷重Wrが前荷重Wfよりも小さい場合、後ロールトルクRTrの大きさが前ロールトルクRTfの大きさよりも小さくなるように、後制御値CLrと前制御値CLfとが決定される。例えば、後制御値CLrの大きさは、前制御値CLfの大きさよりも小さくなる。また、図10(D)に示すように、後荷重Wrが前荷重Wfよりも大きい場合、後ロールトルクRTrの大きさが前ロールトルクRTfの大きさよりも大きくなるように、後制御値CLrと前制御値CLfとが決定される。例えば、後制御値CLrの大きさは、前制御値CLfの大きさよりも大きくなる。以上により、制御装置900は、車体100の前部分100fと後部分100rとの間のロール角加速度の差を抑制できる。そして、制御装置900は、車体100の向きを安定化できる。
また、本実施例においても、図9(A)、図9(B)に示す状態において、制御装置900は、前駆動装置450と後駆動装置650との両方に、ロール角Arを目標ロール角Artに近づけるリーンモータトルクTqf、Tqrを生成させることができる。
制御値CLf、CLrの決定方法は、種々の方法であってよい。例えば、プロセッサ910pは、ロール角差dArと前側用のPゲインGfを用いる比例制御によって、前制御値CLfを決定し、ロール角差dArと後側用のPゲインGrを用いる比例制御によって、後制御値CLrを決定してよい。ここで、重側のPゲインが、軽側のPゲインと比べて、大きくてよい。これにより、重側の制御値の大きさは、軽側の制御値の大きさよりも、大きくなる。この結果、重側のロールトルクが、軽側のロールトルクよりも大きくなり得る。なお、PゲインGf、Grは、車体100が適切にロールできるように、予め実験的に決定されてよい。また、プロセッサ910pは、他のパラメータ(例えば、速度V)を用いて、PゲインGf、Grを調整してよい。
なお、後荷重WrがW前荷重Wfと異なる場合に、図7の実施例のように、制御装置900は、同じ制御値CLに基づいて、前リーンモータ450と後リーンモータ650とを制御してもよい。この場合、リーンモータ450、650の制御の複雑化を抑制できる。また、車両10は、ロール角Arを急に変化させずに、走行することが好ましい。
C.第3実施例:
図11(A)は、リーンモータ450、650(図6)の制御処理の別の実施例を示すフローチャートである。図10(A)の処理との差異は、2点ある。第1の差異は、S526aが、S526bに置換されている点である。第2の差異は、S524とS526bとの間にS525bが追加されている点である。S525b、S526b以外のステップの処理は、図10(A)の実施例の対応するステップの処理と同じである(説明を省略する)。
S525bでは、プロセッサ910p(図6)は、車両10の加速度を特定する。加速度の特定方法は、任意の方法であってよい。例えば、プロセッサ910pは、速度Vを時間微分することによって、加速度を算出する。この場合、制御装置900のうちの加速度を算出するように構成されている部分と、速度センサ720と、の全体は、加速度センサに相当する(加速度センサ722とも呼ぶ)。
パラメータの時間微分値の算出方法は、種々の方法であってよい。本実施例では、プロセッサ910pは、現在から予め決められた時間差だけ過去の時点でのパラメータ値を現行のパラメータ値から減算して差分を算出する。そして、プロセッサ910pは、差分を時間差で除算することによって得られる値を、パラメータの時間微分値として採用する。
なお、プロセッサ910pは、方向センサ790に含まれる加速度センサ792によって測定される加速度を、取得してよい。ここで、プロセッサ910pは、前方向DFの加速度を採用してよい。なお、加速度センサの構成は、公知の他の種々の構成であってよい。
S526b(図11(A))では、プロセッサ910p(図6)は、加速度Acとロール角差dArを用いて、前制御値CLfと後制御値CLrとを決定する。そして、プロセッサ910pは、前制御値CLfを示すデータと後制御値CLrを示すデータとを、リーンモータ制御部930に供給する。前制御値CLfと後制御値CLrの詳細については、後述する。続いて、リーンモータ制御部930は、S570a、S580aを、並列に実行する。S570a、S580aの後、図11(A)の処理(図7のS510-S524を含む)が終了する。制御装置900は、図11(A)の処理を繰り返し実行する。
次に、車輪に印加される荷重について、説明する。図12(A)-図12(C)は、加速度Acと荷重との関係の説明図である。各図は、水平な地面GL上で前進する車両10を、示している。図12(A)は、Ac<ゼロの場合(減速状態と呼ぶ)を示し、図12(B)は、Ac=ゼロの場合(一定速度状態と呼ぶ)を示し、図12(C)は、Ac>ゼロの場合(加速状態と呼ぶ)を示している。各図には、図10(B)で説明した前荷重Wfと後荷重Wrと同様の前荷重Wxfと後荷重Wxrとが示されている。これらの荷重Wxf、Wxrは、車両10が前進している状態での荷重を示しており、加速度Acに応じて変化する。図12(A)-図12(C)では、符号Wxf、Wxrの後ろの括弧の中に、車両10の状態を示す文字が付されている(D:減速状態、0:一定速度状態、A:加速状態)。
図12(B)に示すように、一定速度状態では、前荷重Wxf(0)が前輪20R、20Lに印加し、後荷重Wxr(0)が後輪30R、30Lに印加する。図12(A)に示すように、減速状態では、前方向DFの慣性の力FDが車体100に作用する。これにより、Wxr(D)<Wxr(0)であり、Wxf(D)>Wxf(0)である。図12(C)に示すように、加速状態では、後方向DBの慣性の力FAが車体100に作用する。これにより、Wxr(A)>Wxr(0)であり、Wxf(A)<Wxf(0)である。このように、加速度Acに応じて、荷重が移動する。
図11(B)は、加速度Acがゼロから変化する場合の荷重の比率Wxr/Wxfの変化の例を示すグラフである。横軸は、加速度Acを示し、縦軸は、比率Wxr/Wxfを示している。ここで、ロール角差dArがゼロではなく、かつ、入力角AIが一定であることとしている。図示するように、加速度Acがゼロである状態から、加速度Acがゼロより大きい第1値Ac1に増大する場合、比率Wxr/Wxfは増大する。このような変化は、例えば、アクセルペダル170が踏み込まれた直後に、生じ得る。加速度Acが、ゼロである状態から、加速度Acがゼロより小さい第2値Ac2に低減する場合、比率Wxr/Wxfは低減する。このような変化は、例えば、ブレーキペダル180が踏み込まれた直後に、生じ得る。
一般的に、荷重が小さい場合には、車輪は地面から離れやすい(すなわち、車輪は地面から持ち上がり易い)。荷重が大きい場合には、車輪は地面から離れにくい(すなわち、車輪は地面から持ち上がりにくい)。例えば、図12(A)の減速状態では、後輪30R、30Lは、前輪20R、20Lと比べて、地面GLから離れやすい。前輪20R、20Lは、後輪30R、30Lと比べて、地面GLから離れにくい。
リーンモータ450、650がリーンモータトルクを生成する場合、車輪20R、20L、30R、30Lには、地面に垂直な成分を含む力が作用する。例えば、リーンモータ450、650が車体100を右方向DRへロールさせると仮定する。この場合、リーンモータトルクは、左車輪20L、30Lに、左車輪20L、30Lを地面に押しつける力を作用させ、右車輪20R、30Rに、右車輪20R、30Rを地面から引き離す力を作用させる。車輪に作用する力は、リーンモータトルクが大きいほど、強い。
車輪が地面から離れることを抑制するためには、小さい荷重を支持する車輪に接続されたリーンモータが、小さいリーンモータトルクを生成することが好ましい。車体100を素早くロールさせるためには、大きい荷重を支持する車輪に接続されたリーンモータが、大きいリーンモータトルクを生成することが好ましい。
図11(C)は、加速度Acがゼロからの変化する場合の制御値比率RCLの変化の例を示すグラフである。制御値比率RCLは、前制御値CLfの大きさ(すなわち、絶対値)に対する後制御値CLrの大きさの比率である(RCL=|CLr|/|CLf|)。横軸は、加速度Acを示し、縦軸は、制御値比率RCLを示している。このグラフは、図11(B)と同じ条件下での制御値比率RCLの変化を示している。実線の第1グラフGC1は、本実施例のグラフである。図示するように、加速度Acがゼロから第1値Ac1に増大する場合、制御値比率RCLは増大する。加速度Acがゼロから第2値Ac2に低減する場合、制御値比率RCLは低減する。
図11(D)は、加速度Acがゼロから変化する場合のトルク比率rTqの変化の例を示すグラフである。トルク比率rTqは、前リーンモータトルクTqfの大きさに対する後リーンモータトルクTqrの大きさの比率である(rTq=|Tqr|/|Tqf|)。横軸は、加速度Acを示し、縦軸は、トルク比率rTqを示している。実線の第1グラフGD1は、図11(C)の第1グラフGC1によって示される制御値比率RCLの変化に対応している。上述したように、制御値CLf、CLrは、リーンモータトルクTqf、Tqrを示している。従って、加速度Acがゼロから変化する場合、トルク比率rTqは、制御値比率RCLと同様に、変化する。
本実施例では、プロセッサ910pは、加速度Acがゼロから変化する場合に、第1グラフGC1(図11(C))のように制御値比率RCLが変化するように、制御値CLf、CLrを制御する。減速状態(Ac<0)では、一定速度状態(Ac=ゼロ)と比べて、トルク比率rTqが小さい。従って、後輪30R、30L(図12(A))が地面GLから離れることは、容易に抑制可能である。加速状態(Ac>0)では、一定速度状態(Ac=ゼロ)と比べて、トルク比率rTqが大きい。従って、前輪20R、20L(図12(C))が地面GLから離れることは、容易に抑制可能である。以上により、制御装置900は、車体100の向きを安定化できる。
S526b(図11(A))では、プロセッサ910p(図6)は、第1グラフGC1(図11(C))のように制御値比率RCLが変化するように、加速度Acを用いて、制御値CLf、CLrを決定する。制御値CLf、CLrの決定方法は、種々の方法であってよい。例えば、プロセッサ910pは、ロール角差dArと前側用のPゲインGfを用いる比例制御によって、前制御値CLfを決定し、ロール角差dArと後側用のPゲインGrを用いる比例制御によって、後制御値CLrを決定してよい。ここで、プロセッサ910pは、加速度Acが大きいほど、Pゲインの比率Gr/Gfが大きくなるように、PゲインGf、Grの少なくとも一方を調整してよい。ロール角差dArの大きさが一定である場合、Pゲインが大きいほど、制御値の大きさが大きくなる。これにより、プロセッサ910pは、図11(C)の対応関係のように、制御値比率RCLを変化させることができる。なお、加速度Acに基づいてPゲインGf、Grを調整する方法は、任意の方法であってよい。例えば、プロセッサ910pは、予め決められた関数に従って、加速度Acに対応付けられたPゲインGf、Grを決定してよい。関数は、車両10が適切に走行できるように、実験的に決定される。
また、本実施例においても、図9(A)、図9(B)に示す状態において、制御装置900は、前駆動装置450と後駆動装置650との両方に、ロール角Arを目標ロール角Artに近づけるリーンモータトルクTqf、Tqrを生成させることができる。
図11(E)-図11(H)は、加速度Acがゼロからの変化する場合の制御値CLf、CLrの変化の例を示すグラフである。横軸は、加速度Acを示し、縦軸は、制御値CLf、CLrの大きさを示している。これらのグラフは、図11(B)と同じ条件下での制御値CLf、CLrの変化を示している。
図11(E)の例では、後制御値CLr(例えば、PゲインGr)が、加速度Acに応じて変化する。加速度Acがゼロから第1値Ac1に増大する場合、後制御値CLrの大きさは、増大する。加速度Acがゼロから第2値Ac2に低減する場合、後制御値CLrの大きさは、低減する。前制御値CLfの大きさ(例えば、PゲインGf)は、加速度Acによらず、一定である。
図11(F)の例では、前制御値CLfが、加速度Acに応じて変化する。加速度Acがゼロから第1値Ac1に増大する場合、前制御値CLfの大きさは、低減する。加速度Acがゼロから第2値Ac2に低減する場合、前制御値CLfの大きさは、増大する。後制御値CLrの大きさは、加速度Acによらず、一定である。
図11(G)の例では、前制御値CLfと後制御値CLrとは、加速度Acに応じて変化する。加速度Acがゼロから第1値Ac1に増大する場合、前制御値CLfの大きさは、低減し、後制御値CLrの大きさは、増大する。加速度Acがゼロから第2値Ac2に低減する場合、前制御値CLfの大きさは、増大し、後制御値CLrの大きさは、低減する。
図11(H)の例では、プロセッサ910pは、加速度Acに応じて、変化するパラメータを選択する。加速度Acがゼロから第1値Ac1に増大する場合、前制御値CLfの大きさは、低減し、後制御値CLrの大きさは、一定である。加速度Acがゼロから第2値Ac2に低減する場合、前制御値CLfの大きさは、一定であり、後制御値CLrの大きさは、低減する。
なお、加速度Acがゼロである場合、前制御値CLfの大きさは、後制御値CLrの大きさと異なっていてよい。
いずれの場合も、制御値比率RCLは、加速度Acの変化に対して、第1グラフGC1(図11(C))のように変化する。従って、制御装置900は、車体100の向きを安定化できる。なお、ロール角Arを目標ロール角Artに速やかに近づけるためには、加速度Acがゼロから変化する場合、前側と後側のうち荷重が増大する方の制御値の大きさが増大することが好ましい。また、車輪が地面GLから離れることを抑制するためには、加速度Acがゼロから変化する場合、前側と後側のうち荷重が低減する方の制御値の大きさが低減することが好ましい。
なお、図11(C)、図11(E)-図11(H)では、加速度Acの変化に対して、制御値CLf、CLrは、直線的に変化する。ただし、加速度Acと制御値CLf、CLrとの対応関係は、他の対応関係であってよい。例えば、制御値CLf、CLrは、加速度Acの変化に対して曲線を描くように変化してもよい。
図11(C)、図11(D)の点線の第2グラフGC2、GD2は、別の対応関係の例を示している。図中には、第1閾値Taと第2閾値Tbとが示されている。ここで、Ac2<Tb<ゼロ<Ta<Ac1である。第2グラフGC2が示すように、第2閾値Tb以上、第1閾値Ta以下の範囲では、制御値比率RCLは、一定である。そして、加速度Acが第1閾値Taから更に第1値Ac1に増大する場合に、制御値比率RCLが増大する。この場合も、加速度Acがゼロから第1値Ac1に増大する場合、制御値比率RCLは増大している。また、加速度Acが第2閾値Tbから更に第2値Ac2に低減する場合に、制御値比率RCLが低減する。この場合も、加速度Acがゼロから第2値Ac2に低減する場合、制御値比率RCLは低減している。このように、加速度Acの大きさが閾値Ta、Tbよりも小さい場合に、制御値比率RCLは変化せずに、加速度Acの大きさが閾値Ta、Tbよりも大きい場合に、制御値比率RCLが変化してもよい。
なお、加速度Acが第1値Ac1から更に増大する場合、制御値比率RCLは、増大してもよく、一定であってもよい。同様に、加速度Acが第2値Ac2から更に低減する場合に、制御値比率RCLは、低減してもよく、一定であってもよい。
第1値Ac1は、車両10の構成に適したゼロよりも大きい種々の値であってよい。例えば、ゼロよりも大きい加速度Acの範囲のうち、互いに異なる複数の加速度Acに、加速度Acがゼロである場合の制御値比率RCLよりも大きい制御値比率RCLが対応付けられてよい。この場合、それら複数の加速度Acが、第1値Ac1に対応する。また、第1値Ac1は、加速度Acとは異なる他のパラメータ(例えば、ロール角差dAr、速度、入力角AIなど)に応じて、変化してよい。
同様に、第2値Ac2は、車両10の構成に適したゼロよりも小さい種々の値であってよい。例えば、ゼロよりも小さい加速度Acの範囲のうち、互いに異なる複数の加速度Acに、加速度Acがゼロである場合の制御値比率RCLよりも小さい制御値比率RCLが対応付けられてよい。この場合、それら複数の加速度Acが、第2値Ac2に対応する。また、第2値Ac2は、加速度Acとは異なる他のパラメータ(例えば、ロール角差dAr、速度、入力角AIなど)に応じて、変化してよい。
また、加速度Acとは異なる他のパラメータの一部の範囲において、制御値比率RCLが加速度Acに応じて変化し、残りの範囲では、制御値比率RCLが加速度Acに拘わらず一定であってよい。例えば、ロール角差dArの大きさが閾値以上である場合に、制御値比率RCLが加速度Acに応じて変化し、ロール角差dArの大きさが閾値より小さい場合に、制御値比率RCLが加速度Acに拘わらず一定であってよい。
なお、プロセッサ910pは、加速度Acを含む1以上のパラメータ(例えば、加速度Acとロール角差dAr)の組み合わせを用いて、制御値CLf、CLrを決定してよい。プロセッサ910pは、加速度Acを含む1以上のパラメータと制御値CLf、CLrとを対応付けるマップデータを参照して、制御値CLf、CLrを決定してよい。このような対応関係は、車両10が適切に走行できるように、予め実験的に決定される。
D.変形例:
(1)目標ロール角Artと他のパラメータとの対応関係は、図8の対応関係に代えて、種々の対応関係であってよい。例えば、速度Vがゼロである場合に、目標ロール角Artの大きさは、入力角AIの大きさが大きいほど、大きくてよい。また、入力角AIの大きさが第5値AI5(すなわち、最大値)よりも小さい場合であっても、目標ロール角Artの大きさが、最大ロール角Armまで増大してよい。例えば、速度Vが第1閾値Vtから更に増大する場合に、第5グラフArt5とは異なる他のグラフ(例えば、Art4、Art3、Art2など)が、最大ロール角Armまで増大してよい。目標ロール角Artは、速度Vを用いずに決定されてよい。いずれの場合も、速度Vが一定である場合には、入力角AIの大きさが大きいほど、目標ロール角Artの大きさが大きいことが好ましい。
(2)リーンモータを制御するための制御値(例えば、制御値CL、CLf、CLr)を決定する方法は、上記実施例の方法に代えて、他の種々の方法であってよい。例えば、ロール角差dArを用いて制御値を決定する処理は、いわゆるPID(Proportional Integral Derivative)制御のうちの1以上の制御を含んでよい(例えば、P制御、PD制御、PID制御など)。
また、図10(A)の実施例では、プロセッサ910pは、共通の制御値CL(図7:S526)に前係数を乗じることによって、前制御値CLfを算出し、共通の制御値CLに後係数を乗じることによって、後制御値CLrを算出してもよい。図11(A)の実施例では、プロセッサ910pは、前係数と後係数とを加速度Acを用いて調整してよい。
また、プロセッサ910pは、ロール角Arと目標ロール角Artとを含む複数のパラメータの組み合わせを用いて、制御値を決定してよい。ここで、プロセッサ910pは、複数のパラメータと制御値との対応関係を示すマップデータを参照してよい。いずれの場合も、ロール角差dArの大きさが大きいほど、制御値によって示されるロールトルクの大きさが大きいことが好ましい。
(3)一般的に、車両10の制御に用いられる対応関係は、種々の対応関係であってよい。対応関係は、車両10が適切に走行できるように、予め実験的に決定されてよい。
(4)幅方向に互いに離れて配置された一対の車輪(例えば、一対の前輪20R、20L、または、一対の後輪30R、30L)と、車体100と、を連結する連結装置の構成は、連結装置400、600(図1(A)-図1(C)、図2(A)、図2(B))の構成に代えて、他の種々の構成であってよい。例えば、後連結装置600の後リンク機構60が台に置換されてよい。台には、駆動モータ660R、660Lが固定される。そして、支持部69は、軸受によって、幅方向に回転可能に台に連結される。後リーンモータ650は、台に対して、支持部69を、幅方向に回転させる。これにより、車体100は、幅方向にロール可能である。また、図示を省略するが、左スライド装置が、左後輪30Lと車体100とを接続し、右スライド装置が、右後輪30Rと車体100とを接続してもよい。各スライド装置は、車体100に対する車輪の車体上方向DVUの相対位置を変化させることができる。傾斜装置は、このような2個のスライド装置を含んでよい。前連結装置400についても、同様である。
一般的には、傾斜装置は、「幅方向に互いに離れて配置された一対の車輪のうちの1つの車輪または2つの車輪に直接的または間接的に接続された第1部材」と、「車体に直接的または間接的に接続された第2部材」と、「第1部材を第2部材に可動(例えば、回転可能、スライド可能など)に接続する接続装置」を含んでよい。図2(A)の後傾斜装置60に関しては、上横リンク部材61Uは、縦リンク部材61R、61Lとモータ660R、660Lを介して車輪30R、30Lに接続された第1部材の例である。中縦リンク部材61Cは、支持部69と後サスペンションシステム670とを介して車体100に接続された第2部材の例である。軸受68Uは、第1部材を第2部材に可動に接続する接続装置の例である。図2(B)の前傾斜装置40に関しても、同様である。
(5)傾斜装置を駆動する駆動力を生成するように構成されている駆動装置の構成は、リーンモータ450、650(図2(A)、図2(B))に代えて、種々の装置であってよい。例えば、駆動装置は、傾斜装置を駆動する油圧シリンダと、油圧シリンダに油圧を供給するポンプと、を含んでよい。また、車体100と後輪30R、30Lを接続する上記の右スライド装置と左スライド装置とが油圧シリンダを用いて構成されている場合、駆動装置は、スライド装置に油圧を供給するポンプを含んでよい。いずれの場合も、傾斜装置の駆動装置は、一対の車輪と車体100との間の相対的なロール運動の方向に拘わらずに、ロール角Arを目標ロール角Artに近づける力を傾斜装置に印加可能であるように、構成されていることが好ましい。
(6)制御装置の構成は、図6の制御装置900の構成に代えて、他の種々の構成であってよい。例えば、制御装置は、センサから取得される情報に含まれるノイズを低減するノイズフィルタを備えてよい。これにより、車両の制御に対するノイズの影響が、緩和される。ノイズフィルタとしては、例えば、種々のローパスフィルタを採用可能である。また、制御装置は、1つのコンピュータを用いて構成されてもよい。制御装置は、種々の電気回路であってよく、例えば、コンピュータを含む電気回路であってよく、コンピュータを含まない電気回路であってもよい。いずれの場合も、制御値(例えば、制御値CL、CLf、CLrなど)を決定する制御値決定処理は、種々の処理であってよい。制御値決定処理は、フィードバック制御(例えば、比例制御と微分制御と積分制御とのうちの少なくとも1つを含む制御)を含んでよく、フィードフォワード制御を含んでよい。
また、上記実施例では、運転者が、車両10(図6)を制御するための種々の指示情報(例えば、入力角AI、アクセル操作量Pa、ブレーキ操作量Pb)を制御装置900に入力する。これに代えて、制御装置900は、無線通信によって外部装置から指示情報を取得するように構成された無線装置を含んでよい。このように、移動装置は、遠隔操作される車両であってよい。入力角AIを取得する無線装置は、旋回目標情報取得装置の例である。また、制御装置900は、自動操縦を行うように構成されてよい。例えば、制御装置900は、図示しないGPS(Global Positioning System)を用いて特定される車両10の位置を参照して、予め決められた経路に沿って走行する処理を実行してよい。この場合、制御装置900は、車両10の位置と経路とを用いて、旋回目標情報を特定する。制御装置900のうち旋回目標情報を特定する部分は、旋回目標情報取得装置の例である。
(7)上記各実施例の制御処理は、車両10(図1(A))に代えて、ボディと車輪とを備える種々の移動装置に適用されてよい。例えば、回動装置500とハンドル160とは、機械的に接続されてよい。駆動輪を駆動する駆動装置は、電気モータと内燃機関の少なくとも1つを含んでよい。最大定員数は、1人に代えて、2人以上であってよい。ここで、移動装置は、人を乗せずに荷物を載せて移動する無人車両であってよい。また、移動装置は、人も荷物も載せずに移動する無人車両であってよい。また、移動装置は、小型の模型自動車であってよい。
(8)ロール角Arの基準となる基準方向は、鉛直下方向DD(すなわち、重力方向)に限らず、移動装置の外部で決定される任意の方向であってよい。例えば、移動装置が移動する道路に配置された標識によって示される基準方向が、ロール角Arの基準として用いられてよい。
上記各実施例において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよく、逆に、ソフトウェアによって実現されていた構成の一部あるいは全部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。例えば、図6の制御装置900の機能を、専用のハードウェア回路によって実現してもよい。
また、本発明の機能の一部または全部がコンピュータプログラムで実現される場合には、そのプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体(例えば、一時的ではない記録媒体)に格納された形で提供することができる。プログラムは、提供時と同一または異なる記録媒体(コンピュータ読み取り可能な記録媒体)に格納された状態で、使用され得る。「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」は、メモリーカードやCD-ROMのような携帯型の記録媒体に限らず、各種ROM等のコンピュータ内の内部記憶装置や、ハードディスクドライブ等のコンピュータに接続されている外部記憶装置も含み得る。
以上、実施例、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。